主文 被告人Aを懲役3年に,被告人Bを懲役1年2月に,被告人Cを懲役3年に処する。 この裁判確定の日から,被告人Aに対し5年間,被告人Bに対し3年間,被告人Cに対し5年間,それぞれその刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人Aは,昭和62年から平成11年4月19日まで,広島県高田郡〇〇町大字〇〇△△番地の△所在の甲農業協同組合の組合長として,甲農協の業務全般を統括管理し,甲農協が行う貯金担保貸付けを除く融資につき決裁権を有していた者,被告人Bは,同年6月まで甲農協の金融課長として,上記の融資につき立案の職責と権限を有するとともに,金融課職員を指揮し,資金の融資及び債権の保全回収等の業務を担当し,また,同年4月19日に被告人Aが甲農協の組合長を辞任した後,同年6月5日に新組合長が就任するまでの間,甲農協組合長が有する融資に関する決定権を実質的に行使していた者,被告人Cは,有限会社乙及び株式会社丙の代表取締役などとして,Dとともに結婚相談事業を営んでいた者であるが,甲農協の組合資金の貸付けに当たっては,あらかじめ,貸付金を確実に回収できるよう,確実かつ十分な担保を徴するなどの措置を講じることとされていたにもかかわらず,第1 平成11年3月2日ころ及び4月1日ころ,配電盤製作,製缶等の事業を営んでいた有限会社丁は,平成8年7月1日から3年連続で経常損失を計上し,平成10年6月末日には1億円を上回る債務超過に陥っており,その後も同社の経営状態が改善する見通しがなかった上,甲農協の融資規程等によれば,当時,同社の共同経営者であったE及びFらの所有する不動産を担保として融資することができる額は,最大に見積もっても7316万2353円であったのに対し,甲農協が同社 上,甲農協の融資規程等によれば,当時,同社の共同経営者であったE及びFらの所有する不動産を担保として融資することができる額は,最大に見積もっても7316万2353円であったのに対し,甲農協が同社の事業資金として上記E名義で融資した貸付金残高は平成11年2月末には2億1805万3672円に達し,同社にも上記E及び上記Fらにも債務の引当てとなるべき財産がなく,将来の収入も期待できない状態にあり,既存の貸付金すら回収が強く危ぶまれる状態であったにもかかわらず,上記E及び上記Fは,上記の事情を知悉し,本来ならば新たな融資を受けられないことを知りながら,同社の破綻の表面化を避けるため,甲農協から融資を受けたいと考え,上記Eが甲農協に対し,同社のために,同年3月2日ころに1284万円,同年4月1日ころに1312万円の融資を受けたい旨それぞれ申し込み,被告人Aは,同社からの融資要求を拒否して,既存の貸付金の返済が焦げ付くことになれば,同人がこれまで同社に対して行ってきた無理な融資の在り方に激しい非難が集中し,自己の信用や名誉が失墜するばかりでなく,場合によっては甲農協に生じた損害の賠償を求められることになると考え,回収が極めて困難になるであろうことを知りつつ,新たな担保を徴することなく,同社に融資の利益を受けさせ,かつ,自己の信用や名誉が失墜したり責任追及を受けることを防ぐ目的で,同社に対する融資を継続することを決意し,それぞれ1284万円,1312万円を甲農協の資金からE名義で,実質的には同社に対して融資する旨決定して被告人Bにその実行を指示し,被告人Bは,被告人Aが自己保身の目的で,回収の見込みが極めて乏しいことが明らかな融資を決定したことを知りながら,同人の自己保身の目的を実現させるとともに,被告人B自身の同様の自己保身を図るため,上記各融 は,被告人Aが自己保身の目的で,回収の見込みが極めて乏しいことが明らかな融資を決定したことを知りながら,同人の自己保身の目的を実現させるとともに,被告人B自身の同様の自己保身を図るため,上記各融資を実行する手続を執り,いずれも事情を知らない甲農協係員を介して,同年3月5日及び同年4月5日,甲農協資金から,甲農協に開設した同社の普通貯金口座に上記各金額を振替入金し,焦げ付きのためその回収を極めて困難にし,もって,被告人A及び同Bは,上記E及び上記Fと共謀の上,被告人A及び同Bの任務に反し,上記4名の利益を図る目的で上記各融資を決定,実行し,甲農協に対し各貸付金相当額の財産上の損害を与えた第2 平成10年6月ころから,被告人Cが,被告人Aに対して,右翼団体の構成員であることを殊更に誇示した上,甲農協の前記丁に対する融資が不正である旨街頭宣伝を行うような構えを見せるなどしながら,暗に,上記不正融資を暴露しないことと引換えに,被告人Cが営んでいた結婚相談事業への融資を要求し,被告人Aは,丁に対する前記の一連の不正融資が露見すれば,同人のこれらの融資の在り方に激しい非難が集中し,自己の信用や名誉が失墜するばかりでなく,場合によっては甲農協に生じた損害の賠償を求められることになると考えて,自己保身の目的で,被告人Cの要求するがままに多額の融資要求に応じてきており,被告人B及び同Cもこれらの事情を知っていたところ, 1 平成11年3月28日ころ,甲農協から被告人C及び前記D名義で被告人Cに融資していた貸付金残高は既に合計1億7616万9913円に達していた上,有限会社乙は,毎月数百万円前後の損失を生じるという経営状態であり,また,甲農協の融資規程等によれば,被告人Cの所有する不動産を担保として融資できる額は,先順位抵当権の負担などを度外視した いた上,有限会社乙は,毎月数百万円前後の損失を生じるという経営状態であり,また,甲農協の融資規程等によれば,被告人Cの所有する不動産を担保として融資できる額は,先順位抵当権の負担などを度外視した上で最大に見積もっても1億3039万0520円にすぎないなど,担保不足も明らかであり,名義上の債務者である被告人C及びDにも,実質的な貸付先である有限会社乙にも,ほかに引当てとなるべき資産としては見るべきものがなく,既存の貸付金さえ回収が強く危ぶまれる状態にあって,本来ならば新たな融資を到底受けられないにもかかわらず,被告人Cは,上記の事情を知りながら,被告人Aに対して,同人が自己保身の目的で融資要求に応じるであろうと考え,甲農協からの2000万円の融資を求め,被告人Aは,被告人Cに対する融資を拒否すれば,同人からの返済が滞り,これによって同人に対する一連の不明朗な融資が明るみに出るなどして,自己の信用や名誉が失墜したり,民事上及び刑事上の責任を問われることになると考え,このような事態に陥ることを防ぐ目的で,被告人Cに対して甲農協の資金から2000万円を融資する旨決定して,被告人Bに対し,その融資を実行するよう指示し,被告人Bは,被告人Aが自己保身の目的で,回収の見込みが極めて乏しいことが明らかな融資を決定したことを知りながら,同人の自己保身の目的を実現させるとともに,被告人B自身の同様の自己保身を図る目的で,上記融資を実行する手続を執り,同月29日,事情を知らない甲農協係員を介して,甲農協資金から,広島市中区〇〇町〇番〇号所在の戊信用金庫〇〇支店の被告人C名義の普通預金口座に2000万円を振込入金し,焦げ付きのため回収不能にし,もって,被告人A,同B及び同Cの3名が共謀の上,被告人A及び同Bの任務に反し,被告人ら3名の利益を図る目的で上記 被告人C名義の普通預金口座に2000万円を振込入金し,焦げ付きのため回収不能にし,もって,被告人A,同B及び同Cの3名が共謀の上,被告人A及び同Bの任務に反し,被告人ら3名の利益を図る目的で上記融資を決定,実行し,甲農協に対し貸付金相当額の財産上の損害を与えた 2 同年4月28日ころ,当時既に前記第2の1の融資が実行され,その後,同年4月2日付けで根抵当権の極度額が2000万円増額された以外には,上記の事情に変動がなく,既存の貸付金さえ回収が強く危ぶまれる状態にあり,本来ならば新たな融資を到底受けられないにもかかわらず,被告人Cは,上記の事情を知りながら,被告人A及び同Bが前記第2の1と同様の自己保身の目的で融資要求に応じるであろうと考え,被告人Bに対して,甲農協からの5000万円の融資を申し込み,被告人Aは,同Cからの懇請を受けたことから,被告人Cに対する融資を拒否すれば,同人に対する既存の貸付金が回収不能となり,被告人Aが行ってきた一連の不正融資が明るみに出るなどして,自己の信用や名誉が失墜したり,民事上及び刑事上の責任を問われることになると考え,このような事態に陥ることを防ぐ目的で,被告人Bに対し,被告人Cへの5000万円の融資を実行するよう進言し,被告人Bは,当時,甲農協における融資の決定権を実質的に有していたところ,被告人Aが自己保身の目的で,回収の見込みが極めて乏しいことが明らかな融資を実行するよう進言していることを知りながら,同人の自己保身の目的を実現させるとともに,被告人B自身の同様の自己保身を図る目的で,前記D名義で,実質的にCに対して甲農協の資金から5000万円を融資する旨決定し,同月28日,甲農協資金から,〇〇県信用農業協同組合連合会あての額面1000万円の小切手を振り出して,これを被告人Cに交付し,更に同年5 的にCに対して甲農協の資金から5000万円を融資する旨決定し,同月28日,甲農協資金から,〇〇県信用農業協同組合連合会あての額面1000万円の小切手を振り出して,これを被告人Cに交付し,更に同年5月7日,事情を知らない甲農協係員を介して,甲農協資金から被告人C名義の前記普通預金口座に4000万円を振込入金し,いずれも焦げ付きのため回収不能にし,もって,被告人A,同B及び同Cの3名が共謀の上,被告人Bの任務に反し,被告人ら3名の利益を図る目的で上記融資を決定,実行し,甲農協に対し貸付金相当額の財産上の損害を与えたものである。 (事実認定の補足説明)第1 被告人Aの弁護人は,4件の融資すべてについて,被告人Aは,甲農協の利益のために行ったものであり,また,各融資当時,担保は十分に確保しているものと認識していた旨主張し,被告人Bの弁護人は,4件の融資すべてについて,いずれも被告人Bの立案の過程を経ないまま,被告人Aが決定したものであって,被告人Bは,この決定が正当なものと信じて,融資実行のための事務手続を行ったにすぎない旨主張し,被告人Cの弁護人は,被告人Cが関与した判示第2の2件の融資について,いずれも被告人Cは,被告人A及びBが適正な判断に基づいて融資を決定,実行してくれたものと考えており,また,当時は事業が行き詰まることによって借入金の返済が不能になるとは思っていなかった旨主張し,被告人らもそれぞれこれらに沿う供述をするので,以下に順次検討する。 第2 判示第1の各融資について 1 まず,関係各証拠によれば,以下の事実が明らかに認められる。 (1) 本件各融資当時,被告人A(以下「A」という。)は,甲農協の代表理事組合長であり,組合長の下には参事,金融課が置かれており,金融課長は,参事の指揮を受けつつ,課内職員を指揮し,金融課の (1) 本件各融資当時,被告人A(以下「A」という。)は,甲農協の代表理事組合長であり,組合長の下には参事,金融課が置かれており,金融課長は,参事の指揮を受けつつ,課内職員を指揮し,金融課の所管業務を担当することによって参事を補佐し,ほかの課長に対して機能的援助を行うことを基本的任務とすることとされており,被告人B(以下「B」という。)が金融課長であった。 甲農協では,貯金担保貸付けではない融資については組合長に決裁権があり,金融課長は,それについての立案(決定を要する業務について,必要な資料を整備し上位者に提示すること。)を遂行する責任があり,その遂行に必要な権限を持つこととされていた。 (2) 各単位農協が行う不動産の担保評価の方式としては,固定資産税評価額基準方式(土地については,固定資産税評価額を0.7で割って得た額を評価額とする方式。),売買価格基準方式,取引事例比較方式,不動産鑑定士評価方式などがあり,固定資産税評価額基準方式が一般的に利用されていた。また,甲農協の定めた融資事務手続では,土地の現況や建物の用途種目によって定められている一定の掛目を評価額に掛けて減額した額を担保価格とすることとされている。さらに,〇〇県信用農業協同組合連合会は,各単位農協に対し,貸付金元本だけでなく,未収利息や遅延損害金の回収を万全とするため,この担保価格に0.8を乗じた額を融資限度額とするよう指導しており,甲農協の融資事務手続では130分の100を乗じた額を融資限度額とする旨規定されている。 また,甲農協の融資規程及び融資事務手続には,融資手続や信用調査,担保評価,債権の管理等について詳細な規定が設けられ,融資に際しては,借入申込者や資金使途,償還能力,保証及び担保等について信用調査を行うことはもちろんのこと,原則 務手続には,融資手続や信用調査,担保評価,債権の管理等について詳細な規定が設けられ,融資に際しては,借入申込者や資金使途,償還能力,保証及び担保等について信用調査を行うことはもちろんのこと,原則として,連帯保証人や第一順位の担保権の設定を受けるなど,十分な担保を徴し,また,延滞者には新たな融資を行わないこととされており,さらに,事業資金の融資については,個人に対する融資よりも危険性が高いことから,特に調査及び審査の手続が厳しく定められている。 (3) E(以下「E社長」という。)は,有限会社丁(以下「丁」という。)の取締役社長であり,F(以下「F専務」という。)は,平成11年11月ころまで,同社の専務取締役という肩書を用い,E社長と共同して同社を経営していた。 丁は,配電盤や制御盤の組立て(以下「組配」という。)及びそれらを収納する金属製の箱の製造(以下「製缶」という。)の注文を受け,それを加工業者に外注する仲介業を営み,その後,組配の自製を手がけるようになったが,受注単価を切り下げられたり,納品後の手直しなどの負担も大きかったことから,平成7年9月ころ,価格変動が少なく利益率も大きい製缶の自製を手がけようと考え,平成8年8月ころ,製缶用機械を購入し,甲農協の組合長であったAと交渉して,甲農協の空き倉庫を賃借し,同年9月ころから,同倉庫を工場として製缶事業を開始し,さらに,甲農協から事業資金を借り入れるようになった。 しかし,その後も,丁の経営状態は好転せず,むしろ赤字幅が拡大することとなったため,E社長やF専務は,Aらに業務状況を報告していたほか,支払予定表,支払手形明細表,入金予定表などを甲農協に提出して融資を申し込み,Aはおおむねその希望どおり,事業資金として,ほぼ毎月数百万円から千数百万円を融資していたが,丁 状況を報告していたほか,支払予定表,支払手形明細表,入金予定表などを甲農協に提出して融資を申し込み,Aはおおむねその希望どおり,事業資金として,ほぼ毎月数百万円から千数百万円を融資していたが,丁には予定どおりの入金がないことが多かったため,BがAの指示により丁の工場に赴き,帳簿を調査したこともあった。 丁は,平成7年度には1725万3240円の経常損失が生じ,期末には約1700万円の債務超過に陥っていたところ,その後も,製缶業を中心とした事業内容に転換することができないまま,平成8年度には4592万4730円の経常損失を,平成9年度には5047万1728円の経常損失をそれぞれ計上していた。 (4) 平成11年2月末には,甲農協のE社長に対する貸付残高は2億1805万3672円に上っており,これらの債権を担保するために,甲農協を権利者として,E社長やF専務らの所有する18件の不動産に,極度額2億円の共同根抵当権が設定されていたが,これらの不動産の評価額は,固定資産税評価額基準方式(土地について固定資産税評価額を0.7で割って算出した額を評価額とする。)によれば,合計は9884万6166円であり,上記の方式による額と不動産業者による評価額とのうち高額なほうの合計によっても1億1938万6422円にとどまり,甲農協の融資事務手続に定める掛目を掛けて得られる担保価格は9145万2941円であり,この担保価格に0.8を掛けて得られる融資限度額は,先順位の担保権の存在を無視しても,7316万2353円にとどまっていた。 (5) E社長は,平成11年3月5日と同年4月5日とに,甲農協からそれぞれ1284万円,1312万円の融資を受けた。これらの融資の申込みの際に甲農協に提出された資金使途明細書等には,振出手形の決済資金,従業員の給料, 成11年3月5日と同年4月5日とに,甲農協からそれぞれ1284万円,1312万円の融資を受けた。これらの融資の申込みの際に甲農協に提出された資金使途明細書等には,振出手形の決済資金,従業員の給料,買掛金未払金,借入金返済等という資金使途と,それらの具体的金額とが示されていた。 (6) 丁の一連の借入れは,E社長個人の名義で行われ,丁やF専務が連帯保証人となったが,当時,E社長が所有する不動産はすべて甲農協の担保に入っており,また同人には丁からの報酬以外に収入がなく,F専務にも見るべき資産も収入源もなく,丁も著しい債務超過であって見るべき資産がなかった。 2 以上の事実を前提として,まず,Aの行為及び認識について検討する。 (1) 前記認定の事実によれば,丁は,本件各融資の当時,恒常的に手形決済や買掛金支払,従業員の給料の支払などの日常的な運転資金にも窮し,新たな借入れを受けてそれを運転資金等に充てており,その借入額も,丁の事業規模からみて過大であり,著しい債務超過に陥っていたのであって,実質的には経営が破綻していたというべき状態にあった上,甲農協が提供を受けていた担保からは,既存の貸付金を回収することすらできない状態にあり,また,E社長やF専務などからの回収も期待できない状態であったことが認められ,こうした状態にもかかわらず本件各融資を決定して実行させたAの行為は,客観的に見て,その任務に背き,本人である甲農協に損害を与える行為であることは明らかであり,また,主観的にも,Aがそうした認識を有していたことも優に認定することができる。 (2) これに対し,Aは,当公判廷において,丁の業績がいずれは回復するものと期待していた旨供述する。しかし,その根拠として縷々述べる内容は,いろいろな面でロスが大きかったことが分かったので,それらを 2) これに対し,Aは,当公判廷において,丁の業績がいずれは回復するものと期待していた旨供述する。しかし,その根拠として縷々述べる内容は,いろいろな面でロスが大きかったことが分かったので,それらを改善するように話し合い,改善に向ける丁の意欲を確かめながら融資していたというものにすぎず,上記の事実関係に照らして,業績回復の現実的な期待を持つ根拠とは到底なり得ないものであって,同人が20年以上にわたって甲農協の金融業務に関与し,自ら積極的に大口融資の可否を判断してきたという業務経験を有することを併せ考えれば,同人が,丁の業績回復の見込みが極めて乏しいことを認識していたことは明らかであり,仮に業績回復の期待を持っていたとしても,それは具体的根拠のない願望にすぎないものと理解していたと認めるべきである。 (3) また,Aは,本件各融資当時,十分な担保を取っていると認識していた旨供述する。 そこで検討するに,前記認定のとおり,本件各融資当時には,甲農協からE社長に対する貸付残高は既に2億円を超えていたところ,それに対する担保として提供された不動産の担保価格の合計はその半分程度,融資規程上の融資限度額の合計は3分の1程度であったばかりでなく,Aは,根抵当権の極度額を2億円に増額した後は,融資額が増加の一途であったにもかかわらず,根抵当権の極度額の増額や新たな担保の徴求を行っていないことに加えて,AがE社長やF専務らに対して,度々,丁は担保が足りないと話していたことにかんがみれば,本件各融資の時点において,既に担保不足に陥っていることを認識していたことは明らかである。 この点につき,Aは,当公判廷において,担保評価の方法として,〇〇町内の不動産については,Aが個人的に聞き知った取引価額を基準として判断し,町外の不動産については,固 たことは明らかである。 この点につき,Aは,当公判廷において,担保評価の方法として,〇〇町内の不動産については,Aが個人的に聞き知った取引価額を基準として判断し,町外の不動産については,固定資産税評価額の2倍ないし3倍としたり,知り合いの不動産業者に問い合わせて評価をしていた旨供述する。 しかし,固定資産税評価額は,一般に実勢価格の7割程度と言われているのであって,Aも業務経験上,その程度の知識は有していたはずである上,監査等で担保評価を客観化するよう再三指摘されていたにもかかわらず,本件各融資の決定や根抵当権の設定,極度額増額などに際して,固定資産税評価額を調査したり,不動産の現況調査を行ったりするなど,不動産価額についての客観的資料を整えたりした形跡がないばかりか,Bに対しても,単に担保を取っておくようにとの抽象的な指示を繰り返しただけであり,また,Aの意を体して行動していたBも,F専務に対し,既に先順位抵当権が設定されているその兄名義の不動産に抵当権を設定した際,「2番でも10番でもええんよ。監査があるから抵当権をつけてくれんと困るのよ。」などと答えるなど,相当額の担保権を設定しているという形式を整えることが主目的で,担保不動産からの回収可能性を考慮しない態度を取ったことに照らせば,Aもまた同様の認識を有していたものと認められる。 これらの事実によれば,Aの上記弁解は到底信用することができない。 (4) また,Aは,本件各融資は,丁の倒産により甲農協に生じる損害を回避する目的で行ったものであって,自己図利目的又は第三者図利目的はなく,むしろ本人である甲農協の利益を図ることを主たる目的としていた旨弁解する。 そこで検討するに,当時,客観的に見て,追い貸しを続けて,その場では丁の倒産を回避できても,将来 三者図利目的はなく,むしろ本人である甲農協の利益を図ることを主たる目的としていた旨弁解する。 そこで検討するに,当時,客観的に見て,追い貸しを続けて,その場では丁の倒産を回避できても,将来的に丁が経営を立て直し,追い貸しした以上の金額を返済できるに至るという具体的期待はなく,そのことはAも認識していたと認められる一方,丁に対する融資の焦げ付きが明るみに出れば,自ら監査結果を無視して規程に違反し,十分な担保を取らないまま追い貸しを続け,多額の焦げ付きを生じさせたAに,組合員らから激しい非難が集中することは明白であるばかりでなく,Aが甲農協の組合長の職を追われ,甲農協に生じた損害の賠償責任を追及され,さらには刑事責任まで問われる事態に至る具体的可能性が大きいことは,何人といえども当然予測できるのであって,上記の認識の下で,あえて融資を継続したのは,丁が倒産して自己の不正融資が露見することを避ける目的によるものと言わざるを得ない。 なお,弁護人は,自己の信用や名誉が失墜し,民事上及び刑事上の責任を問われるおそれなるものは一般的なものであって,本件各融資の動機となり得ない旨主張するが,上記のように,Aにとっては極めて深刻な事態に至る現実的で具体的な可能性があったのであるから,弁護人の主張は理由がない。 3 続いて,Bの行為及び認識について検討する。 (1) まず,Bの権限について検討するに,甲農協の経営管理規程によれば,金融課長には,貯金担保融資ではない融資に際して立案の権限と職責が与えられているところ,融資について審査する際に作成される借入相談受付票(兼事前協議書)には,担当者の意見欄が設けられており,稟議の際には,上位役職者が順次その意見の当否を検討することを予定した体裁を取っていることをも併せ考えれば,金融課長には, される借入相談受付票(兼事前協議書)には,担当者の意見欄が設けられており,稟議の際には,上位役職者が順次その意見の当否を検討することを予定した体裁を取っていることをも併せ考えれば,金融課長には,単に資料を整理して決定権者に提示するだけではなく,融資の当否を判断するために必要な実質的な資料を収集するなどして,融資の当否につき意見を形成した上で,上位者に資料を提示し,意見を具申することにより,上位者の適正な判断に資することが要請されていると認められる。 してみると,前述のとおり,既にE社長に対する貸付残高合計が共同根抵当権の極度額を超過していただけでなく,他に実質的に債権回収のための引当てとなる人的,物的担保を確保できる具体的な見込みもなく,丁が既に事業規模と比較して過大な債務を負担し,実質的に破綻状態に陥っていることを認識しながら,反対意見を述べたり,融資の打切りを進言することもなく,融資の申込みを取り次いだ上,組合長の融資の決定が明らかに不当であるにもかかわらず,融資の決定をそのまま実行したBの行為は,客観的には,金融課長の任務に違背すると言わざるを得ない。 (2) 次に,背任の故意の有無について検討する。 まず,Bは,Aの決定が適切だと信じていた旨主張する。しかしながら,Bは,その職務上,本件各融資の当時,E社長から提出されるメモなどを見たり,貸付残高を調査するなどして,E社長に対する融資の状況や,丁の経営状態などを知り,丁側からの債権回収の見込みが極めて乏しいことを認識していたことは明らかであるだけでなく,再三の監査結果などを通じて,Aの融資決定の在り方が,甲農協の規程等に照らして本来ならば容認できないほどの重大な規程違反であることの認識を持ち得るだけの事実に接していたのであって,さらに,B自身も,債務者側でさ などを通じて,Aの融資決定の在り方が,甲農協の規程等に照らして本来ならば容認できないほどの重大な規程違反であることの認識を持ち得るだけの事実に接していたのであって,さらに,B自身も,債務者側でさえ担保価値に疑問を抱いているような不動産について担保権を設定するに際し,抵当不動産の担保価値や担保余力があるかどうかは問題ではなく,監査で問題視されないような形式を整えることこそが目的であるとの認識を有していたことが認められるのであって,融資の決定に際してAの裁量の余地があることを差し引いても,Bが,Aの本件融資の決定が違法であることを認識していたことは明らかである。 (3) 次いで,自己図利目的・第三者図利目的の有無について検討する。 本件において,丁に対する融資を開始し,それを継続する旨判断したのはAであるところ,Bは,一連の融資が不正融資であることを認識しており,これが露見した場合には,Aが,組合長の地位を追われたり,多額の賠償責任や刑事責任の追及を受けるなど,激しい責任追及にさらされるであろうことは当然に認識していたものと認められる。そして,Bは,Aとともに長期間にわたって金融業務の中心を担当してきたものであり,Aの決定が違法であり,Aが自己保身の目的で一連の融資を決定していることを知りながら,金融課長として,これを止めることなく,唯々諾々とAに追随し協力してきたのであるから,B自身も,同様に責任を追及されることがあることを認識していたものと十分に認めることができる。 4 そして,上記の事情によれば,E社長及びF専務は,本件各融資は,その回収の見込みが極めて乏しく,甲農協に損害を与える融資であって,本来ならば許されないものであることを認識しつつ,金融の利益を得たいと考えて,甲農協の金融課の職員やBを介してAに対して本件各融資 その回収の見込みが極めて乏しく,甲農協に損害を与える融資であって,本来ならば許されないものであることを認識しつつ,金融の利益を得たいと考えて,甲農協の金融課の職員やBを介してAに対して本件各融資を申し込み,Aは,本件各融資を決定することが自己の任務に違背することを知りながら,自己保身の目的で,本件各融資を決定してBに実行を指示し,その指示を受けたBも,このようなAの意図を知り,あえて異を唱えずに本件各融資を実行したものであるから,これら4名の間に背任の共謀関係が存することは明らかである。 5 以上により,A及びBにつき,E社長及びF専務との共謀による背任の共同正犯が成立すると認められる。 第3 判示第2の各融資について 1 関係各証拠によると,前記第2において認定した事実に加えて,以下の事実が明らかに認められる。 (1) 被告人C(以下「C」という。)は,E社長が甲農協の管内に居住しておらず,准組合員になる資格がないにもかかわらず,甲農協が同人に対して十分な担保を取らないまま多額の融資を行っていることを聞き知り,平成10年6月下旬ころ,Aに対して,右翼団体の幹部であることを誇示して面談を求め,さらに,甲農協が行ったE社長に対する融資が不正融資である旨追及し,これを街頭宣伝することをにおわせながら,暗に不正融資を公表しないことと引換えにして,自己が経営する結婚相談事業の資金として1000万円の融資を要求した。 Aは,Cの追及を受けて,慌ててE社長らに対して担保の追加を強く要求する一方,数日後には,Cに対して500万円の融資を行うことを決定し,その旨をCに告げた後,事業計画書等の提出や担保の提供を求めた。 (2) 甲農協は,Cに対し,同年7月7日に500万円を,同月27日に更に500万円を融資し,これらに対する担保として, を決定し,その旨をCに告げた後,事業計画書等の提出や担保の提供を求めた。 (2) 甲農協は,Cに対し,同年7月7日に500万円を,同月27日に更に500万円を融資し,これらに対する担保として,Cの所有していた△△のマンションに極度額700万円の根抵当権を同年7月6日に設定した旨,同年8月3日に登記した。このマンションには,既に,住宅金融公庫が有する2120万円の債権を被担保債権とする抵当権や,Cの親族を権利者とする1800万円の債権のための抵当権設定登記がされていたが,Aは,Cに対して,上記マンションの固定資産税評価額証明書の提出を求めたり,先順位抵当権の被担保債権の残額を問い合わせたりすることはなかった。 (3) その後,甲農協は,同年9月29日に,C及びDの名義で各6500万円を,平成11年9月30日に元本を一括償還し,利息年5.2パーセントを毎月月末に支払う旨の約定で融資し,この債権を担保するため,同年10月21日に,Cが上記貸付金のうちから9296万4000円で購入した広島県廿日市市内のマンション1棟に抵当権を設定した。 (4) 同年3月28日ころ,Cは,甲農協を訪れ,Aに対して2000万円の融資を申し込んだところ,Aは,その場でCの申込みを了承し,直ちにBに対して,その実行を指示し,Bは,同月29日,その融資を実行した(判示第2の1の融資)。 (5) Aは,〇〇町長選挙に立候補するため,同年4月19日に組合長を辞任し,Gが組合長職務代行に就いたが,同人は,理事や職員に対して,組合の業務執行に関与しない旨公言し,Aから事務の引継ぎを受けることもせず,業務執行に関与することもなかった。 (6) 同月27日ころ,Cは甲農協において,Bに対して5000万円の融資を申し込んだが,Bは,Aの了承があればこれに応じるよう 務の引継ぎを受けることもせず,業務執行に関与することもなかった。 (6) 同月27日ころ,Cは甲農協において,Bに対して5000万円の融資を申し込んだが,Bは,Aの了承があればこれに応じるような口振りで,Aと面談するよう指示した。そこで,CはAと会い,甲農協からCに5000万円を融資してくれるようAに頼み込んだところ,Aは,当初は,既に組合長を辞任しているなどと言ってこれを断ろうとしていたものの,結局Cの懇請を受け入れ,Bに対して,甲農協からCに5000万円を融資するよう進言した。そこで,Bは,同月28日,1000万円の小切手を振り出して,これをCに交付し,更に同年5月7日,残りの4000万円をCの口座に振り込んで,融資を実行した(判示第2の2の融資)。 (7) C及びDに対する貸付残高の合計は,判示第2の1の融資直後の平成11年3月31日には1億9102万0399円となり,判示第2の2の融資直後の同年4月30日には,2億4487万0261円に達した。一方,これらの債権の担保として提供された△△のマンションと□□のマンションに設定されていた担保権の被担保債権額の合計は,平成11年3月31日現在で1億6700万円であり,その後の根抵当権の設定や極度額の増額により,同年4月2日には1億8700万円に,同年5月14日には2億3700万円に達したものの,これらの増額後も,上記の貸付残高をわずかながら下回っているだけでなく,これらの不動産の評価額は,固定資産税評価額基準方式によると1億3489万8918円,住宅ローン融資要項によると1億6298万8151円であるが,△△のマンションについては,その評価額を上回る先順位の抵当権が設定されているため,担保価値は全くなかった。 また,CやDには,上記のマンション以外に担保となるような財 万8151円であるが,△△のマンションについては,その評価額を上回る先順位の抵当権が設定されているため,担保価値は全くなかった。 また,CやDには,上記のマンション以外に担保となるような財産はなく,Cらが経営していた結婚相談事業は,平成10年10月以降,無理な経営拡大がたたって,ほぼ毎月数百万円の損失が生じるなど,大幅な赤字続きであった。 2 以上の事実を前提として,判示第2の1の融資に関するのAの行為及び認識について検討する。 (1) 前記認定のとおり,本件融資の当時,CとDに対する貸付残高は,その担保として提供された不動産の担保価格を上回り,明らかに担保割れの状態にあり,CやDの個人的資産や事業収入からの返済も期待できないにもかかわらず,事業内容や業績改善の見込みにつき,具体的な調査を全く行わないまま,更に追い貸しを行ったAの本件行為が,客観的に組合長の任務に反し,本人である甲農協に損害を与える行為であることは明らかであり,また,主観的にもAがそうした認識を有していたことを優に認定できる。 (2) この点,Aは,当公判廷において,本件融資当時,担保は十分であり,また,貸付金について返済を受けられると思っていた旨供述する。 しかしながら,Aは,△△のマンションについては固定資産税評価額や先順位抵当権の被担保債権の残額さえ調査せず,また,□□のマンションについては,Cから固定資産税評価額(1億2358万4835円)や家賃収入(月80万円ないし90万円程度)を示され,また実際の購入金額が1億円未満であることも認識していた上,同年4月27日ころにCが5000万円の融資を要求してきた際には,当初は融資を強硬に拒んでいたのに,Cが融資を受けられないのであればこのマンションを売らせてほしいと言い出したところ,一転して融資に ,同年4月27日ころにCが5000万円の融資を要求してきた際には,当初は融資を強硬に拒んでいたのに,Cが融資を受けられないのであればこのマンションを売らせてほしいと言い出したところ,一転して融資に応じたことに照らしても,□□のマンションが2億円以上の価値のある物件だと考えていたとの当公判廷での供述は信用できない。 また,Aは,Cが平成10年6月下旬ころに事業資金として1000万円の融資を求めてきたのに対して,同人が経営する結婚相談事業の実態や収益性を全く検討することなく,同人の求めるままに融資を実行したことに加え,□□のマンションを担保にした平成10年9月29日の合計1億3000万円の融資に際し,当時Cらに元本を1年後に一括返済できる見込みが全くなかったことは明らかであるにもかかわらず,元本を約1年後に一括返済し,利息のみ毎月末に支払うという不自然な返済条件を定めたものであって,これらの事実にかんがみれば,Aは,これらの元本の返済さえ期待していなかったことがうかがわれるほか,捜査段階では,Cから更に融資を要求されないよう,あえて根抵当権ではなく抵当権を設定した旨自ら供述しているのであって,Aが,平成11年3月28日ころの本件融資決定の当時,Cから既存の貸付金や本件貸付金の返済を受けられるという合理的な期待を抱いていたとは到底考えられず,むしろ返済を受けられなくなる可能性が高いことを認識していたものと認められる。 (3) Aの弁護人は,Aは,甲農協の損失を最小限に食い止めるために本件融資を行ったものであって,自己保身の目的はなく,仮にあったとしても従たるものである旨主張する。 しかしながら,前記認定のとおり,Aは,本件融資の当時,既にCらから返済を受けられなくなる可能性が高いことを認識していたと認められるだけでなく, あったとしても従たるものである旨主張する。 しかしながら,前記認定のとおり,Aは,本件融資の当時,既にCらから返済を受けられなくなる可能性が高いことを認識していたと認められるだけでなく,甲農協の組合長を辞任し,G組合長職務代行を経て,Hが組合長に就任した後も,2度にわたり,Cから融資の要求を受けて,Hに対し,返済の見込みがないことを説明しながら,Cへの融資を懇願して甲農協からの融資を決定させ,その後,更に融資を求めるCに対し,甲農協に融資をするよう頼むことはもはやできないと考え,自己の名義で甲農協から借入れをしてまで,Cに金銭を貸し付けていることをも併せ考えれば,AのCに対する融資は,丁に対する融資の実態を暴露されることを防ぐ目的で開始されたものであり,その後の一連の融資は,Cの経済的破綻により,Cに対して行ってきた不正融資が発覚して,自己の信用や名誉が失墜したり,経営責任や民事上及び刑事上の責任を追及される事態に陥ることを防ぐ目的で継続されていたものと明らかに認めることができる。 3 続いて,判示第2の1の融資に関するBの行為及び認識について検討する。 (1) Bの弁護人は,本件融資は,Bの立案の過程がないまま,決定権者であるAが決定したものであり,Bは決定済みの融資の実行手続を行ったにすぎないから,Bに任務違背の行為はなく,また,自己の行為が任務違背であることの認識や,自己又は第三者の利益を図る目的もなかった旨主張する。 (2) そこで検討するに,関係各証拠によれば,前述のとおり,当時金融課長であったBには,融資の当否を判断するために必要な実質的資料を収集するなどして,融資の当否につき意見を形成した上で,上位者に資料を提示し,意見を具申するなどして,上位者の適正な判断に資することが要請されていたと認められるところ, するために必要な実質的資料を収集するなどして,融資の当否につき意見を形成した上で,上位者に資料を提示し,意見を具申するなどして,上位者の適正な判断に資することが要請されていたと認められるところ,本件融資が客観的に見て回収の見込みがなく,到底許されない融資であることは明らかであり,また,金融課長として債権の管理等を担当していたBがそのことを認識していたことも明らかであるから,本件融資を実行したBの行為が,その任務に違背して甲農協に損害を与える行為であること及びBがその認識を有していたことを優に認定することができる。 そして,Bは,Cに対する一連の融資に関して,最初からCと接触した者であり,その際,Cが右翼団体に所属しており,E社長に対する融資が不正融資であると指摘されて威嚇され,CをAに引き継ぎ,両名が面談するきっかけを作った者である上,Aが,Cとわずか2回面談したのみで,同人に対する500万円の融資を決定した後になって,Cから事業計画書等の提出を受けたり担保を徴するようAから指示され,その後の一連の融資に際しても,Cからの融資の申込みがある都度,Aがほとんど即決で融資を決定し,Cが営む事業の実態やCが提供する担保の価値を具体的に調査したこともないことを知りながら,Aに指示されるままに多額の融資を実行してきたことが認められるのであって,これらの事実によれば,Bは,AがCからの融資申込みを拒否することによって,Cが丁に対する不正融資を暴露することを恐れてCに対する不正融資を開始し,その後は,Cが経済的に破綻することによって,AのCに対する不正融資が露見し,その結果,Aが,自己の信用が失墜したり,経営責任や民事上及び刑事上の責任を追及される事態に陥ることを防ぐために不正融資をしていることを認識した上で,これに協力するとともに,金融 不正融資が露見し,その結果,Aが,自己の信用が失墜したり,経営責任や民事上及び刑事上の責任を追及される事態に陥ることを防ぐために不正融資をしていることを認識した上で,これに協力するとともに,金融課長としてAの不正融資に協力しているB自身が同様の責任を追及されることを防ぐ目的で,Aに協力して融資を実行していたものであることが認められる。 4 次に,A及びBの判示第2の2の融資について検討する。 (1) 本件融資の当時,Aは既に組合長を辞任していたものの,後任のG組合長職務代行は業務執行に関与していなかったことから,A及びBが本件融資につきいかなる権限を有していたかが問題となる。 そこで検討するに,被告人らは,当公判廷において,辞任したAが,なおも組合長としての権限を実質的に行使していた旨供述する。しかし,Gは,理事会において組合長職務代行を引き受けるに際し,ほかの理事や参事,課長らに対し,非常勤で業務執行に関与しないという条件を明言しているところ,G自身,捜査段階において,業務は参事及び課長らに任せるつもりであった旨供述し,また,当公判廷においては,融資についてAの判断に任せていた旨供述を変遷させているものの,それは「理事で残っているA被告人がいるので安心だというような気持ちでいた」と供述する程度であること,Aが辞任するに際して,間をおかずに〇〇町長選挙の選挙活動に入ることや,当選後は町長としての執務を開始することは明らかであって,甲農協の組合長としての職務を実質的に担当できる状況にないことは当然の前提であったと考えられること,現実に,本件融資の当時,AもGも組合長の職務を行うために日常的に甲農協に出勤していたわけではなく,通常の融資等については,実質的な判断はBが行い,I参事がG組合長職務代行の印鑑を押印して形式的に決裁 に,本件融資の当時,AもGも組合長の職務を行うために日常的に甲農協に出勤していたわけではなく,通常の融資等については,実質的な判断はBが行い,I参事がG組合長職務代行の印鑑を押印して形式的に決裁をし,その判断についてGにもAにも何らの報告を行っていないことなどの事実が認められ,これらによれば,当時,融資に関する実質的な決定権はBにあったものと認められるところ,Cに対する融資については,Bの判断と責任において,それまでの経緯を熟知し,それまで組合長としてCに対応してきたAの判断を待ったにすぎないものと言うべきである。 (2) そして,判示第2の1の融資について検討したところと同様に,本件融資も客観的に甲農協に損害を与えるものであることは明らかであり,また,BやAもそのことを認識していたにもかかわらず,Aは,それまでのCらに対する不正な融資が明るみに出て,Aがその責任追及を受けることを防ぐために,Cに対する融資をするようBに進言し,前記各融資と同様,BもAの目的を知りつつこれに協力し,かつB自身の保身をも図る目的で,その任務に背いてCに対する融資を決定して実行したと認めることができる。 5 また,Cの弁護人は,判示第2の各事実につき,Cは,A及びBが適正な判断に基づいて融資を決定,実行してくれていたものと思っていた旨主張する。 そこで検討するに,関係各証拠によれば,Cは,十分な担保も事業実績もなく,また甲農協の管内に居住していないにもかかわらず,当初から,殊更に右翼団体の幹部であることを誇示して,AのE社長に対する不正融資を暴露するかのような威勢を示した上で,自己に対する融資を決定させ,その後も,CやDに見るべき資産がなく,その経営する結婚相談事業も大幅な赤字を出し続けていたにもかかわらず,Aらが具体的な信用調査を行うことなく, うな威勢を示した上で,自己に対する融資を決定させ,その後も,CやDに見るべき資産がなく,その経営する結婚相談事業も大幅な赤字を出し続けていたにもかかわらず,Aらが具体的な信用調査を行うことなく,Cの求めるがままに極めて多額の融資を続けており,その中には,不動産購入資金として,実際の購入代金を上回る融資を受けながら,その購入した不動産以外に担保を提供しないというような,通常の取引としては考えられない融資も含まれていたことが認められ,これらの事情をCが認識していたことは明らかである。 これらの事実によれば,Cが,同人に対する一連の融資が正常な経営判断の下では到底許されないことを認識していたことは明らかであって,A及びBが,E社長に対する不正融資を暴露されることを恐れて自己に対する融資を開始し,その後,これが焦げ付くことによって不正融資の実態が発覚することを恐れて,それを防ぐために,返済の見込みが極めて乏しい本件各融資を行ったことを認識していたと認めることができる。 6 そして,各弁護人は,判示第2の各融資についていずれも背任の共謀がなかった旨主張するが,上記の事情によれば,Cは,本件各融資が,甲農協に損害を与え,到底許されないものであることを知りながら,Aらが自己保身の目的で要求に応じるだろうと考えて融資を申し込み,判示第2の1の融資については,Aは,自己の任務に違背することを知りながら,自己保身の目的で融資を決定した上,Bにその実行を指示し,Bも,その指示を受けて,その決定がAの任務に違背し,また,その明らかに不当な融資を実行することが自己の任務に違背することを認識しながら,Aの意を酌んで融資を実行し,判示第2の2の融資についても,Aは,当時実質的に甲農協の組合資金の融資の決定権を有していたBの任務に違背することを知りながら, 自己の任務に違背することを認識しながら,Aの意を酌んで融資を実行し,判示第2の2の融資についても,Aは,当時実質的に甲農協の組合資金の融資の決定権を有していたBの任務に違背することを知りながら,自己保身を図るためにBに融資の決定及び実行を懇請し,Bも,その懇請を受けて,融資を決定して実行することが自己の任務に違背することを認識しながら,Aの意を酌んで融資を決定して実行したものであるから,C,A及びBは,背任の犯意を通じていたと認めることができる。 7 以上により,判示第2の各融資について,C,A及びBの3名による背任罪の共同正犯が成立すると認められる。 (法令の適用)(省略)(量刑の理由)本件は,甲農協の組合長を務めていたAが,本来ならば准組合員の資格がない会社経営者に対し,その事業の収益性を十分に検討せず,規程に反して十分な担保も取らないで融資を行い,その後,その事業が倒産の危機に瀕し,既存の貸付金についてさえ回収の見込みが立たなくなったにもかかわらず,同社が倒産すれば,それまでのずさんな融資が明るみに出ると考えて追加融資を行うことを決定し,金融課長であったBが,Aの意図を知りつつ,Aの指示するままに融資を実行した事案(判示第1),上記会社経営者に対する不正融資をかぎつけたCが,右翼団体の威勢を背景に事実を暴露されたくなければ融資をするようAに申し入れ,Aが,Cの経営する事業の実態を調査することもなく,Cの求めるまま,規程に反して十分な担保も取らないで融資を行っていたところ,同人に対する融資が焦げ付けばその実態が露見すると考えて,既に担保不足であって既存の貸付金についてさえ回収の見込みがないにもかかわらず,Cの要求するままに融資を決定し,Bがその融資を実行した事案(判示第2の1),及び,既に組合長を辞任していたAが,Cから 既に担保不足であって既存の貸付金についてさえ回収の見込みがないにもかかわらず,Cの要求するままに融資を決定し,Bがその融資を実行した事案(判示第2の1),及び,既に組合長を辞任していたAが,Cから更に甲農協からの追加融資を要求されたことから,当時実質的に甲農協の融資の決定権を有していたBに対し,融資の決定及び実行を進言し,Bが,Aの意図を察して,融資を決定して実行した事案(判示第2の2)である。 本件各起訴に係る融資は,いずれも多額であるが,その回収は事実上不可能な状態にあるのであって,本件の直接被害だけでも重大である。そして,甲農協は,本件を含む一連の乱脈融資が主たる原因で破綻し,組合員が応分の負担を強いられるなど,地元社会に深刻な影響を与えたものであるところ,本件各融資が,その破綻の原因の一端にあることは明らかであり,その意味で,本件が及ぼした社会的影響は大きいと言わざるを得ない。 そして,Aは,自己のずさんな融資の実態が明るみに出て,その信用や名誉が失墜し,さらには民事上及び刑事上の激しい責任追及を受けることを恐れて,回収可能性を無視した不正融資を開始し,さらに,これらの不正融資を糊塗するため,本件各融資に及んでいるのであって,その動機に酌量の余地はない。 Aは,長期間にわたって,甲農協の組合長として,組合の経営の責任者であるのみならず,組合資金の貸付業務の中枢にもあったものであるが,その立場を悪用し,再三にわたって,甲農協の監事や上部監督組織による監査において,貸付業務の適正化や担保評価の客観化を要求され,また多額の貸付金が回収困難になる可能性を指摘されるなどしていたにもかかわらず,それらを全く無視して,〇〇町のためなどと強弁して,自己の親類縁者や支援者,農協の理事などに対し,規程を無視した多額の融資を行っていたものであっ になる可能性を指摘されるなどしていたにもかかわらず,それらを全く無視して,〇〇町のためなどと強弁して,自己の親類縁者や支援者,農協の理事などに対し,規程を無視した多額の融資を行っていたものであって,その行為は公私混同も甚だしいと言うべきものであって,その犯情は悪質と言わざるを得ない。 にもかかわらず,Aは,当初は背任の認識があった旨認めていたものの,その後次第に弁解の度を強め,事業内容の将来性を見込んで融資したものであるとか,担保価値は十分だと考えていたなどと強弁し,最後には明らかに虚偽の事実まで持ち出して背任の認識を有していたことを頑強に否認するに至ったものであり,反省の情は全く認められない。 次に,Bは,実質的に参事不在の中,金融課を束ねるベテラン職員として,融資決定の適正を期すため,適切な信用調査などを行い,組合長に意見を具申することが期待される立場であったにもかかわらず,不正不当な融資の発覚を恐れるAのために,規程に違反し,回収の見込みが極めて乏しいことが明らかな本件各融資を実行し,Aが組合長を辞任した後も,自ら不正融資を行ったり,後任の組合長に対して融資の継続を進言するなどして,Aの保身に協力するとともに自己の保身を図っていたものであって,やはり,その動機は正当化の余地のないものであり,任務違背の責任も軽微とは言えない。 次いで,Cは,Aの不正融資の実態を知るや,その弱みにつけ込んで,通常ならば受けられないような融資を受けようと考え,右翼団体の威勢を背景にしてAに迫って,返済の意思もないのに,常識的には考えられない無理な融資を強要し,本件起訴に係るだけでも7000万円の融資を得ているのであって,その自己中心的で短絡的な動機に酌量の余地はなく,また犯情も非常に悪質である。 これらの事情によれば,被告人らの刑事責任は決して 要し,本件起訴に係るだけでも7000万円の融資を得ているのであって,その自己中心的で短絡的な動機に酌量の余地はなく,また犯情も非常に悪質である。 これらの事情によれば,被告人らの刑事責任は決して軽くなく,特にA及びCについては,実刑をもって臨むべきとも考えられる。 しかし一方では,本件各融資は,理事会などによる甲農協の管理体制が機能せず,理事の一部が積極的にAに同調するという状況の中で行われたものであって,甲農協の側にも落ち度があることに加え,Aについては,丁に対する融資を開始した時点では,農協の空き倉庫の有効活用や農村地への企業誘致による活性化を図るという〇〇町活性化の目的を有していたこと,広く本件事件が報道され,〇〇町長辞職に追い込まれるなど,相当の社会的制裁を受けていること,前科前歴がなく,また再犯の可能性もないこと,甲農協の破綻について自己に責任があることは認識し,そのことにつき反省の言葉を述べ,損害の一部を弁償していること,組合長時代の業績を評価する声もあることなどの事情が認められ,Bについては,本件各融資への関与は積極的なものではなく,Aの主導により,主としてAの自己保身目的に協力するために行動していたにすぎないこと,Aとの職場における立場関係から同人の指示に従わざるを得なかった面があること,広く本件事件が報道され,既に甲農協を懲戒解雇され,退職金も受けられないなど,相当の社会的制裁を受けていること,前科前歴がなく,また再犯の可能性もないこと,甲農協の破綻の責任の一端があるとして,相当額の損害賠償を求められ,既に損害の一部を弁償していること,高血圧などの持病があることなどの事情が認められ,Cについては,一応事実は認めるなど,ある程度の反省の情が認められること,罰金刑の前科以外には前科がないことなどの事情が認められ,これ していること,高血圧などの持病があることなどの事情が認められ,Cについては,一応事実は認めるなど,ある程度の反省の情が認められること,罰金刑の前科以外には前科がないことなどの事情が認められ,これらを考慮すれば,被告人らを実刑に処するのはやや酷に過ぎるから,それぞれ主文程度の執行猶予付きの刑に処し,社会内で贖罪の生活を送らせるのが相当であると考えられる。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑-Aにつき懲役4年,Bにつき懲役2年,Cにつき懲役3年)平成14年5月31日広島地方裁判所刑事第一部裁判長裁判官山森茂生裁判官髙原章裁判官寺元義人
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