平成17年(ワ)第1883号損害賠償請求事件主文 被告は,原告に対し,250万円及びこれに対する平成13年11月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用はこれを50分し,うち1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求被告は,原告に対し,1億8184万9095円及びこれに対する平成13年11月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,原告が,くも膜下出血を発症後,被告の開設するA病院(以下「被告病院」という)に入院し,2度にわたり脳動脈瘤に対するクリッピング手術を。 ,,,受けたが意識障害右上下肢麻痺及び左下肢麻痺の後遺障害が残ったことから2度の手術において過失があったなどとして,被告に対し,不法行為又は診療契約の債務不履行に基づく損害賠償及び最初の手術の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 前提事実(以下特に断らない限り,月日は平成13年のものである)。 (1) 診療経過,,,。 ア11月4日原告は飲酒中に意識を消失して倒れB病院を受診した同病院における頭部CT検査の結果,くも膜下出血が認められた。 イ11月5日,原告は,救急車で被告病院に搬送され,以降,被告病院に勤務するC医師が原告の治療を担当することとなった。 同日に実施された脳血管撮影検査の結果,前交通動脈に破裂脳動脈瘤が存在することが判明した。 ウ同日,原告に対し,緊急開頭術及び脳動脈瘤頸部クリッピング術が行われた(以下「第1手術」という。 。)エ11月12日,CT検査の結果,右前頭葉に低吸収域(脳梗 瘤が存在することが判明した。 ウ同日,原告に対し,緊急開頭術及び脳動脈瘤頸部クリッピング術が行われた(以下「第1手術」という。 。)エ11月12日,CT検査の結果,右前頭葉に低吸収域(脳梗塞)が認められた。 オ11月19日,脳血管撮影検査の結果,脳動脈瘤の残存と,右前大脳動脈の閉塞が認められた。 カ11月20日,上記脳血管撮影検査の結果を受け,再手術を行うこととなった(以下「第2手術」という。第2手術の経過の概要は以下のと。)おりである。 (ア) 第1手術で掛けたクリップを露出すると,同クリップは,動脈瘤ではなく前交通動脈に掛かっていた。 (イ) 脳動脈瘤を剥離・露出する途中,同脳動脈瘤が破裂した。 (ウ) 20時52分,破裂による出血を止めるために,左前大脳動脈の動脈瘤より中枢側にテンポラリークリップを掛けて血流を遮断した上,動,,脈瘤の頸部と思われるところに仮のクリッピングを行い20時54分上記テンポラリークリップを外した。 (エ) 20時56分,再度左前大脳動脈中枢側にテンポラリークリップを掛けるとともに,左前大脳動脈末梢側にもテンポラリークリップを掛けて血流を遮断した。その上で,動脈瘤の剥離・露出を進め,とりあえず止血ができるような形で動脈瘤頸部にクリップを掛け,21時14分,上記テンポラリークリップを外し,血流遮断措置を解除した。 (オ) 21時20分,再度テンポラリークリップを掛けた上で,動脈瘤頸部に対するクリッピングをやり直し,21時30分,最終的に上記テンポラリークリップを外した。 (カ) 以上をまとめると,血流遮断時間と遮断解除時間は,次のようになる。 血流遮断時間2分間遮断解除時間2分間血流遮断時間18分間遮断解除時間6分間血流遮断時間10分間,,()キ11月22日CT 流遮断時間と遮断解除時間は,次のようになる。 血流遮断時間2分間遮断解除時間2分間血流遮断時間18分間遮断解除時間6分間血流遮断時間10分間,,()キ11月22日CT検査の結果左前大脳動脈領域に低吸収域脳梗塞が認められた。 ク12月14日,水頭症を併発したため,V-Pシャント術(脳室腹腔短絡術)が実施された。 (2) 後遺障害現在,原告は,遷延性意識障害,右上下肢麻痺及び左下肢麻痺により,いわゆる寝たきりの状態にある。 (3) 医学的知見アくも膜下出血(甲B4号証,乙B2,7,20号証の1,2)くも膜下腔への出血,すなわち脳髄液内への出血を指す。くも膜下出血は,外傷の場合を除けば,ほとんど脳動脈瘤破裂によるものである。 脳動脈瘤からの出血によりくも膜下腔に血液が流入すると,頭蓋内圧が急速に上昇し,脳血流が著明に減少する。そのため脳が虚血状態となり,脳細胞障害を来すことになる。破裂脳動脈瘤は再出血する危険性があるため,重症のため適応がないと判断されない限り,再出血予防処置がとられる。予防処置としては,通常は開頭の上脳動脈瘤頸部に金属製のクリップを掛けて閉塞し,脳動脈瘤への血流を遮断する脳動脈瘤頸部クリッピング術が行われる。 イ前大脳動脈・前交通動脈(甲B1号証)前大脳動脈は,左右の内頸動脈から分かれ,視神経の上を内前方に走る(この部分をA1部という。正中で左右の前大脳動脈が接近し,前。)交通動脈で結ばれる。その後,前大脳動脈は左右それぞれ大脳半球間裂を上方に向かい(この部分をA2部という,脳梁に沿って後方に走る。)(この部分をA3,A4,A5部という。前交通動脈分枝直後のA2。)部からホイブナー動脈と呼ばれる穿通枝が分枝する。前大脳動脈から前交通動脈が分枝する部には嚢状動脈瘤が好発 って後方に走る。)(この部分をA3,A4,A5部という。前交通動脈分枝直後のA2。)部からホイブナー動脈と呼ばれる穿通枝が分枝する。前大脳動脈から前交通動脈が分枝する部には嚢状動脈瘤が好発する。 ウ脳血管攣縮(甲B4,10,12号証,乙B21号証)くも膜下出血後に発生する脳主幹動脈の可逆的狭窄をいう。脳血管攣縮の発現には種々の因子が関与しているといわれ,最も重要な因子は,くも膜下腔の血腫が溶血する過程で放出されるオキシヘモグロビン等の攣縮誘発物質であるなどと説明されている。脳血管攣縮の結果,狭窄した脳動脈の支配領域に乏血症状や脳梗塞を来すことがある。 エ心原性脳塞栓症(甲B6号証,乙B12号証,鑑定の結果)脳梗塞の発生機序の一つであり,非弁膜性心房細動,急性心筋梗塞,左心室瘤,リウマチ性心臓病,人工弁等の心疾患が原因となって心臓内に生じた血栓が血流によって運ばれ,脳血管を閉塞することにより発症する。 オジャパン・コーマ・スケール(JCS(乙B4号証))患者の意識状態を以下の3つのグレード,3つの段階に分類し表現する尺度である。 グレードⅠ刺激しないでも覚醒している 意識清明とはいえない 見当識障害がある 自分の名前・生年月日が言えないグレードⅡ刺激で覚醒する 普通の呼びかけで容易に開眼する 大声又は体を揺さぶることにより開眼する 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼するグレードⅢ刺激をしても覚醒しない 痛み刺激に対し払いのけるような動作をする 痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめたりする 痛み刺激に反応しないカグラスゴー・コーマ・スケール(GCS(甲B11,乙B4号証))患者の意識状態を以下の3つの項目毎に評点し,その合計で評価する尺度で 動かしたり顔をしかめたりする 痛み刺激に反応しないカグラスゴー・コーマ・スケール(GCS(甲B11,乙B4号証))患者の意識状態を以下の3つの項目毎に評点し,その合計で評価する尺度であり,3点が最も重症であり,15点が意識障害がない状態になる。 ①開眼4点(自発的に開眼する)から1点(全く開眼しない)②言語反応5点(指南力良好)から1点(発語なし)③運動反応6点(命令に従う)から1点(全くなし)キグラスゴー・アウトカム・スケール(GOS(乙B4,32号証))重症脳損傷の転帰の分類法であり,①良好な回復,②中等度障害,③重度障害,④植物状態,⑤死亡,の5段階に分類する。 クハントの分類(Hunt&Kosnik分類,以下「H&K分類」という(甲。)B11号証),。 くも膜下出血の重症度を意識と神経学的徴候から分類する方法であるグレードⅠ無症状又は軽度の頭痛,項部硬直のあるもの。 グレードⅡ中等度か強い頭痛,項部硬直はあるが,脳神経麻痺以外の神経脱落症状のないもの。 ,。 グレードⅢ意識は傾眠状態で錯乱又は軽度の局所神経症状のあるものグレードⅣ意識は昏迷状態で,中等度から重度の片麻痺がある。早期の除脳硬直や自立神経障害がある。 グレードⅤ深昏睡状態で除脳硬直を示し,瀕死の状態。 争点 (1) 本件障害が発生した機序(2) 第1手術において,クリップを掛け間違えた過失の存否(3) 第2手術において,長時間血流を遮断した過失の存否(4) 第2手術における説明義務違反の存否(5) 損害 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(本件障害が発生した機序)について(原告の主張)ア左下肢麻痺の後遺障害第1手術後に出現した右前大脳動脈領域の脳梗塞が原因となって発生した。 仮にそうでないとし 当事者の主張(1) 争点(1)(本件障害が発生した機序)について(原告の主張)ア左下肢麻痺の後遺障害第1手術後に出現した右前大脳動脈領域の脳梗塞が原因となって発生した。 仮にそうでないとしても,第1手術後の右前大脳動脈領域の血流低下により,可逆性を秘めた左下肢運動障害が発生し,その後,第2手術後の左前大脳動脈領域の脳梗塞が原因となって,遷延性意識障害を起こし,全体的な脳機能の低下が生じたため,左下肢麻痺が生じた。 イ右下肢麻痺の後遺障害第2手術後に出現した左前大脳動脈領域の脳梗塞が原因となって発生した。 ウ右上肢麻痺の後遺障害第2手術後に出現した左前大脳動脈領域の脳梗塞を原因とする左大脳半球の全体的な機能低下の現れとして生じた。 エ遷延性意識障害の後遺障害両側前大脳動脈領域の脳梗塞,とりわけ意識作用を司る両側前頭葉に発生した脳梗塞が原因となって発生した。 オ被告の主張に対する反論(ア) 遷延性意識障害を引き起こすほどの一次脳損傷は,脳幹部障害徴候を表す重篤な経過があったか,又は両側前頭葉を損傷する血腫若しくは両側前頭葉脳梗塞のいずれかがなければ生じにくい。 本件では,脳幹部障害徴候は認められず,第1手術前の状態が遷延性意識障害を来すほどの悪い一次脳損傷状態にあったとはいえない。 また,遷延性意識障害をもたらすような重篤な一次脳損傷の場合は,その早期から強い意識障害が持続し,徐々に固定する経過をたどる。本件においては,第1手術後第2手術前の間に意識レベルが回復し,第2手術後に意識レベルが再び低下するという経過をたどっている。遷延性意識障害を来すような一次脳損傷であれば,このような経過をたどることはまずありえないから,本件の一次脳損傷は軽微なものであったといえる。 さらに,第2手術前に意識状態の回復が認められているが,こ 性意識障害を来すような一次脳損傷であれば,このような経過をたどることはまずありえないから,本件の一次脳損傷は軽微なものであったといえる。 さらに,第2手術前に意識状態の回復が認められているが,この時点でくも膜下出血から2週間が経過していたから,一次脳損傷の影響がほぼ固定した時期と考えられるところ,その後,第2手術後に意識状態が悪化していることからすれば,現在原告に認められる遷延性意識障害の主な原因が一次脳損傷であるとは考えられない。 (イ) 血管の狭窄度が50%以上なければ有意な脳血流低下は起こらないが,11月19日の脳血管撮影の画像からは30%~40%の狭窄しか。 ,,,認められない被告は当該画像は回復期の画像であるというが仮に11月16日ころから脳梗塞や後遺症を生じさせるような脳血管攣縮が生じていたのであれば,原告の症状が急激に増悪していたはずであるのに,本件ではそれが見受けられないこと,一般的に脳血管攣縮による血管の狭小化は緩解するまでに10日以上かかることからすれば,後遺症。 ,を生じさせるほどの脳血管攣縮があったとは考え難い以上からすれば左下肢麻痺の原因は脳血管攣縮ではない。 (被告の主張)ア第1手術後の右前大脳動脈領域に生じた梗塞は,手術部位に限定してごく一部にしか出現していない。この脳梗塞が原告の状態に重大な影響を及ぼしたとは考えられない。 イ意識障害及び左下肢麻痺は入院時及び第2手術前にも認められていた。 また,左下肢麻痺は,第1手術後に改善され,11月10日ころには四肢麻痺が消失しているから,原告の主張はこの事実と矛盾する。 ウ前大脳動脈領域の脳梗塞で起こりうる症状は反対側の下肢の運動麻痺であり,左前大脳動脈領域の梗塞で原告の現在の症状を説明することは医学的に困難である。 右下肢麻痺については, この事実と矛盾する。 ウ前大脳動脈領域の脳梗塞で起こりうる症状は反対側の下肢の運動麻痺であり,左前大脳動脈領域の梗塞で原告の現在の症状を説明することは医学的に困難である。 右下肢麻痺については,第2手術の周術期に発生した左前大脳動脈領域の脳梗塞に起因している。 右上肢麻痺については,原因不明である。 ,,,エくも膜下出血の予後は極めて悪く死亡しないまでも意識障害片麻痺構音障害等の後遺障害が発生する。11月5日午前10時30分ころ(被告病院に救急車で搬送された時点)の原告の重症度は,H&K分類でグレードⅣと判定されたところ,グレードⅣの転帰は全般に不良であり,その多くは一次脳損傷(くも膜下出血により軟部組織や頭蓋骨等に保護されている脳そのものが破壊損傷されること)が原因と考えられる。また,脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の経過は,おおよそ50%の症例で,初回くも膜下出血による脳損傷により死亡又は重大な後遺症を残している。 ,,,原告は被告病院に搬送される以前に少なくとも3回の出血を来たしその度に意識状態が悪化し,一時はJCSで200~300という状態まで陥った。また,被告病院入院後も退院に至るまで,意識が清明であったことは一度もなく,意識レベルが回復したことはない。なお,第2手術後に原告の意識レベルが低下したとの主張については,第2手術後の意識状,,。 態は鎮静剤の影響があり原告本来の意識レベルの判定は不能であったすなわち,原告の後遺障害のうち,意識障害については,被告病院に搬送される以前に発症したくも膜下出血による一次脳損傷を原因とするものであり,当初から見られた意識障害が完全には回復せず遷延し,後遺症として残存したものと考えるのが合理的である。 オくも膜下出血においては,くも膜下腔に広がった血液が原因となり,出( 原因とするものであり,当初から見られた意識障害が完全には回復せず遷延し,後遺症として残存したものと考えるのが合理的である。 オくも膜下出血においては,くも膜下腔に広がった血液が原因となり,出(),,血後4~14日の間7~10日がピークに血液の破壊産物によってくも膜下腔を走行する脳主幹動脈が刺激されて異常に細くなり脳血流不全を来す脳血管攣縮が起こる。くも膜下出血の量が多いほど,脳血管攣縮の発現頻度も増加するところ,本件では3回以上の脳動脈瘤破裂があり,出血量も多く,脳内に穿破しているから,脳血管攣縮により致命的になっても何ら不思議はない。 くも膜下出血例で永続的な麻痺を来す原因の多くは脳血管攣縮によるものである。 画像上も,11月12日のCT画像と同月19日のCT画像を比較すると,後者の画像において右側脳室前角外側に低吸収域が出現している。また,11月5日の脳血管撮影写真と同月19日の脳血管撮影写真を比較すると,後者について,動脈瘤に至る手前の部分の血管が細くなっている。 これは,同部分に脳血管攣縮があった痕跡であり,11月16日ころから原告に再び麻痺が出現した事実と符合する。 左前大脳動脈に血管攣縮があったということは,左下肢の運動野の中枢部分に栄養補給している血管に攣縮があった可能性があり,術後8日目に麻痺が再び出現したという経過からしても,原告の左下肢麻痺の原因は,くも膜下出血後の脳血管攣縮である可能性が高い。 (2) 争点(2)(第1手術において,クリップを掛け間違えた過失の存否)についてア注意義務違反(原告の主張)(ア) C医師には,前交通動脈と動脈瘤の区別を慎重に行ったうえで動脈瘤にクリップを掛けるべき注意義務がある。このことは,術中に慎重な観察を行えば十分可能なことであった。 (イ) 原告の場合,確か (ア) C医師には,前交通動脈と動脈瘤の区別を慎重に行ったうえで動脈瘤にクリップを掛けるべき注意義務がある。このことは,術中に慎重な観察を行えば十分可能なことであった。 (イ) 原告の場合,確かに右前大脳動脈A1部(以下前大脳動脈A1部を「A1」という)の血管が細く,左右のA1は交差しているという特。 徴があった。しかし,前大脳動脈及び前交通動脈にはバリエーションが,,多く原告の上記特徴もよく見られるバリエーションの一つであるからこれをもって手術の難易度が高いとまではいえない。 (ウ) 第1手術でC医師が前交通動脈にクリップを掛けたのは,左のホイブナー動脈を左前大脳動脈A2部(以下前大脳動脈A2部を「A2」という)と誤認したことが原因と考えられる。第1手術におけるクリッ。 ピングの前後には,左右のA1,A2及び左右のホイブナー動脈等の血管の存在を確認して,動脈瘤にクリップを掛けたことを確認する作業が必要である。上記確認作業を行えば,動脈瘤の位置の誤認は十分に回避可能なものである。C医師は上記確認作業を怠った。 (被告の主張)(ア) 脳動脈瘤頸部クリッピング術は,簡単な手術ではなく,くも膜下出血後の破裂例の特に重症例では脳の腫れも強く,狭い術野で少しずつ進行する。また,脳にダメージを与えないようなるべく短時間にクリップを掛けることを要求される。本件においても,最低3回のくも膜下出血により,くも膜下腔には血腫が充満しており,脳浮腫や水頭症の合併もあったことから,顕微鏡下で術野の展開をすることは困難であった。 (イ) 原告の右A1は未発達で痕跡化しており,前交通動脈の位置を確定するのが困難であった。さらに,動脈瘤は大脳半球間裂内に埋没しているうえ,左右のA1は交差しており解剖学的位置関係の同定が難しいなど,本件は難易度が高い例であっ 跡化しており,前交通動脈の位置を確定するのが困難であった。さらに,動脈瘤は大脳半球間裂内に埋没しているうえ,左右のA1は交差しており解剖学的位置関係の同定が難しいなど,本件は難易度が高い例であった。 (ウ) 本来であれば,動脈瘤周辺の脳を吸引するか,脳べらで押さえつけてスペースを広げ,動脈瘤を完全に露出すれば,クリップは正しい位置に掛けられるが,かかる作業により,脳にダメージを与え,本件以上に悪い後遺障害を与えることになったと予想され,C医師に動脈瘤を掘り起こし,その頸部にクリップを掛けることを要求することはできないというべきであり,回避可能性はない。 ,。 (エ) クリッピング前後には周囲血管との関係を確認する作業を行ったクリッピング後には,動脈瘤を掘り起こし,しぼんでいることを確認した。 クリップを掛け終わった後どこまで確認するかという点については,本件のように,重症例で脳浮腫が強く,狭く深い術野において正常脳を強く牽引,吸引しないと確認できない場合には,あえて行わないことも。 。 ある術中に慎重な観察を行えば十分に回避可能ということはできない(オ) 以上のとおりであり,前交通動脈にクリップを掛けたことは,手技上の過失と評価しうるものではない。 イ因果関係(原告の主張)(ア) 上記のとおり,C医師が前交通動脈にクリップを掛け,この部分で血流が遮断されたため,右前大脳動脈領域に脳梗塞を生じさせた。第2手術後の右前大脳動脈領域の脳梗塞の拡大には,第2手術もある程度の寄与があるが,第1手術で動脈瘤が処理されていれば第2手術はなかったことを考慮すれば,第1手術の際に前交通動脈にクリップをしたことが当該拡大の主な原因である。 ,,,(イ) さらに第1手術に成功していれば第2手術は不要であったから第2手術における脳動脈瘤 ことを考慮すれば,第1手術の際に前交通動脈にクリップをしたことが当該拡大の主な原因である。 ,,,(イ) さらに第1手術に成功していれば第2手術は不要であったから第2手術における脳動脈瘤破裂に引き続くテンポラリークリッピングによる血流遮断もなく,これによって生じたと考えられる左前大脳動脈領域の脳梗塞も発症しなかった。 (ウ) 以上より,第1手術における上記過失と原告の後遺障害との間には因果関係がある。 (エ) 被告の主張に対する反論第1手術の手技上の過失があるにもかかわらず,第1手術における動脈瘤破裂の抽象的な可能性があることをもって因果関係を否定するのは,本件各後遺症が手術の手技上の過失に起因するのではないかという諸事実を無視するもので,不当である。 (被告の主張)(ア) 右前大脳動脈領域の脳梗塞はごく一部にしか出現しておらず,前交通動脈の血流をクリップにより遮断したことが原因ではない。右前大脳動脈起始部が低形成で左前大脳動脈から血流を得ていても,他の側副血行路を介して血流が補われ,異常を見なかったものと思われる。 (イ) 前交通動脈瘤の手術は,正中線上にあるために術野が深く,同動脈を含め少なくとも5本の血管が動脈瘤と複雑に錯綜していることなどから,テント上動脈瘤では難易度の高いものの一つとされている。このことから,クリッピング術が複数回行われることもまれではない。また,1回目の手術後の脳血管撮影によりクリップが有効に掛かっていなかったことが判明し,再手術が行われることもある。本例が特別であったということではない。 (ウ) 第1手術後に見られた左片麻痺は,同手術5日後には消失し,同手術10日後に再び出現している。前交通動脈にクリップが掛かっている状態には変化がないのであるから,前交通動脈に対するクリップと左下肢麻痺の間 手術後に見られた左片麻痺は,同手術5日後には消失し,同手術10日後に再び出現している。前交通動脈にクリップが掛かっている状態には変化がないのであるから,前交通動脈に対するクリップと左下肢麻痺の間には因果関係はない。 (エ) 第1手術においても,脳動脈瘤が破裂する危険性はあったから,第2手術が実施されなければ術中破裂を止めるための血流遮断及びこれに引き続く脳梗塞は生じなかった,ということはできない。原告に生じた後遺障害は,重症くも膜下出血患者の手術予後として起こりうることであり,1回の手術で終了していたとしても,十分発生し得た。 (3) 争点(3)(第2手術において,血流遮断時間が長すぎた過失の存否)についてア注意義務違反(原告の主張)(ア) 脳動脈瘤の手術において,長時間血流を遮断すると,脳梗塞が生じることは予見可能である。本件では,術中破裂のケースであり,テンポラリークリップによる脳への影響は,術中破裂でないケースに比して重大なものとなること,複数回にわたって血流遮断措置を行えば脳梗塞を生じさせる危険性が高いこと,何らの脳保護剤を使用していないこと,といった事情もある。そして,遮断措置の一時的解除を長く行うなどの手段により,脳梗塞の発生を回避することは可能であった。 (イ) 具体的には,1回の遮断措置は10分以内とし,遮断時間と同じ長さの解除時間をとるべき注意義務があった。 止血が完了していない場合であっても,血流遮断中に出血点を確認しておき,動脈瘤の頸部へのクリッピングが難しければ,動脈瘤の体部に対してボディクリップを掛ける,又は,オキシセル綿球を出血点にあてるという方法により出血を抑えて遮断を解除することができる。あふれ出た血液が術野をわかりにくくする場合には,生理食塩水をまきながら血液を吸引除去することで対応できる。 オキシセル綿球を出血点にあてるという方法により出血を抑えて遮断を解除することができる。あふれ出た血液が術野をわかりにくくする場合には,生理食塩水をまきながら血液を吸引除去することで対応できる。 (ウ) C医師は,上記注意義務に違反し,前記前提事実(1)カのとおり,左前大脳動脈を2分間遮断後2分間解除,18分間遮断後6分間解除,10分間遮断した。 (被告の主張)(ア) 脳動脈瘤直達手術において,一時遮断に脳がどのくらいの時間耐えられるかを正確に予測することは不可能であるが,一般には20分未満の一時遮断であれば安全とされる。 (イ) 術中破裂が生じた場合,テンポラリークリップを使用しなければ,術野は血液であふれ,出血多量で致命的になるのであり,血流遮断はやむを得ない措置である。遮断時間が長時間にならないように注意を払いながら,動脈瘤を剥離し,出血点を確認し,動脈瘤にクリップを掛けて止血ができれば,テンポラリークリップを解除できる。現に出血が続いているときに一時的解除を長時間行うことは不可能である。止血に難渋し,やむを得ず一時遮断が長期に及ぶ場合もあるが,必ず脳梗塞が生じるとは限らない。 原告は,ボディクリップ,オキシセル綿球による圧迫,吸引除去の方法を挙げるが,出血部位や血管の位置関係の把握ができていない状態でボディクリップにこだわると出血部位を広げるおそれがある。綿球による圧迫も,出血量が多いときには危険である。吸引除去では,血流を灌流させることにはならない。 (ウ) 第2手術においては,2分,18分,10分の遮断を行った。いずれも短時間で一時遮断を止め,灌流しており,一時遮断による虚血の発生に最大限注意を払っている。 また,術中には,イソフルレン及びチオペンタールという脳保護作用のある薬剤も使用していた。 ,,(エ) 以上のと 一時遮断を止め,灌流しており,一時遮断による虚血の発生に最大限注意を払っている。 また,術中には,イソフルレン及びチオペンタールという脳保護作用のある薬剤も使用していた。 ,,(エ) 以上のとおりでありテンポラリークリップによる血流遮断措置は脳動脈瘤頸部クリッピング術施行の際回避できない手術操作の一過程であり,過失と評価されるものではない。動脈瘤頸部や親動脈が断裂し,親動脈ごと永久的にクリッピングせざるを得ない場合もあるのであり,仮に,術中の血流遮断が原因で脳梗塞が起こったとしても,それは救命手術である脳動脈瘤クリッピング術に伴うやむを得ない合併症である。 イ因果関係(原告の主張)(ア) テンポラリークリップによる遮断時間が38分の間に30分と長時間であること,及び第2手術の翌朝には半覚醒という梗塞の症状が出ていたことを考えると,上記注意義務違反の結果,左前大脳動脈領域に脳梗塞が発生したというべきである。 (イ) 被告の主張に対する反論a側副血行があったことは,ある程度の血流が存在したということにすぎず,梗塞を回避できる程度の血流があったことを意味しない。 ,,b心原性塞栓はほとんどの場合中大脳動脈領域に流入するのであり前大脳動脈領域が単独閉塞するのは0.4%と極めて低いこと,原告には典型的な心房細動の心電図所見が認められないこと,心内血栓の存在が証明されていないことなどからすれば,左前大脳動脈領域の脳梗塞は心原性脳塞栓症が原因ではない。 (被告の主張)(ア) 第2手術における血流遮断措置は,原告に生じた左前大脳動脈領域の脳梗塞の原因ではない。一般にテンポラリークリップによる虚血の発生は穿通枝領域である。短時間の血流遮断により主幹動脈領域全体が梗塞に陥ることはまれである。 ,()またテンポラリークリップの使用 脳梗塞の原因ではない。一般にテンポラリークリップによる虚血の発生は穿通枝領域である。短時間の血流遮断により主幹動脈領域全体が梗塞に陥ることはまれである。 ,()またテンポラリークリップの使用により最終ADL日常生活動作に影響を及ぼすような重大な後遺症が残ることはない。 (イ) 第2手術の翌朝に見られた半覚醒の状態は,全身麻酔による手術の影響として何ら不思議はない。 (ウ) 血管の一部の血流が妨げられると,この部分の前後を連絡している吻合枝を通って血液が流れ,上記血管の分布域の循環の回復が図られる(側副循環。 )本件においても,本来であれば,第1手術時に前交通動脈にクリップが掛けられていたことから,第2手術時においては,左A1にクリップをかければ動脈瘤からの出血はなくなるはずであるところ,実際には左A1をテンポラリークリップで遮断しても出血は止まらなかった。このことは,側副血行路により左A2灌流領域の血流が完全に遮断されていなかったことを示している。 したがって,左A1,A2の血流遮断措置が原因となって,左A2の灌流領域である左前大脳動脈領域全体に脳梗塞を生じさせたという説明には無理がある。 (エ) 原告には,11月7日及び8日に発作性上室性頻拍,11月8日には発作性心房細動が認められた。これらの心疾患を原因として,周術期に心原性塞栓症が発生し,その結果,左前大脳動脈領域の脳梗塞を発症した可能性も十分考えられる。 ,,. 中大脳動脈に比べ前大脳動脈が閉塞・狭窄することは少ないが06~3%発生しており,同閉塞・狭窄の原因としては,内頸動脈ないし心臓からの塞栓が63%を占めている。本例のように前大脳動脈水平部の発達に左右差が著しい場合には,塞栓子が前大脳動脈に流入する可能性は十分ある。 (4) 争点(4)(第2手術における説明義務 ないし心臓からの塞栓が63%を占めている。本例のように前大脳動脈水平部の発達に左右差が著しい場合には,塞栓子が前大脳動脈に流入する可能性は十分ある。 (4) 争点(4)(第2手術における説明義務違反の存否)についてア注意義務違反(原告の主張)医師が患者に対し,侵襲を伴う医療行為を行う場合には,患者の自己決定権を保障するため,当該治療の内容,目的等の説明をした上で,患者又は患者が決定できないときはそれに代わる者の同意を得る必要がある。 本件につき,第2手術の同意を得るに際して,C医師は,原告の父であるDに対し,(ア)第1手術において,動脈瘤ではなく前交通動脈にクリッピングをしたことから,第2手術が必要になったこと,(イ)第2手術における術中破裂の危険性,について十分説明をすべきであったが,これらの事実を伝えず,動脈瘤が残存していることを説明したのみであった。 (被告の主張)(ア) 一般論については認める。 (イ) C医師は,第2手術の術前に,Dらに対し,11月5日と同月19,,,日の脳血管撮影写真を提示し以下の事項を時間をかけて十分説明し納得の上で手術の承諾を得た。 ①第1手術において,クリップがうまく動脈瘤に掛かっていなかったこと,及び,そのために動脈瘤が残存していること②このまま放置すると近い将来再出血を起こす可能性があること③再出血を防ぐには再手術をするしかないこと(手術の必要性)④手術の目的はあくまでも再破裂の予防であり,手術をすることにより現在の神経症状が改善されるものではなく,場合によっては悪化することもありうること(手術の危険性)(ウ) また,第2手術の手術承諾書には,以下の記載があることから,Dは,手術の合併症についても十分認識した上で同意したものと考えられる。 ①「麻酔導入中などに残存した動脈瘤 ること(手術の危険性)(ウ) また,第2手術の手術承諾書には,以下の記載があることから,Dは,手術の合併症についても十分認識した上で同意したものと考えられる。 ①「麻酔導入中などに残存した動脈瘤から出血することがあり,出血がひどい場合は手術を中止せざるをえないこともある」②「手術により血管や神経が傷つき,それにより後遺症が残ることがある」イ因果関係(原告の主張)上記説明義務が尽くされていれば,Dは第2手術に同意せず,別の方法や転院などの検討も行っていた可能性が高いから,上記説明義務違反と原告に残存した後遺障害の間には相当因果関係がある。 (被告の主張)(ア) 一般人が,脳動脈瘤の存在を知り,その破裂の危険性を考えた場合に,手術以外の方法を採ることは考えられない。 また,Dは,11月4日の原告の状態から,くも膜下出血の恐ろしさを認識していたのであり,再手術しない限り再出血の可能性が常につきまとい,最悪死亡するか,よりひどい後遺症が残る可能性が高いと考えたであろうから,Dが,第2手術に同意しなかった可能性はほとんどない。 (イ) Dが,輸送中に起こるかもしれない再破裂の危険を冒して重体である原告を転院させようと考えたとは到底認め難い。 (5) 争点(5)(損害)について(原告の主張)ア逸失利益1億0200万1780円原告は,第1及び第2手術当時,43歳であり,あと24年就労可能であったところ,同手術により100%労働能力を喪失する後遺障害を残し。 (),た同手術前平成12年度の原告の年収は739万1969円でありこれを基礎にライプニッツ方式により中間利息を控除すると,逸失利益は1億0200万1780円になる。 イ慰謝料2500万円原告は,遷延性意識障害により意思の疎通ができず,右上下肢麻痺及び左下肢麻痺 を基礎にライプニッツ方式により中間利息を控除すると,逸失利益は1億0200万1780円になる。 イ慰謝料2500万円原告は,遷延性意識障害により意思の疎通ができず,右上下肢麻痺及び左下肢麻痺により,いわゆる寝たきりの状態になり,自宅での介護を受けている。この苦痛を慰謝するには,2500万円が相当である。 ウ付添看護料3884万7315円原告は,第1手術及び第2手術から,同手術当時の平均余命である35年,近親者付添を必要となった。同付添看護料として1日6500円が必要であるところ,ライプニッツ方式により中間利息を控除すると,付添看護料は3884万7315円となる。 エ弁護士費用1600万円事案にかんがみ,被告の負担すべき弁護士費用としては,1600万円が相当である。 オ被告の主張に対する反論本件の場合は,第1手術前の重症度より,第2手術前の重症度の方が,原告の予後を予想する上で重要であり,第2手術前の重症度は,H&K分類でグレードⅢである。一次脳損傷の影響がほぼ固定したと考えられる第2手術前の意識状態・神経症状から考えると,一次脳損傷による障害は,原告がGOSの重度障害以上の予後不良に至る程度のものではなかった。 鑑定書が指摘するように,仮に一次脳損傷による寄与が,GOSの中等度障害程度の可能性があるとしても,原告が自立した社会生活を営めるかどうかという観点からすれば,中等度障害と,原告の現状である重度障害とでは格段の差異が認められるから,損害額算定に際しても,一次脳損傷の後遺症への寄与の可能性を過大視すべきでない。 (被告の主張)争う。 アくも膜下出血患者においては,GOSの重度障害以上の予後不良例が約40%存在しており,死亡率は10~67%と報告されている。予後によく相関するのは発症時の意識障害の程度であり,発症 張)争う。 アくも膜下出血患者においては,GOSの重度障害以上の予後不良例が約40%存在しており,死亡率は10~67%と報告されている。予後によく相関するのは発症時の意識障害の程度であり,発症後に予後を悪化させる因子しては再出血と遅発性脳血管攣縮が重要であり,特に再出血は高率に予後を悪化させる。脳動脈瘤破裂によりくも膜下出血を来した患者の予,,。 後は出血の程度でほぼ決まり意識障害の強い症例の予後は極めて悪いイ原告の場合,B病院で少なくとも2回以上動脈瘤の再破裂を起こしていること,また,被告病院搬送時の意識程度はGCSで10点,重症度はH&K分類でグレードⅣであったことからすれば,手術をしても重篤な後遺症が残る可能性は高く,良好な転帰が期待できる可能性は決して高くなかった。 ウまた,脳神経外科医が,GOSの良好な回復と判定した患者でも,軽度から高度な知的機能障害が認められる者が多い。神経心理学的に不良であった患者は,高齢者や前交通動脈瘤の症例に多かったとの報告がある。良好な回復と評価されても,当然に,日常生活動作が自立でき,社会復帰できることにはならない。 第3当裁判所の判断 争点(1)(本件障害が発生した機序)について(1) 左下肢麻痺の後遺障害についてア証拠(乙A1号証)によれば,原告の四肢の状態について,以下の事実が認められる。 (ア) 11月5日に原告が被告病院に搬送された時点において,左下肢は痛みに対する反応が弱い状態であった(乙A1号証2頁)。 (イ) 11月6日午前3時ころ,四肢は痛覚にて動きがあるが,左下肢はやや鈍かった(同448頁)。 同日午前9時40分ころ,離握手はできたが,左の握力が弱かった。 左下肢は,痛みに対しわずかに動かすのみであった(同123頁)。 同日午後2時ころ,四肢の動きは上 肢はやや鈍かった(同448頁)。 同日午前9時40分ころ,離握手はできたが,左の握力が弱かった。 左下肢は,痛みに対しわずかに動かすのみであった(同123頁)。 同日午後2時ころ,四肢の動きは上下肢共に右の方が活発だが,左下肢も膝立ての運動が可能であった(同454頁)。 同日午後7時30分ころ,左片麻痺(上肢より下肢が強い)と診断された(同123頁)。 (ウ) 11月7日午前11時30分ころ,左片麻痺は改善と診断された。 (同123頁)(エ) 11月8日午後3時ころ,左片麻痺は改善傾向と診断された(同。 124頁)(オ) 11月10日から11月15日まで,四肢麻痺なしと診断された。 (同124,126,127頁)(カ) 11月16日午後6時ころ,左下肢の動きが悪かった(同127。 頁)(キ) 11月17日午前10時ころ,四肢麻痺はないが,左下肢がやや弱かった(同127頁)。 (ク) 11月18日午前9時ころ,左上下肢の若干筋力低下ありと診断された(同127頁)。 (ケ) 11月19日午後4時30分ころ,自力での膝立てはできないが,促すと保持はできた(同465頁)。 (コ) 11月20日午前10時ころ,上肢の動きは活発だが,下肢は自発的な動きがあまり見られなかった(同471頁)。 同日午前11時ころ,自力での膝立てはできないが,促すと保持はできた(同472頁)。 (サ) 11月21日午前0時15分ころ,左上下肢の運動(+)と診断された(同129頁)。 同日午後2時ころ,四肢の動きが若干見られた(同474頁)。 同日午後6時ころ,離握手がかすかにあった(同130頁)。 (シ) 11月22日午前2時ころ,左手は握ることができた。左上肢の動きがあった(同474,475頁)。 同日午前11時15分ころ,かすかに離握手可能であっ 離握手がかすかにあった(同130頁)。 (シ) 11月22日午前2時ころ,左手は握ることができた。左上肢の動きがあった(同474,475頁)。 同日午前11時15分ころ,かすかに離握手可能であった(同130頁。 )(ス) 11月26日午後9時ころ,上肢に強い右片麻痺と診断された(同。 137頁)(セ) 11月27日午前9時ころ,右片麻痺と診断された(同138頁)。 (ソ) 12月3日午前9時ころ,右片麻痺と診断された(同142頁)。 (タ) 前記前提事実(2)のとおり,現在,原告は,右上下肢麻痺及び左下肢麻痺の状態にある。 イ上記経過を総合すれば,原告の左下肢は,第1手術前及び第1手術直後に麻痺が認められたが(11月5日の看護記録には,被告病院搬送時点である午前10時30分の欄に「麻痺なし」とあり,午前11時15分の欄にも「四肢麻痺(-」とあることから(乙A1号証447,448頁,))第1手術前の原告の左下肢麻痺の状態はさほど重篤なものではなかったと認められる,11月10日には麻痺が消失し,11月16日ころに若。)干麻痺が再出現し(第2手術前日の11月19日は第1手術直後と同程度,第2手術後に完全麻痺の状態になったと認められる。 ),。 ウ以上を前提として現在原告に生じている左下肢麻痺の原因を検討する11月5日撮影(乙A5,6号証。第1手術前のもの)及び11月6。 日撮影(乙A7号証。第1手術直後のもの)の頭部CT画像(以下頭部。 CT画像については「11月5日画像」などと略称する)を比較する,。 と,11月5日画像において右側脳室付近に認められる高吸収域(血腫)が,11月6日画像では縮小していることが認められる。また,これらの画像と11月12日画像(乙A8号証)を比較すると,11月12日画像では,11月5日 おいて右側脳室付近に認められる高吸収域(血腫)が,11月6日画像では縮小していることが認められる。また,これらの画像と11月12日画像(乙A8号証)を比較すると,11月12日画像では,11月5日及び11月6日画像で認められる右側脳室付近の高吸収域と一致する部位及び右前頭葉運動野に低吸収域が認められる。11月12日画像の低吸収域の範囲は,11月5日及び11月6日の高吸収域の範囲より明らかに拡大しており,鑑定人E(以下「鑑定人」という)が指。 摘するように,血腫の影響よりも広い範囲に低吸収域が認められるといえる。 次に,被告は,11月12日画像と11月19日画像(乙A9号証。第2手術前のもの)を比較した場合,右側脳室前角外側の低吸収域が拡大。 したと主張し,これに沿う証拠があるが(証人Cの証言(以下「C証言」という)12,13頁,鑑定人はこれを否定する。確かに,被告が指。 )摘する11月19日画像スライスナンバー8の右側脳室前角外側付近に低吸収域が認められるが,11月12日画像と11月19日画像を比較する,,,と後者は水頭症により脳室が拡大し低吸収域を圧排していることから両者を単純に比較することが困難であり(この点はC証人も認めている,直ちに低吸収域の拡大があるとはいい難い。 。)さらに,11月19日画像と11月22日画像(乙A11号証。第2手術後のものを比較すると右前頭葉の低吸収域の拡大が認められる鑑。),(定の結果。 )エこれらCT画像の推移と,原告の左下肢麻痺の症状の推移を併せ検討する。第1手術後に若干認められた原告の左下肢麻痺は,第1手術後に一旦消失しているから,一次脳損傷が現在の麻痺の原因であるとはいい難い。 また,第1手術から第2手術の間に再度出現した左下肢麻痺は第1手術前,,後程度のものであ た原告の左下肢麻痺は,第1手術後に一旦消失しているから,一次脳損傷が現在の麻痺の原因であるとはいい難い。 また,第1手術から第2手術の間に再度出現した左下肢麻痺は第1手術前,,後程度のものであったのに第2手術後は完全麻痺となったのであるから第1手術から第2手術の間に生じた脳梗塞の拡大が現在の麻痺の原因であるとはいい難く,第2手術後に拡大した脳梗塞が完全麻痺の主たる原因であると認められる。 オところで,被告は,原告の左下肢麻痺の原因は脳血管攣縮によるものであると主張する。脳血管攣縮の存在が画像上確認できるのは,11月19日撮影の脳血管画像(乙A18,19号証)における左A1と左A2の結合部付近(以下「コーナー部」という)の狭窄であるが,第1手術によ。 って前交通動脈そのものにクリップがかけられているため,左A1から右A2に対する血液の供給はそもそも途絶しているから,かかる狭窄が第1手術と第2手術の間に再出現した軽度の左下肢麻痺の原因とはいえないし,当該画像の時点では,既に脳血管攣縮が治まりつつある(甲B10号証,C証言11頁)から,この狭窄により,第2手術後の左下肢完全麻痺が生じたともいえない。 また被告は,コーナー部に脳血管攣縮が認められるということは,左下肢運動野の中枢部分に栄養を補給している血管に攣縮があった可能性があるという。確かに,証拠(乙A1号証)によれば,原告は,B病院受診中に少なくとも2度意識低下を起こしていることから,自宅での最初の破裂を含めて,動脈瘤が少なくとも3度破裂し,血液が脳室内にも穿破しており,くも膜下出血の出血量が多く(乙A1号証2,4,89,112頁,,),。 乙A56号証脳血管攣縮を起こしやすい状態であったと認められる鑑定人も,第1手術と第2手術の間の右A2への血流は,主に右後大脳動脈 出血量が多く(乙A1号証2,4,89,112頁,,),。 乙A56号証脳血管攣縮を起こしやすい状態であったと認められる鑑定人も,第1手術と第2手術の間の右A2への血流は,主に右後大脳動脈からの側副血行であるところ,左下肢麻痺が再出現していることから,右A2より末梢の右前大脳動脈に脳血管攣縮が起きていた可能性は否定できないとしている。脳血管攣縮による脳梗塞・局所症状はくも膜下出血発症後4日から14日ころに出現するから(甲B10号証,鑑定人の指摘)するように,第1手術と第2手術の間に生じた軽度の左下肢麻痺が脳血管攣縮によるものであることは否定はし得ない。しかし,上記アで認定したとおり,左下肢の完全麻痺は第1手術前最後の出血(11月5日午前3時ころ。乙A1号証4頁)から少なくとも16日以上経過した後に認めら。 れたのであるから,軽度麻痺から更に進んで完全麻痺となった原因は第2手術後に拡大した脳梗塞であるとの認定は妨げられない。 カ以上により,原告に現に存在する左下肢麻痺は,第2手術直前に認められた軽度の麻痺の限度で,第1手術と第2手術の間に生じた可能性がある脳血管攣縮の影響を否定はできないが,完全麻痺にまで至った原因は第2手術後に拡大した脳梗塞であると認められる。 (2) 右下肢麻痺の後遺障害について第2手術後に生じた原告の右下肢麻痺は,第2手術後に生じた左前大脳動脈領域の脳梗塞が原因であると認められる(乙A11,12号証,鑑定の結果。 )(3) 右上肢麻痺の後遺障害についてアこの点について,鑑定人は,ホイブナー動脈(前大脳動脈の穿通枝)の閉塞症状として上肢優位の上下肢麻痺等が報告されているところ,第2手(。 。)術後に認められる左尾状核頭部ホイブナー動脈の灌流域甲B1号証の脳梗塞及び左内包後脚を含めた放線冠の淡 穿通枝)の閉塞症状として上肢優位の上下肢麻痺等が報告されているところ,第2手(。 。)術後に認められる左尾状核頭部ホイブナー動脈の灌流域甲B1号証の脳梗塞及び左内包後脚を含めた放線冠の淡い低吸収域に,くも膜下出血による一次脳損傷が加わって,原告の右上肢麻痺が出現した可能性が高いと結論付けている。 なお,被告は,原告に生じた右上肢麻痺の原因は不明としつつ,F作成の意見書(乙A22号証。以下「F意見書」という)を引用し主張して。 ,。 ,いるがF意見書も麻痺の原因は脳梗塞であることを認めているただしF意見書には「回復不能な程度の高度な麻痺を生じたのは,むしろCT,所見で見られるように,術後出血性梗塞を伴った結果である」とあり,後遺障害の責任病巣を明らかにしていないが,鑑定の結果と矛盾するものではない。 イもっとも,鑑定人は,上記アのとおり,くも膜下出血による一次脳損傷も加わって原告の右上肢麻痺が生じたとしている。原告の右上肢麻痺は第2手術前には認められず,第2手術後に発生したものであるから,第2手術後に認められる上記脳梗塞(又は低吸収域)の影響が大きいと推認されるが(鑑定の結果同旨,一部に一次脳損傷の影響もある(ただし,その)程度は不明)ということになる。 (4) 遷延性意識障害の後遺症についてア証拠(乙A1号証)によれば,原告の意識状態について,以下の事実が認められる。 (ア) 11月4日午後10時ころ,自宅で飲酒中に意識を消失した(乙。 A1号証4,366頁)同日午後11時ころ,B病院受診時は意識清明であったが,直後に意識レベルがJCS100程度まで低下した。以降,意識回復と消失を繰り返した(同4,366頁)。 (イ) 11月5日午前3時ころ,意識レベルがJCS100から200程度まで低下した(同4,366 意識レベルがJCS100程度まで低下した。以降,意識回復と消失を繰り返した(同4,366頁)。 (イ) 11月5日午前3時ころ,意識レベルがJCS100から200程度まで低下した(同4,366頁)。 同日午前10時30分ころ(被告病院転院直後,意識レベルはJC)S3A(A」は無動性無言を示す)から20,GCS10点(開眼「。 は自発的に開眼する(4点,言語反応は理解不明の音声(2点,運))動反応は逃避する(4点)であった(乙A1号証2頁,乙B4号証))。 (ウ) 11月6日午前2時ころ,JCS100であった(同123頁)。 同日午前9時40分ころ,JCS2であった。名前と年齢が言えた。 (同123頁)(エ) 11月7日午前11時30分ころ,JCS2であった。名前と年齢,。 。()は言えるが日付と場所は言えなかった独語があった同123頁(オ) 11月8日午後0時ころ(昼食時,看護師に対し「ごはん食べれ),るよ。好き嫌いはない」などと話した(同455頁)。 。 ,。 ,。 同日午後3時ころJCS2であった名前年齢及び場所が言えた念仏を唱えたりした(同124頁)。 (カ) 11月9日午前11時ころ,時々意味不明の言動があるが,話をするとまともな返答があった(同124頁)。 同日午後1時ころ(昼食時,看護師に対し「ほうれん草おいしい),よ」などと話した(同457頁)。 。 この日,念仏を唱えることが多かった(同457ないし459頁)。 (キ) 11月10日午前10時ころ,JCS2だが,傾眠傾向であった。 (同124頁)同日午後10時ころ,質問に対して仕事に関する話をするなどした。 (同460頁)(ク) 11月11日午前10時ころ,JCS3,GCS14点であった。 ,,,。 名前は言えるが (同124頁)同日午後10時ころ,質問に対して仕事に関する話をするなどした。 (同460頁)(ク) 11月11日午前10時ころ,JCS3,GCS14点であった。 ,,,。 名前は言えるが年齢は34歳現在8月場所は名古屋だと返答した(同124,460頁)(ケ) 11月12日午前9時ころ,JCS2ないし3であった(同12。 6頁)(コ) 11月13日午前10時30分ころ,名前と年齢は言えるが,場所は言えなかった。念仏を唱えたりしていた(同126頁)。 (サ) 11月14日午前10時ころ,JCS2であった(同126頁)。 同日午後7時ころ,時々念仏を唱えるが,質問に対する返答はなかった(同462頁)。 (シ) 11月15日午後6時ころ,JCS2であった。名前と年齢が言えた(同127頁)。 (ス) 11月16日午後6時ころ,JCS2であった。念仏をあまり唱えなくなった(同127,463頁)。 (セ) 11月17日午前10時ころ,JCS2であり,医師に対し「おはよう」と言った(同127頁)。 。 同日午後2時ころ,おむつ交換中に看護師に対し「わざとしたよ。 ,へへへへへ」などと言った。名前を答えることができるが,時間を要。 した。念仏を唱えることは少なくなった(同464頁)。 (ソ) 11月18日午前9時ころ,JCS2であった(同127頁)。 この日,名前を言えるが,なかなか言葉にしない時があった(同4。 64頁)(タ) 11月19日午前2時ころ,名前を聞かれて「知らん」と答えた,。 が,何度目かで言えた(同464頁)。 同日午前9時ころ,JCS2だが傾眠であった(同129頁)。 脳血管撮影検査後,名前,年齢,日付,場所が言えなかった。念仏を大声で唱えたりした(同471頁)。 (チ) 11月20日午後2時ころ,名 同日午前9時ころ,JCS2だが傾眠であった(同129頁)。 脳血管撮影検査後,名前,年齢,日付,場所が言えなかった。念仏を大声で唱えたりした(同471頁)。 (チ) 11月20日午後2時ころ,名前,年齢,日付,場所を言うことができなかった(同472頁)。 (ツ) 11月21日午後6時ころ,JCS3Aであった(同130頁)。 (テ) 11月22日午前9時ころ,JCS2~3Aであった(同130。 頁)(ト) 11月23日午前10時ころ,JCS3Aであった(同137頁)。 (ナ) 11月24日午前9時ころ,開眼しているが発語はなかった(同。 137頁)同日午後6時ころ,従命は不可であった(同477頁)。 (ニ) 11月26日午前9時ころ,JCS3Aであった。強い刺激で「痛い「えらい」程度の発語が見られた。従命は不可(同137頁)」。 (ヌ) 以降,意識レベルはJCS3Aで変化はない。声掛けに視線を合わせたり,うなり声を上げたり「おう」などと答えることもあるが,,。 基本的に発語は見られない(同137頁以下,478頁以下)。 。 イ以上の経過を総合すると,第1手術後に,原告の意識状態はかなり変動がみられたものの,くも膜下出血による一次脳損傷の影響がほぼ固定した時期と考えられる第2手術直前の11月19日にはJCS2と判定されたが(鑑定の結果,第2手術後はJCS3Aで固定したと認められる。第)2手術直前の「名前が言えない状態」はJCS3に匹敵する意識状態ではあるが,JCS3Aは単なる3とはかなり違い,場合によっては,JCS3AはJCS100に近いと判断されたり,JCS20よりJCS3Aの方が意識障害としては強いと判断する場合もある(C証言34頁。実際)の所見としても,第2手術後は自発性が喪失し,従命が不可となり,発語自体がほ 00に近いと判断されたり,JCS20よりJCS3Aの方が意識障害としては強いと判断する場合もある(C証言34頁。実際)の所見としても,第2手術後は自発性が喪失し,従命が不可となり,発語自体がほとんど見られなくなっているから,やはり意識状態が悪化したものというべきであり,その原因は,第2手術後の前大脳動脈の灌流域であ(,る両側前頭葉の脳梗塞第2手術後に拡大した右前大脳動脈領域の脳梗塞第2手術後に発生した左前大脳動脈領域の脳梗塞)であると認められる。 また,前記1(1)ウで認定したとおり,11月5日及び6日画像と11月12日画像を比較すると低吸収域が拡大しているが,原告の意識レベルは,11月11日がJCS3,11月12日がJCS2~3であったものの,11月13日以降はJCS2であり,低吸収域の拡大とは関係なく推移しているから,第1手術と第2手術の間に認められた脳梗塞の拡大は原告の意識障害に影響があるとはいえない。よって,前述のとおり,原告の意識レベルは,一次脳損傷の影響がほぼ固定した時期においてJCS2であったのであるから,この限度において一次脳損傷による後遺障害であると認められる。 争点(3)(第2手術において,長時間血流を遮断した過失の存否)について前記前提事実(1)カのとおり,第2手術において,動脈瘤を剥離露出する途中,同動脈瘤が破裂したため,C医師は,左前大脳動脈に対してテンポラリークリップを計3回(血流遮断時間及び解除時間は2分間遮断(左A1,2分),(,),,(,間解除18分間遮断左A1A26分間解除10分間遮断左A1A2)使用したが,かかる行為が注意義務に違反するものと評価できるかど)うかについて検討する。 この点につき,原告は,①1回の遮断時間は10分以内とし,遮断時間と同じ長さの 10分間遮断左A1A2)使用したが,かかる行為が注意義務に違反するものと評価できるかど)うかについて検討する。 この点につき,原告は,①1回の遮断時間は10分以内とし,遮断時間と同じ長さの解除時間を取るべきであった,②止血が完了していない場合であっても,動脈瘤体部へのクリップやオキシセル綿球を出血点に当てるといった方法により出血を抑えて遮断を解除することができる,③出血により術野がわかりにくい場合は吸引除去で対応できる,と主張する。確かに,テンポラリークリップによる10分以内の遮断であっても低吸収域が出現することが報告されているが(甲B2号証,20分以内が安全域であるとの報告もあり(乙B3号)証,甲B2号証の報告だけをもって直ちに1回の遮断時間を10分以内にす)べきであるとはいえない。また,遮断時間と同程度の解除時間を取るべき注意義務があると認めるに足る証拠はない。クリッピング術撮影ビデオ(乙A2号証)を検討しても,出血点が分からず,動脈瘤体部へのクリップという方法により出血が抑制できるか不明であるし,出血が多いため,出血点を確認後綿球を当てる方法も現実的とは認められない。さらに,吸引除去の方法では血液を灌流させることにならないことは,被告の指摘するとおりである。テンポラリークリップによる遮断回数,遮断時間,解除時間につき医学上不適切な点はなく(鑑定の結果,第2手術におけるテンポラリークリップの使用が注意義務)に違反するものとは認められない。 争点(2)(第1手術において,クリップを掛け間違えた過失の存否)について(1) 注意義務違反アまず,一般に,前交通動脈瘤の手術は,動脈瘤が正中線上にあり術野が深いこと,動脈瘤の付近に5本の血管が存在することから,難易度が高い手術の一つとされる(乙B8号証,鑑定の結果。 ) 注意義務違反アまず,一般に,前交通動脈瘤の手術は,動脈瘤が正中線上にあり術野が深いこと,動脈瘤の付近に5本の血管が存在することから,難易度が高い手術の一つとされる(乙B8号証,鑑定の結果。 )また,本件の場合,急性期の手術であり,硬膜を開くと脳が膨隆してくるなど脳腫脹も強いことから,正常な脳をなるべく傷つけないように圧排し,術野を確保するのが難しく,第1手術の難易度は通常の前交通動脈瘤(,)。 ,手術より高いと認められる乙A1号証112頁鑑定の結果加えて原告の左右のA1が交差している上,右A1が低形成でほぼ瘢痕化していたり,前交通動脈から比較的よく発達した穿通枝が分枝するなど通常の前交通動脈瘤より複雑な解剖学的特徴を持っていたことから,動脈瘤頸部の正確な把握が困難な部類にも入ると認められる(乙A1号証112,135頁,鑑定の結果。 )イ一方,被告も認めるとおり,くも膜下出血を発症した患者の予後を悪化させる最大の因子は動脈瘤の再破裂による再出血であるといわれる(乙B1号証,鑑定の結果。脳動脈瘤頸部クリッピング術の目的はかかる再出)血の予防にあるから,執刀医には,動脈瘤の頸部を確認の上クリッピングを行い,かつ,クリッピングが正確に行われたかどうか確認すべき注意義務があるというべきである(鑑定の結果。 )ウこれを本件についてみるに,クリッピング術撮影ビデオ(乙A2号証)を検討すると,鑑定人の指摘するように,動脈瘤の頸部の正確な確認がされないままクリッピングが行われていることが認められる。また,クリッピングが正確に行われたかどうかの確認作業も,動脈瘤の頸部と思われる部分をクリップした後,動脈瘤と思った部分を少し掘り起こしたところ,しぼんでいるように見えたという程度である(乙A1号証112頁,乙A23号証,C証言7 かどうかの確認作業も,動脈瘤の頸部と思われる部分をクリップした後,動脈瘤と思った部分を少し掘り起こしたところ,しぼんでいるように見えたという程度である(乙A1号証112頁,乙A23号証,C証言7頁。なお,クリッピング術撮影ビデオ(乙A2号証)には,かかる作業部分の録画はない。 。)エこの点について,被告は,動脈瘤を完全に露出させる作業を行えば,脳にダメージを与え,本件以上に悪い後遺障害を与えることになったと予想されるし,クリッピング後の確認作業はあえて行わないこともあるから,C医師に回避可能性はなかったと主張する。 しかし,動脈瘤にクリップが正確に掛かっていない場合には再破裂を予防できず,再出血により後遺障害のみならず死に至る危険があるし,誤って動脈そのものをクリップした場合には,血流が遮断されて重大な後遺障害が生じるおそれもあるから,動脈瘤の露出作業により脳にダメージを与えて本件以上に悪い後遺障害を与えるとの一般的な可能性があることをもって,執刀医に,動脈瘤ではなく血管そのものにクリップを掛けたことに対する回避可能性がないということはできない。鑑定の結果によれば,本件の場合,動脈瘤及び周囲血管の更なる露出が不可能であるという状況ではないこと,また,クリップが動脈瘤頸部と全く関係ないところに掛かっていたために再手術に至る例は極めて少ないと認められることからすれば,C医師が動脈瘤の頸部を正確に確認しないままクリッピング作業を行い,クリップを動脈瘤ではなく前交通動脈に掛けた点は注意義務に違反するものと評価せざるを得ない。 (2) 因果関係ア前記1のとおり,原告の後遺障害の原因は,第1手術から第2手術の間に生じた脳梗塞の拡大ではなく,第2手術後に認められる脳梗塞の発生又は拡大及び一次脳損傷であると認められる。 イまず,第2手術 ア前記1のとおり,原告の後遺障害の原因は,第1手術から第2手術の間に生じた脳梗塞の拡大ではなく,第2手術後に認められる脳梗塞の発生又は拡大及び一次脳損傷であると認められる。 イまず,第2手術後に認められる左前大脳動脈領域の脳梗塞の発生の原因について検討する。 (ア) 鑑定の結果によれば,左前大脳動脈領域の脳梗塞の発生は,第2手術の際のテンポラリークリップの使用による血流遮断が主な原因であるとされる。 (イ) この点につき,被告は,テンポラリークリップによる虚血の発生は穿通枝領域であり,短時間の血流遮断により主幹動脈領域全体が梗塞に陥ることはまれである旨主張する。 確かに,テンポラリークリップによる皮質枝領域の梗塞の発生は,穿通枝領域における発生に比べ出現頻度がはるかに低いことが認められる(甲B2号証。 )しかし,第2手術中,左前大脳動脈に対してテンポラリークリップが((),(,計3回血流遮断時間はそれぞれ2分間左A118分間左A1A2,10分間(左A1,A2)使用されているところ,前大脳動))脈の完全閉塞により片麻痺が発生しうること(乙B14号証,テンポ)ラリークリップは短時間(10分以内)の使用でも灌流域に脳梗塞を発,,症させることがあり20分以上の使用では高頻度で脳梗塞を発症させ術中破裂を伴う場合にはより強くテンポラリークリップの影響が出ることが報告されていること(甲B2号証,テンポラリークリップによる)1回の血流遮断時間が安全範囲と言われる時間内であっても,反復使用により脳に重大な影響を与える可能性があることも報告されていること(甲B3号証)からすれば,テンポラリークリップにより,原告の左前大脳動脈領域全体に脳梗塞が発生することは十分にあり得るというべきである。被告は,原告主張のような症例 があることも報告されていること(甲B3号証)からすれば,テンポラリークリップにより,原告の左前大脳動脈領域全体に脳梗塞が発生することは十分にあり得るというべきである。被告は,原告主張のような症例報告はない証拠として甲B2号証を挙げるが,同文献はテンポラリークリップと穿通枝領域の低吸収域の出現の関係に特化して考察したものであって,皮質枝領域の低吸収域の出現の有無につき考察されたものではない上,筆者ら自身が経験した症例の中に皮質梗塞の出現があったことを認めており,同文献は被告の主張を裏付ける証拠とはならない。 (ウ) 一方,クリッピング術撮影ビデオ(乙A2号証)によれば,剥離露出中に動脈瘤が破裂したため,左A1にテンポラリークリップを掛けたものの,出血が止まらず,術野に血液が充満したため,左A2にもテンポラリークリップを掛けたところ,出血が収まったことが認められる。 かかる事実から,原告の左A2に対する側副血行路があったことが推認される。したがって,第2手術におけるテンポラリークリップによる影響のみによって,第2手術後に認められる左前大脳動脈皮質枝領域の広範囲な脳梗塞が発生したと断ずることはできない(ただし,穿通枝であるホイブナー動脈の灌流域である左尾状核頭部に発生した脳梗塞は,テンポラリークリップによる血流遮断が原因であると認められる。 。)なお,F意見書は,側副血行路の存在を根拠に左前大脳動脈領域に完全な虚血が生じることはないとした上で「回復不能な程度の高度な麻,痺を生じたのは,むしろCT所見で見られるように,術後出血性梗塞を伴った結果である」と説明するが,F意見書のいう「CT所見」とはいつ撮影のどの部分を指すのか,また出血性梗塞の前提となる脳梗塞とはどの梗塞を指すのかが明らかでなく,趣旨及び根拠が不明確であり,採用すること 果である」と説明するが,F意見書のいう「CT所見」とはいつ撮影のどの部分を指すのか,また出血性梗塞の前提となる脳梗塞とはどの梗塞を指すのかが明らかでなく,趣旨及び根拠が不明確であり,採用することができない。 ウ次に,第2手術後に認められる右前大脳動脈領域の脳梗塞の拡大について検討する。 前記1(1)ウで認定したとおり,11月19日画像と11月22日画像を比較すると,第2手術後に右前大脳動脈領域の低吸収域が拡大したと認められるが,少なくともテンポラリークリップによる2回目の血流遮断の途中までは,第1手術でかけられたクリップにより前交通動脈が閉塞していたこと(乙A1号証135,468頁,また,手術記録に「ACoA)前交通動脈はClipをはずしても狭窄or閉塞したままとあること同()」(136頁)からすれば,左A1及びA2にテンポラリークリップを掛けることにより,右前大脳動脈領域の血流に劇的な変化が起こるとは到底考えられない。したがって,第2手術後に拡大した右前大脳動脈領域の脳梗塞,。 の原因はテンポラリークリップによる血流遮断であるとは認められないエもっとも,これら左右前大脳動脈領域の脳梗塞の発生又は拡大は,第2手術の直後に認められているから,第2手術の影響によるものであると認められる(鑑定の結果。なお,鑑定の結果によれば,右前大脳動脈領域の低吸収域の拡大については,一次脳損傷の影響もある程度関与していると認められる。 。)この点について,被告は,左前大脳動脈領域の脳梗塞は,心原性脳塞栓症による可能性も否定できない旨主張する。心原性脳塞栓症の原因となった心疾患のうち約45%は非弁膜性心房細動であるとの報告がある(甲B6号証)ところ,原告の周術期の心電図において,心房細動又は心房細動が疑わしい所見が認められる( 張する。心原性脳塞栓症の原因となった心疾患のうち約45%は非弁膜性心房細動であるとの報告がある(甲B6号証)ところ,原告の周術期の心電図において,心房細動又は心房細動が疑わしい所見が認められる(乙A1号証454ないし458頁,鑑定の結果。しかし,そもそも発作性心房細動による心原性脳塞栓症の発症率)は,基礎疾患として高血圧があることを考慮しても,年間約3.9%と報告されている上(乙B12号証,心原性脳塞栓症による前大脳動脈の閉)塞ないし狭窄は,内頸動脈や中大脳動脈等他の脳動脈の閉塞ないし狭窄と比べ著しく低い(甲B6号証によれば,心原性脳塞栓症のうち,前大脳動脈の閉塞が確認された割合が0.4%,CT画像上前大脳動脈領域に病巣が認められた割合は0.9%とされる。乙B16号証によれば,前大脳動脈の閉塞の割合は0.6~3%である。しかも,側副血行に恵まれる。)ためか,前大脳動脈閉塞に特徴的な症状はないとの報告もあるところ(乙B16号証,前記イ(ウ)のとおり,原告の左A2に対する側副血行路が)あったと推認されるのである(この点は被告が強く主張する点でもある。心臓超音波検査により,心内血栓が証明されているわけでもない。)(鑑定の結果。しからば,第2手術後に認められる左前大脳動脈領域の)脳梗塞が,心原性脳塞栓症によるものである可能性は極めて低いから(鑑定の結果,かかる極めて低い他の可能性があることをもって,左前大脳)動脈領域の脳梗塞の原因が第2手術にあるとの推認をゆるがせにすることはできない。 オ以上,第2手術後に認められる脳梗塞の原因と,前に認定した原告の後遺障害と脳梗塞の関係(前記1)を総合すると,次のようになる。 (ア) 左下肢麻痺は,第2手術後の右前大脳動脈領域の脳梗塞の拡大が原因であるから,第2手術によるものである( 因と,前に認定した原告の後遺障害と脳梗塞の関係(前記1)を総合すると,次のようになる。 (ア) 左下肢麻痺は,第2手術後の右前大脳動脈領域の脳梗塞の拡大が原因であるから,第2手術によるものである(第2手術直前に認められた軽度の麻痺の限度で脳血管攣縮の影響を否定はできない。 )(イ) 右下肢麻痺は,第2手術後の左前大脳動脈領域の脳梗塞が原因であるから第2手術によるものである。 (ウ) 右上肢麻痺は,第2手術後に認められる左尾状核頭部の脳梗塞及び左内包後脚を含めた放線冠の淡い低吸収域にくも膜下出血による一次脳,,損傷が加わって生じたものであるから第1手術によるものではないしうち左尾状核頭部の脳梗塞の影響の範囲が不明であるので,第2手術によるものとまでもいえない。 (エ) 遷延性意識障害のうち,JCS2から3Aに悪化した原因は,第2手術後の前大脳動脈の灌流域である両側前頭葉の脳梗塞(第2手術後に拡大した右前大脳動脈領域の脳梗塞,第2手術後に発生した左前大脳動脈領域の脳梗塞)であるから第2手術によるものであるが,JCS2程度の意識障害は一次脳損傷の影響を否定できない。 カそして,原告は,第1手術に成功していれば,第2手術は不要であり,第2手術によって生じた脳梗塞も発症しなかったから,第1手術の手技上の過失と第2手術によって生じた原告の後遺障害との間には因果関係があり,第1手術における術中の動脈瘤破裂の抽象的な危険があることをもって因果関係を否定するのは不当である旨主張する。 確かに,第1手術において,クリップを動脈瘤ではなく前交通動脈に掛けることがなければ,第2手術を行うことはなかったとはいえる。 しかしながら,破裂動脈瘤の術中破裂頻度は7%ないし19%(乙B15号証,早期手術例では30ないし40%程度とされ(鑑定の結果,))急性期 とがなければ,第2手術を行うことはなかったとはいえる。 しかしながら,破裂動脈瘤の術中破裂頻度は7%ないし19%(乙B15号証,早期手術例では30ないし40%程度とされ(鑑定の結果,))急性期での手術では,破裂したばかりの動脈瘤に接近し,処置するため,術中破裂に見舞われる危険性は極めて高い(甲B4号証。また,前交通)動脈瘤の場合,動脈瘤存在部位の血管構築が複雑であるため,血管の同定・動脈瘤の剥離が困難であることから,他の部位の動脈瘤に比べて破裂しやすい傾向にある(乙B15号証,鑑定の結果。そして,第1手術前の)最後の破裂(11月5日午前3時ころ。乙A1号証4頁)から約16日。 後に行われた第2手術において,動脈瘤が実際に破裂しているのであるから,第1手術において,動脈瘤頸部を確認するために動脈瘤を更に露出しようとした場合,術中に動脈瘤が破裂する危険性は到底抽象的なものとはいい得ず,むしろその可能性が高かったと認められる。 さらに,第1手術の際は,硬膜を開くと脳が膨隆してくるほど脳腫脹も強い(乙A1号証112頁,鑑定の結果)ことから,正常な脳を傷つけないように圧排し,術野を確保するのが難しかったと認められるため,破裂した場合に,テンポラリークリップにより血流を遮断する時間が,第2手術の際のものより短くてすむ可能性はむしろ低いと推認される。 キそうすると,第1手術において確実に動脈瘤頸部にクリップを掛けようとすれば,術中に動脈瘤が破裂してテンポラリークリップにより血流を遮断せざるを得なかった可能性が高いといえるのであるから,第2手術と同じ結果が生じた可能性が高いといえる。したがって,第1手術の手技に過失がなければ,第2手術によって生じた脳梗塞が発症しなかったという高度の蓋然性は認められないことになり,第1手術における手技上の過失 じ結果が生じた可能性が高いといえる。したがって,第1手術の手技に過失がなければ,第2手術によって生じた脳梗塞が発症しなかったという高度の蓋然性は認められないことになり,第1手術における手技上の過失と原告の後遺障害との間に相当因果関係を認めることはできない。 争点(4)(第2手術における説明義務違反の存否)について(1) 医師が,患者に対し,患者の疾患の治療のために手術等患者の生命・身体に軽微でない結果を発生させるおそれがある医療行為を実施するに当たっては,特別の事情のない限り患者の同意が必要である。この同意は,患者の自己決定権に由来するものであるから,患者が当該医療行為を受けるかどうか熟慮の上決定することができるようにするため,医師には,診療契約に基づき,又は患者の人格権を尊重するため,患者に対し,当該疾患の診断(病名と病状,実施予定の手術の内容,手術に付随する危険性,他に選択可能な)治療方法があれば,その内容と利害得失,予後などについて説明すべき義務があると解される。また,患者が自己決定をできない状況にあるときは,近親者等従前からの患者の生き方・考え方に精通し,患者の自己決定を代替しうる者にこれらを説明する義務があると解される。 (2) 本件において,原告は,第2手術の実施に際して,C医師からDに対し,(ア)第1手術において動脈瘤ではなく前交通動脈にクリッピングをしたため第2手術が必要になったこと,(イ)第2手術における術中破裂の危険性,の2点の説明がされなかったため,自己決定権が侵害されたと主張する。 (3) まず,上記(イ)について検討するに,証拠(乙A1号証94,129頁)によれば,Dは,JCS2程度の意識障害下にある原告に代わり,第2手術中に動脈瘤から出血することがあること,及び,手術により血管や神経が傷つき,それによ 検討するに,証拠(乙A1号証94,129頁)によれば,Dは,JCS2程度の意識障害下にある原告に代わり,第2手術中に動脈瘤から出血することがあること,及び,手術により血管や神経が傷つき,それにより後遺症が残ることがあることの説明を受けた上で,第2手術に同意したと認められ,この点に関する原告の主張には理由がない。 (4) 次に,上記(ア)について検討する。 アこの点につき,被告は,第2手術の術前に,C医師は,Dに対し,①第1手術において,クリップがうまく動脈瘤に掛かっていなかったこと,そのために,②動脈瘤が残存していること,③このまま放置すると近い将来再出血を起こす可能性があり,再出血を防ぐには再手術をするしかないこと,を説明したと主張し,これに沿う証拠がある(乙A23号証,C証言16,23頁。 )イ検査・治療・手術承諾書(乙A1号証94頁,11月19日の医師記)録(同129頁)及び看護記録(同471頁)によれば,C医師が,同日,Dらに対し,上記②③の説明を行ったことは認められる。しかし,これらには上記①に関する記述がない。 一方,平成14年2月14日の看護記録(同514ないし516頁)には,C医師から原告の家族らに対する説明内容として「もう1つ動脈,瘤が発見されたので2回目のopeをしました」とあり,また,同年5月。 15日のI・C(説明と同意」の意味)用紙(同371頁)には,C医「師の説明内容として「そして,ope(第1手術のこと)の方をしました,が,…コブをクリップでとめて,破裂をしないようにした「…検査に。」て,くわしく調べてみたら,完全にコブがとめきれていなかった。1回目のopeの際には,隠れていた部分であると考えます。そこで,2回目のopeを行いました。…コブの所を再度,破裂しないようにとめなおしてありま く調べてみたら,完全にコブがとめきれていなかった。1回目のopeの際には,隠れていた部分であると考えます。そこで,2回目のopeを行いました。…コブの所を再度,破裂しないようにとめなおしてあります。1回目のopeで,とめたところははずしてあります」との記述。 がある。これら後日の説明内容からすれば,11月19日段階において,C医師がDらに,広い意味で「クリップがうまく動脈瘤に掛かっておら,ず,そのために」動脈瘤が残存したという趣旨を説明していないとは言い切れないが,むしろ,第1手術において動脈瘤の頸部にクリッピングを行ったものの,第1手術前又は術中に発見できなかった動脈瘤の一部又は別の動脈瘤が残存しているため,第2手術が必要になった,という原告の現状とは必ずしも一致しない説明をしたものと推認される。また,クリップが動脈瘤頸部ではなく前交通動脈に掛かっている点は説明していないと認められる(この点につき,C証人は「こういうところにクリ,ップを掛けましたという図は示して説明したと思います」と証言するが。 (C証言23頁,C医師がそのような説明をしたという話は第5回口頭)弁論期日で実施されたC医師の証人尋問で初めて出てきたものであって,にわかに措信し難いし,仮にC医師がそのような説明をしたとしても,Dが脳血管の知識に精通していたと認めるに足る証拠はなく,これをもってクリップが動脈瘤頸部ではなく前交通動脈に掛かっている点を説明したとはいえない。 。)(5) クリップが動脈瘤頸部ではなく前交通動脈に掛かっている事実は,正に原告の病状に関する事項であるところ,かかる事実は,第2手術の内容,危険性及び必要性に直結するものであるから,医師の患者等に対する説明義務の対象になる事項であるというべきである。 ,,,,,したがってC医 事項であるところ,かかる事実は,第2手術の内容,危険性及び必要性に直結するものであるから,医師の患者等に対する説明義務の対象になる事項であるというべきである。 ,,,,,したがってC医師はDに対し11月19日段階で第1手術の結果前交通動脈にクリップが掛かっており,動脈瘤頸部にはクリップが全く掛かっていないという原告の正確な病状の説明を尽くさず,このため,Dは,原告が再度第1手術と同じ脳動脈瘤頸部クリッピング術である第2手術を受けるのか,受けるとしても被告病院で受けるかどうかについて判断するに十分な情報を与えられていなかったといわざるを得ない。 よって,被告に第2手術における説明義務違反が認められる。 (6) もっとも,くも膜下出血患者の最大の予後不良因子は再出血であり(乙B1号証,鑑定の結果,破裂脳動脈瘤では再出血の予防が極めて重要である)ところ(乙B1号証,かかる再出血を予防し,かつ,前交通動脈に掛けら)れたクリップを除去するためには,再度脳動脈瘤頸部クリッピング術を行うほかない。また,別の医療機関に搬送する途中に原告の動脈瘤が再破裂する可能性も考えられ,その場合には,直ちに適切な措置を採ることが困難になるものと予想される。しからば,仮にC医師が,11月19日に,Dらに対し,上記(ア)の事項を全て説明したとしても,原告の経過から脳動脈瘤破裂の危険性を認識していたと推認されるDが,第2手術に同意せず,被告病院にて再度開頭術を行う以外の方法を選択した蓋然性が高いはいえない。よって,C医師が説明義務を尽くさなかったことと,第2手術後に発生した原告の後遺障害との間には相当因果関係があるとはいえない。 争点(5)(損害)について前記4のとおり,原告は,第2手術を受けずに保存的治療を行ったり,第2手術を被告病院で受ける 手術後に発生した原告の後遺障害との間には相当因果関係があるとはいえない。 争点(5)(損害)について前記4のとおり,原告は,第2手術を受けずに保存的治療を行ったり,第2手術を被告病院で受けるかどうかについて自己決定する機会を奪われたものであるところ,説明を受けられなかった内容が,第1手術の結果,前交通動脈にクリップが掛かっており,動脈瘤頸部にはクリップが全く掛かっていないという正に原告の病状そのものであったことその他本件に現れた一切の事情を斟酌すれば,原告の受けた精神的損害は200万円と認められる。 また,弁論の全趣旨によれば,原告は,本件遂行のため弁護士に委任したことが認められ,本件事案にかんがみれば,原告が要した弁護士費用のうち被告の過失と相当因果関係のある損害は50万円とみるのが相当である。 よって,原告は被告に対し,250万円の損害賠償請求権を有することとなる。説明義務違反の不法行為日が平成13年11月19日であることから,遅延損害金については,平成13年11月19日から認められる。 結論 以上の次第で,原告の被告に対する本訴請求は,主文第1項の限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法64条本文,61条を,仮執行宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判長裁判官永野圧彦裁判官寺本明広裁判官大寄悦加
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