【DRY-RUN】主 文 原判決を次のとおり変更する。 被控訴人は控訴人に対し金六六二万円及び内金六〇二万円に対する昭和 五三年一一月二九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え
主文 原判決を次のとおり変更する。 被控訴人は控訴人に対し金六六二万円及び内金六〇二万円に対する昭和五三年一一月二九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。 控訴人のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。 事実 一控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金七一六万四〇〇〇円及び内金六〇二万円に対する昭和五三年月一一月二九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。 二当事者の事実上の主張及び証拠関係は、次のとおり改め加えるほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。 1 原判決二枚目裏七行目の「、また、……」から同九行目の「……これを取下げ」までを削除する。 2 同三枚目表五行目の「表示登記」の次に「及び所有権保存登記の各」を、同一〇行目の「そして、」の次に「控訴人の所有権保存登記の申請は、四月一一日同出張所A登記官がその取下げを指導したため、控訴人の右登記申請代理人司法書士Bは、これを取下げ、」を各加える。 3 同三枚目裏七行目の「申請があ」の次に「り、これにつき実地調査を要するものとして即日処理がなされず、いまだ登記がなされていなか」を、同一〇行目の「表示登記をなし」の次に「(さらに、これに引き続き仮差押えの登記をなしたが右登記嘱託にかかる物件の表示は、主たる建物の床面積は一一五・四二平方メートル、付属建物の床面積は二一・六〇平方メートルとなつており、控訴人申請の表示登記の物件の表示の主たる建物の床面積の一一五・三八平方メートル、 る物件の表示は、主たる建物の床面積は一一五・四二平方メートル、付属建物の床面積は二一・六〇平方メートルとなつており、控訴人申請の表示登記の物件の表示の主たる建物の床面積の一一五・三八平方メートル、付属建物の床面積の二二・九六平方メートルと明らかに相違しているので、もし控訴人申請の表示登記が受付順位を間違うことなく登記されていたならば、右仮差押えの登記嘱託は不動産の表示が登記簿と牴触することとなり、法四九条五号により却下されるべきものであつた。)」を各加える。 4 同四枚目表一〇行目の次に改行して「しかしながら、右仮差押登記嘱託による表示登記が完了した四月六日の時点では、控訴人の所有権保存登記申請はいまだ取下げられておらず、控訴人の表示登記申請の受付番号は第一二七六三号、右所有権保存登記申請の受付番号は第一二七六四号であり、裁判所からの仮差押登記嘱託の受付番号は第一五四七一号であるから、(前記主張のとおり、まず控訴人の先順位受付けにかかる表示登記申請があつたのであるが、それが順番とおり処理されなかつたとしても)右嘱託にかかる表示登記後、同出張所登記官は、登記申請の右受付番号順に従つて、まず控訴人申請の右所有権保存登記をなすべき義務があつたのである。しかるに、同出張所C登記官は、右注意義務を怠り、漫然と受付番号が先順位の控訴人の(右表示登記申請及び)右所有権保存登記申請を看過し、受付番号が後順位である裁判所からの右仮差押登記嘱託に基づき職権により同嘱託登記の登記義務者である訴外Dを所有者とする所有権保存登記をなしたうえ、右仮差押登記をなした過失により控訴人に損害を与えた。」を、同一一行目の「ところで、」の次に「仮に、控訴人の所有権保存登記申請がその受付日である三月二四日に遡つて取下げるという方法で処理されたと評価されるとしても、」を各加 により控訴人に損害を与えた。」を、同一一行目の「ところで、」の次に「仮に、控訴人の所有権保存登記申請がその受付日である三月二四日に遡つて取下げるという方法で処理されたと評価されるとしても、」を各加える。 5 同六枚目表末行の「7」を「4」と、同裏三行目の「6」を「3」と各改める。 6 同六枚目裏七行目の「(三)の事実」の次に「中、控訴人の所有権保存登記申請の取下げがなされたのが四月一一日であるとの点は争うが、その余」を、同八行目の末尾に続けて「すなわち、控訴人の所有権保存登記申請書が四月六日の時点において同出張所に残存していたことは認めるが、右登記申請自体の効果が右時点まで継続していたとの点は争う。右登記申請は、本来申請の時点で直ちに却下ないし取下げられるべきものであつたが直ちに却下した場合の却下手続及びそれに付随する手続の煩雑さから免れるため、又取下げるにしても、再提出の時期及び実地調査時期の連絡確保のため、実地調査が可能になるまで、法務局がその申請書を事実上預つておくという、法務局と司法書士との間の慣行に基づき、事実上法務局に残存していたに過ぎないものであつて、その受付日である三月二四日に遡つて取下げるという方法で処理されたと評価さるべきである。」を各加える。 7 当審における新たな証拠として、控訴人は、甲第一二ないし第一四号証を提出し、証人E、同Bの各証言を援用し、後記乙号各証の成立をすべて認め、被控訴人は、乙第一一号証の一、二、第一二、一三号証の各一ないし三、第一四号証の一ないし四、第一五ないし第一七号証、第一八号証の一、二、第一九ないし第二六号証を提出し、証人Fの証言を援用し、前記甲号各証の成立をすべて認めた。 理由 一成立に争いのない甲第一〇ないし第一三号証、乙第二、三号証、第四号証の一、二 ないし第二六号証を提出し、証人Fの証言を援用し、前記甲号各証の成立をすべて認めた。 理由 一成立に争いのない甲第一〇ないし第一三号証、乙第二、三号証、第四号証の一、二、第五号証、第六号証の七ないし一二、第九、一〇号証、第一五号証、原・当審証人F(ただし、後記措信できない部分を除く。)、原審証人G、当審証人E、同Bの各証言、及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が認められ、前記証人Fの証言中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして措信できず、ほかに右認定を左右するに足りる証拠はない。 1 控訴人は、三月一三日訴外Dから、本件建物をその敷地とともに代金一〇〇〇万円で買い受け、同日手付金一〇〇万円を支払い、同月一七日残代金九〇〇万円を支払つて、その約一週間後に本件建物及びその敷地の引渡しを受け、これに控訴人現代表者及びその家族が居住した。 2 右敷地については、三月一八日控訴人名義に所有権移転登記がなされたが、本件建物については、未登記であつたため、控訴人は三月二四日福岡法務局西新出張所に対し控訴人名義の表示登記及び所有権保存登記の各申請をなした(以上の事実は当事者間に争いがない。)。 3 右各登記の申請書は、同出張所の総括係が担当する受付の窓口に同時に提出され、右表示登記申請書が同出張所同日受付第一二七六三号、所有権保存登記申請書が同第一二七六四号の各受付番号で受け付けられ(以上の点は当事者間に争いがない。)、登記申請書の審査を担当する登記第二係に回付されたが、他方、当時同出張所においては、表示登記申請書の調査は建築基準法に基づく建築確認通知書及び同検査済証、建築請負人の引渡証明書等の所有権を証する書面、建物図面、建物宅地調査書(福岡法務局とその管内の土地家屋調査士会との申合わせによつて作成添付するもの 建築基準法に基づく建築確認通知書及び同検査済証、建築請負人の引渡証明書等の所有権を証する書面、建物図面、建物宅地調査書(福岡法務局とその管内の土地家屋調査士会との申合わせによつて作成添付するもの)等の各添付書類を参照してなされ、右建築確認通知書、検査済証が添付されていて書類審査で問題がなければ、実地調査を省略して差し支えないとの取扱いがなされていたところ、本件において控訴人は、表示登記の申請に際し、本件建物の所有権を訴外西島から売買により取得したにもかかわらず、本件建物の建築主が控訴人である旨の記載のある建築請負人及び付帯(左官)工事人ら作成の建築工事完了引渡証明書並びに「無届による建築のため確認通知書及び検査済証はありません。」との記載のある土地家屋調査士作成の建物実地調査書を申請人の所有権を証する書面として提出したため、受付けから四、五日後の三月二七日、八日頃書類審査を終つた段階で、右実地調査省略の取扱いができず、同出張所A登記官により実地調査が必要と判断され、控訴人の表示登記申請は、実地調査のうえ受否を決定すべきものとして、その処理が留保され、A登記官の補助者である同出張所F事務官が、その申請書の第一葉上部欄外に「要実地調査」の印判を押捺したうえ、関係書類を登記第二係に備え付けられている実地調査を要する申請書類のみを保管しておく書類入れに収納し、実地調査の実施に備えた。 4 また、当時同出張所においては、表示登記申請書と所有権保存登記申請書とが同時に提出された場合、書面審査の結果表示登記について実地調査省略の取扱いがなされるときでも当日(即日)のうちに登記までなされる実情にはなく、現実には右各申請書の受付けから各登記の登記簿への記入まで平常の場合でも約三日を要し、各登記申請共に却下されたり、あるいは取下げの指導を受けることもな 日(即日)のうちに登記までなされる実情にはなく、現実には右各申請書の受付けから各登記の登記簿への記入まで平常の場合でも約三日を要し、各登記申請共に却下されたり、あるいは取下げの指導を受けることもなく、表示登記、所有権保存登記共に各登記申請の日付でそれぞれ記入がなされていたが、表示登記に実地調査省略の取扱いがなされず登記申請の当日(即日)に処理できないときは、その権利の客体たる不動産についての表示登記を欠くものであるから法四九条二号に当り、かつ、その欠缺は即日補正することができないのであるからこれを却下できるとの見解が一応とられていたものの、現実にはその登記申請書をそのまま登記所に保留し、表示登記申請代理人である土地家屋調査士などに対し、実地調査のため現地に臨む旨をあらかじめ通知する際、右所有権保存登記申請を、申請の日付に遡らせた取下書により、取下げるよう指導し、あわせて表示登記の登記簿への記入予定時期を示唆して所有権保存登記の再申請を促し、さらに、右土地家屋調査士などは所有権保存登記申請代理人である司法書士などに同様の連絡を取る慣例であつた(ちなみに、福岡法務局箱崎出張所においては、未登記不動産の表示登記と所有権保存登記が同時申請され、右表示登記申請が実地調査を必要とする場合も、通常は所有権保存登記申請を取下げさせないで処理し、表示登記の日付は登記の日ではなく受付日とする〔もとより所有権保存登記の日付はその受付日とする〕取扱いが行われていたが、それでも同出張所における昭和五五年四月から昭和五六年八月までを調査した結果、所有権保存登記が〔現実に登記の日付が記入された〕表示登記の先日付で登記されている事例が一五三件中二一件あつた。)。 5 控訴人からの表示登記申請の受否決定が保留された後、訴外国際航業株式会社から福岡地方裁判所に対し、本 登記の日付が記入された〕表示登記の先日付で登記されている事例が一五三件中二一件あつた。)。 5 控訴人からの表示登記申請の受否決定が保留された後、訴外国際航業株式会社から福岡地方裁判所に対し、本件建物が訴外西島の所有であるとしてこれに対する仮差押命令の申請がなされ、同裁判所は、四月四日本件建物に対する仮差押えの決定をなし、同月六日同出張所にその旨の登記嘱託をし、右登記嘱託は、同出張所同日受付第一五四七一号として受け付けられたところ、同出張所C登記官は、本件建物に対する右登記嘱託の受付番号が控訴人の表示登記及び所有権保存登記の各申請の受付番号より後順位であつたにもかかわらず(なお、右登記嘱託にかかる物件の表示は、主たる建物の床面積は一一五・四二平方メートル、付属建物の床面積は二一・六〇平方メートルとなつており、控訴人申請の表示登記の物件の表示の主たる建物の床面積の一一五・三八平方メートル、付属建物の床面積の二二・九六平方メートルと明らかに相違していた。)、控訴人の右各登記申請の受否決定が保留されていることを看過し、同日職権により、本件建物の表示登記及び訴外西島を所有者とする所有権保存登記をなしたうえ、訴外会社のために仮差押登記を了した(以上の事実中、括弧内の物件の表示に関する事実及び同出張所C登記官が控訴人の右各登記申請の受否決定が保留されていることを看過したことを除く、その余の事実は当事者間に争いがない。)。 6 同出張所は、もともと福岡法務局管内でも繁忙庁とされていたが、控訴人の各登記申請があつた三月下旬は年度末にあたり、官公署からの嘱託登記事件が増加したのに加え、昭和四七年は固定資産の評価替えの年にあたつており、登録免許税が四月一日から新評価額を基礎として算出される関係から、平常の場合の約二倍(週日一日当りの平均三三〇件、最も 登記事件が増加したのに加え、昭和四七年は固定資産の評価替えの年にあたつており、登録免許税が四月一日から新評価額を基礎として算出される関係から、平常の場合の約二倍(週日一日当りの平均三三〇件、最も少ない日で二二五件、最も多い日で四九七件)の登記申請事件が集中した。登記申請事件の処理件数の限度としては、職員一人当り一日ほぼ一〇件が目安とされており、同出張所には二〇名(内登記官六名)の職員が配置されていたが三月二五日及び四月一日付で定期人事異動があり、同出張所においても登記官三名、事務官五名の計八名が配置換えとなり、後任の職員の着任がほぼ完了した四月五、六日頃までは、定員の六割(登記官は半数)にあたる同出張所職員のみで、勤務時間後も二、三時間の残業をし、平常時に倍する案件の処理にあたつた。そこで、受付後書類審査がなされるまで約一週間かかり、特に問題のない登記申請事件であつても登記の完了まで一週間を要していた。 そして、実地調査を要するとされた事件についても、三月下旬から四月上旬まではほとんど実地調査は実施されなかつた。しかして、控訴人の表示登記申請代理人E土地家屋調査士は、同出張所へ五、六回行つたほか、電話も何回かかけ、あるいは側面から司法書士を通じ、同出張所に対し、迅速処理を催促ないし懇請したりしたが、控訴人の本件表示登記申請も、受付けから書面審査まで約一週間かかり、人事異動の余が落ち着いた四月一一日になつて、右書面審査を担当したF事務官によつて(同出張所H事務官も帯同し)、E土地家屋調査士の現地案内のうえ、実地調査が実施され(ちなみに、相互に連絡を欠いたまま、同日同出張所A登記官も裁判所からの本件嘱託登記関係の実地調査を実施した。)、同日頃事実上同日付で登記簿へ記入がなされ同出張所I登記官による校合作業も完了した。ところが、右完了後 連絡を欠いたまま、同日同出張所A登記官も裁判所からの本件嘱託登記関係の実地調査を実施した。)、同日頃事実上同日付で登記簿へ記入がなされ同出張所I登記官による校合作業も完了した。ところが、右完了後、同出張所は、E土地家屋調査士に対し二重登記を理由に控訴人の表示登記申請を取下げるよう要請したが、応じなかつたため、四月二八日法四九条二号の規定に該当するものとしてこれを却下した。これとは別に、右実地調査前、F事務官が控訴人の所有権保存登記申請代理人B司法書士を電話で呼び出し、右登記申請を申請受付日の三月二四日付に遡らせて取下げるよう勧告したため、B司法書士は、これを取下げたところ、四月一一日のうちに同出張所から再度電話があり「翌一二日に所有権保存登記申請書を再提出してくれ、午後には下げるから」との連絡があつたので、翌一二日右登記申請書を再提出すると、新たに同出張所同日受付第一六三〇三号で受け付けられ、同日頃事実上記入及び校合の段階まで作業が進められたが、同一地番の本件建物について裁判所からの本件嘱託登記がなされていて二重登記となることが判明し、同出張所から再度右登記申請の取下げが勧告されたたため、やむなく同日付でこれを取下げた。 <要旨>二ところで、未登記不動産について、表示登記申請書と所有権保存登記申請書が同時に窓口に提出された場</要旨>合は、その提出の趣旨に従い右表示登記申請書、所有権保存登記申請書の各順序で受け付け一連の受付番号を記載し、右表示登記が実地調査を行なうため、あるいは、その他登記所の登記事務処理に関する人的物的諸制約などのため登記申請の当日内(即日)に登記の実行ができなかつたと否とに拘わらず、法四八条の「登記官ハ受附番号ノ順序ニ従ヒテ登記ヲ為スコトヲ要ス」との規定は、登記の順序が権利の順位を定める標準となることに鑑み設 登記申請の当日内(即日)に登記の実行ができなかつたと否とに拘わらず、法四八条の「登記官ハ受附番号ノ順序ニ従ヒテ登記ヲ為スコトヲ要ス」との規定は、登記の順序が権利の順位を定める標準となることに鑑み設けられ、直接には登記事務取扱いに関し登記官が登記をする順序を定めたもので、直ちに対抗力にかかわるところの権利に関する登記間に限らず、右権利に関する登記の手続上その必須の前提となる表示に関する登記間にも適用され、もとより嘱託による登記間についても準用される(法二五条二項)のみならず、それぞれ右の各登記相互間においても、その登記申請書あるいは登記嘱託書の、調査並びに登記がいずれも受付(順位)番号の順序に従つてなされなければならない趣旨を定めたものと解されるから、所有権保存登記が、その対象である不動産の客観的、物理的現況の公示を目的とする表示登記の存在を論理的に前提としているとしても、右の順序に従つて登記がなされる以上、所有権保存登記を処理する段階においては、すでにその表題部に右登記申請者が所有者として記載された表示登記が存在し、右の前提はこれを充足していることとなり、表示登記を欠く不動産について直接所有権保存登記申請がなされた場合と同一に取り扱うことはできないので、すべからく登記官は後順位受付けの右所有権保存登記申請の処理はこれを保留し、右表示登記完了後、その所定の登記手続を実行すべきであつて、右所有権保存登記申請を法四九条二号の規定に該当するものとして却下し、あるいは、同じく却下すべきことを前提にその取下げの指導をなすがごときは違法な行為というべきであるし(なお、法一〇〇条一号は、表題部に自己が有者として記載されている者に対し自己名義による所有権保存登記の申請適格を認めた規定にとどまり、同規定の趣旨は、以上のように解釈するについてなんら影響を るし(なお、法一〇〇条一号は、表題部に自己が有者として記載されている者に対し自己名義による所有権保存登記の申請適格を認めた規定にとどまり、同規定の趣旨は、以上のように解釈するについてなんら影響を及ぼすものではない。)、右表示登記が実行されるまでの間に裁判所から所有権の処分制限の登記嘱託がなされたときも、すでに先順位受付けの表示登記、所有権保存登記の各申請が存する以上、これら各登記申請の処理がなされるまで右登記嘱託の処理を保留し、右申請にかかる各登記の受否の決定が順次なされた後に、後順位受付けの右登記嘱託の受否を決定すべきものと解するのが相当である。 けだし、もし右のように解さなければ、未登記の不動産について、表示登記が登記申請の当日内(即日)に実行できる場合を除き、表示登記申請があれば実地調査は原則としてこれを行わなければならないとされている(不動産登記事務取扱手続準則〔以下単に準則という。〕八八条本文)(もつとも申請にかかる事項が相当と認められる場合にはこれを省略しても差し支えない〔準則八八条ただし書〕が、その判断とても登記官の裁量に委ねられている。)うえ、日を改めて実地調査が実施され表示登記が実行されるまでには相当程度の時日の経過がどうしても避けられないにも拘わらず、その間は適法に所有権保存登記申請を行おうとしてもこれを行うことができず、未登記不動産の取引をなす場合も権利に関する登記の順位が対抗要件取得の順位に直接影響する点では既登記不動産の取引の場合となんら本質的な差異を認めることができないのに、表示登記後間を置かずして引き続き権利に関する登記の手続をなすことにより、他に優先して対抗要件取得の順位を確保し、自己の取得した所有権などの保全のために最善の努力を払おうとする者にその方途を閉ざし(もとより、表示登記申請後間断なく登記 関する登記の手続をなすことにより、他に優先して対抗要件取得の順位を確保し、自己の取得した所有権などの保全のために最善の努力を払おうとする者にその方途を閉ざし(もとより、表示登記申請後間断なく登記簿閲覧などのため登記所へ通い詰めるとか、登記所からの便宜的計らいにより表示登記後間髪を入れずに権利に関する登記ができるよう連絡を受けるとか、その他これに類するような表示登記完了時を察知する方法についてはおよそ論外というべきであるが、いずれ関係者は現実にはこれらの方法に頼らざるを得ないところまで追い込まれかねないと思われる。)、場合によつては、職権により表示登記及び所有権保存登記がなされるところの裁判所からの所有権の処分制限の登記嘱託(法一〇四条二項)が行われようとしていても、ただ拱手傍観を余儀なくさせ、これに劣後する結果を甘受させてしまうこととなり、右のごとき事態を容認することにより未登記不動産の迅速、円滑な取引やその安全にもたらされる弊害は、およそ不動産登記制度の根幹にも触れ、とうてい堪え難いものとなるからである。 一方、右のごとく所有権保存登記申請が却下されず、申請当日(即日)とは日を改め実地調査が行われて表示登記がなされ、次いで所有権保存登記もなされた場合には、権利に関する登記の申請については、その登記の日付は申請の受付けの日をもつてなされる(法五一条二項)のに対し、表示に関する登記の申請については、現実に登記簿に記入される日をもつて登記の日付とされる(法五一条一項)から、登記簿面上、いまだ表示登記がなされる以前に所有権保存登記がなされたような外観を呈するに至ることは避けられないものの、あくまで現実の登記は、各申請受付けの順序に従い、表示登記完了後に所有権保存登記が実行されるのであり、しかも右各日付の意味するところは右各条項により明確 外観を呈するに至ることは避けられないものの、あくまで現実の登記は、各申請受付けの順序に従い、表示登記完了後に所有権保存登記が実行されるのであり、しかも右各日付の意味するところは右各条項により明確に規定されているのであるから、右外観を呈するということ以外にはなんらの不合理も考えられず、これをもつて格別不動産登記制度を混乱させるものとはいい難い(ちなみに、およそ不動産上の権利の対抗力は登記の時に発生するので、右の場合にも所有権の対抗力発生時は、右表示登記完了後の所有権保存登記実行の時であることはもちろんであるが、登記簿面上の記載からする対抗力発生時の事実上の推定の関係では、通常の場合とは異なり、所有権保存登記の〔申請受付けの〕日付ではなく、右表示登記の日付に対抗力が発生したものと推定されることとなろう。)。 また、所有権保存登記など権利に関する登記の日付は申請受付けの日をもつてなされる定めである(法五一条二項)こと、及び登記申請自体の公示方法の制度が設けられていない現行不動産登記制度の下で、その公示内容と異なる権利の状態は存在しないであろうと信頼して取引に入る者の右信頼をできる限り保護する必要のあることに着目すれば、登記事務は極力迅速に処理されなければならないのが当然であり(なお、登記申請の欠缺の補正の期間が即日と制限されている〔法四九条ただし書〕ことも右の迅速処理に資する趣旨を間接的に含むものであることはこれを否定できない。)、およそ、登記は、権利に関する登記に限らず、表示に関する登記も、登記申請の当日ないし同日から短時日のうちに迅速に実行されることを要し、かつ、これをもつて足りるものと解するのが相当であり、登記申請のすべてをその申請当日内(即日)に処理すること(いわゆる「即日処理の原則」)は、登記事務処理上物理的に一定の時間が必要 れることを要し、かつ、これをもつて足りるものと解するのが相当であり、登記申請のすべてをその申請当日内(即日)に処理すること(いわゆる「即日処理の原則」)は、登記事務処理上物理的に一定の時間が必要なことは当然として、登記所の登記事務処理量に対する人的物的設備、執務体制の現状を直視する限り、いうべくして現実にはほとんど不可能に近いし、もとより明文の規定も存しないのであるから、右のような厳密な意味での「即日処理の原則」が、(登記官に向けられた登記事務処理上の準則としてならともかく)現行不動産登記法上、法四八条の原則と比肩すべき重要な法原則として採用されているものとはとうてい解し難いものというべきである。 三以上のところによれば、同出張所C登記官は、裁判所からの本件登記嘱託に基づく各登記を実行した四月六日の時点において、右登記嘱託よりも先順位受付けの控訴人の本件表示登記申請がその添付書類の問題から実地調査を行つたうえ受否を決定すべきものとして保留され、これに伴つて右表示登記申請の次順位受付けの控訴人の本件所有権保存登記申請も受否の決定を保留され(なお、登記申請書の欠缺補正のため取下げをする場合において、たとえその取下書に登記申請受付けの日付、あるいは、その他の日付が記載されていたとしても、その取下げの効果は現実に取下げがなされた時に生ずるものと解するのが相当であるから、控訴人の本件所有権保存登記申請は四月一一日の時点までは受否の決定が保留されたまま申請自体の効果を継続していたものというべきである。)、F事務官により、同出張所登記官が本件未登記建物について控訴人から右各登記申請がなされていることを容易に知り得るような措置が講じられていたのであるから、当時殺到していた多数の登記事件の処理に追われたとはいえ、控訴人の右各登記申請に気付いて、法四 について控訴人から右各登記申請がなされていることを容易に知り得るような措置が講じられていたのであるから、当時殺到していた多数の登記事件の処理に追われたとはいえ、控訴人の右各登記申請に気付いて、法四八条の趣旨に沿い右受付順位に従つて控訴人の本件表示登記申請、所有権保存登記申請、次いで裁判所からの本件登記嘱託を処理すべきであつたにも拘わらず漫然とその注意義務を怠り、違法にも、控訴人の右各登記申請の受否の決定がそれぞれ保留されていることを看過したまま、職権により本件未登記建物について右登記嘱託に基づく表示登記、所有権保存登記、仮差押えの登記の実行を完了し(ちなみに、同登記官は、裁判所からの本件登記嘱託を処理するに際し、控訴人の右各登記申請と同登記嘱託の各々それ自体、あるいは、これら相互の処理関係について、格別、法解釈上、あるいは、実務上の一定の見解を正当と解しこれに従つてなしたわけではなく、前示のとおり、ただ右各登記申請が保留されていることに気付かずにそのまま右登記嘱託を処理したに過ぎないものと認められる。)、もつて控訴人の本件表示登記申請及び同所有権保存登記申請が裁判所からの本件登記嘱託によりなされた表示登記、所有権保存登記との関係で二重登記となる結果を招来し、法四九条二号の規定に該当するものとして、右表示登記申請については却下、同所有権保存登記申請については取下げを余儀なくさせてしまつた。 以上によれば、同登記官の過失ある違法行為により控訴人は本件建物の所有権取得を訴外会社に対抗し得なくなつたというべきであるから、右所有権取得につき対抗要件を具備する機会を喪失したことによる損害は、国家賠償法一条一項に基づき右登記官の違法行為と相当因果関係のある範囲て被控訴人においでこれを賠償すべき義務がある。 四成立に争いのない甲第六、七号証、原 具備する機会を喪失したことによる損害は、国家賠償法一条一項に基づき右登記官の違法行為と相当因果関係のある範囲て被控訴人においでこれを賠償すべき義務がある。 四成立に争いのない甲第六、七号証、原審証人Gの証言により成立が認められる甲第八、九号証、同証人の証言、及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。 1 訴外会社は、昭和五三年五月八日前示仮差押えにかかる本件建物について福岡地方裁判所に強制競売の申立てをした。そこで、同裁判所は、同月九日強制競売開始決定をなし、本件建物は、最低競売価額金六〇二万円で同年一二月五日競売に付されることとなつた。そのため、すでに本件建物の引渡しを受けて控訴人現代表者及びその家族を居住させていた控訴人としては、やむを得ず訴外会社と「控訴人は、訴外会社に対し同月四日限り六〇二万円を支払う。右金員の支払と引換えに、訴外会社は、本件建物の競売申立てを取下げ、本件建物についての一切の権利を放棄する。」旨の和解をし、控訴人は、同年一一月二九日訴外会社に対し六〇二万円を支払つた。 2 控訴人は、本件訴訟の提起、遂行を控訴代理人らに委任し、着手金として五七万二〇〇〇円を支払い、成功謝金として同額の金員を本訴の勝訴判決確定時に支払う旨約した。 以上によれば、前示登記官の違法行為と相当因果関係の範囲にある控訴人の損害は、右和解に基づく支払金六〇二万円及び弁護士費用中六〇万円の合計六六二万円と認めるのが相当である。 五以上のとおりであつて、控訴人の本訴請求は、前示損害金六六二万円及び前示弁護士費用の損害金六〇万円を除く内金六〇二万円に対する損害発生日である昭和五三年一一月二九日から支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由がある 前示弁護士費用の損害金六〇万円を除く内金六〇二万円に対する損害発生日である昭和五三年一一月二九日から支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却すべきである。 よつて、これと異なる原判決を右のように変更し、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官美山和義裁判官谷水央裁判官江口寛志)
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