平成21(わ)172 現住建造物等放火

裁判年月日・裁判所
平成21年12月18日 長崎地方裁判所
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判決文本文2,171 文字)

- 1 -主文被告人を懲役5年に処する。 未決勾留日数中70日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,長崎市a丁目b番所在のA所有のdアパートe棟(鉄筋コンクリート6階建て,延べ床面積約2375平方メートル)の6階601号室に居住していたものであるが,自分の将来を悲観して,この棟に放火して自殺しようと考え,平成21年7月2日午後5時10分ころ,Bほか67名が現に住居に使用するこの棟の,,601号室居間においてポリタンクに入れた灯油約6リットルを床面にまいた上ライターで広告紙に点火し,これを上記床面に落として火を放ち,その火を601号室の壁,天井等に燃え移らせ,よって,この棟の601号室部分(床面積約54平方メートル)を全焼させ,もって現に人が住居に使用する建造物を焼損したものである。 (法令の適用)罰条刑法108条刑種の選択有期懲役刑未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由) 本件は,被告人が,自分の将来を悲観して,焼身自殺をしようと,6階建てアパートの6階にある自室に灯油をまいた上,ライターで広告紙に点火し,これを床面に落として,このアパートに放火し,その結果,自室を全焼させた現住建造物等放火の事案である。 検察官は,本件犯行の危険性,損害の大きさ,被害感情の厳しさ,身勝手な犯行動機などを理由に懲役6年の刑を求めた。これに対し,弁護人は,死傷者が出- 2 -ず延焼がなかったこと,動機に同情の余地があること,再犯のおそれがないことなどを被告人に有利に考慮すべきであると指摘して,執行猶予を求めた。 2(1)まず,被告人の本件犯行のやり方,結果,動機について検討する。 被告人が放火したのは6階建てのアパートであり,このアパートは被告人の所有ではな 考慮すべきであると指摘して,執行猶予を求めた。 2(1)まず,被告人の本件犯行のやり方,結果,動機について検討する。 被告人が放火したのは6階建てのアパートであり,このアパートは被告人の所有ではなく,Aの所有物である。このアパートには被告人を除くと本件犯行当時29世帯計68人もの多数の人が居住しており,現に犯行時刻には,このアパートの中には35人の人がいた。さらに,本件アパートには渡り廊下でつながった別棟のアパートがあった。被告人は,大量の灯油を自室の床面にまいた上で放火しており,このような大量の灯油をまくことで火の勢いが格段に増すことは常識的に明らかである。実際にも本件火災の鎮火には1時間半がかかった。そうすると,本件アパートへの放火という被告人の行為は,多くの人の生命身体に害が及ぶおそれや隣の建物への延焼のおそれを伴う非常に危険性の高いものであったと評価される。たまたま,このような危険が現実化しなかったにすぎない。被告人も,本件犯行前,市役所の職員に自制を求められたり,階下の住民に危険を感じたら避難するように言っており,本件犯行の危険性の大きさを十分認識していた。 本件犯行の結果,被告人の自室は全焼し,隣室の雨どいや網戸が焼けた他,6階の廊下や外壁には多量の黒い煤が付き,階下の2部屋及びエレベーターは消火活動のため水損した。本件火災による損害の見積額は約1400万円と高額である。本件犯行による財産的被害は大きい。また,本件火災により,本件アパートにいた住民の大部分が避難しており,同人らの感じた恐怖は大きいものであったと推察できる。階下の住民は,被告人の厳重処罰を求めているところ,かねて同人が被告人に良い感情を抱いていなかったことを踏まえても,受けた被害からすれば当然のことというべきである。 被告人が母を亡くした喪失感や将来への不安 民は,被告人の厳重処罰を求めているところ,かねて同人が被告人に良い感情を抱いていなかったことを踏まえても,受けた被害からすれば当然のことというべきである。 被告人が母を亡くした喪失感や将来への不安感等から焼身自殺をしようとしたことについては同情の余地はあるが,周囲の危険や迷惑を顧みず放火という- 3 -危険性の高い行為によりこれを実行しようとしたことについては,身勝手であり,正当化されるものではない。 (2)次に,被告人の刑を決めるに当たり考慮すべきその他の事情について検討する。 法廷の態度からして深まりには疑問があるが,反省はしていると認められること,期待できることには自ずと限界があるとはいえ,友人が被告人のために出廷してその立ち直りへの協力を申し出てくれたこと,前科がないことは,被告人の更生に役立つ事情である。なお,確かに,被告人について,社会復帰の環境が整備されているとはいえないが,そのことが,被告人の再犯に結びつくとは認められない。 (3)以上によれば,被告人の刑事責任は重大であり,犯した罪の内容を考えると(2)で指摘した事情を考慮しても,本件は刑の執行を猶予すべき事案,ではない。これまでの量刑傾向をも参考にした結果,被告人を主文の実刑に処するのが相当である。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役6年)平成21年12月18日長崎地方裁判所刑事部裁判長裁判官松尾嘉倫裁判官内藤恵美子- 4 -裁判官佐伯良子

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