平成26年5月27日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成24年(ワ)第28201号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成26年3月18日判決東京都中央区<以下略>原告 日本鋳鉄管株式会社同訴訟代理人弁護士 石戸孝則同訴訟代理人弁理士石橋良規同補佐人弁理士 石川泰男名古屋市中区<以下略>被告 新東工業株式会社同訴訟代理人弁護士 杉山直人同補佐人弁理士 白銀 博主文原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。事実及び理由第1 請求被告は,原告に対し,2667万円及びこれに対する平成24年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2 事案の概要本件は,原告が,被告に対し,被告による鋳鉄の製造設備製品の販売が原告の特許権の侵害に当たる旨主張して,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償を求める訴訟である。 1 争いのない事実等(後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実を含む。)(1) 当事者原告は,主にダクタイル鉄管,ダクタイル鋳鉄異形管及びダクタイル鉄蓋等の開発,製造及び販売等を目的とする株式会社である。被告は,主に鋳造装置及び表面処理装置等の製造及び販売を目的とする会社である。(2) 原告の特許権(甲1~3)ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許を「本件特許」という。)の特許権者である(本件特許の特許出願の願書に添付された明細書及び図面につき原告による補正及び訂正(平成24年2月24日確定)後のもの 特許権」といい,本件特許権に係る特許を「本件特許」という。)の特許権者である(本件特許の特許出願の願書に添付された明細書及び図面につき原告による補正及び訂正(平成24年2月24日確定)後のものを「本件明細書」という。)。登録番号特許第3685781号出願日平成14年11月19日(特願2002-334665号)登録日平成17年6月10日発明の名称ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備イ本件特許の特許請求の範囲(上記補正及び訂正後のもの)の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本件発明」という。)。「溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と,保持炉に貯留されていた元湯を受ける取鍋と,取鍋内の元湯に黒鉛球状化剤を添加する,ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置と,を備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備であって,前記保持炉と前記黒鉛球状化処理装置との間には,取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と,取鍋を移動させる取鍋移送手段と,が設置されており,前記取鍋は,前記搬送台車と前記取鍋移送手段との間を行き来し,吊り上げられることなく,前記搬送台車,前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置へ移動させられることを特徴とする,ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備。」ウ本件発明の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下,分説した構成要件を,それぞれ「構成要件A」などという。)。A 溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と,保持炉に貯留されていた元湯を受ける取鍋と,取鍋内の元湯に黒鉛球状化剤を添加する,ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置と,を備えたダクタイル鋳物用溶融鋳 溶解された元湯を貯留する保持炉と,保持炉に貯留されていた元湯を受ける取鍋と,取鍋内の元湯に黒鉛球状化剤を添加する,ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置と,を備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備であって,B 前記保持炉と前記黒鉛球状化処理装置との間には,取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と,取鍋を移動させる取鍋移送手段と,が設置されており,C 前記取鍋は,前記搬送台車と前記取鍋移送手段との間を行き来し,吊り上げられることなく,前記搬送台車,前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置へ移動させられるD ことを特徴とする,ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備。(3) 被告の行為被告は,遅くとも平成20年8月頃までに,株式会社コヤマに対し,鋳鉄の製造設備(以下「被告製品」という。)を販売した(被告製品の構成については争いがある。)。 2 争点及び争点に関する当事者の主張本件の争点は,(1) 被告製品の構成及び構成要件A~Cの充足性,(2) 無効理由の有無,(3) 原告の損害額であり,争点に関する当事者の主張は,次のとおりである。(1) 争点1(被告製品の構成及び構成要件A~Cの充足性)について(原告の主張)ア被告製品の構成は別紙「被告製品の構成1」記載のとおりである。イ構成要件Aの充足性(ア) 本件明細書において,「保持炉」は,溶解炉で溶解された元湯を鋳造設備で鋳造される前に一旦収容する容器であって,温度や成分等を均質化させるために元湯を加熱することが可能な炉であるとされていること(段落【0004】,【0019】)からすれば,取鍋に受ける元湯が成分調整されたものであるかが重要となる。 あって,温度や成分等を均質化させるために元湯を加熱することが可能な炉であるとされていること(段落【0004】,【0019】)からすれば,取鍋に受ける元湯が成分調整されたものであるかが重要となる。したがって,構成要件Aの「保持炉」は,元湯を貯留,滞留させて温度や成分等を均質化させる成分調整を行う炉を意味し,成分調整と共に溶解を行う炉を含む。被告製品の高周波誘導炉は,溶解のみならず成分調整を行う炉であるから,構成要件Aの「保持炉」に当たる。(イ) 被告製品は,保持炉である高周波誘導炉と,取鍋と,黒鉛球状化処理装置を備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備であるから,構成要件Aを充足する。 ウ構成要件Bの充足性(ア) 「取鍋移動手段」は,搭載した取鍋をその上で移動させる手段である。被告製品の受湯台は,その上で取鍋を移動させるものであるから,構成要件Bの「取鍋移動手段」に当たる。(イ) 「取鍋移送手段」は,取鍋を移動させる手段である。被告製品の取鍋駆動手段は,取鍋を移動させるものであるから,構成要件Bの「取鍋移送手段」に当たる。(ウ) 被告製品の搬送台車は構成要件Bの「搬送台車」に当たる。(エ) 以上によれば,被告製品は,保持炉である高周波誘導炉と黒鉛球状化処理装置との間に,取鍋移動手段である受湯台を有する搬送台車と,取鍋移送手段である取鍋駆動手段が設置されているから,構成要件Bを充足する。エ構成要件Cの充足性(ア) 「前記取鍋は,前記搬送台車と前記取鍋移送手段との間を行き来」するというために,取鍋が搬送台車と取鍋移送手段との間を往復することを要するものではなく,保持炉から黒鉛球状化処理装置へと取鍋を移動させる際の,取鍋移送手段から搬送台車への取鍋の移動又は搬送台車か るというために,取鍋が搬送台車と取鍋移送手段との間を往復することを要するものではなく,保持炉から黒鉛球状化処理装置へと取鍋を移動させる際の,取鍋移送手段から搬送台車への取鍋の移動又は搬送台車から取鍋移送手段への取鍋の移動のいずれかで足りる。被告製品の取鍋は,搬送台車(被告の主張する構成における受湯台搬送台車)から取鍋移送手段(取鍋駆動手段)に移動するものであるから,構成要件Cの「前記取鍋は,前記搬送台車と前記取鍋移送手段との間を行き来」に当たる。(イ) 以上によれば,被告製品の取鍋は,搬送台車と取鍋移送手段である取鍋駆動手段との間を行き来し,吊り上げられることなく,搬送台車,取鍋移動手段である受湯台及び取鍋移送手段である取鍋駆動手段によって保持炉である高周波誘導炉から黒鉛球状化処理装置へ移動させられるから,被告製品は構成要件Cを充足する。オ被告製品は,ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備であるから,構成要件Dも充足し,本件発明の技術的範囲に属する。(被告の主張)ア被告製品の構成は別紙「被告製品の構成2」記載のとおりである。イ構成要件Aの充足性(ア) 本件特許の特許請求の範囲の請求項1には「溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉」と記載されており,別の炉である溶解炉と保持炉を組み合わせて使用する二重溶解方式を前提としている。(イ) 被告製品の高周波誘導炉は単独溶解方式であり,溶解炉と保持炉が別々に設けられているわけではないから,構成要件Aの「溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉」に当たらない。ウ構成要件Bの充足性被告製品の受湯台は搭載した取鍋を受湯のために細かく制御すると共に取鍋を上下方向及び水平方向に移動させる機能を有するから,「取鍋移動手段」には当たらない。また ウ構成要件Bの充足性被告製品の受湯台は搭載した取鍋を受湯のために細かく制御すると共に取鍋を上下方向及び水平方向に移動させる機能を有するから,「取鍋移動手段」には当たらない。また,取鍋駆動手段は取鍋を移動させると共に取鍋を傾動させる機能を有するから,「取鍋移送手段」には当たらない。エ構成要件Cの充足性「行き来」とは往復することを意味するから,構成要件Cの「取鍋は,前記搬送台車と前記取鍋移送手段との間を行き来」するとは,搬送台車と取鍋移送手段との間で取鍋が往復することを要する。被告製品の取鍋は,搬送台車から取鍋移送手段への一方方向に移動するだけであるから,「行き来」に当たらない。オ以上のとおり,被告製品は本件発明の技術的範囲に属しない。(2) 争点2(無効理由の有無)について(被告の主張)本件特許には,以下のとおり,進歩性欠如の無効理由があるので,原告は本件特許権を行使することができない。ア無効理由1(ア) 平成9年2月に頒布された刊行物「FOUNDRYTRADEJOURNAL」に掲載された「METALTREATMENTDirectconversionofcupolameltedirontoductileironusingcoredwire」(乙5)記載の発明(以下「乙5発明」という。)と本件発明は,本件発明が「保持炉と黒鉛球状化処理装置との間に,取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と,取鍋を移動させる取鍋移送手段と,が設置されており,取鍋が,搬送台車と取鍋移送手段との間を行き来し,吊り上げられることなく,搬送台車,取鍋移動手段及び取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置へ移動させら る取鍋移送手段と,が設置されており,取鍋が,搬送台車と取鍋移送手段との間を行き来し,吊り上げられることなく,搬送台車,取鍋移動手段及び取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置へ移動させられる」のに対し,乙5発明は「取鍋が前炉(保持炉)からコアードワイヤ処理ステーション(ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置)まで搬送されることにつき,搬送のための具体的な構造が示されていない」点で相違し,本件発明のその余の点については一致する。(イ) 平成9年7月15日に頒布された特開平9-182958号公開特許公報(乙7。以下「乙7文献」という。)には,本件発明の「取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車」と「取鍋を移動させる取鍋移送手段」が開示されているから,乙5発明に乙7文献を組み合わせることで,上記相違点に容易に想到することができる。(ウ) よって,本件特許には,特許法29条2項違反の無効理由がある。イ無効理由2(ア) 昭和38年に頒布された刊行物「TRANSACTIONSoftheAmericanFoundrymen’sSociety」に掲載された「IMPROVEMENTSINPRODUCTIONOFDUCTILEIRON」(乙8)記載の発明(以下「乙8発明」という。)と本件発明は,① 本件発明が「黒鉛球状化処理装置がワイヤーフィーダー法によるもの」であるのに対し,乙8発明は「黒鉛球状化処理装置がプランジング法によるもの」である点,② 本件発明が「保持炉と黒鉛球状化処理装置との間には,取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と,取鍋を移動させる取鍋移送手段と,が設置されており 件発明が「保持炉と黒鉛球状化処理装置との間には,取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と,取鍋を移動させる取鍋移送手段と,が設置されており,取鍋は,搬送台車と取鍋移送手段との間を行き来し,吊り上げられることなく,搬送台車,取鍋移動手段及び取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置へ移動させられる」のに対し,乙8発明は「取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と取鍋を移動させる取鍋移送手段」が記載されていない点で相違し,本件発明のその余の点については一致する。(イ) 平成5年10月に頒布された刊行物「FOUNDRYMAN」に掲載された「InstallationofaproductionmagnesiumcoredwireinjectionstationatVald.BirnUKLtd」(乙9。以下「乙9文献」という。)には,プランジング法による黒鉛球状化処理装置に代えてコアードワイヤ(ワイヤーフィーダー法)による黒鉛球状化処理装置を用いることが記載され,乙8発明に乙5発明及び/又は乙9文献を組み合わせることにより,上記相違点①に想到することは容易である。また,乙8発明に乙7文献を組み合わせて上記相違点②に想到することは容易である。(ウ) よって,本件特許には,特許法29条2項違反の無効理由がある。(原告の主張)争う。(3) 争点3(原告の損害額)について(原告の主張)ア特許法102条2項による損害 2367万円被告製品の販売金額は少なくとも9000万円であり,利益率は26. 3%を下らない。したがって,本件特許権の侵害による原告の損害は23 告の主張)ア特許法102条2項による損害 2367万円被告製品の販売金額は少なくとも9000万円であり,利益率は26. 3%を下らない。したがって,本件特許権の侵害による原告の損害は2367万円と推定される。イ弁護士・弁理士費用 300万円よって,原告は被告に対し,2667万円及びこれに対する不法行為の後である平成24年10月23日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。(被告の主張)争う。第3 当裁判所の判断 1 争点1(被告製品の構成及び構成要件A~Cの充足性)について (1) 構成要件Aの充足性ア被告製品の構成には争いがあるが,被告製品において,高周波誘導炉がフィーダーから投入された原料(材料)を溶解して元湯とし,取鍋が高周波誘導炉から元湯を受ける構成を有することについては当事者間に争いがない(別紙「被告製品の構成1」及び「被告製品の構成2」参照)。原告は,被告製品の高周波誘導炉が,鉄源原料の溶解と共に,貯留した元湯の成分調整を行う炉であることを前提に,構成要件Aの「保持炉」は元湯を貯留して成分調整を行う炉であれば足り,溶解を行う炉と別に設けられたものであることを要しないとして,被告製品の高周波誘導炉が「保持炉」に当たると主張する。これに対し,被告は,「保持炉」は溶解を行う溶解炉と別に設けられた炉であることを要すると主張するので,「保持炉」の解釈がまず問題となる。イそこで検討するに,本件特許の特許請求の範囲には「溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉」と記載されており,その文言上,溶解炉と保持炉は別のものとされている。これに加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。(ア) 図解鋳造用語辞典( た元湯を貯留する保持炉」と記載されており,その文言上,溶解炉と保持炉は別のものとされている。これに加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。(ア) 図解鋳造用語辞典(社団法人日本鋳造工学会編。乙2の1及び2。)には次の記載がある。a 保持炉は,溶解炉で溶解した溶湯を一定の温度に保持し,鋳造機又は鋳型に注湯するために設置される炉をいう。ときには合金成分の調整や不純物の除去などを行うこともある。b 溶解炉は,固体金属を熱源で加熱して溶融金属に変える炉をいう。構造や熱源によって種々の形式の炉があるが,鋳造では鋳鉄にキュポラ,炭素鋼・低合金鋼にエルー式電気弧光炉,高合金鋼に高周波誘導炉,銅合金・軽合金にるつぼ炉・反射炉が主として用いられてきた。 その後,ばい煙の少ない低周波誘導炉や高周波誘導炉が各種金属に用いられるようになった。(イ) 本件明細書の発明の詳細な説明には次の趣旨の記載がある(甲1,3)。a 本件発明の属する技術分野は,ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を溶製する設備,詳しくは,溶融状態の鋳鉄を収容した取鍋を,クレーン等で吊り上げることなく移動させ,溶解炉で溶解された溶融鋳鉄(元湯)からダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を溶製する設備に関するものである。 (段落【0001】)b ダクタイル鋳物は,鉄スクラップを主たる鉄源原料としてキュポラ又は電気炉によって溶解された元湯に,金属Mg等の黒鉛球状化剤を添加して,C,Si,Mn,Mgを含有するダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を溶製し,これを遠心鋳造機等の鋳造設備によって鋳造することで製造される。溶解炉で溶解された元湯をダクタイル鋳物用溶融鋳鉄に溶製する際には,通常,溶解炉で溶解された元湯を一旦保持炉に装入し,保持炉で貯留,滞留させて温度や成分 の鋳造設備によって鋳造することで製造される。溶解炉で溶解された元湯をダクタイル鋳物用溶融鋳鉄に溶製する際には,通常,溶解炉で溶解された元湯を一旦保持炉に装入し,保持炉で貯留,滞留させて温度や成分等を均質化させた後に保持炉から所定量の元湯を取鍋に装入し,取鍋内で黒鉛球状化剤を添加する,又は取鍋内の元湯を分湯して分湯した元湯に黒鉛球状化剤を添加した後に元湯と併せることによって黒鉛球状化処理が行われており,従来技術において,元湯を収容した取鍋及び黒鉛球状化処理が施された後の溶湯を収容した取鍋は,クレーンやホイスト等によって吊り上げられて,保持炉や黒鉛球状化処理装置の間を搬送されている。(段落【0003】,【0004】)c このように,保持炉から黒鉛球状化処理装置を経て,元湯からダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を溶製する際に,溶湯はクレーン等の吊り上げ手段を有する搬送装置によって搬送されているため,搬送装置を運転する専用の操作員を必要とすると共に,作業の都度に玉掛け操作員の指示・合図を必要としており,労働生産性が必ずしも高い作業ではなく,製造コストを上昇させる要因となるという問題点があった。そこで,本件発明は,上記問題点を解決するため,ダクタイル鋳物を製造する際に,保持炉で貯留,滞留された元湯を取鍋に受け,次いで,ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置に搬送してダクタイル鋳物用溶融鋳鉄に溶製し,さらに,必要に応じて取鍋内のスラグを除去するまでの工程において,極めて少ない操作員で,取鍋の移動及び黒鉛球状化処理を行うことが可能なダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備を提供することを目的とする。(段落【0009】,【0010】)d 上記目的を達成するため,本件発明は,溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と,保持炉に貯留され タイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備を提供することを目的とする。(段落【0009】,【0010】)d 上記目的を達成するため,本件発明は,溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と,保持炉に貯留されていた元湯を受ける取鍋と,取鍋内の元湯に黒鉛球状化剤を添加するワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置とを備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備であって,保持炉と黒鉛球状化処理装置との間には,取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と,取鍋を移動させる取鍋移送手段と,が設置されており,取鍋は,搬送台車と取鍋移送手段との間を行き来し,吊り上げられることなく,搬送台車,取鍋移動手段及び取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置へ移動させられることを特徴とする。 (段落【0011】)e 本件発明の実施形態において,保持炉1とは,キュポラや電気炉等の溶解炉(図示せず)で溶解された元湯(溶融鋳鉄)を,遠心鋳造機等の鋳造設備で鋳造される前に一旦収容する容器であり,内壁が耐火物で構成され,低周波誘導等によって収容された元湯を加熱することが可能な炉である。黒鉛球状化処理装置8は,元湯に黒鉛球状化剤を添加して元湯中の黒鉛を球状化し,元湯からダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を溶製する装置である。実施形態の設備においてダクタイル鋳物用鋳鉄を溶製する際には,鉄スクラップ等の鉄源とコークス等の炭材とを原料として,キュポラあるいは電気炉等の溶解炉で元湯(溶融鋳鉄)を溶解し,必要に応じて脱硫処理して得られた元湯を一旦保持炉1に収容する。通常,溶解炉と保持炉1との間には,元湯の通過する湯道(図示せず)が設置され,元湯は連続的にあるいは間欠的に溶解炉から保持炉1に供給され,湯道には脱硫装置が設置さ れた元湯を一旦保持炉1に収容する。通常,溶解炉と保持炉1との間には,元湯の通過する湯道(図示せず)が設置され,元湯は連続的にあるいは間欠的に溶解炉から保持炉1に供給され,湯道には脱硫装置が設置されている。(段落【0019】,【0027】,【0028】及び【図1】)f 本件発明によれば,ダクタイル鋳物を製造する際に,保持炉で貯留,滞留された元湯を取鍋に受け,次いで,黒鉛球状化処理装置に搬送してダクタイル鋳物用溶融鋳鉄に溶製し,さらに,必要に応じて取鍋内のスラグを除去するまでの工程において,取鍋をクレーン等によって吊り上げる必要性がないため,ほとんどの作業を自動化することが可能となり,極めて少ない操作員で一連の作業に対処することが可能となる。その結果,省力化及び省力化に伴う生産性の向上が達成され,工業上有益な効果がもたらされる。(段落【0037】)ウ以上に基づいて構成要件Aの「保持炉」の意義を検討する。(ア) 本件特許の特許請求の範囲には,保持炉とは「溶解炉で溶解された元湯を貯留する」(構成要件A)ものであると記載されているところ,前記イ(ア)の文献の記載によれば,本件発明の属する技術分野においては,保持炉は「溶解炉で溶解した溶湯を一定の温度に保持し,鋳造機又は鋳型に注湯するために設置される炉」を,溶解炉は「固体金属を熱源で加熱して溶融金属に変える炉」を意味するものとして,それぞれ別個の炉であると認識されていると認められる。そうすると,特許請求の範囲の文言上,構成要件Aの「保持炉」は,鉄源原料を溶解して溶融金属に変える溶解炉とは別に設けられ,溶解炉で溶解された元湯を貯留する炉を意味すると解される。さらに,本件明細書の発明の詳細な説明を検討すると,① 従来技術において,溶解炉で溶解された元湯をダクタイル鋳 別に設けられ,溶解炉で溶解された元湯を貯留する炉を意味すると解される。さらに,本件明細書の発明の詳細な説明を検討すると,① 従来技術において,溶解炉で溶解された元湯をダクタイル鋳物用溶融鋳鉄に溶製する際には,通常,溶解炉で溶解された元湯を一旦保持炉に装入し,保持炉で貯留,滞留させて温度や成分等を均質化させた後に保持炉から所定量の元湯を取鍋に装入し,取鍋は,クレーンやホイスト等によって吊り上げられて,保持炉と黒鉛球状化処理装置の間を搬送されていたこと,② 本件発明は,従来技術における労働生産性を改善するために,溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と,保持炉に貯留されていた元湯を受ける取鍋と,ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化装置とを備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備において,取鍋が,保持炉から黒鉛球状化処理装置へ吊り上げられることなく移動されることを特徴とする構成を採用したものであること,③ 実施形態において,保持炉は,キュポラや電気炉等の溶解炉で溶解された元湯(溶融鋳鉄)を一旦収容する容器で,低周波誘導等によって収容された元湯を加熱することが可能な炉であり,キュポラあるいは電気炉等の溶解炉で得られた元湯を一旦保持炉に収容するが,通常,溶解炉と保持炉との間には元湯の通過する湯道が設置され,元湯は連続的にあるいは間欠的に溶解炉から保持炉に供給されることが記載されている。これらの各記載は保持炉と溶解炉が別の炉であることを示していることが明らかである。したがって,構成要件Aの「保持炉」は,鉄源原料を溶解して溶融金属に変える溶解炉とは別に設けられた炉であることを要するものと解するのが相当である。(イ) これに対し,原告は,取鍋に受ける元湯が成分調整されたものであるかが重要であり,「保持炉」は成分調整の機 属に変える溶解炉とは別に設けられた炉であることを要するものと解するのが相当である。(イ) これに対し,原告は,取鍋に受ける元湯が成分調整されたものであるかが重要であり,「保持炉」は成分調整の機能を有する炉であれば足りると主張するが,このような解釈によれば,溶解と成分調整を行う一つの炉が「溶解炉」にも「保持炉」にも該当することになり,「溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉」との特許請求の範囲の記載と相いれない。また,本件明細書(甲2,3)を精査しても,一つの炉が「溶解炉」と「保持炉」を兼ねることを示唆する記載は見当たらない。したがって,原告の主張は採用できない。エ被告製品の高周波誘導炉は,前記アのとおり,鉄源原料の溶解を行う炉であるから,溶解炉と別に設けられ,溶解炉で溶解された元湯を貯留する炉であるということはできない。したがって,これが貯留した元湯の成分調整を行うものであるとしても,構成要件Aの「保持炉」に当たるとは認められない。(2) 以上のとおり,被告製品は,構成要件Aにいう「保持炉」の構成を有していないから,本件発明の技術的範囲に属しない。 2 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第46部裁判長裁判官長谷川浩二裁判官清野正彦裁判官髙橋彩
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