主文 1 山陽小野田市福祉事務所長が原告に対して平成29年8月22日付けでした保護廃止処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文と同旨第2 事案の概要 1 本件は、生活保護を受けていた原告が、山陽小野田市福祉事務所長(以下「処分行政庁」という。)から、同居する原告の二男が就労収入を得ていたことを 知りながら、指導指示に違反してこれを申告しなかったとして、生活保護廃止処分(以下「本件処分」という。)を受けたのに対し、本件処分の取消しを求める事案である。 2 法令の定め等⑴ 生活保護法(以下「法」という。)の定め ア法の基本原理法は、日本国憲法25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮する全ての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とし(1条)、全て国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による 保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができ(2条)、この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない(3条)としている。 また、保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件 として行われ、民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助 は、全てこの法律による保護に優先して行われるが、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない(4条)。 イ保護の原則保護は、要保護者(保護を必要とする状態にある者)等の申請に基づい よる保護に優先して行われるが、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない(4条)。 イ保護の原則保護は、要保護者(保護を必要とする状態にある者)等の申請に基づいて開始するが、要保護者が急迫した状況にあるときは、保護の申請がなく ても、必要な保護を行うことができる(7条、6条2項)。 保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行われ、この基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限 度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これを超えないものでなければならない(8条)。また、保護は、要保護者の年齢別、性別、健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して、有効かつ適切に行うものとし、世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとするが、これにより難いときは、個人を単位として定めることができる(9 条、10条)。 ウ保護の停止及び廃止保護の実施機関は、被保護者(現に保護を受けている者)が保護を必要としなくなったときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定し、書面をもって、これを被保護者に通知しなければならず、28条5項又は62条 3項の規定により保護の停止又は廃止をするときも、同様である(26条、6条1項)。 エ指導及び指示保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる(27条1項)。 オ報告等 保護の実施機関は、保護の決定又は実施等のため必要があると認めるときは、要保護者の資産及び収入の状況 達成に必要な指導又は指示をすることができる(27条1項)。 オ報告等 保護の実施機関は、保護の決定又は実施等のため必要があると認めるときは、要保護者の資産及び収入の状況、健康状態その他の事項を調査するために、厚生労働省令で定めるところにより、当該要保護者に対して、報告を求めるなどすることができ、要保護者が当該報告をせず、又は、虚偽の報告をしたときは、保護の開始若しくは変更の申請を却下し、又は保護 の変更、停止若しくは廃止をすることができる(28条1項、5項)。 カ被保護者の義務 届出の義務被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があったとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があったときは、速やかに、保護 の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない(61条)。 指導指示に従う義務被保護者は、保護の実施機関が、27条の規定により、被保護者に対し、必要な指導又は指示をしたときは、これに従わなければならず、保 護の実施機関は、被保護者が当該指導指示に従う義務に違反したときは、保護の変更、停止又は廃止をすることができる(62条1項、3項)。 この場合、保護の実施機関は、当該被保護者に対し、あらかじめ当該処分をしようとする理由、弁明をすべき日時及び場所を通知した上で、弁明の機会を与えなければならない(62条4項)。 費用返還義務被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、速やかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない(63条)。 キ費用の徴収 用を支弁した都道府県又は市町村に対して、速やかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない(63条)。 キ費用の徴収 不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる(78条1項)。 ⑵ 処理基準保護の処理基準(地方自治法245条の9第1項及び第3項の規定による処理基準)としては、「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」(昭和38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通知)が定められており、被保護者が書面による法27条の規定による指導指示に従わない場 合の取扱いの基準に関し、以下の定めが置かれている。 「被保護者が書面による指導指示に従わない場合には、必要と認められるときは、法62条の規定により、所定の手続を経たうえ、保護の変更、停止又は廃止を行なうこととなるが、当該要保護者の状況によりなお効果が期待されるときは、これらの処分を行なうに先立ち、再度、法27条により書面 による指導指示を行なうこと。なお、この場合において、保護の変更、停止又は廃止のうちいずれを適用するかについては、次の基準によること。 1 当該指導指示の内容が比較的軽微な場合は、その実情に応じて適当と認められる限度で保護の変更を行なうこと。 2 1によることが適当でない場合は保護を停止することとし、当該被保護 者が指導指示に従ったとき、又は事情の変更により指導指示を必要とした事由がなくなったときは、停止を解除する こと。 2 1によることが適当でない場合は保護を停止することとし、当該被保護 者が指導指示に従ったとき、又は事情の変更により指導指示を必要とした事由がなくなったときは、停止を解除すること。 なお、保護を停止した後においても引き続き指導指示に従わないでいる場合には、さらに書面による指導指示を行なうこととし、これによってもなお従わない場合は、法62条の規定により所定の手続を経たうえ、保護 を廃止すること。 3 2の規定にかかわらず、次のいずれかに該当する場合は保護を廃止すること。 ⑴ 最近1年以内において当該指導指示違反のほかに、文書による指導指示に対する違反、立入調査拒否若しくは検診命令違反があったとき。 ⑵ 法78条により費用徴収の対象となるべき事実について以後改めるよ う指導指示したにもかかわらず、これに従わなかったとき。 ⑶ 保護の停止を行なうことによっては当該指導指示に従わせることが著しく困難であると認められるとき。 なお、1から3に掲げる保護の変更、停止又は廃止は、当該処分を行なうことを実際に決定した日から適用することを原則とするが、あらかじめ履行 の期限を定めて指導指示を行なった場合にはその指定期限の翌日まで遡及して適用して差しつかえない。」(甲12〔484、485頁〕) 3 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) ⑴ 当事者等ア山陽小野田市福祉事務所は、社会福祉法14条1項に基づき山口県山陽小野田市が設置した福祉に関する事務所であり、山陽小野田市福祉事務所長(処分行政庁)は、法19条4項等の規定により、山陽小野田 ア山陽小野田市福祉事務所は、社会福祉法14条1項に基づき山口県山陽小野田市が設置した福祉に関する事務所であり、山陽小野田市福祉事務所長(処分行政庁)は、法19条4項等の規定により、山陽小野田市長(実施機関)から保護の決定及び実施に関する事務の委任を受けている。 イ原告(昭和▲年▲月▲日生)は、平成11年7月28日に長男A(平成▲年▲月▲日生。以下「長男」という。)、長女B(平成▲年▲月▲日生。以下「長女」という。)及び二男C(平成▲年▲月▲日生。以下「二男」という。)の親権者を原告と定めて前夫と離婚したが、前夫からの仕送り収入が途絶えたため、平成12年10月25日以降、処分行 政庁から生活保護を受けるようになった(甲1、2、10、11、30)。 その後、平成26年5月1日に長男及び長女が原告宅から転出し、同日頃から平成29年5月1日に二男が転出するまでは、原告と二男が原告宅で同居していた(甲1、30、乙19)。 なお、原告は、前夫からいわゆるDV被害を受けていたことによりうつ病等を発症し、また、平成21年頃には乳がんに罹患するなど、上記 離婚後現在に至るまで治療や検査のため定期的な通院を余儀なくされ、無職の状態が続いている(甲2、30)。 ⑵ 長男の就労収入に係る措置原告は、平成27年3月17日、処分行政庁から、平成26年5月1日まで同居していた長男に係る平成22年から平成26年までの就労収入(38 0万9509円)が無申告であるとして、法78条1項に基づく費用徴収決定(徴収金額380万9509円)を受け、その後、原告の申出に基づき、平成28年1月から分割返納する(実際には毎月支給される保護費からの天引きによる)こととされた(乙10、17、18、22)。 ⑶ 二男 額380万9509円)を受け、その後、原告の申出に基づき、平成28年1月から分割返納する(実際には毎月支給される保護費からの天引きによる)こととされた(乙10、17、18、22)。 ⑶ 二男の就労収入に係る措置 ア二男は、平成27年3月に専修学校の高等課程を中退して同年4月からは高等学校の通信制課程に通うようになったが、平成28年7月頃の課税調査により、二男が平成27年中に、株式会社Dが経営するスーパーマーケットであるE小野田店(以下「E」という。)での就労により6万6750円(①)、コンビニエンスストアF(以下「F」という。)での就労 により23万0560円(②)の各給与収入を得ていたことが判明した。 そこで、処分行政庁が原告に対し、二男の就労について確認を求めたところ、平成28年7月に株式会社G(以下「G」という。)での就労により2万9936円(③)の給与収入を得たことも判明した。(甲2、30、32) なお、二男は、実際には同年5月にH株式会社(以下「H」という。) でも就労し収入を得ていたが、そのことを原告や山陽小野田市福祉事務所の担当職員ら(以下、山陽小野田市福祉事務所の原告を担当する職員らを「担当職員ら」という。)に伝えなかった(甲2、32)。 イ処分行政庁は、平成28年11月24日、ケース診断会議で検討した上で、原告に対し、二男の上記就労に係る平成27年分及び平成28年7月 分の就労収入(上記①~③の合計額である32万7246円)が無申告であるとして、法78条1項に基づく費用徴収決定(徴収金額32万7246円)をするとともに、今後の収入の申告について「指導指示書」により指導指示を行うこととし、その後、原告の申出に基づき、上記徴収金額につき、平成29年1月から分割返 用徴収決定(徴収金額32万7246円)をするとともに、今後の収入の申告について「指導指示書」により指導指示を行うこととし、その後、原告の申出に基づき、上記徴収金額につき、平成29年1月から分割返納する(実際には毎月支給される保護費 からの天引きによる)こととされた(甲2~4、乙22、23、26)。 なお、二男は、平成28年11月25日に担当職員らから今後は収入を速やかに申告するよう指導された際、同年10月頃から株式会社I(以下「I」という。)で就労し収入を得ていたにもかかわらず、そのことを担当職員らに伝えなかった(甲5、32)。 ウその後、二男は、平成29年5月1日まで原告と同居していたが、同年7月頃の課税調査により、二男が平成28年中に、Fでの就労により5万5519円(④)、Hでの就労により4万6500円(⑤)、Iでの就労により24万0900円(⑥)の各給与収入を得ていたことが判明した(甲1、5)。 エ原告は、平成29年8月3日、処分行政庁から、二男の上記就労に係る平成28年分の就労収入が無申告であるとして、法78条1項に基づく費用徴収決定(徴収金額34万1932円(上記④~⑥の合計額34万2919円から社会保険料等987円を控除した額))を受けた(甲1〔11~13頁〕、5、6)。 また、処分行政庁は、上記費用徴収決定に先立つ平成29年8月2日、 ケース診断会議を開催し、原告の指導指示違反については、聴聞会を開き、弁明の機会を付与した上で最終的な取扱い(保護の廃止)を決定することとした(甲1〔13頁〕、5、7)。 ⑷ 生活保護廃止等ア処分行政庁は、平成29年8月18日、原告に対する法62条4項に基 づく弁明の機会として聴聞会を開催し することとした(甲1〔13頁〕、5、7)。 ⑷ 生活保護廃止等ア処分行政庁は、平成29年8月18日、原告に対する法62条4項に基 づく弁明の機会として聴聞会を開催したところ、これに出席した原告は二男の就労を知らなかった旨述べた。これを受けて処分行政庁は、原告の世帯では不正受給が繰り返されており、原告が重大な指導指示違反をしたものと認め、保護の廃止が相当であると判断した。(甲1〔13、14頁〕、7、30) イ処分行政庁は、同月22日、法62条3項に基づき、同年9月1日をもって原告に対する生活保護を廃止する旨の決定(本件処分)をした(甲8)。 ウ担当職員らは、同年8月24日に原告宅を訪問し、原告に対し、聴聞会の後に検討した結果、同人の指導指示違反が重大であるため本件処分をした旨説明した(甲1〔14頁〕)。 ⑸ 本件訴訟に至る経緯等ア原告は、平成29年9月3日付けで、本件処分を不服として、山口県知事に対して審査請求をしたが、同知事は、平成30年5月14日、同審査請求を棄却する旨の裁決をし、同裁決書は同月16日に原告に到達した(甲20、弁論の全趣旨)。 原告は、平成30年11月16日、本件訴訟を提起した(顕著な事実)。 イ原告は、平成29年10月6日、生活が困窮していることを理由に、原告訴訟代理人同席の下、処分行政庁に対し、生活保護を再申請し、処分行政庁は、同月20日、原告の世帯に対する同月6日からの保護を開始する旨決定した(乙2、3)。 4 争点及び当事者の主張の要旨 争点は、本件処分の適法性であり、具体的には、本件処分に下記⑴~⑷の違法事由が認められるか否かである。 ⑴ 裁量権の逸脱又は濫用があったか否か(主位 争点及び当事者の主張の要旨 争点は、本件処分の適法性であり、具体的には、本件処分に下記⑴~⑷の違法事由が認められるか否かである。 ⑴ 裁量権の逸脱又は濫用があったか否か(主位的主張)ア原告の主張保護の廃止が生存権の全面的剥奪という強力な効果を持つことからする と、裁量権の逸脱又は濫用が認められるか否かについては、被保護者の違反が、これを放置すれば適正な保護行政を達成することができない程度に重大な場合に限って保護の廃止が許され、それに至らない軽微な違反については保護の変更又は停止にとどめるべきである(比例原則)。そして、違反が重大であるというためには、被保護者の義務違反の重大性(客観的 要素)のみならず、被保護者の義務違反に故意又は重過失があること(主観的要素)を要する。また、その判断に際しては、保護廃止の時点における保護の必要性(保護の必要性がある限り、原則として保護の廃止は許されない。)に加え、保護廃止の理由が同時点で解消されているかどうか(解消されている場合には保護の相当性が認められ、保護を廃止すべきではな い。)といった点も考慮されるべきである。 ところが、本件処分については、以下の点で、考慮すべき事項が適切に調査・考慮されることなく罰としてされたものであるといわざるを得ないから、裁量権の逸脱又は濫用が認められる。 本件処分の理由となった原告による二男の就労収入の無申告について は、原告は、二男が原告に就労収入があることを隠していたことからこれを知らなかった。この点、処分行政庁は、原告が二男に小遣いを与えていない以上、二男の就労収入があったことを容易に知り得たはずであると決めつけ、二男への事情聴取すらすることなく保護廃止を決定しており、原告の主観的要素を 点、処分行政庁は、原告が二男に小遣いを与えていない以上、二男の就労収入があったことを容易に知り得たはずであると決めつけ、二男への事情聴取すらすることなく保護廃止を決定しており、原告の主観的要素を全く調査・考慮していない。 精神疾患等を有する原告において、就労収入があることを隠している 二男の行動を把握することは困難であったが、原告としても、二男が就職活動を行っていたことは認識しており、そのことは担当職員らにも報告していた。また、原告は、二男の就職先に提出する未成年者同意書や履歴書の親権者又は保護者が作成すべき欄を記入することもあったが、二男からは、実際には就職しなかったとの報告を受けていた。 二男は、担当職員らから、就労収入を得ていても各種控除や技能習得費等の制度によって収入認定されない場合があることの説明を受けなかったため、原告に対し就労収入があることを隠したが、これらの説明を適切に受けていれば、隠すことはなかったはずであり、原告の義務違反の重大性を判断するに際しては、二男が原告に対し就労を隠すに至った 経緯についても考慮されるべきである。 原告は、親族からの扶養等を見込めず、自身も精神疾患等により働けないため約17年もの長期間生活保護を受給していたのであるから、本件処分の時点において、保護が廃止されればその生活が成り立たなくなることは明らかであった。本件処分に際しては、このような原告の保護 の必要性について十分考慮されていなかった(担当職員らが原告に本件処分後に再度の保護申請が可能であることを教示し、これを促すこともなかった。)。 本件処分以前に二男が原告宅から転出したことで、以後は同様の就労収入の発生及び無申告は起こり得ないため、本件処分の時点において、 請が可能であることを教示し、これを促すこともなかった。)。 本件処分以前に二男が原告宅から転出したことで、以後は同様の就労収入の発生及び無申告は起こり得ないため、本件処分の時点において、 もはや、保護廃止の理由は解消していたというべきである(したがって、原告には保護の相当性も認められ、保護を廃止すべきではないこととなる。)。 イ被告の主張以下の事情に照らし、本件処分に裁量権の逸脱又は濫用はない。 成年世帯主が、自ら扶養している未成年世帯員の就労収入やその発生 原因(就労の事実)を知らないということは、未成年世帯員が成年世帯主に対し、社会生活上、法的あるいは経済的に依存していることからして通常あり得ない。したがって、成年世帯主が扶養する未成年世帯員が就労収入を得た場合には、特段の事情がない限り、就労収入を得た事実や就労の事実について、成年世帯主は知っていたものと推認すべきであ る(この推認には、覚醒剤の自己使用事案において、体内から覚醒剤成分が検出された場合には、特段の事情がない限り、自己の意思に基づき覚醒剤を使用したことが推認されるのと同程度の推認力がある。)。 原告は、世帯主として、二男が原告から手渡されるお金だけでは必要な支出を賄えないことを容易に認識し得たはずである。その上で、原告 は、平成27年7月29日、担当職員らに対し、二男がアルバイトを探している旨話していたのであるから、その後、二男がアルバイトをして収入を得ることを認識・承諾していたというべきである。 また、本件訴訟提起後の調査等により、原告がH宛ての未成年者同意書(乙8)やIに提出された履歴書(乙9)の親権者又は保護者が作成 すべき欄を記入していたこと、上記未成年者同意書を原告自らH また、本件訴訟提起後の調査等により、原告がH宛ての未成年者同意書(乙8)やIに提出された履歴書(乙9)の親権者又は保護者が作成 すべき欄を記入していたこと、上記未成年者同意書を原告自らHの代表者に手渡したこと、同代表者が平成28年6月26日に原告宅を訪問していたことなども発覚しており、これらの事情からも、原告が二男の就労を知っていたものといえる。 以上によれば、原告は、平成29年7月28日、担当職員らに対し、 二男の就労の事実を知っていたにもかかわらず、二男は就労していないはずである旨の虚偽の回答をしたことになる。 原告に対しては、平成27年における長男の就労収入に関する費用徴収決定及び平成28年における二男の就労収入に関する費用徴収決定がされており、これらに際してそれぞれ文書指示もされ、担当職員らから も子らがアルバイトを始めた場合には収入として申告しなければ保護の 廃止もあり得る旨が伝えられていた。それにもかかわらず、原告は、その後も二男の就労収入について申告せず、さらに、平成29年における二男の就労収入に関する費用徴収決定(金額も多額である。)を受けるに至ったのであるから、原告の世帯では就労無申告が常態化し改善の兆しがなかったというべきであり、行政処分庁としては指導指示違反の程 度が重大で悪質な事案であると判断したものである。 そうすると、指導指示違反の程度が重大・悪質な場合には、法秩序維持の観点から、仮に保護の必要性(保護の廃止により当該被保護者が生活困窮に陥ること)が認められたとしても保護を廃止すべきであり、保護廃止の理由が解消されていること(同様の違反が再びされる可能性が ないこと)は、過去の指導指示違反に対する処分である以上、重視すべき事情とはなら 認められたとしても保護を廃止すべきであり、保護廃止の理由が解消されていること(同様の違反が再びされる可能性が ないこと)は、過去の指導指示違反に対する処分である以上、重視すべき事情とはならない。 なお、保護の必要性や同様の違反が再びされる可能性は、保護廃止後に再度生活保護の申請があった際に、保護を開始すべきか否かの判断に当たって考慮されるべきことであり、実際、原告に対しても、保護の再 申請を受けて、開始決定がされている。 ⑵ 書面による指導指示違反(法62条3項)の有無(予備的主張①)ア原告の主張生活保護法施行規則19条は、「法62条3項に規定する保護の実施機関の権限は、法27条1項の規定により保護の実施機関が書面によって行 った指導又は指示に、被保護者が従わなかった場合でなければ行使してはならない」旨定めるところ、原告は、本件処分に先立ち、書面による指導指示を受けていないから、指導指示違反を理由に保護の廃止(法62条3項)をすることはできない。 被告は、指導指示書を交付した旨主張するが、「生活保護行政を適正に 運営するための手引について」(平成18年3月30日社援保発第033 0001号厚生労働省社会・援護局保護課長通知。甲13〔772、773頁〕)に、指導指示書は、被保護者に読み聞かせる等十分に説明した上手交し、受取証に署名等させる旨が定められているのに、被告が交付したと主張する指導指示書に係る受取証は作成されていない。 イ被告の主張 担当職員らは、平成28年11月25日、原告宅を訪問して、原告及び二男に対し、法78条に基づく費用徴収決定に係る通知書(甲3)、同月24日付け指導指示書(甲4)等を交付した。 ⑶ 報告義務違反(法28条5項)の有無(予備的主 5日、原告宅を訪問して、原告及び二男に対し、法78条に基づく費用徴収決定に係る通知書(甲3)、同月24日付け指導指示書(甲4)等を交付した。 ⑶ 報告義務違反(法28条5項)の有無(予備的主張②)ア原告の主張 被告は、原告が平成28年11月25日の担当職員らの訪問時に二男のIでの就労を報告せず、平成29年7月28日の担当職員らの訪問時に二男が平成28年中に仕事をしていないはずである旨虚偽の報告をしたと主張するが、ケース記録には法28条1項の報告要求をしたことが記載されておらず(したがって、法28条1項の報告要求があったかどうかが不明 である。)、原告は二男の就労を知らなかったのであるから、必要な報告をせず、あるいは虚偽の報告をするとの認識(故意)がなく、報告義務違反の事実は認められない。加えて、そもそも、報告要求は「厚生労働省令で定めるところにより」行われるべきところ、当該厚生労働省令はいまだ制定されておらず、処分要件が定められていないから、同条違反を理由に 保護を廃止することはおよそ認められない。 イ被告の主張原告は、担当職員らから、二男がアルバイトを始めた場合には収入等を申告するよう再三指導されていたにもかかわらず、二男の就労を知った上で、平成28年11月25日の担当職員らの訪問時に当時就労中であった Iでの就労を報告せず、平成29年7月28日の担当職員らの訪問時にも、 二男は平成28年中に仕事をしていないはずである旨虚偽の報告をしたから、報告義務違反(法28条5項)が認められる。 ⑷ 本件処分の理由不備の有無(予備的主張③)ア原告の主張指導指示違反(法62条3項)や報告義務違反(法28条5項)を理由 に保護を廃止する場合、書面により廃止の理由を示 れる。 ⑷ 本件処分の理由不備の有無(予備的主張③)ア原告の主張指導指示違反(法62条3項)や報告義務違反(法28条5項)を理由 に保護を廃止する場合、書面により廃止の理由を示す必要があるが(法62条5項、29条の2、行政手続法14条1項、3項)、本件処分の通知書(甲8)の「廃止・停止の理由」欄には、「法第62条第3項により本ケースを廃止します。」と根拠条文しか記載されず、原告がいつ行われた指導指示ないし報告の求めに対し、それぞれどのような態様で違反したの か、なにゆえ保護の廃止を選択したのか等に係る記載が全くないところ、このような理由の記載は、処分行政庁の恣意抑制や原告の不服申立ての便宜等に資するものとは到底いえないから、本件処分には理由不備の違法がある。 イ被告の主張 前記⑴イのとおり、本件処分は、あらかじめ行われた書面による指導指示に違反した原告に対し、不正受給という事案の重大性、悪質性に照らして(保護の廃止が)選択されたものであって、処分要件は、制度上必然的に被処分者に明示され、不正受給を行った本人である原告に容易に理解され得るから、指導指示違反であること(根拠条文)のみを処分の理由とし て記載した本件処分に理由不備の違法はない。 第3 当裁判所の判断 1 本件処分に至る処分行政庁の判断過程の概要原告の生活保護に係るケース記録(甲1、乙1、18、19、29、30)、ケース診断会議検討票(甲2、5、乙14)、費用徴収決定通知書(甲3、6、 乙10)、証人J及び証人Kの各証言並びにK作成の陳述書(乙37)中の記載 によれば、本件処分に至る処分行政庁の判断過程は、概ね以下のとおりと認められる。 ⑴ 就労収入の無申告等ア長男の就労収入に係 各証言並びにK作成の陳述書(乙37)中の記載 によれば、本件処分に至る処分行政庁の判断過程は、概ね以下のとおりと認められる。 ⑴ 就労収入の無申告等ア長男の就労収入に係る無申告平成27年3月、平成22年ないし平成26年の長男に就労収入があっ たことが発覚し、原告に対し、法78条に基づく費用徴収決定(徴収金額380万9509円)及び収入の申告について書面による指導指示がされた。 イ二男の就労収入に係る無申告等 平成28年7月時点までに、二男は、E、F、G及びHで就労収入を 得ていたが、同月頃の課税調査で発覚したのはE及びF(平成27年分のみ)であり、同月以降、担当職員らに指示されて原告が二男に確認した結果、Gでの就労の事実が確認され、判明したこれらの各就労収入について、平成28年11月、原告に対し、法78条に基づく費用徴収決定(徴収金額32万7246円)及び収入の申告について書面による指 導指示がされた。 前記の費用徴収決定までの間、担当職員らは、二男が、F(平成28年1月分)及びHで就労収入を得ていたこと並びに現にIで就労収入を得ていることを把握しておらず、これらは、平成29年7月頃の課税調査で発覚し、平成29年8月3日、原告に対し、法78条に基づく費 用徴収決定(徴収金額34万1932円)がされた。 二男は、平成29年5月1日に原告宅から転出していたが、平成29年分の就労収入の有無は不明であり、翌年の課税調査の結果、これが発覚する可能性もあった。 ウ原告に対する指導指示等 原告は、平成27年3月に長男の就労収入に係る費用徴収決定を受けて から、平成29年7月頃の課税調査により二男の就労収入が発覚 する可能性もあった。 ウ原告に対する指導指示等 原告は、平成27年3月に長男の就労収入に係る費用徴収決定を受けて から、平成29年7月頃の課税調査により二男の就労収入が発覚するまでの間、担当職員らから、世帯員の就労収入が判明した場合には申告する必要があること、無申告により保護が廃止されることもあること等を何度も知らされていた。 ⑵ 原告の二男の就労収入に対する認識 原告は、聴聞会に出席し、二男の就労を知らなかった旨弁明したが、一般的な世帯では、同じ生活空間で長時間過ごすなか、未成年者がアルバイト等を始めれば、生活リズムの変化や家族間での会話等から成年世帯主が就労の事実を知る機会が多くあり、しかも、未成年者の就労に親権者が関与しないことは通常あり得ない上に、原告には、長男及び二男の就労収入に係る無申 告に対し指導指示を受ける等した経緯もあり(前記⑴ア~ウ)、収入の申告義務や世帯員の収入の把握に努めるべきことを認識していたはずであるから、原告の上記弁明はおよそ信用できず、二男の就労に関する原告の認識をさらに調査するまでもなく、原告は二男の就労(前記⑴イ)を知っていたと認められる(乙37、証人J19~22、28、29、31頁、証人K4、1 5頁)。 ⑶ 原告の生活保護の必要性(再申請により保護が開始される可能性)原告は、一旦生活保護を廃止しても、再申請により保護が開始される生活状況にある(証人J31頁、証人K5、6、19頁)。 ⑷ 判断 原告の世帯では不正受給が繰り返されており、原告が二男の就労収入を知りつつ、知らなかったと偽って指導指示違反をしたという事案の重大性に鑑み、保護の廃止が相当である。 2 争点⑴(裁量権の逸脱又は濫用があったか否か(主位的 繰り返されており、原告が二男の就労収入を知りつつ、知らなかったと偽って指導指示違反をしたという事案の重大性に鑑み、保護の廃止が相当である。 2 争点⑴(裁量権の逸脱又は濫用があったか否か(主位的主張))について⑴ 判断枠組み 法62条3項は、被保護者が指導指示に従う義務に違反したときは「保護 の変更、停止又は廃止をすることができる」と規定しており、法は、実施機関に対し、処分をするか、するとしていかなる処分をするかについて、裁量を与えたものと解されるところ、上記処分は、いずれも被保護者の権利利益に重大な影響を及ぼし得るものであって、とりわけ保護の廃止は、継続している保護の効果を将来に向かって剥奪する重い処分であるから、処分行政庁 が裁量権の行使としてした処分が、当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず、その結果、社会通念に照らし著しく妥当を欠く場合には、当該処分は、裁量権を逸脱又は濫用するものとして違法となるというべきである。 そして、前記第2の2⑴ア、イのとおり、①法は、全て国民が要件を満たす限り、無差別平等に保護を受けることができ(法2条)、全ての国民に対 しその最低限の生活を保護すべく、「急迫した事由がある場合」又は「急迫した状況にあるとき」には、扶養義務者等の有無や申請の有無にかかわらず、要保護者に対して必要な保護が与えられるべきである(法1条、4条、7条。 ちなみに、地方自治法上の処理基準(前記第2の2⑵。以下、単に「処理基準」という。)においては、被保護者が保護を辞退する場合にさえ、保護の 廃止により直ちに急迫した状況に陥ることのないよう留意すべきとされる(甲12〔481、482頁〕)。)と定めていることや、②処理基準において、指導指示違反により保護を廃止すべき場合として「保護の停止を 止により直ちに急迫した状況に陥ることのないよう留意すべきとされる(甲12〔481、482頁〕)。)と定めていることや、②処理基準において、指導指示違反により保護を廃止すべき場合として「保護の停止を行なうことによっては当該指導指示に従わせることが著しく困難であると認められるとき」が挙げられるなど、「廃止」に先立って「停止」を検討すべきと の基準が示されていること(前記第2の2⑵)などに照らせば、指導指示違反を理由とする保護の廃止に際しては、指導指示の内容の相当性や指導指示違反に至る経緯、指導指示違反の重大性・悪質性のみならず、将来において指導指示事項が履行される可能性、保護の「停止」を経ることなく直ちに保護を「廃止」する必要性・緊急性、保護の廃止がもたらす被保護世帯の生活 の困窮の程度等を総合考慮すべきと解される。 また、指導指示違反に至る経緯や指導指示違反の重大性・悪質性を判断する前提としては、被保護者が当該指導指示違反の認識を有していたかどうかについても、当然、把握・考慮されるべきこととなる。 ⑵ 検討ア指導指示違反に至る経緯、指導指示違反の重大性・悪質性について 本件では、処分行政庁は、前記1のとおり、一般的な世帯においては親権者が未成年者の就労を知る機会が多く、知っていて当然であることや、原告の世帯において収入無申告とこれに対する指導指示等が繰り返されていたことのみを検討材料として、原告は二男の就労を知りつつ、知らなかったと偽ったと判断し、それ以上調査をしなかった。 しかし、一般に、親権者である世帯主が同居の未成年者の就労の事実を認識し得るか否かは、当該世帯の家庭環境(世帯構成や住居の間取り、各人の生活リズムや会話の在り方、親権者の健康状態、未成年者の生活費の支出 、一般に、親権者である世帯主が同居の未成年者の就労の事実を認識し得るか否かは、当該世帯の家庭環境(世帯構成や住居の間取り、各人の生活リズムや会話の在り方、親権者の健康状態、未成年者の生活費の支出状況等)や未成年者の就労状況(就労先の変遷状況や就労期間、親権者の同意書等の取得方法、就労に係る外出時間と就労開始以前から の外出の頻度や時間等)の個別具体的な状況により異なるというべきであり、親権者が当然に未成年者の就労の事実を知り得たとはいえない。 原告は、うつ病等に罹患しているため就労しておらず、自宅で過ごすことが多かったことがうかがわれるものの、他方で、二男は、平成27年4月以降、高等学校の通信制課程に在籍しつつ、アルバイトをしてい たところ、年齢的にも、家庭外での生活時間が相当に及んでいたと解され、実際、原告は、二男について、高等学校の授業に出席したり、友人と遊びに行ったりする機会が多くあったと認識していた(前提事実⑴イ、原告本人2、6、7、12頁、証人C14、31、32頁)。そうすると、二男が日中外出していても不審には思わなかったと述べる原告の供 述(原告本人12頁)が直ちに信用できないということにはならない。 また、処分行政庁が平成29年7月頃の課税調査により把握した二男の就労収入は、平成28年中にF、H及びIで就労した際のものであるところ(前提事実⑶ウ)、これらの就労は、いずれも平成28年11月に費用徴収決定や収入の申告に係る指導指示がされる以前のものか、又は以前から開始されていたものである。しかも、二男は、当該指導指示 の時点で既にIでの就労を開始していたにもかかわらず、指導指示を受けている場面においてすら担当職員らに当該就労の事実を伝えなかったのであるから(前提事実⑶イ、証人C12 、二男は、当該指導指示 の時点で既にIでの就労を開始していたにもかかわらず、指導指示を受けている場面においてすら担当職員らに当該就労の事実を伝えなかったのであるから(前提事実⑶イ、証人C12、13、18、19頁)、原告が同年11月頃から平成29年7月頃までの間に二男が就労収入を得ていたことを認識し得なかったとしても必ずしも不自然とはいえない。 加えて、原告は、平成28年7月頃、担当職員らから二男の就労について確認するよう求められた際、二男から報告を受けたGでの就労については担当職員らに申告しており(前提事実⑶ア、甲1〔3~5頁〕)、原告が認識できた事実については担当職員らに申告していたとも解されることに照らすと、申告されなかった事実について原告が知らなかった 可能性をも検討する必要があったというべきである。 以上によれば、処分行政庁は、原告が指導指示を受けていたのに、なおも二男の就労の事実を知りつつこれを担当職員らに申告しなかったと評価・推認するに足りる個別具体的事情の有無について、慎重に調査・考慮すべきであったといえる。 ところが、処分行政庁は、二男から直接事情聴取することもなく(原告本人14頁、証人C16頁、証人J22頁、証人K16、17頁)、上記のような個別具体的事情の有無についての調査・考慮を一切行わないまま、原告が二男の就労の事実を当然認識していたものと決め付けて本件処分に及んだといわざるを得ないから、本件処分に当たり、当然考 慮すべき事項(原告が二男の就労の事実を認識していたか否か)につい て、これを十分に考慮しなかった(必要な調査を懈怠した)というほかない。 イ将来において指導指示事項が履行される可能性及び保護の停止を経ることなく直ちに保護を廃止する必要性・緊急 て、これを十分に考慮しなかった(必要な調査を懈怠した)というほかない。 イ将来において指導指示事項が履行される可能性及び保護の停止を経ることなく直ちに保護を廃止する必要性・緊急性について 前提事実⑴イ及び⑶ウのとおり、本件処分以前の平成29年5月1日 には二男が原告宅から転出しており、これにより原告の世帯は原告本人のみになったことから(甲1〔10、11頁〕、証人C15、16頁)、平成29年分の二男の就労収入の有無が不明であったにせよ、以後指導指示違反(世帯員の就労収入の無申告)が再発・継続する可能性は低下した(指導指示事項が履行される可能性が高くなった)といえる。 そうすると、結果的に指導指示の目的はほぼ達成されており、指導指示事項を履行させるために直ちに保護を廃止すべき必要性や緊急性はもはや認められない(なお、処理基準中の保護の「停止」に関するものとして「当該被保護者が指導指示に従ったとき、又は事情の変更により指導指示を必要とした事由がなくなったときは、停止を解除すること。」 との定めがあり(前記第2の2⑵)、これによれば、指導指示違反に伴う法62条3項に基づく処分は、あくまで被保護者の指導指示違反を是正するために行われるものであり、「事情の変更により指導指示を必要とした事由がなくなったとき」には当該処分を行うことは予定されず、既に処分が行われているときには解除し、取り消すべきものと解され る。)。 また、前記アで認定説示したとおり、本件処分時点で処分行政庁が把握していた事情に基づけば、原告に指導指示違反の認識(二男の就労の事実の認識)があったとは認められず、指導指示違反が重大又は悪質で、直ちに保護の廃止を行うべき客観的状況が生じていたともいえない。確 かに、原告 づけば、原告に指導指示違反の認識(二男の就労の事実の認識)があったとは認められず、指導指示違反が重大又は悪質で、直ちに保護の廃止を行うべき客観的状況が生じていたともいえない。確 かに、原告世帯においては、長男の就労に関しても費用徴収決定がされ たことがあるなど(前提事実⑵)、原告に対して同居する未成年者らの就労収入の申告につき繰り返し指導指示がされながら、状況が改善されてこなかった経緯もうかがわれるけれども、他方で、原告に対し保護の「停止」の措置がとられた形跡はなく(弁論の全趣旨)、処理基準にいう「保護の停止を行なうことによっては当該指導指示に従わせることが 著しく困難であると認められるとき」(前記第2の2⑵)に当たるとも認め難く(前記アのとおり、原告が指導指示に応じて二男の就労の事実を報告することもあったのであるから、書面による指導指示の効果も依然期待し得たというべきである。)、本件において、保護の停止を経ることなく直ちに保護を廃止する必要性・緊急性も認めることはできな い。 ウ保護の廃止がもたらす被保護世帯の生活の困窮の程度について担当職員らも認めるとおり(証人J12、13頁、証人K12、19頁)、精神疾患等を有し就労困難な原告にとって、生活保護なくして最低限度の生活を維持し得ないことは明白であって、この点は、保護の廃 止がもたらす被保護世帯の生活の困窮の程度として十分に考慮されなければならない(なお、処理基準には、被保護者が活用すべき資産を有しているか否かに関する説明部分ではあるが、「保護の廃止」は「特別な事由が生じない限り、保護を再開する必要がない場合又はおおむね6か月を超えて保護を要しない状態が継続する場合に行うもの」とされてい る。甲12〔446頁〕)。 ところ 護の廃止」は「特別な事由が生じない限り、保護を再開する必要がない場合又はおおむね6か月を超えて保護を要しない状態が継続する場合に行うもの」とされてい る。甲12〔446頁〕)。 ところが、本件処分に際して、上記事情が十分に考慮されたとはうかがわれず、かつ、担当職員らから原告に対し、保護の再申請について適切な手続教示がされたとも認められない(甲1、5、原告本人15、16頁、証人J13、14頁、28頁、証人K12、13頁)。 ⑶ 小括 上記検討のとおり、本件処分は、行政処分庁において、指導指示違反に至る経緯や指導指示違反の重大性・悪質性を判断する前提として十分に考慮すべき事項(原告が二男の就労の事実を認識していたか否か)や、保護の停止を経ることなく直ちに保護を廃止する必要性・緊急性及び保護の廃止がもたらす被保護世帯の生活の困窮の程度に関する事情を、十分に考慮せず(ある いは不当に軽視して)されたというほかなく、その結果、社会通念に照らし著しく妥当を欠くものとなっているから、裁量権を逸脱又は濫用したものと認めるのが相当である。 ⑷ 被告の主張について被告は、親権者たる成年世帯主は、保護費の一部によって未成年者世帯員 の生活上の支出を賄うことでその経済生活を把握できる立場にあり、未成年世帯員の就労を知らないことは考え難いから、特段の事情がない限り、未成年者世帯員が就労収入を得た事実や就労の事実について知っていたと強く推認すべき旨主張する。しかし、前記説示のとおり、成年世帯主が同居する未成年世帯員の就労の有無等を把握できるか否かは、当該世帯における個別具 体的な状況により異なり、上記のような強い推認が当然に成立するとはいえない。 被告は、原告において二男がアルバイトを探していることを知っ の有無等を把握できるか否かは、当該世帯における個別具 体的な状況により異なり、上記のような強い推認が当然に成立するとはいえない。 被告は、原告において二男がアルバイトを探していることを知っていたのであるから、その後二男がアルバイトをして収入を得ていたことを認識・承諾していたというべきである旨主張するが、二男がアルバイトを探していた として、当然にそれに近接した時期に就労が開始されることにはならないから、上記主張は採用の限りではない。 被告は、原告に対しては、以前にも長男の就労収入に関する無申告があって費用徴収決定がされた上に、それらに際して担当職員らから指導指示を受けていたにもかかわらず、さらに二男の就労収入を申告しておらず、就労無 申告が常態化し、改善の兆しがないというべきで、指導指示違反の程度が重 大・悪質である旨主張する。しかし、前記説示のとおり、指導指示違反の重大性・悪質性については、処分行政庁において、原告が指導指示を受けていながらなおも二男の就労の事実を知りつつこれを担当職員らに申告しなかったと評価・推認するに足りる個別具体的事情の有無について慎重に調査・考慮すべきであり、過去の経緯から当然に原告が二男の就労を認識していたと はいえないから、上記主張は失当というほかない。 なお、被告は、本件訴訟提起後の調査等により発覚した事情に照らしても、原告が二男の就労を認識していたといえる旨指摘するが、処分行政庁は、本件処分に際し、当該事情を考慮して原告の認識を推認したわけではないから、当該事情によって上記判断は左右されない。 第4 結論以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件処分は、裁量権の逸脱又は濫用があったものとして取り消されるべきであり、原告の請求は 理由 記 判断は左右されない。 第4 結論以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件処分は、裁量権の逸脱又は濫用があったものとして取り消されるべきであり、原告の請求は理由があるから認容することとして、主文のとおり判決する。 山口地方裁判所第1部 裁判長裁判官 山口格之 裁判官 植野賢太郎 裁判官 土岐あすか
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