平成13(ネ)31 損害賠償控訴事件,同附帯控訴

裁判年月日・裁判所
平成15年1月29日 広島高等裁判所 松江支部
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判決文本文34,172 文字)

主文 1 本件控訴及び附帯控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。 (1) 控訴人は,被控訴人に対し,1208万7422円及びこれに対する平成8年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被控訴人のその余の請求を棄却する。 2 訴訟費用は第1,2審を通じこれを2分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 第2 附帯控訴の趣旨 1 原判決を次のとおり変更する。 2 控訴人は,被控訴人に対し,1604万9896円(請求の減縮)及びこれに対する平成8年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,第1,2審とも控訴人の負担とする。 第3 事案の概要 1 本件は,控訴人病院(以下「本件病院」という。)に通院していた被控訴人が,同病院の医師には,糖尿病性足壊疽に対する適切な治療措置を講ずべきであったのにこれを怠り,エックス線撮影やインスリン投与を行わず,転院や入院を勧めなかったことなどの注意義務違反があり,そのため,他の病院で左足関節部の切断を余儀なくされるに至ったと主張して,不法行為(当審において請求を追加)ないし債務不履行に基づく損害賠償として合計1604万9896円及び遅延損害金の支払を求める事案である。 控訴人は,当審において,後記2のとおり主張を付加した。その他は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決3頁14行目と同15行目の間に次のとおり加える。 「 の他は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決3頁14行目と同15行目の間に次のとおり加える。 「(4) 寄与度,過失相殺」(2) 原判決11頁16行目と同17行目との間に次のとおり加える。 「(3) 争点(4)(寄与度,過失相殺)について(控訴人の主張)仮に,A医師の処置,対応に過失があり,これと被控訴人の損害との間に相当因果関係があったとしても,糖尿病性壊疽が高度かつ不可逆的な糖尿病性血管障害の一部分症でしかない以上,被控訴人が健康な場合に比較して被っている経済的及び精神的損害の全部について控訴人に責任を負わせることは公平の原則に反する結果となるというべきであり,控訴人には,A医師が損害の発生に関与した範囲を超えて責任を負わされる理由はない。 さらに,被控訴人の損害の算定に当たっては,公平の原則上,被控訴人の以下の過失が斟酌され,過失相殺がなされるべきである。 ア被控訴人が控訴人医院に通院する前に,永年にわたり血糖値の自己管理を怠っていたことイ被控訴人が,ゴム長靴の使用をやめて,創傷部の安静と清潔を保つよう指導していたA医師の注意,指導を無視したことウ被控訴人が,A医師の入院の勧めを無視したことエ被控訴人が,松江生協病院に入院中,間食をすることなどにより自己管理を怠っていたこと」 2 当審における控訴人の主張本件では,骨髄炎の発症について控訴人に責任があるかという点と骨髄炎を発症した結果,被控訴人が切除術を受けざるを得なかったこと又は切除範囲が拡大したことについて控訴人に責任があるかという点が争点となっているところ,骨髄炎は,控訴人医 に責任があるかという点と骨髄炎を発症した結果,被控訴人が切除術を受けざるを得なかったこと又は切除範囲が拡大したことについて控訴人に責任があるかという点が争点となっているところ,骨髄炎は,控訴人医院の初診時に既に発症していた可能性があるから,骨髄炎の発症について控訴人に責任はない。また,骨髄炎が確認された場合は,保存的治療では対応できず,骨髄炎の拡大を防ぐために切除術で対応せざるを得ないのであるから,A医師が被控訴人通院時にエックス線撮影を行っていたとしても,骨髄炎をより早く確認することができたにとどまり,切除範囲を縮小できた可能性は否定できないものの,切除そのものは回避できなかったといえる。そして,A医師がエックス線撮影を行わなかったため,骨髄炎の確認が遅れ,その結果切除範囲の拡大に影響があった可能性があるとしても,どの範囲で影響があったかの因果関係が明らかではなく,切除範囲の拡大の影響を与えた要因としては,松江生協病院におけるインスリン取扱上の過誤,同病院における外科手術のおくれ,被控訴人の自己管理の欠如なども存在するから,結局,A医師の医療行為に適切を欠く部分が存在するとしても,被控訴人との損害との間の因果関係が明らかでなく,本件においては,因果関係の有無に関係なく,被控訴人が当時の平均的医療水準に基づく適正な医療を受けられるという期待が裏切られたこと自体に基づく慰謝料請求が認められるかどうかという問題が残るだけである。 第4 当裁判所の判断当裁判所の判断は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」記載のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決24頁25行目から32頁2行目までを次のとおり改める。 「3 争点(1)(A医師の注意義務違反の有無),(2)(同注意義務違反と被控訴 断」記載のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決24頁25行目から32頁2行目までを次のとおり改める。 「3 争点(1)(A医師の注意義務違反の有無),(2)(同注意義務違反と被控訴人の左足関節部切断との因果関係の有無)について上記の医学的知見によれば,糖尿病性足壊疽の治療を行う医師としては,壊死組織の細菌感染から,発赤や腫脹等がなくとも,見かけ以上に細菌感染が深部に容易に進行し,骨髄炎等重篤な症状に至って足指やさらにその上部の切断を余儀なくされる可能性を考慮にいれつつ,慎重に患者の容態ないし壊死組織の状態の変化等を観察し,細菌感染の進行が疑われたならば,これに対する適切な措置を講じて,重篤な症状に至ることを予防すべき注意義務を負うものといわなければならない。 前記事実関係によれば,本件病院での初診時において,被控訴人の左足尖部は,第1足指が黒く変色し,第4,第5足指の腱と思われる部分が露出するなどし,創液浸潤があったし,当日ないし翌日実施した検査の結果血糖値が測定不能で白血球の数も通常の約2倍もあったこと,1月24日の検査でのヘモグロビンA1Cの値(13.5パーセント,基準範囲は4.3ないし5.8パーセント)からその約1か月くらい前からの血糖値も恒常的に高かったことが窺われることなど,被控訴人の左足尖部はかなり深部まで細菌感染が進行していることを疑わせる症状が出現していたのであるから,A医師としては,前記のような重篤な症状に至る可能性を考慮して,細菌感染の進行の程度,特に骨髄炎の有無等を確認するためエックス線撮影を実施し,血糖値を下げるとともに免疫力を強化してさらなる感染を防御するためインスリンを使用し,また,局所の安静・免荷を強力に指導するなどして,細菌感染による重篤な症状に至ることを予防す ックス線撮影を実施し,血糖値を下げるとともに免疫力を強化してさらなる感染を防御するためインスリンを使用し,また,局所の安静・免荷を強力に指導するなどして,細菌感染による重篤な症状に至ることを予防すべき注意義務があったものというべきである。しかるに,A医師は,これを怠り,被控訴人の創傷部の表面的な状態から,また,血糖値が投薬等により下がりつつあったこともあって(なお,証人Bの証言によれば,血糖値が投薬等により低下の傾向にあったとしても,必ずしも細菌感染が進展していないということにはならないといえることが認められる。),患部のエックス線撮影を実施せず,インスリンの投与もせず,局所の安静・免荷についても十分な指導をしなかった過失があるというべきである。そして,前記事実関係に証人Bの証言を総合すると,A医師にこのような注意義務違反がなければ,初診時の段階で仮に既に骨髄炎が発生していたとしても,本件のような左足関節部までの切断は回避することが可能であったというべきであるから,A医師の過失と被控訴人の左足関節部までの切断との間には相当因果関係があると認めるのが相当である。 そうすると,控訴人は,被控訴人に対し,債務不履行ないし不法行為に基づき,A医師の過失により被控訴人が被った損害を賠償すべき責任を有しているものというべきである。」 2 原判決32頁3行目の「5」を「4」と改める。 3 原判決33頁1行目から同19行目までを次のとおり改める。 「(3) 寄与度,過失相殺ところで,前記のとおり,糖尿病性壊疽は血糖コントロールの不良な比較的高齢の糖尿病患者に発症することが多い,糖尿病の最終段階に発症する合併症といえるものであるところ,控訴人のこれまでの長年にわたる糖尿病歴,本件病院での初診時の症状,容態等にかんがみると 不良な比較的高齢の糖尿病患者に発症することが多い,糖尿病の最終段階に発症する合併症といえるものであるところ,控訴人のこれまでの長年にわたる糖尿病歴,本件病院での初診時の症状,容態等にかんがみると,A医師による適切な診療を受けたとしても,少なくとも足指の切断を免れなかった可能性も全く否定できないこと,被控訴人は,1月17日ころから,左足に若干痛みが出始め,それを庇って不自然な歩き方をするようになり,また,ときどき熱が出て寒気がするようになったが,そのことをA医師に告げることがなかったこと(被控訴人本人尋問の結果)等の事情が認められ,これらの事情は損害賠償法の基礎にある公平の原則に立脚すると被害者側の事情として考慮すべきであり,その他本件にあらわれた諸般の事情を総合勘案し,過失相殺の法理を適用ないし類推適用して,被控訴人の損害額からその4割を減額すべきものと認めるのが相当である。 そうすると,被控訴人が控訴人に請求しうる逸失利益,慰謝料の合計額は,次の計算式のとおり,1098万7422円となる。 (計算式)(931万2370円+900万円)×0.6=1098万7422円」 4 原判決33頁23行目の「140万円」を「110万円」と改める。 5 原判決33頁25行目を「1208万7422円」と改める。 第5 結論以上の次第で,控訴人は,被控訴人に対し,1208万7422円及びこれに対する不法行為の後であり,控訴人における最終診療日の翌日である平成8年2月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負担しているというべきであるから,被控訴人の本訴請求は上記の限度で正当としてこれを認容し,その余を失当として棄却すべきである。 したがって,これと一部異なる原判決はそ による遅延損害金を支払う義務を負担しているというべきであるから,被控訴人の本訴請求は上記の限度で正当としてこれを認容し,その余を失当として棄却すべきである。 したがって,これと一部異なる原判決はその限度で不当であるから,本件控訴及び附帯控訴に基づき,原判決を本判決主文第1項(1)(2)のとおり変更することとして,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所松江支部裁判長裁判官宮本定雄裁判官吉波佳希裁判官植屋伸一(参考原審判決) 主文 1 被告は,原告に対し,1604万9896円及びこれに対する平成11年1月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを10分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 4 本判決は,主文1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,2258万1549円及びこれに対する平成8年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告が被告(以下「被告医院」ともいう。)において左足指の糖尿病性壊疽(えそ)の治療を受けたにもかかわらず,ほかの病院で左足部の切断を余儀なくされたのは,被告医院のA医師の不適切な診療,転院勧告義務違反によるなどと主張して,診療契約上の債務不履行に基づいて,その損害(逸失利益,後遺障害慰謝料,弁護士費用)の賠償及び最終診療日の翌日である平成8年2月1日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(争 上の債務不履行に基づいて,その損害(逸失利益,後遺障害慰謝料,弁護士費用)の賠償及び最終診療日の翌日である平成8年2月1日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(争いのない事実及び証拠上容易に認定できる事実)(1) 当事者等ア原告は,昭和10年2月5日生まれの男性であり,平成8年当時,青果の行商に従事していた。 イ被告は,肩書地において外科を専門とする診療所を開設している医療法人であり,A医師は,被告医院の代表者理事長として,平成8年当時,同医院において診療,診察に当たっていた。 (2) 治療経過の概要ア原告は,平成8年1月8日(以下,月日の記載は,特記しない限りいずれも平成8年のことであり,年の記載を省略する。),左足指の治療のため,被告医院においてA医師の診察を受け,ここに,被告との間で,その原因ないし病名及びその症状の進展度を的確に診断した上,その症状に応じて適切な処置をなすことを内容とする診療契約を締結した。 A医師は,問診,視診及び血糖値の検査結果が450mg/dlを超えて測定不能であったことなどから,原告の病名を糖尿病性壊疽(えそ)と診断した(乙1,被告代表者)。 イ原告は,1月8日から同月31日までの間,同月14日,15日,21日,28日を除く毎日,被告医院に通院し,包帯の交換,抗生剤及び血糖降下剤の投薬,血糖値の検査等の治療を受けたが,インスリンの投与や左足部のX線撮影の検査を受けることはなかった。 ウ原告は,2月1日,松江生協病院(以下「生協病院」という。)で受診したところ,左足部糖尿病性壊疽(えそ)と診断された上,X線撮影の結果,骨破壊があり骨髄炎を起こしているため足部切断手術が必要と診断された(甲14,乙2,原告本人)。 生協病院」という。)で受診したところ,左足部糖尿病性壊疽(えそ)と診断された上,X線撮影の結果,骨破壊があり骨髄炎を起こしているため足部切断手術が必要と診断された(甲14,乙2,原告本人)。 原告は,その後,2月8日,同病院に入院し,同月23日に病巣部分の足指の切除手術を受け,3月4日に左足関節部の切断手術を受けた(甲14,乙2,原告本人)。原告は,上記手術により左足のくるぶしから先を切除されたため,左足が健側の右足と比較して約5センチメートル以上短縮し(甲7の1ないし7の4,14,原告本人),8月19日,島根県から身体障害者手帳(第2種5級)の交付を受けた(甲2)。 2 争点(1) 被告の注意義務違反の有無(2) 上記注意義務違反と原告の左足関節部切断との間の因果関係(3) 原告の損害及びその額 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(被告の注意義務違反の有無)及び争点(2)(上記注意義務違反と原告の左足関節部切断との間の因果関係)について(原告の主張)A医師は,以下のとおりの診療契約上の注意義務を怠り,その結果,原告は,左足関節部までの切断を余儀なくされた。 アインスリン投与による内科的治療を怠った注意義務違反糖尿病性壊疽(えそ)に対しては,局所治療(創傷の治療)を行うとともに,血糖コントロールを含む内科的な全身管理を適切に行うことが肝要であり,内科的治療を尽くさない場合には,感染から骨髄炎等を来し,足部切断等の外科的治療を余儀なくされたり,死亡に至る危険がある。 A医師は,原告の初診時(1月8日)に糖尿病性壊疽(えそ)と診断した上で,問診や初診時の血糖値,尿検査におけるたん白反応,1月9日の白血球の検査結果等により,原告が長期にわたり血糖値のコン A医師は,原告の初診時(1月8日)に糖尿病性壊疽(えそ)と診断した上で,問診や初診時の血糖値,尿検査におけるたん白反応,1月9日の白血球の検査結果等により,原告が長期にわたり血糖値のコントロール不良にあることや糖尿病性壊疽(えそ)が感染症を併発していることを確認し得たのであるから,血糖コントロールのための食事管理,フットケア(足の安静,病変部に対する荷重を減ずる免荷,そのための履物等に関する指導)などの生活指導をするのはもちろん,この段階でインスリンによる厳重な血糖値の管理を開始すべき注意義務があった。 しかし,A医師は,原告に対し,そのような生活指導を行わなかったのみならず,漫然と経口の血糖降下剤を投与したのみで,インスリン投与を怠ったため,原告は,早期に血糖値を厳重にコントロールする機会を逸し,その結果,足部切断を余儀なくされた上,生協病院における外科的手術の時期をも逸することになった。 イ糖尿病性壊疽(えそ)に対する検査を怠り,客観的な症状に応じた適切な外科的処置を怠った注意義務違反糖尿病性壊疽(えそ)が患者の足部切断を招く危険性のある重大な病変であることは前記のとおりであり,医師は,局所の安静,清潔保持の必要性についての説明やフットケアの指導をするのはもちろん,その症状の進展度を把握するために,X線検査により,骨融解や骨髄炎の有無等を確認するとともに,感染症対策を効果的に行うために,起炎菌の検索,特定を行うべき最低限の注意義務を負っている。しかも,壊疽(えそ)が深部に至り感染が進むと,患者の訴えや発熱をみる前に既に深部に膿瘍(のうよう)を認めることが少なくないこと,感染は皮膚表面よりも皮下組織で拡大し,足の指の付け根,関節等がバリアーになるが,これを超えると急速に中枢に向かって拡大することからすれば, に既に深部に膿瘍(のうよう)を認めることが少なくないこと,感染は皮膚表面よりも皮下組織で拡大し,足の指の付け根,関節等がバリアーになるが,これを超えると急速に中枢に向かって拡大することからすれば,医師は,できるだけ早期に壊死(えし)巣の切除・除去(デブリードマン),膿瘍(のうよう)の切開,排膿,ドレナージ等の外科的処置を行う注意義務を負っている。 原告の糖尿病性壊疽(えそ)は,2月1日の時点で既にX線撮影の結果,骨破壊や骨髄炎を起こしている状態であり足部切断術の適応にあったこと,原告の症状は,被告医院への通院後も改善しなかったことからすれば,原告の症状は,被告医院の通院中に悪化していることが推認される。A医師が,早期にX線検査等を行えば,早期に糖尿病性壊疽(えそ)の進展度を客観的に把握でき,壊死(えし)巣の切除・除去(デブリードマン),膿瘍(のうよう)の切開,排膿,ドレナージ等の外科的処置を早期にとることができたのであり,原告の足部切断を回避することが可能であった。しかし,A医師は,上記検査を行わず,原告の症状の進度を軽視して,漫然と清潔保持やヒビテン液による消毒と塗り薬の塗布を行うのみであったため,原告は,客観的な症状に対応する適切な外科的処置を受ける機会を逸した。 ウ説明義務違反A医師は,糖尿病性壊疽(えそ)の危険性を理解しており,原告の初診時に糖尿病性壊疽(えそ)と診断した上で,原告の糖尿病歴や血糖コントロールが極めて不良であることを認識していたことは前記のとおりである。A医師には,原告の糖尿病性壊疽(えそ)の客観的な症状を的確に診断して,糖尿病性壊疽(えそ)に対する治療の基本が血糖値の正常化と局所の安静,清潔保持にあること,適切な治療を受けない場合には,足の指や腿(もも)などより高位の部位の切断を余 の客観的な症状を的確に診断して,糖尿病性壊疽(えそ)に対する治療の基本が血糖値の正常化と局所の安静,清潔保持にあること,適切な治療を受けない場合には,足の指や腿(もも)などより高位の部位の切断を余儀なくされる危険性があることを十分に説明すべき注意義務があった。しかし,A医師は,診療の際,原告に対し,診断名さえ明確に告知しなかったほか,とりわけ,糖尿病性壊疽(えそ)の場合には,足の指や腿(もも)等高位の部位からの切断を余儀なくされる危険性のあることを説明しなかった。その結果,原告は,A医師の治療を続けて受けることになり,早期に糖尿病の専門医との連携のできる診療体制を整えた医療機関において,インスリン投与による血糖値の厳密なコントロールや入院による安静,外科的処置を受ける機会を逸した。 エ転院及び入院を勧めることを怠った注意義務違反前記の原告の糖尿病性壊疽(えそ)の症状からすれば,原告は,局所治療とともに,インスリンの投与,フットケア,局所の安静等をはじめとする全身管理による血糖値の正常化,局所の免荷を必要としていたものである。そのために,原告は,入院施設がありかつ糖尿病の専門医との連携の可能な施設において治療を受けることが不可欠であった。被告医院は,外科が専門であって,糖尿病は専門外であり,当時,外来のみの診療であったから,A医師としては,上記のような体制のとれる医療機関への転院及び入院の必要性を説明し,これを的確に勧めるべき注意義務があった。しかし,A医師は,原告の糖尿病性壊疽(えそ)の進展度を見誤り,その危険を把握していなかったため,上記のような体制のある医療機関へ転院及び入院する必要性のあることを原告に十分に説明して,これを的確に勧めることをしなかった。その結果,原告は,早期に糖尿病の専門医との連携が可能な診療体 かったため,上記のような体制のある医療機関へ転院及び入院する必要性のあることを原告に十分に説明して,これを的確に勧めることをしなかった。その結果,原告は,早期に糖尿病の専門医との連携が可能な診療体制の整った医療機関において,適切な処置を受ける機会を逸した。 なお,被告の診療録(乙1。以下「診療録」という。)によれば,A医師が,原告に対し,1月18日に入院を勧めた旨の記載があるが,これがあったとしても,その説明は血糖値を下げるためには入院して治療すれば良いという程度のものであり,上記のような診療体制の整った医療機関において適切な治療を行わなければ,足部切断の危険があることを説明したわけではないから,上記診療録記載のような入院の勧めにより,上記転院及び入院を勧める注意義務を尽くしたとはいえない。 (被告の主張)ア A医師は,原告に対し,以下のとおり,適切な治療を行っており,原告が主張するような注意義務違反はない。 (ア) インスリン投与による内科的治療を怠った注意義務違反について血糖コントロールの基本は,食事管理と血糖降下剤の投与による経過観察であり,安易にインスリンに依存すべきでない。A医師は,1月11日から糖尿病の内科的治療として,血糖降下剤ダオニール,食後過血糖改善剤ベイスン及び腸内ガスコントロール剤ガスコンの投与を開始し,同月18日には血糖降下剤をオイグルゴンに変えて投与量を増量した。また,A医師は,原告に対し,血糖値を下げなければ治療の効果がないと説明した上で,食事管理を徹底するよう指導した。 その結果,原告の血糖値は,1月8日において450mg/dlを超えて測定不能であったものが,同月16日には353mg/dl(食後3時間),同月24日には274mg/dl(空腹時),同月31日には211 の結果,原告の血糖値は,1月8日において450mg/dlを超えて測定不能であったものが,同月16日には353mg/dl(食後3時間),同月24日には274mg/dl(空腹時),同月31日には211mg/dl(同)となるなど血糖コントロールは相当な成果が見られたのであって,A医師の上記治療行為に不適切な点はない。 また,インスリン療法には,低血糖による意識障害のリスクがあり,自己管理を十分にしなければ,生命に危険を及ぼすことになる。A医師は,原告について,初診時からインスリンの使用を検討したが,自己管理能力と自覚の欠如している原告に対し,インスリン療法を行うのは無理と考え,結局これを行わなかったが,この点に不適切な点はない。このことは,生協病院の担当医師が,原告に対してインスリンの投与を始めたのが原告の入院後の2月8日であり,A医師同様に,外来での原告に対するインスリンの投与を適切でないと判断していることからも明らかである。 (イ) 糖尿病性壊疽(えそ)に対する検査を怠り,客観的な症状に応じた適切な外科的処置を怠った注意義務違反についてaA医師が,起炎菌の検索をしていないとしても,検査を怠ったことにはならない。起炎菌の検索には時間がかかる上,その目的は感染に対して有効な抗菌剤を選択するためであるところ,A医師は,抗菌剤として,原告の初診時(1月8日)からセファム系のバナンを使用し治療効果を確認しているから,起炎菌の検索まで要求される理由はない。また,生協病院における起炎菌の検索の結果によれば,A医師が,抗菌剤として選択したバナンと1月31日に原告の創傷部の状態が急変した際これに変えて使用したセファメジンの投与が感染症対策として有効,適切であったことが認められている。このように,A医師が起炎菌の検索,特定を て選択したバナンと1月31日に原告の創傷部の状態が急変した際これに変えて使用したセファメジンの投与が感染症対策として有効,適切であったことが認められている。このように,A医師が起炎菌の検索,特定をしないまま,バナン等を投与したことをもって検査を怠ったとの注意義務違反はない。 b 原告の初診時及び通院時の糖尿病性壊疽(えそ)の症状は,足背動脈が触知可能で,深層の変化が認められない表在性の壊死(えし)であったから,A医師はX線撮影の必要性を認めなかったのであり,X線撮影の検査をしなかったことに注意義務違反はない。 また,原告の創傷部の症状は,1月30日までは,大きな変化もなく推移し,同月31日に病状が急変したものであって,それまでにX線撮影の検査を行っても,同日以降の創傷部の急変を予見できたわけではない。 仮に,X線撮影の検査の結果,いずれかの時期に多少の骨変化が確認されたとしても,原告の血糖値が200mg/dl以下の状態にならなければ,手術をすることができず,保存的治療を継続せざるを得なかったのであるから,A医師が原告の通院中にX線撮影の検査を行わなかったことと原告が足部切断を余儀なくされたこととの間に因果関係はない。 c 被告医院は,原告に対し,原告の初診時から毎回ヒビテン液(消毒液)の温湯で足浴し,ガーゼで壊死(えし)組織の除去,排膿等の処置を行った上で,ソフラチュール(抗生剤の入ったガーゼ)を当てたり,エキザルベを塗布するなど局所治療を継続しており,この処置は適切なものである。 (ウ) 説明義務違反についてA医師は,原告の初診時に,診察,問診,血糖値の検査結果等により,原告の傷病名が糖尿病性壊疽(えそ)であると診断し,その傷病名を告知し,壊疽(えそ)が進行すれば,敗 説明義務違反についてA医師は,原告の初診時に,診察,問診,血糖値の検査結果等により,原告の傷病名が糖尿病性壊疽(えそ)であると診断し,その傷病名を告知し,壊疽(えそ)が進行すれば,敗血症等を起こしたり,足指の脱落もあり得ること,糖尿病性壊疽(えそ)の治療効果を上げるためには,食事療法や薬の服用により空腹時の血糖値を200mg/dl以下に下げることが必要であり,そうならなければ,創傷部の手術等もできないことを説明した。また,A医師は,原告がゴム長靴を履いて青果の行商に従事していたことを被告医院通院後の早い時期から認識していたので,原告に対し,創傷部を安静にし,清潔さを保つよう何回も指導し,また,そのためにも入院した方がよいと数回勧めており,A医師に説明義務違反はない。 (エ) 転院及び入院を勧めることを怠った注意義務違反についてa 糖尿病性壊疽(えそ)において入院治療が必要となるのは,創傷周囲の炎症,悪臭のある排膿の持続など壊疽(えそ)の症状が進展した場合や,切断のような外科的手術が必要な場合である。原告には,初診時に上記のような症状が見られなかったのは前記のとおりであるから,A医師が,この段階で,原告の糖尿病性壊疽(えそ)の局所治療を被告医院の外来で対応したことに問題はない。 また,被告医院は,外科を標ぼうしているが,A医師は,外来で多数の糖尿病患者の内科的治療を行ってきており,糖尿病の専門的知識や臨床経験には事欠かないこと,A医師の治療により,原告の血糖値のコントロールについては相当な成果が上がったことからすれば,初診時に原告を転院させたり,糖尿病の専門医と共同して治療すべき義務は負っていない。 b その後,1月30日までの原告の創傷部の症状が,安定し,壊死(えし)が表在性のものに ことからすれば,初診時に原告を転院させたり,糖尿病の専門医と共同して治療すべき義務は負っていない。 b その後,1月30日までの原告の創傷部の症状が,安定し,壊死(えし)が表在性のものに止まっていたこと,血糖値が相当改善されたことは前記のとおりであり,この間に,A医師に原告を転院させる義務はなかったというべきである。 さらに,この間,A医師は,同月18日のほか,同月30日までの間に,数回にわたり原告に入院を勧めたのに対し,原告は仕事の関係で入院はできないとして,自己の判断で被告医院における通院治療を選択したのであって,この意味でも注意義務違反はない。 c ところが,原告の創傷部の状態は,1月31日になって急変し,はれ,痛みが顕著となり,悪臭を伴う排膿が出現した。そこで,A医師は,直ちに入院して外科的治療を受ける必要があると原告に説明し,明確に入院を指示したから,注意義務違反はない。 イ原告が足部切断を余儀なくされた原因は,原告が被告医院に来院するまで,長年にわたり食事療法と薬の服用による血糖値の管理を怠っていた上,被告医院に来院するようになってからも,A医師が入院を勧めたり,創傷部の安静や清潔さを保持するよう原告に指導したにもかかわらず,原告がゴム長靴を履いて行商の仕事を続けるなどして自己管理を怠っていたことにあるというべきである。 また,原告は,生協病院入院後も,間食をとるなど自己管理を怠ったため,血糖値を200mg/dl以下に下げることがなかなかできず,切除手術を早期に実施できなかったことも原告の足の切除範囲の拡大に影響していることは明らかである。 (2) 争点(3)(原告の損害及びその額)について(原告の主張)ア逸失利益 958万 原告の足の切除範囲の拡大に影響していることは明らかである。 (2) 争点(3)(原告の損害及びその額)について(原告の主張)ア逸失利益 958万1549円原告の平成8年当時の年収は,180万円を下らなかった。原告は,被告による債務不履行の終了時以後である平成8年2月1日から労働可能期間の10年間,毎年67パーセントの労働能力を喪失したもの(原告の後遺障害の程度は,自動車損害賠償保障法施行令2条の第6級に該当する。)で,新ホフマン係数により,中間利息を控除した逸失利益は,958万1549円となる。 (計算式)180万0000円×0.67×7.9449≒958万1549円イ後遺障害慰謝料 1100万0000円原告は,被告の債務不履行により,長年続けてきた行商の職を奪われた上,左足関節部を失い,日常生活に多大な不便と苦痛を強いられており,その後遺障害に対する慰謝料は1100万円を下らない。 ウ弁護士費用 200万0000円原告は,本件訴訟の提起を余儀なくされたことにより,200万円の弁護士費用の支出を余儀なくされた。 第3 争点に対する判断 1 原告の症状及び治療経過前提事実に加え,証拠(甲7の1ないし7の5,14,乙1,2,原告本人,被告代表者。ただし,後記認定に反する部分は除く。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 原告の糖尿病歴等原告は,昭和50年代前半ころ,糖尿病と診断され,以後,幡内科医院(以下「幡医院」という。)で通院治療を受けるようになった。原告のそのころの食後の血糖値は,おおむね300mg/dlで推移していた。 原告は,昭和50年代前半ころ,糖尿病と診断され,以後,幡内科医院(以下「幡医院」という。)で通院治療を受けるようになった。原告のそのころの食後の血糖値は,おおむね300mg/dlで推移していた。 原告は,平成7年12月17日ころ,靴擦れにより左足指に水ほう状の傷ができたため,同月20日から同月26日までの間,皮膚科の田代医院に通院してその治療を受けた。 (2) 1月8日の状況ア原告は,1月8日,左足指の治療のため,被告医院を訪れた。原告は,A医師に対し,約20年前から幡医院に通院し,糖尿病の内服治療を受けていること,左足指の治療のため,田代医院に通院し,平成7年年末から平成8年年明けにかけては自宅療養している旨説明した。 イ A医師が診察したところ,原告の左足尖部は黒く変色し,第1,第4,第5足指に壊死(えし)が見られたほか,創液浸潤があり,感染していた。このうち,第1足指が黒色に変色していたほか,第4,第5足指の腱(けん)と思われる部分は,露出しており深い傷の部分があったために,A医師は,やや深い傷で重症ではないかと思ったが,腱(けん)かどうかまで確認しなかった。また,A医師が,原告の足背動脈に触れてみると脈を確認できた。(なお,被告は,原告の左足尖部につき,深層の変化まで認められない表在性の壊死(えし)であったと主張し,被告代表者は,原告の初診時の足の状態について,壊死(えし)が足指全体ではなく,親指と小指の先端部に斑点状の黒い部分が見られその深度も非常に浅く表在性のものと診断したと供述している。また,原告本人は,靴擦れの水ほうが白くなり,若干黄色みを帯びた部分があったと供述している。しかし,被告代表者自身,原告の左足尖部に黒い部分の存在したことや壊疽(えそ)には深い部分があったことを認める供述をし,診療 靴擦れの水ほうが白くなり,若干黄色みを帯びた部分があったと供述している。しかし,被告代表者自身,原告の左足尖部に黒い部分の存在したことや壊疽(えそ)には深い部分があったことを認める供述をし,診療録(乙1)には同供述に沿う記載があることに照らせば,前記のとおり認定するのが相当である。)ウまた,A医師は,当日,原告の血液検査(血糖値検査のみ)及び検尿を実施したが,その結果は次のとおりである。 (ア) 原告の血糖値は,食後2時間時で,450mg/dl(正常値は,60ないし110mg/dl。以下,特に断らない限り,正常値としては上記値を指す。)を超え,測定不能であった。 (イ) 原告の尿検査の結果,たん白が(++),糖が(++++)であった。 エ A医師は,これら検査結果,問診,原告の糖尿病歴に関する説明,自ら診察した原告の左足の状態から,糖尿病性壊疽(えそ)と診断したが,血管障害が表在性にすぎず,重症の患者が被告医院を受診するはずがないとの思いもあって,同医院において外来による治療が可能であると判断した。そこで,A医師は,原告に対し,ヒビテン液(消毒液)の温湯で足洗し,ガーゼで創傷部をふきとるなどの処置を行った上で,ソフラチュール(抗生剤の入ったガーゼ)を当てたり,エキザルベを塗布するなど局所治療(以下「初診時の処置」という。)を行った。ただ,A医師は,原告の壊疽(えそ)が表在性のものであり,X線撮影による検査まで必要ないと考えてこれを行わなかった。A医師は,感染症対策として,起炎菌の検索,特定をしないまま,抗生剤バナンを投与することにした。そして,A医師は,原告に対し,創傷部を清潔に保つこと,空腹時の血糖値の検査等をするので,翌9日には絶食の状態で来院することを指示したが,その後も含め,局所の安静・免荷の指 ンを投与することにした。そして,A医師は,原告に対し,創傷部を清潔に保つこと,空腹時の血糖値の検査等をするので,翌9日には絶食の状態で来院することを指示したが,その後も含め,局所の安静・免荷の指示や長靴による歩行を禁止するなどフットケアに関する指導をすることはなかった。(①被告は,原告に対し,初診時に既に,糖尿病性壊疽(えそ)が進行すれば,敗血症等を起こしたり,足指の脱落もあり得ること,糖尿病性壊疽(えそ)の治療効果を上げるためには,食事療法や薬の服用により空腹時の血糖値を200mg/dl以下に下げることが必要であり,そうならなければ,創傷部の手術等もできないことを説明したと主張し,被告代表者の供述中には,これに沿う部分がある。しかし,A医師が1月18日に入院を勧めた際でさえ,原告に対し,足切断や敗血症の危険を説明していないことは後記のとおりであること,A医師の初診時の認識が表在性の糖尿病性壊疽(えそ)というものであったこと,A医師は初診日の翌日の空腹時における血糖値の検査をしようとしていることに照らすと,A医師が,初診時に上記のような説明をしたとは考え難いから,被告の上記主張はすぐには採用できない。②被告は,原告が通院してきた早い時期から,原告が長靴を履いて行商をすることを知っており,1月18日までに,何回かそれをやめるよう注意したと主張し,被告代表者の供述中にはこれに沿う部分がある。しかし,本件全証拠によるも,A医師が原告に対し,履物に関するチェックや具体的な指導をした形跡が見られないこと,後記のとおりA医師は1月30日までは表在性の壊疽(えそ)であるにすぎないと認識していたことに照らすと,A医師は,創傷部を清潔に保つとの趣旨で注意したのみであり,それ以上に,長靴を履いていれば足部切断の危険がありその着用を禁止すると明確に指導し (えそ)であるにすぎないと認識していたことに照らすと,A医師は,創傷部を清潔に保つとの趣旨で注意したのみであり,それ以上に,長靴を履いていれば足部切断の危険がありその着用を禁止すると明確に指導したとは認められないし,まして,長靴の使用に替えて,ギプスを利用させたり,歩行制限をするなどの局所の安静・免荷を図る指導をしたとは認め難い。したがって,被告の上記主張は採用しない。)被告医院は,幡医院に連絡して原告に処方していた薬を確認したことはあるが,原告の血糖値,インシュリンの使用の有無等,幡医院における治療・指導の内容等については,確認することはなかった。 (3) 1月9日の状況原告の左足の状態は,同日も創液浸潤が続いていた。A医師は,初診時の処置を行ったほか,原告の血液検査を実施した。同月10日に判明した血液検査の結果は次のとおりである。 ア原告の血糖値は,空腹時で,371mg/dlであった。 イ原告の白血球は,1万7700/m‰(正常値は,3900ないし98000/m‰)であった。 (4) 1月10日の状況A医師は,これまでの諸検査結果,特に高い血糖値や正常値の約2倍もある白血球数からみて,原告の血糖コントロールが極めて不良であるとともに,原告には感染性の炎症がかなり進んでいると認識したが,オパルモン(微小血管を拡張させ,血行をよくする薬)を投与したほかは,初診時の処置をしたのみで,X線撮影の検査をすることはなかった。 (5) 1月11日の状況A医師は,原告から前年度の成人病検査で,血糖値が370mg/dlであったことを確認し,血糖コントロールの不良が以前から続いており,幡医院の治療は,原告の血糖のコントロールに功を奏していないことを確認した。そこで,A医師は,原告に対する 血糖値が370mg/dlであったことを確認し,血糖コントロールの不良が以前から続いており,幡医院の治療は,原告の血糖のコントロールに功を奏していないことを確認した。そこで,A医師は,原告に対する治療には,まず血糖コントロールが重要であり,糖尿病についても被告医院で責任をもって治療することにし(被告代表者),食後過血糖改善剤ベイスン,血糖降下剤ダオニール及び腸内ガスコントロール剤ガスコンの投与を開始した。 また,A医師は,このころまでに,原告に対し,血糖値が下がらないと傷は治らないから,食事に気をつけるように説明した(なお,原告は,この点に関し,A医師は,血糖値が下がれば傷が治ると説明したと主張し,証拠(甲14,原告本人)中にはこれに沿う部分があるが,A医師の上記説明を原告がそのように受け取ったものと考えられ,これをそのまま採用することはできない。)。しかし,A医師は,食事のカロリー計算等の細かい指示等の生活指導はしなかったし,足切断の危険性などについて説明したわけでもなかった。 (6) 1月12日以後の状況A医師は,原告が受診するたびに,初診時と同様の処置を行っていたが,1月13日には,原告からのどの渇きが減少したと説明を受け,また,創傷部からの創液が減少していると診察し,原告の足の傷の状態が改善しているものと判断した。 また,A医師は,1月16日に原告の血液検査を実施し血糖値を測定したところ,空腹時で,353mg/dlであった。 (7) 1月18日以降の状況ア A医師は,同日,これまでの血糖値の検査結果から,原告の血糖値のコントロールには,インスリンの使用が必要ではないかと考え,原告にその使用の有無を尋ねた。また,A医師は,原告に対し,血糖値のコントロールをするために入院した方がよいし,このま から,原告の血糖値のコントロールには,インスリンの使用が必要ではないかと考え,原告にその使用の有無を尋ねた。また,A医師は,原告に対し,血糖値のコントロールをするために入院した方がよいし,このままだと傷がいつまでも治らないとして入院を勧めたが,その際,もし入院しなければ,足切断や敗血症の危険があるとの説明はしなかったし,具体的な入院先を挙げて勧めたわけでもなかった。これに対し,原告は,仕事を休めないので入院はできないが,自分で食事管理をして血糖値のコントロールをすると答えた(原告本人)。A医師は,その際,その具体的な管理方法や生活改善方法の指導をしなかった。また,A医師は,同日,血糖降下剤をオイグルゴンに変えて投与量を通常の倍に増量した。 イ原告は,1月19日にも被告医院を受診し,のどの渇きがないと説明し,A医師は,原告の左足指の創傷部の状態について,良くもならないし悪くもならない状態で変化がないと判断し,1月24日に血液検査を依頼するまで,初診時の処置のほか,特に検査をすることはなかった。なお,上記血液検査の結果は次のとおりである。 (ア) 原告の血糖値は,いずれも空腹時で,被告医院での測定結果が274mg/dl,外部の機関での測定結果が259mg/dlである(なお,外部機関における正常値は65~110mg/dlである。)。 (イ) 原告のHbA1Cは,13.5パーセントである(なお,正常値は4.3~5.8パーセントであり,糖尿病患者の平均は,9.8パーセントである(甲12)。)。 ウ A医師は,1月26日,上記外部機関に依頼してあったHbA1Cの検査結果の送付を受け,その結果,約1,2か月前の原告の血糖コントロールも不良であったことが判明したが,原告の左足指の創傷部の表面的な状態から,原告の傷は多少良 外部機関に依頼してあったHbA1Cの検査結果の送付を受け,その結果,約1,2か月前の原告の血糖コントロールも不良であったことが判明したが,原告の左足指の創傷部の表面的な状態から,原告の傷は多少良好であると判断した。(なお,被告は,A医師は,この検査結果を見て,原告の血糖コントロールに対する自己管理がずさんであることが判明したため,同日,原告に対し,入院が必要であると説明したし,その後も何回か原告に対し,入院を勧めたと主張し,被告代表者の供述中にはこれに沿う部分がある。しかし,診療録(乙1)によると,同月18日,同月31日の欄には入院治療勧告についての記載があるのに同月26日の欄にその旨の記載がない。A医師の上記認定の診察経過を考えると,A医師が,同月26日,原告に入院勧告をしたが,その旨の記載漏れであるとするのは不自然であり,被告の上記主張はすぐには採用できない。)エその後,A医師は,1月30日まで,原告の左足の創傷部の表面的な状態から変化はないと判断して,原告が受診するたびに,初診時の処置をしたほか,特に検査をすることはなかった。原告は,同月18日ころから,長靴を履いて歩くと左足の創傷部に痛みを感じることがあり,これをかばって歩くようになっていたが,A医師にこれを訴えることはなかった。 (8) 1月31日の状況A医師が,原告の左足の状態を診察したところ,一見して足背(そくはい)から足底にかけて発赤や腫脹(しゅちょう)が見られたため,感染,炎症の進展が確認できたとして,より即効性の高い抗生剤セファメジンを静脈注射し,原告に対し,手術等のため入院を要すると告げたところ,原告は,被告医院を退出した。なお,原告に対する検査結果によれば,原告の血糖値は,空腹時で211mg/dlであった。(原告は,A医師から血糖値がかなり に対し,手術等のため入院を要すると告げたところ,原告は,被告医院を退出した。なお,原告に対する検査結果によれば,原告の血糖値は,空腹時で211mg/dlであった。(原告は,A医師から血糖値がかなり下がっており,もうすぐ傷口も治ると言われたと主張し,証拠(甲14,原告本人)中には,これに沿う部分がある。しかし,前判示の同日における原告の足の状態は,翌2月1日の生協病院における後記原告の診察結果から合理的に推測されるものである上,被告医院の診療録の記載に合致しており,信用性が高いと考えられるところ,このような状態で,A医師がもうすぐ傷口が治ると説明するとは考え難いから,原告の上記主張は採用できない。)(9) 被告医院通院中の原告の左足の状態について原告の左足の表面的な状況からA医師が判断した内容は,これまでに判示したとおりである。しかしながら,原告の左足の指には,初診時に既に腱(けん)と思われる部分が露出するなど創傷部には深い部分があったこと,1月9日の原告の白血球数が通常の2倍近くであり,感染性の炎症がかなり進んでいたことに加え,後記のとおり,原告は,被告医院通院後も長靴による行商を続けており,その結果,感染,壊疽(えそ)が進展した可能性が高いこと,2月1日には,原告の左足の第4,第5足指の骨は,既にほぼ融解していたこと,医学上も,壊疽(えそ)が深部に至り,感染が進むと患者からの訴えや発熱の症状があらわれる前に膿瘍(のうよう)を認めることが少なくなく,さらに既に腐骨を形成していることもあるとされていることに照らすと,この間,原告の足の深部,少なくとも足の指の深部では,創傷部の表面的な状態の変化の有無にかかわらず,壊疽(えそ)ないし感染症がかなり進行していたものと推認するのが相当である。(被告は,1月31日に病状が急変した 足の深部,少なくとも足の指の深部では,創傷部の表面的な状態の変化の有無にかかわらず,壊疽(えそ)ないし感染症がかなり進行していたものと推認するのが相当である。(被告は,1月31日に病状が急変したと主張し,証拠(乙1,被告代表者)中には,これに沿う部分がある。しかし,これは原告の左足の表面的な変化に着目したものにすぎない上,わずか1日で第4,第5足指の骨がほぼ融解するような状態にまで進むとは考え難いこと,原告は,同月18日ころから歩くと痛みを感じ,かばうように歩くようになっていたことに照らすと,上記推論を左右するに十分なものとはいえない。また,被告は,A医師の投与した抗生剤が効果を上げており,それまで抑えられていたものが,同月31日に足の付け根,関節を超えて一気に進行したとも主張するようである。しかし,抗生剤の効果は,ヒビテン液による足浴等の局所治療とあいまって,表面的な病変の発生をとどめたにすぎず,少なくとも足の指の深部では,壊疽(えそ)ないし感染が進行しており,同日に足の指の部分を超え,一気に足背(そくはい)から足底に拡大したとも考えられるから,上記推認を左右するものではない。)(10) 2月1日以降の状況ア原告が,同日,生協病院を受診したところ,左足部糖尿病性壊疽(えそ)と診断された。また,原告がX線撮影を受けたところ,原告の左足の第4,第5足指の骨が溶け,骨髄炎を起こすなど重度の感染が見られたため(甲14,原告本人),担当の整形外科医は最低でも原告の中足部での切断が必要と診断したが(乙2の47ページ),空きベッドがなかったため,原告は入院を予約した。なお,生協病院が同日実施した原告の検査結果は,次のとおりである(乙2の45ページ)。 (ア) 原告の血糖値は,253mg/dl(正常値は,70~110mg/d たため,原告は入院を予約した。なお,生協病院が同日実施した原告の検査結果は,次のとおりである(乙2の45ページ)。 (ア) 原告の血糖値は,253mg/dl(正常値は,70~110mg/dl。以下の生協病院における検査結果も同様である。)。 (イ) 原告のCRPは,21・6mg/dl(正常値は,0・0~0・8mg/dl。)。 イ原告は,同月8日,生協病院に入院したが,左下腿(かたい)のはれが著明であり,特に足関節から足の指にかけてひどい状態であった(乙2の257ページ)。また,原告は,原告の血糖値が高いために,麻酔,手術の許可が出ず,内科で糖尿病に対するコントロールを受けることになった(乙2の52ページ)。原告は,同月23日に左足の第4,第5足指を切除し,足底部を切開する病巣掻爬(そうは)術を麻酔なしで受け,さらに3月4日には,麻酔をして左足関節部を切断する離断術を受けた。その結果,原告の左下肢の実測長は,右下肢に比べ5センチメートル短縮した(乙2の57ページ)。 原告は,その間,生協病院から血糖値の管理の必要性,方法等について,教育,指導を受けたが,2月10日ころ同室者からあんパンをもらったり,病院の食事について高タンパクなものが欲しいと申し出たりした(乙2の259ページ)。なお,生協病院での原告の血糖値は,以下のとおりである。 (ア) 2月9日  230mg/dl(乙2の96ページ)(イ) 同月10日 301mg/dl(乙2の97ページ)(ウ) 同月13日 266mg/dl(乙2の98ページ)(エ) 同月16日 219mg/dl(乙2の99ページ)(オ) 同月19日 135mg/dl(乙2の100ページ)(カ) 同月22日 205mg/dl(昼食前)( ページ)(エ) 同月16日 219mg/dl(乙2の99ページ)(オ) 同月19日 135mg/dl(乙2の100ページ)(カ) 同月22日 205mg/dl(昼食前)(ただし正常値の記載なし)(乙2の136ページ)(キ) 同月26日 262mg/dl(乙2の104ページ)(ク) 同月29日 257mg/dl(朝食前)(乙2の138ページ)(ケ) 3月4日  187mg/dl(朝食前)(乙2の139ページ)ウその後,原告は,4月19日に内・外果の一部を切除する手術を行い,歩行訓練などをして,5月31日に生協病院を退院した。 (11) 被告医院の状況平成8年当時の被告医院は,外科,整形外科,胃腸科,皮膚科を標ぼうしていたが,被告医院の唯一の医師であるA医師の専門は外科であった。また,被告医院は,平成8年当時,外来診療のみ行っており入院治療を行っていなかった。 なお,A医師は,平成8年当時,34,5名の糖尿病患者を診察しており,また,糖尿病性壊疽(えそ)の患者も4人診察していた。 2 糖尿病性壊疽(えそ)に関する医学的知見証拠(甲3ないし6,8ないし13,乙3,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,以下の糖尿病性壊疽(えそ)に関する医学的知見が認められる。 (1)ア糖尿病性壊疽(えそ)は,糖尿病性潰瘍(かいよう)とともに,糖尿病性足病変とも呼ばれ,糖尿病患者の下肢に好発する糖尿病の合併症である。その機序は,①糖尿病性神経障害(ニューロパチー)による微小血管の血行障害に起因するものと②動脈硬化症(ASO)を背景とする血行障害に起因するものの2つに大きく分けられるが(甲4の106ページ,甲11の58ページ(但し,中央下の括弧内に記載されたページ。以下, 血行障害に起因するものと②動脈硬化症(ASO)を背景とする血行障害に起因するものの2つに大きく分けられるが(甲4の106ページ,甲11の58ページ(但し,中央下の括弧内に記載されたページ。以下,甲11のページ数の表記は同様とする。)),実際には両者が混在していることや感染症を合併していることが多く,その意味で,糖尿病性壊疽(えそ)は,糖尿病性血管障害に糖尿病性神経障害,感染症が複雑に関与して発症すると考えられている。すなわち,糖尿病患者の場合,上記のような血管(血行)障害に加え,神経障害により知覚障害があったり,感染に対する抵抗力が弱いため,靴擦れ等のわずかな外傷でも,容易に皮膚組織の壊死(えし)が始まり,また感染しやすく,これが進行して皮下組織さらには骨に壊死(えし)を招来することになる。 イ糖尿病性壊疽(えそ)は,糖尿病歴が長く,腎症等の糖尿病合併症を伴い,血糖コントロールの不良な比較的高齢の糖尿病患者に発症することが比較的多く,この意味で,糖尿病の最終段階に発症する合併症である。また,靴擦れ,水ほうから生じた皮膚組織の壊疽(えそ)であっても,たった1日で腱(けん)や骨に達する深い膿瘍(のうよう)を生じることがある(乙4の692ページ)ほか,壊疽(えそ)が深部に至り,感染が進むと,患者による訴えや発熱の症状の前に,既に膿瘍(のうよう)を認めることが少なくなく,さらに既に腐骨を形成している場合もある(甲5の631ページ)。また,感染は,皮膚組織よりも皮下組織で拡大しやすく,趾の付け根,足関節,膝(ひざ)関節はバリアーとなるが,これを超えると急速に中枢に向かって拡大する場合があり(乙4の695ページ),糖尿病性壊疽(えそ)は,創傷部の深部で進行し,しかも急激に増悪する可能性のある疾病といえる。 ウ糖尿病性壊疽(えそ) 超えると急速に中枢に向かって拡大する場合があり(乙4の695ページ),糖尿病性壊疽(えそ)は,創傷部の深部で進行し,しかも急激に増悪する可能性のある疾病といえる。 ウ糖尿病性壊疽(えそ)においては,発症初期の対応が足の予後を左右し(甲8の2172ページ),これに対する適切な処置をしなければ,足部切断を余儀なくされるなど患者のQOL(クオリティオブライフ)に大きな影響を及ぼすことになる。 (2) 糖尿病性壊疽(えそ)に対する検査医師は,糖尿病性壊疽(えそ)を診察する際,治療の前提として,局所の視診,足背動脈等の拍動状態の検査のほか,以下の検査を行い,壊疽(えそ)の進行状況を的確に把握する必要がある。 アまず,医師は,X線撮影の検査により,炎症の進展による骨融解,骨髄炎及びガス壊疽(えそ)の有無のほか,異物,骨粗鬆(そしょう)症,骨折等の有無を確認する。この検査は,非侵襲的な検査でありながら,患者や局所の表面的な状態では把握できない情報を得ることができるため,感染症が見られる場合には,必ず行う必要がある。さらに,深部の膿瘍(のうよう)や筋炎が疑わしい場合には,CTやMRI検査を行う必要があるとされている(甲5の613ページ,甲6の367ページ,甲8の2172ページ,甲10の915ページ,甲11の61ページ,甲12の1802ページ)。 イ起炎菌の同定感染症が見られる場合には,効果的な抗生剤を投与するため,病巣部や血液から採取し培養した起炎菌を同定することが必要となる。壊疽(えそ)の表面から採取した検体では真の起炎菌を特定できないから,深部から採取すべきであるとされている(甲5の613ページ,629ページ,甲6の367ページ,甲8の2172ページ,甲10の915ページ,甲11の61ページ,甲12 では真の起炎菌を特定できないから,深部から採取すべきであるとされている(甲5の613ページ,629ページ,甲6の367ページ,甲8の2172ページ,甲10の915ページ,甲11の61ページ,甲12の1802ページ)。 (3) 糖尿病性壊疽(えそ)に対する治療糖尿病性壊疽(えそ)に対する治療は,以下に詳説するとおり,まず,血糖のコントロール(正常化),局所の安静・免荷,及び感染症対策等の全身管理を行うとともに,局所治療として,清潔の保持,消毒,壊死(えし)組織の除去(デブリードマン)のほか,皮下ないし深部に膿瘍(のうよう)の形成が疑われるときには,切開し,排膿を行い,さらに,壊疽(えそ)の範囲が広範囲で内科的治療が望めない場合等には,足部切断を行うことになる。 ア血糖値の正常化血糖値を正常化することは,糖尿病合併症治療の基本である。高血糖のままでは,創治癒は進まない上,麻酔ができないために局所の手術等も困難になり,手遅れになるおそれがある。速効インスリンの持続皮下注射や頻回注射法により血糖値の正常化を図ることが原則である(甲4の114ページ,甲5の627ページ,甲6の368ページ,甲8の2173ページ,甲10の915ページ,甲11の62ページ)。ただし,速効インスリンの持続皮下注射や頻回注射法による場合には,低血糖に陥る危険があり,外科医が治療を行うとしても,血糖コントロールが専門外であり困難を伴うことから,糖尿病を専門にする内科医と連携して,治療を行う必要がある。 イ局所の安静・免荷壊疽(えそ)ないし潰瘍(かいよう)は,皮膚への機械的ストレスが発症要因になっている(甲11の62ページ)上,体重のかかる部位に起こった壊疽(えそ)や感染がある場合には,歩行により,急速に増悪することがあるた )ないし潰瘍(かいよう)は,皮膚への機械的ストレスが発症要因になっている(甲11の62ページ)上,体重のかかる部位に起こった壊疽(えそ)や感染がある場合には,歩行により,急速に増悪することがあるため,原則として患者を入院させ,歩行制限をして,局所の安静・免荷をする必要がある(甲4の114ページ,甲9の1332ページ)。もっとも,潰瘍(かいよう)が浅く感染のコントロールができれば,ギプスを利用して免荷を図る方法により,通院治療が可能な場合もある(甲11の62ページ)。いずれにしても,履物に関する指導を含め免荷の処置をとる必要がある。 ウ感染症対策感染症対策としては,起炎菌の抗生剤に対する感受性結果が判明するまでは,広域抗生剤の全身投与を行い,有効な抗生剤が判明すればそちらに変更する(甲4の114ページ,甲5の629ページ,甲11の63ページ)。 エ局所治療局所治療として,まず局所を清潔に保つとともに,刺激の少ないヒビテン液等で壊死(えし)組織周辺の消毒,足浴を行う(甲4の114ページ)が,外科的治療の基本は,壊死(えし)組織の除去(デブリードマン)である。糖尿病性壊疽(えそ)の場合,外部から考えている以上に感染が拡大していることがあり,これを放置しておくと感染と血行障害が上方に進行し,足部切断を余儀なくされるおそれがあるため,深部感染を確認した場合には,できる限り早期にこの深部の壊死(えし)巣を取り除く必要がある(甲5の631ページ,乙4の695ページ)。また,皮下ないし深部に膿瘍(のうよう)の形成が疑われるときには,切開し,排膿を行う。さらに,壊疽(えそ)の範囲が広範囲で内科的治療が望めない場合,感染により敗血症等が進行する場合,閉そく性動脈硬化(ASO)が顕著で壊死(えし)が進行する場合には,足 ときには,切開し,排膿を行う。さらに,壊疽(えそ)の範囲が広範囲で内科的治療が望めない場合,感染により敗血症等が進行する場合,閉そく性動脈硬化(ASO)が顕著で壊死(えし)が進行する場合には,足部切断を行う。 このうち,デブリードマンや足部切断を適切に行うためには,外科的技術を要し,糖尿病専門の内科医と外科医の連携が必要となる。 オこのように,糖尿病性壊疽(えそ)に対する治療は,糖尿病に対する内科的な処置と局所治療に対する外科的な処置からなるもので,形成外科,外科と内科等とのチーム医療の必要性が強調されるようになっている。 3 争点(1)(被告の注意義務違反の有無)について(1) A医師がした治療行為に関する注意義務違反A医師が,初診当初から,原告が血糖コントロール不良の糖尿病性壊疽(えそ)であると診断していたことは前判示のとおりであり,上記糖尿病性壊疽(えそ)に関する知見,とりわけ壊疽(えそ)が急速に増悪することを本件当時認識していたこと(被告代表者)に照らすと,A医師には,原告の治療に際し,原告の足の状態を的確に把握して,厳重に管理するとともに,糖尿病性壊疽(えそ)に対する前判示の医学上の知見に照らし,適切な治療をすべき注意義務があったというべきである。 以下,A医師のした具体的な治療行為に即して,注意義務違反の有無を検討する。 ア X線検査等を行い糖尿病性壊疽(えそ)の深部の状況を把握すべき義務前判示した第3の1及び2によれば,A医師は,原告について,初診時に腎症等の合併症を伴う糖尿病性壊疽(えそ)と診断し,創傷部には深い部分が存在したこと及び1月11日ころまでには,感染性の炎症がかなり進行していたことを認識していたのであるから,A医師には,このころまでに,原告に対し,X線撮 病性壊疽(えそ)と診断し,創傷部には深い部分が存在したこと及び1月11日ころまでには,感染性の炎症がかなり進行していたことを認識していたのであるから,A医師には,このころまでに,原告に対し,X線撮影による検査,場合によってはCT又はMRI検査を行い,深部における炎症の進展度や骨融解,骨粗鬆(そしょう)症,骨髄炎及びガス壊疽(えそ)の有無等を調べる注意義務があったといえるし,糖尿病性壊疽(えそ)が深部において急速に増悪する可能性のあることに照らせば,定期的に上記検査を行った上で糖尿病性壊疽(えそ)の深部の状況を把握すべき注意義務があったというべきである。しかし,A医師は,これら創傷部の深部の状態を調べるための検査を何らしておらず,A医師には,上記の注意義務違反がある。(被告は,①原告の足背動脈が触知可能であったこと,②1月30日までは深層の変化が認められない表在性の壊疽(えそ)であったことから,X線撮影の検査の必要性はなかったと主張する。しかし,①について,糖尿病性神経障害による場合には,足背動脈の拍動があるとされていること(甲11の61ページ)からすれば,この事実をもって,直ちに深部における進展を否定する根拠とすることはできないし,②について,表在性の壊疽(えそ)にみえても感染が深部に進んで,既に膿瘍(のうよう)を認めたり腐骨を形成している場合があることは前判示のとおりであり,むしろ,深部に変化があるかどうかは上記検査をしなければ判明しないというべきである。しかも,原告の足においては,創傷部の表面的な状態の変化の有無にかかわらず,その深部において,壊疽(えそ)ないし感染症がかなり進行していたと推認できることは前判示のとおりである。そうすると,A医師は,X線検査等を実施して原告の足の深部における炎症の進展度,骨融解,骨粗鬆(そしょう) いて,壊疽(えそ)ないし感染症がかなり進行していたと推認できることは前判示のとおりである。そうすると,A医師は,X線検査等を実施して原告の足の深部における炎症の進展度,骨融解,骨粗鬆(そしょう)症等の状況を把握する必要があったというべきであるから,被告の上記主張は採用できない。)イ局所の安静・免荷を図るように指導すべき義務前判示第3の1及び2によれば,原告の糖尿病性壊疽(えそ)の部位は,足の指であり,歩行の負荷により(長靴を履いた歩行の場合にはなおさらである。),急速に増悪するおそれがあるから,A医師としては,原則として原告を入院させて歩行制限等をするか,通院治療させる場合には,特に,長靴による歩行を禁止するのはもちろん,ギプスの利用や履物の指導を徹底するなど局所の安静・免荷を図るように指導すべき義務があるというべきである。しかし,A医師は,当時入院治療をしていなかった被告医院で通院治療することにしたにもかかわらず,原告に対し,長靴を履くことを禁止し,ギプスを利用したり,歩行制限をするなど局所の安静・免荷を徹底させる指導をしなかったことは前判示のとおりであるから,上記の指導すべき義務に違反している。なお,A医師の上記義務違反があったため,原告は,被告医院の通院後も長靴による行商を続けた結果,感染,壊疽(えそ)が原告の足の内部で進展した可能性が高いと推測される。 ウ血糖値を正常化するためにインスリンを投与すべき義務前判示第3の1及び2によれば,A医師は,原告の血糖コントロールが極めて不良であったことを初診当初から認識していたこと,1月11日に原告がそれまで糖尿病の治療を受けていた幡医院に替わり,糖尿病の治療を被告医院が責任をもって行うことにしたことに照らすと,A医師には,遅くともこの時点以降,血糖 初から認識していたこと,1月11日に原告がそれまで糖尿病の治療を受けていた幡医院に替わり,糖尿病の治療を被告医院が責任をもって行うことにしたことに照らすと,A医師には,遅くともこの時点以降,血糖値を正常化するために,原告の食事療法を徹底させるための指導,血糖降下剤の投与を行うことのほか,速効インスリンを投与すべき義務があったというべきである。しかし,A医師は,血糖降下剤の投与と食事に気をつけるよう指示したのみで,インスリン投与をしなかったから,上記インスリン投与の義務違反がある。 (被告は,血糖コントロールの基本は,食事管理と血糖降下剤の投与による経過観察であり,本件では,この治療方法により相当な成果が得られた以上,低血糖により意識障害のリスクがあり,自己管理能力と自覚が欠如している原告に対し外来でインスリン療法をすることは危険であったとして,インスリンを投与しなかったことに義務違反はないと主張する。たしかに,A医師による血糖コントロールがそれなりの成果を上げていることや糖尿病一般について,血糖コントロールの基本が食事管理と血糖降下剤の投与による経過観察にあることは被告の主張するとおりである。しかし,糖尿病性壊疽(えそ)が糖尿病の最終段階における合併症であり,創傷部の深部において,急激に増悪することがあること,高血糖のままでは,創治癒は進まず,麻酔もできず,したがって局所の手術等も困難となり手遅れになる危険もあること,専門家の中にはちゅうちょなくインスリン療法を採用すべきとしている者もいることに照らすと,糖尿病性壊疽(えそ)の患者で,しかも,原告のように血糖コントロールが極めて不良な者に対しては,厳重な血糖コントロールが必要であり,インスリンを投与すべき義務があるというべきである。また,原告に自己管理の能力と自覚がないというのであれば 告のように血糖コントロールが極めて不良な者に対しては,厳重な血糖コントロールが必要であり,インスリンを投与すべき義務があるというべきである。また,原告に自己管理の能力と自覚がないというのであれば,むしろ,それを徹底させるよう強力に指導すべきであるし,入院治療をしていなかった被告医院で困難というのであれば,このことを患者である原告に説明し,転院を促すべきものともいえるから,被告の上記主張は採用できない。)エ局所治療において早期に深部の壊死(えし)巣を取り除く義務糖尿病性壊疽(えそ)の場合には,外部から見る以上に感染が深部に及んでいることがあり,これを放置しておくと感染と血行障害が上方に進行し,足部切断を余儀なくされるおそれがあることは,前判示第3の1及び2のとおりである。そして,原告の創傷部は,初診時既に深い部分があり,1月9日の原告の白血球数も通常の2倍近くあり,原告が長靴による行商を続けた結果,感染,壊疽(えそ)が進展した可能性が高いといえることも,前判示のとおりである。このような場合,A医師としては,原告の足の局所の治療に当たり,できる限り早期に深部の壊死(えし)巣を取り除く義務があるというべきである。しかし,A医師は,原告の足の深部における壊死(えし)巣の有無を確認するための検査をしないまま,壊疽(えそ)は深部に変化のない表在性のものと速断し,ヒビテン液による足浴やガーゼでぬぐう処置をしたのみで,深部の壊死(えし)巣の除去(デブリードマン)をしなかったものであり,上記の義務違反がある。(被告は,本件における当時の局所治療としては足浴等で足りると主張するようであるが,被告のとった医療処置が不十分であったことは上記のとおりである。)(2) 転院・入院を勧めるべき義務違反前判示したところからすると, 所治療としては足浴等で足りると主張するようであるが,被告のとった医療処置が不十分であったことは上記のとおりである。)(2) 転院・入院を勧めるべき義務違反前判示したところからすると,原告に対する治療は,足,特にその深部における状態を的確に把握して,厳重に管理するとともに,局所の治療に加え,血糖値の正常化,局所の安静・免荷を必要とし,これを最も有効に行うには,原告の入院による管理と糖尿病の専門医との連携を行うことが最適であったと認められる。 A医師が糖尿病の専門医ではなく外科の専門医であったこと,被告医院は平成8年当時入院治療を行っていなかったことからすれば,A医師は,原告が医療機関を選択するにつき,原告に対し,前判示の糖尿病性壊疽(えそ)の危険性(特に,足部切断に至るおそれがあること)並びに原告の糖尿病性壊疽(えそ)に対する最適な治療体制のある医療機関への転院及び入院の必要性を十分に説明し,これを的確に勧めるべき義務があったというべきである。なぜなら,患者は,受診している医師を信頼して治療を受けるのが通常であり,患者としては,医師から,自己の傷病の状態のほか,最適な治療体制と医師自身の属している医療機関の診療体制について十分な説明を受けなければ,受診する医療機関を選択できないからである。しかし,A医師が原告に入院を勧めたのは1月18日と同月31日の両日にすぎないこと,A医師が1月18日に,原告に対し,血糖値のコントロールのためには入院した方がよいと勧めたものの糖尿病性壊疽(えそ)の危険性や最適な治療体制のとれる医療機関への転院及び入院の必要性を説明しなかったことは,前判示のとおりであり,A医師には転院・入院を的確に勧めるべき義務違反がある。(被告は,糖尿病性壊疽(えそ)において入院治療が必要となるのは,創傷周囲の炎症等壊疽 入院の必要性を説明しなかったことは,前判示のとおりであり,A医師には転院・入院を的確に勧めるべき義務違反がある。(被告は,糖尿病性壊疽(えそ)において入院治療が必要となるのは,創傷周囲の炎症等壊疽(えそ)の症状が進展した場合や,切断等の外科的手術が必要な場合であり,1月30日まではそのような症状が見られなかったし,A医師は,被告医院において,外来で多数の糖尿病患者の内科的治療を行っており,糖尿病の専門的知識や臨床経験には事欠かず,実際に原告の血糖値のコントロールについても相当な成果が上がっていたから,1月30日までは,原告を入院のため転院させるなどの義務違反はないと主張する。しかし,被告が主張する原告の足の状態は,深部の進展度を検査しないまま,表面の状態から判断したものにすぎないこと,糖尿病性壊疽(えそ)の場合,表面的な状態にかかわらず,深部で急激に増悪する可能性があることに照らすと,入院治療をしていなかった被告医院のA医師には,血糖コントロールの成果にかかわらず,症状が急変する危険やこれに対処するためには,入院治療と糖尿病の専門医との連携が可能なしかるべき診療体制の整った医療機関での治療が最適であることを十分に説明すべき義務があるというべきである。したがって,被告の上記主張は採用できない。) 4 争点(2)(上記義務違反と原告の左足関節部切断との間の因果関係)について原告の足の状態が,被告医院通院中,創傷部の表面的な状態の変化の有無にかかわらず,その深部において,壊疽(えそ)ないし感染症がかなり進行していたと推認できることは前判示のとおりである。A医師が,原告の通院中に定期的にX線撮影による検査等により原告の足の深部の感染,炎症等の進展度を検査していれば,これを早期に発見し,深部における壊死(えし)巣の除去(デブリードマン) とおりである。A医師が,原告の通院中に定期的にX線撮影による検査等により原告の足の深部の感染,炎症等の進展度を検査していれば,これを早期に発見し,深部における壊死(えし)巣の除去(デブリードマン)の処置を取るとともに,局所の安静,免荷を徹底して行っていたならば,深部における感染ないし壊疽(えそ)の進行をくい止め,左足関節部の切断を回避することができたと推認するのが相当である。また,A医師が,前判示の糖尿病性壊疽(えそ)の危険性(特に,足部切断に至るおそれがあること)や原告の糖尿病性壊疽(えそ)に対する最適な治療体制のとれる医療機関への転院及び入院の必要性を原告に十分に説明し,これを的確に勧めていれば,原告において入院施設と糖尿病の専門医との連携の可能なしかるべき診療体制の整った医療機関で適切な診療を受け,左足関節部の切断を回避することが可能であったと推認するのが相当である。 よって,前判示3(1)のX線検査等を行い糖尿病性壊疽(えそ)の深部の状況を把握すべき義務違反,局所の安静・免荷を図るように指導すべき義務違反,局所治療において早期に深部の壊死(えし)巣を取り除く義務違反及び同(2)の転院・入院を勧めるべき義務違反と原告の左足関節部切断との間には因果関係がある。 これに対し,被告は,X線検査等を行い糖尿病性壊疽(えそ)の深部の状況を把握すべき義務違反について,検査の結果,多少の骨変化が確認されたとしても,血糖値が200mg/dl以下の状態にならなければ,手術をすることができず,保存的治療を継続せざるを得なかったから,A医師が通院中にX線撮影の検査を行わなかったことと原告の足部切断を余儀なくされたこととの間に因果関係はないと主張する。しかし,A医師は,このような急変に対応できるよう血糖コントロールに当たっては,インスリンを投与すべ 影の検査を行わなかったことと原告の足部切断を余儀なくされたこととの間に因果関係はないと主張する。しかし,A医師は,このような急変に対応できるよう血糖コントロールに当たっては,インスリンを投与すべき義務があることは前判示のとおりであって(そのために入院を要するというのであれば,このことを説明し,転院を促すべきことも前判示のとおりである。),被告主張の事態が生じるとすれば,インスリンを投与すべき義務違反との間に因果関係があるというべきであり,被告の上記主張は採用できない。 また,被告は,原告が足部切断を余儀なくされた原因について,原告が被告医院に来院するまでに長年にわたり食事療法と薬の服用による血糖値の管理を怠っていたこと,被告医院に来院後も,A医師が入院を勧めたり,局所の安静や清潔を保持するよう指導したにもかかわらず,長靴を履いて行商の仕事を続けるなど自己管理を怠っていたことにあるとして,因果関係はないとも主張している。しかし,A医師は,原告の被告医院への来院前までの原告の血糖コントロールが極めて不良であり,その管理がずさんであることを認識し,これを所与のものとして,専門外である糖尿病につき,幡医院に替わって治療行為をしたものであるし,仮に来院前の原告の自己管理が被告主張のとおりであったとしても,A医師が前判示の注意義務を果たしていれば,原告の左足関節部の切断は回避可能であったから,来院前の原告の自己管理のずさんさを理由に因果関係がないという被告の主張は失当といわざるを得ない。また,原告が,被告医院に来院後も,長靴の着用を継続した理由について,A医師が,着用を続ければ,足部切断のおそれがあるとしてその危険性を明確に説明しなかったためと考えられる上,血糖コントロールについては,被告医院に通院中,原告の血糖値が211mg/dlまで下 ついて,A医師が,着用を続ければ,足部切断のおそれがあるとしてその危険性を明確に説明しなかったためと考えられる上,血糖コントロールについては,被告医院に通院中,原告の血糖値が211mg/dlまで下がっており,A医師自身も,通院中,原告が,その指示に従って,血糖降下剤の服用や食事管理をそれなりにしていたことを認める供述をしていること(被告代表者)に照らすと,通院中に原告が自己管理を怠ったとまでは認められないから,被告の上記主張は採用できない。 5 争点(3)(原告の損害及びその額)について(1) 逸失利益 931万2370円前判示第3の1(10)イ及び証拠(甲2,乙2)によれば,原告は,左足関節部の切断手術を受け,「左下肢が健側に比して5センチメートル以上短いもの」として身体障害者5級の認定を受けたことが認められる。自動車損害賠償保障法施行令別表にいう後遺障害等級第5級5号に「1下肢を足関節以上で失ったもの」とあることに照らすと,原告の上記症状は,同6級を下ることはないものと認められる。 そして,証拠(甲14,原告本人)及び弁論の全趣旨から認められる原告の上記切断前後の稼働状況,職業,性別,年齢,家族関係等を総合すれば,原告は,平均余命の2分の1の歳(とし)に達するまで10年間は就労が可能であったと認められる。そして,後遺障害の内容,程度を勘案すると,原告は上記期間中おおむね毎年67パーセントの労働能力を喪失したものと認めるのが相当である。 また,証拠(原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告の平成7年度の所得が180万円を下らないことが認められるから,これを基礎として,ライプニッツ係数により中間利息を控除した現価を算出すると,被告が賠償すべき原告の逸失利益は931万2370 ば,原告の平成7年度の所得が180万円を下らないことが認められるから,これを基礎として,ライプニッツ係数により中間利息を控除した現価を算出すると,被告が賠償すべき原告の逸失利益は931万2370円とするのが相当である。 180万円×0.67×7.7217≒931万2370円(2) 後遺障害慰謝料について 900万円原告の後遺障害の部位,程度,現在の生活上の不便,他方,義肢の使用には徐々に慣れていくものであること(乙2の308ページ)等本件に現れた一切の事情を考慮すれば,後遺障害慰謝料としては,900万円をもって慰謝されると解するのが相当である。 (3) 過失相殺について被告は,被告医院に来院前,通院中及び生協病院受診後における原告の自己管理の欠如をもって,過失相殺の対象ないし損害額の減額事由となると主張しているとも解されるが,このうち,被告医院来院前及び通院中に関する主張が失当であることは,前判示第3の4と同様である。 しかし,原告は,生協病院受診後の2月8日には下腿(かたい)部にもはれが著明になるなど被告医院への通院時に比べ感染の進展が見られること,生協病院における左足関節切断が3月4日になった原因には,原告が生協病院に入院し,血糖コントロールに関する教育を受けたにもかかわらず,あんパンを食べるなどしたために原告の血糖値が下がらなかった点もあることに照らすと,被告医院が関与し得ない生協病院における原告の自己管理の欠如により切断範囲が拡大したというべきである。したがって,生協病院における原告の自己管理の欠如は,原告の損害賠償額の算定に当たり,公平の観点から,過失相殺における過失として,斟酌するべきであり,前判示のとおり生協病院では,2月1日の時点で,最低でも中足部での 院における原告の自己管理の欠如は,原告の損害賠償額の算定に当たり,公平の観点から,過失相殺における過失として,斟酌するべきであり,前判示のとおり生協病院では,2月1日の時点で,最低でも中足部での切除が必要としていたことに照らすと,原告の過失による切断部分の拡大を2割とみて,損害額を算定するのが相当である。 (4) 以上の(1)及び(2)の損害額に前項の割合による過失相殺をすると,その合計額は,1464万9896円となる。 (5) 弁護士費用について原告が訴訟代理人に本件訴訟の追行を委任していることは本件記録上明らかであり,本件訴訟の難易,認容額等一切の事情を総合すると,被告の債務不履行と相当因果関係にある損害としての弁護士費用は,140万円と認めるのが相当である。 (6) よって,原告の損害額は,合計で1604万9896円となる。 第4 結論以上によれば,本訴請求は,1604万9896円及びこれに対する平成11年1月14日(原告は,最終診療日の翌日である平成8年2月1日からの遅延損害金を請求している。しかし,原告の本訴請求は,診療契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求であり,これは期限の定めのない債務であるから,被告は,履行の請求を受けたときから,すなわち本件においては訴状送達の日の翌日である平成11年1月14日から遅滞に陥ることになる。)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 松江地方裁判所民事部裁判長裁判官横山光雄 裁 仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 松江地方裁判所民事部裁判長裁判官横山光雄 裁判官遠藤浩太郎 裁判官西田政博

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