平成22(行ウ)19 一般乗用旅客自動車運送事業における乗務距離の最高限度を定める公示処分取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年2月3日 札幌地方裁判所 その他
ファイル
hanrei-pdf-83951.txt

判決文本文72,807 文字)

主文 1 本件の訴えのうち,北海道運輸局長がした公示の取消しを求める部分及び輸送施設の使用停止等の処分の差止めを求める各部分をいずれも却下する。 2 原告と被告の間において,原告が,その営業所に属する日勤勤務運転者を,乗務距離(ただし,高速自動車国道及び自動車専用道路に係る乗務距離,及び「一般乗用旅客自動車運送事業に係る運行記録計による記録を義務付ける地域等の指定について」(平成18年12月20日付け北海道運輸局公示第58号)4.(1)及び(2)に該当する場合の乗務距離は算入しない。)が280kmを超えても事業用自動車に乗務させることができる地位にあることを確認する。 3 訴訟費用は,これを2分し,それぞれを各自の負担とする。 事実 及事実及事実及事実及び理由第1 請求 1 主位的請求(1) 北海道運輸局長が,平成21年10月26日付けでした一般乗用旅客自動車運送事業における指定地域及び乗務距離の最高限度を定める公示(北海道運輸局公示第67号)のうち,札幌市,江別市,石狩市(ただし,平成17年10月1日に編入された旧厚田村及び旧浜益村の区域を除く。)及び北広島市の区域につき,日勤勤務運転者の乗務距離の最高限度を280kmと定めた部分を取り消す。 (2) 北海道運輸局長は,原告に対し,その営業所に属する日勤勤務運転者を,乗務距離(ただし,高速自動車国道及び自動車専用道路に係る乗務距離,及び「一般乗用旅客自動車運送事業に係る運行記録計による記録を義務付ける地域等の指定について」(平成18年12月20日付け北海道運輸局公示第58号)4.(1)及び(2)に該当する場合の乗務距離は算入しない。)が280kmを超えて事業用自動車に乗務させたことを理由として,道路運送法40条に基づく自 20日付け北海道運輸局公示第58号)4.(1)及び(2)に該当する場合の乗務距離は算入しない。)が280kmを超えて事業用自動車に乗務させたことを理由として,道路運送法40条に基づく自動車その他の輸送施設の当該事業のための使用の停止若しくは事業の停止,又は許可の取消しの各処分をしてはならない。 2 予備的請求(1) 原告が,被告との間で,その営業所に属する日勤勤務運転者を,乗務距離(ただし,高速自動車国道及び自動車専用道路に係る乗務距離,及び「一般乗用旅客自動車運送事業に係る運行記録計による記録を義務付ける地域等の指定について」(平成18年12月20日付け北海道運輸局公示第58号)4.(1)及び(2)に該当する場合の乗務距離は算入しない。)が280kmを超えても事業用自動車に乗務させることができる地位にあることを確認する。 (2) 上記1(2)と同旨第2 事案の概要本件は,北海道運輸局長(以下「処分行政庁」ということがある。)が平成21年10月26日付けでした「一般乗用旅客自動車運送事業における乗務距離の最高限度について」と題する公示(北海道運輸局公示第67号。以下「本件公示」という。)によって,札幌市,江別市,石狩市(ただし,平成17年10月1日に編入された旧厚田村及び旧浜益村の区域を除く。)及び北広島市の区域(道路運送法施行規則5条の規定に基づき処分行政庁が定めた営業区域である「札幌交通圏」と同一の区域である。以下,「本件指定地域」又は「札幌交通圏」という。)について,日勤勤務運転者の乗務距離の最高限度を280kmと定めた(以下「本件指定」という。)ところ,札幌交通圏において道路運送法(以下「法」という。)に基づく一般旅客自動車運送事業の許可を受けて同事業を営む原告が,(1)主位的に,行政事件訴訟法(以下 mと定めた(以下「本件指定」という。)ところ,札幌交通圏において道路運送法(以下「法」という。)に基づく一般旅客自動車運送事業の許可を受けて同事業を営む原告が,(1)主位的に,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条2項の「処分」に該当する本件公示は原告の営業の自由を侵害し,処分行政庁が裁量権を逸脱又は濫用したものであり違法であると主張して,本件指定の取消しを,予備的に,本件公示が行訴法3条2項の「処分」に該当しないとしても,本件公示は原告の営業の自由を侵害し,処分行政庁が裁量権を逸脱又は濫用したものであり違法であると主張して,原告が日勤勤務運転者の乗務距離の最高限度が280kmを超えても日勤勤務運転者を事業用乗用車に乗務させることができる地位にあることの確認を求めるとともに,(2)処分行政庁が原告に対して,原告の営業所に属する日勤勤務運転者を本件指定に違反して事業用自動車に乗務させたことを理由として,法40条に基づく処分をすることの差止めを求めた事案である。 1 前提となる事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)等(1) 当事者等原告は,札幌交通圏において,法に基づき,平成21年3月27日,処分行政庁による一般旅客自動車運送事業の許可を受け,以降,現在に至るまで同事業等を営む者である。 処分行政庁は,法に基づき,原告の事業に関して監督権を有する行政庁である。 (2) 関係法令の定め法27条1項は,一般旅客自動車運送事業者は,輸送の安全及び旅客の利便の確保のために必要な事項として国土交通省令で定めるものを遵守しなければならないと定めている。 これを受けて,旅客自動車運送事業運輸規則(以下「規則」という。)22条は,乗務距離の最高限度等につき,①交通の状況を考慮して として国土交通省令で定めるものを遵守しなければならないと定めている。 これを受けて,旅客自動車運送事業運輸規則(以下「規則」という。)22条は,乗務距離の最高限度等につき,①交通の状況を考慮して地方運輸局長が指定する地域内に営業所を有する一般乗用旅客自動車運送事業者は,次項の規定により地方運輸局長が定める乗務距離の最高限度を超えて当該営業所に属する運転者を事業用自動車に乗務させてはならない(同条第1項),②前項の乗務距離の最高限度は,当該地域における道路及び交通の状況並びに輸送の状態に応じ,当該営業所に属する事業用自動車の運行の安全を阻害するおそれのないよう,地方運輸局長が定めるものとする(同条第2項),③地方運輸局長は,第1項の地域の指定をし,及び前項の乗務距離の最高限度を定めたときは,遅滞なくその旨を公示しなければならない(同条第3項)と定めている。 そして,法40条1号は,国土交通大臣は,一般旅客自動車運送事業者が法又は法に基づく命令若しくはこれらに基づく処分又は許可若しくは認可に付した条件に違反したとき,6月以内において期間を定めて自動車その他の輸送施設の当該事業のための使用の停止若しくは事業の停止を命じ,又は許可を取り消すことができる旨定めている。 (3) 本件公示処分行政庁は,平成21年10月26日,規則22条1項の規定に基づく地域及び同条2項に基づく乗務距離の最高限度を定めたとして下記の内容の本件公示を行った。 記 1 指定地域(1) 札幌市,江別市,石狩市(ただし,平成17年10月1日に編入された旧厚田村及び旧浜益村の区域を除く。)及び北広島市の区域(2) 小樽市の区域(3) 函館市(ただし,平成16年12月1日に編入された旧南茅部町の区域を除く。)及び北斗市の区域(4) 旭川市 旧厚田村及び旧浜益村の区域を除く。)及び北広島市の区域(2) 小樽市の区域(3) 函館市(ただし,平成16年12月1日に編入された旧南茅部町の区域を除く。)及び北斗市の区域(4) 旭川市の区域(5) 室蘭市の区域(6) 苫小牧市の区域(7) 釧路市(ただし,平成17年10月11日に新設された釧路市における旧釧路市の区域に限る。)及び釧路町の区域(8) 帯広市の区域(9) 北見市(ただし,平成18年3月5日に新設された北見市における旧北見市及び旧端野町の区域に限る。)の区域 2 乗務距離の最高限度(1) 「旅客自動車運送事業運輸規則第21条第1項の規定に基づく事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間に係る基準」(平成13年国土交通省告示第1675号)に基づく隔日勤務運転者について上記1(1)から(9)の地域 370km(2) 「旅客自動車運送事業運輸規則第21条第1項の規定に基づく事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間に係る基準」(平成13年国土交通省告示第1675号)に基づく日勤勤務運転者について上記1(1)から(9)の地域 280km 3 適用次の乗務距離については,算入しないものとする。 (1) 高速自動車国道及び自動車専用道路に係る乗務距離ただし,乗務記録に高速自動車国道又は自動車専用道路の名称,走行区間,走行距離,領収書等の記載又は添付を要することとする。 (2) 「一般乗用旅客自動車運送事業に係る運行記録計による記録を義務付ける地域等の指定について」(平成18年12月20日付け北海道運輸局公示第58号)4.(1)及び(2)に該当する場合の乗務距離。 附則この公示は,平成21年11月1日から適用する。 以上(4) 処分基準の定め等ア処分基準国土交 日付け北海道運輸局公示第58号)4.(1)及び(2)に該当する場合の乗務距離。 附則この公示は,平成21年11月1日から適用する。 以上(4) 処分基準の定め等ア処分基準国土交通省自動車交通局長の平成21年11月20日付け「一般乗用旅客自動車運送事業者に対する行政処分等の基準について」と題する通達(甲3。以下「局長通達」という。)及び国土交通省自動車交通局安全政策課長,同局旅客課長及び同局技術安全部整備課長の同日付け「一般乗用旅客自動車運送事業者に対する違反事項ごとの行政処分等の基準について」と題する通達(甲4。以下「本件処分基準」という。)によれば,法40条の規定に違反した場合の不利益処分の基準は,以下のとおりとされている。 (ア) 行政処分の種類は,軽微なものから順に,自動車その他の輸送施設の使用の停止処分(以下「自動車等使用停止処分」という。),事業の停止処分(以下「事業停止処分」という。),営業区域の廃止に係る事業計画の変更命令及び許可の取消処分(以下「営業許可取消等処分」という。)である(局長通達1(1))。 (イ) 特定地域等における一定の違反については,基準日車等を加重して取り扱う(局長通達1(8))。具体的には,ある地域が「緊急調整地域の指定等について」(平成13年10月26日付け国自旅第102号)Ⅰ1に規定する特別監視地域に指定された後に当該地域で運送事業の許可等を受けた事業者が,特定地域において違反をした場合,基準日車を3.5倍に加重して取り扱うものとし(局長通達1(8),別表第1項),基準日車等が警告とされている場合は,15日車の自動車等の使用停止処分とする(局長通達別表の適用欄。なお,1日車とは,事業者の自動車等のうち1台を1日間使用停止とする処分をいう。)。 (ウ) ある 基準日車等が警告とされている場合は,15日車の自動車等の使用停止処分とする(局長通達別表の適用欄。なお,1日車とは,事業者の自動車等のうち1台を1日間使用停止とする処分をいう。)。 (ウ) ある事業者が規則22条1項に定める乗務距離の最高限度違反をした場合で,当該事業者の未遵守率が5%未満であるときは,当該事業者に対する行政処分の基準日車等は当該違反が初違反であれば警告,再違反であれば20日車とする(本件処分基準)。 イ札幌交通圏は,平成19年11月20日,特別監視地域に指定された。 ウ国土交通大臣は,平成21年10月1日,札幌交通圏を「特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法」(平成21年法律第64号)3条1項に規定する特定地域(以下「特定地域」という。)に指定した。(甲6)エ原告は,平成21年3月27日,札幌交通圏における営業許可を受けた。 2 争点(1) 本案前の争点ア本件公示が行訴法3条2項にいう「処分」に該当するか否か(処分性の有無)イ本件公示に違反したことを理由とする法40条に基づく不利益処分(以下「法40条の不利益処分」という。)が原告に対し「されようとしている場合」(行訴法3条7項)に当たるか否かウ法40条の不利益処分がなされることにより原告に「重大な損害が生じるおそれ」があるか否か(行訴法37条の4第1項本文)エ予備的請求の確認の利益(即時確定の利益)の有無(2) 本案の争点本件公示の違法性の有無 3 争点に対する当事者の主張の要旨(1) 本案前の争点ア(本件公示が行訴法3条2項にいう「処分」に該当するか否か(処分性の有無))について(原告の主張)ア(ア) 行訴法3条2項にいう「処分」とは,公権力の主体たる国又は公共 (1) 本案前の争点ア(本件公示が行訴法3条2項にいう「処分」に該当するか否か(処分性の有無))について(原告の主張)ア(ア) 行訴法3条2項にいう「処分」とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。したがって,形式的には不特定多数人を名宛人としてされる行政行為であっても,それが実質的にみて国民の具体的な権利義務に直接影響を及ぼすようなものである場合には,当該行政行為は「処分」に当たる。 (イ) 本件公示は,形式的には不特定多数人に向けられた行政行為であるが,指定区域内で営業を行う一般乗用旅客自動車運送事業者という限定された者を対象としている。また,それら各事業者のこれまでの走行実績に照らせば,本件公示により実質的に権利が制限され義務が課されたといえるのは,原告を含む,乗務距離の最高限度を超過するおそれのあるごく限られた事業者である。 また,本件公示は法27条1項や同条項を受けた規則22条1項に基づくものであるところ,規則22条1項には具体的な指定地域や具体的な乗務距離の最高限度の定めはなく,指定地域や乗務距離の最高限度を具体的に定めた本件公示によってはじめて,原告に乗務距離の最高限度を超えて運転者を事業用自動車に乗務させてはならないという具体的な義務が生じる。 さらに,本件公示によって制限される権利や課される義務の内容は,本件公示の記載内容によって全て尽くされているのであって,本件公示に後続する処分等によって制限される権利の内容や課される義務の内容が初めて具体化されるというものではない。 (ウ) 以上のことからすれば,本件公示は,一般的抽象的な規範定立行為にとどまらず,原告に対して,直接,その よって制限される権利の内容や課される義務の内容が初めて具体化されるというものではない。 (ウ) 以上のことからすれば,本件公示は,一般的抽象的な規範定立行為にとどまらず,原告に対して,直接,その権利を制限し,義務を課すものであるから,行訴法3条2項にいう「処分」に該当する。 イ本件公示は限られた範囲の事業者に対するものであるとはいえ,複数の事業者に対して適用されるものである。仮に本件公示に処分性が認められない場合,原告の提起した当事者訴訟において本案判決がされ,本件公示が違法であることが確定すると,原告に対する関係では本件公示は違法となる一方,本件公示が違法であることの効力は第三者には及ばないから,他の事業者はなお本件公示に基づく義務を負うことになり,本件公示という同一の法律行為をめぐり法律関係が混乱する。このような事態を防止す るためにも,本件公示の処分性を認めるべきである。 ウ本件公示により,原告は,乗務距離制限による売上げ減少,自動車等の使用停止,事業停止及び事業許可の取消しの各処分,前記各処分の公表による利用者からの信用失墜などのおそれに直面している。本件公示が違法である場合,原告はこのような法的に不安定な立場から早急に解放されるべきであるから,原告の救済という観点からも本件公示に処分性を認めるべきである。 (被告の主張)ア行訴法3条2項にいう「処分」とは,公権力の主体たる国又は公共団体の行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。そして,行政立法のような一般的抽象的な法規範定立行為については,それが一般抽象的な法規範定立にとどまり,それに基づく行政庁の具体的な行為によってはじめて国民の権利利益に具体的な変動が生ずるようなも して,行政立法のような一般的抽象的な法規範定立行為については,それが一般抽象的な法規範定立にとどまり,それに基づく行政庁の具体的な行為によってはじめて国民の権利利益に具体的な変動が生ずるようなものである限り,かかる行為には「直接」性がないから,「処分」には当たらないと解すべきである。 本件公示における乗務距離制限は,規則22条1項が定める乗務距離制限について同条2項による委任を受けて具体的に乗務距離の最高限度の数値を定めたものであり,いわゆる行政立法である。本件公示は,現在営業区域内で営業している事業者のみならず,将来の新規参入事業者も対象として予定している。 また,本件公示は,法27条1項,規則22条1項,2項が定める,事業者の遵守事項の内容を補充するものにすぎない。 このように,本件公示は,一般的抽象的な法規範定立行為にとどまるのであって,処分には当たらない。 イ原告は,原告の救済という観点からも本件公示に処分性を認めるべき旨 主張する。しかしながら,本件公示に一度違反したからといって,直ちに事業停止処分を受けるような重大な不利益を被るような事情や,事実上事業の継続を断念せざるを得ない地位に置かれることとなるような関連法令上の制度又は運用の実情は何ら存在しないから,本件公示に処分性を認めてこれを争わせなければならないだけの紛争の成熟性はなく,原告の主張は失当である。 (2) 本案前の争点イ(本件公示に違反したことを理由とする法40条の不利益処分が原告に対し「されようとしている場合」(行訴法3条7項)に当たるか否か)について(原告の主張)局長通達及び本件処分基準は,法40条等に基づく乗務距離の最高限度違反に対する制裁としての処分基準を明確に定めており,そこでは,自動車等の使用停止処分のほか,監査及び処 について(原告の主張)局長通達及び本件処分基準は,法40条等に基づく乗務距離の最高限度違反に対する制裁としての処分基準を明確に定めており,そこでは,自動車等の使用停止処分のほか,監査及び処分が繰り返され違反点数が累積された場合には,事業停止処分や許可取消処分も予定されている。 本件公示が適用された平成21年11月1日以降,原告の乗務員においては,概ね毎月,乗務距離超過が発生しているから,今後も乗務距離の最高限度の超過事例が発生することは明らかである。したがって,原告に対する自動車等の使用停止処分,事業停止処分等,法40条の不利益処分がされる蓋然性が存在する。 (被告の主張)行訴法3条7項は,一定の処分又は採決が「されようとしている場合」であること,すなわち,行政処分が行われる蓋然性の存在を,差止めの訴えの訴訟要件として規定している。 この点,原告は,原告が営業を継続する限り,乗務距離の最高限度を遵守できない可能性は高いとして,各種の法40条の不利益処分を受ける蓋然性がある旨主張する。 しかしながら,原告の当該主張は,本件公示が定める乗務距離の最高限度を原告が独自の判断で今後無視して遵守しないことを前提とするものであるところ,このように外形上有効に成立している法規範を無視するか否かは,もっぱら原告の意思及び選択に委ねられているのであり,このような原告の自由意思が働く段階において行政処分の蓋然性があるなどと主張することはそれ自体失当である。 また,原告は,原告に対し,各種の法40条の不利益処分が繰り返されれば,最終的には事業停止処分又は許可取消処分がされる蓋然性があるとも主張する。しかしながら,規則22条1項に違反する行為をした場合に課される処分は,本件処分基準によれば,車両等使用停止処分にとどまるのであっ 的には事業停止処分又は許可取消処分がされる蓋然性があるとも主張する。しかしながら,規則22条1項に違反する行為をした場合に課される処分は,本件処分基準によれば,車両等使用停止処分にとどまるのであって,その違反のみで事業停止処分や許可取消処分がなされることはないから,現時点において原告が事業停止処分又は許可取消処分を受ける蓋然性があるとはいえない。 以上によれば,各種の法40条の不利益処分が「されようとしている場合」であるとはいえない。 (3) 本案前の争点ウ(法40条の不利益処分がなされることにより原告に「重大な損害が生じるおそれ」があるか否か)について(原告の主張)ア差止訴訟における「重大な損害を生じるおそれがある場合」との要件のうち,「重大な損害」という文言は,執行停止(行訴法25条2項)の要件にも用いられている。したがって,行訴法は,行政処分がなされる前に差止訴訟を提起するのと,具体的な処分が行われた後に取消訴訟等を提起して処分の執行停止をかけるのとを比較してどちらか一方を原則的な方法と定めたのではなく,両者を同等の手段として定めたものと解すべきである。また,差止訴訟は平成16年の行訴法改正により法定されたものであるところ,この法改正の趣旨は,取消訴訟中心主義から脱却し,もって国民の権利利益の実効的救済を図る点にある。 これらのことからすれば,具体的処分が行われた後に取消訴訟等を提起して処分の執行停止をかけることによる救済の可能性が否定できない場合であっても,原告の権利救済の見地からして差止訴訟による事前審査を行うことが適切であると認められるときは,差止訴訟の本案審理がなされるべきである。 イ(ア) 仮に,原告に対し,最も軽微な行政処分である15日車の自動車等の使用停止処分がされると,原告は,営業所 を行うことが適切であると認められるときは,差止訴訟の本案審理がなされるべきである。 イ(ア) 仮に,原告に対し,最も軽微な行政処分である15日車の自動車等の使用停止処分がされると,原告は,営業所に保有する車両約100台の約2割もの自動車の使用を停止しなければならなくなるから,使用停止処分を受けた自動車から得られたであろう運送収入や,利用者からの配車依頼が滞ることによる機会損失など,多額の損害を被る。 被告は,当該損害は当然に予定された不利益である旨主張するが,当該主張は,違法な規制に違反したことを理由とする行政処分を当然に受忍すべきであるとするものであり,失当である。また,被告は,当該損害の回復が容易である旨主張するが,本件公示が違法であることが確定した後に国家賠償請求訴訟を提起しても損害すべてが填補されることはないから,被告の主張は当たらない。 (イ) 行政庁の規制監督権限に基づく制裁処分が公表された場合,被処分者の名誉や信用に重大な損害を生ずるおそれがあるときは,その損害は,差止め訴訟における「重大な損害」(行訴法37条の4第1項)として考慮されるべきである。 本件において,乗務距離の最高限度違反を理由に原告に対し法40条の不利益処分がなされた場合,原告は当該処分及び当該処分に続く公表によって,名誉及び信用の失墜という損害を被る。すなわち,まず,自動車等の使用停止処分によって利用者の配車依頼への対応が滞ることにより,顧客の原告に対する信用が失われる。また,処分行政庁の運用として,自動車等停止処分以上の処分がされた場合,違反事実と処分内容が処分行政庁のホームページ上に概ね3年間は公表され続けることとなっている上,当該処分のあった事実は,業界紙や一般紙でも報道される可能性があるから,処分行政庁のホームページや報 違反事実と処分内容が処分行政庁のホームページ上に概ね3年間は公表され続けることとなっている上,当該処分のあった事実は,業界紙や一般紙でも報道される可能性があるから,処分行政庁のホームページや報道等を通じて原告が当該処分を受けたということが広く知れ渡り,原告の信用が失墜する。そして,このように原告の信用が毀損された場合,後日当該処分が違法であり理由がないことが確定したとしても,その回復は非常に困難である。 この点について,被告は,原告の主張は処分と処分後の公表とを混同するものであり,後者を処分による損害として考慮することはできない旨主張する。しかしながら,前述のとおり,法40条の不利益処分がされた場合,かかる事実が公表されることは運用上確実に予定されているから,処分に伴う公表は当然に予定された行政行為というべきである。 (ウ) 原告に対し,乗務距離の最高限度違反を理由に監査や法40条の不利益処分が繰り返されれば,事業停止処分,営業許可取消等処分がされることになる。仮に,事業停止処分又は営業許可取消等処分を受けると,原告の事業活動は著しく制約され,事業の継続そのものが不可能となる。その場合,原告は雇用している多数の運転手を含む従業員を解雇せざるを得なくなり,倒産の危機に瀕し,回復不可能な損害を被ることとなる。 被告は,本件の差止め訴訟においては,処分行政庁からされる最初の処分だけを差止め対象とすべきであり,その後に原告に対してされる行政処分に伴う損害を考慮できない旨主張する。 しかしながら,本件処分基準によれば,法40条の不利益処分がされた後に再度同一の処分がされた場合は「再違反」として扱われ,基準日車等が加重されることが予定されている。すなわち,再違反の場合,初違反として法40条の不利益処分がされたことを理由に された後に再度同一の処分がされた場合は「再違反」として扱われ,基準日車等が加重されることが予定されている。すなわち,再違反の場合,初違反として法40条の不利益処分がされたことを理由に,基準日車等が加重されることになるのであるから,基準日車等の加重という不利益な取扱いに伴う損害は,初違反としての処分において当然に予定された損害というべきである。しかも,原告は処分行政庁からされる最初の処分だけを差止め対象としているのではなく,乗務距離の最高限度を超過したことを理由とする一切の不利益処分の差止めを求めているのであるから,被告の主張はそもそも失当である。そして,局長通達によれば,原告に対して監査が繰り返され,乗務距離の最高限度違反を理由とする処分が繰り返された場合違反点数が積み上がる結果,事業停止処分,営業許可取消等処分がされるおそれさえ生ずるのであるから,重大な損害に該当することは明らかである。 (エ) 「重大な損害」の考慮要素のうち「処分の性質」をみると,原告が差止めを求めている行政処分は,事業者による過去の違反行為に対する一種の制裁的処分であるから,直ちにその処分をしなければ行政目的を達成できないという事情はない。 ウ以上ア及びイを勘案すると,原告に「重大な損害が生じるおそれ」があると認められる。 (被告の主張)アある処分により被処分者が被る損害が,当該処分につき取消訴訟を提起して執行停止を受けることにより救済を受けられるような性質,程度の損害である場合,そのような損害は差止めの訴えにいう「重大な損害」には当たらない。 イ(ア) 原告は,法40条の不利益処分により経済的不利益を受けるから,それが「重大な損害」である旨主張する。 しかしながら,法40条の不利益処分の目的は,法及び規則等の輸送の い。 イ(ア) 原告は,法40条の不利益処分により経済的不利益を受けるから,それが「重大な損害」である旨主張する。 しかしながら,法40条の不利益処分の目的は,法及び規則等の輸送の安全に関する定めに違反するなどした一般乗用旅客自動車運送事業者による事業を制限又は排除することにより,輸送の安全及び旅客の利便を確保しもって公共の福祉を増進することにある(法1条)から,原告が規則22条1項に違反したことにより事業用自動車の使用停止処分を受け,それに伴って経済的不利益が生じることは当然に予定されているというべきである。また,原告が受ける損害は,当該行政処分の取消請求訴訟が認容され,確定した後の金銭賠償によって容易に回復可能である。 (イ) また,原告は,法40条の不利益処分により,収入減のみならず,原告の名誉や信用失墜のおそれがあると主張する。 しかしながら,原告が当該行政処分を受けたからといって直ちに名誉や信用が低下するとは言い難いし,仮に名誉や信用が低下したとしても,それは原告自身が規則22条1項に違反したことにより招いた事態である。また,そうして名誉や信用が低下したとしても,後に当該処分の取消請求訴訟が認容され,確定すれば,その低下した名誉や信用は直ちに回復される。 (ウ) さらに,原告は,法40条の不利益処分を受けた場合,その事実内容等が公表されることにより,原告の名誉,信用が毀損され,回復は非常に困難である旨主張する。 しかしながら,当該主張は,法40条の不利益処分とその後の公表する行為とを混同するものであり,本件において後者による損害を考慮することはできないから,失当である。また,仮に公表により名誉,信用が毀損されたとしても,取消請求訴訟が認容,確定すればただちに回復される。 (エ) 加えて,原告は,法 おいて後者による損害を考慮することはできないから,失当である。また,仮に公表により名誉,信用が毀損されたとしても,取消請求訴訟が認容,確定すればただちに回復される。 (エ) 加えて,原告は,法40条の不利益処分が繰り返されれば,事業停止処分,営業許可取消等処分がされる蓋然性があり,その場合,事業継続そのものが不可能となり,回復不可能な損害を受ける旨主張する。 しかしながら,原告は,今後,規則22条1項に違反する行為をした場合になされる法40条の不利益処分の差止めを求めているから,その後,原告が同様の行為を繰り返した場合になされる,別個の法40条の不利益処分による損害を考慮することはできないのであって,原告の上記主張は失当である。 (4) 本案前の争点エ(予備的請求の確認の利益(即時確定の利益)の有無)について(被告の主張)ア法令や一般処分により賦課された公法上の義務を争う場合,この争訟が成熟性を有し適法であるといえるのは,当該義務の履行によって侵害を受ける権利の性質及びその侵害の程度,違反に対する制裁としての不利益処分の確実性及びその内容又は性質等に照らし,当該不利益処分を受けてからこれに関する訴訟の中で事後的に義務の存否を争ったのでは回復しがたい重大な損害を被るおそれがあるなど,事前救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がある場合に限られるというべきである(最高裁昭和47年11月30日第一小法廷判決・民集26巻9号1746頁(以下「昭和47年判決」という。),最高裁平成元年7月4日第三小法廷判決・判例時報1336号86頁(以下「平成元年判決」という。)。 本件公示は乗務距離を一定程度に制限するにすぎないから,原告の営業の自由の本質的部分を制限するものではない。また,現時点における距離 ・判例時報1336号86頁(以下「平成元年判決」という。)。 本件公示は乗務距離を一定程度に制限するにすぎないから,原告の営業の自由の本質的部分を制限するものではない。また,現時点における距離制限違反の件数はごく限られている上,恒常的に発生しているわけではないから,義務違反の現実性は低い。法40条の不利益処分による損害は,後に当該処分の取消訴訟を提起し,同訴訟で勝訴すれば,その後の金銭賠償によって容易に回復可能なものといえる。以上によれば,事前救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情があるとはいえない。 イ原告は,最高裁平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁(以下「平成17年判決」という。)を引き合いに出すが,同判決では選挙権という民主主義の根幹をなす憲法上の重要な権利が問題となっていたところ,同権利は行使すること自体に意味があり,侵害を受けた後に争うことでは権利行使の実質を回復することができない性質のものであるから,事前救済を認める必要性が高いことは明らかであって,権利の性質,侵害の程度,事後的な回復が可能な損害か否か等の点において,本件とは異なる。また,原告は,昭和47年判決及び平成元年判決の射程は及ばない旨主張するが,紛争の成熟性の存在等に基づいて確認の利益が判断されるべきことは,平成16年の行訴法改正を受けても変わりはなく,平成17年判決によっても,昭和47年判決,平成元年判決が示した判断基準は変更されていないというべきである。 (原告の主張)ア本件確認訴訟における確認の利益の存否は,民事訴訟理論における確認の利益の判断基準,すなわち,①行政機関が原告の法的地位を否認する見解を暫定的でなく最終的なものとして示し,又はそれと同視すべき事情により原告の法的地位に不安が生じてい は,民事訴訟理論における確認の利益の判断基準,すなわち,①行政機関が原告の法的地位を否認する見解を暫定的でなく最終的なものとして示し,又はそれと同視すべき事情により原告の法的地位に不安が生じていること,②原被告間における紛争に係る裁判審理における争点が明確になっていること,③その紛争につき今裁判審理をするよりも行政過程を進ませることでむしろ紛争解決の可能性が残されているという事情がないこと,④このタイミングでの裁判が認められないと原告が実効的な裁判的救済を受けられなくなること,という4点により判断されるべきである。 本件においては,①すでに乗務距離の最高限度を規定した本件公示が示されており,行政機関たる処分行政庁は乗務距離の最高限度に関して 最終的見解を示している。また,②本件確認訴訟における主な争点は,本件公示の違法性であり,明確である。③原告に対する監査で本件公示違反が指摘された場合,処分基準に従った処分をされることになるのであり,原告のこれまでの走行距離集計結果によれば,原告において今後も乗務距離の最高限度超過件数が一定程度発生することは不可避であるから,あえて行政過程を進ませることで紛争解決の可能性があるとは想定できず,④本件確認訴訟は,本件公示により現に生じている不利益の除去を目的とするものであるから,現段階において確認請求が認められなければ,原告の権利救済とはなりえない。したがって,本件確認訴訟には確認の利益が認められる。 イこれに対して,被告は,昭和47年判決,平成元年判決を引用し,本件確認訴訟には確認の利益は認められない旨主張する。しかしながら,両判例の射程は,本件には及ばない。平成16年の行訴法改正により,同法4条に「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の」との文言が追加され「確認訴訟の活用 は認められない旨主張する。しかしながら,両判例の射程は,本件には及ばない。平成16年の行訴法改正により,同法4条に「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の」との文言が追加され「確認訴訟の活用」というメッセージが示されたのであるから,確認の利益の判断基準は上記2判例から緩和されるべきである。実際,平成17年判決は,在外邦人が各選挙につき選挙権を行使する権利を有することの確認をあらかじめ求めた訴えにつき,それが有効適切な手段であると認められる限り,確認の利益を肯定すべきとしている。 被告は,本件公示自体によっては原告の権利利益に具体的変動は生じないことを理由に,現に不安,危険が生じているとはいえない旨主張する。しかし,本件公示により,原告は指定地域において乗務距離の最高限度を超えて運転者を事業用自動車に乗務させてはならないという具体的な義務を負うのであるから,被告の主張に理由はない。また,被告は,行政処分を受けた後に取消訴訟を提起すれば足りるとか,損害の事後的回復は可能であるというが,失当である。 (5) 本案の争点(本件公示の違法性の有無)について(被告の主張)ア規則22条が憲法22条に反するとの原告の主張について(ア) 合憲性の判断基準について経済的自由権の規制立法の憲法適合性は,単に,積極的目的規制の場合には明白性の原則が,消極的目的規制の場合には厳格な合理性の基準が当てはまるという考え方(規制目的二分論)により判断するのではなく,規制目的のほか,規制対象,規制方法,目的と方法の関連性の強さなど,法律の性質を示す様々な要素を総合的に考慮して判断すべきである。 (イ) 規則22条の規制の諸要素についてa まず,規則22条の規制目的について検討すると,乗務距離の最高限度規制の根拠である規則22条 質を示す様々な要素を総合的に考慮して判断すべきである。 (イ) 規則22条の規制の諸要素についてa まず,規則22条の規制目的について検討すると,乗務距離の最高限度規制の根拠である規則22条の規定には,運行管理の適正化を図ることを通じて過労運転や最高速度制限違反等の危険運転を防止して輸送の安全を確保するという消極目的のみならず,旅客の利便を確保するという配慮も含まれている。 次に,規則22条の規制対象についてみると,規則22条の規制は,許可を得た一般乗用旅客自動車運送事業者であれば,運賃等の設定内容いかん等を問わず,等しく及ぶ。 また,規則22条の規制の方法についてみると,規則22条は,職業遂行の方法に対して制約を課すものである。 そして,規制目的との関連性の強さを検討すると,乗務距離の最高限度を規制すれば,過労運転や最高速度制限違反等の危険運転を防止することができ,輸送の安全の確保,ひいては旅客の利便の確保という目的を直接的に達成することができる。 b 以上のとおり,規則22条の規制目的のうち,旅客の利便を確保す るという目的は,純粋な消極目的ではない。また,タクシーをめぐる諸問題をどのような形で捉え,その諸問題に合わせた政策としてどのような対策を講じるべきかといった判断は,タクシー事業をめぐる様々な社会的事実から推認される旅客の利便状況の判断等に基づいて,隣接する交通運輸政策をはじめとする社会経済的な諸政策上の位置付けを視野に置きながら広く議論され,国民的合意の下でその方向性が決定されるべき性質のものである。したがって,その限度で,旅客の利便の確保という目的は,司法において,立法事実に踏み込んで判断するにはなじまない性質を有している。規則22条の規制は,全ての一般乗用旅客自動車運送事業者に及ぶものであり, って,その限度で,旅客の利便の確保という目的は,司法において,立法事実に踏み込んで判断するにはなじまない性質を有している。規則22条の規制は,全ての一般乗用旅客自動車運送事業者に及ぶものであり,許可制のように狭義の職業選択の自由そのものに対して強い規制を課すものではなく,飽くまでも職業遂行の方法に対して制約を課すものにすぎない。さらに,規制目的と規制手段とが直結している。 以上を総合すると,規制目的及び規制手段の必要性・合理性判断については,立法府の広い裁量が認められるべきであり,比較的緩やかな基準が妥当するというべきである。具体的には,規制目的が公共の福祉に合致しないことが明らかであるか,又は規制手段がその目的を達成するための手段として必要性又は合理性に欠けていることが明らかでない限り,違憲とはならないものと解すべきである。 (ウ) 規則22条は憲法22条1項には反しないa 規則22条は,乗務距離の最高限度を定めることにより,運行管理の適正化を図ることを通じて過労運転や最高速度制限違反等の危険運転を防止して輸送の安全の確保を図るとともに旅客の利便の確保を図るものであり,このような目的に合理性が認められ,これが公共の福祉に合致するものであることは明らかである。 b 乗務距離の最高限度を定める必要性についてある一定の害悪発生の危険を防止するために経済的自由権の規制を行う場合において,当該規制の合憲性が争われるときは,当該規制が違憲である旨主張する当事者において,当該害悪の発生の危険が抽象的にも存在しないことを立証する必要があると解すべきである。 そこで本件についてみると,タクシー運転者の給与が歩合制であり 運送収入が運転者の賃金に直結する以上,勤務時間内に無理に営業収入増を図ろうとして乗務距離が増大し, 要があると解すべきである。 そこで本件についてみると,タクシー運転者の給与が歩合制であり 運送収入が運転者の賃金に直結する以上,勤務時間内に無理に営業収入増を図ろうとして乗務距離が増大し,過労運転や最高速度制限違反等の危険運転が生じやすい状況であることは否定できない。また,運転者が休憩時間を遵守せずに走行距離を稼ごうとしたり,速度違反を犯してでも労働時間内の乗車回数を積み増そうとしたりした場合であっても,そのことを一般乗用旅客自動車運送事業者がリアルタイムで把握できるわけでもない。以上に鑑みると,過労運転や最高速度制限違反等の危険運転が生じることにより輸送の安全が阻害される抽象的危険は否定できないことが明らかである。 また,乗務距離の最高限度を超えた乗務は速度違反を伴う傾向にあることをうかがわせる調査結果がある。すなわち,近畿運輸局長が,規則22条1項の規定に違反する行為を違反事実として,原告のグループ会社である一般乗用旅客自動車運送事業者に対し,法40条1号に基づき行政処分を行う端緒となった監査において確認した乗務記録により,乗務距離の最高限度を超えて乗務していたことが確認されたものについて,運行記録計による記録等を精査した結果,乗務距離の最高限度を超えた乗務には速度違反による運行が相当数確認された一方,これを超えない乗務にはこのような速度違反は余り確認されなかったという調査結果である。この調査結果によれば,タクシー運転者が最大拘束時間を遵守しつつ乗務距離を稼ぐために速度違反を行う傾向が看取できる。同様の傾向は,中部運輸局長が,規則22条1項の規定に違反する行為を違反事実として,ある一般乗用旅客自動車運送事業者に対し,法40条1号に基づき行政処分を行う端緒となった監査において確認した運行記録計による記録等 ,規則22条1項の規定に違反する行為を違反事実として,ある一般乗用旅客自動車運送事業者に対し,法40条1号に基づき行政処分を行う端緒となった監査において確認した運行記録計による記録等を精査した結果からも看取できる。以上のとおり,タクシー運転者が最大拘束時間を遵守しつつ乗務距離を稼ぐために速度違反を行う傾向があることが,各地の運輸局長の調査により裏付けられている。したがって,少なくとも,歩合制賃金の制度や最大拘束時間の設定に起因して速度違反が生じやすいことについては,抽象的危険のみならず現実的・具体的危険が存在するのであるから,その防止のために乗務距離の最高限度を規制する必要があることは明らかである。 c 乗務距離の最高限度を定める合理性について原告は,規則22条の規制目的がタクシーによる交通事故の防止のみであることを前提に,タクシーの乗務距離が長くなればそれに応じて事故の発生率が高くなるという関係は存しないし,乗務距離の最高限度を超過すれば,事故の発生率が格段に高まるような関係も認められないから,タクシーによる事故を防止するために,乗務距離を規制するという方法は,そもそも規制目的との間における合理的な関連性を欠く旨主張する。しかし,原告の主張は,乗務距離の最高限度規制の目的がタクシーによる交通事故の防止のみにあるという誤った前提に立っており失当である。 また,原告は,タクシーの運転引受けの際の具体的な事例を挙げた上で,運転者としては乗車を受け付けるか否かについて判断に窮することになる,乗務距離の最高限度を超えるかどうか即座に判断することは不可能であるし,仮に,乗務距離の最高限度を超える可能性があると判断したとしても,いったん乗車した乗客に対して降車をお願いするというのはあまりにも非現実的であるため,乗務距離の 即座に判断することは不可能であるし,仮に,乗務距離の最高限度を超える可能性があると判断したとしても,いったん乗車した乗客に対して降車をお願いするというのはあまりにも非現実的であるため,乗務距離の最高限度規制が規制目的を達成するための手段として合理性を欠くと主張する。 しかし,旅客の利便ばかりを強調して乗務距離の最高限度規制が規制目的を達成するための手段として合理性に欠けるとする原告の主張は,輸送の安全の確保を図ることができないとなると旅客の利便の確保も図ることができないことや,利用者の利便の確保も重要であるが,輸送の安全の確保が重要視されることを正解しないものであり失当である。 さらに,原告が指摘する事例は,乗務距離の最高限度規制にのみ発生する問題ではなく,拘束時間の最大限度規制についても同様の問題が生じうるものであり,さらにいえば,緊急避難上やむを得ず法令に形式上違反する事例はほかの規制においても生じうるものであるところ,このような事例について法令違反を理由に行政処分を課した場合に判断の是非が問題となることがあるとしても,このような事例が発生する可能性が排除できないからといって,規制そのものの必要性や合理性が否定されるものではないことは明らかである。そもそも,原告が指摘する事態は,運送を開始する前に利用者に対し目的地を十分確認することで回避することが可能であり,また,確認を行ったにもかかわらずなお目的地の変更に対応せざるを得ない場合は,事業者において別の車両を配置することも可能である。 以上のとおり,規則22条が定める乗務距離の最高限度規制は,規制目的は,運行管理の適正化を図ることを通じて過労運転や最高速度制限違反等の危険運転を防止して輸送の安全の確保を図るとともに旅客の利便の確保を図ることであり,上記目的を達 務距離の最高限度規制は,規制目的は,運行管理の適正化を図ることを通じて過労運転や最高速度制限違反等の危険運転を防止して輸送の安全の確保を図るとともに旅客の利便の確保を図ることであり,上記目的を達成するための規制手段としての必要性と合理性に欠けることが明らかであるわけでもないから,憲法22条1項に反しない。 イ規則22条は法27条1項の委任の範囲を超えていない乗務距離の最高限度規制の規定は,法27条1項にある「事業用自動車の運転者の適切な勤務時間及び乗務時間の設定その他の運行管理」の一内容であり,その直接の目的は過労運転防止,危険運転防止(スピード違反,赤信号無視等の交通法規違反による危険運転の防止)及び交通事故防止であり,その最終的な目的は輸送の安全及び旅客の利便の確保を目的として規定されたものであるから,法27条1項の委任の範囲を超えるものではない。 ウ札幌交通圏を地域指定したことが適法であること(ア) 札幌交通圏における交通状況についてみると,平成18年から平成20年までの間,タクシーによる輸送回数全体が減少傾向にあるのに対し,最高速度違反通知件数は,延べ実働車両数比及び対輸送回数比の双方で平成18年に比べ平成20年の頻度が高くなっているから,タクシーによる最高速度違反の傾向が強まっているといえる。したがって,最高速度違反の防止をさらに図る観点から,札幌交通圏を地域指定して乗務距離の最高限度規制地域とすることには,十分な合理性があるといえる。 この点について,原告は,最高速度違反通知件数の絶対数を重視して,札幌交通圏の各年度における最高速度違反通知件数等が延べ実働車両数や輸送回数と比較して極めて微小で取るに足らないなどと主張する。しかしながら,札幌交通圏の近年の傾向を考慮すれば偶然の増減とはい て,札幌交通圏の各年度における最高速度違反通知件数等が延べ実働車両数や輸送回数と比較して極めて微小で取るに足らないなどと主張する。しかしながら,札幌交通圏の近年の傾向を考慮すれば偶然の増減とはいえないし,公共交通機関であるタクシーが交通違反を起こすことの重要性に鑑みれば,処分行政庁が乗務距離規制の対象地域を指定するに当たり,最高速度違反通知件数や行政処分件数を考慮することは必要というべきであって,原告の主張は当たらない。 (イ) 札幌交通圏を地域指定する必要性があることタクシー事業は,バスやトラック事業といった,一定の区間を走行する他の一般乗用旅客自動車運送事業とは異なり,一定の営業地域を面的に運送する点に特徴がある。特に流し営業中心の地域においては,利用者の乗車機会拡大を目的として需要が多く見込まれる地点を中心に走行する傾向にあり,このような状況下においては,タクシー運転者は歩合制賃金を背景として無理に営業収入増を図るため,乗務距離が増加し,過労運転や最高速度違反が生じやすい状況となるのであって,タクシー運転者が休憩時間を定時的に確保することが困難となる。このようなタクシー事業の特性に鑑みれば,流し営業比率が高い札幌交通圏において,適切な運行管理のために乗務距離の最高限度を規制することが必要なのは明らかである。 (ウ) 処分行政庁のした分析検討が不合理ではないこと被告が定めた乗務距離の最高限度は,実態調査を行い,札幌交通圏の状況を考慮した上で合理的に算出されたものである。 原告は,乗務距離が与える危険運転の因果性に関する分析,検討が行われていないと主張するが,一般的に,乗務距離と拘束時間の超過,休憩時間の取得状況及び速度違反等との関係には,一定の相関関係が認められることが自明というべきであるから,原 果性に関する分析,検討が行われていないと主張するが,一般的に,乗務距離と拘束時間の超過,休憩時間の取得状況及び速度違反等との関係には,一定の相関関係が認められることが自明というべきであるから,原告が主張する乗務距離が与える危険運転の因果性に関する直接的な分析,検討の結果を待つまでもなく,乗務距離の最高限度規制を課すことによって,輸送の安全を確保しようとすることに何ら不合理はない。 なお,前述のとおり,タクシー運転手は,一般に速度違反をしてでも走行距離を稼ごうとする傾向になることは明らかである。このような傾向を放置すれば道路交通法の目的を阻害することとなるのは明らかであるから,その対策として最高乗務距離を規制することには合理性がある。 (エ) 札幌交通圏が運行記録計の装着義務付け地域であることを理由として乗務距離規制の地域指定をしたことについて運行記録計の義務付けも乗務距離の最高限度規制も,流し営業が主に行われている輸送の安全を確保するという共通の目的を有するところ,両規制を一体的に運用することが,目的達成のために必要かつ合理的といえる。 運行記録計の義務付けの目的は,個々のタクシーの運行状況を正確に把握して管理するだけでなく,記録された運転者や車両の運行実態を分析し,適正な運行管理に資することにある。そして,最高速度違反通知件数が増加しつつあるなどといった札幌交通圏の交通状況に鑑みれば,タクシー事業者が運行記録計の活用により運転者を指導し自主的に法令を遵守することが不十分な実態があるため,乗務距離の最高限度規制により法令を遵守させる必要があるといえる。 エ距離制限が適法であること(ア) 距離算定の経緯処分行政庁は,本件処分を行うに先立ち,札幌交通圏等における実態調査を実施し,実態調査から得られた各地 法令を遵守させる必要があるといえる。 エ距離制限が適法であること(ア) 距離算定の経緯処分行政庁は,本件処分を行うに先立ち,札幌交通圏等における実態調査を実施し,実態調査から得られた各地域内のタクシー事業者の平均的な運行状況を基に,規則21条に基づいて定められる最大拘束時間(隔日勤務運転者21時間,日勤勤務運転者16時間)まで勤務した場合を仮定して,通常の運行を行った場合の最大走行可能距離を求めた。すなわち,最大拘束時間まで勤務した場合に実際に走行可能な時間(可能実走行時間)を求め,これにタクシーの平均運行速度を乗じて,札幌交通圏における基本となる距離を算定したものである。 なお,距離設定の算定に当たっては,まず隔日勤務運転者に係るものを行い,その算定された数値に,隔日勤務運転者の最大拘束時間と日勤勤務運転者の最大拘束時間の比率である21分の16を乗じて得られた数値を日勤勤務運転者に係る乗務距離の最高限度とすることとした。 具体的には,まず,可能実走行時間の算定は,一般的なタクシー事業においては,休憩時間ないし客待ち時間に関し,少なくとも合計3時間は要するものと判断し,これら一体で3時間を減ずることとし,札幌交通圏における可能実走行時間を,21時間(隔日勤務運転者の最大拘束時間)―3時間=18時間,と算定した。 また,タクシーの平均運行速度の算定は,実態調査から得られた調査期間における総走行距離を総実走行時間で除して算出することとし,札幌交通圏におけるタクシーの平均運行速度を,3万5232.35km(総走行距離)÷1903.20時間(総実走行時間)=18.51km/時間と算定した。 したがって,札幌交通圏における基本となる距離は,18時間(可能実走行時間)×18.51km/時間(平均運行速度)=333.1 1903.20時間(総実走行時間)=18.51km/時間と算定した。 したがって,札幌交通圏における基本となる距離は,18時間(可能実走行時間)×18.51km/時間(平均運行速度)=333.18kmとなった。 次に,タクシーの平均運行速度の算定に当たっては,実態調査による平均運行速度のほか,道路の表定速度も考慮できるところ,札幌交通圏の道路の表定速度は29.95km/時間であり,当該道路の表定速度と実態調査によるタクシーの平均運行速度との乖離率(乖離率の数値が大きくなるほど乖離の度合いは小さくなる。)は61.80%であった(18.51km/時間÷29.95km/時間)。実態調査によるタクシーの平均運行速度の算定及び道路の表定速度の調査は,本件公示による乗務距離の最高限度を設定した札幌交通圏以外の他の8地域においても同様に行われたところ,これらの調査結果に基づく各地域における両者の乖離率の平均値は47.21%であったことから,乖離率が47.21%を下回る地域(乖離率の数値が平均値の47.21%より小さかった地域。乖離の度合いが平均値よりも大きかった地域を指す。)についてはタクシーの平均運行速度を各地域の道路の表定速度に平均乖離率を乗じて 得られた速度に引き上げる一方,乖離率が47.21%を上回った札幌交通圏(乖離率の数値が平均値の47.21%より大きかったため,乖離の度合いは平均値よりも小さかったことになる。)については速度の引き上げ処理を行わなかった。 また,本件公示の内容は,札幌交通圏を含む北海道全9地域に係る乗務距離の最高限度を定めるものであるところ,公示の対象となる各地域間の公平性の確保及び先行して乗務距離の最高限度を設定している他の地方運輸局において複数の地域があっても一律同じ距離としているという実例が の最高限度を定めるものであるところ,公示の対象となる各地域間の公平性の確保及び先行して乗務距離の最高限度を設定している他の地方運輸局において複数の地域があっても一律同じ距離としているという実例があることを踏まえ,処分行政庁は,北海道全9地域共通の距離を乗務距離の最高限度とすることとした。そして,処分行政庁は,地域ごとに算定した乗務距離の最高限度の平均値を363.54kmと求め,端数処理をした370kmを北海道全9地域共通の隔日勤務運転者の乗務距離の最高限度の試案とした。そして,日勤勤務運転者については,370kmに21分の16を乗じた281.90kmの端数処理をした280kmを試案とした。 本件公示は,これら試案について,法人タクシー協会,個人タクシー協会及び労働組合を対象とするヒアリングを経て定められたものである。 (イ) 前提として行われた実態調査が適切であること札幌交通圏での実態調査は,経営状態や車両規模等を考慮して地域の標準的指標となる事業者を調査対象となるタクシー事業者として抽出した上で,当該事業者の保有する営業車両数の約4.6%を調査対象として実施されたものである。したがって,サンプル数として決して少ないとはいえず,調査及びその調査に基づく調査結果は合理性を有するものであるといえる。 また,実態調査の具体的な手法については,各運輸局長の合理的裁量に委ねられているというべきところ,タクシー需要の変動及び実態調査の実施に係る調査対象事業者の負担も考慮して決定された,3日間という実態調査の期間は,十分かつ合理的な期間であるといえる。 (ウ) 乗務距離の最高限度の算定の基礎とされた時間(18時間)について原告は,乗務距離の最高限度の算定の基礎とされた時間(18時間)について,短すぎる旨主張す 的な期間であるといえる。 (ウ) 乗務距離の最高限度の算定の基礎とされた時間(18時間)について原告は,乗務距離の最高限度の算定の基礎とされた時間(18時間)について,短すぎる旨主張する。 しかしながら,札幌交通圏の実態調査において18時間を超えて運行したのは,全乗務数の約12%にすぎない。また,実態調査の結果,札幌交通圏における平均運転可能時間は15.92時間であり,札幌交通圏以外の8地域でも18時間を超える地域はなかった。処分行政庁は,これらの事情を踏まえた上で,労基法に照らし8時間ごとに1時間の休憩をとるのが望ましいとの考えに基づき18時間という時間を設定したのであるから,その判断は合理的である。 (エ) 乗務距離の最高限度の算定の基礎とされた速度(18.51km/時間)についてa 調査対象事業者の平均運行速度を最高乗務距離の算定基礎に採用したことには合理性があること処分行政庁は,乗務距離の最高限度規制の直接の目的が過労運転,最高速度違反,交通事故の各防止を含む適切な運行管理にあることから,平均運行速度を上回る速度を最高乗務距離の算定基礎に用いた場合にはタクシー運転者の不適切な運行を助長することとなり,適切な運行管理を図ることができないと判断し,調査対象事業者の平均運行速度を最高乗務距離の算定基礎に採用したものである。また,実態調査の結果,調査対象事業者の運行形態や運行状況の違いによって事業者ごとに平均運行速度が異なったところ,この結果は実態調査が合理的かつ適切なものであったことを裏付けるものであ る。処分行政庁は,平均運行速度が,実態調査によって得られた札幌交通圏におけるタクシー運転者の平均的な速度であるとすることに合理性があると判断したものである。 これら処分行政庁の判断に不 る。処分行政庁は,平均運行速度が,実態調査によって得られた札幌交通圏におけるタクシー運転者の平均的な速度であるとすることに合理性があると判断したものである。 これら処分行政庁の判断に不合理な点はない。 b 実態に比して遅い速度が算定されているとはいえないこと実態調査において調査した運転可能時間は,「理論上運転することが可能な時間」,すなわち,総稼働時間から法令上取得が必要な休憩時間を除いた後の残り全ての時間である。この点について,原告は,平均運行速度の前提とされる運行可能時間は,タクシーが実際に動いている時間とすべきであり,客待ち時間及び客扱い時間は除くべきである旨主張する。 処分行政庁が客待ち時間及び客扱い時間を総稼働時間から除かなかったのは,休憩時間と比較すると客待ち時間及び客扱い時間が短いこと,かつ,その頻度は多いことが一般的であって,客待ち時間及び客扱い時間を除くとするとアナログ式運行記録計装着事業者にその時間数の特定を求めることは同事業者にとって過度な負担となることから,アナログ式運行記録計装着事業者の場合には客待ち時間及び客扱い時間を総稼働時間からは除外しないものとしたもので,相当な理由があるといえる。なお,デジタル式運行記録計装着事業者については,アナログ式運行記録計装着事業者に比べれば車両停止時間数を的確に把握することが可能であることから,実際に車が動いている時間をそのまま直接運転可能時間として取り扱うことができるようにしたものである。 c デジタル式運行記録計装着事業者の平均運行速度の数値について原告は,実態調査の結果算出された平均運行速度(18.51km/時間)が,デジタル式運行記録計装着事業者の平均運行速度より遅いことを理由に,実態調査の結果算出された平均運行速度には合理性 原告は,実態調査の結果算出された平均運行速度(18.51km/時間)が,デジタル式運行記録計装着事業者の平均運行速度より遅いことを理由に,実態調査の結果算出された平均運行速度には合理性がない旨主張する。 しかしながら,実態調査の目的は,札幌交通圏のタクシー事業者の実態を把握することにある。そして,指定地域内の事業者が全てデジタル式運行記録計を装着しているわけではないから,実態調査の結果算出された18.51km/時間という速度がデジタル式運行記録計装着事業者の平均運行速度より低いということだけを理由に,実態調査の結果に基づき乗務距離の最高限度の算出をするという方法が不合理であるとはいえない。 d 最高乗務距離の決定に当たり対象交通圏全体の平均値を採用したのには合理性があること本件公示を定めることとなった背景事情は,北海道内の9地域いずれのタクシー事業者にも当てはまるものであり,規制の目的などからすれば,9地域間の公平の確保及び先行して実施している他の地方運輸局の実例を踏まえて,9地域の平均値をもって,乗務距離の最高限度とすることには合理性があるといえる。 9地域それぞれに交通の状況が異なるという事情があったとしても,本件公示はタクシー事業者を対象とした規制であり,その直接の目的は適切な運行管理であることからすれば,統一の基準に基づいて規制を行うことには,なお合理性がある。 (原告の主張)ア規則22条が憲法22条に反し違憲であること(ア) 規則22条の規制目的は,タクシー事故防止であることa 法は,その目的を輸送の安全確保,道路運送の利用者の利益の保護及びその利便の増進と定め(1条),一般旅客自動車運送事業者は輸送の安全及び旅客の利便の確保のために必要な事項として国土交通省令で その目的を輸送の安全確保,道路運送の利用者の利益の保護及びその利便の増進と定め(1条),一般旅客自動車運送事業者は輸送の安全及び旅客の利便の確保のために必要な事項として国土交通省令で定めるものを遵守しなければならない旨定める(27条1項)。 規則22条はこの規定を受けて,昭和33年6月の規則の改正により導入された規定であるところ,同年8月の衆議院運輸委員会において,当時の運輸事務官(自動車局長)が同条の目的について,非常に過酷な労働を防止し,もって事故防止の目的を達する点にある旨述べていたことなどからすれば,同条は,タクシーの交通事故防止を目的としたものであることは明らかである。 b 被告は,輸送の安全が確保できない状況で旅客がタクシーを利用することは危険であるが,規則22条により安全を確保できれば旅客の利便も確保できる,したがって,規則22条には旅客の利便の確保という目的も有するなどと主張する。 しかしながら,被告の主張は,結局のところ,旅客の利便の確保を輸送の安全から導いているにすぎない。 規則22条が設けられたのは昭和33年6月であるのに対し,法1条の目的に旅客の利便という文言が追加されたのは,平成12年の道路運送法の改正においてである。また,同改正の趣旨は,需給調整規制を廃止して事業者間の競争を促進し多様なサービスの提供を促しもって利用者の利便を確保することにあった。 c 被告は,規則22条の規制目的を,過労運転防止,速度違反等の危険運転防止や適切な運行管理の実現にあるなどとも主張する。しかしながら,規則22条が道路運送法に基づく規定である以上,その目的はあくまで法の目的,すなわち法1条に規定する目的でなければならない。被告の主張する規制目的のうち,危険運転防止は,そのことによって法1条にいう輸送の安全を 路運送法に基づく規定である以上,その目的はあくまで法の目的,すなわち法1条に規定する目的でなければならない。被告の主張する規制目的のうち,危険運転防止は,そのことによって法1条にいう輸送の安全を確保することになるし,適切な運行管理は,そのことによって危険運転を防止し,もって法1条の輸送の安全を確保することになるのであるから,いずれも,目的達成のための規制手段にすぎない。 (イ) 違憲審査基準は厳格な合理性の基準によるべきこと一般に,営業の自由に対する規制の合憲性については,規制目的が消極的警察的規制である場合には,規制の必要性合理性があるか否か及びより制限的でない規制手段により目的を達成することができるか否かを判断するという,厳格な合理性の基準により判断すべきである。 規則22条は,一定距離以上の運行を禁止することによってタクシー事業者の営業の自由を規制するものであるから,経済的自由権を制約する規制であるといえる。また,規則22条の規制目的は,(ア)のとおり,タクシーの事故防止によって輸送の安全を確保するという点にあるところ,この目的は,タクシー事故の防止という消極的警察的規制であるといえる。したがって,規則22条の合憲性は,前記の基準により判断されるべきである。 (ウ) 本件についてa 距離規制という手段自体不合理であること乗務距離の最高限度規制は,タクシー運転者に対し,ある一定距離以上の営業運転を禁止している。 ところで,タクシー運転者は,乗客を乗車させた後に乗客から具体的な目的地を指示されるのが通常であるから,当該指示があるまではおおまかな乗客の乗務距離すら知り得ないし,当該指示があっても目的地に到着するまでは乗車場所から目的地までの距離は正確には認識できない。したがって,タクシー運転 通常であるから,当該指示があるまではおおまかな乗客の乗務距離すら知り得ないし,当該指示があっても目的地に到着するまでは乗車場所から目的地までの距離は正確には認識できない。したがって,タクシー運転者は,乗務距離が当該最高限度に近づいた状況下で利用者から乗車申込みがあった場合,乗客から目的地を告げられても,それだけではこれまでの営業距離並びに現在地から目的地までの距離及び目的地から営業所までの距離の合計が乗務距離の最高限度を超えるかどうかを判断できないし,仮に判断できるとしても,当該乗客を目的地まで乗車させると最高限度距離を超過してしまうと判断したときに,いったん乗車させた乗客に降車を求めることは非現実的であるから,そもそも乗車を受け付けるべきか否かについて判断に窮することとなる。そして,乗車させても最高限度距離を超過しないと判断して乗車を受け付けて走行した結果,最高限度距離を超過した場合には距離規制の意味がなかったことになるし,他方,乗車させると最高限度距離を超過してしまうと判断して乗車を受け付けなかったが,実際には当該乗客の目的地を経由して営業所に戻っても最高限度距離を超過しなかったという場合には,当該乗客の利便が損なわれることとなり,法の目的(1条)に反する結果となる。 このように,乗務距離規制という手段は,それ自体,不合理な結果をもたらす。 被告は,以上の事情は,すでに最大拘束時間に近い労働時間に達している場合において引き受ける運送についても同様であり,最高乗務距離規制について問題視する原告の主張は適当でないなどと主張するが,労働時間は予想できるものであるのに対し,乗務距離は乗客の指示がなければ具体的にならないという明らかな違いがあるから,被告の主張は失当である。 b 目的達成のためには,距離規制は不必要であ るが,労働時間は予想できるものであるのに対し,乗務距離は乗客の指示がなければ具体的にならないという明らかな違いがあるから,被告の主張は失当である。 b 目的達成のためには,距離規制は不必要であり不合理であること乗務距離規制は,具体的な道路状況に関係なく,乗務距離の長さだけを理由として,疲労運転や速度超過運転等による事故防止をしようとする規制であるから,たとえば,乗務に伴う運転者の疲労については,当該運転者の乗務距離の長さに応じてその度合いが高まることを前提としているといえる。 しかしながら,乗務に伴う疲労は,乗務距離だけでその程度を正確に把握することはできず,信号や歩行者の有無,住宅街や人通りのない道路であるか等,具体的道路状況を踏まえなければ把握できない。 北海道運輸局には乗務距離と過労運転,過労運転と事故率との関係について検証可能なデータはない上,かえって,原告グループ会社のデータによれば,事故は必ずしも乗務距離が長くなった後に集中して起きてはおらず,乗務距離と事故率との間の相関関係は存在しないばかりか,被告が前提とする因果関係とは逆に,乗務距離が長いほど事故率が低いという傾向にある。被告は,乗務距離規制が必要であるとする根拠となる状況や傾向を,客観的データをもって示していない。結局,乗務距離を規制するという方法には,交通事故防止という目的との間に合理的関連性を認めることはできない。 c 既存の規制で目的は達成可能であること(a) 事故防止のための規制としてはすでに労働時間規制が定められており,規制目的は労働時間規制によって十分に達成できること被告は,タクシー運転者は,休憩時間を遵守せず走行距離を稼ごうとしたり,速度違反を犯しても乗車回数を増やして営業収入増を計るような傾向にあるとして,運転者の労働時 規制によって十分に達成できること被告は,タクシー運転者は,休憩時間を遵守せず走行距離を稼ごうとしたり,速度違反を犯しても乗車回数を増やして営業収入増を計るような傾向にあるとして,運転者の労働時間及び乗務時間の規制に加え,乗務距離の最高限度を定めることが必要である旨主張する。 しかしながら,札幌交通圏内のタクシーには速度及び時間が記録される運行記録計の設置が義務付けられており,そのことはタクシーの運転者も認識しているから,被告の主張するような傾向があるかには疑問がある。また,仮にそのような傾向があるとしても,過労運転による事故防止のための規制としては,すでに規則21条に基づく勤務時間及び乗務時間規制が存在するのであるし,運転者の休憩時間の遵守状況や速度違反について的確に管理していない事業者に対して適切な指導や処分をして是正を図れば足りるというべきである。 この点,被告は,タクシー事業はその事業特性からして運行管理が困難であるなどとして,労働時間規制に加えて乗務距離規制が必要である旨主張する。 しかしながら,運行記録計には乗車時間及び速度が記録される上,その記録に日報や領収書,ETCデータ等と照らし合わせれば各車のおおよその速度を把握できるから,運行記録計の記録を基にして拘束時間や休憩時間に関する指導や処分を行い,運行管理を行うことは可能である。また,タクシーの走行状況については,無線やドライブレコーダ,GPS等により管理することができるから,リアルタイムでの運行管理が困難であるともいえない。 (b) タクシー事故を防止するための規制としては,労働時間,速度規制の他,車両点検整備義務(規則45条,道路運送車両法47条の2),休憩睡眠仮眠施設の整備義務(規則21条2項),運転者の健康状態の把握義務(規則21条4 止するための規制としては,労働時間,速度規制の他,車両点検整備義務(規則45条,道路運送車両法47条の2),休憩睡眠仮眠施設の整備義務(規則21条2項),運転者の健康状態の把握義務(規則21条4項),点呼実施義務(規則24条),運行記録計による記録義務(規則26条),安全及び服務のための規律制定義務(規則41条)等が設けられており,これらの規制に加えてさらに乗務距離規制をする必要はない。 (c) 札幌交通圏において,本件公示が定められるまで,タクシーによる交通事故を防止するという目的は,乗務距離規制以外の規制等によって対応され,その結果,札幌交通圏の事故件数は,平成18年度以降減少傾向になった。そうすると,乗務距離規制以外の規制によって規制目的が一定程度達成できている状況であったのであるから,さらに乗務距離規制を導入する理由や必要性はなかったというべきである。 この点,被告は,札幌交通圏の重大事故件数のみを取り出してこれらが増加傾向にあるとして,交通事故の重大化が懸念される旨主張する。しかし,重大事故自体,交通事故件数全体に占める割合は非常に低く,札幌交通圏の交通状況とは関係なく偶然に増加しているにすぎない。また,交通事故が突発的に起こる性質のものであることからすれば,重大事故か否かは結果論的な評価でしかなく,事故防止を目的とする規制の必要性の議論においては,全体の事故件数に着目すべきなのであって,被告の主張は失当である。 イ規則22条が法27条1項の委任の範囲を超えていること(ア) 法27条1項は輸送の安全及び旅客の利便の確保のために必要な事項を定めることを国土交通省令に委任しているところ,規則22条は,この委任を受けて制定されたものである。したがって,規則22条が定めることができるのは,輸送の安全及び旅 の利便の確保のために必要な事項を定めることを国土交通省令に委任しているところ,規則22条は,この委任を受けて制定されたものである。したがって,規則22条が定めることができるのは,輸送の安全及び旅客の利便の確保のために必要な事項に限られる。また,法1条が輸送の安全を確保し,道路運送の利用者の利益の保護及びその利便の増進を図ることを目的と定め,法27条1項が輸送の安全及び旅客の利便の確保のための必要な事項を定めることを国土交通省令に委任していることからすれば,規則は,輸送の安全に資する事項であっても,利用者の利便を不当に制限する定めをすることはできないことになる。 一般に,長距離利用の乗客は,運賃や接客等のサービス内容を比較した上で,タクシー業者を選択,利用することが多い。また,原告のような無線予約と専用乗り場での乗車を中心とするタクシー事業者(以下「予約営業等中心の業者」という。)の利用者の多くは,運賃や接客等のサービス内容を比較した上で,当該予約営業等中心の業者を選択,利用している。したがって,予約営業等中心の業者は,流し営業中心の業者と比較して,長距離利用の乗客の割合が高くなる。 乗務距離規制は,出庫から帰庫までの乗務距離の最高限度を定めるも のであるから,予約営業等中心の業者の営業車において,出庫後まもなく長距離乗車が重なるなどした場合,すぐに乗務距離が最高限度に近づいてしまう。そのため,当該営業車の運転者としては,労働時間内にもかかわらず,それ以降長距離の乗車を受け付けることが難しくなる。そうすると,当該予約営業等中心の業者を選択して乗車しようとする利用者は,その選択に従った乗車ができなくなるから,当該利用者の利便は損なわれることとなる。 このように,規則22条による乗務距離規制は,利用者の利便という目的を の業者を選択して乗車しようとする利用者は,その選択に従った乗車ができなくなるから,当該利用者の利便は損なわれることとなる。 このように,規則22条による乗務距離規制は,利用者の利便という目的を明らかに阻害するものである。 (イ) また,本件公示による規制がなされると,営業車の運転者は,最高限度の乗務距離を超過しないよう,乗務中,都度出庫からの乗務距離を確認しなければならなくなる。この場合,単に出庫からの走行距離を確認していれば足りるものではなく,高速道路を利用した場合にはその距離は加算されないから(本件公示3(1)),その距離を全体の乗務距離から差し引かなければならない。そうすると,運転者は,残りどれだけの距離を走行できるかを把握するために,乗務中,頻繁かつ複雑な残りの乗務距離の計算及び確認を強いられるのであって,乗務中の運転者にかかる負担,ストレスは格段に大きくなる。現に,原告の実施した運転者に対するアンケート結果によれば,乗務距離の確認に非常にストレスを感じるとか,運転以外のことに気をとられ注意散漫になり事故の確率が高くなると思うとか,メーターを見る頻度が増えるので集中できず危険である等の意見が寄せられるなど,運転者には,乗務距離規制による相当のストレスが生じ,その結果輸送の安全を阻害する結果が生じている。 (ウ) このように,規則22条による乗務距離規制は,利用者の利便を阻害するとともに,逆に輸送の安全を阻害させるものであることから,法27条1項の委任の趣旨に反し,又は委任の範囲を超えるものであって,無効である。したがって,規則22条に基づく本件公示もまた無効である。 ウ札幌交通圏を指定したことが違法であること(ア) 札幌交通圏における最高速度違反件数及び行政処分件数は札幌交通圏の実態を反映していない がって,規則22条に基づく本件公示もまた無効である。 ウ札幌交通圏を指定したことが違法であること(ア) 札幌交通圏における最高速度違反件数及び行政処分件数は札幌交通圏の実態を反映していない被告は,札幌交通圏における,最高速度違反件数にかかる道交法108条の34に基づく公安委員会による行政庁への通知件数及び最高速度違反を理由とする法40条の不利益処分の件数が増加傾向にあるから,最高速度違反を防止するために乗務距離制限を定めることは合理的であると主張する。 しかし,それらの件数が札幌交通圏における各年度の延実働車両数や輸送回数に占める割合は微少であって,札幌交通圏の交通状況とは無関係に増減しているにすぎない。 (イ) 札幌交通圏を地域指定する必要がない被告は,流し営業中心の地域において,運転者が歩合制賃金を背景として無理に営業収入増を計るため,乗務距離を稼ごうとするあまり過労運転や最高速度違反が生じやすいとの考えを前提に,札幌交通圏において流し営業比率が高いこと,タクシー車両の供給過剰傾向があること及びタクシー事業者の営業収入が低下傾向にあることを理由に,札幌交通圏を地域指定する必要性がある旨主張するようである。 しかしながら,被告のいう前提があるとすれば,本件公示がなされる直前には,運転者が乗務距離を稼ごうとしたことによって総走行距離が増加傾向にあったことになるが,データ上,そのような状況にはなかった。また,最高速度違反は札幌交通圏における交通状況に関係なく発生しているし,本件公示のなされた平成21年時点において,交通事故率は減少傾向にあった。そうすると,被告が前提とする考え自体,憶測に すぎず,札幌交通圏においてタクシー運転者の疲労や危険運転に起因する事故が多発している状況にあるとはいえないのであるから は減少傾向にあった。そうすると,被告が前提とする考え自体,憶測に すぎず,札幌交通圏においてタクシー運転者の疲労や危険運転に起因する事故が多発している状況にあるとはいえないのであるから,札幌交通圏を地域指定する必要があるとはいえない。 また,被告は,実働1日1車当たりの営業収入が低下傾向にあることや運送収入の低下によるタクシー事業者の収益基盤悪化状況が顕著である旨指摘するが,そのために乗務距離規制が必要であるとすれば,結局乗務距離規制は,事業者の営業収入の確保を目的とした規制となり,本来の事故防止の目的を大きく逸脱する。 (ウ) 札幌交通圏を指定するに当たり処分行政庁のした分析検討が極めて不合理であるa 平成21年8月4日付け事務連絡において,各地方運輸局に対し,乗務距離規制の指定地域拡大についての検討方針が出され,運行記録計の義務付け地域であって乗務距離規制の最高限度が設定されていない地域について,必要な指標を得るための調査を進めるよう指示が出された。このような検討方針は,乗務距離規制の目的が,乗務距離を稼ごうとするあまりに生じる過労運転や速度違反による危険運転を防止し,輸送安全を確保することにあることから,各地方運輸局に対し,そのような危険な状態が当該地域において発生しているかについて調べさせるためのものである。乗務距離規制が,乗務距離を基軸としている以上,そのような分析検討に当たっては,乗務距離が与える危険運転の因果性に関する分析検討が必要となるはずである。しかし,被告が速度違反と乗務距離との関係について相関関係性を直接的に示すデータはないと自認するとおり,そのような分析検討は行われていない。 b また,前述のとおり,札幌交通圏におけるタクシー事故は明らかな減少傾向にあるのにもかかわらず,さら 相関関係性を直接的に示すデータはないと自認するとおり,そのような分析検討は行われていない。 b また,前述のとおり,札幌交通圏におけるタクシー事故は明らかな減少傾向にあるのにもかかわらず,さらに新たな規制として乗務距離規制を要する事情について,具体的な分析検討はなされていない。 c 被告は,乗務距離と最大拘束時間の超過,休憩時間の取得状況及び最高速度制限違反等との間には,一定の相関関係が認められること,同じ労働時間であれば,乗務距離が長ければ長いほど走行速度は速くなることを根拠に,乗務距離規制の合理性を主張する。 しかしながら,具体的な道路状況等,すなわち,高速道路か一般道か,道路が渋滞しているか否か,道路の広狭,実車か空車か等を度外視して,乗務距離と労働時間規制の遵守,最高速度制限違反等の関係を論じることはできないはずである。また,原告のように,予約・専用乗り場乗車中心の業者は,実車率が高く高速走行の距離も長くなるから,労働時間,最高速度規制を遵守しても,乗務距離が長くなる。 本件公示は,このような札幌交通圏の状況を度外視して地域指定したものであって,労働時間規制に加えて距離制限を加える必要性については検討されていない。 (エ) 札幌交通圏が運行記録計の装着義務付け地域であることを理由として地域指定したことは不当であること被告は,運行記録計の義務付けと,乗務距離の最高限度規制とは,流し営業が主に行われている地域の輸送の安全を確保するという共通の目的を有しているところ,両規制を一体的に適用することが目的達成のために必要かつ合理的である旨主張する。 しかしながら,指定地域が重複するに至った経緯や理由は現在では当てはまらないこと,運行記録計の装着義務付け地域に指定された地域がタクシーによる事故防止を目的とす に必要かつ合理的である旨主張する。 しかしながら,指定地域が重複するに至った経緯や理由は現在では当てはまらないこと,運行記録計の装着義務付け地域に指定された地域がタクシーによる事故防止を目的とする乗務距離規制を必要とする地域とは限らないこと,乗務距離規制は運行記録計の装着に比べてより重大で制約の大きい規制であること,運行記録の装着義務付け地域まで規則22条の指定地域を拡大することについて被告は何ら説明できていないことからすれば,処分行政庁は,運行記録計の装着義務と規制目的が根本的に異なる上,その規制の程度も著しく大きいため,同時点における状況を把握した上でその必要性につき慎重な検討をすべきであったのに,曖昧な検討のみで,運行記録計の装着義務付け地域を乗務距離制限の指定地域とする方針ありきで本件公示をしたものであって,不当である。 エ札幌交通圏における乗務距離の最高限度の算定方法が不適当であり,違憲・違法であること(ア) 前提として行われた実態調査が不適切不十分である本件公示の最高限度距離を算定する前提として実態調査が行われたが,当該実態調査は,平成21年8月5日,同月7日,同月9日の3日間,事業者12社について日勤,隔勤別に実施された。各事業者における調査対象車両は1社1日5両であり,その内訳は日勤者2名及び隔勤者3名,隔勤がいない場合は昼勤者2名,夜勤者3名であった。 各事業者の事業形態の相違や,当該車両の運行状況などによって,実態調査の結果は大きく変わりうるから,一部事業者のごく少数の車両に対して行われた短期間の調査結果によって乗務距離の最高限度を算出すれば,事業者や車両の選定如何によってその結論が大きく左右されることとなり,妥当でない。本件につき,札幌交通圏で行われた実態調査について検討 われた短期間の調査結果によって乗務距離の最高限度を算出すれば,事業者や車両の選定如何によってその結論が大きく左右されることとなり,妥当でない。本件につき,札幌交通圏で行われた実態調査について検討すると,調査対象事業者の選定基準自体何ら明らかにされていないから,その選定は不透明なものといわざるを得ない上,調査対象車両数は,1日当たり,隔日勤務運転者車両22両,日勤勤務運転者車両38両の合計60両であって,平成21年9月30日現在の法人タクシーの車両数5296両の約1.1%にすぎない。また,調査対象期間も3日と短期間である。したがって,当該実態調査は,不十分,不適切ものであったといわざるを得ない。 この点につき,被告は,調査対象事業者の12社は当時のタクシー事業者総数の約5分の1に相当する,調査対象事業者の保有車両1317両のうち60両(約4.6%)を調査対象としたのであるから,サンプル数は決して少なくないなどと主張する。しかしながら,被告は,交通圏全体の約1.1%の車両の調査でも交通圏全体の実態を把握するために適切かつ十分であったことを主張すべきであって,前記主張だけでは意味がない。また,被告は,調査日数について,調査対象事業者の負担を考慮すれば3日間の調査期間は合理的である旨主張するが,交通圏の実態を正確に把握するために必要であれば,十分な期間を取った上で調査すべきなのであって,当該主張は失当である。 (イ) 乗務距離の最高限度の算定の基礎とされた時間について被告は,実態調査の結果,休憩時間ないし客待ち時間については,事業者ごとに差異があるところ,一般のタクシー事業者においては,合計3時間は要するものと判断して,最大拘束時間である21時間から3時間を減じた18時間を実走行可能時間としたとする。 しかしながら,各 業者ごとに差異があるところ,一般のタクシー事業者においては,合計3時間は要するものと判断して,最大拘束時間である21時間から3時間を減じた18時間を実走行可能時間としたとする。 しかしながら,各地域で実施された実態調査によれば,実走行時間の最大値は,札幌交通圏で19.5時間,苫小牧市で19時間,釧路市で19.35時間,帯広市18.75時間と,道内9地域のうち4地域において18時間を超えている。被告は,このように18時間を超える実走行時間が記録された意味や理由を検証することなく,漫然と実走行時間を18時間と定めたにすぎないのであって,何ら合理的な根拠に基づくものではない。 (ウ) 乗務距離の最高限度の算定の基礎とされた速度についてa 調査対象事業者の平均走行速度を最高乗務距離の算定基礎とするのは不当であること被告は,道路の表定速度29.95km/時間と実態調査の平均速度18.51km/時間との乖離率は61.8%であり,最高乗務距離指定対象地域全域の平均乖離率47.21%より乖離率の数値が大きかった,すなわち乖離の度合いが小さかったため調整を行わず,実態調査により得られた事業者平均の18.51km/時間を最高限度の算定基礎としたとする。 しかしながら,平均走行速度は,道路交通法を遵守した場合に最大限可能な速度とされるべきであって,事業者平均の速度とすべきではない。なぜなら,乗務距離規制は,その規制が営業の自由に対する直接的で制約の度合いの強いものであるため,当該距離を超過して運転すると交通事故が生じる相当大きな可能性が生じるという数値が設定されるべきであるからである。平成14年当時,関東運輸局が1乗務当たり最大どのくらい走行することが可能かという視点により具体的な乗務距離を設定すべきとしていたことからも,この じるという数値が設定されるべきであるからである。平成14年当時,関東運輸局が1乗務当たり最大どのくらい走行することが可能かという視点により具体的な乗務距離を設定すべきとしていたことからも,このことは裏付けられる。実態調査により得られた平均運行速度を基準速度として定めてしまうと,調査対象事業者の平均的運行状況を超えることを理由に,一律横並びで営業制限が行われることとなり,過度に制限的な規定となり妥当ではない。 被告は,調査対象事業者の平均運行速度を採用した理由について,乗務距離規制の直接の目的は過労運転,最高速度違反,交通事故の各防止を含む適切な運行管理にある,最高速度違反通知件数によれば,平均運行速度を上回る速度で運行する場合には,不適切な運行を招来する可能性が高くなると考えられ,平均運行速度を上回る速度を用いた場合,不適切な運行を助長し適切な運行管理を図ることができないなどと説明する。しかしながら,なぜ18.51km/時間程度の速度を上回った速度でタクシーが走行すると,速度違反のみならず他の一般自動車を追い抜いたり,急発進,急停車,無理な車線変更等の不適切な運行を招来する可能性が高くなるのか,全く明らかではない。道路交通センサスによれば,札幌市や札幌交通圏の混雑時平均旅行速度はいずれも18.51km/時間を上回っているから,被告の主張によれば,これら地域では不適切運行が多発していることとなるが,これは実態に反し不合理であるといわざるを得ない。 また,被告は道路交通センサスの平均速度はタクシー以外の車両運行分も含んでいるから,タクシー事業者の平均運行速度と比較しても無意味であると主張するが,処分行政庁が依拠する本省事務連絡によれば,平均運行速度の算定に当たっては,道路交通センサス等適当な数値を用いるとされてい るから,タクシー事業者の平均運行速度と比較しても無意味であると主張するが,処分行政庁が依拠する本省事務連絡によれば,平均運行速度の算定に当たっては,道路交通センサス等適当な数値を用いるとされているのであって,被告の当該主張は当たらない。 さらに,被告は,乗務距離最高限度規制は地域内の全事業者を対象とするものであることを理由に,平均運行速度を前提とした平均的走行可能距離を基準とすることに合理性がある旨主張するが,論理必然の関係はない。 加えて,平均18.51km/時間という速度による運行が速度違反などの違法な運行を含むとはいえない。なぜなら,実態調査により得られた事業者別の平均速度は,13.18km/時間から33.16km/時間までと広範にわたっており,実態調査における1運行ごとの平均運行速度も,隔日勤務運転者においては8.18km/時間から46.86km/時間,日勤勤務運転者は8.88km/時間から36.04km/時間まで大きな乖離がある。このように,事業者や運行ごとに乖離があるということは,算出が適正でないか,適正であるとしても具体的な事業形態,運行状況において特段速度違反等危険運行を行わずとも平均運行速度には乖離が生じうるものが明らかであるから,その平均値を取るという手法自体合理的ではない。 さらにいえば,混雑時の札幌交通圏の平均旅行速度は29.95km/時間,混雑時の札幌市の平均旅行速度は24.02km/時間である。混雑時平均旅行速度とは,調査区間においてラッシュ時間帯に交通量が多い方向に調査車を走行させて区間平均速度を算出したものであるところ,ラッシュ時間帯以外に混雑していない道路を走行することも多数あるから,速度違反を行わずに最大限走行可能な最高乗務距離を算出するに当たって,29.95km/時間を 均速度を算出したものであるところ,ラッシュ時間帯以外に混雑していない道路を走行することも多数あるから,速度違反を行わずに最大限走行可能な最高乗務距離を算出するに当たって,29.95km/時間を下回る速度を算定基礎とする合理的理由は何ら存在しない。仮に29.95km/時間を採用して,可能実走行時間18時間を乗じると,隔日勤務運転者の最高乗務距離は約540km,札幌市の24. 02km/時間でも約440kmとなり,370kmを上限と定める本件公示が営業の自由を不当に制限していることとなるのは明らかである。370kmを,18時間で除すると,20.55km/時間が平均速度となるが,18時間を平均20.55km/時間という速度で走行するだけで乗務距離の最高限度規制に抵触する結果となり,明らかに不当である。札幌の渋滞道路における平均の運行速度は24.02km/時間であるから,この速度で18時間走行すれば432.36kmを走行できるのにもかかわらず,本件公示により370kmを超える営業走行を制限されてしまうことになる。 これは,危険性のない運行を不当に制限することとなり,妥当でない。 その上,処分行政庁の平均運行速度の算定方法は,原告のビジネスモデル特性を無視したものであって,妥当でない。すなわち,原告は,無線配車専用乗り場比率が他の事業者平均より顕著に高く,空車状態で乗客を捜しながら運行することは少ないのであって,原告の営業車両の平均速度はその分速くなることは明らかである。このことからすれば,原告のような事業者は,違法な労働又は走行時間によらずに長い距離が走行できるのに,平均事業者の走行時間を超えて走行することが禁じられることとなり,安全性に問題のない走行が禁じられることとなるから,不当である。 b 平均運行速度算出の基礎と 間によらずに長い距離が走行できるのに,平均事業者の走行時間を超えて走行することが禁じられることとなり,安全性に問題のない走行が禁じられることとなるから,不当である。 b 平均運行速度算出の基礎とされた実態調査における走行時間は,客待ち時間及び客扱い時間が差し引きされておらず,結果として実態に比して遅い速度が算定されていること最高乗務距離の基礎とされた平均運行速度は,走行キロ数÷運転可能時間により算出された。運転可能時間の算出にあたって,総稼働時間から差し引かれたのは休憩時間のみであった。しかし,平均速度の前提とされる運行可能時間は,タクシーが実際に動いている時間であって,停止している客待ちや客扱い時間は差し引かれるべきである。このことは,処分行政庁自身,デジタル式運行記録計を装着している場合には,走行時間(実際に車が動いている時間)を運転可能時間としていることからも明らかである。また,他の運輸局では,総稼働時間から休憩時間のほか,客待ち時間及び客扱い時間を差し引いて運転時間を算出していたのであるから,処分行政庁だけが異なる取扱いをする理由はない。その結果,運転可能時間が長く算出され,平均運行速度が不当に遅く算出されている。 c デジタル式運行記録計装着事業者の平均運行速度の数値を前提とすると本件公示の距離制限は不当に走行可能距離を制限していること デジタル式運行記録計装着事業者の平均運行速度の数値は比較的正確であると思われるところ,札幌市の実態調査においてデジタル式運行記録計を装着している事業者5社の平均運行速度は,21. 82km/時間である。21.82km/時間に,被告の前提とする可能実走行時間18時間を乗ずると,走行可能距離は392.76kmとなるから,本件公示による隔日勤務運転者の最大走行可能距離 ,21. 82km/時間である。21.82km/時間に,被告の前提とする可能実走行時間18時間を乗ずると,走行可能距離は392.76kmとなるから,本件公示による隔日勤務運転者の最大走行可能距離370km及びそれを元に計算された日勤勤務運転者の最大走行可能距離280kmは,過度の制約であるといわざるを得ない。 d 最高乗務距離の決定に当たり対象交通圏全域の平均値を採用したことが不当であること処分行政庁は最高乗務距離制定に当たり,北海道全9地域の各最高乗務距離の平均値を採用し,被告はその理由として,各地域の公平性の確保,先行して乗務距離の最高限度を設定した他の地方運輸局の実例を挙げる。 しかしながら,北海道の各地域は交通圏による交通状況も全く異なるし,他の地方運輸局と比較して相当広範囲であって,他の地方運輸局の実例は理由とならない。また,各地域間において頻繁に行き来がなされていると認められる状況にもないので,北海道運輸局管内というだけで地域間の公平を図るべき合理的理由はない。最高乗務距離の決定に当たり対象交通圏全域の平均値が採用されたことにより,北見市など一部の地域にとっては制限的な規制となった一方,札幌交通圏など一部地域にとっては緩和されたこととなる。 e 乖離率により平均速度を補正したのは実態調査の方法に問題があったからであること処分行政庁は,実態調査の結果得た平均速度と道路交通センサスにおける表定速度を比較し,両者の乖離率が乖離率の平均値を下回る地域については,乖離率の平均値を乗ずる方法により平均速度を算出した。被告は,道路交通センサスにおける速度はタクシー以外の車両分も含んでいるから,その速度と実態調査の結果の速度を比較しても意味がないとする一方で,道路交通センサスにおける速度との乖離率を基に速度を 。被告は,道路交通センサスにおける速度はタクシー以外の車両分も含んでいるから,その速度と実態調査の結果の速度を比較しても意味がないとする一方で,道路交通センサスにおける速度との乖離率を基に速度を補正すべき旨主張しており,被告の主張は矛盾しているといわざるを得ない。 そもそも,実態調査が交通圏におけるタクシーの実態を正確に表しているのであれば,仮に道路交通センサスとの間に乖離があっても補正・調整する必要はないはずである。 6つもの地域における速度を補正せざるを得なかったということは,まさに処分行政庁が行った実態調査が交通圏のタクシー走行実態を正確に反映していなかったことの証左である。被告は,平均運行速度を上回ると不適切な運行を招来する可能性が高くなるとするが,その平均速度を6つの地域で引き上げているのであるから,被告の主張は破綻している。 第3 当裁判所の判断 1 本案前の争点について(1) 本件公示が行訴法3条2項にいう「処分」に該当するか否か(処分性の有無)についてア抗告訴訟の対象となる「処分」(行訴法3条2項)とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為により,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められるものをいう(最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照)。したがって,行政庁の行う行為のうち,特定の名宛人のない行為が「処分」に当たるか否かは,当該行為が特定の者に具体的な法的効果を発生させるか否かを解釈してこれを判断すべ きである。 本件公示についてみると,その内容は,札幌交通圏内に営業所を有する一般乗用旅客自動車運送事業者(以下,一般乗用旅客自動車運送事業者を「タクシー事業者」という。)に対し,当  きである。 本件公示についてみると,その内容は,札幌交通圏内に営業所を有する一般乗用旅客自動車運送事業者(以下,一般乗用旅客自動車運送事業者を「タクシー事業者」という。)に対し,当該営業所に属する運転者を乗務距離の最高限度として定めた距離(隔日勤務運転者については1乗務当たり370km,日勤勤務運転者については1乗務当たり280km)を超えて乗務させてはならないというものであるから,本件公示は,札幌交通圏内に営業所を有するタクシー事業者全般に広く適用されるものであるといえる。そして,これら札幌交通圏内に営業所を有するタクシー事業者は,多数に上るばかりか,新規参入や撤退等によって常に変動しうる。 そうすると,本件公示は,札幌交通圏内に営業所を有するタクシー事業者という不特定多数の者に適用されるものであって,特定の者に対して具体的な法的効果を生じさせるものではないから,処分に当たらないというべきである。 したがって,本件公示が行訴法3条2項にいう「処分」であることを前提としてその取消しを求める原告の主位的請求(1)に係る訴えは,不適法なものとして却下を免れない。 イこの点について,原告は,本件公示は,指定地域である札幌交通圏で営業を行うタクシー事業者という限定された者(特に,その中でもこれまでの走行実績からして乗務距離の最高限度を超過するおそれのある限られた事業者)に対し,乗務距離の最高限度を超えて運転者を事業用自動車に乗務させてはならないという具体的な義務を直接課すものであり,「処分」に当たるとか,本件公示を「処分」としなければ,本件公示の違法性を争う原告の救済の点からも不合理であるなどと主張する。 確かに,本件公示は,札幌交通圏内に営業所を有するタクシー事業者に対し,乗務距離の最高限度を超えて運転者を事業用自 なければ,本件公示の違法性を争う原告の救済の点からも不合理であるなどと主張する。 確かに,本件公示は,札幌交通圏内に営業所を有するタクシー事業者に対し,乗務距離の最高限度を超えて運転者を事業用自動車に乗務させてはならないという義務を課すものではあるが,前記のとおり,これは,当該地域内の現在及び将来のタクシー事業者全てに対してもたらされる一般的抽象的効果にすぎず,個々のタクシー事業者との関係では,本件公示による乗務距離の最高限度を超えて運転者を事業用自動車に乗務させた事業者に対し,法40条に基づく不利益処分がなされた場合に,初めて具体的な権利義務関係に変動させることになるのであるから,この点についての原告の主張は失当である。また,本件公示の違法性を争うタクシー事業者としては,法40条に基づく不利益処分の取消訴訟のほか,後記のとおり,当事者訴訟(行訴法4条)として争うことも可能であるから,タクシー事業者の権利救済という点から本件公示に処分性を認めるべき旨の原告の主張も理由がない。 (2) 本件公示に違反したことを理由とする法40条の不利益処分が原告に対し「されようとしている場合」(行訴法3条7項)に当たるか否かについて行訴法3条7項による処分差止めの訴えは,行政庁により一定の処分がされようとしている場合に提起が認められるものであるが,同訴えが行政庁の第1次的な判断権を奪うという重大な効果を有することに照らせば,同項にいう処分が「されようとしている場合」とは,単に処分がされるということについて主観的なおそれがあるだけでは足りず,客観的にみて相当程度の蓋然性があることを要すると解すべきである。 ところで,本件公示に違反した場合,処分基準に従って当該違反をしたタクシー事業者に対する処分が行われることとされている。そして,処 客観的にみて相当程度の蓋然性があることを要すると解すべきである。 ところで,本件公示に違反した場合,処分基準に従って当該違反をしたタクシー事業者に対する処分が行われることとされている。そして,処分内容は未遵守率によって異なるが,初違反の場合は警告ないし30日車の自動車等使用停止処分,再違反の場合は20日車ないし90日車の自動車等停止処分とされているところ(甲4),原告のような,札幌交通圏が特別監視地域に指定された後営業許可を受けたタクシー事業者については,初違反であっても警告ではなく,未遵守率によって,15日車ないし105日車の自動車等使用停止処分といった加重された処分がされることとされている(甲3)。また,自動車等使用停止処分を行うべき違反行為を行ったタクシー事業者に対しては,処分日車数10日車までごとに1点の違反点数を付す制度がとられ,その累積点数が一定以上になった場合には,事業停止処分や営業許可取消等処分を行うこととされている(甲3)。 これらのことに加え,原告においては,少なくとも,平成21年11月1日から平成22年4月12日までの間に6件,本件公示に違反した例が見られる(甲5)ものの,これら違反行為に対する法40条に基づく不利益処分は現在に至るまで課されておらず,処分基準等によっても違反行為から一定期間を経過した場合には当該違反行為に対する処分は行わない旨の定めは設けられていないこと(弁論の全趣旨)からすれば,原告に対しては,北海道運輸局長により,本件乗務距離規制違反を理由として,法40条に基づく自動車等使用停止処分がされる蓋然性がある(ただし,原告に対する自動車等使用停止処分がなされていない現時点においては,自動車等使用停止処分に基づく累積点数を前提とする事業停止処分や許可取消処分がされる蓋然性があると 分がされる蓋然性がある(ただし,原告に対する自動車等使用停止処分がなされていない現時点においては,自動車等使用停止処分に基づく累積点数を前提とする事業停止処分や許可取消処分がされる蓋然性があるとまではいえない。)というべきであるから,法40条に基づく不利益処分が原告に対し「されようとしている場合」であるといえる。 (3) 法40条の不利益処分がなされることにより原告に「重大な損害が生じるおそれ」があるか否か(行訴法37条の4第1項本文)について「重大な損害が生じるおそれ」があるか否かの判断に当たっては,損害の回復の困難の程度を考慮するものとし,損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとされている(行訴法37条の4第2項)。 そして,「重大な損害が生じるおそれ」があると認められるためには,処分がされることにより生ずるおそれのある損害が,処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく,処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要すると解するのが相当である(最高裁平成23年(行ツ)第177号,同第178号,同年(行ヒ)第182号同24年2月9日第一小法廷判決・民集66巻2号183頁)。 これを本件についてみると,確かに,原告に対しては,本件公示違反を理由として,15日車ないし105日車の自動車等使用停止処分がなされるおそれがあるというのである(前記(2)のとおり,事業停止処分や営業許可取消等処分がなされるおそれがあるとは認められない。)。しかし,最も重い105日車の自動車等使用停止処分がなされた場合,確かに,原告の運送収入が減少することが予測されるものの,原告の経営規模やこれまでの実績 分がなされるおそれがあるとは認められない。)。しかし,最も重い105日車の自動車等使用停止処分がなされた場合,確かに,原告の運送収入が減少することが予測されるものの,原告の経営規模やこれまでの実績(甲20,弁論の全趣旨)に照らせば,当該運送収入の減少が原告のその後の営業継続に重大な影響を及ぼすとまでは容易に想定できないのであって,当該運送収入の減少について金銭賠償によって損害の回復を図ることが不相当であるとまではいえない。 また,原告は,自動車等使用停止処分を受ければ,利用者からの配車依頼に十分対応できなくなったり,当該処分が公表されたりすることによって,原告に対する信用が毀損され,その信用の回復は非常に困難である旨主張する。確かに,原告は予約や専用乗り場からの乗車を主とする営業形態をとっているところ(甲19,27),この営業形態は特に顧客からの信頼に基礎を置くものであり,自動車等使用停止処分を受ければ配車可能台数が減り配車に遅れ等が生じるおそれがあること,自動車等使用停止処分以上の行政処分を受けたタクシー事業者について,その事実がホームページ上で3年間にわたり公表されることとされており(甲14),自動車等使用停止処分を受ければその公表によって原告の信用が低下するおそれがあることは認められる。 しかしながら,自動車等使用停止処分によって使用停止を余儀なくされるのは,原告の事業用自動車のごく一部にとどまること(甲20,乙4)及び処分期間がそれほど長期に及ぶとは認められないこと(乙4)などに照らせば,原告の当該営業所の事業用自動車数(甲20)からして,その全てが予約配車に用いられているとは想定できず,処分期間中も配車のやりくりで相当程度の不利益は回避可能であると考えられるから,自動車等使用停止処分によって直ちに顧客からの 数(甲20)からして,その全てが予約配車に用いられているとは想定できず,処分期間中も配車のやりくりで相当程度の不利益は回避可能であると考えられるから,自動車等使用停止処分によって直ちに顧客からの信頼が失われるとは考えがたい。また,自動車等使用停止処分の取消訴訟等において,原告の請求が認容され,当該処分の違法性が明らかとなれば,その結果が報道されること等により,原告の信用も相当程度回復することが予想され,なお回復できない損害については金銭賠償によることは可能であって,これによることが社会通念上不相当であると認めるに足る事情はない。 したがって,原告が法40条の不利益処分として自動車等使用停止処分を受けたとしても,当該処分による損害は,当該処分後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどによって救済を受けることができるものというべきであるから,「重大な損害が生じるおそれ」があるとはいえない。 (4) 以上,(2)(3)の検討によれば,原告の訴えのうち,規則22条1項違反を理由になされる事業停止処分及び営業許可取消等処分の差止めを求める部分については,処分が「されようとしている場合」との要件を,自動車等使用停止処分の差止めを求める部分については,処分により「重大な損害が生じるおそれ」があることとの要件を,それぞれ欠いている。したがって,原告の訴えのうち,法40条の不利益処分の差止めを求める請求に係る訴えは,不適法なものとして却下を免れない。 (5) 予備的請求の確認の利益(即時確定の利益)の有無について本件公示の違法性を争うには,法40条の不利益処分を受けた上で,その処分の抗告訴訟を提起することも可能であるが,前記のように,本件公示によって日々営業の自由の制約を受けていることが明らかな場合に,そのような不利益処分がなけれ 法40条の不利益処分を受けた上で,その処分の抗告訴訟を提起することも可能であるが,前記のように,本件公示によって日々営業の自由の制約を受けていることが明らかな場合に,そのような不利益処分がなければ本件公示の違法性を争うことができないとするのは,事業者の早期救済という観点からみて妥当でない。 本件公示により,原告は,運転者に当該乗務距離制限内でしか乗務をさせることができなくなっており,日々営業の自由の制約を受けているといえる。 本件公示に処分性がなく,本件公示の取消訴訟が不適法であるとされる以上(前記(1)),本件公示の違法性を争うために,乗務距離を超えて乗務させることができる地位にあることの確認を求めるという確認の訴えは,本件公示に関する法的な紛争を解決するのに,有効かつ適切な手段であるといえる。 2 本案の争点(本件公示の違法性の有無)について(1) 規則22条が憲法22条に反するか否かについてア判断基準憲法22条1項は,職業選択の自由のみならず,職業活動の自由の保障をも包含しているものと解される。 もっとも,職業は,本質的に社会的な,しかも主として経済的な活動であって,その性質上,社会的相互関連性が大きいものであるから,職業の自由は,それ以外の憲法の保障する自由,殊にいわゆる精神的自由に比較して,公権力による規制の要請が強いものである。憲法22条1項が「公共の福祉に反しない限り」という留保のもとに職業選択の自由を認めたのも,特にこの点を強調する趣旨に出たものと考えられる。このように,職業は,それ自身の内に何らかの制約の必要性が内在する社会的活動であるが,その種類,性質,内容,社会的意義及び影響がきわめて多種多様であるため,その規制を要求する社会的理由ないし目的も,国民経済の円満な発展や社会公共の便宜の促 制約の必要性が内在する社会的活動であるが,その種類,性質,内容,社会的意義及び影響がきわめて多種多様であるため,その規制を要求する社会的理由ないし目的も,国民経済の円満な発展や社会公共の便宜の促進,経済的弱者の保護等の社会政策及び経済政策上の積極的なものから,社会生活における安全の保障や秩序の維持等の消極的なものに至るまで千差万別で,その重要性も区々にわたるのである。 そしてこれらの目的に対応して,現実に職業の自由に対して加えられる制限も,あるいは特定の職業につき私人による遂行を一切禁止してこれを国家又は公共団体の専業とし,あるいは一定の条件をみたした者にのみこれを認め,更に,場合によっては,進んでそれらの者に職業の継続,遂行の義務を課し,あるいは職業の開始,継続,廃止の自由を認めながらその遂行の方法又は態様について規制する等,それぞれの事情に応じて各種各様の形をとることとなるのである。それ故,これらの規制措置が憲法22条1項にいう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは,これを一律に論ずることができず,具体的な規制措置について,規制の目的,必要性,内容,これによって制限される職業の自由の性質,内容及び制限の程度を検討し,これらを比較考量したうえで慎重に決定されなければならない。そして,この判断を行うのは第一次的には立法機関(立法府の制定した法律により行政立法の権能の委任を受けた行政機関も含む。)であるから,裁判所が当該立法機関の判断の憲法22条1項への適合性を審査するに当たっては,まず,規制の目的が公共の福祉に合致するものか否かを検討し,次に,規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められた場合には,そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については,上記立法機関の判断がその合理的裁量の範囲 に合致するものか否かを検討し,次に,規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められた場合には,そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については,上記立法機関の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り,立法政策上の問題としてこれを尊重すべきである。もっとも,前記合理的裁量の範囲については,事の性質上おのずから広狭がありうるのであって,裁判所は,具体的な規制の目的,対象,方法等の性質と内容に照らして,これを決すべきものといわなければならない(最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照)。 イ本件についての検討(ア) 規則22条の制定に至る経緯について,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 a 昭和33年の最高限度規制導入の経緯昭和33年1月に発生したタクシーによる死亡事故を受けて,タクシーの乱暴運転や無謀運転が「神風タクシー」として大きな社会問題となり,タクシー業界の経営姿勢や行政当局の指導監督のあり方に強い批判が向けられ,国会において「神風タクシー」の問題が取り上げられることとなった(乙32ないし36)。 昭和33年3月25日,参議院運輸委員会交通事故防止に関する小委員会において,当時の警察庁警備部長は,タクシーによる交通事故の原因について,大幅な累進制の歩合制である給与体系とノルマの設定により,運転者が相当の距離を走って水揚げを稼がなければ生活ができないことにある旨答弁し,当時の警視庁交通部長は,昭和32年に発生した自動車によって起こされた交通事故の21%をハイヤー・タクシーによる事故が占めていること,事故原因は速度違反が一番多く29.7%に上ること,ハイヤー・タクシーの速度違反の占める率が他の自動車に比較して非常に高い状況 された交通事故の21%をハイヤー・タクシーによる事故が占めていること,事故原因は速度違反が一番多く29.7%に上ること,ハイヤー・タクシーの速度違反の占める率が他の自動車に比較して非常に高い状況にあること,優先交通権無視や徐行不履行といった速度に関係した違反も他の自動車に比較してはるかに高い比率であること,交通法規違反についても,車の台数にすると全ハイヤー・タクシーの820%が違反を犯しており,その中でも無謀操縦が最も多く,ハイヤー・タクシーによる交通違反のうち34.1%が無謀操縦であること,一線からすると,ハイヤー・タクシーによる交通事故,交通違反については,会社が非常に高い走行距離あるいは水揚げを示して稼ぎ本位となり,その結果運転者がスピードを上げるというようなことが感じられることを答弁した(乙47)。 内閣の交通事故防止対策本部は,昭和33年4月1日,タクシー運転者の雇用条件等に関する8項目からなる「タクシー事故防止対策要綱」を決定し,輸送の安全を確保するため,適正な走行距離の標準を決定し,タクシー事業者が不当な走行義務を運転者に対して課さないよう措置することとした(乙32,34,37,39)。 上記のような経緯から,昭和33年6月9日,自動車運送事業等運 輸規則が改正され,乗務距離の最高限度につき同規則21条の2が新設されるに至った(弁論の全趣旨)。同規則は,交通の状況を考慮して陸運局長が指定する地域内に営業所を有する一般乗用旅客自動車運送事業者は,地域の指定があった日から1月以内に,当該営業所に属する運転者の乗務距離の最高限度を定めなければならないとし(21条の2第1項),その乗務距離の最高限度は,当該地域における道路及び交通の状況並びに輸送の状態に応じ,当該営業所に属する事業用自動車の運行の安全を阻害す 離の最高限度を定めなければならないとし(21条の2第1項),その乗務距離の最高限度は,当該地域における道路及び交通の状況並びに輸送の状態に応じ,当該営業所に属する事業用自動車の運行の安全を阻害するおそれのないものでなければならない(21条の2第2項)とされていた。なお,自動車運送事業等運輸規則は,平成2年運輸省令第23号により,旅客自動車運送事業運輸規則と題名を改められ,21条の2は,所要の改正を経て22条に繰り下げられた。 b 乗務距離規制の指定地域における運行記録計による記録義務の導入昭和42年10月の自動車運送事業等運輸規則改正により,乗務距離規制(22条1項)を受ける地域のタクシー事業者に運行記録計(タコグラフ。自動車の運行中の行動を記録媒体に正確に記録する装置。)による記録義務が導入された。上記改正後の自動車運送事業等運輸規則26条2項においては,乗務距離規制を受ける地域のタクシー事業者について,地域内にある営業所に属する事業用自動車(タクシー)の運転者が乗務した場合は,当該自動車の瞬間速度,運行距離及び運行時間を運行記録計により記録し,かつ,その記録を運転者ごとに整理して1年間保存しなければならないものとされた(弁論の全趣旨)。 c 道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律(平成12年法律第86号)の成立と規則22条改正の経緯標記の法律の法律案の審議において,衆議院運輸委員会は,平成12年4月26日,輸送の安全確保と適正労働条件の確立を図るため,自動車運転者の労働時間等改善基準の遵守について,指導監督を徹底し,最高乗務距離等の制限,過重労働を強いることとなる累進歩合やノルマの排除,運転者に対する安全教育の充実等について,所要の措置を講ずること等を内容とする附帯決議を採択し(乙 ついて,指導監督を徹底し,最高乗務距離等の制限,過重労働を強いることとなる累進歩合やノルマの排除,運転者に対する安全教育の充実等について,所要の措置を講ずること等を内容とする附帯決議を採択し(乙16の1),また,参議院交通・情報通信委員会も,平成12年5月18日,輸送の安全確保と適正労働条件の確立を図るため,最高乗務距離等の制限,過重労働を強いることとなる累進歩合やノルマの排除,運転者に対する安全教育の充実等について所要の措置を講ずること等を内容とする附帯決議を採択した(乙16の2)。 これらの附帯決議を受けて,平成12年5月19日に法改正(平成12年法律第86号)が行われ,平成13年8月24日国土交通省令第121号により,規則22条は現行規定のものに改正された。 d 現行の規則22条の内容規則22条は,地方運輸局長は,交通の状況を考慮して乗務距離の最高限度の規制を及ぼすべき地域を指定し(同条1項),当該地域における道路及び交通の状況並びに輸送の状態に応じて,当該営業所に属する事業用自動車の運行の安全を阻害するおそれのないよう乗務距離の最高限度を定め(同条2項),これらの地域の指定及び乗務距離の最高限度の定めを遅滞なく公示する(同条3項)こととし,上記指定地域内に営業所を有する一般乗用旅客自動車運送事業者は,その定められた乗務距離の最高限度を超えて当該営業所に属する運転者を事業用自動車に乗務させてはならないとする(同条1項)。 (イ) 以上の経緯や内容等に照らせば,規則22条は,過労運転・無謀運転・危険運転を防止し,もって輸送の安全を確保する目的で制定されたものと認められるところ,当該目的が国民の生命身体に係る重要な利益を保護することを目的とするものであることは明らかであるから,規制目的 は公共の福祉に合致する 全を確保する目的で制定されたものと認められるところ,当該目的が国民の生命身体に係る重要な利益を保護することを目的とするものであることは明らかであるから,規制目的 は公共の福祉に合致するといえる。 この点について,被告は,規則22条は,純粋に輸送の安全を確保する目的ではなく,旅客の利便を確保するという目的も有するものであるなどと主張するが,結局のところ,被告の主張する旅客の利便は,輸送の安全の確保によって達成されるものであって,輸送の安全と切り離された別個の目的とは認められない。 (ウ) 次に,規則22条による乗務距離規制の必要性・合理性について検討する。 a 昭和33年以降の乗務距離規制に関する事実関係(a) 昭和42年10月,自動車運送事業等運輸規則改正により,乗務距離規制(22条1項)を受ける地域のタクシー事業者に運行記録計(タコグラフ)による記録義務が導入された(弁論の全趣旨)。 (b) 平成13年8月,規則が改正され,乗務距離の最高限度の指定地域においては,それまで事業者自らが乗務距離の最高限度を定めることとされていたが,これを地方運輸局長が定める仕組みに改められた。また,規則21条所定の「旅客自動車運送事業者が過労の防止を十分考慮して定めなければならない事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間」についても,旅客自動車運送事業者が自由に定めるそれまでの仕組みが改められ,旅客自動車運送事業者は,国土交通大臣が告示で定める基準に従って定めなければならないものとされた。 そして,国土交通大臣は,平成13年12月3日,「旅客自動車運送事業運輸規則第21条第1項の規定に基づく事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間に係る基準」(国土交通省告示第1675号)を定め,規則21条所定の上記基準を「自動車運転者の労 ,「旅客自動車運送事業運輸規則第21条第1項の規定に基づく事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間に係る基準」(国土交通省告示第1675号)を定め,規則21条所定の上記基準を「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年労働省告示第7号)とすることとした。これによれば,一般乗用旅客自動車運送事業に従事する自動車運転者の拘束時間等については,①隔日勤務以外の運転者については,1日についての拘束時間は,13時間を超えないものとし,当該拘束時間を延長する場合であっても,1日についての拘束時間の限度は16時間とし,勤務終了後,継続8時間以上の休息期間を与えること,②隔日勤務の運転者については,拘束時間は,2暦日について21時間を超えないものとし,勤務終了後,継続20時間以上の休息期間を与えることとされた。(甲7,8)(c) 平成18年頃,いわゆるバブル経済崩壊以降の景気の低迷により,長期減少傾向を辿っていたタクシーの輸送人員の減少に一層拍車がかかり,タクシー事業の経営環境が厳しさを増した結果,運転者の賃金も低下し,過労運転やサービス等の低下を招いているのではないかとの指摘がされた。そこで,交通政策審議会陸上交通分科会自動車交通部会は,同年7月,タクシー業界の状況について実態把握及びその分析を行い,「タクシーサービスの将来ビジョン小委員会報告書~総合生活移動産業への転換を目指して~」と題する報告書を取りまとめた(乙18)。この報告書では,輸送の安全のより確実な確保のための具体的な取り組みとして,運行管理の確実な実施のために運行記録計の導入地域の拡大について,「運行記録計は,運行管理が確実に実施されているかを事後的にチェックする上で,大変有益な装置である。タクシーについては,(中略)現在,この最高乗務距離が定 ために運行記録計の導入地域の拡大について,「運行記録計は,運行管理が確実に実施されているかを事後的にチェックする上で,大変有益な装置である。タクシーについては,(中略)現在,この最高乗務距離が定められている地域(東京,大阪をはじめとする13地域)に限って運行記録計の導入が義務付けられているが,この指定地域については,昭和30年代から基本的に変更がされていない。このため,運行管理をより確実に実施するため,現在の交通状況を踏まえて必要と考えられる地域を見直し,その導入地域の拡大を可能な限り図ることとする。」と言及された。(乙18)これを受けて,国土交通大臣は,平成18年9月,乗務距離規制(規則22条1項)を受ける地域のタクシー事業者に運行記録計による記録を義務付ける旨を定めていた規則26条を改正し,「事業用自動車の運行の管理の状況等を考慮して地方運輸局長が指定する地域」内に営業所を有するタクシー事業者に運行記録計による記録を義務付けることとし,上記地域としては,「一般乗用旅客自動車運送事業に係る運行記録計による記録について」(平成18年国自総第269号,国自旅第116号)により,「(1)運輸規則第22条1項の規定に基づき最高乗務距離規制を行う地域として地方運輸局長が指定した地域(原則営業区域単位)」及び「(2)人口概ね10万人以上の都市を含む地域であって,流し営業の割合が比較的高く,当該地域の平均日車走行キロ数が相対的に長い等,運行記録計による記録を行うことによって,より確実かつ合理的な運行管理が行われることとなると認められる地域(原則営業区域単位)」を指定することとした。(乙13)これにより,乗務距離の最高限度規制地域以外にも,運行記録計による記録の義務付け地域が設けられることとなった。 b 乗務距離規制の必 る地域(原則営業区域単位)」を指定することとした。(乙13)これにより,乗務距離の最高限度規制地域以外にも,運行記録計による記録の義務付け地域が設けられることとなった。 b 乗務距離規制の必要性について前記(ア)aの事実関係によれば,昭和33年当時,タクシーによる交通事故が多発し,他の事業用自動車や自家用車等と比較して速度違反や無謀操縦等の割合も高く,対策が求められる状態にあったところ,タクシー事業については,歩合給中心の給与体系や過酷なノルマ設定により,売上高を上げるために,走行距離を伸ばし,危険な運転をすることが事故を誘発する原因であるという指摘がなされていたというのである。 このような状況下において,タクシー事業について,乗務距離規制を行えば,事業者や運転者に対し,運転者が過労運転や最高速度違反その他の危険運転をしてまで乗務距離を稼ぐことについて,心理的な抑制を与えることは明らかであるから,昭和33年当時において,危険運転等を防止しもって輸送の安全の確保に資するために,乗務距離規制を行うことは必要であったということができる。 また,本件公示時点の状況についてみても,国土交通省自動車交通局「自動車運送事業に係る交通事故要因分析報告書(平成21年度)」によれば,走行1億km当たりの自動車事故発生件数は,平成11年では自動車全体が100.0件,ハイタク(ハイヤー及びタクシーをいう。以下同じ。)が139.1件であったところ,その後,自動車全体は平成17年の107.3件まで微増傾向にあったものの,その後減少に転じ,平成20年には89.9件となり,平成11年の水準を下回ったが,ハイタクは,平成17年に182.0件まで増加した後減少に転じ,平成20年には167.6件となったが,なお平成11年当時の水準を上回ってい 20年には89.9件となり,平成11年の水準を下回ったが,ハイタクは,平成17年に182.0件まで増加した後減少に転じ,平成20年には167.6件となったが,なお平成11年当時の水準を上回っていた(乙31の2)。このように,タクシーの交通事故件数の推移に照らせば,タクシーの交通事故の発生を抑制するために対策を講じる必要性があったという国土交通大臣の判断には合理性があったといえる。 そして,国土交通省自動車交通局「自動車運送事業に係る交通事故要因分析報告書(平成21年度)」(乙31の2)によれば,平成20年におけるタクシーによる事故2万4030件のうち,過労運転,安全不確認,動静不注視,脇見運転,漫然運転,運転操作といった,疲労により注意力が低下したり反応が遅くなったりすることによって生じる可能性の高い法令違反に基づくものが1万6540件(約68. 8%),信号無視,最高速度違反,横断・転回等,車間距離不保持,追越し禁止,優先通行妨害,交差点安全進行,歩行者妨害等,徐行違反,一時不停止,安全速度違反といった,先を急ぐ気持ちによって生じる可能性の高い法令違反に基づくものが5619件(約23.4%)と大半を占めていたのであるから,タクシーによる交通事故過労に伴う注意力,反応の低下した状態での運転や,最高速度制限違反等の危険運転を防止する必要があったと認められる。 c 乗務距離規制の合理性について(a) タクシー事業の特徴についてタクシーの運転者は,事業所外での事業所外労働が中心となることから,タクシー事業においては,多くの場合,歩合制賃金がとられている(弁論の全趣旨)。また,タクシーの事業形態は,運転者が事業用自動車を走らせたり,駅・辻待ち等をしたりしながら利用者を探すという流しによる営業形態が多く,平成22年6月 合,歩合制賃金がとられている(弁論の全趣旨)。また,タクシーの事業形態は,運転者が事業用自動車を走らせたり,駅・辻待ち等をしたりしながら利用者を探すという流しによる営業形態が多く,平成22年6月に実施された調査によれば,札幌交通圏におけるタクシーの運行のうち,流しによるものは約70.5%(駅・辻待ち等を除くと約47.2%)であった(乙20の1,2)。流し営業の場合,タクシー利用者を探し,運送依頼を引き受けるという作業を運転者自身が行わなければならず,出庫後の事業活動はその大半が運転者個人に任されている。そのため,運転者は,多くの需要が予測される場所を中心に,利用者からの運送申込みを求めて走行することになる。 これらの事情から,タクシーの運転者は,多くの営業収入を得ることによって自らの歩合制賃金を増加させるため,乗務距離を伸ばす傾向にあることがうかがわれ,また,出庫後の事業活動の大半が運転者個人に任されていることから,タクシー事業者による運行管理が行き届きにくいものと認められる。 この点について,原告は,タクシーに装着された運行記録計には,乗務時間及び速度が記録され,これと日報,領収書,ETCのデータ等を照合すれば,各車のおおよその速度を把握し,それに基づいて指導,処分を行うことが可能であるとか,無線やドライブレコーダ,GPS等によりリアルタイムでの運行管理が可能であるなどと主張する。 確かに,各タクシー事業者は,運行記録計によって,当該車両の運行速度や停止している時間を事後的に把握することは可能である。しかしながら,タクシーの走行する道路状況は一定ではなく,様々な制限速度が設定された道路を走行することになる。また,運行記録計の記録だけからでは,記録上の停止時間が休憩時間なのか客待ち時間なのかを判断することは不 クシーの走行する道路状況は一定ではなく,様々な制限速度が設定された道路を走行することになる。また,運行記録計の記録だけからでは,記録上の停止時間が休憩時間なのか客待ち時間なのかを判断することは不可能である。そして,タクシー事業者としては,原告の言及するように,運行記録計と日報等とを照合した上で,最高速度制限違反の有無や,適切な休憩時間が確保されているか否かといった運行中に生じる問題点を把握しなければならないのであるから,事後的にはこれが可能であるとしても,現に運行中の場合には,これらの問題点の有無を把握することは困難であるといわざるを得ない(多数のタクシー事業者の中でドライブレコーダやGPSを装着しているタクシー事業者がどれだけいるのかが不明であるから,タクシー事業者一般に適用される乗務距離の最高限度規制の適否について検討する際にこれら装置が装着されていることを前提とした議論をすること自体適当ではないし,無線では運転者とタクシー事業者との間で音声のやり取りが行えるものの,運行速度,運行距離,休憩時間等についてその都度把握することは著しく困難である。)。 そうすると,原告の主張する事情は,タクシー事業について運行管理が行き届きにくいという前記の評価を覆すには至らない。 (b) 乗務距離と事故発生数等の関係近畿運輸局による,あるタクシー会社の営業所の監査の際に確認された乗務記録及び運行記録計による記録によれば,①乗務距離の最高限度規制に違反した運転者5名のうち4名が,当該違反をした日(以下「違反日」という。)の方が違反しなかった日に比べて最高速度違反の回数が多く,また,②これら4名の違反日における最高速度違反の平均回数(11.5725回)は,乗務距離の最高限度規制に違反しなかった運転者4名の最高速度違反の平均回数 かった日に比べて最高速度違反の回数が多く,また,②これら4名の違反日における最高速度違反の平均回数(11.5725回)は,乗務距離の最高限度規制に違反しなかった運転者4名の最高速度違反の平均回数(1.0125回)に比べて格段に多いことが認められる(乙48の1。ただし,乗務距離の最高限度規制に違反したものでも,当該違反日には最高速度違反をしていない者もいる。)。また,中部運輸局管内で乗務距離の最高限度規制に違反したと指摘された法人についても前記①同様の傾向が認められる(乙49)。 これらの事情からすれば,乗務距離が長くなれば,最高速度違反をする回数が多くなる傾向があることがうかがえる。また,運転者においては,勤務日における乗務距離が長くなれば,勤務中の休憩時間や勤務後の休息をとったとしても,なお疲労が残り,蓄積されることは十分に考えられる。そうすると,乗務距離が一定程度以上になれば,最高速度制限違反等の危険運転の割合が高くなる傾向があり,また,重大事故の発生と乗務距離との間にも相関関係があることがうかがえる。 この点について,原告は,原告のグループ会社のデータによれば,乗務距離と事故率との間の相関関係は存在せず,乗務距離が長いほど事故率が低いという傾向にあるから,交通事故の防止という目的と乗務距離規制という手段との間に,合理的な関連性はない旨主張する。 しかしながら,原告の指摘するデータ(甲15。年間平均走行距離別の100万km当たりの事故率(第1当事者,すなわち,交通事故に関与した車両の運転者又は歩行者のうち当該事故における過失が重い者となる割合))においても,原告のグループ会社のうち,京都の会社においては,平均走行距離が230kmから259kmである運転者の事故率が0.7であるのに対し,平均走行距離が260k ける過失が重い者となる割合))においても,原告のグループ会社のうち,京都の会社においては,平均走行距離が230kmから259kmである運転者の事故率が0.7であるのに対し,平均走行距離が260kmから289kmである運転者の事故率が1.3であり,大阪の会社においては,平均走行距離が260kmから289kmである運転者の事故率が0.6であるのに対し,平均走行距離が290km以上である運転者の事故率が0.8であり,神戸の会社においては,平均走行距離が230kmから259kmである運転者の事故率が1.2であるのに対し,平均走行距離が260kmから289kmである運転者の事故率が1.4(ただし,平均走行距離が290km以上である運転者の事故率は0.6である。)であり,名古屋の会社においては,平均走行距離が150kmから199kmである運転者の事故率が3.5であるのに対し,平均走行距離が200kmから229kmである運転者の事故率が5.2であることからすれば,運転者がある程度以上の平均乗務距離に達した場合には,事故率が増加する傾向が認められるというべきである。したがって,原告の依拠するデータを前提としても,乗務距離の最高限度を定めることが交通事故の防止と関連性を有しないということはできない。 (c) 他の規制手段との関係について原告は,事故防止のための規制として,現行法令の下でも,労働時間,速度規制の他,車両点検整備義務(規則45条,道路運送車両法47条の2),休憩睡眠仮眠施設の整備義務(規則21条2項),運転者の健康状態の把握義務(規則21条5項),点呼実施義務(規則24条),運行記録計による記録義務(規則26条),安全及び服務のため の規律制定義務(規則41条)などが実施されており,これに加えてさらに乗務距離の最高限 1条5項),点呼実施義務(規則24条),運行記録計による記録義務(規則26条),安全及び服務のため の規律制定義務(規則41条)などが実施されており,これに加えてさらに乗務距離の最高限度を規制する必要性はない旨主張する。 しかしながら,タクシーによる交通事故を防止するため,過労に伴う注意力,反応の低下した状態での運転や,最高速度制限違反等の危険運転を防止する必要があったことは前述のとおりである。 車両の点検整備はあくまで運転者の運転する車両についてその安全性を担保するにとどまり,運転者の心理的肉体的状況に起因する過労運転や危険運転を防止しうるものではないから,過労運転や危険運転による交通事故の防止の必要性がある場合についてこれを手段として論ずることはできない。また,運転者に対して休憩,仮眠,睡眠を与える設備を整えた上で,実際に休憩,仮眠,睡眠をさせるか否かは運転者やタクシー事業者の判断にかかっているところ,タクシー事業者としてはその判断材料として運転者の勤務時間及び休憩時間を把握することが必要となるが,その資料たりうる乗務記録(規則25条)は運転者の作成に係るものであり,前述のように運転者は,自らの歩合制賃金を増加させるため乗務距離を伸ばす傾向にあることがうかがわれることからすれば,乗務記録が適正に記録されるかは保証のかぎりでない。さらに,瞬間速度,運行距離及び運行時間を記録する運行記録計(規則26条)は,それ自体,機械的に記録を行うものであるから,記録の正確さという点では問題がないが,速度0,すなわち停止時間として記録された時間が,客待ち,客扱い等の勤務時間であるのか,休憩時間であるのかは記録だけからは判然とせず,タクシー事業者において正確にこれを把握することはできない。加えて,タクシー事業者としては,乗務開始前 た時間が,客待ち,客扱い等の勤務時間であるのか,休憩時間であるのかは記録だけからは判然とせず,タクシー事業者において正確にこれを把握することはできない。加えて,タクシー事業者としては,乗務開始前に運転者の点呼を実施することで,各運転者の健康状態,疲労の度合い等を確認することは可能であるものの,乗務開始後に生じた変化については点呼によって把握することはできない。その上,安全及び服務のための規律を制定したとしても,各運転者が運行中にこれを遵守しているか否かについては,タクシー事業者としては即時に把握することはできないのである。 これらのことに加え,前記のとおり,個別の運転者が現に運行中である場合に,タクシー事業者が当該運転者の当該乗務記録を把握することは困難であることを併せ考えると,既存の規制手段では過労運転や最高速度制限違反等による運転の防止を十分になし得ないという処分行政庁の判断については,一定の合理性があるというべきである。 (d) 乗務距離の最高限度規制という手法が合理性を有するか否かについて原告は,本件公示で定められた乗務距離の最高限度を遵守するには,運転者は,乗務距離が当該限度に近づいた状況下で乗車申込みがあった場合,その利用者を乗車させるか否かの判断を迫られたり,当該限度を超えた段階で利用者に降車を求めたりしなければならないところ,乗車を断られたり降車させられたりした利用者にとっては,その利便が害されたことになるから,結局,乗務距離の最高限度規制は,乗客の利便という法の目的を阻害することとなるとか,運転者が乗務距離の最高限度を超えるかどうかを即座に判断することは不可能であり,仮に,乗務距離の最高限度を超える可能性があると判断したとしても,一旦乗車した利用者に対して乗車を拒否し,降車をお願いするという 距離の最高限度を超えるかどうかを即座に判断することは不可能であり,仮に,乗務距離の最高限度を超える可能性があると判断したとしても,一旦乗車した利用者に対して乗車を拒否し,降車をお願いするというのはあまりにも非現実的であることに照らすと,乗務距離の最高限度を規制するという規制手段そのものが不合理であるなどと主張する。 そこで検討すると,一般貸切旅客自動車運送事業者を除く一般旅客自動車運送事業者は,原則として運送の引受義務を負うが,当該運送が法令の規定に違反する場合には運送の引受けを拒絶できるものとされているから(法13条4号),運送の申込者の希望する最終降車地ま で乗務をした場合に乗務距離の最高限度規制に抵触することを理由として運転者が運送の引受けを拒絶することは適法である。もっとも,その場合においては,当該運送の申込者は期待した運送を引き受けてもらえないことになるから,その点において利用者の利便が阻害されることは否定できない。しかし,乗務距離の最高限度規制が運転者の過労運転防止にとって合理的な規制であることはこれまでに述べたとおりであって,輸送の安全確保という利益を確保するために,同じく法が保護しようとしている利用者の利便確保という利益が劣後することになったとしても,それ自体やむを得ないものというべきである。 また,運転者としては,運送を引き受ける前に運送の申込者から最終降車地を確認することによって,運送の引受けの可否を判断することも相当程度可能であるといえるし,仮に,運送の引受時に乗務距離の最高限度規制に抵触するとは判断ができなかった場合(たとえば,利用者が運送の申込み時に告げた降車地を途中で変更する旨申し出たような場合や,突発的な長距離運送の申込みがあったような場合)において,降車地まで運送すれば乗務距離の最高 できなかった場合(たとえば,利用者が運送の申込み時に告げた降車地を途中で変更する旨申し出たような場合や,突発的な長距離運送の申込みがあったような場合)において,降車地まで運送すれば乗務距離の最高限度を超えて走行することになるとしても,これは規制の対象から除外されている(甲21,28)。 したがって,原告の前記主張は失当である。 d 小括規則22条の目的は,タクシーの交通事故を防止することにより輸送の安全の確保することにあるところ,同条による営業の自由に対する制約の態様は,一定の距離を超えた運行を制限するという営業活動そのものを一部禁止するものであって,比較的強度の制約である。 他方,タクシーの交通事故を防止するための対策が必要であるところ,タクシーの交通事故の原因の多くが過労運転や最高速度制限違反等の危険運転に起因する可能性のある法令違反によって引き起こされていることからすると,上記対策として,過労運転や危険運転を防止する必要がある。また,タクシー事業においては,タクシー事業者による運転者に対する運行管理が行き届きにくい上,歩合制賃金がとられていることにより,より多くの賃金を得ようと運転者が乗務距離を伸ばそうとする傾向にあるが,乗務距離が長くなるにつれ,最高速度制限違反等の危険運転が増加する傾向にある。 これらのことからすれば,乗務距離の最高限度を定めることによって,過労運転や最高速度制限違反等の危険運転を防止あるいは抑止し,もってタクシーによる交通事故の発生を防止することが可能であるという判断は,合理性を有するものといえる。 また,他の規制手段との関係についてみても,過労運転や最高速度制限違反の防止のために様々な手段が講じられているものの,現時点では過労運転や最高速度制限違反の防止を確実になし得る他の規制 といえる。 また,他の規制手段との関係についてみても,過労運転や最高速度制限違反の防止のために様々な手段が講じられているものの,現時点では過労運転や最高速度制限違反の防止を確実になし得る他の規制手段があるとはいえないし,乗務距離の最高限度を規制するという手法自体は,利用者の利便を制約する点があるとはいえ,不合理であるとまではいえない。 そうすると,規則22条による乗務距離の最高限度規制は,タクシーの事故を防止し,輸送の安全を確保するという目的達成のための規制手段として必要性があり,かつ,合理性を有するものと認められる上,他の手段によっては前記の目的を十分に達成することができないと認められるのであって,規則22条それ自体は,立法機関による合理的な裁量の範囲にとどまるものとして,憲法22条1項に反するものではないと認められる。 (2) 規則22条が法27条1項の委任の範囲を超えているか否かについて原告は,規則22条による乗務距離規制は,利用者の利便を阻害し,かつ,輸送の安全を阻害するものであるから,法1条の目的に反するものであり,法27条1項の委任の範囲を逸脱している旨主張する。 しかし,規則22条が輸送の安全の確保のために定められた規制であることは前記(1)のとおりであり,当該規制によって輸送の安全が阻害されたことを認めるに足る的確な証拠はない。また,法27条1項は,輸送の安全の確保のために必要な事項又は旅客の利便の確保のために必要な事項を国土交通省令で定めることができる旨規定しているから,乗務距離の最高限度規制が旅客の利便の確保と抵触する点があるとしても,そのことから直ちに規則22条が法27条1項の委任の趣旨に反するとはいえず,規則22条により旅客の利便が制約される点がやむを得ないものであることについては前 客の利便の確保と抵触する点があるとしても,そのことから直ちに規則22条が法27条1項の委任の趣旨に反するとはいえず,規則22条により旅客の利便が制約される点がやむを得ないものであることについては前記(1)のとおりである。 したがって,原告の主張は理由がない。 (3) 本件公示の違法性の有無についてア本件公示を定める地方運輸局長(処分行政庁である北海道運輸局長)の裁量権の範囲規則22条は,地方運輸局長に対し,交通の状況を考慮して乗務距離の最高限度の規制を及ぼすべき地域を指定し(同条1項),当該地域における道路及び交通の状況並びに輸送の状態に応じて,当該営業所に属する事業用自動車の運行の安全を阻害するおそれのないよう乗務距離の最高限度を定める(同条2項)という権限を付与しているところ,地方運輸局長が地域指定に際し考慮すべき「交通の状況」や,乗務距離の最高限度の設定に際し考慮すべき「道路及び交通の状況並びに輸送の状態」「運行の安全を阻害するおそれ」といった要素はいずれも抽象的なものであって,その判断には当該地域の交通事情の実態を踏まえた専門的な知見が求められると解されることからすれば,地域指定の有無や乗務距離の最高限度の設定の判断については,いずれも地方運輸局長の合理的な裁量に委ねられているものというべきである。もっとも,規則22条に基づく乗務距離の最高限度規制は,前記のとおり,各タクシー事業者の営業活動そのものを一部制限するものであって,タクシー事業者の営業の自由に対する制約の程度は決して小さくないから,地方運輸局長は,乗務距離の最高限度を設定するに当たっては設定の基礎となるべき資料の正確性,妥当性について十分に検討,精査してこれを設定すべきであり,これを欠くこと等により地方運輸局長の判断の基礎とされた事実等に 乗務距離の最高限度を設定するに当たっては設定の基礎となるべき資料の正確性,妥当性について十分に検討,精査してこれを設定すべきであり,これを欠くこと等により地方運輸局長の判断の基礎とされた事実等に誤認が生じ重要な事実の基礎を欠く場合や,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその判断の内容が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものと認められる場合には,当該判断は裁量の範囲を逸脱し又は裁量権を濫用したものとして違法となると解すべきである。 イ本件公示に至る経緯(ア) 国土交通省自動車交通局安全政策課及び旅客課は,平成21年8月4日付け事務連絡「タクシー事業に係る乗務距離の最高限度の指定拡大について」(乙12。以下「本省事務連絡」という。)を発出し,規則22条に基づくタクシー運転者の乗務距離の最高限度についての当面の対応として,運行記録計による記録の義務付け地域(規則26条2項)にまで乗務距離の最高限度の指定を拡大するとともに,乗務距離の最高限度については,日勤勤務運転者,隔日勤務運転者別にそれぞれ定める旨の方針を示した。なお,北海道内においては,平成18年12月20日,札幌交通圏の他,小樽市,函館交通圏,旭川交通圏,室蘭市,苫小牧交通圏,釧路交通圏,帯広交通圏及び北見交通圏が,運行記録計による記録の義務付け地域に指定され,平成19年12月20日から運行記録計の義務付けが開始されている(乙13,19)。 本省事務連絡には,隔日勤務運転者の乗務距離の最高限度の設定の考え方の例が記載されており,それによれば,乗務距離の最高限度は,実走行時間に指定地域内における表定速度を乗じたものとすること,実走行時間は最大拘束時間である21時間から,休憩時間,日常点検・点呼 え方の例が記載されており,それによれば,乗務距離の最高限度は,実走行時間に指定地域内における表定速度を乗じたものとすること,実走行時間は最大拘束時間である21時間から,休憩時間,日常点検・点呼時間,客扱い時間及び客待ち時間を差し引いたものとすること,指定地域内における表定速度は道路交通センサスの旅行速度や実態調査に基づくタクシーの平均速度等,地域の実情に応じた適当な数値を用いることなどとされていた(乙12)。 (イ) 北海道運輸局長は,本省事務連絡を受けて,乗務距離の最高限度の指定に必要な指標を得るためにタクシー事業の実態調査を行った(乙14)。 実態調査は,各地域内から調査対象事業者を抽出し,当該事業者に対し,調査・回答票の提出を求める形で行われた。調査・回答票の記載項目は,①運転者1乗務当たりの実走行時間(拘束時間-休憩時間-日常点検・点呼時間-客扱い時間-客待ち時間),②平成21年8月5日(水曜日,平常日),同月7日(金曜日,繁忙日)及び同月9日(日曜日,閑散日。 なお,乗務がない場合は同月8日とする。)の3日間における平均運行速度,③乗務距離最高限度に係る地域の指定及び最高限度についての意見などであった(乙14,弁論の全趣旨)。なお,平均運行速度(前記②)の計算方式は,総走行距離を総実走行時間で除したものとされ,総実走行時間とは,総稼働時間から休憩時間を差し引いた時間(ただし,デジタルタコグラフを装着している業者については,実際に車が動いている時間)とされ,総稼働時間は,乗務終了時間から乗務開始時間を差し引いた時間とされていた(甲21)。 (ウ) 北海道運輸局長は,実態調査の結果を踏まえ,概ね下記のとおりの判断過程により乗務距離の最高限度を定めることとした。 a 本件公示は,札幌交通圏を含む北海道全9地域に係る乗務距離の 21)。 (ウ) 北海道運輸局長は,実態調査の結果を踏まえ,概ね下記のとおりの判断過程により乗務距離の最高限度を定めることとした。 a 本件公示は,札幌交通圏を含む北海道全9地域に係る乗務距離の最高限度を定めるものであるところ,公示の対象となる各地域間の公平性の確保や,先行して乗務距離の最高限度を設定している他の地方運輸局において複数の地域があっても一律同じ距離を限度としているという実例があることを踏まえ,北海道全9地域共通の距離を乗務距離の最高限度とする。 b 規則21条に基づいて定められる最大拘束時間(隔日勤務運転者は21時間)まで勤務した場合に実際に走行可能な時間(可能実走行時間)を求め,これにタクシーの平均運行速度を乗じて,北海道全9地域の各地域における基本となる距離を計算する。 まず,札幌交通圏の可能実走行時間については,最大拘束時間から休憩時間,客待ち時間,日常点検・点呼業務に要する時間(以下,この3つの時間を総称して「客待ち時間等」という。)を控除するものとし,これら控除の対象となる時間については,労働基準法34条の規定を踏まえると,8時間ごとに1時間の休憩をとることが望ましく,これを21時間の最大拘束時間に当てはめると2.625時間の休憩時間が妥当であり,さらに一般的なタクシー事業においては少なくとも0. 375時間は,客待ち時間,日常点検・点呼業務に要する時間であると想定し,合計3時間を減じ,札幌交通圏の可能実走行時間を18時間と算定した。また,札幌交通圏のタクシーの平均運行速度は,実態調査から得られた調査期間における総走行距離を総実走行時間で除して算出することとして,総走行距離3万5232.35km÷総実走行時間1903.20時間=18.51km/時間と算定した。これにより,札幌交通圏における 査期間における総走行距離を総実走行時間で除して算出することとして,総走行距離3万5232.35km÷総実走行時間1903.20時間=18.51km/時間と算定した。これにより,札幌交通圏における基本となる距離は,18時間×18.51km/時間=333.18kmとなった。(乙15の4)c 次いで,タクシーの平均運行速度の算定について,以下のとおり一部修正を加えた。すなわち,平均運行速度については,本省事務連絡によれば,実態調査の平均運行速度のほか,道路の表定速度も考慮できるものとされていたところ,札幌交通圏の道路の表定速度は29. 95km/時間であり,実態調査によるタクシーの平均運行速度との乖離率(道路の表定速度に対する実態調査によるタクシーの平均運行速度の割合)は61.80%であった。札幌交通圏を含む北海道全9地域における乖離率の平均は47.21%であったことから,乖離率が47.21%を下回る6地域(函館市及び北斗市,旭川市,苫小牧市,釧路市,帯広市,北見市)については,そのタクシーの平均運行速度を各地域の道路の表定速度に平均乖離率を乗じて得られた速度に引き上げる一方,乖離率が47.21%を上回った札幌交通圏を含む3地域(札幌交通圏,小樽市,室蘭市)については引き上げ処理を行わなかった(乙15の2)。 d これにより得られた北海道全9地域の基本となる距離の平均値は,363.54kmとなったため,端数処理をした370kmを隔日勤務運転者の乗務距離の最高限度とし,日勤勤務者運転者については,隔日勤務運転者に対する最大拘束時間の比率である21分の16を乗じた281.90kmの端数処理をした280kmをその乗務距離の最高限度とした。 ウ検討(ア) 実態調査の方法の適否実態調査を踏まえて行われた業者を対象とする の比率である21分の16を乗じた281.90kmの端数処理をした280kmをその乗務距離の最高限度とした。 ウ検討(ア) 実態調査の方法の適否実態調査を踏まえて行われた業者を対象とするヒアリングの結果及び北海道運輸局の各支局の意見によれば,札幌交通圏内の業者が「北海道では夏と冬で大幅に走行距離が異なる」と述べ,苫小牧交通圏の2つの業界団体がそれぞれ「先の調査(実態調査)は夏場のもの冬期間繁忙期にはさらに走行距離が増える。」「今回の調査(実態調査)時期より冬の繁忙期の方が走行距離が伸びる。」と述べ,さらに,室蘭市・苫小牧交通圏共通の支局が「冬期繁忙期は今回実態調査時期より実走行距離が増加するとヒアリング調査で回答を得ており,また当支局の地区は冬期間の降雪が少なく路面状況も他の地域より少ないのでその点も考慮した最高乗務距離の設定をお願いします。」と意見を述べているところである(甲21)。また,北海道においては,夏と冬とでは道路状況が全く異なることは周知の事実であり,このためタクシーを含む車両一般の速度や走行距離が夏と冬とで相当異なることも容易に予測できるところである。これらのことからすると,室蘭市,苫小牧交通圏のみならず,札幌交通圏においても,実態調査が行われた夏期よりも冬期の方が,運行距離が増加することがうかがわれるところ,季節による走行距離の差異について北海道運輸局長が実態調査や本件算定方法の決定に際して配慮したことは何らうかがわれない。そうすると,この点についても,北海道運輸局長による基本の距離の算定方法については,その妥当性に重大な疑念が残るといわざるを得ない。 (イ) 札幌交通圏の実態調査において,タクシーの平均運行速度(18.51km/時間)等を超えて運行している車両が多数認められること実態調 は,その妥当性に重大な疑念が残るといわざるを得ない。 (イ) 札幌交通圏の実態調査において,タクシーの平均運行速度(18.51km/時間)等を超えて運行している車両が多数認められること実態調査によれば,北海道運輸局長が算出したタクシーの平均運行速度18.51km/時間を上回る速度や隔日勤務運転者の乗務距離の最高限度370kmを可能実走行時間18時間で除した20.55km/時間を上回る速度で運行した車両が多数あったことが認められる。(甲21。隔日勤務運転者においては,それぞれ,66運行中23運行(約34.8%),16運行(約24.2%),日勤勤務運転者においては,それぞれ,114運行中64運行(約56.1%),54運行(約47. 4%)であった。)運転者が事業用自動車に乗務する場合,客待ちの有無やその長短,走行する道路の選択,道路の混雑状況及び高速自動車国道等の利用の有無など様々な要因によって,各乗務における平均運行速度には相当の幅が あることが容易に想定される(現に,札幌交通圏の実態調査における平均運行速度は,最大値が46.86km/時間,最小値が8.18km/時間であった。甲21。)から,ある運転者の1乗務における平均運行速度が北海道運輸局長の算出したタクシーの平均運行速度18.51km/時間を超過するものであったとしても,当該乗務において,最高速度制限違反等,輸送の安全を害するような態様の運転が行われたものとは直ちにつながらないというべきである。そして,仮に,当該乗務において,最高速度制限違反等が行われていなかったとすれば,当該乗務に係る車両の運転者は,平均運行速度を超えて運行した場合でも,輸送の安全を害するような態様で走行していたとは認められないのであるから,当該乗務の態様等について何ら検討しないまま平均運 れば,当該乗務に係る車両の運転者は,平均運行速度を超えて運行した場合でも,輸送の安全を害するような態様で走行していたとは認められないのであるから,当該乗務の態様等について何ら検討しないまま平均運行速度を18.51km/時間と設定することは,数値の設定自体の妥当性に疑問を生じさせるものである上,この数値に基づいて乗務距離の最高限度を設定することは,合理的な根拠を欠いたまま過剰な乗務距離規制を課すことになるというべきである。 そして,北海道運輸局長としては,北海道運輸局長が算出したタクシーの平均運行速度18.51km/時間や隔日勤務運転者の乗務距離の最高限度370kmを可能実走行時間18時間で除した20.55km/時間を上回る平均運行速度を記録した車両について,運行記録計のデータや運行記録を参照するなどして最高速度制限違反等の有無を調査した上で,違反等のない乗務について平均運行速度を改めて算出し,その結果を基本となる距離の算出の過程で考慮・反映するなどの対応をことも可能であり,また,前記の検討に照らせば,そうすべきであったといえる。 しかしながら,北海道運輸局長が,これら車両について改めて調査,検討を行ったことをうかがわせる証拠はなく,この点についても北海道運輸局長の算定方法には疑問が残るといわざるを得ない。 (ウ) 北海道運輸局長(処分行政庁)の乗務距離の最高限度設定に関する基本的な考え方についてa 北海道運輸局長は,可能実走行時間にタクシーの平均運行速度を乗じて,札幌交通圏を含む北海道全9地域の各地域の基本となる距離を計算する方法を選択し,その上で,可能実走行時間は規則21条に基づいて定められる最大拘束時間(隔日勤務運転者は21時間)から,休憩時間,客待ち時間,日常点検・点呼業務に要する時間として合計3時間 計算する方法を選択し,その上で,可能実走行時間は規則21条に基づいて定められる最大拘束時間(隔日勤務運転者は21時間)から,休憩時間,客待ち時間,日常点検・点呼業務に要する時間として合計3時間を控除した18時間と算出し,タクシーの平均運行速度は実態調査から得られた調査期間における総走行距離を総実走行時間で除して算出することとした(前記イ(ウ)b)。 しかしながら,前記の北海道運輸局長の基本的な考え方には矛盾があるといわざるを得ない。以下,詳述する。 b 実態調査における,調査対象たる事業者に送付された調査・回答票(甲21)に調査手順として記載されているとおり,総実走行時間とは,総稼働時間から休憩時間を差し引いた時間(ただし,デジタルタコグラフを装着している業者については,実際に車が動いている時間)とされ,総稼働時間は,乗務記録による乗務終了時間から乗務開始時間を差し引いた時間とされているから,総実走行時間には,客待ち時間及び客扱い時間も含まれている(ただし,デジタルタコグラフを装着している業者については,これらの時間は含まれていない。)ことになる。そうすると,これを前提として計算されたタクシーの平均運行速度は,客待ち及び客扱いによって停止している時間も含めた時間の平均速度を意味することになる。これに対し,可能実走行時間とは,その算定方式から明らかなとおり,最大拘束時間から客待ち時間等を差し引いたものである。そうすると,北海道運輸局長は,客待ち時間等を差し引いた時間に,客待ち,客扱い等により実際に停止している時間(以下「客待ち等により停止している時間」という。)をも含んだ時間の平均速度を乗じることによって,札幌交通圏等の乗務距離の最高限度の基本となる距離を算出したことになり,この算出方法においては,時間と速度の考 待ち等により停止している時間」という。)をも含んだ時間の平均速度を乗じることによって,札幌交通圏等の乗務距離の最高限度の基本となる距離を算出したことになり,この算出方法においては,時間と速度の考え方に相違があることは明らかである上,デジタルタコグラフを装着している車両に比べ,明らかに低い平均速度を乗じることになるものであるから,当該算出方法の合理性には疑問があるといわざるを得ない。 c 確かに,実態調査においてデジタルタコグラフを装着していないタクシー事業者の運転者について,客待ち等により停止している時間を正確に算出することは必ずしも容易でないとうかがえることや,客待ち等により停止している時間を含んだ時間の平均時速を乗じることによって基本となる距離が低く算定される一方で,可能実走行時間については客待ち時間等を3時間と設定しているところ,これは実態調査の結果(デジタルタコグラフ装着車両の運転可能時間)に照らしても,実態よりも短めに見積もったものと評価でき(甲21。デジタルタコグラフ装着車両に乗務した札幌交通圏の隔日勤務運転者9名についてみると,平均運転可能時間は約11.33時間にとどまる。),その分については,基本となる距離が長く算定されたとも評価しうることからすれば,客待ち等により停止している時間をも含んだ時間の平均速度を前提にタクシーの平均運行速度を算出し,これに基づいて基本となる距離を計算したことが,明らかに不合理なものであるとまではいえないが,基本となる距離の計算方法は,乗務距離の最高限度規制という職業の自由に対する直接的な規制の基礎をなすものであるから,北海道運輸局長としては,前述した算定方法の合理性に対する疑問について,それを払拭しうるだけの調査,補正をすべきであったといえる。 しかしながら,記録上, の基礎をなすものであるから,北海道運輸局長としては,前述した算定方法の合理性に対する疑問について,それを払拭しうるだけの調査,補正をすべきであったといえる。 しかしながら,記録上,北海道運輸局長が前記の調査,補正を行ったことをうかがわせる証拠はないのであって,北海道運輸局長による基本となる距離の算定方法には,合理性について疑問があるといわざるを得ない。 (エ) 札幌交通圏の実態調査において,乗務距離の最高限度(隔日勤務運転者370km)を超えて運行した車両が認められること実態調査によれば,隔日勤務運転者において,66運行中5運行が370kmを超えて運行し,このうち,3運行については休憩時間が3時間以上であった(なお,他2運行のうち,1運行は1.50時間,1運行はデジタルタコグラフ装着車両のため休憩時間の報告がなされていない。)ことが認められる(甲21)。 前記(イ)同様,運転者が事業用自動車に乗務する場合,客待ちの有無やその長短,走行する道路の選択,道路の混雑状況及び高速自動車国道等の利用の有無など様々な要因によって,各乗務における運行距離には相当の幅があることが容易に想定されるから,ある隔日勤務運転者の1乗務における運行距離が,乗務距離の最高限度として設定された370kmを超過するものであったとしても,当該乗務において,最高速度制限違反等,輸送の安全を害するような態様の運転が行われたものと直ちに認めることはできない。 したがって,そもそも乗務距離の最高限度として370kmと設定したこと自体,その妥当性に疑問があるというべきであるから,この妥当性を検討するため,北海道運輸局長としては,隔日勤務運転者の運転に係る車両のうち,370kmを超える運行距離を記録した車両について,運行記録計のデータや運行記録を参照す いうべきであるから,この妥当性を検討するため,北海道運輸局長としては,隔日勤務運転者の運転に係る車両のうち,370kmを超える運行距離を記録した車両について,運行記録計のデータや運行記録を参照するなどして最高速度制限違反等の有無や休憩時間の取り方等を調査した上で,違反等がなく,休憩時間も十分に確保した乗務があれば当該乗務についての調査,検討結果を基本となる距離の算出の過程で考慮・反映することも可能であり,また,そうすべきであったといえる。 しかしながら,北海道運輸局長が,これら車両について改めて調査,検討を行ったことをうかがわせる証拠はなく,この点においても北海道運輸局長の算定方法には疑問が残るといわざるを得ない。 (オ)a 前記(3)アのとおり,本件公示は事業者の営業活動の一部を制限するものであるから,乗務距離の最高限度を設定するに当たっては,基礎となるべき資料の正確性,妥当性について十分な検討,精査が必要である。 そして,最高限度を算出するに当たり用いた基本となる距離は,隔日勤務の場合,最大拘束時間(21時間)から客待ち時間等(3時間)を控除した18時間に平均運行速度を乗じたものであり,平均運行速度は総走行距離を総実走行時間(総稼働時間から休憩時間を控除した時間)で除したものである。 ところで,総走行距離は8月のうち3日間行われた実態調査に基づき算出されているところ,北海道においては夏と冬とでは道路状況が全く異なり総走行距離に差異が生じるものと認められるから,夏に行われた実態調査のみに基づき総走行距離を設定したことは,その妥当性に重大な疑念が残るというべきである(前記(ア))。 また,北海道運輸局長は,平均運行速度を実態調査に基づいて設定したところ,これを上回る速度で運行しているタクシーが現に多数存在する ,その妥当性に重大な疑念が残るというべきである(前記(ア))。 また,北海道運輸局長は,平均運行速度を実態調査に基づいて設定したところ,これを上回る速度で運行しているタクシーが現に多数存在する。しかし,このようなタクシーが必ずしも最高速度制限に違反するなど輸送の安全を害するものであるとは直ちにつながらないことに照らせば,この数値自体の妥当性に疑念が残る(前記(イ))。 そうすると,処分行政庁である北海道運輸局長は,乗務距離の最高限度を設定するに当たり,基礎となるべき資料の正確性,妥当性について十分な検討,精査をしたとは認められない。 b そして,乗務距離の最高限度を算出するに当たり使用した上記算出方法自体の合理性にも疑問が残る上(前記(ウ)),この方法により算出された数値を基に定められた最高限度の数値自体の妥当性にも疑問が残る(前記(エ))ところである。 以上によれば,北海道運輸局長が本件公示をするに当たり判断の基礎とした事実(数値)の妥当性に疑問があり,事実(数値)に対する評価が明らかに合理性を欠くというべきであり,その結果,本件公示の内容も乗車制限という過度な規制を伴うもので社会通念に照らし著しく妥当性を欠くというべきであるから,北海道運輸局長の判断(本件公示)は,裁量の範囲を逸脱し又は裁量権を濫用したものとして違法というべきである。 (カ) なお,北海道運輸局長は,前記イ(ウ)cのとおり,全9地域のうち6地域(①函館市及び北斗市,②旭川市,③苫小牧市,④釧路市,⑤帯広市,⑥北見市)について,タクシーの平均運行速度を引き上げる処理を行っており(乙15の2。引上げ後の平均運行速度は,それぞれ,①18.26km/時間,②19.62km/時間,③22.30km/時間,④19. 19km/時間,⑤19.93km/時間 引き上げる処理を行っており(乙15の2。引上げ後の平均運行速度は,それぞれ,①18.26km/時間,②19.62km/時間,③22.30km/時間,④19. 19km/時間,⑤19.93km/時間,⑥23.17km/時間であった。),これに伴い,基本となる距離も引き上げられた(333.18kmから363.54km)ことからすれば,隔日勤務運転者の乗務距離の最高限度を370kmとしたことは,過度な規制ではないとも考えられそうである。 しかしながら,実態調査の結果(甲21)によれば,前記引上げ処理後の平均運行速度を上回る平均運行速度であった車両は,それぞれ,隔日勤務運転者の運転に係る車両(かっこ内は休憩時間3時間以上であった運行数),日勤勤務運転者の運転に係る車両の順に,①66運行中35運行(19運行),51運行中16運行,②36運行中4運行(1運行),84運行中28運行,③45運行中14運行(10運行),72運行中28運行,④63運行中21運行(4運行),57運行中34運行,⑤45運行中10運行(1運行),90運行中44運行,⑥18運行中1運行(1運行),57運行中10運行であった。このように,平均運行速度を上回る速度で運行していた車両が多数認められる以上,これら各乗務における最高速度制限違反の有無等,その乗務態様について何ら検討しないまま,平均運行速度を前提として乗務距離の最高限度を設定することが,合理的な根拠を欠いたまま過剰な乗務距離規制を課すことになることについては,前記(イ)で述べたとおりである。そして,北海道運輸局長が,これら車両について改めて調査,検討を行ったことをうかがわせる証拠はないことからすれば,タクシーの平均運行速度の引き上げ処理がなされ,その結果基本となる距離が引き上げられたとしても,本件公示に合 ,これら車両について改めて調査,検討を行ったことをうかがわせる証拠はないことからすれば,タクシーの平均運行速度の引き上げ処理がなされ,その結果基本となる距離が引き上げられたとしても,本件公示に合理性がなく,裁量を逸脱したものであるとの結論には何ら影響を与えないというべきである。 3 結論以上1,2の検討によれば,原告の訴えのうち,主位的請求(1)(2)及び予備的請求(2)はいずれも不適法であり,また,原告の予備的請求(1)は理由がある。 よって,原告の訴えのうち,主位的請求(1)(2)及び予備的請求(2)をいずれも却下することとし,原告の予備的請求(1)を認容することとして,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第1部裁判長裁判官千葉和則 裁判官鳥居俊一 裁判官加藤 貴

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る