平成27(ワ)22060 特許権侵害差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成28年11月24日 東京地方裁判所
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判決文本文19,808 文字)

- 1 -平成28年11月24日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成27年(ワ)第22060号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成28年9月15日判決原告原田工業株式会社同訴訟代理人弁護士高橋雄一郎阿部実佑季同訴訟代理人弁理士林佳輔同補佐人弁理士荒井康行福永健司被告株式会社ヨコオ同訴訟代理人弁護士山﨑順一酒迎明洋増田昂治同訴訟代理人弁理士鈴木正剛藤掛宗則主文 被告は,別紙被告製品目録記載の各製品を生産し,譲渡し,又は譲渡の申出をしてはならない。 被告は,その占有に係る別紙被告製品目録記載の各製品を廃棄せよ。 被告は,原告に対し,276万0346円及びうち102- 2 -万3765円に対する平成27年8月18日から,うち173万6581円に対する平成28年7月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用はこれを5分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求 主文第1項同旨 被告は,その占有に係る別紙被告製品目録記載の各製品(以下「被告製品」と総称する。)及び製造のための装置を廃棄せよ。 被告は,原告に対し769万3073円及びうち303万1903円に対する平成27年8月18日から,うち466万1170円に対する平成28年7月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,原告が被告に対し,被告による被告製品の生産等が原告の特許権を侵害すると主張して,特許法100条1項に基づ 28年7月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,原告が被告に対し,被告による被告製品の生産等が原告の特許権を侵害すると主張して,特許法100条1項に基づき被告製品の生産等の差止めを,同条2項に基づき被告製品及びその製造装置の廃棄を,民法709条及び特許法102条3項に基づき損害賠償金769万3073円及びうち303万1903円に対する不法行為の後の日である平成27年8月18日(訴状送達の日の翌日)から,うち466万1170円に対する平成28年7月8日(訴えの変更申立書の送達の日の翌日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 前提となる事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全- 3 -趣旨により容易に認められる事実)当事者原告は,自動車部品の製造,販売及び修理調整等を業とする株式会社である。 被告は,自動車部品の製造及び販売等を業とする株式会社である。 原告の特許権ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。また,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。)の特許権者である。 発明の名称アンテナ装置特許番号第5655126号出願日平成25年10月18日(特願2013-217620。特願2011-66359の分割)原出願日平成23年3月24日登録日平成26年11月28日イ本件特許権の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりであり(以下,この発明を「本件発明」という。),下記の構成要件(以下,それぞれを「構成要件A」などという。)に分説される。 「下面が開口されて内部に収納空間が形成されている絶縁性のアンテナケースと,該アンテナケースが被 本件発明」という。),下記の構成要件(以下,それぞれを「構成要件A」などという。)に分説される。 「下面が開口されて内部に収納空間が形成されている絶縁性のアンテナケースと,該アンテナケースが被嵌され,強度部材として用いる樹脂製の絶縁ベースと,該絶縁ベースより小型とされ,前記絶縁ベースに固定される導電ベースとからなるアンテナベースと,後部が前記絶縁ベース上に位置すると共に前部が導電ベース上に位置するように前記アンテナベースの上に配置される傘型エレメントと,を具備することを特徴とするアンテナ装置。」- 4 -記A:下面が開口されて内部に収納空間が形成されている絶縁性のアンテナケースとB:該アンテナケースが被嵌され,強度部材として用いる樹脂製の絶縁ベースと,該絶縁ベースより小型とされ,前記絶縁ベースに固定される導電ベースとからなるアンテナベースとC:後部が前記絶縁ベース上に位置すると共に前部が導電ベース上に位置するように前記アンテナベースの上に配置される傘型エレメントとD:を具備することを特徴とするアンテナ装置ウ本件特許に係る特許出願に対しては,平成26年7月10日付けで拒絶査定がされたが,原告は,同年10月14日,拒絶査定不服審判を請求するとともに手続補正書を提出し,特許請求の範囲について,請求項1の「絶縁ベース」を「強度部材として用いる樹脂製の絶縁ベース」とする旨の補正(以下「本件補正」という。)を行い,同年11月28日に本件特許の登録を受けた。(乙4~6)被告の行為等ア被告は,被告製品の製造,販売及び販売の申出をしている。 イ被告製品の構成は,次のとおりである。 被告製品は,下面が開口されて内部に収納空間が形成されている絶縁性のアンテナケース(被告作成の被告製品説明書(乙12)にいう上部ケース)を備える。 被 る。 イ被告製品の構成は,次のとおりである。 被告製品は,下面が開口されて内部に収納空間が形成されている絶縁性のアンテナケース(被告作成の被告製品説明書(乙12)にいう上部ケース)を備える。 被告製品は,アンテナケースが被嵌される樹脂製の絶縁ベース(同,下部ケース)と,絶縁ベースより小型とされ,その下面部に固定される金属製の導電ベース(同,アンテナベース)を備える。 被告製品は,アンテナケース内に,略扇形の中央部を頂部として両側- 5 -に折り曲げられた形状で,エレメントホルダーの表面に固着されているエレメントを備える。 被告製品は,上記~の特徴を備えるアンテナ装置である。 ウ被告による平成26年11月28日から平成28年6月末日までの間の被告製品の売上額は,7867万8224円である。 争点 被告製品の本件発明の技術的範囲への属否(被告は後記ア及びイ以外の構成要件の充足性を争っていない。)ア構成要件B「絶縁ベース」の充足性イ構成要件C「傘型エレメント」の充足性先使用の抗弁の成否本件特許の無効理由の有無(原告による本件特許権の行使の可否。特許法104条の3第1項)ア「強度部材として用いる樹脂製の絶縁ベース」に関する補正要件(特許法17条の2第3項),サポート要件(同法36条6項1号),明確性要件(同項2号)及び実施可能要件(同条4項1号)の違反イ「傘型エレメント」に関する明確性要件の違反ウWO2008/062746号再公表公報(以下「乙7文献」という。)に記載された発明(以下「乙7発明」という。)に基づく進歩性の欠如エ特開2010-21856号公報(以下「乙1文献」という。)に記載された発明(以下「乙1発明」という。)に基づく進歩性の欠如原告の損害額 争点に関する当事者の主張 争点 ア(構成要件B「 如エ特開2010-21856号公報(以下「乙1文献」という。)に記載された発明(以下「乙1発明」という。)に基づく進歩性の欠如原告の損害額 争点に関する当事者の主張 争点 ア(構成要件B「絶縁ベース」の充足性)について(原告の主張)- 6 -構成要件Bの「強度部材として用いる樹脂製の絶縁ベース」とは,傘型エレメント等の機能部品を保持するものであり,これらを保持する強度を有する部材である。被告製品の絶縁ベースは,これがそのような強度を有するからこそ被告製品のエレメントが絶縁ベース上のエレメントホルダーの表面に固着された状態で存在し得るのであり,構成要件Bを充足する。 (被告の主張)被告製品では,機能部品であるエレメントを有するアンテナ部はアンテナケースに,回路基板は導電ベースにネジ止め固定されており,いずれも絶縁ベースに保持されていない。したがって,被告製品の絶縁ベースは,「機能部品を保持する」ものでないから,構成要件Bを充足しない。 争点 イ(構成要件C「傘型エレメント」の充足性)について(原告の主張)構成要件Cの「傘型エレメント」とは,導電ベース及び絶縁ベースの上に位置し,導電ベース及び絶縁ベースの一部にかざされる形状のものをいう。 被告製品のエレメントは,導電ベース及び絶縁ベースの上に位置し,導電ベース及び絶縁ベースの一部の上にかざされるものであり,エレメント後部が絶縁ベース上に,前部が導電ベース上に位置しているから,被告製品は構成要件Cを充足する。 (被告の主張)ア被告製品のエレメントは,絶縁ベース上のエレメントホルダーの表面に固着された状態で存在するため,エレメントがかざすのはエレメントホルダー及び絶縁ベースの上部の表面だけであり,絶縁ベースの下面に取り付けられた回路基板の更に下に存在する導電ベースをかざさない 表面に固着された状態で存在するため,エレメントがかざすのはエレメントホルダー及び絶縁ベースの上部の表面だけであり,絶縁ベースの下面に取り付けられた回路基板の更に下に存在する導電ベースをかざさない。したがって,構成要件Cの「傘型エレメント」に該当しない。 イ構成要件Cによる作用効果が生じるのは,アンテナベースを構成する導電ベースが,傘型エレメントの前部との関係で車体ルーフ面とは別の接地- 7 -面を形成するだけの面積を有し,かつ,絶縁ベースよりも上にある場合のみであることは明らかである。しかし,被告製品の導電ベースは,車体ルーフ面に接触して接地面を構成しており,接地面となる車体ルーフ面からの高さはエレメントの前部も後部も同じであるから,上記作用効果を奏するものではない。したがって,被告製品は構成要件Cを充足しない。 争点 (先使用の抗弁の成否)について(被告の主張)ア被告は,本件発明の内容を知らないで,本件特許の原出願日前に,日本国内において,下記イの特徴を備えるアンテナ装置(AM/FMシャークフィンアンテナ。以下「被告先行製品」という。)の発明を完成させ,自動車メーカーの購買担当者に対して試作品を持参した上で説明を行い,被告先行製品の営業活動を行った。 イ被告先行製品は,車両ルーフに取り付けて使用するAM/FM波を受信するアンテナ装置であり,次のとおり本件発明の構成要件を充足する。 被告先行製品は,流線型の外形形状に成形され,収容空間を有する合成樹脂製の上部ケースを有しており,これは構成要件Aの「アンテナケース」に相当する。 被告先行製品には本件発明の構成要件Bの「絶縁ベース」に相当する構成(固定されたエレメントホルダーとベース)及び「導電ベース」に相当する構成(金属製のシャーシ)を有する。そして,これらが固定されてなる「 行製品には本件発明の構成要件Bの「絶縁ベース」に相当する構成(固定されたエレメントホルダーとベース)及び「導電ベース」に相当する構成(金属製のシャーシ)を有する。そして,これらが固定されてなる「アンテナベース」には,アンテナケースの内側に形成されたネジ孔の位置で,アンテナケースが被せるように嵌められるから(「被嵌」とは文字どおり「被せ,嵌める」ことをいい,「空間が塞がれること」を意味するものでない。),構成要件Bの「アンテナケースが被嵌され・・・るアンテナベース」に相当する。 被告先行製品のエレメントは,導電ベース上に頂点側が位置し,絶縁- 8 -ベース上に円弧側が位置するものであるから,構成要件Cの「傘型エレメント」に相当する。 被告先行製品はアンテナ装置であるから,構成要件Dを充足する。 ウ被告先行製品と被告製品は,絶縁ベース及び導電ベースの形状等が相違するが,いずれも本件発明の構成要件との関係においては同一の構成とみることができる。 エ以上によれば,被告製品の製造販売は被告が準備をしていた被告先行製品の発明及び事業の目的の範囲内にあり,被告は本件特許権に対して先使用権(特許法79条)を有するから,被告が被告製品の製造販売等をする行為は本件特許権を侵害しない。 (原告の主張)ア被告先行製品の絶縁ベースは機能部品を収納する空間を塞ぐように構成されるベースではないため,被告先行製品には構成要件Bの「絶縁ベース」に対応する部品が存在せず,構成要件Bの「絶縁ベースに固定される導電ベース」及び構成要件Cの「後部が前記絶縁ベース上に位置する・・・傘型エレメント」も存在しない。したがって,被告先行製品は本件発明の実施ないしその準備に当たらない。 イ被告は装置の大まかな構造を示すイメージ図を作成したのみであって,被告先行製品が発明とし ・・傘型エレメント」も存在しない。したがって,被告先行製品は本件発明の実施ないしその準備に当たらない。 イ被告は装置の大まかな構造を示すイメージ図を作成したのみであって,被告先行製品が発明として完成していたとも,これに係る事業の準備をしていたとも認められない。 争点 ア(「強度部材として用いる樹脂製の絶縁ベース」に関する補正要件違反等)について(被告の主張)ア本件発明は,拒絶査定不服審判請求時に行われた本件補正により,拒絶理由が解消されたと判断されたものである。しかし,本件明細書のどの箇所にも,樹脂製の絶縁ベースを実際に「強度部材として用いる」ことは記- 9 -載されておらず,それを示唆する記載すら存在しない。したがって,本件補正は新たな技術的事項を導入するものであり,補正要件に違反する。 イ本件発明の特許請求の範囲に記載された「強度部材として用いる樹脂製の絶縁ベース」は,本件明細書に一切記載されていないから,本件特許はサポート要件に違反する。 また,上記記載は,特に「強度」の範囲が不明確であり,少なくとも本件明細書の記載から一義的に読み取れないものであるから,本件発明の技術的範囲が明確に定まらず,本件特許は明確性要件に違反する。 さらに,本件明細書には導電ベースを強度部材として用いる必要がなくなったと記載されているが,導電ベースに代わる強度部材については何も記載がない。そうすると,「強度部材として用いる樹脂製の絶縁ベース」は,本件明細書に記載のない部材を必須の構成要件とするものであり,当業者が本件発明を容易に実施できる程度に明確かつ十分な記載がされていないことになるから,本件特許は実施可能要件に違反する。 (原告の主張)ア構成要件Bの「強度部材として用いる樹脂製の絶縁ベース」が傘型エレメント等の機能部品やアンテナケース つ十分な記載がされていないことになるから,本件特許は実施可能要件に違反する。 (原告の主張)ア構成要件Bの「強度部材として用いる樹脂製の絶縁ベース」が傘型エレメント等の機能部品やアンテナケースを保持するものであり,これらを保持する強度を有することは,本件明細書の段落【0014】,【0019】,【0031】,【0037】の記載や,図5,6,8~10,28,29等の記載に基づく。したがって,本件補正は本件明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。 イ本件明細書の上記記載によれば,絶縁ベースが傘型エレメント等の機能部品やアンテナケースを保持する強度を有する部材として用いられることが明確に記載されているから,本件特許はサポート要件にも明確性要件にも違反しない。さらに,以上に述べたところによれば,本件明細書には当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がされ- 10 -ているから,実施可能要件の違反もない。 争点 イ(「傘型エレメント」に関する明確性要件違反)について(被告の主張)構成要件Cにおいて「絶縁ベース上に位置する」とされる「傘型エレメント」の「後部」,「導電ベース上に位置する」とされる「傘型エレメント」の「前部」の意義は本件明細書の記載から一義的に読み取ることができず,本件発明の技術的範囲が明確に定まらない。したがって,本件特許は明確性要件に違反する。 (原告の主張)特許請求の範囲の記載に照らせば,「傘型エレメント」の「後部」は傘型エレメントのうち絶縁ベース上に位置する部分に,「前部」は導電ベース上に位置する部分にそれぞれ対応すること,「絶縁ベース上」及び「導電ベース上」は,「絶縁ベース」及び「導電ベース」よりアンテナケース側の位置を意味することは明確であるから,明確性要件の違反はない。 争 に位置する部分にそれぞれ対応すること,「絶縁ベース上」及び「導電ベース上」は,「絶縁ベース」及び「導電ベース」よりアンテナケース側の位置を意味することは明確であるから,明確性要件の違反はない。 争点 ウ(乙7発明に基づく進歩性の欠如)について(被告の主張)ア本件特許の原出願日前に公表されていた乙7文献には,下面に小型の導電性アンテナベースが固定されたアンテナケースに傘型エレメントを収容した自動車用のアンテナ装置(乙7発明)が開示されている。 乙7文献の図4に示されたエレメント等を保持する金属製のアンテナベースを取り付ける下面を樹脂ベースと仮定し,アンテナベース,アンテナ基板のサイズ及びトップの取付態様が乙7文献の図5に示されたアンテナ基板と同じと仮定すると,本件発明と乙7発明とは,本件発明が「傘型エレメントの後部が絶縁ベース上に位置する」のに対し,乙7発明では傘状のトップの後部が絶縁ベース上に位置するといえない点で一応相違し,その余の構成は一致する。 - 11 -上記相違点につき,乙7発明においては,傘状のトップの後部の下に位置するアンテナベースの周縁部の周囲には樹脂ベースが存在するところ,本件発明は傘状のトップの後部が樹脂ベースの上に位置する構成を排除していないから,乙7発明に触れた当業者が本件発明の構成に想到することは容易である。 イ仮に,乙7文献から本件発明が容易想到であるといえないとしても,構成要件Cの「傘型エレメントの後部がアンテナベース上に位置する」構成は,本件特許の原出願日前に公表されていた刊行物である乙1文献に開示されている事項である。乙1発明では,アンテナベースの後端に絶縁体であるベースパッドが存在するので,これを乙7発明に当てはめれば,前記相違点が開示されているといえる。乙7発明,乙1発明及び本件発明は, ている事項である。乙1発明では,アンテナベースの後端に絶縁体であるベースパッドが存在するので,これを乙7発明に当てはめれば,前記相違点が開示されているといえる。乙7発明,乙1発明及び本件発明は,いずれも車両用アンテナ装置に関する発明であり,技術分野や技術的課題が一致するから,乙7発明に乙1発明を組み合わせて本件発明の構成に想到することは容易である。 (原告の主張)乙7文献のアンテナ装置において,被告のいうところの「樹脂ベース」は構成要件Bの「樹脂製の絶縁ベース」に該当しない。また,構成要件Bの「強度部材として用いる」は上記のとおり「機能部品やアンテナケースを保持する強度を有する部材」として用いることであるところ,乙7文献のアンテナ装置においては,アンテナ基板,トップ等の機能部品はいずれも金属製のアンテナベースの上に保持されており,被告のいうところの「樹脂ベース」には保持されていない。 乙1文献のアンテナ装置においても,アンテナ基板,トップ部等の機能部品はいずれも金属製のアンテナベースの上に保持されており,金属製のアンテナベースの他にアンテナ基板等の機能部品を保持する構成は存在しない。 したがって,乙7文献及び乙1文献から本件発明の構成を想到することが- 12 -容易であるとはいえない。 争点 エ(乙1発明に基づく進歩性の欠如)について(被告の主張)ア本件発明と乙1発明とは,本件発明が「強度部材として用いる樹脂製の絶縁ベースと,該絶縁ベースより小型とされ,前記絶縁ベースに固定される導電ベース」とでアンテナベースを構成しているのに対し,乙1発明のアンテナベースが金属製である点で相違し,その余の構成は一致する。 イ従来金属で成形されていたアンテナベースの一部を樹脂に置き換えることは,要求される製造コスト等に応じて当業者が適宜なし得る 発明のアンテナベースが金属製である点で相違し,その余の構成は一致する。 イ従来金属で成形されていたアンテナベースの一部を樹脂に置き換えることは,要求される製造コスト等に応じて当業者が適宜なし得る設計事項である。また,アンテナベースを樹脂と金属の複合ベースとすることは,本件特許の原出願日前に公表されていた刊行物(乙8,9の1及び2,10,11)に記載されているとおり,車両用アンテナ装置では一般的に行われていた。さらに,アンテナベースを樹脂とそれよりも小型の金属体で構成することは乙7文献に開示がある。そうすると,上記相違点に係る本件発明の構成は,乙1発明に上記各文献の記載を組み合わせることにより当業者が容易に想到し得たものである。 (原告の主張)本件特許発明と乙1発明は,①「該アンテナケースが被嵌され,強度部材として用いる樹脂製の絶縁ベースと,該絶縁ベースより小型とされ,前記絶縁ベースに固定される導電ベースとからなるアンテナベース」(構成要件B)を備えるか,②「後部が前記絶縁ベース上に位置すると共に前部が導電ベース上に位置するように前記アンテナベースの上に配置される傘型エレメント」(構成要件C)を備えるかの各点で相違する。 被告は,アンテナベースを複合ベースとする構成は慣用手段であると主張するが,構成要件Bはアンテナベースをおよそ複合ベースとする構成ではない。そして,被告引用の文献のいずれにも,構成要件Bの上記アンテナベー- 13 -スは記載も示唆もされていない。 争点 (原告の損害額)について(原告の主張)電子・通信用部品業界の平均実施料率は3.3~3.5%程度であること,原告が被告に対し本件訴訟以前,ロイヤリティとして販売価格の5%を提案したこと,本件発明は被告製品の構成の中核部分に用いられており,被告製品において重要な技術 料率は3.3~3.5%程度であること,原告が被告に対し本件訴訟以前,ロイヤリティとして販売価格の5%を提案したこと,本件発明は被告製品の構成の中核部分に用いられており,被告製品において重要な技術的意義を有すること,原告は本件発明について第三者への実施許諾を行わず自社実施してきたこと,原告と被告が競合関係にあること等に鑑みれば,本件発明の実施料率は5%を下らない。被告製品の平成26年11月28日から平成28年6月末日までの売上合計を1億3987万4066円とすると(ただし,この間の売上げが合計7867万8224円であることは争わない。),被告による本件特許権の侵害により原告が受けた損害の額は,699万3703円を下らない(特許法102条3項)。 また,弁護士費用は69万9370円を下らない。 (被告の主張)争う。本件発明の進歩性の程度が極度に低いこと,他の構成で代替できるものであって,本件発明が需要者への訴求要因として寄与しないこと,車載アンテナ業界においては利益率が著しく低いことなどの事情に照らせば,実施料率が1%を超えることはない。 なお,被告製品は知的財産高等裁判所に係属中の原告と被告の間の別件訴訟(同裁判所平成28年(ネ)第10070号)において原告の別件特許権を侵害すると主張されている製品である。本件特許権と別件特許権の実施料率は一括して定められるべきものであるから,別件訴訟の第一審判決において認定された別件特許権の実施料率5%には本件特許権の実施料も含まれている。したがって,仮に別件訴訟において被告に損害賠償を命じる判決が確定した場合には,本件における損害賠償金の額は,別件訴訟の確定判決に基- 14 -づき被告が原告に支払った金額を超える部分に限られるというべきである。 第3当裁判所の判断 争点 ア(構成要件B「絶縁 場合には,本件における損害賠償金の額は,別件訴訟の確定判決に基- 14 -づき被告が原告に支払った金額を超える部分に限られるというべきである。 第3当裁判所の判断 争点 ア(構成要件B「絶縁ベース」の充足性)について原告は,被告製品の絶縁ベースが構成要件Bの「絶縁ベース」に該当すると主張する。 そこで判断するに,本件発明における「絶縁ベース」は,特許請求の範囲の記載によれば,樹脂製であって「強度部材として用いる」ものである。そして,「強度部材」とは,その文言上,何らかの強度を有する部材ということができるが,いかなる強度を有するかについては特許請求の範囲の記載上格別の限定はない。そこで,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明の記載をみると,従来のアンテナ装置においては,金属製のアンテナベースが電波を受信する機能部品やアンテナケースを保持する強度部材として用いられていたが(段落【0003】,【0014】),本件発明のアンテナ装置では,アンテナベースを金属製の強度部材とすることなく絶縁ベースで構成できるという効果があり(同【0019】),実施例においても導電ベースを強度部材として用いる必要がない(同【0037】)とされている。そうすると,構成要件Bの「絶縁ベース」は,樹脂製であって,機能部品やアンテナケースを保持するに足りる強度を有する部材を意味すると解することができる。 証拠(乙12)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品において電波を受信するアンテナ部はエレメント,エレメントホルダ,コイル,給電端子等で構成されること,アンテナ部の上部に当たるエレメントの頂上付近がアンテナケースの上部内壁にネジ止め固定されること,アンテナ部の下部に当たる給電端子が,絶縁ベースに設けられた孔を通じて,回路基板の差込接点に挿入されること,回路基板は導電ベー レメントの頂上付近がアンテナケースの上部内壁にネジ止め固定されること,アンテナ部の下部に当たる給電端子が,絶縁ベースに設けられた孔を通じて,回路基板の差込接点に挿入されること,回路基板は導電ベースの上面に取り付けられ,FM及びAM信号を増幅するアンプ等が実装されていること,導電ベースは絶縁ベースの下面の凹部に固定されること,絶縁ベースとアンテナケースはネジ止め固定さ- 15 -れていることが認められる。 そうすると,被告製品の絶縁ベースは,アンテナケースを保持するとともに,機能部品であるアンテナ部を,その上部についてはアンテナケースを介して,下部については導電ベース及び回路基板を介して,アンテナケース内の所定の位置に保持するものということができる。そして,被告製品はこのような構成を採用することによってアンテナ装置として完成されているのであるから,その絶縁ベースは,樹脂製であって(この点は争いがない。),機能部品及びアンテナケースを保持するに足りる強度を有するものと認められる。したがって,被告製品の絶縁ベースは構成要件Bの「絶縁ベース」に該当し,被告製品は構成要件Bを充足すると判断するのが相当である。 これに対し,被告は,被告製品においてはアンテナ部が絶縁ベース以外の部材に固定されているので構成要件Bを充足しないとして,絶縁ベースが全ての機能部品を直接保持することを要するという趣旨の主張をするが,特許請求の範囲及び本件明細書の記載上,そのように解すべき根拠は見当たらない。したがって,被告の主張を採用することはできない。 争点 イ(構成要件C「傘型エレメント」の充足性)について原告が,被告製品のエレメントが構成要件Cの「傘型エレメント」に該当すると主張するのに対し,被告は,①エレメントがかざすのは絶縁ベースのみであり,導電ベースを C「傘型エレメント」の充足性)について原告が,被告製品のエレメントが構成要件Cの「傘型エレメント」に該当すると主張するのに対し,被告は,①エレメントがかざすのは絶縁ベースのみであり,導電ベースをかざしていないこと,②接地面からの高さはエレメントの前部も後部も同じであり,構成要件Cによる効果を奏しないことを理由に,構成要件Cの充足性を争うものである。 そこで判断するに,特許請求の範囲の記載によれば,本件発明の「傘型エレメント」は,その全体が「アンテナベースの上に配置される」ものであって,後部が「絶縁ベース上に位置する」,前部が「導電ベース上に位置する」とされており,絶縁ベース及び導電ベースにより構成されるアンテナベース(構成要件B)の「上に」配置され,又は位置することが明らかである- 16 -が,これら部材の上下関係についてはこれ以外の限定(例えば,アンテナベースの上面に接しているか離れているか,アンテナベースとの間に他の部材が介在してよいかなど)は付されていない。 そこで,本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載をみると,実施例として,傘型エレメントとアンテナベースが接しておらず,両者の間にエレメントホルダー等の部材が存在する構成が示されている(段落【0025】,図5,6,8,10等)。また,本件発明は,傘型エレメントをアンテナベースに対して構成要件C所定の位置に配置することにより,アンテナ装置の高さを低くしても傘型エレメントの後部の接地面からの実質的な高さを高くすることができ,アンテナ装置の動作利得が向上するという効果を奏するものである(段落【0019】,【0038】【0039】,図40)。そして,傘型エレメントの後部と絶縁ベースの間に導電性の部材が存在するとすればこの効果の発生が妨げられるが,傘型エレメントの前部と導電ベース る(段落【0019】,【0038】【0039】,図40)。そして,傘型エレメントの後部と絶縁ベースの間に導電性の部材が存在するとすればこの効果の発生が妨げられるが,傘型エレメントの前部と導電ベースの間に樹脂等の部材が存在しても支障はないと考えられる。 証拠(甲4,乙12)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品のエレメントは,略扇形の円弧の中央部を頂部として両側に折り曲げられた形状であり,アンテナケース内において絶縁ベースと導電ベースからなるアンテナベースの上方に配置され,その後部の下方には樹脂製のエレメントホルダーを介して絶縁ベースが,前部の下方にはエレメントホルダー,コイル及び給電端子並びに絶縁ベース及び回路基板を介して導電ベースが,それぞれ配置されていると認められる。そうすると,被告製品のエレメントは,後部が絶縁ベースの上方に,前部が導電ベースの上方に位置するようにアンテナベースの上方に配置されたものであって,構成要件Cの「傘型エレメント」に該当するということができる。 被告の前記の主張のうち①の点は,以上に説示したところに照らし,明らかに失当と解される。また,②の点は,被告製品が本件発明の作用効果を- 17 -奏しないから技術的範囲に属しない旨をいうものであるが,被告製品のアンテナ装置としての性能が本件発明の実施品より劣るといった事情はうかがわれないから,これを採用することはできない。 争点 (先使用の抗弁の成否)について被告は,本件特許の原出願日前に,日本国内において,本件発明の構成要件を備えた被告先行製品の発明を完成させ,その事業の準備をしていたので,本件特許権につき先使用権を有すると主張する。 そこで,まず,被告先行製品が本件発明の構成要件を備えているかについて検討するに,構成要件Bは「アンテナケースが被嵌され・・・る 業の準備をしていたので,本件特許権につき先使用権を有すると主張する。 そこで,まず,被告先行製品が本件発明の構成要件を備えているかについて検討するに,構成要件Bは「アンテナケースが被嵌され・・・るアンテナベース」であるところ,「被嵌」とは特許技術用語として「被せるように嵌めること」という意味を有しており(甲8),「嵌める」とは一般的に「穴・枠・溝などの内側に,ぴったり合うように物を入れること」を意味する用語である(甲12)。また,本件明細書によれば,本件発明のアンテナ装置は,従来技術のように大型のベースパッドを用いることなく,アンテナケースの下面を絶縁ベース上に固着することによって,アンテナケース内部を防水構造としたものである(段落【0019】)。そうすると,構成要件Bにいう「アンテナケースが被嵌され」とは,アンテナベースないしこれを構成する絶縁ベースが,これに被せられるアンテナケースの下面と略同一の形状であり,アンテナケース内の収納空間を塞いでいることをいうと解するのが相当である。 一方,証拠(乙13,16)及び弁論の全趣旨によれば,被告先行製品のアンテナケース(乙14の1)の下部にはアンテナベースに相当すると解し得るシャーシ(乙14の11)及びベース(乙14の10)を備えているが,アンテナベース部分の底面積はアンテナケースの下面開口部の3分の1程度しかなく,ケースをシャーシ及びベースに被せても,ケース内の収納空間が塞がれるものでないこと,被告先行製品においては外周リブ及び3個のOリ- 18 -ングにより防水構造が達成されていることが認められる。そうすると,被告先行製品は「アンテナケースが被嵌され・・・るアンテナベース」を備えるものでなく,本件発明のアンテナ装置とは異なるというほかない。 以上によれば,その余の点について判断する められる。そうすると,被告先行製品は「アンテナケースが被嵌され・・・るアンテナベース」を備えるものでなく,本件発明のアンテナ装置とは異なるというほかない。 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,被告の先使用の抗弁を採用することはできない。 争点 ア(「強度部材として用いる樹脂製の絶縁ベース」に関する補正要件違反等)について被告は,本件明細書には樹脂製の絶縁ベースを「強度部材として用いる」ことが記載されていないから,これを特許請求の範囲に加える本件補正は新たな技術的事項を導入するものとして補正要件に違反するとともに,本件特許はサポート要件,明確性要件及び実施可能要件に違反すると主張する。 そこで判断するに,本件明細書(甲2。なお,発明の詳細な説明及び図面には本件補正による補正は加えられていない。乙5参照)には,強度部材に関して前記1認定の記載があり,これによれば,強度部材とは機能部品やアンテナケースを保持する部材であり,従来は金属製であったが,本件発明では金属製とする必要はない旨が開示されているとみることができる。さらに,本件明細書には,本件発明の実施例につき,アンテナケースの下面に嵌合される樹脂製の絶縁ベースと金属製の導電ベースからなるアンテナベースを備える(段落【0022】,図5,6),傘型エレメントを保持するエレメントホルダーの後側下端に形成された係合爪が,絶縁ベースに形成された収納部に収納されて抜け出ないように係合される(同【0031】,図23,28)との記載がある。これらによれば,本件明細書には樹脂製の絶縁ベースを機能部品やアンテナケースを保持する強度部材として用いることが記載されていると認められるから,本件補正は本件明細書に記載した事項の範囲内のもの(特許法17条の2第3項)ということができる。 さらに を機能部品やアンテナケースを保持する強度部材として用いることが記載されていると認められるから,本件補正は本件明細書に記載した事項の範囲内のもの(特許法17条の2第3項)ということができる。 さらに,以上によれば,「強度部材として用いる樹脂製の絶縁ベース」と- 19 -いう本件補正後の特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明の記載に基づいており(同法36条6項1号),かつ,明確なもの(同項2号)であり,また,発明の詳細な説明として当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がある(同条4項1号)と認められる。 したがって,「強度部材として用いる樹脂製の絶縁ベース」に関する被告の主張はいずれも失当である。 争点 イ(「傘型エレメント」に関する明確性要件違反)について被告は,特許請求の範囲における傘型エレメントと絶縁ベース及び導電ベースとの位置関係等に関する記載が不明確である旨主張する。 しかし,この点については,前記2のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面を考慮して特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈することにより本件発明の技術的範囲を明らかにすることができるから,本件特許に明確性要件の違反はないと解される。 争点 ウ(乙7発明に基づく進歩性の欠如)及びエ(乙1発明に基づく進歩性の欠如)について被告は,本件発明は乙7発明若しくは乙1発明に基づき,又はこれらと周知の技術事項を組み合わせることにより容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠く旨主張する。 そこで判断するに,証拠(甲2,乙1,7)及び弁論の全趣旨によれば,①本件発明,乙7発明及び乙1発明は,いずれも車両から突出する高さを70mm以下とするアンテナ装置に係るものであり,アンテナ部を収納するアンテナケースとその下面ないし下端 及び弁論の全趣旨によれば,①本件発明,乙7発明及び乙1発明は,いずれも車両から突出する高さを70mm以下とするアンテナ装置に係るものであり,アンテナ部を収納するアンテナケースとその下面ないし下端に取り付けられるアンテナベースを有すること,②本件発明が,アンテナベースを絶縁ベースと導電ベースで構成し,傘型エレメントの後部を絶縁ベース上に,前部を導電ベース上に配置することにより,アンテナ装置を低姿勢にするとともにその動作利得を向上させるものであるのに対し,乙7発明はアンテナとアンプの間にアンテナコイルを- 20 -挿入することにより,乙1発明はトップ部の下縁とアンテナベースの間隔を約10mm以上とすることなどにより,アンテナ装置を低姿勢としても感度劣化を極力抑制するとの効果を奏するものであること,③乙7発明のアンテナケースの下面には,これより底面積の小さな金属製のアンテナベースが取り付けられ,アンテナ部がこのアンテナベースの上方に配置されること,④乙1発明のアンテナケースの下端には,その下面を閉塞するように金属製のアンテナベースが嵌着され,トップ部等により構成されるアンテナエレメントがこのアンテナベースの上方に配置されることが認められる一方,乙7文献及び乙1文献のいずれにも,アンテナベースを樹脂製の絶縁ベースと導電ベースで構成し,樹脂製の絶縁ベースを強度部材として用いることや,アンテナエレメントの一部を絶縁ベース上に,一部を導電ベース上に位置させることに関しては何らの記載もなく,これを示唆する記載も見当たらない。 そうすると,乙7発明及び乙1発明は,いずれも,①強度部材として用いる樹脂製の絶縁ベースと導電ベースにより構成されるアンテナベース(構成要件B)を備えない点,②後部が絶縁ベース上に位置するとともに前部が導電ベース上に位置する 発明は,いずれも,①強度部材として用いる樹脂製の絶縁ベースと導電ベースにより構成されるアンテナベース(構成要件B)を備えない点,②後部が絶縁ベース上に位置するとともに前部が導電ベース上に位置するようにアンテナベースの上に配置される傘型エレメント(構成要件C)を備えない点において,本件発明と相違するということができる。 上記事実関係に基づき,まず,乙7発明に基づく進歩性欠如をいう被告主張をみるに,乙7発明と本件発明との上記各相違点に係る本件発明の構成については,乙7文献及び乙1文献のいずれにも記載又は示唆があるといえないのであるから,乙7発明のみに基づく場合はもとより,これと乙1発明を組み合わせた場合でも,上記相違点に想到することが容易であるとみることはできない。 次に,乙1発明に基づく進歩性の欠如についてみるに,被告は,①金属で成形されたアンテナベースの一部を樹脂に置き換えることは,製造コスト等- 21 -に応じて当業者が適宜なし得る設計事項である,②アンテナベースを樹脂と金属の複合ベースとすることは,本件発明の原出願日前に公表されていた文献(乙8,9の1及び2,10,11)に開示されており,乙1文献にこれらの文献を組み合わせることにより,本件発明を想到することが容易である,③アンテナベースを樹脂とそれよりも小型の金属で構成することは乙7文献に開示されているから,乙1文献に乙7文献を組み合わせることにより,本件発明を想到することが容易であると主張する。 そこで判断するに,上記①について,本件発明は,アンテナベースの一部を樹脂に置き換えたものではなく,樹脂製の絶縁ベースを機能部品等を保持する強度部材として用いること並びに絶縁ベース及び導電ベースとエレメントを所定の位置関係に置くことに意義のある発明であり(甲2),乙1発明との前記各 のではなく,樹脂製の絶縁ベースを機能部品等を保持する強度部材として用いること並びに絶縁ベース及び導電ベースとエレメントを所定の位置関係に置くことに意義のある発明であり(甲2),乙1発明との前記各相違点を設計事項と認めるべき証拠はない。 上記②について,本件発明は,単にアンテナベースを金属製の部材と絶縁性の部材の複合ベースとしたものではなく,上記のとおりの意義を有する発明であるところ,原告の引用する上記各文献をみても,樹脂製の絶縁ベースを機能部品等を保持する強度部材として用いることなど前記各相違点に係る本件発明の構成に関する記載はなく,これを示唆する記載も見当たらない。 したがって,乙1発明にこれら文献に記載の技術事項を組み合わせても,本件発明の構成を容易に想到するものとは認められない。 上記③について,乙1発明に乙7発明を組み合わせても前記各相違点を解消するに至らないことは,以上に説示したところから明らかと解される。 以上のとおりであるから,進歩性の欠如をいう被告の主張はいずれも採用することができない。 争点 (原告の損害額)について特許法102条3項に基づく損害の額原告は,平成26年11月28日から平成28年6月末日までの被告製- 22 -品の売上高に実施料率を乗じた額が本件特許権の侵害による損害額(特許法102条3項)であると主張するところ,上記の売上高は,被告が自認する7867万8224円の限度で認められ,これを上回る額を認めるに足りる証拠はない。 次に,実施料率についてみるに,証拠(甲2,15~17,乙19)及び弁論の全趣旨によれば,①本件発明は,低姿勢かつ受信感度の良いアンテナ装置の構成に関するものであるところ,被告製品は,小型で低姿勢でありながら受信性能が優れたアンテナ装置であって,被告はこの点を被告製品の宣伝上強調 ば,①本件発明は,低姿勢かつ受信感度の良いアンテナ装置の構成に関するものであるところ,被告製品は,小型で低姿勢でありながら受信性能が優れたアンテナ装置であって,被告はこの点を被告製品の宣伝上強調していること,②本件発明は,その実施例のアンテナ装置とほぼ同じ大きさの従来のアンテナ装置に比し,最大利得を約0.5dBd向上させるものであること,③被告製品の上記①の性能は,本件発明に加え,アンテナ素子とアンテナコイルとの接続態様等に特徴のあるアンテナ装置に関する原告の別の特許権(特許第5237617号)の特許発明を実施することにより実現されたものであること,④上記③の特許発明が電波の受信というアンテナ装置の中核的な技術を対象とするのに対し,本件発明は部品の構成や配置に関するものであること,⑤原告は上記③の特許権に基づき本件の被告製品の対象とする別件訴訟を提起しているが,別件訴訟ではこれ以外の被告のアンテナ装置も対象にしていること,⑥本件発明の属する電子・通信用部品ないし電気産業の分野のライセンス契約における実施料率については,平均3.3~3.5%ないし2.9%とする調査結果が公表されていることが認められる。上記事実関係によれば,本件発明は低姿勢かつ受信感度の良いアンテナ装置を提供するものであるが,これによる効果が特に顕著であるとみることは困難であり,他の技術によりある程度は代替可能と解し得るものである。以上の事情を考慮すると,本件における特許法102条3項の損害額は,被告製品の売上額に3%を乗じて算定するのが相当である。 - 23 -そうすると,原告の損害額は236万0346円となる。 これに対し,被告は,本件発明の進歩性の程度が低く,需要者への訴求要因として寄与しないことなどからすれば,実施料率が1%を超えることはない旨主張するが,以 ,原告の損害額は236万0346円となる。 これに対し,被告は,本件発明の進歩性の程度が低く,需要者への訴求要因として寄与しないことなどからすれば,実施料率が1%を超えることはない旨主張するが,以上の説示に照らし,失当と解すべきである。 被告は,また,被告製品は上記⑤の別件訴訟において原告の同③の特許権を侵害すると主張されており,この特許権と本件特許権の実施料率は一括して定められるべきであるから,別件訴訟により被告が支払う損害額が本件の損害額から控除される旨主張する。しかし,これらの特許権は異なる技術を対象とするものであり,特許法102条3項所定の特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額は別個に算定するのが相当と解される。また,通常の実施許諾交渉の場面では,1個の製品に複数の特許発明が実施される場合,一括して契約することにより個別に許諾したときの合計より実施料率が低くなり得るとしても,同項に基づいて損害賠償を請求する場面では通常の交渉による例が直ちに妥当するものでない。したがって,被告の上記主張を採用することはできない。 弁護士費用本件訴訟の内容,経緯,認容額等に照らし,40万円を相当と認める。 小括以上によれば,被告は原告に対し,上記及びの合計276万0346円の支払義務を負う。なお,遅延損害金につき,原告は,平成26年11月28日から提訴日(平成27年8月6日)までの被告製品の売上げに係る特許法102条3項に基づく損害につき訴状送達日の翌日(同月18日)から,訴えの変更により拡張した平成28年6月30日までの同項に基づく損害及び弁護士費用につき訴えの変更申立書の送達日の翌日(同年7月8日)からの各支払を求めるところ,損害賠償請求の対象期間中の売上げの推移が証拠上不明であることに鑑み,上記の236万0346円のうち102万3 士費用につき訴えの変更申立書の送達日の翌日(同年7月8日)からの各支払を求めるところ,損害賠償請求の対象期間中の売上げの推移が証拠上不明であることに鑑み,上記の236万0346円のうち102万37- 24 -65円(平成27年8月6日までの日割計算)につき同月18日から,133万6581円及び弁護士費用40万円につき平成28年7月8日から各支払済みまでの支払義務を負うものと認める。 差止め及び廃棄等の請求について原告は,被告製品の生産等の差止め及び廃棄に加え,被告製品製造のための装置の廃棄を求めるが,その装置が特定されていない上,廃棄の必要性についての具体的な主張立証がない。したがって,上記装置の廃棄請求は認められない。 第4 結論 以上によれば,原告の請求は上記の限度で理由があるから,主文のとおり判決する。なお,主文第2項についての仮執行宣言は相当でないから,これを付さないこととする。 東京地方裁判所民事第46部裁判長裁判官長谷川浩二裁判官萩原孝基裁判官林雅子

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