令和6年(う)第150号傷害、強要、殺人、死体損壊、死体遺棄、詐欺、恐喝被告事件令和7年11月6日仙台高等裁判所第1刑事部判決 主文 原判決を破棄する。 被告人を懲役25年に処する。 原審における未決勾留日数中380日をその刑に算入する。 理由 第1 事案の概要及び控訴の趣意原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人が、⑴交際相手である甲と共謀の上、①令和4年11月上旬頃から同月10日午後4時頃までの間、仙台市a区内の当時の被告人及び甲方(以下「当時の被告人方」という。)並びに同市b区所在のホテルの客室において、被害者(当時22歳。以下「A」という。)に対し、その顔面及び頭部を、多数回にわたり、拳で殴り、足で蹴るなどの暴行を加え、全治までの期間不明の鼻骨骨折等の傷害を負わせ(原判示第1)、②同月8日、前記ホテルの客室において、被告人及び甲から暴行等を加えられてAが被告人及び甲を怖がっていることに乗じて、Aに対し、被告人、甲及びAの大便を食べるよう要求し、もしその要求に応じなければその身体等にいかなる危害を加えかねない気勢を示してAを怖がらせ、Aをして被告人、甲及びAの大便を食べさせて義務のないことを行わせ(原判示第2)、③同月10日、当時の被告人方において、Aに対し、殺意をもって、その頸部にタオル様のものを巻き付けて締め付け、Aを頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害し(原判示第3)、④同月12日頃から同月14日までの間、当時の被告人方において、チェーンソー等を用いて、Aの死体の頸部、両上腕部及び両大腿部を順次切断するなどした上、それらをキャリーケースに入れて、同所から同市b区内まで運搬して地中に埋め、死体を損壊、遺棄し(原判示第 おいて、チェーンソー等を用いて、Aの死体の頸部、両上腕部及び両大腿部を順次切断するなどした上、それらをキャリーケースに入れて、同所から同市b区内まで運搬して地中に埋め、死体を損壊、遺棄し(原判示第4)、⑵Aとは別の被害者(当時22歳。以下「B」という。)から、BがAに対 して有する貸金債権の回収に要する費用の名目で、現金をだまし取ろうと考え、同月20日、業者に依頼するための費用として受領する現金を自己の用途に充てる意図であるのにこれを秘し、Bに対し、虚偽の内容のメッセージを送り、Bに、被告人に現金を払えば、業者に依頼して貸金債権の回収をしてもらえる旨誤信させ、よって、同日、Bをして、被告人が指定した甲名義の普通預金口座に現金20万円を振込入金させてだまし取り(原判示第5)、⑶Bから、⑵と同様の手口で現金をだまし取ろうと考え、同月21日、追加費用を支払うことにより回収金額が増額される事実等がないのに、これらがあるように装い、Bに対し、虚偽の内容のメッセージを送り、Bにその旨誤信させ、よって、同日、Bをして、前記甲名義の普通預金口座に現金30万円を振込入金させてだまし取り(原判示第6)、⑷Bが前記貸金債権の回収業者を怒らせたなどとして、Bからその制裁金名目で現金を脅し取ろうと考え、同月23日、Bに対し、「組織に罰金を払わなければならなくなった。」「俺は、組織とつながっている。」旨を言って現金の交付を要求し、もしこの要求に応じなければB及びその親族の生命、身体、財産にいかなる危害をも加えられるかもしれないとBを怖がらせ、よって、同日、Bをして、前記甲名義の普通預金口座に現金25万円を振込入金させて脅し取り(原判示第7)、⑸Bから⑷と同様の手口で現金を脅し取ろうと考え、同月24日、Bに対し、罰金額が多額になった旨のメッセージを送信した 、前記甲名義の普通預金口座に現金25万円を振込入金させて脅し取り(原判示第7)、⑸Bから⑷と同様の手口で現金を脅し取ろうと考え、同月24日、Bに対し、罰金額が多額になった旨のメッセージを送信した上、けん銃様のものを示しながら、「どうすんだ。金だな。30万払え。」などと言って現金の交付を要求し、もしこの要求に応じなければBの生命、身体、財産にいかなる危害を加えられるかもしれないとBを怖がらせ、よって、同日、Bから現金30万円の交付を受けて脅し取った(原判示第8)というものである。原判決は、以上の事実に基づき、被告人を懲役25年に処した。 本件控訴の趣意は、弁護人作成の控訴趣意書等に記載されたとおりであり、論旨は、原判示第5から第7までの各事実についての理由不備及び原判示第5から第8までの各事実についての事実誤認並びに量刑不当の主張である。 第2 理由不備の主張について 1 論旨は、詐欺罪及び恐喝罪において、処分行為者をして欺罔行為者又は恐喝行為者以外の第三者に財物を交付させても犯罪は成立し得るが、そのためには、欺罔行為者又は恐喝行為者とその第三者との間に特別な事情が存在することが必要であり、全く無関係な第三者に財物を交付させた場合には、これらの罪は成立しないのに、原判示第5から第7までの各事実には、欺罔行為者又は恐喝行為者である被告人と財物の交付を受けた甲との間に特別な事情があることが摘示されていないから、原判示第5から第7までの各事実において、詐欺罪又は恐喝罪の成立を認めた原判決には、理由不備の違法があるというのである。 2 原判示第5及び第6(詐欺罪)について詐欺罪の構成要件は、「人を欺いて財物を交付させる」ことであるところ、欺罔行為者以外の者に財物を交付させても詐欺罪は成立するが、そのためには、財物の交付を受けた者 示第5及び第6(詐欺罪)について詐欺罪の構成要件は、「人を欺いて財物を交付させる」ことであるところ、欺罔行為者以外の者に財物を交付させても詐欺罪は成立するが、そのためには、財物の交付を受けた者が欺罔行為者と全く無関係の者ではないことを示す事情、すなわち、財物の交付を受けた者が行為者と共犯関係にあるか、共犯関係にない場合には、財物の交付を受けた第三者が欺罔行為者の道具に過ぎず、第三者に交付された財物がその後欺罔行為者に渡ることになっていた、あるいは、欺罔行為者が第三者に財物を交付させて利得させる意思を有していたなどの特別な事情が存在する必要があり、そのような事情を示す事実を摘示しなければならない。しかし、原判決は、財物の交付を受けた甲について、原判示第5及び第6に係る罪となるべき事実においてこれらの事情を何ら摘示せずに詐欺罪の成立を認めている。したがって、原判決には、この点において、理由不備の違法があるといわざるを得ない。 3 原判示第7(恐喝罪)について恐喝罪の構成要件は、「人を恐喝して財物を交付させる」ことであるところ、恐喝行為者と財物の交付を受けた者は必ずしも同一人である必要はないが、この場合に恐喝罪が成立するためには、財物の交付を受けた者が恐喝行為者と全く無関係の者ではないことを示す事情が存在することが必要であることは詐欺罪の場合と同様と解すべきである。それなのに、原判決は、財物の交付を受けた甲と被告人との間 に特別な事情があることを何ら摘示せずに恐喝罪の成立を認めているから、原判決には、この点においても理由不備の違法があるといわざるを得ない。 4 以上の次第であるから、理由不備の論旨は理由がある。そして、原判決は、原判示第5から第7までを含む原判示の各罪を刑法45条前段の併合罪として処断し、1個の刑を言い渡してい といわざるを得ない。 4 以上の次第であるから、理由不備の論旨は理由がある。そして、原判決は、原判示第5から第7までを含む原判示の各罪を刑法45条前段の併合罪として処断し、1個の刑を言い渡しているから、その全部について破棄を免れない。 第3 破棄自判そこで、その余の論旨について判断するまでもなく、刑事訴訟法397条1項、378条4号前段により原判決を破棄し、同法400条ただし書により、当審段階で変更された訴因に基づき、更に次のとおり判決する。 (罪となるべき事実)原判決の罪となるべき事実第5のうち「被告人が指定した千葉県木更津市(中略)株式会社乙銀行丙支店に開設された甲名義の普通預金口座」とあるのを「千葉県木更津市(中略)株式会社乙銀行丙支店に開設され、被告人が交際相手の甲と共同で使用していた同人名義の普通預金口座」と、第6及び第7のうちそれぞれ「前記口座」とあるのをいずれも「被告人が交際相手の甲と共同で使用していた前記同人名義の口座」と訂正するほかは、原判決に記載のとおりである。 (事実認定の補足説明)弁護人は、判示第5から第8までの各事実について、被告人に詐欺罪又は恐喝罪が成立するとしても、甲との共同正犯が成立すると主張する。 確かに、証拠によれば、弁護人が指摘するとおり、詐欺事件及び恐喝事件のいずれについても被害金が甲名義の口座に振り込まれているほか、甲は、被害者をだましたり脅迫したりする手段を被告人と共に考え、耳の聞こえない被告人に代わって被害者の言動を文字化して被告人に伝えるなどしており、いずれの事件においても重要な役割を果たしたと認められる。 しかしながら、検察官において、共謀共同正犯者の存在に言及することなく、被告人が当該犯罪を行ったとの訴因で公訴を提起した場合において、被告人が実行行 為の全部 な役割を果たしたと認められる。 しかしながら、検察官において、共謀共同正犯者の存在に言及することなく、被告人が当該犯罪を行ったとの訴因で公訴を提起した場合において、被告人が実行行 為の全部を1人で行い、被告人1人の行為により犯罪構成要件のすべてが満たされたと認められる場合には、他に共謀共同正犯者が存在するとしても、裁判所は訴因どおりに犯罪事実を認定することが許される(最高裁判所平成21年7月21日第三小法廷決定・刑集63巻6号762頁)。本件の判示第5から第8までの各事実は、いずれも被告人の単独犯として訴因が構成されていることに加え、これらの実行行為はいずれも被告人1人が行っており、この場合に該当するといえる。したがって、本件の判示第5から第8までの各事実について、裁判所は、訴因のとおり被告人の単独犯を認めることができる。 この点、弁護人は、欺罔行為者又は恐喝行為者とは別の者に財物を交付させる場合に詐欺罪又は恐喝罪が成立するためには、前記のとおり、欺罔行為者又は恐喝行為者と財物の交付を受けた者との間に特別な事情が必要であるが、本件では、その特別な事情については被告人1人の行為をもって認定することができないと主張する。しかし、判示第5から第7までの各事実では、甲名義の口座を被告人と甲が共同で使用していたことが、この特別な事情に該当するが、これはあくまでも現金の振込先口座の使用状況に関する事情を示すものに過ぎない。判示第5から第7までについては、被告人が1人でBに対する欺罔行為又は恐喝行為をし、それによってBが錯誤に陥り又は畏怖をして現金を甲名義の口座に振り込んだことが認められるから、弁護人の主張を踏まえても、被告人1人の行為により詐欺罪又は恐喝罪の構成要件のすべてが満たされたと認められる場合に当たるというべきである。 よって、 を甲名義の口座に振り込んだことが認められるから、弁護人の主張を踏まえても、被告人1人の行為により詐欺罪又は恐喝罪の構成要件のすべてが満たされたと認められる場合に当たるというべきである。 よって、判示第5から第8までのとおりの各事実が認定できる。 (量刑の理由)本件は、被告人が、交際相手であった甲と共に、自宅に居候していたAに暴力を振るうなどの虐待行為をエスカレートさせていく中で、傷害(当審判示第1)や強要(当審判示第2)の各犯行に及んだ上、Aを殺害するに至り(当審判示第3)、その発覚を免れるためにAの死体を損壊、遺棄し(当審判示第4)、更に、被告人が、単独で、AがBに対して借金を負っていたことを利用するなどして、Bに対し て詐欺及び恐喝に及んだ(当審判示第5から第8まで)事案である。 量刑判断の中心は殺人であるところ、被告人及び甲は、Aがてんかんの発作で自宅の居室を荒らしたことを契機として、発作で苦しんでいるAを介抱するどころか、怒って暴力を振るい、殺害にまで至ったものである。計画的な犯行ではないが、経緯に酌むべき余地は全くない。被告人は、Aの首を絞めていた甲を一度制止し、事後的に救命行為に出ており、Aを殺害しようという積極的な意欲まではなかったとしても、甲と共に、力を緩めることなくAの首に巻かれたタオルを二、三分引っ張っており、Aを死亡させる危険がかなり高い態様による犯行である。Aの死亡という結果は誠に重大で、遺族の処罰感情が厳しいのも当然である。 死体損壊及び死体遺棄についても、保身のために及んだ身勝手な犯行で、Aの尊厳を踏みにじる姿勢は顕著であるし、強要の犯行もAの人格等を貶めるものである。 加えて、被告人は、自ら殺害したAを利用して、Aの知人であるBに対する詐欺や恐喝にも及んで悪質な犯行を重ねており、その被害額も大 にじる姿勢は顕著であるし、強要の犯行もAの人格等を貶めるものである。 加えて、被告人は、自ら殺害したAを利用して、Aの知人であるBに対する詐欺や恐喝にも及んで悪質な犯行を重ねており、その被害額も大きい。 他方、殺人について、先にタオルでAの首を絞め始めた甲の行為がなければ殺害までには至らなかったとうかがわれるし、Aを殺害した後、被告人は自首しようとしたものの、甲に止められている。その後の詐欺や恐喝についても、甲が積極的かつ主体的な役割を果たしたことは前記のとおりであって、甲の助力なしには、耳の聞こえない被告人がこれらの犯行に及ぶことは困難であったと認められ、詐欺及び恐喝に関して甲は共犯者として起訴されていないものの、本件の一連の犯行で甲が果たした役割は相当に大きかったといえる。また、殺人並びに死体損壊及び死体遺棄については法律上の自首が成立し、事案の解明に寄与した側面があり、原審公判廷においても基本的な事実関係を認め、当審においては、Aに対して取り返しのつかないことをしたなどと述べて、反省を深めていることが認められる。 しかしながら、本件殺人の犯情は相当に重く、他の犯罪も併せてみれば、甲の果たした役割が大きいこと、自首が成立すること、反省を深めていることなどの被告人に有利な事情を考慮しても主文程度の長期間の懲役刑を科すことはやむを得ない。 (原審における求刑懲役27年)令和7年11月6日仙台高等裁判所第1刑事部 裁判長裁判官加藤亮 裁判官柴田雅司 裁判官井草健太 裁判官柴田雅司 裁判官井草健太
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