令和6(わ)176 殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
令和7年9月17日 熊本地方裁判所
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判決文本文4,434 文字)

令和7年9月17日熊本地方裁判所刑事部宣告令和6年(わ)第176号殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件判決 主文 被告人を懲役20年に処する。 未決勾留日数中400日をその刑に算入する。 熊本地方検察庁で保管中の包丁2本(令和6年領第791号符号3、4)を没収する。 理由 (犯罪事実)被告人は、熊本市a区bc丁目d番e号fビル地下1階の飲食店「D」及びその近くにある飲食店「E」の店長であったものであり、A、B及びC(氏名は別紙【掲載省略】のとおり。以下「被害者ら」という。)はEのアルバイト従業員であったところ、被告人は被害者らの勤務態度や言動等に問題があると感じ、他方被害者らは被告人が給料計算のミスをすることや被告人の言動等に不満をもつなど確執があった。被告人がDにいた令和6年3月22日午前4時3分頃から同日午前4時8分頃にかけて、被害者らが、アプリケーションソフト「LINE」で一斉に被告人に対する批判とともに退職の申し出をしたことなどから、被害者らに対して痛い目を見ないと分からないのか、などと怒りを抱いた。被告人は、インターネットで「人を殺したい」と検索したり、包丁1本を購入したり、E店内から同店で使用していた包丁1本をDに持ってきたりするとともに、被害者らに話があるからDで待つよう伝えた。同日午前6時34分頃から被告人と被害者らがD店内で退職や被害者らの給料に関するやり取りをする中、被告人は被害者らの発言に立腹して被害者らの殺害を決意した。このような経緯を経て、被告人は、第1 令和6年3月22日午前9時13分頃、前記D店内において、A(当時19 歳)に対し、殺意をもって、両手に持っていた穴あき包丁(令和6年領第791号符号3。刃体の長 を経て、被告人は、第1 令和6年3月22日午前9時13分頃、前記D店内において、A(当時19 歳)に対し、殺意をもって、両手に持っていた穴あき包丁(令和6年領第791号符号3。刃体の長さ約16.2センチメートル)及び包丁(令和6年領第791号符号4。刃体の長さ約16.2センチメートル)の両方又は片方で、その腹部及び顔面を多数回にわたって突き刺すなどしたが、同人に全治まで約2か月以上を要する見込みの腹部刺創、横隔膜刺創及び顔面切創等の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかった第2 前記日時頃、前記場所において、B(当時19歳)に対し、殺意をもって、両手に持っていた前記各包丁の両方又は片方でその首及び右肩等を多数回にわたって突き刺すなどしたが、同人に全治まで約3か月間を要する右長母指伸筋腱断裂、全治まで約1か月間を要する後頚部刺創、下顎・前頚部刺創及び右肩刺創等、全治期間不詳の肥厚性瘢痕等の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかった第3 前記日時頃、前記場所において、C(当時21歳)に対し、殺意をもって、両手に持っていた前記各包丁の両方又は片方で、その顔面及び首等を多数回にわたって突き刺すなどしたが、同人に全治まで約4週間を要する見込みの顔面多発切創、頚部切創及び両前腕切創の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかった第4 業務その他正当な理由がないのに、同日午前9時50分頃、同市g区hi丁目j番k号lビル屋上において、前記穴あき包丁1本を携帯したものである。 (弁護人の主張に対する判断)弁護人は、判示第1ないし判示第3の殺人未遂の各犯行について自首が成立する旨主張するので検討する。 関係証拠によると、次の事実が認められる。前記各犯行後の令和6年3月22日午前9時14分、Cが110番 人は、判示第1ないし判示第3の殺人未遂の各犯行について自首が成立する旨主張するので検討する。 関係証拠によると、次の事実が認められる。前記各犯行後の令和6年3月22日午前9時14分、Cが110番通報をして、2分57秒間の通話の中で、D店内において被害者らが被告人に包丁で刺されたことを申告した。被告人は、その頃、D の入るビルを出て、その隣のビルの屋上に向かい始めて以降、同日午前9時16分から同日午前9時23分にかけて、110番や交番に合計5回電話をしたがつながらず、同日午前9時17分、電話がつながった警察署との通話の中では、「先ほど、女性らに馬鹿にされたことで耐えられなくなって、その女性らを包丁で刺しました。 怖くなって逃げてきました。ビルの屋上にいます。」と述べたものの、ビルの名称や犯行場所について問われて「分かりません」と答えた。さらに、Cの通報により臨場した警察官は、Dの入ったビルの7階に上がったところ、隣のビルの屋上に手に血痕様のものが付着し、包丁を持った被告人を発見し、被告人は、警察官の事情聴取に対し、Dで被害者らを刺した旨伝えた。 被告人が警察署に電話をして人を刺した旨述べた時点では、Cが110番通報で判示第1ないし第3の殺人未遂の各犯罪事実及び犯人を特定するに足りる事情を捜査機関に告知していたといえる。また、被告人は、Cの通報により臨場した警察官に手に血痕様のものを付着させ、包丁を手にもった状態で発見されており、前記電話の後に自ら出頭して申告するなどして警察官に処分を委ねてもいない。したがって、被告人の前記電話での通報からビルの屋上での警察官に対する申告までの一連の行動は、捜査機関に犯罪が発覚する前に自発的に自己の処分を求めて行われたとはいえない。 以上によれば、被告人に自首は成立しない。 (量刑の理由) らビルの屋上での警察官に対する申告までの一連の行動は、捜査機関に犯罪が発覚する前に自発的に自己の処分を求めて行われたとはいえない。 以上によれば、被告人に自首は成立しない。 (量刑の理由)被告人は、刃体の長さ約16.2センチメートルの包丁2本で、被害者らに対し、被害者らの顔面、頸部、胸部、腹部及び背部等の身体の枢要部を、椅子や看板を被告人に叩き付けるなどの被害者らの必死の抵抗を排除しつつ、わずか1分程度の短時間に数十回もの多数回突き刺すなどしたものである。被害者らの傷には上着を貫通して約10センチメートルの深さに達しているものがあったり、顎の骨が破損した者もいたりしたことなども踏まえると、殺人未遂の各犯行は、強固な殺意に基づく極めて執拗かつ残忍な犯行である。被告人は、前記のとおり、単に被害者らの言 動に激高して咄嗟に包丁での刺突行為に及んだのではなく、被害者らを殺害することを想定しながら、それを思いとどまることなく、新たに包丁を購入したり、別店舗から包丁を持参したりするなど一定の準備をして各殺人未遂の犯行に及んだものと認められるから、殺人未遂の各犯行は一定の計画性を有しているといえる。 そして、本件各犯行により、被害者らは判示各記載の重傷を負ったものであり、それだけを見ても結果は重大であるが、被害者らは、傷の位置が少しでもずれたり、わずかに深く刺さっていれば死亡していておかしくなかった上、B及びCについては、出血量が多く搬送が遅れていれば死亡していた可能性があったのであり、被害結果はこの種事犯の中でも特に重大であるというほかない。被害者らは、受傷や被告人の凶行によって受けた恐怖による生活上の支障、身体上の支障、顔に傷が残ったことなどによりこれまでの生活が一変しており、被害者らが被告人の厳罰を望んでいるのも当然である。 い。被害者らは、受傷や被告人の凶行によって受けた恐怖による生活上の支障、身体上の支障、顔に傷が残ったことなどによりこれまでの生活が一変しており、被害者らが被告人の厳罰を望んでいるのも当然である。 被告人の精神状態等につき検討した精神科医のF証人は、本件各犯行前の長期間にわたり、被告人が過労死ラインを超える長時間労働を重ねてきた結果、前頭葉の機能が障害されるなどして認知機能が低下して視野狭窄状態に陥り、被害者らからの退職申出を受け、3人が同時に辞めるとシフトが回らなくなるとの恐怖から極度の混乱状態となり、相談などの選択肢を思いつけずに、自分も被害者らも消えたほうが世の中のためになるという心中願望が生じ、被害者らを殺害して自らも自殺するという極端な選択肢に至った旨証言する。被告人によれば仕事と息抜きを兼ねていたという他店舗での飲食等の時間が一定程度含まれるとはいえ、長時間労働による睡眠不足により衝動性が増していたことが殺人未遂の各犯行の遠因となった可能性を否定まではできないが、被告人は、当公判廷において、被害者らから被告人の従前の仕事ぶりなどに対する批判とともに退職を申し出る内容のメッセージが送られてきて、「それをあなたたちが言うのか」、「痛い目見ないと分かんないのかな」などと考えた旨述べており、被告人としては、被害者らからの退職申出への対応に悩んだというより、主として被害者らへの怒りから殺意を抱いて殺人未遂の各犯行に 及んだというべきであり、加えて、前記のとおり、咄嗟に包丁での刺突行為等に及んだわけではないことからしても、上記衝動性の亢進を被告人に有利な事情として酌むことは難しい。また、仮に被害者らの勤務態度等に何らかの非があったとしても、退職を申し出た被害者らに対する殺人未遂の各犯行は到底正当化されない。 以上によれば、本 亢進を被告人に有利な事情として酌むことは難しい。また、仮に被害者らの勤務態度等に何らかの非があったとしても、退職を申し出た被害者らに対する殺人未遂の各犯行は到底正当化されない。 以上によれば、本件は、同種事案(処断罪は殺人未遂、単独犯、処断罪と同一又は同種の罪の件数2~4件、凶器等あり(刃物類)、量刑上考慮すべき前科なし)の量刑傾向の中で最も重い部類に属するというべきである。 他方で、当公判廷に出廷した被告人の父親が、被告人の社会復帰後、自身又は被告人の親族が被告人の更生を支援する旨述べていること、被告人が事実を認めて反省の弁を述べるとともに、被告人の父親の援助を得て被害弁償金の一部として被害者らに各30万円を支払ったことが認められるが、これらを大きく考慮することはできず、主文の期間の懲役刑は免れないと判断した。なお、判示第1ないし第3の各犯行後被告人が警察署に電話したことは、反省の現れとは言い難いし、そもそも被告人の通報がなくとも被告人が犯人であることは直ちに判明したものであるし、被告人は付近の通行人等に被害者らの救助を依頼することもなかったのであり、電話等により被害者らの救助を容易にしたともいえないから、被告人に有利な事情として考慮しなかった。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑懲役20年)令和7年9月18日熊本地方裁判所刑事部裁判長裁判官中田幹人裁判官賀嶋敦裁判官若松亮太

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