平成18年3月30日判決言渡平成16年(ワ)第1804号損害賠償請求事件判決主文 被告は,原告Aに対し4930万7757円,同B,同C,同D及び同Eに対しそれぞれ1232万6939円,及びこれらに対する平成13年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求を棄却する。 訴訟費用は,被告の負担とする。 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求被告は,原告Aに対し5130万5000円,同B,同C,同D及び同Eに対しそれぞれ1282万6250円,及びこれらに対する平成13年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,Fが,国立療養所豊橋東病院(以下「被告病院」という)におい。 て胸部大動脈瘤と診断され平成13年8月1日同病院に勤務していたG以,,(下「G」という)により,胸部ステントグラフト内挿術を受けたところ,左。 外腸骨動脈が破損し,手術中に出血性ショックを起こし,その結果,同年9月17日に死亡したとして,Fの相続人である原告らが,被告に対し,不法行為又は債務不履行に基づき,損害賠償及び民法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求を求める事案である。 前提となる事実以下の事実は,当事者に争いがないか,当該箇所に掲記の証拠(特に記載の。 。)。 ない限り枝番を含む以下同じ及び弁論の全趣旨から認めることができる ( )当事者 ア原告ら原告Aは,Fの妻であり,原告B,同C,同D及び同Eは,Fの子である。 イ被告被告は,本件当時,国により運営されていた被告病院(現在は,豊橋医療センターという名称に変更されている)の運営及び権利義務関係等を。 引き継いだ独立行政法人であ び同Eは,Fの子である。 イ被告被告は,本件当時,国により運営されていた被告病院(現在は,豊橋医療センターという名称に変更されている)の運営及び権利義務関係等を。 引き継いだ独立行政法人である。 ( )胸部ステントグラフト内挿術について(甲B7号証,乙A22,B4号 証)ア大動脈瘤は,放置すると破裂に至る予後不良な疾患であるが,薬物療法の効果をほとんど期待することができないため,治療の基本は,外科的な病変切除及び人工血管を用いた血行再建又は置換術とされていた。外科手術は,患者の身体に対する侵襲が非常に大きいこと,瘤が破裂するとその治療は極めて緊急性の高い困難なものになること,術後の回復に時間がかかることなどのデメリットも存在している。 ,,イステントグラフト内挿術は経管的人工血管内挿術とも呼ばれるもので金属ステントを骨格にもち,人工血管で被膜した代用血管であるステントグラフトを細く折り畳んでシース内を通過させて血管内に運搬し,動脈瘤の中枢付近でこれを拡張,固定させることによって,瘤内の減圧と血行再建を図る治療装置である。 ステントグラフト内挿術は,患者の身体に対して低侵襲であることから実施されるようになり,我が国においては,平成6年ころから,Hらによって,その臨床応用が開始された。なお,以下においては,Hによって開発され,同医師の関与のもとに実施されているものを,原則として「H式ステントグラフト内挿術」といい,その他のものを含めたステントグラフ ト内挿術を単に「ステントグラフト内挿術」という。 ( )Fの診療経過等について ,,。 ア平成11年7月6日新城市民病院にて腹部大動脈瘤の診断を受けたイ平成11年9月9日,被告病院を受診し,同月10日,腹部大動脈から総腸骨動脈にかけて,Y型のステントグラフト( て ,,。 ア平成11年7月6日新城市民病院にて腹部大動脈瘤の診断を受けたイ平成11年9月9日,被告病院を受診し,同月10日,腹部大動脈から総腸骨動脈にかけて,Y型のステントグラフト(以下「Y型グラフト」という)内挿術を受けた。 。 ウ平成13年4月5日(以下,平成13年については,原則として月日のみで表示する,被告病院で造影CT検査を受けた。 。)エ6月20日,東栄町国民健康保険東栄病院において,レントゲン検査の結果,胸部大動脈瘤が疑われた。 オ6月21日,被告病院を受診し,造影CT検査の結果,直径約6cmの胸部大動脈瘤が認められた。 カ6月26日,被告病院で大動脈造影検査を受けた。 キGは,当時康生会武田病院に所属し,H式ステントグラフト内挿術に用いるステントグラフトをオーダーメイドで作成しているHに対し,4月5日,6月21日及び同月26日の画像データを送付し,Fの胸部大動脈瘤について,ステントグラフトの形状・サイズ,使用するシースの太さ,H式ステントグラフト内挿術の適応についての検討を依頼した。 ク7月中旬ころ,HからGに対し,本件の場合2本枝付ステントグラフト及び24Fr(フレンチ,シースの内径を表す単位)シースを用いることで対応可能であるとの回答があった。 ケ7月26日,被告病院に入院した。 コ8月1日,Gのほか,I,J,K,H,Lのチームによる胸部のH式ステントグラフト内挿術(以下,この手術を「本件手術」という)を受け。 た。 サ本件手術中,左外腸骨動脈が破損した結果,出血が起こり,血圧が低下 しショック状態となった。間もなく,被告病院冠動脈疾患集中治療室に運ばれ,集中治療を受けた。 シ9月17日,Fは,上記出血による虚血性多臓器障害と出血性脳梗塞,及び敗血症により死亡した。 争点 ( ック状態となった。間もなく,被告病院冠動脈疾患集中治療室に運ばれ,集中治療を受けた。 シ9月17日,Fは,上記出血による虚血性多臓器障害と出血性脳梗塞,及び敗血症により死亡した。 争点 ( )本件手術中における出血の原因 ( )治療方針選択の過失の有無 ( )手術適応判断の過失の有無 ( )手技上の過失の有無 ( )説明義務違反の有無 ( )損害 争点に関する当事者の主張( )争点( )(本件手術中における出血の原因)について (原告らの主張)アFの外腸骨動脈は動脈硬化が高度であり,特に本件破損部位における狭。 ,窄度は50%であったこのように血管壁が動脈硬化を起こしていた場合血管壁は亀裂,断裂を起こしやすい状態となる。 イGが,ダイレータ付シースを左外腸骨動脈に下から上に突き上げて通過させようとした際に,ダイレータの先端部が血管壁を貫通し,左外腸骨動脈を破損させ,本件出血が起きた。 (被告の主張)ア本件で左外腸骨動脈の起始部の狭窄度は173%であった。 .イ50%狭窄とは,一般に,軽い狭窄病変があることを意味するものであって,高度の狭窄部分があることを意味するものではない。 ウ本件手術においては,左大腿動脈からシースを挿入した。シースは左外腸骨動脈と腹部に留置されているY型グラフト内で通過に抵抗を感じたも のの通過した。しかし,Y型グラフト上端部である腎動脈下まで達した時点で抵抗が強く,止まってしまった。 エ当初,シースは胸部下行大動脈まで進める予定であったが,シースがY型グラフトを超えていればステントグラフトを胸部まで運搬することは可能であるため,Gはそれ以上シースを進めなかった。 オ次に,上記シース内にステントグラフト運搬システム付のガイドワイヤーを挿入し,ガイ ラフトを超えていればステントグラフトを胸部まで運搬することは可能であるため,Gはそれ以上シースを進めなかった。 オ次に,上記シース内にステントグラフト運搬システム付のガイドワイヤーを挿入し,ガイドワイヤーを牽引しながらステントグラフトを運搬していったが,ステントグラフトは総腸骨動脈と外腸骨動脈の分岐点付近より先に進むことができなかった。この部分には屈曲があるが,ここにステントグラフトの枝付部分を折りたたんだ結果太くなった部分が引っ掛かったのではないかと推定される。 カそこで,手術は不成功と判断し,シースを抜去したところ,血圧が40㎜Hgまで低下しショック状態となった。 キ上記血圧低下は左外腸骨動脈が破損し,出血したことが原因である。 本件では,ある程度動脈硬化が進んでいたため,シース挿入後も血管の屈曲が多少残った状態であった。 操作中のどの時点で血管を破損したか,については,①シース挿入時に破損した,②シースは無事挿入できたものの,シース自体も血管の屈曲に合わせて若干つぶれたような状態であったところ,ステントグラフトを挿入した際に,シースがステントグラフトの形に合わせて膨らみ,その負荷に血管が耐えきれず破損した,③シースとステントグラフトは無事挿入できたが,シースを抜去する際,血管が引っ張られる力に耐えきれず破損した,という3つの場合が考えられるが,そのうちのどれが原因であるかは不明である。 ( )争点( )(治療方針選択の過失の有無)について (原告らの主張) ア本件手術当時,ステントグラフト内挿術は,臨床治験段階の試行的治療であった。 イステントグラフト内挿術は,安全性に乏しく,極めて危険な手術手技を伴うもので,高度の専門的技巧を要する。 ウ本件では,腹部ステントグラフトがシース挿入の障害となるため,もともと 療であった。 イステントグラフト内挿術は,安全性に乏しく,極めて危険な手術手技を伴うもので,高度の専門的技巧を要する。 ウ本件では,腹部ステントグラフトがシース挿入の障害となるため,もともとステントグラフト内挿術を実施すること自体に無理があった。 エ他方,胸部大動脈瘤については,安全性の確立した開胸手術による人工血管置換術を実施するのが一般的,標準的なものとされている。 オまた,本件手術は類まれな手術であり,ドイツから医師が見学に来ていた。 カ以上の事情を考慮すると,本件手術は成功率の乏しい臨床治験段階の危険な手術だったのであり,そのような手術を治療方針として選択したこと,,。 につきGには患者の安全性に配慮すべき注意義務を怠った過失がある(被告の主張)アステントグラフト内挿術が安全性に乏しく,危険な手技であるという点は否認する。 イ腹部Y型グラフトを通してシースを挿入する点についても,本件当時,既に複数の成功例が存在していた。 ウ胸部大動脈瘤につき,従来開胸手術による人工血管置換術の実施が一般的だったことは認めるが,近年は胸部大動脈瘤につきステントグラフト内挿術を選択する例が増加している。 エ本件手術は類まれな手術ではない。 .オ非解離性大動脈瘤に対する開胸手術の場合,在院死亡率は全体で114%,弓部から下行大動脈の大動脈瘤の場合で171%という統計調査.がある。これに対し,ステントグラフト内挿術については,術後30日以内の死亡率は全体で51%,弓部及び遠位弓部大動脈瘤については82.. %とする統計調査がある。さらに,本件で使用されたH式ステントグラフトの内挿術については,院内死亡率は全体で24%,弓部及び遠位弓部.大動脈瘤については86%となっている。 .以上から,①Fの弓部から遠位弓部大動脈 る。さらに,本件で使用されたH式ステントグラフトの内挿術については,院内死亡率は全体で24%,弓部及び遠位弓部.大動脈瘤については86%となっている。 .以上から,①Fの弓部から遠位弓部大動脈にかけての大動脈瘤は,他の部位に比べて相対的に手術死亡率が高く,開胸手術とステントグラフト内挿術のどちらをとっても,手術の危険性は一定程度内在している,②治療成績を比較した場合,ステントグラフト内挿術による方が,開胸手術によるよりも手術死亡率が低く,安全性が高いといえる。 また,外科手術の場合には侵襲が過大で,術後の回復が遅いという短所がある。 カ上記のとおりであり,Gには治療方法の選択につき,過誤はない。 ( )争点( )(手術適応判断の過失の有無)について (原告らの主張)ア胸部大動脈瘤が上行大動脈に位置する症例については,ステントグラフト内挿術の適応から除外されている。 イFの胸部大動脈瘤は,上行大動脈から弓部大動脈にかけて位置していたのであり,適応対象外であることは明らかである。 したがって,本件手術は,手術適応のない,違法なものである。 (被告の主張)ア平成13年8月1日当時,上行大動脈にかかる大動脈瘤の中でも3分枝付ステントグラフトを留置する場合,中枢側に3㎝以上,末梢側に2㎝以上のネックがあれば適応可能であった。 イFの大動脈瘤は,主に弓部大動脈から遠位弓部大動脈にかけて存在していたのであり,上行大動脈にはかかっていない。 ( )争点( )(手技上の過失の有無)について (原告らの主張) アステントグラフト内挿術は,少なくとも本件手術当時は,合併症(腸骨動脈断裂)の発生率が05%と高く,著しく危険な手技であった。 .臨床経験豊富な施設において,熟練者が施術した場合においても腸間膜動脈断裂の合併症が不 挿術は,少なくとも本件手術当時は,合併症(腸骨動脈断裂)の発生率が05%と高く,著しく危険な手技であった。 .臨床経験豊富な施設において,熟練者が施術した場合においても腸間膜動脈断裂の合併症が不可避的に起こり得るところ,Gのステントグラフト内挿術の経験数はわずか24例であって,熟練者とはいえなかった。 さらに,本件手術が,腹部のY型グラフトを通じてのシース挿入というGにとって初体験の手術だったことからすると,本件手術の手技は非常に難しく,そのリスクは予測できず危険なものであった。 イ本件においては,本件患者の大動脈から総・内外腸骨動脈にかけて,高度の動脈硬化が進行し,血管壁が脆弱化しており,かつ,外腸骨動脈に強度の狭窄部分が存在するため,過度の力が加われば血管壁を破損させ易い状態にあることを,手術中,常に念頭に置いて,慎重な操作をすべきであった。 ,,ウステントグラフト内挿術を実施する医師にはシースを通過させる際に,,①通過状況をX線透視のモニター方法で凝視しつつ②無理な挿入を避け③手の感触で,少しでも抵抗感,違和感を感知したときは,いったん挿入を中止し,④当該部位の解剖学的,病理学的諸要因を検討の上,⑤さらに挿入した場合の安全性を確認できない限りはシース等の挿入を中止する,という義務があった。 Gは上記①ないし⑤の義務にすべて違反し,腹部のY型グラフト内にシースを挿入する際,その手前で大きな抵抗を感知したにもかかわらず,シ,。 ース挿入を停止しないで強行したことにより左外腸骨動脈を破損させた(被告の主張)アステントグラフト内挿術が高度の専門的技巧を要するものであり,血管損傷等の合併症の可能性があること,本件は腹部Y型グラフトを通してのシース挿入であり,通過が難しい可能性のあったことは認めるが,本件手 術のリスク 内挿術が高度の専門的技巧を要するものであり,血管損傷等の合併症の可能性があること,本件は腹部Y型グラフトを通してのシース挿入であり,通過が難しい可能性のあったことは認めるが,本件手 術のリスクは予測できており,本件手術が著しく危険な手技であったということはない。 イ原告主張ウの⑤については,さらに挿入した場合の安全性を確認することは事実上不可能である。なぜなら,動脈硬化の程度は造影CT検査や大動脈造影検査により判断するところ,どの部分の血管壁がどの程度脆弱化,,しているか又は弾力性を欠いているのかは検査結果からの推測にすぎずさらに挿入した場合の安全性を完全に確認することは不可能だからである。 また,シース挿入時やステントグラフト挿入時に抵抗を感じることはしばしばあり,抵抗を感じても結果として通過することができるケースも多々ある。抵抗を感じた際に安全性が確認できないからといって手技をすべて中止するとすれば,ステントグラフト内挿術の活用場面は極めて限定されることになり,妥当でない。 以上からすると,原告主張ウの⑤については,通過が困難と判断された場合には,シース等の挿入を中止する注意義務があると解すべきである。 ウGは,①シース等の通過状況について,X線透視のモニター方法で適切に監視していた。②無理な挿入もしていない。そして,③シース挿入の際に,左外腸骨動脈とY型グラフトで抵抗を感じ,ステントグラフト挿入の際には外腸骨動脈から総腸骨動脈に移行する付近で抵抗を感じたため,それぞれ,一旦挿入を停止させた。その際,④当該抵抗部位の解剖学的・病理学的諸要因を検討しており,その結果,⑤左外腸骨動脈を通過し,Y型グラフト上端部までシースを進めた状態で挿入を中止し,ステントグラフトは外腸骨動脈から総腸骨動脈に移行する付近で通過が困難と判断し 理学的諸要因を検討しており,その結果,⑤左外腸骨動脈を通過し,Y型グラフト上端部までシースを進めた状態で挿入を中止し,ステントグラフトは外腸骨動脈から総腸骨動脈に移行する付近で通過が困難と判断し,挿入を中止した。 ( )争点( )(説明義務違反の有無)について (原告の主張) ア上記の各過失が認められないとしても,本件手術は治験段階の手術手技にすぎない。このような試行的な治療法を選択しようと考えたときは,医師は,患者及びその家族に対し,次のような説明を十分にして,その同意を得ることが必要不可欠である。 ①試行的な治療行為であること②当該治療行為の有効性とその合理的な根拠③当該治療行為を採用する必要性とその合理的な根拠④当該治療行為を採用した場合の危険性の具体的内容⑤上記危険性がある場合,その危険性が具体化した場合における医師の対応措置の内容⑥当該疾病に対し,従来採られている他の治療方法の内容,その効果の程度,他の治療法と当該試行的治療行為との比較⑦当該医師及び医療機関における当該治療行為の試行の程度,その際の結果・内容イしかし,Gは,原告らに対しても,Fに対しても,上記①ないし⑦について必要十分な説明を怠った。 ウもしFが,上記各説明事項について,十分な説明を受けていたならば,あえて自己の生命の危険を冒してまで,自ら被験者となることを承諾しなかったことは自明である。 エ以上の説明義務違反により,Fのステントグラフト内挿術を承諾するか否かの決断,選択をする機会を不当に奪い,その自己決定権は不当に奪われた。 (被告の主張)ア医師は,緊急を要し時間的余裕がないなどの特別の事情がない限り,治療行為を行う場合,以下の事項について,具体的に説明する義務がある。 ①患者の現症状とその原因 ② れた。 (被告の主張)ア医師は,緊急を要し時間的余裕がないなどの特別の事情がない限り,治療行為を行う場合,以下の事項について,具体的に説明する義務がある。 ①患者の現症状とその原因 ②当該治療行為を採用する理由③治療行為の具体的内容④治療行為に伴う危険性の程度⑤治療を行った場合の改善の見込み,程度⑥当該治療を受けなかった場合の予後イさらに,当該治療法が特に新しい治療法であって術者が少なく,長期の観察例も乏しくてその評価が定まっていない場合には,以下の事項も加えて説明する義務がある。 ⑦手術の意義・有効性⑧その合理的根拠(有効性に関する議論の余地がある場合にはその議論の状況)⑨手術に伴う合併症の有無⑩手術を行わなかった場合の危険性⑪他に採り得る治療方法の有無ウGは,6月27日,7月29日,7月31日及び8月1日の4回にわたり,以下の説明を行った。 ①本件胸部大動脈瘤の最大径は,6㎝あり,手術をしないと破裂する危険があること②治療の選択肢には,腹部の場合と同様,外科手術とステントグラフト内挿術があること③これらが確立した治療法であるか,治験段階のものであるか④それぞれの内容及びメリット,デメリット⑤ステントグラフト内挿術の被告病院における成功率や合併症の具体的内容(動脈硬化の症状があり,シース通過が難しい可能性があること,血管損傷が起こり得ることも含む)。 ⑥胸部の場合と腹部の場合の違い(Y型ではなく2本枝付グラフトであ ,,ること動脈瘤がある弓部には脳へ血液を送る太い動脈が分岐しており小さな血栓を飛ばしても脳梗塞を起こす危険性があること,前回留置した腹部のY型グラフトの中を通すためその部分で抵抗があること等)⑦その他,H式ステントグラフト内挿術に係る同意文書の内容 岐しており小さな血栓を飛ばしても脳梗塞を起こす危険性があること,前回留置した腹部のY型グラフトの中を通すためその部分で抵抗があること等)⑦その他,H式ステントグラフト内挿術に係る同意文書の内容の詳細エステントグラフト内挿術が治験段階のものであることについては,Fが平成11年の腹部ステントグラフト内挿術で入院費用を支払った際に,保険認可がされていないことについて当然に了知していた。 オGが以上の説明をした結果,Fは低侵襲のステントグラフト内挿術を希望するに至ったのであり,Fは自らの意思により,この術式を選択している。 カ患者の家族に対してまで医師は説明義務を負うものではない。 ( )争点( )(損害)について (原告らの主張)ア逸失利益は,年収1461万3618円を基礎として,就労可能年数8年,生活費控除30%とすると,6611万円を下らない。 イ慰謝料2500万円ウ葬儀費用150万円エ弁護士費用は,本件では1000万円を被告に負担させるのが相当である。 オ以上の合計1億0261万円につき,原告Aは2分の1の5130万5000円,同B,同C,同D,同Eは,それぞれ8分の1の1282万6250円を相続した。 (被告の主張)争う。 第3当裁判所の判断 争点1(本件手術中における出血の原因)について ( )本件手術の経緯及びFの死亡について 前記前提となる事実,当事者間に争いのない事実,乙A21,22号証,当該箇所に掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,本件手術からFの死亡に至る事実は次のとおりであったものと認められる。 ア8月1日午後零時18分に本件手術が開始された(以下,アないしスは8月1日のことである。 。)イGは,右上腕動脈,左上腕動脈,左総頸動脈の3箇所から経皮的にイントロデュ ものと認められる。 ア8月1日午後零時18分に本件手術が開始された(以下,アないしスは8月1日のことである。 。)イGは,右上腕動脈,左上腕動脈,左総頸動脈の3箇所から経皮的にイントロデューサー(乙A16号証の1)を用いてガイドワイヤー(同号証の2)を挿入し,これに沿ってそれぞれシースを挿入してシースを目的位置まで進めた後,ガイドワイヤーを抜去した。これによって3つのシースがそれぞれ動脈内に留置された状態になっている(このイにおけるガイドワイヤー及びシースは血管損傷の原因として争われている左外腸骨動脈の分岐部付近に挿入されたものとは別のものである。 。)ウ午後2時05分,左大腿動脈の血行を遮断して,ガイドワイヤーの挿入を開始し,このガイドワイヤーを上記イの右上腕動脈のシースから入れたカテーテルで捕獲し,ガイドワイヤーを右上腕動脈のシースから取り出した。これによって,ガイドワイヤーが左大腿動脈から右上腕動脈に通っている状態になっている。 エ(シースの挿入から中止まで)(ア)Gは,午後2時07分,ガイドワイヤーに沿ってダイレータ付きシース(乙A16号証の3)の挿入を開始した。 (イ)Gは,シースを押していったが,Y型グラフトの脚入口からやや末梢よりの箇所で抵抗を感じたため,いったんシースの挿入を停止した。 同医師は,術前検査の結果,抵抗があると予想された総腸骨動脈と左外腸骨動脈の分岐部付近に停止したシースがあるものと推測した。この部分は,術前検査の結果,屈曲が50度であり,血管内径がシースの外径 よりも太いことが判明していたことから,更に押せば通過する可能性があると判断し,力を加えてシースを継続的に押していったところ,当該。 ,,部分を通過させることができた同医師は摩擦による抵抗を感じたがY型グラフトの内径(12 とから,更に押せば通過する可能性があると判断し,力を加えてシースを継続的に押していったところ,当該。 ,,部分を通過させることができた同医師は摩擦による抵抗を感じたがY型グラフトの内径(12㎜)はシースよりも太いので,通過するものと考えており,シースをY型グラフト内に進めていった。 (ウ)シースがY型グラフトの上端付近まできたところでより抵抗が強くなった。Gは,Y型グラフトは強い屈曲がなく,内径が十分あるので,通過する可能性があると考え,更に力を掛けて押したが,シースが進ま。 ,,なくなった当初シースを胸部下行大動脈まで進める予定であったがGは,Hと相談し,シースがY型グラフトを越えていればステントグラフトを胸部まで運搬することは可能と思われるので,シースをそれ以上先に進める必要はないものと判断して,シースをその位置に留置し,ダイレータ及びガイドワイヤーを抜去した。 オGは,造影剤を使用して,シースの先端の位置がY型グラフトの上端を越えていることを確認した。 カGは,シース内にステントグラフト運搬システム付きのガイドワイヤーを挿入し,そのガイドワイヤーの先端を上記イの右上腕動脈のシースから入れたカテーテルで取り出した。これによって,ガイドワイヤーが本シース内を通って右上腕動脈まで通っている状態になっている。 キ(ステントグラフトの挿入から中止まで)(ア)Gは,午後2時20分から,ステントグラフトの挿入を始めた。シースの終わりの部分(体外)についている弁にカートリッジシース(乙A16号証の5)を装着し,シース内にステントグラフトを押していった。 (イ)Gは,シース挿入時と同様,Y型グラフトの脚入口からやや末梢よりのところで抵抗を感じた。しかし,同医師は,シースが通っているか らステントグラフトの通過する可能性はあ を押していった。 (イ)Gは,シース挿入時と同様,Y型グラフトの脚入口からやや末梢よりのところで抵抗を感じた。しかし,同医師は,シースが通っているか らステントグラフトの通過する可能性はあると推測し,更に力をかけてステントグラフトを押したり,ガイドワイヤーの先端を引き,方向を変えたりして通過を試みたが,ステントグラフトは進まなかった。 ,,(ウ)GがHに対してステントグラフトが進まないと述べたところHは術前検査によると,ステントグラフトが進まなくなっている部分は,屈曲は約50度と緩いものであり,血管内径がシースよりも太いこと,そして,従来の経験によると,もっと程度の重い屈曲,狭窄及び石灰化が見られたものも通過させることができていたことからすれば,更に押せば通過できる可能性があると考え,Gに代わって,ステントグラフトを押した。ところがステントグラフトをほとんど進めることができなかった。 (エ)GとHは協議し,ステントグラフトを進めることは困難であるので本件手術は中止し,ステントグラフトのリングの数を減らし小さくする等の変更が可能かどうかを検討した上で,再手術を行うことにした。 クGは,午後3時08分から同15分の間,ステントグラフトが入った状態のシースを抜去した。 ,,,ケ午後3時15分シースを抜去した直後血圧が39㎜Hgまで低下しFは,ショック状態となった。直ちに,点滴を全開にして,急速静注を行ったが,血圧上昇が見られず,Fから,左下腹部が痛いとの訴えがあり,,。 左下腹部に膨張が見られたことから左外腸骨動脈からの出血が疑われた呼吸状態が悪化してきたため,気管内挿管を開始し,血圧低下に対する応急措置も採られた。 ,,。 コ午後3時49分ころ造影剤を流し血管破裂及びその位置を確認したシ午後4時10分, 血が疑われた呼吸状態が悪化してきたため,気管内挿管を開始し,血圧低下に対する応急措置も採られた。 ,,。 コ午後3時49分ころ造影剤を流し血管破裂及びその位置を確認したシ午後4時10分,止血するため,破裂部位にステントグラフトを留置することにし,Y型グラフトと一部重なるようにして,外腸骨動脈にステン。 ,。 トグラフトを留置したその後ステントグラフトをバルーンで拡張した ス午後5時20分,外科医師により,左大腿動脈の血管縫合が開始され,同5時58分,手術は終了した。 セその後,Fは,被告病院において治療を受けたが,9月17日,虚血性多臓器障害,出血性脳梗塞及び敗血症により死亡した。 ( )出血の原因について ア原告らは,Gが,ダイレータ付シースを左外腸骨動脈に下から上に突き上げて通過させようとした際,ダイレータの先端部が血管壁を貫通し,左外腸骨動脈を破損させ,本件出血が起きた旨主張する。 この点については,ダイレータの先端は細くとがっており(乙A16号証の3,Fの出血部位は,外腸骨動脈が総腸骨動脈の分岐部に向けて屈)曲している部分であること(Hの証言)によると,ダイレータの先端が屈曲した血管壁を貫通したとみる余地もないではないと考えられる。 イしかし,ダイレータの先は,血管壁を突き破ることのないように非常に柔らかくなっていること,ガイドワイヤーが入っており,血管はまっすぐの方向に伸ばされていること,ダイレータは,ガイドワイヤーに沿って進むことが認められるので,このとがった部分が血管壁を突き破るとことは考え難い(H及びGの証言。 )上記によると,左大腿動脈から右上腕動脈に通っているガイドワイヤーによって屈曲が緩やかにされている血管をガイドワイヤーに沿ってダイレータが進むのであるから,このダイレータが血管壁を びGの証言。 )上記によると,左大腿動脈から右上腕動脈に通っているガイドワイヤーによって屈曲が緩やかにされている血管をガイドワイヤーに沿ってダイレータが進むのであるから,このダイレータが血管壁を貫通することは通常考え難いものであるといい得る。 ウ上記のとおりであり,Gの操作したダイレータの先端部が血管壁を貫通したものと認定することはできない。 争点2(治療方針選択の過失の有無)について( )原告らは,ステントグラフト内挿術は,成功率の乏しい危険な手術であ り,Gが本件手術を治療方針として選択したことに注意義務違反があった旨 主張する。 ( )ステントグラフト内挿術について ア我が国において,腹部大動脈瘤に対するものとしては平成7年(1995年,胸部大動脈瘤に対するものとしては平成11年(1999年)に)始められたとの文献(乙B4号証)もあるが,Hは,H式ステントグラフト内挿術につき,上記のとおり平成6年から臨床使用を始めており,本件,,手術当時被告病院をはじめ合計7つの医療機関で同術が実施されており手術総数は357例,うち胸部大動脈瘤の手術総数は117例であったとされる(乙A22号証。 )イステントグラフト内挿術は,本件手術当時,保険適用がなかった(乙A21,22号証)ものであり,平成14年及び同15年においても「大,動脈疾患のステントグラフトによる治療体系の確立に関する研究」が継続されており,その研究目的として「胸部及び腹部大動脈瘤に対する治療,法の一つとしてステントグラフト内挿術が行われるようになってきているが,ステントグラフトの大半が自家製で,しかもそれを施行する施設の独自の考えで行われていることから,その適応,方法,治療効果及び合併症等に関してまとまった研究がされていないのが現状であり,治 ているが,ステントグラフトの大半が自家製で,しかもそれを施行する施設の独自の考えで行われていることから,その適応,方法,治療効果及び合併症等に関してまとまった研究がされていないのが現状であり,治療体系の確立することを目的にする」旨述べられており,この研究には,H,Gも研究者として加わっている(甲B8,9号証(枝番号を含む。 。))ウ上記によると,ステントグラフト内挿術は,本件手術のされた平成13年8月当時,完成された治療法として確立していたものとはいい難いが,全国的規模で相当数の症例における施行の実績が積み重ねられていたことが明らかであり,H式ステントグラフト内挿術も相当数の症例に施行されていたことによれば,原告らの上記主張はその前提を欠くというべきである。 ( )Y型グラフトが既に留置されている場合におけるH式ステントグラフト 内挿術の実施についてア上記のとおり,Fには既に平成11年9月10日の被告病院における手術によって,腹部大動脈から総骨動脈にかけてY型グラフトが留置されていたのであり,本件手術は,ステントグラフトをY型グラフトを通過させて胸部大動脈瘤まで運搬させるものであった。 イHは,既に留置されている人工血管の中を通すのは,人工血管自体が伸びないために抵抗がやや増えるので,シースと比べ脚の内径に十分余裕のあることが好ましいと思っていた旨証言している(Hの証言。これによ)ると,Y型グラフトが既に留置されている場合には,そうでない場合と比べて,H式ステントグラフト内挿術を施行するについて抵抗に対する注意が必要であることを認識していたことがうかがわれる。 ウしかし,本件手術当時,Y型グラフトが留置されていた症例についてH式ステントグラフト内挿術を実施して事例が既に6件あり,そのうち4件は成功していた( であることを認識していたことがうかがわれる。 ウしかし,本件手術当時,Y型グラフトが留置されていた症例についてH式ステントグラフト内挿術を実施して事例が既に6件あり,そのうち4件は成功していた(乙A21号証,B12号証)のである。 そうすると,Y型グラフトが留置されていたということのみから,本件手術が極めて危険なものであったと評価することはできない。 ( )上記のとおりであって,原告らの主張を採用することはできない。 争点3(手術適応判断の過失の有無)について( )原告らは,胸部大動脈瘤が上行大動脈に位置する症例についてはステン トグラフト内挿術は適応がないところ,Fの胸部大動脈瘤は上行大動脈から大動脈弓部にかけて位置していたから適応がなかった旨主張する。 ( )Fの胸部大動脈瘤の位置について アFの死亡後,病理解剖をした岐阜大学医学部病理学教室の担当者は,胸部大動脈瘤は「上行大動脈~大動脈弓部」に位置していたと判断している(甲A3号証。 )イしかし,H及びGは,Fの胸部大動脈瘤の部位は,弓部から遠位弓部に かけてであり,上行大動脈にはかかっていないという(乙A21,22号証,H及びGの各証言。 )ウ上記によると,病理解剖担当者の上記判断のみから,直ちに,Fの胸部大動脈瘤が上行大動脈に位置していたものと認定するのは困難であり,この点を的確に認定するには足りないといわざるを得ない。 ( )上行大動脈の胸部大動脈瘤へのステントグラフト内挿術の適応について ア上行大動脈は,血流が非常に速く,人工血管を固定するものがなく,ずれて流れてしまう可能性があり(Gの証言,Hも,H式ステントグラフ)ト内挿術の適応について,平成10年の時点では,上行大動脈に留置を要する症例は適応から除外していることを明らかにしていた( く,ずれて流れてしまう可能性があり(Gの証言,Hも,H式ステントグラフ)ト内挿術の適応について,平成10年の時点では,上行大動脈に留置を要する症例は適応から除外していることを明らかにしていた(乙B5号証51頁。また,平成14年にも,胸部領域におけるステントグラフト内挿)術は,一部の遠位弓部を含む下行大動脈が対象となる旨を指摘している論考が発表されている(甲B1号証1501頁。 )イしかし,Hは,枝付ステントグラフトの開発が進んだことから,平成10年を境に,それまでの遠位弓部大動脈瘤,下行大動脈瘤及び腹部大動脈瘤から,弓部大動脈瘤,上行大動脈瘤にまで広げられた旨述べる(乙A22。これによれば,平成10年以降については,胸部大動脈瘤が上行大)動脈に位置していたことのみをもって,H式ステントグラフト内挿術が適応のないものということはできない。 ( )上記に検討したところよれば,Fの胸部大動脈が上行大動脈に位置して いたものと認定することは困難であり,仮に上行大動脈に位置していたとしてもこのことから直ちに本件手術が適応のなかったものということはできない。したがって,原告らの主張を採用することはできない。 争点4(手技上の過失の有無)について( )H式ステントグラフト内挿術を実施する医師の搬送経路の血管に関する 注意義務について ア搬送経路の血管に関する術前の検討について(ア)術前検査の具体的内容乙A21,22,24号証,H及びGの各証言によると,次の事実が認められる。 aHは,H式ステントグラフト内挿術の実施を検討する場合,当該患者の大動脈瘤の造影データから,ステントグラフト設計用のコンピューターシュミレーションソフトを用いてステントグラフトの形状やサイズを決定し,設計図を作成する。この形状やサイズを決め する場合,当該患者の大動脈瘤の造影データから,ステントグラフト設計用のコンピューターシュミレーションソフトを用いてステントグラフトの形状やサイズを決定し,設計図を作成する。この形状やサイズを決めると,それに合わせて使用するシースの太さを定め,当該患者の搬送経路の造影CTのデータ及び大動脈造影のデータから,搬送経路の血管の状態を検討し,シースの通過可能性を検討する。 b搬送経路の血管の状態に関しては,造影CTのデータから,屈曲,狭窄,石灰化の3つの要素を総合して検討する。具体的には,①90度以上の屈曲が複数あるか,②血管内径とシース外径とを比べ,血管内径が小さい箇所が長い範囲にわたるかどうか,③石灰化が高度で血(,管の進展性が少なくシースの通過が困難か石灰化の程度にもよるが血管径360度のうち半分を超える部分が石灰化しているか,で。)ある。上記の要素は,搬送経路の血管につき,①屈曲の角度が大きいほど,また屈曲の数が多いほど,②血管内径が小さいほど,③石灰化については,血管径に占める割合が大きいほど,また,石灰化の程度が高く,範囲が広いほど,シース等を挿入する際,血管壁にかかる負荷が大きくなり,血管損傷の危険性が高くなるということから,適応を判断する基準としている。 (イ)術前検査の限界についてa上記のとおり,搬送経路の血管に関して検討するが,術前検査によっても,(a)血管内径は厳密には分からず,狭窄の形は楕円であった り,三日月形であったりいろいろな形をしているが,その形も判明しない(Gの証言。また,(b)石灰化のうち,輝度(白さの度合い))が高く動脈硬化が進行した状態についてはCT画像に鮮明に写るが,粥腫(動脈硬化の状態の一つで,粥のようにどろどろしたものが血管内壁に付着しているような状態のこと)については 輝度(白さの度合い))が高く動脈硬化が進行した状態についてはCT画像に鮮明に写るが,粥腫(動脈硬化の状態の一つで,粥のようにどろどろしたものが血管内壁に付着しているような状態のこと)については,この部分も血液と誤認して血管内径を実際よりも大きく見てしまう場合がある(乙A21号証。(c)屈曲や石灰化の角度についても,見る角度やその人)の見方によって誤差が生じ得る(乙A21号証。 )そこで,術前検査によって得られる屈曲や石灰化のデータによっても,動脈壁の脆弱性を正確に推測することはできず,搬送経路のどの部位について血管損傷の危険性が高いかという個々の血管壁の強さは明らかにはならない(乙A21,22号証。 )b血管壁の状況について乙A21,22号証によると,次の事実が認められる。 (a)ステントグラフト内挿術を実施する患者の多くは,搬送経路の血管に動脈硬化の症状を有しており,健常者と比較すると,動脈壁が脆弱化している可能性が高い。しかし,①動脈硬化の進行と動脈壁の脆弱化の関係は不明であり,②血管壁の弾力性は,部位毎に強弱があり,動脈硬化が進んだ部位とそれほどではない部位が混在している箇所において,弾力性がどのように変化するのかについても分かっておらず,また,③本来的に個人差がある。 (b)動脈壁の弾力性の低下傾向は,CT画像及び血管造影の検査からは判別不能であり,事前に予測することはできない。 イH式ステントグラフト内挿術におけるシース及びステントグラフトの経路血管への挿入について乙A21,22,24号証,乙B6号証,H及びGの各証言によると, 次の事実が認められる。 (ア)ステントグラフトは,蛇腹を持ち,平織りポリエステル人工血管の外側に,血管壁に固定するためにニッケルチタンワイヤーのリングが数個取り付けられてい 証言によると, 次の事実が認められる。 (ア)ステントグラフトは,蛇腹を持ち,平織りポリエステル人工血管の外側に,血管壁に固定するためにニッケルチタンワイヤーのリングが数個取り付けられているものであり,このステントグラフトを小さく折り畳んでシース内に入れ,目的部位まで進め,シースから放出する。折り畳まれたステントグラフトは,シースの直径よりも若干大きい。 (イ)ステントグラフトを押しているとき,アシスタントの医師が同時に,,ガイドワイヤーを引いておりガイドワイヤーやシースが挿入されると血管はまっすぐの方向に伸ばされ,屈曲が90度程度あっても,30度くらいになる。 (ウ)血管とシースの間は,余り隙間のない密着した状態であることが多い。 (エ)シース又はステントグラフトを挿入する際にはある程度強い力で押さなければならない。強い力で押すことが多いので,手の微妙な感覚は分からず,仮にその際,血管壁を破ったとしても手の感触では分からない。 (オ)シース又はステントグラフトを挿入する際に抵抗を感じた場合の処置についてa血管の粥腫,屈曲,狭窄及び石灰化は,シースやステントグラフトを進める際の障害となり,抵抗を感じる要素になり得る。 b抵抗がある場合,いったん押すのを中止して原因を推測する。その際には,術前の造影CTデータ,その場で見ているX線照射のモニター画面の両方を併せて考える。ただし,後者のモニター画面には血管は写らず,血管の屈曲,狭窄の場所及び程度を見ることはできないので,造影剤を流してシースと血管の位置関係を確認することもある。 しかし,何が原因で抵抗を感じているのか不明の場合もある。 ウステントグラフト内挿術を実施している医師の認識について(ア)大動脈疾患のステントグラフトによる治療に関し,胸部について実 る。 しかし,何が原因で抵抗を感じているのか不明の場合もある。 ウステントグラフト内挿術を実施している医師の認識について(ア)大動脈疾患のステントグラフトによる治療に関し,胸部について実施した46例中,64%に当たる3例に血管損傷があったことに対し.て,細径シースの開発が必要と考えられる旨の報告がある(甲B8号証の5。平成14年。 )(イ)胸部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術について,予定部位にステントグラフトが到達し得ない場合が302例中5例に見られたとして,アクセスルートとしての腸骨動脈領域につき,石灰化の存在や血管全体が狭小である場合にはシースの通過が困難で,シースの引き抜き時にも注意が必要であり,術前の画像のみで予想することは難しく,執拗な操作の継続は血管を損傷し,時として重篤な合併症を引き起こす可能性があり,注意が必要であるとの指摘が見られる(甲B13号証。平成15年。 )(ウ)ステントグラフト内挿術に関するものではないが,大動脈内バルーンカテーテルセットの取扱説明書(甲B6号証7頁)には,カテーテル挿入時において胸部大動脈損傷を防止するため,挿入時に抵抗を感じた場合,無理をせずに引き戻してから再度挿入を試みる旨が記載されている。 (エ)上記にみたところによると,ステントグラフト内挿術を実施している医師の間では,経路血管損傷のおそれがあることから,シースの挿入や引き抜き時には,血管を損傷しないように注意する必要のあることが認識されていたものと認められる。そして,これは,他のカテーテルを動脈に挿入する施術をする場合も同様であることがうかがわれる。 エH及びGの認識について(ア)H式ステントグラフト内挿術の実施について患者に作成を求める同意書(甲A5号証)には,操作に関連した合併症として,血管損 をする場合も同様であることがうかがわれる。 エH及びGの認識について(ア)H式ステントグラフト内挿術の実施について患者に作成を求める同意書(甲A5号証)には,操作に関連した合併症として,血管損傷のあるこ とが記載されている。これによると,H及びGは,H式ステントグラフト内挿術の実施に際し,血管損傷のおそれのあることを認識し,患者に対してこの点を説明する必要があると判断していたことが明らかである。 (イ)Hは,本件手術当時,H式スタントグラフト内挿術を実施した症例数357例のうち,シースが通過しなかった症例数を8例,シースは通過したが,ステントグラフトが通過しなかった症例を4例(本件も含む)有。 していた。そして,ステントグラフト内挿術の際における血管損傷として,(,)。 は平成14年6月までに4例を経験していた乙A22号証Hの証言(ウ)Hは,H式ステントグラフト内挿術につき,搬入システムが大腿動脈に比較して径が大きく,搬入に力を要するものであることなどを述べ,現在,搬入システムのプロファイルを小さくし,手技を簡素化する方向で改良が進められているとし(甲B8号証の3。平成14年,また,今後の)改良点として,導入用シースのサイズをより小さくすることを目標にしているという(甲B9号証の4。平成15年。 )(エ)上記によると,Hは,H式ステントグラフト内挿術の施行に際して経路血管の損傷をするおそれのあることを認識しているだけでなく,その対策として,シース等のサイズを小さくする必要のあることを十分認識していたことがうかがわれる。 オH式ステントグラフト内挿術を実施する際の経路血管に関する注意義務について(ア)上記に認定したところに,動脈壁を破損すると大量の出血が生じるおそれがあり(乙A2号証,Gの証言,その場合には オH式ステントグラフト内挿術を実施する際の経路血管に関する注意義務について(ア)上記に認定したところに,動脈壁を破損すると大量の出血が生じるおそれがあり(乙A2号証,Gの証言,その場合には,止血するまでに相)応の時間を要し,極めて危険な状態になるものと考えられることを総合すると,H式ステントグラフト内挿術を実施する医師は,その実施過程において経路動脈壁を破損するおそれのあることを念頭に置き,シース又はステントグラフトを動脈に挿入する際,また,シースを引き抜く際に,過度 の力を加えて血管を損傷しないように慎重に操作すべき義務を負うものと考えられる。 (イ)H及びGのH式ステントグラフト内挿術に対する姿勢について乙A21ないし24号証,H及びGの各証言によると,次の事実が認められる。 aHは,H式ステントグラフト内挿術を開発し,オーダーメードでステントグラフトの設計をしている。また,Gは,平成7年からH式ステントグラフト内挿術を実施している。 bHは,シースの通過可能性に関する適応につき,外科手術の適応がないためにステントグラフト内挿術を希望する患者が多くいること,同術は低侵襲で手術そのものによる負担が大きいわけではないことから,実施する価値があると考えており,術前検査の結果では,屈曲,狭窄及び石灰化の程度からシース等の通過が困難と思われるケースでも通過に成功するケースを多く経験していることから,限界事例に対しても前向きに判断することにしている。実際に,シース内でステントグラフトを移動させる際に抵抗が強く,操作が難渋する症例にあっているが,その大部分で結果的にはシースを通過し,ステントグラフト内挿術に成功している。 ,,,Gはステントグラフト内挿術は外科手術よりも院内死亡率が低く低侵襲で魅力的な治療方法である にあっているが,その大部分で結果的にはシースを通過し,ステントグラフト内挿術に成功している。 ,,,Gはステントグラフト内挿術は外科手術よりも院内死亡率が低く低侵襲で魅力的な治療方法であると評価しており,外科手術の適応のない患者だけでなく,その適応がある患者であってもその希望によりステントグラフト内挿術を選択しており,本件手術前,ステントグラフト内挿術を78例,胸部動脈瘤に対するステントグラフト内挿術は24例,シース等不通過による手技の中止例は4例という経験を有していた。 (ウ)上記(イ)のH及びGのH式ステントグラフト内挿術に対する姿勢について検討するに,Hは,前記のとおり,経路血管の通過可能性について屈 曲,狭窄及び石灰化の3つの要素から検討をするものの,自ら開発したH式ステントグラフト内挿術をできるだけ実施しようとしていることがうかがわれる。 また,前記の1( )エ及びキに認定したところによると,H及びGは, シース及びステントグラフトの挿入に際し,上記の屈曲,狭窄及び石灰化の要素に照らすと通過が困難と考えられた場合においても結果的には所期の目的を達することが多いことから,抵抗を感じても,より力を加えて押し続けることを原則としていることがうかがわれる。こうしたH及びGの,,姿勢には経路血管を破損するおそれのあることに対する緊張感が足りず経路血管の安全性に対する配慮が薄弱であると指摘せざるを得ない。 ( )Fに対する本件手術について ア本件手術前のH式ステントグラフト内挿術の適応の検討について乙A17,18,21,22号証,H及びGの各証言並びに該当箇所に掲記した各証拠によると,次の事実が認められる。 ,,(),(ア)HはGから①4月5日付け造影CT検査の結果乙A10号証②6月21日付け造 ,22号証,H及びGの各証言並びに該当箇所に掲記した各証拠によると,次の事実が認められる。 ,,(),(ア)HはGから①4月5日付け造影CT検査の結果乙A10号証②6月21日付け造影CT検査の結果(乙A9号証,③6月26日付け)大動脈造影検査の結果(乙A11号証)の3つのデータの送付を受け,H式ステントグラフト内挿術の適応を検討した。その結果,次のとおり判断した。 a胸部大動脈瘤部位は弓部から遠位弓部にかけてのものであり,ネック(ステントグラフトを確実に固定するための動脈瘤の中枢側と末梢側に必要な正常血管部位)も確保でき,適応があると判断した。 b次のとおり,シースの通過可能性も問題ないと判断した。 ①シース等の挿入に最も抵抗があると考えられた総腸骨動脈と左外腸骨動脈の分岐部の屈曲は約50度であり,90度以上の屈曲はなかった。 ②本件手術に使用するシースの外径は約87㎜,総腸骨動脈と左外.腸骨動脈の分岐部の内径は約884㎜ないし964㎜であって,シ..ースの外径よりも大きいため,シースの通過に問題はないものと判断した。また,Y型グラフトを留置済みであるが,その脚の直径は約12㎜あるため,この点でも通過に問題はないと判断した。 ③石灰化については,総腸骨動脈と左外腸骨動脈の分岐部に石灰化が認められるが,血管の内腔がシース外径よりも大きく,石灰化が約110度であり半周に満ちていないため,シースの通過に問題はないものと判断した。 (イ)Hは,7月中旬ころ,Gに対し,Fにつき,2本枝付きステントグラフト,24Frシース(外径約87㎜)で対応が可能である旨を連絡し.た。 Gは,H式ステントグラフト内挿術の適応につき,前記の経路血管の屈曲,狭窄及び石灰化に関する3つの要素を検討し,①ないし③が認められ, rシース(外径約87㎜)で対応が可能である旨を連絡し.た。 Gは,H式ステントグラフト内挿術の適応につき,前記の経路血管の屈曲,狭窄及び石灰化に関する3つの要素を検討し,①ないし③が認められ,,る場合には原則として適応のないものと考えているところFについては,。 前記の基準に照らしシースの通過可能性について適応があると判断したイステントグラフトについて(ア)本件手術に用いるステントグラフトは,長さが約192㎜,太さについては,細い部分(長さ約50㎜)の直径32㎜,太い部分(長さ約142㎜)の直径38㎜であり,これに約20㎜の長さの2つの枝が付けられている(乙A14号証,Hの証言。 )(イ)枝付きのステントグラフトは枝のある部分で太くなっているが,そもそも,ステントグラフトは折り畳んだときの太さを実際には計ることができない(H及びGの各証言。 。 )ウ本件手術の施行の際のH及びGの対応について(ア)本件手術におけるシース及びステントグラフトの挿入については,前 記認定のとおりであるが,挿入に抵抗を感じた際のH及びGの対応等は,次のとおりである。 aシースを挿入する際,Y型グラフトの脚入口からやや末梢よりの箇所で抵抗を感じたため,いったん挿入を停止したが,更に押せば通過する可能性があると判断し,力を加えてシースを押していったところ,通過させることができた。その後,シースがY型グラフトの上端付近まできたところで,より抵抗が強くなった。Gは,強い屈曲ではなく,内径が十分あるので,通過の可能性があると考え,更に力を掛けて押したが,シースが進まなくなった。当初,シースを胸部下行大動脈まで進める予定であったが,GとHとは協議して,シースをその位置に留置しておくことにした。 bその後,ステントグラフトの挿入を始め,シ したが,シースが進まなくなった。当初,シースを胸部下行大動脈まで進める予定であったが,GとHとは協議して,シースをその位置に留置しておくことにした。 bその後,ステントグラフトの挿入を始め,シース内にステントグラフトを押していった。シース挿入時と同様,Y型グラフトの脚入口からやや末梢よりのところで抵抗を感じたが,Gは,血管内径は十分にあり,シースは通っているから通過する可能性はあると推測し,更に力をかけてステントグラフトを押したり,ガイドワイヤーの先端を引き,方向を変えたりして通過を試みたが,進まなかった。 ,,,cGはHに対してステントグラフトが進まないと述べたところHは術前検査によると,この部分は,屈曲は約50度と緩いものであり,血管内径がシースよりも大きく,もっと程度の重い屈曲,狭窄及び石灰化のものも通過できていた従来の経験からすると,更に押せば通過できる可能性があると考え,Gに代わって,ステントグラフトを押したがほとんど進めることができなかった。そこで,GとHは,通過が困難と判断し,今回は中止し,ステントグラフトのリングの数を減らしてステントグラフトを小さくする等の変更が可能かを検討した上で,再手術を行うことにした。 dGがステントグラフトの入った状態のシースを抜去した直後,Fはショック状態となった。 (イ)上記によると,シース及びステントグラフトを挿入する際,いずれもY型グラフトの脚入口からやや末梢よりのところで抵抗を感じたが,シースは力を入れて押すことによって更に進めることができたが,ステントグラフトはその場から進まなくなったのである。この間,ガイドワイヤーによって引っ張られて伸ばされた状態の血管にG及びHが力をかけてステントグラフト等を挿入しようとし,その後本件手術を中止することを決定した後,ス 場から進まなくなったのである。この間,ガイドワイヤーによって引っ張られて伸ばされた状態の血管にG及びHが力をかけてステントグラフト等を挿入しようとし,その後本件手術を中止することを決定した後,ステントグラフトの入った状態のシースを抜いたというのであるから,ステントグラフト(長さ約192㎜)の挿入を試みるための下から上へ押す力,そして,その後抜くための上から下へ引く力が強く加えられたことが明らかである。 エ本件出血の原因となった血管の破損部位について(ア)破損部位として推定される部位は,術前検査において最もシースの通過に抵抗があると推測され,実際も抵抗のあった総腸骨動脈と左外腸骨動脈の分岐部付近ではなく,それよりも末梢よりの部位であった。この部位のうち,最も血管内径が細いと思われる部分は,約50度の屈曲があり,,。(,)血管内径は約986㎜石灰化はみられなかった乙A2122号証.(イ)しかし,当該部分が石灰化がみられなくても,石灰化があればそのすぐ横は非常に脆弱になる(Hの証言。 ),,,そしてFには胸部及び腹部大動脈に瘤が存在していたことによると動脈瘤が多発する傾向にあり,動脈の弾性の低下傾向は,胸部及び腹部の,。 ,みでなく他の動脈に波及していた可能性のあるものと考えられるまた解剖の結果によると,Fの大動脈は,粥腫形成を伴い動脈硬化が高度で,総・内外腸骨動脈まで及んでいたのである(甲A3号証。粥腫が形成さ)れていた動脈壁はもろく脆弱化するが,粥腫に関しては画像による判断は 難しいものとされる(Hの証言。 )上記によると,破損部位の動脈は,脆弱化していたが,術前のデータからは,この点が判明していなかった可能性が高いものと考えられる。 オ本件手術におけるGらの過失の有無について上記に認定した 言。 )上記によると,破損部位の動脈は,脆弱化していたが,術前のデータからは,この点が判明していなかった可能性が高いものと考えられる。 オ本件手術におけるGらの過失の有無について上記に認定したところによると,G及びHは,術前のデータから本件手術を実施するにつき,経路血管にシース等を通過させることについての適応の有無を一応検討したものと認められる。しかしながら,術前の検査からは,実際の経路血管の状態を認識することが困難であることは前記認定のとおりである。また,本件手術を実施したG及びHは,シース等の挿入につき,抵抗を感じても力を加えて押し続けることを原則にしていることも前記認定のとおりである。 上記に,以下に認定する(ア)ないし(エ)の事情を考え併せると,本件においては,G及びHが,H式ステントグラフト内挿術を実施する医師に求められる注意義務に違反し,従来の経験を頼りにして力を入れて押せば通過する可能性があると即断してステントグラフトを過度の力で押したために,Fの左外腸骨動脈壁を破損させるに至ったものと解される。殊に,Fの場合,外科手術の適応があった(Gの証言)のであるから,無理な力を加えてステントグラフトの挿入を試みることは避けるべきであったと考えられる。 (ア)Fには,Y型グラフトが留置され,これによって当該部位は固定されて伸縮しない状態になっていたから,その近辺の血管に押したり引いたりする力が働くと,その伸縮の圧力が増幅されたものと推認される。 (イ)上記のとおり,GとHは,ステントグラフトが進まなくなったことから本件手術を中止することにし,再度の施行を検討しているが,その際,ステントグラフトを小さくすることを検討している。これによると,両医師は,シースよりもステントグラフトの太さに問題があったものと認識していたことがうか ことにし,再度の施行を検討しているが,その際,ステントグラフトを小さくすることを検討している。これによると,両医師は,シースよりもステントグラフトの太さに問題があったものと認識していたことがうかがわれる。 (ウ)本件手術中,Fは,痛みを訴えており,(a)午後1時27分,局所麻酔としてキシロカインが,(b)同2時7分に疼痛を訴えたため,麻酔薬のレペタンが(c)同2時59分に疼痛を訴えたことからレペタンが(d),,,同3時8分に精神安定剤のアタラックスPがそれぞれ投与されている乙,(A7号証の99頁,Gの証言。 )確かに,本件手術に際し,鼠径部がかなり大きく切られているので麻酔が切れたら痛みを感じるものと解されるところ(Gの証言,上記麻酔薬)の効果の持続時間及びFが痛みを感じていた部位を的確に認定するに足りる証拠は存しないが,午後2時59分に麻酔薬が投与され,その9分後に精神安定剤が投与されているという経緯に照らすと,そのころステントグラフト挿入のために強い力が加えられたこと及びこれによって血管が損傷するに至ったことによる激痛のために,Fは,不穏な状態に陥ったものと推認することができる。 (エ)Gは,本件手術後,原告Aらに対し「血管が石のように固くて管を,無理に入れてさけてしまった」旨述べた(乙A7号証203頁,原告A本人尋問の結果。 )この点について,Gは,無理にということを言った覚えはない旨証言しているが,上記の発言内容については看護師がその旨を記載(乙A7号証203頁)していること,原告Aがそのように聞いた旨述べていることに照らすと,上記のGの証言は前記認定を覆すに足りない。 ,,,( )以上に検討したところによると被告は被告病院医師の使用者として 被告病院医師がH式ステントグラフト内挿術を ていることに照らすと,上記のGの証言は前記認定を覆すに足りない。 ,,,( )以上に検討したところによると被告は被告病院医師の使用者として 被告病院医師がH式ステントグラフト内挿術を実施した際における過失によってFを死亡させたことについて,損害賠償責任を負う。なお,Hは,被告病院に勤務する医師ではないが,本件手術についてGの依頼を受け,その実施を担当するチームの構成員として関与しているものであり,被告病院に勤務する医師に準ずる立場にあるものとして,Hの行為についても被告は責任 を負うべきものと解される。 損害について( )Fの逸失利益6611万5515円 ,,,,甲A4号証C2号証の1及び2原告A本人尋問の結果によるとFは住宅の模型を製造販売する仕事をしており,給与所得及び年金等所得を合計すると,平成11年に1473万3838円,平成12年に1449万3398円の収入を得ていたことが認められ,これらを平均すると,1461万3618円となる。 Fは,死亡当時68歳であったことから,就労可能年数は8年と認め,生活費控除は30%が相当と認める。 .そこで逸失利益は6611万5515円1461万3618円×0,,(7×64632)と認められる。 .( )慰謝料2300万円 本件の諸事情を総合すると,死亡慰謝料として2300万円を相当と認める。 ( )葬儀費用150万円 ( )弁護士費用800万円 被告病院医師の不法行為と相当因果関係のある損害としての弁護士費用は800万円を相当と認める。 ( )以上,合計9861万5515円となる。そこで,Fの相続人として, 原告Aは4930万7757円,同B,同C,同D及び同Eはそれぞれ1232万6939円につき,被告に対し を相当と認める。 ( )以上,合計9861万5515円となる。そこで,Fの相続人として, 原告Aは4930万7757円,同B,同C,同D及び同Eはそれぞれ1232万6939円につき,被告に対し損害賠償請求権を有する。 以上のとおりであって,原告らの被告に対する本件請求は,主文掲記の限度で理由があるから認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法61条,64条,仮執行宣言につき,同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判長裁判官佐久間邦夫裁判官樋口英明裁判官大野千尋
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