平成25年9月5日宣告裁判所書記官 平成24年第484号自動車運転過失致死傷被告事件判決主文被告人を禁錮3年6月に処する。 理由(罪となるべき事実)被告人は,平成21年5月13日午前11時40分頃,フラワーポット在中のコンテナ(総重量約2万3390㎏)を積載するトレーラを牽引した大型貨物自動車を運転し,名古屋市a区b町c番地d先の前方が右に湾曲(曲率半径約70m)している道路の第2車両通行帯をe方面からf方面に向かい進行するに当たり,同コンテナの横転を防止するため,同トレーラ前部の左右各部に取り付けられたロックピン2本及び同トレーラ後部の左右各部に取り付けられたツイストロック2本の全てにより同コンテナを同トレーラに確実に緊締するとともに,適宜速度を調整して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,前記ロックピン2本による同コンテナの緊締がされていない状態のまま,漫然時速約48㎞で進行した過失により,同所を右に旋回中,同コンテナを折から第1車両通行帯を走行中の被害者甲1(当時41歳)運転の普通乗用自動車上に横転させて同車を押し潰し,よって,同人を同日午後3時1分頃,同市g区h町i丁目j番地所在の丙1病院において,外傷性窒息により死亡させるとともに,同車同乗者の被害者甲2(当時64歳)を同日午後1時50分頃,同市k区l丁目m番n号所在の丙2病院において,多発外傷により死亡させ,さらに,同車同乗者の被害者甲3(当時39歳)に加療約533日間を要する左肩腱板断裂,左第10肋骨骨折,肺挫傷等の傷害を負わせた。(証拠の標目)(省略)(事実認定の補足説明) 1 弁護人は,①本件事故当時,被告人がコンテナ積載のトレーラを牽引する 肩腱板断裂,左第10肋骨骨折,肺挫傷等の傷害を負わせた。(証拠の標目)(省略)(事実認定の補足説明) 1 弁護人は,①本件事故当時,被告人がコンテナ積載のトレーラを牽引する大型貨物自動車を運転するに際し,同コンテナは同トレーラにロックピンにより緊締されており,かつ,被告人は,それを目視して確認したので,ロックピンの緊締義務違反はなく,また,②被告人は,本件事故の発生した道路付近で,時速約48㎞の速度で進行したことはなく,相当程度減速した上で進行したので,検察官の主張する適宜速度調整義務違反もない旨主張し,被告人も公判廷においてこれに沿う供述をしている。そこで,以下検討する。 2 関係証拠により明らかに認められる事実関係 判示の被告人運転車両は,フラワーポッドなどを収納した海上コンテナ(長さ40フィート(約12.192m),幅8フィート(約2.43m),高さ9フィート6インチ(約2.89m)で,積荷と合わせた総重量は約2万3390㎏)を積載したコンテナセミトレーラ(以下,単に「トレーラ」という。)を,トラクタと呼ばれる大型貨物自動車で牽引するものであった(以下,トラクタ,トレーラ及びこれに積載されたコンテナを併せて「本件車両」という。)。 トラクタとトレーラとは,トラクタ側のカプラという連結部にトレーラ側のキングピンが差し込まれて連結されていた。 また,トレーラには,積載されたコンテナの横転,落下を防止するため,コンテナの4隅をトレーラに緊締する機構が設けられている。この名称につき,本件証拠中には種々の表記が用いられているが,判示事実を含め,本判決では,トレーラの前部左右各部にある緊締装置を「ロックピン」と,後部左右各部にある緊締装置を「ツイストロック」と呼称することとする。 被告人は,平成21 いられているが,判示事実を含め,本判決では,トレーラの前部左右各部にある緊締装置を「ロックピン」と,後部左右各部にある緊締装置を「ツイストロック」と呼称することとする。 被告人は,平成21年5月13日当時,上記トラクタのような大型の牽引自動車の職業運転手として,約39年間稼働していたものであるが,同日午前11時5分頃,本件トラクタを運転して愛知県海部郡o内所在の丁倉庫Bヤードに赴き,そこで判示のコンテナが積載されたトレーラをトラクタに連結し,同日午前11時15分頃,運送先である同県高浜市内所在の株式会社戊1に向けて本件車両の運転を開始した。 そして,p交差点を右折して国道23号線に入り,丁倉庫Bヤードから13㎞余り進行した地点にあるe交差点を右折し,名古屋市a区b町c番地d付近道路(以下「本件現場道路」という。)に差し掛かった。 本件現場道路は,南北に走る片側2車線の市道名古屋環状線であるが,本件当時,名古屋高速道路の橋脚部建設工事中で,これをう回した仮設橋を経由して通行するため,判示のようにe方面からf方面に向かい南進する場合,仮設橋手前で右カーブと左カーブの逆S字カーブ(かつ約5%の上り勾配)を経て同橋に至り,本件現場道路に向けて,今度は左カーブと右カーブが連続したS字カーブの道路形状となっていた。そして最後の右カーブは,曲率半径約70mであり,縦断勾配約6%(下り),横断勾配約1.3%から1.6%(左下がり)であった。 被告人は,同日午前11時40分頃,本件車両を運転して本件現場道路の第2車両通行帯を南進していたところ,上記最後の右カーブにおいて,牽引していたトレーラに積載されたコンテナが,トレーラ後部を伴う形で進行方向に向かって左側に横転して第1車両通行帯に落下し,折から第1車両通行帯を走 を南進していたところ,上記最後の右カーブにおいて,牽引していたトレーラに積載されたコンテナが,トレーラ後部を伴う形で進行方向に向かって左側に横転して第1車両通行帯に落下し,折から第1車両通行帯を走行していた判示被害者甲1運転の普通乗用自動車を押し潰し,同人及び同乗者ら合計3名を死傷させる事故(以下「本件事故」という。)が発生した。 本件事故時,被告人が運転するトラクタは,横転せずに,第1車両通行帯と第2車両通行帯のほぼ中央に停止し,トレーラ前部もこれと連結された状態を保っていたが,コンテナとともに横転したトレーラ後部と間のトレーラフレームは,その真後ろから見て反時計回りにねじれた状態になっていた。また,本件事故直後,本件トレーラ後部のツイストロックはコンテナと緊締されていたものの,トレーラ前部のロックピンは緊締されていない状態であった。 3 本件事故直後にコンテナ前部がロックピンで緊締されていなかった原因 本件車両のロックピンの仕組み等につき,次の事実も証拠上明らかに認められる。 すなわち,ロックピンは,トレーラのシャーシ左右前面にあるハンドルに結合しているピンであって,左右の各ハンドルを操作して所定の位置に押し込むと,シャーシから突き出た上記ピンが,積載されたコンテナ左右前面底部にそれぞれ設けられた固定用の穴(フロントボトムコーナーキャスティング)に差し込まれることにより,コンテナをトレーラ上に動かないように固定する仕組みになっている。そして,ロックピンを操作するハンドルを誘導するため,シャーシには,別紙(甲10の別添1の写し)写真①のようにアルファベットの小文字の「h」字状の穴(ただし,左前面のもの)が設けられていて,ハンドルを同写真の右方向にスライドさせてから下方に押し込むと,その状態で,上述のとお の別添1の写し)写真①のようにアルファベットの小文字の「h」字状の穴(ただし,左前面のもの)が設けられていて,ハンドルを同写真の右方向にスライドさせてから下方に押し込むと,その状態で,上述のとおりロックピンがシャーシ及びコンテナの各固定用の穴を貫いた状態で固定,すなわち「緊締」されるようになっている。さらに,ハンドル上方に設けられたハンドルストッパが別紙写真②のように自重で垂れ下がることにより,緊締状態のハンドルが跳ね上がってロックピンが外れる事態を防止する構造となっている。 以上に加え,本件トレーラの製造メーカーである戊2株式会社品質保証部トレーラ担当リーダーの乙1は,第2回公判期日において,証人として,要するに以下のような供述をしている。すなわち,ロックピンが緊締されている状態にある場合,トレーラの走行中の振動等によってロックピンが跳ね上がることは,ハンドルストッパの構造上ありえない。なぜならば,ハンドルストッパの縦断面は,数字の「9」のような形状をしており,その上部の筒状部分(断面は○)にピンを通してシャーシに固定され,これを軸に回転するようになっているが,重心は下部の板状部分(断面は|)の中央付近にあり自重でこの重心が回転軸の真下に来ようとするためハンドルストッパ自体は,別紙写真②のように内側に斜めの状態で止まる。そして,仮にハンドルが跳ね上がった場合でも,ハンドルストッパに対して時計回りの方向のみに力が働き,ロックピン解除の際にハンドルストッパを跳ね上げる方向である反時計回りの方向には回転しない構造になっているからである。トレーラの製造メーカーに勤め,ここ10年間,トレーラの事故調査等を担当していた中で,トレーラの走行中に,ハンドルストッパの跳ね上がり等でロックピンが外れて事故が起きたという事例の報告は受け ある。トレーラの製造メーカーに勤め,ここ10年間,トレーラの事故調査等を担当していた中で,トレーラの走行中に,ハンドルストッパの跳ね上がり等でロックピンが外れて事故が起きたという事例の報告は受けたことがない。また,緊締されていたロックピンが本件事故時に外れた可能性については,仮に緊締されている状態のロックピンが外れたとすると,コンテナが回転してトレーラから脱落する過程で,ロックピンにらせん状の傷が付くはずであるのに,本件トレーラを確認したが,左右とも,そのような傷も,新しい傷もないことのほか,ロックピンが緊締されていればコンテナないしトレーラだけでなくトラクタも同時に転倒するはずであるのに,トラクタは転倒していないことから,その可能性はない,というのである。 乙1は,上記会社に30年以上勤め,その間,主に自動車の実車実験等を担当してきたほか,事故の原因調査や報告にも従事してきた者であり,そのような経歴によれば,トレーラに関する知識,事故調査の経験等は十分であり,その証言内容も,ロックピン等の構造,自社製品に関する過去の事故調査の経験及び前記2の事実を含む本件事故後のトレーラの状況など客観的事実を裏付けとするほか,自然法則にのっとった合理的で得心のいく説明となっている。 そうすると,同人が事故関係車両の製造元の品質保証部門の従業員であることを踏まえても,その証言内容は,十分に信用できる。 なお,弁護人は,過去にロックピンが走行中に外れた事例があった旨被告人のみならず,検察官請求証人乙2も供述していることを指摘して,前記乙1の証言は信用できない旨主張する。しかしながら,乙2は,過去にロックピンが走行中に外れたという,その証言に係る事例について,本件車両のロックピンとは異なり,ハンドルストッパがない構造のロックピンであったと は信用できない旨主張する。しかしながら,乙2は,過去にロックピンが走行中に外れたという,その証言に係る事例について,本件車両のロックピンとは異なり,ハンドルストッパがない構造のロックピンであったと述べている。 また,被告人が自己の体験であるとして述べる事例に関する供述も抽象的かつ曖昧なものにとどまる。そうすると,上記弁護人の指摘は,根拠のあるものということはできず,乙1の上記証言の信用性を左右しない。 そして,前記2,の各事実に,上記のロックピンの構造及び信用できる乙1証言に表れた事実を併せれば,事故直後に,ロックピンが緊締されていない状態であったのは,走行中の振動や事故の衝撃等で外れたものである疑いはなく,被告人が本件車両を運転して丁倉庫Bヤードを出発する以前から緊締されていないままであったものと認められる。 この点につき,被告人は,公判廷において,丁倉庫Bヤードを出発する前に,目視で,ロックピンが確実に緊締されているのを確認した旨供述する。しかし,その内容は上記のように客観的に認定できるところに反する上,被告人は,捜査段階においては,運転開始前にロックピンを目視で確認したとはしつつ,これが緊締されていた状態であったかどうかははっきりしない旨述べていた(乙8)。これらに照らし,被告人の上記公判供述は,到底信用できない。他にロックピンの緊締の状態につき上記認定を揺るがすような証跡はない。 4 本件現場道路付近における本件車両の速度本件事故時に本件車両に備え付けられていた運行記録紙の記録内容(甲16)及びその解析結果である鑑定書(甲18)によれば,本件車両が,本件事故直前に瞬間的に時速約48㎞の速度に達していたことが明らかに認められる。 そして,本件車両が上記速度を記録してから本件事故により事故現場で停 析結果である鑑定書(甲18)によれば,本件車両が,本件事故直前に瞬間的に時速約48㎞の速度に達していたことが明らかに認められる。 そして,本件車両が上記速度を記録してから本件事故により事故現場で停止するまでに数秒程度の時間が経過し,この間の速度変化が運行記録紙上に必ずしも克明に記録されるわけでないことなど,弁護人が指摘する諸点を考慮に入れても,甲2及び同3の各交通現場見取図から認められる本件車両の停止位置,本件現場道路の形状(距離関係を含む。)からすれば,本件車両が,本件現場道路の最後の右カーブにおいて,時速約48㎞の速度に達していたことは,なお動かし難いというべきである。 この点,被告人は,公判廷において,本件事故が起きた辺りでは,本件車両の速度は時速20㎞から30㎞であった旨供述している。しかし,格別の根拠に基づくものではなく,上記事実とも相容れず,採用できない。 5 本件事故発生の主要な機序以上2ないし4に認定したところを前提に,本件現場道路において本件車両のトレーラに積載されたコンテナが横転した本件事故がどのような機序で引き起こされたのかについて検討する。 乙3鑑定による横転機序捜査段階において,検察官から本件トレーラの横転原因,複数の原因がある場合,それぞれの原因が横転に与えた影響の程度等の鑑定を嘱託された己大学工学部准教授・博士(工学)乙3は,その作成に係る工学鑑定書(甲19)及び第3回公判期日における証言(以下,これらを併せて「乙3鑑定」という。)において,本件事故発生の機序を詳細に説明しており,その要旨はおおよそ次のように整理できる。 アトラクタ,トレーラやその上に積載されたコンテナがカーブを進行する際,これらには旋回外側に遠心力が生じ,これに伴うロール角(ロールとは,前後 おり,その要旨はおおよそ次のように整理できる。 アトラクタ,トレーラやその上に積載されたコンテナがカーブを進行する際,これらには旋回外側に遠心力が生じ,これに伴うロール角(ロールとは,前後を軸とする回転であり,ロール角とは,その回転の角度(傾き)をいう。)が生じる。本件コンテナ横転は,本件現場道路の最後の右カーブにおいて,コンテナのロール角がある限界を超えてしまったために起きた事象であるとみることができる。 トレーラ等のロール運動が生じる場合,コンテナには,おおむね次の4つのモーメント(回転に関与する力)が作用する。 ① コンテナのロール運動による慣性モーメント② コンテナのロール角(傾き)に伴う重力成分によるモーメント③ トレーラのタイヤ-サスペンションの反力によるモーメント④ トラクタからカプラ及びトレーラフレームを伝わってコンテナに作用するモーメント モーメントの釣合いという観点からは,横転現象は,①②のモーメントによるロール運動を③④のモーメントが抑制するのに不足することにより起こる。 イ本件事故の主要因は,本件車両のロックピン及びツイストロックのうち,ロックピンが解除されており,本来積載したコンテナの剛性(曲げやねじれに対する強度)を含めて保たれるはずのトレーラ車体剛性値(ここでは,ねじれに係るロール剛性)が大幅に低下していることにより,旋回時の車体ロール角が増加し,横転限界速度が低下していることである。 すなわち,トレーラは,本来,ロックピン及びツイストロックで緊締され,トレーラとコンテナとが一体として鉄の塊のようになることで,コンテナの剛性を含めてトレーラ車体剛性値が保たれる設計となっている。そして,この状態であれば,上記ア④の ン及びツイストロックで緊締され,トレーラとコンテナとが一体として鉄の塊のようになることで,コンテナの剛性を含めてトレーラ車体剛性値が保たれる設計となっている。そして,この状態であれば,上記ア④のモーメントが,トレーラ及びコンテナのロール運動を大きく抑制する。これに対し,ロックピンを外した状態の場合,トレーラ車体剛性値は,トレーラフレームのみの状態と等しく,極めて低くなる。 本件ではトレーラ上の積載物が20tを超えているため,フレームはいわば熱したあめのような状態の剛性しかなく,このようなトレーラ車体剛性では,ツイストロックのされたトレーラフレームの後端でコンテナに作用する同④のモーメントは,トレーラ及びコンテナの遠心力等(前記ア①,②のモーメント)によるロール運動を抑制する効果が不足し,トレーラのタイヤ-サスペンションの復元力(前記ア③のモーメント)を合わせても,トレーラのロール角が増大を続け,横転に至ることになる。 ウそして,本件で被告人が運転していたトラクタ,その牽引していたトレーラ及びその積載していたコンテナの重量,大きさなどのほか,本件現場道路の形状などを前提条件として,専用のシミュレーションソフトで解析すると,本件現場道路の最後の右カーブにおける横転限界速度は,コンテナをロックピン及びツイストロックで緊締した状態の場合には時速52㎞である(ただ し,トラクタもともに横転)のに対し,ロックピンを外した状態の場合には,時速41㎞となる(ただし,トレーラ及びコンテナのみ横転)。 エこの他に道路勾配,連続カーブ及び横風といった横転限界速度に影響を与え得る要因が考えられるが,上記シミュレーション結果によれば,横転限界速度を時速1㎞から3㎞上下させるにとどまる。ロックピンの緊締の有無によるトレーラ車体剛性の影響度が大 った横転限界速度に影響を与え得る要因が考えられるが,上記シミュレーション結果によれば,横転限界速度を時速1㎞から3㎞上下させるにとどまる。ロックピンの緊締の有無によるトレーラ車体剛性の影響度が大きいため,その他の要因の影響は相対的に少ないといえる。 乙3鑑定の信用性乙3は,刑事事件に係る鑑定こそ本件が初めてであるというものの,その学識,経歴,自動車工学の専門家としての研究経験に照らし,トレーラなどの大型の連結車両の走行安定性や制御について調査研究する十分な資質を有するものである。そして,乙3が工学鑑定において使用したTruckSimというシミュレーションソフトは,自動車メーカー等が実車実験に相当するような試験をコンピュータ上で行うためのシミュレーションソフトとして業界標準となっているものであり,適正に使用することで極めて精度の高い試験が可能となるものであるところ,乙3は,TruckSimの使用方法を熟知しており,使用するに際し,被告人運転のトラクタ,その牽引していたトレーラ及びその積載していたコンテナの重量や大きさなどのほか,本件現場道路の道路線形など,証拠上客観的に明らかな諸条件を適正に代入して計算を行っている。しかも,そのようなシミュレーションにより再現された本件コンテナの横転位置は,本件車両と被害車両との接触位置を意味する本件現場道路に残されたガラス片や油痕の位置とほぼ一致するものであったのであり,このような再現精度の高さからも,シミュレーションの正確性が裏付けられているといえる。これらによれば,乙3鑑定は十分信用に値するものということができる。 他の解析結果と乙3鑑定の信用性への影響なお,本件事故原因に関しては,㋐国土交通省自動車交通局自動車運送事業に係る交通事故要因分析検討会による報告 ものということができる。 他の解析結果と乙3鑑定の信用性への影響なお,本件事故原因に関しては,㋐国土交通省自動車交通局自動車運送事業に係る交通事故要因分析検討会による報告書(弁7)では,コンテナ緊締装置のアンロックがコンテナ横転リスクを上昇させる要因としつつ,横転限界速度は時速約55.1㎞(ただし,旋回半径80m)とし,強風や道路状況,ハンドル操作による揺り返しなどの影響で実際の横転限界速度が低下し,時速47㎞程度でも横転する可能性があったとされている。また,㋑本件トレーラの製造元である戊2が行った解析(弁2,4,6)でも,横転限界速度が時速50㎞以上であった(弁2)とか,コンテナの積荷が偏っていたことが本件事故の要因になった(弁4,6)との指摘がある。 しかし,㋐㋑の解析とも,ロックピンが緊締されていないことによるトレーラ車体剛性の低下(すなわち前記ア④のモーメントの低下)に着目したものでなく,重心が高くなったとのみ捉えたり(㋐),遠心力と積荷の重心を合成した力がトレーラフレームの幅の中に収まっているかどうかを問題とする(㋑)など,車両に加わる力の状態が一定であることを前提とした「静力学」に依拠している。また,㋑については,積荷が格別偏っていなかったことは,証拠上明らかであり(甲14),本件現場道路の直前の左カーブで横転が起きないことを踏まえても,これを要因と捉えることは,前提を誤ったものといわざるを得ない。これらに対し,乙3鑑定で用いられた手法は,車両運動が常に動的に変化していることを前提とし,慣性力を考慮して解析を行う「動力学」によるものであり,より車両運動の実態に即したものであることは明らかである。したがって,乙3鑑定と異なる上記㋐㋑の各解析は,乙3鑑定の信用性を左右するものとはならない。 考慮して解析を行う「動力学」によるものであり,より車両運動の実態に即したものであることは明らかである。したがって,乙3鑑定と異なる上記㋐㋑の各解析は,乙3鑑定の信用性を左右するものとはならない。 小括前記2ないし4の事実に乙3鑑定により認められるところを併せれば,本件事故は,被告人が,ロックピンが緊締されず,トレーラ車体剛性値が極めて低くなっているため,旋回時の車体ロール角の増大を抑制するモーメントが不足する状態の本件車両を運転し,本件現場道路の最後の右カーブを,時速約41㎞前後と求められるその横転限界速度を超える時速約48㎞の速度で進行したことにより発生したものと認められる。 6 被告人の過失以上に認定した事実関係によれば,本件事故は,被告人が,⒜本件車両の運転に当たりトレーラとコンテナとをロックピンを確実に緊締し,又は,⒝本件現場道路の最後の右カーブを漫然と時速約48㎞で走行するのではなく,ロックピンが緊締されていなくてもコンテナが横転しないような速度に調整して走行していれば回避できたものであることは明らかである。 そして,まず,の点につき,コンテナを積載したトレーラを牽引する大型貨物自動車の運転者である被告人において,道路の交通安全確保等の観点から,積載物であるコンテナの転落(横転)防止のため必要な措置を講ずべき一般的義務があること(道路交通法71条4号参照)は言うまでもないところ,ロックピンの緊締は,ツイストロックの緊締と併せて積載物であるコンテナの転落(横転)防止措置の要であることは,機構上自明であり,被告人も,本件当時,トレーラとコンテナとはロックピン及びツイストロックにより緊締する構造となっていること及びトレーラを運行するに際しそれらを緊締する必要があることを認識していた。そうで 明であり,被告人も,本件当時,トレーラとコンテナとはロックピン及びツイストロックにより緊締する構造となっていること及びトレーラを運行するに際しそれらを緊締する必要があることを認識していた。そうである以上,被告人には,自らロックピン(及びツイストロック)の確実な緊締をし,又は,それがされていることを確認した上で本件車両の運転をする自動車運転上の注意義務があるというべきであり,これを尽くしていれば本件事故は未然に回避されたのに,それを怠り,少なくとも本件車両のロックピンが緊締されていないことを看過したまま運転したため,本件事故を惹起したものであるから,この点について被告人の過失が優に認められる。 次に,⒝の速度調整の点についても,被告人と同じくトラクタの職業運転手として稼働し,本件事故当時,約6年間の運転歴があった前記乙2は,当公判廷において証人として,本件事故現場を本件車両と同種の車両で何度も通行したことがあるが,上り下りの勾配がある上,S字カーブがかなりきつい道路であり,コンテナの横転事故を防止するためには,ロックピン及びツイストロックを全て緊締していたとしても,時速30㎞以内で走行していたし,仮にロックピン2本を緊締していない状態であれば,横転の危険が一段と高まるため,更に速度を下げて時速25㎞以下で走行する必要があると思う旨述べているほか,本件同種車両の実地の運転感覚として,ロックピンを緊締した状態であれば,トレーラとトラクタとは同じような感覚でカーブ外側に逃げるようになるが,トレーラのロックピンが外れた状態でカーブを走行すると,トレーラがカーブ外側に逃げようとするのに対してトラクタは残るような感覚があり,そのような違和感を感じることでロックピンが外れていることに気付くことができ,また,運転席の窓から顔を突き出し すると,トレーラがカーブ外側に逃げようとするのに対してトラクタは残るような感覚があり,そのような違和感を感じることでロックピンが外れていることに気付くことができ,また,運転席の窓から顔を突き出して後ろを眺めれば目視でロックピンが外れているかはすぐに確認できるとも述べている。その証言内容は,職業運転手としての自身の体験に裏打ちされているだけでなく,乙3鑑定の示す知見に照らしても合理的で信用に値するものと認められる。そうすると,同種車両の運転に長年従事していた被告人においても,具体的にいかなる速度で進行すべきものと判断するかはともかく,本件現場道路のようなカーブを進行する際には,コンテナの横転を防止するために慎重に速度の調整をする必要があり,ましてや,運転上の違和感からロックピンが緊締されていないことは当然気付くはずであるから,そうした場合に横転を未然に防止するに足りるような慎重な速度調整が求められることも,十分認識できたはずであると認められる。それなのに,被告人は,漫然と時速約48㎞で本件現場道路を進行し,本件事故を惹起したものであるから,速度調整の点についても,被告人の注意義務違反すなわち過失が認められる。 なお,被告人の立場において,前記のように,ロックピンが外れていることによりトレーラ車体剛性値が極めて低くなり,旋回時の車体ロール角の増大を抑制するモーメントが不足して横転限界速度が低下し,その横転限界速度を超えて進行したことで本件事故が惹起されたという機序や,その際の横転限界速度の値を具体的に理解・認識することまでは期待できないというべきであるが,ロックピンが緊締されないことでトレーラ及びコンテナが横転しやすくなっていること,その状況下において横転しない程度の速度で進行しなければ,トレーラ及びコンテナが横転し,そ うべきであるが,ロックピンが緊締されないことでトレーラ及びコンテナが横転しやすくなっていること,その状況下において横転しない程度の速度で進行しなければ,トレーラ及びコンテナが横転し,それらに付近を通行中の人や他の自動車等が押し潰されたり,衝突したりするなどして人が死傷する可能性があることは,乙2証言に照らしても,十分具体性をもって予見可能であり,これをもって上記各注意義務に係る結果回避措置を期待するに足りるといえるから,各過失の成立は妨げられない。 そして,ロックピンの緊締義務と速度調整義務とは,本件証拠関係の下では,いずれか一方を尽くすことにより本件事故の発生回避に十分である(その意味でそれぞれが独立した因果性を有することは明らかである。)が,乙3鑑定により明らかにされたそれぞれに係る横転事故発生の危険性の程度に照らせば,結果を未然に回避する確実な措置としては,上記各注意義務の履践がともに求められるというべきであるから,これらの過失は併存する。 7 弁護人の主張について以上の判断に対し,弁護人は,被告人にロックピンの緊締義務違反及び速度調整義務違反はない旨争うが,その立論のうち,本件車両のロックピンが緊締されており,また,被告人は,時速約48㎞で走行した事実はないことを前提とする部分は,その前提が証拠上疑いを入れる余地なく排除されるから,理由のないことは明らかである。 また,速度調整義務違反についても,規範の内容が明らかでないと論難する点についても,既に論じたところから,当たらない主張というべきである。 被告人に判示のとおりの自動車運転上の過失を認定できることは明らかであり,これを争う弁護人の主張は理由がない。 (法令の適用)罰条判示被害者ごとに刑法211条2項科 告人に判示のとおりの自動車運転上の過失を認定できることは明らかであり,これを争う弁護人の主張は理由がない。 (法令の適用)罰条判示被害者ごとに刑法211条2項科刑上一罪の処理刑法54条1項前段,10条(1個の行為が3個の罪名に触れる場合であるから,1罪として犯情の最も重い被害者甲1に対する自動車運転過失致死罪の刑で処断)刑種の選択禁錮刑を選択訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)被告人が運転した本件車両は,20tを超える貨物を収納した最大級の規格の海上コンテナを積載していた。また,被告人は,大型貨物自動車の職業運転手として40年近くのキャリアを有し,その運転に当たっては特に慎重な注意深さを期待することができた。それなのに,被告人は,トレーラとコンテナとをロックピン及びツイストロックにより緊締すべきことは当然であると認識しながら,ロックピンでコンテナが緊締されていないことを看過したまま本件車両の運転を開始し,さらに,その運転中にロックピンの緊締がされていない状態であることを認識し得たにもかかわらず,本件現場道路のカーブを速度に留意することなく進行し,このような運転行為がはらむ危険をまさに現実化させて上記コンテナを横転させ,これにより,たまたま並走していた普通乗用自動車の運転者及び同乗者である被害者らを,その乗車する自動車ごと巨大なコンテナの下敷きとして押し潰すという凄惨な本件事故を惹起した。 トレーラとコンテナの緊締は,本件事故を契機に強く意識されることになった側面がある。また,それは,港のコンテナふ頭から前示のヤードまでトレーラにコンテナを積載して運んでくる作業に従事する者にも尽くすことが期待され テナの緊締は,本件事故を契機に強く意識されることになった側面がある。また,それは,港のコンテナふ頭から前示のヤードまでトレーラにコンテナを積載して運んでくる作業に従事する者にも尽くすことが期待される注意義務であったといえる。しかし,本件当時においても,それを確実に行うことは,この種大型貨物自動車の運転者の常識に属していた。また,このような車両で公道を通行する以上,確実に緊締が行われているかどうかに係る注意義務が,その際の運転者に直接的かつ最終的に課されることになるのも自明であって,先行する他者の作業を信頼することが許されるような事情があるわけでもない。そうである以上,上記の諸点は,被告人の緊締義務違反に対する非難の程度を減じる事情となるものではない。トレーラとコンテナの緊締は,カーブにおける速度調整ともども,いずれも横転等による事故回避のため,このような車両の運転者に求められる基本的な注意義務であったというべきである。そして,それらをいずれも怠ったことによる必然として本件事故は発生した。決して不幸な偶然が介在したり関与したりして事故に結びついたものではない。重大事故の高度の危険を内包した本件過失に対しては,厳しい法的非難が妥当する。 また,生じた結果も,極めて重大で誠に痛ましいものである。被害車両に乗車していたのは,当時64歳の母と,その娘2人であるが,うち母と長女の生命が失われ,次女もひん死の重傷を負い,約533日間にも及ぶ長期間の治療を強いられた。 被害者らには何らの落ち度もない。身内を襲った突然の悲劇に,家族の悲嘆は今なお深く,中でも惨劇を目の当たりにしながら自らも傷ついた次女の肉体的苦痛,精神的打撃も非常に大きく,その苦しみは今も続いている。次女を含む遺族らの処罰感情が事故後4年余りを経てもいささかも和らいでいない く,中でも惨劇を目の当たりにしながら自らも傷ついた次女の肉体的苦痛,精神的打撃も非常に大きく,その苦しみは今も続いている。次女を含む遺族らの処罰感情が事故後4年余りを経てもいささかも和らいでいないことにも,事態の重大さと深刻さが如実に表れている。 以上によれば,被告人の刑事責任は,交通死傷事故の中でも相当に重いというべきであり,比較的長期間の禁錮刑が妥当する。 そうすると,被告人の本件事故当時の勤務先会社が契約していた保険会社と死亡した2名の被害者の遺族及び負傷した被害者との間で示談が成立し,賠償金が支払われたこと,被告人に前科がないこと,被告人が被害者及び遺族に謝罪の手紙を送付するなど,事故自体について深刻に受け止めているとうかがわれること等の諸事情を考慮しても,刑の執行を猶予するのが相当であるとはいえず,主文の程度の実刑はやむを得ないと判断した。 (検察官日笠真木哉,主任弁護人間瀬聡,弁護人髙橋美博,同浅井貞晴(いずれも私選)各出席)(求刑禁錮4年6月)平成25年9月5日名古屋地方裁判所刑事第4部裁判長裁判官前田巌裁判官細野高広裁判官飯塚謙
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