平成9(ワ)1194等 三洋電機サービス損害賠償

裁判年月日・裁判所
平成13年2月2日 浦和地方裁判所
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判決文本文12,222 文字)

主文 1 被告らは,連帯して,原告Aに対し,665万0909円及びこれに対する平成8年9月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を,原告Bに対し645万0909円及びこれに対する平成8年9日24日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 2 原告らのその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを3分し,その2を原告らの連帯負担とし,その余を被告らの連帯負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは連帯して,原告Aに対し,5577万2203円及び内金4857万2203円に対する平成8年9月24日から,内金720万円に対する平成9年7月25日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは連帯して,原告Bに対し,5075万4631円及び内金4595万4631円に対する平成8年9月24日から,内金480万円に対する平成9年7月25日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告三洋電機サービス株式会社(以下「被告会社」という。)は,原告Aに対し,2778万7169円及びこれに対する平成9年7月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,自殺したCの妻である原告A及びCの子である原告Bが,Cの自殺の原因は同人の勤務していた被告会社及びCの上司であった被告Dにあるとして,被告Dに対しては不法行為に基づき,被告会社に対しては不法行為ないし安全配慮義務違反に基づき,損害賠償を請求した事案である。 1 当事者間に争いがない事実及び証拠により容易に認定できる事実(以下「争いのない事実等」という。)(1) 当事者等ア は不法行為ないし安全配慮義務違反に基づき,損害賠償を請求した事案である。 1 当事者間に争いがない事実及び証拠により容易に認定できる事実(以下「争いのない事実等」という。)(1) 当事者等ア原告Aは,昭和48年10月,Cと結婚し,Cの死亡当時も,同人の妻であった者であり,原告Bは,昭和49年9月に出生したCの長女である。 被告会社は,三洋電機株式会社の関連会社で,同社電気製品の部品の販売等を業とする株式会社であり,被告Dは,昭和62年から平成6年12月1日まで,被告会社関東事業部電化課長,同日以降,同部品部長の職にあった者であり,昭和62年以降,Cの直属の上司であった。 イ Cは,昭和45年4月,被告会社に入社し,関東事業部電化課に配属され,同62年ころには,部品部管理課に配属となったが,従前と同様,電化製品の部品管理等の仕事に従事し,平成3年,同部企画係長となった。 ウ EはCの父であり,平成8年1月5日死亡した。 Fは被告会社部品部管理課長の職にあった者であり,Cの20年来の友人であった。Gは同課管理係長の職にあった者である。 (2) 事実経過別紙事実経過一覧表記載のとおり 2 争点(1) 予見可能性の有無(原告らの主張)原告Aは,Fに対し,平成8年4月19日,Cの自殺未遂の事実を連絡し,Fは,被告Dに対し,同日ころ,Cの自殺未遂の事実を報告した上,原告Aは,直接被告Dに対し,同月22日,Cが仕事上の悩みから自殺未遂をしたことを伝え,降格ないし配置転換をしてほしい旨申し入れたし,同月23日には,退職を,同年5月7日には,H医師作成の診断書を提示して自宅療養を申し出たから,被告らは遅くとも平成8年5月7日までにはCの自殺を予見できた。 (被告らの主張)Cは,同人が被告Dに診断書を提示した平成8年5月7日からCが自殺した 作成の診断書を提示して自宅療養を申し出たから,被告らは遅くとも平成8年5月7日までにはCの自殺を予見できた。 (被告らの主張)Cは,同人が被告Dに診断書を提示した平成8年5月7日からCが自殺した日の前日である同年9月23日までの間,安定して被告会社に勤務しており,被告Dとの関係も安定していたし,C及び原告Aは,同年6月1日から同年9月21日までの間,イサオクリニックでの診療も受けていない上,Cは,同年9月2日,社内健康診断を受け,自ら健康である旨申し出て,健康状態に異状はないとの診断を受けていた。 被告Dは,同年6月になって初めてCの自殺未遂について聞いたし,被告らは,Cがうつ病であるとの診断を受けたことを知らされてはいなかった。本件診断書は,Cの希望により記載されたものにすぎず,医師が積極的に療養を要するとの判断をしたものではないし,C自身が速やかに撤回した。 したがって,被告らにはCの自殺を予見することは不可能であった。 (2) 被告らの注意義務違反の有無(原告らの主張)被告Dは,Cが課長に昇進したころから始まった長期欠勤の理由について誠意をもって対応せず,Cが平成7年6月8日に退職申出をした際も,「親の土地をもらって楽しているのにお前は甘えている。」「自殺できるなら自殺してみろ,そんな勇気がお前にあるのか。」と暴言を吐き,Cの自殺未遂の事実についても,調査を怠ったばかりか,被告会社常務取締役関東事業部長Iへの同事実の報告を怠り,事実を隠蔽した。被告Dは,平成8年4月22日,原告Aからの退職申出に対し,懲戒解雇である旨脅し,原告Aの降格又は部署変更の申出も拒否した上,同月23日には,原告ら宅に押しかけ,Cから直接退職申出を受けるや,「辞めるなら懲戒解雇だ。」「副事業部長と総務部長を呼べ,もう会社に言うしかない。」と脅し, の降格又は部署変更の申出も拒否した上,同月23日には,原告ら宅に押しかけ,Cから直接退職申出を受けるや,「辞めるなら懲戒解雇だ。」「副事業部長と総務部長を呼べ,もう会社に言うしかない。」と脅し,Cに対して暴行して,出社を強要した。 また,被告Dは,平成8年5月7日にCがH医師の診断書に基づき長期療養願いを申し出たところ,Cの主治医であるH医師に連絡して自律神経失調症の程度や原因を確認したり,診断書に記載されたとおりの休暇を認める等の措置をとらなかったばかりか,Cに対し,同診断書を突き返した上,「自律神経失調症とは気違いのことだ」「これで休んだら皆から気違いと見られるぞ」と脅して,休暇を認めなかった上,Iへの同事実の報告を怠り,更には論文提出,面接,通信教育,自己学習,レポート提出,集合研修,最終選考を内容とし,東京での市場調査など膨大な準備と努力が必要とされる主事試験の受験を強力に勧めた。 被告会社は,被告Dに対し,上記のような行動に出ないようにする安全教育を十分に施さなかった。 (被告らの主張)Cの被告会社部品部企画課長としての仕事の内容,勤務時間,人間関係は,同課長に昇進する以前とほとんど変わっておらず,特段過剰なものではないし,Cは,以前に同課長の代行を務めたこともあった上,同昇進は,事前にC自身の意思確認を行った上でされたものである。 Cには懲戒事由もなく,労働組合員であったから,被告Dの一存でCを懲戒解雇することや,Cの希望で降格することはそもそもできなかったし,被告DがCの自殺未遂を知っており,Cと被告Dとの関係が悪化していて,原告らがCの円満退社を望んでいたのであれば,被告Dにとっては,Cに退職願を提出させ,自己都合退職とすれば足りた。被告Dは,原告A及びFの依頼に基づきCが退職を思いとどまるようCを励まし,時 いて,原告らがCの円満退社を望んでいたのであれば,被告Dにとっては,Cに退職願を提出させ,自己都合退職とすれば足りた。被告Dは,原告A及びFの依頼に基づきCが退職を思いとどまるようCを励まし,時には叱責する演技をしたにすぎない。また,降格はCに羞恥心を与えるものであったし,配置転換は却って業務の負担を増やすだけであったから,とるべき処置としても不相当であった。 被告らは,Cがうつ病患者である旨を知らされていなかったし,Cの診断書はC自身が速やかに撤回したのであって,被告Dは,Cの休養を認めなかったわけではなく,原告ら及びCは,その後,同診断書について,Iに提出したり,会社に郵送することは容易であったのに再提出することはなかったから,作成医師の氏名・住所は認知できなかった。 被告会社がCの主事試験受験の推薦を決め,これが被告Dに達したのは平成8年5月下旬であったし,受験するか否かは全く当人の自由であり,被告Dは,Cに対し,同試験受験の機会を失わせないようにすべく,受験の意思の有無を打診したにすぎなかった。また,同試験受験の準備は,病院への通院が不可能になるほどのものではなかったし,その内容は,論文作成と通信教育受講だけであり,市場調査なるものは含まれていなかった。 (3) Cがうつ病に罹患していたか否か(原告らの主張)Cは,短期間での体重増加,頭痛,不眠,易疲労感,焦燥感,出社拒否などの意欲・活動力の減退,無価値感(微小念慮),強い不安感,自責感の各症状を示し,自殺未遂を起こすなどしていたから,遅くとも平成8年4月にはうつ病に罹患していた。 (被告らの主張)Cが自殺するまでの間に,同人がうつ病であったとの診断結果はなく,実際上も,Cの勤務状況からしてうつ病に罹患していたとは考えられないし,うつ病を前提とした診療も行われていな た。 (被告らの主張)Cが自殺するまでの間に,同人がうつ病であったとの診断結果はなく,実際上も,Cの勤務状況からしてうつ病に罹患していたとは考えられないし,うつ病を前提とした診療も行われていない。 (4) 被告らの行為とCの自殺との因果関係の有無(原告らの主張)Cは,課長昇進に伴う職責の変化,被告D及び部下との人間関係にストレスを感じていたところ,被告Dの前記行為により,同ストレスから逃れることはおろか,更なるストレスを与えられたため,精神疾患を悪化させ,自殺した。 (被告らの主張)H医師が診断書に休養が必要である旨記載したのは,Cが希望したからにすぎず,その後の診察は,Cが休暇をとっていないことを前提に行われていた。 Cが精神的なストレスを感じていたとすれば,その原因は,むしろ,父Eの病気・痴呆に対する不安や,それにより原告らへ負担をかけていることの重圧・罪悪感,Eの死亡による喪失感にあった。実際,Eが死亡し,その相続処理が最終的に終了したのはCの自殺直前の平成8年9月17日であったし,Cは原告らに無断で,平成7年2月下旬及び平成8年8月23日から同月25日まで外泊したり,行き先を訪ねた原告Aに対し,虚偽の行き先を告げたりしていた。 (5) 損害(原告らの主張)ア Cに生じ,原告らが相続した損害(ア) 逸失利益原告ら各3095万4631円Cの平成7年の年収731万5908円を基礎とし,労働能力喪失期間を67才までの21年,生活費控除率を40パーセントとして,新ホフマン係数(14.1038)により中間利息を控除すると,Cの逸失利益は次のとおり6190万9262円である。 731万5908円×(1-0.4)×14.1038=6190万9262円(イ) 慰謝料原告ら各1500万円Cが被った精神的損害に対する慰謝料とし 利益は次のとおり6190万9262円である。 731万5908円×(1-0.4)×14.1038=6190万9262円(イ) 慰謝料原告ら各1500万円Cが被った精神的損害に対する慰謝料としては3000万円を下らない。 イ原告Aに生じた損害(ア) 葬儀費用 261万7572円(イ) 退職金 1713万6350円被告会社の退職金支給細則第7条,第12条に基づき,Cの退職時の基本給38万3000円,勤続年数26年6か月(昭和45年4月から平成8年9月まで)に対応する退職金額を計算すると,次のとおり1713万6350円である。 38万3000円×(30.45+8.00)+241万円=1713万6350円(ウ)a 弔慰金 2200万円b 香典 50万円被告会社の慶弔見舞金支給規定第11条1項,第13条基づく。 ウ弁護士費用本件の弁護士費用としては1200万円が相当であり,原告らが被った損害額により按分すると,次のとおりである。 (ア) 原告Aにつき 720万円(イ) 原告Bにつき 480万円エ小計(ア) 原告Aにつき 9540万8553円(イ) 原告Bにつき 5075万4631円オ原告Aは,被告会社から,退職金として1114万9181円を,弔慰金として50万円を,香典として20万円をそれぞれ受領した。 カ合計(ア) 原告Aにつき 8355万9372円(イ) 原告Bにつき 5075万4631円(被告会社の主張)ア被告会社がCに対し退職・降格等の処置をしなかったことを主張しつつ,課長の地位における収入を逸失利益の算定基礎とするのは矛盾しているし,原告の主張どおり退職の処置を採っていたとすれば,再就職は困難であったはずである。 イ Cは,業務上の理由に基づかずに死亡したのであるから,退職金等を支払う義務はないし, 礎とするのは矛盾しているし,原告の主張どおり退職の処置を採っていたとすれば,再就職は困難であったはずである。 イ Cは,業務上の理由に基づかずに死亡したのであるから,退職金等を支払う義務はないし,67才まで稼動することを前提に逸失利益を算定している以上,Cの死亡時における退職金・弔慰金を請求するのは不合理である。 (6) 過失相殺(被告らの主張)ア Cの故意・過失Cは勤続20年を超えるベテランであり,仕事内容や勤務時間等を調整することは容易であったにもかかわらず,休暇の理由を父Eの病気としたり,退職届を提出しなかったり,診断書を提出しても休暇取得を申し出ず,自らすぐに撤回したり,長年の友人であり信頼を置いていたFや被告DがCの勤務継続のために協力していたことを受け入れたり,主事試験を積極的に受験し,ゴルフ大会,花見にも参加したり,家族に理解・協力を求めることなく無断外泊を繰り返したり,自殺未遂や診断書を撤回したことをH医師に隠し,定期的な通院をしないなど病状の改善に努力しなかったりした。 イ原告らの故意・過失原告らは次のとおりCの勤務継続を望んでいた。 原告Aは,飲食店「だん家」においてFにCのことを相談した翌日である平成7年6月8日,Cを会社に送り出し,会社までCの後を尾行した上,Fに対し,会社前で躊躇するCを社屋へ連れ込むよう依頼し,Fから事後報告を受けた。また,原告Aは,被告Dに対し,平成8年4月22日,飲食店「カーサ」において,自殺未遂の報告も退職届の提示もせず,Cが勤務継続できるよう依頼し,同月23日,被告Dが原告ら宅を訪れた際,Cの退職を回避するよう求め,被告Dが勤務継続への説得をあきらめ,円満退社を考えるべく副事業部長を呼ぼうとしたのに対し,これを阻止した上,Cに対し,出社を迫り,同月24日,Cを迎えにきたF及 れた際,Cの退職を回避するよう求め,被告Dが勤務継続への説得をあきらめ,円満退社を考えるべく副事業部長を呼ぼうとしたのに対し,これを阻止した上,Cに対し,出社を迫り,同月24日,Cを迎えにきたF及びGに事情を質す等Cの出社を阻止する行動をすることもせず,Cを見送った。そして,原告Aは,H医師にも浦和市立病院にもCの自殺未遂の事実を伝えず,Cに対し,診断書の提出を確認することもなく,退職届の処理も任せており,その文面上の宛先であったIに提出することもしなかった。更に,原告らは,平成8年6月8日以降,Cの病状改善のための具体的な行動はとらなかった上,Cが自殺未遂に利用した自動車をそのまま使用させたり,原告Bが使用する自動車を被告会社の関連会社からリースで購入したり,被告Dに対し中元や梨を届けたり,特別休暇を利用した海外旅行を計画したりした。 (7) 損益相殺(被告会社の主張)被告会社は,原告Aに対し,退職金として1407万2400円を支払った。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(予見可能性の有無)について争いのない事実等(2)のとおり,Cは,同人に対する課長昇進の内示がされた平成7年2月8日以降,別紙事実経過一覧表Cの勤務状況欄記載のとおり断続的に被告会社を欠勤し,平成8年5月7日,被告Dに対し,H医師作成の診断書を提示しており,証拠(甲23,29,33,乙14の1,20,丙2,証人F,証人G,原告A,原告B,被告D)及び弁論の全趣旨によれば,被告Dは,上記のCの断続的な欠勤について知っていたこと,Fは,被告Dに対し,同欠勤の理由について,Eの看病のためである旨伝えていたこと,Cは,被告Dに対し,平成7年6月8日,Eの病状が芳しくないこと及び自分にとって課長職が負担であることを告げ,退職の意思を示したこと,被告Dは,Cの同相 いて,Eの看病のためである旨伝えていたこと,Cは,被告Dに対し,平成7年6月8日,Eの病状が芳しくないこと及び自分にとって課長職が負担であることを告げ,退職の意思を示したこと,被告Dは,Cの同相談に対し,同日,プレッシャーをかけない旨約束した程度ですませたこと,原告Aは,Fに対し,平成8年4月18日,Cが自殺未遂を起こしたことを告げたこと,Fは,その後,被告Dに対し,Cの自殺未遂の事実を告げたことが認められる。 以上の事実からすると,被告らは,Cに自殺の危険性があったことについて予見可能であったと認められる。 これに対し,被告らは,Cは,勤務状態も社内健康診断における健康状態も安定していたし,Cの自殺未遂について被告Dが知ったのは平成8年6月になってからであり,Cがうつ病であるとの診断を受けたことについては被告らは知らされてはいなかった上,本件診断書は,C自身が速やかに撤回したから,Cの自殺を予見することは不可能であった旨反論する。しかしながら,使用者は,日ごろから従業員の業務遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して従業員の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負うのであって,相当の注意を尽くせば,Cの状態が精神的疾患に罹患したものであったことが把握できたのであり,精神的疾患に罹患した者が自殺することはままあることであるから,Cの自殺について予見可能性はあったというべきである。 2 争点(2)(注意義務違反の有無)について証拠(甲2,3,4の1,2,27~29,33,乙14の1,20,丙2,証人F,証人G,証人H,原告A,原告B,被告D)及び弁論の全趣旨によれば,Cが平成8年4月18日に自殺未遂をした後,Fは,被告Dに対し,Cの欠勤の理由が自殺未遂であることについては被告Dで留めてほしい旨依頼したこと,被告Dは, 原告B,被告D)及び弁論の全趣旨によれば,Cが平成8年4月18日に自殺未遂をした後,Fは,被告Dに対し,Cの欠勤の理由が自殺未遂であることについては被告Dで留めてほしい旨依頼したこと,被告Dは,Cの自殺未遂の事実について,自らの判断で会社に報告しなかったこと,被告Dは,平成8年4月22日,原告A及びFとCに対する対応について話し合い,Cに勤務を継続させる方向で説得することを確認した上,翌23日,わざわざ原告ら方を訪れ,Cをかなり熱心に説得し,Cに出社を継続させるべく胸倉をつかむことまでしたこと,Cは,被告Dに対し,平成8年5月7日,Cについて自律神経失調症により1ヶ月の休養を必要とする旨記載されたH医師作成の診断書を提示したが,被告Dは,同診断書を提示したCに対し,この診断書を提出して被告会社を休むと気違いと思われる旨伝えたこと,被告Dは,Cに対し,同人が自殺未遂をした平成8年4月18日以前に「自殺できるものなら自殺してみろ」旨言ったことがあること,Cは,同診断書をすぐに撤回し,同診断書に記載されたような1か月の休養をとらなかったこと,被告Dは,Cの自殺未遂の事実及びCが同診断書を提示し,同診断書に1か月の休養を要する旨の記載があった事実を被告会社に報告しなかったこと,Cの課長昇進後の職務は,それ以前の職務に比べれば,高度かつ責任の重いものではあるが,特段過剰にはなっていないこと,主事試験を受験するか否かは従業員の自由とされていたことが認められる。 以上の事実からすれば,被告Dには,Cに対する悪意はなく,むしろCへの期待があったこと及び原告らの希望がCの勤務継続にあったことが窺われるが,被告DのCに対する対応は相当であったとはいえず,結局Cを追い詰めたものと認められる。使用者に代わって従業員に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者 らの希望がCの勤務継続にあったことが窺われるが,被告DのCに対する対応は相当であったとはいえず,結局Cを追い詰めたものと認められる。使用者に代わって従業員に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は,前述のような使用者の注意義務の内容に従ってその権限を行使すべき義務を負うというべきであり,Cに対し,業務上の指揮監督権限を有していた被告Dには,同義務に違反した過失があるというべきである。 3 争点(3)(Cがうつ病に罹患していたか否か)について証拠(甲2,3,乙18,証人H)によれば,Cがイサオクリニックにおいて初めて受診した平成8年5月1日,Cはうつ傾向にあったこと,H医師は,Cの状態について,診断書には自律神経失調症と,カルテには神経症及び出社拒否と記載したこと,同日には薬を処方せず,その後も,頭痛薬であるセデス,睡眠薬であるレンドルミン及び抗不安剤であるソラナックスを処方しているも,抗うつ剤は処方していないこと,神経症とうつ病とは連続性を有するとされていること,H医師はCが自殺未遂をしたことを知らなかったこと,自殺未遂の事実を知っていれば診断結果に違いが生じた可能性もあることが認められる。 以上の事実からすると,Cがうつ病に罹患していたか否かは必ずしも明らかでないが,自殺を惹起するような精神的疾患に罹患していたことは認められるというべきである。 4 争点(4)(因果関係の有無)について前記認定のとおり,Cの課長昇進後の職務は,それ以前の職務に比べれば,高度かつ責任の重いものではあるものの,特段過剰にはなっていなかったこと,Cは,課長に昇進したころから長期の休暇を断続的にとっており,原告A,被告D及びFは,平成8年4月22日,飲食店「カーサ」において話し合った際,Cの勤務を継続させる方向で一致し,翌23日,原告ら方においてCの に昇進したころから長期の休暇を断続的にとっており,原告A,被告D及びFは,平成8年4月22日,飲食店「カーサ」において話し合った際,Cの勤務を継続させる方向で一致し,翌23日,原告ら方においてCの勤務を継続させるべくCを説得していること,また,主事試験を受験するか否かは従業員の自由とされていること,証拠(甲1,3,4の1,2,23~28,乙14の1,20,証人F,証人G,証人H,原告A,被告D)及び弁論の全趣旨によれば,Cが課長に昇進したころ,父Eの痴呆が悪化し,勝手に徘徊したり,原告Aでは抑えきれないことがあったこと,Cは,原告Aに対し,Eの看病等をさせたことについて苦労をかけたと考えていたこと,H医師に対し,課長に昇格したことが非常に負担である旨申告していたこと,H医師は,Cについて,被告会社での勤務からしばらく離れることが必要であると診断していたこと,Cは,被告Dに対し,平成7年6月8日,Eの病状が芳しくないこと及び課長の職務が負担であることを理由として,退職の意思を表明したが,被告Dの理解を得られなかったこと,Cは,誰に対しても自分の悩みを具体的かつ詳細に相談したことはなかったことが認められる。 以上の事実によれば,Cの自殺は,Eの病状の悪化,それにより原告らに負担をかけていることへの後ろめたさ,Eの死亡,Cの生真面目かつ完全主義的で,自分の悩みを他人に話すことを苦手とする性格,特に部下との関係を中心として,課長の職責を的確に果たせないことへの不満,上司である被告Dや妻である原告Aに自分の悩みを理解してもらえず,仕事に追い詰められていったことへの不満,精神的な支えとなっていたFの大阪への転勤等のすべてが原因となっているものと見るべきである。したがって,被告らの行為とCの自殺との間には因果関係は認められるものの,Cの昇進後の職 ったことへの不満,精神的な支えとなっていたFの大阪への転勤等のすべてが原因となっているものと見るべきである。したがって,被告らの行為とCの自殺との間には因果関係は認められるものの,Cの昇進後の職務に対する労働が過剰な負担を課すものとはいえないこと,Cの置かれた状況において,誰もが自殺を選択するものとは言えず,本人の素因に基づく任意の選択であったという要素を否定できないことに鑑みると,Cの自殺という結果に対する寄与度については,C本人の固有のものが7割であって,被告らの行為によるものは3割であると見るのが相当である。 5 争点(5)(損害),争点(6)(過失相殺)及び争点(7)(損益相殺)について(1) 逸失利益原告ら各2813万9396円ア Cの平成7年における年収(争いがない) 731万5908円イ生活費控除率 40パーセントウ就労可能年数 21年間死亡時の46才から67才までの21年間エウに対応する中間利息控除率  12.8211ライプニッツ係数による。 オ結論731万5908円×(1-0.4)×12.8211=5627万8792円(2) 慰謝料原告ら各1100万円(3) 葬儀費用 120万円(4) 退職金原告らは,Cの死亡が業務上のものであることを前提として,Cの死亡時の退職金を請求する趣旨と認められるところ,同退職金請求権は,Cの死亡によって発生するものではあるが,被告会社の退職金支給規則に基づき発生するものであって,同退職金は,被告らの不法行為によって発生した損害ではないというべきである。 (5) 弔慰金及び香典弔慰金及び香典の各請求権についても,Cの死亡によって発生するものではあるが,被告会社の慶弔見舞金支給規定に基づき発生するものであって,同弔慰金及び香典は,被告らの不法行為によって発生し 及び香典弔慰金及び香典の各請求権についても,Cの死亡によって発生するものではあるが,被告会社の慶弔見舞金支給規定に基づき発生するものであって,同弔慰金及び香典は,被告らの不法行為によって発生した損害ではないというべきである。 (6) 過失相殺 5割前記認定の事実,証拠(甲3,23~29,33,乙14の1,18,20,丙2,証人F,証人G,原告A,原告B,被告D)及び弁論の全趣旨によれば,原告Aは,飲食店「だん家」においてFにCのことを相談した翌日である平成7年6月8日,Cを会社に送り出し,会社までCの後を尾行した上,Fに対し,会社前で躊躇するCを社屋へ連れ込むよう依頼し,Fから事後報告を受けたこと,原告Aは,Cに対し,Cが自殺未遂に利用した自動車をそのまま使用させたこと,原告A,被告D及びFは,平成8年4月22日,飲食店「カーサ」において話し合った際,Cの勤務を継続させる方向で一致し,翌23日,原告ら方においてCの勤務を継続させるべくCを説得したこと,原告Aは,Cに対し,診断書の提出を確認することもなく,退職届の処理も任せており,その文面上の宛先であったIに提出することもしなかったこと,原告Bが使用する自動車を被告会社の関連会社からリースで購入したり,被告Dに対し中元や梨を届けたり,特別休暇を利用した海外旅行を計画したこと,C及び原告らは,自殺未遂や診断書を撤回したことをH医師に報告せず,定期的な通院をしなかったこと,Cは,自己の悩みを他人に率直に相談することはなかったことが認められる。 本件のような事案において,以上の事実を直ちに過失といえるかは問題があるが,以上の事実は原告らの領域で生じたことであり,自殺者本人を支える家庭の重要性を考慮すると,過失相殺類似のものとして,信義則上相殺すべきであり,その割合は5割と認めるのが相 といえるかは問題があるが,以上の事実は原告らの領域で生じたことであり,自殺者本人を支える家庭の重要性を考慮すると,過失相殺類似のものとして,信義則上相殺すべきであり,その割合は5割と認めるのが相当である。 (7) 損益相殺被告会社は,原告Aに対し支払った退職金は損益相殺すべきである旨主張するが,退職金は,労働者の在職中の労働に対する賃金の後払及び在職中の功労に報いる功労報償であり,不法行為による損害の填補を目的とするものとはいえないから,損益相殺の対象とはならないというべきである。 (8) 小計ア原告Aについて 605万0909円(2813万9396円+1100万円+120万円)×0.3×0.5=605万0909円イ原告Bについて 587万0909円(2813万9396円+1100万円)×0.3×0.5=587万0909円(9) 弁護士費用弁護士費用としては,認容額の1割が相当である。 ア原告Aについて 60万円イ原告Bについて 58万円(10) 合計ア原告Aについて 665万0909円イ原告Bについて 645万0909円 6 結論よって,原告らの請求は上記の限度で理由があるから,原告Aにつき665万0909円,原告Bにつき645万0909円の限度で認容することとし,主文のとおり判決する。 浦和地方裁判所第1民事部裁判長裁判官草野芳郎裁判官木本洋子裁判官樋口正樹

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