平成17(行ウ)34 遺族補償年金等不支給処分取消請求事件(通称 豊田労基署長遺族補償年金等不支給処分取消)

裁判年月日・裁判所
平成19年11月30日 名古屋地方裁判所
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判決文本文34,688 文字)

平成17年(行ウ)第34号遺族補償年金等不支給処分取消請求事件主文 豊田労働基準監督署長が原告に対し平成15年11月28日付けでした労働者災害補償保険法による療養補償給付,遺族補償年金及び葬祭料を支給しない旨の各処分を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1請求主文と同旨第2事案の概要 本件は,トヨタ自動車株式会社(以下「本件事業主」という。)に勤務していた被災者の妻である原告が,被災者の心停止の発症及びこれに続く死亡が業務に起因するものであると主張し,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく療養補償給付,遺族補償年金及び葬祭料を不支給とした平成15年11月28日付けの豊田労働基準監督署長の各処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求める事案である。 争いのない事実等(掲記の証拠等により容易に認定できる事実を含む。)(1) 被災者の経歴等被災者は,昭和46年▲月▲日に出生し,平成元年4月1日,自動車製造等を業とする本件事業主に就職した。その後,原告と結婚し,平成7年1月に準指導職,平成10年1月に指導職,平成12年1月にエキスパート(以下「EX」という。EXは,工長(現在のチーフリーダー),組長(現在のグループリーダー)に次ぐ職制とされていた従来の班長に相当する職制である。)と,順次昇格した。 被災者は,本件事業主に就職した後,主に,T工場の第2ボデー課が組付 ・溶接を行った自動車ボデーにゆがみ,傷,へこみがないかどうかなどの品質検査をする部署であるT工場車体部第1品質係のRL013組に配属となり,以後,死亡するまで,配属先が変わることはなかった。なお,同組は,平成13年1月1日の組織変更に伴い,同部品質物流課第1作業係RL813組となった。 (2) 第1品質係のRL013組に配属となり,以後,死亡するまで,配属先が変わることはなかった。なお,同組は,平成13年1月1日の組織変更に伴い,同部品質物流課第1作業係RL813組となった。 (2) 配属部署の構成等平成14年1月当時,品質物流課には第1作業係から第6作業係までの各係があり,第1作業係には被災者の所属していたRL813組のほか,RL811組及びRL812組があった。 同月当時,被災者の上司としては,第1作業係のチーフリーダー(以下「CL」という。)の上司AとRL813組における直属の上司であるグループリーダー(以下「GL」という。)の上司Bがいた。なお,平成12年9月までは,上司AがRL813組の前身であるRL013組のGLを務めており,上司Bはその後任である。 また,平成14年1月当時,RL813組には,GLの上司B,被災者らEX4人,期間従業員や派遣社員も含む一般の作業員8人の,総勢12人の従業員がいた。なお,被災者以外の3人のEXは,いずれも比較的高齢であり,そのうちCは同年3月1日に定年を迎えるため,年次有給休暇を取得し同年2月2日から出社していなかった(甲30,39の2の16,証人上司B)。 (3) 主な担当業務RL813組では,自動車の製造ライン(以下,単に「ライン」という。)に入って品質不具合(以下,単に「不具合」という。)の検査を行う作業者(以下「ライン作業者」という。)と,発見された不具合の情報を受け,前工程に連絡をし,後行程(塗装組立行程)からの不具合情報の窓口となるなどの業務を行う作業者(以下「ライン外作業者」という。)とに分か れて業務を行っていた。RL813組では,被災者とGLの上司Bがライン外作業者であり,その余の従業員は,ライン作業者であった。 (4) 被災者の勤務時間等ア勤務時間の形 者」という。)とに分か れて業務を行っていた。RL813組では,被災者とGLの上司Bがライン外作業者であり,その余の従業員は,ライン作業者であった。 (4) 被災者の勤務時間等ア勤務時間の形態第1作業係では,1週間ごとに,1直(日勤)と2直(夜勤)とを交代する,深夜勤務を含む二交代勤務制(以下「本件勤務形態」という。)が実施されており,被災者が所属するRL813組は,RL823組と交代で勤務していた。なお,RL813組からみたRL823組のように,交代勤務を行う一方の組から見た他方の組は,反対直と呼ばれていた。 イ所定労働時間(甲39の2の4)本件事業主において,就業規則上,第1作業係の所定労働時間は,1日7時間35分(拘束時間8時間50分,休憩・休息の合計1時間15分),1週間37時間55分とされており,1直及び2直の所定始業時刻,ライン稼働開始時刻及び所定終業時刻は,以下のとおりであった(甲50)。 (ア) 1直始業時刻午前6時25分ライン稼働開始時刻午前6時30分終業時刻午後3時15分(イ) 2直始業時刻午後4時10分ライン稼働開始時刻午後4時15分終業時刻午前1時00分ウ通勤時間被災者は,T工場まで自動車で通勤しており,自宅からT工場の詰所までの通勤に要する時間は,作業着への着替えも含めて,およそ40分から長くとも1時間程度であった。 エ所定休日及び休日出勤等被災者が死亡する前の1か月間(平成14年1月10日から同年2月8 日まで)における所定休日は,1月12日・13日・20日・26日・27日,2月2日・3日であったが(甲143),被災者は,2月2日に休日出勤をした。また,被災者は,同年1月25日に年休を取得していたが,午後3時30分から午後6時まで出社した(甲42)。 (5) 小集団活 2月2日・3日であったが(甲143),被災者は,2月2日に休日出勤をした。また,被災者は,同年1月25日に年休を取得していたが,午後3時30分から午後6時まで出社した(甲42)。 (5) 小集団活動等本件事業主では,以下のような従業員の活動等が行われている。 ア創意くふう提案創意くふう提案用紙(甲52の14・15)という所定の用紙に,業務に関する改善策とその効果等を記入する活動をいい,提出された提案のとりまとめの作業は業務とされていた。 イQC(QualityControl)サークル活動(さわやかサークル活動)同じ職場(組)内のEX以下の従業員が,基本的に,3か月を1単位として,職場の改善に関するテーマについて話合いを行い,話合いで決められた目標に向けた活動をすることをいう。 ウEX会EXの職制にある者によって組織される団体であり,EXに昇格すると自動的にEX会の会員となる。EX会は,技術及び知識の向上を図るための研修会,後援会,他会社の見学会,各種の懇談会,親睦と慰安のための行事,会員相互の慶弔扶助などの事業を行う。 エ交通安全活動従業員は,所属する職場ごとに,毎日の当番が自動車運転中に事故に遭いそうになった経験と今後の予防策の提案を交通安全ヒヤリ提案シート(以下「交通ヒヤリシート」という。甲39の2の37・2枚目以降)に記載し,各職場において,毎月,交通ヒヤリシートから1件の提案を選び,当該提案を行った者において,交通ヒヤリ,KY,提案用紙(以下「交通提案用紙」という。甲39の2の37・1枚目)を作成することとされて いた。同提案を取りまとめる交通安全リーダーの作業は業務とされていた。 また,社内外の交通事故の例を基にした交通安全に関するミーティング(以下「交通安全ミーティング」という。)が各職場ごとに開催されてい 。同提案を取りまとめる交通安全リーダーの作業は業務とされていた。 また,社内外の交通事故の例を基にした交通安全に関するミーティング(以下「交通安全ミーティング」という。)が各職場ごとに開催されていた。 (6) 本件訴訟に至る経緯についてア被災者は,平成14年2月9日午前4時20分ころ,T工場内の詰所において,脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準(乙18)が定める対象疾病である「心停止(心臓突然死を含む。)」を発症し(以下「本件発症」という。なお,本件において,正確な死因については当事者間に争いがあるが,被告の主張する不整脈によるものも同認定基準の心停止に含まれている(同認定基準第5の3参照)上,その原因疾患としては,心筋炎も想定されているところである(脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書(乙17)のⅣ3(4)ロ(ニ)参照)から,上記の限度では当事者間に争いがないことになる。),眠るように椅子から崩れ落ちた。被災者は病院に搬送されたものの,午前4時50分の病院到着時には,心肺停止状態となっていた。その後,蘇生措置が施されたが,同日午前6時57分,被災者の死亡が確認された(以下,本件発症及びこれに続く被災者の死亡を併せて「本件災害」という。)。 その後,被災者は病理解剖に付され,心筋炎等の解剖診断が出された(乙3の2)。 イ原告は,豊田労働基準監督署長(以下「原処分庁」という。)に対し,本件災害が業務に起因するものであるとして,平成14年3月6日に遺族補償年金支給請求及び葬祭料請求をし(乙5,6),同年5月16日に療養補償給付請求をした(乙7)。 原処分庁は,平成15年11月28日,原告の上記各請求について,不支給とする旨の本件処分を行い(乙8~10),本件処分は,同年12月 5日,原告に 年5月16日に療養補償給付請求をした(乙7)。 原処分庁は,平成15年11月28日,原告の上記各請求について,不支給とする旨の本件処分を行い(乙8~10),本件処分は,同年12月 5日,原告に通知された(乙11~13)。 原告は,本件処分を受けて,平成16年1月9日,愛知県労働者災害補償保険審査官に対し,審査請求をしたところ(乙14),同審査官は,平成17年3月30日,これを棄却する決定をし(乙15),同決定は,同年4月1日,原告に通知された。 そこで,原告は,上記決定を不服として,平成17年4月20日,労働保険審査会に対し,再審査請求をしたが(乙16),同日から3か月以上経過しても裁決がされなかったため,平成17年7月22日,本件訴訟を提起した。 争点 本件災害が業務に起因するものであるか否かが本件の争点であり,その中で,①業務起因性の判断基準,②本件災害と業務との相当因果関係の存否(労働時間の長さ及び労働の質のほか,被告は,被災者の心停止がウイルス性心筋炎によるものであるとして,本件災害と業務との条件関係も争う。)が主として争われている。 当事者の主張(1) 原告の主張ア業務起因性の判断基準業務上の災害というためには,業務と疾病や死亡等の災害との間に合理的関連性があれば足りると解すべきである(合理的関連性説)。仮に,業務と災害との間に,相当因果関係が必要であるとしても,相当因果関係の内容としては,業務が他の原因と共働原因となって災害を招いたと認められる場合には,業務と災害との間には相当因果関係が認められると解すべきである(共働原因説)。 イ本件災害と業務との相当因果関係の存否(ア) 被災者の労働時間 被災者が死亡する前6か月間における時間外労働時間は,別紙1労働時間集計表(原告主張)の時間外労働時間数欄に記 (共働原因説)。 イ本件災害と業務との相当因果関係の存否(ア) 被災者の労働時間 被災者が死亡する前6か月間における時間外労働時間は,別紙1労働時間集計表(原告主張)の時間外労働時間数欄に記載のとおりである(1日8時間,1週間に40時間を超える時間を時間外労働時間として計算)。 その算出根拠は次のとおりである。 a在社時間の算出被災者の出退社時刻(RL813組の詰所に到着した時刻及び同所から退出した時刻)は,原告の記憶及び収集した資料によると,別紙1労働時間集計表(原告主張)の始業時間欄及び終業時間欄にそれぞれ記載のとおりであるが,これらの出退社時刻は,おおむね,次の根拠に基づくものである。 被災者は,規則正しく出社のために自宅を出発していたものであり,平成14年の年明け以降については,遅くとも,1直の際は午前4時40分,2直の際は午後2時20分に自宅を出発しており,それ以前の期間についても,1直の際は平成14年の年明け以降と同様であり,2直の際は,遅くとも午後2時30分には自宅を出発していた。そして,自宅からT工場までの自動車の運転時間,T工場到着後の作業着への着替えや友人との会話,交通渋滞等を考慮に入れるとしても,これらに要する時間は多く見積もっても1時間を超えることはないから,被災者は,通常,遅くとも,1直の際は午前5時40分にRL813組の詰所に到着し,2直の際は,平成14年の年明け以降は,午後3時20分,それ以前は午後3時30分に,同詰所に到着していたことは明らかである。 被災者が詰所を出た時刻については,死亡する1か月前ころから,原告が自宅カレンダー(甲49)に一部記録していた帰宅時間から1時間の通勤時間を差し引くことで割り出したり,仕事を終えて駐車場 に向かっている旨を連絡した際の携帯電話の発信履歴や帰宅 前ころから,原告が自宅カレンダー(甲49)に一部記録していた帰宅時間から1時間の通勤時間を差し引くことで割り出したり,仕事を終えて駐車場 に向かっている旨を連絡した際の携帯電話の発信履歴や帰宅途中の買い物レシートや給油記録から推測することで明らかとなる。 b上記aで算出した時間が労働時間であったことについて被災者は,所定始業時刻の前に,反対直からのライン申送帳(以下,単に「申送帳」という。)の確認を行うなどの業務を行っており,所定終業時刻の後は,反対直への申送帳の記入やその他の品質係のライン外業務を行っていた。また,創意くふう提案やQCサークル活動などの業務を行っていたことも考えられるが,これも後記のとおり業務と判断すべきである。 被災者が,このように所定労働時間外に業務を行っていたと判断すべき理由は次のとおりである。 まず,被災者は,仕事熱心でまじめな労働者であり,几帳面な性格でもあり,さらには,上司のGLが上司Aの時には業務が終わり次第比較的早い時間に帰宅していたのであるから,業務上の必要がないのに長時間にわたり工場内に滞留して雑談をすることは考えられない。 また,本件事業主では,品質係のライン外業務でライン終了後になることが多い業務として,申送帳の記入,返車ボデーの手直し確認などの確認作業のほか,年休調査(組合)等多数存在する(甲39の2の18)。そして,被災者は,申送帳の記入にしても現物を確認して丁寧に記載していた。さらに,被災者は同僚のEXに「たまにはライトをつけて帰りたい。」旨述べ,上司BGLが被災者に宛てた平成14年の年賀状に「今年は早く帰宅できるように頑張ります。」と記載するほどライン終了後も業務が多忙であった。原告は,被災者が早く帰って休んでくれることを願っており,また,本件災害の前には,子煩悩な被災者が子 賀状に「今年は早く帰宅できるように頑張ります。」と記載するほどライン終了後も業務が多忙であった。原告は,被災者が早く帰って休んでくれることを願っており,また,本件災害の前には,子煩悩な被災者が子供たちと顔を合わせても相手をせずに寝室に行って休んでいたほど疲労していた。このようなことからすると,被災者が多 忙な業務のためにやむを得ず時間外労働をしていたことは明らかである。 cよって,被災者の業務は,その労働時間数に照らし,過重であったというべきである。 (イ) 被災者の業務内容a本件事業主で採用されていた高い生産効率を目指すトヨタ生産方式の下では,徹底して不良品の発生等の無駄を省いて,生産効率を上げることが目標とされていたため,被災者が担当していた品質検査業務は,不良品の発生を防ぐために,常に精神的緊張を強いられる過密なものとなる。 被災者は,このような品質検査業務を担当するRL813組のライン外作業者であるEX(以下「ライン外EX」という。)として,後工程に不具合を流さないための,責任が課されていたものである。後工程において不具合が発見された場合には,自分よりも上位の職制である後工程のGLやCLに対して謝罪をするとともに,不具合を発生させた部署に連絡をして,ラインを動かしながら修理をするのか,ラインから車を下ろして修理をするのかなどの対処方法について,折衝を行っていたものである。 無駄を出さないことが絶対的な目標とされるトヨタ生産方式の下では,不具合処理における折衝が必然的に苛烈なものとなり,折衝の相手が上位の職制であることもあって,上記のライン外EXとしての業務は,被災者に大きな心理的負荷を与えるものであった。 b被災者は,以下のように,創意くふう提案を行い,QCサークル活動,EX会の活動,交通安全活動及び職場委員会の て,上記のライン外EXとしての業務は,被災者に大きな心理的負荷を与えるものであった。 b被災者は,以下のように,創意くふう提案を行い,QCサークル活動,EX会の活動,交通安全活動及び職場委員会の活動に従事していたものであるが,これらの活動等は,使用者が支配する生産活動に関わるものであり,また,全員参加とされたり,賞金等が交付されたり, 人事考課の対象となるなどの点に照らし,業務と評価すべきである。 そして,被災者は,これらに加えて,新人教育も担当するなど,多岐にわたる業務が割り当てられていたものである。 (a) 創意くふう提案被災者は,EXとなった以降,RL813組の各従業員から提出された創意くふう提案用紙について,内容の吟味と評価を行い,組内で同提案用紙を提出しない従業員がいる場合には,当該従業員の分まで提案を考えて提出していた。 (b) QCサークル活動被災者は,RL813組のQCサークル活動のサークルリーダーとして,月2回の会合の開催を指示していた。また,被災者は,会合の後には,会合日誌の記入を行っていたほか,サークルメンバーに対する指導やアドバイスも行っていた。被災者は,テーマリーダーと呼ばれる各会合ごとの担当者が作成すべき資料を自ら作成することもあり,そのための作業を自宅で行うこともあった。 (c) EX会の活動被災者は,平成13年度におけるEX会の広報役員として,定期総会や研修等の行事において,ポスターやチラシを作成するなどしていた。また,被災者は,弁論大会の代表として,原稿の校正などの作業を行っていた。 (d) 交通安全活動被災者は,RL813組の交通安全リーダーとして,RL813組の従業員が記入した1か月分の交通ヒヤリシートを読み,その中からよく検討されているものを選んで,交通提案用紙にまとめる作業をして 全活動被災者は,RL813組の交通安全リーダーとして,RL813組の従業員が記入した1か月分の交通ヒヤリシートを読み,その中からよく検討されているものを選んで,交通提案用紙にまとめる作業をしていたほか,交通安全ミーティングを1か月に2回開催し,同ミーティングの結果について,小グループ話し合い実施シートに まとめる作業などを行っていた。 (e) 職場委員会被災者は,RL813組の職場委員として,昼休みなどに職場委員会の会議に出席していた。 なお,職場委員の活動は,本件事業主において,組合活動として扱われているが,本件事業主の組合は,企業別組合であったこと,ユニオンショップ制が採用されていたこと,組合と本件事業主は,労使相互信頼・相互責任をうたい,上司であり組合の先輩でもある者からの職場委員の指名を拒否することが実質的に不可能であったことに照らすと,職場委員会への出席は,業務と評価すべきである。 c本件勤務形態及び休日出勤等深夜勤務及び交代勤務は,体内のリズムを狂わせ,睡眠不足や疲労蓄積の悪影響をもたらすものであるから,被災者の業務の過重性を評価するに当たっては,被災者が本件勤務形態の下で就労していたことを考慮に入れるべきである。 また,平成13年夏に新車種の生産がT工場で開始されたほか,同年年末から平成14年の年明けにかけて,レクサスの製造工程が九州の工場からT工場に移管された上,そのころ,T工場で製造していたカムリについて不具合が多発していたことにより,被災者の業務量は増加した。これにより,被災者は,一月平均で2日間の休日出勤を行うことになり,被災者に過重な負担となった。 d小括以上のように,被災者がライン外EXとして従事していた品質管理業務は,大きな心理的負荷が掛かる過密な業務であり,また,被災者は,同業務以外にも うことになり,被災者に過重な負担となった。 d小括以上のように,被災者がライン外EXとして従事していた品質管理業務は,大きな心理的負荷が掛かる過密な業務であり,また,被災者は,同業務以外にも,QCサークル活動のサークルリーダー等,多岐にわたる業務が割り当てられていたものであるから,その業務内容は, 過重であったというべきである。 (ウ) 死亡直前の出来事被災者は,本件災害の直前である平成14年2月8日から9日にかけての勤務中,不具合処理をするに際し,普段とは異なり,自らで処理をし切れないとして,上司Bに助けを求めるといった困難な事態に遭遇した。これにより,被災者は極めて大きなストレスを受けた。 ウ本件災害と業務との条件関係の存否被告は,被災者が,ウイルス性心筋炎にり患しており,これを基礎疾患とする致死性不整脈を発症して死亡したものであるから,本件災害と業務との間には条件関係が存在しない旨を主張する。 しかし,被災者の死因は,過重労働を原因とする一次性心停止であるから,被告の主張は誤りである。また,仮に,被災者がウイルス性心筋炎を基礎疾患とする致死性不整脈を発症して死亡したとしても,業務で受けたストレスにより免疫力が低下することで,様々な疾病を発症したり,疾病からの回復に影響が生じるのであるから,それは,被災者が過重な業務によるストレスにさらされたことで免疫力が低下したことによるものというべきであり,私病とはいえない。したがって,本件災害と業務との間に条件関係が存在することに変わりはない。 エ小括以上のとおり,被災者は,量的・質的に過重な業務に従事したことにより,心停止を発症して死亡するに至ったものであるから,本件災害は,業務との間に相当因果関係があるもの,すなわち,本件事業主の業務に起因することの明らかなものというべ 的に過重な業務に従事したことにより,心停止を発症して死亡するに至ったものであるから,本件災害は,業務との間に相当因果関係があるもの,すなわち,本件事業主の業務に起因することの明らかなものというべきである。 (2) 被告の主張ア業務起因性の判断基準業務上の災害というためには,業務と災害との間に条件関係があるだけ では足りず,両者の間に相当因果関係があることを要すると解すべきである。そして,これが肯定されるには,当該業務に内在する危険性が,当該労働者の喫煙・高血圧などの私的なリスクファクターや先天的な素因等の業務外の要因に比して,当該発症にとって相対的に有力な原因となったことが認められることを要すると解すべきである。 イ本件災害と業務との相当因果関係の存否(ア) 被災者の労働時間a原告主張の労働時間は,在社時間であって,労働時間ではないことについてDは,原告主張の時間について,被災者の出社時間と退社時間,即ち在社時間を肯定しているにすぎず,この間の全部の時間が労働時間であると認めているわけではない。なお,後日確認したところ,平成14年2月2日の退社時間は,17時であったことが判明している。 そして,上司Bが被災者に対し,長時間の残業を指示したことはなく,被災者は,雑談をするなどして,上司Bに合わせて会社に残っていたにすぎないのであるから,在社時間を基準として被災者の労働時間を算定すべきではない。 被災者がライン終了後に行う必要があった業務は,主に反対直への申送帳の記載にすぎず,これは長くとも1時間以内で完了することが可能であり,その後は,職場に残る必要はなかったものである。かかるライン終了後の業務の必要性に照らしても,被災者の在社時間を基準として労働時間を算定すべきでないことは明らかである。 また,職場委員会の会議に出席 その後は,職場に残る必要はなかったものである。かかるライン終了後の業務の必要性に照らしても,被災者の在社時間を基準として労働時間を算定すべきでないことは明らかである。 また,職場委員会の会議に出席した時間を労働時間として計上すべきではない。 その他,創意くふう提案,QCサークル活動,EX会の活動及び交通安全リーダーとしての活動等の大半は,業務と評価すべきものでは なく,その一部について業務と評価するとしても,当該活動等に要する時間はわずかであった。 さらに,被災者は,GLが上司Aであったときには,短時間の残業をしたにとどまっていたところ,GLが上司Bに代わったとしても,業務等の量に大きな変動があるはずはなく,業務等の処理のために,在社時間が長くなったとは考えられない。また,被災者の前任者であるCや反対直のライン外EXであるEも長時間の時間外労働はしていない。 b被災者の労働時間数の算出以上の点を踏まえ,さらに,始業前の準備に必要な時間として30分の時間外労働時間を計上し(休日出勤のうち,ラインが稼働しなかった平成13年8月18日と平成14年1月6日については,準備作業が不要であるから,かかる30分の時間外労働時間を計上すべきではない。なお,実際の所要時間としては,15分を計上すれば足りるから,30分を始業前の時間外労働時間として計上することは,過剰といえても,過少となることはない。),申送帳の記載内容を参考にして上司Bが認定した所定終業時刻後の残業時間をまとめると,死亡する前6か月間における被災者の時間外労働時間は,別紙2労働時間集計表(被告主張)の時間外労働時間欄に記載のとおりとなる。 cしたがって,被災者の業務は,その労働時間数に照らして過重なものではなかったというべきである。 (イ) 被災者の業務内容a(a) 被災 集計表(被告主張)の時間外労働時間欄に記載のとおりとなる。 cしたがって,被災者の業務は,その労働時間数に照らして過重なものではなかったというべきである。 (イ) 被災者の業務内容a(a) 被災者は,基本的に,RL813組のライン外EXとして,不具合情報の収集,確認,伝達及び記録作業をしていたものである。また,被災者は,実際に不具合が発生した場合には,不具合の発生状況を現場で確認し,不具合を発生させた部署に連絡して,当該部署 の職制と一緒に現物の確認をし,可能であればライン内で不具合の手直しをしてもらい,これを見届けて帰ってくればよく,ライン内での手直しができなければ,ラインから外して適宜対応をしていたにとどまるのであり,いわゆるトラブル処理などの業務は担当していなかったものである。 被災者は,不具合が生じなければ,空調が整っており,雑談をすることも可能であった詰所において,データ処理などのデスクワークを行えば足りるものであるから,被災者が担当していた品質管理業務が過密になることはなかった。 (b) 原告は,不具合処理における折衝により被災者が大きな心理的負荷を受けていた旨を主張する。しかし,後工程で発見される不具合のうち,RL813組が検査を担当しているものの割合はせいぜい1割から2割にとどまること,RL813組の職場責任者は被災者ではなくGLの上司Bらであったことからすれば,被災者の責任が追及されることは少なく,被災者が大きな心理的負荷を受けることはなかったというべきである。なお,不具合が発見された場合に,ラインを止めるかどうかの判断をするのは,そもそも作業係の担当事項ではない。 原告は,本件事業主がいわゆるトヨタ生産方式を採用していたことを被災者の業務が過重となった要因として主張するが,RL813組のGLが上司Aであ の判断をするのは,そもそも作業係の担当事項ではない。 原告は,本件事業主がいわゆるトヨタ生産方式を採用していたことを被災者の業務が過重となった要因として主張するが,RL813組のGLが上司Aであった当時,被災者の健康状態には何ら異常がなく,6万8000人にも及ぶ本件事業主の従業員が普通に業務に従事し,生活していることに照らせば,原告の主張は,根拠がないものというべきである。 b原告は,創意くふう提案やQCサークル活動等も業務と評価すべきであり,被災者が多岐にわたるこれらの業務を割り当てられていたと 主張するが,いずれも任意の自主活動で,人事考課の対象でもなく,本件事業主がこれらの活動に便宜を与えているものについても,業務と評価すべきではないから,かかる主張は誤りである。また,被災者がこれらの活動等に関する作業を自宅に持ち帰って行っていたとしても,格別必要とされていない作業を自主的に行ったものであるから,かかる作業も業務と認めることはできない。職場委員会の活動は,組合活動であるから,業務と評価すべきではない。 創意くふう提案,QCサークル活動,交通安全活動について,その一部を業務と評価するとしても,以下のとおり,これらの活動は,量的にみて,被災者に過重な負担を課すものではなかった。また,新人教育は,上司Bやライン作業者も加わって,適宜分担しながら行っていたから,被災者に過重な負担を課すものではなかった。 (a) 創意くふう提案創意くふうの提案を行うことに要する時間は,数分もあれば足り,また,被災者が行っていたこれらの創意くふう提案の取りまとめ作業は,5分から10分程度で完了できるものであった。 (b) QCサークル活動QCサークル活動は,月に2回,1回1時間の活動時間で行われるのがほとんどであった。 (c) 交通安全活動被 りまとめ作業は,5分から10分程度で完了できるものであった。 (b) QCサークル活動QCサークル活動は,月に2回,1回1時間の活動時間で行われるのがほとんどであった。 (c) 交通安全活動被災者は,業務として,交通ヒヤリ提案について,その提出者の確認や,交通ヒヤリ提案ノート等に形式的な間違いがないかを確認するのみであって,5分もあれば足りる業務であった。 c本件勤務形態及び休日出勤等被災者が行っていた深夜勤務及び交代勤務は,週休2日制の下,スケジュールどおりに,日常業務として実施されていたものであるから, これによる負荷は,日常生活で受ける負荷の範囲内にとどまるものである。 また,カムリの不具合が多発していたのは,平成13年7月ころであるし,レクサスの製造工程の移管は,一部の部品についてのみであり,これによって生じた新たな業務は,九州の工場との連絡業務だけであるから,これらの事情は,被災者に対して過重な負荷を与えるものではなかった。 d以上より,被災者の業務は,その業務内容に照らし,過重なものであったということはできない。 (ウ) 死亡直前の出来事原告の主張に係る不具合は,第2ボデー課が実施した手直しで生じたものであり,また,手直し後の品質検査も同課が行ったものであるから,RL813組が不具合を見落としたものであるとして被災者が叱責されるようなものではない。したがって,被災者が,上記不具合処理で,極めて大きなストレスを受けることはなかった。 (エ) その他,相当因果関係の判断において考慮すべき事項被災者は,平成13年12月26日から同14年1月4日ないし5日までの10日間ないし11日間,連続して年末年始の休暇を取得していた。被災者は,上記休暇期間中に,会社関係者の葬儀の手伝いをしているが,そのような手伝いは日常儀礼的 日から同14年1月4日ないし5日までの10日間ないし11日間,連続して年末年始の休暇を取得していた。被災者は,上記休暇期間中に,会社関係者の葬儀の手伝いをしているが,そのような手伝いは日常儀礼的な行動としてよくあることであるから,特に身体に過重な負担を生じさせるものではない。したがって,被災者は,上記休暇期間中に,疲労を回復させたはずである。 なお,被災者には,1日40本程度の喫煙習慣があったところ,喫煙習慣は,業務外の危険因子として考慮すべきである。 ウ被災者の死亡と業務との条件関係の存否本件において,被災者の死因は,重症不整脈の発症であり,その不整脈 が生じたのは,ウイルス性心筋炎によるものであるから,本件災害と業務との間には条件関係がない。 これに対し,原告は,過労に起因するストレスによる免疫力の低下により心筋炎を発症したと主張するが,被災者を診断したF医師によれば,被災者の副腎皮質がストレスにより肥厚しているとの診断は困難であるとされるなど,客観的根拠を欠いている。 したがって,被災者が従事していた業務と,ウイルス性心筋炎へのり患及びこれに続く重症不整脈の発症との間には,条件関係があるとはいえない。 エ小括以上のとおり,被災者の死亡は,業務との間の条件関係がないが,この点を措くとしても,被災者の業務は,特に過重な身体的負荷,精神的負荷となるものではないから,被災者の死亡は,業務との間に相当因果関係があるとはいえない。したがって,本件事業主の業務に起因することの明らかなものということはできない。 第3当裁判所の判断 業務起因性の判断基準労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の負傷,疾病,障害又は死亡の災害について行われるが(同法7条1項1号),労働者の死亡等の災害が業務上の事由によるものであるといえるため 起因性の判断基準労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の負傷,疾病,障害又は死亡の災害について行われるが(同法7条1項1号),労働者の死亡等の災害が業務上の事由によるものであるといえるためには,業務と死亡等の災害との間に相当因果関係のあることが必要である(最高裁昭和50年(行ツ)111号同51年11月12日第二小法廷判決・集民119号189頁参照)。そして,上記相当因果関係があるというためには,当該災害の発生が業務に内在する危険が現実化したことによるものとみることができることを要すると解すべきである(最高裁平成6年(行ツ)第24号同8年1月23日第三小法廷判決・裁判所時報1163号5頁,最高裁平成4年(行ツ)第70号同8年3月5日第 三小法廷判決・集民178号621頁各参照)。 業務の過重性について(1) 在社時間の認定証拠(甲42,50,52の25の1・2,53の2,55の3の2,118・6項,乙25・5項・9項・35項)に弁論の全趣旨を併せれば,被災者は,平成14年1月10日から同年2月8日までの期間の各日において,工場に着いて着替えをした上,別紙3労働時間集計表(認定)の①出社時間欄記載の時間にRL813組の詰所に到着したこと,同表②退社時間欄記載の時間に同詰所を帰宅のために出て,その後に工場内で着替えをして帰宅したことが認められ,被災者が労務提供可能な状態でT工場内にいた時間は,同表③在社時間欄記載のとおりであったと認められる。 すなわち,ここで認定した時間は,原告が被災者の帰宅時間を記録するなどして出発時間及び帰宅時間を把握した上,工場内で着替えをして詰所に達するまでの通勤時間を多めに見積もるなどして確実を期して推定した出退社の時間から,他の関係証拠(甲42等)により疑問のあるものを除外したものである上, 時間を把握した上,工場内で着替えをして詰所に達するまでの通勤時間を多めに見積もるなどして確実を期して推定した出退社の時間から,他の関係証拠(甲42等)により疑問のあるものを除外したものである上,本件事業主の人事担当責任者が被災者の在社時間として事実に即したものであることを認めていたものであるから,少なくとも上記時間は実際に被災者がT工場内にいたものと認められる。上司Bの上記認定に反する平成14年1月19日及び同年2月1日の退社時刻に関する供述(甲26・11項,乙23・13項)は,的確な裏付けを欠き,上記証拠に比べて採用できない。 (2) 業務の過重性に関する認定事実前記争いのない事実等に,証拠(甲18,24,25~27(各一部),29,30~34(各一部),35,36,39の2の16~19,48(一部),49~51,52の4・7・9,55の3の2(一部),57の3,118,123,乙23及び24(各一部)),証人上司A(一部), 証人上司B(一部),証人C,原告本人及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨を併せれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠は採用できない。 ア性格,家庭状況等被災者は,まじめで,物事を頼まれると断れない性格であり,几帳面でもあった。被災者は,周囲に対する気配りが細やかで,責任をもって仕事を最後まで丁寧にやっていたことから,職場の皆からの信頼が厚かった。 被災者は,平成7年に原告と結婚し,死亡時には1歳の長男,3歳の長女を含め親子4人で生活していた。被災者は,子煩悩で,平成13年秋ころまでは,2直の時には,午後1時ころに起きて子供たちとともに食事をしてから出勤し,1直の時には日没前に帰り戸外で子供の相手をしたり,午後6時半ころ子供たちとともに食事をして,午後7時半ころ子供たちを風呂に入れて,午後8時半ころ ころに起きて子供たちとともに食事をしてから出勤し,1直の時には日没前に帰り戸外で子供の相手をしたり,午後6時半ころ子供たちとともに食事をして,午後7時半ころ子供たちを風呂に入れて,午後8時半ころ子供たちと一緒に就寝していた。また,原告は,多忙な被災者が十分に休息できるよう種々の配慮をしていた。さらに,被災者に,家庭内等の私生活において心身の負担となるような問題はなかった。 イライン外EXとしての勤務状況(ア) 被災者は,出勤すると,詰所の外にあるロッカーで作業着に着替えた後に詰所に行き,その後,ラインが稼働するまでの間は,パソコンに入力されている各種のデータを見たり,反対直のEXが記載した申送帳の内容を確認し,ライン稼働開始前のミーティングでライン作業者に伝達していた(甲37,39の2の18,56の2)。なお,ライン作業者も反対直の申送帳の確認をしていたが,それは,自己の担当部分のみの確認にとどまっていたのに対し,被災者は,職責上,申し送り事項の全体を確認していたほか,申し送りに係る現物の確認も行っていた(甲118・8項)。また,被災者は,ライン開始前に,当日の担当作業者の配置の確認も行った。 (イ) 品質検査業務において,ボデーの傷やへこみなどの不具合の発見は必ずしも容易なことではなく,特に新人等の不慣れな作業者の検査業務においては,不具合の見落としも少なくない。その一方で,不具合の見落としは,後で発見されればされるほど,修復に時間が掛かるなど,影響が大きくなる(甲118・5項)。 また,不具合発生時に前後工程の担当者との調整がうまくいかないと,車がラインの外に置かれ,これにより車体番号や後工程で行うべき作業に変更が生じるなどして,車の完成が遅れることにつながる。そこで,ライン外EXには,前後工程の担当者とうまく調整を うまくいかないと,車がラインの外に置かれ,これにより車体番号や後工程で行うべき作業に変更が生じるなどして,車の完成が遅れることにつながる。そこで,ライン外EXには,前後工程の担当者とうまく調整をつけることが求められ,そのための信頼関係を築くため,日頃からのコミュニケーションが重要とされていた。 (ウ) RL813組のライン作業者は,不具合箇所を発見すると,当該箇所にマークを付けて,後工程の手直し作業者に分かるようにするが,不具合が約3台以上連続する場合は,ライン外作業者である被災者に連絡することになっていた。被災者は,そのような連絡を受けると,後工程に同様の不具合が流れていないかどうかを確認し,不具合を発生させた前工程の部署に連絡した。その上で,被災者は,不具合を発生させた原因の調査も行うが,不具合の発生原因が不明の場合もあるなど,このような調査業務には,困難な側面があった(甲25・17項)。 そして,不具合発生部署でも,原因を調べ,不具合発生を防ぐための対策の検討を行うことになるが,被災者も,かかる検討を行う際に,意見を述べることがあった。 (エ) 被災者のようなライン外EXは,RL813組で検査したにもかかわらず,塗装工場等の後工程で不具合が発見された場合には,その現場に出向いて不具合の状況を確認したが,当該後工程のCLやGLから被災者の部署で不具合を発見できなかったために迷惑を被ったとして,被災 者が厳しく叱責されることもあった。 そして,不具合のある部品を取り付けた前工程の部署に,不具合発生の連絡をするとともに,その手直し等の処置を依頼することになるが,その際にも,前工程のGLなどから,自分の部署で不具合を発見できなかったことにつき非難されることもあった(甲35・7項)。 また,被災者は,不具合発生の連絡を受けると,RL 置を依頼することになるが,その際にも,前工程のGLなどから,自分の部署で不具合を発見できなかったことにつき非難されることもあった(甲35・7項)。 また,被災者は,不具合発生の連絡を受けると,RL813組のライン内作業者に対し,品質検査を徹底させるために,不具合発生の情報を連絡した。 (オ) 不具合のあった車体について手直し等の処置がされると,通常,被災者は,その処置が適切に行われたかどうかの検査も行っていた。 (カ) 以上のような,不具合が発生した場合の対応は,RL813組では,被災者が,第一次的に行っていたものであり,被災者には,後工程に不具合を流さないための責任が,RL813組代表EXとして課されていた(甲39の2の17)。 なお,上司Bもこうした不具合対応をすることがあったが,上司Bが不具合対応を行うのは,基本的に,被災者が不具合対応をしている最中に,別の不具合対応の必要が生じた場合にとどまった。 (キ)被災者は,不具合が発生していない場合には,エアコンも設置されている詰所内において,各種のデータ整理などのデスクワークを行っていた。不具合の発生する件数は,日によって区々であったものの,多くは相当数が発生し,一つの不具合が解決すると,またすぐに他の不具合が発生するなどして,被災者が詰所でゆっくり座って仕事ができる日はほとんどなかった(甲32・13項,59~64,100,118・6項)。 (ク) 被災者は,下請けや外注先に対する連絡を完了できなかった場合などの未完了の不具合対応や,不具合対応が完了したものであっても反復し て発生している不具合など,反対直に対する影響が考えられる不具合情報などを反対直のライン外作業者及びライン作業者に引き継ぐために,絵図を用いた不具合の状況説明,被災者が行った不具合対応の内容,反対直において いる不具合など,反対直に対する影響が考えられる不具合情報などを反対直のライン外作業者及びライン作業者に引き継ぐために,絵図を用いた不具合の状況説明,被災者が行った不具合対応の内容,反対直において行うべき対応の内容などを申送帳に記入した(甲59~64)。 申送帳の記入は,全ての不具合について行うものではなく,また,他に不具合対応の必要がない場合には,ラインが稼働している最中に申送帳への記入を行うことも可能であったが,上司BがGLであった際の被災者は,ライン稼働中に正確で丁寧な申送帳を記入することが困難であり,ライン作業が終了した後に,詳細かつ丁寧に申送帳の記入を行っていた(甲25・13項,31・23項,37・4項,39の2の18,48,59~64,証人上司B・33頁,証人C・9,21頁)。 (ケ) 被災者は,ライン作業が終了すると,通常,返却されたボデーの手直し状況の確認や,誤欠品・車種日報の内容の確認,EDシェルボデー面チェックシートの確認を行い,当日発生した不具合の内容をパソコンで確認した。また,被災者は,気になる不具合がある場合には,現場に行って確認をしたり,他の部署の詰所に行って担当者と話をすることもあった(甲26・5項,6項,10項)。加えて,被災者は,フレームナンバー拓本のダブルチェックを毎日行っていたほか(甲31・13項,証人上司A・24頁),翌日の作業分担の振り分けを決める事務を行い,ペンキの片付けなどの諸作業を残って行うこともあった。 このほか,被災者は,ライン作業終了後,月末には年休調査を行い,週末には作業者の歩行マナーの評価をし,週に2回はQCサークルの会合日誌のチェックを行っていた。また,被災者は,RL813組の組員から提案がされる都度,交通提案用紙や創意くふう提案の内容確認を行っていた(甲39の2の18)。 評価をし,週に2回はQCサークルの会合日誌のチェックを行っていた。また,被災者は,RL813組の組員から提案がされる都度,交通提案用紙や創意くふう提案の内容確認を行っていた(甲39の2の18)。 また,被災者は,所定労働時間後も長時間,詰所内に残っていることが多かったが,それは上司Bとともにいたものであり,また,上司Bが被災者に対し,早く帰るようにとの指示をしたことはなく,上司Bが帰る際に一緒に帰宅するのが常であった(乙23・8項)。これに対し,被災者は,上司Aが直属の上司であったときには,仕事を終えた後に遅くまで残っていたことはなく,ライン作業の延長によるものを含めて,せいぜい1,2時間程度の残業を行い,2直の場合も遅くとも午前3時までには退社していたものであり,上司Aより先に帰宅することも多かった。被災者の帰宅時間が上記のように遅くなったのは,上司Bが直属の上司のときであった。 (コ) なお,被災者は,組内で突発的な年休取得がされた場合には,ライン検査業務に従事することもあった(甲39の2の17)。 ウ死亡前約6か月間における勤務状況等(ア) 被災者は,上司Bと上司Aがともに海外出張中であった平成13年6月22日から7月9日までの間,上司Bの業務を代行し(証人上司A・21頁),RL813組のGL業務は,その後しばらく,同日に出張から戻った上司Aが上司Bを代行する形で行われていたが,同月12日から新しい車種を製造することとなったラインにおいて,多数の不具合が発生し(乙25・2頁),被災者の業務量が増した。 被災者は,平成13年のお盆休みに出勤したことがあったが,このころ,原告に対し,眉間にしわを寄せて,「余裕がない。」と言うことがあった。また,上司Bは,同年9月6日,海外出張から戻り,RL813組のGL業務を再び行うこと 盆休みに出勤したことがあったが,このころ,原告に対し,眉間にしわを寄せて,「余裕がない。」と言うことがあった。また,上司Bは,同年9月6日,海外出張から戻り,RL813組のGL業務を再び行うこととなったが,このころから被災者の帰宅時間は遅くなっていき,原告が把握可能であった1直勤務時の帰宅時間は,同年11月ころになると家族との夕食時間であった午後6時半を過ぎるようになり,12月ころになると午後7時半の子供との入浴時間に も帰宅が間に合わないことがあった。 (イ) 平成13年の年末から平成14年の年明けにかけて,九州工場からT工場車体部に,部品の製造設備が移管され,年明けから,T工場で新たな部品が生産されることになった。これにより,被災者は,上記設備移管に係る部品に不具合が発見されると,後工程である九州の工場に連絡したり,九州の工場から不具合情報を収集してT工場の担当部署に連絡する業務を行うこととなり,従前から扱ってきた車種での不具合も少なくなかったこともあって,被災者の業務量が増え(甲55の3の2,63,64,乙25・2頁,),原告に対して多忙である旨述べていた。 また,このころ,被災者の1直の帰宅時間は,子供の就寝時間である午後8時半を過ぎることがあった。なお,原告は,このころから,被災者の健康に不安を感じて,把握できる限り,被災者の帰宅時間をメモするようになった。 上司Bは,被災者に対し,「今年は早く帰宅できる様頑張ります。」と記載した平成14年元旦付けの年賀状を送付した(甲109)。また,このころ,被災者は同僚らに対し,「たまにはヘッドライトをつけて帰りたいな。」「眠い,眠いよ。今日は3,4時間しか寝ていない。」などと言ったことがある(甲32・35項,33・2項,34・24項,35・9項,証人C・11頁。なお,ヘッドライ ヘッドライトをつけて帰りたいな。」「眠い,眠いよ。今日は3,4時間しか寝ていない。」などと言ったことがある(甲32・35項,33・2項,34・24項,35・9項,証人C・11頁。なお,ヘッドライトをつけて帰りたいとの発言が平成14年1月中旬ころのものであったとすれば,多忙で帰宅が遅くなることを比喩的に表現したものと考えられる。)。 平成14年2月から品質見直しの特別体制をとることになり,同年1月の最後の週から上司Bが資料の作成等に関わることになったため,このころ,被災者は,ライン外業務における不具合処理を基本的に一人で行うこととなり,業務量が増えた(甲26・4項)。 なお,RL813組では,平成13年11月に応援のEX1名が他の 部署に配置換えとなり,また,EXのCが平成14年2月2日から出社しなくなり,その後任の派遣社員が同月4日から出勤したため,その教育を行う必要があった(甲25・19項,43,証人上司B)。 被災者は,本件災害の2週間から3週間前ころには,1直の週で早く帰宅できたときでも,子供を風呂に入れることもおっくうになり,また,平成14年2月3日の節分の際も子供の相手を満足にできない(甲140の1・2)など,疲労した様子を見せていた。 エ死亡直前の状況被災者は,本件災害の前日である平成14年2月8日,2直勤務に従事しており,この日の勤務では,不具合処理が多かった(甲25・18項)。 なお,同日午前は,被災者が新しく配置された派遣社員に対する指導を行っていたため,その間のライン外業務は上司Bが行っていた。 翌9日のライン作業の終了前ころ,塗装工程のCLから,RL813組が検査を担当していた2つの車種のドアに対する手直しの不良が連続して発生しているとの連絡を受けた(甲64,91)。被災者は,塗装工程に出向くと,「ラインが 了前ころ,塗装工程のCLから,RL813組が検査を担当していた2つの車種のドアに対する手直しの不良が連続して発生しているとの連絡を受けた(甲64,91)。被災者は,塗装工程に出向くと,「ラインが混乱する。」などと強い口調で叱責する上記CL及び同工程のGLらに対して謝罪したが,普段とは違って事態を収拾できず,上司Bに助けを求める電話を掛けた(甲53の6,甲58)。しかし,被災者は,結局,上司Bからの助けが得られないままに不具合対応をした。 その後,RL813組の詰所に戻ると,普段愚痴をこぼさない被災者が,上司Bに対し,「大変だった。」などと愚痴をこぼした。 同日,被災者が担当していた2つのラインは,一つが午前1時45分ころに,もう一つが午前2時30分ころに,それぞれ作業を終了し(乙23・10項),被災者は,その後詰所に戻って,申送帳の記入や,ライン作業者からの業務報告を受けたり,前記ドアの不具合につき後工程である組立のGLと折衝したり,不良品を現場から持ち帰ったりといった作業をし ていたところ,申送帳記入中の午前4時20分ころ,意識を失っていすから崩れ落ち(甲31・16項,58),午前4時50分には心肺停止状態に至り,午前6時57分,搬送先の病院で死亡が確認された。被災者は,死亡当時,30歳であった。 以上のとおり認められる。 これに対し,被告は,被災者が不具合処理の折衝において責任を追及されて大きな心理的負荷を受けることはないと主張するが,本件災害発生当日の出来事については上記のように認定できる上,上司Bは労働基準監督署の事情聴取において,後工程の上司と不具合の発生につき口論となるようなことはよくあることで珍しいことではない旨を供述していること(甲25・16項)の外,Cの供述(甲56の2,同証人・14頁,15頁)からも認めること ,後工程の上司と不具合の発生につき口論となるようなことはよくあることで珍しいことではない旨を供述していること(甲25・16項)の外,Cの供述(甲56の2,同証人・14頁,15頁)からも認めることができ,これに反する証拠は採用できない。 (3) 被災者の労働時間についてア前記争いのない事実等,前記認定事実及び前掲証拠によれば,平成14年1月10日から同年2月8日までの期間において,被災者は,別紙3労働時間集計表(認定)の③在社時間数欄に記載のとおり,合計312時間40分在社し,このうち労働時間は同表④労働時間数欄に記載のとおり,合計278時間10分であると認められ,労働基準法32条1項所定の1週間に40時間という労働時間の規制に従って,被災者の時間外労働時間を算出すると,上記期間における被災者の時間外労働時間は,106時間45分となる。 なお,証拠(甲56の2)によれば,被災者は,昼休み等の休憩時間であっても,ライン稼働中に連絡が取れない人に連絡を取るなどしていたため,休憩を取ることができなかったこともあったことが認められるものの,上記では,長時間の残業中に休憩を取った可能性なども考慮して所定の休憩時間よりも多い1時間30分を控除している。 イ被災者の労働時間を認定した理由は,以下のとおりである。 前記認定事実によれば,被災者は,ライン作業が終了した後,毎日,ライン外EXの本来業務である申送帳の記入等の業務を丁寧に処理していたため,相当時間の残業をする必要があったものであり,これに,被災者は,上司Aが上司であったときには,業務が済めば上司Aよりも先に帰ることも多く,仕事がないのに遅くまで残ってはいなかったこと,死亡当日の業務処理の状況,上司B自身が,平成14年1月当時は業務が忙しくて退社が遅れたと認めていること(甲26・10 上司Aよりも先に帰ることも多く,仕事がないのに遅くまで残ってはいなかったこと,死亡当日の業務処理の状況,上司B自身が,平成14年1月当時は業務が忙しくて退社が遅れたと認めていること(甲26・10項,50,証人上司B・17頁,18頁),そのころ,被災者は,QC活動について,サークルリーダーという立場から部内で上位の結果を得るべく責任を感じていたにもかかわらず,申送帳の作成のため同活動に参加できない状況にあったこと(甲39の2の36,証人上司B・37頁,38頁),上司Bは,自身が,ライン作業の終了後に提出されるライン日報を確認した上で,人がいなくなってから落ち着いて仕事をするタイプであり,さらには,ベテランのEXの仕事ぶりには満足できず,やり直しを命じなければならないが,それも命じにくく,他方,被災者は,自分の説明を良く理解し仕事もできるので仕事を頼みやすいと思っていたこと,上司Bは,原告に対し,上司Bや被災者が雑談等をしながら申送帳を書くことはあったが,遊んだり,ぼんやりとして休んだりしたことはなかった旨を述べたこと(甲57の3,乙23),その他,被災者の家庭での状況や同僚への発言内容に,上司Bの被災者に宛てた年賀状の記載内容,上司Bは平成14年1月ころ被災者に対し,上司B自身が仕事が大変でこのままいなくなれたらいいという趣旨のことを言ったこと(証人上司B・39頁)を併せると,被災者は,本来の業務を処理する必要があったために詰所に残っていたと認められる。そして,被災者の在社時間は,その直属の上司として被災者と同じ詰所で勤務し,被災者に対し業務命令を発し,その労働時間を管理し,残業時間を認定する 権限を有する上司B(弁論の全趣旨)のそれと重なっており,上司Bが被災者に帰宅を促したにもかかわらず被災者が残留していたことはないなど, 業務命令を発し,その労働時間を管理し,残業時間を認定する 権限を有する上司B(弁論の全趣旨)のそれと重なっており,上司Bが被災者に帰宅を促したにもかかわらず被災者が残留していたことはないなど,上司Bは被災者のこのような勤務状況を認識・認容し,かつ,管理し得たものと認められる。 さらには,上記の点からすると上司Bも被災者と同様の勤務状態であったと推認されるところ,被災者の性格やライン外EXの職務内容からして,直接の上司とともに勤務場所に残留していれば業務に関して指示や依頼を受け,これに対応することがあり得るし,現にあったものと推認できる。 以上のとおりであるから,労災認定における業務起因性の判断においては,被災者は退社時刻まで使用者の指揮命令下にあって労務に従事したものと認めるのが相当である。 また,始業時間前のいわゆる前残業についても,前記認定事実によれば,始業時間前に行うべき業務が存し,また,被災者が疲労状態にありながら定時前出勤を続けたことに照らし,業務に従事したものと推認するのが相当である。 ウ労働時間に関する被告の主張及び提出証拠についてまず,被告は,被災者の在社時間には,雑談をするなどの業務に関係のない時間が含まれる旨を指摘して,被災者の労働時間が別紙2労働時間集計表(被告主張)のとおりであると主張し,上司Bはこれに沿う供述をする。しかし,上司Bは,前記のとおり,被災者の直属の上司として被災者と同じ詰所で勤務し,被災者に対し業務命令を発し,その労働時間を管理し,残業時間を認定する権限を有する者であり,仮に,被災者が長時間にわたり実際に仕事をしていたにもかかわらず,これを許容し,しかも,残業時間としてはそのごく一部しか認定しなかったとすれば,これを否定したい立場にある上,その供述内容は,既に述べたものの外,前記年賀状の たり実際に仕事をしていたにもかかわらず,これを許容し,しかも,残業時間としてはそのごく一部しか認定しなかったとすれば,これを否定したい立場にある上,その供述内容は,既に述べたものの外,前記年賀状の記載の趣旨,雑談の内容など,変遷や不合理な点が認められ,さらには, その証言態度に自己に不利なものは供述を回避する傾向が認められるなど,被災者が長時間あるいは負荷の高い労働に従事したことを否定する趣旨の供述部分は信用することができない。 また,被告は,被災者がライン終了後に行う必要があったのは,長くとも1時間程度で完了することのできる申送帳の記載が主であり,申送帳の記載をした後は,職場に残る必要はなかったと主張し,上司Bらは,これに沿う供述をする(甲25・10頁,11頁,26・10項,証人上司B・7頁等)。そして,被災者の前任者や反対直のライン外EX,また,上司が上司Aであった当時の被災者自身が,長時間の残業はしておらず,健康状態に問題のない状況であったことが認められる。しかし,申送帳は,不具合及びその処理の内容・注意事項・依頼内容を特定の書式なく記載するという性質を有し(甲59~64),その記載者によって現場に赴いて現物を確認するか否かといった処理方法の違いがあり,ライン稼働中に記載することも可能である一方で,丁寧に行えば通常より相当に多くの時間を要すると解されるところ,上司Bの下において被災者は,ライン終了後,ライン日報を確認した上で,現物を確認したりして,丁寧に記載していたのである(乙24・4項・5頁,証人上司B・33頁,47頁)から,上記被告の主張等は前記判断を左右するものではない。 さらに,被告は,始業時刻前の早出残業が長くても30分程度であると主張し,甲39の2の18や甲55の3の2はこれに沿う内容となっている。しかし,仮 記被告の主張等は前記判断を左右するものではない。 さらに,被告は,始業時刻前の早出残業が長くても30分程度であると主張し,甲39の2の18や甲55の3の2はこれに沿う内容となっている。しかし,仮に効率よく処理すれば15分ないし30分で終了する業務であったとしても,上記証拠及び甲51に前記認定事実を併せれば,被災者には実際に早出残業を要する業務があり,それに従事するため早出出勤をし,上司もそれを黙認していたことが認められ,被告の主張は採用できない。 以上によれば,上記被告の主張及びこれに沿う上記供述は,採用できな い。 なお,本件事業主は,被災者の勤怠管理を上司Bが残業時間等の所定事項をパソコンに入力することにより行っていたものであるが(甲39の2の11・12等),パソコンに入力された被災者の残業時間は,上司Bが,通常の処理方法で必要と認められるであろう作業時間を想定して入力したものであって,作業に費やした実際の時間を示すものではなく(甲26・10項,証人上司B・16頁,41頁,42頁),これに被災者が確認印を押捺した趣旨も同様のものと推認されるから,これらの点は実際の労働時間の認定資料としては直ちに採用できないし,前記認定・判断を左右するものでもない。 エ小集団活動について原告は,小集団活動が業務であり,これに要した時間を労働時間とすべきであると主張するが,具体的にいつどの程度の時間を要したのかは,ごく一部を除き明らかではなく,他方,被告は,一部を除きこれが業務ではなく,これに要した時間を労働時間とすべきではないと主張するが,同様に積極的にいつどの程度の時間を費やしたからこれを労働時間から控除すべきであると主張するものではない。また,仮に,これが前記認定の労働時間中に行われたとしても,前記のとおり上司である上司Bに管理され に積極的にいつどの程度の時間を費やしたからこれを労働時間から控除すべきであると主張するものではない。また,仮に,これが前記認定の労働時間中に行われたとしても,前記のとおり上司である上司Bに管理され,その命令で業務に従事する可能性があった以上,労災認定上は,本来の業務の手待時間としてその労働時間性を肯定することが相当である。しかし,上記の点は,労働時間数の判断のほか,労働の質にもかかわる可能性もあるので,その業務性について判断するに,本件事業主における小集団活動につき,以下のような事実が認められる。 (ア) 被災者は,RL813組において,平成12年から本件災害当時まで,交通安全リーダー,職場委員,QCサークルリーダーの役割を同時に担っていた(甲124)。 (イ) 本件事業主は,従業員の人事考課において,基礎技能職・初級技能職・中堅技能職につき,創意くふう等の改善提案やQCサークルや小集団活動での活動状況を,EX級につき,組メンバーを巻き込んだ活動ができることを考慮要素としている(甲111)。 (ウ) 創意くふう提案及びQCサークル活動が,本件事業主の自動車生産を支えてきたことは,本件事業主の取締役名誉会長や取締役社長が認めるところであり,本件事業主が発行した会社紹介のパンフレットでも,その活動を積極的に評価して取り上げている。これらの活動は,いずれも一定の頻度で行うものとされ,上司が審査し,その内容が業務に反映されることがあり,賞金や研修助成金,一部の時間の残業代が支払われる。 被災者は,毎月1回,創意くふう提案を行っていたほか,業務として,創意くふう提案用紙の提出状況を調査するとともに,提案者の氏名や従業員コード等が正しく記入・マーキングされているかを確認していた(弁論の全趣旨)。また,被災者は,RL813組内で創意くふう提案 て,創意くふう提案用紙の提出状況を調査するとともに,提案者の氏名や従業員コード等が正しく記入・マーキングされているかを確認していた(弁論の全趣旨)。また,被災者は,RL813組内で創意くふう提案を提出しない者がいると,その者に対して提案事項に関する助言を行ったり,その者に代わって創意くふう提案を行うことがあった。被災者は,QCサークルリーダーとして,テーマに関する話合い等を直接進行させる役割のテーマリーダーに対しアドバイスを行い,また,テーマリーダーに代わって話合いの結果や資料をまとめたり,テーマリーダーが手書きで作成した資料を自宅に持ち帰って,パソコンで作り直すなどしていた。また,サークルリーダーは,QCサークル活動状況を自己評価することとされており,評価事項としては,サークルメンバーの参加意欲,協力の度合い,発言や改善提案における積極性等があった。また,QCサークル活動の日誌の確認は業務として実施されていた。(甲39の2の36,52の14・15,53の9の2,125,126,135の2,乙23・11項②,弁論の全趣旨) (エ) EX会は,本件事業主の各職場ごとの支部や職場会を有するなど,全社的な規模で組織された団体であり,会員相互の親睦のほか,知識と技術の向上を図り,社運の興隆に寄与することなども目的としている。EX会の役員になると,その運営業務のために,所定終業時刻の後や休日に,会社や自宅で作業をすることになるが(甲25・23項,30・18項),被災者は,T工場車体部第2ボデー課職場会の広報担当役員として,課長・CLとの懇談会等のチラシを作成していた。また,本件事業主の社内報で役員の紹介などがなされている。(甲52の17,52の18の1~4頁,52の19の1~3,70,71,97,99,104)(オ) 本件事業主 会等のチラシを作成していた。また,本件事業主の社内報で役員の紹介などがなされている。(甲52の17,52の18の1~4頁,52の19の1~3,70,71,97,99,104)(オ) 本件事業主は,交通安全ミーティングへの参加について,研修助成金を支払っていた。また,その結果を記載した小グループ話し合い実施シート(甲52の13)及び交通提案用紙(甲39の2の37)は,上司によって回覧等されていた。被災者は,交通安全リーダーとして,交通安全ミーティングの進行役を勤め,小グループ話し合い実施シートを作成し,業務としてRL813組の交通ヒヤリシートのとりまとめを行うなどしていた。さらに,被災者は,当該提案を行った者に代わって,交通提案用紙(甲39の2の37)を作成することがあった。(甲27・9項,乙23・12頁)以上の事実が認められる。 上記認定事実に前記争いのない事実等(5)の事実を併せると,創意くふう提案及びQCサークル活動は,本件事業主の事業活動に直接役立つ性質のものであり,また,交通安全活動もその運営上の利点があるものとして,いずれも本件事業主が育成・支援するものと推認され,これにかかわる作業は,労災認定の業務起因性を判断する際には,使用者の支配下における業務であると判断するのが相当である。EX会の活動については,これも 本件事業主の事業活動に資する面があり,役員の紹介などといった一定の限度でその活動を支援していること,その組織が会社組織と複合する関係にあることなどを考慮すると,懇親会等の行事への参加自体は別としても,役員として,その実施・運営に必要な準備を会社内で行う行為については上記と同様に業務であると判断するのが相当である。 また,被告は,これらに要する時間がごく短時間であると主張し,上司A及び上司Bはこれに沿う供述 その実施・運営に必要な準備を会社内で行う行為については上記と同様に業務であると判断するのが相当である。 また,被告は,これらに要する時間がごく短時間であると主張し,上司A及び上司Bはこれに沿う供述(証人上司A,乙24)をするが,上司Aについては,上司Bの下での被災者とは仕事の仕方が異なると考えられ,上司Bの供述は直ちに採用できないから,被告の上記主張は採用できない。 これに対し,組合活動である職場委員会の活動に従事した時間は,業務起因性の判断においても,業務と同様に捉えることはできないというべきである。なお,同活動については前記認定の労働時間には含まれていない。 (4) 被災者の労働の質について被災者の従事したライン外業務は,前記認定事実に照らせば,不具合の処理として,その発生元や,不具合が被災者の担当部署で発見できず後の工程で発見された場合の発見先との折衝が必要になり,ときに他の組の上位職制から叱責されることもあったというのであるから,その職務の性質上,被災者に対して比較的強い精神的ストレスをもたらしたと推認できる。 また,被災者は,ライン外業務に従事するに際し,前記認定のとおり,ライン稼働中は,詰所でゆっくり座って仕事ができる日がほとんどなかったというのであるから,被災者のライン稼働中の業務は,労働密度も比較的高いものであったというべきである。 加えて,夜間・交代制勤務による労働は,人間の約24時間の生理的な昼夜リズムに逆行する労働態様であることから,慢性疲労を起こしやすく,様々な健康障害の発症に関連することがよく知られており,特に,近年の研究により,心血管疾患の高い危険因子であることが解明されつつあること(甲 1,3~8,10)に照らせば,被災者の業務が,深夜勤務を含む2交代勤務制である本件勤務形態の下でされていたことは,慢性 究により,心血管疾患の高い危険因子であることが解明されつつあること(甲 1,3~8,10)に照らせば,被災者の業務が,深夜勤務を含む2交代勤務制である本件勤務形態の下でされていたことは,慢性疲労につながるものとして,業務の過重性の要因として考慮するのが相当である。これに対し,被告は,本件勤務形態が日常生活で受ける負荷の範囲内にとどまる旨を主張する。しかし,夜勤生活を何日繰り返しても生理的な適応が起きることはないとの知見があること(甲6),本件勤務形態では深夜勤務と昼間勤務を1週間で交代するところ,生活リズムの変更のために週休日の休息が必ずしも十分なものとならないのではないかとの疑問が残ることに照らせば,上記被告の主張は,直ちに採用できず,脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書(乙17・99頁)は上記判断を左右するものではない。 以上によれば,被災者の業務及びこれと同様に捉えるべき活動等は,質的にみても,心身の負担となる過重なものであったというべきである。 (5) 本件災害直前の強いストレス要因についてさらに,前記認定のとおり,被災者は,本件災害直前の平成14年2月9日に発生した不具合を処理するに際して,後工程のCLらから強い口調で叱責され,普段とは異なって,自らで事態を収拾できずに,上司Bに助けを求めるなどしたものであるところ,かかる本件災害直前の不具合対応は,普段の不具合対応との違いに照らせば,被災者に対して,相当程度に強い精神的ストレスをもたらしたと推認できる。 (6) 過労による心停止に関する医学的知見(甲9,乙17)ア心停止とは,心拍出が無となり循環が停止した状態をいい,突然発症する心停止の多くは,心室頻脈・心室細動が直接の原因であり,その主な基礎疾患としては,まず,虚血性心疾患が多いとされ,次いで,心筋症が多 心停止とは,心拍出が無となり循環が停止した状態をいい,突然発症する心停止の多くは,心室頻脈・心室細動が直接の原因であり,その主な基礎疾患としては,まず,虚血性心疾患が多いとされ,次いで,心筋症が多いと考えられている。 心臓性突然死とは,心停止が予兆なく発症し,比較的短時間で死亡することをいい,この場合,心停止の病態を解明することは困難とされるが, 心停止の成因のうち最も心臓突然死の危険が高いのは,心室が不規則で無秩序な電気的興奮を示す心室細動である。心室細動発生の機序は,その回路となる電気的基質,引き金となる心室期外収縮,これらを修飾する因子の3つの要因からなる。このうちの大きな修飾因子として自律神経があり,その機能低下は,致死性不整脈の発生と密接に関連する。また,ストレスも修飾因子であり,ストレスを引き起こすストレッサー(仕事による過度の身体的,精神的負荷等)は,中枢神経,自律神経,内分泌系の変調を起こし,その総合効果が循環器系に影響を及ぼす。 イ一般的な日常の業務等により生じるストレス反応は一時的なもので,休憩・休息・睡眠,その他の適切な対処により,生体は元に復し得るものである。しかし,恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわたって作用した場合には,ストレス反応は持続し,かつ,過大となり,ついには回復し難いものとなる。これを一般に疲労の蓄積といい,これによって,生体機能は低下し,血管病変等が増悪することがあると考えられている。 このように疲労の蓄積にとって最も重要な要因である労働時間に着目すると,発症前1か月間に,1日5時間程度の時間外労働が継続し,発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合には,特に著しい長時間労働に継続的に従事したものとして,業務と心室細動などの致死性不整脈を成因とする心臓突然死 外労働が継続し,発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合には,特に著しい長時間労働に継続的に従事したものとして,業務と心室細動などの致死性不整脈を成因とする心臓突然死を含む心停止発症との関連性は強いと判断される。なお,休日労働は,その頻度が高ければ高いほど業務との関連をより強めるものであり,逆に休日が十分に確保されている場合は,疲労は回復ないし回復傾向を示すものである。 (7) 小括以上によれば,死亡前2か月前から6か月前における労働時間数やいわゆるトヨタ生産方式の詳細について判断するまでもなく,したがって,これに対する被告の主張についても判断を要せず,被災者は,量的及び質的にも過 重な業務に従事して疲労を蓄積させた上,本件災害直前において極度に強い精神的ストレスを受けたものと認められ,被災者が従事した業務は,心室細動などの致死性不整脈を成因とする心臓突然死を含む心停止発症の原因となるものであったということができる。 被災者の素因等について(1) 認定事実ア被災者は,自然気胸,喘息性気管支炎等による通院歴があるものの,本件事業主において実施された定期健康診断結果判定において心臓疾患に関連する異常は特に認められず,心臓疾患に関連のある既往歴も特に有していなかった(甲39の2の5)。また,被災者は,平成14年1月ころ,痰が絡んだような咳払いをするなどのかぜ様の症状を見せることがあったが,この点を措けば,周囲の者からは健康状態に格別異常はないと見られていた(甲56の2・2頁)。 被災者は,1日当たり約40本のたばこを吸っており,喫煙期間は13年間に上るが,他方で,飲酒をしなかった(甲24・12項)。 イ被災者の病理解剖の結果及びこれを担当したF医師の所見は以下のとおりであった(甲55の2,甲65 本のたばこを吸っており,喫煙期間は13年間に上るが,他方で,飲酒をしなかった(甲24・12項)。 イ被災者の病理解剖の結果及びこれを担当したF医師の所見は以下のとおりであった(甲55の2,甲65,乙3の2,乙4)。 被災者の心臓には,外見上,異常は認められなかったが,顕微鏡で初めて心筋炎が認められた。他方,血管炎や心筋壊死は認められなかった。心筋炎の程度は軽度で,本件発症に対する主病変とは考えにくいものである。 心筋炎の感染源は断定できず,ウイルス感染によるものかどうかも不明である。心室中隔に脂肪と血管により置換された陳旧性病変が見られ,心筋炎が遷延化していたものと考えられ,急性のものとは認められないが,他方で,瘢痕(繊維化)は認められない。被災者の死因は致死性不整脈による心停止と考えられる。 なお,F医師は,剖検診断書に,心筋炎に基づく不整脈及び急性左心不 全が被災者の死因であると推察されると記載しているが,それは,心筋炎以外に死因にかかわる所見が見当たらないのでそのように記載したにすぎず,被災者の心筋炎は,それだけで死に至る程度に至るものとは考え難く,致死性不整脈の原因の判断は困難な状況であった。 ウ心筋炎に関する医学的知見(甲116,152~156,乙17,27,28)(ア) 心筋炎とは,心筋を主座として炎症を来す疾患を示す病理学的概念であり,感染症などの部分症状として,経過中又は回復期に発症し,一般に急性に経過し(急性心筋炎),予後良好なものが多いが,急性ウイルス性又は特発性の心筋炎の症例を約3年間観察した場合に死亡率が約12%であるとの報告もあり,死因は,ショックや心不全が多く,不整脈のほか,肺や脳の梗塞も少なくないと考えられている。他方,心筋炎の診断は困難であり,我が国の全剖検報告例中,心筋炎が主病変であったもの %であるとの報告もあり,死因は,ショックや心不全が多く,不整脈のほか,肺や脳の梗塞も少なくないと考えられている。他方,心筋炎の診断は困難であり,我が国の全剖検報告例中,心筋炎が主病変であったものの割合は約0.1から0.3%である。 ウイルス性心筋炎の急性期には,細胞の壊死と炎症像が見られ,1か月以上過ぎると,間質の繊維化,筋原線維の疎少化等が見られる。 心筋炎が遷延する場合には,急性心筋炎から炎症所見が持続遷延するものと,不顕性に心筋炎を発症し,慢性に経過するものがあるとされ,後者は,原因不明の心不全や不整脈を呈し,拡張型心筋症様の病態をとることがある。 (イ) 心臓性突然死の病理所見において,約5%に心筋炎が認められ,他に特段の所見が認められない場合に,心筋炎を基礎疾患として心室細動などの不整脈を発症して心臓性突然死に至ったと推定する見解がある。しかし,他方,外国の例ではあるが,事故死者の約5%に心筋炎が認められたとの報告も複数ある。 エまた,本件処分に際して開催された愛知労働局地方労災医員協議会の脳 ・心臓疾患専門部会は,協議の結果,前記病理解剖の結果を踏まえた上で,被災者が発症していた心筋炎については,ごく軽度のものであって,基礎疾患とするには無理がある旨,本件発症については基礎疾患を挙げることができない旨,死因については致死性不整脈の出現が引き金となった心停止を含む心停止とするのが適切であるとの意見を提出した(乙4)。 (2) 喫煙習慣について前記認定のとおり,被災者には,1日に約40本という喫煙習慣があり,かかる程度の喫煙習慣が心停止を含む虚血性心疾患の発症において有するリスクについて,非喫煙者の7.4倍から8倍であるとの報告もあるが,その一方で,これが2.11倍から3倍にとどまるとの報告例も少なくない(乙17)から が心停止を含む虚血性心疾患の発症において有するリスクについて,非喫煙者の7.4倍から8倍であるとの報告もあるが,その一方で,これが2.11倍から3倍にとどまるとの報告例も少なくない(乙17)から,1日約40本の喫煙習慣が本件発症に対する確たる発症因子とならないのはもちろん,加齢を含めた素因等の増悪要素としても,被災者の喫煙歴や年齢に照らし,その影響は限定的なものにとどまると解するのが相当である。 (3) 被災者の死因及び心筋炎について前記(1)の認定事実に争いのない事実等(6)アを併せれば,死因については,致死性不整脈の出現が引き金となった心臓突然死を含む心停止と認められる。 しかし,被災者がり患していた心筋炎は軽微であり,これが直ちに致死性不整脈出現の原因たる基礎疾患となったとも,同出現に対する確たる発症因子となったとも認めることはできない。 すなわち,前記認定の知見によれば,心筋炎の診断は困難であるとともに,一般に急性に経過し,予後良好なものが多いというのであるから,心筋炎にり患しながら発見されることなく,無事に経過する例が多いと推認され,また,全剖検報告例中,心筋炎が主病変であったものの割合がわずかであることや事故死者の約5%に心筋炎が認められたとの報告があることも考慮すると,軽度の心筋炎があることが,上記心停止の危険性を相当程度増大させる と解する根拠は見出せない。他に特段の所見が認められない場合に,心筋炎が原因で致死性不整脈の出現に至ったと推定する見解(前記(1)ウ)は,この限度で採用することができない。 また,上記判断に反し本件発症の原因が心筋炎である旨の医師の意見書(甲82,乙20,21)は,いずれもその結論を導く合理的な根拠が示されているとは認め難く,上記判断を左右するものではない。これを,F医師の意見書(乙20 件発症の原因が心筋炎である旨の医師の意見書(甲82,乙20,21)は,いずれもその結論を導く合理的な根拠が示されているとは認め難く,上記判断を左右するものではない。これを,F医師の意見書(乙20)につき説明すると,被災者の心筋炎が発症から1,2週間の時期にあったこと,それがウイルス性で,不整脈死を引き起こすに十分な程度のものであったことを根拠とするもののようであるが,後者は前記認定の所見と矛盾し,前者もそれが急性期にあるとの趣旨であれば同様であるから,それらの根拠は容易に採用し難い上に,これらの根拠から上記結論を導く推論過程も十分な説明がないものといわざるを得ない。 したがって,本件災害と業務との条件関係が認められないとの被告の主張も採用できない。 検討本件において,被災者は,致死性不整脈を発症しているのであるから,その発症の基礎となり得る素因等を有していた可能性があることは否定し難いが,前記(1)で認定したとおり,脳・心臓疾患専門部会の委員らが,病理解剖の結果を踏まえて協議しても,基礎疾患があるとは判断できなかっただけでなく,被災者は,本件災害当時30歳と比較的若年であり,心臓疾患に関連のある既往歴は特に有しておらず,周囲の者からは健康状態に格別異常はないと見られていたというのであるから,本件発症の基礎となり得る何らかの素因等があり,これが喫煙習慣等により一定程度増悪したとしても,確たる発症因子がなくてもその自然の経過により致死性不整脈による心停止に至らせる寸前にまで進行していたとみることはできない。そして,心筋炎や喫煙習慣は本件発症の確たる発症因子であったとは認められないことは前記のとおりである。 そして,被災者が従事した業務は,過重なもので,本件発症の原因となるものであったから,上記素因等をその自然の経過を超えて増悪 の確たる発症因子であったとは認められないことは前記のとおりである。 そして,被災者が従事した業務は,過重なもので,本件発症の原因となるものであったから,上記素因等をその自然の経過を超えて増悪させ本件発症に至らせる要因となり得るものというべきである。 以上によれば,他に確たる発症因子のあったことがうかがわれない本件においては,被災者の従事した業務による疲労の蓄積や本件災害直前の極度に強い精神的ストレスが素因等をその自然の経過を超えて増悪させ,本件発症に至らせたものとみるのが相当である。したがって,本件災害の発生は,被災者の業務に内在する危険が現実化したことによるものとみることができるから,被災者の業務と本件災害との間には,相当因果関係の存在を肯定することができる。 結論 以上の次第で,本件災害は,被災者が従事した業務に起因するものというべきであるから,これを業務上の災害と認めなかった本件処分は違法であり,取り消されるべきである。 よって,原告の被告に対する本件請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第1部裁判長裁判官多見谷寿郎裁判官志賀勝裁判官川勝庸史

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