令和7年2月13日判決言渡 令和6年(行ケ)第10071号審決取消請求事件 口頭弁論終結日令和6年12月16日 判決 原告(商標登録取消審判請求人)株式会社大勝軒 同訴訟代理人弁護士:藤本英介 同訴訟代理人弁理士:馬場信幸 被告(同被請求人)有限会社大勝軒 同訴訟代理人弁理士:吉田雅比呂、佐川智史 主文 1 特許庁が取消2023-300154号事件について令和6年6月5日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文と同旨 第2 事案の概要 第2-1 本件商標 被告は、下記登録商標(登録第3105120号、以下「本件商標」という。)の商標権者である。 ・構成:下記のとおり(「大勝軒」の文字を横書きしてなる。) ・指定役務:第42類「中華料理の提供」 ・登録出願:平成4年9月30日 ・設定登録:平成7年12月26日 第2-2 特許庁における手続の経過(当事者間に争がない。) 原告は、令和5年3月7日、特許庁に対し、商標法50条1項に基づき本件商標登録の不使用取消しの審判を請求し、同月20日、同審判の請求の登録がされた。同条2項に規定する「審判の請求の登録前3年以内」は、令和2年3月20日から令和5年3月19日までの期間(本件要証期間)である。特許庁は、上記請求を取消2023-300154号事件として審理を行い、令和6年6月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(本件審決)をし、その謄本は同月14日原告に送達された。 原告は、令和6年7月12日、 00154号事件として審理を行い、令和6年6月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(本件審決)をし、その謄本は同月14日原告に送達された。 原告は、令和6年7月12日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 第2-3 本件に登場する「大勝軒」について 本件には、「大勝軒」という屋号の複数の店舗(中華料理店)が登場するが、これらを区別するため、以下の名称を用いる。それぞれの店舗の概要及び来歴は、下記のとおりである(甲1~3、9〔枝番を含む。以下同じ。〕、弁論の全趣旨)。 (1) 横山町大勝軒 被告の創業者が、大正13年頃、下記人形町大勝軒からのれん分けを受け、「大勝軒」の屋号で東京都中央区日本橋横山町に開店した中華料理店。個人経営であったが、昭和25年7月14日に法人化して被告が経営主体となった(当初は「株式会社大勝軒」、平成7年5月31日に現在の「有限会社大勝軒」の商号に)。令和元年11月20日に株主総会の決議により被告は解散し、その頃、中華料理店も閉店となった。 (2) 人形町大勝軒 大正2年に「大勝軒」の屋号で東京都中央区人形町に開店した中華料理店。個人経営であったが、昭和24年12月13日に有限会社大勝軒として法人化した(以下、同社のことも「人形町大勝軒」ということがある。)。昭和61年に中華料理店としては閉店し、昭和63年に「喫茶大勝軒」の名で喫茶店営業を開始したものの、その喫茶店営業も令和2年2月末に終了した。 (3) 浅草橋大勝軒 横山町大勝軒と同様、人形町大勝軒からのれん分けを受け、「大勝軒」の屋号で昭和21年に東京都台東区浅草橋で開店した中華料理店。個人経営であったが、昭和28年5月1日に有限会社浅 橋大勝軒 横山町大勝軒と同様、人形町大勝軒からのれん分けを受け、「大勝軒」の屋号で昭和21年に東京都台東区浅草橋で開店した中華料理店。個人経営であったが、昭和28年5月1日に有限会社浅草橋大勝軒として法人化し(以下、同社のことも「浅草橋大勝軒」ということがある。)、現在も同所において中華料理店の営業を続けている。 第2-4 本件審決の理由の要旨(1)浅草橋大勝軒の店舗入口には、「大勝軒」の文字を横書きしてなる商標を表示したのれんが掛けられている。 (2)関係者の陳述書等によれば、本件商標権者(被告)は、「人形町系大勝軒」と称する師弟関係に基づく店舗グループの中で、本店 「人形町大勝軒」に代わり、本件商標の商標管理をする立場にあったという状況を見て取ることができ、当該店舗グループに属する浅草橋大勝軒と被告との間には、本件商標をその指定役務について使用することについて黙示の合意(又は口頭での明示の合意)があったと推認できる。浅草橋大勝軒は本件商標の通常使用権者と認められる。 (3)以上によれば、本件商標の通常使用権者である浅草橋大勝軒は、その店舗において、本件要証期間中に継続して、本件商標と社会通念上同一の商標をその指定役務「中華料理の提供」について使用していたといえるから、本件商標の指定役務についての登録は、商標法50条の規定により取り消すことはできない。 第3 審決取消事由に関する当事者の主張 原告が主張する本件審決の取消事由は、商標法50条1項の「通常使用権者」の認定の誤りであり、この点に関する双方の主張は以下のとおりである。 第3-1 原告の主張第3-1(1) 通常使用権設定合意が認められないこと本件審決は、被告と浅草橋 の認定の誤りであり、この点に関する双方の主張は以下のとおりである。 第3-1 原告の主張第3-1(1) 通常使用権設定合意が認められないこと本件審決は、被告と浅草橋大勝軒との間に、本件商標を指定役務に使用することについて黙示の合意又は口頭による明示の合意があったと認定した。しかし、この認定は、浅草橋大勝軒の代表者である A’(以下「 A」という。)や、人形町大勝軒の代表者である B’ (以下「 B」という。)の陳述書のみによる認定であり、採証法則に違反する。これらの陳述書は、係争後に仲間内で作成されたものにすぎず、その信用性は極めて低く、内容的にも意味不明な点が多くて、信ぴょう性に欠けている。被告から浅草橋大勝軒に対して本件商標の通常使用権が設定されたことを認めるに 足りる証拠はない。 被告と浅草橋大勝軒は、いずれも人形町大勝軒からのれん分けを受けた系列店であるところ、系列店が、それまで使用していた屋号等の標章に関して登録を受けた場合、当該商標権者である系列店と、他の系列店の間に、商標についての使用許諾契約が成立することは、総本店と系列店の間の屋号の使用関係を考えると、通常あり得ない。 被告のような系列店の一つにすぎないものが、総本店である人形町大勝軒に代わって本件商標の管理を行うなどということは、のれん分け制度の趣旨からしても、異常である。 第3-1(2) 清算による管理使用権の喪失商標法50条の基礎となるTRIPS協定19条(2)は、「他の者による商標の使用が商標権者の管理の下にある場合には、当該使用は、登録を維持するための商標の使用として認められる。」と定めており、「他の者による商標の使用が商標権者の管理の下にある場合」にのみ、「登録を維持 の使用が商標権者の管理の下にある場合には、当該使用は、登録を維持するための商標の使用として認められる。」と定めており、「他の者による商標の使用が商標権者の管理の下にある場合」にのみ、「登録を維持するための商標の使用として認められる。」としている。このような規定に照らすと、商標法50条1項の「通常使用権者」についても、商標権者が管理権を有する場合に限って認められると解すべきである。 本件において、被告は、令和元年11月20日に清算手続を開始しており、本件要証期間中、商標の使用に関して技術指導や品質検査等の管理ができない立場にあった。そのような期間において、本件商標を使用する第三者は、商標法50条の「通常使用権者」には当たらない。 また、被告は清算中の会社であるところ、解散決議により、本件商標使用許諾の源泉である被告の本件商標に関する使用権原もなくなるから、浅草橋大勝軒が通常使用権の設定を受けていたとしても、その使用権自体がなくなることになり、やはり、浅草橋大勝軒は商 標法50条1項の「通常使用権者」には当たらない。 第3-2 被告の主張第3-2(1) 通常使用権設定合意が認められること本件商標の商標権者である被告は、本件要証期間において清算中であったため自らは本件商標を使用していないものの、浅草橋大勝軒に対し通常使用権を設定して本件商標を使用させている。すなわち、被告は、総本店である人形町大勝軒から商標管理の委託を受けて、平成4年に「大勝軒」の標章について商標登録出願を行い、登録設定後の平成8年1月頃、浅草橋大勝軒に対し、これまでどおり本件商標を使えるように、口頭で通常使用権の許諾を行っていた。 そして、浅草橋大勝軒が、本件要証期間中、店舗入口ののれんに本件商 行い、登録設定後の平成8年1月頃、浅草橋大勝軒に対し、これまでどおり本件商標を使えるように、口頭で通常使用権の許諾を行っていた。 そして、浅草橋大勝軒が、本件要証期間中、店舗入口ののれんに本件商標を表示して使用していた。 原告は、 Aや Bの陳述書の信用性を論難するが、これらの陳述書は、係争に巻き込まれた後に、当時の事情を説明するために作成されたものであり、作成時期が係争開始後になるのは当然である。 また、通常使用権の許諾は、もともと仲間に対して行うものであり、上記陳述書が仲間内で作成されたからといって、陳述書の信ぴょう性が低いことにはならない。これらの陳述書は、店舗間のグループ関係や各社の事業実態に沿うものであり、その内容に特段の不自然な点はないから、相応の説得力があるというべきである。 原告は、商標登録を有する系列店との使用許諾契約は、総本店との間の屋号等についての使用許諾契約と矛盾し、のれん分けの趣旨にも反するように主張するが、一般人の感覚からして、そのような矛盾やのれん分けの趣旨などを気にする者はいない。原告の主張する推論によって、被告や浅草橋大勝軒の行動が不合理とされるわけではない。 第3-2(2) 清算による管理使用権の喪失について 原告は、TRIPS協定19条(2)の規定を根拠に、商標法50条1項の「通常使用権者」についても、商標権者が管理権を有する場合に限って認められるとするが、同規定は、商標を取り消すことができる条件や、登録維持のための商標の使用には使用権者によるものも含まれることを規定しているにすぎない。そもそも、同協定は、具体的な制度設計や運用を各国法に委ねているのであるから、同協定の定めが商標法50条の解釈運用に直接影響を与えることはない。 よるものも含まれることを規定しているにすぎない。そもそも、同協定は、具体的な制度設計や運用を各国法に委ねているのであるから、同協定の定めが商標法50条の解釈運用に直接影響を与えることはない。 商標法31条1項によれば、商標権者は、その商標権について他人に通常使用権を許諾することができるところ、商標権者が清算段階に入ったために使用権原をなくしたからといって、商標権者がいったん許諾した通常使用権の効力が左右されるわけではない。原告の主張に沿って考えると、商標権者が専用使用権を設定した場合には、その専用使用権設定許諾の源泉である商標権者の使用権原が消滅するため(商標法25条ただし書、30条2項)、設定した専用使用権がなくなってしまうことになりかねない。原告の主張は明らかに不合理である。 第4 当裁判所の判断第4-1 認定事実証拠(甲1~3、9、11、乙4~6、証人 A、証人 B、被告代表者のほか後掲のもの)に弁論の全趣旨を総合すれば、下記(1)~(3)の事実が認められる。 第4-1(1) 「人形町系大勝軒」の来歴ア人形町大勝軒は、前記第2-3(2)のとおり、大正2年に東京都中央区人形町において「大勝軒」の屋号で開店した中華料理店(いわゆる町中華)であるが、その後、被告や浅草橋大勝軒など、人形町 大勝軒からのれん分けを受けて「大勝軒」を名乗る店舗が次々に誕生したことにより、いわゆる「人形町系大勝軒」の総本店となった。 しかし、人形町大勝軒は、昭和61年に中華料理店を閉店し、その後、喫茶店に業態を変更したが、その喫茶店営業も令和2年2月末に終了した。 イ横山町大勝軒は、人形町大勝軒からのれん分けを受けて大正13年頃に開店した中華料理店であり、被告が運営し し、その後、喫茶店に業態を変更したが、その喫茶店営業も令和2年2月末に終了した。 イ横山町大勝軒は、人形町大勝軒からのれん分けを受けて大正13年頃に開店した中華料理店であり、被告が運営していたが、令和元年11月20日に株主総会の決議により被告が解散し、その頃、中華料理店も閉店に至った。ただし、いまだに清算結了登記はされていない。 ウ浅草橋大勝軒は、被告と同様、人形町大勝軒からのれん分けを受けて昭和21年に開店した中華料理店であり、現在も「大勝軒」の屋号で中華料理店の営業を続けている。 エ被告や浅草橋大勝軒と同様に人形町大勝軒(総本店)からのれん分けを受けて「大勝軒」の屋号を使用する中華料理店は、本件商標の登録出願時において十数店舗があった。少なくとも昭和の頃までは、これらの経営者が集まって寄合いを持ったり旅行会に行くようなこともあり、グループ店舗として一定のつながりを保っていた。 オ他方、上記「人形町系大勝軒」とは全く別の来歴に基づいて「大勝軒」の屋号を使用する中華料理店、ラーメン店は、東京都内だけでも相当数あり、その代表的なものに、原告の運営する「東池袋大勝軒」及びその系列店舗(後記(3)参照)、「永福町大勝軒」(昭和30年創業)などがある。 第4-1(2) 本件商標登録出願前後の経緯ア平成4年頃、当時の被告代表者であった C (現代表者・D の実母。以下、この項〔第4-1(2)〕において単に「被告代表者」という。)は、商標法の改正により、役務に関して使用さ れる商標(いわゆるサービスマーク)の登録が可能になったという話を知り、総本店である人形町大勝軒において「大勝軒」の商標登録の上、人形町系大勝軒全体のために商標管理をしてもらいたいと考えた。そこで、 商標(いわゆるサービスマーク)の登録が可能になったという話を知り、総本店である人形町大勝軒において「大勝軒」の商標登録の上、人形町系大勝軒全体のために商標管理をしてもらいたいと考えた。そこで、 D は、平成4年6月頃、被告代表者(実母)の使いとして人形町大勝軒を訪れ、代表者の Bと面談し、同人に上記の趣旨の依頼をした。しかし、当時、人形町大勝軒は既に中華料理店から喫茶店に業態変更していたため、 Bは、商標権を取得することについて難色を示し、被告において商標登録出願をしたらよいのではないかと話した。そのようなやり取りを経て、被告代表者は、人形町大勝軒に代わって、被告が「大勝軒」の商標登録を出願することとしたが、被告による商標登録後も、人形町大勝軒からのれん分けされた他の系列店が「大勝軒」の屋号の使用を継続することは、当然の前提と考えていた。 イ被告が本件商標について設定登録を受けた後の平成8年1月頃、D は浅草橋大勝軒の代表者・ Aに電話し、被告が「大勝軒」の商標権を取得したこと、しかし、浅草橋大勝軒が今後も「大勝軒」の屋号を使用することに差支えないことを口頭で伝えた。この話をするに当たって、 D は、商標法上の通常使用権の設定契約を締結する必要性についても、そもそもそ通常使用権の意味についても、あまり理解しておらず、したがって、通常使用権設定に関する契約書面を作成しなかったことはもとより、「通常使用権」という用語も口にせず、有償・無償の別を含め、使用料の取決めが話題に上ることもなかった。 Aは、上記のとおり口頭で聞いた限度で理解、了承したが、その法的な意味等について特段意識することはなかった。 なお、 D は、浅草橋大勝軒以外の系列店舗のうち、特に近しい関係にあった店舗(本町店、現在 聞いた限度で理解、了承したが、その法的な意味等について特段意識することはなかった。 なお、 D は、浅草橋大勝軒以外の系列店舗のうち、特に近しい関係にあった店舗(本町店、現在は廃業)に対しては、浅草橋 大勝軒に対するのと同様の話をしたが、それ以外の系列店舗とは疎遠であり、被告代表者又は D において、他の系列店舗に対し上記のような話をすることはなかった。 第4-1(3) 原告(東池袋大勝軒)の営業(甲17)ア原告の創業者である E’(以下「 E」という。)は、昭和36年に東池袋において「大勝軒」の屋号のラーメン店(東池袋大勝軒)を開業し、平成19年5月15日に原告を経営主体として法人化した。東池袋大勝軒は、「もりそば(つけ麺)」を看板メニューとして展開して有名となり、 Eは、つけ麺の元祖、ラーメンの神様などと呼ばれるようになり、書籍、テレビ、劇場映画でも紹介されるようになった。上記店舗は、 Eの健康問題と周辺の再開発のため一旦閉店したが、その後、現在の原告代表者に代替わりして、創業店からほど近い立地で営業を再開し、「つけ麺」(特製もりそば)を中心とする営業を行っている。また、東池袋大勝軒からのれん分けを受けた系列店(「大勝軒のれん会」加盟店)も、東京都内とその近県を中心に多数ある。 イ原告は、「大勝軒」に関する商標について、他人が未取得の商品・役務について登録出願する一方で、平成29年頃以降、他人が取得済みの商品・役務について不使用取消審判請求を行うなどしている。 他方、原告は、令和5年、「大勝軒」の文字を標準文字で表してなる商標について、指定役務を第43類「飲食物の提供、中華料理その他の東洋料理を主とする飲食物の提供」とする商標登録出願したが(商願2023-019 は、令和5年、「大勝軒」の文字を標準文字で表してなる商標について、指定役務を第43類「飲食物の提供、中華料理その他の東洋料理を主とする飲食物の提供」とする商標登録出願したが(商願2023-019806号)、同年9月12日付け拒絶理由通知を受けた。その理由は、同出願に係る商標は商標法3条1項6号及び4条1項11号(引用商標は被告が商標権を有する本件商標である。)に該当するというものである(甲18)。 第4-2 取消事由(「通常使用権者」の認定の誤り)について第4-2(1) 被告は、平成8年1月頃被告と浅草橋大勝軒が本件商標の通常使用権設定の合意をし、浅草橋大勝軒が本件要証期間中本件商標を使用していたと主張し、浅草橋大勝軒の代表者である Aは、これに沿う陳述書(甲9の2、9、乙4、6)を提出している。 第4-2(2)しかし、当裁判所が実施した証人 Aの証人尋問及び被告代表者の代表者尋問の結果は、上記の主張を認めるに十分なものとは到底いえないものであった。 アまず、この点に関する前提として、商標権者が第三者に登録商標と同一の商標の使用を容認する態度を示していたとしても、それをもって無償の通常使用権の設定合意(黙示の合意)が成立したなどとたやすく認めるべきではない。 すなわち、通常使用権は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利であり(商標法31条2項)、商標権者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合には、移転することができ(同条3項)、登録を受ければ、その商標権若しくは専用使用権又はその商標権についての専用使用権をその後に取得した者に対して、その効力を対抗することができるものである(同条4項)。 こうした通常使用権の権利性に鑑みれば、通常使用権設定の黙示の合意が成 使用権又はその商標権についての専用使用権をその後に取得した者に対して、その効力を対抗することができるものである(同条4項)。 こうした通常使用権の権利性に鑑みれば、通常使用権設定の黙示の合意が成立したというためには、単なる「黙認」にとどまらない、「権利の付与」に向けた明確かつ積極的な意思を客観的に確認できる必要があるというべきである。 イ以上を踏まえて検討するに、平成8年1月頃、 D と Aとの間で、上記第4-1(2)イのようなやり取りがあったことは認められるものの、このとき、 D は、商標法上の通常使用権の設定契約を締結する必要性についても、通常使用権の意味についても、あ まり理解しておらず、したがって、「通常使用権」という用語も口にせず、有償・無償の別を含め、使用料の取決めについても一切話題に上らなかったのであり、 Aにおいても、口頭で聞いた限度で理解、了承したが、その法的な意味等について特段意識することはなかったのである。 本件審決は、被告と浅草橋大勝軒との間の専用使用権設定合意を認定できる根拠として、被告がグループ店舗の本店(人形町大勝軒)に代わり本件商標の商標管理をする立場にあったことを挙げているが、「人形町系大勝軒」といわれるグループ店舗は十数店もある中で、被告(当時の代表者の使者である D )が本件商標登録取得後、その旨の報告と「大勝軒」の屋号の継続使用に関する話をしたのは、特に近しい関係にあった浅草橋大勝軒と本町店の2店だけだったのであり、被告が「グループ店舗の本店(人形町大勝軒)に代わり本件商標の商標管理をする立場」にあったとは考え難い。 以上のとおり、本件において、被告が通常使用権という権利の付与に向けた明確かつ積極的な意思を示したといえるような客観的な事実は見当たらな 本件商標の商標管理をする立場」にあったとは考え難い。 以上のとおり、本件において、被告が通常使用権という権利の付与に向けた明確かつ積極的な意思を示したといえるような客観的な事実は見当たらない。 D と Aの上記の口頭のやり取りをもって、本件商標の通常使用権の設定合意が成立したと考えることはできない。 ウところで、法律の専門家でない一般人が「通常使用権」なる法律用語を知らなかったとしても、その内容に沿う効果意思を持って相手方との意思の合致に至ったと認められるのであれば、通常使用権設定の合意(口頭の合意)の成立を認めることに妨げはないが、本件は、そのような場合と異なる。すなわち、 D は、代表者尋問中で、被告が本件商標登録を得た後も浅草橋大勝軒が「大勝軒」の屋号を継続使用できるという認識であったと供述しており(本人調書12~13頁)、 Aとの間で平成8年1月頃本件商標に関す る話をした目的が、「本件商標を使用することのできる権利の創設的な設定」にあったわけではなく、そのような効果意思を有していなかったことは明らかである。 実際にも、浅草橋大勝軒は、平成3年法律第65号附則3条1項所定の継続的使用権に基づき、従前と同様に「大勝軒」の商標を継続使用する権利を有していたと認められるから、客観的にも、通常使用権の設定を受ける必要などなかったのである。 第4-2(3) 以上のとおり、浅草橋大勝軒が本件商標の通常使用権の設定を受けたと認めることはできない。そうすると、本件において、商標法50条2項に定める登録商標の使用の証明がないことになる。 第5 結論以上と異なる本件審決の認定及び判断は誤りというべきであり、原告主張の審決取消事由は理由がある。よって、本件審決を取り消 標の使用の証明がないことになる。 第5 結論以上と異なる本件審決の認定及び判断は誤りというべきであり、原告主張の審決取消事由は理由がある。よって、本件審決を取り消すこととして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 宮坂昌利 裁判官 本吉弘行 裁判官 岩井直幸
▼ クリックして全文を表示