- 1 -主文 原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。 被告は,原告に対し,平成17年6月から本判決確定に至るまで,毎月17日限り金28万7100円及びこれらの金員に対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告に対し,平成17年6月から本判決確定に至るまで,毎年6月末日及び12月末日限り,金57万4200円及びこれらの金員に対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告に対し,金100万円及びこれに対する平成17年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用はこれを8分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 本判決は,第2項ないし第4項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求 主文第1ないし第3項と同旨 被告は,原告に対し,金300万円及びこれに対する平成17年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2本件事案の概要本件は,被告が従業員である原告を整理解雇したところ,原告は当該整理解雇は無効であると主張して,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び解雇の意思表示後の賃金,賞与の支払を求めるとともに,当該整理解雇は違法であるとして不法行為に基づき300万円の慰謝料の支払を求めた事案である。 争いのない事実等(証拠等により認定した事実は当該証拠等を文末に掲記し,当事者間に争いのない事実は証拠等を掲記しない)- 2 -(1)被告は,健康保険法に基づき設立された公法人であり,国の健康保険事業全般を代行することを主たる業務としている。被告の加入者は,主に自転車及び原動機付き自 実は証拠等を掲記しない)- 2 -(1)被告は,健康保険法に基づき設立された公法人であり,国の健康保険事業全般を代行することを主たる業務としている。被告の加入者は,主に自転車及び原動機付き自転車の製造,関連部品製造,卸売,競輪関係団体などであり,労働者及びその被扶養者の業務外の事由による疾病,負傷若しくは死亡,出産に関する保険給付を行い,このほか,疾病予防等の保健事業を営んでいる。被告の主な収入は,加入者からの毎月の保険料,賞与保険料である。 (2)原告は,平成10年12月21日,被告との間で,本俸月額20万9500円,支給日毎月17日,期間の定めなしとの約定で労働契約(以下「本件労働契約」という)を締結して被告に入社し,同日以降,総務課勤務を命じられた(甲2,10)。 (3)被告の就業規則によれば,解雇事由について,次のとおり規定している(甲1)。 第31条次の各号の1に該当するときは,30日前に予告するか,または30日分の平均賃金を支給したうえ解雇する。 (1)ないし(3)省略(4)その他やむを得ない事由によるとき(4)被告は,平成17年4月28日,原告に対し,「事業の運営上のやむを得ない事情により,健康相談室の廃止を行う必要が生じ,他の職務に転換させることが困難なため」という理由で,解雇予告を行い,同年5月31日をもって解雇した(甲5,以下「本件整理解雇」という)。 (5)本件整理解雇時の原告の本俸は月額27万2100円,住宅手当は月額1万5000円であった。また,原告は,被告から,平成16年6月,同年12月に,賞与として各57万4200円(本俸及び住宅手当の合計額28万7100円の2か月分)を受給していた。(甲3及び4の各1,2)(6)被告は本件整理解雇に基づき原告の就労を拒否しており,原告は本件整理解雇 して各57万4200円(本俸及び住宅手当の合計額28万7100円の2か月分)を受給していた。(甲3及び4の各1,2)(6)被告は本件整理解雇に基づき原告の就労を拒否しており,原告は本件整理解雇は無効であるとして争っている。そして,本件事案の概要の冒頭に記載- 3 -したとおり,原告は,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び本件整理解雇の意思表示後本件判決確定までの間の賃金,賞与の支払を求めるとともに,本件整理解雇は違法であるとして不法行為に基づき300万円の慰謝料の支払を求めているが,被告はこれらをいずれも争っている。 争点 (1)本件整理解雇は有効か(争点1)【被告】本件整理解雇は,次の事由に基づきなされたものであり,有効である。 ア人員削減の必要性(ア)被告は,ここ30年以上にわたり,加入組合員数,被保険者数ともに長期逓減傾向が著しく,健康相談室を設置した昭和45年比で,加入組合数(事業所数)は半減,被保険者数は60%減と財政は逼迫した状況にある。 (イ)被告は,平成16年6月に,同じビルに存在している訴外東京自転車厚生年金基金(以下「基金」という)と双方の事務,経理等の合理化のための合同委員会を設置し,被告については,相当以前から基金との「専従常務理事」の兼務,被告の総務部長の業務部長職との兼務,レセプト(医療費の請求書,病院が健康保険の報酬を被告に請求するために提出された明細書)業務職員の1名削減などの合理化方策を実施してきた。合同委員会は,健康相談室の本来の利用が殆どなく,全く機能していないことから,健康相談室を廃止する方針を確認した。被告は,平成17年2月23日開催の理事会で,正式に健康相談室の閉鎖を決定し,同年3月一杯で嘱託医との契約を解約し,続いて同年4月6日の理事会で,保 いことから,健康相談室を廃止する方針を確認した。被告は,平成17年2月23日開催の理事会で,正式に健康相談室の閉鎖を決定し,同年3月一杯で嘱託医との契約を解約し,続いて同年4月6日の理事会で,保健師である原告の解雇を決定した。 イ人選の合理性- 4 -(ア)被告は,最初から前任の保健師の欠員補充を目的として従業員を募集し,原告もそのことを認識して被告に応募し,保健師として採用された。 (イ)被告は,前記のとおり,健康相談室を廃止し,同室で保健師の資格を活かして働いていた原告を解雇したものである。 ウ手続の相当性被告は,労働基準法による予告期間を踏まえて,平成17年4月28日,原告に対し,解雇予告をした。そして,被告の理事は,同日午後4時27分から同5時37分過ぎまでの間,原告に対し解雇予告に至った経緯について説明をし,原告の理解を得た。このことは,原告が,被告から退職金を異議なく受領していることからも明らかである。 【原告】本件整理解雇が有効であるためには,人員削減の必要性,解雇回避努力義務の履行,人選の合理性,説明協議義務の履行の4要件を満たす必要があるところ,本件整理解雇は,いずれの要件も満たしていない。 ア第1要件(人員削減の必要性)(ア)被告は,健康相談室の廃止を整理解雇理由としている。しかし,原告は,健康相談室の業務には,1週間にわずか2時間程度しか就いていない。したがって,健康相談室が廃止されたからといって,原告の被告における業務自体が失われたわけではなく,健康相談室の廃止が原告の解雇についての経営上の必要性を裏付けるものではあり得ない。 (イ)被告は,平成15年度に1億0535万円,同16年度に1億1033万円の黒字を計上している。また,被告は,平成16年度決算において約8億円の剰余金を計上し,同17 付けるものではあり得ない。 (イ)被告は,平成15年度に1億0535万円,同16年度に1億1033万円の黒字を計上している。また,被告は,平成16年度決算において約8億円の剰余金を計上し,同17年3月分からは保険料率を引き下げている。このように,被告は,そもそも黒字基調の経営をしている。 (ウ)被告は,原告を解雇した翌日,従業員を新規に採用している。 - 5 -(エ)以上のとおり,被告においては,本件整理解雇時において,人員削減の必要性はまったくなかった。 イ第2要件(解雇回避努力義務の履行)被告は,本件整理解雇に際し,経費削減,新規採用の停止,労働時間短縮や賃金カット,希望退職募集など他の雇用調整手段によって解雇回避の努力をする信義則上の義務を負っているところ,本件整理解雇に際し,上記のような解雇回避努力を一切行っていない。かえって,被告は,前記ア(ウ)のとおり,本件整理解雇直後に従業員を新規に採用している。 ウ第3要件(人選の合理性)原告は,被告職員の中でも経験,知識,勤務態度ともに最も優れた職員であり,およそ原告を整理解雇する理由はない。 エ第4要件(説明協議義務の履行)被告は,本件整理解雇に際し,原告との間で,本件整理解雇についての説明,協議を一切しておらず,また,代償措置も講じていない。 オ以上によれば,本件整理解雇は整理解雇の有効要件である4要件をいずれも満たしておらず,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当として是認できないから,解雇権の濫用として無効である。 (2)本件整理解雇は違法として不法行為に該当するか(争点2)【原告】本件整理解雇は,法的に有効とされる余地がないのにもかかわらず行われた違法なものであり,不法行為を構成する。本件整理解雇は,原告の復職希望を不当に拒絶し,出産を控えた原告に著しい 争点2)【原告】本件整理解雇は,法的に有効とされる余地がないのにもかかわらず行われた違法なものであり,不法行為を構成する。本件整理解雇は,原告の復職希望を不当に拒絶し,出産を控えた原告に著しい精神的苦痛を与えた。したがって,本事案においては,原告に対し,地位確認と就労拒絶期間の賃金及び賞与の支払を認めただけでは原告の上記精神的苦痛は慰謝されない。そして,本件整理解雇と相当因果関係のある原告の精神的損害の額は300万円を下らない。 - 6 -【被告】争う。 第3 判断 認定事実本件整理解雇の効力(争点1)及び違法性の存否(争点2)を判断するに当たっては,被告の組織,財政状態,原告の担当職務,本件整理解雇に至る経緯等をみておくことが必要となるので,まず,この点について判断する。前記争いのない事実等,証拠(文末に掲記したもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1)被告の組織等ア被告は,健康保険法に基づき昭和34年8月に設立された公法人であり,国の健康保険事業全般を代行することを主たる業務としている。被告の加入者は,主に自転車及び原動機付き自転車の製造,関連部品製造,卸売,競輪関係団体などであり,労働者及びその被扶養者の業務外の事由による疾病,負傷若しくは死亡,出産に関する保険給付を行い,このほか,疾病予防等の保健事業を営んでいる。被告の主な収入は,加入者からの毎月の保険料,賞与保険料である。(前記争いのない事実等(1),弁論の全趣旨)イ被告には総務課と業務課の2つの部署がある。被告は前記2部署以外に健康相談室を設けていた。健康相談室は独立した部署ではなく,毎週木曜日午前9時30分から同11時30分までの2時間開かれており,嘱託医であるA医師及び被告従業員1名が健康相談室の業務に当たっていた。 (甲16 を設けていた。健康相談室は独立した部署ではなく,毎週木曜日午前9時30分から同11時30分までの2時間開かれており,嘱託医であるA医師及び被告従業員1名が健康相談室の業務に当たっていた。 (甲16,乙5,証人B【5頁】,原告本人【1頁】)ウ被告の職員数は,平成15年1月31日時点で8名であったが,同16年1月31日時点では7名,同17年3月31日時点では6名,同18年6月1日時点では8名となっている。ちなみに,被告は,原告を本件整理解雇した翌日に,一般職員1名を新たに採用している。(乙5,9,証人- 7 -B【20頁】)(2)被告の財政状況被告の平成10年度から同16年度までの間の決算状況は,次のとおりである(甲8,9,乙5,証人B【6ないし9頁,13頁,16ないし19頁】)。 ア平成10年度(ア)被保険者数5671人(イ)収入22億7410万円(千円以下省略,以下同じ)(ウ)支出22億2701万円(エ)収支黒字4709万円(オ)準備金5億8833万円(カ)別途積立金2億2513万円(キ)退職積立金1億3575万円イ平成11年度(ア)被保険者数5408人(イ)収入21億3740万円(ウ)支出21億2718万円(エ)収支黒字1022万円(オ)準備金5億8833万円(カ)別途積立金1億1426万円(キ)退職積立金1億1975万円ウ平成12年度(ア)被保険者数5220人(イ)収入19億3674万円(ウ)支出18億2871万円(エ)収支黒字1億0803万円- 8 -(オ)準備金5億8833万円(カ)別途積立金1億6373万円(キ)退職積立金1億1975万円エ平成13年度(ア)被保険者数4924人(イ) 字1億0803万円- 8 -(オ)準備金5億8833万円(カ)別途積立金1億6373万円(キ)退職積立金1億1975万円エ平成13年度(ア)被保険者数4924人(イ)収入19億3083万円(ウ)支出18億8866万円(エ)収支黒字4217万円(オ)準備金5億8848万円(カ)別途積立金2億0689万円(キ)退職積立金9288万円オ平成14年度(ア)被保険者数4587人(イ)収入19億2958万円(ウ)支出19億0787万円(エ)収支黒字2171万円(オ)準備金5億6087万円(カ)別途積立金4041万円(キ)退職積立金6081万円カ平成15年度(ア)被保険者数4355人(イ)収入18億5310万円(ウ)支出17億4774万円(エ)収支黒字1億0536万円(オ)準備金5億6087万円(カ)別途積立金1億4576万円- 9 -(キ)退職積立金5999万円キ平成16年度(ア)被保険者数4263人(イ)収入18億1912万円(ウ)支出17億0878万円(エ)収支黒字1億1034万円(オ)準備金5億6087万円(カ)別途積立金2億2609万円(キ)退職積立金5999万円上記アないしキ及び弁論の全趣旨によれば,被告の被保険者数は年々減少してきているが,被告の収支は平成10年度から同16年度までは7期連続黒字であり,殊に,同15,16年度は連続して1億円を超える黒字を計上している。また,被告の平成15年度の準備金は5億6087万円,別途積立金は1億4576万円,退職積立金は約6000万円であるところ,同16年度には,準備金,退職積立金は同15年度と同額であるが,別 している。また,被告の平成15年度の準備金は5億6087万円,別途積立金は1億4576万円,退職積立金は約6000万円であるところ,同16年度には,準備金,退職積立金は同15年度と同額であるが,別途積立金は2億2609万円と増加しており,内部留保額も多く,財政的には当面心配のない状況にあったことが認められる。 (3)原告の入社と担当職務ア被告では,平成10年に,看護師の資格を有する総務課の職員1名が退職した。退職した職員は,健康相談室の業務のほか,総務課での仕事を担当していた。被告は,欠員を募集したところ,保健師及び看護師の資格を有する原告が応募した。被告は,平成10年12月21日,原告を採用し,同人との間で本件労働契約を締結し,同日以降,同人に総務課勤務を命じた。(前記争いのない事実等(2),甲10,証人B【2頁】)イ原告は,被告に採用されてから本件整理解雇通知を受けるまでの間,総務課において,総務部長の指揮のもと他の職員と同様に日常業務を行って- 10 -いた。すなわち,原告は,健康相談室が開設されている毎週木曜日の午前中だけは健康相談室で業務を行っていたが,それ以外は総務課において,①被保険者及び被扶養者の健康増進・保持に向けた継続的な保健指導,②医療を要する者に対して必要に応じた受診勧奨,③健診データに基づく分析,評価,健診事後フォローすることにより適正な医療給付への結びつけ,④健康管理事業の計画,実施,⑤個別健診データ管理,⑥加入事業所からの労働衛生を含めた相談,文書指導,⑦各保険給付担当者への専門的見地からの助言。⑧健診結果との照合に基づいた健診費用の支払,請求業務等の仕事を行っていた。(甲16,原告【1,2,4頁,14ないし18頁】(4)退職金規程の不利益変更問題の発生ア被告は,平成16年9月22日, 診結果との照合に基づいた健診費用の支払,請求業務等の仕事を行っていた。(甲16,原告【1,2,4頁,14ないし18頁】(4)退職金規程の不利益変更問題の発生ア被告は,平成16年9月22日,被告従業員に対し,現在の退職金規程を改正し,同17年3月31日付けで全員退職の手続をし,同日までの退職金を精算し,翌4月1日付けで全員再雇用とするとの案を提示した。これに対し,原告らは回答を留保し,被告に対し,何故退職金規程を変更しなければならないのかについて質問した。(甲16,原告本人【1頁】)イ被告理事長は,平成16年12月7日,原告ら職員に対し,退職金,賃金について,改定することを理事会で決定したと述べ,各人に対し,封書を交付した。原告ら職員らは,その場で封書を開封したところ,封書内の文書には,現行の退職金規程に比べ退職金が約70%も減額される内容の改正案が記載されていた。そこで,原告らは,被告に対し,改正の理由や必要性を質問したが,被告理事長らは理事会で決定したことであると述べるに止まった。(甲12,13,14の1及び2,同16,原告本人【1頁】)ウ原告らは,退職金規程の改定理由が不明でかつ大幅な減額であったため,上野労基署に労働相談をし,相談員の助言を参考にし,平成17年1月1- 11 -4日,被告を相手方として,労働条件の一方的な不利益変更無効の確認を求め,東京労働局による助言,指導の申請をした。東京労働局は,平成17年1月27日,被告理事長らを呼び,助言指導を行った。(甲16,原告本人【4頁】)エ被告理事長らは,平成17年2月3日,原告ら一般職員を集め,退職金規程改定について,説明をした。被告理事長は,説明の際,原告ら一般職員に対し,原告らの労基署に対する相談行為,東京労働局に対する申請行為について,被告理事会に 2月3日,原告ら一般職員を集め,退職金規程改定について,説明をした。被告理事長は,説明の際,原告ら一般職員に対し,原告らの労基署に対する相談行為,東京労働局に対する申請行為について,被告理事会に反旗を翻したことになると述べた。また,被告理事長は,原告に対し,責任をとって一緒にやめようと述べた。さらに,被告のC理事長代理は,被告の説明に納得しない原告らに対し,「被告にいてもらいたくない。辞めろとは言わない。去ってもらいたい。」と述べ,話し合いの途中で席を立った。(甲16,原告本人【4,5頁】)オ原告らは,平成17年2月18日,被告に対し,要望書を提出した。これに対し,被告は,理事会が開催される平成17年2月23日の開催直前である同日午後12時30分から10分間,原告らの話を聞くと回答し,同時刻ころから,原告らとの間の話合いが開始された。話合いの冒頭,原告が一般職員を代表して,今回の退職金規程改定の客観的根拠の提示を求めたが,被告理事長らからは原告らを納得させるだけの説明はなく,退職金規程改定はこれまでどおり実施すると回答した。これに対し,原告らは,退職金規程改定を一旦白紙に戻すよう要求したが,被告は,これを拒否した。当該話合いの最後に,被告のC理事長代理は,原告らに対し,「いずれにせよ,これで君らはいづらくなる。これで昇給もない。」と述べ,話合いは同日午後1時25分ころで終了した。(甲16,証人B【13ないし15頁】,原告本人【3ないし6頁】)(5)健康相談室の廃止ア被告の平成17年度予算では,健康相談室の経費が計上されていた。と- 12 -ころが,前記(4)オの話合いが行われた直後の平成17年2月23日開催の被告理事会において,原告が担当する業務の一部である健康相談室の廃止が議題として提出され,これが決定された。(甲1 - 12 -ころが,前記(4)オの話合いが行われた直後の平成17年2月23日開催の被告理事会において,原告が担当する業務の一部である健康相談室の廃止が議題として提出され,これが決定された。(甲16,証人B【9頁,13ないし15頁】,原告本人【3頁】)イ健康相談室の廃止は,昭和45年ころから嘱託医をしているA医師にも,保健師,看護師の資格を有し同相談室の仕事をしていた原告にも,事前に何らの相談もなく,決定された(甲16,原告本人【2,6頁】)。 ウ被告のB常務理事は,平成17年2月24日(木曜日),A医師に対し,同17年度から健康相談室を廃止するので,同年3月31日付けで同相談室での仕事を終えてほしいと述べた。A医師は,平成17年4月1日以降,健康相談室での仕事には従事していない。(甲16,証人B【15頁】,原告本人【6頁】)(6)本件整理解雇の通知に至る経緯ア被告は,平成17年2月28日,原告ら職員に対し,退職金規程改定はせず,従前どおりの規程を適用すると発表した(甲16,原告本人【1頁】)。 イ被告理事長は,平成17年4月1日,原告に対し,東京社会保険事務局に被告の健康相談室廃止や内情について相談しているのは原告かと尋ねた。 原告は,被告理事長に対し,「犯人捜しのようなことはやめてもらいたい」「B常務理事,D総務部長に話をしても埒があかないので,相談した」などと述べた。これに対し,被告理事長は,原告に対し,以後,そのような行為をしないように注意をした。(甲16,原告本人【1頁】)ウ原告は,平成17年4月11日,被告のE常務理事に対し,妊娠していること,里帰り出産を予定していることを伝えた。E常務理事は,平成17年4月19日,職員全員に,同年12月までの隔週土曜日出勤当番表を配布したが,当該当番表には,原告の名前も記 事に対し,妊娠していること,里帰り出産を予定していることを伝えた。E常務理事は,平成17年4月19日,職員全員に,同年12月までの隔週土曜日出勤当番表を配布したが,当該当番表には,原告の名前も記載されていた。(甲15,- 13 -16,原告本人【7頁】)エ被告理事長は,平成17年4月28日,原告に対し,解雇予告通知書を交付し,本件整理解雇の意思表示をした。原告は,解雇予告通知書の解雇理由に,「健康相談室の廃止を行う必要が生じ,他の職務に転換させることが困難なため」と記載されていることについて,原告の健康相談室での勤務時間は週2時間であると述べたところ,被告理事長は「そんなの知らなかった」と主張するのみであった。そして,被告理事長は,原告に対し,既に,原告の代わりに別の人を雇うことが決まっていると述べた。なお,原告,被告双方とも,本件整理解雇通知時までに,原告を他の職務に転換させる可能性について話し合ったことはないし,職員に対し希望退職を募ったこともない。(前記争いのない事実等(4),甲16,原告本人【7,8頁】)オ原告は,平成17年5月31日で被告を解雇され,被告は,翌日,原告の代わりに別の人を職員として採用した(甲5,原告本人【8頁】)。 本件整理解雇の有効性について(争点1)(1)判断の枠組み整理解雇が有効か否かを判断するに当たっては,人員削減の必要性,解雇回避努力,人選の合理性,手続の相当性の4要素を考慮するのが相当である。 被告である使用者は,人員削減の必要性,解雇回避努力,人選の合理性の3要素についてその存在を主張立証する責任があり,これらの3要素を総合して整理解雇が正当であるとの結論に到達した場合には,次に,原告である従業員が,手続の不相当性等使用者の信義に反する対応等について主張立証する責任があること 立証する責任があり,これらの3要素を総合して整理解雇が正当であるとの結論に到達した場合には,次に,原告である従業員が,手続の不相当性等使用者の信義に反する対応等について主張立証する責任があることになり,これが立証できた場合には先に判断した整理解雇に正当性があるとの判断が覆ることになると解するのが相当である(同旨,東京高判昭和54.10.29判時948号111頁・東洋酸素事件,東京地判平成15.8.27判タ1139号121頁・ゼネラル・セミコンダク- 14 -ター・ジャパン事件,東京地決平成18.1.13判時1935号168頁コマキ事件)。以下,このような観点から,本件整理解雇の有効性の有無について検討することにする。 (2)人員削減の必要性前記1(1)イ,ウ,(2),(3)で認定した事実によれば,①確かに,被告の被保険者数は年々減少してきているが,被告の収支は平成10年度から同16年度まで7期連続黒字であり,殊に,同15,16年度は連続して1億円を超える黒字を計上していること,また,同15年度の準備金は5億6087万円,別途積立金は1億4576万円,退職積立金は約6000万円であるところ,同16年度には,準備金,退職積立金は同15年度と同額であるが,別途積立金は2億2609万円と増加しており,内部留保額も多く,財政的には当面心配のない状況にあること,②被告は原告を本件整理解雇の翌日に原告の代替職員を採用していること,③原告の健康相談室での勤務時間は1週間にわずか2時間であることが認められる。 以上のような被告の財政状態,職員の採用状況に照らすと,被告においては,本件整理解雇時に人員削減の必要性があったということはできない。 (3)解雇回避努力前記1(6)エ,オで認定した事実及び弁論の全趣旨によれば,被告は,本件整理解雇時まで 照らすと,被告においては,本件整理解雇時に人員削減の必要性があったということはできない。 (3)解雇回避努力前記1(6)エ,オで認定した事実及び弁論の全趣旨によれば,被告は,本件整理解雇時までに原告を他の職務に転換させる等の話し合いなどしたことがなく,その他解雇回避努力を尽くした形跡はないこと,かえって,原告を整理解雇した直後に新たに原告の代替職員を採用していることが認められる。 以上によれば,被告は,本件整理解雇に際し,解雇回避努力を尽くしたとはいえない。 (4)人選の合理性被告は,健康相談室の廃止に伴い,原告を整理解雇したと主張する。しかし,前記1(1)イ,(3)で認定した事実によれば,原告が担当していた健康相- 15 -談室での担当業務は木曜日の午前中だけの執務であり,原告の大部分の職務は総務課での業務であることが認められ,そうだとすると,健康相談室廃止に伴い,原告を整理解雇の対象に選ぶ合理性は乏しいというべきである。 以上によれば,本件整理解雇には,人選の合理性があるということはできない。 (5)小括前記(2)ないし(4)で検討したとおり,本件整理解雇には,人員削減の必要性,解雇回避努力,人選の合理性について,いずれの要素についても立証がされていないというべきであり,本件整理解雇は有効ということはできない。 したがって,この点の被告の主張(抗弁)は,その余の点を判断するまでもなく理由がないということになる。 本件整理解雇の違法性について(争点2)前記2で判断したとおり,本件整理解雇は,解雇の要件を満たしていないにもかかわらず行われた,解雇権を濫用したものであり,違法というべきである。 そして,本件整理解雇が行われた経過をみてみると,前記1(4)ないし(6)及び弁論の全趣旨によれば,①被告において退職金規程を改定し,職 ず行われた,解雇権を濫用したものであり,違法というべきである。 そして,本件整理解雇が行われた経過をみてみると,前記1(4)ないし(6)及び弁論の全趣旨によれば,①被告において退職金規程を改定し,職員の退職金を減額しようとしたところ,原告ら職員はこれに反対し,労基署,東京労働局に相談したこと,②被告は,原告らの外部機関への相談行為を嫌悪したこと,③原告は,被告の健康相談室廃止について東京社会保険事務局に相談したこと,④被告は,原告の前記③の行為を注意したことが認められる。 以上の認定事実によれば,被告は,退職金規程の改定,健康相談室廃止などの施策を実施しようとしたところ,これに反対する原告が外部機関に相談することを快く思わず,整理解雇の要件がないにもかかわらず,本件整理解雇を強行したと認めるのが相当である。そうだとすると,本件整理解雇は不法行為を構成するというべきであり,当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。 原告の請求はどの範囲で理由があるか- 16 -(1)地位確認請求前記2でみてきたとおり,本件整理解雇は無効である。したがって,原告が被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることについての確認請求は理由がある。 (2)賃金請求(バックペイ)ア原告は,被告に対し,本件整理解雇後の平成17年6月から本判決確定に至るまで,毎月17日限り賃金・住宅手当として28万7100円及びこれらの金員に対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 イ前記争いのない事実等(2),(5),(6)によれば,①被告の給与支給日は毎月17日であること,②本件整理解雇時の原告の本俸は月額27万2100円,住宅手当は1万5000円であること,③被告は本件整理解雇に基づき原告の就労を拒否していることが認められる 告の給与支給日は毎月17日であること,②本件整理解雇時の原告の本俸は月額27万2100円,住宅手当は1万5000円であること,③被告は本件整理解雇に基づき原告の就労を拒否していることが認められる。 ウ前記イに照らすと,本件整理解雇が無効な本件にあっては,前記アの原告の請求は理由があるということになる。 (3)賞与請求ア原告は,被告に対し,賞与として,平成17年6月から毎年6月末日及び12月末日限り,金57万4200円及びこれらの金員に対する各支払日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 イ前記争いのない事実等(5),証拠(甲2,証人B【16頁】,原告本人【1,2頁】)及び弁論の全趣旨によれば,①被告の職員給与規程11条によれば,賞与は,6月1日及び12月1日に在職する職員に対して,その日から15日以内に支給するものとし,その額は理事長がこれを決定すると規定していること,②賞与は職員に一律に支払われていること,③被告は職員に対しこれまで6月,12月に本俸及び住宅手当の合計額の2か月分を支給していたこと,④原告は,被告から,平成16年6月,同年1- 17 -2月に,賞与として各57万4200円(本俸及び住宅手当の合計額28万7100円の2か月分)を支給されたことが認められる。そうだとすれば,本件整理解雇が無効であり,原告が従前どおり被告において勤務していれば,原告は,被告から,平成17年6月以降,毎年6月末日及び12月末日,本俸及び住宅手当の2か月分である57万4200円の支払を得られていたであろうことが推認することができ,この判断を覆すに足りる的確な証拠は存在しない。 ウ以上によれば,本件整理解雇が無効である本件においては,原告の前記アの賞与請求は理由があるということになる。 (4)慰謝料請求 認することができ,この判断を覆すに足りる的確な証拠は存在しない。 ウ以上によれば,本件整理解雇が無効である本件においては,原告の前記アの賞与請求は理由があるということになる。 (4)慰謝料請求ア原告は,本件整理解雇は違法であるとして,被告に対し,慰謝料300万円及びこれに対する平成17年6月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 イ一般に,解雇された従業員が被る精神的苦痛は,解雇期間中の賃金が支払われることにより慰謝されるのが通常であり,これによってもなお償えない特段の精神的苦痛を生じた事実が認められるときにはじめて慰謝料請求が認められると解するのが相当である(同旨東京地判平成15.7. 7労判862号78頁・カテリーナビルディング事件)。 ウこれを本件についてみるに,前記1(6)ウ,前記3,証拠【甲16,原告本人【9,10頁】)及び弁論の全趣旨によれば,①本件整理解雇は,被告において,退職金規程の改定,健康相談室廃止などの施策を実施しようとしたところ,これに反対する原告が外部機関に相談すること等を快く思わず,整理解雇の要件がないにもかかわらず,本件整理解雇を強行したとこと,②原告は本件整理解雇時妊娠しており,被告は当該事実を知っていたこと,③原告は被告に対し本件整理解雇を撤回し,原職に復帰させるよう要求したが拒否されたことが認められる。 - 18 -エ以上によれば,原告は,本件整理解雇により,解雇期間中の賃金が支払われることでは償えない精神的苦痛が生じたと認めるのが相当であり,本件整理解雇の態様,原告の状況等本件証拠等から認められる本件整理解雇の諸事情に照らすと,その慰謝料額は100万円が相当であり,当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。よって,原告の慰謝料請求は100万円の支払を求める限 の状況等本件証拠等から認められる本件整理解雇の諸事情に照らすと,その慰謝料額は100万円が相当であり,当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。よって,原告の慰謝料請求は100万円の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し,その余は理由がないのでこれを棄却することにする。 結論 以上によれば,本件整理解雇は無効かつ違法であり,原告の被告に対する請求は,①地位確認請求,②平成17年6月から本判決確定に至るまで,毎月17日限り賃金28万7100円の支払請求,③平成17年6月から本判決確定に至るまで,毎年6月末日及び12月末日限り,賞与57万4200円の支払請求,④慰謝料100万円の支払請求の限度で理由があるのでこれを認容し,その余の慰謝料請求は理由がないのでこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第36部難波孝一裁判官
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