1令和3年12月9日宣告 広島高等裁判所令和3年(う)第44号 過失運転致傷,道路交通法違反被告事件原審 山口地方裁判所岩国支部 令和2年(わ)第25号主 文本件控訴を棄却する。 理 由1 本件控訴の趣意は,主任弁護人若杉朗仁ほか作成の控訴趣意書に記載されているとおりであるからこれを引用する。控訴理由は,被告人を本件犯人と認めた原判決に,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるというものである。 そこで,記録を調査して検討する。 2 原判決が認定した「罪となるべき事実」の要旨は,被告人が,①普通乗用自動車を運転中,交差点(別紙(原判決の更正決定添付の別紙の写し。以下同じ。)【添付省略】記載の地点所在の交差点。以下「本件交差点」という。)を岩国駅方面から右折進行するに当たり,本件交差点右折方向出口に設けられた横断歩道(以下「本件横断歩道」という。)上を横断する歩行者等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然と相当の速度で右折進行した過失により,本件横断歩道上を歩行中の被害者に自車左前部を衝突させて路上に転倒させ,よって,被害者に加療約5日間を要する右肩打撲等の傷害を負わせ(過失運転致傷),②上記事故を起こして人に傷害を負わせたのに,被害者の救護等必要な措置を講じず,かつ,その事故発生の日時場所等を警察官に報告しなかった(道路交通法違反)というものである。 3 原判決は,要旨,次のとおり判示し,被告人が本件の犯人であると認め,原判示の事実を認定した。 ⑴ 関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 ア 本件事故は,本件当日午後6時6分頃,岩国市a町b丁目c番d号先所在の本件交差点で発生し,犯人の運転していた自動車(以下「犯人車両」という。) 2は,本件事故後,停 が認められる。 ア 本件事故は,本件当日午後6時6分頃,岩国市a町b丁目c番d号先所在の本件交差点で発生し,犯人の運転していた自動車(以下「犯人車両」という。) 2は,本件事故後,停止することなく直進進行し,別紙【添付省略】記載の交差点①(以下「交差点①」という。)を右折進行した。 イ 被告人は,本件事故当時,登録番号が「福岡●●●▲1107」の白色プリウス(以下「被告人車両」という。)を使用しており,当時,被告人以外の者が被告人車両を運転することはなかった。 ウ 被告人は,本件当日午後6時3分頃,岩国市a町e丁目f番g号所在のE郵便局において,現金5万円を引き出した。 エ 被告人は,上記郵便局から被告人車両を運転して移動し,同日午後6時8分頃,同市a町h丁目i番j号所在のF店(以下「本件コンビニ」という。)南側駐車場(以下「本件駐車場」という。)に被告人車両を停車させ,本件コンビニに入店した。被告人は,入店してから30秒ほど後には同店を退店し,被告人車両を運転して本件駐車場から出て行った。 オ 時速約30kmの自動車でE郵便局を出発して本件交差点を経由し,交差点①を右折して本件コンビニに至るまでの平均走行時間は約3分35秒である。 ⑵ A及び被害者の各証言によれば,犯人車両は,福岡ナンバーの「1107」の白色プリウスであると認められる。 ⑶ 犯人車両と被告人車両は,いずれも福岡ナンバーの「1107」の白色プリウスであり,ナンバーの4桁の数字という特徴的な点も含めて複数の特徴が一致している。 そして,このように犯人車両と特徴の一致する被告人車両が,本件事故発生時刻の約3分前にE郵便局付近に存在し,本件事故発生の約1分後には本件駐車場に進入しており,本件事故発生時刻に近接した時間帯に本件事故発生現場付近に存 車両と特徴の一致する被告人車両が,本件事故発生時刻の約3分前にE郵便局付近に存在し,本件事故発生の約1分後には本件駐車場に進入しており,本件事故発生時刻に近接した時間帯に本件事故発生現場付近に存在していたといえることを踏まえると,犯人車両と被告人車両の同一性が強く推認できる。 一方で,福岡ナンバーの「1107」のプリウスは福岡県内に63台登録さ 3れており,この台数だけを見ると,被告人車両とは別の上記特徴を有する犯人車両が本件事故を起こした可能性も否定はできない。 しかし,本件事故発生現場は,山口県内でも東部に位置する岩国市内であって,福岡県とは相応に距離があり,証人B及び同Cが岩国市内で福岡ナンバーの車両を見掛けることが余りない旨証言していることに照らしても,岩国市内を走行している福岡ナンバーの車両自体が比較的少ないといえる。 そうすると,上記台数に加え,本件事故が岩国市内で発生しているという事実も併せ考えると,犯人車両と被告人車両の同一性が相当強く推認でき,被告人車両とは別の上記特徴を有する犯人車両がたまたま本件事故発生時刻頃に岩国市内を走行し,本件事故を起こした可能性も零ではないが,そのような偶然は社会通念上想定し難いものといえる。 このため,本件事故当時,被告人以外に被告人車両を運転する者がいないことも踏まえると,被告人が本件事故を起こした犯人であると認められる。 ⑷ 弁護人は,❶本件事故が比較的軽微なものであることからすれば,前科前歴がなく任意保険にも加入している被告人が,刑事・民事の責任を恐れて,被害者の救護や本件事故の通報等を行うことなく本件事故現場から立ち去ることは考えにくい,❷被告人は,本件当日の夜,飲食店やスナックに立ち寄っているが,犯人の行動として不自然である,❸被告人は,本件事故 者の救護や本件事故の通報等を行うことなく本件事故現場から立ち去ることは考えにくい,❷被告人は,本件当日の夜,飲食店やスナックに立ち寄っているが,犯人の行動として不自然である,❸被告人は,本件事故直後に本件コンビニに立ち寄り,のんきに買物をしているが,犯人の行動として不自然であるなどと指摘し,被告人は犯人でないと主張する。 しかし,❶について,本件事故は,客観的に見れば被害者が重篤な傷害を負う可能性の低い態様のものといえるが,事故の軽重にかかわらず,事故を起こした際に気が動転するなどしてその場を立ち去るという行動は一般的にも見られることであり,前科前歴がないことや任意保険に加入していることを踏まえても,被告人であれば本件事故を起こした際に被害者を救護し,警察官に通報するはずであるとはいえない。❷については,犯人が,交通事故を起こして一 4定の時間が経過した後,飲食店やスナックに立ち寄ることがおよそ不自然であるとはいえず,❷をもって被告人が犯人ではないと考えることはできない。 ❸については,確かに,被告人が本件事故直後に本件事故現場からさほど離れていない本件コンビニに立ち寄っているという行動は犯人の行動として不自然な面があることは否定できないが,被告人が本件コンビニ店内にいた時間は僅か30秒ほどであり,被告人車両で本件駐車場に進入し,同駐車場を出るまでの時間も1分30秒ほどと短時間であるから,のんきに買物をしていたという評価は当たらない。本件駐車場が本件事故現場から直接見ることはできない位置にあることも踏まえると,短時間本件コンビニに立ち寄るという行動によって犯人として検挙される危険が格段に増すわけでもないから,❸の事情は上記の強い推認を前提とした認定を揺るがすものではない。 4 以上の原判決の説示は,論理則,経験則 ンビニに立ち寄るという行動によって犯人として検挙される危険が格段に増すわけでもないから,❸の事情は上記の強い推認を前提とした認定を揺るがすものではない。 4 以上の原判決の説示は,論理則,経験則等に照らして不合理なものではなく,当裁判所も正当として是認することができる。 5 所論について検討する。 ⑴ 所論は,①原判決の「岩国市内を走行している福岡ナンバーの車両自体が比較的少ない」との認定が誤りである,②福岡ナンバーの「1107」のプリウスは,福岡県内に63台登録されているとの消極的間接事実を適切に評価すれば,被告人車両とは別に,上記特徴を有する犯人車両が本件事故を起こした合理的可能性が残ることは明らかである,③原判決は,原審弁護人が原審で主張した上記❶~❸の消極的間接事実を個々に評価しているが,これらの事実が重なり合って存在していることを考慮すれば,被告人が犯人であることに合理的疑いが生じるなどと主張する。 ⑵ そこで検討する。 まず,①の所論について見ると,原判決の挙げる上記認定の根拠のうち,原審各証言については,「本件事故後に,『この辺走る,福岡ナンバーって余り見ないよね。』と職場で話した。」(B),「ここら辺にはもう山口,広島とかが 5たくさんいて,福岡というのはもう見ません。」(C)というものであり,印象論の域を出ないことは否定し難いが,両者は相互にその信用性を補強し合っているといえる上,原判決の指摘する,本件現場が山口県内でも東部に位置している岩国市内であって,福岡県とは相応に距離があるという客観的事実によっても裏付けられているのであるから,原判決の上記認定が不合理とはいえない。 次に,②③の所論について見ると,原判決が認定した積極的間接事実,すなわち,被告人車両と犯人車両が,いずれも福岡ナンバーの「1 付けられているのであるから,原判決の上記認定が不合理とはいえない。 次に,②③の所論について見ると,原判決が認定した積極的間接事実,すなわち,被告人車両と犯人車両が,いずれも福岡ナンバーの「1107」の白色プリウスである事実や,被告人車両が本件事故発生時刻の約3分前にE郵便局付近に所在し,かつ,本件事故発生時刻の約1分後には本件駐車場に進入している事実はそのとおり認められる。そして,これら地点の位置関係を見ると,原審Dの証言及び甲27号証別紙見取図によれば,E郵便局,本件駐車場及び本件事故現場全てが東西方向図測約400m,南北方向同約200mの地域(以下「本件地域」という。)内に含まれ,E郵便局は本件地域内の南東寄り,本件駐車場は本件地域内の北西寄り,本件事故現場は本件駐車場のおおむね南南東方向図測100m余りの地点にそれぞれ位置すると認められ,E郵便局及び本件駐車場のいずれも本件事故現場に近接しているといえる。これらの事実を踏まえて,被告人が犯人でないというためには,被告人が被告人車両でE郵便局付近を出て約4分後に本件駐車場に到着するまでの間に移動できる限られた範囲内に,同時に,福岡ナンバーの「1107」の白色プリウスが被告人車両以外にも存在したということになる。このような可能性は,本件地域が,福岡県内ならまだしも,隣接するとはいえ東側にある山口県の更に東部に位置する岩国市内であることをも考慮すれば,極めて低いというべきである。 よって,上記両間接事実及び本件事故当時被告人以外に被告人車両を運転する者がいなかった事実から,本件犯人は被告人であると推認することができる。 そして,所論が消極的間接事実として指摘する上記②の事情を見ても,福岡ナンバーの「1107」のプリウスは,福岡県内全体でも63台しか登録され 6てお は被告人であると推認することができる。 そして,所論が消極的間接事実として指摘する上記②の事情を見ても,福岡ナンバーの「1107」のプリウスは,福岡県内全体でも63台しか登録され 6ておらず,かつ,証拠によれば被告人車両はプリウスのいわゆる第3世代であり,被害者の原審証言等によれば犯人車両は第2又は第3世代であったと認められるところ,こうしたモデルによる限定を加え,更に塗装が白色のものに限れば,同様の特徴を持つ自動車の台数は上記63台から更に減少すると推認されるのであって,こうした点をも考慮すれば,本件犯人が被告人であるとの推認は決して動揺するものではない。 また,所論が③で指摘する❶~❸の事情を見ても,いずれも,常識に照らし,被告人が犯人であればおよそ執らないといえるような行動でないことは,原判決が適切に説示するとおりであり,これらの事情を併せて総合考慮してみても,上記の推認が動揺するものではない。 ⑶ 所論の指摘を全て検討しても,被告人を本件犯人と認めた原判決に誤りはなく,論旨は理由がない。 6 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。 令和3年12月15日広島高等裁判所第1部 裁判長裁判官 伊 名 波 宏 仁 裁判官 富 張 真 紀 7 裁判官 廣 瀬 裕 亮
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