主文 被告人を懲役4年6月に処する。 未決勾留日数中80日をその刑に算入する。 札幌地方検察庁で保管中の包丁1丁(令和元年領第669号符号1-1)を没収する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,元交際相手であるA(以下「被害者」という。)と被告人の長年の親友であるBが男女関係にあることを知り,同人らに裏切られた,3人の関係をなかったことにしたい,Bになぜこうなったのか考えてほしいなどという思いから,被害者を殺 害して自分も死のうと決意し,令和元年6月24日午後10時頃,札幌市a区b条c丁目d番e号C西側駐車場に駐車中の自動車内において,被害者(当時50歳)に対し,殺意をもって,右手に持っていた包丁(刃体の長さ約17センチメートル。札幌地方検察庁令和元年領第669号符号1-1)で左胸を突き刺したが,被害者に加療約1か月間を要する左前胸部刺創及び外傷性左血気胸等の傷害を負わせたにとどま り,殺害の目的を遂げなかった。 (事実認定の補足説明)弁護人は,被告人が自ら警察官に対して被害者を刺したことを申告した上で救急車を要請した行為は,被害者の死亡という結果の発生を防止するに足りる真摯な行為に当たり,中止未遂が成立する旨主張する。 そこで検討するに,関係各証拠によれば,被告人は,被害者の命を助けようと思ってから,約5.7キロメートル離れた交番まで自動車で向かい,同交番に備え付けの電話から警察署に電話を掛け,救急車を要請している。 しかし,関係各証拠によれば,被告人は,本件犯行後,約1時間半もの時間,呼吸が弱まっていく被害者の様子を目にしながら,助けることをせず,被害者の死を見届 けて自分も死ぬ場所を探しながら,包丁が左胸部に深く刺さったままの被害者を自動 車に乗せて連れ 時間,呼吸が弱まっていく被害者の様子を目にしながら,助けることをせず,被害者の死を見届 けて自分も死ぬ場所を探しながら,包丁が左胸部に深く刺さったままの被害者を自動 車に乗せて連れ回した後に,被害者の「ごめんね。」といった発言等から翻意して被害者の命を助けることにしたものである。翻意するまでにあまりに時間が経っており,その間に被害者が死亡する危険性がさらに高まったのであり,被告人の行為があったとしても,被害者が最終的に一命をとりとめたのは,その他の要素に助けられた面もある。このような状況も踏まえると,少し離れた交番に行き,警察署に電話を掛け, 救急車を要請した程度では,被害者の死亡という結果の発生を防止するに足りる真摯な行為と評価することはできない。 以上によれば,本件について,中止未遂は成立しない。 (法令の適用)罰条刑法203条,199条 刑種の選択有期懲役刑を選択法律上の減軽刑法43条本文,68条3号未決勾留日数の算入刑法21条没収刑法19条1項2号,2項本文(判示包丁は,殺人未遂の用に供した物で被告人以外の者に 属しない。)訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)被告人は,令和元年5月頃,被害者と別れたと認識したが,しっかり話をしていないと思い,被害者に対する未練があった中で,同年6月20日夜に,被害者と被告人 の長年の親友が男女関係にあることを被害者から聞かされたのであり,被害者と親友に裏切られたと感じ,その気持ちを整理できずに次第に死にたいなどと追い詰められていった被告人の心情については同情できる。 もっとも,そうであるからといって,被害者を道連れ れたのであり,被害者と親友に裏切られたと感じ,その気持ちを整理できずに次第に死にたいなどと追い詰められていった被告人の心情については同情できる。 もっとも,そうであるからといって,被害者を道連れにして親友にも自責の念を抱かせようという考えは短絡的であり,本件犯行に踏み切ったことは,非難されるべき である。また,被告人は,包丁で心臓を一刺しして即死させようとして,目を瞑らせ た被害者の左胸をめがけて包丁を強く突き刺したものであり,被害者の命が奪われる危険性は非常に高かったものである。そして,左胸に包丁が刺さった状態の被害者を長時間連れ回し,被害者に苦痛や恐怖を与え続けたことは,大変残酷であった。被害者は運良く助かったものの,重傷を負ったもので,現在でも傷の痛みや恐怖心がある。 以上を前提にして,被告人が男女関係を動機として刃物を使用して被害者1名を殺 害しようとして未遂に終わった事案の量刑傾向も踏まえて検討する。 まず,被告人は,短絡的に人の命を奪おうと考えて,実際にその命を奪う危険性の高い行為に及び,さらに犯行後の事情も悪いことから,命の重みを軽く考えていたといわざるを得ず,その行為の重さや中止未遂が成立しないことを考えると,本件は,弁護人が主張するように執行猶予を付するのではなく,相当期間の実刑が相当である。 もっとも,本件犯行に至る経緯には被告人に同情すべきところがあり,検察官の求刑する懲役7年というのは,重すぎるというべきである。 そこで,さらに,中止未遂が成立するものではないが,被告人が遅ればせながら被害者を助けようと思い直し,警察に電話をして犯罪を申告し,救急車を要請したことをきっかけに,幸いにも被害者の命が助かったものであること,被告人には前科がな く,約27年間真面目に左官工として働いてき 助けようと思い直し,警察に電話をして犯罪を申告し,救急車を要請したことをきっかけに,幸いにも被害者の命が助かったものであること,被告人には前科がな く,約27年間真面目に左官工として働いてきたこと,本件について自首が成立すること,被告人が被害者に謝罪し,今後被害者に近づかない旨を誓っていることなどの事情も考慮すると,被告人に対しては,主文の刑を科すのが相当と判断した。 (求刑懲役7年,包丁1丁の没収)令和元11月29日 札幌地方裁判所刑事第2部 裁判長裁判官中川正隆 裁判官向井志穂 裁判官岩竹 遼
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