平成16(わ)283 承諾殺人被告

裁判年月日・裁判所
平成16年10月26日 甲府地方裁判所
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判決文本文2,200 文字)

主文 被告人を懲役3年に処する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 理由 【認定事実】(犯行に至る経緯)被告人は,生来病弱で,就労して自活していくことが困難であったことから,平成5年ころから,東京都町田市内や神奈川県相模原市内のアパートで長女Aと同居し,同女の収入を頼りに生活していたところ,平成14年ころ,両足が攣って全身に激痛が走る原因不明の病気にかかり,激しい肉体的苦痛を伴う深刻な症状に苦しめられることになった上,平成15年夏ころには,呼吸がおかしくなる症状も出て,心臓弁膜症(僧帽弁狭窄症)と診断されるなどの出来事が重なり,同年8月ころから,足が攣って全身に激痛が走ったときなどに,長女Aに対し,「もう,こんな身体いらんわぁ,死にたい。」などと度々洩らすようになった。一方,長女Aも,平成12年10月ころ,重度の椎間板ヘルニアを発症し,酷い腰痛に苦しめられるようになったが,被告人から上記のような愚痴を度々聞かされているうちに,自分の腰痛の苦しさもあって,生きていくのが辛くなり,早く楽になりたいという思いから自殺を考えるようになり,平成15年9月ころ,それまで勤めていた職場を突然に退職し,平成16年1月ころ,インターネットで多量の睡眠薬を購入するなどの行動に出た。被告人は,長女Aが多量の睡眠薬を購入したことを知り,また,同女から「(購入した睡眠薬の)半分はお母さんのだからね。」と言われたことで,同女が自分と一緒に自殺するつもりであることを知ったが,自らも激しい肉体的苦痛を伴う深刻な病気に苦しめられていたこともあって,同女を翻意させる気になれなかったばかりか,かえって,長女Aと一緒に逝けるという安堵感とともに,同女と一緒に自殺する決意を固めてしまった。こう 苦痛を伴う深刻な病気に苦しめられていたこともあって,同女を翻意させる気になれなかったばかりか,かえって,長女Aと一緒に逝けるという安堵感とともに,同女と一緒に自殺する決意を固めてしまった。こうして,被告人と長女Aとは,ともに心中する決意を固め,以後,身の回りの荷物の整理を進め,同年6月中旬ころ,リサイクルショップに家財道具一式を売却した上で,それまで居住していたアパートを引き払った。以後,両名は,ホテルを転々とした末に,予め二人の死に場所と決めてあった山梨県の青木ヶ原樹海に至った。 (犯罪事実)被告人は,平成16年7月9日ころ,山梨県南都留郡ab番地c売店北西方約200メートルの青木ヶ原樹海内において,長女A(当時40歳)の承諾を得て,殺意をもって,所携のナップサックの紐を同女の頸部に巻き付けて強く締め付けるなどし,よって,そのころ,同所において,同女を窒息死させて殺害した。 【法令の適用】被告人の判示所為は刑法202条後段に該当するところ,所定刑中懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 【量刑の理由】本件は,判示のとおりの経緯で,被告人が長女とともに心中を企て,長女の承諾を得た上で同女を殺害し,その直後,自らも自殺しようとしたが被告人のみが生き残ったという事案である。 病気の影響で気力,体力が衰えているときに,理性的な判断をすることは相当に困難であることを思うと,判示の経緯の中で被告人が被害者とともに心中する決意を固めてしまった心情にはまことに惻隠の情を禁じ得ないものがあり,本件の殺人については,被害者自身が相当に強い決 とは相当に困難であることを思うと,判示の経緯の中で被告人が被害者とともに心中する決意を固めてしまった心情にはまことに惻隠の情を禁じ得ないものがあり,本件の殺人については,被害者自身が相当に強い決意で心中の覚悟を固めていたことに疑いの余地はないけれども,いかなる事情があったにせよ,人一人の命を奪った被告人の責任は重いといわなければならず,同種事犯の再発を防止するためにも,被告人に対しては,厳しい処罰態度で臨む必要がある。 しかしながら,他方で,被告人が苦労して慈しみ育ててきた我が子を道連れにして自殺しようとまで思い詰めた心情には同情するべきものが多分に認められ,そこに利欲的な動機は一切認められないし,被害者を殺害する前後の状況からは,母親として被害者を思う気持ちが如実にうかがわれること,被告人は,我が手で娘の命を奪ってしまったことの罪深さに自らも苦しんでおり,本件を真摯に反省し,被害者の冥福を心から祈っていること,被告人の実弟が遠方より被告人のために情状証人として出廷し,社会復帰後の被告人を引き取り,被告人の更生を支えていく旨を述べていること,その他,被告人には前科前歴がないことなど,被告人のために斟酌するべき事情も認められる。 そこで,これらの被告人に有利,不利な一切の事情を総合し,主文の刑を定めて,その刑の執行を猶予し,社会生活を送る中で被害者の冥福を祈る機会を与えることとした。 (出席した検察官佐藤方生,国選弁護人堀内寿人)(検察官の求刑懲役3年)平成16年10月26日甲府地方裁判所刑事部裁判官柴田誠 裁判官柴田誠

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