平成30(ワ)500 国家賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和5年1月23日 熊本地方裁判所
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判決文本文36,506 文字)

主文 1 被告は、第1事件原告に対し、1500万円及びこれに対する平成30年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、第2事件原告に対し、700万円及びこれに対する平成31年3月2 日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は、第1事件原告に生じた費用と被告に生じた費用の2分の1との合計の20分の11を第1事件原告の、20分の9を被告の各負担とし、第2事件原告に生じた費用と被告に生じた費用の2分の1との合計の5分の4を第2事 件原告の、5分の1を被告の各負担とする。 5 この判決は、第1項及び第2項に限り、本判決が被告に送達された日から14日経過したときは、仮に執行することができる。ただし、被告が第1事件原告のために1100万円の担保を供するときは第1項の仮執行を免れることができ、被告が第2事件原告のために500万円の担保を供するときは、第2項の仮執行 を免れることができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、第1事件原告に対し、3300万円及びこれに対する平成30年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、第2事件原告に対し、3300万円及びこれに対する平成31年3月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は、平成8年法律第105号による改正(以下「平成8年改正」という。) 前の優生保護法(昭和23年法律第156号。以下、単に「優生保護法」という。) 3条又は4条の優生条項に基づく優生手術(不妊手術。以下同じ。)を受けさせられたとする原告らが、当該手術は違憲・違法なものであ (昭和23年法律第156号。以下、単に「優生保護法」という。) 3条又は4条の優生条項に基づく優生手術(不妊手術。以下同じ。)を受けさせられたとする原告らが、当該手術は違憲・違法なものであり、それにより著しい肉体的・精神的損害を被ったなどと主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、それぞれ損害賠償金3300万円(慰謝料3000万円、弁護士費用300万円の合計額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日(第1事件原告につい ては平成30年7月26日、第2事件原告については平成31年3月2日)から各支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下、単に「民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 関係法令の定め等別紙「関係法令の定め等」記載のとおり 3 前提事実⑴ 原告らア第1事件原告第1事件原告は、昭和▲年▲月▲日生まれの男性である。第1事件原告に婚姻歴はない。(甲B2の1~2) 第1事件原告は、昭和▲年▲月▲日に身体障害者手帳の交付を受け、平成▲年▲月▲日に同手帳の再交付を受けた。現在の等級は2級であり、障害名は、変形性関節症による左肩関節機能全廃(人工関節置換)(4級)、変形性関節症による右肘関節機能の軽度の障害(7級)、変形性関節症による両股関節機能全廃(両股人工関節置換)(3級)及び変形性関節症によ る右膝関節機能の著しい障害(5級)である。(甲B3)第1事件原告の両側陰嚢根部には右47㎜、左40㎜の切創痕があり、精巣は両側ともに触知不能である。また、陰茎は長さ約5㎝の真正包茎であり、陰毛は10本程度しかない。(争いがない。)イ第2事件原告 第2事件原告は、昭和▲年▲月▲日生まれの女性である。第2事 側ともに触知不能である。また、陰茎は長さ約5㎝の真正包茎であり、陰毛は10本程度しかない。(争いがない。)イ第2事件原告 第2事件原告は、昭和▲年▲月▲日生まれの女性である。第2事件原告 は、昭和▲年▲月▲日に婚姻し、昭和▲年▲月▲日に長女(昭和▲年▲月▲日死亡)をもうけたが、昭和▲年▲月▲日に離婚した。(甲C5)第2事件原告自身に特段の障害はない。(甲C3)第2事件原告の下腹部正中には恥骨結合上端より2㎝の部位から頭側に9㎝にわたる縫合創(臍下端から3.5㎝の部位より下方、腹部正中に 約9㎝の創)がある。(甲C1、2)⑵ 優生保護法の成立等ア優生保護法は、昭和23年の国会に議員立法として提出され、成立した。 同法案の提案理由は「先天性の遺伝病者の出生を抑制することが、国民の急速な増加を防ぐ上からも、民族の逆淘汰を防止する点からいっても極めて必 要である」というものであった。(争いがない。)イ厚生省(当時。以下同じ。)は、昭和28年6月12日付け厚生省発衛第150号をもって、優生保護法4条に基づく優生手術について「本人の意思に反してもこれを行うことができる」、「強制の方法は、手術に当たって必要な最小限度のものでなければならないので、なるべく有形力の行使はつつしま なければならないが、それぞれの具体的な場合に応じては、真にやむを得ない限度において身体の拘束、麻酔薬施用又は欺罔等の手段を用いることも許される場合があると解しても差し支えない」との通知(別紙「関係法令の定め等」6⑵エ)を発出した。(争いがない。)ウ昭和27年5月17日法律第141号による優生保護法の改正後、同法3 条の見出しが「任意の優生手術」から「医師の認定による優生手術」に改められたほか、同法4条の 出した。(争いがない。)ウ昭和27年5月17日法律第141号による優生保護法の改正後、同法3 条の見出しが「任意の優生手術」から「医師の認定による優生手術」に改められたほか、同法4条の見出しが「強制優生手術の審査の申請」から「審査を要件とする優生手術の申請」に改められ、「精神病者に対する優生手術」との見出しで同法12条、13条が新たに追加されるなどした。 (争いがない。)エ上記改正後、平成8年改正により不良な子孫の出生を防止するという優生 思想に基づく部分として削除されるまで維持されていた優生手術に関する 条項(以下、まとめて「優生条項」という。)は、①(医師の認定による・任意の)優生保護法3条1項1号(当事者遺伝)、同項2号(近親遺伝)、②(都道府県優生保護審査会の審査を要件とする・強制の)同法4条(遺伝性精神病等・本人同意不要)、同法12条(遺伝性以外の精神病及び精神薄弱・本人同意不要+保護者同意要)等である。なお、平成8年改正までの間、(医師の 認定による・任意の)人工妊娠中絶に関する同法14条1項1号(当事者遺伝)、同項2号(近親遺伝)の規定も維持されていた。(争いがない。)⑶ 国民優生に関する昭和40年代までの国の施策等ア厚生省(厚生白書)厚生省は、昭和36年版厚生白書において、精神薄弱者につき「優生学 的見地からみても、いたずらに放置することは好ましくない。しかも、一部の精神薄弱者は、治安上からみて危険な存在であり、また売春婦女子などの相当数は精神薄弱者であって、社会秩序を守るうえでもなんらかの措置を必要とする」と記載していた。(甲A130)厚生省は、昭和46年版厚生白書において、遺伝による「先天異常の子 や親の不幸は測ることができぬほど大きいものであり、先天 えでもなんらかの措置を必要とする」と記載していた。(甲A130)厚生省は、昭和46年版厚生白書において、遺伝による「先天異常の子 や親の不幸は測ることができぬほど大きいものであり、先天異常についてはその発生を未然に阻止することに全力をあげる必要がある」、「先天異常の原因として、主として遺伝に関係するものが多く見積もって30%、少なく見積もって10%と言われているので結婚あるいは出生に際し、このことを無視するわけにはいかない」と記載していた。(甲A131) イ文部省(学習指導要領及び教科書検定)学習指導要領文部省(当時。以下同じ。)は、昭和33年の中学校の保健体育の学習指導要領に「遺伝による精神病の予防としては、優秀な配偶者を選ぶとか、劣悪な素質の者には断種(子どもが生まれないような手術)を施すことが 必要である」と記載していた。(甲A133) また、文部省は、昭和35年の高校の保健体育の学習指導要領の小項目に「国民優生」を挙げ、昭和47年の高校の保健体育の学習指導要領に「優生については、優生の意義や優生上問題となる疾病及び血族結婚などについて理解させる。また、心身に特別な異常をもつ子孫の出生を防止し、母性の生命や健康を保護することを目的とした優生保護法にふれ、これに基 づいて行なわれている優生手術や人工妊娠中絶の現状を知らせる」と記載していた。(甲A132、134)教科書検定文部省は、昭和45年頃から昭和47年頃までの高校の保健体育の教科書に「国民優生とは、優生学にもとづいて国民の質の向上に努めることで ある。そのために、劣悪な遺伝素質をもっている人びとに対しては、できるかぎり受胎調節をすすめ、必要な場合は、優生保護法により、受胎・出産を制限することができる。また、 質の向上に努めることで ある。そのために、劣悪な遺伝素質をもっている人びとに対しては、できるかぎり受胎調節をすすめ、必要な場合は、優生保護法により、受胎・出産を制限することができる。また、国民優生思想の普及により、人びとがすすんで国民優生政策に協力し、劣悪な遺伝病を防ぐことがのぞましい。」、「劣悪な遺伝は社会生活を乱し、国民の健康の水準を低下させる。」、「劣 悪な遺伝を除去し、健全な社会を築くために優生保護法があり、本人あるいは親族の同意によって優生手術や人工妊娠中絶が行われることもある。」、「国民優生の目標は、国民の資質向上を図ることで、母体の健康および経済的保護と、不良な子孫の出生を予防するという二つの目的が含まれる。」、「国民優生においては、とくに悪質な遺伝性疾患が伝えられること を防止することが重要とされている」等の記載がされているのを教科書検定で許容していた。(甲A159の1~4)⑷ 優生手術の実施状況等ア優生保護法3条1項1号ないし3号に基づく優生手術(医師の認定による優生手術) 昭和24年から平成8年までの間に行われた優生保護法3条1項1号 (当事者遺伝)又は2号(近親遺伝)に基づく優生手術の実施件数(全国)は6967件であり、同期間中の同項3号(らい病)に基づく優生手術の実施件数(全国)は1551件であった。(乙A6の1)優生保護法3条1項2号(近親遺伝)に基づく優生手術の実施数(全国)は、昭和30年186件、昭和31年175件、昭和32年123件、昭 和33年142件、昭和34年89件、昭和35年94件、昭和36年69件、昭和37年59件、昭和38年39件、昭和39年46件、昭和40年30件、昭和41年40件、昭和42年42件、昭和43年51件、昭和44年3 、昭和34年89件、昭和35年94件、昭和36年69件、昭和37年59件、昭和38年39件、昭和39年46件、昭和40年30件、昭和41年40件、昭和42年42件、昭和43年51件、昭和44年35件、昭和45年25件、昭和46年17件、昭和47年19件、昭和48年13件、昭和49年21件、昭和50年7件であった。 (乙A6の1)イ優生保護法4条又は12条に基づく優生手術(都道府県優生保護審査会の審査を要件とする優生手術)昭和24年から平成8年までの間に行われた優生保護法4条(遺伝性精神病等・本人同意不要)に基づく優生手術の実施件数(全国)は1万45 66件、同法12条に基づく優生手術の実施件数(全国)は1909件である。同法4条に基づく優生手術は平成元年に2件実施されたのが最後であり、同法12条に基づく優生手術は平成元年及び平成4年に各1件実施されたのが最後であった。(乙A2の1~2、乙A24)熊本県における優生保護法4条(遺伝性精神病等・本人同意不要)に基 づく優生手術の件数は、昭和29年0件、昭和30年31件、昭和31年30件、昭和32年14件、昭和33年33件、昭和34年2件、昭和35年2件、昭和36年~37年0件、昭和38年2件、昭和39年2件、昭和40年0件、昭和41年2件、昭和42~46年0件、昭和47年1件、昭和48~50年0件、昭和51年1件、昭和52~54年0件、昭 和55年2件、昭和56年以降0件であった。(乙A2の1、乙A24) 熊本県における優生保護法12条(遺伝性以外の精神病及び精神薄弱・本人同意不要+保護者同意要)に基づく優生手術の件数は、昭和29年27件、昭和30年12件、昭和31年9件、昭和32年12件、昭和33年2件、昭和34~35年0件、昭和3 以外の精神病及び精神薄弱・本人同意不要+保護者同意要)に基づく優生手術の件数は、昭和29年27件、昭和30年12件、昭和31年9件、昭和32年12件、昭和33年2件、昭和34~35年0件、昭和36年1件、昭和37~38年0件、昭和39年10件、昭和40年2件、昭和41年4件、昭和42年2件、 昭和43年以降0件であった。(乙A2の2、乙A24)ウ優生保護法14条1項1号ないし3号に基づく人工妊娠中絶(医師の認定による人工妊娠中絶)昭和24年から平成8年までの間に行われた優生保護法14条1項1号(当事者遺伝)又は2号(近親遺伝)に基づく人工妊娠中絶の実施件数 (全国)は5万1277件であり、同項3号(らい病)に基づく人工妊娠中絶の実施件数(全国)は7696件であった。(争いがない。)優生保護法14条1項2号(近親遺伝)に基づく人工妊娠中絶の実施数(全国)は、昭和30年887件、昭和31年1375件、昭和32年1393件、昭和33年1123件、昭和34年764件、昭和35年78 3件、昭和36年767件、昭和37年508件、昭和38年389件、昭和39年393件、昭和40年560件、昭和41年479件、昭和42年381件、昭和43年308件、昭和44年212件、昭和45年546件、昭和46年636件、昭和47年378件、昭和48年355件、昭和49年273件、昭和50年223件であった。(乙A6の2) ⑸ 平成8年の優生保護法の改正(平成8年改正)等ア昭和50年代後半から昭和60年代にかけて優生条項を改正ないし削除すべきである旨の問題意識が厚生省を含む政府内で明確化されるようになり、昭和63年3月31日には厚生科学研究費補助金を受けて優生手術の適応事由等に関する研究結果をまとめた報告書に 項を改正ないし削除すべきである旨の問題意識が厚生省を含む政府内で明確化されるようになり、昭和63年3月31日には厚生科学研究費補助金を受けて優生手術の適応事由等に関する研究結果をまとめた報告書には、強制的な優生手術につい て疑問を呈する専門家の意見等が記載されていた。(乙A26~32) イ厚生省児童家庭局母子衛生課は、昭和63年9月6日付けで「優生保護法改正問題について(試論)」と題する文書を作成した。同文書には、強制手術は、人権侵害も甚だしいものであり、また、そもそも、精神障害、精神薄弱などは遺伝率もきわめて低く、優生保護の効果としても疑問があることから、廃止すべきである旨記載されていた。(甲A79、乙A33) ウ厚生省保健医療局精神保健課は、平成元年3月3日付け「優生保護法について」と題する文書を作成した。同文書には、優生保護法の「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止」という目的は人権上の問題があり、不当な差別であること、強制優生手術は廃止し、任意優生手術は不妊手術(本人・配偶者の同意があれば医師が行うもの)に名称を変更する案が記載されていた。 (甲A80)エ優生保護法は、平成8年に「目的その他の規定のうち不良な子孫の出生を防止するという優生思想に基づく部分が障害者に対する差別となっている」との理由により優生条項が削除され、母体保護法へと議員立法で改正(平成8年改正)された。(争いがない。) オ平成8年改正により、優生保護法の目的(優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する)は母体保護法の目的に引き継がないこととされたほか,優生保護法のうちの優生条項、すなわち、遺伝性疾患等の防止のための優生手術及び精神病者等に対する本人の同意によらない優生手術に関する規定(優生保護法3条1項 法の目的に引き継がないこととされたほか,優生保護法のうちの優生条項、すなわち、遺伝性疾患等の防止のための優生手術及び精神病者等に対する本人の同意によらない優生手術に関する規定(優生保護法3条1項1号及び2号並びに同法4条から13条まで)、遺伝性疾 患等の防止のための人工妊娠中絶に係る規定(同法14条1項1号及び2号)及び都道府県優生保護審査会及び優生保護相談所に係る規定(同法16条から24条まで)が削除された。(甲A23)⑹ 平成8年改正後の状況ア熊本地方裁判所は、平成13年5月11日、ハンセン病患者に対する隔離 政策について、合理的根拠がなくなったにもかかわらず、抜本的な変換がな かったとして、厚生大臣の職務行為について国家賠償法上の違法を認めた。 また、同年6月に「ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給等に関する法律」(平成13年法律第63号)が公布・施行された。(争いがない。)イ厚生労働大臣は、平成16年3月24日、参議院厚生労働委員会において、「こういう法律(優生保護法)があった以上、それの対象者となった人がい ることだけは紛れもない事実(中略)そうした事実を今後どうしていくかということは、今後私たちも考えていきたい」と述べ、被害回復の必要性について言及した。(争いがない。)ウ国連の市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)委員会(以下「自由権規約委員会」という。)は、平成10年11月19日付けの「規約 第40条に基づき日本から提出された報告の検討自由権規約委員会の最終見解」と題する文書において、日本政府が「障害を持つ女性の強制不妊の廃止を認識する一方、法律が強制不妊の対象となった人達の補償を受ける権利を規定していないことを遺憾に思い、必要な法的措置がとられること 解」と題する文書において、日本政府が「障害を持つ女性の強制不妊の廃止を認識する一方、法律が強制不妊の対象となった人達の補償を受ける権利を規定していないことを遺憾に思い、必要な法的措置がとられること」を勧告していたが、日本政府は、平成18年12月、「優生保護法に基づき適法 に行われた手術については、過去に遡って補償することは考えていない」との見解を示した。自由権規約委員会は、平成20年10月30日付け文書及び平成26年8月20日付け文書において、日本が同委員会の勧告の多くを履行していないことについて懸念を表明し、勧告を実施すべきである旨の意見を示した。(争いがない。) エ国連の女子差別撤廃委員会は、平成28年3月7日付け文書において、日本政府に対し、日本政府が優生保護法に基づき行った女性の強制的な優生手術という形態の過去の侵害の規模について調査を行った上で、加害者を訴追し、有罪の場合は適切な処罰を行うこと、日本政府が強制的な優生手術を受けた全ての被害者に支援の手を差し伸べ、被害者が法的救済を受け、補償と リハビリテーションの措置の提供を受けられるようにするため、具体的な取 組を行うことを勧告した。(争いがない。)⑺ 仙台地裁への国家賠償訴訟の提起等ア平成30年1月30日、優生保護法に基づき不妊手術を強制されたとする者が、国に対し、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求める訴訟を仙台地裁に提起した。(争いがない。) イ厚生労働省は、平成30年4月25日よりも前の時期においては、優生保護法に基づく優生手術に係る実態調査をせず、優生手術を受けた者等への救済制度の導入の検討をしていなかった。(争いがない。)⑻ 本件訴訟の提起第1事件原告は、平成30年6月28日、第1事件に係る訴えを、第 優生手術に係る実態調査をせず、優生手術を受けた者等への救済制度の導入の検討をしていなかった。(争いがない。)⑻ 本件訴訟の提起第1事件原告は、平成30年6月28日、第1事件に係る訴えを、第2事件 原告は、平成31年1月29日、第2事件に係る訴えを、当裁判所にそれぞれ提起した。(当裁判所に顕著な事実)⑼ 一時金支給法の制定等ア平成31年4月24日、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(平成31年法律第14号)(以下「一 時金支給法」という。)が議員立法で制定された。(争いがない。)イ一時金支給法は優生保護法が存在した間(昭和23年9月11日から平成8年9月25日まで)に優生手術を受けた者に対し医師の認定によるもの(任意)・都道府県優生保護審査会の審査を要件とするもの(強制)の別なく一時金320万円(一律)を支給するものであり、その前文には、「旧優生保 護法に基づき、あるいは旧優生保護法の存在を背景として、多くの方々が、特定の疾病や障害を有すること等を理由に、平成8年に旧優生保護法に定められていた優生手術に関する規定が削除されるまでの間において生殖を不能にする手術又は放射線の照射を受けることを強いられ、心身に多大な苦痛を受けてきた。このことに対して、我々は、それぞれの立場において、真摯 に反省し、心から深くおわびする。今後、これらの方々の名誉と尊厳が重ん ぜられるとともに、このような事態を二度と繰り返すことのないよう、全ての国民が疾病や障害の有無によって分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けて、努力を尽くす決意を新たにするものである。ここに、国がこの問題に誠実に対応していく立場にあることを深く自覚し って分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けて、努力を尽くす決意を新たにするものである。ここに、国がこの問題に誠実に対応していく立場にあることを深く自覚し、この法律を制定する。」と述べられている。(当裁判 所に顕著な事実)⑽ 優生手術に関する資料の保管状況等ア平成30年3月22日、優生保護法4条又は12条に基づく優生手術を受けたとされる1万6475人のうち、資料が残るのは約2割にとどまるとの新聞報道がされた。(争いがない。) イ平成30年3月、新聞社が行った各都道府県へのアンケート及び聞き取り調査において、手術申請書、手術の適否決定通知書等の資料が確認されたのは26都道府県の計3885人分にとどまり、熊本県は現存しないと回答した。(甲A54)ウ都道府県等における旧優生保護法関係資料等の保管状況調査結果(平成3 0年9月6日公表)によれば、①優生保護法4条又は12条に基づく優生出術の申請数は6069件(内訳:4条3459件、12条759件、不明1851件)、②審査の結果優生手術が「適」とされた件数は5678件(内訳:4条3262件、12条700件、不明1716件)、③実際に手術を行った件数は6724件(内訳:3条1693件、4条2965件、12条6 13件、4条又は12条1393件、条不明60件)であり、そのうち手術が実施された個人が特定できる件数は3079人であった。(当裁判所に顕著な事実〔厚生労働省ホームページ参照〕) 4 争点⑴ 優生条項の違憲性 ⑵ 原告らに優生手術が実施されたか ⑶ 原告らの損害額⑷ 除斥期間(民法724条後段)の成否⑸ 国会議員の立法不作為の違法性⑹ 厚生労働大臣(中央省庁再編前の厚生大臣を ⑵ 原告らに優生手術が実施されたか ⑶ 原告らの損害額⑷ 除斥期間(民法724条後段)の成否⑸ 国会議員の立法不作為の違法性⑹ 厚生労働大臣(中央省庁再編前の厚生大臣を含む。以下同じ。)の不作為の違法性 5 争点に関する当事者の主張⑴ 争点⑴(優生条項の違憲性)について(原告らの主張)ア憲法13条(個人の尊重、生命・自由・幸福追求の権利の尊重)違反優生条項は、人間を優等なる者と劣等なる者に分け、後者の人格的価値を 否定するものであり、憲法13条の保障する個人の尊重、生命・自由・幸福追求の権利及び同条に内包される自己決定権としてのリプロダクティブ・ライツの権利を侵害していた。 イ憲法14条1項(法の下の平等)違反優生条項は、合理的な理由なく遺伝性疾患、精神障害、知的障害、ハンセ ン病等の障害のある人を差別するものであり、憲法14条1項に違反していた。 ウ憲法24条(家族生活における個人の尊厳と両性の平等)違反優生条項は、婚姻の大きな障壁となる生殖能力がない状況を国家が作出し、憲法24条の保障する婚姻の自由及び家族形成権を侵害していた。 エ憲法36条(拷問及び残虐な刑罰の禁止)違反優生条項は、遺伝性疾患、精神障害、知的障害、ハンセン病等の障害があることを理由に、刑罰でも許されない障害者の体の一部を奪い取る手術を許容するものであり、憲法36条に違反していた。 (被告の主張) 優生条項の憲法適合性について被告が主張・立証する必要はない。 ⑵ 争点⑵(原告らに優生手術が実施されたか)について(原告らの主張)ア第1事件原告について第1事件原告は、変形性関節症を患い、小中学校の体育の授業や運動会に参加できず見学していたが、昭和 争点⑵(原告らに優生手術が実施されたか)について(原告らの主張)ア第1事件原告について第1事件原告は、変形性関節症を患い、小中学校の体育の授業や運動会に参加できず見学していたが、昭和30年頃(10~11歳頃)、血尿が出 たことをきっかけに、A県B村の病院で自らの同意なく両側精巣摘出術を受けさせられた。第1事件原告は、中学生の頃、母親から優生手術により両方の睾丸を摘出されたことを打ち明けられてショックを受けた。第1事件原告の両側陰茎根部には40~47㎜の切創痕があり、第1事件原告が両側精巣摘出術により生殖機能を失ったことは明らかである。 第1事件原告が上記手術を受けて退院した後に、村役場の職員が手土産を持って第1事件原告の自宅を訪ねてきたのは、同手術に優生政策に基づく補助金が支給された可能性を示すものである。 被告は、両側精巣摘出術が精巣腫瘍や精索捻転に対する外科的手術として行われた可能性がある旨指摘するが、第1事件原告にはそれらの疾患に 係る既往歴はない。低年齢における上記各疾患の発生頻度は非常に低いし、それにより両方の睾丸を摘出することは更に稀である。 イ第2事件原告について第2事件原告は、昭和46年頃(▲歳頃)、熊本市内の産婦人科病院で、第二子の人工妊娠中絶とともに不妊手術の一方法である卵管結紮術(優生 保護法3条1項2号に基づく卵管結紮術及び同法14条1項2号に基づく人工妊娠中絶)を受けた。第2事件原告の下腹部には、臍下端から3. 5cmの部位より下方の腹部正中に約9cmの創があることに加え、第2事件原告に子宮や卵巣の摘出手術が行われた可能性はないことからすると、昭和46年頃に第2事件原告の受けた手術は卵管結紮術であると認め られる。 昭和46年頃には胎児 加え、第2事件原告に子宮や卵巣の摘出手術が行われた可能性はないことからすると、昭和46年頃に第2事件原告の受けた手術は卵管結紮術であると認め られる。 昭和46年頃には胎児の障害の有無を正確に診断する方法はなかった一方、不幸な子の産まれない運動は最盛期であり、本人やその家族・親族に障害がある場合には障害のある子が生まれないように優生手術が推進されていた。そのような中で、第2事件原告の長女の顔つきや発達の程度がダウン症の子供の特徴と一致していたことから、第2事件原告は、第二 子に長女と同様の遺伝性の障害が生ずる可能性があるとして医師から卵管結紮術を勧められたものと考えられる。 被告は、第2事件原告が子宮及び卵巣に係る疾患やイレウス等に対する治療のための外科的手術を受けた可能性があるなどと主張するが、第2事件原告にはそれらの疾患等の既往歴はない。 (被告の主張)ア原告らに優生手術が実施されたとの主張については不知イ第1事件原告について、低年齢であっても精巣腫瘍を発症することはあるし、精索捻転の好発時期は思春期にもあるから、第1事件原告の両側精巣摘出術が上記各疾患の治療のために実施された可能性を否定できない。また、 第1事件原告の既往歴は変形性股関節症以外に明らかでなく、手術の内容に係る医師の説明があったか否かも不明であり、第1事件原告に優生手術が実施された事実が高度の蓋然性をもって立証されたということはできない。 ウ第2事件原告について、下腹部の手術痕は、子宮及び卵巣に係る疾患やイレウス等に対する治療のために実施された外科的手術によるものである可 能性を否定できず、第2事件原告に優生手術が実施された事実が高度の蓋然性をもって立証されたということはできない。また、仮に、第2事 等に対する治療のために実施された外科的手術によるものである可 能性を否定できず、第2事件原告に優生手術が実施された事実が高度の蓋然性をもって立証されたということはできない。また、仮に、第2事件原告が人工妊娠中絶を受けていたとしても、第2事件原告の当時の生活状況を踏まえると、それは、優生保護法14条1項4号(妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのある場合)に基づ くものであった可能性を否定することはできないし、第2事件原告の長女が ダウン症であったことを示す客観的な証拠はないから、同項2号(近親遺伝)に基づく人工妊娠中絶であったか否かは慎重に判断されるべきである。 ⑶ 争点⑶(原告らの損害額)について(原告らの主張)ア第1事件原告の損害額 第1事件原告は、昭和30年頃に自らの同意なく両側精巣摘出術を受けさせられ、中学生の頃に初めて自分が生殖機能を失っていることを知りショックを受け、母と不仲となった上、生殖機能がないために2度にわたり当時交際していた女性との結婚を諦めるなどして絶望し、自殺未遂まで行った。第1事件原告は、両側の精巣を失いホルモンバランスが崩れた結果、性器は未 発達で陰毛等もほとんど生えない一方、胸が膨らんだため、何度も公衆の面前で羞恥を強いられたり、骨粗鬆症のため何度も人工関節を入れる手術を受けるなどの苦しみを強いられた。このような肉体的・精神的苦痛に対する慰謝料は3000万円が相当であり、弁護士費用はその1割である300万円とするのが相当である。 イ第2事件原告の損害額第2事件原告は、昭和46年頃に長女のダウン症を理由に第二子の人工妊娠中絶とともに卵管結紮術を受けさせられて妊娠できない身体となり子供を持つ機会を奪われ、再 。 イ第2事件原告の損害額第2事件原告は、昭和46年頃に長女のダウン症を理由に第二子の人工妊娠中絶とともに卵管結紮術を受けさせられて妊娠できない身体となり子供を持つ機会を奪われ、再婚して家族を作る機会も失った。第2事件原告は、年を経るほどになぜ医師から卵管結紮術を勧められたのかという疑問と、そ のとき医師に適切な説明を求めなかったことへの後悔が大きくなり、卵管結紮術がなければ歩むことができたはずの別の人生を思い、悩み続けてきた。 このような精神的苦痛に対する慰謝料は3000万円が相当であり、弁護士費用はその1割である300万円とするのが相当である。 (被告の主張) 原告らの主張については不知ないし争う。 ⑷ 争点⑷(除斥期間〔民法724条後段〕の成否)について(被告の主張)ア仮に原告らの被告に対する損害賠償請求権が認められるとしても、その請求権は原告らへの優生手術の実施時(遅くとも優生保護法の平成8年改正時)から20年の除斥期間により消滅している。 イ最高裁判所平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2209頁(以下「最高裁平成元年判決」という。)は、民法724条後段の規定について除斥期間を定めたものと解した上で、除斥期間の経過により損害賠償請求権は消滅しており、このことについて加害者の援用を要しないから、加害者の除斥期間の主張が信義則違反、権利濫用である旨を被害者が主張す ることは失当であるとしている。また、最高裁判所平成10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1087頁(以下「最高裁平成10年判決」という。)及び最高裁判所平成21年4月28日第三小法廷判決・民集63巻4号853頁(以下「最高裁平成21年判決」という。)によれば、除斥期間が経過して 4号1087頁(以下「最高裁平成10年判決」という。)及び最高裁判所平成21年4月28日第三小法廷判決・民集63巻4号853頁(以下「最高裁平成21年判決」という。)によれば、除斥期間が経過しても民法724条後段の効果が生じない特段の事情が認めら れる場合とは、①時効の停止のような除斥期間の経過による効果を制限する根拠となる明文の規定と当該規定により法定された客観的な事由に相当する事由があり、かつ、②上記①の事由が債務者の不法行為に起因するため、除斥期間の経過による効果を債権者に甘受させることが著しく正義・公平の理念に反するといった極めて例外的な場合に限られる。本件において、上記 ①の事由は存在せず、仮に、同事由が存在したとしても、上記②の場合に該当しない。 ウ原告らの主張に対する反論原告らは民法724条後段の規定は消滅時効と解釈すべきと主張するが、当該規定が除斥期間を定めたものであることは最高裁平成元年判決以 降確立した判例理論となっており、原告らの上記主張は失当である。 原告らは、優生条項により生じた損害が現在も継続して発生していることや、本件訴訟の提起に至るまで原告らに優生保護法に係る損害賠償請求訴訟の提訴可能性がなかったことから除斥期間は始まっていない旨主張するが、被害者の権利行使の可能性の観点や主観的な事情を民法724条後段の「不法行為の時」の解釈において考慮すべきではなく、原告らに生 じた権利侵害及び損害は優生手術の実施時に発生しているというべきであり、客観的な除斥期間の起算点を遅らせることはできない。 原告らは、本件について原告らの被った損害の重大性、被告の帰責性、国連の勧告等を理由に最高裁平成10年判決及び最高裁平成21年判決の除斥期間が経過しても民法724条後段の効 せることはできない。 原告らは、本件について原告らの被った損害の重大性、被告の帰責性、国連の勧告等を理由に最高裁平成10年判決及び最高裁平成21年判決の除斥期間が経過しても民法724条後段の効果が生じない特段の事情 が認められる場合に該当すると主張するが、民法724条後段において不法行為の内容、法益侵害の大小等の事情は除斥期間の成否を左右する事由とされていない。また、被告が優生手術に係る国家賠償請求訴訟を提起することができない状況を意図的・積極的に作出したことはないし、平成8年改正の後は優生手術の対象であった障害者等に対する差別等を解消す るための様々な取組みを行ってきたものであり、被告に帰責性は認められない。さらに、国連は、時効不適用の国際慣習法が確立していないことを前提として、原告らの指摘する規定の前提として「適用可能な条約において規定されている場合、あるいは、他の国際的な法的義務に含まれている場合」との限定文言を入れて上記規定を採択しているにすぎず、その後も 時効不適用条約の締約国は少数にとどまっているし、国連総会の決議は、加盟国に対する法的拘束力を有しない。したがって、本件に上記特段の事情は認められない。 原告らは、国家賠償法4条、民法724条後段の適用により除斥期間20年で損害賠償請求権が消滅するのは憲法17条の適用違憲であると主 張するが、国家賠償法4条、民法724条後段はいずれも憲法17条に違 反せず、合憲性を有する。 (原告らの主張)アそもそも消滅時効制度自体が、一定の時の経過による法律関係の確定を目的としているのであり、最高裁平成10年判決の河合裁判官の反対意見も考慮すれば民法724条後段所定の20年の期間は除斥期間ではなく消滅時 効として定められたものと解する による法律関係の確定を目的としているのであり、最高裁平成10年判決の河合裁判官の反対意見も考慮すれば民法724条後段所定の20年の期間は除斥期間ではなく消滅時 効として定められたものと解するのが相当である。 イ原告らは、優生条項に基づく優生手術により、生殖機能の喪失という身体的損害及びそれに伴う精神的損害を被り、個人の根本的な人格的価値を否定され、差別され、婚姻に大きな障壁を負わされ続けているのであって、原告らの損害は現在も継続している。また、除斥期間の起算点について判示した 最高裁判所平成16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁、最高裁判所平成18年6月16日第二小法廷判決・民集60巻5号1997頁を前提とすると、法律の素人である原告らが優生手術を受けた時から20年を経過する前に優生条項の違憲性を主張して国家賠償請求訴訟を提起することは極めて困難であったのであるから、原告らの被告に対する損害 賠償請求権に係る除斥期間の進行は始まっていないというべきである。 ウ本件は、最高裁平成10年判決及び最高裁平成21年判決の除斥期間が経過しても民法724条後段の効果が生じない特段の事情が認められる場合に該当する。その理由は以下のとおりである。 原告らは、優生条項に基づく手術により、憲法で保障されている権利を 侵害されており、その権利侵害の程度は甚大である。 被告は、優生条項を含む優生保護法を制定して、優生手術を積極的に推進し、優生思想を蔓延させた上にそれを払拭するための政策を推進することはなかったものであり、原告らによる国家賠償請求訴訟の提起を遅らせる状況を作出したことについて帰責性がある。除斥期間の経過による原告 らの被告に対する損害賠償請求権の消滅という恩恵を受けるのは、同条を であり、原告らによる国家賠償請求訴訟の提起を遅らせる状況を作出したことについて帰責性がある。除斥期間の経過による原告 らの被告に対する損害賠償請求権の消滅という恩恵を受けるのは、同条を 創設した一方、極めて悪質性の高い違法行為をした被告自身である。 強制不妊手術(優生手術)は国際人権条約において禁止されており、拷問禁止条約、基本原則及びガイドラインに基づく国際慣習法によれば、その被害に対する補償ないし損害賠償請求権に消滅時効を適用してはならないとされている。 これまで実施された優生手術は2万5000件にも及び、その被害者は全国各地に存在するが、仮に優生手術を理由とする損害賠償請求権に除斥期間が適用された場合には被害者の約98%の被害回復がされないこととなる。 エ優生手術の実施について損害賠償請求をした場合に、国家賠償法4条の適 用により除斥期間20年で原告らの損害賠償請求権が消滅することを認めるのは憲法17条の規定を違憲的に適用することになり、適用違憲である。 ⑸ 争点⑸(国会議員の立法不作為の違法性)について(原告らの主張)ア優生条項が憲法の国民に保障した権利を侵害することは明白であり、国会 議員には、昭和23年の優生保護法制定後速やかに同法を改正する等の措置を採るべきであったにもかかわらず、平成8年まで当該措置を採らなかったことについて違法性が認められる。 イ上記立法不作為は優生保護法による被害者の憲法17条の保障する国家賠償請求権に基づく損害賠償以外の被害回復措置を求める権利及びその行 使の機会を奪うものである。 (被告の主張)ア優生保護法の制定や優生手術を受けた者への補償等に係る立法措置を講じるか否かは立法府の広範な裁量に委ねられているところ、被告が平成8年 の行 使の機会を奪うものである。 (被告の主張)ア優生保護法の制定や優生手術を受けた者への補償等に係る立法措置を講じるか否かは立法府の広範な裁量に委ねられているところ、被告が平成8年まで優生保護法を改正することが必要不可欠かつ明白であったとはいえな いから、立法不作為の違法性は認められない。 イ憲法17条が損害賠償以外の被害回復措置を求める権利を保障しているとはいえないから、被告が優生手術を受けた者に対して被害回復立法をしなかったという立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法であるとする原告らの主張には理由がない。 ⑹ 争点⑹(厚生労働大臣の不作為の違法性)について (原告らの主張)厚生労働大臣は、優生保護法の平成8年改正時(遅くとも厚生労働大臣が国会で前記第2の3⑹イの答弁をした平成16年から3年を経過した平成19年時)には、優生手術の被害者が国家賠償請求権その他の被害回復措置を求める権利を行使する機会を確保するための法案を提出し、公の謝罪や優生手術に 関する調査、記録の保存指示等の施策等を実施する義務があったにもかかわらず、これらの義務を履行しなかったものであり、国家賠償法上の違法性が認められる。 (被告の主張)前記⑸(被告の主張)記載のとおり、国会議員に優生保護法に係る立法不作 為の違法性が認められない以上、国会への法律案の提出権を有するにすぎない厚生労働大臣が同様の立法措置を採らなかったことに係る違法性も認められない。また、昭和22年以降は国家賠償法が存在しているのであるから、厚生労働大臣が原告らの主張するような内容の被害回復立法に係る法案の提出を行い、その施策を講じる法律上の職務義務を負っていたということは困難であ る。 第3 当裁判所の判断 るから、厚生労働大臣が原告らの主張するような内容の被害回復立法に係る法案の提出を行い、その施策を講じる法律上の職務義務を負っていたということは困難であ る。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(優生条項の違憲性)について⑴ 憲法13条は、すべての国民が個人として尊重され、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、立法その他の国政の上で、最大限の尊重を 必要とすると定めている。 ところが、優生保護法は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止することを目的とし、その目的を達成する手段として、特定の障害又は疾患を有する者に対して身体への強度の侵襲を伴い、同法の用意した生殖機能を不可逆的に奪う不妊手術すなわち優生手術を行うことを許容する優生条項を含むものであった。 上記優生保護法の優生条項の目的は、特定の障害又は疾患を有する者が一律に不良な存在であることを前提とする差別的な思想に基づくものであり(前記第2の3⑵ア)、その目的を達成するために設けられた優生条項に基づく優生手術(同ウ、エ)という手段も、子供をもうけ子孫を残すという生命の根源的な営みを否定する極めて非人道的なものであって、その目的及び手段には、正 当性も合理性もおよそ認められないというほかない。したがって、優生保護法の優生条項が、対象となる特定の障害や疾患を有する国民ないしその近親者に保障されている憲法13条の幸福追求権、自己決定権を侵害するものであったことは明らかであるといえる。 ⑵ 憲法14条1項は、すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性 別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されないと定めているところ、同項後段に列挙された事項は例示的なものであり、この平等の要請は、事 って、人種、信条、性 別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されないと定めているところ、同項後段に列挙された事項は例示的なものであり、この平等の要請は、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨であると解される(最高裁判所昭和39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁)。 そして、優生保護法の優生条項が上記⑴のとおり差別的な思想に基づくものであり、その目的及び手段のいずれも合理性を欠くことからすると、同法の優生条項が、対象となる特定の障害や疾患を有する国民ないしその近親者とその他の国民とで異なる不合理な差別的取扱いを定めるものであって、憲法14条1項の法の下の平等に反することも明らかであるといえる。 ⑶ 以上のとおり、平成8年改正前の優生保護法は、憲法13条及び14条1項 に違反する部分を含む法律であり、優生保護法の優生条項により実際に優生手術を受けさせられた被害者が存在することに照らすと、同法の中に強制的な優生手術の際の都道府県優生保護審査会による事前審査等の手続規定が一応設けられていたこと、同法が制定された昭和20年代初頭が第二次世界大戦後の混乱期であったこと、同法の制定や優生手術の実施に携わった関係者に悪意な いし害意があったとまでは窺われないことなどを踏まえても、被告は、同法の優生条項に基づく優生手術を受けた者に対し国家賠償法1条1項に基づく損害賠償義務を負うというべきである。 ⑷ なお、上記のとおり優生保護法の優生条項の違憲性は明らかである一方、憲法24条及び36条については、憲法13条及び14条1項と比較すると本件 との関連性が高いとはいえないし、違反する憲法の条文の多寡が同法による被 保護法の優生条項の違憲性は明らかである一方、憲法24条及び36条については、憲法13条及び14条1項と比較すると本件 との関連性が高いとはいえないし、違反する憲法の条文の多寡が同法による被害者の損害の多寡に影響するものではないから、憲法24条及び36条違反の有無を判断する必要はないと解される。 ⑸ また、原告らは、①原告らが優生条項に基づく優生手術を受けさせられた不法行為のほか、②国会議員の立法不作為(争点⑸)及び③厚生労働大臣の不作 為(争点⑹)を不法行為の請求原因(①~③は選択的併合)として主張するが、上記のとおり優生保護法の優生条項の違憲性は明らかであり、それに基づき都道府県知事の機関委任事務として管理・執行された優生手術も違法性を有することが認められ、都道府県知事による事務を指揮監督する立場にあった被告は優生手術の被害者に対し国家賠償法上の損害賠償責任を負うことになる。そし て、仮に争点⑸及び争点⑹において原告らの主張する不法行為が認められたとしても、直接的に原告らの身体ないし自己決定権が侵害されたとまでは認められず、それらによる原告らの損害額は、優生条項に基づく優生手術の実施そのものによる被害者の損害額を上回ることはないと考えられるから、争点⑸及び争点⑹について判断する必要はないと解される。 2 争点⑵(原告らに優生手術が実施されたか)について ⑴ 第1事件原告についてア第1事件原告の両側陰嚢根部には右47㎜、左40㎜の切創痕があり、精巣が両側ともに触知不能となっていること(前記第2の3⑴ア)からすると、第1事件原告が以前の外科手術により両側の睾丸を摘除されたことは明らかであるといえる。 イその上で、第1事件原告は、4~5歳の頃に変形性関節症のために足が不自由になり ⑴ア)からすると、第1事件原告が以前の外科手術により両側の睾丸を摘除されたことは明らかであるといえる。 イその上で、第1事件原告は、4~5歳の頃に変形性関節症のために足が不自由になり小学校入学後体育の授業や運動会はいつも見学であった、10~11歳頃(昭和30年頃)に血尿が出た際、母に連れられてA県B村にあったC病院に入院して睾丸摘出手術を受け、その後役場の福祉の人が見舞いに来た、14~15歳の頃に、友人らと比較して自分の性器が未発達であるこ とを疑問に思い母に尋ねたところ、母から小さいときに両方の睾丸を摘出したからと答えられた旨の陳述(甲B1)・供述(第1事件原告本人)をしているところ、その内容は具体的かつ自身の障害が明らかであることもあって臨場感を有するものであり、第1事件原告が昭和▲年に変形性関節症を理由に身体障害者手帳の交付を受けていること(前記第2の3⑴ア)、出生後7 8歳の現在に至るまで婚姻歴がないこと(同)とも整合するから、相応の合理性、信用性(確実性)があるというべきである。そして、優生条項の実施に係る厚生省の通知(別紙「関係法令の定め等」6⑴)が未成年者に対しては優生保護法3条に基づく優生手術を禁止していたことからすると、昭和30年頃当時未成年者であった第1事件原告に当該手術がされたとは考え 難いことに加え、熊本県における優生保護法4条に基づく優生手術の件数は昭和29年には0件であったが、昭和30年に31件、昭和31年に30件と比較的多数であったこと(前記第2の3⑷イ)を併せ考慮すると、第1事件原告は、幼少期に発症した変形性関節症により外形的な異常が顕著に見られたことから、昭和30年頃に母親等の意向で優生保護法4条に基づく優 生手術である両側精巣摘出術を受けさせられたことが 事件原告は、幼少期に発症した変形性関節症により外形的な異常が顕著に見られたことから、昭和30年頃に母親等の意向で優生保護法4条に基づく優 生手術である両側精巣摘出術を受けさせられたことが推認される。 ウなお、両側精巣摘出術は、優生保護法施行規則1条各号の規定する優生手術の術式に含まれていないが、昭和30年頃当時の優生手術は、必ずしも優生保護法施行規則が規定する術式どおり行われていなかったことが窺われる(被告も両側精巣摘出術が上記術式に含まれていないことを理由に優生手術に当たらないとする旨の主張をしていない。)から、術式の点から上記判 断が覆されるものではない。 エ被告の主張について被告は、第1事件原告の両側精巣摘出術は精巣腫瘍や精索捻転等の治療のために行われた可能性があり、その場合には優生手術に該当しない旨主張する。しかし、第1事件原告について昭和30年頃に精巣腫瘍や精索捻転等の 疾病があったことを認めるに足りる証拠はない。また、低年齢であっても精巣腫瘍が発生することがあり、精索捻転の好発時期は思春期にもあるとする文献(乙B1)は存在するものの、精索捻転の発生頻度は男性10万人に0. 56人であるとする文献(甲B7)や、精索捻転の両側発症は稀であるとする文献(甲B8)もあることが認められる。よって、被告の上記主張を採用 することはできない。 ⑵ 第2事件原告についてア第2事件原告の下腹部正中には恥骨結合上端より2㎝の部位から頭側に9㎝にわたる縫合創(臍下端から3.5㎝の部位より下方、腹部正中に約9㎝の創)があること(前記第2の3⑴イ)からすると、第2事件原告が以 前の外科手術により下腹部の開腹術を受けたことが認められる。そして、第2事件原告に子宮や卵巣の摘出手術が行われた形 に約9㎝の創)があること(前記第2の3⑴イ)からすると、第2事件原告が以 前の外科手術により下腹部の開腹術を受けたことが認められる。そして、第2事件原告に子宮や卵巣の摘出手術が行われた形跡は見当たらないほか、人工妊娠中絶は通常開腹術を伴わずに行われることからすれば、上記外科手術が人工妊娠中絶と同時期に実施された卵管結紮術である可能性は存在するということができる。 イその上で、第2事件原告は、元夫との間に生まれた長女が3歳を過ぎても 「あー」とか「うー」としか話せず、ダウン症の子とよく似た顔をしていた、第2事件原告が第二子を妊娠した▲歳頃(昭和46年頃)に、長女を連れて行った病院で医師から長女の発達の遅れと第二子が障害をもって生まれる可能性を指摘され、人工妊娠中絶をするとともに、同じ医師から「簡単だからすぐ済みます。卵管を結ぶだけだから」と不妊のための手術を勧められて 同手術を受けた、その後第2事件原告の長女が▲歳▲か月位で死亡し、昭和▲年▲月▲日に元夫と離婚したと陳述(甲C6、11)・供述(第2事件原告本人)しているところ、その内容は具体的かつ臨場感を有するものであり、第2事件原告が昭和▲年▲月▲日に元夫と婚姻をし、昭和▲年▲月▲日に長女をもうけたが長女は昭和▲年▲月▲日に死亡し、元夫と昭和▲年▲月▲日 に離婚したこと(前記第2の3⑴イ)や、第2事件原告の妹の陳述(甲C4)、ダウン症の子らの外見的な特徴(甲C7~8)、第2事件原告と原告ら訴訟代理人らとの打合せの経緯・内容(甲C9~10)とも整合するから、第2事件原告自身に特段の障害がないこと(前記第2の3⑴イ)や第2事件原告の母子手帳等の資料が不存在であることからいささか裏付けに乏し い面があることを踏まえても、一応の合理性、信用 から、第2事件原告自身に特段の障害がないこと(前記第2の3⑴イ)や第2事件原告の母子手帳等の資料が不存在であることからいささか裏付けに乏し い面があることを踏まえても、一応の合理性、信用性(確実性)を有するというべきである。そして、優生保護法3条1項2号(近親遺伝)に基づく優生手術の実施数(全国)は、昭和46年17件、昭和47年19件、昭和48年13件である(前記第2の3⑷ア)一方、優生手術については記録の不備があり(同⑽)、医師による認定を経るとはいえ任意で受けられる優生 保護法3条の優生手術については暗数もあり得ること、第2事件原告について優生保護法3条1項1号(当事者遺伝)、同項3号(らい病)、同項4号及び5号(母体の生命健康保護)に該当する事情が存在したことを認めるに足りる証拠はないこと、優生保護法14条1項2号に基づく人工妊娠中絶の実施数(全国)は、昭和46年636件、昭和47年378件、昭和48年3 55件であること(前記第2の3⑷ウ)を併せ考慮すると、第2事件原告 は長女がダウン症に類似した障害を有し、医師から第二子も同様の障害を持って生まれてくる可能性があると指摘されたことから、昭和46年頃に自らの意向で優生保護法14条1項2号に基づく人工妊娠中絶とともに同法3条1項2号に基づく優生手術(優生保護法施行規則1条3号の卵管結紮術)を受けたことが推認される。 ウ被告の主張について被告は、第2事件原告の下腹部の手術痕は、子宮及び卵巣に係る疾患やイレウス等に対する治療のために実施された外科的手術による可能性を否定できない旨主張し、その旨の文献(乙C1、2)を提出する。しかし、下腹部に約9㎝もの縦創が残る外科的手術が適応とされる子宮及び卵巣 に係る疾患やイレウス等の既往 た外科的手術による可能性を否定できない旨主張し、その旨の文献(乙C1、2)を提出する。しかし、下腹部に約9㎝もの縦創が残る外科的手術が適応とされる子宮及び卵巣 に係る疾患やイレウス等の既往歴が第2事件原告に存在することを認めるに足りる証拠はない。よって、被告の上記主張を採用することはできない。 被告は、仮に第2事件原告が昭和46年頃に人工妊娠中絶を受けていたとしても、第2事件原告の当時の生活状況を踏まえると、第2事件原告の 人工妊娠中絶は、優生保護法14条1項4号(妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのある場合)に基づくものであった可能性を否定することはできない旨主張する。しかし、第2事件原告が昭和46年頃当時に元夫と離婚して長女と第二子を女手一人で育てる自信及びその裏付けとなる収入を有していなかったとして も、そのような経済的理由だけであれば第二子の人工妊娠中絶のみを行えば足り、その後の妊娠が非常に困難な状況をもたらす卵管結紮術まで受ける必要はなかったのであるから、第2事件原告の人工妊娠中絶は第二子がダウン症等の障害をもって生まれる可能性を危惧したためであると考えられる。よって、被告の上記主張を採用することはできない。 3 争点⑶(原告らの損害額)について ⑴ 第1事件原告についてア慰謝料 1400万円(請求額 3000万円)証拠(甲B1、第1事件原告本人)によれば、第1事件原告は、成長期前である10~11歳頃に母親が医師と相談して受けさせられた優生保護法4条に基づく優生手術で生殖機能を喪失したことにより、生涯母親との愛 憎・葛藤を抱えることとなった上、2度にわたり愛する女性との結婚を諦め(なお、同法26条が優生手術を受けた者が結婚す 生保護法4条に基づく優生手術で生殖機能を喪失したことにより、生涯母親との愛 憎・葛藤を抱えることとなった上、2度にわたり愛する女性との結婚を諦め(なお、同法26条が優生手術を受けた者が結婚する際の相手方への通知義務を定めていたことは、優生手術を受けた者の結婚を困難にさせる一要因となっていたと考えられる。)、自らの体にコンプレックスを抱き続けて社会生活を送ることを余儀なくされるなど、身体的・精神的に著しい苦痛を被った ことが認められ、その他本件に現れた一切の事情を斟酌すると、第1事件原告の慰謝料は1400万円とするのが相当である。 イ弁護士費用 100万円(請求額 300万円)本件の諸事情を考慮すると、相当因果関係のある第1事件原告の弁護士費用は100万円と認められる。 ウ上記アとイの合計 1500万円(請求額合計3300万円)⑵ 第2事件原告についてア慰謝料 650万円(請求額 3000万円)証拠(甲C6、11、第2事件原告本人)によれば、第2事件原告は、▲歳頃に受けた優生保護法3条1項2号に基づく優生手術で生殖機能を喪失 し、その後出産を諦めた第二子等を想い長年にわたり悔悟の念を抱き続けるなどその精神的苦痛は多大なものである一方、優生手術を受けたのは成人後であり自らの意思で優生手術を受けたことが認められ、その他本件に現れた一切の事情を斟酌すると、第2事件原告の慰謝料は650万円とするのが相当である(上記慰謝料額の算定に際しては、第2事件原告は当時既に成人し、 婚姻生活も営んでいたのであり、第1事件原告のように幼い時期に親の意向 で優生手術を受けさせられた者とは前提が大きく異なることから、当時第2事件原告が置かれていた状況下において優生手術を受けないこととする決断が容易 、第1事件原告のように幼い時期に親の意向 で優生手術を受けさせられた者とは前提が大きく異なることから、当時第2事件原告が置かれていた状況下において優生手術を受けないこととする決断が容易ではなかった可能性があることを踏まえても、両者の損害額には相応の差異を設ける必要があるといわざるを得ないことを考慮した。)。 イ弁護士費用 50万円(請求額 300万円) 本件の諸事情を考慮すると、相当因果関係のある第2事件原告の弁護士費用は50万円と認めるのが相当である。 ウ上記アとイの合計 700万円(請求額合計3300万円) 4 争点⑷(除斥期間〔民法724条後段〕の成否)について⑴ 民法724条後段は、不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期 間を定めたものと解するのが相当である。けだし、同条前段の3年の時効は損害及び加害者の認識という被害者側の主観的な主張によってその完成が左右されるが、同条後段の20年の期間は被害者側の認識の如何を問わず一定の時の経過によって法律関係を画定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたものと解するのが相当であるからである(最高裁平成元年判決参 照)。もっとも、上記20年の除斥期間に例外が全く認められないわけではなく、除斥期間の規定の適用によりもたらされる結果が著しく正義・公平の理念に反するなどの特段の事情が認められる場合には、その事案の性質・内容に応じて当該規定の適用の制限を検討することができるものと解される(最高裁平成10年判決、最高裁平成21年判決参照)。 ⑵ そこで、まず、本件における除斥期間の起算点等について検討するに、第1事件原告は昭和30年頃に優生保護法4条に基づく両側精巣摘出術(優生手術)を受けたこと(前記2⑴イ)により、第2事件原告は昭和46年 こで、まず、本件における除斥期間の起算点等について検討するに、第1事件原告は昭和30年頃に優生保護法4条に基づく両側精巣摘出術(優生手術)を受けたこと(前記2⑴イ)により、第2事件原告は昭和46年頃に同法3条1項2号に基づく卵管結紮術(優生手術)を受けたこと(同⑵イ)により、それぞれその自己決定権等の権利を侵害されて損害を被ったものであ るから、原告らの被告に対する損害賠償請求権の除斥期間の起算点は、第1 事件原告については昭和30年頃、第2事件原告については昭和46年頃とすべきであり、前者については昭和50年頃の経過、後者については平成3年頃の経過をもっていずれも20年の除斥期間が経過したというべきである。 ⑶ 次に、本件について上記⑴の特段の事情が認められるか否かを検討する。 ア被害の甚大性本件は、被告が、人間の尊厳を侵害する明らかに違憲な優生条項を含む優生保護法を制定し、全国的かつ組織的に優生手術が実施される状況を作出し、特定の障害や疾病のある者やその近親者等の生殖機能を奪うという極めて強度・強烈な人権侵害を行った事案であり、不良な子孫を残すこと を許されない存在として差別され、生殖器への侵襲を伴う優生手術を受けさせられた原告らの被った身体的・精神的損害(前記2、3)は甚大であるといえる。昭和24年から平成8年までに実施された優生条項に基づく優生手術の件数の合計は約2万5000件にも及んでおり、優生保護法3条1項1号及び2号に基づく優生手術は平成8年まで少数ながら実施さ れていたし、同法4条に基づく優生手術は平成元年まで、同法12条に基づく手術は平成4年まで行われていた(前記第2の3⑷ア、イ)のであって、このような大規模かつ長期にわたる憲法違反の人権侵害よりも法的安定性(法律関係の速 基づく優生手術は平成元年まで、同法12条に基づく手術は平成4年まで行われていた(前記第2の3⑷ア、イ)のであって、このような大規模かつ長期にわたる憲法違反の人権侵害よりも法的安定性(法律関係の速やかな確定)を例外なく優先させなければならない理由は見いだし難い。 イ被告の重大な帰責性被告は、優生保護法の制定当初から昭和40年代に至るまで優生手術を積極的に推進する政策を採り、学校教育においても優生思想を助長・促進し、優生手術を受けた者に対する偏見や差別を社会の広範囲に普及・浸透させていた(前記第2の3⑶)ものであり、特に、被告が昭和28年に優 生手術の実施に際して身体の拘束、麻酔薬の施用、欺罔の手段を用いるこ とも許容される場合がある旨の通知を各都道府県知事宛てに発出し(同⑵イ)、当時はおろか平成8年改正まで個人の自由意思に反する優生手術が実施され得る状況を作り出していたことは看過し難い誤りである。また、昭和50年代後半から優生条項についての問題意識が政府内で明確化され、昭和63年頃には優生手術による人権侵害は甚だしい一方、精神障害、 精神薄弱等の遺伝率は極めて低いことを厚生省が認識し、平成元年頃には優生条項の廃止を伴う優生保護法の改正を検討していたこと(同⑸ア~ウ)に照らすと、被告は昭和から平成への改元がされた頃の時期には優生条項の違憲性を認識することが十分可能であったと考えられるのであって、昭和23年の成立から平成8年改正まで約半世紀もの長きにわたり優生保 護法の中に優生条項を存置し、優生手術を受けさせられた被害者への適切な対応や救済措置を採らずに障害者等に対する差別や偏見を正当化・固定化してきた被告については、優生条項に基づく優生手術を受けた者らの訴訟提起ができない状況を被告が意図的・積 させられた被害者への適切な対応や救済措置を採らずに障害者等に対する差別や偏見を正当化・固定化してきた被告については、優生条項に基づく優生手術を受けた者らの訴訟提起ができない状況を被告が意図的・積極的に作出したとまではいえないことを踏まえても、重大な帰責性があるといわざるを得ない。 ウ権利行使の困難性優生保護法の平成8年改正も障害者団体等からの要望を受けて政府提出の閣法ではなく議員立法によりなされたものであり、同改正の時点で被告から優生手術を受けさせられた者に対する謝罪の意思表示はされておらず、平成31年4月24日に一時金支給法が制定されその前文で反省と 謝罪の意を表するまで被告が優生条項及び同条項に基づく優生手術の誤りを正面から認めることはなかった(前記第2の3⑸エ、オ、同⑼)。被告は、平成13年に熊本地裁がらい予防法の違法性を認める判決を出し、「ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給等に関する法律」が制定され、優生手術の対象とされていたハンセン病患者の隔離政策の是正が始ま った後の平成16年に優生手術の対象となった者への被害回復の必要性 に触れたのみで、平成18年12月には自由権規約委員会からの勧告に対し優生手術を受けさせられた者への補償を過去に遡ってすることは考えていないとの見解を示し(同⑹)、平成30年1月に優生手術を強制されたと主張する者から国家賠償を求める訴訟を仙台地裁に提起された後の同年4月25日以前には救済制度の導入の検討はおろか、優生手術につい ての実態調査すらしていなかった(同⑺)のである。このような被告による一連の対応は、前記アの原告らの被害の甚大性と比較して著しく不十分であり、国際的な視点からも妥当とはいい難く、このような状況の下において、優生手術を受けさせら (同⑺)のである。このような被告による一連の対応は、前記アの原告らの被害の甚大性と比較して著しく不十分であり、国際的な視点からも妥当とはいい難く、このような状況の下において、優生手術を受けさせられたことに深い羞恥、後悔や自責の念、周囲の者らへの言いようのない負い目ないし恐れを内心に抱えていた者が、優 生手術を受けさせられたことを社会に公表して被告に対する損害賠償請求権を行使することが長期にわたり事実上不可能であったのは無理からぬことであり、原告らには権利行使が極めて困難な客観的事情があったというべきである。また、現在、優生保護法4条又は12条に基づく優生手術でさえ、その対象者である1万6475人のうち手術時の資料が残って いるのは約2割にとどまっており、熊本県には優生手術に係る資料が現存せず、その後の厚生労働省の調査によっても被害者の全数把握は困難である(前記第2の3⑽)とされるなど、優生手術については保存された資料が乏しく国家という組織体である被告ですら被害の実態解明が容易でない状況に陥っていることに照らすと、このような証拠資料の散逸、消滅を 招いた責任は専ら優生保護法を制定、運用した被告の側にあり、除斥期間の規定を適用する前提の一部を欠くということもできる。 エ憲法の最高法規性憲法は国の最高法規であり(憲法98条1項)、国務大臣、国会議員等の公務員は憲法を尊重し擁護する義務を負う(憲法99条)ところ、国であ る被告が明らかに憲法に違反する法律を制定してそれに基づく政策を推 進し、その結果国民である原告らに重大な損害が生じた以上、憲法17条により国民に保障されている原告らの被告に対する損害賠償請求権の行使を民法724条後段の適用により妨げることは慎重であるべきである(なお、憲法が民法より る原告らに重大な損害が生じた以上、憲法17条により国民に保障されている原告らの被告に対する損害賠償請求権の行使を民法724条後段の適用により妨げることは慎重であるべきである(なお、憲法が民法よりも上位の法規範であることはいうまでもない。)。 オ小括 上記ア(被害の甚大性),イ(被告の重大な帰責性)、ウ(権利行使の困難性)、エ(憲法の最高法規性)の各観点に照らすと、優生条項に基づく優生手術を受けた者に対して除斥期間の規定を適用することについては、明らかな違憲性を有する優生条項を制定、運用した被告と、その優生条項によって優生手術を受けさせられた者との間には民法の信義則(民法1条2 項)、個人の尊厳等を旨とする民法の解釈の基準(民法2条)ないし条理の法意から見逃し難い重大な問題が存在し、少なくとも、平成31年4月24日の一時金支給法成立の前に訴えを提起した本件訴訟の原告ら(前記第2の3⑻)の被告に対する損害賠償請求権について除斥期間の規定を適用し、当該権利を消滅させることについては、いずれも著しく正義・公平の 理念に反するというべき特段の事情があると認められるというべきである(なお、一時金支給法の制定等によって被害者がその損害及び加害者を客観的に認識し得た時から損害賠償請求権は時効中断事由等がない限り原則として民法724条前段の3年の消滅時効にかかるものと解することなどにより、法的安定性は必要な限度で確保されるものと考えられる。)。 ⑷ 原告らの主張についてア原告らは民法724条後段が消滅時効を定めたものであると主張する。 しかし、最高裁平成元年判決以降、民法724条後段の規定が除斥期間を定めたものであることは既に確立した判例法理となっているし、除斥期間と解しても最高裁平成10年判決及び最高裁平成21 と主張する。 しかし、最高裁平成元年判決以降、民法724条後段の規定が除斥期間を定めたものであることは既に確立した判例法理となっているし、除斥期間と解しても最高裁平成10年判決及び最高裁平成21年判決のよう に同規定の解釈により妥当な結論を導くことは可能であるから、平成2 9年法律第44号による改正後の民法が施行された後においても変わりないものと解される(最高裁判所令和3年4月26日第二小法廷判決・民集75巻4号1157頁参照)。よって、原告らの上記主張を採用することはできない。 イ原告らは、最高裁判所平成16年4月27日第三小法廷判決・民集58 巻4号1032頁及び最高裁判所平成18年6月16日第二小法廷判決・民集60巻5号1997頁を引用し、優生保護法により生じた損害が現在も継続して発生していることや、本件訴訟の提起に至るまで原告らに優生保護法に係る損害賠償請求訴訟の提訴可能性がなかったことから除斥期間は始まっていない旨主張する。 しかし、上記各最高裁判決は、蓄積進行性又は遅発性の健康被害に見られるように加害行為が終了してから相当期間が経過した後に損害が発生するという事態が、当該不法行為により発生する損害の性質から客観的に認められる場合に限り、損害発生時が例外的に除斥期間の起算点となることを認めたものにすぎず、権利行使の可能性のみの観点から民法724条 後段の「不法行為の時」を解釈する余地を認めたものではない。かえって、民法724条後段は文言上明確に「不法行為の時」を起算点としていることからすれば、加害行為が行われた時点で損害が発生する不法行為の場合には、「不法行為の時」は加害行為の時をいうと解するのが相当であり、損害が継続して発生していることによって起算点が遅れるものではないし、 ば、加害行為が行われた時点で損害が発生する不法行為の場合には、「不法行為の時」は加害行為の時をいうと解するのが相当であり、損害が継続して発生していることによって起算点が遅れるものではないし、 提訴可能性により左右されるものでないと解される。よって、原告らの上記主張を採用することはできない。 ⑸ 被告の主張について被告は、最高裁平成元年判決、最高裁平成10年判決及び最高裁平成21年判決を引用し、本件については、①除斥期間の経過による効果を制限する 根拠となる明文の規定及び②除斥期間の経過による効果を債権者に甘受さ せることが著しく正義・公平の理念に反することが認められないことから、除斥期間の適用は排除されない旨主張する。 しかし、最高裁平成元年判決は、加害者による援用なくして除斥期間の経過により損害賠償請求権が消滅することから被害者からの信義則違反や権利濫用の主張を失当としたものと解されるのであって、事案の性質・内容に 応じてその例外があり得ることは最高裁平成10年判決及び最高裁平成21年判決において既に示されているし、両判決は、上記①と②を除斥期間の適用を制限する場合の要件として明示したものではなく、それぞれの事案の性質・内容に応じて除斥期間の適用を制限する法的構成を示したものにすぎないと考えられる。そして、本件においては最高裁平成10年判決及び最高 裁平成21年判決がその法意を参照した民法158条1項や同法160条のような時効期間の経過による効果を制限する根拠となる明文の規定は見当たらないものの、両判決の求める法意とは重大な被害を受けた者の権利行使が困難であり、その原因を作出した加害者の帰責性が重大である場合に加害者が責任を全部免れることは著しく正義・公平に反するというものである と解 決の求める法意とは重大な被害を受けた者の権利行使が困難であり、その原因を作出した加害者の帰責性が重大である場合に加害者が責任を全部免れることは著しく正義・公平に反するというものである と解される(その法意を裏付ける規定等として民法1条2項、同法2条ないし条理が存在する。)から、両判決は、本件のような事案において憲法に違反する優生条項に基づき重大な人権侵害を受けた被害者の救済よりも法的安定性の確保を敢えて優先させることを許容するものではなく、両判決の存在により直ちに本件における除斥期間の成否が左右されることにはならな いというべきである。よって、被告の上記主張を採用することはできない。 5 まとめそうすると、違憲の優生条項(争点⑴)に基づく優生手術を受けさせられた原告ら(争点⑵)の損害賠償請求権(争点⑶)については除斥期間の適用が制限される(争点⑷)ことになり、その余の争点(争点⑸及び争点⑹)について判断す るまでもなく、原告らの請求はいずれも一部理由があるものと認められる。 第4 結論以上によれば、第1事件原告の請求は、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償金1500万円及びこれに対する第1事件訴状送達の日の翌日である平成30年7月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、第2事件原告の請求は、被告 に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償金700万円及びこれに対する第2事件訴状送達の日の翌日である平成31年3月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、本件事案の性質に鑑み、本判決送達の日から14日間の猶予期間を定める 民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、本件事案の性質に鑑み、本判決送達の日から14日間の猶予期間を定めるとともに、第1項につき1100 万円、第2項につき500万円の各担保を条件とする仮執行免脱宣言を付した上で仮執行宣言を付すこととして、主文のとおり判決する。 熊本地方裁判所民事第3部裁判長裁判官中辻󠄀 雄一朗 裁判官佐藤丈宜 裁判官池邉大喜 (別紙)関係法令の定め等 1 日本国憲法(以下「憲法」という。)⑴ 13条(個人の尊重、生命・自由・幸福追求の権利の尊重)すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国 民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。 ⑵ 14条1項(法の下の平等)すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。 ⑶ 17条(国及び公共団体の賠償責任)何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。 ⑷ 24条1項(家族生活における個人の尊厳と両性の平等)婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを 基本として、相互の協力により、維持されなければならない。 ⑸ 24条2項(同上)配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関して 有することを 基本として、相互の協力により、維持されなければならない。 ⑸ 24条2項(同上)配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。 ⑹ 36条(拷問及び残虐な刑罰の禁止)公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。 2 民法⑴ 1条2項(信義則) 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。 ⑵ 2条(解釈の基準)この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない。 ⑶ 724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び 加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。 3 優生保護法(原告らに関係する昭和29年頃から昭和46年頃までの時期の規定)(乙1の1参照) ⑴ 1条(この法律の目的)この法律は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的とする。 ⑵ 2条(定義)ア 1項この法律で優生手術とは、生殖腺を除去することなしに、生殖を不 能にする手術で命令をもつて定めるものをいう。 イ 2項この法律で人工妊娠中絶とは、胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその附属物を母体外に排出することをいう。 ⑶ 3条(医師の認定による優生手術) ア 1項医師は、左の各号の一に該当する者に対して、本人の同意並びに配偶者(届出をしないが事 に、胎児及びその附属物を母体外に排出することをいう。 ⑶ 3条(医師の認定による優生手術) ア 1項医師は、左の各号の一に該当する者に対して、本人の同意並びに配偶者(届出をしないが事実上婚姻関係と同様な事情にある者を含む。以下同じ。)があるときはその同意を得て、優生手術を行うことができる。但し、未成年者、精神病者又は精神薄弱者については、この限りでない。 一本人若しくは配偶者が遺伝性精神病質、遺伝性身体疾患若しくは遺伝性 奇型を有し、又は配偶者が精神病若しくは精神薄弱を有しているもの 二本人又は配偶者の四親等以内の血族関係にある者が、遺伝性精神病、遺伝性精神薄弱、遺伝性精神病質、遺伝性身体疾患又は遺伝性奇形を有しているもの三本人又は配偶者が、癩疾患に罹り、且つ子孫にこれが伝染する虞れのあるもの 四妊娠又は分娩が、母体の生命に危険を及ぼす虞れのあるもの五現に数人の子を有し、且つ、分娩ごとに、母体の健康度を著しく低下する虞れのあるものイ 2項前項第4号及び第5号に掲げる場合には、その配偶者についても同項の規定による優生手術を行うことができる。 ウ 3項第1項の同意は、配偶者が知れないとき又はその意思を表示することができないときは本人の同意だけで足りる。 ⑷ 4条(審査を要件とする優生手術の申請)医師は、診断の結果、別表に掲げる疾患(注:別表において遺伝性精神病、遺伝性精神薄弱、顕著な遺伝性精神病質、顕著な遺伝性身体疾患、強度な遺伝 性奇型が掲げられている。)に罹っていることを確認した場合において、その者に対し、その疾患の遺伝を防止するため優生手術を行うことが公益上必要であると認めるときは、都道府県優生保護審査会に優生手術を行うことの適否に関する審査を申請し いることを確認した場合において、その者に対し、その疾患の遺伝を防止するため優生手術を行うことが公益上必要であると認めるときは、都道府県優生保護審査会に優生手術を行うことの適否に関する審査を申請しなければならない(注:都道府県優生保護審査会の監督及び優生手術を行った旨の届出の受理等の事務については、機関委任事務として 都道府県知事が管理・執行することとされており、厚生大臣が上記都道府県知事による事務の管理・執行を指揮監督していた。)。 ⑸ 5条(優生手術の審査)ア 1項都道府県優生保護審査会は、前条の規定による申請を受けたときは、優生手術を受くべき者にその旨を通知するとともに、同条に規定する要件を 具えているかどうかを審査の上、優生手術を行うことの適否を決定して、その結果を、申請者及び優生手術を受くべき者に通知する。 イ 2項都道府県優生保護審査会は、優生手術を行うことが適当である旨の決定をしたときは、申請者及び関係者の意見をきいて、その手術を行うべき医師を指定し、申請書、優生手術を受くべき者及び当該医師に、これを通知 する。 ⑹ 10条(優生手術の実施)優生手術を行うことが適当である旨の決定に異議がないとき又はその決定若しくはこれに関する判決が確定したときは、第5条第2項の医師が、優生手術を行う。 ⑺ 11条(費用の国庫負担)前条の規定によって行う優生手術に関する費用は、政令の定めるところによって、国庫の負担とする。 ⑻ 12条(精神病者等に対する優生手術)医師は、別表第1号又は第2号に掲げる遺伝性のもの以外の精神病又は精神 薄弱に罹っている者について、精神衛生法20条(後見人、配偶者、親権を行う者又は扶養義務者が保護義務者となる場合)又は同法21条(市町村長が保護義 号に掲げる遺伝性のもの以外の精神病又は精神 薄弱に罹っている者について、精神衛生法20条(後見人、配偶者、親権を行う者又は扶養義務者が保護義務者となる場合)又は同法21条(市町村長が保護義務者となる場合)に規定する保護義務者の同意があつた場合には、都道府県優生保護審査会に優生手術を行うことの適否に関する審査を申請することができる。 ⑼ 13条ア 1項都道府県優生保護審査会は、前条の規定による申請を受けたときは、本人が同条に規定する精神病又は精神薄弱に罹っているかどうか及び優生手術を行うことが本人保護のために必要であるかどうかを審査の上、優生手術を行うことの適否を決定して、その結果を、申請者及び前条の同意者に通 知する。 イ 2項医師は、前項の規定により優生手術を行うことが適当である旨の決定があったときは、優生手術を行うことができる。 ⑽ 14条(医師の認定による人工妊娠中絶)ア 1項都道府県の区域を単位として設立された社団法人たる医師会の指定する医師(以下「指定医師」という。)は、左の各号の一に該当する者に対 して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。 一本人又は配偶者が精神病、精神薄弱、精神病質、遺伝性身体疾患又は遺伝性奇型を有しているもの二本人又は配偶者の四親等以内の血族関係にある者が遺伝性精神病、遺伝性精神薄弱、遺伝性精神病質、遺伝性身体疾患又は遺伝性奇型を有して いるもの三本人又は配偶者が癲疾患に罹っているもの四妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの五暴行若しくは脅迫によって又は抵抗若しくは拒絶することができない 間に姦淫されて妊娠したものイ 2項前項の同意は、 体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの五暴行若しくは脅迫によって又は抵抗若しくは拒絶することができない 間に姦淫されて妊娠したものイ 2項前項の同意は、配偶者が知れないとき若しくはその意思を表示することができないとき又は妊娠後に配偶者がなくなったときには本人の同意だけで足りる。 ⑾ 25条(届出) 医師又は指定医師は、3条第1項、10条、13条2項又は14条1項の規定によって優生手術又は人工妊娠中絶を行った場合は、その月中の手術の結果を取りまとめて翌月10日までに、理由を記して、都道府県知事に届け出なければならない。 ⑿ 26条(通知) 優生手術を受けた者は、婚姻しようとするときは、その相手方に対して、優生手術を受けた旨を通知しなければならない。 4 優生保護法施行令(乙1の2参照)⑴ 1条1項優生保護法11条に規定する優生手術に関する費用は、左の各号 に掲げるものとする。 一優生手術を受ける者の鉄道賃、船賃、車賃、日当及び宿泊料(以下略)二手術料三~五(略)⑵ 1条2項前項の費用について、その額、支給方法その他必要な事項は、厚 生大臣が定める。 5 優生保護法施行規則(乙1の3、乙A7~8参照)⑴ 1条(優生手術の術式)優生保護法2条に規定する優生手術は、左に掲げる術式によるものとする。 一精管切除結さつ法(精管を陰のう根部で精索からはく離して、2センチメートル以上を切除し、各断端を焼しゃく結さつするものをいう。)二精管離断変位法(精管を陰のう根部で精索からはく離して切断し、各断端を結さつしてから変位固定するものをいう。)三卵管圧ざ結さつ法(マドレーネル氏法)(卵管をおよそ中央部では持し、 う。)二精管離断変位法(精管を陰のう根部で精索からはく離して切断し、各断端を結さつしてから変位固定するものをいう。)三卵管圧ざ結さつ法(マドレーネル氏法)(卵管をおよそ中央部では持し、 直角又は鋭角に屈曲させて、その両脚を圧ざかん子で圧ざしてから結さつするものをいう。)四卵管間質部けい状切除法(卵管峡部で卵管を結さつ切断してから子宮角にけい状切開を施して間質部を除去し、残存の卵管断端を広じん帯又は腹膜内に埋没するものをいう。) ⑵ 27条2項(優生保護法25条の届出) 都道府県知事は、優生保護法25条の規定による届出を受理したときは、(中略)月報及び(中略)年報を作成し、月報はその月の末日までに、年報は翌年1月末日までに厚生大臣に提出しなければならない。 6 優生保護法の施行について(抄)(昭和28年6月12日厚生省発衛第150 号各都道府県知事宛厚生事務次官通知)(乙A3参照)⑴ 医師の認定による優生手術未成年者、精神病者又は精神薄弱者に対しては、医師の認定による優生手術を行うことはできないこと。これらの者に対する優生手術は、優生保護法10条又は優生保護法13条2項の規定に該当する場合のみ行うことができるものであ ること。 ⑵ 審査を要件とする優生手術ア~ウ(略)エ審査を要件とする優生手術は、本人の意見に反してもこれを行うことができるものであること。但し、この場合に手術を施行することができるためには、 優生手術を行うことが適当である旨の決定が確定した場合、すなわち、手術を受けなければならない者が、優生手術の実施に関して不服があるにもかかわらず、優生保護法6条の規定による再審査の申請又は9条の規定による訴の提起を法定の期間内に行わないために た場合、すなわち、手術を受けなければならない者が、優生手術の実施に関して不服があるにもかかわらず、優生保護法6条の規定による再審査の申請又は9条の規定による訴の提起を法定の期間内に行わないために、都道府県優生保護審査会の決定が確定した場合か、優生手術を行うことが適当である旨の判決が確定した場合でなければ ならないこと。この場合に許される強制の方法は、手術に当って必要な最小限度のものでなければならないので、なるべく有形力の行使はつつしまなければならないが、それぞれの具体的な場合に応じては、真にやむを得ない限度において身体の拘束、麻酔薬施用又は欺罔等の手段を用いることも許される場合があると解しても差し支えないこと。 以上

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