平成19(わ)168 業務上過失致死傷

裁判年月日・裁判所
平成19年12月12日 神戸地方裁判所
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判決文本文5,784 文字)

- 1 -平成19年12月12日宣告平成19年(わ)第168号業務上過失致死傷被告事件主文被告人を禁錮4年に処する。 未決勾留日数中270日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,兵庫県宝塚市ab丁目c番d号所在のカラオケ店「A」を経営し,同店の運営管理を統括していた者であり,同店建物(鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建,延床面積約218.14平方メートル)につき,消防法17条1項の関係者であるとともに,同法8条1項の管理権原を有する者として,適切な消防用設備等を設置維持し,かつ,消防計画を作成し,これに基づく消火訓練の実施等防火管理上必要な措置を講じるなどの防火管理に関する業務に従事していた者であるが, 被告人において,同建物には,その営業形態から不特定多数の客が出入りしていた上,同建物で火災が発生した場合,1階と2階をつなぐ階段等を通じて建物内に火災が拡大しやすい構造であり,火災により逃げ場を失った客の生命身体に危害を及ぼす危険のあることを十分予見できたのであるから,火災発生に備えて,客の生命身体の安全を確保し,死傷者の発生を未然に防止するため,2階に開口部を設けて避難器具を設置し,同建物内に消火器を設置するとともに,従業員に対する消火訓練を実施し,同建物内で火災が発生した場合には,火災を早期に消火し,その拡大を阻止するとともに,客を早期に安全な場所へ避難させることができるよう防火上必要な措置を講じるべき業務上の注意義務があるのに,これをいずれも怠り,前記開口部,避難器具及び使用可能な消火器を設置せず,従業員に対する消火訓練を実施しなかった 同建物内のガス器具等を使用して飲食物の調理を行うなどの業務に従事していた同店アルバイト従業員であったBにおいて,平成19年1月20日午後6時1- 2 -5分ころ する消火訓練を実施しなかった 同建物内のガス器具等を使用して飲食物の調理を行うなどの業務に従事していた同店アルバイト従業員であったBにおいて,平成19年1月20日午後6時1- 2 -5分ころ,同建物1階厨房において,客に提供する軽食を調理するため,サラダ油を入れた中華鍋をガスコンロの火にかけ,サラダ油を強火で加熱していた際,当時,同建物にはCら多数の客が居た上,同建物内で火災が発生した場合,1階と2階をつなぐ階段等を通じて建物内に火災が拡大しやすい構造であったため,火災により逃げ場を失った客の生命身体に危害を及ぼす危険があり,かつ,前記加熱中の中華鍋をそのまま放置すれば,サラダ油が加熱によって発火するおそれがあることを十分予見できたのであるから,ガスコンロでの前記中華鍋の加熱をそのまま放置せず,サラダ油の発火による火災の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに,他の業務を行っている間に中華鍋の加熱を失念したためこれを怠り,そのころ,前記中華鍋をガスコンロで加熱したまま厨房を離れてこれを放置した各過失の競合により,同日午後6時30分ころ,前記中華鍋内のサラダ油を加熱により発火させ,これを最初に認めたBにおいて,適切な初期消火活動を遂行することができず,かつ,2階客室内にいた前記C(当時18歳)ら8名の客を安全な場所に避難させることができず,前記サラダ油からの発火をガスコンロ上部の木製吊り棚,1階の天井及び壁面クロス等に燃え移らせて火災を拡大させ,これにより発生した一酸化炭素を含む高温の煙を前記階段を通じて2階に充満させ,前記8名の客に一酸化炭素を含む高温の煙を吸引させ,よって,別表1のとおり,前記Cら3名をいずれも一酸化炭素中毒により死亡させ,別表2のとおり,D(当時13歳)ら5名に,加療約3か月間ないし約3日間を要する 客に一酸化炭素を含む高温の煙を吸引させ,よって,別表1のとおり,前記Cら3名をいずれも一酸化炭素中毒により死亡させ,別表2のとおり,D(当時13歳)ら5名に,加療約3か月間ないし約3日間を要する気道熱傷等の各傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)(省略)(法令の適用)罰条被害者ごとにいずれも刑法211条1項前段科刑上一罪の処理- 3 -刑法54条1項前段,10条(一罪として犯情の最も重いEに対する業務上過失致死罪の刑で処断)刑種の選択禁錮刑を選択未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)被告人は,判示のとおり,本件カラオケ店の経営者として,同店建物の消防用設備の設置管理や防火管理上の措置を行うべき義務を負いながら,これらの基本的な義務を何ら履行することなく本件カラオケ店を営業したものであり,その義務違反の程度は著しい。特に,本件カラオケ店は,防音のために2階の窓が全てベニヤ板や石膏ボードで頑丈に塞がれ,2階に開口部分が一切なく,防火面から見て極めて危険な構造の建物となっていた上,誘導灯や避難はしご等の器具も全く備え付けられていなかったものであり,また,消火器についても,敢えて使用不能なものを放置したものでないとはいえ,一度使用した後,何ら確認することなく再び使用できると思い込み,漫然と放置していたものであって,不特定多数の者が出入りし,日常的に火を使用して調理を行うカラオケ店を長年経営している者として,余りにも防火意識に乏しく,防火面で全くずさんな体制であったというほかない。 さらに,本件では,直接の原因となったBの失火の点についても,被告人の責に帰すべき事情が多いというべきである。すなわち,Bが本件火災を引き起こした背景には,そもそも,カウンターバーを作りたい ない。 さらに,本件では,直接の原因となったBの失火の点についても,被告人の責に帰すべき事情が多いというべきである。すなわち,Bが本件火災を引き起こした背景には,そもそも,カウンターバーを作りたいと考えた被告人により,特段の防火措置を施すことなく,ガスコンロのある厨房と飲み物の準備をする流し台を壁で隔てて独立させ,相互に見通すことができない危険な構造に改造されたこと,その後,実際に,厨房において従業員がぼやを起こしたり,被告人自らも空焚きを経験する- 4 -などし,通常であれば防火面での注意喚起がされるべき機会が何度もあったにもかかわらず,その後の片付けの煩雑さなどにのみ気をとられ,防火面で何らの改善措置を講じないまま営業を続けたこと,日頃,Bとともに二人で土曜日の夕方の時間帯に勤務していた被告人であれば,本件火災が発生した同時間帯がいかに繁忙であるかを十分分かっており,前記構造の厨房で一人の店員が業務を行えば,多くの食べ物や飲み物の注文に対応するため,ガスコンロでの作業と流し台の作業を並行させ,接客等その他の業務もあるのであるから,ガスコンロの火から目を離すなどして火災が発生する危険性が高いことを十分認識できたはずであるのに,経営状態が厳しいという理由から十分な従業員を雇って勤務体制を改善することもせず,被告人の他に二人の従業員しか雇わないという無理な勤務体制を続けたこと,被告人は,本件当日,自分が勤務できないにもかかわらず,別の従業員に勤務させるなどの措置をとることもせず,前記のとおり繁忙な時間帯をB一人に任せた結果,本件火災当時,Bが一人で17名もの客の対応をすることとなり,Bがガスコンロの火から目を離して失火に至ったものであることなどの諸事情からすれば,そもそもBの失火自体,被告人の余りにも無責任で身勝手な考え方や行動が招い 一人で17名もの客の対応をすることとなり,Bがガスコンロの火から目を離して失火に至ったものであることなどの諸事情からすれば,そもそもBの失火自体,被告人の余りにも無責任で身勝手な考え方や行動が招いたものというほかない。さらに,Bは,本件出火の直後,常連客を呼んで消火を手伝ってもらおうとしたのみで,客らに対する迅速な避難誘導を行っていないが,これについても,被告人がこれまで一度も消火訓練等を行っていなかったことに起因するものということができる。 弁護人は,最終弁論において,被告人の過失を争わないとしたものの,消防署員が私的に本件カラオケ店を利用したことがあり,また,他の公的機関が本件カラオケ店の存在を認識していたにもかかわらず,消防署が長年本件カラオケ店の査察点検や防火指導等を行っていなかったという事情が,被告人の過失の程度に影響する旨主張する。しかし,本件カラオケ店を利用していた消防署員が,同店の防火面の不備に気付き,これを契機に消防署が積極的に査察や指導等を行うべきであったとの思いを,被害者やその遺族らが抱くのは格別,被告人の過失との関係でみた場合,- 5 -そもそも,被告人自身が本件カラオケ店の営業を開始するにあたり,法令上定められた届出を行わなかったために,消防署が同建物を査察や指導の対象としていなかったもので,いわば,査察が行われない状況自体も被告人自身が招いたものであるというべきであるし,本件カラオケ店を利用していた消防署員らが不備を指摘しなかったという点についても,被告人は,厨房の改造後,実際にぼやや空焚きを経験するなど,現に防火面での注意喚起の機会が何度もあったにもかかわらず,何一つ改善することなく放置していたのであるから,他の注意喚起の機会があれば改善していたとの主張自体,説得力を欠くものといわざるを得ず,査察や指導 火面での注意喚起の機会が何度もあったにもかかわらず,何一つ改善することなく放置していたのであるから,他の注意喚起の機会があれば改善していたとの主張自体,説得力を欠くものといわざるを得ず,査察や指導が行われていなかった事情を被告人の過失の程度を軽減するものとみることはできず,弁護人の主張は失当である。 以上のとおり,被告人は,本店カラオケ店の経営者として,同店の防火管理上の義務を果たしていなかった過失に加え,本件カラオケ店の営業について届出をせず,消防署の査察や指導等を免れていたこと,自らの発案で,2階の窓を全て塞いだり,ガスコンロと流し台の間に壁を作って見通せないようにするなど,危険な構造の建物へと増改築を重ねたこと,これまでに注意喚起の機会を直接何度も経験しながら,経営状況等を重視するあまり防火面での何らの手立ても講じずに放置していたこと,本件当日,被告人が勤務できないにもかかわらず特段の措置をとらなかったことなど,被告人自身の行為が,本件失火及びその結果の重大な要因となっていることが明らかであり,本件における被告人の過失は,通常の火災死傷事故において,避難設備や防火体制の不備等に関してその管理者が負うべきいわば間接的な過失にとどまるものではなく,従業員の過失による火災を誘発させ,一旦火災が発生した場合には客の死傷の結果に直結するような過失であって,被告人の行為は厳しい非難を免れないというべきである。 本件火災により,同店に居た当時16歳から18歳の3名が死亡し,更に当時12歳から17歳の5名が加療約3か月間から約3日間を要する重軽傷を負っており,その結果は誠に重大である。被害者らはいずれも,同店2階の客室で友人らとカラ- 6 -オケをするなどして楽しんでいたところ,突然本件火災に巻き込まれたものであり,被害者らが味わった恐怖感や おり,その結果は誠に重大である。被害者らはいずれも,同店2階の客室で友人らとカラ- 6 -オケをするなどして楽しんでいたところ,突然本件火災に巻き込まれたものであり,被害者らが味わった恐怖感や肉体的苦痛が相当なものであったことは想像に難くない。特に,死亡した3名の被害者らは,火災による停電後,避難誘導灯もない真っ暗闇の2階で,煙の充満する中を必死に逃げようとしながら,遂に力尽きて絶命するに至っており,最期に味わったであろう恐怖感,肉体的苦痛,絶望感,無念さなどは筆舌に尽くし難く,また,16歳から18歳という若さでこのような無念の死を遂げざるを得なかった3名が,今後歩むはずであった長い人生を考えると,誠にいたたまれない思いである。死亡した3名の被害者遺族らは,公判廷において,生前の被害者らを思い出すとともに,愛する子供達を失った悲しみ,苦しみ,喪失感等を切々と述べ,被告人に対する厳しい処罰感情を述べているところ,被告人や従業員から,被害者やその遺族らに対して被害弁償等の見るべき慰謝の措置は講じられておらず,現段階ではその見込みも乏しいのであって,被害者遺族らの処罰感情が厳しいのも当然である。また,加療約3か月間の重傷を負った当時13歳の女子中学生には,軽視できない後遺症が残る可能性があって誠に痛ましく,同被害者を含み,傷害を負った被害者5名はそれぞれ当時の恐怖感等を痛切に述べ,被告人や従業員に対する憤りの思いを表明している。 以上の諸事情に照らすと,被告人の刑事責任は誠に重い。 そうすると,前記のとおり,被告人自身の行動がその大きな要因となっているとはいえ,本件の直接の原因はBの過失であること,当初から事実関係自体はおおむね認め,被害者らに対して申し訳ない旨を述べるとともに,今後少しずつでも被害弁償をしていきたい旨述べ,最終的に自己の いるとはいえ,本件の直接の原因はBの過失であること,当初から事実関係自体はおおむね認め,被害者らに対して申し訳ない旨を述べるとともに,今後少しずつでも被害弁償をしていきたい旨述べ,最終的に自己の過失責任も認識するに至っていること,古い罰金,科料の前科2件以外に前科はないこと,妻や未成年の子らがいることなど,被告人のために酌むべき諸事情を十分考慮しても,本件における被告人の前記過失内容,発生した結果の重大さなどに鑑みると,被告人に対しては,検察官の科刑意見のとおりの刑に処するのが相当である。 よって,主文のとおり判決する。 - 7 -(求刑禁錮4年)(私選弁護人黒川勉)平成19年12月12日神戸地方裁判所第2刑事部裁判長裁判官佐野哲生裁判官五十嵐浩介裁判官市原志都

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