昭和29(ネ)1148 根抵当権取得登記無効確認等請求事件

裁判年月日・裁判所
昭和31年12月19日 東京高等裁判所
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【DRY-RUN】主    文      原判決を取り消す。      被控訴人の請求を棄却する。      訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。          事    実  控訴代理人は、主文と同趣旨

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主文 原判決を取り消す。 被控訴人の請求を棄却する。 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。 事実 控訴代理人は、主文と同趣旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。 当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否は、つぎの(一)(二)(三)に記載するところのほか、原判決事実らん記載のとおりである。 (一) 控訴人の主張本件抵当権設定契約及びその登記は、被控訴人がその登記のとおりのAの債務のために抵当権設定をし、かつ登記手続をしたので、できたものである。かりに被控訴人が自分でしたのでないとしても、被控訴人の権限ある代理人Aが抵当権設定の意思表示をし、かつその委任にもとずき登記手続がされたのである。かりに右Aに、本件抵当権設定の意思表示及びその登記手続を被控訴人に代つてする権限がなかつたとしても、そのころ、訴外Aは同人が訴外Bから金五万円を借り入れるについて、被控訴人から本件建物をその債務の担保に供することの承諾を得て、被控訴代理人に代つて抵当権設定の意思表示及びその登記手続をする権限を与えられていたものであり、本件抵当権設定並に登記の当時訴外Aは、被控訴人から交付を受けた本件建物に関する被控訴人の登記済証、被控訴人の印章(印顆)を所持しており、控訴人は、訴外Aに本件抵当権設定並に登記手続をする代理権があると信ずべき正当の理由を有したのである。 本件登記は、訴外Cが控訴人の代理人となり、訴外Dが被控訴人の代理人となつて申請して、なされたものである。 (二) 被控訴人の主張被控訴代理人は、控訴人の右主張事実を否認する。もつとも被控訴人は訴外Aの求めにより、同人に被控訴人の印章(印顆)と本件建物の権利証とを二、三日間だけという約束で預けたことがあるが 被控訴人の主張被控訴代理人は、控訴人の右主張事実を否認する。もつとも被控訴人は訴外Aの求めにより、同人に被控訴人の印章(印顆)と本件建物の権利証とを二、三日間だけという約束で預けたことがあるが、被控訴人はAが二、三日たつてもこれらのものを返還しないので、きびしくその返還を要求していたものである。 (三) 立証として控訴代理人は乙第五号証乙第六号証の一、二、三を提出し、当審証人Eの証言を援用し、被控訴代理人は当審証人Fの証言および当審における被控訴人本人の供述を援用し、乙第五号証の成立を認める、乙第六号証の一の成立は否認する、同二の中G名下の印影が被控訴人の印章によるものであることは認める、その他の部分は否認する、同三の成立は不知と述べた。 理由 被控訴人所有の鎌倉市a字bc番地所在家屋番号二五一番木造亜鉛メッキ鋼板葺平家居宅一棟建坪一二坪六合二勺(本件建物)につき、控訴人会社(旧商号常盤無尽株式会社)と被控訴人との間に、昭和二五年五月九日控訴人会社を債権者、訴外Aを債務者とし、債権極度額金十五万円、一ケ月前の予告をもつて解約し得べく、債務不履行の場合は金百円につき一日金六銭の割合による損害金を賠償すべき旨の根抵当権設定契約がなされたものとして、同年七月七日横浜地方法務局鎌倉出張所受付第二〇七九号をもつて右根抵当権設定登記がなされたことは当事者間に争がない。 被控訴人は、右根抵当権設定契約およびその登記は、被控訴人の関知しないものであると主張し、控訴人は右契約および登記は被控訴人により真実なされたものであると争うので、これを案ずるに、成立に争ない甲第三号証、原審証人H、I、原審および当審証人Fの各証言、原審および当審における被控訴人本人の供述をあわせると、被控訴人は自ら直接には右のような契約および登記には関 で、これを案ずるに、成立に争ない甲第三号証、原審証人H、I、原審および当審証人Fの各証言、原審および当審における被控訴人本人の供述をあわせると、被控訴人は自ら直接には右のような契約および登記には関与しなかつたことが肯定され、これに反する原審証人J、K、原審および当審証人Eの各証言は信用の価値なく、その他本件におけるすべての証拠によつても右認定をうごかすことはできない。 しかし、被控訴人名下の印影の成立については争なく、その余の部分の成立に争のある乙第一、四号証の存在、成立に争ない乙第五号証前記I、Fの各証言、被控訴人本人の供述と原審および当審証人Eの証言の一部を綜合すると、右根抵当権設定契約およびその登記についてつぎの事実が存することが認められる。 被控訴人は以前から訴外Aと知合で、Aに金十五万円を貸与しており、同人の営む関東食品販売株式会社にもその取締役として名を列ねていたが、昭和二五年四、五月ころ、同人から「訴外Bが、家の権利証と実印とを預りさえすれば、金五万円貸してやる、といつているから、二、三日間だけ権利証と実印とを貸してくれ、その五万円ができれば銀行との取引もできて前に被控訴人から借りた金十五万円も返せる。」といつて本件建物に関する被控訴人の登記済証と被控訴人実印とをAに貸すことをたのまれたので、被控訴人はこれを承諾し、Aにこれらのものを預けた、ところがAはその言葉に反し、被控訴人に無断で昭和二五年五月九日ごろ、控訴人会社との間に同会社から金十五万円を極度額として借受ける旨の金円借受契約をし、即日金十万円を受領(その後金五万円を受領)すると同時に被控訴人の代理人として右債務を担保するため本件建物につき根抵当権設定契約をした、そして当時右契約を直接に取扱つた控訴人会社支店長Eの面前で被控訴人から預かつた印章を押捺して被控訴 領)すると同時に被控訴人の代理人として右債務を担保するため本件建物につき根抵当権設定契約をした、そして当時右契約を直接に取扱つた控訴人会社支店長Eの面前で被控訴人から預かつた印章を押捺して被控訴人名義の右根抵当権設定契約証(乙第一号証)および委任状(乙第四号証)を作成し、また右印章を使つて下附を受けた印鑑証明書を本件建物権利証にそえてEに交付し、その結果後にくわしく説示するような順序で右根抵当権設定登記がされたという次第である。 被控訴人が前記認定のような事情でAに本件建物の登記済証書と印章を交付したことは、それがAの金員借入のためであることが明かであるから、これらの品が本件建物について抵当権設定登記をするに必要なものであることと考え合せると、他にとくだんの事情のない本件においては、被控訴人からAにたいして、少くとも被控訴人の代理人としてBとの間にAの債務を担保するために本件建物に抵当権を設定し、かつ、その登記のために適宜の処置をとる権限を与えたと解し得るのではあるが、控訴人にたいして本件建物に抵当権設定をすることについてはその権限を与えたことはこれを認め得ないのであるから、Aの本件抵当権設定行為は右代理権の範囲外であることはいうまでもない。しかし、右行為当時Aは被控訴人の印章印鑑証明書及び本件建物の登記済証書を所持していて、これを控訴人会社代理人たるEに示し、被控訴人の代理人であることを表明した以上、ほかにべつだんの事情の存することの認められない本件においては、EにおいてAにこれらの権限ありと信ずるにつき、正当の理由を有していたものであり、Eがかく信ずるにつきなんの過失がなかつたものというべきである。 されば被控訴人は民法第一一〇条第一〇九条によりAのした右根抵当権設定契約については、その責に任ずべきものであつてこの契約による本 、Eがかく信ずるにつきなんの過失がなかつたものというべきである。 されば被控訴人は民法第一一〇条第一〇九条によりAのした右根抵当権設定契約については、その責に任ずべきものであつてこの契約による本件の根抵当権は被控訴人のためにも有効に存するものと認めるのほかない。したがつて被控訴人の本件抵当権の不存在の主張は採用することができない。 つぎに右抵当権の設定登記の効力について判断する。 乙第六号証の一は本件抵当権設定が登記された際の登記申請書であることは、その記載内容及び登記所の受付印なること明かな受付印のあることによつて、これを認め得る。(被控訴人が同証の成立を否認するというは被控訴人の代理人と表示される者の代理権を否認する意味で、代理人と称した人その人の作成文書たることを否認するものでないことは弁論の全趣旨から明かである。)これによると、本件抵当権設定の登記申請にあたつては登記義務者の地位に立つ被控訴人はDなる者によつて代理されている。この代理権を証する書面として添付された委任状は乙第六号証の二であつて、その被控訴人名下の印影は被控訴人の印章のそれであることは被控訴人の認めとるところである。以上の事実と、前段説示したとおり、被控訴人がその印章を訴外Aに交付しておいた事実とをあわせて考えると、訴外Aは前記のとおり抵当権設定契約証書(乙第一号証)の被控訴人名下に被控訴人の印章を押し、かつ、委任事項、受任者氏名を記すべきところを白紙のまま委任状用紙に被控訴人の印章を押し(乙第六号証の二)、これを控訴人の使用人のだれかに渡して、控訴人に適当に代理人を依頼して登記をすることを承諾し、控訴人はこれにもとずき、委任状に委任事項及び受任者(代理人)氏名Dを補充し、Dが登記義務者代理人として登記申請をし、本件抵当権設定登記がなされたものであると認めら を依頼して登記をすることを承諾し、控訴人はこれにもとずき、委任状に委任事項及び受任者(代理人)氏名Dを補充し、Dが登記義務者代理人として登記申請をし、本件抵当権設定登記がなされたものであると認められる。すなわち、訴外Aは被控訴人に代つて控訴人にたいして、前記抵当権設定について登記手続をすべき被控訴人の代理人を選任し、その代理人をして登記申請をなさしめることを委任し、控訴人はその趣旨に従つて前記のとおり登記手続をはこんだのであり、訴外Aがかかる委任をすることはその代理権の範囲外であつたことは前段説示の事情から明かであり、したがつて、前記Dは被控訴人を代理して本件登記申請をする権限を有しなかつたこと明かである。しかして、登記簿上登記義務者たる者の登記申請代理人について、代理権ありと信じた登記権利者が代理権ありと信ずべき正当の理由を有する場合について民法第百一〇条の適用ないし準用はないと解すべきであるから、かかる手続によつてなされた登記は不動産登記法第二十六条第三十五条第一項第五号に定める適法要件をそなえない申請による登記であるといわなければならない。 <要旨>しかし、登記申請手続が前記法条その他法律に定められる適法要件を欠く場合に登記官吏がこれを却下すべ</要旨>きものであることはもちろんながら、却下せずにこれにもとずく登記をしてしまつた場合には、その登記を、不適法な申請手続によるとの理由だけで、つねに無効であるとすべきものではない。けだし、登記申請手続にいくつかの事項を適法要件と定めるのは、これらの事項を要することによつてなんらかの目的を達しようとするのであるから、不適法な申請によつて登記がなされたことが、その場合の申請手続に欠けていた適法要件たる事項を適法要件と定める法の目的を害しないかぎり、有効な登記と認めるのが相当である。ところ ようとするのであるから、不適法な申請によつて登記がなされたことが、その場合の申請手続に欠けていた適法要件たる事項を適法要件と定める法の目的を害しないかぎり、有効な登記と認めるのが相当である。ところで本件登記の申請手続に欠けているところの、不動産登記法第二十六条第三十五条第一項第五号所定の要件は、登記手続に物権変動の当事者を関与させることによつて、したがつて代理人による場合にはその代理権を証する書面の提出することを要求することによつて、登記の内容が物権変動と一致することを保障しようとするものであることは、もちろんであるが、これに尽きるものではない。登記は不動産の物権変動を第三者に対抗するための要件にすぎないけれども、この要件をそなえるための行為は物権変動の中にふくまれるわけではなく、物権変動とは別個の行為であり、当事者の意思によつて登記をしないこととすることもさまたげない。かつまたこの別個の行為は対抗要件のない物件変動を第三者に対抗し得るものに変ずる力のある、つまり私法関係にある変動を及ぼすという性質を有するのである。これらを考えあわせると不動産登記法の前記法条は、登記しようとする物権変動が当事者間の関係において登記すべからざる場合でないことを保障し、かつ登記する行為が前記のごとき性質であることから、一般に私法関係の形成を当事者の意思にかからせる原則を尊重する趣旨において、登記は物権変動の当事者の意思にもとずくことを要するとするものと解せられる。 (したがつて、たまたま実体法上の物権変動に一致する登記がされたとしても、偽造文書行使によるなど、全く登記義務者の意思にもとずかない場合には、その登記はなんらの効力を有しないとしなけれはならない。)ところで、本件において、被控訴人は訴外Aに建物登記済証書と実印とを交付したのである。この行為 全く登記義務者の意思にもとずかない場合には、その登記はなんらの効力を有しないとしなけれはならない。)ところで、本件において、被控訴人は訴外Aに建物登記済証書と実印とを交付したのである。この行為がAにたいして、Aが訴外Bからの借入金債務のため被控訴人所有建物に抵当権を設定する代理権のみならず、その抵当権登記手続をすることについても、被控訴人に代つて、適当の処置をとり得る権限をも与えたものと解すべきこと前段に説示したとおりであるから、Aがその権限内において抵当権を設定する場合に、その登記をする意思を有したものといわなければならない。かような事情のもとに本件抵当権を設定したAの行為について民法第一一〇条により被控訴人がその責に任ずべきものとされる以上、本件抵当権設定の登記はAの当初の権限を越えるものではあるが、全然被控訴人の意思にもとずかないものとすることはできず、少くとも被控訴人の意思に源を発しこれに由来したものといわなければならない。そして被控訴人はAのした抵当権設定そのものについて責に任ずる結果本件抵当権について登記義務者となつたものであり、かつ登記を拒むことを正当とする実体上の権利を有することを認めるべき事情はなんらあらわれていない。もしかりに本件登記がされていないならば被控訴人の控訴人の請求に応じて登記申請に協力すべき義務があるのである。 以上の情況において前段認定のような経路によつてなされた登記申請は不動産登記法第二十六条第三十五条第一項の要件を定める法目的を害しないと解するのが相当であるから、本件抵当権設定登記はその申請手続に不適法の点はあるにかかわらず、これを有効な登記と認めるべきであり、被控訴人はその抹消を求める権利を有しないのである。 以上のようなわけであるから、被控訴人の、抵当権不存在確認並に抵当権設定登記抹消 法の点はあるにかかわらず、これを有効な登記と認めるべきであり、被控訴人はその抹消を求める権利を有しないのである。 以上のようなわけであるから、被控訴人の、抵当権不存在確認並に抵当権設定登記抹消の各請求は、いずれも理由がないとして、これを棄却するのほかなく、これと反対の原判決はこれを取り消し、訴訟費用は、第一、二審とも、敗訴者たる被控訴人の負担とすべきものである。 よつて主文のとおり判決する。 (裁判長判事藤江忠二郎判事原宸判事浅沼武)

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