令和5年9月20日判決言渡令和4年(ネ)第10101号請求異議控訴事件(原審東京地方裁判所令和4年(ワ)第8439号)口頭弁論終結日令和5年7月19日判決 控訴人株式会社リプロライフ 同訴訟代理人弁護士松本賢人同能勢章 被控訴人株式会社北里コーポレーション 同訴訟代理人弁護士日野修男 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の控訴人に対する東京地方裁判所令和3年(ヲ)第80133号間接強制申立事件の執行力ある決定正本に基づく強制執行はこれを許さない。 3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は、被控訴人が、控訴人に対する確定判決(知的財産高等裁判所平成3 1年(ネ)第10008号。以下「本件判決」という。)に基づき、控訴人が本 件判決により禁止された行為をした場合に、控訴人に対し間接強制金の支払を命ずる旨の間接強制決定(東京地方裁判所令和3年(ヲ)第80133号。以下「本件決定」という。)を得たところ、控訴人が、本件決定につき、請求異議事由があると主張して、本件決定の正本に基づく強制執行の不許を求めた事案である。控訴人は、民事執行法36条1項による本件請求異議の訴えの提起に基 づく強制執行の停止 が、本件決定につき、請求異議事由があると主張して、本件決定の正本に基づく強制執行の不許を求めた事案である。控訴人は、民事執行法36条1項による本件請求異議の訴えの提起に基 づく強制執行の停止も申し立てた(東京地方裁判所令和4年(モ)第1363号)。東京地方裁判所は、上記申立てにつき、令和4年5月13日、750万円の担保を立てさせて、本件決定の執行力ある正本に基づく強制執行を民事執行法37条1項の裁判があるまで停止する決定をした。 原審が、令和4年9月13日、控訴人の請求を棄却し、東京地方裁判所が同 年5月13日にした前記強制執行の停止の決定を取り消す判決をしたところ、控訴人が原判決の取消し及び本件決定の執行力ある正本に基づく強制執行の不許を求めて本件控訴を提起した。 2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3のとおり当審における控訴人の主な補充主張を付加するほかは、原判決の「事 実及び理由」中、第2の2、3及び第3(原判決2頁6行目ないし10頁4行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決2頁24行目の末尾の次に「同判決は、同年4月14日に確定した(乙20)。」を加え、同3頁17行目の「15」の次に「、28」を、同頁22行目の末尾の次に「同決定は令和3年12月27日、控訴人に送達され た(乙14)。」をそれぞれ加え、同4頁3行目の「1項」を「本件決定主文第1項」と、同頁5行目の「2項」を「本件決定主文第2項」と改め、同頁22行目の「知的財産高等裁判所」の前に「被控訴人は、令和4年4月11日付けで、民事執行法27条1項に基づく条件成就による執行文付与申請を行い(乙13)、控訴人が本件決定の送達の日から2日以内に本件不作為義務 に違反したことを証明する 訴人は、令和4年4月11日付けで、民事執行法27条1項に基づく条件成就による執行文付与申請を行い(乙13)、控訴人が本件決定の送達の日から2日以内に本件不作為義務 に違反したことを証明する旨の文書(乙14)を提出したところ、」を加え、 同頁22行目の「令和4年4月」を「同月」と、同頁同行目の「本件決定」を「本件決定主文第2項」とそれぞれ改め、同頁25行目の「令和4年」の前に「被控訴人からの前記(2)ウの執行文付与申請に先立つ」を加える。 (2) 原判決5頁3行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「(4) 執行文付与に対する異議の訴え(乙28) 控訴人は、本件決定に基づく強制執行はこれを許さない旨の判決を求めて東京地方裁判所に執行文付与に対する異議の訴えを提起した(同裁判所令和4年(ワ)第12349号)ところ、同裁判所は、令和5年7月10日、同事件の争点は本件決定が控訴人に送達された日の3日後である令和3年12月30日以降、控訴人が本件不作為義務に違反したか否 かであるとした上で、証拠によれば、控訴人が同日以降、宣伝広告媒体において『100% survival』との表示をしてはならないとの本件不作為義務に違反したと認められるとして、控訴人の請求を棄却する判決をした。 同事件において、控訴人は、令和3年12月30日以降に表示された 『100% SURVIVAL』は本件判決言渡し以降に創設された控訴人における医療機関の認証制度である『100% SURVIVALCLUB』の文言の一部であり本件不作為義務の対象とはならないし、一般用語であるから本件不作為義務に違反しない旨などを主張していたが、同判決は、『100% SurvivalClub』ないし『10 0% SURVI あり本件不作為義務の対象とはならないし、一般用語であるから本件不作為義務に違反しない旨などを主張していたが、同判決は、『100% SurvivalClub』ないし『10 0% SURVIVALCLUB』は控訴人製品に関する事業と無関係にされたものということはできず、本件不作為義務に違反する旨などを判示した。 (5) 不起訴処分(甲67)控訴人につき、令和5年6月26日、東京地方検察庁検察官は、不正 競争防止法違反被疑事件について、同月12日に不起訴処分とした旨を 控訴人に告知した。」⑶ 原判決7頁21行目の「文言に」を「文言の」に改める。 3 当審における控訴人の主な補充主張(1) 原審は、「不作為義務に違反するおそれ」について検討したとはいえないから、審理不尽である。 原審は、これにつき、控訴人のホームページやTwitterなどの記載が存在するとだけ認定し、控訴人の、「生存率100%」や「100% survival」が一般的な用語にすぎないという主張について、控訴人製品に関する事業と無関係にされたものであるとはいえないとした。 原審の認定は、他の裁判例である、東京高裁の決定例(東京高裁平成23年 (ラ)第152号間接強制決定に対する執行抗告事件。平成23年3月23日決定。以下「東京高裁決定」という。甲8)と比較すると、「不作為義務に違反するおそれ」を判断するに際しての最低限の検討すらされておらず、濫用的な申立てを排除する機能について考慮していない。 本件不作為義務は、控訴人製品に関して、「解凍後100%生存」、「100% survival」、「100% Post-warmSurvival」、「achieving 100%、 literally 100%、sur して、「解凍後100%生存」、「100% survival」、「100% Post-warmSurvival」、「achieving 100%、 literally 100%、survival」及び「凍結卵を解凍した後の生存率100%を達成できる」旨の表示を禁止するものであるところ、「生存率100%」や「100% survival」などは一般的な用語であるから、その用語の使い方、使う場面、 前後の文脈、趣旨などを考慮することなしに「不作為義務に違反するおそれ」を判断することはできない。 しかし、原審はそれらを一切考慮しないまま、一般的用語として用いられたものではないと認定しており、不合理である。 また、原審は、一般的な用語として用いられたとはいえないことの理由とし て、控訴人製品に関する事業と無関係にされたものであるとはいえないという 曖昧な理由を挙げるが、そもそも本件不作為義務は、控訴人の製品に関してだけ及ぶものであり、控訴人の事業全般に及ぶものではない。控訴人製品とは関係しないが、控訴人の事業には関係するというものもあり得ることで、本件においては、まさにそのような場面での使用である。 したがって、本件不作為義務の対象が一般的な用語に対する表現規制であ るという性質に鑑みることなく、「生存率100%」や「100% survival」などの記載が存在するだけで「不作為義務に違反するおそれ」があると判断した原審の認定は、審理不尽である。 (2) 原審の認定によると、控訴人は「生存率100%」等の表現ができなくなり、控訴人の研究・開発が著しく阻害されてしまう。 定義や条件の設定にもよるが、少なくとも卵子凍結保存技術において、「生存率100%」を実現することは、科学的に不可能なことではない きなくなり、控訴人の研究・開発が著しく阻害されてしまう。 定義や条件の設定にもよるが、少なくとも卵子凍結保存技術において、「生存率100%」を実現することは、科学的に不可能なことではないのであって、それを目指すことは卵子凍結保存技術の発展に必要不可欠なものであるから、研究開発機関として当然の態度である。 控訴人は、卵子凍結保存のパイオニアであり、過去から現在に至るまでその 第一人者でもある控訴人代表者が設立した。控訴人は、社会的な使命をもって卵子凍結保存という最先端の分野で世界をリードするべく、日夜、研究・開発に励んでいるところ、その研究・開発活動の成果は、他の民間企業と同様に、自社のホームページにおいて発表されることになる。 仮に原審が認定したように、控訴人製品に関する事業と無関係にされたも のといえないならば、どのような趣旨であろうとも、「生存率100%」や「100% survival」などと表示するのが一切禁止されるとすると、今後、控訴人は、生存率100%を目指すいかなる活動においても、その研究成果を発表することができなくなる。そうなると、控訴人の卵子凍結保存に関する研究・開発活動が阻害されることとなり、学会発表や論文発表もできなくな るのであって、控訴人の学問の自由や表現の自由を不当に侵害されることに なりかねない。 したがって、控訴人の学問の自由や表現の自由を不当に侵害されることになりかねない原審の認定は不当という他ない。 (3) 原審においては、一審原告である控訴人も一審被告である被控訴人も不作為義務の違反の有無を争点として主張立証しているのに、原審はこれと異な る「不作為義務に違反するおそれ」の有無という別の争点を問題とし、しかもそのことを知りながら期日においてそのことを当事 不作為義務の違反の有無を争点として主張立証しているのに、原審はこれと異な る「不作為義務に違反するおそれ」の有無という別の争点を問題とし、しかもそのことを知りながら期日においてそのことを当事者に告げず、一審原告と一審被告が問題にする不作為義務の違反の有無がどのように争点と関連するかの関連性も明らかにすることなく結審し判決をしているが、その結果当事者は効果的な主張立証の機会を奪われたものであり、これは明らかに釈明義 務に違反し、当事者の手続保障を欠く違法な訴訟指揮である。原判決は、当事者の裁判を受ける権利への配慮を欠いた違法な判決である。 (4) 不作為を目的とする債務の強制執行としての間接強制決定をするための要件である「不作為義務に違反するおそれ」は、濫用的な申立てを排除するなどの消極的な機能を担うものとして運用されるところ(甲7)、被控訴人の本件 請求は濫用的申立てに該当するのであって、排除されなければならない。 そして、発生している事実に対応する不作為義務がそもそも不存在であるのに(義務の不存在)、その不作為義務違反を理由に申立てをしている点で違法であるところ、この問題は、請求権の存否・内容に関する争い(請求異議事由)として、本件の請求異議訴訟で争える問題であるというべきである。 この観点からすると、以下のとおり、控訴人には不作為義務に違反するおそれがなく、被控訴人の請求は権利の濫用である。 ア控訴人が「チャレンジ100(Challenge 100)」及び「100% survivalclub」を開始したのは、前訴の控訴審の開始後である平成31年4月であり、「チャレンジ100(Challen ge 100)」及び「100% survivalclub」に関する 記載が不妊治療施設の医 、前訴の控訴審の開始後である平成31年4月であり、「チャレンジ100(Challen ge 100)」及び「100% survivalclub」に関する 記載が不妊治療施設の医療関係者に誤信を生じさせるとの主張を被控訴人は行っておらず、そのような誤信が生じるか否かについて争点化されてもいないし、請求の趣旨として特定もされていない。 したがって、処分権主義の観点からすれば、それらの記載が不作為義務の対象に含まれず、不作為義務違反のおそれがないことは明らかである。 イまた、「チャレンジ100(Challenge 100)」に関する記載は、控訴人製品の品質そのものを示すものではなく、何らの誤信も生じさせないから、不作為義務の対象にはなり得ない。 控訴人のウェブサイトに記載された「チャレンジ100(Challenge 100)」は、「世界100施設、連続100凍結症例」の検証結 果として生存率100%を目指す試みであり、「100% survivalclub」はそれを実現した不妊治療施設を認証する制度であるが、ある製品を使用した場合の生存率に関する検証結果を掲載することは、控訴人に限らず、多くの団体で行われているところであり、控訴人製品に関する生存率についても、多くの団体で検証され、公表されている。いずれ の公表においても生存率100%の検証結果が出ているが、それらはあくまでも各団体における一定の条件下における検証結果であり、控訴人製品の品質そのものを示すものではなく、学会や自社のホームページにおいて、特定の製品を用いた生存率の検証結果を公表することは普通のことであり、被控訴人としてもこうした公表を抹消せよとは請求していない。 「チャレンジ100(Challenge 100)」は、連続100 の製品を用いた生存率の検証結果を公表することは普通のことであり、被控訴人としてもこうした公表を抹消せよとは請求していない。 「チャレンジ100(Challenge 100)」は、連続100症例(100周期もしくは100胚)で生存したという意味での生存率100%を目指す試みであり、上記の検証と同じく、100症例で100回生存したならばそれを生存率100%と表現するよりほかなく、上記の検証が許されて、控訴人の表示が許されないということはあり得ない。 ウ 「チャレンジ100(Challenge 100)」及び「100% s urvivalclub」については、平成31年4月に開始したもので、本件判決の主文の対象として判断されたものではない。 控訴人のウェブサイトに記載された「チャレンジ100(Challenge 100)」とは、世界連動企画である「ガラス化チャレンジ100」の取り組みに賛同してエントリーした施設等によって構成される任意団 体の名称のことであり、かかる任意団体を開始したのは平成31年4月である。 そして、「100% survivalclub」は、かかるチャレンジ100(Challenge 100)の取り組みの中での認定制度であり、これも平成31年4月に開始した。 「チャレンジ100(Challenge 100)」及び「100%survivalclub」のいずれについても、本件判決においては、判決の主文の対象とされず、判決理由中の判断において、チャレンジ100(Challenge 100)」が平成31年4月から開始された施策であること(51頁)、「チャレンジ100(Challenge 100)」 の卵子の生存率の判定方法が臨床において一般的に認められたものとは異なること )」が平成31年4月から開始された施策であること(51頁)、「チャレンジ100(Challenge 100)」 の卵子の生存率の判定方法が臨床において一般的に認められたものとは異なること(70頁)、「チャレンジ100(Challenge 100)」に参加した海外の医療機関であるジェネシスの報告に100回の試験すべてに生存が確認されたとの記載がある一方で「Collapsed」、「SHRINK」及び「notyetexpand@ET」の記載が あること(70頁)が触れられたにすぎない。なお、「Collapsed」、「SHRINK」及び「notyetexpand@ET」の記載については、凍結解凍の過程における正常な現象であり、「死滅」ではなく、「生存」を示すものであることは文献上明らかである(甲6)。 したがって、「チャレンジ100(Challenge 100)」及び 「100% survivalclub」については、本件判決におい ては、控訴人製品を使用すれば生存率100%を実現できるかどうかの争点における数ある根拠の一つとして扱われたにすぎないのであって、本件判決の主文の対象として判断されたわけではないから、かかる点からも、不作為義務違反のおそれはない。 エ 「100% SurvivalClub」は、慈善活動にすぎず、宣 伝広告に該当しないことからも、不作為義務違反のおそれがないのは明らかである。 控訴人は、卵子凍結保存のパイオニアであって、その第一人者でもある控訴人代表者が設立した。控訴人は、一人でも多くの不妊治療の患者を救いたいという社会的な使命をもって、卵子凍結保存という最先端の分野で 世界をリードするため、日夜、研究・開発に励んでいる。その研究・開発活動の成果は、自社の 、一人でも多くの不妊治療の患者を救いたいという社会的な使命をもって、卵子凍結保存という最先端の分野で 世界をリードするため、日夜、研究・開発に励んでいる。その研究・開発活動の成果は、自社のホームページにおいて発表されるが、自社だけでなく、志を同じくする医療機関においても、先端的な卵子凍結技術の成果を発表し、全世界の不妊治療患者に対してより良いIVF臨床応用を提供することで、社会的な使命を果たしたいと考えている。 「100% SurvivalClub」もこうした社会的な使命を実現する一つの手段として位置付けていることから、「100% SURVIVALCLUB 入会資格」(乙10)において、「REPROLIFEは技術講習を無償で提供しており、100% SurvivalClubは本質的に全世界の患者に対して、より良いIVF臨床応用を導入 し改善する慈善活動である」と規定する。「100% SurvivalClub」は「より良いIVF臨床応用を導入し改善する慈善活動」を行うことを目的とした任意団体なのであり、学術出版物などでクライオテック法と凍結保存による100%の生存率を積極的に提唱するのはそうした団体の性質からすれば当然のことである。「クライオテック法と凍結保 存による100%の生存率を積極的に提唱しようとするIVFセンター /クリニック/精子バンク」であることは、候補者の適格性の判断基準の一つにはなるが、例えば「多数の凍結胚移植サイクルを持つIVFセンター/クリニック(最低でも年間500件以上。1000件以上が望ましい。)」などの要素も考慮されるのであり、あくまでも総合考慮のもとで、上記の社会的使命を果たすに相応しい医療機関かどうかを判断している。 したがって、「100% Survi 00件以上が望ましい。)」などの要素も考慮されるのであり、あくまでも総合考慮のもとで、上記の社会的使命を果たすに相応しい医療機関かどうかを判断している。 したがって、「100% SurvivalClub」は、慈善活動を目的とした任意団体であるから、宣伝広告のツールでないことからも、不作為義務違反のおそれがないのは明らかである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、控訴人の請求については棄却すべきであると判断する。その 理由は、当審における控訴人の主な補充主張も踏まえ、次のとおり補正し、後記2のとおり当審における控訴人の主な補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中、第4の1及び2(原判決10頁6行目ないし12頁13行目)のとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決11頁23行目の「仮に」から同頁25行目の末尾までを次のと おり改める。 「民事執行法35条1項にいう債務名義に係る請求権の存在又は内容についての異議を主張するものとしても、同異議の事由は存在しないことが明らかである。」(2) 原判決11頁25行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。 「(2) 債務名義に基づく強制執行が権利の濫用と認められるためには、当該債務名義の性質、債務名義により執行し得るものとして確定された権利の性質・内容、債務名義成立の経緯及び債務名義成立後強制執行に至るまでの事情、強制執行が当事者に及ぼす影響等諸般の事情を総合して、債権者の強制執行が、著しく信義誠実の原則に反し、正当な権利行使の 名に値しないほど不当なものと認められる場合であることを要するも のと解するのが相当である(最高裁昭和59年(オ)第1368号同62年7月16日第一小法廷判決・裁判集民事151号4 名に値しないほど不当なものと認められる場合であることを要するも のと解するのが相当である(最高裁昭和59年(オ)第1368号同62年7月16日第一小法廷判決・裁判集民事151号423頁参照)。 これを本件についてみると、①債務名義の性質について、本件債務名義は、前記第2の2(2)アのとおり、控訴人は本件不作為義務に違反するおそれがあるとして、本件判決主文第2項のとおりの表示を禁止する もの(本件決定主文第1項)と、これを控訴人が送達の日から2日以内に履行しない場合に間接強制金の支払を命ずる旨(本件決定主文第2項)の決定である。 そして、②債務名義により執行し得るものとして確定された権利の性質・内容は、前記のとおり、本件不作為義務に違反してはならないとす るものと、これに違反した場合の間接強制金の支払であり、前記第2の2(2)ウのとおり、本件決定につき、令和4年4月25日、事実到来執行文が付されたものである。 ③債務名義成立の経緯については、前記第2の2(1)及び(2)のとおり、本件判決は、控訴人の広告に記載された表示につき、医療関係者がクラ イオテック法のプロトコールを遵守し控訴人製品を使用して正常な卵子等の凍結保存をした場合に、取引者、需要者である医療関係者において、融解後の生存率が100%になるという意味であるものと認識するものの、実際には、上記の場合に、融解後の生存率が100%になるとは限らないとの理由により、「解凍後100%生存」、「100% su rvival」等の記載部分につき、控訴人製品の品質及び内容を誤認させる表示であるとして、控訴人の広告に上記表示をする行為を不正競争防止法2条1項20号の不正競争に当たるとしたものである。その上で、本件判決は、その主文第2項において、本 製品の品質及び内容を誤認させる表示であるとして、控訴人の広告に上記表示をする行為を不正競争防止法2条1項20号の不正競争に当たるとしたものである。その上で、本件判決は、その主文第2項において、本件不作為義務に当たる内容である、控訴人は、ガラス化凍結保存容器及びそれと共に用いる凍結 液、融解液の広告、取引に用いる書類及びウェブサイトその他の宣伝広 告媒体において、「解凍後 100%生存」、「100% survival」、「100% Post-warmSurvival」、「achieving 100%,literally 100%,survival」及び「凍結卵を解凍した後の生存率100%を達成できる」旨の表示をしてはならないとしたものである。そして、仮執行宣言付きの本 件判決に執行文が付与され、この執行力のある本件判決の正本に基づき、本件不作為義務に違反するおそれがあるとして、間接強制の申立てがされ、これにつき本件決定がされ、それに対しては執行抗告がされたが、抗告棄却となったものである。 ④債務名義成立後強制執行に至るまでの事情としては、抗告審である 知的財産高等裁判所は、前記執行抗告において、前記第2の2(2)イのとおり、控訴人は、平成27年7月26日から令和2年7月31日までの間、控訴人製品の広告に「解凍後100%生存」、「100% survival」等の表示をしていたこと、控訴人がその後も控訴人製品に関する事業を継続し、令和3年11月16日時点において、控訴人のウ ェブサイトにおいて、「クライオテック法」に関し、「世界100施設・連続する100融解周期・生存率100%達成を目指す」、「“100%SURVIVALCLUB”」等の表示をしていたことが認められることからすれば、控訴人には本件 ク法」に関し、「世界100施設・連続する100融解周期・生存率100%達成を目指す」、「“100%SURVIVALCLUB”」等の表示をしていたことが認められることからすれば、控訴人には本件不作為義務に違反するおそれがあるものと認められるとしたものである。そして、同執行抗告審において、控 訴人は、控訴人の行っている行為につき不作為義務違反はない旨を主張したが、抗告審は、不作為義務に違反するおそれの立証があれば足りるとして控訴人の主張を排斥したものである。 ⑤強制執行が当事者に及ぼす影響としては、控訴人が、ガラス化凍結保存容器及びそれと共に用いる凍結液、融解液の広告、取引に用いる書 類及びウェブサイトその他の宣伝広告媒体において、本件不作為義務に 係る表示を行えなかったからといって、それが直ちに控訴人の事業に著しい支障が出るものとは認め難い。 以上の諸般の事情を総合すると、本件強制執行は、本件決定についての執行抗告審における判断を経てされたものであり、これら審理の過程に照らしても、被控訴人による強制執行が、著しく信義誠実の原則に反 し、正当な権利行使の名に値しないほど不当なものとは認められないというべきである。」(3) 原判決11頁26行目の「(2)」を「(3)」と改める。 2 当審における控訴人の主な補充主張に対する判断(1) 前記第2の3⑴について 控訴人は、原審は「不作為義務に違反するおそれ」について検討したとはいえないから審理不尽である旨を主張する。 しかし、控訴人がその主張に沿う証拠として提出する東京高裁決定(甲8)は、子の引き渡しの間接強制決定に対する執行抗告事件であり、同決定は、抗告審において不作為義務に違反するおそれについて検討したもの であり、請 主張に沿う証拠として提出する東京高裁決定(甲8)は、子の引き渡しの間接強制決定に対する執行抗告事件であり、同決定は、抗告審において不作為義務に違反するおそれについて検討したもの であり、請求異議の訴えである本件とは関係せず、その他既に判示した内容に照らしても、原審に審理不尽の違法はない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 (2) 前記第2の3⑵について控訴人は、原審の認定によれば「生存率100%」等の表現ができなく なり、学問の自由や表現の自由を不当に侵害するものとであり、不当である旨を主張する。 しかし、本件判決で定められた本件不作為義務の内容は、「解凍後100%生存」、「100% survival」等の記載部分につき、その記載の方法、配置、前後の文脈等から、医療関係者がクライオテック法のプ ロトコールを遵守し控訴人製品を使用して正常な卵子等の凍結保存をし た場合に、取引者、需要者である医療関係者において、融解後の生存率が100%になるという意味であるものと認識されるような表示を禁止しているにすぎず、このような不作為義務を定めたことをもって直ちに控訴人の学問の自由や表現の自由を制約するものとはいえないことは明らかである。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 (3) 前記第2の3⑶について控訴人は、原審には釈明義務違反の違法が存する旨を主張する。 しかし、前記のとおり、被控訴人による本件債務名義に係る強制執行が、著しく信義誠実の原則に反し、正当な権利行使の名に値しないほど不当な ものとは認められず、請求異議の訴えが認められるものではないから、原判決は結論において相当である。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 権利行使の名に値しないほど不当な ものとは認められず、請求異議の訴えが認められるものではないから、原判決は結論において相当である。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 (4) 前記第2の3⑷について控訴人は、被控訴人の本件請求は濫用的な申立てであるから、請求異議 訴訟において争い得るものであり、同請求は権利濫用に当たるものとして排斥されるべきである旨を主張する。 しかし、既に述べたとおり、被控訴人の本件債務名義に係る強制執行が権利の濫用ということはできない。 この点に関し、控訴人は、「チャレンジ100(Challenge 00)」等に関する記載は不作為義務の対象にはなり得ない、本件判決の主文の対象として判断されたものではない、「100% SurvivalClub」は慈善活動を目的とした任意団体であるから不作為義務違反のおそれがないなどと縷々主張するが、いずれの主張も上記判断に影響を与えるものではない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 3 前記認定及び判断は、控訴人のその余の主張によっても左右されるものではない。 4 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官東海林 保 裁判官 今井弘晃 裁判官 水野正則 今井弘晃 裁判官 水野正則
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