昭和39(ワ)871等 朝日タクシー割増賃金請求

裁判年月日・裁判所
昭和45年2月20日 福岡地方裁判所 小倉支部
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【DRY-RUN】主   文 原告らの請求を棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。        事   実  原告ら訴訟代理人は「被告は原告らに対しそれぞれ別表(一)請求金額合計欄記 載の各金額および右金額に対す

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判決文本文9,780 文字)

主文 原告らの請求を棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 原告ら訴訟代理人は「被告は原告らに対しそれぞれ別表(一)請求金額合計欄記載の各金額および右金額に対する本件訴状送達の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として「一、被告は北九州市<以下略>に本社および営業所を、門司駅構内および門司港駅構内に営業所を有してクシー業を営んでいる会社である。 二、原告らはいずれも被告会社に雇傭され、前記各営業所において自動車運転手として勤務している者である。 三、被告会社は、昭和三七年一〇月二六日から昭和三九年七月二五日までの間、原告らをして別表(一)記載のとおり労働基準法第三二条所定の通常の労働時間を超えて労働させおよび深夜に労働させた。これにより、原告らは、被告に対し、労働基準法第三七条、同法施行規則第一九条、第二〇条により、それぞれ別表(一)記載のとおり時間外(残業)および深夜割増賃金の支払請求権を有することとなったが、被告はその支払をしない。 四、別表記載金額の算定基準は次のとおりである。 (1) 「勤務日数」、「勤務時間数」、「残業時間数」、「深夜労働時間数」は出勤簿により計算した。 (2) 「当月基準内労働時間数」は八時間に勤務日数を乗じたものである。 (3) 「賃金日額」は昭和三七年四月被告会社と原告らの所属する労働組合との間に成立した口頭による賃金協定に基くものである。 (4) 「一時間当り残業賃金」は次により計算した。 「賃金日額」÷8(時間)×1.25(5) 「残業賃金」は「一時間当り残業賃金」に「残業時間数」を乗じたものである。 (6) 「一時間当り深夜業割増」は次により計算した。 「賃金日額」÷8(時間) 「賃金日額」÷8(時間)×1.25(5) 「残業賃金」は「一時間当り残業賃金」に「残業時間数」を乗じたものである。 (6) 「一時間当り深夜業割増」は次により計算した。 「賃金日額」÷8(時間)×0.25(7) 「当月深夜業割増分」は「一時間当り深夜業割増」に「深夜業時間数」を乗じたものである。 (8) 「請求金額」は「残業賃金」と「深夜業賃金」との合計である。 (9) 被告会社における原告らの勤務時間は左記のとおりである。 イ(昭和三七年一一月から昭和三八年六月まで)(A) 午前七時から午後一〇時三〇分まで(B) 午前八時三〇分から翌日午前〇時三〇分まで(C) 午前九時三〇分から翌日午前二時三〇分まで当直午後一時から翌日午前五時まで全B 午前九時から翌日午前一時まで(門司港駅勤務者)ロ(昭和三八年七月以降)早出午前六時から午後五時三〇分まで(A) 午前七時から午後一〇時まで(B) 午前九時から翌日午前〇時三〇分まで(C) 午前九時三〇分から翌日午前一時三〇分まで当直午後六時から翌日午前六時まで全B 午前九時から翌日午前一時まで勤務し、同日午前九時から翌日午前一時まで勤務し、同日午前七時から午後一〇時まで勤務する(その翌日は公休日)(門司港駅勤務者)」と述べ、被告の抗弁に対し「原告ら所属の労働組合と被告会社との間で、被告主張のような時間外および深夜割増賃金に関する賃金協定か成立した事実はなく前記主張の原告らの賃金日額は基本給のみを取決めたものである。従って、右協定に基いて原告らに対する所定の割増賃金は支払済であるとの被告の抗弁は否認する。仮に、被告主張のように前記原告らの賃金日額が時間外および深夜割増賃金を含むものとして協定されたものとしても、右協定は労働基準法第三七条、同法施行規則第一九条、第二〇条に違反し無効で 弁は否認する。仮に、被告主張のように前記原告らの賃金日額が時間外および深夜割増賃金を含むものとして協定されたものとしても、右協定は労働基準法第三七条、同法施行規則第一九条、第二〇条に違反し無効である。被告主張の基発二一八号の通達はタクシー業界内の賃金形態が刺戟的な歩合給、ノルマ主体制度が多く基本給(その計算については労働者各人によりまた時期により割増賃金の計算の基礎となる賃金に著しい変動があるので)を基礎に労働基準法第三七条、同法施行規則第一九条、第二〇条どおりの適用を行えば著しい欠陥が生じることから、これを避けるためになされたものであり、被告会社主張の如きどんぶり勘定を認めているものではない。しかも右通達はその後になされた昭和三三年四月一六日基発第二三七号労働省労働基準局長通達に明記されているとおり無効になっているのである。」と述べた。 被告訴訟代理人は、主文同旨の判決ならびに敗訴の場合の仮執行免脱の宣言を求め、答弁および抗弁として一、請求原因一、二の事実は認める。同三、四の事実のうち、昭和三七年一〇月二六日から昭和三九年七月二五日までの間、被告会社が原告らに別表(一)記載のように、時間外および深夜労働をさせたこと、右期間における被告会社の勤務時間、原告らの賃金日額、勤務日数、勤務時間数、残業時間数、深夜労働時間数が原告ら主張のとおりであること(但し賃金日額については原告aの昭和三七年一二月分、昭和三八年一二月分、同bの昭和三八年四月分、昭和三九年四月分、同cの昭和三八年八月分、同dの昭和三八年四月分、昭和三九年三月分、同eの昭和三七年一二月分、昭和三八年一二月分については少なくとも原告ら主張の金額であること)は認めるが、その余は争う。 二、しかし被告は原告らの右時間外および深夜労働に対する労働基準法第三七条、同法施行規則第一 一二月分、昭和三八年一二月分については少なくとも原告ら主張の金額であること)は認めるが、その余は争う。 二、しかし被告は原告らの右時間外および深夜労働に対する労働基準法第三七条、同法施行規則第一九条、第二〇条による時間外および深夜割増賃金は全部支払っている。すなわち(一) 被告会社では、昭和三五年一二月までは時間外および深夜割増分を含まない基本給(日給)を契約し、これを基礎に時間外および深夜労働の実績時間数に応じて時間外および深夜割増賃金を計算の上従業員に支払っていたところ、昭和三五年一二月被告会社に労働組合が結成され当該組合と被告会社間の賃金交渉が行われた際組合側の要求により、被告会社は組合との間で時間外および深夜割増を含む基本給の取決めをなし、昭和三六年一月分以後右協定に基づいて賃金の支払をなすこととした。右協定に際しては従前の時間外および深夜賃金の支給実績に照しこれを含めた基本給を算出しこれにベースアップを行い、かくして平均一一五円であった前基本給を新基本給では平均五〇〇円とすることとし、年功ランク別に左表のとおり新基本給の取決めがなされた。 <17659-001>昭和三七年五月七日被告会社は同労組との間で新たな賃金協定を締結した。この協定内容は乙第一八号証の一、二記載のとおりであるが、基本給部分においては昭和三六年一月実施の年功ランク別の基本給にそれぞれ一〇〇円を加算する取決めであった。従って、この時の基本給についても当然時間外、深夜手当等が含まれる賃金が踏襲されたわけである。また右協定においては従前の勤務体系が若干変更され、新勤務体系における(C)勤務が従来のそれより残業深夜時間が三〇分延長されたこと等の見返りとして、所定労働日を皆勤した場合には暦日数分(一日欠勤したときは暦日数より一日を差引いた日数)を基本給に乗じて 勤務体系における(C)勤務が従来のそれより残業深夜時間が三〇分延長されたこと等の見返りとして、所定労働日を皆勤した場合には暦日数分(一日欠勤したときは暦日数より一日を差引いた日数)を基本給に乗じて支給する旨の取決めもなされた。そして、被告会社はその後右協定に従い原告らに対する賃金の支給をなして来たのである。 (二) 被告会社が、原告らの所属する労組との間で取決めた前記賃金協定に基き、前記主張の期間中に原告らに支払った賃金額およびその内訳は別表(二)のとおりである。すなわち、前記原告らの賃金日額につき前記当該月の基準労働時間数、時間外および深夜労働時間数に従って法定基準どおりに逆算をすれば基準賃金(時間当り)を算出することができ(但し、右方法によると毎月の基準賃金が一定しないので、昭和三八年一月以降においては労働基準法どおりの形式計算を行うため、勤務時間の各月平均を推定の上基準賃金を一定にした)、これに法定の割増率を乗ずれば時間外賃金(時間当り)および深夜割増(時間当り)を算出できるので、右各金額に前記基準労働時間、時間外および深夜労働時間を乗ずることにより基準賃金、時間外割増賃金、深夜割増賃金の各月額を算出することができるわけである。なお、別表(二)に掲げる「調整給」とは賃金協定により当該月所定の労働日を満勤したときは賃金日額の三〇日分(小月の場合)二日欠勤したときは二八日分を支給(最右欄の「支給額」がこれに該当)する旨約されているため「賃金日額」×「勤務日数」額との差額分を記載している。また昭和三八年一月以降では先述のとおり「基準賃金(時間当り)」を基礎に算定した「基準賃金月額」「時間外賃金月額」「深夜割増月額」の合計額と賃金協定による支給額との差額分もここで加減している。 (三) 被告会社と同労組とが昭和三五年一二月および昭和三七 当り)」を基礎に算定した「基準賃金月額」「時間外賃金月額」「深夜割増月額」の合計額と賃金協定による支給額との差額分もここで加減している。 (三) 被告会社と同労組とが昭和三五年一二月および昭和三七年五月の団交で基本給に残業深夜手当を含めるに至った経緯は前記のとおりである。原告らは本訴において被告会社から基準労働時間八時間相当分の賃金しか支払を受けておらず時間外賃金および深夜割増が支払われていないと主張しているが、原告らはその主張のように被告会社との協定により基準労働時間の倍に近い超過労働時間の取決めをなしているのであり原告らはかかる長時間の時間外労働を現実に稼働しながら、これに対する賃金の支払を一度も受け取らず、また請求もしなかったというのであろうか。原告らは、賃金こそは労働者の唯一の生活費であるのに、この賃金が三万円程度のなかで毎月百数十時間もの時間外および深夜労働を行っていたにも拘らず、残業深夜手当分として原告らの主張によれば満勤月で一万五、〇〇〇円ないし二万円以上の賃金を、しかも昭和三六年一月以降昭和三九年一一月までの長時間、いやしくも労働組合に加入している多人数の原告らが受領していないのに唯一人として気付かなかったと強弁するのであろうか。本訴は将に理由のない云いがかり的な訴と云わざるを得ない。原告らは北九州方面では殆んどのタクシー会社が本件の場合と同様勤務時間を協定し賃金は時間外賃金、深夜割増を含めた日月給制で支払っていることを十分了知している筈である。そして、原告ら主張の各賃金日額を主張のように基準労働時間に対する賃金としてこれに残業深夜手当を加算すれば、原告らの賃金総額は莫大なものとなり、全国どこのタクシー会社でもそのような賃金を支払っているものはないのである。 (四) 右のような「残業深夜手当含みの基本給」についての法的 業深夜手当を加算すれば、原告らの賃金総額は莫大なものとなり、全国どこのタクシー会社でもそのような賃金を支払っているものはないのである。 (四) 右のような「残業深夜手当含みの基本給」についての法的根拠としてはタクシー業界の特例措置に関する通達(昭和三一年四月一七日基発第二一八号労働省労働基準局長通達「労働基準法施行規則第二六条改正に伴う特例の撤廃について」中の記三(3)の割増賃金の項)に「時間外、休日労働ないしは深夜の労働に対しては割増賃金を支払うこととなるが、その計算については労働者各々によりまた時期により割増賃金の計算の基礎となる賃金に著しい変動があるので、労使の合意により妥当なものが定められている場合には当分の間必ずしも機械的に計算することを要求しないこと」と定められており被告会社はこれに従ったものである。その後発せられた昭和三三年四月一六日基発第二三七号労働基準局長通達には「割増賃金は厳正に支払わせること」と記載されているが、これは割増賃金を労働基準法第三七条等に定めるとおり厳正に支払わせるようにとの指示をなしたものに過ぎず、その計算方法について必ずしも機械的に計算することを要求しないとの前通達を取消したものではない。前記基発第二一八号の通達は昭和四二年二月九日基発第一三九号労働基準局長通達(同通達は割増賃金につき「時間外労働、深夜労働および休日労働については労働時間に応じ法第三七条に規定する割増賃金を確実に支払うこと」と明記している)により取消されたものであって、この時点においてはじめて割増賃金は労働基準法第三七条に定めるとおりの計算方法で支払うことが要求されるようになったのである。」と述べた。 (証拠省略) 理由 一、被告会社が、北九州市<以下略>に本社および営業所を、門司駅および門司港駅構内に営業所 算方法で支払うことが要求されるようになったのである。」と述べた。 (証拠省略) 理由 一、被告会社が、北九州市<以下略>に本社および営業所を、門司駅および門司港駅構内に営業所を有してタクシー業を営んでいること、原告らがいずれも被告会社に自動車運転手として雇傭され、右各営業所に勤務していること、昭和三七年一〇月二六日から昭和三九年七月二五日までの間、被告会社が原告らに別表(一)記載のように時間外および深夜労働をさせたこと、右期間における被告会社の勤務時間、原告らの賃金日額、勤務日数、勤務時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数が原告ら主張のとおりであること(但し、賃金日額のうち原告aの昭和三七年一二月分、昭和三八年一二月分、同bの昭和三八年四月分、昭和三九年四月分、同cの昭和三八年八月分、同dの昭和三八年四月分、昭和三九年三月分、同eの昭和三七年一二月分、昭和三八年一二月分については少くとも原告ら主張の金額であること)は当事者間に争いがない。 二、そこで、原告らが前記時間外労働および深夜労働に対する割増賃金請求権を有するか否かの点を判断する。 (一) 被告は、前記賃金日額(以下基本給ともいう)は被告会社と原告ら所属の労働組合との協定により時間外および深夜労働に対する賃金を含むものとして取決めたもので、被告会社はこれを支払うことにより原告らに対する割増賃金の支払を了している旨主張するので、まずこの点から検討する。 成立に争いのない甲第二〇号証、乙第一七号証の一ないし四、第一八号証の一、二、第二一号証の各一ないし三、証人fの証言により成立の認められる乙第一、第二号証、証人gの証言により成立の認められる乙第五号証の一ないし三、証人g、同fの各証言によれば、次の事実を認めることができる。 (1) 被告会社では、昭和三五年一二 により成立の認められる乙第一、第二号証、証人gの証言により成立の認められる乙第五号証の一ないし三、証人g、同fの各証言によれば、次の事実を認めることができる。 (1) 被告会社では、昭和三五年一二月以前は、従業員の代表との間で締結した時間外および深夜労働時間についての協定が存在したが、これに対する割増賃金の支払方法についての協定はなく、従業員に対する割増賃金の支払は、所定の基本給を基礎として労働基準法第三七条、同法施行規則第一九条、第二〇条の規定により機械的に計算した上支払つていたところ昭和三五年一二月二一日被告会社に労働組合が結成され、その直後に行われた組合との団体交渉において従前の割増賃金支払方法を変更し、時間外および深夜労働に対する賃金を基本給に含めて支払う旨の取決めが口頭でなされ、また同時に賃金の引上げをも行う趣旨で、従前の基本給(従業員の勤務年数に応じて一一段階に分れる)が大巾に引上げられ(例えば、従前の初任給一〇〇余円が三五〇円となつた)、時間外および深夜労働の賃金としては別に支払われないこととなつた。右のような時間外および深夜賃金を含む基本給を協定するについては、組合側としてはそれが従前の時間外、深夜賃金の支給実績を上廻り、賃金総額としてはかなり大巾な賃上げとなるなど、従業員に有利であつたことから、右のような協定の締結に積極的な態度であつた。 (2) その後昭和三七年五月七日行われた被告会社と組合との団体交渉で前記基本給の引上げが協議されたが、その結果初任給三五〇円が四五〇円とされたほか全般的に金額の改訂が行われ、原告らが本件で主張するような基本給の取決めがなされた。右基本給も時間外および深夜労働に対する賃金を含む点では従前と差異はなく、従つて時間外および深夜割増賃金を別に計算して支払うようなことはなかつた。なお、その際 張するような基本給の取決めがなされた。右基本給も時間外および深夜労働に対する賃金を含む点では従前と差異はなく、従つて時間外および深夜割増賃金を別に計算して支払うようなことはなかつた。なお、その際従前実際の労働により計算していた賃金を暦日数をもつて計算することとし、これから欠勤日数を差引いた日数をもつて賃金計算の基礎となる労働日数とする旨の合意もなされた。しかし、右昭和三七年五月の取決めについても、当事者間で口頭による確認がなされただけで、協定書の作成は行われなかつた。その後被告会社では昭和三九年七月一八日になつて会社と組合との間で新賃金体系に関する協定書が作成されたが右協定書においてはじめて基本給、歩合給等にすベて残業深夜手当が含まれることが明記された。 (3) 右のように、被告会社においては昭和三六年一月以後時間外および深夜労働に対する割増賃金を基本給に含めて支給することとなつたものであるが、その後この点について組合や従業員から格別の異議申出もなく、本訴請求にかかる昭和三七年一〇月二六日から昭和三九年七月二五日の間においても、原告らを含む全従業員が特に異議をとどめることもなく毎月被告会社から支払われる賃金を受領していた。 右認定に反する証人hの証言(第一、二回)は前掲各証拠に照して措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。 (二) 次に、原告らは、右のような時間外賃金、深夜賃金を基本給に含めるような賃金支払方法は労働基準法第三七条等に違反するものであり、前記協定は無効である旨主張する。なるほど、労働基準法第三七条等の趣旨が、所定の割増賃金を確実に支払うことを使用者に義務づけることにより、超過労働をできるだけ制限すると共に、量的または質的に過重な労働に対する補償を十分なさしめようとする点にあることからすれば、労働基準法は右割増 賃金を確実に支払うことを使用者に義務づけることにより、超過労働をできるだけ制限すると共に、量的または質的に過重な労働に対する補償を十分なさしめようとする点にあることからすれば、労働基準法は右割増賃金が法所定の手続で厳格にかつ機械的に算定されることを期待しているものと考えられる。しかしながら、本件におけるように労使が協議の上時間外、深夜賃金を含む基本給を自主的に協定した場合、その合意そのものは可及的に尊重すべきものと考えられるから、それが過去の時間外および深夜労働賃金の支給実績などに照して従業員に実質的に不利益を及ぼすものでない限り、右合意をもつて直ちに違法、無効なものと考えるのは相当でない。そして、本件の場合原告らの基本給が当初原告らに有利なものとして取決められたことは前記認定のとおりであり、その後に前記のような賃金支払方法のため原告らが特に不利益を蒙つたことを肯認するに足りる証拠も存しないので、前記基本給の取り決めが賃金支払方法として妥当なものでないこと(前記のような基本給が定められた場合時間外、深夜労働時間ならびにこれに対する賃金額は毎月変動するわけであるから、これに応じて基準賃金部分も増減することとなり、純然たる歩合給の場合と同様に、不安定な賃金体系となることは否定できない)は否定し難いとしても、右合意そのものを違法視することはできないものと考える。 ところで、被告は、被告会社が前記協定により定められた時間外、深夜賃金を含む基本給を原告らに支払うことにより、原告らの時間外および深夜労働に対する賃金はすべて支払われたものと主張する。しかし、右のような基本給が合意された場合であつても、それを内容的に基準賃金、時間外および深夜賃金の各部分に分割することは可能であり、現に右合意がそのようなものとしてなされたのであれば、これによる基準 し、右のような基本給が合意された場合であつても、それを内容的に基準賃金、時間外および深夜賃金の各部分に分割することは可能であり、現に右合意がそのようなものとしてなされたのであれば、これによる基準賃金を基礎にして、時間外、深夜労働に対する割増賃金を計算することができ、右により算出された割増賃金と基準賃金の合計が前記合意にかかる基本給を超過するような場合には、その差額について事後的にその支払請求を許容すべきことは勿論であるから、被告主張の前記協定が有効でこれに基いて賃金が支払われていることから直ちに原告らが一切の割増賃金請求権を有しないものと速断することはできない。しかし、本件原告らの基本給については、内容的に基準賃金部分を特に明確にして合意されたものと認めるに足りる証拠は存しないところであり、むしろ、前掲各証拠によれば、右基本給は基準賃金、時間外、深夜労働賃金を特に区分することなく、一体として取決められたものと認められるのであり、従つて本件について右計算方法により割増賃金を算定することはできない。 次に、被告は、前記原告らの賃金日額について当該月の基準労働時間数、時間外および深夜労働時間数に従い法定基準どおりに逆算すれば時間当りの基準賃金を算出できるのでこれを基礎にした割増賃金の計算が可能であり、被告会社も右方式により割増賃金を計算している旨主張し、前記乙第五号証の一ないし三、第二一号証の一、二によれば、被告会社は組合との間で前記のような基本給を取決めたものの、対外的な配慮から手続的には右計算方法により(しかし昭和三八年一月以後は基礎賃金を一定した)割増賃金を計算し賃金台帳にもそのような記載をなしていたことが認められるが、本件においては、被告会社と組合との間で、右逆算方式により得られる基礎賃金さらには一定額の基礎賃金を割増賃金計算の基 定した)割増賃金を計算し賃金台帳にもそのような記載をなしていたことが認められるが、本件においては、被告会社と組合との間で、右逆算方式により得られる基礎賃金さらには一定額の基礎賃金を割増賃金計算の基礎とする旨の合意がなされていたと認めるに足りる証拠は存しないので(従つて、前記賃金台帳の記載は全く対外的な便宜のためになされていたものとみるべきである)、被告の主張する右計算方法を本件割増賃金計算の基準とすることもできない。 (四) 右のとおりであるから、本件については、原告主張の賃金日額中に存在すべき基準賃金額を確定することができず、ひいてはこれに基づく割増賃金の算定ができないことに帰するので、原告らの本件割増賃金の請求はこの点において既に理由がないものといわなければならない。 三、以上の次第で、原告らの本訴請求を失当として棄却することとし訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を通用して主文のとおり判決する。 (裁判官弘重一明)(別紙(一)、(二)省略)

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