主文 1 被告は、原告ら各自に対し、1237万5000円及びこれに対する令和2年1月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、これを3分し、その1を原告らの負担とし、その余を被告 の負担とする。 4 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求の趣旨被告は、原告ら各自に対し、1925万円及びこれに対する令和2年1月6 日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は、Cの相続人である原告らが、被告に対し、Cが被告の営業所において作業に従事し、石綿粉じんにばく露したことにより石綿関連疾患にり患して 死亡したと主張して、債務不履行(安全配慮義務違反)又は不法行為に基づき、それぞれ損害賠償金1925万円及びこれに対する不法行為後の日である令和2年1月6日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実 以下の事実は、争いがないか、後掲証拠(枝番号がある場合は、特記しない限り枝番号を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる。 (1)当事者等ア Cは、昭和7年3月9日生まれの男性であり、令和2年1月6日(当時87歳)に死亡した(甲1)。 イ原告AはCの妻であり、原告BはCの子である。Cの法定相続人は、原 告らである。(甲1)ウ被告は、昭和28年12月に設立され、大阪市に本店を置き、建材一般の卸、小売、建築工事業等を目的とする株式会社である。 (2)Cの被告における作業従事Cは、和歌山市所在の被告の和歌山営業 ウ被告は、昭和28年12月に設立され、大阪市に本店を置き、建材一般の卸、小売、建築工事業等を目的とする株式会社である。 (2)Cの被告における作業従事Cは、和歌山市所在の被告の和歌山営業所(以下「本件営業所」という。) において、平成11年1月まで建材の配送作業等に従事した(なお、その始期については争いがある。)。 (3)労働者災害補償保険法による支給決定等ア Cは、平成21年1月14日付けで、和歌山労働局長から、じん肺管理区分4(じん肺の所見があり、じん肺による著しい肺機能の障害があると 認められるものをいう。じん肺法4条2項)の決定を受け(甲3の4)、同年6月1日付けで、和歌山労働基準監督署長から、石綿肺(管理区分4)の発症年月日を平成20年9月25日として労働者災害補償保険法による療養補償給付及び休業補償給付の支給決定を受けた(甲3の1)。 イ原告Aは、令和3年2月26日付けで、和歌山労働基準監督署長から、 令和2年1月6日にCがじん肺続発性気管支炎を直接死因として死亡したとして、労働者災害補償保険法による遺族補償給付及び葬祭料の支給決定を受けた(甲4、14)。 3 争点及び当事者の主張本件の主な争点は、Cが石綿肺にり患していたか(争点1)、Cが被告の業 務により石綿肺にり患したか(争点2)、被告の安全配慮義務違反等の有無(争点3)及び損害(争点4)である。 (1)争点1(Cが石綿肺にり患していたか)について(原告らの主張)Cは、平成20年9月25日の時点で石綿肺にり患していた。 (被告の主張) 否認する。石綿肺は、高濃度の石綿粉じんを大量に、長期間にわたり吸入することにより発生する疾患であるが、Cは、本件営業所における業務中に、そのような石綿粉じんを吸入し (被告の主張) 否認する。石綿肺は、高濃度の石綿粉じんを大量に、長期間にわたり吸入することにより発生する疾患であるが、Cは、本件営業所における業務中に、そのような石綿粉じんを吸入していないから、石綿肺にり患していない。 (2)争点2(Cが被告の業務により石綿肺にり患したか)について(原告らの主張) Cは、昭和45年11月から本件営業所で作業に従事し、本件営業所でトラックに石綿含有建材を積み込む際や配送先の小売店にこれを搬入する際に、同建材から飛散した石綿粉じんにばく露したほか、配送先の工事現場に建材を積み下ろす際に、周囲の建設作業者が石綿含有建材を切断、研磨等して発散していた石綿粉じんにばく露し、これらにより石綿肺にり患した。 (被告の主張)否認ないし争う。Cが本件営業所で作業に従事したのは昭和56年以降であり、その作業中に高濃度の石綿粉じんにばく露することはなかった。 (3)争点3(被告の安全配慮義務違反等の有無)について(原告らの主張) 被告は、実質的にCを雇用しており、Cに対し、作業中に呼吸用保護具を使用させ、石綿関連疾患り患の危険性及び石綿粉じん対策について安全教育等をするなどの債務又は注意義務を負っていたが、これらを怠った。 (被告の主張)否認ないし争う。被告は、Cを雇用しておらず、Cに対し、配送業務を委 託していたにすぎないから、原告主張の債務又は注意義務等を負わない。 (4)争点4(損害)について(原告らの主張)Cは、以下の合計3850万円の損害を被った。 ア入通院慰謝料 500万円(入通院期間11年余り) イ死亡慰謝料 3000万円 ウ弁護士費用相当額 350万円(被告の主張)否認ないし争う。慰謝料は高額にすぎる 入通院慰謝料 500万円(入通院期間11年余り) イ死亡慰謝料 3000万円 ウ弁護士費用相当額 350万円(被告の主張)否認ないし争う。慰謝料は高額にすぎる。 また、Cは喫煙者であったから、過失相殺等がされるべきである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実、証拠(甲35~37、乙12、証人K、原告B本人のほか、後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (1)Cの被告における作業従事前の職歴等(甲2、3)ア Cは、昭和38年12月6日~昭和43年10月1日に(約4年10か 月)、Dタクシー株式会社において運転手として勤務した。 イ Cは、昭和43年10月1日~昭和45年4月28日に(約1年7か月)、E鉄工建設株式会社の和歌山亜鉛鍍金工場で勤務し、アーク溶接や鉄管メッキの作業に従事した。同工場では、同年頃、鋼管外面メッキの作業時にアスベストヤーン(太い糸状のアスベスト)が使用されていた(甲 26)。 ウ Cは、昭和45年6月1日~10月21日に(約4か月半)、有限会社Fメッキ精研で勤務し、メッキ作業に従事した。 (2)被告の業務内容等(甲3、31)ア被告の業務内容 被告は、国産建材から輸入建材まで住宅の建材を広く扱い、その仕入れ、保管、関西全域への販売、配送等の業務をしている。昭和51年~昭和55年当時、被告の売上高は約30億~50億円であり、被告の扱う建材のうち石膏ボード、セメント板等の窯業系建材の取扱いが約20%を占めていた(甲7)。被告は、建材販売エリアにおいて、協力会 社と連携し、内装工事、外装工事等の施工も手掛けている(甲6)。 イ本件営業所の業務内容被告の本件営業所は、昭和43年8月に和 (甲7)。被告は、建材販売エリアにおいて、協力会 社と連携し、内装工事、外装工事等の施工も手掛けている(甲6)。 イ本件営業所の業務内容被告の本件営業所は、昭和43年8月に和歌山市北島に開設され、昭和56年11月、和歌山市中之島に移された。本件営業所では、開設当時から主に建材の卸売をしている。そのうち石綿を含有するものに、フレキシブル板、けい酸カルシウム板、大平板、スラグせっこう板(商品 名エトリート)、サイディングボード等があった。本件営業所は、和歌山市内を中心に、北は和歌山県橋本市や大阪府泉佐野市付近まで、南は和歌山県田辺市付近までを販売エリアとしている。 ウ本件営業所の配送業務本件営業所は、配送部門がなく、配送業務を専属の下請業者に外注し ており、その下請業者は常時2名いた。本件営業所の扱う建材等の多くは、バンドで留めて紙で包むなどして包装されて配送されていたが、包装されていないものとして、フレキシブル板、けい酸カルシウム板、大平板、スラグせっこう板等があった。 エ Cの作業内容等 Cは、昭和45年11月~平成11年1月に、本件営業所において、C運送という屋号で、2tトラックを用いて配送作業をしていた。 Cは、本件営業所で被告の従業員から、配送の日時、場所、物品等が記載された配送伝票を受領し、その記載に従って配送作業をしていた。 Cは、上記従業員の指示を受けて、倉庫内において、フォークリフトや 手作業で建材のトラックへの積込み作業や在庫整理作業をしていた。 Cは、被告の従業員らと同様に、午前8時30分~午後6時の間、本件営業所の業務に従事していた。Cは、当日予定された配送作業の終了後も、本件営業所の営業時間中は、倉庫内において、待機したり在庫整理作業をしたりしていた。 様に、午前8時30分~午後6時の間、本件営業所の業務に従事していた。Cは、当日予定された配送作業の終了後も、本件営業所の営業時間中は、倉庫内において、待機したり在庫整理作業をしたりしていた。 2 争点1(Cが石綿肺にり患していたか)について (1)石綿ばく露の指標、石綿肺の診断基準等に係る文献等ア石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会の平成18年2月の「「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方」報告書」(乙3・3頁)は、①石綿ばく露の指標となる医学的所見としては、胸膜プラーク、石綿小体、石綿繊維、石綿肺が挙げられ、②胸膜プラークは、 胸膜肥厚斑あるいは限局性胸膜肥厚ともいわれ、石綿ばく露と極めて関係の深い医学的所見であり、現在の日本においては、石綿ばく露によってのみ発生すると考えてよく、③石綿肺は、じん肺の一種であり、石綿粉じんを吸入することによって起こる肺のびまん性間質性肺線維症であるとする。 イ石綿による健康被害に係る医学的事項に関する検討会の平成21年10 月の報告書(乙10・6、10頁)は、①一般に石綿肺は、継続的に高濃度の石綿にばく露した場合に発症すると考えられており、②石綿ばく露者では、肺実質の所見以外に、胸膜プラーク、びまん性胸膜肥厚、索状の線維化病変等の胸膜病変をきたすことがあり、胸部単純X線写真だけでなく、CT画像を活用し、これらの所見が認められた場合には、石綿ばく露を示 唆するものとして参考になるとする。 ウ独立行政法人労働安全衛生総合研究所の特任部長であった森永謙二(乙10・1頁)の「石綿曝露による健康障害と診断基準」と題する平成21年の論文(乙13)は、胸膜プラーク(胸膜肥厚斑、限局性胸膜肥厚)は、石綿ばく露の医学的所見として重要であるとする った森永謙二(乙10・1頁)の「石綿曝露による健康障害と診断基準」と題する平成21年の論文(乙13)は、胸膜プラーク(胸膜肥厚斑、限局性胸膜肥厚)は、石綿ばく露の医学的所見として重要であるとする。 エ労働省安全衛生部労働衛生課編の昭和62年10月の「じん肺審査ハンドブック」(甲27・25、33~35、41~72頁)は、①じん肺の診断項目として、粉じん作業歴の調査、胸部X線検査、胸部臨床検査、肺機能検査等があり、②じん肺の自覚症状として、呼吸困難、せき、たん、心悸亢進等の確認が重要であり、③じん肺の肺機能障害を判断する他覚的所見として、 肺気腫等の疾患の有無の確認や、血中ガス、肺活量等の測定、副雑音の聴 診等が重要であり、④じん肺のうち石綿肺のX線画像所見については、不整形陰影は下肺野に初発し、次第に中肺野に及び、最も初期の変化は、両側下肺野の微細な粒状影、異常線状影であり、肺野の変化に加えて胸膜の変化が重要な初見であり、胸膜肥厚とその石灰化像が認められるとする。 (2)Cの検査所見等 ア和歌山生協病院附属診療所のG医師は、C(当時76歳)について、平成20年9月25日の胸部X線検査等及び同年10月9日の問診等の結果に基づき、同月17日付けじん肺健康診断結果証明書において、以下の所見を示した(甲3の4・3枚目)。 (ア)胸部X線画像上、区分2/2・タイプpの粒状影、区分2/2の不整 形陰影、pl、plc、emが認められる。「区分2/2」とは、第2型とおおむね一致すると判定されるものを指し、「第2型」とは、両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が多数あり、かつ、じん肺による大陰影がないと認められるものを指し、「タイプp」は、直径1.5mmまでの粒状影を指し、「pl」は胸膜プラーク、「plc」 は、両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が多数あり、かつ、じん肺による大陰影がないと認められるものを指し、「タイプp」は、直径1.5mmまでの粒状影を指し、「pl」は胸膜プラーク、「plc」は胸膜 石灰化像、「em」は著明な肺気腫を指す(甲27・35~38頁)。 (イ)問診の結果、せき、たん、心悸亢進、副雑音(両肺喘鳴)があり、呼吸困難度Vと判断される。同「Ⅴ」は、話したり、着物を脱ぐのにも息切れがして、そのため屋外に出られない者を指す(甲27・42頁)。 (ウ)以上の検査結果等により、胸部X線画像上、両肺の胸膜プラークと両 下肺の粒状像、2型陰影が認められ、自覚的には咳痰と著明な息切れがあり、酸素1Lの吸入を要し、肺機能(肺活量及び血液ガスの測定結果等)では著しい肺機能障害の所見があり、管理区分4相当と判断する。 イ G医師は、原告ら代理人からCの胸部X線・CT画像の読影を依頼され、令和5年6月22日に以下の所見を述べた(甲28、32、33)。 (ア)平成20年10月9日撮影のCT画像上、両側の胸膜肥厚、気腫著明、 両中下肺に粒状像、不整形像が認められる。 (イ)令和元年12月12日撮影のCT画像上、両下肺の胸膜肥厚は平成20年より進行し、気腫変化著明、両中下肺に粒状像、不整形陰影(右>左)が認められる。 (ウ)令和元年12月17日撮影のX線画像上、気腫変化、両下肺に2/2 の粒状影、2/2の不整形陰影、pl(胸膜プラーク)、calc(石灰化像の略と解される。)、em(著明な肺気腫)が認められる。 ウ大阪社会医学研究所所長H医師は、令和5年12月13日、前記イの各画像について、G医師と同様の読影所見を示した(甲29)。 エ和歌山労働基準監督署長に対し、和歌山生協病院の医師は、令和2年3 ウ大阪社会医学研究所所長H医師は、令和5年12月13日、前記イの各画像について、G医師と同様の読影所見を示した(甲29)。 エ和歌山労働基準監督署長に対し、和歌山生協病院の医師は、令和2年3 月9日、Cが石綿肺による呼吸不全が原因で死亡に至った旨意見を述べ、和歌山労災病院の地方労災医員は、同月11日、Cは石綿肺にり患しており、業務上の死亡である旨の意見を述べた(甲14・9、10頁)。 (3)Cが石綿肺にり患していたかについて前記の認定事実によれば、①G医師は、平成20年10月17日、Cにつ いて、じん肺管理区分4相当との所見を示したこと、②G医師は、上記所見の根拠として、㋐同年9月25日の胸部X線画像上、両下肺野に粒状影及び不整形陰影が認められ、両肺に胸膜プラーク、胸膜石灰化像、著明な肺気腫が認められ、㋑せき、たん、心悸亢進の自覚症状があり、副雑音(両肺喘鳴)があり、㋒肺活量及び血液ガスの測定結果により著しい肺機能障害があるこ となどを挙げており、Cが同日の時点で石綿肺にり患している旨の所見を示したものといえること、③H医師も上記②と同様の読影所見を示したこと、④和歌山生協病院の医師は、石綿肺による呼吸不全が原因でCが死亡した旨の意見を述べ、和歌山労災病院の地方労災医員もCが石綿肺にり患していた旨の意見を述べたことが認められる。 上記①~④のG医師らの診断等は、前記(1)の文献の記載や、後記のC の被告における作業中の石綿粉じんへのばく露の状況に沿うから、合理的なものというべきであり、これらにより、Cが平成20年9月25日の時点で管理区分4相当の石綿肺にり患していたということができる。 (4)被告の主張についてア被告は、前記(1)アの報告書(乙3)は、石綿肺の鑑別診断にはHR 、Cが平成20年9月25日の時点で管理区分4相当の石綿肺にり患していたということができる。 (4)被告の主張についてア被告は、前記(1)アの報告書(乙3)は、石綿肺の鑑別診断にはHR CT(高分解能CT)が有用であるとするところ、HRCTは1mmスライスの多断層像が得られるものであるが(乙8)、これが得られない通常の胸部CTでは適正な石綿肺の鑑別診断はできない旨主張する。 しかし、上記報告書は、石綿肺の鑑別診断にHRCTが有用であるとするにとどまり、HRCTでなければ適正な鑑別診断ができないとはし ていないから、上記主張は採用することができない。 イ被告は、①前記(1)ウの論文(乙13)は、石綿肺の診断には職業(石綿ばく露)歴の情報が必須であり、画像だけでは特発性肺線維症や特発性間質性肺炎との鑑別はできないとし、前記(1)アの報告書(乙3・17頁)は、石綿ばく露歴の客観的な情報が確認できなければ、画像所見 だけから石綿肺と診断することは難しいとするところ、Cは被告の業務に関連して石綿粉じんにばく露したことはないから、G医師らの診断は誤りであり、②前記(1)イの報告書(乙10)は、胸部X線写真の下肺野にみられる不整形陰影は、非特異的な所見であり、老齢の患者、重喫煙者等にもみられるとするから、不整形陰影を根拠に石綿肺と鑑別診断すること はできない旨主張する。 しかし、上記各報告書や論文は、胸膜プラークについて、現在の日本においては石綿ばく露によってのみ発生すると考えてよいなどとして、石綿粉じんへのばく露を示唆する度合いが強いとするところ、Cには、X線画像上胸膜プラークが認められ、胸膜プラークや不整形陰影以外に も石綿ばく露を示唆する所見が認められることなどの前記事情に加えて、 後記のC る度合いが強いとするところ、Cには、X線画像上胸膜プラークが認められ、胸膜プラークや不整形陰影以外に も石綿ばく露を示唆する所見が認められることなどの前記事情に加えて、 後記のCの被告における作業中の石綿粉じんへのばく露の状況等も考慮すれば、被告の指摘する上記各報告書や論文の記載をもって、Cが石綿肺にり患していたとの前記判断が左右されるとはいえない。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。 3 争点2(Cが被告の業務により石綿肺にり患したか)について (1)本件営業所における作業従事の開始時期について①平成21年4月21日、和歌山労働基準監督署の調査官(以下、単に「調査官」という。)の事情聴取に対し、被告の職員(その聴取内容によれば、本件営業所の責任ある立場にあった者と推認される。)は、昭和45年頃からCに車持込みの運転手として本件営業所の配送を依頼しており、Cは 外注という理由で厚生年金でなく国民年金に加入していた旨陳述したこと(甲31・4~6頁。なお、同2~9頁は甲3の1・5~12頁と同じもの)、②Cは、同年2月4日、調査官の事情聴取に対し、昭和45年11月~平成11年1月に本件営業所で勤務した旨陳述したこと(甲3、31)、③原告B本人は、Cが昭和45年11月から本件営業所で勤務していた旨供述してい ること、④年金の被保険者記録照会回答票には、Cが昭和38年12月6日~昭和45年10月21日に前記1(1)の各勤務先に対応する会社の厚生年金の被保険者であり、同日以降は国民年金の被保険者であったと記載されており(甲2)、これは前記①の陳述に沿うといえることなどの事情からすれば、Cの本件営業所における作業従事の始期は昭和45年11月であると 認められる。 被告は、Cが本件営 あったと記載されており(甲2)、これは前記①の陳述に沿うといえることなどの事情からすれば、Cの本件営業所における作業従事の始期は昭和45年11月であると 認められる。 被告は、Cが本件営業所の作業に従事したのは昭和56年頃以降であると主張し、昭和47年頃~昭和51年頃当時の本件営業所の所長I及び従業員Jの陳述書(乙7、11)にはこれに沿う記載があるが、上記①~④の証拠に照らして、上記主張及び記載は採用することができない。 (2)被告の業務中の石綿粉じんばく露の有無について ア倉庫内での作業中のばく露について前記の認定事実及び証拠(証人Kのほか、後掲のもの)によれば、①本件営業所では、フレキシブル板、けい酸カルシウム板、大平板、スラグせっこう板、サイディングボード等の石綿含有建材を取り扱っており、その中にはフレキシブル板、けい酸カルシウム板等の包装されていない ものもあったこと、②フレキシブル板、けい酸カルシウム板等は、切断面がざらざらしており、そこに石綿粉じんが付着していたといえること、③Cは、本件営業所の倉庫において、手作業やフォークリフトにより、これらの建材を2tトラックおおむねいっぱいに積み込み、配送先の小売店の倉庫において、これらの建材を搬入していたほか、本件営業所の 営業時間中は、倉庫内において、待機したり在庫整理作業をしたりしていたこと、④Cは、1日4往復程度、上記建材の小売店への配送作業をしていたこと、⑤上記の積込み及び搬入作業の際、トラックの荷台の床面で上記建材を押すことがあり、これによりその切断面が床面に擦れて石綿粉じんが発散することがあったといえること、⑥上記③の各作業の 際に上記建材を床等に強めに置くことがあり、これにより上記建材が床面又は他の建材と擦れあう これによりその切断面が床面に擦れて石綿粉じんが発散することがあったといえること、⑥上記③の各作業の 際に上記建材を床等に強めに置くことがあり、これにより上記建材が床面又は他の建材と擦れあうなどして石綿粉じんが発散することもあったこと(甲5の3・2頁、4頁、甲5の4・8頁、9頁、14頁)の各事情が認められ、これらによれば、Cは、上記の倉庫内における石綿含有建材の積込み及び搬入作業、在庫整理作業等の際に相当程度の濃度の石綿粉じんに ばく露していたといえる。 被告は、本件営業所でCが配送していた建材のうち石綿を含有するものはわずかであり、Cが石綿粉じんを大量に吸入することはなかったと主張し、証人Kは、本件営業所の扱っていた建材のうち石綿を含有するものの割合は1~2%ほどであったなどとこれに沿う供述をする。 しかし、証人Kは、石綿を含有する建材とそうでない建材をはっきり 区別して認識していなかったことを認める旨の供述をしていること、昭和51年~昭和55年当時、被告の扱う建材のうち石膏ボード、セメント板等の窯業系建材の取扱いが約20%を占めており(甲7)、それらの相当割合を石綿を含有するものが占めていたとうかがわれること(甲30、39)などに照らせば、証人Kの供述する上記割合は採用するこ とができず、その割合は1~2%を大きく上回っていたといえる。したがって、被告の上記主張は採用することができない。 イ建設現場への配送作業中のばく露について前記の認定事実及び後掲証拠によれば、①本件営業所の建材の配送先は、主に小売店であったが、高い頻度ではなかったもののCが工事現場 に建材を配送する場合もあったこと(証人K)、②その場合には、工事現場において、大工が石綿含有建材の切断、研磨等の作業をし、高濃度 に小売店であったが、高い頻度ではなかったもののCが工事現場 に建材を配送する場合もあったこと(証人K)、②その場合には、工事現場において、大工が石綿含有建材の切断、研磨等の作業をし、高濃度の石綿粉じんが飛散している傍らで、Cが建材の搬入作業に従事していたこと(甲3の2)の各事情が認められ、これらによれば、Cは、高い頻度ではなかったものの、上記の工事現場への建材の搬入作業の際に高 濃度の石綿粉じんにばく露することがあったといえる。 被告は、Cが建設現場に建材を配送することはなかった旨主張し、被告の職員の調査官に対する陳述(甲31)及びJの陳述書(乙11)の記載にはこれに沿う部分があるが、証人Kの上記供述に反する限度で、上記主張、陳述等は採用することができない。 (3)被告の業務中の石綿粉じんばく露と石綿肺り患の因果関係について前記の認定事実によれば、①Cは、被告の業務として、日常的に、倉庫内における石綿含有建材の積込み及び搬入作業、在庫整理作業等をし、また、倉庫内で待機していた際に、相当程度の濃度の石綿粉じんにばく露していたこと、②Cは、被告の業務のうち、高い頻度ではなかったも のの建設現場への建材の運搬作業に従事した際に、高濃度の石綿粉じん にばく露することがあったこと、③Cが、昭和45年11月~平成11年1月の約28年間にわたり、本件営業所の営業日の営業時間帯の大半の時間に、上記①及び②のとおり石綿粉じんにばく露していたことが認められ、これらによれば、Cは、被告の業務中に石綿粉じんにばく露したことにより石綿肺にり患したものということができる。 被告は、溶接作業者の相当数に胸膜プラークが認められたことや(乙1、2)、メッキ作業時にアスベストヤーンが使用されていたこと(前記1(1)イ) により石綿肺にり患したものということができる。 被告は、溶接作業者の相当数に胸膜プラークが認められたことや(乙1、2)、メッキ作業時にアスベストヤーンが使用されていたこと(前記1(1)イ)などを指摘して、Cが、①E鉄工建設株式会社や②有限会社Fメッキ精研の業務中に石綿粉じんにばく露し、これらにより石綿肺にり患した旨主張する。 しかし、Cの上記①の業務の従事期間は約1年7か月、上記②の業務の従事期間は約4か月半にとどまるのに対し(前記1(1)イ及びウ)、被告の業務の従事期間は約28年であること、Cが上記①及び②の業務において相当程度以上の濃度の石綿粉じんに長時間ばく露していたと認めるに足りる証拠がないのに対し、被告の業務中の石綿粉じんへのばく 露の状況は前記のとおりであること、他にCが相当程度以上の濃度の石綿粉じんに長時間ばく露していたと認めるに足りる証拠がないことに照らせば、Cの石綿肺り患の原因は、主に被告の業務中の石綿粉じんばく露であり、上記①及び②の業務中はCが石綿粉じんにばく露していないか、又は仮にばく露してたとしても、その石綿肺り患への寄与の程度は わずかにとどまるものというべきである。 したがって、被告の上記主張は採用することができない。 4 争点3(被告の安全配慮義務違反の有無)について(1)被告が安全配慮義務を負う立場にあったかア前記の認定事実及び証拠(証人K、甲31)によれば、①本件営業所に おいては、配送部門がなく、配送業務はCを含む専属の下請業者に外注さ れていたこと、②Cは、本件営業所において、被告の従業員の指示を受けて、配送業務をしていたほか、その倉庫内において、フォークリフトや手作業で建材のトラックへの積込み作業や在庫整理作業をしていたこと、③Cは、被 、②Cは、本件営業所において、被告の従業員の指示を受けて、配送業務をしていたほか、その倉庫内において、フォークリフトや手作業で建材のトラックへの積込み作業や在庫整理作業をしていたこと、③Cは、被告の従業員らと同様に、本件営業所において、午前8時30分~午後6時の間、作業に従事し、当日予定された配送作業の終了後も、本件 営業所の営業時間中は、倉庫において、待機したり在庫整理作業をしたりしていたこと、④Cは、本件営業所の営業日は全て出勤し、休日は、被告の従業員らと同様に、平成元年までは日曜日及び隔週の土曜日であり、同年からは土曜日及び日曜日であり、本件営業所の責任ある立場の職員からできる限り営業日は休まないよう求められていたこと、⑤Cの被告からの 報酬は、毎月定額で支払われ、その月額報酬は、トラックの損料(購入代金を使用月数で割った額)、ガソリン代、保険料等の必要経費のほか、配送の手間賃を考慮して定められており、Cは、当年の月額報酬について、毎年初めに上記職員と協議していたが、基本的に同職員の決定に従っていたこと、⑥Cが休んだ場合には、月額報酬が25分の1等の日割計算で減 額されていたことが認められる。 これらによれば、Cは、被告の指揮監督の下に本件営業所の配送作業等をし、勤務時間についても被告の従業員らと同様の拘束を受け、毎月定額の給与に類似した労務の対価を得ていたものであり、実質的にみて、被告の労働者と同様の立場で本件営業所の業務に従事していたといえる。 したがって、被告は、Cとの間で特別な社会的接触の関係に入っており、信義則上、Cに対し、その業務中の安全について配慮すべき義務を負うものというべきである。 イ被告は、Cは被告の労働者と同様の立場になかったと主張し、Jの陳述書(乙11)には、Cが、当日の配 り、信義則上、Cに対し、その業務中の安全について配慮すべき義務を負うものというべきである。 イ被告は、Cは被告の労働者と同様の立場になかったと主張し、Jの陳述書(乙11)には、Cが、当日の配達業務の終了後に早めに帰ることがあ り、配達先から直接帰ることもあり、休憩時間、配達経路、いつ休日をと るかなどはCに任されており、Cから「被告以外から頼まれた品物を運ぶこともある」と聞いたなどと、上記主張に沿う記載がある。 しかし、上記陳述書の記載は、裏付けがなく、そのまま採用し難いし、仮にその記載のとおりの事実が認められたとしても、前記ア①~⑥の事情からすれば、Cが被告の労働者と同様の立場にあったという判断は左 右されない。したがって、被告の上記主張は採用することができない。 (2)被告の安全配慮義務の内容及びその違反の有無前記前提事実、認定事実、当時の労働安全衛生法、同法施行令、労働安全衛生規則等の関係法令等の定め、証拠(甲11、乙5、9、17)及び弁論の全趣旨によれば、昭和50年4月1日頃には、石綿粉じんを吸入すると重 篤な石綿関連疾患を発症する危険があるという知見が石綿含有建材を扱う一定程度以上の規模の企業に知れわたっていたといえること、被告は、国産建材から輸入建材まで住宅の建材を広く扱い、自ら内装工事、外装工事等の施工も手掛けている当時売上高約30億円以上の企業であったことが認められるから、被告は、遅くとも同日頃には、石綿含有建材を扱う被告の労働員ら が当該建材から生ずる粉じんを吸入すると重篤な石綿関連疾患を発症する危険があることについて予見することができたということができ、Cに対し、上記の危険があること、その危険を回避するために適切な防じんマスクを着用する必要があること等を指導する義務を負っ 疾患を発症する危険があることについて予見することができたということができ、Cに対し、上記の危険があること、その危険を回避するために適切な防じんマスクを着用する必要があること等を指導する義務を負っていたにもかかわらず(最高裁令和3年5月17日第一小法廷判決・民集75巻5号1359頁参照)、 これを怠ったものというべきである。 したがって、被告は、原告に対し、安全配慮義務違反による債務不履行責任及び同様の注意義務違反による不法行為責任を負うものといえる。なお、本件においては、債務不履行責任による損害が不法行為責任による損害を上回ることがないから、次項では不法行為責任による損害について検討する。 5 争点4(損害)について 証拠(甲17~24)及び弁論の全趣旨によれば、Cは、平成19年2月に集団検診を受診し、石綿肺との診断を受けたこと、同年6月26日~同年7月9日に和歌山労災病院で検査入院をしたこと、その後、和歌山生協病院に、初診日の同月23日から死亡した令和2年1月6日までに、230日間通院し(実日数)、599日間入院したことが認められる。 上記の入通院期間のほか、Cが、石綿肺にり患し、長期間にわたり、せき、たん、喘鳴、著しい肺機能障害等の症状に苦しんだこと、死亡時87歳であったことその他の諸事情を総合すれば、入通院慰謝料及び死亡慰謝料は、併せて2500万円と認めるのが相当である。 他方、Cは、20歳~70歳の間に1日約20本たばこを吸っており(甲1 8)、これが石綿肺の症状の増悪に寄与したとうかがわれるから、民法722条2項を類推適用してこれを斟酌し、上記慰謝料のうち、被告が負担すべき額は、1割の減額をした残額の2250万円と認めるのが相当である。 本件事案の内容、認容額等の事情を考慮すれば るから、民法722条2項を類推適用してこれを斟酌し、上記慰謝料のうち、被告が負担すべき額は、1割の減額をした残額の2250万円と認めるのが相当である。 本件事案の内容、認容額等の事情を考慮すれば、原告が要した弁護士費用は、225万円の限度で被告の不法行為と相当因果関係があると認められる。 よって、被告が負担すべき損害額は合計2475万円であり、原告らは、被告に対し、それぞれ1237万5000円の支払を求めることができる。 第4 結論よって、原告らの請求は、不法行為に基づき、それぞれ1237万5000円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれらを認容し、その 余の部分は理由がないからこれらをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。なお、仮執行免脱宣言は相当でないから、これを付さないこととする。 大阪地方裁判所第18民事部 裁判長裁判官宮崎朋紀 裁判官三浦裕輔 裁判官根間玄実
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