平成21(ワ)6888 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成24年9月28日 大阪地方裁判所
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判決文本文61,810 文字)

主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y11,被告Y12,被告Y13及び被告Y14は,S社に対し,連帯して,56億0537万8746円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y11,被告Y12,被告Y13及び被告Y14は,S社に対し,連帯して,55億6606万2687円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y15,被告Y11,被告Y12,被告Y13及び被告Y14は,S社に対し,連帯して,55億6572万4395円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y15,被告Y11,被告Y12,被告Y13及び被告Y14は,S社に対し,連帯して,55億6534万4202円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y15,被告Y11,被告Y12,被告Y13及び被告H14は,S社に対し,連帯して,55億6501万7049円及 びこ Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10,被告Y15,被告Y11,被告Y12,被告Y13及び被告H14は,S社に対し,連帯して,55億6501万7049円及 びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (注)訴状送達日の翌日は,それぞれ以下のとおりである。 被告Y1,被告Y3,被告Y9,被告Y11,被告Y14及び被告Y2 平成21年6月25日被告Y6 平成21年6月26日被告Y4 平成21年6月27日被告Y5 平成21年7月2日被告Y7,被告Y8,被告Y10,被告Y15及び被告Y12平成21年11月18日被告Y13 平成21年12月8日第2 事案の概要本件は,S社(以下「S社」という。)が平成14年9月中間期から平成16年9月中間期までに行った配当(以下「本件配当」という。)について,株主である原告が,関係会社株式の減損処理等の会計処理が公正な会計慣行に準拠していなかったことによって配当可能利益がないのになされた違法配当であると主張して,配当を決議した取締役らに対して旧商法266条1項1号に基づく損害賠償,決議に欠席した取締役らに対して監視義務違反による同法266条1項5号に基づく損害賠償,監査役らに対して善管注意義務違反による同法277条に基づく損害賠償を請求した株主代表訴訟である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認定することのできる事実)(1) 当事者ア S社は,資本金 条に基づく損害賠償を請求した株主代表訴訟である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認定することのできる事実)(1) 当事者ア S社は,資本金3222億4231万9083円,発行済株式総数23億0090万9599株の取締役会設置会社,監査役・監査役会設置会社である。主として①各種電気機械器具及び電気照明器具及び電子部品,② 各種電子機械器具,通信器具及び電子部品,③電池及び電池応用製品などの製造,販売等を営んでいる(甲1)。S社においては,平成11年4月から,独立した会社のような権限と責任を持たせた企業体であるカンパニーの下に事業部や関係会社を置く体制(いわゆる「カンパニー制」)を採用していた。 イ原告は,本件提訴請求の日の6か月前から引き続きS社の株式を有する株主である。 ウ被告らは,本件配当当時のS社の取締役又は監査役であり,それぞれの地位の詳細は,別紙「平成15年3月末日当時の役員状況」,「平成16年3月末日当時の役員状況」,「平成17年3月末日当時の役員状況」記載のとおりである。 (2) 関係法令及び会計基準関係会社株式の減損処理(以下「関係会社株式減損」という。),貸倒引当金,関係会社損失引当金に関する関係法令及び会計基準は以下のとおりであった。 ア関係法令の要旨(ア) 商業帳簿ノ作成ニ関スル規定ノ解釈ニ付テハ公正ナル会計慣行ヲ斟酌スベシ(平成17年法律第87号による改正前の商法〔以下「旧商法」という。〕32条2項)金銭債権について取立不能のおそれがある場合には,その金銭債権が属する科目ごとに,取立不能の見込額を控除する形式で記載しなければならない(旧商法285条,平成18年改正前商法施行規則〔以下「商法施行規 債権について取立不能のおそれがある場合には,その金銭債権が属する科目ごとに,取立不能の見込額を控除する形式で記載しなければならない(旧商法285条,平成18年改正前商法施行規則〔以下「商法施行規則」という。〕56条1項本文,平成14年法律第44号による改正前の商法〔以下「平成14年改正前商法」という。〕285条の4第2項)。 (イ) 株式については,その取得価額を付さなければならない。市場価格の ない株式については,その発行会社の資産状態が著しく悪化したときは,相当の減額をしなければならない(旧商法285条,商法施行規則32条1項,3項,平成14年改正前商法285条の6第1項,3項)。 (ウ) 特定の支出又は損失に備えるための引当金は,その営業年度の費用又は損失とすることを相当とする額に限り,貸借対照表の負債の部に計上することができる(旧商法285条,商法施行規則43条,平成14年改正前商法287条の2)。 (エ) 平成18年法律第65号による改正前の金融商品取引法(以下「旧証券取引法」という。)の規定により提出される貸借対照表,損益計算書その他の財務計算に関する書類は,内閣総理大臣が一般に公正妥当であると認められるところに従って内閣府令で定める用語,様式及び作成方法により,これを作成しなければならない(同法193条)。 (オ) 旧証券取引法の規定により提出される財務諸表の用語,様式及び作成方法は,第1章から第6章までの定めるところによるものとし,財務諸表等の用語,様式及び作成方法に関する規則(以下「財務諸表等規則」という。)において定めのない事項については,一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うものとする(同規則1条1項)。 企業会計審議会により公表された企業会計の基準は,一般に公正妥当と認められる企 )において定めのない事項については,一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うものとする(同規則1条1項)。 企業会計審議会により公表された企業会計の基準は,一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に該当するものとする(財務諸表等規則1条2項)。 イ企業会計審議会により公表された企業会計の基準(ア) 企業会計審議会は,金融庁(当時の大蔵省)に置かれた審議会であり,企業会計の基準及び監査基準の設定,原価計算の統一,企業会計制度の整備改善その他企業会計に関する重要な事項について調査審議する機関である(甲51)。 (イ) 企業会計原則(甲46,98,乙41) 取引所の相場のない有価証券のうち株式については,当該会社の財政状態を反映する株式の実質価額が著しく低下したときは,相当の減額をしなければならない(同原則第三・五・B)。 受取手形,売掛金その他の債権の貸借対照表価額は,債権金額又は取得価額から正常な貸倒見積高を控除した金額とする(同原則第三・五・C)。 将来の特定の費用又は損失であって,その発生が当期以前の事象に起因し,発生の可能性が高く,かつ,その金額を合理的に見積もることができる場合には,当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ,当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする(同原則注解18)。 (ウ) 金融商品に係る会計基準(甲47,70。以下「金融商品会計基準」という。)a 市場価格のない株式の減損処理子会社株式および関連会社株式は,取得原価をもって貸借対照表価額とする(同基準第三・二3)。 市場価格のない株式については,発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは,相当の減額をなし,評価差額は当期の 式は,取得原価をもって貸借対照表価額とする(同基準第三・二3)。 市場価格のない株式については,発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは,相当の減額をなし,評価差額は当期の損失として処理しなければならない。なお,これらの場合には,当該時価および実質価額を翌期首の取得原価とする(同基準第三・二6)。 b 貸倒引当金の計上貸倒見積高の算定にあたっては,経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権(以下「一般債権」という。),経営破綻の状態には至っていないが,債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権(以下「貸倒懸念債権」と いう。),経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権(以下,「破産更生債権等」という。)に区分する(同基準第四・一)。 金融商品会計基準は,平成12年4月1日以後に開始する事業年度から適用を開始するとされた。 (エ) 金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書(甲46)企業会計審議会は,平成11年1月22日,「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「会計審議会意見書」という。)において,資産の評価基準については,企業会計原則に定めがあるが,金融商品に関しては,原則として金融商品会計基準が優先して適用される,株式の時価が下落した場合等の取扱いについて,金融商品会計基準においても,市場価格の有無に係わらせて従来の考え方を踏襲したとの見解を公表した。 ウ金融商品会計に関する実務指針(甲52,53,114。以下「金融商品会計実務指針」という。)(ア) 金融商品会計実務指針は,日本公認会計士協会が,金融商品会計基準を実務に適用する具体的指針として定めたもので,平成12年4月1日以降開始する 14。以下「金融商品会計実務指針」という。)(ア) 金融商品会計実務指針は,日本公認会計士協会が,金融商品会計基準を実務に適用する具体的指針として定めたもので,平成12年4月1日以降開始する事業年度から適用されることとなった。その後,平成13年7月3日に改正され(以下「平成13年改正」という。),平成13年改正後の金融商品会計実務指針は平成13年4月1日以降開始する事業年度から適用されることとなった。 (イ) 関係会社株式減損市場株価のない株式は取得原価をもって貸借対照表価額とするが,当該株式の発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは,相当の減額を行い,評価差額は当期の損失として処理しなければならない。市場価格のない株式の実質価額が「著しく低下したとき」と は,少なくとも株式の実質価額が取得原価に比べて50%程度以上低下した場合をいう(同実務指針92項)。 ただし,市場価格のない株式の実質価額について,回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には,期末において相当の減額をしないことも認められる(平成13年改正により金融商品会計実務指針92項に追加)。 金融商品会計実務指針における「減損」は,評価差額が損益に計上される売買目的有価証券以外の有価証券に係る時価又は著しい下落に伴って,当該時価又は実質価額を翌期首の取得原価とするために,取得原価を強制的に切下処理し,当該切下額を損益計算書で損失として認識すべき場合を指す用語として用いる(平成13年改正後の金融商品会計実務指針283-2項)。 市場価格のない株式について実質価額が著しく低下したときには,一般には回復可能性はないものと判断されるが,回復可能性が十分な証拠によって裏付けられるのであれば,期末において相当の減額をしないこ 市場価格のない株式について実質価額が著しく低下したときには,一般には回復可能性はないものと判断されるが,回復可能性が十分な証拠によって裏付けられるのであれば,期末において相当の減額をしないことも認められる(同実務指針285項)。 ただし,事業計画等は実行可能で合理的なものでなければならず,回復可能性の判定は,おおむね5年以内に回復すると見込まれる金額を上限として行うものとする。また,回復可能性は毎期見直すことが必要であり,その後の実績が事業計画等を下回った場合など,事業計画等に基づく業績回復が予定どおり進まないことが判明したときは,その期末において減損処理の要否を検討しなければならない(平成13年改正により金融商品会計実務指針285項に追加)。 (ウ) 貸倒引当金貸倒懸念債権とは,経営破綻の状況には至っていないが,債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債 権をいう。債務の弁済に重大な問題が生じているとは,現に債務の弁済がおおむね1年以上延滞している場合のほか,弁済期間の延長又は弁済の一時棚上げ及び元金又は利息の一部を免除するなど債務者に対し弁済条件の大幅な緩和を行っている場合が含まれる。債務の弁済に重大な問題が生じる可能性が高いとは,業況が低調ないし不安定,又は財務内容に問題があり,過去の経営成績又は経営改善計画の実現可能性を考慮しても債務の一部を条件どおりに弁済できない可能性の高いことをいう。 財務内容に問題があるとは,現に債務超過である場合のみならず,債務者が有する債権の回収可能性や資産の含み損を考慮すると実質的に債務超過の状態に陥っている状況を含む(以上同実務指針112項)。 貸倒懸念債権については,債権の状況に応じて,次のいずれかの方法により貸倒見積高を算定する。 能性や資産の含み損を考慮すると実質的に債務超過の状態に陥っている状況を含む(以上同実務指針112項)。 貸倒懸念債権については,債権の状況に応じて,次のいずれかの方法により貸倒見積高を算定する。①担保又は保証が付されている債権について,債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し,その残額について債務者の財政状態及び経営成績を考慮して貸倒見積高を算定する方法(以下「財務内容評価法」という。),②債権の元本の回収及び利息の受取に係るキャッシュ・フローを合理的に見積もることができる債権について,債権の発生又は取得当初における将来キャッシュ・フローと債権の帳簿価格の差額が一定率となるような割引率を算出し,債権の元本及び利息について,元本の回収及び利息の受取が見込まれるときから当期末までの期間にわたり,債権の発生又は取得当初の割引率で割り引いた現在価値の総額と債権の帳簿価格との差額を貸倒見積高とする方法(以下「キャッシュ・フロー見積法」という。)(以上金融商品会計実務指針113項)。 エ金融商品に係る実務指針に関する論点整理(甲75)日本公認会計士協会会計制度委員会は,平成11年8月23日,実務指針を策定するに当たって,「減損処理すべき金額は取得原価と実質価額との 差額であり,実質価額をもって貸借対照表価額とするとともに,その差額を当期の損失として計上することになる」との検討結果を「金融商品に係る実務指針に関する論点整理」(以下「実務指針に関する論点整理」という。)として公表した。 オ旧法人税基本通達9-6-4(乙42)法人の有する貸金等又は当該貸金等に係る債務者について,債務超過の状態が相当期間継続し,事業好転の見通しがないこと,天災事故,経済事情の急変等により多大の損失を蒙ったことそ 9-6-4(乙42)法人の有する貸金等又は当該貸金等に係る債務者について,債務超過の状態が相当期間継続し,事業好転の見通しがないこと,天災事故,経済事情の急変等により多大の損失を蒙ったことその他これらに類する事由が生じたため,当該貸金等の額の相当部分(おおむね50%以上)の金額につき回収の見込がないと認められるに至った場合は,所定の金額をその該当することとなった事業年度において損金経理により債権償却特別勘定に繰り入れることができる。 カ会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(乙31の1)会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準には,「会計上の見積りとは,資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において,財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて,その合理的な金額を算出することをいう。」と規定されている。 キ日本公認会計士協会監査委員会報告第22号(甲76,79)日本公認会計士協会監査委員会が昭和51年3月9日に公表した報告第22号「子会社又は関係会社の株式及びこれらに対する債権評価の取扱い」(以下「公認会計士協会報告22号」という。)には,「資産状態が悪化し,株式の実質価額が著しく低下したときは,債権について回収不能の虞があるか否かの検討をしなければならない。このことは,必ずしも債務超過の状態になった場合に初めて貸倒引当金の設定の当否が問題となるのではなく,それ以前の段階においてもその当否について検討しなければならない。」「相当の期間内に回復する見込があることの立証責任は当該会社 にあり,その証拠資料に基づいて評価減の要否を判断しなければならない」旨記載されている。 この公認会計士協会報告22号は,平成12年7月6日,金融商品会計基準の導入により廃止された。 ク日本公認会 の証拠資料に基づいて評価減の要否を判断しなければならない」旨記載されている。 この公認会計士協会報告22号は,平成12年7月6日,金融商品会計基準の導入により廃止された。 ク日本公認会計士協会監査委員会報告第5号(乙41)日本公認会計士協会監査委員会が作成した「貸倒引当金に関する会計処理及び表示と監査上の扱い」(以下「公認会計士協会報告5号」という。)には,貸倒見積高の算出の例示として,以下の指針が示されていた。なお,この公認会計士協会報告5号は,平成12年4月1日以降開始する事業年度から廃止された。 「a 総括的に見積る方法イ期末残高に一定率を乗ずる方法ロ個々の勘定ごとに主として年令調べによって算出する方法(注)税法規定による貸倒引当金は上記イの方法に属するものと考えられる。 b 個別的に見積る方法個別的に債務者ごとに債権の取立見込を実地に調査して貸倒見積額を算出しかつ個別的に管理する方法(注)税法の債権償却特別勘定はこの方法に属するものである。 実務上は,上記の方法のうちいくつかを組合せた方法を採用している企業が多く見られるようである。 企業が算定基準として税法基準を採用しているときは,通常は超過の傾向にあること及び税法の定める繰入率も一種の社会的に認められた経験率であると解して,合理的な算定基準を有していると認めることができることとした。」(3) 配当(甲10,14,16,36) S社は,別表1決算一覧のとおり,平成12年3月期から平成17年3月期まで決算し,平成14年9月中間期ないし平成16年9月中間期にかけて,同決算に基づいて算出された配当可能利益の範囲内で別表 S社は,別表1決算一覧のとおり,平成12年3月期から平成17年3月期まで決算し,平成14年9月中間期ないし平成16年9月中間期にかけて,同決算に基づいて算出された配当可能利益の範囲内で別表2配当一覧のとおり利益配当及び中間配当を実施した。 (4) 有価証券報告書の訂正S社は,過年度決算調査委員会を設けて平成13年3月期から平成17年3月期までの決算を調査し,平成19年12月25日,同決算が金融商品会計基準等に準拠した関係会社株式減損処理等を行っていなかったことを理由に,別表1決算一覧のとおり,平成13年3月期ないし平成19年9月中間期までの決算短信,中間決算短信及び平成15年3月期から平成19年3月期までの有価証券報告書,半期報告書の訂正を行った(以下「本件訂正」という。甲2から4まで,70)。 証券取引等監視委員会は,平成19年12月25日,S社が,平成17年9月中間期における純資産額が本件訂正と同額の1746億4100万円であるのに,関係会社株式の過大計上及び関係会社損失引当金の過少計上により2268億7200万円と記載した平成17年9月中間期半期報告書を提出したことについて「重要な事項につき虚偽の記載がある」として,内閣総理大臣及び金融庁長官に対し,830万円の課徴金納付命令を発出するよう勧告した(甲59)。S社は,金融庁に対し,平成17年9月中間期の半期報告書の提出について,重要な事項に虚偽の記載がある半期報告書を提出した法令違反の行為があったことを認め,課徴金納付命令を受けたことから課徴金830万円を納付した(甲59から62まで)。金融庁は,平成13年3月期から平成17年3月期までのS社の財務書類について重大な虚偽のないものと証明した公認会計士に対し,業務停止2年の懲戒処分を行った(甲58)。 (甲59から62まで)。金融庁は,平成13年3月期から平成17年3月期までのS社の財務書類について重大な虚偽のないものと証明した公認会計士に対し,業務停止2年の懲戒処分を行った(甲58)。 (5) 本件訴訟提起に至る経緯 原告は,S社に対し,平成20年12月8日,被告らに対する責任追及の訴えを提起するよう求める内容証明郵便を送付し,これは同月9日に到着した(甲5の1から6の2まで)。これに対し,S社の代表取締役及び常勤監査役は,平成21年2月5日,同訴えを提起しない旨の回答をした(甲7,8)。原告は,同年5月18日,本訴を提起した。 2 争点(1) 平成14年9月中間期から平成16年9月中間期までにおいて,関係会社株式減損,関係会社損失引当金及び関係会社に対する貸倒引当金の過少計上による違法配当があったか(2) 旧商法266条1項1号による責任は過失責任か(3) 欠席取締役及び監査役に過失があったか 3 争点に対する当事者の主張(1) 争点(1)(違法配当があったか)について【原告の主張】ア総論S社は,平成13年3月期から平成17年3月期にかけて,関係会社に関する経理処理が,公正なる会計慣行である金融商品会計基準等に準拠していなかったことから本件訂正を行った。本件訂正によれば,本件配当を実施した各期において,配当可能利益は全く存在せず,又は期末に配当可能利益がない状態が生じるおそれが客観的に存在した。したがって,本件配当は,旧商法290条1項,同法293条の5第3項又は4項に反する違法な配当又は中間配当であった。 イ関係会社株式減損について(ア) 法律上の規定及び会計基準a 旧証券取引法193条,財務諸表等 93条の5第3項又は4項に反する違法な配当又は中間配当であった。 イ関係会社株式減損について(ア) 法律上の規定及び会計基準a 旧証券取引法193条,財務諸表等規則1条1項によれば,S社のような上場企業は,貸借対照表等の財務書類を証券取引所に提出する に当たり財務諸表等規則に従う法的義務がある。財務諸表等規則第1章ないし第6章には,財務書類に記載される資産の評価に関する規定はないから,「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」がその依るべき基準ということになる。そして,財務諸表等規則1条2項は,企業会計審議会により公表された企業会計の基準が,一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に該当すると規定し,企業会計審議会は,金融商品に関する資産評価に関しては,企業会計の基準のうち金融商品会計基準が企業会計原則に優先するとしている。 このように,S社は,平成12年4月1日以後に開始する事業年度から適用されると規定された金融商品会計基準に,平成13年3月期から従うべき法的義務が存在した。 b 次に,旧商法32条2項は,商業帳簿の作成に関する規定の解釈について「公正なる会計慣行」を斟酌すべしと規定しているから,会計帳簿に記載すべき財産評価に関する平成14年改正前商法285条の6第3項の「市場価格なき株式に付いてはその発行会社の資産状態が著しく悪化したるときは相当の減額をなすことを要す」との規定の解釈に当たっても,「公正なる会計慣行」を斟酌すべきことになる。 企業会計審議会が公表した企業会計の基準は,旧証券取引法上,上場企業が準拠することが法的に義務づけられているものであるから,それは,旧商法上も,公正なる会計慣行として唯一のもの,少なくとも絶対的・中心的なものである。 c よって,上場企 旧証券取引法上,上場企業が準拠することが法的に義務づけられているものであるから,それは,旧商法上も,公正なる会計慣行として唯一のもの,少なくとも絶対的・中心的なものである。 c よって,上場企業が市場価格のない関係会社株式減損を行う場合,旧商法上の「公正なる会計慣行を斟酌」した適法な会計処理というには,金融商品会計基準と同実務指針(以下,両者を併せて「金融商品会計基準等」という。)に沿った会計処理がされなければならない。 d そして,金融商品会計基準等の減損処理の規定は,旧商法上の減損 処理の規定(平成14年改正前商法285条の6第3項)に関する実務上の慣行(企業会計原則第三・五・B),あるいは実務上準用されていた法人税法基本通達の内容等を踏襲する形で導入された経緯を持つ規定であって,金融商品会計基準等の導入によりこれまでなかったものが新たに導入された類の規定ではない。そうすると,「実質価額が50%程度以上下落している関係会社株式については,実現可能な合理的事業計画等によって回復可能性が十分立証されない限り実質価額まで減損しなければならない」という基準が会計慣行として定着していたといえ,上場企業において,平成13年3月期以降に,この基準以外の基準が一般的な実務慣行として定着していたとは考え難い。 そして,関係会社株式の実質価額が著しく下落している場合,原則として当該株式を実質価額まで減損することが義務づけられており,この原則を覆すに足る慎重かつ保守的な評価においてなお回復可能性が確実に見込まれる場合に初めて,回復可能性があると認められる。 回復可能性の評価については,会計上の見積りであり,将来の事象について流動的な状況を前提とした仮定等を考慮せざるを得ないから,特に慎重に検討しなければならない。これを経営者の自由な判 と認められる。 回復可能性の評価については,会計上の見積りであり,将来の事象について流動的な状況を前提とした仮定等を考慮せざるを得ないから,特に慎重に検討しなければならない。これを経営者の自由な判断に委ねれば,恣意的な会計処理が横行して財務諸表利用者に不測の損害を及ぼしかねない。したがって,その恣意性を排除するために,証拠の十分性を含めて十分に保守的な会計処理が要請されている。 平成13年改正後の金融商品会計実務指針285項は,実際の数値が事業計画等の数値から乖離し,それが軽微な乖離とは言えないような場合には,改めて実現可能な合理的な事業計画等を作成した上で,回復可能性がないと判断されれば,その時点での実質価額まで減損すべきである,ということを意味している。 合理的で実行可能な計画に基づいて回復可能性が十分に裏付けら れていたことの立証を行うべきは,経営陣である被告らである。公認会計士協会報告22号及び金融商品会計実務指針は,相当の期間内に回復する見込があることの立証責任は当時の経営陣にあるとしている。実質的にも,関係会社に関する事業計画等を入手して回復可能性の立証を行えるのは,当該企業の経営陣以外にはなく,第三者にとって回復可能性の「ないことの証明」は不可能であり,原告に立証責任があると解すると,経営陣の責任追及の余地が事実上閉ざされるという不都合が生じる。 (イ) S社の処理S社は,平成13年3月期から平成16年9月中間期までの間,概要,以下のような会計方針に従って関係会社株式減損を行ってきた。 a 減損要否検討対象会社を,原則として債務超過10億円以上の子会社等に限定した。 b 減損要否検討の対象とした子会社等につき,S社自身が毎年作成している事業計画とは異なり,その財務部門において 要否検討対象会社を,原則として債務超過10億円以上の子会社等に限定した。 b 減損要否検討の対象とした子会社等につき,S社自身が毎年作成している事業計画とは異なり,その財務部門において検証されていない目標数値をもって5年累損解消計画を作成し,同計画を前提として,5年後の累損解消不足額についてのみ減損処理を行った。 c 翌期以降は,5年累損解消計画の計画利益数値に対し,実績の利益数値がこれを下回った場合は,未達額のみを当期において減損した。 (ウ) S社の会計処理が金融商品会計基準等に反すること債務超過10億円以上という独自の基準によって減損要否判定の対象とする会社を限定するというのは,金融商品会計基準等が規定した,株式実質価額が取得価額の50%程度以上低下した場合は原則減損処理対象となるという原則論を無視したものである。 S社は,正式な事業計画よりも利益が上がるように,同計画に含まれていない条件を織り込むなどした5年累損解消計画に基づいて,平成1 3年3月期において5年後の累損解消不足額を減損した。しかも,上記計画は,関係会社を管轄するカンパニーから提出された数値についてS社財務部門での具体的検討さえ経ておらず,その根拠や資料の存否さえ判然としない。これらの事実に鑑みれば,S社による回復可能性の判断を,「実行可能で合理的な事業計画等に基づいて,十分な証拠によって裏付けられ」たものと評価することはできない。 さらに,S社は,回復可能性が認められない場合にはその時点での実質価額まで株式の評価を切り下げるべきであるのに,5年累損解消計画による5年後の累損解消不足額についてのみ減損処理を行っている。すなわち,翌期以降,5年累損解消計画の計画利益数値に対し,実績の利益数値がこれを下回った場合に,その差額の あるのに,5年累損解消計画による5年後の累損解消不足額についてのみ減損処理を行っている。すなわち,翌期以降,5年累損解消計画の計画利益数値に対し,実績の利益数値がこれを下回った場合に,その差額のみを当期において減損し,あるいは,5年計画終了時の累損解消不足額を前提として追加で減損するという処理を行った。これは,金融商品会計基準等に明らかに違反する。 また,S社自身,平成13年3月期から平成16年3月期までの会計処理が誤っていたことを認め,本件訂正を行い,金融庁から830万円の課徴金納付命令を受けた。そして,S社の会計監査人は,本件訂正がされた事業年度の決算書類について,重大な虚偽のある財務書類であるにもかかわらず無限定適正意見を付したとして,金融庁から業務停止2年などの処分を受けた。これらの事実からも,S社の減損処理が違法なものであったことは明らかである。 このように,平成13年3月期から平成16年9月中間期までのS社の減損処理は,金融商品会計基準等に準拠した処理であるとは評価できず,旧商法上の公正なる会計慣行に準拠しているという特段の事情も存在しない。 (エ) 本件訂正が金融商品会計基準等に則った処理であること これに対し,S社の本件訂正における関係会社株式減損の基準は,①純資産持分額が投資額に比して50%以上下落している全関係会社について減損の要否を判定する,②S社自身が作成していた3年の事業計画をベースに5年に引き伸ばした事業計画を適用した場合の5年後の累損解消不足があれば,実質価額に引き下げる,③債務超過会社については,5年間の利益計画にかかわらず,その投資額を全額減損処理するというものであった。 実質価額の回復可能性は,会計上の見積りを必要とするものであるが,経営者の恣意的判断を避け 債務超過会社については,5年間の利益計画にかかわらず,その投資額を全額減損処理するというものであった。 実質価額の回復可能性は,会計上の見積りを必要とするものであるが,経営者の恣意的判断を避ける必要性等から,保守的な判断が求められる。このような会計上の見積りのリスクを勘案すると,5年間という長期かつ不確実な計画によって5年後に累損解消不足が見込まれるような場合,これを回復可能性が十分な証拠によって裏付けられるとまでは評価できないとして,原則に戻って減損処理を行うというルール(上記②)こそが,金融商品会計基準等の規定や趣旨に則った合理的なものである。 債務超過会社が,いきなり業績を好転させ,累積損失を一掃することなど考えにくいから,債務超過という事実があれば回復可能性がないといってよい。なお,金融商品会計実務指針285項の規定は,「期末に減額しないことも認められる」というものであり,関係会社については,極力回復可能性の判定を行うことが望ましいというだけである。実質価額が50%程度以上下落した場合,回復可能性の検証なく減損することも許容される。そうすると,上記③のルールもまた金融商品会計基準等の趣旨に沿った適切なルールであるといえる。 以上のとおり,S社における本件訂正は,金融商品会計基準等に則った適切な基準に沿うものであった。 (オ) 被告らの主張について a 被告らは,金融商品会計実務指針285項の文言が不明確であり,減損額についての規定とも読めると主張する。 しかし,ある特定の会計処理が「公正なる会計慣行」を斟酌した処理であるか否かを判断する際,金融商品会計実務指針が最も重要な現実的・具体的基準(指針)となることは疑いがない。金融商品会計実務指針285項の規定は,回復可能性の判断に関してより具体的な指針を 処理であるか否かを判断する際,金融商品会計実務指針が最も重要な現実的・具体的基準(指針)となることは疑いがない。金融商品会計実務指針285項の規定は,回復可能性の判断に関してより具体的な指針を公表して欲しいという実務界の要望に応えて市場価格がない株式の実質価額の算定方法や回復可能性が十分な証拠によって裏付けられた場合に例外的に減損回避が認められることを示した規定である。それが平成13年改正によりいきなり減損額に関する指針に転化するはずがない。また,平成13年改正後の金融商品会計実務指針283-2項の定めは,実質価額をもって翌期首の取得原価をすることを当然の前提としていることからも,減損額について議論の余地はないことは明らかである。さらに,金融商品会計基準自体に,実質価額が著しく低下したときは,実質価額を翌期首の取得原価とすると規定されているだけでなく,実務指針に関する論点整理においても,実質価額をもって貸借対照表価格とすると明確に規定されている。 b 被告らは,関係会社株式減損を義務的に行う必要があるかどうかは,「資産状態の悪化が相当期間内に回復する見込み」の有無で判断するということが会計慣行になっていたと主張する。 しかし,このような抽象的な文言では,具体的基準や指針を全く通すことなく,関係会社株式の減損の要否及び減損額などが判断されてしまうことになって不当である。また,被告らの主張は,金融商品会計実務指針に反するだけでなく,回復可能性が確実に立証されない限り実質価額まで評価を切り下げなければならないという,金融商品会計実務指針が公表されるまでの実務慣行などにも反している。 さらに,被告らは,関係会社に回復可能性があったことに関して,実績連動型報酬であるが故に保守的な業績予測がカンパニーから提出されていたと主 が公表されるまでの実務慣行などにも反している。 さらに,被告らは,関係会社に回復可能性があったことに関して,実績連動型報酬であるが故に保守的な業績予測がカンパニーから提出されていたと主張し,自社グループのカンパニーで作成されたという簡略な資料を証拠として提出する。 しかし,本件では,実績が計画を大幅に下回った関係会社が多く,カンパニーの業績予測が保守的であったとの主張に信憑性はない。被告らが提出する証拠の多くは平成13年3月期以前のものであり,平成13年3月期以後の関係会社株式の回復可能性立証のための十分かつ合理的な資料ではない。被告らは,具体的になぜその目標を達成することが可能なのかという根拠となる合理的な証拠を一切示していない。公正なる会計慣行が要求する,実行可能な合理的事業計画等に基づく回復可能性について十分な証拠による証明がなされていないのである。 しかも,減損処理の要否は一度判定すればよいというものではなく,各決算期・各中間決算期ごとにおいて必要である。ところが,本件配当の基となった平成13年3月期から平成17年3月期までにおいて,減損処理を行わなかったことを正当化できる十分かつ適切な証拠は見当たらない。 c 被告らは,旧証券取引法と旧商法とでは適法性について異なる結論になると主張する。 しかし,旧商法32条2項は,企業会計原則を事実上商法の適法性の基準として採用している。これは,旧証券取引法上の監査と旧商法上の監査の基準を統一すること等を趣旨として,昭和49年の改正により制定された。被告らの上記主張はこの趣旨に反する。 d 被告らは,累積損失を抱える関係会社について十分な増資を行ったから,減損は不要であったと主張する。 しかし,関係会社に対する投資を減損するか否かは,取得価格と実質価額 旨に反する。 d 被告らは,累積損失を抱える関係会社について十分な増資を行ったから,減損は不要であったと主張する。 しかし,関係会社に対する投資を減損するか否かは,取得価格と実質価額との対比で行うべきである。増資によって子会社の財務状態が回復しても,親会社の取得価格が上昇しているから,増資によって減損回避の状態になるとはいえない。被告らは,財務状態の急激な改善の可能性があることと,株式の実質価額の回復可能性とを混同している。例えば,Z1社は,増資後も大幅な債務超過に陥っており,増資によって同社の収益構造が抜本的に改善し,ウルトラV字回復を描くことが確実視されるような状況にあったわけではない。同社は,カンパニーが社内金利の減免を依頼していることからしても,当該投資に対して通常要求されるリターンさえ上げられない状態であったことが強く推測される。 e 被告らは,回復可能性等の判断は,事後的に発生した結果により判断すべきでないと主張する。 しかし,会計上の見積り一般において,計画と実績の乖離の検討は最も重要な要素であり,事後的に発生した結果から翻って,当初の回復可能性の判断が不適切であったと評価される余地は十分にある。減損処理の違法性が問題となるのは,回復可能性の前提となった計画と実績とが乖離したケースである。事後的に発生した結果による判断は許されないという主張は,減損処理に関してその違法性が問われることがあってはならないというに等しい。また,過年度決算調査委員会において,平成13年3月期以後の減損処理が違法であったと評価した理由は,基準からかけ離れた処理を行ったからであり,事後的に発生した結果により判断を行っているものでない。回復可能性は毎期見直すことが必要であり,その後の実績が事業計画等を下回った場合など,事業計 理由は,基準からかけ離れた処理を行ったからであり,事後的に発生した結果により判断を行っているものでない。回復可能性は毎期見直すことが必要であり,その後の実績が事業計画等を下回った場合など,事業計画等に基づく業績回復が予定どおり進まないことが判明したときは,その期末において減損処理の要否を検討しなければならな い。この場合も,過去に遡った判断をしている訳ではなく,あくまでも既に判明した実績をも加味して,改めて将来に向けて回復可能性を慎重に検討せよということである。 f 被告らは,関係会社株式の回復可能性の判断においては,取締役の経営判断原則と同様に取締役の裁量が認められると主張する。 しかし,十分な証拠によって回復可能性が裏付けられないのに減損を回避すれば,それは法令違反の会計処理である。取締役の広範な裁量を認める経営判断原則は,このように法令への適合性が問題となる回復可能性の判断の場面において適用されるはずがない。累積損失を抱えた企業について,将来の回復可能性にかけて清算を回避するか否かといった経営上の判断と,実質価額が著しく低下した関係会社について,会計上のルールに従って財務諸表を作成するという行為とは全く別物である。回復可能性判断のような会計上の見積りは,経営者の恣意による利益操作などの危険性が高いものとして,保守的見地からの処理が要求されるべきものである。そこに裁量を認めると,関係会社株式減損についての会計上のルールを無に帰すに等しく,企業間の比較可能性という財務諸表の趣旨を失わせる。 ウ貸倒引当金について(ア) 法律上の規定と会計慣行等金銭債権について取立不能のおそれがある場合には,旧商法285条,商法施行規則35条1項本文,平成14年改正前商法284条の4第2項により,債権金額から取立不能の見込額 法律上の規定と会計慣行等金銭債権について取立不能のおそれがある場合には,旧商法285条,商法施行規則35条1項本文,平成14年改正前商法284条の4第2項により,債権金額から取立不能の見込額を控除する必要がある。その具体的な会計処理等は,「公正なる会計慣行」(旧商法32条2項)に基づいて行う必要があり,貸倒引当金については金融商品会計基準等に具体的規定が存在する。金融商品会計基準等によれば,関係会社に対する貸付金を含む金銭債権について貸倒引当金を設定するに当たっては, まず,当該会社の財務内容等に照らして,対象となる債権を「一般債権」,「貸倒懸念債権」,「破産更生債権等」に区分し,対象債権が貸倒懸念債権に該当すると判断された場合,財務内容評価法又はキャッシュ・フロー見積法によって貸倒見積高を算定するという個別引当てが求められる(金融商品会計基準第四・一,金融商品会計実務指針第112項,113項など)。 以上からも分かるとおり,貸倒懸念債権に該当する債権については,個別引当てが必要となり,また,個別引当ての対象となる企業を任意に取捨選択することは許されず,関係会社株式減損と同様,全ての関係会社について,債権区分を行い,これに応じた方法により貸倒見積高を算定することとなる。上場企業において貸倒引当金に関する会計処理を行う場合,金融商品会計基準等に沿った会計処理が行われたならば,これが旧商法上の「公正なる会計慣行」を斟酌した適法な会計処理であることは優に認められるところである。 (イ) S社の処理が公正なる会計慣行に反することS社の場合,平成13年3月期から平成17年3月期までの間,数百億円規模に上る大幅な債務超過企業を含め,債務超過に陥っている関係会社が多く存在し,債務超過にまでは至らずとも,業績の悪化によって累 S社の場合,平成13年3月期から平成17年3月期までの間,数百億円規模に上る大幅な債務超過企業を含め,債務超過に陥っている関係会社が多く存在し,債務超過にまでは至らずとも,業績の悪化によって累積損失が増大し,今後の債務弁済に支障を来す可能性のある関係会社も存在した。このような関係会社は,債務超過額や合理的な経営改善計画如何によっては,「破産更生債権等」に該当しうるものであり,その多くが「貸倒懸念債権」と評価すべきものであった。ところが,S社は,自ら重要と判断した債務超過の会社しか引当金の検討をせず,関係会社株式減損の場合と同様,およそ合理的で実現可能とは言えない経営計画によって将来の債務の弁済に問題なしと判断し,貸倒引当金を過少に計上した。 これに対し,被告らは,S社が,平成13年3月期から平成17年3月期までの間,税法基準を斟酌し,金融商品会計基準等を参考に計上の要否及び計上額の算出を行っていたと主張する。しかし,金融商品会計基準の導入前などに,企業会計原則に基づく引当金計上に際して税法基準と同一の基準を利用している企業が存在したとしても,当該処理の適法性を根拠付けることにはならない。金融商品会計基準の適用開始前でも,企業会計原則注解18の要件を満たす場合には,貸倒引当金の計上が義務付けられていた。一方,税法上は,原則として引当金の計上を認めておらず,厳格な要件の下に例外的に引当金計上を認めていたにすぎない。旧商法(会社法)上の「公正なる会計慣行」と旧証券取引法上の「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」とは,原則的に統一的な解釈が図られるべきであり,会計処理を行うに当たり企業会計の基準と乖離した税法基準を斟酌したとしても,旧商法上適法であるとはいえない。 以上のとおり,S社における本件訂正前の会計処理 に統一的な解釈が図られるべきであり,会計処理を行うに当たり企業会計の基準と乖離した税法基準を斟酌したとしても,旧商法上適法であるとはいえない。 以上のとおり,S社における本件訂正前の会計処理方針は,金融商品会計基準に明らかに反している(ウ) 本件訂正が公正なる会計慣行に則った処理であることS社は本件訂正後の貸借対照表において,財務状態が悪化して債務超過にまで至った関係会社について,債務超過額の範囲で貸倒引当金を計上する処理を行った。つまり,貸付金の額が債務超過額を上回る場合には当該債務超過額について,貸付金の額が債務超過額を下回る場合には当該貸付金額について,それぞれ貸倒引当金を計上する処理を行っている。 債務超過に陥った企業に対する債権は,本来貸倒懸念債権(金融商品会計実務指針112項)に該当するから,個別の引当金計上の対象とすることが,金融商品会計基準に適合した処理である。金融商品会計基準 の導入によって廃止された公認会計士協会報告22号においても,債務超過に至る前であっても引当計上の当否について検討を求めている。本件においては,関係会社について,著しく悪化した財務状態が,経営成績の大幅な改善等によって近い将来に回復することを合理的に根拠付けるような事情は見当たらない。慎重かつ保守的な対応が求められる会計上の見積りにおいて,著しく悪化した財務状態が将来改善することを前提とした処理を行うべき状況になかった。S社における本件訂正後の会計処理は,財務内容評価法(金融商品会計実務指針113項)によるものであるが,本件では,対象となる関係会社の財務状態及び経営成績を認識・把握していることが前提であるから,財務内容評価法によって引当計上する処理が合理的である。 以上によれば,本件訂正による貸倒引 のであるが,本件では,対象となる関係会社の財務状態及び経営成績を認識・把握していることが前提であるから,財務内容評価法によって引当計上する処理が合理的である。 以上によれば,本件訂正による貸倒引当金の計上こそが,金融商品会計実務指針に基づく適切な会計処理であった。 エ関係会社損失引当金について(ア) 法律上の規定及び会計基準S社は,上場企業であるから,商業帳簿の負債の部に記載すべき引当金に関して定められた「特定の支出又は損失に備えるための引当金は,その営業年度の費用又は損失とすることを相当とする額に限り,貸借対照表の負債の部に計上することができる」(旧商法285条,同法施行規則43条,平成14年改正前商法287条の2)という規定の解釈に当たっては,「公正なる会計慣行」(旧商法32条2項)に従うほか,旧証券取引法及び財務諸表等規則により,「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」に従わなければならない。 ところで,企業会計原則は,「公正なる会計慣行」及び「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」の中心的位置を占める。したがって,負債の部における引当金設定の要否及び計上額に関しては,企業会計原 則に従うこととなる。企業会計原則注解18によれば,引当金計上の要否を判断する基準は,一般的に,①将来の特定の費用又は損失であるか,②その発生が当期以前の事象に起因するか,③発生の可能性が高いか,④その金額を合理的に見積ることができるかの4点である。 (イ) 会計基準への適合性S社は,関係会社の事業に関連して,事業資金の融資だけでなく,多額の保証(予約)や経営指導念書の差入れを行い,これを超えて発生する費用又は損失を親会社として負担する方針を採用していた。これを前提とすれば,将来,関係会社が清算等に至った場合 の融資だけでなく,多額の保証(予約)や経営指導念書の差入れを行い,これを超えて発生する費用又は損失を親会社として負担する方針を採用していた。これを前提とすれば,将来,関係会社が清算等に至った場合には,投融資額を超えた損失を負担することがあるから,この損失は企業会計原則注解18の「将来の特定の費用又は損失」に該当する。 本件の関係会社損失引当金は,S社による貸付金額を超えた債務超過を抱えた関係会社に関して,過年度の経営不振により既に著しく悪化した財務状態を前提として引当金の計上を行う場面であるから,企業会計原則注解18の「その発生が当期以前の事象に起因する」こともまた明らかである。 経営不振の継続によって財務状態が悪化し,融資額を超える債務超過を抱えた関係会社については,金融商品会計実務指針112項の「経営破たんの状況にはないが経営難の状態にあり,経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく,今後,経営破たんに陥る可能性が高いと認められる場合」という基準に該当する。将来の損失発生の可能性が高いにもかかわらず,損失額の合理的見積可能性がないと評価されることは,会計上通常は考えられない。本件で問題となる関係会社損失引当金の設定対象は,S社において帳簿類等も全て把握できる関係会社であり,実際に,当該関係会社に対する融資額や同社の債務超過額などを認識把握して,当該時点における客観的状況を前提として引当金の計上を検討できた。そう すると,S社は,当時,関係会社損失引当金を計上しなければならなかった。 ところが,S社は,貸付金額を超える債務超過を抱える関係会社について,その回復可能性を網羅的に検証することなく,およそ合理的な回復見込みがあったとは評価できないのに,平成13年3月期から平成17年3月期までの事業年度において一切引当金を 過を抱える関係会社について,その回復可能性を網羅的に検証することなく,およそ合理的な回復見込みがあったとは評価できないのに,平成13年3月期から平成17年3月期までの事業年度において一切引当金を計上しなかった。このような会計処理は,企業会計原則注解18に反するもので,およそ「公正なる会計慣行」に従った処理とは認められない。 これに対し,被告らは,平成14年改正前商法287条の2の「負債ノ部ニ計上スルコトヲ得」という文言を捉えて,これが引当金計上に関する商法規定の解釈に重大な影響を及ぼすかのような主張を行っている。しかし,上場企業において,企業会計原則等に照らして引当金の計上が義務的に求められるにもかかわらず,商法上は任意の計上が可能であるという結論は,旧商法と旧証券取引法との企業会計の基準について統一的に解釈すべきであるという流れの中で,合理性を持ち得ない。「計上することができる」とは,負債性引当金が法的債務ではないにもかかわらず負債の部に計上することを認めるもので,引当金の計上が義務であることを否定するものではない。 (ウ) 本件訂正処理についてS社は,本件訂正において,関係会社の事業に係る損失の負担に備えるため,関係会社の財務状態等を勘案し,S社による貸付金額を超えて債務超過を抱えた関係会社については,当該関係会社への融資額を超えて負担が見込まれる額を引当計上している。 以上のとおり,本件訂正による関係会社損失引当金の計上こそが,企業会計原則注解18に準拠した適切な会計処理であった。 【被告らの主張】 ア総論S社では,平成13年3月期から平成17年3月期にかけて,当時の「公正なる会計慣行」に従った適切な会計処理が行われた。S社には,本件配当が実施された各期にお らの主張】 ア総論S社では,平成13年3月期から平成17年3月期にかけて,当時の「公正なる会計慣行」に従った適切な会計処理が行われた。S社には,本件配当が実施された各期において配当可能利益は存在していたのであり,被告らにおいて,違法に利益配当等を行った事実は存在しない。本件訂正は,配当可能利益の算定に直接的に連動するものではなく,過度に厳格な基準に基づいて保守的に行われたものであった。 イ関係会社株式減損について(ア) 法律上の規定とその解釈平成14年改正前商法285条の6第1項は,株式等の評価においては原価主義が原則となることを明らかにし,同条3項は,取引所の相場のない場合について,同条1項の原価主義の例外を定めているが,同条3項の文言だけを見ても,相当の減額の要否について具体的な基準は判然としない。その解釈指針となるのが,「公正なる会計慣行」(旧商法32条2項)である。 そして,「公正なる会計慣行」における「慣行」とは,民法92条における「事実たる慣習」と同義であり,ある会計処理または基準が「公正なる会計慣行」と認められるためには,一般的に広く会計上のならわしとして相当の時間繰り返して行われるものでなければならない。新しい会計基準が「公正なる会計慣行」に当たるためには,会計基準が旧商法32条2項を介することによって法規範の内容に昇華し,行為規範として機能するようになるのであるから,行為者がその内容を理解して自らの行為の適否を判断できるだけの一義的明確性が必要である。 (イ) 「公正なる会計慣行」の内容a 企業会計実務においては,関係会社株式の減損を義務的に行う必要があるかどうかは,「資産状態の悪化が,相当期間内に回復する見込 み」の有無で判断するということが,会計慣行となっていた 容a 企業会計実務においては,関係会社株式の減損を義務的に行う必要があるかどうかは,「資産状態の悪化が,相当期間内に回復する見込 み」の有無で判断するということが,会計慣行となっていた。つまり,相当期間内の回復可能性があれば,会計的には,平成14年改正前商法285条の6第3項における「資産状態が著しく悪化したる」状況にはないことになる。相当期間内に回復する見込みは,各決算期において,合理的な当該関係会社の利益計画などを考慮して判断するのが標準的な手法であった。この当該関係会社の利益計画などにおける収益・利益の予想は,不確実な将来の事象についての仮定等を考慮せざるを得ない会計上の見積りである。それは,本来経営者の将来予測に基づく経営的な判断を踏まえた検討も求められる事項である。そうだとすれば,義務的減損の要否は,結局,当時の取締役らがその判断をするに当たって用いた利益計画などが,当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験を基準に,経営者として合理的な判断の幅を逸脱するものでなかったかによって判断されるべきである。すなわち,当該関係会社に回復可能性があるとした取締役らの判断が不合理であったことが明らかになって初めて,当該関係会社の「資産状態の悪化が,相当期間内に回復する見込みがなかった」ということができる。 回復可能性の有無の判断は,将来の事象に対する会計上の見積りである。この見積もりが事後的に見て予測に反する結果となったからと言って,「回復可能性あり」とした過去の判断が遡って当然に不合理となるわけではない。後知恵的な判断を是とするような事態となれば,企業経営者は後に結果責任を追及されることをおそれ,企業活動の実態にそぐわない会計処理を行うこととなる。これでは,可能な限り実態に即した形で企業の経済 。後知恵的な判断を是とするような事態となれば,企業経営者は後に結果責任を追及されることをおそれ,企業活動の実態にそぐわない会計処理を行うこととなる。これでは,可能な限り実態に即した形で企業の経済活動を貨幣的に表現するという企業会計の目的をも害することとなりかねない。したがって,回復可能性の判断は,各決算期当時の視点でかつ当時の資料に基づいて行うべきである。 b 原告は,旧証券取引法や財務諸表等規則を根拠に金融商品会計基準等が公正なる会計慣行であると主張する。 しかし,金融商品会計基準等は,あくまでも旧証券取引法上の有価証券報告書を作成する際の指針に過ぎない。金融商品会計実務指針は,企業会計審議会が公表したものではないから,旧証券取引法193条(財務諸表の用語・様式・作成方法)等に該当しない。そして,旧商法32条2項は,旧商法上も旧証券取引法と同じ会計基準が適用されることを明記してほしいという企業会計審議会の要望を否定する趣旨でその文言が定められた。そうであるならば,金融商品会計基準等が旧証券取引法の規定を理由に直ちに旧商法上の「公正なる会計慣行」となるものではない。「公正なる会計慣行」の成立要件に照らし,別途検討が必要であることになる。そして,金融商品会計基準第三・二6及び金融商品会計実務指針92項には,「相当の減額」とあるが,実際にいくら減額すべきか不明であり,平成13年改正後の金融商品会計実務指針285項は,文言を読んだだけでは義務的減損の要否に関する指針なのか,それとも具体的減損額についての指針なのか判然としない。このような一義的明確性のない指針は,旧商法32条2項の「公正なる会計慣行」にはなりえない。 (ウ) S社で行われていた会計処理S社では,毎期,次年度の事業計画策定の基礎となる資料を収集 このような一義的明確性のない指針は,旧商法32条2項の「公正なる会計慣行」にはなりえない。 (ウ) S社で行われていた会計処理S社では,毎期,次年度の事業計画策定の基礎となる資料を収集するために,カンパニーに対して,傘下の関係会社の事業計画を作成するよう指示していた。各カンパニーから提出される事業計画は,幹部の給与体系について計画の達成度等に連動する業績連動制を採用していたため,実情より予め低く保守的に見積もられるという実態があった。そのため,この事業計画は,カンパニーと本社執行部との間の協議により上方修正されて取締役会に提出された。関係会社の事業計画には2年目と 3年目の損益の見込数値も記載されていたが,協議の対象となっているのは1年目部分だけであり,2年目以降の数値については,本社による修正が加えられず,控えめな内容のままであった。 S社では,平成12年9月の中間期決算から金融商品会計基準等が適用開始となったことから,累積損失を有する関係会社全社について,累積損失の解消可能性の有無について検討された。 カンパニーにおいては,関係会社ごとの財務状況を一覧できる形でリストアップし,過去の利益の経過推移を踏まえたうえで現状の分析を行い,3年の損益推移でもその期間内に累積損失の解消が見込まれる関係会社もあった。他方,3年の損益推移では累積損失を解消することができない関係会社についても,カンパニーにおいて,中長期の観点から新製品,新規事業,コスト削減等の累積損失解消のための施策を織り込んだ合理的かつ実現性の高い3年ないし5年程度の事業計画を策定して累積損失の解消可能性を検討した。さらに,債務超過状態や大幅な累積損失を抱える関係会社については,資本注入等の施策を検討し,それでも解消困難と判断された場合は,減損処 し5年程度の事業計画を策定して累積損失の解消可能性を検討した。さらに,債務超過状態や大幅な累積損失を抱える関係会社については,資本注入等の施策を検討し,それでも解消困難と判断された場合は,減損処理にとどまらず,関係会社を清算あるいは売却して特別損失を計上した。このように,S社は,清算処理等を行った関係会社以外はすべて株式の実質価値の回復可能性が認められるとして,減損処理は不要であると判断した。 以上からすれば,S社においてなされた関係会社株式の実質価値の回復可能性の判断が「実行可能で合理的な事業計画等に基づいて,十分な証拠によって裏付けられ」ていることは明らかである。S社においては,「公正なる会計慣行」によれば減損処理すべきであったにもかかわらず,これをしなかったという関係会社株式はない。 (エ) 本件訂正が公正なる会計慣行に反することについてまず,本件訂正は,債務超過会社については,債務超過という一事を もって全額減損処理をするものとしている。 しかし,平成14年改正前商法285条の6第3項における「資産状態が著しく悪化したるとき」に該当するか否かは,回復可能性の有無により決するというのが「公正なる会計慣行」であった。それにもかかわらず,本件訂正は,債務超過という事実があれば,何ら回復可能性の有無を判断することなく,全額減損処理をするというものであり,それ自体公正なる会計慣行に適合しない。 (オ) 原告の主張についてa 原告は,回復可能性の立証責任が被告らにあると主張する。しかし,市場価格のない関係会社株式の義務的減損の要否について立証責任を負っているのは原告である。 すなわち,義務的減損の要否に関し,金融商品会計実務指針における実質価額が取得原価に比べ50%程度以上低下した場合という基準 会社株式の義務的減損の要否について立証責任を負っているのは原告である。 すなわち,義務的減損の要否に関し,金融商品会計実務指針における実質価額が取得原価に比べ50%程度以上低下した場合という基準は,税務上の基準であって公正なる会計慣行ではない。この基準をもって「資産状態が著しく悪化したるとき」に当たるとはいえず,その該当性の判断は,相当期間内の回復可能性の有無の判断に収斂される。 回復可能性がないことを立証するということは,被告らが合理的な判断の幅を超える会計処理をした事実が存在することの立証を行うことであり,決して「ないことの証明」ではない。原告は,旧商法違反を主張するのであるから,原告において「当時,当該関係会社に回復可能性があるとした取締役の判断が不合理であったこと」を立証すべきである。 また,被告らは,S社の役員を退任するに当たり,会社関連の資料は全て廃棄するよう求められ,現在当時の資料を保有しているわけではない。このような被告らに「相当期間内に回復する見込み」についての判断の合理性について立証責任を負わせることは,結果責任を課 すことになって不当である。 b 原告は,S社が金融庁から課徴金納付命令を受けたこと,S社の会計監査人が金融庁から業務停止処分を受けたことから,S社の減損処理が違法なものであったと主張する。 しかし,証券取引等監視委員会が有価証券報告書に虚偽の記載があるとして課徴金納付命令を発出するよう勧告を行ったのは,S社が提出した訂正報告書を前提とする。すなわち,金融庁による処分の発端となった証券取引監視委員会の勧告は,本件訂正に依拠して行われたものであった。ところが,本件訂正は公正なる会計慣行に適合しないものであるから,この金融庁による処分を理由にS社の会計処理が違法 発端となった証券取引監視委員会の勧告は,本件訂正に依拠して行われたものであった。ところが,本件訂正は公正なる会計慣行に適合しないものであるから,この金融庁による処分を理由にS社の会計処理が違法なものであったと評価することはできない。 ウ貸倒引当金について(ア) 法律上の規定と会計慣行等平成14年改正前商法285条の4第2項によれば,「取立不能の虞あるとき」に貸倒引当金を計上すべきであるが,いかなる場合が「取立不能の虞あるとき」に当たるかについて,旧商法上規定はなく,企業会計原則にも解釈指針となるべきものはなかった。 税法においては,個々の債権を直接評価することは行わないのが原則であるが,例外的に旧法人税基本通達9-6-4等に示されている事由が発生した債権については,広義の貸倒引当金の一つとされていた「債権償却特別勘定」へ繰り入れることが許される。平成10年法人税法改正前は,税務当局は,「事業好転の見通しがないこと」の該当性についても極めて限定し,支援を予定している先に対する債権については,支援予定であることを理由に「事業の好転の見通しがない」とはいえないという運用が定着していた。平成10年法人税法改正においては,貸倒引当金の扱いについて改正されたが,結局は,従前の税務当局が示していた指針が明確であ ったため,その基準に従って判断することとなり,従前の債権償却特別勘定の繰入れの際の認定基準がそのまま維持されるのと同様の結果となっていた。このように,貸倒引当金については,税法基準に従って計上することが旧商法上の「公正なる会計慣行」となっていた。 そのような中で,金融商品会計基準が公表され,貸倒引当金については,まずは債権の区分を行い,その区分に従って貸倒見積高を算定するとされた。この基準は,税 商法上の「公正なる会計慣行」となっていた。 そのような中で,金融商品会計基準が公表され,貸倒引当金については,まずは債権の区分を行い,その区分に従って貸倒見積高を算定するとされた。この基準は,税法基準に基づく貸倒引当金の計上方法と相反する基準とはなっていない。そして,金融商品会計基準における一般債権に当たるのか,それとも貸倒懸念債権に当たるのかという区分を行ううえで,どのような事態が生じていれば「弁済に重大な問題が生じる可能性の高い」場合といえるかにつき,金融商品会計実務指針112項には,「業況が低調ないし不安定,又は財務内容に問題があり,過去の経営成績又は経営改善計画の実現可能性を考慮しても債務の一部を条件どおりに弁済できない可能性の高いこと」と定められている。しかし,具体的にどのような場合に「業況が低調ないし不安定,又は財務内容に問題があり」に該当するのか明らかではない。また,これに該当する場合であっても,過去の経営成績が良く,または経営改善計画の実現可能性があれば,結局は「債務の弁済に重大な問題が生じる可能性が高い」とはいえないことになる。これは,税法基準において,債務超過状態であっても,合理的再建計画が作成中または進行中の場合には,旧法人税基本通達9-6-4における「事業好転の見通しがない」とはいえないと判断されていたことと同様であり,この点においても,従前の税法基準は,金融商品会計基準等に沿うものであった。実際,多くの企業では,金融商品会計基準が公表された後も,債権区分を行う際になお税法基準が従来どおり参考にされるという会計処理が反復継続的に行われていた。 以上のとおり,税法基準は貸倒引当金の計上に関する「公正なる会計慣 行」となっていたから,それ以外の会計処理が旧商法上適法であるというためには, が反復継続的に行われていた。 以上のとおり,税法基準は貸倒引当金の計上に関する「公正なる会計慣 行」となっていたから,それ以外の会計処理が旧商法上適法であるというためには,他の「公正なる会計慣行」があればそれに従うか,「公正なる会計慣行」以外の会計処理を行う特段の事情がある場合に限られる。 (イ) S社における会計処理の適法性S社も,当該決算期における貸倒引当金に関しては,従前から「公正なる会計慣行」となっていた税法基準を斟酌し,金融商品会計基準等を参考にしつつ,計上の要否の判断及び計上額の算出を行っていた。したがって,その会計処理が旧商法上適法であることに疑いはない。 (ウ) 原告の主張の失当性原告は,貸倒引当金についても,企業会計原則や金融商品会計基準等が「公正なる会計慣行」であることを前提に種々の主張をするが,これらの基準や指針それ自体が旧商法上の「公正なる会計慣行」であると考えていること自体失当である。その点を措いても,原告の主張は,金融商品会計基準等における一般債権と貸倒懸念債権の「区分」が,金融商品会計基準等のみで機械的に行うことができることを当然の前提としており,失当である。 また,原告は,本件訂正において訂正された額につき,対象会社の財務状態の実態を考慮し,金融商品会計基準等を斟酌した評価を行った結果であるとして,それを前提に訂正前の各決算期の貸倒引当金は過少計上であると主張している。 しかし,本件訂正において計上された貸倒引当金は,関係会社株式の減損の要否について事後的視点から回復可能性を判断し,減損が必要と判断された関係会社について,債務超過がありかつ貸付金がある場合には,その貸付金相当額を機械的に計上したものにすぎない。その計上方法は,当 要否について事後的視点から回復可能性を判断し,減損が必要と判断された関係会社について,債務超過がありかつ貸付金がある場合には,その貸付金相当額を機械的に計上したものにすぎない。その計上方法は,当該決算期における対象会社の財務状態の実態を考慮して算出したものではなく,その点だけでも原告の主張は事実に反する。また,上記の計上方 法は,債権区分の方法及び計上額のいずれの点から見ても,原告が依拠する金融商品会計基準にすら適合しない。 S社は,本件訂正において,関係会社が債務超過となっている場合,債務超過分のうち貸付金相当額を貸倒引当金として計上し,貸付金がない残りの債務超過分を保証損失引当金として計上しているが,このような会計処理が「公正なる会計慣行」であった旨の主張は,東京地裁平成20年2月19日判決(判例時報2040号29頁参照)において明確に否定されている。 エ関係会社損失引当金について原告は,企業会計原則が「公正なる会計慣行」であることを前提とした主張をしているが,企業会計原則に記載されていれば,直ちに「公正なる会計慣行」となるものではないことは既に述べたとおりである。 また,平成14年改正前商法287条の2は,関係会社損失引当金について相当とする額に限り,貸借対照表の負債の部に「計上スルコトヲ得」と定めているから,所定の要件を満たす場合であっても,同条が定める会計処理を行うことが許されるにすぎない(義務的なものではない。)。 よって,関係会社損失引当金を計上しなかったS社の会計処理は,旧商法上違法ではない。 (2) 争点(2) 旧商法266条1項1号による責任は過失責任かについて【被告らの主張】ア旧商法266条1項1号の規定は,会社が損害の立証を不要とした 理は,旧商法上違法ではない。 (2) 争点(2) 旧商法266条1項1号による責任は過失責任かについて【被告らの主張】ア旧商法266条1項1号の規定は,会社が損害の立証を不要とした点において,同項5号とは異なる意義があった。同号が法令違反の損害賠償責任を定めていたからといって,それを超えてさらに無過失責任が定められたものと解する理由はない。 イまた,旧商法266条1項1号の責任が資本充実責任であるからといって無過失責任であると解する必然性はない。さらに,昭和25年商法改正 において旧商法266条1項が取締役の権限強化に伴って制定されたという立法経過があるが,取締役の職務執行の公正を期する趣旨の規定であるからといって,無過失責任が定められたと解する必然性はない。 ウ会社法は,違法配当について過失責任と解釈することこそが合理的であり,旧商法の規定を明確にする見地から,取締役の責任が過失責任であることを文言上明らかにしたと考えられる。 取締役には,会計上の専門知識が法的に要求されているものではない。 特に,大会社では職業的専門家である会計監査人を設置してその監査を受けることによって会計処理の適正を担保することとされている。取締役は,会計監査人の監査報告を信頼することが通常であるし,そのような信頼に基づいて会社が運営されることが制度的に予定されている。 エ違法配当がなされた場合,取締役の責任は過失責任であると解した上で,取締役が会計の専門的知識に通じた者の判断を信頼したことが正当であったかどうかの見地から責任の有無を判定することこそが,会社経営の実態に沿う妥当な解決である。 【原告の主張】被告らは,旧商法266条1項1号による取締役の責任について,過失責任であるなどと縷々主張するが,同号 から責任の有無を判定することこそが,会社経営の実態に沿う妥当な解決である。 【原告の主張】被告らは,旧商法266条1項1号による取締役の責任について,過失責任であるなどと縷々主張するが,同号の取締役の責任は無過失責任であると解するのが通説・判例であり,被告らの主張は到底認められない。 実質的にみても,同号の責任はその本質が資本充実責任に基づくものであることや,旧商法266条6項によって責任免除の要件が緩和されていたこと等に鑑みれば,同号による取締役の責任は当然無過失責任であると解すべきである。 (3) 争点(3) 欠席取締役及び監査役に過失があったかについて【原告の主張】本件では,平成13年3月期から平成16年9月中間期までにおける訂正 前の計算書類は,関係会社株式減損を中心として,金額的にも質的にも極めて重要な虚偽表示を含んだ違法なものであり,会計監査人の監査方法も監査結果も著しく相当性を欠いていた。監査役はいずれも会計監査人と十分連携せずに,自ら積極的に情報収集を行うこともなく,執行部と会計監査人との間のやりとりについてもほとんど情報を得ずに,関係会社株式減損については執行部や会計監査人の処理を受け入れるのみであった。監査役らが,会計監査人との間で適切な情報共有を図っておれば,会計監査人から経営に関する情報を入手するなどして,訂正前の会計処理に含まれる問題点を把握し,配当可能利益の有無について判断し,取締役会において違法な利益配当・中間配当の実施を容易に阻止することができた。したがって,その防止措置を講じなかった監査役らに任務懈怠責任が存することは明らかである。本件配当が議案となった取締役会に欠席した取締役には,同取締役会に出席して本件配当に反対するなど,本件配当を防止すべきであったのにこれを怠った過失が 査役らに任務懈怠責任が存することは明らかである。本件配当が議案となった取締役会に欠席した取締役には,同取締役会に出席して本件配当に反対するなど,本件配当を防止すべきであったのにこれを怠った過失がある。 【被告らの主張】監査役は,会計監査人設置会社においては,会計監査人の会計監査報告を踏まえて監査を実施する(平成13年ないし平成16年当時の株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律13条1項)。会計監査については,会計監査人の監査の方法または結果を相当でないと認めたときにのみ,その旨及び理由と自己の監査の方法の概要及び結果を監査報告書に記載すれば足りる(同法14条3項1号)。これらの規定によれば,会計監査人設置会社の計算書類については,公認会計士又は会計監査人による監査に実質的な会計監査が委ねられたといえる。そして,監査役が会計監査人による監査を踏まえて監査報告をした場合において,会計監査人の監査の方法及び結果の相当性を疑うべき事情がなかったときは,監査役に過失はないと解すべきである。 S社の監査役会では,定時株主総会が終了すると,その後1年間にわたる 監査方針と監査役の職務分担を策定していた。そして,常勤監査役は,策定された方針と分担に従って,平成13年ないし平成16年当時,①事業所や関係会社の幹部から聴取するなどの調査,②会計監査人からの報告聴取,③その他関係各所からの報告聴取等を実施し,それによって得られた情報を常勤監査役と非常勤監査役が共有していた。その上で,監査役らは,会計監査に関して会計監査人の監査の方法及び結果の相当性を疑うべき事情はないと判断していたから,監査役らに過失はない。欠席取締役には,会計監査人の適正意見があるにもかかわらず,個々の会計処理の当否をさらに検討すべき注意義務はな 査の方法及び結果の相当性を疑うべき事情はないと判断していたから,監査役らに過失はない。欠席取締役には,会計監査人の適正意見があるにもかかわらず,個々の会計処理の当否をさらに検討すべき注意義務はない。 第3 当裁判所の判断 1 前記前提事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。 (1) 会計基準ア税法基準旧法人税法33条2項,同法施行令34条3項及び4項,68条2項は,子会社株式について評価損を計上できるのは,その株式の発行法人の資産状態が著しく悪化したため,その価格が著しく低下した場合である旨規定し,法人税基本通達9-1-10は,有価証券の価格が著しく低下したことの判定は,その株式の当該事業年度終了時における価額がその時の帳簿価額の概ね50%相当額を下回り,かつ,近い将来その価額の回復が見込まれないことによる旨定めている(甲74)。 イ公認会計士協会報告22号(甲76)(ア) 1株当たりの純資産額が取得価格より著しく減少し,相当の期間内に取得価格まで回復する見込みがない場合のほか,回復する見込みが疑わしい場合にも評価減を行わなければならない。 (イ) 相当期間内に回復する見込みがあるか否かを判断する場合には,企業 外部の状況及び当該会社の特殊事情等を総合的に勘案しなければならない。相当の期間内に回復する見込みがあることの立証責任は当該会社にあり,その証拠資料に基づいて評価減の要否を判断しなければならない。 (ウ) 株式の時価が取得価格まで回復する見込みの有無を判断する場合,回復するまでの期間についてはその投資目的等に鑑み,より長期的な考察が必要と思われること,一律に2,3年の期間を判断基準として採用することにも弊害があると考えられること,評 みの有無を判断する場合,回復するまでの期間についてはその投資目的等に鑑み,より長期的な考察が必要と思われること,一律に2,3年の期間を判断基準として採用することにも弊害があると考えられること,評価減に当たって,財政状態が著しく悪化しているか否かの判断を一律に50%基準等の画一的基準によることには問題が多いことなどについて議論がなされ,数量的基準を示すべきという一部の意見があったが,これを示すことは困難であり,個々について総合的に判断を下すべきものであるという結論を得た。 (エ) 1株当たりの純資産額のどの程度の減少を著しい低下と判断するかは一律に定めることは困難である。実務上は50%ぐらいを目安にしている場合が多いと考えられるが,特に理論的根拠があるとは考えられない。しかし,財政状態の悪化が当該会社の経営に重大な影響を及ぼすような場合には,1株当たりの純資産額の著しい減少と判断せざるを得ない。したがって,著しい程度については,当該企業の実体を十分に把握し,重大な影響があるかどうかを判断しなければならない。 (オ) 取引所の相場のない株式については,株式の実質価額の低下の程度が著しくない場合において,過度に保守的にならないかぎり,その評価減を行うことができるものとした。これは,子会社又は関係会社の財政状態が徐々に悪化して将来累積する見込みのある場合等である。近い将来回復が明らかな場合には当然に評価減することは必要がない。 ウ実務指針に関する論点整理(甲75)日本公認会計士協会会計制度委員会は,平成11年8月23日,金融商品会計実務指針を策定するに当たり,これまでの検討結果を踏まえて,次 の内容の「金融商品に係る実務指針に関する論点整理」を公表した。 市場価格のない株式について発行会社の財政状態の悪化により実質価額が 針を策定するに当たり,これまでの検討結果を踏まえて,次 の内容の「金融商品に係る実務指針に関する論点整理」を公表した。 市場価格のない株式について発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下した場合については,著しく低下したときとは,実質価額が取得価額を大きく下回り,その差額が保有会社の当期損益及び剰余金に及ぼす影響が著しい場合,すなわち実質価額の低下が金額的重要性を有する場合をいう。減損処理すべき金額は取得原価と実質価額との差額であり,実質価額をもって貸借対照表価額とするとともに,その差額を当期の損失として計上することになる。 エ金融商品会計に関するQ&A(甲73)(ア) 日本公認会計士協会会計制度委員会は,平成12年9月14日,金融商品会計実務指針に基づいて会計処理を行う際に留意すべき事項について,次の内容の「金融商品会計に関するQ&A」(以下「金融商品会計Q&A」という。)を公表した。 (イ) 金融商品会計実務指針92項,285項に関して,商法,金融商品会計基準では,市場価格のない株式の減損処理について,実質価額の回復可能性は減損処理の要否の判定要件とはされていない。それは,通常,外部の会社については,財務諸表を時価評価した実質ベースで作成することや中長期の事業計画を入手して改善の見通しを判断することが困難であるために実質価額の下落率のみで減損処理を行うことが妥当であるからである。これに対し,子会社や関連会社の場合には,財務諸表を実質ベースで作成することなどが可能であるから,その結果として回復可能性が十分な証拠によって裏付けられるのであれば,期末において相当の減額をしないことも認められる。 (ウ) したがって,市場価格のない株式の減損処理については,回復可能性の判定は特に求められていないが,子会 な証拠によって裏付けられるのであれば,期末において相当の減額をしないことも認められる。 (ウ) したがって,市場価格のない株式の減損処理については,回復可能性の判定は特に求められていないが,子会社・関連会社については,その判定が可能であり,極力これを行うことが望ましい。 オ金融商品会計実務指針策定に関与した会計専門家のコメント(甲70)過年度決算調査委員会は,金融商品会計基準等の解釈及び運用について,金融商品会計実務指針策定に関与した会計専門家から聞き取り調査を行った。その概要は以下のとおりである。 (ア) 5年後の経営計画による回復可能性については,実務慣行上,取得価格の70%程度まで回復していれば回復可能性があると判断できると解釈されている。平成13年改正後の金融商品会計実務指針は,回復可能性は毎期見直す必要があると定めているが,その趣旨は,経営計画を策定した時点から5年間という期間は固定し,最初策定した経営計画を実績と比較して回復可能性があるかどうかを見直すことである。 (イ) 最初策定した経営計画と実績を比較して,未達が大きすぎると判断した場合,回復可能性がないと判断し,当該関係会社株式を減損する必要がある。その場合の減損額は,未達分の減損ではなく,実質価額まで落とすことになるというのが一般的な理解である。但し,金融商品会計実務指針の文言では,そこまで明確に記載していないため,その処理については関与している公認会計士の指導が重要となる。このため,実務的にすべてこのような解釈で処理されてきたかどうかは必ずしも明確ではなく,未達分のみ又は一部のみ減損していた例もあるかと思われるが,一般的には回復可能性がないと判断して実質価額まで減損する考え方が大勢と思われる。 (ウ) 回復可能性が十分な証拠によって 明確ではなく,未達分のみ又は一部のみ減損していた例もあるかと思われるが,一般的には回復可能性がないと判断して実質価額まで減損する考え方が大勢と思われる。 (ウ) 回復可能性が十分な証拠によって裏付けられているかどうかは主観的判断であるが,そこにいう十分な証拠というのは客観的な資料に基づいて合理的な説明が付けられているかどうか,他の人が見てもなるほどと思えるかどうかによって判断することになる。その場合,重要なことは経営者として真実それが実現可能だと考えているかどうかである。また十分な証拠といえるためには,文書化しておく必要がある。経営者が, 必要なデータを集めて事業計画を策定しており,そのデータを集めて事業計画を策定しており,そのデータに基づいて判断している場合には,仮にその後結果が事業計画と違っていたとしても,それだけで経営者の判断は誤っていたとはいえないことになる。 (エ) 実績と経営計画が離れたときには,公認会計士は,企業側に指摘し,従前の経営者の回復可能性に関する判断が本当に合理的だったかを見直すよう求めることになる。 カ日本公認会計士協会監査基準委員会報告書13号(甲55)日本公認会計士協会監査基準委員会は,平成9年7月23日,次の内容を含む報告書13号「会計上の見積りの監査」を公表した。 (ア) 会計上の見積りを要するものの例として,市場性のない有価証券の実質価値が挙げられる。 (イ) 監査人は,会計上の見積りに係る固有の危険の程度及び内部統制上の危険の程度を評価し,財務諸表に含まれるべき重要な会計上の見積りが漏れなく合理的に行われていることに関する十分な監査証拠を入手しなければならない。 (ウ) 監査人は,必要に応じ,独自に会計上の見積りを行う。独自の会計上の見積り き重要な会計上の見積りが漏れなく合理的に行われていることに関する十分な監査証拠を入手しなければならない。 (ウ) 監査人は,必要に応じ,独自に会計上の見積りを行う。独自の会計上の見積りには通常一定の許容範囲を伴うので,独自の見積額と会社による見積額とを比較した結果,その差額が当該許容範囲に収まる場合には,監査人は,会計上の見積りが合理的であると判断する。 (2) 本件当時のS社の状況(乙4の2,18の2,62,被告Y10,被告Y1,被告Y8,争いのない事実,弁論の全趣旨)ア S社では,商品群や事業部は多岐にわたり,関係会社も340社に上る。 そんな中,本社がすべてを管理管轄して運営していくことは困難な状況になったことから,平成11年4月,事業本部を改め,5つの独立した会社のような権限と責任を持たせた企業体であるカンパニー(Z26,Z27, Z28,Z29,Z30)を編成し,その傘下に事業部や関係会社を置いた(別紙「業務執行体制」参照)。 イ各カンパニーは,社長や副社長という役職が置かれ,本社の取締役や執行役員がその職に就いた。 ウ S社は,本社の幹部社員とカンパニーの幹部社員との間で,各カンパニーの事業について,カンパニーの予算・設備投資を含む事業計画や関係会社を含めた事業の継続・清算などを検討する社内会議であるカンパニー事業検討会を毎年2回開催した。 エ S社の損益状況,当時の主な社会情勢は,別紙「社会情勢及びS社決算概要資料」のとおりであった。 (3) 関係会社の概要(乙6から8,10)ア Z1社(以下「Z1社」という。)Z1社は,S社の100%子会社であり,平成11年当時,資本金が350億円であった。 イ Z2社(以下「Z2社」という。)Z2 ア Z1社(以下「Z1社」という。)Z1社は,S社の100%子会社であり,平成11年当時,資本金が350億円であった。 イ Z2社(以下「Z2社」という。)Z2社は,S社の100%子会社であり,平成11年当時,資本金は375億円であり,S社から債務保証を受け,市中銀行からの借入金は1066億円であった。平成11年3月末時点での累積損失は37億円であった。Z2社は,S社の製品の作成工程のうち初期段階の工程(前工程)を行う会社であった。 ウ Z3社(旧商号「Z4社」。以下,商号変更前も含めて「Z3社」という。)Z3社は,S社の100%子会社であり,平成11年当時,S社からの借入金が319億円あり,同年3月末時点の累積損失は305億円であった。また,Z2社から250億円の増資を受け,資本金は254億円となった。Z3社も,Z2社と同様,前工程を担当する会社であった。 エ Z5社(被告Y10,乙29の1,53の1から8まで,54。以下「Z 5社」という。)Z5社は,S社の赤字部門(オーディオ部門)が独立したS社の100%子会社であり,資本金は4億5000万円であった。平成10年3月期から平成17年3月期までの当期未処分損益は,別表3Z5社計画対比表のとおりであった。本件配当が実施された決算期において,DVDローダー(DVDトレーを出し入れする部品),CDラジカセ等のオーディオ関連商品の販売を主な事業としていた。同社は,平成16年3月期に,Z26において業績が低迷していたビデオレコーダー事業の移管を受けた。これにより,売上高は上昇したものの,ビデオレコーダーの返品やDVDローダーの商品価格の下落等により利益は計画を達成できなかった。もっとも,同社は,ほかにソリッ ビデオレコーダー事業の移管を受けた。これにより,売上高は上昇したものの,ビデオレコーダーの返品やDVDローダーの商品価格の下落等により利益は計画を達成できなかった。もっとも,同社は,ほかにソリッドステレオなど新商品の開発・販売を計画し,相応の売上,利益が見込まれたことから,同社及びS社の経営陣は,累積損失の解消が可能であるとの見通しを持っていた。Z5社は,平成18年1月1日,S社に吸収合併された。 オ Z6社(以下「Z6社」という。乙34の1,35,37,38,40,Q1)Z6社は,S社のテレビ事業部からCD部門が独立して設立された会社で,資本金は9000万円であった。平成10年ころから,導光板の開発・製造に着手し,導光板,CD,カラオケ機器の3つの事業を中心としていた。 Z6社の平成10年3月期から平成18年3月期までの売上高,当期利益,累積損失は,別表4Z6社計画対比表のとおりであった。導光板は,液晶画面の型式のうちフロントライト型に用いられるものであったが,平成16年3月期ころから,安価な擬似白色LEDが登場してバックライト型が主流となったため,導光板の売上げが減少した。そこで,Z6社は,導光板事業から撤退したが,CD事業とカラオケ機器事業が好調であった ことから,同社及びS社の経営陣は,累積損失の解消が計画どおり可能であると判断していた。S社は,平成17年3月期に,Z6社を売却することに決め,それに当たり,Z6社は,平成18年3月期において,特許引当金を取り崩し,約7億5415万円の税引き後利益を上げた。同社は,平成18年4月21日,Z7社に譲渡された。 (4) S社における会計処理等(甲70)ア基本的方針(被告Y10,Q1,被告Y8,被告Y2,被告Y11)(ア) た。同社は,平成18年4月21日,Z7社に譲渡された。 (4) S社における会計処理等(甲70)ア基本的方針(被告Y10,Q1,被告Y8,被告Y2,被告Y11)(ア) S社においては,毎年,次年度の事業計画の策定時に,各カンパニーが関係会社との協議をした上で次年度後2年間の事業計画をも作成し,カンパニー事業検討会において検討していた。そのため,時価会計の導入に当たり,事業計画を基に累積損失の解消が可能かどうかについても同検討会において検討された。カンパニー事業検討会には,本社の社長,副社長,財務担当役員のほか,カンパニーの社長,関係会社の担当者などが参加した。そして,同検討会において,この事業計画によっても累積損失の解消が図れない場合には,当該関係会社のS社内での位置づけの重要性や将来性などを考慮し,本社において利益を上げている事業や開発中の商品の移管,本社との取引において有利な条件の設定,設備投資,投融資,工場の統合や人員の移転などの累積損失解消対策等の関係会社の経営方針について検討された。 (イ) カンパニーは,カンパニー事業検討会での検討結果を踏まえ,関係会社との間で,商品の売上高,販売予定,限界利益等のデータ等を基に関係会社との協議を重ね,市場性や競合相手の動向などを検討し,各商品の予測される利益を積み上げ,収益予測作成時に考慮に入れられていなかった商品の移管などの要素を入れるなどして,3年間又は5年間の計画(以下「本件累損解消計画」という。)を作成した。本件累損解消計画は,本社財務部門による検討や公認会計士による往査を受け,その際に は,商品の開発,販売予定,限界利益など事業計画に関連する数値の記載された資料が添付された。各カンパニーが,S社の財務担当取締役に対して,関係会社の事業計 会計士による往査を受け,その際に は,商品の開発,販売予定,限界利益など事業計画に関連する数値の記載された資料が添付された。各カンパニーが,S社の財務担当取締役に対して,関係会社の事業計画について説明をすることもあり,その際には説明資料が添付された。 (ウ) S社においては,上記の計画が未達成の場合は未達額を減損することとし,その検討結果によっても累積損失の解消がされない場合には,S社との合併,他の会社への売却又は清算して特別損失を計上するという方針で臨んでいた。 イ会計処理の検討状況(乙20,23,48,51,被告Y8)(ア) S社は,平成13年3月期から有価証券等の資産を時価で評価する時価会計が導入されるに当たり,平成11年3月期から取締役会やカンパニー事業検討会などにおいて,関係会社の財務状態などによっては関係会社の株式について相当額の減損を行う必要があり,関係会社株式の含み損が貸借対照表上に計上されることを幹部社員に周知していた。そうした中,S社の経理部門においても,公認会計士とともに関係会社株式減損の具体的な処理方法について検討がなされていた。 (イ) S社は,平成12年9月26日,経理担当者が公認会計士と打ち合わせを行った。その際,公認会計士から,①1株当たりの純資産が50%以下になれば回復可能性を合理的に説明できなければ減損処理が必要であり,特に問題なのがZ1社とZ3社である,②3年程度の事業計画で改善されなかった部分を損失計上すべきである,③10年程度の長期計画であれば,経営者の確認書に回復可能性について合理的判断が行われている旨の記載を求めるなどと指摘を受けた。これに対し,経理担当者は,①Z1社とZ3社が赤字から黒字へ大幅に改善しており,半導体においては急激な改善可能性があり,無形資産の価 いて合理的判断が行われている旨の記載を求めるなどと指摘を受けた。これに対し,経理担当者は,①Z1社とZ3社が赤字から黒字へ大幅に改善しており,半導体においては急激な改善可能性があり,無形資産の価値に多大なものがあるから,技術供与の面からも回収可能性はある,②事業内容によっては1 0年程度の長期計画の立案が不合理とは思えない,③金融商品会計実務指針などを見ても,回復可能性があれば減損処理しないことを認めるとなっており,3年計画で大幅な改善があれば,その時点で累積損失を解消できなくとも,回復可能性があると判断するのは常識的にも認められると考えている,④改善されなかった残りを損失計上するというのは金融商品会計実務指針になく,企業間でばらつくのは必至で応じられない,⑤多角経営,違う事業領域で会社自身が善くなるのであれば回復可能性があると判断するのは自然であり,回復可能性があれば減損処理しなくてよいということに尽きるのではないかなどとの意見を述べた。 (ウ) S社は,上記の公認会計士の指摘や経理担当者とのやりとりを受けて,平成12年9月中間期末ころ,Z1社とZ3社の回復可能性について,次の①から⑥のとおりの資料を作成した。①電子部品,半導体事業は大幅改善されてきており,今後もその基調は続き,回復可能性はあると判断している。②先端技術には無形の資産価値がある。③Z32社は,累損を当年度で一掃するほどの勢いで改善している現実がある。④保守的な考えは機会損失のリスクがあり,今回の会計的な処理は事業運営の実態と乖離する。⑤Z3社の平成18年3月期までの累計利益が単独では回復必要額の30%程度であるが,連結では171%程度である。⑥Z1社については,平成18年3月期までの累計利益が単独では回復必要額の6.7%であるが,台湾企業との 年3月期までの累計利益が単独では回復必要額の30%程度であるが,連結では171%程度である。⑥Z1社については,平成18年3月期までの累計利益が単独では回復必要額の6.7%であるが,台湾企業との協業による収益を含んだ連結では回復必要額の64%である。 ウ主な関係会社の回復可能性の検討状況(乙6から9まで,22)(ア) Z29における検討状況aZ29は,平成11年8月27日,カンパニー事業検討会において,Z2社,Z3社,Z1社等の関係会社を含めた同カンパニーの事業の現状,課題の解決策,解決に必要な本社への要望について,資料を作 成して説明した。同資料には,次の①から⑤の事業構造改革により,Z2社,Z3社,Z29内の一事業部及び後工程関係会社と合算で平成14年3月期には113億円の収益改善により,黒字化する旨の計画が記載されていた。①前工程のうち,一部事業についてはZ3社とZ29の群馬工場からZ2社に移管して前工程のZ2社への集中化を図る,②Z2社に新商品を投入する,③Z3社については,現有の技術を活かし,新たに高付加価値商品を導入する,④岐阜地区の工場を統合し,Z29内岐阜製造事業所として効率化を図る,⑤ラインの閉鎖,移管等による余剰人員をZ2社へ移転する。 また,Z1社については,液晶素材の開発事業を強化する一方で,一部の事業については国内から撤退して海外工場へ集結,一部の事業についてはZ8社へ技術移管し,撤退する事業については特別損失処理し,年間10億円程度の利益を確保することにより,累積損失を解消していくとの計画が記載された。 bZ29における平成12年以降の取組は次のとおりであった。 ①平成12年1月19日,S社の取締役会に対し,Z1社に対する液晶素材の開発及び事業強化のための169億円の増 との計画が記載された。 bZ29における平成12年以降の取組は次のとおりであった。 ①平成12年1月19日,S社の取締役会に対し,Z1社に対する液晶素材の開発及び事業強化のための169億円の増資,Z2社に対する,微細化開発及び事業強化のための350億円の増資,さらには,工場の一部のラインの機械装置の250億円のリースバック,増資に伴う社内金利4%の減免を要望した。 ②一部事業の強化策として,Z3社から微細化技術や商品をZ2社に移管し,S社から350億円の増資を受けたZ2社から250億円の資本注入を受けることにより,当該事業部,Z2社,Z3社について,平成11年9月中間期以降の実績値から平成15年3月期までの収益予測を立て,平成14年3月期から黒字化するとの計画を立てた。 ③平成12年3月14日,取締役会に対し,液晶素材事業関連の新 商品開発,新技術の強化のため,Z1社に対する180億円の増資を依頼した。 ④平成12年9月28日,台湾の企業に対し,出資するとともに液晶に関する技術を供与し,技術供与・指導料やロイヤリティなどの対価を得る協業を取締役会に諮った。 (イ) Z26における検討状況(乙29の1から29の5まで,被告Y10)Z26は,平成13年3月期末ころ,Z5社,Z9社,Z10社,Z6社,Z11社の5社について,本件累損解消計画を別紙「累損解消計画の概要」のとおり策定し,カンパニー検討会において累積損失の解消について検討した。Z6社は,上記事業計画の説明資料として,他のメーカー作成による液晶の需要動向に関する資料,導光板やフロントライト型についての説明資料などを同検討会において提出した。 エ関係会社の清算及び株式減損処理の状況(ア) S社は,平成12年3月期に,Z12社など4社を清算し, 資料,導光板やフロントライト型についての説明資料などを同検討会において提出した。 エ関係会社の清算及び株式減損処理の状況(ア) S社は,平成12年3月期に,Z12社など4社を清算し,関係会社整理損失は合計192億6100万円に上った(乙12)。また,平成13年3月期には,前記ア(45頁)の基本的方針に従い,Z13社という中国の会社を清算した(被告Y8,乙13)。さらに,平成14年3月期には,Z14社について収支が悪化しており,自販機市場の悪化等を考慮すると,回復可能性がないと判断し,同業他社に売却した(被告Y8,乙15)。なお,S社は,平成15年3月期には,Z15社及びZ16社について,当期の損益見込み,債務超過や有利子負債の額,市況の状況などを考慮し,同業他社に上記2社の株式を売却している(乙16)。 (イ) S社は,平成14年3月期に,Z1社について31億0400万円,Z3社・Z2社について54億5500万円の合計85億5900万円を減損処理した(甲70)。 (ウ) S社は,平成15年3月期の関係会社株式の簿価合計は2970億2 700万円であったのに対し(甲12),事業計画に対する未達を理由に,関係会社11社で合計85億8100万円を減損処理した。これに加えて,その他の関係会社について合計60億円の減損,Z1社につき133億6600万円の追加減損を行った(甲70)。 (エ) S社は,平成16年3月期の関係会社株式の簿価合計は2753億1100万円であったのに対し(甲16),事業計画に対する未達を理由に,関係会社11社で合計223億6900万円を減損処理した。これに加えて,その他の関係会社について208億3800万円,Z1社につき,未達分以外に追加で145億7500万円,Z3社及びZ2社 理由に,関係会社11社で合計223億6900万円を減損処理した。これに加えて,その他の関係会社について208億3800万円,Z1社につき,未達分以外に追加で145億7500万円,Z3社及びZ2社につき追加で50億円の減損を行った(甲70)。 (オ) S社は,平成17年3月期,関係会社18社について合計503億6400万円の減損を行った(甲70)。 (5) 本件訂正の経緯(甲43,69から71まで,乙45,被告Y11)S社は,平成17年3月期の監査について,米国監査法人の承認を得なければならなくなったことから,従来の会計方針を変更する必要が生じた。平成18年3月期においては,Z17監査法人において,Z33社粉飾決算に関与した会計士が逮捕されるなど不祥事が発生したことから,厳格なルールの適用が要請された。 こうした中,S社は,平成19年2月27日,平成13年3月期から平成18年3月期までの関係会社株式減損について,金融商品会計基準等への十分な準拠性について証券取引等監視委員会の意見を受けて,過年度決算訂正を行う方針であることを公表し,平成19年5月ころ,過年度決算調査委員会を設置した。本件訂正当時,S社の役員には,大株主であるZ18,Z34社,Z19社系列の取締役がおり,大株主の意向が強く反映される形で本件訂正が行われた。 本件訂正は,S社,金融庁及びZ31監査法人との協議により,S社にお いて策定されていた3年計画の3年目の損益等が4,5年目も継続すると仮定して作成された5年計画(以下「調査委員会の5年計画」という。)を基礎として画一的に回復可能性を判定することとされた。ただし,Z15社,Z20社,Z21社,Z22社,Z23社,Z5社,Z24社,Z25社,Z35社の9社については,調査委員 5年計画」という。)を基礎として画一的に回復可能性を判定することとされた。ただし,Z15社,Z20社,Z21社,Z22社,Z23社,Z5社,Z24社,Z25社,Z35社の9社については,調査委員会の5年計画を考慮せずに減損の判定を行った。その結果,関係会社の平成13年3月期における実質価額は,取得価格から50%減少していたものが52社あり,そのうち,調査委員会の5年計画によって取得価格の70%まで回復しないものは34社であった。 以上のとおり認められる。この認定を動かすに足りる証拠はない。 上記の事実と弁論の全趣旨によれば次のとおり判断することができる。 2 争点(1)(違法配当があったか)について(1) 関係会社株式減損についてアまず,関係会社株式減損に関する法律上の規定についてみる。 (ア) 平成14年改正前商法285条の6第3項は,関係会社株式減損について,「市場価格ナキ株式ニ付テハ其ノ発行会社ノ資産状態ガ著シク悪化シタルトキハ相当ノ減額ヲ為スコトヲ要ス」と規定する。しかし,資産状態の著しい悪化や相当の減額の具体的内容については,一義的に明らかとなるものではない。そこで,その判断基準については,旧商法32条2項の「公正ナル会計慣行」を斟酌して決めることになる。 (イ) 公正なる会計慣行の意義a 「公正なる」の意義・内容旧商法32条2項の「公正なる」とは,商人の営業上の財産及び損益の状況を明らかにするという商業帳簿を作成させる商法の目的からみて公正であることをいう。その目的は,主として商人(企業)の利害関係人に対し,営業上の財産及び損益の状況を明らかにすることにある。結局,「公正なる」といえるか否かは,上記の目的に照らして, 当該会計処理の基準が,社会通念上,合理的 て商人(企業)の利害関係人に対し,営業上の財産及び損益の状況を明らかにすることにある。結局,「公正なる」といえるか否かは,上記の目的に照らして, 当該会計処理の基準が,社会通念上,合理的なものであるといえるかどうかによって決せられる。 b 「会計慣行」の意義・内容次に,「会計慣行」とは,民法92条における「事実たる慣習」と同義に解すべきであり,一般的に広く会計上のならわしとして相当の時間繰り返して行われている企業会計の処理に関する具体的な基準や処理方法をいう。会計慣行が特定の業種に属する企業において広く行われ,かつ相当の時間繰り返して行われているという事実があってはじめて,当該会計慣行が「公正なる会計慣行」となる。これによって会計慣行とされた会計処理の方法が,義務的な行為規範として旧商法32条2項を介して法的な強制力を持ち得ると解される。 c 「斟酌すべし」の意義・内容また,旧商法32条2項が「斟酌すべし」と規定する趣旨は,「公正なる会計慣行」が商業帳簿の作成に関する商法総則の規定や株式会社の計算に関する規定の解釈の指針となるべきことを明らかにしたものである。もっとも,商業帳簿に関する規定を解釈するに当たり他の事情を斟酌することが禁じられているわけではない。結局,「斟酌すべし」とは,「公正なる会計慣行」が存在する場合,特段の事情がない限り,それに従わなければならないという意味に解すべきである。 d 会計基準の新規策定又は改正があった場合と会計慣行旧商法32条2項が「会計基準」という用語ではなく「会計慣行」という文言を用いて,立法作用によらずに企業会計の基準を変更し得ることを容認した趣旨からすると,企業会計の実務の実際の動向を考慮することが当然の前提となる。「慣行」という以上,広く会計上のならわしと いう文言を用いて,立法作用によらずに企業会計の基準を変更し得ることを容認した趣旨からすると,企業会計の実務の実際の動向を考慮することが当然の前提となる。「慣行」という以上,広く会計上のならわしとして相当の時間繰り返して行われていることが必要であり,その内容が合理的なものであっても,そのことだけで直ちに「会計慣 行」になるものではない。 もっとも,旧商法32条2項が,会計慣行の斟酌を命じることにより,企業会計の実務の発展に法が適時に対応することを容認している趣旨に照らすならば,ある会計基準の指示する特定の会計処理方法が,その基準時点とされる時点以後,ある業種の商人の実務において広く反復継続して実施されることがほぼ確実であると認められるときには,例外的にその会計処理方法が同条項にいう「会計慣行」に該当する場合があると解される(東京高等裁判所平成18年11月29日判決・判例タイムズ1275号245頁参照)。 イ次に,本件当時の公正なる会計慣行についてみる。 (ア) 本件において,原告が違法配当であると主張するのは平成14年9月中間期から平成16年9月中間期までの配当及び中間配当である。しかし,本件訂正において平成14年9月中間期以降の配当可能利益がなかったとされているのは,平成13年3月期以降の関係会社株式減損等に関する一連の会計処理が理由であり,上記の各期において配当可能利益の有無を検討するに当たっては,平成13年3月期における会計処理の当否が問題となる。 そこで,まず,平成13年3月期における会計慣行について検討する。 a 市場価格のない株式の減損処理に関する会計基準として平成13年3月期までに存在した基準としては,税法基準としての法人税基本通達9-1-10がある(前記1(1)ア・38頁)。他方,金融商品会計 a 市場価格のない株式の減損処理に関する会計基準として平成13年3月期までに存在した基準としては,税法基準としての法人税基本通達9-1-10がある(前記1(1)ア・38頁)。他方,金融商品会計基準等(第2の1(2)イ(イ)及びウ・5,6頁)は,平成13年3月期から適用開始となっている。両者を対比すると,市場価格のない株式の減損処理についての判断基準として,①時価による実質価額が取得価格の50%以下となること,②相当期間での回復可能性のないこと の2点を考慮している点について共通している。会計審議会意見書において,金融商品会計基準等が従来の会計慣行を踏襲したとされていること(前記第2の1(2)イ(エ)・6頁)も併せて考えると,少なくとも前記①及び②の基準によって減損処理の要否を判断するのが平成13年3月期における会計慣行として確立していたということができる。 b ところで,上記①の基準については,客観的に明らかになるものであるが,②の基準は一義的に明らかになるものではない。どの程度の期間でどのような基準で回復可能性の有無を判断するのかについては,法人税基本通達9-1-10において「近い将来」と定めるのみであり(前記1(1)ア・39頁),金融商品会計基準等においても金融商品会計実務指針285項に「十分な証拠によって裏付けられるのであれば」との定めがあるのみである。どのような状態になれば回復可能性ありといえるのかについて確たる基準はない(前記第2の1(2)ウ(イ)・6頁)。 日本公認会計士協会の見解をみても,公認会計士協会報告22号において,投資目的等に鑑み,より長期的な考察が必要であるから一律の基準を設けないとか,悪化の著しい程度については,当該企業に重大な影響があるかどうかを判断すべきなどとされていた(前記1(1) 号において,投資目的等に鑑み,より長期的な考察が必要であるから一律の基準を設けないとか,悪化の著しい程度については,当該企業に重大な影響があるかどうかを判断すべきなどとされていた(前記1(1)イ・38頁)。実務指針に関する論点整理においても,保有会社への影響の大きさ,金額的重要性を示すのみであり,金融商品会計Q&Aでも回復可能性の判断基準は示されていなかったのである(前記1(1)ウ及びエ・40頁)。さらに,平成13年3月期におけるS社の経理担当者と公認会計士との議論をみても,回復可能性の判断の基礎となる期間が3年とか10年とかいった意見が出て,その判断基準について,具体的な基準の存在をうかがわせる発言は出ていなかったのである(前記1(4)イ(イ)・46頁)。 以上からすると,平成13年3月期の時点で,回復可能性を判断する一義的な基準は会計慣行として確立していなかったと推認できる。 c そこで,当時の回復可能性の判断基準について検討するに,まず,株式の実質価額とは,会社の保有する有形無形のすべての資産を時価評価して算定されるものである。さらに,回復可能性とは,将来の不確実な事象に関し,財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいてする予測である。したがって,株式の実質価額の回復可能性の判断については,当該会社の事業内容,規模,性質,業態のほか,それらに基づいて策定される事業計画・方針など経営判断事項の影響を避けて通れないということができる。 中でも,子会社株式の価格の回復可能性というものは,将来的に親会社が当該子会社を含めたグループ全体をどのように経営していくか,親会社グループ内での当該子会社の位置づけや親会社の支援方針という親会社の経営判断の影響を強く受ける。そうすると,回復可能性の有無は,判断基準が一義的に会計慣行と プ全体をどのように経営していくか,親会社グループ内での当該子会社の位置づけや親会社の支援方針という親会社の経営判断の影響を強く受ける。そうすると,回復可能性の有無は,判断基準が一義的に会計慣行として確立されていない状況の下では,上記の諸般の事情を総合考慮して判断せざるを得ない。その判断を最もよくなし得るのは,当該会社について精通し,経営の専門家である親会社及び子会社の経営者に外ならない。 他方,経営者は,様々な事情により当該会社の資産状況について実態以上に良好であるとの外観を作出しようと恣意的な判断に流れる危険性があることも事実である。そこで,回復可能性の有無については,基本的には経営者の判断を尊重すべきであるが,これを無限定に採用するのではなく,その判断に合理性があったかどうかという観点から判断されるべきである。そして,回復可能性の判断の合理性を判断するに当たっては,親会社・子会社の規模,各事業内容や業態,事業計画の内容,事業計画策定の基礎資料の有無・内容,子会社関係会社を 含めた事業方針など回復可能性の判断過程において考慮されるべき諸事情を総合考慮して決すべきである。 d 金融商品会計実務指針285項は,回復可能性について,十分な証拠による裏付けを要求しているが,何ら証拠もなく回復可能性ありと経営者が判断した場合には,その判断の合理性が否定されるのは当然である。証拠の有無や内容については,合理性判断の一要素として考慮すべきであると解される。 原告は,法令への適合性が問題となる回復可能性判断の場面において,取締役の広範な裁量を認める経営判断原則は適用されないと主張する。確かに,売上げの架空計上のように過去の具体的な事実の存否に関して,法令への適合性が問題となっているのであれば,その事実の存否により客観的に 広範な裁量を認める経営判断原則は適用されないと主張する。確かに,売上げの架空計上のように過去の具体的な事実の存否に関して,法令への適合性が問題となっているのであれば,その事実の存否により客観的に違法か否かが決まる。しかし,回復可能性は,前記c(55頁)のとおり,将来の不確実な事象についての予測であり,それ自体,経営者の経営判断の影響を強く受ける。したがって,その判断に当たっては,経営者の判断過程や判断内容等に合理性があるかという観点を無視できないはずである。そもそも,回復可能性は,会計上の見積りの一態様であって,それ自体,監査実務上,経営者の行った見積りの合理性の有無という観点から判断され,ある程度の許容範囲も認められていたのである(前記1(1)カ・42頁)。さらに,回復可能性の判断について,まず,事業計画実施前に合理的な説明が付けられているかを検討し,事後的に判断が合理的だったか見直すという経営者の判断の合理性という観点から検討する見解もあった(前記1(1)オ(ウ)及び(エ)・41,42頁)。 このような当時の実務の状況からすれば,回復可能性の判断については,これに関する経営者の判断の合理性の有無という観点から決するのが相当である。 (イ) 次に,平成14年3月期以降における会計慣行について検討する。 a 平成14年3月期において,平成13年改正後の金融商品会計実務指針の適用が開始された(前記第2の1(2)ウ(ア)・6頁)。しかし,適用初年度であるから,一般的に広く会計上のならわしとして相当の時間繰り返して行われているとはいえず,当然には慣行性があるとはいえない。もっとも,金融商品会計基準は,上場企業において,有価証券報告書を提出するに当たり,これに従うことが法的に強制されていたから(旧証券取引法193条,財務 はいえず,当然には慣行性があるとはいえない。もっとも,金融商品会計基準は,上場企業において,有価証券報告書を提出するに当たり,これに従うことが法的に強制されていたから(旧証券取引法193条,財務諸表等規則1条1項2項),会計実務において広く反復継続して実施されることがほぼ確実であった。そして,上記の金融商品会計実務指針は,金融商品会計基準に従う企業においては同様に実施されることがほぼ確実なものということができる。そうすると,金融商品会計基準等については,例外的に慣行性を認めてよい。 このように,平成13年改正後の金融商品会計実務指針については,事実の積み重ねではなく,金融商品会計基準等が一定の企業において実施が確実であるという点から慣行性が肯定されるのである。このような場合,金融商品会計基準等の文言の一般的かつ合理的な解釈から導かれる会計処理の方法が会計慣行の内容となると解するのが相当である。 b 以上を前提に,平成13年改正後の金融商品会計実務指針285項の文言(前記第2の1(2)ウ(イ)・7頁)をみると,回復可能性の判断をおおむね5年間という期間で判断することは明らかであるものの,どのような場合であれば業績回復が予定どおり進まないと判明した場合に当たるかについては,「その後の実績が事業計画等を下回った場合」という例示がされているのみであって,これだけでは判断基準として一義的に明確とまではいえない。 c さらに,事業計画に基づく業績回復が予定どおり進まないという判断については,金融商品会計実務指針策定に関与した専門家のコメント(前記1(1)オ(イ)・41頁)によれば,平成13年改正後の金融商品会計実務指針285項「業績回復が予定どおり進まない」場合とは,会計実務上は未達が大きすぎるかどうかという程度の基準でしか メント(前記1(1)オ(イ)・41頁)によれば,平成13年改正後の金融商品会計実務指針285項「業績回復が予定どおり進まない」場合とは,会計実務上は未達が大きすぎるかどうかという程度の基準でしかなく,回復可能性ありとの判断の基となった事業計画の実現が危ぶまれる事態が発生した場合と解釈するのが文言に照らして自然であり,その後事情の変更があった場合には,事業計画における施策遂行の確実性や施策の実現可能性等を再検証し,回復可能性を再度検討すべきということである。そして,実務上,回復可能性については70%程度までの回復と解釈されていた。そうすると,同項の「業績回復が予定どおり進まない」という判断については,実績が事業計画を下回った事実のみをもって判断することでは十分とはいえない。同事実に加え,当該決算期における事情と事業計画の内容とを照らし合わせ,事業計画における施策遂行の確実性や施策の効果がどの程度実現するかを考慮し,その後の事業計画の遂行により取得価格の70%程度までの回復が実現するかどうかという基準をもって判断すべきである。そして,事業計画における施策遂行の確実性等の判断は,業績回復が予定どおり進むかどうかという回復可能性の判断の一態様であるから,前同様,経営者の判断の合理性の有無という観点から決するのが相当である。 ウそこで,S社における処理の会計慣行への適合性について検討する。 (ア) 平成13年3月期aS社においては,社内分社化ともいうべきカンパニーにおいて各事業を分担するという体制を敷いていた。そのカンパニーが統括する関係会社の事業内容も,S社の販売する商品の製作工程の一部分を担当するものやSブランドで販売する商品の製作を担当するものなどであ って,カンパニー及び関係会社すべてが一体となってSブラン る関係会社の事業内容も,S社の販売する商品の製作工程の一部分を担当するものやSブランドで販売する商品の製作を担当するものなどであ って,カンパニー及び関係会社すべてが一体となってSブランドを用いる企業体を構成していたといえる(前記1(2)及び(3)・42,43頁)。 このような体制の下においては,子会社である関係会社というのは,S社の一部門のような位置づけであった。関係会社の財務状況については,本社とカンパニーとの間で行われるカンパニー事業検討会において検討され,関係会社の事業計画に基づく回復可能性もその場で検討される。回復可能性がないと判断されたときには,関係会社の企業体内部における重要度に応じて,関係会社間や関係会社とS社間で製品,人員,技術等を移管するといった,上記の企業体内部における体制の再構築を図って関係会社の財務状況を改善し,実質価額を将来的に取得価格まで回復させるか,あるいは,その関係会社については合併,売却又は清算して特別損失を計上するという方針であった(前記1(4)ア・45頁)。 b 上記のようなS社と関係会社との関係を考慮すると,上記方針にはそれなりの合理性を認めることができる。実際,S社は,回復可能性がないと判断された関係会社を清算し,S社への吸収合併などを行っているのである(前記1(3)エ,オ及び(4)エ(ア)・44,50頁)。また,S社における平成13年3月期までの財務状況(別紙「社会情勢及びS社決算概要資料」)からすると,関係会社の実情に反してまで回復可能性ありと判断し,あえて減損処理を回避する経営上の必要性はなかったと認めることができる。 S社における回復可能性の判断材料となった本件累損解消計画の一例は,別紙「累損解消計画の概要」のとおりである。そこでは,市場環境,商品開発,資産価値 営上の必要性はなかったと認めることができる。 S社における回復可能性の判断材料となった本件累損解消計画の一例は,別紙「累損解消計画の概要」のとおりである。そこでは,市場環境,商品開発,資産価値などについて分析され,分析結果に基づいて売上高や当期利益の計画が策定されている。そのうちZ5社及びZ 6社の事業計画は,別表3及び4のとおり,両社の平成10年3月期以降の業績が回復基調にあったから,これを踏まえて考えると,その内容が不合理であるとはいえない。また,本件累損解消計画の検討に当たり,カンパニーから計画策定の基礎データや資料が提供されていた(前記1(4)ア(イ)・46頁)。その資料の内容の一例も,前記1(4)ウ(48頁)のとおり,移管する商品の内容,需要動向,撤退する事業と資源を集中させる事業,人員の移管など事業構造改革の具体的内容,投融資に関する具体的計画が盛り込まれている。そして,本件累損解消計画は,そのデータや資料を基に,本社財務部門による検討や公認会計士による調査が行われていたのである(前記1(4)ア(イ)・46頁)。このように,S社は,具体的な資料に基づいて,専門家も交えて検討した上で回復可能性について判断しているし,本件累損解消計画の内容も格別不合理なものとはいえないから,平成13年3月期における回復可能性の判断が不合理であったとまでいうことはできない。 c 確かに,前記1(5)(51頁)によれば,調査委員会の5年計画によって70%まで回復しなかった関係会社が34社存在する。しかし,この5年計画は,当時の経営者である被告らが具体的な経営判断を基に策定した計画ではない。調査委員会の5年計画の4年目,5年目の事業計画については,具体的な4年目,5年目の施策を前提としておらず,単に3年目の状況がそのまま継続した る被告らが具体的な経営判断を基に策定した計画ではない。調査委員会の5年計画の4年目,5年目の事業計画については,具体的な4年目,5年目の施策を前提としておらず,単に3年目の状況がそのまま継続した場合の計画であって,言わば3年目の損益の数値をそのまま借用したにすぎない。その場合,事業内容,事業計画によって予定されている施策によっては,3年を経過したころから利益となる施策もあるし,4年目,5年目の損益の数値が,必ずしも3年目の損益の数値と同じになるとは限らない。このように,調査委員会の5年計画を基に70%まで回復しなかったか らといって回復可能性なしと断ずることには些か躊躇を覚えるところである。また,前記のS社における子会社の処理方針によれば,これらの関係会社においては事業の移管等による業績の回復や合併等による清算が予定されていたのである。以上を併せて考慮すると,上記34社について回復可能性があると判断したことが不合理であったとまでいうことはできない。 d 原告は,S社が基礎とした本件累損解消計画は,正式な事業計画よりもあえて利益が上がるように作成されたものであって,実行可能で合理的な事業計画とはいえないと主張する。 しかし,事業計画において何を考慮すべきかは画一的に決まるものではない。そこでは,会社の事業内容や市場の状況などが総合的に考慮される。そして,前記1(4)ア(45頁)によれば,S社においては,事業計画の策定が毎年行われていたが,平成12年3月期以降は,累積損失の解消という基本的方針に従い,あらゆる方策の導入を検討した上で本件累損解消計画が策定されたというのである。実際,新商品の開発や事業の移管等の施策がとられる場合には,その施策による効果が3年を超えてから現れることもあり得る話である。その中で,あえて利 た上で本件累損解消計画が策定されたというのである。実際,新商品の開発や事業の移管等の施策がとられる場合には,その施策による効果が3年を超えてから現れることもあり得る話である。その中で,あえて利益が上がるような事業計画を現状とかけ離れた形で作成したとは考えにくいところである(これを認めるに足りる証拠はない)。そうすると,Z29やZ3社から一部事業をZ2社に移管する(前記1(4)ウ(ア)・48頁)など当初の計画において考慮されなかった施策を本件累損解消計画において考慮したからといって,そのことをもって,本件累損解消計画が実行不可能であるとか,不合理なものであるとはいえない。 e 原告は,被告らがなぜその目標を達成することが可能なのかという根拠となる合理的な証拠を一切示しておらず,回復可能性について十 分な証拠による証明がなされていないと主張する。 しかし,回復可能性は,それ自体が将来の不確実な事象に関する予測である。将来予測である以上,現実的には,経営者が,その当時の市場の予測に関する資料と商品に関する説明資料などを基に,競合相手と対比しながら,市場におけるシェア,売上げなどについて経営の専門家としての判断を下すことになる。本件においては,事業計画策定の基礎資料が存在するし,その内容の一部や具体的計画の一例が示されているのであるから,経営者の判断の合理性を基礎付ける資料として欠けるところはないというべきである。 f 以上によれば,平成13年3月期におけるS社の関係会社株式減損は,公正なる会計慣行にもとる違法なものであったということはできない。 (イ) 平成14年3月期以降aS社においては,原則として事業計画に対する未達額を減損する方針であったから,各期における減損額は各関係会社の未達額にほぼ等 たということはできない。 (イ) 平成14年3月期以降aS社においては,原則として事業計画に対する未達額を減損する方針であったから,各期における減損額は各関係会社の未達額にほぼ等しいものと考えられる(前記1(4)ア(ウ)・46頁)。そして,当該事業計画は累積損失の解消によって関係会社の株式の価値を取得価格まで回復しようというものであったから,事業計画の達成度については,取得価格,すなわち資本金との対比が一つの考慮要素となる。 このような観点から,各期の実際の減損額を資本金と対比すると,平成14年3月期において,Z2社の資本金は375億円,Z3社の資本金は254億円の合計629億円であるのに対し,両社の減損額は合わせて54億5500万円であり,資本金(取得価格)の8.7%程度である(前記1(3)イ,ウ及び(4)エ(イ)・43,44,50頁)。 また,Z1社の資本金は350億円であるのに対し,減損額は31億0400円,資本金(取得価格)の約8.9%程度である(前記1(3) ア及び(4)エ(イ)・43,50頁)。これらは,当時の実務慣行上取得価格の70%程度まで回復していれば回復可能性ありと判断されていたこと(前記1(1)オ(ア)・41頁)に照らすならば,未達の程度としては比較的小さいものであった。 また,平成15年3月期の関係会社株式の簿価合計は2970億2700万円であるのに対し,事業計画に対する未達を理由として減損された額は関係会社全体で多く見ても145億8100万円(簿価合計の約5%)であった(前記1(4)エ(ウ)・50頁)。さらに,平成16年3月期の関係会社株式の簿価合計は2753億1100万円であるのに対し,減損額合計は432億0700万円(簿価合計の約15. 7%)にとどまり,以後の事業年度において )・50頁)。さらに,平成16年3月期の関係会社株式の簿価合計は2753億1100万円であるのに対し,減損額合計は432億0700万円(簿価合計の約15. 7%)にとどまり,以後の事業年度において事業計画どおりの数値を出せば取得価格の80%強までの回復を示すものであった(前記1(4)エ(エ)・50頁)。これらは,いずれも未達の程度としては小さかったということができる(なお,Z1社の平成15年3月期の追加減損約133億6600万円については,事業計画に対する未達を理由とするものであったかどうか判然としない。また,平成16年3月期の追加減損145億7500万円は未達を理由とするものではない。したがって,Z1社がその事業計画にどの程度未達であったか証拠上は明らかではない。)。 b そして,S社は,その基本的方針や経営実態からすれば,事業計画と実績とを対比して,累積損失の解消が十分でなかった場合には,事業の移管等による累積損失の解消を図っていたというのである(前記1(4)ア,ウ・45,48頁)。したがって,S社においては,立案時の事業内容に基づいて5年間などの一定期間の収益計画(本件累損解消計画)によって業績回復を図るだけでなく,より高い利益を生み出す事業・商品の移管などにより関係会社の事業内容自体を変更すると いう手段をとることも予定されており,その後の事情変更などにより計画どおりに進まなかった場合には,このような手段による回復可能性を再検討していたと認めることができる。そして,S社が資本金3000億円を超え,関係会社も300社を超える大企業グループであることからすれば,移管できる事業,商品や技術などの資源を多数擁し,このような手段を実行に移すことも十分可能であったといえる。 そうすると,被告らがこの手段をもって関係会社の業績 る大企業グループであることからすれば,移管できる事業,商品や技術などの資源を多数擁し,このような手段を実行に移すことも十分可能であったといえる。 そうすると,被告らがこの手段をもって関係会社の業績回復が実現可能であると判断したことの合理性を否定することはできない。これは,各期における社会情勢(別紙「社会情勢及びS社決算概要資料」)を踏まえても変わらない。そうすると,本件累損解消計画単体での業績回復がはかどらなかったとしても,このような手段をとることによって,関係会社の業績が回復する可能性は高いといえる。 c このように,上記の事業計画に対する未達の程度が小さいことや,上記の業績回復手段の効果を望めることからすると,前記の程度の未達であれば,上記の手段をとることによって取得価格の少なくとも70%程度までは容易に実質価額の回復を図ることが可能であったと考えられる。したがって,平成14年3月期以降の関係会社は,「業績回復が予定どおり進まない」状態にあったとまでいえず,S社において,平成14年3月期以降において関係会社株式減損を行わなかったとしても,公正なる会計慣行にもとる違法なものであったということはできないというべきである。 (ウ) 本件訂正について本件訂正は,第2の1(4)(11頁)のとおり,平成13年3月期から平成17年3月期までの決算が金融商品会計基準等に準拠していなかったことを理由として行われている。しかし,平成13年3月期における関係会社株式減損の判断は,前記イ(ア)(54頁)のとおり,回復可能性 について経営者が合理的な判断をしたかという観点からされるべきであり,この判断基準について金融商品会計基準等に一義的な基準はない。 しかも,本件訂正は,外資系株主の影響力の下,米国監査法人の監査を受ける必要があったこと 的な判断をしたかという観点からされるべきであり,この判断基準について金融商品会計基準等に一義的な基準はない。 しかも,本件訂正は,外資系株主の影響力の下,米国監査法人の監査を受ける必要があったことや会計監査人自身が会計基準を保守的に適用しなければならない状況下にあったことを背景とし,金融庁やZ31監査法人及びS社の協議によって定められたルールに従ってなされたものである(前記1(5)・51頁)。そのルールの内容を見ても,一部の会社については事業計画に基づく回復可能性の判断を省略するという機械的,画一的な処理であり,事業計画に基づき個別的に判断するよりも保守的な結果となっていたから,このルールによらなければ金融商品会計基準等に反するとはいえないものである。また,その余の会社については,事業計画によって回復可能性の判断をしたものの,その事業計画は簡便な方法で策定されたものであって,この事業計画のみが回復可能性の判断において唯一の合理的方法とはいえないことは既に述べたとおりである。実際,本件訂正の内容は,調査委員会の5年計画に基づいて行われ,一部の会社の回復可能性について事業計画を考慮せずに減損するなど,被告らが合理的に回復可能性ありと判断した関係会社についても全部又は一部減損するという保守的なものであった(前記1(5)・51頁)。 以上によれば,本件訂正は,S社が金融商品会計基準等を保守的に適用すべきとの周囲の強い圧力を受けていた中で,金融庁との協議の結果,金融商品会計基準等の範囲内で簡便かつ保守的な会計処理方法を選択することになったため,金融商品会計基準等が保守的に適用されたと評価することができる。したがって,S社の会計処理がこれと異なるからといって直ちに金融商品会計基準等に準拠していないとか,公正なる会計慣行に反しているなどという 商品会計基準等が保守的に適用されたと評価することができる。したがって,S社の会計処理がこれと異なるからといって直ちに金融商品会計基準等に準拠していないとか,公正なる会計慣行に反しているなどということはできないというべきである。 エ原告の主張について (ア) 原告は,S社における事業計画が実際には達成できなかったことを指摘する。 しかし,回復可能性の判断の合理性というものは,その当時の時点に立って判断すべきものである。事業計画が結果的に不達成であったとしても,その原因が予測不可能な事象の発生によるものである可能性も否定できない。本件においても,本件累損解消計画策定の後になってから,ITバブルの崩壊,世界同時多発テロ,SARSの流行,新潟中越地震(別紙「社会情勢及びS社決算概要資料」)など,経済の停滞を招く事象やS社自身に直接の被害をもたらす事象が現に発生している。これらの事象の発生を考慮せずに事業計画を立案したからといって,その事業計画が不合理なものであったということにはならない。 なお,Z5社は,事業計画に対する実績の達成度について,別表3のとおり,累積損失について,平成14年3月期,平成15年3月期については事業計画を達成しているものの,平成16年3月期には約2億2700万円,平成17年3月期には約19億0900万円が事業計画に対し未達成であった。しかし,未達成となった平成16年3月期においては,ビデオレコーダー事業の移管という本件累損解消計画策定時(平成13年3月期)には想定し得ない事態が発生したといえる。Z5社の事業計画は,当初2年間は達成されていたことからすると,平成16年3月期以降の未達成の事実をもって,その事業計画が当初から実行不可能なものであったとか,合理的でなかったとまではいえない。また,平成1 業計画は,当初2年間は達成されていたことからすると,平成16年3月期以降の未達成の事実をもって,その事業計画が当初から実行不可能なものであったとか,合理的でなかったとまではいえない。また,平成16年3月期及び平成17年3月期における未達成についてみると,当時,新商品の開発が予定されており,事業の移管など体制の再構築による業績回復を行う方針であった(前記1(3)エ・44頁)。このような事情を考慮すると,平成16年3月期,平成17年3月期において回復可能性ありと判断したとしても不合理なものとはいえない。 また,Z6社は,本件累損解消計画に対する実績の達成度については,別表4のとおり,平成14年3月期はわずかに未達成であったが,平成15年3月期は達成,平成16年3月期には累積損失で約20億円の未達成となっている。しかし,このような達成・未達成の推移をみると,この平成16年3月期の未達成のみをもって,当初の事業計画がすべて実現不可能,不合理なものであったということはできない。また,Z6社においては,平成16年3月期時点において,不採算部門である導光板事業について撤退するという対策がとられており,他方,CD事業及びカラオケ機器事業については好調であったこと(前記1(3)オ・44頁)やS社の関係会社の業績回復方針(前記1(4)ア・45頁)を考慮すると,その時点で業績回復が計画通りに進まないとか,回復可能性がないという状況であったとまでいうことはできない。 (イ) 原告は,旧証券取引法上と旧商法上とで結論が異なるのは,旧証券取引法と旧商法とで監査基準を同一にするという旧商法32条2項の趣旨に反すると主張する。 しかし,旧商法32条2項においては,旧証券取引法の「企業会計の基準に従う」という文言とは異なり,「会計慣行を斟酌」するとい で監査基準を同一にするという旧商法32条2項の趣旨に反すると主張する。 しかし,旧商法32条2項においては,旧証券取引法の「企業会計の基準に従う」という文言とは異なり,「会計慣行を斟酌」するという規定ぶりとなったのであるから,旧証券取引法と旧商法において異なる結論となっても不合理ではないし,旧商法32条2項の趣旨に反するともいえない。また,旧証券取引法は,証券市場への参入者に対する情報の開示を趣旨とするもので,旧商法会計が想定する開示対象者とは差異があるから,この点においても,その適法性判断に差異が生じても不合理ではないというべきである。 (ウ) 原告は,金融庁がS社に対して課徴金納付命令をしたことやS社の会計監査人に対して業務停止処分をしたことからS社の関係会社株式減損が違法なものであったと主張する。 この点,金融庁の処分は,前記第2の1(4)(11頁)のとおり,本件訂正による純資産額とS社が決算時に行った会計処理に基づく純資産額とが異なることをもって,有価証券報告書に虚偽の記載があったとしており,本件訂正が金融商品会計基準等に適合する唯一の会計処理であるとの前提に立つものである。しかし,S社の関係会社株式減損が公正なる会計慣行に反するとは必ずしもいえないこと,本件訂正が同基準等に適合する唯一の会計処理であるとまではいえないことは既に述べたとおりである。そうすると,金融庁の処分があるからといって,S社の関係会社株式減損が旧商法上違法であるとの決め手にはならないと解するのが相当である。なお,金融庁の処分においては,関係会社損失引当金の計上について,後述のとおり,旧商法上は義務的ではなく,これをしなかったからといって違法の問題は生じないにもかかわらず,過少計上による虚偽記載があったとしている。した おいては,関係会社損失引当金の計上について,後述のとおり,旧商法上は義務的ではなく,これをしなかったからといって違法の問題は生じないにもかかわらず,過少計上による虚偽記載があったとしている。したがって,金融庁の処分は,旧商法上の会計処理の違法性判断とは異なる判断をしているとも評価できるから,S社の会計処理が直ちに旧商法上も違法であるということにはならない。しかも,金融庁がした課徴金納付命令は,S社がたやすく事実を認めたことによって審判期日を開くことなく発出されたものであり(金融商品取引法183条2項),金融庁の審判手続において,内閣総理大臣の指定する職員(同法181条2項)とS社の双方当事者が攻撃防御を尽くして,証券取引等監視委員会の勧告した事実の存否を判断したことによって発出されたものではない。すなわち,金融庁の課徴金納付命令は,S社の自認の産物であって,そのような顛末が,S社の企業規模に比べると830万円という課徴金の額が低いことや,当時のS社の背景事情(前記1(5)・51頁)の影響を受けた可能性を否定できない。 そうすると,金融庁が課徴金納付命令を発出したからといって,S社の会計処理が直ちに旧商法に違反するということにはならない。 したがって,金融庁の上記の処分があったからといって,直ちにS社の会計処理が違法ということはできない。 オまとめ以上検討したところによれば,S社の平成13年3月期から平成16年3月期までにおいて,関係会社の株式価格に回復可能性があるというの判断に不合理な点は認められない。したがって,関係会社について資産状況の著しい悪化と評価することはできず,減損処理をしなかったことが公正なる会計慣行に適合しない違法なものとはならないと解するのが相当である。 (2) 貸倒引当金につ がって,関係会社について資産状況の著しい悪化と評価することはできず,減損処理をしなかったことが公正なる会計慣行に適合しない違法なものとはならないと解するのが相当である。 (2) 貸倒引当金についてアまず,貸倒引当金の計上に関する法律上の規定についてみる。 (ア) 貸倒引当金について,平成14年改正前商法285条の4第2項は,「金銭債権ニ付取立不能ノ虞アルトキハ取立ツルコト能ハザル見込額ヲ控除スルコトヲ要ス」と規定するが,取立不能の恐れは文言のみから一義的に明らかにならないから,その判断基準については,旧商法32条2項の「公正ナル会計慣行」を斟酌して決めることになる。 (イ) そこで,本件当時の公正なる会計慣行についてみると,本件当時存在した会計基準のひとつは税法基準であり,貸倒引当金の計上を認める場合として,旧法人税法52条1項,法人税法施行令97条1項2号により,総括的な見積もりをする方法が規定されていた。旧法人税法基本通達9-6-4には,債務者につき債務超過の状態が相当期間継続し,事業好転の見通しがないこと,当該債務者が天災事故,経済事情の急変等により多大の損失を蒙ったことその他これらに類する事由が生じたため,当該貸金等の額の相当部分(おおむね50%以上)の金額につき回収の見込がないと認められるに至った場合には一定の額を損金経理を要件として債権償却特別勘定に繰り入れることができるとされ(前記第2の1 (2)オ・9頁),この債権償却特別勘定も貸倒引当金の計上の一つの方法として貸倒額を個別的に見積もる方法であると解されていた(前記第2の1(2)キ・9頁)。 (ウ) 次に,金融商品会計実務指針では,経営破綻の状況には至っていないが,債務の弁済に重大な問題が生じているか又は債務超過にあり,過去の経営成績又は されていた(前記第2の1(2)キ・9頁)。 (ウ) 次に,金融商品会計実務指針では,経営破綻の状況には至っていないが,債務の弁済に重大な問題が生じているか又は債務超過にあり,過去の経営成績又は経営改善計画の実現可能性を考慮しても債務の一部を条件どおりに弁済できない可能性の高い場合に貸倒懸念債権として個別的に見積もった金額の貸倒引当金の計上を認めている(前記第2の1(2)ウ(ウ)・8頁)。 (エ) 以上のように,貸倒引当金の計上を認める要件としては,一つに債務超過にあること,もう一つが事業好転の見通し(税法基準),経営改善計画の実現可能性(金融商品会計実務指針)が掲げられている点で共通している。金融商品会計実務指針については,平成13年3月期から適用となるものであり,直ちに慣行性を認めることはできないが,従前から適用されている税法基準と共通しているのであるから,この点において慣行性を認めて差し支えない。 そうすると,旧商法上の「取立不能の虞」とは,当該会社が債務超過であることに加えて,この事業好転の見通し又は経営改善計画の実現可能性がないことをいうと解するのが相当である。 イ S社の処理の会計慣行適合性前記の事業好転の見通しや経営改善計画の実現可能性については,既に検討した回復可能性の判断と同一となると解するのが相当である。 本件においては,S社は,各関係会社について,回復可能性ありとして,本件訂正において行われたような貸倒懸念債権として貸倒引当金の計上を行っていなかったが,回復可能性ありとの判断の合理性を否定することはできないのであるから,同時に,事業好転の見通しや経営改善計画の実現 可能性などの存在を認めることができる。 ウまとめ以上によれば,S社が,平成13年3月期から平成16年9月中間 であるから,同時に,事業好転の見通しや経営改善計画の実現 可能性などの存在を認めることができる。 ウまとめ以上によれば,S社が,平成13年3月期から平成16年9月中間期までにおいて,貸倒引当金を計上しなかったことは公正なる会計慣行に適合しない違法なものであったということはできない。 (3) 関係会社損失引当金について関係会社損失引当金について,法律上の規定は,平成14年改正前商法287条の2が「特定ノ支出又ハ損失ニ備フル為ノ引当金ハ其ノ営業年度ノ費用又ハ損失ト為スコトヲ相当トスル額ニ限リ之ヲ貸借対照表ノ負債ノ部ニ計上スルコトヲ得」と規定する。その規定ぶりからすれば,関係会社損失引当金の計上は,各会社に委ねられており,義務付けられていると解することはできない。したがって,関係会社損失引当金を計上しなかったことは,同法287条の2に違反するものではない。 この点,原告は,金融商品会計基準等から関係会社損失引当金について引当てが義務付けられ,引当金の計上をしなかったことが違法となる旨主張する。しかし,「計上スルコトヲ得」という文言は,会計慣行を斟酌するまでもなく任意的裁量規定であることは明らかであるから,原告の主張は失当である。 (4) まとめ以上のとおり,関係会社株式減損,貸倒引当金及び関係会社損失引当金のいずれについても,S社の行っていた会計処理には公正なる会計慣行に適合しない違法性を認めることはできない。各期において実施した配当には配当可能利益を欠くような違法は認められないというべきである。 3 結論以上検討したところによれば,本件配当は違法配当ではない。そうすると,その余の争点(2)(旧商法266条1項1号による責任は過失責任か)及び(3) (欠席取締役 ある。 主文 結論以上検討したところによれば,本件配当は違法配当ではない。そうすると,その余の争点(2)(旧商法266条1項1号による責任は過失責任か)及び(3)(欠席取締役及び監査役に過失があったか)について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。 理由 大阪地方裁判所第4民事部裁判長裁判官松田亨 裁判官西村欣也 裁判官諸井明仁

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