- 1 - 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求東税務署長が平成19年9月19日付けで原告に対してした平成18年分所得税の更正処分のうち課税所得金額4524万2000円,還付金の額に相当する税額1134万3642円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。 第2 事案の概要 1 事案の骨子本件は,原告が,兵庫県西宮市所在の自宅建物(以下「本件建物」という。)の取壊しに伴い支払ったアスベスト除去工事費用及びアスベスト分析検査試験費(以下,併せて「本件除去費用等」という。)を,所得税法72条の雑損控除の対象として,平成18年分所得税の確定申告(以下「本件確定申告」という。)をしたのに対し,東税務署長が,本件除去費用等は雑損控除の対象とはならないとして原告の平成18年分所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下,本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)を行ったため,原告が本件更正処分等(ただし,本件更正処分については申告額を超える部分)の各取消しを求めている事案である。 2 関係法令等の定め(1) 雑損控除(所得税法72条)同条1項は,居住者又はその者と生計を一にする配偶者その他の親族で政令で定めるものの有する資産(同法62条1項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)及び70条3項(被災事業用資産の損失の金額)に規定 - 2 -する資産を除く。)について災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合(その災害又は盗難若しくは横領に関連してその居住者が政令で定めるやむを得ない支出をした場合を含む。)において,その年における当該損失の金額の合計額が次の 又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合(その災害又は盗難若しくは横領に関連してその居住者が政令で定めるやむを得ない支出をした場合を含む。)において,その年における当該損失の金額の合計額が次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に掲げる金額を超えるときは,その超える部分の金額を,その居住者のその年分の総所得金額,退職所得金額又は山林所得金額から控除する旨規定する。 (2) 「災害」の意義ア所得税法2条1項27号は,所得税法における「災害」の意義について,「震災,風水害,火災その他政令で定める災害をいう」旨規定する。 イ所得税法施行令9条は,所得税法2条1項27号に規定する政令で定める災害は,冷害,雪害,干害,落雷,噴火その他の自然現象の異変による災害及び鉱害,火薬類の爆発その他の人為による異常な災害並びに害虫,害獣その他の生物による異常な災害とする旨規定する。 (3) 「政令で定めるやむを得ない支出」の意義所得税法施行令206条1項は,所得税法72条1項に規定する政令で定めるやむを得ない支出(以下「災害関連支出」という。)は,災害により同法72条1項に規定する資産(以下「住宅家財等」という。)が滅失し,損壊し又はその価値が減少したことによる当該住宅家財等の取壊し又は除去のための支出その他の付随する支出(1号)等とする旨規定する。 (4) アスベスト(石綿等)に関する規制ア労働安全衛生法55条は,黄りんマッチ,ベンジジン,ベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずる物で,政令で定めるものは,製造し,輸入し,譲渡し,提供し,又は使用してはならない旨規定し,労働安全衛生法施行令16条1項は,同法55条の政令で定める物は,石綿(4号),石綿をその重量の0.1パーセントを超えて含有する製剤その他の物(9 ,譲渡し,提供し,又は使用してはならない旨規定し,労働安全衛生法施行令16条1項は,同法55条の政令で定める物は,石綿(4号),石綿をその重量の0.1パーセントを超えて含有する製剤その他の物(9号)等とする旨規定する。 - 3 -なお,平成18年政令第257号(同年9月1日施行)による改正前の同施行令16条1項は,労働安全衛生法55条の政令で定める物は,アモサイト(4号),クラシドライト(5号),石綿(アモサイト及びクラシドライトを除く。)を含有する別表第8の2に掲げる製品で,その含有する石綿の重量が当該製品の重量の1パーセントを超えるもの(9号),アモサイト及びクラシドライトをその重量の1パーセントを超えて含有する製剤その他の物(11号)等とする旨規定していた。 イ石綿障害予防規則(平成17年厚生労働省令第21号。同年7月1日施行)2条は,同規則において「石綿等」とは,労働安全衛生法施行令6条23号に規定する石綿等(石綿若しくは石綿をその重量の0.1パーセントを超えて含有する製剤その他の物)をいう旨規定する。 同規則3条は,建築物等の解体等における石綿等の使用の事前調査を,同規則4条は,建築物等の解体等における作業計画作成の義務付け等を,同規則5条は,建築物等の解体等の作業届出を規定し,同規則10条1項は,事業者は,その労働者を就業させる建築物の壁,柱,天井等に吹き付けられた石綿等が損傷,劣化等によりその粉じんを発散させ,及び労働者がその粉じんにばく露するおそれがあるときは,当該石綿等の除去,封じ込め,囲い込み等の措置を講じなければならない旨規定する。 ウ大気汚染防止法2条12項は,同法において「特定粉じん排出等作業」とは,吹付け石綿その他の特定粉じんを発生し,又は飛散させる原因となる建築材料で政令で定めるもの(以 ければならない旨規定する。 ウ大気汚染防止法2条12項は,同法において「特定粉じん排出等作業」とは,吹付け石綿その他の特定粉じんを発生し,又は飛散させる原因となる建築材料で政令で定めるもの(以下「特定建築材料」という。)が使用されている建築物その他の工作物(以下「建築物等」という。)を解体し,改造し,又は補修する作業のうち,その作業の場所から排出され,又は飛散する特定粉じんが大気の汚染の原因となるもので政令で定めるものをいう旨規定する。 同法18条の15第1項は,特定粉じん排出等作業を伴う建設工事(以 - 4 -下「特定工事」という。)を施工しようとする者は,特定粉じん排出等作業の開始の日の14日前までに,環境省令で定めるところにより,特定粉じん排出等作業の方法(6号)等の事項を都道府県知事に届け出なければならない旨規定し,同法18条の17は,特定工事を施工する者は,当該特定工事における特定粉じん排出等作業について,作業基準(同法18条の14,大気汚染防止法施行規則16条の4,別表第7)を遵守しなければならない旨規定する。 3 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実。以下,書証番号は特に断らない限り枝番号を含む。)(1) 原告が本件除去費用等を負担するに至った経緯(甲9,12,乙2~6,弁論の全趣旨)ア原告は,平成18年9月初旬頃,本件建物を建て替えるため,株式会社A(以下「A」という。)に本件建物の解体工事を請け負わせた。 イ Aは,同月20日頃,本件建物の解体工事に着手したところ,本件建物の建築部材の一部にアスベスト(石綿等)と思われる物質が吹き付けられていることが判明したため,直ちに解体工事を中断し,株式会社B(以下「B」という。)に分析検査を依頼した。 Bは,同年1 本件建物の建築部材の一部にアスベスト(石綿等)と思われる物質が吹き付けられていることが判明したため,直ちに解体工事を中断し,株式会社B(以下「B」という。)に分析検査を依頼した。 Bは,同年10月3日,Aに対し,本件建物の建築部材の一部に0.6%のクリソタイル(白石綿・アスベストの一種)が含有されている旨の検査結果報告を行った(以下,クリソタイルを含む上記建築部材を「本件建築部材」という。)。 ウ Aは,検査結果を受け,アスベスト除去工事の専門業者である株式会社C(以下「C」という。)に対応を相談し,アスベスト除去工事に関する手続及び作業方法等のアドバイスを受けた後,Cに対し,同月25日から同年11月10日までの間を作業の実施期間としてアスベスト除去工事を請け負わせ,大気汚染防止法18条の15第1項の規定に基づき,「特定 - 5 -粉じん排出等作業実施届出書」を,同年10月11日付けで西宮市長に提出した。 Cは,上記期間を工期として,本件建物に係るアスベスト除去工事を行った。 エ Aは,アスベスト除去工事が完了した後,本件建物の解体工事を再開し,同年10月30日,原告に対し,本件除去費用等430万5000円(アスベスト除去工事費用420万円,アスベスト分析検査試験費10万5000円)及び解体撤去工事費用282万4500円の合計712万9500円を請求した。 オ原告は,同年11月1日,Aに対し,本件除去費用等及び解体撤去工事費用並びに屋根補修工事費用25万7250円の合計金額である738万6750円を振込みにより支払った。 (2) 本件訴訟に至る経緯(甲1~4,乙1,弁論の全趣旨)ア原告は,平成19年3月15日,別表「課税の経緯」の「確定申告」欄のとおり,平成18年分所得税の確定申告書(以下「本件確定申告書」と (2) 本件訴訟に至る経緯(甲1~4,乙1,弁論の全趣旨)ア原告は,平成19年3月15日,別表「課税の経緯」の「確定申告」欄のとおり,平成18年分所得税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を,東税務署長に提出した。 なお,本件確定申告書には,第一表の「所得から差し引かれる金額」欄の「雑損控除⑩」欄に425万5000円,第二表の「○所得から差し引かれる金額に関する事項」欄の「⑩雑損控除」欄に,次のとおり記載があり,原告の本件建物の本件除去費用等に係る請求書等が添付されていた。 (ア) 「損害の原因」欄に「アスベスト被害」(イ) 「損害年月日」欄に「18・10・30」(ウ) 「損害を受けた資産の種類など」欄に「居住用家屋」(エ) 「損害金額」欄に「4,305,000円」(オ) 「保険金などで補てんされる金額」欄に「0円」(カ) 「差引損失額のうち災害関連支出の金額」欄に「4,305,000 - 6 -円」イ東税務署長は,平成19年9月19日,本件除去費用等が雑損控除の対象には当たらないと認め,別表「課税の経緯」の「更正処分等」欄のとおり,本件更正処分等をした。 ウ原告は,同年11月16日,東税務署長に対し,本件更正処分等を不服として,異議申立てをしたところ,東税務署長は,平成20年2月14日付けで上記異議申立てを棄却する旨の異議決定をした。 エ原告は,同年3月10日,国税不服審判所長に対し,本件更正処分等を不服として,審査請求をしたところ,国税不服審判所長は,平成21年2月16日付けで上記審査請求を棄却する旨の裁決をした。 オ原告は,同年8月4日,本件更正処分等の各取消しを求めて,本件訴訟を提起した。 (3) 本件更正処分等の計算根拠被告が本件訴訟において主張する原告の所得税額等の計算 却する旨の裁決をした。 オ原告は,同年8月4日,本件更正処分等の各取消しを求めて,本件訴訟を提起した。 (3) 本件更正処分等の計算根拠被告が本件訴訟において主張する原告の所得税額等の計算根拠は,次のとおりである。 ア本件更正処分(ア) 総所得金額 5255万4238円この金額は,本件確定申告書の所得金額の「合計」欄に記載された金額である。 (イ) 所得控除の額 305万6525円この金額は,本件確定申告書の所得から差し引かれる金額の「合計」欄に記載された金額731万1525円から,同「雑損控除」欄に記載された金額425万5000円を差し引いて計算した金額である。 (ウ) 課税総所得金額 4949万7000円この金額は,上記総所得金額5255万4238円から上記所得控除の額305万6525円を控除し,国税通則法118条1項により10 - 7 -00円未満の端数を切り捨てた金額である。 (エ) 課税総所得金額に対する税額 1582万3890円この金額は,上記課税総所得金額4949万7000円に,所得税法89条1項に規定する税率を乗じて算出した金額である。 (オ) 還付金の額に相当する税額 976万9292円この金額は,上記課税総所得金額に対する税額1582万3890円から,定率減税額12万5000円(本件確定申告書の「定率減税額」欄の金額),源泉徴収税額1935万2182円(本件確定申告書の「源泉徴収税額」欄の金額)及び予定納税額611万6000円(本件確定申告書の「予定納税額」欄の金額)の合計額2559万3182円を控除した後の金額である。 イ過少申告加算税賦課決定処分過少申 泉徴収税額」欄の金額)及び予定納税額611万6000円(本件確定申告書の「予定納税額」欄の金額)の合計額2559万3182円を控除した後の金額である。 イ過少申告加算税賦課決定処分過少申告加算税額 15万7000円この金額は,本件更正処分により原告が新たに納付すべきこととなった税額157万円(ただし,国税通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)を基礎として,これに同法65条1項の規定に基づき100分の10の割合を乗じて算出した金額である。 第3 主たる争点及び当事者の主張 1 主たる争点本件における主たる争点は,本件更正処分等の適法性,すなわち,本件除去費用等が所得税法72条の雑損控除の対象となるか否かであるが,その適用要件に関し,具体的には次の各点が問題となっている。 (1) 本件建物にアスベストが含まれていたことが所得税法施行令9条にいう「鉱害,火薬類の爆発その他の人為による異常な災害」に該当するか(争点1)(2) 本件建物にアスベストが含まれていたことが所得税法72条1項の「資産 - 8 -…について災害…による損失が生じた場合」に該当するか(争点2)(3) 本件除去費用等が所得税法施行令206条1項1号にいう災害関連支出「災害により…住宅家財等…の価値が減少したことによる当該住宅家財等の取壊し又は除去のための支出その他の付随する支出」に該当するか(争点3) 2 当事者の主張上記の各争点に関する当事者の主張は別紙「当事者の主張」記載のとおりである。 第4 当裁判所の判断 1 本件建物にアスベストが含まれていたことが所得税法施行令9条にいう「鉱害,火薬類の爆発その他の人為による異常な災害」に該当するか(争点1)(1) 人為による異常な 。 第4 当裁判所の判断 1 本件建物にアスベストが含まれていたことが所得税法施行令9条にいう「鉱害,火薬類の爆発その他の人為による異常な災害」に該当するか(争点1)(1) 人為による異常な災害ア雑損控除制度について定める所得税法72条は,控除し得る損失の発生原因として,「災害又は盗難若しくは横領」という事由を掲げているところ,これらはいずれも納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな事由であるものと解される(旧所得税法11条の3の雑損控除につき,最判昭和36年10月13日・民集15巻9号2332頁参照。また,地方税法15条1項1号の徴収猶予の要件である「震災,風水害,火災その他の災害」及び「盗難」に関し,最判平成22年7月6日・判タ1331号68頁参照)。また,所得税法2条1項27号は,同法における「災害」の意義は,震災,風水害,火災その他政令で定める災害をいう旨規定し,所得税法施行令9条は,所得税法2条1項27号に規定する政令で定める災害は,①冷害,雪害,干害,落雷,噴火その他の自然現象の異変による災害及び②鉱害,火薬類の爆発その他の人為による異常な災害並びに③害虫,害獣その他の生物による異常な災害とする旨規定するところ,所得税法2条1項27号及び所得税法施行令9条所定の「災害」も,所得税法72条の「災害」と同様,納税者の意思に基づかないことが客観的に明らか - 9 -な事由であると解されるのであり,さらに,「災害」という用語の社会一般に用いられている通常の意味(吉国一郎ほか編「法令用語辞典」第9次改訂版298頁(乙16)によれば,一般には,地震,台風,大火など,不意に突発した外からの強暴な力によって,人が死傷又は罹病したり,土地,建物その他の工作物,物品,施設等が損壊し,亡失しその他相当の被害を受けた場合 16)によれば,一般には,地震,台風,大火など,不意に突発した外からの強暴な力によって,人が死傷又は罹病したり,土地,建物その他の工作物,物品,施設等が損壊し,亡失しその他相当の被害を受けた場合の原因と結果とを合わせて災害というとされている。)に加え,所得税法施行令9条が所得税法2条1項27号に規定する政令で定める災害として例示する内容を考慮すれば,「(人為による異常な)災害」というためには,納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな,納税者が関与しない外部的要因を原因とするものであることが必要というべきである。 イまた,人為による異常な災害というためには,「異常」であること,すなわち,社会通念上通常ないといえることが必要である。そうすると,「異常な」災害というためには,納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな,納税者が関与しない外部的要因を原因とするものであるかどうかという前述の点のほか,納税者による当該事象の予測及び回避の可能性,当該事象による被害の規模及び程度,当該事象の突発性偶発性(劇的な経過)の有無などの事情を総合考慮し,社会通念上通常ないといえる「異常な」災害性を具備していると評価できることが必要というべきである。 ウ加えて,人為による異常な災害というためには「人為による」ものでなければならないところ,この人為性とは,人の行為が原因となっていることを意味するものと解される。 以上を総合すれば,「人為による異常な災害」により損失が生じたというためには,少なくとも,納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな,納税者の関与しない外部的要因(他人の行為)による,社会通念上通常ないことを原因として損失が発生したことが必要であるということが - 10 -できる。 (2) 本件の「人為による異常な災害」該 納税者の関与しない外部的要因(他人の行為)による,社会通念上通常ないことを原因として損失が発生したことが必要であるということが - 10 -できる。 (2) 本件の「人為による異常な災害」該当性ア前記前提となる事実に加え,弁論の全趣旨によれば,本件建物は,昭和50年5月頃に建築が開始され,昭和51年に竣工したものであること,本件建物には,建築部材の一部(本件建築部材)にクリソタイル(白石綿)が0.6パーセント含まれていたこと,以上の事実が認められる。これらの事実及び前述したアスベスト(石綿等)に関する規制に照らせば,本件において原告の損失(本件除去費用等の支出又はこれに相当する建物価値の下落)の原因としては,①本件建物の建築施工業者が本件建築部材を使用して本件建物を建築したこと及び②本件建物の建築後アスベスト(石綿等)に関する規制が行われたことを考えることができる。 イまず,①建築施工業者が本件建築部材を使用して本件建物を建築したことに関しては,本件建築部材は,昭和50年又は昭和51年当時,労働安全衛生法等の各法令において規制の対象とはされておらず,これを建築部材として使用することは何ら違法ではなかったことが認められる(弁論の全趣旨)。この点に加え,原告が,建築施工業者に対し,本件建築部材又はアスベストを含有する建材の使用を拒否したといったような特段の事情もうかがわれないことからすると,本件建物の建築工事において本件建築部材を使用することは,建築請負契約の内容に含まれていたか,少なくとも,包括的に建築施工業者の選択に委ねられていたと解するのが相当である。そうすると,建築施工業者が本件建築部材を使用して本件建物を建築したこと(その結果本件建物にアスベストが含まれていたこと)は,建築請負契約又は原告の包括的委託(承諾)に いたと解するのが相当である。そうすると,建築施工業者が本件建築部材を使用して本件建物を建築したこと(その結果本件建物にアスベストが含まれていたこと)は,建築請負契約又は原告の包括的委託(承諾)に基づくものであって,原告の意思に基づかないことが客観的に明らかな,原告の関与しない外部的要因を原因とするものということはできない。 また,上記のとおり,本件建物が建築された当時,アスベストを含む建 - 11 -築部材の使用は法的に何ら問題はなかったのであるから,予測及び回避の可能性,被害の規模及び程度,突発性偶発性(劇的な経過)の有無などを詳細に検討するまでもなく,建築施工業者が本件建築部材を使用して本件建物を建築したことが社会通念上通常ないということはできず,上記原因に異常性を認めることもできない。 ウ次に,②本件建物の建築後アスベスト(石綿等)に関する規制が行われたことに関しては,建築部材など一般に用いられていたアスベスト(石綿等)について,人体に与える有害性が判明したことに伴い,解体建物周辺への飛散や解体労働者の曝露を防止するべく,公共の福祉の観点から法的な規制が行われたものであり,そのような公共のために必要な規制がされたことについては,本件建物の建築後に規制が行われた経緯等を考慮しても,社会通念上通常ないことには該当せず,これを異常な災害であると認めることはできない。 エなお,原告は,「本件建物にアスベストが含まれていたこと」が災害である旨主張するが,「本件建物にアスベストが含まれていたこと」は原告の損失を構成する結果の一部であって原因ではなく,これを前提に原因としての人為による異常な災害の該当性を判断することはできない。仮に「本件建物にアスベストが含まれていたこと」が原告の損失の原因であると考えれば,上記原因は単なる って原因ではなく,これを前提に原因としての人為による異常な災害の該当性を判断することはできない。仮に「本件建物にアスベストが含まれていたこと」が原告の損失の原因であると考えれば,上記原因は単なる現象であって人の行為ではなく人為性を有するものではないし,また,アスベストを含む建築部材は一般に広く用いられていたのであり(弁論の全趣旨),社会通念上通常ない異常な災害といえるようなものでもない。 オ以上のとおり,本件建物にアスベストが含まれていたこと(本件建物の建築施工業者が本件建築部材を使用して本件建物を建築したこと及び本件建物の建築後アスベスト(石綿等)に関する規制が行われたこと)が,所得税法施行令9条にいう「人為による異常な災害」に該当するということ - 12 -はできず,本件における原告の損失が「人為による異常な災害」により生じたものということができない以上,雑損控除の適用に関する原告の主張は採用することができない。 (3) 原告の主張についてア原告は,雑損控除とは,本来家事費であるものについて,通常想定されていないような「異常な」事由によって発生した損失を所得計算過程に取り込む制度として構成されるべきであり,現行法上の雑損控除の対象となるべき「災害」とは,通常の消費生活の過程で発生する損失とは異なる,消費の一形態として所得計算の埒外に置き去るのでは不合理であると考えられるような何か(イベント)というべきであると主張する(佐藤英明「投資の失敗と所得税」(甲7。以下「佐藤事例研究」という。)37頁参照)。 しかし,そもそも「災害」という用語は,所得税法上,同法72条の雑損控除の規定にのみ用いられている訳ではないから,所得税法全体の「災害」の意義を定める所得税法2条1項27号及び所得税法施行令9条について,雑損控除の 災害」という用語は,所得税法上,同法72条の雑損控除の規定にのみ用いられている訳ではないから,所得税法全体の「災害」の意義を定める所得税法2条1項27号及び所得税法施行令9条について,雑損控除の趣旨のみに基づいてこれを解釈する手法には疑問があるというべきである。 また,雑損控除制度は,昭和25年のシャウプ勧告を契機として整備されたものであるが,災害等による異常損害によって低下した担税力に即応した公平な課税を実現しようとする趣旨に基づく制度であると同時に,従来の「災害その他の事由に因り納税資力を喪失して,納税困難と認められるとき」(当時の所得税法52条1項)というあいまいな規定を改め,明確な規定を設けることによって,公平な所得控除の適用を担保することをも目的としたものと解するのが相当である(佐藤英明「雑損控除制度-その性格づけ」日税研論集47号(甲5)40頁以下,D教授作成の鑑定意見書(乙19。以下「D意見書」という。)6頁以下,DHCコンメンタール所得税法(乙17)4642頁以下参照)。そうであるところ,原告 - 13 -の上記主張は,「災害」という文言解釈を離れて,あたかも原告が主張する雑損控除制度の趣旨(異常な事由による損失を所得計算過程に取り込む制度)に合致する損失であれば「災害による損失」であるといわんとするものであり,かえって雑損控除制度の趣旨に反する解釈というべきであって採用することができない。実際にも,原告が主張する上記定義によれば,「災害」に該当するかどうかは,結局のところ,所得計算上考慮しないことが不合理であるかどうかという妥当性の判断に大きく左右されることとなるのであり,課税行政の明確性,公平性の観点を著しく損なうことになりかねず,公平な所得控除の適用を担保するという雑損控除制度の趣旨に反するものとなり うかという妥当性の判断に大きく左右されることとなるのであり,課税行政の明確性,公平性の観点を著しく損なうことになりかねず,公平な所得控除の適用を担保するという雑損控除制度の趣旨に反するものとなり,妥当でないというべきである。 イ原告は,耐震強度偽装事件について雑損控除の対象とすることが認められているところ,納税者の意思によらないこと,予見及び回避することが不可能であることという点からみて,耐震強度偽装事件と本件との間に何ら差異はなく,本件において雑損控除の適用がないとすることは課税の公平性を欠くなどと主張する。 しかし,そもそも,耐震強度偽装事件は,建築士が違法に耐震強度を偽装したことが原因となって建物所有者に損失が生じたことを「人為による異常な災害」による損失が生じた場合に該当すると判断したものであって,「建物が耐震強度を備えていなかったこと」を原因として「人為による異常な災害」に該当すると判断したものではない。また,耐震強度偽装事件と本件との間には,納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな,納税者が関与しない外部的要因を原因として損失が発生したものであるかどうか,建物の使用ができなくなるなど被害が深刻であるかどうかなど原因や経緯が社会通念上通常ないといえる異常なものであるかどうかといった点において,少なからず差異が認められるのであり,耐震強度偽装事件と本件との間に何ら差異がないとする原告の上記主張は,採用することが - 14 -できない。 ウ原告は,国税通則法63条6項の規定による延滞税の免除に関し,税務職員の誤った申告指導その他の申告又は納付について生じた人為による障害が,同法施行令26条の2第2号に規定する「人為による異常な災害又は事故」に該当する旨の法令解釈通達が発出されていることを指摘する。 しかし た申告指導その他の申告又は納付について生じた人為による障害が,同法施行令26条の2第2号に規定する「人為による異常な災害又は事故」に該当する旨の法令解釈通達が発出されていることを指摘する。 しかし,税務職員の誤った申告指導等については,「人為による異常な事故」の一態様として理解するのが文理上も自然であり(乙15参照),「災害」の解釈に直接参考になるものではないというべきであるから,原告の上記主張は採用することができない。 その他にも,原告は,様々な観点から縷々主張し反論するが,これまでに説示した内容に反する限りにおいて,いずれも採用することができない。 また,原告が提出するE准教授作成の鑑定意見書(甲13。以下「E意見書」という。)についても,これまでに説示した内容に反する限りにおいて,採用することができない。 2 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件除去費用等が所得税法72条の雑損控除の対象とはならない旨の東税務署長の判断は正当であり,その他本件更正処分等を違法とすべき点も見当たらないから,本件更正処分等はいずれも適法である。 よって,原告の本訴請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官山田明 - 15 - 裁判官徳地淳 裁判官藤根桃世 - 16 -(別紙)当事者の主張 第1 本件建物にアスベストが含まれていたことが所得税法施行令9条にいう「鉱害,火薬類の爆発その他の人為による異常な災害」に該当するか(争点1)。 (原告の主張) 1 人為による異常な災害とは(1) 純所得課税説(包括的所得概念)についてそ 法施行令9条にいう「鉱害,火薬類の爆発その他の人為による異常な災害」に該当するか(争点1)。 (原告の主張) 1 人為による異常な災害とは(1) 純所得課税説(包括的所得概念)についてそもそも,本件で適用が問題となる雑損控除は,所得税法第2編第2章第4節の「所得控除」の一類型とされているので,雑損控除の適用の可否を考えるにあたっては,「所得」の意義から検討する必要がある。 この点,通説的立場とされている純所得課税説(包括的所得概念)によれば,人の担税力を増加させる経済的利得の全てが「所得」に該当する。そして,特定の年度における純資産の増加分及び消費による純資産の減少分の合計額が,当該年度における「所得」に該当し(中里実「所得控除制度の経済学的意義」(甲10,乙7。以下「中里論文」という。)93頁),消費ではない形での支出すなわち費用(必要経費),損失及び移転による純資産の減少は所得から控除されるということになる。 とすると,現実に発生した純資産の減少が,費用,損失ないしは移転たる性格を有するのであれば所得から控除されることになり,逆に消費たる性格を有するのであれば所得から控除されないというのが包括的所得概念からの論理的な帰結となる。 (2) 人為による異常な災害の定義についてア上記(1)から雑損控除の対象となる「人為による異常な災害」について定義するに,そもそも雑損控除の対象となる資産の中には,居住用不動産や家庭用の動産などが含まれており,当該資産の処分・滅失,例えば通常の - 17 -生活を送る過程で皿が割れたりすること等は本来的に消費の問題であって所得計算に反映され得るものではない。 したがって,雑損控除とは,本来家事費であるものについて,通常想定されていないような「異常な」事由によって発生した損失を所得計 と等は本来的に消費の問題であって所得計算に反映され得るものではない。 したがって,雑損控除とは,本来家事費であるものについて,通常想定されていないような「異常な」事由によって発生した損失を所得計算過程に取り組む制度として構成されるべきであり(佐藤事例研究(甲7)39頁),現行法上の雑損控除の対象となるべき「災害」とは,通常の消費生活の過程で発生する損失とは異なる,消費の一形態として所得計算の埒外に置き去るのでは不合理であると考えられるようなイベントというべきである(佐藤事例研究37頁)。 また,「人為による」とは,文字どおり,人間の行為を原因とするものであり,「異常」とは通常あり得ないことを意味することからすれば,「人為による異常な災害」とは,通常の消費生活の過程で発生する損失とは異なる上記イベントを指すと解することができる。 イこの点,被告は,佐藤事例研究及び中里論文に関し,あくまで「災害による損失」を所得計算上控除すべきと述べているのであり,原告が主張するように消費といえるか否かで「災害」性を判断しているとの結論を導き出すことはできないというべきなどというが,妥当でない。 というのも,佐藤事例研究では,上記のとおり,「『災害』とは通常・・・」という記載となっており,まさに「災害」の定義付けをしているのであり(同37頁),中里論文117頁においても,「消費ではないかたちで納税者の純資産を減少させるので,課税所得計算上当然に控除すべきである。」としており,所得控除たる雑損控除の適用範囲を考えるにあたり「消費」といえるか否かを考慮しているからである。 ウなお,上記定義は,「雑損とは,納税者の意思に基づかない,いわば災難による災害を指す」との最高裁判例(最判昭和36年10月13日・民集15巻9号2332頁)にも合致する。 いるからである。 ウなお,上記定義は,「雑損とは,納税者の意思に基づかない,いわば災難による災害を指す」との最高裁判例(最判昭和36年10月13日・民集15巻9号2332頁)にも合致する。 - 18 -すなわち,納税者の意思に基づく損失(例えば,家庭用動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合)の場合には,いまだ「消費」の範疇に入ると考える余地があるのに対し,納税者の意思に基づかない損失(家庭用動産が地震により破壊された場合)であれば,「意思」の契機を持たないが故に「消費」とは考えられないからである。 (3) 「災害」に該当するか否かの判断基準についてア次に,通常の消費生活の過程で発生する損失とは異なる,消費の一形態として所得計算の埒外に置き去るのでは不合理であると考えられるような「何か(イベント)」に該当するか否かの解釈基準としては,納税者の意思によらないこと,予見及び回避することが不可能であることが挙げられる(E意見書(甲13)9頁)。というのも,納税者の意思によらない損失は当該納税者にとっておよそ予見も回避も不可能であるから,かかる解釈基準は上記最高裁判例に合致するし,E意見書7頁以降において詳述されているとおり,雑損控除の適用の有無が争われたとして列挙された事例の結論について,全て予見・回避可能性がないという要件に該当するということで説明することができるからである。 イこれに対し,異常な災害について,「社会生活上通常予見し得る単なる不法行為によって発生した損害ではなく,予見および回避不可能で,かつ,その発生が劇的な経過を経て発生した損害であることを要するものであると解される」とする裁決例(昭和54年9月4日裁決・裁決事例集19巻54頁)がある。しかし,異常な災害に該当するといえるためには,「劇的な経過を経て」い 経て発生した損害であることを要するものであると解される」とする裁決例(昭和54年9月4日裁決・裁決事例集19巻54頁)がある。しかし,異常な災害に該当するといえるためには,「劇的な経過を経て」いる必要はない。というのも,雑損控除の適用が認められたシロアリの駆除費用事例や耐震強度偽装による被害の事例では,そもそも「劇的な経過」を経て損害が発生したとは到底考えられないし,逆にかかる事例が「劇的な経過」を経て損害が発生したと考えるのであれば,本件が「劇的な経過」を経ていないと合理的に説明することができず,実 - 19 -際に被告は合理的に説明できていないからである。 また,そもそも消費であるか否かを検討するにあたり「劇的な経過」を経ているかという観点を持ち込んでいるような考え方はどこにもなく,上記裁決例の規範は,包括的所得概念という原被告両者が当然の前提として用いている基本的な考え方とも相容れない。 2 被告の主張に対する反論(1) 被告の主張の概要被告は,人為による異常な災害の定義について,①所得控除は,あくまでも純所得課税の例外であって,適正かつ公平な税負担を求めるという目的に適合するよう,限定的に適用されるべきである,②人為による異常な災害における「異常」とは,鉱害,火薬類の爆発に匹敵する異常性を具有している必要があるなどと主張するが,いずれも失当である。 (2) 所得控除の趣旨についての被告の理解が失当であること(上記①について)ア被告は,中里論文を根拠に,所得控除制度は,様々な社会政策的理由により所得課税制度の例外として認められているのであり,課税行政の明確性の見地から,例外をいたずらに拡張・類推適用することはできないなどと主張する。 しかし,そもそも中里論文においてそのような趣旨の記載は一切ない。 中里論文 て認められているのであり,課税行政の明確性の見地から,例外をいたずらに拡張・類推適用することはできないなどと主張する。 しかし,そもそも中里論文においてそのような趣旨の記載は一切ない。 中里論文では,支出の性格について,「費用」,「移転」,「消費」及び「損失」に分類し,消費を除いて所得から控除しようとしているのである。 その上で,中里論文では,所得控除の規定がいずれに該当するかについて,「所得税法の定める個別の所得控除ごとにその理論的性格を異にするのであり,単純に全ての所得控除について一律に議論することはできないというものであろう」(105頁)とされているのである。 被告は,所得控除は純所得課税の例外であるとのみ述べ,例外である以上限定的に適用されなければならないとしているが,かような被告の考え - 20 -方は,「所得」概念から離れて「所得」控除の範囲を決しようとするものであり,失当である。 イ被告は,法令用語辞典上の災害の定義を持ち出し,本件でいう「災害」とは「不意に突発した外からの強暴な力」が必要であるなどと主張する。 しかし,そもそも法律の趣旨に遡ることなく,所得税法72条の「災害」を一般的な用語としての災害と同一視できるはずはない。 仮に,被告の定義を前提とすれば,例えば雑損控除が認められる耐震強度偽装や,居宅の床下にいるシロアリについても「不意に突発した外からの強暴な力」と評価されることとなり,そうであるならば,本件建物に有害物質であるアスベストが混入されていたことも「不意に突発した外からの強暴な力」に該当することは明らかである。 結局,被告は,特段の説得的な根拠を持ち出すことなく単に雑損控除を制限的に適用するべきであるとしか主張できていないので,条文の趣旨に遡って条文の文言を定義づけることができなかったもので かである。 結局,被告は,特段の説得的な根拠を持ち出すことなく単に雑損控除を制限的に適用するべきであるとしか主張できていないので,条文の趣旨に遡って条文の文言を定義づけることができなかったものであり,かかる被告の主張には何ら説得力はない。 (3) 鉱害,火薬類の爆発に匹敵する「異常」性を具有している必要があるとの被告の主張が失当であること(上記②について)ア被告は,「異常」性の要件について,「鉱害,火薬類の爆発その他の人為による異常な災害」との文言上,前後に挙げられた自然災害の異常性及び生物による異常な災害との関係において,同程度の異常性を要求しているなどと主張する。 しかし,一般に「その他の」という場合にはその前の内容は後の用語を例示とする役割を持っており,両者は一部と全体の関係にある。つまり,「鉱害,火薬類の爆発」を「人為による異常な災害」の例示として規定していると読むことができるにすぎず,同程度というように限定的に解さなければならないものではない。例えば,「道路,河川その他の公の営造物」 - 21 -(国家賠償法2条1項)との規定は,国又は公共団体が賠償責任を負うべき「公の営造物」の範囲を確定させることを目的とするものであるが,それが「道路,河川と同等ないし匹敵する,公の営造物」などとする解釈は採られていない。むしろ,公用車,航空機,拳銃,警察犬などの動産も含むと解されていることは周知のとおりである。 イまた,被告の主張を前提とすると,延滞税の免除に関する国税通則法施行令26条の2第2号の規定は,「火薬類の爆発,交通事故その他の人為による異常な災害又は事故」となっているので,「災害又は事故」は,火薬類の爆発と同程度の「異常」性を具有している必要があることになる。 他方で,通達によれば,上記「災害又は事故」には 故その他の人為による異常な災害又は事故」となっているので,「災害又は事故」は,火薬類の爆発と同程度の「異常」性を具有している必要があることになる。 他方で,通達によれば,上記「災害又は事故」には税務職員の誤った申告指導が含まれるところ,申告指導の誤りが具有する「異常」性と,火薬類の爆発という事実が具有する「異常」性が同程度であるとは到底いえないことは明白である。 なお,被告は,当該原告の主張に対して,所得税法施行令9条と国税通則法施行令26条の2とは趣旨が異なるなどと主張するが,ここで問題としているのは「その他の」という文言の一般的内容についてであり,被告の指摘は的外れである。そもそも,被告において,「その他の」との文言の解釈について,それぞれの条項の趣旨を踏まえた解釈をしている具体的な主張は本件では見られない。 したがって,被告の反論は失当である。 3 本件建物にアスベストが含有されていたことが,人為による異常な災害に該当すること(1) 「異常」すなわち通常あり得ないといえることア以下のとおり,アスベストの生命,健康に関する危険性,有害性,その後の規制状況及び本件建物に吹き付けアスベストが使用されていたことについての一般社会人の社会通念ないし原告の認識等に鑑みれば,本件で異 - 22 -常性は容易に認められる。 イまず,アスベストに対する社会的評価の変化及び規制の経緯について概観する。 大阪地判平成21年8月31日(甲8,以下「アスベスト判決」という。)によれば,アスベスト自体の人の生命,健康に関する危険性,有害性(特に肺がんや中皮腫の原因物質となり得る有害性)については,昭和45年頃には一般的に認識されていたものの,建築物に対する吹き付けアスベスト除去等の対策の必要性が広く世間一般に認識されるようになった 特に肺がんや中皮腫の原因物質となり得る有害性)については,昭和45年頃には一般的に認識されていたものの,建築物に対する吹き付けアスベスト除去等の対策の必要性が広く世間一般に認識されるようになったのは,早くても昭和62年頃であると認定されている(アスベスト判決48~49頁)。ところで,ここでいうアスベスト(石綿等)とは,労働安全衛生法施行令6条23号に規定する石綿等をいい,同号には,石綿若しくは石綿をその重量の0.1パーセントを超えて含有する製剤その他の物を石綿等とする旨規定されているが,かかる規定が制定されたのは平成18年9月に至ってである。 次に,既に使用されたアスベストの除去等を定める最初の法令である石綿障害予防規則が施行されたのは,平成17年7月1日に至ってからのことである。 さらに,本件でも問題となっているクリソタイル(アスベストの一種)を含有する製品(いわゆる二次製品)の製造,輸入,使用等が原則的に禁止されたのは,労働安全衛生法施行令が改正された平成16年10月1日以降に至ってであり,それまでは大量のアスベストが輸入・使用され続けていた(昭和50年頃から平成7年頃までの間,年当たり約23万トンから35万トンのアスベストが日本に輸入されている)。 ウところで,本件建物は,昭和50年5月頃に建築が開始されている。上記のとおり,当時は,未だ吹き付けアスベストの使用は何ら禁止されておらず,本件建物は,吹き付けアスベストが大量に輸入され使用されていた - 23 -状況下において建築された。 その後,本件建物建築途中である同年9月になって,吹き付けアスベストは原則として使用禁止となった。もっとも,当時はアスベストの含有率が5%未満であれば,アスベスト含有建材として使用禁止対象外とされていたところ,本件建物はその建築部材 月になって,吹き付けアスベストは原則として使用禁止となった。もっとも,当時はアスベストの含有率が5%未満であれば,アスベスト含有建材として使用禁止対象外とされていたところ,本件建物はその建築部材の一部に,アスベストが0.6%のみ含まれていた(乙2)。すなわち,本件建物が竣工した昭和51年頃,本件建物に用いられた吹き付けアスベストの使用は何ら禁止されていなかったのである。 エまた,本件建物に吹き付けアスベストが使用されていたことを原告が認識したのは,本件建物が解体されたときであり,通常の生活をしている限り,およそ一般人であれば発見・認識できない状態にて吹き付けアスベストが使用されていた。なお,実際に,原告も,本件建物の解体時までアスベストを含有しているとは知らなかった。 具体的には,本件建物は,1階・2階の各天井及びその梁面にアスベストが吹き付けられていたのであるが(乙3・6枚目),アスベストが吹き付けられていた箇所は,それらを覆う木造の間仕切り,木造の天井面及び柱を取り外さない限り,外部に露出することはなく(甲9),それらが取り外されたのは,まさに本件建物の解体工事が始まってから3日ほど経過した時である。 オつまり,昭和45年頃にはアスベスト自体の人の生命,健康に関する危険性,有害性(特に肺がんや中皮腫の原因物質となり得る有害性)について一般的に認識されていたにもかかわらず,原告及び一般人であれば知り得ない箇所において,当時の法令に違反しない限度において本件建物に吹き付けアスベストが使用されていた。その後,使用されていた当時には適法とされていた含有量のアスベストが,段階的に更なる規制を受け,最終的には,建物解体時に除去する義務が課せられるものとなったのである。 - 24 -これこそ通常あり得ない異常な事態にほかならな 法とされていた含有量のアスベストが,段階的に更なる規制を受け,最終的には,建物解体時に除去する義務が課せられるものとなったのである。 - 24 -これこそ通常あり得ない異常な事態にほかならない。 カ規制の経緯自体を異常としているわけではないこと被告は,原告がアスベストの撤去義務にかかる規制の経緯自体を主張して通常あり得ない異常な事態であるとしている旨主張するが,かかる主張は失当である。 すなわち,原告は,アスベストの撤去義務にかかる規制の経緯のみを捉えて通常あり得ない事態であると主張しているわけではなく,アスベストに対する世間一般の危険性の認識の変化,吹き付けアスベストの使用が本件建物の建築当時何ら禁止されていなかったにも関わらず,数十年もの年月が経過した後に撤去義務まで課されるようになったこと等の経緯を捉えて通常あり得ないと指摘しているのである。被告の主張は,そもそも原告の主張に対する反論足り得ていない。 (2) 「災害」すなわち通常の消費生活の過程で発生する損失とは異なる,消費の一形態として所得計算の埒外に置き去るのでは不合理であると考えられるような「何か(イベント)」があるといえることア本件建物が建築された昭和50年当時,適法とされていた含有量の吹き付けアスベストが,その後,長年にわたり段階的に規制が強化され,最終的には建物解体時に除去する義務が課せられるほど有害かつ危険な物質であるとの評価を受けるに至った。このようなアスベストに対する社会的評価の推移は,納税者の意思によるものではないことはもちろんのこと,納税者において予見及び回避が不可能であることは明白である。 また,吹き付けアスベストの除去義務を定める法令が制定された趣旨としては,建物解体に従事する労働者の生命・健康を守ることは勿論であるが,除去せず おいて予見及び回避が不可能であることは明白である。 また,吹き付けアスベストの除去義務を定める法令が制定された趣旨としては,建物解体に従事する労働者の生命・健康を守ることは勿論であるが,除去せずに解体することでアスベストが広範囲に飛散し,それによる周辺住民に対する健康被害を防止することにある。このように,解体労働者や周辺住民の生命・健康への被害を防止するという公共目的達成のため - 25 -に,国の対応の遅れを国民各自が肩代わりしなければならない事態は,まさに消費の一形態として所得計算の埒外に置き去るのでは不合理な事態というべきである。 なお,本件建物の建築時点と本件建物に有害物質であるアスベストが含有されていたことの認識時点との間に時間的間隔があるが,そういった傾向は例えば大気汚染や水質汚濁の場合にはむしろ通常のことであるし,時間的間隔があるという点では耐震偽装の場合も同様であるから,この点をもって「災害」に該当しないとか,雑損控除の対象とならないという理屈は成り立たない。 イ被告は,本件では「災害」が発生していないと主張する。 (ア) 具体的には,①アスベストの除去作業は,法律の規定に基づき,建物解体に必要な手続ないし作業を履践したにすぎないので災害に該当しない,②今後も同様の負担を余儀なくされる可能性のある者が無数に存在することから,「異常な災害」には該当しない,③法律家である原告であれば,本件建物の建築当時(昭和50年),アスベストの危険性について認識し得た,④自己都合で建物を取り壊している,⑤結局は,単に自らの預かり知らぬ損失が発生した場合には,際限なく雑損控除の対象とすることを帰結することになるなどと述べる。 しかし,いずれの主張もおよそ説得的であるとはいえない。 (イ) すなわち,①についていえば,アスベ らぬ損失が発生した場合には,際限なく雑損控除の対象とすることを帰結することになるなどと述べる。 しかし,いずれの主張もおよそ説得的であるとはいえない。 (イ) すなわち,①についていえば,アスベストの除去作業が災害であると主張しているのではなく,「本件建物にアスベストという有害物質が含有されていたこと」が災害に該当すると主張しているのであって,そもそも的を外した反論である。また,雑損控除が認められることに争いのない国道上にある家の材木等の撤去については,道路法43条で撤去義務について法定されていることからすれば,除去行為自体が法的規制に基づくものであるからといって雑損控除の適用がないということにはな - 26 -らないからである。 (ウ) 次に,②についていえば,そもそも,国の対応の遅れによりアスベスト除去費用相当額の経済的負担を強いられる国民の数が増えたことにより,なぜ「災害」ないし「異常」でなくなるのかについては一切言及していないので何ら説得的ではない。本件で問題となっているのは,国の対応の遅れによりアスベストの除去費用相当額の経済的負担を強いられたことが,消費の一形態として所得計算の埒外に置き去るのでは不合理な事態と評価できるか否かであり,このことは国の対応の遅れにより負担を強いられた国民の数が増加したことにより何ら変わるものではない。 (エ) また,③についていえば,被告が根拠として挙げていると考えられる「昭和45年頃からアスベストの危険性,有害性が指摘されていた」という点は,あくまでもアスベストを使用することを業とする事業者やそれらを規定する行政機関などの専門的知識を有すべき立場のものを名宛人としたものであって,アスベストのような物質についての特別の知識のない原告が昭和50年頃にアスベストの危険性を認識すべきであ 者やそれらを規定する行政機関などの専門的知識を有すべき立場のものを名宛人としたものであって,アスベストのような物質についての特別の知識のない原告が昭和50年頃にアスベストの危険性を認識すべきであったとの主張に何ら理由はない。このことは,アスベスト判決が「アスベスト除去等の対策の必要性が世間一般に認識されるようになったのは,早くても昭和62年ころである」としていることからも明らかである。原告が弁護士であるからアスベストの危険性を早期に認識し得たなどというのは暴論である。 (オ) 次に,④については,本件建物に有毒物質であるアスベストが含有されていたことが原告の主張する「災害」であり,かかる事実は何ら原告の意思に基づくものでない以上,やはり的を外した主張である。 (カ) 最後に,⑤については,あまりにも広く雑損控除を認めるものである旨の主張であるが,そもそもどういう場合を想定しているのか,何ら具体的な反論足り得ていない。 - 27 -また,結果として適用範囲が広くなっても,所得税法72条の要件を満たす以上は雑損控除されるべきである。逆に,法文の解釈論において,結果としての適用範囲の広狭を考慮すべきとする主張こそ採用される余地などない。 (3) 人為によるといえること被告は,「人為」性すなわち「人間の行為を原因とする」との要件について,何が人為なのかさえ明らかでないから,原告の主張は何ら説得力がないなどと主張する。 しかし,原告が主張する「災害」とは,本件建物にアスベストが含有されていたことであるから,当該災害の原因となる「人間の行為」は,本件建物の建築を請け負った建築業者による本件建物の建設工事である。 (4) その他の被告の主張についてアさらに,被告は,雑損控除が認められた耐震強度偽装事件と本件との差異につい の行為」は,本件建物の建築を請け負った建築業者による本件建物の建設工事である。 (4) その他の被告の主張についてアさらに,被告は,雑損控除が認められた耐震強度偽装事件と本件との差異について,「耐震強度偽装事件においては,建築設計事務所が行った構造計算書の偽造を指定検査機関が見過ごしたことで,震度5強程度の地震により倒壊するおそれのあるマンション等が違法に建築されている状況であり,一方本件については,本件建物の建築工事業者によってアスベストの吹き付け工事が行われた行為自体は,その当時の法的観点からして何ら問題はないのであり,この点は大きく違っている」旨主張する。要するに,被告は,両事例の差異は「違法かどうか」にあると主張し,そうであるからこそ,一方についてのみ雑損控除の適用があるとすることも不合理ではないと主張しているのである。 しかし,所得税法72条の「災害」の有無を検討するにあたり違法性の有無は全く無関係である。被告は,雑損控除が認められた耐震偽装問題と本件との差異を何とか見出そうと,「違法性」という新たな要件を持ち出しているが,全くの的外れである。 - 28 -やはり,原告が当初から主張しているとおり,「災害」に該当するか否か,すなわち納税者の意思によらないこと,予見及び回避することが不可能であることという点からすれば,耐震偽装と本件との間で何ら差異はないのであり,そうであるからこそ,本件において雑損控除の適用がないとする結論は課税の公平性を害する不当なものであり,採り得ない。 また,被告は,政府は,自主退去の勧告等を行ってもなお退去していない入居者のいる建築物に対し,建築物の使用禁止命令を行ったものであり,当該建築物が使用禁止命令を受けていないとしても,当該マンションは居住できない状況であることに変わりはな 行ってもなお退去していない入居者のいる建築物に対し,建築物の使用禁止命令を行ったものであり,当該建築物が使用禁止命令を受けていないとしても,当該マンションは居住できない状況であることに変わりはない。これに対し,居住用建物にアスベストが含有されていることそれ自体は,建物の使用を禁止する必要はなく,当該建物の所有者に対して直ちにアスベストの除去又は建物の取り壊し,あるいは建物から退去する必要は生じていないとして,耐震強度偽装事件と本件との違いを指摘する。しかし,そもそもの考え方として,退去する必要性と雑損控除の適用が認められるか否かは何ら関連性がない。 この点は,今まで雑損控除が認められた事案でも明らかなとおり,単に自宅にシロアリがいるからといって,その建物に居住できない状況になるわけではないし,雪下ろしの費用についても,建物への居住ができなくなるような豪雪が発生する地域に限定して雑損控除の適用があるとは考えられないからである。 イさらに,被告はアスベストの飛散によるアスベスト除去業者の健康障害等を未然に防止することは,法令上の安全基準や作業基準を遵守して行われる正当な作業,正当な行為の結果であるから災害に該当しないなどと主張するが,この点も,要するに「災害」と評価できる事象の有無を検討するにあたり「違法かどうか」を検討しているのであり,全くの的外れであることは明白である。 (5) D意見書(乙19)に対する反論 - 29 -ア D意見書は,「災害」の意義について,雑損控除の制度趣旨に一応は言及しつつも,「あくまでも居住者らの関与あるいは関与の機会は完全に遮断されているもの」などとしている。かかるD意見書の主張は,結局非課税規定は厳格に解釈しなければならないとの価値判断をなぞったにすぎず,「所得」の意義を捉えた上で「所得」 るいは関与の機会は完全に遮断されているもの」などとしている。かかるD意見書の主張は,結局非課税規定は厳格に解釈しなければならないとの価値判断をなぞったにすぎず,「所得」の意義を捉えた上で「所得」控除の範囲を決すべきとする原告の反論に答えられたものとはなっていない。 そもそも,当該定義は文理からは到底読み取ることができないものであり,著しく不当な限定解釈にすぎない。 イまた,D意見書では,所得税法施行令9条の「鉱害,火薬類の爆発その他の人為による異常な災害」の定義について,「その他」について並列の関係を指すものとして,「鉱害,火薬類の爆発」と同様な性質を有する「人為による異常な災害」をいうと解釈すべきであるとしている。 しかし,「その他」の解釈が失当であることは前述のとおりである。また,D意見書がその根拠として引用している東京地判平成15年7月16日の判示も東京高裁においてその判断が覆されており,その説得力に欠ける。 そもそも,D意見書が示すように,「鉱害,火薬類の爆発」と同様な性質を有する「人為による異常な災害」に限定されるべきであるとすれば,既述のとおり,国税庁がマンションの耐震強度偽装による被害を「人為による異常な災害」に該当すると判断していることと全く整合しない。 これに対し,E意見書(甲13)において指摘したように,本件におけるアスベストによる被害は,所得税法施行令9条が規定する「鉱害」に直接該当するわけではないが,「鉱物により人為的に引き起こされる異常な災害」といえ,「鉱害」と同様の性質を有する事象といえる。 したがって,「鉱害」や「火薬類の爆発」とは決して同等な性質とはいえない耐震強度偽装による被害が「人為による異常な災害」に該当するの - 30 -であれば,なおさら,本件におけるアスベストによる被害は「人 ,「鉱害」や「火薬類の爆発」とは決して同等な性質とはいえない耐震強度偽装による被害が「人為による異常な災害」に該当するの - 30 -であれば,なおさら,本件におけるアスベストによる被害は「人為による異常な災害」に該当するというべきである。 (被告の主張) 1 雑損控除制度の意義及び立法趣旨(1) 「雑損控除」は,「災害等による異常な損害によって低下した担税力に即応した公平な課税を実現する目的で設けられた」ないしは「その規定の文理上明らかなように,災害,横領という異常な損失により減少した担税力に即応して課税することであり,納税者その他所定の者の有する資産について災害,盗難,横領等の法定原因によって損失が生じた場合において,一定額の控除を認めるものである」とされているところであり,災害,盗難,横領による損失の生じた納税者と,何ら損失を被っていない納税者とを比較すると担税力に相当の差異が生ずることに着目し,例外的に上記損失を被った場合には,当該納税者の個別的事情を考慮し,課税標準から一定の金額を控除することにより,納税者個々の担税力に応じて適正な税負担を求めるという目的に基づき設けられた政策的な制度である。 (2) 所得控除である雑損控除の適用は,このような制度の意義及び立法趣旨からすれば,その政策立法目的に適合するように限定的に適用されるべきであり,特に,所得控除のような課税減免規定の解釈に当たっては,課税減免規定が課税要件規定の例外に該当することや,課税要件規定が実現維持しようとする租税負担の公平等の理念に対し,阻害的影響を及ぼすものであることから,課税要件規定以上に,その法律の趣旨・目的に沿った厳格な解釈が要求されているというべきである。 また,所得税法施行令9条にいう「鉱害,火薬類の爆発その他の人為による異常な災害 ものであることから,課税要件規定以上に,その法律の趣旨・目的に沿った厳格な解釈が要求されているというべきである。 また,所得税法施行令9条にいう「鉱害,火薬類の爆発その他の人為による異常な災害」の解釈に当たっては,立法趣旨を踏まえた限定的な適用を考慮し,かつ,課税要件以上にその法律の趣旨・目的に沿った厳格な解釈を行う必要がある(D意見書6~8頁)。 - 31 -以上のことから,「人為による異常な災害」とは,「人為による」,「異常な」,「災害」の全ての要件を満たすものが前提であるが,「人為による異常な災害」が一つの文言として規定されていることを考えると,発生した事象が「人為による異常な災害」に該当するか否かについては,「人為性」・「異常性」・「災害性」を法律の趣旨・目的に沿って総合的に判断することになる。 2 本件において「人為による異常な災害」は発生していないこと所得税法施行令9条に例示された「鉱害」及び「火薬類の爆発」についても,条文構成上,人為性,異常性,災害性その全てを具備すべきものであるから,「鉱害」及び「火薬類の爆発」は人為性,異常性,災害性の,いずれの例示ともいうべきであり,人為による異常な災害は,鉱害及び火薬類の爆発と「同等ないし匹敵」すべき「異常な」「災害」をいうものと解される。このような限定的な解釈は,上記の課税減免規定の解釈の在り方からすれば当然である。 (1) 災害性が認められないことア本件建物にアスベストが含まれていたこと自体は災害に該当しないこと(ア) 原告は,本件建物の建築部材の一部(本件建築部材)に石綿等が含まれていたことから法令上の規制に基づく除去工事費用を負担したものであるが,そのことは「震災,風水害,火災」「冷害,雪害,干害,落雷,噴火その他の自然現象の異変による災害」にも, 部材)に石綿等が含まれていたことから法令上の規制に基づく除去工事費用を負担したものであるが,そのことは「震災,風水害,火災」「冷害,雪害,干害,落雷,噴火その他の自然現象の異変による災害」にも,「害虫,害獣その他の生物による異常な災害」にも該当しないことは明らかである。本件除去費用等の負担は,一定の基準を超えるアスベストを含有する建築部材を内包する建築物につき,アスベスト除去工事を実施すべきことが,法的規制,すなわち,石綿障害予防規則や大気汚染防止法の規定により,工事事業主に課せられていることに基づくものであり,原告は,法律上の規定に基づいて解体に必要な手続ないし作業を履践したものにすぎない。 (イ) 災害の一般的な法令用語上の意義は,「不意に突発した外からの強暴 - 32 -な力」によって,「被害を受けた場合の原因と結果を合わせて災害という。」とされており,所得税法72条における「災害」も,この「災害」の概念を前提としていることは明らかである。 原告が主張する,「本件建物にアスベストという有害物質が含有されていたこと」自体は,上記の「災害」の定義によれば,「不意に突発した外からの強暴な力」により発生した原因・結果いずれにも該当しないことは明らかである。 イ原告の主張に対する反論(ア) 本件は,原告が主張するような回避不可能な事象ではないこと原告は,「災害」について,「納税者の意思によるものでないこと」か,「予見及び回避が不可能であること」が基準となると主張するが,本件においては,原告は自らの意思により本件建物の建築を希望の内容で建築業者に請け負わせた上で建築し,その後原告自らの意思で解体を行い,その過程で当初から本件建物に内包されていたアスベストを除去することとなったのであるから,上記過程のいずれも自己の意思に基 内容で建築業者に請け負わせた上で建築し,その後原告自らの意思で解体を行い,その過程で当初から本件建物に内包されていたアスベストを除去することとなったのであるから,上記過程のいずれも自己の意思に基づいており,納税者の意思に基づかないものはない。なお,弁護士である原告自身においては,世間一般以上にアスベストの危険性も,有害性も認識可能であったのであり,回避が不可能であったとはいえない。 (イ) 雑損控除の対象となる損失発生原因としての「災害」について原告が主張するように,雑損控除の対象となる損失発生原因の本質が,納税者の自発的な消費行動に当たらない,突発的に発生した損失あるいは通常予測不可能な損失であると定義すると,結局は,単に,自らのあずかり知らぬ損失が発生した場合には,際限なく雑損控除の対象とすることを帰結することになり,かかる結論は,「災害」の場合に発生する担税力の低下を政策的に所得控除の対象とする雑損控除の趣旨にも文理にも反する結果となり,あまりにも広範に雑損控除を認めるものとなる - 33 -から,到底採用できるものではない。原告の主張は,所得税法72条所定の「災害」を単なる「損失」に置き換えるような解釈を主張するに等しい。 (ウ) 所得税法施行令9条の「鉱害,火薬類の爆発その他の人為による異常な災害」についてのE意見書の解釈が失当であることE意見書は,所得税法施行令9条の「災害」は,「鉱害,火薬類の爆発その他の人為による異常な災害」であるが,この条文の規定は「鉱物により人為的に引き起こされる異常な災害」と解することができ,本件では鉱害そのものではないとしても鉱物により人為的に引き起こされる異常な災害に当たるとしている。 しかしながら,E意見書は,鉱業法上の「鉱害」とは「鉱業権者が鉱物を処理等する際に鉱物によ き,本件では鉱害そのものではないとしても鉱物により人為的に引き起こされる異常な災害に当たるとしている。 しかしながら,E意見書は,鉱業法上の「鉱害」とは「鉱業権者が鉱物を処理等する際に鉱物によって他人の財産等に被害を与えること」と解することができるとし,本件は,鉱業法上の「鉱害」には該当しないとしながら,鉱業法上の「鉱害」の性質は鉱物による財産上の被害であると勝手に読み替えるもので,論理が飛躍しているし,結局,建築物のアスベスト含有自体がいかなる意味で「鉱害」であるのか不明である上,何が「人為」なのかも明らかにされておらず,結局は,先に結論ありきの意見となっているといわざるを得ない。したがって,「鉱害」の定義を用いて,本件が所得税法施行令9条の「鉱害,火薬類の爆発その他の人為による異常な災害」に該当するとした意見は失当である。 (エ) 小括以上のとおり,個別具体的に検討しても,本件建物にアスベストが含まれていたこと自体は,災害に該当しないものであり,結局,本件において,本件建物の解体工事から本件除去費用等が必要となるに至った経過は,法令の規定に基づき建物解体に必要な手続ないし作業を履践したというものにすぎないというべきである。 - 34 -(2) 人為性が認められないこと原告は,当該災害の原因となる人間の行為は,本件建物の建築を請け負った建築業者による本件建物の建設工事であると主張する。 しかしながら,原告は,単に,建築業者による本件建物の建設工事により,アスベストを含有する本件建物を建築したと主張しているにすぎないのであり,原告が主張する「人為性」は,災害性を全く帯びておらず,「異常な災害」との具体的なつながりは明らかでない。すなわち,「本件建物にアスベストが含まれていたこと自体」が災害であるとの結論を導くため り,原告が主張する「人為性」は,災害性を全く帯びておらず,「異常な災害」との具体的なつながりは明らかでない。すなわち,「本件建物にアスベストが含まれていたこと自体」が災害であるとの結論を導くためには,ひっきょう,本件建物の建築工事自体に人為性を求めざるを得ないことになるが,いわゆる「人災」における人為性とは,通常,人的原因によって災害がもたらされることをいい,確かに,本件建物の建築工事がなければアスベストを含んだ本件建物は完成しなかったという意味では,人の行為が介在しなかったとはいえないが,本件建物の建設工事には,それ以上の意味を見出すことはできず,結局,本件建物を建築した行為には,人災をもたらすという意味での「人為性」の要素は見いだせない。 要するに,結果的に,原告がアスベストを除去することを迫られ,出費を強いられることとなったのは,本件建物の建築当時には問題とされていなかったアスベストの使用が,その後の法令の規制強化によって法令に従った別途の除去工事を必要とするに至ったとの事情によるものであり,この法令の規制強化を人災をもたらすという意味での人為性とみることはできない。 以上のとおり,本件において,所得税法施行令9条の「人為による異常な災害」における「人為性」は認められない。 (3) 異常性も認められないことア法律の改正による新たな負担は,異常とはいえないこと(ア) 原告が本件除去費用等を負担することとなったのは,法令の規定により,一定基準を超えるアスベストを含有する建築部材を内包する建築物 - 35 -の解体工事を行うに当たり,これを業者に注文する者の全てが事実上負担することになる性格のものであり,このような負担に「異常性」を認めることはできない。 すなわち,アスベストの使用を規制することのみならず,一般に, に当たり,これを業者に注文する者の全てが事実上負担することになる性格のものであり,このような負担に「異常性」を認めることはできない。 すなわち,アスベストの使用を規制することのみならず,一般に,国民生活,あるいは経済活動を行うに当たり,何らかの制限を加えたり,新たな経済的負担を課することは,その規制が公共のために必要なもので,法律により国民を一律に規制するものである限り,何ら異常性はない。 (イ) なお,現時点において,アスベストを含む建物については,その解体作業等の特定粉じん排出等作業を行う者に対し除去等の措置を講じる作業基準の遵守義務が課せられているが,アスベストを含有している居住用建物の所有者に対し,当該居住用建物にアスベストが含有されていることそれ自体について,直ちにアスベストを除去することや,建物を取り壊すこと,あるいは建物からの退去を命ずるという法規制は存在しない。 本件建物は,その取得後に,一定量以上のアスベストを含有することが確認されたという事実はあるが,アスベストを含有しているからといって,通常の方法によって本件建物の利用を継続する(普通に住み続ける)ことができなくなったわけではない。 イアスベスト除去に関する規制は何ら「異常」ではないこと原告が本件除去費用等を負担することとなったのは,石綿障害予防規則等の法令の規定によるものであるが,その目的,負担の程度をみても,アスベスト被害防止に関する社会的要請により,建物の解体時に,一定基準以上のアスベストが建材に含まれていた場合にアスベストを除去する義務を建物の解体作業を行う事業主に課すことにより,ひいてはアスベストの除去費用の支出を居住者が負担することは,アスベストの危険性,その費 - 36 -用の程度を勘案しても,居住者の受忍限度を超えるものとはいえ 作業を行う事業主に課すことにより,ひいてはアスベストの除去費用の支出を居住者が負担することは,アスベストの危険性,その費 - 36 -用の程度を勘案しても,居住者の受忍限度を超えるものとはいえず,何ら異常性は認められない。 ウ原告の主張に対する反論(ア) 原告の認識によって災害の異常性を判断すべきではないこと原告は,「原告の認識などに鑑みれば」異常性は認められるとし,アスベストの規制に関する経緯が異常である旨主張するが,課税行政の明確性,公平性の観点からすれば,そもそも課税要件事実の有無は客観的に判断すべきであるから,災害が異常かどうかの判断についても,一般通常人の社会通念によるべきであり,原告個人の主観や認識によって,異常性の判断が左右されてはならないというべきである。また,原告の主張する「異常」とは客観的に何と比較して異常なのかの説明がなく,失当である。 (イ) 工期の長期化や負担する費用の増加は,被害そのものの重大性や深刻さに直接つながる要素ではないこと本件除去費用等が高額であったことや,通常の解体工事よりも工期が長くなったことは,一般的にアスベストを含有する建物の所有者が,同建物の解体工事の過程でアスベストの除去工事を余儀なくされることに伴う正常な経過・事態であって,何ら「異常」な事象とはいえず,また,通常の解体よりも工期が長くなったことも,本件建物について当初からアスベスト除去工事が計画されていたならば,通常要する期間であることは言うまでもない。 よって,アスベストの除去費用が高額であることや,工期が長くなったことは,異常性を根拠付けるものとは到底いえない。 また,本件の場合は,自己都合で本件建物を取り壊すのであって,納税者の意思に基づかない取壊しであるとはいえず,これに異常性を認めることはできない たことは,異常性を根拠付けるものとは到底いえない。 また,本件の場合は,自己都合で本件建物を取り壊すのであって,納税者の意思に基づかない取壊しであるとはいえず,これに異常性を認めることはできない。 - 37 -(4) 国税通則法施行令26条の2の「人為による異常な災害又は事故」は所得税法施行令9条にいう「人為による異常な災害」と趣旨が異なること原告は,災害の意義につき,被告の主張を前提とすると,国税通則法施行令26条の2の「災害」の意味と全く異なる解釈となると主張するが,同条は延滞税の免除に関する規定であり,この規定の趣旨は,納税者の責めに帰すべからざる「災害又は事故」により納付行為ができないときは,納付の遅延を原因として附帯税を課すことが酷であるとして,その間の延滞税の負担を免除するものであり,本来納めるべき本税を免除するという趣旨のものではない。これに対し,本件で問題となる雑損控除は,法が予定する特別の事情がある場合に,それを担税力の減殺要因として課税標準を免除するという,いわば本税の納税に直結する減免規定であるから,両者の位置付けは全く異なっており,本件における解釈に影響を及ぼすものではない。 なお,原告は,国税通則法施行令26条の2の「人為による異常な災害又は事故」の意味内容と,所得税法施行令9条における「災害」が「まったく違う」意味内容になる旨主張するが,税務署職員の誤指導を含むかどうかとの点に関して,趣旨を異にすることに起因して異なる内容となる部分があるにすぎない。 3 本件が耐震強度偽装事件との比較において「人為による異常な災害」に該当するか否かを判断することはできないこと被告は,原告が本件と耐震強度偽装事件との比較において,本件も雑損控除として認めるべきであると主張するのに対し,本件には,耐震強度偽装 よる異常な災害」に該当するか否かを判断することはできないこと被告は,原告が本件と耐震強度偽装事件との比較において,本件も雑損控除として認めるべきであると主張するのに対し,本件には,耐震強度偽装事件に認められるような異常性は認められない旨を主張してきた。しかしながら,被告の耐震強度偽装事件に関する主張は,本件が耐震強度偽装事件との比較において「人為による異常な災害」に該当するか否かを判断すべきものであるとの考え方に基づくものではない。 すなわち,これまでも繰り返し述べてきたように,雑損控除は,個別の事件 - 38 -ごとに,「人為による異常な災害」に該当するかを総合的に判断すべきものであるところ,耐震強度偽装事件では,建築設計事務所が行った構造計算書の偽装を指定検査機関が見過ごしたことで,震度5強程度の地震において倒壊するおそれのあるマンション等が違法に建築されている事実が判明し,政府が入居者に対し自主退去の勧告や使用禁止命令等を行うほどの被害が生じているという深刻な状況であることのほか,検査機関さえ見過ごしたものであるから,居住者が偽装に気付くことは極めて困難であったことなどの諸般の事情を考慮して,「人為による異常な災害」に該当すると判断したものである。 他方,本件についてみると,従前必ずしも人体に有害であるとはされていなかったアスベストにつき,人体に有害である旨法的に評価が変更されたことに伴い,アスベストによる健康被害を防止するため,アスベストを含む建材の処理の方法に対して段階的に法規制がなされたことで,解体工事の事業主にアスベストを除去する義務が課され,本件建物解体に当たって,アスベストの除去費用を原告が負担する必要が生じたものである。 しかし,居住用建物にアスベストが含有されていることそれ自体において,当該建物が損 ストを除去する義務が課され,本件建物解体に当たって,アスベストの除去費用を原告が負担する必要が生じたものである。 しかし,居住用建物にアスベストが含有されていることそれ自体において,当該建物が損傷されるとか人体に影響があるといったことにはならず,それ自体は,危険を生じさせるような状態ではないことから,入居者の安全性確保のために建物の使用を禁止する必要はなく,当該建物の所有者に対して直ちにアスベストの除去又は建物の取壊しを行い,あるいは建物から退去する必要は生じていない。そもそも,本件建物の建築当時においてアスベストの使用は禁止されておらず,本件建物の建築施工業者によってアスベストの吹き付け工事が行われた行為自体は,法的観点からしてなんら問題はないのであり,この点,耐震強度偽装とは大きく異なっているし,その他異常性を認める事情もなく,「人為による異常な災害」とはいえない。 以上のとおり,耐震強度偽装事件と本件とは,それぞれ「人為による異常な災害」に該当するか否かについて,各個別の事情を考慮して判断すべきもので - 39 -ある。 4 小括以上のとおり,本件建物にアスベストが含まれていたことは,所得税法施行令9条にいう「鉱害,火薬類の爆発その他の人為による異常な災害」に該当しない。 第2 本件建物にアスベストが含まれていたことが所得税法72条1項の「資産…について災害…による損失が生じた場合」に該当するか(争点2)。 (原告の主張) 1 本件における「人為による異常な災害」とは,本件建物にアスベストが含有されていたことであり,それにより,原告は,本件建物という「資産」の経済的価値が少なくとも本件除去費用等相当額分下落したという「損失」を被っている。 すなわち,本件建物にアスベストという有害物質が含まれていれば,有害物質 により,原告は,本件建物という「資産」の経済的価値が少なくとも本件除去費用等相当額分下落したという「損失」を被っている。 すなわち,本件建物にアスベストという有害物質が含まれていれば,有害物質の対策費用や心理的嫌悪感などの諸要因により不動産の価値は当然に下落する。特に有害物質の対策費用の点については,平成14年7月3日付けで改正された不動産鑑定評価基準(甲11)からしても明らかである。ここで有害な物質の存在が価値評価基準の個別的要因として考慮されるようになったのは,有害な物質の使用の有無により対策工事等の要否が決まり,将来必要となるその対策費用が対象建物の価格形成に大きな影響を及ぼす可能性があると考えられている。つまり,かかる考え方からすれば,減少した本件建物の経済的価値は本件除去費用等を下回らないといえる。 そして,本件建物にアスベストという有害物質が含有されている状態であれば,すでに本件除去費用等を下回らない損失は客観的に発生しているのであり,有害物質が含有していることによりその不動産の価値の下落が具体的に認識されるのはアスベストが含有されていることが判明した時点であるというにすぎない。まさにその時点で価値の減少すなわち当該資産に生じた「損失」の具体 - 40 -的金額が確定するのである。 したがって,本件建物にアスベストという有害物質が含有されていることにより,本件建物という「資産」に「損失」が生じているといえる。 2 被告は,本件建物はアスベストが発見される前に解体に着手され,その後消滅していることから,アスベストの発見により資産としての経済的価値の下落が発生していないことが明らかであるなどと主張する。 確かに,本件建物の解体中にアスベストの含有が判明したのは事実である。 しかし,本件では,アスベストという有害物質が り資産としての経済的価値の下落が発生していないことが明らかであるなどと主張する。 確かに,本件建物の解体中にアスベストの含有が判明したのは事実である。 しかし,本件では,アスベストという有害物質が含まれていたという災害により,本件建物の経済的価値が減少したという「損失」を被っているのであり,当該損失が現実に具体化したタイミングが,本件ではたまたま本件建物解体中であったにすぎない。すなわち,本件建物自体の解体と,それに含まれている本件建物に含有されたアスベスト自体の除去とは,全く別個の次元の問題なのである。したがって,被告の主張はあたらない。 なお,実質的に考察すれば,解体中であったことにより本件建物の機能的側面における価値は零であったとしても,アスベストという有害物質の判明により,価値が零にとどまらず,マイナスの価値,つまり,単なる解体では済まされずにさらにアスベストを除去すべき負担を被った(いわば負の遺産となった)ことは厳然たる事実である。 したがって,いずれにしても,被告が主張するように,解体中であったから本件建物の価値の減少が認められない,という論理は的外れといわざるを得ない。 (被告の主張) 1 資産についての損失とはいえないこと(1) 所得税法72条1項の規定によれば,雑損控除制度は,原則として,「資産自体に生じた損失」を対象にしているのであり,同条項の雑損控除の適用を受けるためには,「一定の資産について」災害により損失が生じたこと, - 41 -ないしは当該資産に損失を被った・損失を填補(原状回復)した場合ないしは損失を被ることを防止するために支出した費用であることが必要である。 そもそも,損失とは,滅失,損壊,価値の減少をいうものであるが,本件建物自体は,原告の意思により解体されることとなり,その着手ととも 失を被ることを防止するために支出した費用であることが必要である。 そもそも,損失とは,滅失,損壊,価値の減少をいうものであるが,本件建物自体は,原告の意思により解体されることとなり,その着手とともに住宅の役目を終え,アスベストの除去作業を伴う解体により原告自身の意思に基づき消滅したのであって,本件建物につき,アスベストが含まれていたからといって,実際には,原告の主張するような価値の減少などの損失は生じていない。すなわち,本件建物は原告の意思により解体に着手された点で,住宅(所得税法施行令206条1項1号)の役目を終え,廃材として消滅することが予定された無価値物となったのであり,この時点で,原告も認めるように,住宅としての機能的価値は零である。このような資産は,そもそも雑損控除の対象となる資産に該当しない。 このように,本件建物は,アスベストが含有されていることを原因として解体を行ったものではなく,原告自身の意思により,原告の都合で解体を行ったものであるところ,アスベストは本件建物の解体中にたまたま発見されたものであって,本件建物から発見されたアスベストが専門業者により除去された後,本件建物の解体工事が再開され,本件建物は消滅しているのであるから,雑損控除の客体とすべき資産である本件建物は,アスベストの発見により,資産としての経済的価値の下落が発生したわけではなく,アスベストの発見・除去費用の負担発生と,資産価値とは何ら関係がないことは明らかである。 (2) この点,原告は,本件建物は,実質的に考察すれば,解体途上であるとの意味の限りでは,「本件建物の機能的側面における価値は零であった」と認めつつ,「アスベストという有害物質の判明により,価値が零にとどまらず,マイナスの価値,つまり,単なる解体では済まされずにさらに有害物質を除去 ,「本件建物の機能的側面における価値は零であった」と認めつつ,「アスベストという有害物質の判明により,価値が零にとどまらず,マイナスの価値,つまり,単なる解体では済まされずにさらに有害物質を除去すべき負担を被った(いわば負の遺産となった)」と主張するところであ - 42 -るが,この主張自体において,原告が本件建物が解体を予定した時点において既に住宅としての機能的側面における価値のないことを認めていることは明らかである。所得税法72条1項は,「…の有する資産について災害…による損失が生じた場合」と規定しており,条文上あくまでも資産性を前提とし,これに損失が生じたことを要件としているのであって,本件のように,解体中の建物に別途発生した費用まで,資産「について」生じた損失といえないことは明らかである。 また,損失計算に関する規定をみると,所得税法施行令206条3項において,「法第72条第1項の規定を適用する場合には,同項に規定する資産について受けた損失の金額は,当該損失を生じた時の直前における資産の価額を基礎として計算するものとする。」と規定しており,当該損失を生じた時の直前における資産の価額から,損失を被った後の資産の価額を控除した残額が損失額とならなければならない。この点,原告は,当該損失を生じたときの直前における資産の価額について,本件建物の解体工事着手直前の価額とし,また,損失を被った後の資産の価額については,本件建物にアスベストが含まれていたことを認識した直後の価額と主張するが,アスベストの含有が判明する直前において,解体に着手した本件建物は,雑損控除の適用においては住宅としての価値は既に零であって,それ自体アスベストの含有による価値の減少が生じる余地はなく,本件建物について損失額を計算することはできない。そして,解体 した本件建物は,雑損控除の適用においては住宅としての価値は既に零であって,それ自体アスベストの含有による価値の減少が生じる余地はなく,本件建物について損失額を計算することはできない。そして,解体に着手後,原告が支出したアスベストの除去費用は,自己の意思に基づき解体工事を開始したという一連の事象の中における解体に伴う費用の一部にすぎず,当該「資産」について生じた損失とはいえないことは明らかである。 以上のとおり,本件建物にアスベストが含まれていたことは,所得税法72条1項の「資産…について災害…による損失が生じた場合」には該当しない。 - 43 - 2 アスベストの含有は本件建物の価値を下落させるものではないことアスベストの性質は,「耐摩擦性,耐熱性,断熱・防音・吸音性,耐薬品性等の物質的特性を持ち,また,経済的に安価なものであることから,摩擦材,保温材,耐火・耐熱・吸音・結露防止目的の吹き付け材などとして,産業界に幅広く使用されてきた」ものである(甲8)。アスベストが本件建物に含有されていても,それが固定化されており,適正な維持管理が行われておれば,基本的には粉じん飛散の心配はなく,健康被害が発生する恐れはないことから,建物の使用自体にも問題はないとされている(甲11)。 そうすると,所得税法72条1項に定める損失があったかどうかは,原則として,当該資産の物理的被害の有無によるものであると解されていることから,本件建物にアスベストが含有されていることそれ自体では,本件建物自体に損失が生じているとはいえない。 したがって,本件において,所得税法72条1項の規定に基づく住宅家財等の損失はないといえることから,原告の主張は失当である。 第3 本件除去費用等が所得税法施行令206条1項1号にいう災害関連支出「災害により…住宅家 いて,所得税法72条1項の規定に基づく住宅家財等の損失はないといえることから,原告の主張は失当である。 第3 本件除去費用等が所得税法施行令206条1項1号にいう災害関連支出「災害により…住宅家財等…の価値が減少したことによる当該住宅家財等の取壊し又は除去のための支出その他の付随する支出」に該当するか(争点3)。 (原告の主張) 1 災害関連支出該当性本件では,本件建物に含有されていたアスベストの除去等を余儀なくされているので,本件除去費用等は,「政令で定めるやむを得ない支出」すなわち「災害により・・・資産・・・の価値が減少したことによる当該住宅家財等の・・・除去のための支出」(所得税法施行令206条1項第1号)にも該当する。 2 被告の主張に対する反論(1) 被告は,所得税法施行令206条1項1号において「その価値が減少したことによる当該住宅家財等の取壊し又は除去のための支出」と規定されてい - 44 -ることから,住宅家財等の「価値の減少」と支出の間に相当の因果関係が必要であるとした上で,本件除去費用等は,本件建物の経済的価値の減少を原因として支出したものではなく,あくまで,本件建物の解体費用に付随して支出されたにすぎないものであるから,所得税法施行令206条1項1号の災害関連支出に該当しないなどと主張する。 しかし,本件では,本件建物の「解体」による経済的価値の減少を起因とするのではなく,あくまでも「アスベストという有害物質が含まれていたこと」という「災害」により経済的価値が減少したことを起因として本件建物の建材となっていたアスベストの除去のための支出をしたのであって,当該支出がたまたま本件建物の解体中に行われたというものにすぎない。 (2) なお,被告は,耐震強度偽装事件について「震度5強程度の地震において倒 いたアスベストの除去のための支出をしたのであって,当該支出がたまたま本件建物の解体中に行われたというものにすぎない。 (2) なお,被告は,耐震強度偽装事件について「震度5強程度の地震において倒壊するおそれのあるマンション等が違法に建築されている状況」が「災害」であるとのみ主張する。すなわち,耐震強度が偽装されたマンション等について未だ倒壊していない以上,同事件における損失は,あくまでも建直しないし耐震補強の工事等を実施する負担を被ったという評価減(所得税法施行令206条における「価値の減少」)にすぎないものであり,それらの工事の実施に際して具体的な費用が算出された段階で初めて損失が現実に具体化するものである。 したがって,損失の発生及び具体化という点についても,本件と耐震強度偽装事件との間に何ら差異は認められない。 (被告の主張) 1 災害による資産の滅失・損壊が前提であること(1) 雑損控除制度が災害による担税力喪失に着目した制度であることからすれば,雑損控除として所得税法72条によって控除されるものは,「災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合…当該損失の額」であり,これは「その災害又は盗難若しくは横領に関連して…政令によるやむを得ない支出 - 45 -をした場合を含む」とされているところであるから,①雑損控除を受ける資産が,滅失し,損壊し,又はその価値が減少したことによって,その資産の取り壊し又は除去のために要した支出,②災害,盗難,横領によって,当該資産を使用することが困難となった場合の当該資産の原状回復のために要した費用の額であると考えられる。 (2) 所得税法施行令206条1項1号は,「災害により法第72条第1項に規定する資産(以下「住宅家財等」という。)が滅失し,損壊し又はその価値が減少したこと」 した費用の額であると考えられる。 (2) 所得税法施行令206条1項1号は,「災害により法第72条第1項に規定する資産(以下「住宅家財等」という。)が滅失し,損壊し又はその価値が減少したこと」と規定し,同項2号柱書きは,「災害により住宅家財等が損壊し又はその価値が減少した場合その他災害により当該住宅家財等を使用することが困難となつた場合」と規定し,同項3号は,「災害により住宅家財等につき現に被害が生じ,又はまさに被害が生ずるおそれがあると見込まれる場合」と規定している。そうすると,災害関連支出は,その前提として,災害等により住宅等の資産自体に滅失等又は被害が生じている必要があるが,本件においては,上記2において述べたとおり,本件建物本体に滅失等又は被害は生じていない。 すなわち,所得税法施行令206条1項1号は,同条適用の資産を住宅家財等と規定しており,ここでいう「住宅家財等」に関していえば,本件建物は,雑損控除の適用においては,住宅としての価値は零であるから,そもそも,同号の想定する「住宅家財等」には該当しない上,本件建物は解体に着手され,アスベストの除去作業後に,解体され消滅しているから,アスベストが含まれていたからといって,同号の滅失,損壊,価値の減少などの損失が生じる住宅家財等の資産に該当しない。 2 因果関係がないこと所得税法施行令206条1項1号は,「災害により…その価値が減少したこと」「による」「当該住宅家財等の取壊し又は除去のための支出」と規定していることから,住宅家財等の「価値の減少」と支出の間に相当因果関係が必要 - 46 -であるが,そもそも,本件においては解体予定であったから,本件建物の価値は原告自身の意思で滅失が既に予定されていたものであって,本件除去費用等は,本件建物の経済的価値の減少を「原 - 46 -であるが,そもそも,本件においては解体予定であったから,本件建物の価値は原告自身の意思で滅失が既に予定されていたものであって,本件除去費用等は,本件建物の経済的価値の減少を「原因として」支出したものではなく,あくまで,本件建物の解体費用に付随して支出したにすぎないから,同号の災害関連支出に該当しない。 3 小括所得税法施行令206条1項1号に規定する,価値が減少したことによる当該住宅家財等の取壊し又は除去のための支出その他の付随する支出とは,本件のような自己都合による解体に係る支出が該当しないことは当然のこと,自己都合により解体に着手され,消滅することが明らかな資産に対する付随的な支出などを想定しているものでもない。したがって,本件除去費用等は,同号所定の災害関連支出に該当しない。
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