令和6年10月16日判決言渡令和6年(行ケ)第10014号審決取消請求事件口頭弁論終結日令和6年9月18日判決 原告 X 被告特許庁長官同指定代理人柿崎 拓同窪田治彦 同米倉秀明同田邉英治同須田亮一主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求特許庁が不服2022-19872号事件について令和5年12月11日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない。)(1) 原告は、発明の名称を「加速回収発電機」とする発明について、令和3年4月27日に特許出願(特願2021-75069号、請求項の数3)をしたところ、同年11月10日付けで拒絶の理由が通知され、令和4年1月 11日に意見書及び手続補正書を提出した。しかし、同年1月12日付けで 拒絶の理由が通知され、同年8月15日、拒絶査定を受けた。 (2) 原告は、令和4年12月8日、拒絶査定不服審判を請求したところ、特許庁は、同請求を不服2022-19872号事件として審理した上、令和5年12月11日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(本件審決)をし、その謄本は令和6年1月27日原告に送達された。 (3) 原告は、令和6年2月19日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 本願に係る発明の内容(1) 特許請求の範囲の記載上記1(1)の手続補正 7日原告に送達された。 (3) 原告は、令和6年2月19日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 本願に係る発明の内容(1) 特許請求の範囲の記載上記1(1)の手続補正書によって補正された本願の特許請求の範囲の請求 項の記載は、以下のとおりである(以下、この特許請求の範囲の記載によって特定される発明を「本願発明」という。)。 【請求項1】錘(1)を、アーム(2)を介して、モーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させ、その際、 制御装置(5)により、第1に加速、第2に前方での高速回転、第3に減速、第4に後方での低速回転の4行程で1回転させ、そのサイクルで連続回転させ、第2の前方での高速回転の際の錘の角速度を定格運転角速度とし、第3の減速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブレーキを用いて錘の余剰エネルギーを回収することで電力を得、第2の高速回転、第4の低速回 転の際に錘に発生する遠心力の差により推進力を得る加速回収発電機。 【請求項2】前記、第4の後方での低速回転を省略し、前方での往復高速回転及び、両側方での減速、停止、加速行程とし、往復高速回転の際の錘の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブ レーキを用いて錘の余剰エネルギーを回収することで電力を得、往復高速回 転の際に錘に発生する遠心力により推進力を得る加速回収発電機。 【請求項3】回転盤(7)をモーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させ、その際、制御装置(5)により、第1に加速、第2に高速回転、第3に減速、第4に低速回転の4行程で 回転させ、そのサイクルを繰り返し、第2 の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させ、その際、制御装置(5)により、第1に加速、第2に高速回転、第3に減速、第4に低速回転の4行程で 回転させ、そのサイクルを繰り返し、第2の高速回転の際の回転盤の角速度を、定格運転角速度とし、第3の減速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブレーキを用いて回転盤の余剰エネルギーを回収することにより発電する加速回収発電機。 (2) 本願明細書の記載等 上記(1)の特許請求の範囲の記載により特定される発明について、上記1(1)の手続補正書によって補正された本願明細書(乙10)には、次の開示があると認められる。 ア技術分野本発明は、加速することにより得られる余剰エネルギーを回収すること により発電する発電機に関するものである(【0001】)。 イ背景技術(ア) 推進力発生装置や遠心力推進装置等、消費電力が一定で一方向力Fを発生させる装置が考案されているが、実用には至っていない。そこで、消費電力が一定で、レールに対して一方向力Fを発生させる装置、 すなわちリニアモーターカーを例として説明する。リニアモーターの場合は、速度が速くなるほど磁場の変化率が大きくなるため効率が良くなるが、これを無視して消費電力が一定で、レールに対して一方向力Fを発生させる装置として説明する(【0002】)。 (イ) リニアモーターカーを真空のチューブ内、即ち空気抵抗の無い状態 で走行させ、時刻t=0に運転を開始するものとする。 F:リニアモーターがレールに対して発生させる力m:リニアモーターカーの車体重量a:リニアモーターカーの加速度とするとF=ma で、リニアモーターカーは、運転開始から等加速度運動を始 対して発生させる力m:リニアモーターカーの車体重量a:リニアモーターカーの加速度とするとF=ma で、リニアモーターカーは、運転開始から等加速度運動を始める(【0003】)。 (ウ) リニアモーターを消費電力が一定で、レールに対して一方向力Fを発生させる装置としているからE1:運転開始からの消費電力(消費エネルギー) K:定数t:運転開始からの時刻とするとE1 =Kt運転開始からの消費電力(消費エネルギー)E1は運転開始からの時 刻tの一次関数となる(【0004】)。 (エ) リニアモーターカーは、運転開始から等加速度運動をしているからν:運転開始からt秒後のリニアモーターカーの速度a:リニアモーターカーの加速度t:運転開始からの時刻 E2:運転開始からt秒後のリニアモーターカーの運動エネルギーm:リニアモーターカーの車体重量とするとν=atE2=1/2mν² =1/2ma²t² 運転開始からt秒後のリニアモーターカーの運動エネルギーE2は運転開始からの時刻tの二次関数となる(【0005】)。 (オ) 図1に示す消費エネルギーと運動エネルギーが反転する時刻t01に於けるリニアモーターカーの速度ν01ν01=at01 を反転速度と呼ぶ。又この時の時刻t01を反転時刻と呼ぶ。 運動エネルギーが、機械的損失・摩擦による損失・回生ブレーキによる損失等、損失分消費エネルギーより大きくなる時刻t02に於けるリニアモーターカーの速度ν02ν02=at02 を臨界速度と呼ぶ。又この時の時刻t02を臨界時刻と呼ぶ。 運動エネルギーが、損失+発電機 費エネルギーより大きくなる時刻t02に於けるリニアモーターカーの速度ν02ν02=at02 を臨界速度と呼ぶ。又この時の時刻t02を臨界時刻と呼ぶ。 運動エネルギーが、損失+発電機出力分消費エネルギーより大きくなる時刻t03に於けるリニアモーターカーの速度ν03ν03=at03を定格運転速度と呼ぶ。又この時の時刻t03を定格運転時刻と呼ぶ。 速度0⇔定格運転速度間で加速回収を繰り返すことも可能であるが、臨界速度付近⇔定格運転速度間で加速回収を繰り返した方が、より効率的になる。定格運転速度から回収されるエネルギーを余剰エネルギーと呼ぶ。 運動エネルギーと加速に際し消費したエネルギーの比率 運動エネルギー/消費エネルギーをエネルギー比と呼ぶ。 真空チューブ中で走行するリニアモーターカーのエネルギー比は、運転開始直後は、1以下になる。リニアモーターカーの速度が、反転速度を超えると、1以上となる(【0006】)。 (カ) 車輪等を備えた台車(イ)車輪等を駆動するためのモーター又は、 リニアモーター(ロ)モーター又は、リニアモーターの電源となる蓄電池(ハ)運動エネルギーを回収するための回生ブレーキ(ニ)加速回収を制御するための制御装置(ホ)以上で構成された装置を、真空容器又は、減圧容器内に設置された直線、曲線或いは、円状の路面又は、軌道(ヘ)上で定格運転速度まで加速し、余剰エネルギーの回収 を繰り返すことにより発電が可能となる(【0007】)。 (キ) 錘(1)を、アーム(2)を介して、モーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させる。その際、制御装置(5)により、第1に加速、第2に前方での高速回転、第3に減速、第4に後方 )を介して、モーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させる。その際、制御装置(5)により、第1に加速、第2に前方での高速回転、第3に減速、第4に後方での低速回転の4行程で1回転さ せ、そのサイクルで連続回転させる。第2の前方での高速回転の際の錘の角速度を定格運転角速度とし、第3の減速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブレーキを用いて錘の余剰エネルギーを回収することで電力が得られ、第2の高速回転、第4の低速回転の際に錘に発生する遠心力の差により推進力が得られる(【0009】)。 (ク) 前記、第4の後方での低速回転を省略し前方での往復高速回転及び、両側方での減速、停止、加速行程とし、往復高速回転の際の錘の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブレーキを用いて錘の余剰エネルギーを回収することにより電力が得られ、往復高速回転の際に錘に発生する遠心力により推進力 が得られる(【0010】)。 (ケ) 回転盤(7)をモーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させる。その際、制御装置(5)により、第1に加速、第2に高速回転、第3に減速、第4に低速回転の4行程で回転させ、そのサイクルを繰り返す。第2の前方 での高速回転の際の回転盤の角速度を定格運転角速度とし、第3の減 速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブレーキを用いて回転盤の余剰エネルギーを回収すれば電力が得られる(【0011】)。 ウ発明が解決しようとする課題簡単な構成の機械で、静粛な推進力と電力を得る。簡単な構成の機械で、発電する(【0013】)。 エ課題を解決するための手段無反動材推進機の錘 1】)。 ウ発明が解決しようとする課題簡単な構成の機械で、静粛な推進力と電力を得る。簡単な構成の機械で、発電する(【0013】)。 エ課題を解決するための手段無反動材推進機の錘の角速度を、定格運転角速度とし、加速回収を繰り返すことにより、静粛な推進力と電力を得る。モーター等に取付けた回転盤の最高角速度を、定格運転角速度とし、加速回収を繰り返すことにより、発電する(【0014】)。 オ発明の効果本発明により、簡単な構成の機械で、静粛な推進力と電力を得られる。 本発明により、簡単な構成の機械で、発電することが出来る(【0015】)。 カ実施例 (ア) 実施例1錘(1)を、アーム又は、ガイドレール(2)を介して、モーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させる。その際、制御装置(5)により、第1に加速、第2に前方での高速回転、第3に減速、第4に後方での低速回転の4行程で 1回転させ、そのサイクルで連続回転させる。第2の前方での高速回転の際の錘の角速度を定格運転角速度とし、第3の減速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブレーキを用いて錘の余剰エネルギーを回収することで電力が得られ、第2の高速回転、第4の低速回転の際に錘に発生する遠心力の差により推進力が得られる(【0019】)。 (イ) 実施例2 前記、第4の後方での低速回転を省略し、前方での往復高速回転及び、両側方での減速、停止、加速行程とし、往復高速回転の際の錘の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブレーキを用いて錘の余剰エネルギーを回収することにより電力が得られ、往復高速回転の際に錘に発生する遠心力により推進力が得られ を定格運転角速度とし、減速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブレーキを用いて錘の余剰エネルギーを回収することにより電力が得られ、往復高速回転の際に錘に発生する遠心力により推進力が得られ る(【0020】)。 (ウ) 実施例3回転盤(7)をモーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させる。その際、制御装置(5)により、第1に加速、第2に高速回転、第3に減速、第4に低速 回転の4行程で回転させ、そのサイクルを繰り返す。第2の高速回転の際の回転盤の角速度を定格運転角速度とし、第3の減速の際に制御装置(5)の機能の一部である回生ブレーキを用いて回転盤の余剰エネルギーを回収すれば、電力が得られる(【0021】)。 3 本件審決の理由の要旨 以下のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法36条4項1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしておらず、また、本願発明は、特許法29条1項柱書に規定する要件(発明該当性)を満たしていない。よって、本願は、拒絶すべきものである。 (1) 実施可能要件違反 本願発明の詳細な説明の記載は、リニアモーターが、消費電力が一定で、レールに対して一方向力Fを発生させる装置であり、リニアモーターカーを等加速度運動させる際、消費エネルギーE1が時刻tの一次関数となり、運転開始からt秒後の運動エネルギーE2が時刻tの二次関数となることから、反転時刻t01以降は、運動エネルギーE2が消費エネルギーE1よりも大き くなることを前提に、リニアモーターカーにおいて、定格運転速度ν03ま で加速し、減速の際に余剰エネルギーを回収することで電力を得ることができるとしており、同じく、消費電力が一定で、一方向力Fを発生させる装置 リニアモーターカーにおいて、定格運転速度ν03ま で加速し、減速の際に余剰エネルギーを回収することで電力を得ることができるとしており、同じく、消費電力が一定で、一方向力Fを発生させる装置(無反動材推進機)である「錘(1)を、アーム(2)を介して、モーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させる」装置についても、錘が定格運転速度ν03に達した時の 角速度ω03を定格運転角速度とした上で、リニアモーターカーと同様の原理により、「高速回転の際の錘の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に錘の余剰エネルギーを回収することで電力が得」られるとしていると解される。また、「回転盤(7)をモーター又は、ギヤードモーター(3)の回転軸に取付け、電源となる蓄電池(4)により回転させる」装置についても、 同様の原理により、電力が得られるとしていると解される。 しかしながら、リニアモーターカーを等加速度運動させた際、空気抵抗がない等の理想状態であれば、運転開始からt秒後の運動エネルギーE2は時刻tの二次関数になるとしても、消費エネルギーE1は時刻tの一次関数とはなり得ないから、運動エネルギーE2が消費エネルギーE1よりも大き くなることもなく、前記した前提には誤りがある。 そうすると、この出願の発明の詳細な説明には、「高速回転の際の錘(あるいは回転盤)の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に錘(あるいは回転盤)の余剰エネルギーを回収することで電力を得る(あるいは発電する)」ことができる理由や、その理論的又は実験的な裏付けが記載されているとは いえず、また、このように電力を得る(あるいは発電する)ことができることを、当業者が、この出願の出願時における技術常識から把握できるともいえない 理論的又は実験的な裏付けが記載されているとは いえず、また、このように電力を得る(あるいは発電する)ことができることを、当業者が、この出願の出願時における技術常識から把握できるともいえない。 よって、当業者といえども、発明の詳細な説明の記載及びこの出願の出願時の技術常識に基づいて、本願発明の「加速回収発電機」を、「高速回転 の際の錘(あるいは回転盤)の角速度を定格運転角速度とし、減速の際に錘 (あるいは回転盤)の余剰エネルギーを回収することで電力を得る(あるいは発電する)」ことができるように、生産し、使用することができるとはいえない。 (2) 発明該当性を満たさないこと上記(1)のとおり、エネルギー保存の法則に従うと、リニアモーターカー が等加速度運動する際、運転開始からt秒後の運動エネルギーE2は、消費エネルギーE1と等しくなるから、運動エネルギーE2が消費エネルギーE1よりも大きくなるという前記した前提は、エネルギー保存の法則に反するものである。 すると、本願発明の「高速回転の際の錘(あるいは回転盤)の角速度を 定格運転角速度とし、減速の際に錘(あるいは回転盤)の余剰エネルギーを回収することで電力を得る(あるいは発電する)」という事項における電力を得る(あるいは発電する)ための原理は、エネルギー保存の法則に反する事項を前提としており、本願発明は自然法則に反するものである。よって、本願発明は、特許法2条1項でいう「自然法則を利用した」ものではないた め、同法29条1項柱書にいう「発明」に該当しない。 4 取消事由(1) 発明該当性(特許法29条1項柱書)に関する判断の誤り(2) 実施可能要件(特許法36条4項1号)についての判断の誤り第3 取消事由に関する当事者の主張 ない。 4 取消事由(1) 発明該当性(特許法29条1項柱書)に関する判断の誤り(2) 実施可能要件(特許法36条4項1号)についての判断の誤り第3 取消事由に関する当事者の主張 1 取消事由1(発明該当性に関する判断の誤り)について【原告の主張】(1) 本件審決は、本願発明を、自然法則を利用したものではないなどとするが、本願発明は以下のような「古典力学の欠陥」に反するだけであり、「自然法則を利用した」ものである。 (2) まず、古典力学においては、エネルギー保存の法則に欠陥があり、古典 力学の平行軸の定理(I=IG+Mh²。IとIGは、剛体の1つの軸、及び重心Gを通ってこの軸に平行な軸(両軸の間隔h)に関する慣性モーメントのこと)においては、遠心力項の記述が全て欠落している。理学・工学の分野においては「回転軸が剛体の重心を通らない場合」を取り扱うことはまずなく、「平行軸の定理」に遠心力に関する記述が一切なくてもほぼ影響がな かったために、その欠陥(エネルギ-が保存されない場合)が400年以上にわたって誰にも気づかれなかったにすぎない。古典力学においては、回転する剛体の遠心力を無視又は考慮しないことにより、エネルギーが保存される場合のみを取り扱っているにすぎず、古典力学の法則は自然法則の一部にすぎない。エネルギー保存の法則に反するからといって、自然法則を利用し たものでないとはいえない。 (3) また、古典力学においては、作用・反作用の法則にも欠陥があり、例えば、回転するアームの先端に取り付けた錘に発生する遠心力により推進力を得る装置(無反動材推進機)においては、作用・反作用の法則に反し、前後の遠心力の差で推進力を得ることで作動するものである。そして、同装置に おいては、 り付けた錘に発生する遠心力により推進力を得る装置(無反動材推進機)においては、作用・反作用の法則に反し、前後の遠心力の差で推進力を得ることで作動するものである。そして、同装置に おいては、間欠的にではあるが、「消費電力が一定で一方向力Fを発生させる」ことに成功している。やはり、古典力学に反するからといって、自然法則を利用したものではないとはいえない。 なお、原告が提出した証拠(甲2)は「無反動材推進機の試作品」の動画にすぎず、「消費電力が一定で一方向力Fを発生させる装置」が技術上実現 可能であることを示すために提出したにすぎず、エネルギーを回収する機構等は実装していない。 【被告の主張】等加速度運動を始めたリニアモーターカーの消費電力(消費エネルギー)E1が、運動開始からの時刻tの一次関数になるとの原告の主張(本願明細書に おける開示)は、物理の法則に反している。原告は、古典力学に欠陥があるな どと主張するが、その具体的な理由は理解し難い。原告が証拠として提出する「無反動材推進機の試作品」が作動する動画(甲2)をみても、その消費電力や運動エネルギーの状況までは把握できない。 2 取消事由2(実施可能要件についての判断の誤り)について【原告の主張】 「等加速度運動で消費電力が一定であるという事象」は、リニアモーターにより近似的に実施可能であり、あるいは、上記1(3)における無反動材推進機により実現可能である。本件審決及び被告は、エネルギー保存の法則の欠陥を認知せずに判断しているにすぎない。本願には、「古典力学の欠陥」を認知した当業者であれば、発明を実施することができる程度に「明確かつ十分に」記 載されている。 【被告の主張】上記1の被告の主張のとおり、消費電力E1が運動開始時 は、「古典力学の欠陥」を認知した当業者であれば、発明を実施することができる程度に「明確かつ十分に」記 載されている。 【被告の主張】上記1の被告の主張のとおり、消費電力E1が運動開始時刻tの一次関数になるとの原告の主張は、物理の法則に反している。その結果、リニアモーターカーの運動エネルギーが加速で消費するエネルギーを上回ることにはならず、 原告が主張する余剰エネルギーなるものも発生しないから、本願発明の「加速回収発電機」において、高速回転の際の錘(あるいは回転盤)の角速度を定格運動角速度とし、減速の際に錘(あるいは回転盤)の余剰エネルギーを回収することで電力を得る(あるいは発電する)こともない。 よって、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許請求の範囲に記載された本 願発明についての実施可能要件を満たさない。 第4 当裁判所の判断 1 取消事由1(発明該当性に関する判断の誤り)について(1) 原告は、本願発明は、エネルギー保存の法則に反するものの、そもそも同法則や作用・反作用の法則のような「古典力学」には欠陥があり、本願発 明はそのような古典力学以外の自然法則に従っている旨主張する。 しかし、本願発明に関して本願明細書で説明されている、リニアモーターカーを等加速度運動させた際、空気抵抗がない等の理想状態であれば、運転開始からt秒後の消費エネルギーE1が時刻tの一次関数となること(前記第2の2(2)イ(イ)、(ウ))は、何ら立証されていない。原告が提出する甲2によっても、「無反動推進機の試作品」なるものが動作する(前進する)こ とが判明するのみで、その消費電力や運動エネルギーの状況は全く分からず、上記の古典力学以外の自然法則を証明するものとは到底いえない。 (2) かえって、本願明 なるものが動作する(前進する)こ とが判明するのみで、その消費電力や運動エネルギーの状況は全く分からず、上記の古典力学以外の自然法則を証明するものとは到底いえない。 (2) かえって、本願明細書によれば、本願発明は、定格運転角速度からの減速の際に余剰エネルギーを回収することによって発電するものであり(上記第2の2(2)イ(カ)~(ケ))、その原理は、定格運転速度で運動エネルギーが 「損失+発電機出力分消費エネルギー」よりも大きくなるという事象に基づくものである(上記第2の2(2)イ(オ))。この事象は、(単位時間当たりの)消費電力が一定で一方向力Fを発生させることを前提としているが(上記第2の2(2)イ(ア))、これについては本願明細書【0003】(上記第2の2(2)イ(イ))に記載のように、 F:リニアモーターがレールに対して発生させる力m:リニアモーターカーの車体重量a:リニアモーターカーの加速度とするとF=ma であるから、力Fが一定であれば加速度aも一定となるため、リニアモーターカーは運転開始時刻t=0から等加速度運動を始める。この場合の変位xはx=1/2at²と表される(乙18の21頁)。そして、運転開始からの消費電力(消費エ ネルギー)E1は物体がされた仕事Wに等しいから、 E1=W=Fx=(ma)×(1/2at²)=1/2ma²t²と表され(乙18の78頁)、一定の力Fを発生させるには、運転開始からの消費電力(消費エネルギー)E1を時間tの二次関数に従って増加させる必要がある。したがって、(単位時間当たりの)消費電力が一定で一方向力Fを発生させるという前提に誤りがあることは明らかである。 以上のとおり、本願発明はエネルギー保存の法則に反するも させる必要がある。したがって、(単位時間当たりの)消費電力が一定で一方向力Fを発生させるという前提に誤りがあることは明らかである。 以上のとおり、本願発明はエネルギー保存の法則に反するものであるから、特許法2条1項でいう「自然法則を利用した」ものではなく、特許法29条1項柱書に規定される「発明」に該当しない。 (3) よって、発明該当性を否定した本件審決に判断の誤りはなく、原告主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(実施可能要件についての判断の誤り)について上記1のとおり、本願発明は、自然法則に反するものであるから、当業者が本願発明を実施できないことは明らかである。したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法36条4項1号の実施可能要件を欠く。 よって、実施可能要件を満たさないとした本件審決の判断に誤りはなく、原 告主張の取消事由2も理由がない。 3 以上によれば、本件審決にこれを取り消すべき違法はないこととなる。 よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官宮坂昌利 裁判官 本吉弘行 裁判官岩井直幸
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