昭和28(う)388 失業保険法竝びに労働基準法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和28年10月29日 東京高等裁判所 破棄自判
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【DRY-RUN】主    文      原判決中、被告人両名に対し失業保険法違反の点について言渡した部分 を破棄する。      被告人両名は失業保険法違反の公訴事実について無罪。          理    由  

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判決文本文2,485 文字)

主文 原判決中、被告人両名に対し失業保険法違反の点について言渡した部分を破棄する。 被告人両名は失業保険法違反の公訴事実について無罪。 理由 被告人両名の弁護人小野清一郎、日野寛、鎌田英次の控訴理由は、末尾に添附する控訴趣意書と題する書面に記載するとおりである。 ところで、原判示によれば、被告人Aは被告人B株式会社の代理人として本件失業保険料を所定の納付期日に納付すべき義務があつたというのであるが、原判決のこの点に関する判断は、本件について昭和二五年一二月一九日に東京高等裁判所第八刑事部のした破棄差戻判決に従つたものであるから、今更これを非難することは許されないので、その所論を採用するわけにはいかない。しかし、すべて、義務の履行は、その履行が可能な限りにおいて期待さるべきであるから、もし義務者のおかれた諸般の情況が、義務者をしてその義務の履行をして不可能ならしめるような場合には、たとえ義務の不履行があつたからといつて、その不履行につき義務者の責任を問うわけにはいかない。けだし、法は何人に対しても不可能を強いるものではないからである。そこで、これを本件について看るに、原判決は右被告人の本件納付義務不履行のあつた事情として「被告人Aが、被告人会社の代理人として、判示の如く納付期日に右保険料を納付しなかつたのは、本件発生当時の被告人会社の経理状況が終戦のインフレーシヨンと統制経済による原料価格と、製品価格との不均衡、過剰徒業員による人件費の増大等に基く事業採算の困難、一般生活費の高騰に基因する従業員の賃上要求による長期間のストライキから生じた生産低下等により、唯さえ経理の困難さが存在したのに、之が延いては金融機関よりの融資の円滑を妨げる材料となり、益々経理状況に悪化を加えられていた事情も 業員の賃上要求による長期間のストライキから生じた生産低下等により、唯さえ経理の困難さが存在したのに、之が延いては金融機関よりの融資の円滑を妨げる材料となり、益々経理状況に悪化を加えられていた事情もあつて、被告人会社の本店からの送金が遅れていた反面、前記工場長たる被告人Aの自由裁量を許される手許資金もなく、又独自の権限で融資を受ける方法等もなかつた状態の下に起つたことが認められる」というのである。してみれば、かような事情たるや、被告人Aに対し本件失業保険料納付義務の履行を期待することは不可能であつたと見るのが相当である。当裁判所は記録を精査し、更に事実の取調をしてみても、原判決の右認定をくつがえすに足る資料を発見することができないのである。しかるに、原判決は、右のごとく認定しながら、しかも一転して「凡そ、被告人会社の経理上の支払不能から、本件違反に出でざる期待の不可能なる所以を主張するについては、先ず以て、主たる経営担当者が経理上全力を尽して有効適切な手段をとつても、右の保険料納付が不可能であつたことが明かにされなければならないと解する」といい、そうして、ただ漫然と「本件については、未だ以て、右納付について必要な経理上為し得る有効適切な手段を尽して余す所がないとは認め得ない」と断じた上、被告人Aに本件納付義務の不履行による責任を問うたのは、事を単に理窟の上だけで観念的に論じただけであつて、可能不可能の問題が実際的、現実的なものであることを忘れたという非難を免れな<要旨>いものといわなくてはならない。 そこで、本件の納付義務不履行が原判決認定のごとき前示事情にもとずくと</要旨>する以上、被告人Aは該不履行につき故意がなかつたものとするの外なく、従つて同被告人に対し失業保険法所定の刑責を負わせることができない。それ故に、これと異つた見解の き前示事情にもとずくと</要旨>する以上、被告人Aは該不履行につき故意がなかつたものとするの外なく、従つて同被告人に対し失業保険法所定の刑責を負わせることができない。それ故に、これと異つた見解の下に同被告人に右刑責の成立を認めた原判決は、まさに、違法であつたということができる。それで、論旨第七点はおのずから理由あるものというべく、原判決はこの点において、とうてい破棄を免れないので、他の論旨に対する判断を須いず、刑訴法第三九七条に則つて原判決を破棄し、更に同法第四〇〇条但書に従つて判決する。 さて、被告人Aに対する本件公訴事実の要旨は、同被告人はB株式会社のC工場長として同工揚の経営を担当していた者であるが、右会社は失業保険法所定の事業主として保険料の納付義務者であるところ、同被告人は右会社の業務に関し、長野県諏訪郡a村所在の右C工場における失業保険者の賃金から控除した昭和二三年九月分D外五一六名の保険料二六、七九三円、同年一〇月分同人外四四二名の保険料二四、二五五円、同年一一月分同人外四三二名の保険料二四、二五五円をいずれも所定の納付期日である各翌月末日までに長野労働部失業保険徴収課に納付しなかつた、というのであるが、ここに指摘された不納付の事実が証拠上明らかであるとしても、これを故意によるものとするに由ないこと前段説述のとおりであるから、この公訴事実たるや、結局犯罪の証明なきに帰するものというべく、右被告人に対して刑訴法第三三六条に則つて無罪の言渡をしなければならない。 次に、被告人B株式会社は、失業保険法第五五条に依り、行為者の責任に従属して責任を負うべきものであるところ、行為者たる被告人Aについて、右のごとく責任を認めることができない以上、被告人B株式会社についても右規定に依る責任を認めることができないので、これに対しても刑 属して責任を負うべきものであるところ、行為者たる被告人Aについて、右のごとく責任を認めることができない以上、被告人B株式会社についても右規定に依る責任を認めることができないので、これに対しても刑訴法第三三六条に則つて無罪の言渡をしなければならない。 よつて主文のごとく判決する。 (裁判長判事中野保雄判事尾後貫荘太郎判事渡辺好人)

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