令和6(行ケ)1 選挙無効請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年2月26日 広島高等裁判所 松江支部 棄却
ファイル
hanrei-pdf-93889.txt

判決文本文21,194 文字)

令和7年2月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和6年(行ケ)第1号選挙無効請求事件口頭弁論終結日令和7年1月10日判決(省略) 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求の趣旨 令和6年10月27日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の鳥取県第1区、同第2区、島根県第1区及び同第2区における選挙を無効とする。 第2 事案の概要等 1 本件は、令和6年10月27日施行の衆議院議員総選挙(以下「本件選挙」という。)について、鳥取県第1区、同第2区、島根県第1区及び同第2区の選挙人であ る原告らが、衆議院小選挙区選出議員の選挙の選挙区割りに関する公職選挙法の規定は憲法に違反し無効であるから、これに基づき施行された本件選挙のうち前記各選挙区における選挙(以下「本件各選挙区選挙」という。)も無効であるなどと主張して提起した、公職選挙法204条による選挙無効訴訟である。 2 前提事実 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (1) 当事者原告Aは鳥取県第1区の、原告Bは同第2区の、原告Cは島根県第1区の、原告Dは同第2区の各選挙人である。 被告鳥取県選挙管理委員会は鳥取県第1区及び同第2区について、被告島根県選挙 管理委員会は島根県第1区及び同第2区について、本件各選挙区選挙に関する事務を 管理する選挙管理委員会である。 (2) 本件選挙に至るまでの経緯等ア公職選挙法は、衆議院議員の選挙制度につき、小選挙区比例代表並立制を採用しており、衆議院議員の定数は465人とされ、そのうち289人が小選挙区選出議員、176人が比例代表選出議員とされている(4条1項)。小 法は、衆議院議員の選挙制度につき、小選挙区比例代表並立制を採用しており、衆議院議員の定数は465人とされ、そのうち289人が小選挙区選出議員、176人が比例代表選出議員とされている(4条1項)。小選挙区選挙について は、全国に289の選挙区を設け、各選挙区において1人の議員を選出するものとされている(同法13条1項、別表第1。以下、後記の改正の前後を通じてこれらの規定を併せて「区割規定」という。)。 衆議院議員選挙区画定審議会設置法(以下、後記の改正の前後を通じて「区画審設置法」という。)2条は、衆議院議員選挙区画定審議会(以下「区画審」という。)は、 衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し、調査審議し、必要があると認めるときは、その改定案(以下単に「改定案」という。)を作成して内閣総理大臣に勧告するものと規定している。 イ平成24年法律第95号(以下「平成24年改正法」という。)による改正前の区画審設置法(以下「旧区画審設置法」という。)4条は、区画審による改定案の勧告 について、①1項において、統計法5条2項本文の規定により10年ごとに行われる国勢調査(以下「大規模国勢調査」という。)の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に行うものと規定し、②2項において、1項の規定にかかわらず、各選挙区の人口の著しい不均衡その他特別の事情があると認めるときは、これを行うことができると規定していた。そして、旧区画審設置法3条は、改定案の作成の基準 (以下、後記の改正の前後を通じて「区割基準」という。)について、①1項において、改定案の作成は、各選挙区の人口の均衡を図り、各選挙区の人口のうち、その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることを基本とし、行政区画、地勢、交通等 ①1項において、改定案の作成は、各選挙区の人口の均衡を図り、各選挙区の人口のうち、その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることを基本とし、行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないと規定するとともに、②2項において、改定案の作成に当たっては、各都道府県 の区域内の選挙区の数は、各都道府県にあらかじめ1を配当することとし(以下、こ のことを「1人別枠方式」という。)、この1に、小選挙区選出議員の定数に相当する数から都道府県の数を控除した数を人口に比例して各都道府県に配当した数を加えた数とすると規定していた(以下、この区割基準を「旧区割基準」という。)。 平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙(以下「平成21年選挙」という。)は、平成24年改正法による改正前の区割規定(以下「旧区割規定」という。)の定め る選挙区割りの下で行われたものであるところ、同日における選挙区間の選挙人数の最大較差は1対2.304(以下、較差に関する数値は、全て概数である。)であり、選挙人数が最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は45選挙区であった。 平成21年選挙につき、最高裁平成22年(行ツ)第207号同23年3月23日 大法廷判決・民集65巻2号755頁(以下「平成23年大法廷判決」という。)は、旧区画審設置法3条1項は投票価値の平等の要請に配慮した合理的な基準を定めたものであると評価する一方、同選挙時において、選挙区間の投票価値の較差が拡大していたのは、1人別枠方式がその主要な要因となっていたことは明らかであり、かつ、人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮等の視点から導入された1人 別枠方式は、既に立法時の合理性が失われていたもの 1人別枠方式がその主要な要因となっていたことは明らかであり、かつ、人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮等の視点から導入された1人 別枠方式は、既に立法時の合理性が失われていたものというべきであるから、旧区割基準のうち1人別枠方式に係る部分及び同基準に従って改定された旧区割規定の定める選挙区割りは、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたと判示した。そして、平成23年大法廷判決は、この状態につき憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず、旧区割基準を定めた規定及び旧区割規定 が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で、事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内に、できるだけ速やかに旧区割基準中の1人別枠方式を廃止し、旧区画審設置法3条1項の趣旨に沿って旧区割規定を改正するなど、投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要があると判示した。 ウ平成23年大法廷判決を受けて、平成24年11月16日、旧区画審設置法3 条2項の削除及びいわゆる0増5減の措置(各都道府県の選挙区数を増やすことなく議員1人当たりの人口の少ない5県の選挙区数を1ずつ減ずる措置をいう。)を内容とする平成24年改正法が成立したが、同日に衆議院が解散されたため、同年12月16日施行の衆議院議員総選挙(以下「平成24年選挙」という。)は平成21年選挙と同じく旧区割規定の定める選挙区割りの下で行われた。 平成24年選挙につき、最高裁平成25年(行ツ)第209号、第210号、第211号同年11月20日大法廷判決・民集67巻8号1503頁(以下「平成25年大法廷判決」という。)は、同選挙時において旧区割規定の定める選挙区割りは平成21年選挙時と同様に憲法の投 210号、第211号同年11月20日大法廷判決・民集67巻8号1503頁(以下「平成25年大法廷判決」という。)は、同選挙時において旧区割規定の定める選挙区割りは平成21年選挙時と同様に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったが、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず、旧区割規定が憲法1 4条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で、国会においては今後も平成24年改正法による改正後の区画審設置法3条(旧区画審設置法3条1項と同内容の規定)の趣旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要があると判示した。 エ平成24年改正法の附則の規定に基づく区画審の勧告を受けて、平成25年6 月24日、0増5減の措置を前提に、選挙区間の人口の較差が2倍未満となるように17都県の42選挙区において区割りを改定することを内容とする同年法律第68号(以下「平成25年改正法」という。)が成立した。平成25年改正法による改正後の平成24年改正法によって区割規定が改正され、平成22年に行われた大規模国勢調査の結果によれば選挙区間の人口の最大較差は1対1.998となるものとされた が、平成26年12月14日施行の衆議院議員総選挙(以下「平成26年選挙」という。)の当日においては、選挙区間の選挙人数の最大較差は1対2.129であり、選挙人数が最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は13選挙区であった。 平成26年選挙につき、最高裁平成27年(行ツ)第253号同年11月25日大 法廷判決・民集69巻7号2035頁(以下「平成27年大法廷判決」という。)は、 0増5減の措置における定数削減の対象とされた県以外の都道府県について旧区割基準に基づいて 1月25日大 法廷判決・民集69巻7号2035頁(以下「平成27年大法廷判決」という。)は、 0増5減の措置における定数削減の対象とされた県以外の都道府県について旧区割基準に基づいて配分された定数の見直しを経ておらず、上記のような投票価値の較差が生じた主な要因は、いまだ多くの都道府県において1人別枠方式を定めた旧区画審設置法3条2項が削除された後の区割基準に基づいて定数の再配分が行われた場合とは異なる定数が配分されていることにあり、このような投票価値の較差が生じたこ とは、全体として平成24年改正法による改正後の区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備が実現されていたとはいえないことの表れというべきであるとして、平成25年改正法による改正後の平成24年改正法により改定された選挙区割りはなお憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわざるを得ないと判示した。そして、平成27年大法廷判決は、同条の趣旨に沿った選挙制度の整備に ついては、漸次的な見直しを重ねることによってこれを実現していくことも国会の裁量に係る現実的な選択として許容されていると解されるとし、上記の選挙区割りの改定後も国会において引き続き選挙制度の見直しが行われていること等を併せ考慮すると、平成23年大法廷判決の言渡しから平成26年選挙までの国会における是正の実現に向けた取組は、立法裁量権の行使として相当なものでなかったということはで きず、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえないと判示した。 オ平成25年改正法の成立の前後を通じて、国会においては、今後の人口異動によっても憲法の投票価値の平等の要求に反する状態とならないようにするための制度の見直し等について検討が続けられ、平成26年9月以降、有識者によ 法の成立の前後を通じて、国会においては、今後の人口異動によっても憲法の投票価値の平等の要求に反する状態とならないようにするための制度の見直し等について検討が続けられ、平成26年9月以降、有識者により構成され る衆議院議長の諮問機関として設置された「衆議院選挙制度に関する調査会」において調査、検討等が行われた。 上記調査会は、平成28年1月14日、衆議院議長に対し、答申を提出した。同答申は、衆議院議員の定数を10削減して465人(小選挙区選出議員の定数につき6削減して289人、比例代表選出議員の定数につき4削減して176人)とする案が 考えられるとした上、投票価値の較差の是正については、小選挙区選挙における各都 道府県への議席配分方式が満たすべき条件として、比例性のある配分方式に基づいて配分すること、選挙区間の投票価値の較差を小さくするために各都道府県間の投票価値の較差をできるだけ小さくすること、各都道府県の配分議席の増減変動が小さいこと、一定程度将来にわたっても有効に機能し得る方式であることを挙げ、これらの条件に照らして検討した結果として、各都道府県への議席配分をいわゆるアダムズ方式 (各都道府県の人口を一定の数値で除し、それぞれの商の整数に小数点以下を切り上げて得られた数の合計数が小選挙区選挙の定数と一致するようにする方式)により行うものとした。そして、同答申は、各都道府県への議席配分の見直しについて、制度の安定性を勘案し、10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果による人口に基づき行うものとし、その中間年に行われる国勢調査の結果、選挙区間の人口の較差が2倍 以上の選挙区が生じたときは、区画審において、各都道府県への議席配分の変更は行うことなく、上記較差が2倍未満となるように関係選挙区の区画の見直しを行うも 調査の結果、選挙区間の人口の較差が2倍 以上の選挙区が生じたときは、区画審において、各都道府県への議席配分の変更は行うことなく、上記較差が2倍未満となるように関係選挙区の区画の見直しを行うものとした。 カ前記オの答申を受けて、平成28年5月20日、衆議院議員の定数を10削減して465人(小選挙区選出議員の定数につき6削減して289人、比例代表選出議 員の定数につき4削減して176人)とするとともに、各都道府県への定数配分の方式としてアダムズ方式を採用すること等を内容とする同年法律第49号(以下「平成28年改正法」という。)が成立した。 平成28年改正法による改正後の区画審設置法(以下「新区画審設置法」という。)4条は、区画審による改定案の勧告について、①1項において、平成32年(令和2 年)以降10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に行うものと規定し、②2項において、1項の規定にかかわらず、統計法5条2項ただし書の規定により大規模国勢調査が行われた年から5年目に当たる年に行われる国勢調査(以下「簡易国勢調査」という。)の結果による各選挙区の日本国民の人口のうち、その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以 上となったときは、当該国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から 1年以内に、これを行うものと規定する。そして、新区画審設置法3条は、区割基準について、①1項において、改定案の作成は、各選挙区の人口(最近の国勢調査の結果による日本国民の人口をいう。以下同じ。)の均衡を図り、各選挙区の人口のうち、その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることとし、行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的 人口をいう。以下同じ。)の均衡を図り、各選挙区の人口のうち、その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることとし、行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければ ならないと規定するとともに、②2項において、同法4条1項の規定による勧告に係る改定案の作成に当たっては、各都道府県の区域内の選挙区の数は、各都道府県の人口を小選挙区基準除数(その除数で各都道府県の人口を除して得た数(1未満の端数が生じたときは、これを1に切り上げるものとする。)の合計数が小選挙区選出議員の定数に相当する数と合致することとなる除数をいう。)で除して得た数(1未満の 端数が生じたときは、これを1に切り上げるものとする。)とすると規定し(アダムズ方式)、③3項において、同法4条2項の規定による勧告に係る改定案の作成に当たっては、各都道府県の区域内の小選挙区選出議員の選挙区の数は変更しないものと規定する(以下、この区割基準を含む上記各規定による選挙区の改定の仕組みを「新区割制度」という。)。 さらに、平成28年改正法は、アダムズ方式による各都道府県の選挙区数の変更が行われるまでの投票価値の較差是正のための措置として、附則2条1項において、小選挙区選出議員の定数を6削減することを前提に、新区画審設置法4条の規定にかかわらず、区画審において平成27年に行われた簡易国勢調査(以下「平成27年国勢調査」という。)の結果に基づく改定案の作成及び勧告を行うこととした。そして、同 附則2条2項及び3項は、上記改定案の作成について、新区画審設置法3条の規定にかかわらず、各都道府県の選挙区数につき、選挙区数の変更の影響を受ける都道府県を極力減らすことによって選挙制度の安定性を確保する観点から、いわゆる0増6減の 作成について、新区画審設置法3条の規定にかかわらず、各都道府県の選挙区数につき、選挙区数の変更の影響を受ける都道府県を極力減らすことによって選挙制度の安定性を確保する観点から、いわゆる0増6減の措置(平成27年国勢調査の結果に基づき、アダムズ方式により得られる選挙区数が改正前の選挙区数より少ない都道府県のうち、当該都道府県の人口を同方式により 得られる選挙区数で除して得た数が少ない順から6都道府県の選挙区数を1ずつ減 じ、それ以外の都道府県は改正前の選挙区数を維持する措置をいう。)を講じた上で、平成27年国勢調査の結果に基づく選挙区間の人口の較差が2倍未満となるようにし、かつ、次回の大規模国勢調査が実施される平成32年(令和2年)の見込人口に基づく選挙区間の人口の較差が2倍未満であることを基本とするとともに、各選挙区の平成27年国勢調査の結果による人口及び平成32年(令和2年)の見込人口の均 衡を図り、行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行うこととした。 区画審は、平成29年4月19日、内閣総理大臣に対し、0増6減の措置を講ずることを前提に、19都道府県の97選挙区において区割りを改めることを内容とする改定案の勧告を行った。これを受けて、平成29年6月9日、同年法律第58号(以 下「平成29年改正法」という。)が成立し、同法による改正後の平成28年改正法によって区割規定が改正された(以下、同改正後(令和4年法律第89号による改正前)の区割規定を「平成29年改正後の区割規定」といい、平成29年改正後の区割規定の定める選挙区割りを「平成29年改正後の選挙区割り」という。)。 キ平成29年9月28日に衆議院が解散され、同年10月22日、平成29年改 正後の選挙区割りの下で衆議院議員総選挙(以 規定の定める選挙区割りを「平成29年改正後の選挙区割り」という。)。 キ平成29年9月28日に衆議院が解散され、同年10月22日、平成29年改 正後の選挙区割りの下で衆議院議員総選挙(以下「平成29年選挙」という。)が行われた。平成29年選挙当日における選挙区間の選挙人数の較差は、選挙人数の最も少ない選挙区(鳥取県第1区)と最も多い選挙区(東京都第13区)との間で1対1. 979であり、選挙人数が最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は存在しなかった。 最高裁平成30年(行ツ)第153号同年12月19日大法廷判決・民集72巻6号1240頁(以下「平成30年大法廷判決」という。)は、平成29年改正後の選挙区割りについて、各都道府県への定数配分を人口に比例した方式の一つであるアダムズ方式により行うことによって選挙区間の投票価値の較差を相当程度縮小させその状態が安定的に持続するよう立法措置を講じた上で、同方式による定数配分がされる までの較差是正の措置として0増6減の措置や選挙区割りの改定を行うことにより、 選挙区間の選挙人数等の最大較差を縮小させたものであり、投票価値の平等を確保するという要請に応えつつ、選挙制度の安定性を確保する観点から漸進的な是正を図ったものと評価することができるとした。そして、平成30年大法廷判決は、平成29年改正法までの立法措置の内容やその結果縮小した較差の状況を考慮すると、平成29年選挙において、1人別枠方式を含む旧区割基準に基づいて配分された定数に変更 がなくこれとアダムズ方式により各都道府県の定数配分をした場合に配分されることとなる定数を異にする都道府県が存在していることをもって平成29年改正後の選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反するということはできず ムズ方式により各都道府県の定数配分をした場合に配分されることとなる定数を異にする都道府県が存在していることをもって平成29年改正後の選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反するということはできず、平成29年選挙当時には新区画審設置法3条1項の趣旨に沿った選挙制度の整備が実現されていたということができるから、平成28年改正法及び平成29年改正法による選挙区 割りの改定等は、国会の裁量権の行使として合理性を有するというべきであり、平成27年大法廷判決が平成26年選挙当時の選挙区割りについて判示した憲法の投票価値の平等の要求に反する状態は、平成29年改正法による改正後の平成28年改正法によって解消されたものと評価することができるとし、平成29年選挙当時において平成29年改正後の選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあ ったということはできないと判示した。 ク令和3年10月14日に衆議院が解散され、同月31日、平成29年改正後の選挙区割りの下で衆議院議員総選挙(以下「令和3年選挙」という。)が行われた。平成29年改正後の選挙区割りの下では、令和2年に行われた大規模国勢調査の結果によれば選挙区間の人口の最大較差は1対2.096となり、令和3年選挙当日におけ る選挙区間の選挙人数の較差は、選挙人数の最も少ない選挙区(鳥取県第1区)と最も多い選挙区(東京都第13区)との間で1対2.079であり、選挙人数が最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は29選挙区であった。 最高裁令和4年(行ツ)第130号同5年1月25日大法廷判決・民集77巻1号1頁(以下「令和5年大法廷判決」という。)は、令和3年選挙は、平成29年選挙と 同じく平成29年改正後の選挙区割りの下で行われたものであるところ、その後 年1月25日大法廷判決・民集77巻1号1頁(以下「令和5年大法廷判決」という。)は、令和3年選挙は、平成29年選挙と 同じく平成29年改正後の選挙区割りの下で行われたものであるところ、その後、更 なる較差是正の措置は講じられず、令和3年選挙当時には、選挙区間の較差は平成29年選挙当時よりも拡大し、選挙人数の最大較差が1対2.079になるなどしていたが、新区割制度は、選挙区の改定をしてもその後の人口異動により選挙区間の投票価値の較差が拡大し得ることを当然の前提としつつ、選挙制度の安定性も考慮して、10年ごとに各都道府県への定数配分をアダムズ方式により行うこと等によってこ れを是正することとしているのであり、新区割制度と一体的な関係にある平成29年改正後の選挙区割りの下で拡大した較差も、新区割制度の枠組みの中で是正されることが予定されているということができるとした。そして、令和5年大法廷判決は、上記のような制度に合理性が認められることは平成30年大法廷判決が判示するとおりであり、上記のような平成29年改正後の選挙区割りの下で較差が拡大したとして も、当該較差が憲法の投票価値の平等の要求と相いれない新たな要因によるものというべき事情や、較差の拡大の程度が当該制度の合理性を失わせるほど著しいものであるといった事情がない限り、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至ったものということはできないとした上で、令和3年選挙当時における選挙区間の投票価値の較差は、自然的な人口異動以外の要因によって拡大したものというべき事情はうかが われないし、その程度も著しいものとはいえないから、上記の較差の拡大をもって、平成29年改正後の選挙区割りが令和3年選挙当時において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたものということ われないし、その程度も著しいものとはいえないから、上記の較差の拡大をもって、平成29年改正後の選挙区割りが令和3年選挙当時において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたものということはできないと判示した。 ケ一方、令和3年6月に令和2年実施の大規模国勢調査の結果による人口(速報値)が官報公示されていたことを受け、区画審は、同年7月から区割改定案にかかる 審議を開始し、令和4年2月21日、区割改定案の作成方針を取りまとめた。同作成方針では、各選挙区の人口、較差の状況等を確認し、都道府県知事に対する意見照会等を踏まえ、人口最小選挙区である鳥取第2区を基準として選挙区間の人口格差を2倍未満とすること、選挙区は飛び地にしないこと、市区町村の区域は原則として分割しないことなどの過去の区割基準が踏襲されたが、今回については特に市区町村の分 割解消によって県内の最大較差が拡大する場合には分割を維持すること、選挙区の改 定にあたっては、地勢、交通等を総合的に考慮することとし、令和3年選挙における当日有権者数において較差2倍以上となっている状況も考慮するとされた。 区画審は、上記の作成方針を踏まえ、区割改正案を取りまとめ、令和4年6月16日、内閣総理大臣に対し、改正案の勧告を行った。この改正案は、新区画審設置法に基づき、令和2年の大規模国勢調査の結果を踏まえ、アダムズ方式を適用して初めて 選挙区の区割りの見直しを図ったもので、概要、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県及び愛知県で定数を合計10増加させ、宮城県、福島県、新潟県、滋賀県、和歌山県、岡山県、広島県、山口県、愛媛県及び長崎県で定数を合計10減少させるとともに、上記都県を含む25都道府県の合計140の選挙区において区割りを改め、令和3年選挙における当日有権者数 滋賀県、和歌山県、岡山県、広島県、山口県、愛媛県及び長崎県で定数を合計10減少させるとともに、上記都県を含む25都道府県の合計140の選挙区において区割りを改め、令和3年選挙における当日有権者数を基準としても、較差が2倍未満となるように作成された ものであった。 これを受けて、令和4年11月18日、同年法律第89号(以下「令和4年改正法」という。)が成立し、区割規定が改正された(以下、同改正後の区割規定を「本件区割規定」といい、本件区割規定の定める選挙区割りを「本件選挙区割り」という。)。これにより、令和2年10月1日を調査時とする大規模国勢調査による日本国民の人口 を基準とした各都道府県間の議員1人当たりの人口の最大較差は1.697倍となり、また、選挙区間の人口の最大較差は2.096倍から1.999倍に縮小された。 (以上につき、乙2、25、26の1・2、乙27の1、乙28の1、乙30の1ないし4)コ令和6年10月9日に衆議院が解散され、同月27日、本件選挙区割りの下で 衆議院議員総選挙(本件選挙)が行われた。本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の較差は、住民基本台帳に基づく人口によれば、選挙人数の最も少ない選挙区(鳥取県第1区)と最も多い選挙区(北海道3区)との間で1対2.059であり、選挙人数が最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は、10選挙区であった。(乙3) 3 争点及び当事者の主張 (1) 本件選挙区割り及びそれに基づく本件選挙は、新区画審設置法3条1項、4条2項に違反するか。 (原告ら)区画審は、新区画審設置法3条1項、4条2項に基づき、令和2年の国勢調査の結果による人口での各選挙区間の最大較差が2倍未満となり、かつ、令和2年の国勢調 査以降令 に違反するか。 (原告ら)区画審は、新区画審設置法3条1項、4条2項に基づき、令和2年の国勢調査の結果による人口での各選挙区間の最大較差が2倍未満となり、かつ、令和2年の国勢調 査以降令和7年の国勢調査までの5年間、令和7年の見込人口での各選挙区間の最大人口較差が2倍未満となるよう、改正案を作成し、かつ勧告する義務を負うと解される。その理由は、①上記のように解さないと、令和7年の簡易国勢調査時に、各選挙区間の最大人口較差が2倍以上になったときは、区画審が、新区画設置法4条2項に基づき、同法第2条の規定による勧告を行うものとするという義務を負うことを説明 できないこと、②平成28年改正法附則第2条3項一号ロに「見込人口」という記載があることなどによる。それにもかかわらず、区画審は、令和4年1月、住民基本台帳に基づく人口において最大人口較差が2倍以上である2.034倍であることを認識した上で、又は当該認識を怠って、令和4年6月16日に、改正案を違法に作成して勧告しており、令和6年10月27日の各選挙区間の最大有権者数較差についても 2.06倍であるので、上記改正案は違法の瑕疵を帯び、これと同文の公職選挙法別表第一(13条関係)についても、新区画設置法3条1項、4条2項違反の瑕疵を帯びる。よって、本件選挙区割り及びそれに基づく本件選挙も違法の瑕疵を帯びる。 (被告ら)新区画審設置法3条1項は、均衡を図るべき各選挙区の人口について、直前の大規 模国勢調査の結果による日本国民の人口であることを明記する一方、その後の人口動態の変動そのものについては何ら規定しておらず、また、同法4条2項は、同条1項にいう大規模国勢調査が行われた年から5年目に当たる年に実施された簡易国勢調査の結果を踏まえて審議会が行うべき勧告について規 の変動そのものについては何ら規定しておらず、また、同法4条2項は、同条1項にいう大規模国勢調査が行われた年から5年目に当たる年に実施された簡易国勢調査の結果を踏まえて審議会が行うべき勧告について規定したもので、同項の大規模国勢調査から同条2項の将来の簡易国勢調査までの期間の人口動態について何ら規定 していない。 平成28年改正法附則2条3項1号ロは、新区割制度による選挙区割りの改正案の作成が平成32年(令和2年)の大規模国勢調査の結果に基づくものからとされ、平成27年の簡易国勢調査の結果に基づく選挙区割りの改定案の作成が、選挙区間の較差拡大の要因とされた1人別枠方式が完全に解消されることとなる新区割制度導入前の緊急是正措置として行われることとなることも考慮して、選挙区間の較差につい て特に配慮し、これを補完する趣旨で規定されたことは明らかである。 (2) 本件選挙区割り及びそれに基づく本件選挙は、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったか。 (原告ら)平成30年大法廷判決は、次回令和2年国勢調査までの5年間を通じて各選挙区間 の人口の最大較差が2倍未満となるよう当該選挙区割りが定められ、これにより当該選挙日当日における選挙区間の選挙人数の最大較差が1対1.979倍に縮小したことを踏まえ、平成29年改正法までの立法措置の内容やその結果縮小した較差の状況を考慮すると、平成29年選挙において、1人別枠方式を含む旧区割基準に基づいて配分された定数に変更がなくアダムズ方式により各都道府県の定数配分をした場合 に配分されることとなる定数を異にする都道府県が存在していることをもって本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反するということはできず、平成29年選挙当時には新区画審設置法3条1項の趣旨に沿った 配分されることとなる定数を異にする都道府県が存在していることをもって本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反するということはできず、平成29年選挙当時には新区画審設置法3条1項の趣旨に沿った選挙制度の整備が実現されていたということができると判示する。しかし、日本においては、2020年から2040年の間は、東京以外の46道府県は全て人口が一貫して減少し、2040年から 2050年の間は、東京を含めて全47都道府県は全て人口が一貫して減少すると予測される。本件選挙区割りの各選挙区の最大人口較差は、令和2年(2020年)の国勢調査の結果による人口で1.999倍であるから、令和2年の国勢調査以降令和7年の簡易国勢調査までの5年間を通じて、当初の期間を除き、各選挙区の最大人口較差は一貫して2倍以上となると統計上合理的に予想される。そして、本件選挙区割 り又は本件選挙は、本件選挙日で、各選挙区の最大有権者数較差が2倍以上(2.0 6倍)であるので、平成30年大法廷判決の判断基準に照らし、違憲状態である。 令和5年大法廷判決は、新区割制度と一体的な関係にある本件選挙区割りの下で拡大した較差も、新区割制度の枠組みの中で是正されることが予定されているということができるとして、違憲状態ではないと判示したが、本件選挙は、本件選挙日で、各選挙区間の最大有権者数較差が2.06倍であり、新区割制度の枠組みの中で是正さ れていないから、令和5年大法廷の判示に照らし、本件選挙は違憲状態である。 平成27年大法廷判決は、国勢調査人口の各選挙区間の最大人口較差1対1.998及び選挙日の各選挙区間の最大有権者数較差1対2.219について、違憲状態と判断し、かつ、平成25年大法廷判決も、国勢調査人口の各選挙区間の最大人口較差1対1.998及び選挙 人口較差1対1.998及び選挙日の各選挙区間の最大有権者数較差1対2.219について、違憲状態と判断し、かつ、平成25年大法廷判決も、国勢調査人口の各選挙区間の最大人口較差1対1.998及び選挙日の各選挙区間の最大有権者数較差1対2.425について、 違憲状態と判断していることに照らすと、本件選挙区割り及びそれに基づく本件選挙は、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったことは明らかである。 (被告ら)憲法は、投票価値の平等を要求しているが、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準ではなく、国会が正当に考慮することのできる他の政策 的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。そのため、国会において小選挙区制度における具体的な選挙区割りや、その前提となる区割基準を定めるに当たっては、投票価値の平等を最も重要かつ基本的な基準としつつも、較差という客観的かつ形式的な数値だけでなく、当該較差の数値の背後にある選挙制度の仕組みや、当該較差を生じさせる要因等も含めて種々の政策的考慮要素を総合的に 考慮した上で、国政遂行のための民意の的確な反映の実現と、投票価値の平等の要請との調和を図ることが求められるが、選挙制度の仕組みの決定については国会の広範な裁量に委ねられていることから、これらの調和が保たれる限り、当該選挙制度の仕組みを決定したことが、国会の合理的な裁量の範囲を超えるということにはならないというべきである。したがって、国会が選挙制度の仕組みについて具体的に定めたと ころが、憲法の投票価値の平等の要求に反するため、国会に認められた裁量権を考慮 してもなおその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになると解するべきである 法の投票価値の平等の要求に反するため、国会に認められた裁量権を考慮 してもなおその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになると解するべきである。 本件区割規定の定める本件選挙区割りが違憲状態に至っているか否かについてみると、新区割制度は、投票価値の平等の要請を、国会が正当に考慮することができる他の政策目的ないし理由との関連において調和的に実現させるとともに、これを安定 的に継続させることのできるものであるから、合理的なものであるということができる。また、新区割制度の整備は、平成23年から平成27年までの各大法廷判決が国会に対して求めてきた立法措置の内容に適合するものであって、新区割制度が合理性を有することは、平成30年大法廷判決及び令和5年大法廷判決も肯定しているところである。 このように合理性の認められる新区割制度により改定された選挙区割りについては、原則として憲法の投票価値の平等の要求に反するものとはいえず、選挙区間の較差が憲法の投票価値の平等の要求と相いれない新たな要因によるものというべき事情や、較差の拡大の程度が当該制度の合理性を失わせるほど著しいものであるといった事情があるときに初めて憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至ったとい うべきであるが、本件選挙区割りについて、そのような事情があるということはできない。 (3) 本件選挙区割りが本件選挙時点で投票価値の平等に反する状態であったとして、憲法上要求される合理的期間内に是正がされていなかったか。 (原告ら) 令和2年の国勢調査の結果による人口を用いて、1.999倍というぎりぎりの最大人口較差を持つ改定案を作成し勧告したことは、違法であり、かつ違憲である。 令和6年(2024年)から令 告ら) 令和2年の国勢調査の結果による人口を用いて、1.999倍というぎりぎりの最大人口較差を持つ改定案を作成し勧告したことは、違法であり、かつ違憲である。 令和6年(2024年)から令和22年(2040年)の間、東京都以外の46道府県の全てにおいて、人口が一貫して減少すると統計上合理的に予想される中で、区画審は、改正案が同文のまま公職選挙法13条別表第一となることを合理的に予測し ていたか又は予測すべきだったと解される。改正案についていえば、住民基本台帳に 基づく人口の各選挙区間の最大人口較差が、令和4年(2022年)1月に既に2. 034倍に達していたのであるから、令和4年6月16日に、改正案を作成かつ勧告した区画審も、勧告された改正案を同文のまま同法別表第一(13条関係)として立法した国会も、ともに、本件選挙日までに、少なくとも、選挙区間の最大人口較差を2倍未満にするための取組みを具体的に行ったとは解されず、合理的期間は徒過され ている。 (被告ら)令和5年大法廷判決は、平成29年改正後の選挙区割りについて憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったとはいえない旨判断している。本件選挙は、令和5年大法廷判決後に初めて行われた衆議院議員総選挙であり、令和3年選挙施行後には、 較差の是正のために令和4年改正が実施されていることも考慮すれば、仮に何らかの理由により本件区割規定の定める本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていると判断されるとしても、国会において、そのことを認識すべき契機が存在したとはいえず、その状態を認識し得ない状況であったことは明らかである。したがって、仮に本件選挙区割りが違憲状態に至っていたとしても、国会が、 憲法上要求される合理的期間にその是正をしな が存在したとはいえず、その状態を認識し得ない状況であったことは明らかである。したがって、仮に本件選挙区割りが違憲状態に至っていたとしても、国会が、 憲法上要求される合理的期間にその是正をしなかったということはできない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件選挙区割り及びそれに基づく本件選挙は、新区画審設置法3条1項、4条2項に違反するか。)について原告らの主張①について検討する。新区画審設置法は、改定案の作成は、各選挙区 の人口(最近の国勢調査の結果による日本国民の人口をいう。以下同じ。)の均衡を図り、選挙区間の人口の最大較差が2以上とならないようにすることなどを求めると共に(3条1項)、改正案の勧告を、平成32年(令和2年)以降10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に行うものと規定する一方で(4条1項)、同項の規定にかかわらず、大規模国勢調査が行わ れた年から5年目に当たる年に行われる簡易国勢調査の結果により選挙区間の人口 の最大較差が2以上となったときは、当該国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に、改正案の勧告を行うよう求めるにとどまる(同条2項)。 仮に、原告らが主張するように、大規模国勢調査の時点からその5年後に行われる簡易国勢調査の時点までを通じて選挙区間の人口の最大較差が2以上とならないようにすることまで求めるとしたら、国勢調査の間の人口の動態を毎年の住民基本台帳等 に基づく人口に適合するように区画審が調査し、勧告することを前提とした諸規定が置かれるべきであるが、そのような規定が置かれていないから、原告ら主張のような義務が課せられているとは解されない。 次に原告の主張②について検討する。平成28年改正法の附則2条 を前提とした諸規定が置かれるべきであるが、そのような規定が置かれていないから、原告ら主張のような義務が課せられているとは解されない。 次に原告の主張②について検討する。平成28年改正法の附則2条は、新区割制度による選挙区割りの改正案の作成が平成32年(令和2年)の大規模国勢調査の結果 に基づくものからとされ、平成27年の簡易国勢調査の結果に基づく選挙区割りの改定案の作成が新区割制度導入前の緊急的な投票価値の較差是正のための措置としてされることを念頭において設けられた経過措置的な規定と理解するべきであり、令和2年の大規模国勢調査後に行われる選挙区割りの改定について、原告らが主張するような規範を認める根拠となるものではない。その余の原告らの主張を踏まえても、区 画審において、新区画審設置法3条1項、4条2項に基づき、令和2年の国勢調査の結果による人口での各選挙区間の最大較差が2倍未満となり、かつ、令和2年の国勢調査以降令和7年の国勢調査までの5年間、令和7年の見込人口での各選挙区間の最大較差が2倍未満となるよう、改正案を作成し、かつ勧告する義務を負うとは解されない。 よって、原告らの主張はいずれも採用できない。 2 争点(2)(本件選挙区割り及びそれに基づく本件選挙は、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったか。)について(1) 憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば投票価値の平等を要求しているものと解される。他方、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準で はなく、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連にお いて調和的に実現されるべきものであるところ、国会の両議院の議員の選挙については、憲法上、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律 できる他の政策的目的ないし理由との関連にお いて調和的に実現されるべきものであるところ、国会の両議院の議員の選挙については、憲法上、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとされ(43条2項、47条)、選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められている。 衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される 場合には、選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定するに際して、憲法上、議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているというべきであるが、それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているものと解されるのであって、具体的な選挙区を定めるに当たっては、都道府県を細分化した市町 村その他の行政区画などを基本的な単位として、地域の面積、人口密度、住民構成、交通事情、地理的状況などの諸要素を考慮しつつ、国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに、投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められているところである。したがって、このような選挙制度の合憲性は、これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお、国会に与えられた裁量権の行使として合理性 を有するといえるか否かによって判断されることになり、国会がこのような選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが、上記のような憲法上の要請に反するため、上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである。 (以上につき、令和5年大法廷判決参照) この点、原告らは、憲法は「人口比例選挙」を要求する これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである。 (以上につき、令和5年大法廷判決参照) この点、原告らは、憲法は「人口比例選挙」を要求する旨主張するが、これが、国会の裁量権行使に当たり投票価値の平等以外の要素の考慮を否定する趣旨であれば、採用することはできない。 (2) 新区割制度は、区画審による改定案の勧告につき、各都道府県への定数配分を人口比例方式の一つであるアダムズ方式によって行い、かつ、選挙区間の人口の最 大較差を2倍未満とすることを求める一方、選挙区割りの改定をしてもその後の人口 異動により選挙区間の投票価値の較差が拡大し得ることを当然の前提としつつ頻繁な選挙区改定による有権者の混乱の防止等といった選挙制度の安定性も考慮して、勧告は平成32年(令和2年)以降10年ごとの大規模国勢調査の際に行うほか、その中間年に行われる簡易国勢調査で人口の最大較差が2倍以上となったときは、これが2倍未満となるよう区割りを改め較差を是正することとしている。このような制度に 合理性が認められることは平成30年大法廷判決及び令和5年大法廷判決が判示するとおりであって、国勢調査以降に較差が拡大したとしても、当該較差が憲法の投票価値の平等の要求と相いれない新たな要因によるものというべき事情や、較差の拡大の程度が当該制度の合理性を失わせるほど著しいものであるといった事情がない限り、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至ったものということはできない。 これを本件についてみると、本件区割規定は、令和2年の大規模国勢調査の結果による人口に基づきアダムズ方式によって定数配分が行われ、令和2年の大規模国勢調査時点では、選挙区間の人口の最大較差は1対1.999であって、2倍未満にと 件区割規定は、令和2年の大規模国勢調査の結果による人口に基づきアダムズ方式によって定数配分が行われ、令和2年の大規模国勢調査時点では、選挙区間の人口の最大較差は1対1.999であって、2倍未満にとどまっている。その後、本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の較差は、選挙人数の最も少ない選挙区(鳥取県第1区)と最も多い選挙区(北海道3区)との間で1対 2.059まで拡大しているが、当該較差は、自然的な人口異動以外の要因によって拡大したものというべき事情はうかがわれないし、令和3年選挙において、平成29年改正後の選挙区割りの下では選挙当日の選挙区間の選挙人数の最大較差が1対2. 079であったものが、本件選挙区割りの下では1対2.059まで縮小している上、較差が2倍以上となっている選挙区についても、29選挙区から10選挙区に減少し ているのであるから、その程度も著しいものとはいえない。 したがって、本件選挙当時において、本件区割規定の定める本件選挙区割りは、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできない。 (3) これに対し、原告らは、平成30年大法廷判決の判断基準や令和5年大法廷判決の判示に照らし、本件選挙は違憲状態である旨主張するが、平成30年大法廷判 決は、原告らが主張するように、本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較 差が2倍以上にならないように求めているとはいえないし、本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の較差は、令和7年に行われる簡易国勢調査の結果を踏まえて2倍未満になるよう、新区割制度の枠組みの中で是正されることが予定されており、これをもって足りると解される。原告らは、将来東京都以外の46道府県の全てにおいて、人口が一貫して減少すると統計上合理的に予想されることを踏まえて、 制度の枠組みの中で是正されることが予定されており、これをもって足りると解される。原告らは、将来東京都以外の46道府県の全てにおいて、人口が一貫して減少すると統計上合理的に予想されることを踏まえて、ぎりぎり2倍 未満の最大人口較差とした本件選挙区割りは、国会の取り組みとして十分ではないなどと主張する。しかし、日本全体の人口の減少と最大人口較差の拡大は必ずしも比例するとはいえない上、先に述べたとおり、具体的な選挙区を定めるに当たっては、市町村その他の行政区画などを基本的な単位として諸要素を考慮しつつ、投票価値の平等を確保するという要請との調和を図る必要があり、選挙制度の安定性が要求される ことを考慮すると、原告らの主張を踏まえても本件選挙区割りが国会に与えられた裁量権を逸脱しているとはいい難い。 また、原告らは、平成27年大法廷判決は、国勢調査人口の各選挙区間の最大人口較差1対1.998及び選挙日の各選挙区間の最大有権者数較差1対2.219について、違憲状態と判断し、かつ、平成25年大法廷判決も、国勢調査人口の各選挙区 間の最大人口較差1対1.998及び選挙日の各選挙区間の最大有権者数較差1対2. 425について、違憲状態と判断していることに照らすと、本件選挙区割り及びそれに基づく本件選挙は、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったことは明らかである旨主張する。しかし、平成25年大法廷判決及び平成27年大法廷判決が平成24年選挙及び平成26年選挙の各当時の区割規定に基づく選挙区割りについて なお憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあるとしたのは、1人別枠方式が主要な要因となって投票価値の較差が拡大している状況がいまだ実質的に是正されていないとの評価を前提とするものと考えられるところ、本件選挙は、合理性を有する に反する状態にあるとしたのは、1人別枠方式が主要な要因となって投票価値の較差が拡大している状況がいまだ実質的に是正されていないとの評価を前提とするものと考えられるところ、本件選挙は、合理性を有する新区割制度に基づき定められた本件選挙区割りの下で行われたもので、1人別枠方式が主要な要因となって投票価値の較差が拡大している状況から既に脱しているから、 原告らの主張は、本件とは事案を異にする判例を引用するものであって、採用できな い。 この点に関するその余の原告らの主張も採用できるものではない。 3 結論よって、その余の点を検討するまでもなく、本件各選挙区選挙が無効であるとは認められず、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとお り判決する。 広島高等裁判所松江支部 裁判長裁判官松谷佳樹 (原本署名押印欄) 裁判官徳井真 (原本署名押印欄) 裁判官森里紀之 (原本署名押印欄)

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る