主文 1 被告は,原告らに対し,別紙未払賃金一覧表(1)の「未払賃金額」欄記載の各金員及びこれに対する上記一覧表の「支給月」欄及び「支給日」欄記載の各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告らに対し,別紙未払賃金一覧表(2)の「未払賃金額」欄記載の各金員及びこれに対する上記一覧表の「支給月」欄及び「支給日」欄記載の各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,被告の負担とする。 4 この判決は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要1(1) 本件は,原告らの加入している労働組合が,使用者である被告との間で,一定期間の賃金の減額に応じることを内容とする労働協約を締結したが,その期間終了後は,新たな協約が締結されていない以上,従前賃金を請求できると主張する原告らが,被告に対し,従前賃金と現に支給された賃金との差額及び各賃金支払日の翌日からの遅延損害金の支払を求めるものである。 (2) 原告らの具体的な請求としては,原告らの従前賃金に基づく各月の賃金は,各月の労働時間や残業時間数等によって賃金額が変動するから,請求する各月の労働実績に基づいて,従前賃金基準で算定した支給額から,各人ごとの別紙原告平均控除額一覧表記載の額を控除して,別紙未払賃金一覧表(1),(2)記載の各月の「従前賃金」欄記載の金額を算出し,この従前賃金基準で算出された賃金額が,本来支払われるべき賃金額であるから,これと現に支給された賃金額(別紙未払賃金一覧表(1),(2)記載の各月の「支給額」欄記載の金額)との差額が原告らが被告に請求できる未払賃金額(別紙未払賃金一覧表(1),(2)記載の各月の「未払賃金額」欄記載の金額)であるとして,原告 金一覧表(1),(2)記載の各月の「支給額」欄記載の金額)との差額が原告らが被告に請求できる未払賃金額(別紙未払賃金一覧表(1),(2)記載の各月の「未払賃金額」欄記載の金額)であるとして,原告らは,被告に対し,別紙未払賃金一覧表(1),(2)の「未払賃金額」欄記載の各金員及びこれに対する上記一覧表の各支払日(毎月28日であるが,該当日が休日又は土曜のときはその前日限り,その前日が休日又は土曜のときはその前日限り)の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。 2 争いのない事実(1) 当事者ア被告被告は,昭和23年10月4日に設立された通運事業,貨物自動車運送事業等を営む資本金3500万円の株式会社である。 イ原告ら原告らは,被告のI営業所で運転手及び配車係として働き,A労働組合東海地方名古屋支部B分会(以下「分会」といい,上部団体であるA労働組合を「C」,C東海地方名古屋支部を「支部」という。)に加入する労働者である。 (2) 被告と支部及び分会間の賃金交渉の経緯ア分会結成の経過昭和62年10月5日,分会は当初4名の組合員で発足した。 イその後の賃金交渉の経過(ア) 分会結成以後,分会は,分会結成の年である昭和62年秋年末要求において,冬季一時金要求と職場要求(4項目)を提出した。 (イ) 続いて翌昭和63年春闘において,分会は,賃金要求と職場要求(7項目)を提出し,交通費の実費が支給されるようになった。 同年夏季一時金交渉の場において,被告は「分会を組合と認め,何事も分会を通す。」と約束した。 (ウ) その後,平成元年春闘において,分会は,月給制への移行を柱とする賃金体系の見直しを要求した。 (エ) 平成3年5月21日には,被告と支部との間で,「I営業所に於けるすべての労働 と約束した。 (ウ) その後,平成元年春闘において,分会は,月給制への移行を柱とする賃金体系の見直しを要求した。 (エ) 平成3年5月21日には,被告と支部との間で,「I営業所に於けるすべての労働条件については,当該労働組合と協議のうえ決定する。決められた以外の労働条件が行われる場合,又は,決められた労働条件を変更する場合には,あらかじめ労働組合と協議のうえ合意に達した後に実行する。」との内容の労働協約を締結した。 その後,時間外賃金の未払問題について,分会は,弁護士に交渉を委任し,弁護士と被告間の折衝により,歩合給を平成5年4月までに全廃し,月給制に移行することを内容とする協定書を,平成3年11月18日に被告と支部間で締結した。 (オ) これ以降,被告と分会所属の組合員との間では,毎年の賃金額についての労働協約を締結し,それによって原告ら分会所属組合員の賃金額が決定されることとなった。 ウ原告らの従前賃金額以上のように毎年の被告と分会間の労働協約に基づく賃金の積み上げを行ってきた結果,原告らの平成13年11月分までの手取賃金額(以下「従前賃金額」という。)は,別紙原告賃金一覧表記載の各原告欄に対応する「従前賃金」欄記載(平成13年9月分賃金から同年11月分賃金までの平均月額賃金額)のとおりとなった。 (3) 被告からの賃金切下げ提案ア平成13年8月30日,被告は原告らに,経営危機の再生策の提案として,個人償却制を前提とする提案をしたが,それは従来の原告らの給与体系と異なっており,原告らはこれを拒否した。 イ平成13年11月7日,被告は原告らに,第2次の再建案として,給与を基本給とし,歩合給は廃止する案を提示した。 (4) 被告と支部及び分会間の暫定協定の締結ア締結の経過上記のような状況下で,平成13年10月分の賃金が分割支 原告らに,第2次の再建案として,給与を基本給とし,歩合給は廃止する案を提示した。 (4) 被告と支部及び分会間の暫定協定の締結ア締結の経過上記のような状況下で,平成13年10月分の賃金が分割支払され,同年11月分の賃金支払も一時困難な事態となった。 このように賃金支払が危うくなる中,支部及び分会は,この状態を放置していたのでは経営破綻を招きかねない危険もあるとの判断から,暫定的な賃金削減を認めつつ,その間に経営再建の話合いを行うこととし,平成13年12月26日,同年12月から平成14年3月までの賃金カットの暫定協定(以下「本件暫定協定」という。)を労働協約として締結した。 イ本件暫定協定の内容本件暫定協定は,支部,分会と被告間で締結されたもので,その第1項は,「平成13年12月度支払給与から平成14年3月度支払給与まで本給,別給,その他の手当のうち家族手当と通勤手当を除く総額から管理職(課長以上)は30%一般社員は20%を差引く。但し,その間に新給与体系を甲(支部),乙(分会),丙(被告)の間で定め以後はそれに移行する。」と定めている。 ウ本件暫定協定後の原告各人の賃金額本件暫定協定による原告らの平成13年12月分から平成14年3月分までの手取賃金額の平均月額は,別紙原告賃金一覧表の各原告欄に対応する「暫定賃金」欄記載のとおりである。 (5) 本件暫定協定締結後の経過と平成14年8月までの賃金の仮払ア再建をめぐる協議の内容再建に向けて,支部,分会は,被告と関係労働組合との間で再建委員会を作り,協議することを提案したが,J一般同盟に加盟の企業内労働組合であるB労働組合(以下「B労組」という。)は,Cとの同席を拒否してきた。 平成14年1月30日に開催された第1回再建協議には,B労組は欠席した。そこで,支部は,同年2月8日,J一 盟の企業内労働組合であるB労働組合(以下「B労組」という。)は,Cとの同席を拒否してきた。 平成14年1月30日に開催された第1回再建協議には,B労組は欠席した。そこで,支部は,同年2月8日,J一般同盟の書記長に再建委員会への同席を強く求めた。 第2回再建委員会は,同年2月19日に被告本社で,被告,B労組,支部,分会代表者及び職場代表者が集まり,開催された。 その際,支部,分会は,協議の結果まとまった最終的な協定について,被告とCとB労組の3者の統一協定を結ぶことを主張し,これが確認された。 その際,提案された被告の経営再建計画は,歩合給制を柱としたものであり,分会結成直後から月給制獲得を目指してきたCにとって到底受け入れ難いものであった。 イ協議の決裂とその後(平成14年4月から同年8月まで)の賃金仮払(ア) 平成14年3月16日に開催された第5回再建委員会において,分会より,①歩合給は受け入れられない,②フレックスタイムは飛島班(分会員の所属する職場)では困難である,③20パーセントを超える賃下げは認められないことを表明し,今後の交渉は団体交渉に切り替えることとした。 (イ) 同年4月13日に開催された再建会議には,分会員である原告Dが参加していたが,その席上,被告とB労組から「皆で決めたから。」との発言がされ,同月23日の団体交渉において,被告とB労組の間で締結した協定に基づいて,歩合給を含む賃金切下げ提案をのむよう求めてきた。 (ウ) 同年4月の賃金支給日が迫る中,被告は,B労組との間で締結した賃金協定に従い,原告らC組合員にも賃金を支給しようとした。 支部,分会は,Cは被告とは労働協約で労働条件を決定してきており,本件暫定協定後の新協定が締結されていない以上,本件暫定協定前の従前賃金を支払うよう要請した。 (エ) 本件暫定協定の しようとした。 支部,分会は,Cは被告とは労働協約で労働条件を決定してきており,本件暫定協定後の新協定が締結されていない以上,本件暫定協定前の従前賃金を支払うよう要請した。 (エ) 本件暫定協定の期間経過後,被告と支部,分会との間で協議が整わないまま,被告は,賃金明細も交付せず,一方的にB労組と締結した協定に基づく賃金の仮払として,原告ら分会員の預金口座に振込みを行ってきた。 (オ) このように支払われた平成14年4月分以降の賃金は,C組合員にのみ20パーセント前後の賃金カットとなるものの,協定を締結したB労組の組合員には大幅な賃金カットとならず,むしろ増収となるようなものであった。 ウ原告ら各人の受領した仮払額本件暫定協定の期間が過ぎた平成14年4月分から同年8月分まで被告が原告らに支給した額は,別紙未払賃金一覧表(1)記載の各原告欄の「支給額」欄記載のとおりである。 (6) 平成14年9月からの一方的賃金カットの実施ア賃金切下げの経緯平成14年8月に入り,被告は,再度,B労組幹部と未組織労働者に対して,新たな賃金カットを行うという通告を行った。この事態を受け,B労組の副委員長は被告を退職してしまった。 しかし,被告は,Cに対しては,新たな賃金カットの提案を全くすることなく,いきなり同年9月分賃金から新たな賃金カット(以下「本件新賃金カット」という。)を実施してきた。その賃金減額は,従前賃金に比較して約40パーセント,本件暫定協定に比較しても約20パーセントに及ぶ大幅なものであった。 イ原告ら各人の本件新賃金カット後の受領額原告ら各人の本件新賃金カット後の手取受領額は,別紙未払賃金一覧表(2)記載の各原告欄の「支給額」欄記載のとおりである。 (7) 労働基準監督署の指導原告らがその勤務するI営業所を管轄する津島労働基準監督署に被 本件新賃金カット後の手取受領額は,別紙未払賃金一覧表(2)記載の各原告欄の「支給額」欄記載のとおりである。 (7) 労働基準監督署の指導原告らがその勤務するI営業所を管轄する津島労働基準監督署に被告の賃金の未払が労働基準法24条違反であることを申告した結果,津島労働基準監督署は,本件暫定協定経過後である平成14年4月分以降の賃金について,従前賃金額を支払うよう行政指導を行った。津島労働基準監督署は,当初,平成15年1月末までに全額支払を行うよう指導していたが,被告において未払賃金額の計算ができないことを理由に同年2月まで支払期限の猶予を求めた。 (8) 原告らの賃金からの平均控除額原告らの従前賃金に基づく各月の賃金は,各月の労働時間や残業時間数等によって賃金額が変動する。従前賃金支払時(平成13年度)の原告ら各人における健康保険料及び所得税,住民税等の平均控除額を算出すると,別紙原告平均控除額一覧表記載のとおりである。 被告に従前賃金額に基づいた支払義務があるとした場合,上記平均控除額以上の控除の必要はない。 (9) 賃金支給日被告においては,給与規定に基づき,毎月20日締めで28日が賃金支給日とされており,該当日が休日又は土曜のときはその前日限り,その前日が休日又は土曜のときはその前日限り支給することとされている。 3 争点本件の争点は,原告らの未払賃金額は幾らかという点にあり,①本件暫定協定の効力,②本件新賃金カットの有効性が争点となる。 (1) 争点①(本件暫定協定の効力)についてア被告の主張(ア) 平成13年11月22日に,被告は,原告らの所属するCと団体交渉を持ち,その際,被告再建のため,それまでの団体交渉の結果により協定されてきたC組合員に対する固定給制の賃金体系を今後見直さなくてはならないので,協力をしてもらい 告は,原告らの所属するCと団体交渉を持ち,その際,被告再建のため,それまでの団体交渉の結果により協定されてきたC組合員に対する固定給制の賃金体系を今後見直さなくてはならないので,協力をしてもらいたい旨申入れをしている。原告らの所属するI営業所は,賃金が他の営業所と比較して高いことや,売上げのてい減,単価の切下げといった事情から,従来から不採算の営業所であったものである。さらに,この当時には,J一般同盟系の労働組合もでき,数の上では圧倒的にJ一般同盟組合員の方が多く,相対的にC組合員の方が賃金が高いことから,被告再建に当たっては,その不公平の是正ということもJ一般同盟側から申し出られており,不採算の上,不公平であったため,賃金体系の見直しを申し入れたものである。 (イ) そして,平成13年12月20日,同月22日にもCと団体交渉を持ち,その際にも,同年12月から平成14年3月までの賃金カットを受けてもらい,この間に新賃金体系構築のための協議をして,平成14年4月からの導入というスケジュールへの協力を求めた。この計画に協力をしてもらえるのであれば,従業員の解雇という非常手段をとらないことも併せて提案をしたものである。 (ウ) 上記のような経緯を経て,平成13年12月26日に団体交渉が持たれ,その際,本件暫定協定の内容で合意が成立し,双方の署名・押印により,労働協約化されたものである。 (エ) 本件暫定協定は,期間的には,確かに平成13年12月から平成14年3月までの間のものであるが,その間に,新賃金体系を支部,分会,原告らとの間で協議をして決定することとされていたもので,原告らも,被告再建のための賃金カットに応じるというものであり,新賃金体系というものが,従前賃金より下がることは当然の前提とされていたものである。期間中に協定ができなければ ることとされていたもので,原告らも,被告再建のための賃金カットに応じるというものであり,新賃金体系というものが,従前賃金より下がることは当然の前提とされていたものである。期間中に協定ができなければ,当然,従前賃金が復活するというのは,当事者の意思解釈として合理性を欠くものである。お互い誠意をもって新賃金体系の構築のために努力をして,その間は本件暫定協定の賃金を継続していくというのが,当事者の意思解釈に合致するものである。 このように,新賃金体系を労使間で模索することが,従前賃金の減額を目指して行われるものであることは,原告らやCは,十分に承知し,その減額の幅がどの程度になるかはともかくも,将来にわたって賃金カットはやむを得ないとの判断の下,本件暫定協定の合意に至ったものである。 以上のとおり,被告のおかれた経済的危機は,平成13年12月から平成14年3月までの4か月間の一時的な賃金カットでしのげるというものではなく,構造的なもので,被告の倒産や従業員の整理解雇という事態を迎えないためにC側もこれに協力することを約したものである。本件暫定協定では,「但し,その間に新給与体系を甲(支部),乙(分会),丙(被告)の間で定め以後はそれに移行する。」とも記載されているが,被告の主張している新賃金体系というものが歩合給であり,それまでの固定給制を変更せざるを得ないことは,C側も考えていたものである。 具体的には,それが賃金カットとして結果することは十分に承知をしていたものであり,賃金カットを甘受して被告の倒産や人員整理という事態を回避しようと考えていたものである。 この間に話ができなければ,元の給料に戻るということは,被告側はもちろん,原告ら側も考えていなかったものである。 (オ) その後,被告の再建のための再建委員会や団体交渉の場で新しい賃金体系の ある。 この間に話ができなければ,元の給料に戻るということは,被告側はもちろん,原告ら側も考えていなかったものである。 (オ) その後,被告の再建のための再建委員会や団体交渉の場で新しい賃金体系のための協議を行ったが,Cは,全社的規模での話合いに対しては極めて消極的であり,結局は,従来の固定給制の維持という主張を繰り返すばかりで,譲歩する意図が全くなく,平成14年4月23日の団体交渉の際に,被告に対し,賃金問題についての協議の打切りを一方的に通告してきたものである。 (カ) 以上述べてきたように,4か月間の賃金カットは,新賃金体系の構築と連動して合意されたもので,どの程度かはともかくも,平成14年4月からは賃金カットとなることが前提として約定されていたもので,話ができなければ元の給料に戻るということは予定されていないものであって,前の固定給制に係る労働協約は本件暫定協定の締結により失効しているものと考えるのが,合理的な双方の意思解釈である。 したがって,新しい賃金体系が双方の協議で定まるまでの間は,本件暫定協定による賃金カットの内容が,期限後も効力を有するものと考えるべきである。 (キ) 原告らは,本件暫定協定による賃金カットについての被告の「お詫び」と題する文書をとらえて,被告が賃金カットを期間限定的なものと考えていたことの表れであると主張するが,この手紙を出した平成14年1月28日の段階では,まだ被告の再建のための委員会や新賃金体系協議のための団体交渉が一度も行われていない段階であり,被告側としても,C側の協力が得られて同年4月からは新賃金体系の導入が可能と考えていた段階であって,被告側が同年4月からは元の給料に戻すと考えていた証拠とはならないものである。 イ原告らの主張(ア) 前記争いのない事実にあるとおりの本件暫定協定の規定の内 系の導入が可能と考えていた段階であって,被告側が同年4月からは元の給料に戻すと考えていた証拠とはならないものである。 イ原告らの主張(ア) 前記争いのない事実にあるとおりの本件暫定協定の規定の内容から明らかなように,本件暫定協定は,平成13年12月度支給給与から平成14年3月度支給給与に限って賃金の減額に応じることを明示しており,新賃金体系協議期間中に限り賃金減額を認めた暫定的な協定である。 そして,本件暫定協定締結の際,支部,分会は,被告に対して,本件暫定協定締結にもかかわらず,この期間中に協議が整わない場合には,従前賃金体系に戻ることを条件とする旨明らかにした上で,本件暫定協定を締結したものである。 その後,本件暫定協定期間中に開催された協議中にも再三にわたり,分会,支部から上記条件の確認が行われたにもかかわらず,被告は何らこれに反論することなく,上記条件を認め続けてきた。 したがって,本件暫定協定期間終了後は,新たな協定が締結されていない以上,原告らと被告との間では,従前賃金額を支払うとの合意がされていたと考えるべきである。 よって,原告らは,本件暫定協定により停止されていた従前の労働契約の内容をなしていた賃金額の支給を求めることができる。 (イ)a これに対し,被告は,本件暫定協定の期間中に新賃金体系が合意できなかったという場合には,当面,本件暫定協定の内容がそのまま更新されていくというのが,当事者の合理的な意思解釈であると主張する。 b この被告の主張を前提とすれば,本件暫定協定期間経過後の賃金は,本件暫定協定期間中の賃金と同じ基準によるものでなければならないはずである。 しかし,本件暫定協定期間経過後に実際に支給された賃金は,別紙未払賃金一覧表(1)記載のとおりであって,原告E以外の4名の原告については,平成14年4月にいった るものでなければならないはずである。 しかし,本件暫定協定期間経過後に実際に支給された賃金は,別紙未払賃金一覧表(1)記載のとおりであって,原告E以外の4名の原告については,平成14年4月にいったん本件暫定協定期間中の賃金より増額となるが,同年5月には減額となり,その後同年6月から8月までは増額となっており,また,原告Eについては,同年4月から一貫して本件暫定協定期間中の賃金より減額となっている。 本件暫定協定期間経過後の賃金が本件暫定協定期間中の賃金と異なる基準で支給されることは,増額になる月があるとしても,被告の上記主張と論理的に矛盾することはいうまでもない。 しかも,同年9月以降は,本件新賃金カットにより,すべての原告について本件暫定協定期間中の賃金さえ下回る状態が継続しているのであって,このような賃金支給を行っている被告が,本件暫定協定の内容がそのまま更新されていくというのが当事者の合理的な意思解釈と主張することは,その主張の前提事実自体に明らかな矛盾が生じているというほかない。 c 裁判例では,労働協約が失効した以上,協約上の規定自体が持続することはあり得ないが,協約失効後も,協約上の労働条件は労働契約の内容を補充するとするものが有力であるが(朝日タクシー事件に関する福岡地裁小倉支部昭和48年4月8日判決,鈴蘭交通事件に関する札幌地裁平成11年8月30日判決),これらはいずれも労働協約によって賃金体系の変更が行われた事案であり,本件暫定協定のように,期限を切って,しかも,「総額から管理職(課長以上)は30%一般社員は20%を差引く」というように現行賃金体系(従前賃金体系)の中で一時的な賃金カットをする場合,つまり,一時的に現行賃金体系(従前賃金体系)を休止させる場合とは事案が異なる。上記裁判例は,労働協約によって賃金体系の変更が うように現行賃金体系(従前賃金体系)の中で一時的な賃金カットをする場合,つまり,一時的に現行賃金体系(従前賃金体系)を休止させる場合とは事案が異なる。上記裁判例は,労働協約によって賃金体系の変更が行われる場合を前提としている。 しかし,本件では,原告らが所属する支部,分会は,本件暫定協定締結に当たり,協定期間中に協議が整わない場合には,従前賃金体系に戻ることを条件として本件暫定協定を締結した。その後の本件暫定協定期間中の協議の際も,従前賃金に戻ることを再三にわたり確認し,それを交渉の圧力として交渉の打開を図ろうとしてきた。交渉の中では,被告に対し,従前の協定を破棄する方法があることも示唆してきた。このように,本件暫定協定締結の当事者の一方である支部,分会の本件暫定協定締結についての意思は明確であり,本件暫定協定期間経過後は従前賃金体系に戻ることを意図していた。 他方,被告の認識も同様のものであった。本件暫定協定期間中の賃金カットについて,被告は,本件暫定協定期間中の平成14年1月28日,賃金カットの対象となる従業員及びその家族にあてて,賃金カットについて「お詫び」と題する文書を配布した。この文書の中で被告は,「本年3月までは現行賃金体系の中で役職に応じ賃金をカットさせて頂きお支払いしなければならない状況で」と述べ,本件暫定協定期間中の賃金カットは期限を切ったものであり,しかも,現行賃金体系(従前賃金体系)の中での一時的な賃金カットであることを認めている。また,被告は,従前の協定を破棄する方法があることを分会,支部に示され,そのことを認識していたにもかかわらず,それに対して何ら対応をしてこなかった。そうすると,本件暫定協定によって従前賃金体系が変更され,新たな賃金体系が労使の合意によって形成されたとの認識は,被告も持っていなかったこ たにもかかわらず,それに対して何ら対応をしてこなかった。そうすると,本件暫定協定によって従前賃金体系が変更され,新たな賃金体系が労使の合意によって形成されたとの認識は,被告も持っていなかったことが明らかである。 以上の点からすれば,本件暫定協定期間中も現行賃金体系(従前賃金体系)が前提となっていたものであり,原告ら及び被告の認識から考えても,上記裁判例の事案で前提とされている「新たな賃金体系についての合意」とまでいえるものではなく,期限を切って,現行賃金体系(従前賃金体系)の下で一時的な賃金カットを行うという合意にすぎなかったのである。 従前賃金体系の中での一時的な賃金カットの合意である以上,その期間が経過した後は,従前賃金体系に戻るのは当然の理である。 結局,本件暫定協定と協定期間中の協議は,従前賃金体系下で,新たな賃金体系についての合意ができるかを労使間で協議していた過程である。この協議において新たな賃金体系の合意ができなかったのであれば,本件暫定協定が従前賃金体系下での一時的な賃金カットにすぎなかった以上,被告における賃金体系は従前賃金体系しか残らなくなる。 d 仮に,本件において,上記裁判例で問題となった事案と同様の考え方に立脚したとしても,本件暫定協定期間中に新賃金体系が合意できなかった場合に,当面,本件暫定協定の内容がそのまま更新されていく旨の合意ないし合理的な意思解釈が認められるような状況にはなく,むしろ,原告らと被告との間では,本件暫定協定期間経過後は従前賃金を支払うとの合意ないし合理的意思解釈が認められる状況であったといえることは,前記のとおりである。 (2) 争点②(本件新賃金カットの有効性)についてア被告の主張(ア) 一般論として,労働者の賃金が,労働契約,労働協約等によって,拘束力を持ち,労使双方ともこれ ことは,前記のとおりである。 (2) 争点②(本件新賃金カットの有効性)についてア被告の主張(ア) 一般論として,労働者の賃金が,労働契約,労働協約等によって,拘束力を持ち,労使双方ともこれに拘束され,特段の事情がない限り,使用者が一方的に賃金額を減額できないことは,被告としても認めるところである。ところが,本件では,いわゆる事情変更の法理が適用される場面であり,特段の事情がある場合に該当するものである。 (イ) すなわち,被告は3期連続で赤字を出し,売上げが低迷する中,被告としても,当初は,人員整理や賃金カットといった従業員の処遇には手をつけることは考えていなかったもので,営業本部制度導入による営業力の強化,経費の削減,事業所の統廃合,役員報酬のカット等の対策を先行して行ってきたものである。 しかしながら,長引く不況の中で,売上げが伸びず,与信枠ぎりぎりの融資をしている銀行からは,貸金債権の引き上げというどう喝を受けながら,人件費の圧縮を強く要求され,従業員の処遇にも手をつけざるを得なくなったものである。 (ウ) 希望退職を募っても,目標人員に達せず,管理職のFの解雇では裁判ざたとなって,人員整理もJ一般同盟,C双方の労働組合の理解が得られず,賃金カットが残された唯一の途である。 (エ) 給与体系の二重性を解消して,その格差を是正し,併せて,人件費削減のための新賃金体系を実施したが,それでも削減効果が認められない以上,企業存続を図る上では,再度の賃金カットはやむを得ないものである。 実情として,現在人件費として月間支出している1800万円については,これを1500万円に圧縮しなければ,収支構造が全く改善せず,資金繰りさえできなくなってしまうものである。そのため,2割カットの切下げを実行したもので,この程度の賃金カットを実施しなければ いては,これを1500万円に圧縮しなければ,収支構造が全く改善せず,資金繰りさえできなくなってしまうものである。そのため,2割カットの切下げを実行したもので,この程度の賃金カットを実施しなければ,資金繰りができず,倒産必至であり,企業の存続,従業員の雇用自体が危ぶまれるものである。 イ原告らの主張(ア) 被告は,事情変更を理由として,本件新賃金カットに合理性があると主張する。 (イ) しかし,事情変更の原則とは,契約締結当時に,両当事者が前提とした事情が変更し,契約成立時の契約内容をそのまま維持することが,当事者の一方にとって著しく不公平が生ずる場合に,契約の拘束力を否定するという考え方である。契約の拘束力を否定する方法としては,契約を解除すること(遡及的に,又は,遡及せずに),及び契約内容の変更を申し入れることがあるのであって,事情変更の原則は,契約によって拘束されるという私法上の原則の例外であることから,極めて例外的な限られた場合にのみ適用されるものである。 被告が主張する事情変更の事情とは,「人件費削減のための新賃金体系を実施したが,それでも削減効果が認められない」こと以外に何の事情もない。しかも,本件新賃金カットにより新たに支給される賃金たるや,J一般同盟や未組織従業員の給料が上がり,Cの従業員の給与が下がるというものでしかなく,結果としても,人件費削減の効果がみられないものであった。 つまり,本件新賃金カットによる新たな賃金として被告が一方的に支給した賃金は,一部の従業員の不利益のみを図り,他の従業員層の利益を図るという内容であったために,人件費削減効果のみられない不合理なものであったのである。 このような事情では,事情変更の原則が予定している契約の拘束力を否定する事情の変更などとは認められない。しかも,本件暫定協定の期間切 たために,人件費削減効果のみられない不合理なものであったのである。 このような事情では,事情変更の原則が予定している契約の拘束力を否定する事情の変更などとは認められない。しかも,本件暫定協定の期間切れから考えてもわずか5か月後にして,事情変更が生じたなどということは,到底,法理論として通用するものではない。 (ウ) その上,被告が提出した経営資料によれば,原告らC組合員は,I営業所に集中しているところ,本件暫定協定締結前の状態で,I営業所の全社に占める売上高構成比は10ないし13パーセント程度である。一方,全社の労務費に占めるI営業所の運転手の労務費の構成比は,労務費全体の9ないし11パーセントにとどまるものである。 このことが示すのは,全社の9ないし11パーセント程度の労務費で,全社の10ないし13パーセントに上る売上げを上げていたI営業所の労務費のみを下げることを目的にして,本件新賃金カットによる賃金が支給されたということである。このことは,経営上の必要性から本件新賃金カットが行われたという被告の主張自体が成り立たないことはもちろん,緊急避難という被告の主張が何ら合理性を有しないことを明らかに示している。 (エ) 本件新賃金カットの結果,土曜出勤の際に,原告らI営業所の運転手については,休日手当が付けられていないのに,K営業所の運転手にのみ休日手当が付けられていた。このことは,本件新賃金カットが原告らC所属組合員のみに不利益を図る目的で行われた不当な目的による賃金カットであるということを示しており,明らかに差別的扱いである。 (オ) 本来であれば,企業は,従業員の賃金について,就業規則の変更という方法で,従業員代表の意見は聴くものの,合理的な内容であれば,使用者側のみで変更する方法があったはずである。しかるに,被告はこのような合法的な れば,企業は,従業員の賃金について,就業規則の変更という方法で,従業員代表の意見は聴くものの,合理的な内容であれば,使用者側のみで変更する方法があったはずである。しかるに,被告はこのような合法的な変更方法を全くとろうとせず,本件新賃金カットを一方的に実施したのである。このような一方的賃金カットは,労働基準法24条の賃金全額払原則に違反する行為である。 第3 判断 1 争点①(本件暫定協定の効力)について(1) 前記争いのない事実に,甲1,10,11,乙10,11,証人G,原告H本人,被告代表者本人及び後掲証拠並びに弁論の全趣旨を総合すれば,以下のとおりの事実を認めることができる。 ア分会結成後の被告との賃金交渉の結果,平成3年5月21日,被告と支部との間で,I営業所におけるすべての労働条件については,支部と協議の上決定すること,決められた以外の労働条件が行われる場合,又は,決められた労働条件を変更する場合には,あらかじめ支部と協議の上合意に達した後に実行する旨の労働協約(甲2)が締結され,同年11月18日には,被告と支部の間で歩合制から時間給による月給制に移行することを内容とする協定書(甲3)が締結された。 そして,以後,被告と分会所属の組合員との間では,毎年の賃金額について労働協約を締結して賃金額が決定されることとなった。 イ平成11年夏以降,被告は,分会に対し,収益の悪化を主張し,一時金(ボーナス)の削減を要請し,分会の要求に応じて経営改善策を提出したことから,分会も同年冬季の一時金については5割削減に応じた。 ウ平成13年には,被告の経営危機が一層明らかとなり,Cは,被告に対し,経理公開と再建策の策定を求めた。 同年8月30日,被告は,従業員に対し,経営危機に対する再建計画(乙2)を示し,個人償却制(従業員が,個人事業主として 経営危機が一層明らかとなり,Cは,被告に対し,経理公開と再建策の策定を求めた。 同年8月30日,被告は,従業員に対し,経営危機に対する再建計画(乙2)を示し,個人償却制(従業員が,個人事業主として車を所有し,被告とは運送契約を締結して仕事をし,車の償却費も含めて個人で負担するという形態の制度)の導入等を提案をした。 しかし,Cとしては,従来の給与体系と異なっているので,これを拒否したところ,同年9月18日の団体交渉において,被告の上記提案は撤回された。 同年11月7日,被告は,Cに対し,第2次の再建案として,給与を基本給とし,歩合給は廃止する案を提示した。 そのような状況下で,同年10月分の賃金が分割払となり,同年11月分の賃金支払も一時困難な事態となった。 このように賃金支払が危うくなる中,支部,分会は,この状態を放置していたのでは経営破綻を招きかねない危険もあるとの判断から,暫定的な賃金削減を認めつつ,その間に経営再建の話合いを行うこととし,被告との交渉に入った。 被告からは,賃金削減について,期間は同年12月から平成14年3月までの4か月で,削減率は55パーセントとの提案があったが,その後,削減率は30パーセントと変更された。 これに対し,支部,分会は,平成13年12月22日の団体交渉において,被告に対し,30パーセントの削減は厳しいので,1年とか3年とかに期間を延長して,削減率を5ないし10パーセント程度と少なくしてはどうかと提案した。 以上のような交渉が積み重ねられた結果,同年12月26日の団体交渉で,同年12月から平成14年3月までの4か月間,一般社員については20パーセントの賃金カット等を内容とする本件暫定協定(甲9)が労働協約として支部,分会と被告間で締結されるに至った。 本件暫定協定の第1項は,「平成13年12月度支払給与か 月間,一般社員については20パーセントの賃金カット等を内容とする本件暫定協定(甲9)が労働協約として支部,分会と被告間で締結されるに至った。 本件暫定協定の第1項は,「平成13年12月度支払給与から平成14年3月度支払給与まで本給,別給,その他の手当のうち家族手当と通勤手当を除く総額から管理職(課長以上)は30%一般社員は20%を差引く。但し,その間に新給与体系を甲(支部),乙(分会),丙(被告)の間で定め以後はそれに移行する。」と定めている。 エ本件暫定協定の締結を受け,被告は,平成13年12月27日付けで,従業員あてに,「先般来組合と協議を重ねてまいりました給与の件,誠に申し訳ありませんが今月より来年3月の間,カットさせていただくことになりました。」などと記載した文書(甲4の8)を配布し,また,平成14年1月28日付けで,従業員及びその家族あてに,「先にお願いいたしました様に,本年3月までは現行賃金体系の中で役職に応じ賃金をカットさせて頂きお支払いしなければならない状況で,組合とも協議中でございます。」などと記載した「お詫び」と題する書面(甲4の9)を配布した。 オ本件暫定協定締結後,被告の再建に向けて,支部,分会は,被告と関係労働組合との間で再建委員会を作り,協議することを提案したが,B労組は,Cとの同席を拒否し,平成14年1月30日に開催された第1回再建協議には,B労組は欠席した。そこで,支部は,同年2月8日,J一般同盟の書記長に再建委員会への同席を強く求めた。 第2回再建委員会は,同年2月19日に被告本社で,被告,B労組,支部,分会代表者及び職場代表者が集まり,開催された。 支部,分会は,協議の結果まとまった最終的な協定について,被告とCとB労組の3者の統一協定を結ぶことを主張し,これが確認された。 その際,被告は,経営 分会代表者及び職場代表者が集まり,開催された。 支部,分会は,協議の結果まとまった最終的な協定について,被告とCとB労組の3者の統一協定を結ぶことを主張し,これが確認された。 その際,被告は,経営再建計画を提案してきたが,歩合給制を主体としたものであり,分会結成直後から月給制獲得を目指してきたCにとって到底受け入れ難いものであった。 支部,分会は,Cが被告に求めていた改善要求が実行されないため,改めて,同年2月25日付けで,被告に対し,今後の協議を進め,合意していく条件であるとして,経営改善のための要求事項を記載した要求書(甲12)を提出した。 カ平成14年3月16日に開催された第5回再建委員会において,分会は,①歩合給は受け入れられない,②フレックスタイムの導入もI営業所では難しい,③本件暫定協定の20パーセントの賃金カットを上回る賃金カットは認めないとの態度表明を行い,今後の交渉は団体交渉に切り替えて進めることとした。 同年4月13日に開催された再建会議には,分会員である原告Dが参加していたが,その席上,被告とB労組から「皆で決めたから。」との発言があり,同月23日の団体交渉において,被告とB労組の間で締結した協定に基づいて,歩合給を含む賃金切下げ提案をのむよう求めてきた。 Cは,被告に対し,再建委員会の申合せとして,協定は3者での統一協定とすることを合意しており,これを一切無視した行為は許されないものであり,今後の再建委員会は認めないし,出席しないと抗議した。 キ本件暫定協定締結以後,Cと被告の公式,非公式の話合いの中で,Cは,被告に対し,C組合員の賃金をはじめとした労働条件は,昭和62年10月の分会結成以降,労使協議を行い,労働協約を締結してきており,就業規則は補完的なものになっているから,被告がCとの合意なしに賃金カットをする ,C組合員の賃金をはじめとした労働条件は,昭和62年10月の分会結成以降,労使協議を行い,労働協約を締結してきており,就業規則は補完的なものになっているから,被告がCとの合意なしに賃金カットをする場合は,労働協約破棄の通告を行い,就業規則(給与規定)を整えて適用する必要があることを説明し,本件暫定協定の期間経過後の平成14年4月以降の賃金については,新賃金体系が合意されない場合は,平成13年11月までの労働条件に戻ることを再三伝えていた。これに対し,被告からは,具体的な意見と反論は示されなかった。 ク平成14年4月の賃金支給日が迫る中,被告は,B労組との間で締結した賃金協定に従い,原告らC組合員にも賃金を支給しようとした。 Cとしては,被告が再建途上であり,1か月間の本件暫定協定の延長を行い,その間に新賃金体系への合意ができればと考え,分会組合員の了解を取り付けたが,被告はこれに応じようとしなかった。 そこで,支部,分会は,被告に対し,Cと被告は労働協約で労働条件を決定してきており,本件暫定協定後の新協定が締結されていない以上,本件暫定協定前の従前賃金を支払うよう要請した。 ケ本件暫定協定の期間経過後,被告と支部,分会との間で協議が整わないまま,被告は,賃金明細も交付せず,一方的にB労組と締結した協定に基づく賃金の仮払として,原告ら分会員の預金口座に振込みを行ってきた。 このように支払われた平成14年4月分以降の賃金は,C組合員にのみ20パーセント前後の賃金カットとなるものの,協定を締結したB労組の組合員には大幅な賃金カットとならず,むしろ増収となるようなものであった。 (2) 以上認定のとおり,本件暫定協定の第1項の文言は,平成13年12月から平成14年3月まで,一般社員の給与については20パーセントを減額することとし,その間に新賃金 となるようなものであった。 (2) 以上認定のとおり,本件暫定協定の第1項の文言は,平成13年12月から平成14年3月まで,一般社員の給与については20パーセントを減額することとし,その間に新賃金体系を被告と支部,分会間で定め,以後はそれに移行するという趣旨のものである。 そして,本件暫定協定締結に至る経緯としては,被告と支部との間では,I営業所におけるすべての労働条件について,あらかじめ協議の上合意に達した後に実行する旨の労働協約が締結され,歩合制から時間給による月給制に移行し,労働協約の締結によって毎年の賃金額が決定されていたところ,被告の経営状況が悪化し,経営破綻の危険もあるとの判断から,支部,分会としては,暫定的な賃金削減を認めつつ,その間に経営再建の話合いを行うこととして,被告との交渉に入ったものであり,被告からは,期間は平成13年12月から平成14年3月までの4か月,削減率は55パーセント,あるいは30パーセントとの提案があったのに対し,支部,分会は,30パーセントの削減は厳しいので,1年とか3年とかに期間を延長して,削減率を5ないし10パーセント程度と少なくしてはどうかと提案し,そのような交渉が積み重ねられた結果,本件暫定協定の締結に至ったものである。 その後,本件暫定協定の締結を受けて被告が従業員等に配布した書面には,平成13年12月から平成14年3月までの間の現行賃金体系の中での賃金カットである旨が記載されていた。 また,本件暫定協定締結以後の公式,非公式の話合いの中で,Cは,被告に対し,被告がCとの合意なしに賃金カットをする場合は,労働協約破棄の通告を行い,就業規則(給与規定)を整えて適用する必要があることを説明し,本件暫定協定の期間経過後の賃金については,新賃金体系が合意されない場合は,平成13年11月までの労働 場合は,労働協約破棄の通告を行い,就業規則(給与規定)を整えて適用する必要があることを説明し,本件暫定協定の期間経過後の賃金については,新賃金体系が合意されない場合は,平成13年11月までの労働条件に戻ることを再三伝えたが,被告からは,具体的な意見と反論は示されなかった。 以上の本件暫定協定の文言,本件暫定協定締結に至る経緯,本件暫定協定締結後の被告の配布文書の内容やCの説明に対する被告の応答状況等に照らせば,本件暫定協定の内容としては,従前の賃金から20パーセント削減する期間は,平成13年12月分から平成14年3月分までの4か月分に限定されていたものであり,その期間内に新賃金体系の合意に至れば,それに移行するが,合意に達しない場合には,本件暫定協定による賃金減額の効果は終了するという趣旨のものであったと解するのが相当である。 (3) これに対し,被告は,本件暫定協定は,期間的には,確かに平成13年12月から平成14年3月までの間のものであるが,その間に,新賃金体系を協議,決定することとされていたもので,原告らも,被告再建のための賃金カットに応じるというものであるから,新賃金体系というものが,従前賃金より下がることは当然の前提とされていたものであり,期間中に協定ができなければ,当然,従前賃金が復活するというのは,当事者の意思解釈として合理性を欠くものであって,お互い誠意をもって新賃金体系の構築のために努力をして,その間は本件暫定協定の賃金を継続していくというのが,当事者の意思解釈に合致するものである旨主張し,被告代表者の乙10の陳述書にはこれに沿う記載がある(なお,被告代表者の乙11の陳述書及び被告代表者本人の供述は,被告としては,本件暫定協定の期間経過後は,新賃金体系の実施を考えていたものであり,C側も元の賃金に戻るなどということ に沿う記載がある(なお,被告代表者の乙11の陳述書及び被告代表者本人の供述は,被告としては,本件暫定協定の期間経過後は,新賃金体系の実施を考えていたものであり,C側も元の賃金に戻るなどということは考えていなかったと思うという趣旨のものであり,本件暫定協定の定めた期間中に新賃金体系の協定締結ができなかった場合には本件暫定協定の賃金をそのまま継続していく意思であったとするものではない。)。 しかし,前記認定のとおり,被告が本件暫定協定の賃金減額期間が経過した後に原告らに支払った賃金額は,本件暫定協定に従った額ではなく,被告がB労組との間で締結した賃金協定に基づいた額であったのであるから,そのこと自体から,本件暫定協定の期間中に新賃金体系の合意に達しなかった場合,期間経過後も本件暫定協定により減額された賃金が継続していくことが当事者の意思解釈に合致するとする被告の上記主張はたやすく採用することができないというべきである。 (4) なお,前記のとおり,本件暫定協定は,平成13年12月分から平成14年3月分までの4か月分について,従前の賃金から20パーセント削減し,その期間内に新賃金体系の合意に至れば,それに移行するが,合意に達しない場合には,本件暫定協定による賃金減額の効果は終了するという趣旨のものであったと解されるのであり,将来にわたって20パーセントの賃金減額をすることを合意し,その合意の有効期間を限定した趣旨のものとは解されないから,本件暫定協定によって,原告らの賃金額が将来にわたって確定的に20パーセント減額になることが合意され,これが原告らと被告の間の労働契約の内容をなしたものと解することはできず,本件暫定協定が定めた減額期間が経過した後も,減額合意の効果が労働契約の内容として存続するものと解することもできない。 さらに,前記のと と被告の間の労働契約の内容をなしたものと解することはできず,本件暫定協定が定めた減額期間が経過した後も,減額合意の効果が労働契約の内容として存続するものと解することもできない。 さらに,前記のとおり,被告代表者は,本件暫定協定の期間経過後は新賃金体系が実施されると考えていた旨述べるが,被告と支部,分会との間で,新賃金体系による労働協約の締結に至らなかった場合,被告において,就業規則たる給与規定の変更手続をとることなく,一方的に新賃金体系に基づいた賃金の減額を原告らに対して実施することができると解すべき根拠はない。 (5) 以上によれば,本件暫定協定が定めた減額期間が経過した後は,当然に従前の賃金体系が適用されることになるというべきである。 2 争点②(本件新賃金カットの有効性)について(1) 前記争いのない事実に,甲1,乙10,証人G,原告H本人,被告代表者本人及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下のとおりの事実を認めることができる。 ア被告は,平成14年8月に入り,再度,B労組幹部と未組織労働者に対して,新たな賃金カットを行うという通告を行った。この事態を受け,B労組の副委員長は被告を退職してしまった。 イ一方,被告は,Cに対しては,新たな賃金カットの提案を全くしなかった。すなわち,平成14年9月17日には,被告と支部,分会との間で,同年4月以降の賃金カットの件や被告の再建問題について話し合われたが,話合いの内容は,主に支部,分会側から,労使間の正常化を求めるものであり,その席上,被告から新たな賃金カットの提案は全くなかった。 ウところが,被告は,いきなり同年9月分賃金から本件新賃金カットを実施してきた。 その賃金減額は,従前賃金に比較して約40パーセント,本件暫定協定に比較しても約20パーセントに及ぶ大幅なものであった。 (2) ,被告は,いきなり同年9月分賃金から本件新賃金カットを実施してきた。 その賃金減額は,従前賃金に比較して約40パーセント,本件暫定協定に比較しても約20パーセントに及ぶ大幅なものであった。 (2) 被告は,被告の経営状況としては,3期連続で赤字を出し,長引く不況の中で,売上げが伸びず,融資を受けている銀行からも人件費の圧縮を強く要求されたものであり,本件新賃金カットを実施しなければ,資金繰りができず,倒産必至であり,企業の存続,従業員の雇用自体が危ぶまれるものであったから,いわゆる事情変更の法理が適用される特段の事情がある場合に該当し,本件新賃金カットは有効である旨主張する。 しかし,労働組合の同意が得られないため労働協約の締結という方法によっては賃金の減額が実施できないが,賃金を減額しなければ,企業の存続,従業員の雇用自体が危ぶまれるという場合,その減額に合理性が認められるのであれば,就業規則たる給与規定の変更という方法によることが可能なのであって,そのような方法をとることなく,本件暫定協定による減額期間が経過したわずか5か月後に,本件暫定協定により減額された賃金額から更に約20パーセントもの大幅な減額を一方的に実施することについて,被告主張の事実をもって事情変更の法理が適用される特段の事情がある場合に該当するものとは到底認めることができない。 第4 結論以上によれば,原告らの請求は,すべて理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第1部裁判官橋本昌純 (別紙省略) 本昌純
▼ クリックして全文を表示