平成13(ワ)146 株主総会決議取消請求

裁判年月日・裁判所
平成13年12月21日 福井地方裁判所
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判決文本文8,000 文字)

平成13年(ワ)第146号株主総会決議取消請求事件(口頭弁論終結日平成13年10月26日) 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求平成13年5月26日福井市a町b丁目c番d号の被告本社において開催された被告の第140期定時株主総会における,A,B,Cの3名を取締役に選任する旨の決議はこれを取り消す。 第2 事案の概要 1 本件は,被告の株主総会における取締役選任決議につき,株主総会の招集通知に,会議の目的たる事項として,選任すべき取締役の数が記載されていなかったことを取消事由として,原告らが決議取消を求めた事案である。 2 前提事実(争いがない)(1) 被告は,大正7年7月13日に成立した越前青石の採掘を事業目的とする発行済株式16万株の株式会社である。 原告Dは1万株の,原告Eは1万1946株の,原告Fは4800株の株式を有する被告の株主である。 (2) 被告は,平成13年5月9日,各株主に対し,平成13年5月26日午後2時に被告本社において第140期(平成12年4月1日~平成13年3月31日)の定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)を開催する旨の通知を発した。 上記通知には,第2号案件として,「取締役改選の件」と記載されていたが,何名の取締役を選任するかについての記載はなかった。 (3) 被告は,定款21条において,取締役を同時に複数選任する場合でも累積投票(商法256条の3)の方法によらないことを規定している。 他方,昭和49年商法改正附則5条は,定款で累積投票の定めがされていても,昭和49年改正後の商法の下で累積投票を全面的に排除するためには,その旨の定款変更をしなければならず,これがされていない限り,発行済株式総数の4分の1以上にあたる株主が累積投 の定めがされていても,昭和49年改正後の商法の下で累積投票を全面的に排除するためには,その旨の定款変更をしなければならず,これがされていない限り,発行済株式総数の4分の1以上にあたる株主が累積投票を求めたときは,会社はこれに応じなければならない旨定めている。 (4) 被告の株主である訴外G(持株数7160株)及びH(I名義の株式6866株を平成11年12月26日相続により取得し,ほかに固有の持株7600株を有した)は,他の1名の株主とともに平成13年5月19日到達の書面で累積投票の請求をしたが,この請求は被告により却下された。 なお,いずれにしても,同累積投票の請求は,請求者らの有する株式数が発行済株式総数の4分の1に達しておらず,無効のものであった。 (5) 本件株主総会において,A,B,Cの3名を取締役に選任する旨決議された。 3 争点争点は,本件株主総会の招集通知に,会議の目的たる事項として選任すべき取締役の人数が記載されていなかったことが株主総会の決議取消事由になるか否かである。 (原告らの主張)(1) 株主からの累積投票の請求を拒めない会社では,株主に累積投票を請求する機会を与えるため,取締役の選任をする株主総会の招集通知・公告には,選任すべき取締役の数を記載しなければならず,この記載を欠くときは決議取消の訴えの事由になると解される。 そして,本件株主総会の招集通知にはその旨の記載はなかった。 (2) 定款によって,累積投票が排除されている場合,単に「取締役選任の件」と記載することで足りるとする被告の解釈は争わない。 しかし,被告において,昭和49年の商法改正後の昭和50年5月17日開催の株主総会において,累積投票を排除する旨定款変更の手続がとられた事実はない。 同株主総会においてそのような定款変更の手続がとられているのであれ て,昭和49年の商法改正後の昭和50年5月17日開催の株主総会において,累積投票を排除する旨定款変更の手続がとられた事実はない。 同株主総会においてそのような定款変更の手続がとられているのであれば,甲3の他の訂正箇所にあるように,その21条にも何らかの付記がされて然るべきであるのに,そのような記載はない。 現に,平成9年5月の株主総会においては,累積投票の方法により取締役選任決議が行われている。これは,現社長のAその他の累積投票請求者はもとより,当時の被告の役員であったI,J,G,監査役のC,Bの各氏も累積投票に関する定款変更がされていないことを認識していたことによるものである。 (3) 被告においては,平成11年5月の役員選任以降,下記のとおりの取締役の変動があった。したがって,本件株主総会の役員改選がどのような形で行われるのかは一般株主には理解し難い状況にあった(商法256条,とりわけその2項,3項を理解している株主は僅少である。)。 記I 平成11年 7月 3日辞任J 同年 8月 6日辞任G 同年12月11日辞任C 同年 8月28日選任B 平成12年 1月22日選任被告の援用する東京高等裁判所判決は,株主に累積投票請求権が一切認められていない会社に関するものであり,被告の場合とは本質的状況を異にしている。つまり,同判決の事案では,会社の取締役が3名か4名以上かは会社経営の根幹にかかる重要問題であるものの,法令違反としては必ずしも重要でないと認められる場合であった。しかし,本件は,株主による累積投票請求権行使の帰趨が問題となる場合であり(原告らが累積投票の請求を行えば,訴外Gほか2名による累積投票の請求と相俟って,被告は,本件株主総会において,取締役選任方法として累積投票を実施 よる累積投票請求権行使の帰趨が問題となる場合であり(原告らが累積投票の請求を行えば,訴外Gほか2名による累積投票の請求と相俟って,被告は,本件株主総会において,取締役選任方法として累積投票を実施せざるをえない状況にあった),法令違反として重大なものではないとは到底いえないものである。 なお,「選任」と「改選」との間に有意性のある区別をみいだすことは不可能である。 (4) 被告の主張のうち,原告らと訴外Gらとが実質上一体である云々の議論は,それこそ被告がいかに株主の権利に対する配慮を欠いているかの証左であり,主張自体失当である。 (被告らの主張)(1) 株主総会招集通知の記載内容につき,「取締役を2名以上選任する場合には,選任すべき員数も記載すべきもの」とする理由は,「通知を受けた株主としては,1名のみの選任か2名以上の選任かを知ることができず,累積投票を請求する機会が失われるおそれがある」ということにある。 したがって,定款によって累積投票が排除されている場合は,単に「取締役選任の件」と記載することで足りると解されている。 昭和49年商法改正法附則(同年4月2日法律第21号)5条の趣旨は,改正前の定款で単に「累積投票を排除する」旨を定めていた場合には,改正後も「ただし,発行済株式総数の4分の1以にあたる株式を有する株主が累積投票の請求をした場合はこの限りではない」旨のただし書きが付いているものとみなされ,この目に見えない条文外のただし書きを外して累積投票を全面的に排除するためには,改正商法施行後の株主総会において,(条文そのものは従前と同じであっても)定款変更の手続をとる必要があるということである。 被告の定款21条では,従前から「2人以上の取締役を同時に選任する場合においても累積投票の方法によらない」旨記載されているところ,前記附則 あっても)定款変更の手続をとる必要があるということである。 被告の定款21条では,従前から「2人以上の取締役を同時に選任する場合においても累積投票の方法によらない」旨記載されているところ,前記附則によりただし書きが付いているものとみなされ,これを排除するためには,改めて定款変更の手続をとる必要があったことは事実である。 27年も前のことであり,当時の議事録等は残っていないが,昭和49年改正法の施行日が昭和49年10月1日であるところ,その後最初に開催された昭和50年5月17日開催の株主総会において,同改正に沿った「定款の一部変更」の決議が行われていることは明らかであり,当然このときに,定款21条についても(条文の字句そのものは従前と同じであるが),定款変更の決議が行われているものと思料される(甲3の表紙参照)。 平成9年5月の定時株主総会における取締役の選任につき,Kらが累積投票の請求を行った事実はあるが(このときの請求は,定款の定めを失念し,当時相談していた弁護士の指導によって行ったものであろう。),当時の取締役らと請求者らとの話し合いの結果,「Aを取締役に加える」ということで一応円満に話合いがつき,株主総会においては,通常の投票により(累積投票は行わず),Aを含む4名が取締役に選任された(それまでは3名であった)ものである。 (2) 取締役の選任を議案とする株主総会の招集通知には,「原則として,選任すべき員数を記載すべきである」と解されており,このことを判示した最近の裁判例としては,東京高等裁判所平成3年3月6日判決(金融法務事情1299号24頁,金融商事判例874号23頁)がある。 しかし,この裁判例においても,会社の規模・株主数・従来からの慣行等によって,当該株主総会で選任されるべき取締役の員数についてはおのずと一定の範囲内であ 24頁,金融商事判例874号23頁)がある。 しかし,この裁判例においても,会社の規模・株主数・従来からの慣行等によって,当該株主総会で選任されるべき取締役の員数についてはおのずと一定の範囲内であることが当然に予想,認識しうる客観的状況にあり,株主の権利を害するおそれがない等の特段の事情の存する場合は,「取締役選任の件」として特に員数を記載しなくても差し支えない旨判示している。 本件株主総会における取締役選任は,取締役全員の任期満了に伴う「改選」であり,2年に1度ずつ到来する改選期毎に定期的に行われている通常の改選である。そして,このような場合には,従前から「改選の件」とのみ通知するのが慣行となっていたものである。 したがって,「取締役改選の件」とするだけで,株主全員が,今回取締役3名の任期が満了し,その改選を行うものであることを当然に予想・認識しうる客観的状況にあったことは明らかである。 なお,前回(平成11年5月)の改選の後,取締役の変動があったことは事実であるが,いずれも前任者の辞任により商法の定める定員を欠くことになった欠員の補選のためわざわざ招集された臨時株主総会において,任期を従前の任期の残存期間に限定の上選任されたものであり,平成13年5月の定時総会の時点で全員が任期満了となり,改選となることを予定して選任されたものである。 そして,今回はその定時総会における改選であり,「取締役改選の件」と記載するだけで株主全員にとって招集の趣旨は自明であったものである。 現に,原告らの親族であり,原告らと実質上一体であるGらの名前で,すでに累積投票の請求が行われているのであり,今更「累積投票を請求する機会が失われた」も何もないであろう。 Gらは,せっかく行った累積投票の請求が,うっかりして法律上無効であったことが明らかなため,株主総会の招 票の請求が行われているのであり,今更「累積投票を請求する機会が失われた」も何もないであろう。 Gらは,せっかく行った累積投票の請求が,うっかりして法律上無効であったことが明らかなため,株主総会の招集通知に選任すべき取締役の員数の記載がないことに藉口して,決議を取り消させた上で,再度累積投票の請求をしようというのであろうが,さすがに自らは一度累積投票の請求を行っている以上本件の原告とはなりにくく,親族である原告らの名義で本訴を提起したものであり,その請求は失当である。 第3 判断 1 原告ら,被告ともに,定款によって累積投票の請求が排除されている場合には,株主総会招集通知に会議の目的たる事項として,単に「取締役改選の件」と記載することをもって足りると解するものであるから,まず,被告の定款によって累積投票の請求が排除されているのか否かという点,すなわち,被告において,昭和50年5月17日開催の株主総会において,累積投票の請求を排除する旨定款変更の手続がとられたのか否かという点について検討しておくこととするに,次の(1),(2)によれば,そのような定款変更が行われたものと認めるには足りない。 (1) 昭和49年の商法改正後に開催された昭和50年5月17日開催の被告の株主総会において,商法改正に則した定款変更手続が行われたことは窺いうるが(甲3,弁論の全趣旨),甲3の各条文のうちの一部には定款変更のために加削した手書文字があるのに,累積投票の請求に関する21条には,そのような加除の手書文字の跡は何ら見当たず,また,同株主総会の議事録等は証拠として提出されていない。 (2) 平成9年5月開催の株主総会における取締役選任決議につき,証人Gは,Aから累積投票の請求があったため,累積投票により取締役選任が行われた旨証言するが,他方,証人Kは,累積投票の れていない。 (2) 平成9年5月開催の株主総会における取締役選任決議につき,証人Gは,Aから累積投票の請求があったため,累積投票により取締役選任が行われた旨証言するが,他方,証人Kは,累積投票の請求はあったものの,累積投票は行われず,結局,話し合いで取締役が選任されることになった旨証言する。 しかし,この点いずれにしても,当時,昭和49年の商法改正後に累積投票の請求を排除する旨定款変更が行われたとの認識に基づき事態を収拾しようとした関係者はいなかったものである(証人K)。 2 そこで,被告において,定款によって累積投票の請求が排除されていないことを前提に,単に「取締役選任決議の件」とすることで,株主総会招集通知に記載すべき会議の目的たる事項として足りるものであったかという点を検討する。 この点,定款によって累積投票の請求を排除していない株式会社における取締役選任決議を議案とする株主総会招集通知には,それが2名以上の取締役を選任する決議である場合には,株主が累積投票によって決議することを欲する場合がありうるので,原則として,「取締役何名選任の件」,「取締役全員任期満了につき改選の件」などと,少なくとも何名の取締役の選任決議が行われるのかを推知できる程度に記載がされるべきものと解される(後者の記載例につき,「特段の事情がない限り,当該株主総会において従前の取締役と同数の取締役を選任する旨の記載があると解することができる」としたものとして,最高裁判所平成10年11月26日判決,金融商事判例1999年5月15日号参照)。もっとも,会社の規模・株主数・従来からの慣行等によって,株主が当然に選任される取締役の数を予想・認識し得る客観的状況にあるなど,株主に格別の不利益を及ぼすものではないというべき事情がある場合には,「取締役任期満了に付き改選の件」 来からの慣行等によって,株主が当然に選任される取締役の数を予想・認識し得る客観的状況にあるなど,株主に格別の不利益を及ぼすものではないというべき事情がある場合には,「取締役任期満了に付き改選の件」,あるいは単に「取締役改選の件」という程度の記載であっても,これをもって不適法なものということはできないものと解すべきである。 これを本件についてみるに,①被告の定款20条は,取締役3名以上を置く旨定めていること(この点は,商法255条によっても,同じである。),②被告の改選前の取締役は,A(平成11年7月10日就任),C(同年8月28日就任),B(平成12年1月22日就任)の3名であったから(甲6),本件株主総会において「改選」される取締役は,いずれにしても3名以内ということになること,③被告の定款24条は,「取締役の任期は就任後2年内の最終の決算に関する定時株主総会終結の時に終了する。補欠又は増員によって就任した取締役の任期は他の在任取締役の任期の終了と同時に終了する。」と定めているから(甲3,弁論の全趣旨。なお,商法256条。),改選前の取締役3名のいずれもが本件株主総会終結のときには任期が終了することとなっていたこと,これら①ないし③を併せると,会議の目的たる事項としての「取締役改選の件」との記載は,「取締役全員任期満了につき改選の件」と同義のものとして,選任される予定の取締役は3名であることを推知することも可能なものであるうえ,「取締役改選の件」との記載が,「取締役全員任期満了につき改選の件」などとの記載と比較して,記載自体として言葉足らずなところがあることは否定できないとしても,被告においては,従来から定時株主総会招集通知の会議の議案として,取締役選任については,同様の記載が行われてきたものであり(乙1,証人K),その記載自体が決 ところがあることは否定できないとしても,被告においては,従来から定時株主総会招集通知の会議の議案として,取締役選任については,同様の記載が行われてきたものであり(乙1,証人K),その記載自体が決議に臨む株主らに疑義をもたらし,態度決定に支障を与えていたことも窺い得ず,特に本件株主総会開催にあたり従来とその状況を異にしていたことを窺わせる事情も見出し難いのであるから,比較的株主数も少なく小規模な会社と認められる(弁論の全趣旨)被告における従来からの慣行等によって,株主は,本件株主総会(定時株主総会)における取締役選任予定人数を,当然に従前の取締役と同人数の3名と予想・認識し得る客観的状況にあったものと認めることができる。 なお,原告らは,原告らが累積投票の請求をしていれば,Gほか2名による累積投票の請求と相俟って,本件株主総会において累積投票を行わざるをえない状況にあったなどとも主張する。しかし,本件株主総会招集の通知があったにもかかわらず,原告らが累積投票の請求の意思を示さなかったことは,弁論の全趣旨から明らかなことである。しかも,他方では,同一内容の通知を受けた一部の株主らは累積投票の請求を行っているのであって,原告らのこのような消極的態度決定と本件株主総会招集通知の会議の目的の記載との間に何らか関連性があったことを窺わせるような事情も見当たらない。したがって,原告らが累積投票の請求をしなかったことは,被告側が会議の議案として「取締役改選の件」としか記載しなかったこととは関わりのないことであったと考えられるのであって,「取締役改選の件」との記載は,本件諸事情の下,株主に格別不利益を及ぼす不備のある記載ではなかったということができる(法定の期間内に有効な累積投票の請求をすることを怠った以上,累積投票によることの利益を失う結果となるの 記載は,本件諸事情の下,株主に格別不利益を及ぼす不備のある記載ではなかったということができる(法定の期間内に有効な累積投票の請求をすることを怠った以上,累積投票によることの利益を失う結果となるのはやむをえないことである。)。 したがって,本件株主総会招集通知が不適法なものであったということはできない。 3 よって,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却する。 福井地方裁判所民事部裁判官酒井康夫

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