令和3特(わ)129 不正競争防止法違反

裁判年月日・裁判所
令和4年12月9日 東京地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-91976.txt

判決文本文13,464 文字)

- 1 -令和4年12月9日東京地方裁判所刑事第7部宣告令和3年特(わ)第129号不正競争防止法違反被告事件 主文 被告人を懲役2年及び罰金100万円に処する。 その罰金を完納することができないときは、1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 この裁判が確定した日から4年間その懲役刑の執行を猶予する。 理由 【犯罪事実】被告人は、平成27年4月1日から令和元年12月31日までの間、電気通信事業等を営むA株式会社(商号変更前はB株式会社)に勤務し、同社の営業秘密である同社のネットワーク情報を同社から示されていた者であるが、不正の利益を得る目的で、その営業秘密の管理及び秘密保持に係る任務に背いて 1 令和元年12月30日午後10時35分頃から同日午後11時22分頃までの間、横浜a区bc丁目d番地e所在の当時の被告人方において、パーソナルコンピュータ(以下「パソコン」という。)を操作し、同社が営業秘密を蔵置しているGoogleクラウドサーバにアクセスし、同社の営業秘密であるネットワーク情報エクセルファイル「甲」(以下「本件ファイル①」という。)をCSVファイルに変換した上、自己が管理するアカウント名のGoogleドライブにアップロードし、アメリカ合衆国所在のCLLCが管理するクラウドサーバに保存して前記エクセルファイルの複製を作成し 2 同月31日午前0時33分頃、前記被告人方において、前記パソコンを操作し、前記A株式会社が営業秘密を蔵置しているGoogleクラウドサーバにアクセスし、同社の営業秘密であるネットワーク情報ファイル「乙」(以下「本件ファイル②」という。)及び「丙」(以下「本件ファイル③」という。)が添付された電子メールを自己の管理するメールアドレス宛てに転送し、ア 同社の営業秘密であるネットワーク情報ファイル「乙」(以下「本件ファイル②」という。)及び「丙」(以下「本件ファイル③」という。)が添付された電子メールを自己の管理するメールアドレス宛てに転送し、アメリカ合衆国所 - 2 -在のCLLCが管理するメールサーバに保存して前記ファイルの複製を作成しもって前記A株式会社の営業秘密を領得した。 【証拠】省略【事実認定の補足説明】第1 争点本件の争点は、本件ファイル①ないし③(以下、3つのファイルを併せて「本件各ファイル」という。)に秘密管理性、非公知性及び有用性が認められ、本件各ファイルが営業秘密に該当するといえるか、及び被告人が本件各ファイルが営業秘密に該当することを認識していたかである。当裁判所は、本件各ファイルは営業秘密に該当し、被告人はそのことを認識していたと判断したので、以下その理由を補足して説明する。 第2 理由 1 前提となる事実以下の事実は、証拠により容易に認定可能であり、当事者も争っていない。 ⑴ A株式会社(商号変更前はB株式会社。以下、両社を指して単に「A」ということもある。)は、携帯電話等の通信サービスを提供する大手電気通信事業者の一つであり、D社は、Aのネットワークの拡張に不可欠な光ファイバの調達に関する企画業務等を行う、Aの完全子会社である。 ⑵ 被告人は、平成16年7月1日にE株式会社に入社し、同社が平成27年4月1日にB株式会社に吸収合併されて以降は、令和元年12月31日付けで退社するまでAの社員であり、同年12月当時は、D社に出向して同社の社員も兼務し、ネットワーク設計業務などを担当していた。被告人は、Aを退社するに当たり、判示の日時に判示記載の方法で本件各ファイルの複製を作成した。被告人は、令和2年1月1日付けでF株 向して同社の社員も兼務し、ネットワーク設計業務などを担当していた。被告人は、Aを退社するに当たり、判示の日時に判示記載の方法で本件各ファイルの複製を作成した。被告人は、令和2年1月1日付けでF株式会社(以下「F」という。)に入社し、ネットワーク設計業務などを担当した。 - 3 -⑶ ア Aは、情報管理規程を定め、情報資産を極秘情報、部外秘情報、社外秘情報及び一般情報に分類した上で(前三者を総称して機密情報とする。)、作成者はその区分を情報資産に明示しなければならないとしており、同社のネットワーク構成に関する情報等を、業務上の取扱い部署等以外に開示してはならない部外秘情報として取り扱っていた。D社でも、こうした情報管理規程が流用されており、情報資産について同様の取扱いをしていた。また、AとD社との間では、卸電気通信役務の提供及び利用に関する基本契約が締結されており、いずれも、相手方の書面による事前の承諾を得ない限り、本契約の履行に際して知り得た相手方の販売上、技術上その他の業務上の情報を第三者に開示し又は本契約の履行の目的以外に利用してはならないとされていた。 イ Aでは、入社時に秘密保持に関する誓約書を、さらに退社時に誓約書を提出させ、退社後もネットワーク構成に関する情報などの機密情報を自ら若しくは第三者のために利用し又は第三者に開示、漏洩しない旨誓約させている。また、Aの社員就業規則でも、職務上知り得た機密を他に漏らしてはならず、かつ、会社のため以外に同機密を使用又は利用してはならず、退職後も該当社員の責めに帰すべからざる事由によりこれら機密が公知の状態となるまで同様とされていた。 ウ Aでは、年に1回全社員を対象にeラーニングを実施しており、2018年度は営業秘密を取り上げていたところ、被告人もこれを受講しており、成 よりこれら機密が公知の状態となるまで同様とされていた。 ウ Aでは、年に1回全社員を対象にeラーニングを実施しており、2018年度は営業秘密を取り上げていたところ、被告人もこれを受講しており、成績は良好であった。 エ Aは、社内で使用するパソコンについて、USB等の記録媒体を接続することができないように設定し、社員が許可なく記録媒体を接続した場合には、情報セキュリティ部門に不正媒体が検出されたことを告げるアラートが通知されることとなっていた。また、業務上は社内用GSuiteを利用し、私用のGoogleドライブなどで機密情報を取り扱わないよう周知されており、社外のメールアドレスに宛ててメールを送信しようとすると注意喚起のメッセージが表示 - 4 -されるようになっていた。もっとも、私用のGoogleアカウントには接続可能であり、社外のメールアドレスに宛ててメールを送信することも可能であった。 ⑷ 令和元年頃、Aにおいては、携帯電話機と電波のやり取りを行う基地局と自社のネットワーク拠点との間を、主にG(正確には、H株式会社又はI株式会社であるが、以下単に「G」という。)のネットワークを介して接続することで、携帯電話機などの通信ネットワークを構築していたが、Gのネットワークを利用することができない一部区間については、他の通信事業者が保有するネットワークを介して接続することもあった。Gのネットワークは、局舎間や局舎及び加入者との間を光ファイバで接続することによって構築され、未使用の部分(「ダークファイバ」と呼ばれる。)は他の通信事業者に対して比較的廉価で貸し出されていたのに対し、他の通信事業者が保有するネットワークは、Gのそれよりも通信速度が遅く、利用料も高額であった。そこで、D社は、Aに対し、G以外の通信事業者のネットワーク 対して比較的廉価で貸し出されていたのに対し、他の通信事業者が保有するネットワークは、Gのそれよりも通信速度が遅く、利用料も高額であった。そこで、D社は、Aに対し、G以外の通信事業者のネットワークを利用している区間を可能な限りGのネットワークに切り替えること(「マイグレーション」と呼ばれていた。)で、費用を抑えるとともに、現行の4G(第4世代移動通信システム)からより高速度通信を可能とする5G(第5世代移動通信システム)への切り替えに対応できるようネットワークの速度を向上させることを提案していた。本件各ファイルは、いずれもこうした提案に当たって作成されたものであった。 2 本件ファイル①の営業秘密該当性⑴ 本件ファイル①の内容関係証拠によれば、本件ファイル①の内容に関し、以下の事実が認められる。 本件ファイル①は、全国各地約16万箇所のAの基地局の位置情報(緯度・経度)、各基地局で使用されている周波数帯、各基地局に至る回線の種別及び回線の月額料金等の情報、マイグレーションに関する検討結果のほか、4Gから5Gへの切り換えに係る対応を計画していた基地局の情報を一覧表形式で取りまとめたエクセルファイルである。 - 5 -⑵ 本件ファイル①の秘密管理性ア不正競争防止法2条6項が、営業秘密の要件として秘密管理性を求めた趣旨は、企業が秘密として管理しようとする対象が従業員等に対して明確化されることによって、従業員等の予見可能性、ひいては、経済活動の安定性を確保することにあるから、秘密管理性要件が満たされるためには、営業秘密保有企業の秘密管理意思が秘密管理措置等によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要がある。 イ前記1アないしエのとおり、Aでは、情報管理規程や 業の秘密管理意思が秘密管理措置等によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要がある。 イ前記1アないしエのとおり、Aでは、情報管理規程や入退社時の誓約書などは整備されている上、営業秘密に関する研修等も行われており、パソコンから私用のGoogleアカウントへの接続を許容するなどパソコンの設定に一部不十分なところがあったことを考慮しても、体制面では、相応の秘密管理措置が採られていたといえる。もっとも、本件ファイル①について採られた具体的な秘密管理措置について見ると、本件ファイル①は、Aの社員であり、D社に出向していたJから、AのD事業推進室(同室は、D社にAのネットワーク設計等の業務を円滑に行わせるために設置された部署であり、同室に配属された社員がD社に出向して、本務又は兼務することとされていた。)所属の正社員で構成されるメーリングリストに対して送信されたメールに記載された、Googleドライブのリンク先からダウンロードすることによって被告人とも共有されているが、メーリングリストのメンバー以外のアクセスは一応制限されているとはいえ、ファイル名やヘッダーなどに「部外秘」や「STRICTLYCONFIDENTIAL」などの記載はない上にパスワードも付されておらず、その外観からはAの秘密管理意思が見えづらいものであったことは否定できない。しかし、本件ファイル①の内容は、前記2⑴のとおりであり、Aが、安価に高品質な通信サービスを提供できるよう長年にわたって試行錯誤を繰り返して構築したネットワークに関する情報を含むものである上、D社が、それを前提に相応の時間と費用をかけてマイグレーションの是非を検討した結果や、4Gから5Gへの切り替え - 6 -に係る対応を計画していた基地局の情 ークに関する情報を含むものである上、D社が、それを前提に相応の時間と費用をかけてマイグレーションの是非を検討した結果や、4Gから5Gへの切り替え - 6 -に係る対応を計画していた基地局の情報など、そこから将来的なネットワーク構想をうかがい知ることができるものも含んでいたのであるから、通信事業者であるAにとって重要な情報であることは明らかであって、少なくともネットワーク構築に関与する従業員であれば、その秘密管理意思を容易に認識可能であったといえる。よって、本件ファイル①の秘密管理性が認められる。 ウ弁護人は、本件ファイル①が外部取締役を除く当時のD社の全社員である99名がアクセス可能であった業務用共有フォルダに保存されていたと認められることから、本件ファイル①へのアクセス制限が十分ではなく、秘密管理性は認められないと主張する。 この点、検察官は、本件ファイル①は前記業務用共有フォルダには保存されていなかったと主張しており、前提となる事実関係について争いがあるが、少なくとも同フォルダに、本件ファイル①のデータを取り込んだ実質的に同一内容のアクセスファイルが保存されていたことは証拠上容易に認められ、同フォルダにアクセス可能であった従業員の中には、本件ファイル①を業務上必要としない者も含まれていたことは否定できない。D社内において業務用共有フォルダへのアクセスを制限しない取り扱いは、D社内で異動の都度アクセス権限を変更することが煩雑であるなどといった業務の実情を踏まえたものであったとはいえ、その必要性はそれほど高いものではなく、技術的にもより適切なアクセス制限を行うことは可能であったといえるから、本件ファイル①に対するアクセス制限に不十分な面があったことは否定できない。しかし、アクセス制限は認識可能性を担保する一つの手段であるに より適切なアクセス制限を行うことは可能であったといえるから、本件ファイル①に対するアクセス制限に不十分な面があったことは否定できない。しかし、アクセス制限は認識可能性を担保する一つの手段であるに過ぎず、既に述べたとおり、本件ファイル①は、その情報の内容・性質からして、少なくともネットワーク構築に関与する従業員にとって、Aの秘密管理意思を容易に認識することが可能であったといえるのであるから、アクセス制限が不十分であることにより秘密管理性が否定されることにはならない。 エよって、弁護人の主張は採用できず、前記のとおり本件ファイル①の - 7 -秘密管理性が認められる。 ⑶ 本件ファイル①の非公知性ア本件ファイル①のうち、少なくとも前記2で指摘した各情報は、Gからの公開情報を基にしているものもあるが、それ自体としては公開されておらず、一般に知られていない情報であることは明らかであるから、本件ファイル①の非公知性が認められる。 イ弁護人は、基地局が外部から容易に認識可能な比較的大きな構築物であることや、インターネット上に基地局の位置を特定できるアプリケーションが複数公開されていることから、基地局の位置情報は非公知の情報には当たらないなどと主張する。しかし、全国各地に点在する膨大な数の基地局を外観から全て特定することは困難であり、また、インターネット上で公開されている基地局の位置情報は、弁護人も認めるとおり正確性や網羅性が担保されたものではないから、これらの方法により一部の基地局の位置情報が特定できたとしても、そのような情報は全国各地にある基地局の正確な位置情報が一覧できるという本件ファイル①の情報とは質的に異なるものといえる。加えて、本件ファイル①には、基地局情報以外にも5G化を検討している基地局の情報など外部に公開 全国各地にある基地局の正確な位置情報が一覧できるという本件ファイル①の情報とは質的に異なるものといえる。加えて、本件ファイル①には、基地局情報以外にも5G化を検討している基地局の情報など外部に公開されていない情報が多数含まれているのであって、一部の基地局情報が特定できたとしても、それによって本件ファイル①全体の非公知性が失われることにはならない。 ウよって、弁護人の主張は採用できず、前記のとおり本件ファイル①の非公知性が認められる。 ⑷ 本件ファイル①の有用性ア秘密管理性に関する検討で述べたとおり、本件ファイル①は、Aが長年にわたって構築してきたネットワークに関する情報のみならず、5G化の検討に係る情報など将来的なネットワーク構想に関する情報も含んでいたのであるから、これらが通信事業者であるAの事業活動に使用・利用されており、有用であることは明らかである。 - 8 -イ弁護人は、携帯電話事業者が抱える事情等は様々で、これを反映して各社が整備しているネットワークの構成や無線機器等も異なり、5G化対応に係る計画も異なることから、他社がAの基地局や周波数帯に係る情報及び5G化に係る情報を流用して自社の通信サービスを向上させることはできないこと、Aのマイグレーションの検討状況は、Aのネットワーク構成や契約状況を前提とするもので、他社の事業活動に何ら役立つものではないことなどから、本件ファイル①に含まれる情報は他社には利用価値がなく、有用性は認められないなどと主張する。 しかし、当該情報が、営業秘密保有企業の事業活動に使用・利用されているのであれば、基本的に営業秘密としての保護の必要性を肯定でき、当該情報が反社会的な行為に係る情報であり保護の相当性を欠くような場合でない限り、有用性の要件は充足されるものと考えられるのであ れているのであれば、基本的に営業秘密としての保護の必要性を肯定でき、当該情報が反社会的な行為に係る情報であり保護の相当性を欠くような場合でない限り、有用性の要件は充足されるものと考えられるのであって、この点は当該情報を取得した者がそれを有効に活用できるかどうかにより左右されない。その意味で、本件ファイル①の有用性に関し、それに含まれる情報が他の携帯電話事業者の事業活動に役立つものではないことを理由に有用性を否定する弁護人の主張には、当を得ないものがある。念のため、検討してみても、関係証拠によれば、本件ファイル①には、Fなど同業他社が使用している周波数帯と同じ周波数帯を使用する基地局の情報も含まれていたと認められるから、その基地局情報を直接流用することが可能かどうかはともかくとして、当該周波数帯に係る両社の基地局の設置状況を比較検討することなどにより、自社のネットワーク構成の検討に利用することは十分考えられるのであって、本件ファイル①に含まれる情報が同業他社にとって全く参考にならないとは考え難い。また質の高い通信サービスの提供や5G化への対応を含めた通信エリアの拡大は携帯電話事業者共通の課題であると考えられるところ、本件ファイル①に含まれる情報からは、Aがどのような戦略及び計画で前記課題に取り組んでいるかをうかがい知ることができる。このような情報を同業他社が一方的に知ること自体競争上の優位性をもたらすものといえるから、本件ファイル①の情報が同業他社にとっても客観的に有用であることは明らかで - 9 -ある。 ウよって、弁護人の主張は採用できず、本件ファイル①の有用性が認められる。 ⑸ 小括以上によれば、弁護人の主張を踏まえて検討しても、本件ファイル①は、秘密管理性、非公知性及び有用性のいずれの要件も充足しており、営業 採用できず、本件ファイル①の有用性が認められる。 ⑸ 小括以上によれば、弁護人の主張を踏まえて検討しても、本件ファイル①は、秘密管理性、非公知性及び有用性のいずれの要件も充足しており、営業秘密に該当するといえる。 3 本件ファイル②及び③(以下、2つのファイルを併せて「本件両ファイル」という。)について⑴ 本件ファイル②及び③の内容関係証拠によれば、本件両ファイルの内容に関し、以下の事実が認められる。 本件両ファイルは、いずれも、Aのネットワークに関する位置情報等を各種記号と直線として、GoogleEarth上で表示させることができるようにしたものである(「kmzファイル」と呼ばれる。)。本件ファイル②には、日本全国のG局舎のうちAが伝送装置を設置している局舎、Aが新たに伝送装置を設置する予定の局舎、ネットワークを拡大するために新たな構成方法を採る予定の局舎及びその構成方法等の情報が、本件両ファイルには、局舎間のダークファイバ等の利用状況に関する情報や局舎間に利用可能なダークファイバが存在しないものの、D社において光ファイバを接続することが可能なものとして検討している区間(「X」と呼ばれていた。)の情報が含まれていた。 ⑵ 本件両ファイルの秘密管理性ア Aにおいて、体制面で相応の秘密管理措置が採られていたことは、本件ファイル①の秘密管理性の検討で述べたとおりである。本件両ファイルの具体的な秘密管理措置について見ると、本件両ファイルは、AのD事業推進室に所属していたKから、同室所属の正社員で構成されるメーリングリストに対して送信されたメールに添付され、被告人にも共有されたものであるが、メーリングリス - 10 -トのメンバー以外のアクセスは一応制限されているとはいえ、ファイル名などに「部外秘」や「ST に対して送信されたメールに添付され、被告人にも共有されたものであるが、メーリングリス - 10 -トのメンバー以外のアクセスは一応制限されているとはいえ、ファイル名などに「部外秘」や「STRICTLYCONFIDENTIAL」などの記載はなく、kmzファイルの性質上困難であったためパスワードも付されていなかった。 そうすると、本件両ファイルも、本件ファイル①同様、その外観からはAの秘密管理意思が見えづらいものであったことは否定できない。しかし、本件両ファイルの内容は、前記3⑴のとおりであり、当時のAのネットワーク構成に関する情報に加えて、D社が、Aへの提案に当たり、Gの局舎間を光ファイバで接続することが可能と考えた区間に関する情報など、そこから将来的なネットワーク構想をうかがい知ることができるものも含んでいたのであるから、通信事業者であるAにとって重要な情報であることは明らかであって、少なくともネットワーク構築に関与する従業員であれば、その秘密管理意思を容易に認識可能であったといえる。よって、本件両ファイルの秘密管理性が認められる。 イ弁護人は、本件両ファイルがD社の業務用共有フォルダ(弁護人が本件ファイル①が保存されていたと主張する業務用共有フォルダと同一のもの。)に保存されていたことから、本件ファイル①と同様に本件両ファイルへのアクセス制限が十分ではなかったことや、営業秘密として管理していることを客観的に外部に明らかにする措置が講じられていなかったことなどから秘密管理性が認められないと主張するが、本件ファイル①に関する検討において述べたとおり、本件両ファイルについても、その情報の内容・性質からAの秘密管理意思を容易に認識可能であったのであるから、弁護人が指摘する事情は本件両ファイルの秘密管理性を否定するものとはいえない て述べたとおり、本件両ファイルについても、その情報の内容・性質からAの秘密管理意思を容易に認識可能であったのであるから、弁護人が指摘する事情は本件両ファイルの秘密管理性を否定するものとはいえない。 ウよって、弁護人の主張は採用できず、前記のとおり本件両ファイルの秘密管理性が認められる。 ⑶ 本件両ファイルの非公知性ア本件両ファイルに含まれるAの伝送装置設置済みの局舎の情報やXに係る情報等は、公開されておらず、一般に知られていない情報であることは明ら - 11 -かであるから、本件両ファイルの非公知性が認められる。 イ弁護人は、G局舎の所在地はインターネット等において調べれば特定できるし、ダークファイバの利用状況はGが携帯電話事業者の求めに応じて開示しているので、非公知性を満たさないと主張する。しかし、本件両ファイルの情報の一部が外部からうかがい知れたとしても、その他に一般に公開されていない重要な情報を含む本件両ファイル全体の非公知性が否定されることにはならない。 ウよって、弁護人の主張は採用できず、前記のとおり本件両ファイルの非公知性が認められる。 ⑷ 本件両ファイルの有用性ア秘密管理性における検討で述べたとおり、本件両ファイルに含まれる情報は、当時のAのネットワーク構成に関する情報のみならず、5G化を含む通信エリアの拡大等を検討するために必要な情報など将来的なネットワーク構想に関する情報も含んでいたのであるから、これらが通信事業者であるAの事業活動に使用・利用されており、有用であることは明らかである。 イ弁護人は、伝送装置を設置する局舎の位置は、それと接続する基地局の位置との関係で必然的に決まることから、基地局設置場所等の前提条件が異なる同業他社がこのような情報を知ったとしても、その情報をそのまま 弁護人は、伝送装置を設置する局舎の位置は、それと接続する基地局の位置との関係で必然的に決まることから、基地局設置場所等の前提条件が異なる同業他社がこのような情報を知ったとしても、その情報をそのまま流用することはできないため有用性がない、今後の通信エリア拡大に向けた検討状況も、当時のAのネットワーク状況を基に検討したものであって、これと異なるネットワーク状況にある同業他社がそのような情報に接したとしても、同社の事業に何ら役立つものではなく、有用性が認められないなどと主張する。 しかし、有用性の要件については、当該情報が、営業秘密保有企業の事業活動に使用・利用されているのであれば、基本的に営業秘密としての保護の必要性を肯定でき、当該情報を取得した者がそれを有効に活用できるかどうかには左右されないと解すべきであることは、既に述べたとおりであり、本件両ファイルに含まれる情報が他の携帯電話事業者の事業活動に役に立つものではないことを理由 - 12 -に有用性を否定する弁護人の主張には、当を得ないものがある。念のため、検討してみても、各社が設置している基地局の位置が異なるとしても、局舎に伝送装置を設置し、基地局と局舎間を光ファイバでつないでネットワークエリアを拡大していくことは通信事業者各社において採られている手法と認められるのであるから、Aが伝送装置を設置している局舎の位置情報をそのまま流用できるかどうかはともかくとして、自社とAの伝送装置の設置箇所を比較検討することなどにより自社のネットワーク構築の参考にすることは可能と考えられるし、また、Ⅹに関する情報は、局舎間を光ファイバでつなぐことが可能となる区間の情報であり、基地局の位置が異なる他社においても利用可能な情報と考えられるから、前記各情報が他社にとって全く参考にならないものであると に関する情報は、局舎間を光ファイバでつなぐことが可能となる区間の情報であり、基地局の位置が異なる他社においても利用可能な情報と考えられるから、前記各情報が他社にとって全く参考にならないものであるとは考え難い。加えて、本件両ファイルには、Aのネットワーク構成に関する情報や5G化を含む今後のネットワークの拡大の検討に必要な情報が含まれており、質の高い通信サービスの提供や5G化を含む通信エリアの拡大に向けたAの検討状況がうかがい知れるのであるから、これを同業他社が知ること自体、競争上の優位性をもたらすことは本件ファイル①について指摘したことと同様である。 よって、弁護人の主張は採用できず、前記のとおり本件両ファイルの有用性が認められる。 ⑸ 小括以上によれば、弁護人の主張を踏まえて検討しても、本件両ファイルは、秘密管理性、非公知性及び有用性のいずれの要件も充足しており、営業秘密に該当するといえる。 4 被告人の故意等について⑴ 被告人自身、少なくとも、本件ファイル①にはAの全ての基地局情報が、本件ファイル②には伝送装置が設置されたG局舎及び新たな構成方法を採ることを検討している局舎の情報が含まれていることを認識していたと供述しており、これらのファイルについて営業秘密該当性を基礎付ける事実を認識していたと認 - 13 -められる。また、本件ファイル③についてもネットワーク構成に関する情報であることは認識していたというのであるから、その内容の詳細を把握していなかったとしても、その中に営業秘密に該当しうるAのネットワーク構成に関する情報が入っている可能性は認識していたものといえ、営業秘密該当性を基礎付ける事実を認識していたと認められる。よって、被告人には、故意が認められる。 ⑵ これに対し、被告人は、本件ファイル②に関しては、 が入っている可能性は認識していたものといえ、営業秘密該当性を基礎付ける事実を認識していたと認められる。よって、被告人には、故意が認められる。 ⑵ これに対し、被告人は、本件ファイル②に関しては、局舎の位置情報を示していたアイコン情報を取得しようと思って持ち出したにすぎない、本件各ファイルはD社の構成員全員がアクセスすることが可能な業務用共有フォルダに保存されていたので、営業秘密として厳格に管理されている情報ではないと思っていたと述べており、弁護人も被告人の供述を前提に、被告人には故意がない旨主張する。 しかし、アイコン情報を持ち出すために本件ファイル②を持ち出したにすぎないとの供述は、当該アイコン情報がインターネット上で容易に入手可能なありふれたものであることからするとにわかには信じ難い上、仮にそのような目的で持ち出したのだとしても、被告人が本件ファイル②について営業秘密に該当すると認識していたことと矛盾するものではない。さらに、本件各ファイルへのアクセス制限が十分でなかったとしても、その情報の内容・性質から秘密管理されていることが明らかであれば、秘密管理性が否定されるものではないことは既に述べたとおりである。被告人自身も、本件各ファイルが業務用共有フォルダに保存されていると認識していたとはいえ、本件各ファイルにネットワーク構成に関する情報が含まれていることは認識していたというのであるから、営業秘密該当性を基礎付ける事実の認識に欠けるところはなかったと認められる。 以上によれば、被告人は本件各ファイルを持ち出した際、本件各ファイルが営業秘密に該当することを基礎付ける事実を認識しており、故意があったと認められる。 ⑶ なお、弁護人は明示的に争っていないものの、その主張の趣旨にかんが - 14 -み、被告人に不正の利益を 業秘密に該当することを基礎付ける事実を認識しており、故意があったと認められる。 ⑶ なお、弁護人は明示的に争っていないものの、その主張の趣旨にかんが - 14 -み、被告人に不正の利益を得る目的があったか否かについても、判断を述べる。 関係証拠によれば、被告人は、Aの同業他社であるFへの転職を目前に控えた時期に本件各ファイルを持ち出しており、しかも、Fに転職後、本件各ファイルをFで使用している自身のメールアドレスに転送していることが認められる。これらの事実に照らせば、被告人は、本件各ファイルを、Fに転職した後の自己の職務等に直接又は間接的に役立てようとしていたものと認められるのであって、前記目的はAの営業秘密を不正に利用して専ら自己の利益を得る目的といえるから、被告人に不正の利益を得る目的があったことも認められる。 第3 結語以上によれば、本件各ファイルはいずれも営業秘密に該当すると認められ、被告人に故意及び不正の利益を得る目的もあったと認められるから、犯罪事実記載のとおり、被告人が営業秘密を領得したと認定した。 【法令の適用】 省略【量刑の理由】本件各ファイルには、被害会社が長年の試行錯誤の末に築いてきたネットワーク構成に関する情報のほか、当時携帯電話事業者にとって喫緊の課題となっていた5G化対応に向けた計画やその計画を進めていく上で不可欠となる重要な情報が含まれていたのであり、これらの情報が詰まった営業秘密を持ち出した本件犯行は悪質なものといえる。被告人は、転職先会社における自己の職務に直接又は間接的に役立てようとして本件犯行に及んだと認められるが、その動機は身勝手なものというほかなく、何ら酌むべき点は認められない。 もっとも、前記の動機からすれば、不正の利益を得る目的は強いものではなく、被告人 立てようとして本件犯行に及んだと認められるが、その動機は身勝手なものというほかなく、何ら酌むべき点は認められない。 もっとも、前記の動機からすれば、不正の利益を得る目的は強いものではなく、被告人に前科がないことなどを踏まえると、被告人の刑事責任を重いとまでいうことはできない。 以上に加え、被告人が不合理な弁解に終始し、反省の態度が見られないことやこ - 15 -の種犯行が経済的に割に合わないことを示す必要があることなども考慮し、被告人に対し、主文のとおりの懲役刑及び罰金刑を科し、その懲役刑については刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。 (求刑懲役2年及び罰金100万円)令和4年12月16日東京地方裁判所刑事第7部 裁判長裁判官鎌倉正和 裁判官内山裕史 裁判官米 満祥人

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る