令和3(わ)843 現住建造物等放火

裁判年月日・裁判所
令和4年7月6日 京都地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-91404.txt

判決文本文2,140 文字)

- 1 - 主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中230日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。 理由 【罪となるべき事実】被告人は、京都府長岡京市内の施設に入所して、前記施設2階の一室を居室として生活していたものであるが、Aら10名が現に住居に使用する前記施設(鉄筋コンクリート造陸屋根3階建、床面積合計約451.27平方メートル)に放火しようと考え、令和3年2月18日午前5時頃、前記施設被告人方居室において、同室に置かれたベッド上の布団にライターで点火して火を放ち、その火を同室の壁面等に燃え移らせ、よって、前記施設の一部を焼損(焼損面積約11.4845平方メートル)した。そして、被告人は、同日午前6時46分頃、長岡京交番に出頭し、司法警察員に対し本件犯行を自首した。 【証拠の標目】(略)【法令の適用】罰条刑法108条刑種の選択有期懲役刑自首減軽刑法42条1項、68条3号未決勾留日数刑法21条執行猶予刑法25条1項保護観察刑法25条の2第1項前段訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書【量刑の理由】 - 2 - 犯行態様は、早朝、10名が居住する本件施設2階の自室において、布団が燃え上がるまでライターで何度も火を付け、火が付くと、火を大きくするため居室のエアコンのスイッチを入れ、一度現場から立ち去ろうとしたものの、さらにその火を大きくするため、自室の扉を開放したというものである。そこからは、本件施設を燃やそうとする強い意欲が認められる。もっ 室のエアコンのスイッチを入れ、一度現場から立ち去ろうとしたものの、さらにその火を大きくするため、自室の扉を開放したというものである。そこからは、本件施設を燃やそうとする強い意欲が認められる。もっとも、被告人は、後述する精神障害の影響により、入居者に及ぼす危険までは思い至ることなく犯行に及んでいる。犯行の結果、被告人の居室を中心に本件施設の一部が焼損し、本件施設の入居者1名は気道熱傷等のけがにより10日間の入院を余儀なくされた。犯行態様からすると、迅速な119番通報や入居者による避難誘導等がなければ、本件施設2階部分が更に燃え広がり、より多くの負傷者が出る危険があった。もっとも、本件施設運営者と負傷した入居者は、いずれも被告人のことを許し、被告人が重い処罰を受けることを求めていない。このことは、被告人に対する刑罰を決める上で、被告人に有利な事情として十分考慮する必要がある。 被告人が犯行に及んだのは、本件施設での生活にストレスや不満を抱えるようになり、そこから逃げ出したいと思ったからである。そこには、被告人の自閉スペクトラム症及び統合失調症が長年見落とされ、本件施設での対応を含め、これまで適切な治療や処遇を受けることができなかったことが影響している。また、本件施設から逃げ出すための手段として、放火することを着想するや実行してしまった短慮には、自閉スペクトラム症の特性及び統合失調症の陰性症状や認知機能の低下の影響が認められる。しかし、火を大きくするための工夫が見られることや、犯行後に逃亡したり犯行道具等を隠したりしていることに照らせば、被告人の精神障害が犯行に及ぼした影響は限定的である。したがって、被告人が犯行に及んだことに対する非難は、少し弱まる程度にとどまる。 以上の被告人がした罪の重さ等に基づいて、検察官と弁護人らがそれぞれ指摘 精神障害が犯行に及ぼした影響は限定的である。したがって、被告人が犯行に及んだことに対する非難は、少し弱まる程度にとどまる。 以上の被告人がした罪の重さ等に基づいて、検察官と弁護人らがそれぞれ指摘する同種事案の量刑傾向も参考にしながら、被告人に対する刑罰を検討すると、本件は刑の執行を猶予することもあり得る事案である。 - 3 - その上で再犯可能性について検討する。犯行動機の形成等には自閉スペクトラム症及び統合失調症が影響しているところ、今般、弁護人らの尽力により、精神科病院への入院の内諾が得られるとともに、地域生活定着支援センターに対し、退院後の生活環境調整の依頼もなされていて、今後は被告人の障害を踏まえた適切な支援体制が組まれる見込みである。また、被告人の治療及び社会生活について、家族による一定の協力も期待できる。そして、被告人は、本件施設運営者及び負傷した入居者に謝罪文を送付するなど被告人なりに反省の意思を示している。被告人に元々反社会的な行動傾向はなく、適切な支援の下、自らの障害と上手に付き合えるようになれば、再犯に及ばないことが期待される。 以上より、被告人に対しては、刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。 そして、強制的な監督の下で、更生環境を整えていくのが相当であるから、猶予の期間中、保護観察に付するのが適当であると判断した。 (求刑懲役5年、弁護人の科刑意見懲役3年の執行猶予)令和4年7月6日京都地方裁判所第3刑事部 裁判長裁判官安永武央 裁判官村川主和 裁判官大野友己 主文 裁判官大野友己

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る