- 1 -主文本件上告を棄却する。 理由 弁護人菅沼祐亨の上告趣意のうち,憲法38条違反をいう点は,記録を調べても被告人の捜査段階における供述調書の任意性を疑わせる証跡は認められないから,前提を欠き,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。 また,記録を調べても刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。 所論にかんがみ,事後収賄罪の成否について,職権により判断する。 原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。 (1)被告人は,防衛庁(当時)技官に任命され,平成4年6月30日から,防衛庁調達実施本部の契約原価計算第一担当副本部長として調達実施本部長を助け,担当部務である調達実施本部契約第一課,輸入課,原価管理課及び原価計算第一課の所掌事務を整理するとともに,調達実施本部の分任支出負担行為担当官及び契約等担当職員として,法令又は予算の定めるところに従い,装備品の製造請負契約締結等の事務を担当していたものである。その在職中,①平成6年4月8日ころ,A社(以下「A社」という。)の官公営業担当常務取締役(同年6月から専務取締役)であったB及び同社の官公企画室長(同年7月から官公企画室・防衛営業担当支配人)であったCから,調達実施本部等とD社(A社の関連会社)との間で過去に締結した味方識別装置等の製造請負契約について,契約金額の算定根拠となる工- 2 -数の過大申告等によりD社が過払いを受けていたため,調達実施本部が契約金額を修正して過払い相当額をD社から国に返還させるに当たり,上記修正すべき金額として許容される上限を変更し となる工- 2 -数の過大申告等によりD社が過払いを受けていたため,調達実施本部が契約金額を修正して過払い相当額をD社から国に返還させるに当たり,上記修正すべき金額として許容される上限を変更して国に返還させるべき金額を過少に確定してもらいたいなどと請託を受けて,被告人及び調達実施本部長Eの保身並びにD社の利益を図るとともに,D社から調達実施本部の退職者に顧問料等名下の金員の提供を受けさせる目的をもって,会計法,国の債権の管理等に関する法律,予算決算及び会計令,調達物品等の予定価格の算定基準に関する訓令等に反し,平成6年6月27日ころ及び平成7年3月24日ころの2回にわたり,国に返還させるべき金額を過少に確定させ,当該金額の返還方法についても,現年度歳入への一括組入れの方法によることなく,平成6年度までに締結されて履行未了である味方識別装置等の製造請負契約の契約金額から均等割合で減額する方法等により順次返還させる旨の契約をD社との間で締結して,D社をして本来国に返還すべき金額と過少に確定させた金額との差額21億1707万7000円の返還を免れさせて国に同額の損害を加えた。②さらに,平成7年6月9日ころ,A社のB及びCから,調達実施本部等とF社(A社の子会社)との間で過去に締結した暗号装置等の製造請負契約についても,前同様に工数の過大申告等によりF社が不正に過払いを受けていたため,調達実施本部が契約金額を修正して過払い相当額をF社から国に返還させるに当たり,前同様,国に返還させるべき金額を過少に確定してもらいたいなどと請託を受けて,被告人及びEの保身並びにF社の利益を図るなどの目的をもって,前同様,会計法等に反し,平成7年6月23日ころ,国に返還させるべき金額を過少に確定させ,当該金額の返還方法についても,現年度歳入への一括組入れの方 Eの保身並びにF社の利益を図るなどの目的をもって,前同様,会計法等に反し,平成7年6月23日ころ,国に返還させるべき金額を過少に確定させ,当該金額の返還方法についても,現年度歳入への一括組入れの方法によることなく,平成7年度までに締結されて履行未了である暗号装置等の製造請負契約の契- 3 -約金額から均等割合で減額する方法等により順次返還させる旨の契約をF社との間で締結して,F社をして本来国に返還すべき金額と過少に確定させた金額との差額14億2304万5000円の返還を免れさせて国に同額の損害を加えた。 (2)被告人は,前記各行為によりA社と密接な関連を有するD社及びF社の便宜を図った後の平成7年6月26日に防衛庁の退職を承認され,その翌月,実質的にA社が株主総会議決権の半数を支配し,人事においてもA社の影響力が強いG社の非常勤の顧問に就任したが,その経緯は,次のとおりであった。すなわち,当時防衛庁の退職者については,所属機関からのあっせんにより再就職するのが慣例となっており,被告人に対しても,平成7年2月ころ,勧奨退職の打診があるとともに,通例どおり,再就職先のあっせんがなされたが,被告人は,当該あっせんに係る再就職先だけでは収入が不足であるなどとして,G社の顧問にも併せて就任し,同社からも報酬を得ることを希望した。しかるに,同社は,設立されたばかりで,いまだ収益を上げておらず,当時は非常勤取締役に対しても報酬を支給していなかったが,同社の代表取締役Hは,被告人に対して請託をしたA社のB及びCにおいて,被告人には前記①のD社の件も含めて世話になっていたから被告人の希望を受け入れることはやむを得ないとの考えであったため,その意向に沿い,被告人を非常勤の顧問として受け入れ,報酬を支給することとした。その後,前記②のF社の件が発覚し, 話になっていたから被告人の希望を受け入れることはやむを得ないとの考えであったため,その意向に沿い,被告人を非常勤の顧問として受け入れ,報酬を支給することとした。その後,前記②のF社の件が発覚し,B,C及びHは,そのころこれを知り,特にB及びCは,その事後処理をしてもらうためにも,ますます被告人をG社の非常勤の顧問として受け入れざるを得ない事態になったと認識し,引き続き,被告人の顧問受入れのための手続を進めた。そして,被告人は,防衛庁を退職後,G社から,顧問料として,年間240万円の割合で,平成7年7月26日ころから平成9年12月26日ころまでの- 4 -間,前後30回にわたり,合計538万5000円の供与を受けた。同社の非常勤の顧問であった上記の期間,被告人は,同社において,自分専用の部屋や机はなかったものの,おおむね月2回程度それぞれ1ないし3時間の出社をし,その間に部長会議に出席するなどしていたものである。 所論は,上記顧問料としての報酬は,調達実施本部退職者に対し,当時慣例として行われていた手続によるものであり,被告人は,就任後その職務を遂行しているから,正当な報酬であって,賄賂性がない旨主張する。 しかしながら,前記の事実関係のとおり,被告人は,調達実施本部在職中に,A社のB及びCから請託を受けて,A社の関連会社及び子会社の各水増し請求事案の事後処理として,それぞれこれらの会社が国に返還すべき金額を過少に確定させるなどの便宜を図り,その会社の利益を図るとともに国に巨額の損害を加えたものであるところ,被告人のこれらの行為は,いずれも被告人の前記調達実施本部契約原価計算第一担当副本部長等としての任務に背くものであり,背任罪を構成するとともに,職務上不正な行為に当たることが明らかである。そして,その後の間もない時期に,A社のB 被告人の前記調達実施本部契約原価計算第一担当副本部長等としての任務に背くものであり,背任罪を構成するとともに,職務上不正な行為に当たることが明らかである。そして,その後の間もない時期に,A社のB及びC並びにA社の関連会社であるG社の代表取締役Hにおいて,前記水増し請求の事案の事後処理で世話になっていたなどの理由から,被告人の希望に応ずる形で,当時の同社においては異例な報酬付与の条件等の下で,防衛庁を退職した被告人を同社の非常勤の顧問に受け入れ,被告人は,顧問料として前記金員の供与を受けることとなったものである。このような事実からすれば,被告人に供与された前記金員については,被告人にG社の顧問としての実態が全くなかったとはいえないとしても,前記各不正な行為との間に対価関係があるというべきである。原判決がこれと同旨の判断に立ち,事後収賄罪の成立を認めたのは,正当- 5 -である。 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官田原睦夫裁判官近藤崇晴)
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