令和4(ワ)219

裁判年月日・裁判所
令和7年2月14日 高知地方裁判所
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判決文本文25,060 文字)

主文 1 被告は、原告に対し、1139万円及びうち1084万円に対する令和4年11月11日から、うち55万円に対する令和5年12月1日から、各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを10分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は、原告に対し、1084万6000円及びこれに対する令和4年11月11日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 2 被告は、原告に対し、165万円及びこれに対する令和5年12月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、宗教法人である被告の会員であった原告が、①被告のA教会の教会長らによる原告への違法な献金勧誘行為によって献金させられたとして、民法709条、715条に基づき、1084万6000円(献金額合計986万及び弁護士費用98万6000円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和4年11月11日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの 割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、②教会長らによる上記違法な献金勧誘行為により精神的苦痛を被ったとして、民法709条、715条に基づき、慰謝料100万円、③本件訴訟における被告の主張により精神的苦痛を被ったと主張して、民法709条に基づき、慰謝料50万円、④上記②及び③に係る弁護士費用15万円並びにこれらに対する訴えの追加的変更を 含む準備書面送達の日の翌日である令和5年12月1日から支払済みまで民 法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払 係る弁護士費用15万円並びにこれらに対する訴えの追加的変更を 含む準備書面送達の日の翌日である令和5年12月1日から支払済みまで民 法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(証拠(枝番のあるものは特記しない限り全枝番を含む。)等の掲記のない事実は当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により容易に認めることができる。)⑴ 当事者等 ア被告は、教義をひろめ、儀式行事を行い、会員を教化育成し、教会を包括し、その他この教団の目的を達成するための業務を行うことを目的として、昭和27年7月7日付けで設立された宗教法人であり、大阪府(住所省略)一帯を聖地とし、教団本部(以下「大本庁」という。)を設置している。 被告においては、教主を「おしえおや」と呼び、被告の教義では、「おし えおや(教主)」は、神の真理を解明し、人々に説き明かす、唯一無二の絶対的存在であり、その時代に相応しい「おしえおや(教主)」が現れるとしている。 被告には教職者の一つとして「教師」という地位があり、被告の教義上、「教師」とは、心身を神に捧げ、常に「おしえおや(教主)」と一体となっ て、人世のために被告の教義の真髄を弘布し、会員を教化することの誓いを「おしえおや(教主)」に立て、「おしえおや(教主)」から認められた教職者である。 (以上につき、乙1、2)イ原告(昭和▲▲年▲月▲▲日生)は、昭和55年5月に医師(内科医)の B(以下「B」という。)と婚姻し、以後、専業主婦として生活している。 原告は、昭和52年2月5日に被告に入会し(昭和55年にA教会に移籍)、以後、被告の会員として活動してきたが、本件訴訟係属中である令和5年4月9日に被告を脱退した。(甲1、33、46)ウ C(以 原告は、昭和52年2月5日に被告に入会し(昭和55年にA教会に移籍)、以後、被告の会員として活動してきたが、本件訴訟係属中である令和5年4月9日に被告を脱退した。(甲1、33、46)ウ C(以下「C元教会長」という。)は、平成28年から令和3年3月まで の間、被告のA教会の教会長の地位にあった者である。 エ D(以下「D前教会長」という。)は、令和3年3月から令和6年8月までの間、被告のA教会の教会長の地位にあった者である(証人D[1頁])。 ⑵ 被告の神事等ア被告の神事の一つである「宝生」とは、会員が心(内容律)と物(形式律)とを一致させて神を拝むことによって物事が成就されるという「おしえお や(教主)」の教えに基づき、神を参拝する様式として、参拝の際に奉納する献金である(乙2、3)。 イ被告の神事の一つである「悟加富」とは、富(経済力)を加算し増加していく真理を悟る芸術であり、悟加富に参加すればするほどその人の富(経済力)は、いやが上にも肥え、太っていくものであって、経済力を身に着け、 自己表現の幅を広げ、より幸福な人生を切り開くと同時に、歴史を短縮して世界平和を招来するための神事であるとされている。 悟加富は、会員がある程度のまとまった金額を、返還期限を5年とした上で被告に納めるものであり、被告は、悟加富を行った会員の氏名、金額、受入日、返還日及び証書番号等を記載した証書(以下「悟加富証」という。) を会員に交付する(法的性質は、返還時期の定めのある金銭消費貸借契約である。)。 会員は、返還時期の前にも悟加富として納めた金銭の返還を求めることができ、その場合、会員は、「繰上げ返金願い書」と悟加富証を被告に提出する。また、会員が繰上返金された金銭を被告に献金 ある。)。 会員は、返還時期の前にも悟加富として納めた金銭の返還を求めることができ、その場合、会員は、「繰上げ返金願い書」と悟加富証を被告に提出する。また、会員が繰上返金された金銭を被告に献金する場合、悟加富証と 「繰上げ返金願い書」が被告の大本庁に送られ、大本庁が悟加富から献金に振り替えるという手続きが行われる。 (以上につき、乙3、証人C[19、22頁])ウ被告の神事の一つである「芸術献金」とは、世界平和を願うとされる「おしえおや(教主)」芸術の上に生かされるもので、年間を通していつでも任 意の金額を献金できる献金である(乙8)。 エ被告の神事の一つである「新御正殿建築献金」とは、被告が、令和2年3月頃、信仰の中心である「大本庁神霊」が祀られている正殿を新しくするために募り始めた献金である(乙11、証人C[20頁])。 ⑶ 原告による献金ア原告は、令和2年5月11日、新御正殿建築献金袋に50万円を入れて C元教会長に交付し、献金した(甲13)。 イ原告は、令和2年5月21日、金額を50万円、返済日を令和6年7月24日とする悟加富証を持参し、同悟加富の繰上返金を受けて新御正殿建築献金とする「大靖献悟加富繰り上げ返金願い書(証書献金用)」をC元教会長に提出し、新御正殿建築献金として50万円を献金した(甲 14)。 ウ原告は、令和2年6月22日、金額を180万円、返済日を令和2年10月31日とする悟加富証を持参し、同悟加富の繰上返金を受けて、そのうち100万円を新御正殿建築献金とし、残りの80万円を悟加富として継続する「大靖献悟加富繰り上げ返金願い書(証書献金用)」をC元 教会長に提出し、新御正殿建築献金として100万円を献金した。また 00万円を新御正殿建築献金とし、残りの80万円を悟加富として継続する「大靖献悟加富繰り上げ返金願い書(証書献金用)」をC元 教会長に提出し、新御正殿建築献金として100万円を献金した。また、原告は、後日、上記80万円の悟加富について、繰上返金を受けた上で20万円を追加し、100万円の悟加富とした(甲15、乙7)。 エ原告は、令和2年10月1日、金額を200万円、返済日を令和6年10月30日とする悟加富証を持参し、同悟加富の繰上返金を受けて、そ のうち100万円を新御正殿建築献金とし、残りの100万円を悟加富として継続する「大靖献悟加富繰り上げ返金願い書(証書献金用)」をC元教会長に提出し、新御正殿建築献金として100万円を献金した(甲16)。 オ原告は、令和2年10月2日、金額を162万円、返済日を令和5年 10月29日とする悟加富証を持参し、同悟加富の繰上返金を受けて、そ のうち100万円を新御正殿建築献金とし、残りの62万円を悟加富として継続する「大靖献悟加富繰り上げ返金願い書(証書献金用)」をC元教会長に提出し、新御正殿建築献金として100万円を献金した(甲17)。 カ原告は、令和2年10月2日、金額を174万円、返済日を令和3年 10月31日とする悟加富証を持参し、同悟加富の繰上返金を受けて、そのうち100万円を新御正殿建築献金とし、残りの74万円を悟加富として継続する「大靖献悟加富繰り上げ返金願い書(証書献金用)」をC元教会長に提出し、新御正殿建築献金として100万円を献金した(甲18)。 キ原告は、令和2年10月16日、金額を150万円、返済日を令和4年10月31日とする悟加富証を持参し、同悟加富の繰上返金を受けて、そのうち100万円を 円を献金した(甲18)。 キ原告は、令和2年10月16日、金額を150万円、返済日を令和4年10月31日とする悟加富証を持参し、同悟加富の繰上返金を受けて、そのうち100万円を新御正殿建築献金とし、残りの50万円を悟加富として継続する「大靖献悟加富繰り上げ返金願い書(証書献金用)」をC元教会長に提出し、新御正殿建築献金として100万円を献金した(甲 19)。 ク原告は、令和3年8月16日、前記ウないしキで継続・追加した悟加富証書5枚(合計386万円)を持参し、「術後から今日までの体験で無事今日までのおかげを神に感謝したく現金を持ち合わせてないので全ての証書をお供えしたく参拝しました。何とぞ神の恵みを給わりま す様にお願いします」と記載した「大靖献悟加富繰り上げ返金願い書(証書献金用)」をD前教会長に提出した。 被告の大本庁は、令和3年8月19日、前記を受けて、芸術献金として扱う処理をした。 (以上につき、甲20、21) 2 争点 ⑴ 被告による献金勧誘行為の違法性の有無(争点1)⑵ 被告の本件訴訟における主張の違法性の有無(争点2)⑶ 原告の損害及びその額(争点3) 3 争点に関する当事者の主張⑴ 被告による献金勧誘行為の違法性の有無(争点1) (原告の主張)ア C元教会長の献金勧誘行為について 原告は、平成30年頃から脊柱管狭窄症手術による後遺障害と、原因不明の精神不安定症状が発症し、次第に「耳鳴りがして、不眠となり、誰かに付け狙われ、スパイにされている、周りの人から殺される」という被害 妄想や幻聴に苛まれていた。原告は、精神的不安と恐怖から救われたいとの思いが強くなり、令和2年5月頃、C元教会長に相談し、個 に付け狙われ、スパイにされている、周りの人から殺される」という被害 妄想や幻聴に苛まれていた。原告は、精神的不安と恐怖から救われたいとの思いが強くなり、令和2年5月頃、C元教会長に相談し、個人面接を受けた。C元教会長は、原告に対し、「過去(先祖)のことがあるから、今、このような仕打ちを受けるのです。あなたの心のほこりを払うためには、Y教団へ献金しなければなりません。神の御加護を受けるには献金が必 要です。額は〇の数が一つも二つも違う。新御正殿建築のため23億円必要。あなたはお金のことだけ考えたらよい」などと高額献金の必要性を強く説示・教導し、原告がこれに応じた場合は、原告の不安や恐怖が神の御加護により消失すると原告に信じ込ませた。 C元教会長は、令和2年5月11日の50万円の献金に際し、原告に対 し、「たったこれだけですか」という表情をし、50万円ではゼロが足りないという威圧的な対応をした。C元教会長は、「それ(献金)は、悟加富でもできます。悟加富も、しておるよりも、あげましてしまう方が尊いに決まっています。悟加富で献金するのです」などと説示した。 C元教会長は、原告から、追い回されたり、殺されようとしていること などをスマートフォンを使って友人・知人に訴え続けていることを伝え られると、「そんなもの(スマートフォン)を持っていて、見て喜んだり悲しんだりして何が楽しいのですか、捨てなさい。」と言って原告の恐怖心を煽り、原告のスマートフォンのハードディスクをA教会の1階物置き場へ持っていき、ハンマーで粉々に壊し、「これでもう何も分かりませんよ」と言って手渡した。かかるC元教会長の言動は、上記C元教会長の 教導・説示を推測させるものである。 原告は、令和2年5月11日から同年10月16日 粉々に壊し、「これでもう何も分かりませんよ」と言って手渡した。かかるC元教会長の言動は、上記C元教会長の 教導・説示を推測させるものである。 原告は、令和2年5月11日から同年10月16日までの約5か月間という短期間に合計600万円という献金をしているところ、これらは、原告の判断能力が低下していることを熟知したC元教会長において「先祖の因縁話」にかこつけた詐欺的説示・教導の結果である。また、これら は巧みに悟加富証による献金に誘導した詐欺的強迫的言動によるものであるから、献金の収受は全部違法である。 イ D前教会長の献金勧誘行為について 原告の体調不良は激化し、苦痛は最悪状態に陥り、特に脊柱管狭窄症の手術後、腰にはめ込まれたチップから電波が出て追跡され、自分の言うこ とは全て敵に筒抜けになっているという被害妄想が激しくなり、敵からの攻撃で自分の耳鳴りが激しくなり、腹の中を火葬場で焼かれるゴォーという音、電波から流れる異常音の幻聴に悩まされ、頭が割れそうで、敵に殺されて死んでしまうという恐怖心が消えなかった。原告は、令和3年5月初め頃、A教会を訪れ、新しく着任してきたD前教会長に対し、「精 神的苦痛から助けてもらうにはどうしたらよいか。」と相談した。原告から相談を受けたD前教会長は、何度も原告の相談を受けたところ、その際、原告は、D前教会長に肉体的・精神的苦痛を訴えるため、メモ用紙で筆談した日もあり、その時は泣き声をあげ、嗚咽しながら訴えた。D前教会長は、C元教会長と同様に、「過去からの因縁が現在の姿として現れるので す、家族の流れを誰かが清めなければならない。清めるための信心は献金 です。」と告げ、「献金には肉体的献身と献金があります。肉体的労働を提供できない人の場合は、Y教 として現れるので す、家族の流れを誰かが清めなければならない。清めるための信心は献金 です。」と告げ、「献金には肉体的献身と献金があります。肉体的労働を提供できない人の場合は、Y教団に献金しなければなりません。」と霊の世界へ教導して献金を強要した。 原告は、令和3年8月、D前教会長に対し、「このまま潰され、殺されるのでしょうか」と苦しみを吐露したところ、D前教会長は、「神の教え に導かれて、残りの悟加富を使って、献金したらよい」と勧めたことから、原告はその言を信じ、同月16日、「大靖献悟加富繰り上げ返金願い書(証書献金用)」に指示された内容の文書を書いた。原告は、芸術献金の教義の説明も受けず、理解していない状態の下で、記載させられたもので、かかる記載内容は、原告の自発的意思に基づくものではない。 原告が、D前教会長に対し、精神的・肉体的苦痛を訴える際に、「自分の記載したノートの内容が気になる」と告げたところ、D前教会長は、「そんなに気になるものは捨て、シュレッダーでゴミにしたらよい」と、原告の不安、恐怖心を一層あおって、原告が持っていたノート類、C元教会長によって破壊されたスマートフォンを取り上げ、原告の意に反すること を知りながら、自らシュレッダーで廃棄処分した。かかるD前教会長による原告の所有物の廃棄処分行為も、上記の精神的・肉体的苦痛と混乱状態にある原告に対する一連の詐欺的、強要的違法行為を裏付けるものである。 ウ小括 C元教会長及びD前教会長は、正常な判断が困難となっている病者の原告に対し、適切な医療機関での受診、治療を勧めるどころか、一方的に判断力の十分でない原告の信仰心をあおり、正常判断をなす能力や余裕がない病状に乗じて多額の献金をさせた。C元教会長及びD前教会 者の原告に対し、適切な医療機関での受診、治療を勧めるどころか、一方的に判断力の十分でない原告の信仰心をあおり、正常判断をなす能力や余裕がない病状に乗じて多額の献金をさせた。C元教会長及びD前教会長の献金強要は、社会通念等を逸脱しており、一連の行為は組織的であって、違法である。 (被告の主張) ア C元教会長の献金勧誘行為についてC元教会長は、令和2年春頃から、原告のストーカー被害とそれによる精神的苦痛の相談を受けるようになっていた。C元教会長は、相談を受けた際に、原告から、「(新御正殿建築)献金をしたら、おしえおやさまは、救ってくださるでしょうか?」と尋ねられたため、新御正殿建築の信仰上 の意義を伝えるとともに、献金することによって、物、金、諸事にとらわれる心がとれ、気にならなくなるという効果はあると思います、献金する、しないは自分で決めることですと原告に伝えたところ、同年5月11日に、原告がC元教会長に対し、現金50万円が入った献金袋を差し出して、不安な気持ちを献金で救ってもらいたいという理由で「新御正殿献金」を 申し出た。また、C元教会長は、原告から、悟加富でも献金することができるか尋ねられたため、悟加富の繰上げ返金のお許しを得た上でそこから献金することは可能である旨伝えた。そして、原告は、自ら悟加富証を持参し、その繰上げ返金を願い出て、そのうちの一部を新御正殿建築献金とし、残余は悟加富として残したいとの申し出をして、合計550万円の 新御正殿建築献金を行った。以上の原告が行った献金は、いずれも原告が自ら申し出たものであり、また、金額も原告自らが決めた額を献金したものである。 被告は、令和2年3月頃、新御正殿建築献金を募ることを教職者及び教会に伝えた。C元教会長は、同年3月21 原告が自ら申し出たものであり、また、金額も原告自らが決めた額を献金したものである。 被告は、令和2年3月頃、新御正殿建築献金を募ることを教職者及び教会に伝えた。C元教会長は、同年3月21日の感謝祭の式典において、会 員に、新御正殿建築献金の趣旨を説明するとともに、出席していない会員には趣意書を郵送して伝えた。C元教会長が、教会長室で、原告と1対1で新御正殿建築献金のことを伝えるようなことはしていない。また、新御正殿建築献金とは、被告の信仰の中心である大本庁神霊がまつられている正殿を新たにする事業であり、会員は、大本庁神霊及びおしえおやに対 する「感謝報恩の至誠」を示すために献金を行うのであって、会員の悩み や不安を取り除く目的で献金が始められたわけではないから、C元教会長が、原告の悩みを解消する方法として、新御正殿建築献金を勧めることはあり得ない。 また、被告の教義には、事物にとらわれることが自己表現の妨げになることから、事物への執着心を取り払うという考え方もあり、悟加富も金銭 に対する執着を取り払うことによって、ほかの視点や発想が生まれ自己の解放につながるという考えに基づいているから、C元教会長が、「お金のことだけを考えたらよい」といった話をするはずもない。 さらに、被告の教義には、過去の因縁や先祖の霊を信仰や畏怖の対象とする考え方はないから、C元教会長が、過去の因縁や先祖の霊を持ち出し て会員の不安をあおるような説明を行うはずがない。 C元教会長は、逆恨みからストーカー被害に遭うという事件がいくつか報道されていたこともあって、原告から相談されていたストーカーから付け狙われているという話は現実に起こり得る出来事であると受け止め、妄想によるものと断じることはできなかった。また、C元教 がいくつか報道されていたこともあって、原告から相談されていたストーカーから付け狙われているという話は現実に起こり得る出来事であると受け止め、妄想によるものと断じることはできなかった。また、C元教会長は、 原告が殺されるかもしれないなどの発言もしていたことについて、一部の相談者と同様、歓心を買うために物事を大げさに言っているに過ぎないと受け止めた。C元教会長は、原告が夫を含む周囲の者や警察への相談といった通常とるべき対策も講じている口ぶりであったこと、原告は自ら自動車を運転して被告のA教会と自宅を何度も往復していたことなど から、原告の判断能力の低下を疑っていなかった。 イ D前教会長の献金勧誘行為について D前教会長は、令和3年3月28日に原告との最初の面談を行って以降、原告の要望に応え、約2週間に1回の割合で、原告との面談を繰り返していた。原告からの相談内容は、原告の体調不良や家族の問題に関する ものが中心で、原告の子どもらの将来を心配し、自分の死後も神のご加護 があるように、悟加富や新御正殿建築献金を積極的に行って徳を積んでおきたいというものであった。D前教会長は、原告の徳を積みたいという強い気持ちに対し、被告の教えとして、神様から授けられた体力や身に付けた知識、学力を世のため人のために捧げようとする「献身(みささげ)精神」と、自分に授かった物、金銭、財産を世のため人のためにより大き く活かそうとする「宝生(ほうしょう)精神」があり、これには悟加富、芸術献金があることを説いた。原告は、D前教会長のかかる説示から、芸術献金をすることを希望し、令和3年8月初旬頃、原告は、D前教会長との相談日において、「後日、献金したいので、預かって欲しい」と言って、5枚の悟加富証(合計386万円)をD前教 のかかる説示から、芸術献金をすることを希望し、令和3年8月初旬頃、原告は、D前教会長との相談日において、「後日、献金したいので、預かって欲しい」と言って、5枚の悟加富証(合計386万円)をD前教会長に差し出した。そして、 同月16日、原告は、A教会の教会長室を訪れ、D前教会長に対し、上記悟加富証(合計386万円)を全て献金したいと申し出たところ、D前教会長は、献金額が多額であることから、改めて原告の献金の意思を確認するために、原告の配偶者は承知しているのか質問をし、原告が、「大丈夫。 夫は分かってくれる。」と回答したことから、原告に、「大靖献悟加富繰 上げ返金願書」を記入してもらった。D前教会長は、原告の献金の意思が変わる可能性も考慮し、前記返金願書と原告から預かっていた上記悟加富証を3日間、金庫に保管したが、原告から献金撤回の連絡がなかったことから、同月19日、大本庁に上記返金願書と上記悟加富証を郵送した。 以上のように、原告は自発的に献金をしたものである。 原告は、自ら悟加富証を持参してA教会に赴いたのであり、A教会に参拝した時点で献金とする意思を有していたといえる。また、原告は、数回にわたって、悟加富を新御正殿建築献金に振り替えていたことからすれば、繰上げ返金願い書における文章は、原告の意思及び認識をそのまま反映したと解するのが自然であって、D前教会長によって書かされた文書 であるとは到底評価できない。 D前教会長は、突然ノート及び壊れたハードディスクを持参した原告から、それらの廃棄を依頼され、やむなくノートはシュレッダーにかけ、スマートフォンのハードディスクは廃棄したのであり、「そんなに気になるものは捨て、シュレッダーでゴミにしたらよい」と発言して原告の不安、恐怖心を一層あお 頼され、やむなくノートはシュレッダーにかけ、スマートフォンのハードディスクは廃棄したのであり、「そんなに気になるものは捨て、シュレッダーでゴミにしたらよい」と発言して原告の不安、恐怖心を一層あおったりなどはしていない。 また、前記アのとおり、被告の教師が、過去の因縁、先祖の霊を持ち出して不安をあおる説明をすることはあり得ない。 D前教会長は、原告の話に奇異な雰囲気を感じたものの、原告自らが、「精神的、被害妄想かもしれない」と言っていたこともあって、原告が心労により一時的に神経過敏になっているのだろうと考えたのであり、原 告の精神疾患を認識若しくは認識し得たわけではなかった。他方で、原告が、面会予約時間に合わせて、自動車を自ら運転してA教会に参詣に訪れており、日常生活や教会活動も何ら支障なく行っており、また医師である原告の夫も何ら対応していないことから、原告の精神疾患あるいは判断能力の低下を疑うことはなかった。 ウ献金額について原告が行った献金総額のうち916万円は、長年、原告が悟加富として被告に納めていた金員であるから、原告ら家族の生活にとって不可欠な金員ではなかったといえる。原告は、入会以来、毎日1000円ずつを家計から蓄え、一定額が貯まると悟加富や宝生にしていたとしているところ、配偶者 が手取り100万円の収入を得ていたことを前提とすれば、月3万円という金額は生活を圧迫する額ではなく、原告の裁量で自己の嗜好や趣味に充てることが可能であったといえる。本件の献金が原告の30数年間の日々の信仰心の積み重ねであったと考えれば、献金額合計986万円は決して社会通念を逸脱するような過大な額ではない。 ⑵ 被告の本件訴訟における主張の違法性の有無(争点2) ( 日々の信仰心の積み重ねであったと考えれば、献金額合計986万円は決して社会通念を逸脱するような過大な額ではない。 ⑵ 被告の本件訴訟における主張の違法性の有無(争点2) (原告の主張)被告は、本件訴訟において、一方的な憶測に基づく虚偽・捏造の主張をし、弱者である原告を傷つけ、更なる精神的苦痛を与えた。原告は、信頼していた被告の教会長らのあまりにも虚偽、曲解、一方的な憶測によって捏造された主張の卑劣さに驚き、だまされたことや信頼を裏切られたことに著しいショッ クを受けた。被告の主張は、表現の自由とはいえ、社会通念上、限界を超えた虚偽・捏造であって、法的に許されるべきものではない。問題となる具体的な表現及び当該表現が違法である理由は別紙のとおりである。 (被告の主張)否認ないし争う。 ⑶ 原告の損害及びその額(争点3)(原告の主張)ア財産上の損害について原告がC元教会長、D前教会長らの違法な教導行為によって支払わされた献金の額合計986万円が原告の財産上の損害である。 イ慰謝料についてC元教会長、D前教会長らの違法な教導行為によって受けた精神的苦痛の慰謝料は100万円であり、被告の本件訴訟における虚偽・捏造の主張により原告が受けた精神的苦痛の慰謝料は50万円である。 ウ弁護士費用について 本件と相当因果関係のある弁護士費用は、前記アの1割(98万6000円)及び前記イの1割(15万円)である。 (被告の主張)いずれも争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 ⑴ 前提事実のほか、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。 ア の主張)いずれも争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 ⑴ 前提事実のほか、後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。 ア原告のC元教会長への相談等原告は、令和2年の春頃から、C元教会長に対し、ストーカー被害に遭っており、夜眠れない、ストーカーの原因は、Bの同僚医師が不正を 行っていたところ、Bが同不正を暴き、追及するために訴訟を起こして勝訴したが、当該医師から恨みを買い、その矛先が原告にも向いている、ストーカーに追っかけられてきた、スパイにされている、人から監視されている、殺されてしまうんじゃないかなどと相談した(証人C[4、5、15、16頁]原告本人[4頁])。 原告は、C元教会長に被告への献金を渡していた頃、自身のスマートフォンのデータを移したハードディスク(以下、単に「ハードディスク」という。)をA教会に持参し、C元教会長に対し、この中にストーカーとのやり取りのLINEの記録が残っているので教会で預かってほしいと述べた。C元教会が、原告に対し、教会で預かることはできない、そんな に問題のあるものであれば、自分で壊したらどうか勧めると、原告は、C元教会長に対し、ハードディスクの破壊を依頼した。C元教会長は、ハンマーで叩いてハードディスクを破壊し、破壊したものを原告に交付した(証人C[19頁])。 イ原告のD前教会長への相談等 原告は、令和3年3月28日、C元教会長の後任としてA教会に赴任したD前教会長と初めて面談を行った。それ以降、原告は、同年5月に3回、同年6月に3回、同年7月に1回と、おおむね10日から2週間に1回程度の頻度でD前教会長と面談を行った(証人D[3、4頁])。 原告は 会長と初めて面談を行った。それ以降、原告は、同年5月に3回、同年6月に3回、同年7月に1回と、おおむね10日から2週間に1回程度の頻度でD前教会長と面談を行った(証人D[3、4頁])。 原告は、令和3年5月頃から、D前教会長との面談の中で、D前教会長 に対し、テレビ画面等を通じてあるいは手術の際に腰骨に埋め込まれた チップを通じて監視され、追跡され、指示を出されているような感覚がある、腰部のチップを取り出したい、数字やテレビの映像を自分と関連付けて考えてしまう、昼間に車のヘッドライトが付いていると自分が狙われているような気がするなどの相談をしていた(乙20、証人D[5、6頁])。 原告は、ノートと壊れたハードディスクをA教会に持参し、D前会長に対し、教会でシュレッダーにかけ、廃棄してほしいと依頼した。D前教会長は、同依頼を断ったが、原告が置いて帰ったため、ノートをシュレッダーで裁断し、壊れたハードディスクは廃棄した。 原告は、D前会長に対し、筆談をすることを求め、D前会長は原告の求 めに応じて、筆談を行った。その際、原告は、「耳鳴りは私が考えたり(思考)書いたりする事柄によって強弱がある気がするが、なぜだか?先生はどう思われるか?」、「MiMiNARI」、「耳鳴り」、「aringingintheears」、「生活相談の内容で~の事は私と関係ない・・・」、「数字.スパイの事など」、「←本当だと思っていた のか?」。「これがうまくいけば.Yの宣伝etc.~」「解剖の事本当は?口ごもったこと」、「どういう意味か!」、「教団の会員.会費納入者」、「どう違うか迷惑はないか.」と記載し、D前教会長は、「証拠隠匿をするのがプロの仕事です。最後に大きなエネルギーでなくそう は?口ごもったこと」、「どういう意味か!」、「教団の会員.会費納入者」、「どう違うか迷惑はないか.」と記載し、D前教会長は、「証拠隠匿をするのがプロの仕事です。最後に大きなエネルギーでなくそうとしている、その音かと思います」、「一切は進歩発展する」、「世界平 和の為の一切である」、「どのようなことも、遠回りであれ近道であれ世界平和の為に必要なこと。」、「Xさんのされることも全て世界平和につながります」、「スイッチは入らないです。このやり方では証拠が残りますので知らないうちに抜き取られることでしょう。ですので心配することはありません。」、「原爆と骨はDNAの破壊により新しく細胞が作ら れなくなり、人体そのものが脆くなります。」、「全ての日本在住者の動 きはチェックされています。Eメール、銀行取引(税含む)いつどの辺りにいたか、など。チェックされても堂々としていれば大丈夫です。」、「アメリカも旧ソ連のロシアもイスラム教を抑えつけようとして失敗。すべての思想や主義主張を力まかせに思い通りにすることができないこと。 全ての思想や信仰を認めていくことが大切です」と記載した(甲41、4 2)。 ウ原告の通院等 原告は、令和2年12月11日にE病院のF医師(以下「F医師」という。)の診察を受けた。原告に係るカルテには、同日の診察における原告の訴えについて、以下の記載がある。(甲43) 「2年前(2018年)から妙なことがおこる。一旦治って、昨年12月にもなった。今年の4月から又おかしいことが起こる。自分の安全が第一にと思っています」、「アンテナ伸ばしすぎ:テレビが自分のことを言っているように思える。裸でテレビをみていたら、世の中に流れているのではないかと思ってしまう」、「診察 ことが起こる。自分の安全が第一にと思っています」、「アンテナ伸ばしすぎ:テレビが自分のことを言っているように思える。裸でテレビをみていたら、世の中に流れているのではないかと思ってしまう」、「診察中にも、外に誰かいます、追いかけて きたかも。しかし、聞いても『ここに受診したよ』と言われたらそれ迄ですね、と言う」、 F医師は、令和4年3月10日付けで、原告に係る診断書を作成した。 同診断書には、「2018年頃より、幻聴、思考漏洩、関係妄想を認め、精神病状態にあり、精神的に高度に不安定な状態にあった。そのため、全 般的に判断力は低下していたと思える。」、「2020年12月受診時にも同状態を認め、注察妄想、被害関係妄想は持続し、病識なく判断力も極度に低下していた。」などと記載されている。(甲2)⑵ 事実認定の補足説明ア教会長らの発言等について 原告は、C元教会長が、原告に対し、「過去(先祖)のことがあるから、 今、このような仕打ちを受けるのです。あなたの心のほこりを払うためには、Y教団へ献金しなければなりません。」などと告げた、D前教会長も、原告に対し、「過去からの因縁が現在の姿として現れるのです、家族の流れを誰かが清めなければならない。清めるための信心は献金です。」などと告げた旨主張し、原告本人もこれに沿う供述をする。他方、被告は、教会長らは、 原告が主張するような発言はしていない旨主張し、証人C及び証人Dもこれに沿う供述をする。 そこで検討すると、C元教会長又はD前教会長が、上記のような発言をしたことを的確かつ客観的に裏付ける証拠はない。また、原告は、通院した医療機関においても被告に献金したことを説明しているものの(甲43)、原 告に係る診療録をみても、C元教会長 のような発言をしたことを的確かつ客観的に裏付ける証拠はない。また、原告は、通院した医療機関においても被告に献金したことを説明しているものの(甲43)、原 告に係る診療録をみても、C元教会長あるいはD前会長から、上記のような発言があったため献金したというような申告をしているという形跡も見当たらない。さらに、C元教会長又はD前教会長が原告に説明をするのであれば、被告の教師としての説明になるところ、被告の教義に基づく説明であれば、献金の理由として祖先の因縁等を理由とすることはないとの被告の主 張は、あながち不自然・不合理ともいえない(なお、原告が、本件と類似の事件が発生しているとして提出した週刊誌(甲59)によっても、献金の返還を求める理由は、新御正殿建築献金として集められた献金について被告が新御正殿を建築するつもりがないことを理由とするものであって、先祖の因縁を清めるためなどという心理的不安を与えて献金をさせたことを理 由とするものではない。)。そして、先祖の因縁等を理由に心理的不安を与えて献金させるというのは、被告以外の宗教団体において、そのような献金勧誘行為が行われたとして広く報道されたものであることからすれば、原告がそれらと混同している可能性も否定できない(なお、原告は通院した医療機関において、「統一教会の問題と一緒です」と述べている(甲43[1 0頁])。)。 以上からすれば、原告の供述を採用することはできず、ほかに、C元教会長あるいはD前会長が上記のような方法で献金を勧誘したことを認めるに足りる証拠もないことからすれば、上記のような方法で献金を勧誘したと認めることはできない。 イ D前教会長による壊れたハードディスクの廃棄等について 証人Dは、ハードディスクを原告から受け取 証拠もないことからすれば、上記のような方法で献金を勧誘したと認めることはできない。 イ D前教会長による壊れたハードディスクの廃棄等について 証人Dは、ハードディスクを原告から受け取った記憶はなく、廃棄していない旨供述する(証人D[29、34、35頁])。しかし、被告が、積極的に受け取ったのかやむを得ずなのかはさておくとしても、D前教会長が原告から交付を受けた壊れたハードディスクを廃棄したこと自体は認める主張をしていること(被告準備書面⑴[22、24頁])からすれば、証人 Dの供述は被告の主張と相反するものであって、採用することができない。 以上からすれば、D前教会長が、A教会において、原告から交付を受けた壊れたハードディスクを廃棄したと認めることができる。 2 争点1(被告による献金勧誘行為の違法性の有無)について⑴ 宗教団体又はその信者(以下「宗教団体等」という。)が当該宗教団体に献 金をするように他者を勧誘すること(以下「献金勧誘行為」という。)は、宗教活動の一環として許容されており、直ちに違法と評価されるものではない。 もっとも、献金は、献金をする者(以下「寄附者」という。)による無償の財産移転行為であり、寄附者の出捐の下に宗教団体が一方的に利益を得るという性質のものであることや、寄附者が当該宗教団体から受けている心理的な 影響の内容や程度は様々であることからすると、その勧誘の態様や献金の額等の事情によっては、寄附者の自由な意思決定が阻害された状態でされる可能性があるとともに、寄附者に不当な不利益を与える結果になる可能性があることも否定することができない。そうすると、宗教団体等は、献金の勧誘に当たり、献金をしないことによる害悪を告知して寄附者の不安をあおるよう な行為をしてはならない 与える結果になる可能性があることも否定することができない。そうすると、宗教団体等は、献金の勧誘に当たり、献金をしないことによる害悪を告知して寄附者の不安をあおるよう な行為をしてはならないことはもちろんであるが、それに限らず、寄附者の自 由な意思を抑圧し、寄附者が献金をするか否かについて適切な判断をすることが困難な状態に陥ることがないようにすることや、献金により寄附者又はその配偶者その他の親族の生活の維持を困難にすることがないようにすることについても、十分に配慮することが求められるというべきである。 以上を踏まえると、献金勧誘行為については、これにより寄附者が献金をす るか否かについて適切な判断をすることに支障が生ずるなどした事情の有無やその程度、献金により寄附者又はその配偶者等の生活の維持に支障が生ずるなどした事情の有無やその程度、その他献金の勧誘に関連する諸事情を総合的に考慮した結果、勧誘の在り方として社会通念上相当な範囲を逸脱すると認められる場合には、不法行為法上違法と評価されると解するのが相当で ある。そして、上記の判断に当たっては、勧誘に用いられた言辞や勧誘の態様のみならず、寄附者の属性、家庭環境、入信の経緯及びその後の宗教団体との関わり方、献金の経緯、目的、額及び原資、寄附者又はその配偶者等の資産や生活の状況等について、多角的な観点から検討することが求められるというべきである(最高裁令和6年7月11日第一小法廷判決・民集78巻3号92 1頁参照)。 ⑵アまず、献金の額について見ると、原告が被告に献金した金額は合計986万円であるところ、かかる金額が多額であることはいうまでもなく、その金額に照らせば、家計に大きな影響を及ぼすものであるといえる。そして、このことは、献金の内訳を見ると 被告に献金した金額は合計986万円であるところ、かかる金額が多額であることはいうまでもなく、その金額に照らせば、家計に大きな影響を及ぼすものであるといえる。そして、このことは、献金の内訳を見ると、僅か約5か月の間に7回の献金を行い、そ の金額が合計600万円にのぼっていること(特に、令和2年10月に至っては、3日間だけで合計400万円)(前提事実⑶アないしキ)、その約10か月後に、1回で386万円もの献金を行っていること(前提事実⑶ク)からすれば、短期間に、極めて多額の献金を行っていると評価することができ、その期間、金額に照らせば、家計への影響の程度は大きいというほかな い。確かに、原告の配偶者であるBは医師(内科医)であるところ(前提事 実⑴イ)、その客観的な収入額は明らかとなっていないが、一般的に医師の収入は高収入であること、Bは勤務医であり、仕事で忙しく家庭内のことは原告に任せていた(甲46)というのであるから、勤務日も多く勤務時間も長かったことがうかがわれることなどからすれば、Bは一定の収入を得ていたことがうかがわれ、原告の世帯は、世間一般の平均的な世帯より多額の 収入があったことがうかがわれる。しかし、原告が専業主婦であったこと(前提事実⑴イ)からすれば、原告自身には収入がなかったことは明らかであり、そのような原告が多額の献金をするためには、Bの収入を原資とするほかなかったといえる。そして、C元教会長及びD前教会長は、原告が専業主婦であり、原告に収入がないことを知っていたこと(証人C[31頁]、 証人D[16頁])、夫が勤務し、妻が専業主婦という世帯であれば、家計は妻が管理していることも想定されるのだから(実際、原告の世帯においては、原告が家計を管理していた(甲46)。)、原告がBの収入を 証人D[16頁])、夫が勤務し、妻が専業主婦という世帯であれば、家計は妻が管理していることも想定されるのだから(実際、原告の世帯においては、原告が家計を管理していた(甲46)。)、原告がBの収入を原資として献金をすることも容易であったことなどからすれば、C元教会長及びD前教会長は、原告による多額の献金の原資がBの収入を原資とするもので あることを認識していたものである。そうすると、Bも被告の会員であったというのであればともかく、本件において、Bが被告の会員であったというような事情はうかがわれないことからすれば、原告がBの真摯な了解を得ることなく多額の献金をした場合には、家庭内において問題となり得ることが想像に難くなく、そのことは、C元教会長及びD前教会長においても、 当然に認識し得たものである。 イまた、原告の精神状態について見ると、原告はC元教会長に対し、ストーカー被害に遭っている、スパイにされている、人から監視されている、殺されてしまうんじゃないかなどと訴えているところ(認定事実⑴ア)、かかる相談内容に照らせば、C元教会長が仮に精神医学に関する知見を有して いなかったとしても、原告が精神に異常を来していることを容易に認識し 得たといえる。そして、このことは、原告が、スマートフォンのデータを移したハードディスクをA教会に持参し、C元教会長にハードディスクの破壊を依頼するという行為に及んでいるところ(認定事実⑴ア)、かかる行為が異常な行為であることはいうまでもないことを併せ考慮すれば、より強くいえる。そして、原告がC元教会長に相談をするようになったのが令和 2年春頃であり、原告がC元教会長を通じて献金をしたのは令和2年5月11日から同年10月16日であること(前提事実⑶アないしキ)、C元教 そして、原告がC元教会長に相談をするようになったのが令和 2年春頃であり、原告がC元教会長を通じて献金をしたのは令和2年5月11日から同年10月16日であること(前提事実⑶アないしキ)、C元教会長も、原告がストーカー被害から逃れたいという気持ちで献金を行おうとしていたことは認識していたこと(証人C[4、5頁])からすれば、C元教会長は、原告から献金を受ける際に、原告の精神状態を認識していたと いえる。そして、C元教会長の供述を前提とすれば、原告がストーカー被害から逃れたいという気持ちで献金をしようとしていたことは認識した上で、献金すればストーカー被害がなくなる、自分の思い通りになるということではなく、物や金を世のため人のために捧げることによって、自分の執着心、物、金に対する妙なこだわりなどからある程度脱却できるという一定の効 果があるという説明をしたというところ(証人C[4、5頁])、仮に、C元教会長が供述するとおりであったとしても、上記で説示したような当時の原告の精神状態に鑑みれば(原告がC元教会長の説明を受けてストーカー被害の妄想から解放されたというような事情はない。)、そのような説明を受けたとしても、原告が、説明内容を理解し、妄想とは無関係に献金を 行うこととするという判断を行うことは不可能ないし著しく困難というほかなく、前記1⑵アで認定説示したとおり、C元教会長あるいはD前教会長が、原告に対し、先祖の霊の因縁を断つために献金をすることが必要である、あるいは、原告の健康状態を改善するためには献金をすることが必要であるなどして、原告に心理的不安を与え、その心理的不安に乗じて献金を勧誘 したというような事情までは認められないものの、そのような原告に献金 を勧誘することは、原告の異常な精神状態 あるなどして、原告に心理的不安を与え、その心理的不安に乗じて献金を勧誘 したというような事情までは認められないものの、そのような原告に献金 を勧誘することは、原告の異常な精神状態に乗じて行ったものというほかない。 また、D前教会長は、C元教会長の後任の教会長であったことからすれば、原告を含む会員の情報を引き継いでおり、原告のこれまでの献金額(特に、本件で問題となっている献金)や、原告からの相談内容等を認識してい たことがうかがわれる(なお、D前教会長は、会員の個人情報について、前任のC元教会長から一切引継ぎを受けていない旨供述するが(証人D[2頁])、多数の会員を抱える宗教法人が、会員に関する情報を整理・把握し、責任者の立場にある者が後任者に引き継いでいくのは、組織として当然のことであること、現に被告において会員に関する情報が整理・保存されてい るとうかがわれること(乙4、5、12)からすれば、同供述は採用できない。)。そして、原告が、D前教会長に対し、テレビ画面等を通じて、あるいは手術の際に腰骨に埋め込まれたチップを通じて監視されている、昼間に車のヘッドライトが付いていると自分が狙われているような気がするなどと訴えているところ(認定事実⑴イ)、かかる相談内容に加えて、従前 のC元教会長に対する相談内容や、原告がノートと壊れたハードディスクをA教会に持参し、D前会長に対し、教会でシュレッダーにかけ廃棄してほしいと依頼しているところ、かかる行為が異常な行為であることはいうまでもないこと、原告がA教会において孤立していたところ(証人D[5頁])、これは原告の言動が周囲の会員に受け入れられないものであったためであ ることがうかがわれることなどを併せ考慮すれば、やはり、D前教会長も、原告 会において孤立していたところ(証人D[5頁])、これは原告の言動が周囲の会員に受け入れられないものであったためであ ることがうかがわれることなどを併せ考慮すれば、やはり、D前教会長も、原告が精神に異常を来していることを容易に認識し得たといえる(献金後の事情ではあるが、原告は、D前教会長に筆談での相談を依頼しているところ(認定事実⑴イ)、かかる原告の言動も、原告が精神に異常を来していたことを裏付ける事情であるといえる。)。そして、D前教会長と原告との 面談回数の頻度が増えたのが令和3年5月頃からであり、原告がD前教会 長を通じて献金をしたのは令和3年8月19日であること(前提事実⑶ク)からすれば、D前教会長は、原告から献金を受ける際に、原告の精神状態を認識していたといえる。そうすると、そのような原告に献金を勧誘することは、原告の異常な精神状態に乗じて行ったものというほかないことは、C元教会長について説示したのと同様である。 以上からすると、C元教会長及びD前教会長としては、原告に献金を勧誘し、原告がこれに応じて献金を申し出てきたとしても、原告が精神に異常を来しており、献金をするか否かについて適切な判断をすることに支障が生じており、しかも、C元教会長及びD前教会長に対する相談内容やハードディスクの破壊といった異常な行動に出ていることなどをも併せ考慮すれ ば、病的な妄想による多大な支障が生じているという原告の属性を認識していたにもかかわらず、献金の手続を進めたものである。そして、短期間に複数回の献金が行われるなどした結果、原告自身には収入がないにもかかわらず、約1年3か月の間の献金額が合計986万円もの多額に及んでいること、そのような多額の献金をすることは家庭内で問題となり得ること で 行われるなどした結果、原告自身には収入がないにもかかわらず、約1年3か月の間の献金額が合計986万円もの多額に及んでいること、そのような多額の献金をすることは家庭内で問題となり得ること であり、生活の維持に支障が生ずるおそれがあることは容易に認識可能であることなど、本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば、本件における原告に対するC元教会長及びD前教会長による献金勧誘行為は、勧誘の在り方として社会通念上相当な範囲を逸脱するものであり、不法行為法上違法と認められる。 ⑶ 被告は、①C元教会長は、原告から相談されていたストーカーから付け狙われているという話について、妄想とは断じ得なかった、殺されるかもしれないなどの発言は、歓心を買うために物事を大げさに言っているに過ぎないと受け止めた、周囲の者や警察への相談といった通常とるべき対策も講じている口ぶりであった、自動車を運転してA教会と自宅を往復していたことなどか ら、原告の判断能力の低下を疑わなかった、②D前教会長は、原告が心労によ り一時的に神経過敏になっているのだろうと考えた、自動車を運転してA教会に参詣に来ていた、医師であるBも何ら対応していないことなどから、原告の判断能力の低下を疑うことはなかった、原告の徳を積みたいという気持ちに対し悟加富、芸術献金があることを説いた、③献金の大部分は悟加富として納めていたものであること、月額にすれば3万円程度であることからすれば、 生活を圧迫する額ではなく、986万円という合計額は社会通念を逸脱するような額ではない旨主張し、証人C及び証人Dもこれに沿う供述をする。 しかし、①について、原告は、C元教会長に対しては、令和2年春頃からストーカー被害に係る相談をしていたのであり、単につきまといを受けていること 張し、証人C及び証人Dもこれに沿う供述をする。 しかし、①について、原告は、C元教会長に対しては、令和2年春頃からストーカー被害に係る相談をしていたのであり、単につきまといを受けていることのみ相談されているだけならともかく、その相談内容や、ハードディスク をA教会に持参し、C元教会長に対し、同ハードディスクの破壊を依頼したことなどに照らせば、原告が精神に異常を来していることを容易に認識し得るものであったことは前記アで説示したとおりであり、また、相談内容に照らせば、歓心を買うために大げさに言っているにすぎないと受け止めるようなものでないことも明らかである。さらに、原告が対策を講じている口ぶりであっ たことを的確かつ客観的に裏付ける証拠はないが、その点をさて措き、仮に原告がそのような口ぶりであったとしても、精神に異常を来している原告の説明内容を前提としたのではそれが実体を反映したものか不明であることからすれば、そのことをもって、原告の判断能力の低下に気が付かないことの証左とはなり得ない。そして、自動車を運転することと、精神に異常を来している こととは相容れないことではないことからすれば、原告が自動車を運転してA教会に来ていたとしても、そのことをもって、原告の判断能力の低下に気が付かないことの証左であるということはできない。 ②についても、原告は、D前教会長に対して、令和3年5月頃から同年7月の間には、おおむね10日から2週間に1回の割合で面談を行っているとこ ろ(認定事実⑴イ)、このような面談の頻度に照らせば、心労等による一時 的なものでないことは明らかである。また、Bがどのような対応をしているかは原告の家庭内の事情であり、D前教会長は認識し得る立場にないこと、仮に、原告からBの対応についての 労等による一時 的なものでないことは明らかである。また、Bがどのような対応をしているかは原告の家庭内の事情であり、D前教会長は認識し得る立場にないこと、仮に、原告からBの対応についての説明があったとしても、精神に異常を来している原告の説明内容を前提としたのでは、それが実体を反映したものか不明であることからすれば、そのことをもって、原告の判断能力の低下に気が付かな いことの証左とはなり得ない。さらに、原告が自動車を運転していたことが原告の判断能力の低下に気が付かないことの証左となり得ないことについては、上記説示のとおりである。そして、原告が献金を申し出た際に作成した書面を見ても、C元教会長に申し出たもの(甲14ないし19)については、新御正殿献金に参加するためという旨の記載があるのに対し、D前教会長に申し出 たものについては、徳を積みたいという記載や芸術献金に参加するためという旨の記載は見当たらないこと(前提事実⑶ク)からすれば、D前教会長が芸術献金を説いたことと整合していない。 ③について、悟加富の法的性質が、返還時期の定めのある金銭消費貸借契約であること(前提事実⑵イ)からすれば、悟加富のままであれば、いずれは原 告の手元に戻ってくる財産(債権)であり、財産的価値の点では現金あるいは預貯金と同様であることからすれば、献金の原資が悟加富であるか現金あるいは預貯金であるかによって大きな差異はなく、原資が悟加富であることをもって、本件における献金の相当性が大きく左右されるものではない。また、確かに、原告が被告への入会以降、毎月3万円の献金を継続しており、それ以 外には献金していなかったというのであれば、世帯の収入によっては相当な範囲内といい得るが、原告は、本件で問題となっている献金以外に被告への献金 会以降、毎月3万円の献金を継続しており、それ以 外には献金していなかったというのであれば、世帯の収入によっては相当な範囲内といい得るが、原告は、本件で問題となっている献金以外に被告への献金をしていなかったのではなく、被告への入会以降、毎月1000円の会費を納付しているほか、礼拝の都度、宝生(前提事実⑵ア)として献金していたものであること、そもそも、勧誘の結果、自身に収入のない原告が短期間に多額 の献金を行ったことが問題なのであることからすれば、原告の入会以降の全 期間をもって、本件で問題となっている献金額の相当性を論じる被告の主張は失当である。以上からすれば、被告の主張は採用できない。 3 争点2(被告の本件訴訟における主張の違法性の有無)について原告の主張は、被告が内容虚偽の主張を行ったことで、原告が精神的に傷付いた旨主張するものである。原告が問題とする被告の主張は、準備書面に おいてなされたものであることからすれば訴訟活動の一環としてなされたものであることは明らかであるところ、民事訴訟は当事者の利害が対立しており、互いに、自らの主張する事実が認定されるようあるいは相手方が主張する事実が認定されないよう、自らの正当性あるいは相手方の不当性について主張することとなるのだから、事実の存否に争いがある場合には、互いの主 張が相反するものとなるのは当然であって、他方当事者の主張と異なる主張をすることが許されないとすれば、それは、訴訟上の攻撃防御を行うことが許されないこととなるものである。そして、相手方が自らの主張と相反する主張を行った場合に、主観的に不満を抱くことは首肯し得るとしても、当該主張の当否や主張する事実の存否については、当該訴訟における争点に関す るものであれば、自らの主張におい らの主張と相反する主張を行った場合に、主観的に不満を抱くことは首肯し得るとしても、当該主張の当否や主張する事実の存否については、当該訴訟における争点に関す るものであれば、自らの主張において反論することが可能であり、終局的には、裁判所の判断が示されることとなるものである。このような民事訴訟の構造に照らせば、民事訴訟における一方当事者の主張が、結果的に裁判所の認定において採用されず、当該当事者の主張が認定されない事実を主張していることになったとしても、そのことをもって、当然に不法行為を構成する ことはなく、争点と何ら関連がなく、訴訟上主張する必要がない事実について、殊更、他方当事者の感情を害することを目的として主張を行うなど、訴訟活動に名を借りて、正当な訴訟活動として許容される範囲を逸脱していると評価し得るような場合に、不法行為に当たるというべきである。 これを、本件についてみると、本件においては被告の教会長らによる献金 勧誘行為が違法か否かが争点となっていることからすれば、被告としては、 当該勧誘行為が違法でない旨主張することとなる。そして、当該勧誘行為が違法でない旨主張するためには、被告の教義に基づけば教会長が原告にどのような説明をすることになるかや、献金が原告の自発的意思に基づくものであること、原告や教会長らの発言内容が原告主張のとおりでないことなど、原告が本件訴訟において主張する事実関係に対して反論をしたり、被告にお いて認識している事実関係やそこから推測される事実関係の主張を行うことは、訴訟活動として、当然に予定されたものといえる。そうすると、原告が問題とする被告の主張は、本件の争点と関連するものであることが明らかであり、また、その内容を見ても、殊更に原告を誹謗中傷することを主たる目的 動として、当然に予定されたものといえる。そうすると、原告が問題とする被告の主張は、本件の争点と関連するものであることが明らかであり、また、その内容を見ても、殊更に原告を誹謗中傷することを主たる目的としたものともいえないことからすれば、結果的に、被告の主張が排斥されて いるとしても、正当な訴訟活動として許容される範囲を逸脱していると評価し得ないことは明らかである。 したがって、被告の本件訴訟における主張が違法であると認めることはできない。 4 争点3(原告の損害及びその額)について ⑴ 財産上の損害について前記2で認定・説示したとおり、原告は、C元教会長及びD前教会長の違法な献金勧誘行為に基づき献金を行っており、その合計額が986万円であること(前提事実⑶)からすれば、原告が被った財産上の損害は986万円となる。 ⑵ 慰謝料について前記2で認定・説示したとおり、C元教会長及びD前教会長の原告に対する献金勧誘行為が不法行為法上違法なものであること、原告が合計986万円という多額の献金を行っていること、勧誘の態様等本件で現れた一切の事情を総合考慮すれば、原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は5 0万円とするのが相当である。 ⑶ 弁護士費用について本件事案の内容、前記損害額等、本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると、違法な献金勧誘行為と相当因果関係がある弁護士費用は103万円とするのが相当である。 5 結論 以上によれば、原告の請求は、被告に対し、1139万円及びうち1084万円に対する令和4年11月11日から、うち55万円に対する令和5年12月1日から、各支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があ 対し、1139万円及びうち1084万円に対する令和4年11月11日から、うち55万円に対する令和5年12月1日から、各支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限りで認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 高知地方裁判所民事部(裁判長裁判官佐々木隆憲、裁判官鈴木美香、裁判官野澤尚純)

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