【DRY-RUN】主 文 原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。 被上告人の本件請求を棄却する。 訴訟の総費用は、被上告人の負担とする。 理 由 上告代理人
主 文 原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。 被上告人の本件請求を棄却する。 訴訟の総費用は、被上告人の負担とする。 理 由 上告代理人柳川俊一、同緒賀恒雄、同中島尚志、同向英洋、同松村利教、同前田 順司、同日鷹修一、同藤中保、同東本洋一、同森正弘の上告理由第一について 一 原審が適法に確定したところによると、(1) 被上告人は、第一審判決添付 の第一物件目録記載の建物(以下「第一物件」という。)について、株式会社Mを 債務者とする根抵当権設定登記及び代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保 全仮登記を経由していた、(2) その後、N国際港都建設事業a地区復興土地区画 整理事業の施行者であるO市長は、いわゆる直接施行の方法により、第一物件を仮 換地上に移築する目的をもつて取り壊し、その大部分の解体材と一部に補足材を使 用して仮換地上に第一審判決添付の第二物件目録記載の建物(以下「第二物件」と いう。)を完成し、所有者である株式会社P(以下「P」という。)にこれを引き 渡した、(3) Pは、第一物件につき取り壊しを原因とする滅失の登記、第二物件 につき新築を原因とする表示の登記の各申請をし、その旨登記され、第一物件の登 記簿は閉鎖された、(4) 被上告人は、Pに対し、第一物件と第二物件との間には 同一性があるから右各登記は無効であると主張して、その各抹消登記手続を求める 訴訟を提起し、Pに対しその旨の登記手続を命ずる被上告人勝訴の判決が確定した、 (5) そこで、被上告人は、右判決正本及び確定証明書を添付して、上告人に対し、 いずれも錯誤を原因として第一物件につき滅失の登記の抹消、第二物件につき表示 の登記の抹消を申請したところ、上告人は、これをいずれも却下する旨の処分(以 下「本件処分」という。)をした、と 告人に対し、 いずれも錯誤を原因として第一物件につき滅失の登記の抹消、第二物件につき表示 の登記の抹消を申請したところ、上告人は、これをいずれも却下する旨の処分(以 下「本件処分」という。)をした、というのである。 - 1 - 二 そして、原審は、(1) 土地区画整理法七七条の規定に基づき、施行者が、 いわゆる直接施行の方法により、従前地上の建物を解体して換地(仮換地を含む。 以下同じ。)上に移転(移築)した場合において、換地上の建物が旧建物の材料の 大部分を使用し旧建物と同一の種類、構造のものであるときは、新旧両建物の間に は社会通念上同一性が保持されており、旧建物は取り壊しによつて滅失することな く換地上の新建物として存続しているものと評価することができる、(2) したが つて、旧建物の登記簿により新建物の公示作用を果たさせるべきであつて、旧建物 の登記簿を閉鎖し新建物につき表示の登記をすることは許されない、(3) 本件に おいては、第一物件と第二物件との間には右にいう同一性が保持されていると認め られるから、第一物件についてされた滅失の登記及び第二物件についてされた表示 の登記は、いずれも実体のない無効の登記であつて、その抹消をなすべきものであ り、被上告人の本件登記申請を却下した本件処分は違法である、と判断した。 三 しかしながら、原審の右判断は、次の理由により是認することができない。 建物の表示に関する登記は、その種類、構造等、建物の物理的現況を正確に把握 しこれを公示することを目的とするものであり、登記された建物が滅失したときは、 その滅失の登記を行い、建物の表示を朱抹して、その登記用紙を閉鎖することを要 するとされているが(不動産登記法(昭和五八年法律第五一号による改正前のもの) 九三条の六第一項、九九条、八八条)、ここにいう建物の「滅失」とは、建物が物 表示を朱抹して、その登記用紙を閉鎖することを要 するとされているが(不動産登記法(昭和五八年法律第五一号による改正前のもの) 九三条の六第一項、九九条、八八条)、ここにいう建物の「滅失」とは、建物が物 理的に壊滅して社会通念上建物としての存在を失うことであつて、その壊滅の原因 は自然的であると人為的であるとを問わないし、また建物全部が取り壊され物理的 に消滅した事実があれば、その取り壊しが再築のためであろうと、あるいは移築の ためであろうと、その目的のいかんを問わず、すべて建物の「滅失」に当たるとい うべきである。すなわち、前示のとおり建物の表示の登記は当該建物の物理的な現 況を公示することを目的とするものであるから、社会通念上もはや建物といえない - 2 - 程度にまで取り壊され、登記により公示された物理的な存在を失うに至つた場合に は、たとえ解体材料を用いてほとんど同じ規模・構造のものを跡地あるいは他の場 所に建てたとしても(再築又は移築)、それはもはや登記されたものとは別個の建 物といわざるを得ないのであり、その間に物理的な同一性を肯定することはできな い。したがつて、登記手続上は、旧建物について滅失の登記をし、新しく建築され た建物について新規にその表示の登記をしなければならないのであつて、滅失した 建物の登記を新建物について流用することは許されないのである(最高裁昭和三八 年(オ)第一一一二号同四〇年五月四日第三小法廷判決・民集一九巻四号七九七頁 参照)。このことは、その取り壊しが土地区画整理法七七条の規定に基づき建物を 換地上に移転する過程で生じた場合であつても、何ら異なるところはないというべ きである。けだし、土地区画整理法上、建物については、換地処分に係る土地の場 合(同法一〇四条)と異なり、換地上に移転した建物と旧建物との物理的同一性を 擬制するような規定 ら異なるところはないというべ きである。けだし、土地区画整理法上、建物については、換地処分に係る土地の場 合(同法一〇四条)と異なり、換地上に移転した建物と旧建物との物理的同一性を 擬制するような規定は設けられていないのであり、区画整理に伴う場合であつても、 移転の過程でいつたんこれを取り壊すことにより客観的、物理的に建物としての存 在を失うという事実が発生している以上、たとえそれが所有者の自由意思によるも のでなく、また移転後の建物が旧建物の解体材料の大部分を用い、規模・構造もほ とんど同一であるとしても、不動産登記法上は、これを滅失として取り扱うことが、 建物の物理的現況を正確に公示するという表示に関する登記の趣旨、目的にそうこ とになるからである(実際問題として、取り壊し後、移築までの間には一定の時間 的経過を伴うのが通常であるから、その間の公示という観点からみても、これを滅 失として扱わざるを得ないというべきである。)。この点で、同じ換地上への建物 移転であつても、建物を解体せずにそのままの状態で曳行移動する場合(この場合 は、移転前後の建物に物理的な同一性があり、登記手続上建物の所在の変更として 取り扱われる。)と差異が生ずることになるが、これは、曳行移転と解体移転とで - 3 - は、移転の過程において建物がいつたん物理的に消滅するか否かという決定的な相 違があることによる結果であつて、やむを得ないというべきであり、右差異が生じ ることを理由にこれを同一に扱うことは相当でない。なお、原判決が引用する大審 院昭和八年(ク)第一八〇号同年三月六日決定(民集一二巻四号三三四頁)は、従 前地上の建物の収去を命ずる債務名義の効力が換地上に移築された新建物に及ぶか どうかが問題となつた事案に関するものであつて、登記手続上、建物の滅失の登記 がされるべきか否かの判断を示したも 四頁)は、従 前地上の建物の収去を命ずる債務名義の効力が換地上に移築された新建物に及ぶか どうかが問題となつた事案に関するものであつて、登記手続上、建物の滅失の登記 がされるべきか否かの判断を示したものではなく、本件とは事案を異にするといわ なければならない。 そうすると、原審の確定した前記事実関係からすれば、第一物件について取り壊 しを原因とする滅失の登記が、第二物件について新築を原因とする表示の登記が、 それぞれされたことは正当であり、これを抹消すべき理由はないというべきである から、被上告人の本件登記申請を却下した本件処分に取り消すべき違法はないとい うべきである(なお、登記官は、表示に関する登記の申請については実質的審査を してその許否を決すべきものであるから、本件において、Pに対し、第一物件と第 二物件との同一性を理由に第一物件の滅失の登記及び第二物件の表示の登記の各抹 消登記手続をすべき旨命じた確定判決があることは、上告人が本件処分をする妨げ となるものではないと解すべきである。)。 四 したがつて、第一物件についての滅失の登記及び第二物件についての表示の 登記はいずれも無効の登記であり抹消されるべきものであるとした原審の判断は、 法令の解釈適用を誤つた違法なものであり、右違法が原判決の結論に影響を及ぼす ことは明らかであるから、この点を指摘する論旨は理由があり、原判決は破棄を免 れない。そして、以上によれば、本件処分の取消を求める被上告人の請求が理由の ないことは明らかであるから、これを認容した第一審判決を取り消し、被上告人の 本件請求を棄却すべきである。 - 4 - 五 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六 条、八九条に従い、裁判官佐藤哲郎の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見 で、主文のとおり判決する。 裁判官佐 4 - 五 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六 条、八九条に従い、裁判官佐藤哲郎の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見 で、主文のとおり判決する。 裁判官佐藤哲郎の反対意見は、次のとおりである。 私は、多数意見と異なり、本件処分を取り消すべきであるとした第一、第二審の 見解を支持し、本件上告を棄却すべきものと考えるものであり、その理由は以下に 述べるとおりである。 一 本件において第一物件が滅失したかどうかは、要するに、第一物件と第二物 件との間に同一性があるかどうかによつて決せられるものである。多数意見は、建 物がいつたん解体され建物でなくなつたという物理的状態が生じたか否かの観点の みを基準としてその同一性の有無ひいては滅失の有無を判断しようとするものであ り、判断基準の明確性、登記手続の迅速かつ画一的処理という点ではそれなりの合 理性を有しているものと思われる。しかし、登記制度の目的は、実体的物権変動を 正確に公示することにより不動産取引の安全と円滑に奉仕することにあるのである から、不動産登記法における建物の滅失の意義も、実体法の解釈を離れてはあり得 ないし、また取引上又は利用上の観点からの考察を無視することはできないのであ つて、建物の同一性の有無は、単なる物理的な観点からではなく、取引通念ないし 社会通念を基準としてこれを判断しなければならないと解すべきである。 二 したがつて、建物を一度取り壊し、これを再築又は移築した場合のように、 旧建物がいつたん解体され物理的に消滅した状態が生じた場合においても、なお新 旧両建物の材料・種類・構造、場所、解体と建築との時間的近接性などを総合して、 取引通念ないし社会通念に従い新旧両建物の同一性を肯認し得る余地があるという べきである。殊に、本件のような土地区画整理事業に伴う 物の材料・種類・構造、場所、解体と建築との時間的近接性などを総合して、 取引通念ないし社会通念に従い新旧両建物の同一性を肯認し得る余地があるという べきである。殊に、本件のような土地区画整理事業に伴う建物の換地上への移転は、 従前地における使用収益の権利関係がそのまま換地上に移行することに対応して行 - 5 - われるもので、建物所有者の自由な意思によるものではないのであり、その移転の 過程で解体により物理的には建物としての存在がいつたん失われることがあるとし ても、それは建物を換地上へ移転させるための技術的なプロセスにすぎないのであ るから、この場合にも、単に解体という物理的状態が生じたとの一事をもつて、新 旧両建物の間には同一性がなく旧建物は滅失したと解することは、旧建物の抵当権 者等に対し不測の損害を与えることになり、土地区画整理制度の趣旨に適合しない というべきである。しかも、同じ換地上への建物移転であつても、曳行移動の場合 は建物の同一性が失われないのに、解体移転の場合には、解体により常にその同一 性が否定されるというのは、単なる技術的な工法の相違によつて抵当権等の消滅、 不消滅という実体法上の法律関係に著しい差異を生ぜしめるものであつて、その合 理性を見いだすことができない。なお、右のような建物の解体移転について、実体 法上は両建物の同一性を肯定し抵当権等は消滅しないと解しながら、登記手続上は 建物の滅失として取り扱わざるを得ないとする考え方は、不動産取引の安全と円滑 に奉仕すべき登記制度本来の趣旨、目的にそわないものであつて妥当とはいえない。 したがつて、土地区画整理事業に伴い従前の建物が解体移転の方法により換地上に 移築された場合でも、その換地上の新建物が旧建物の材料の大部分を使用して建築 された同一種類・構造の建物であつて、その面積、外観等にもそれほどの変 整理事業に伴い従前の建物が解体移転の方法により換地上に 移築された場合でも、その換地上の新建物が旧建物の材料の大部分を使用して建築 された同一種類・構造の建物であつて、その面積、外観等にもそれほどの変動がな く、移築が解体と時間的に近接して行われたときは、両建物の間には社会通念上同 一性が保持されているものとして、旧建物の権利関係はそのまま新建物に移行する と解すべきであると考える。 三 原審の確定したところによれば、第一物件と第二物件との間には、その解体 材料の使用程度、種類・構造の同一性、面積、外観、解体と移築との時間的近接性 などに照らし、社会通念上同一性があるということができるから、第一物件は解体 によつて滅失することなく換地上に第二物件として存続しているというべきであり、 - 6 - したがつて、第一物件につき取壊しを原因としてされた滅失の登記及び第二物件に つき新築を原因としてされた表示の登記(表題部の登記)は、いずれも実体を欠く 無効の登記であつて抹消されるべきものであり、その各抹消を求める被上告人の本 件登記申請を却下した本件処分は違法であるといわなければならない。以上と同旨 の原審の判断は正当であり、右判断を非難するに帰する論旨第一ないし第三は採用 し得ない。 また、第一物件が解体移転前に合棟されていたことは、右各抹消登記をすること の登記法上の障害となるものでないことは原判決の説示するとおりであり、論旨第 四も理由がない。 したがつて、本件上告はこれを棄却すべきものである。 最高裁判所第一小法廷 裁判長裁判官 大 内 恒 夫 裁判官 角 田 禮 次 郎 裁判官 高 島 益 郎 裁判官 佐 藤 内 恒 夫 裁判官 角 田 禮 次 郎 裁判官 高 島 益 郎 裁判官 佐 藤 哲 郎 裁判官 四 ツ 谷 巖 - 7 -
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