平成28(ワ)2054 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年6月25日 札幌地方裁判所
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判決文本文49,237 文字)

- 1 -判決主文 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して1563万0510円及びこれに対する平成25年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告Bに対し,連帯して1974万7061円及びこれに対する平成25年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは,原告Cに対し,連帯して1974万7061円及びこれに対する平成25年4月13日から支払済みま で年5分の割合による金員を支払え。 4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は,原告Aに生じた費用と被告らに生じた費用の2分の1との合計の10分の7を原告Aの,10分の3を被告らの負担とし,原告Bに生じた費用と被告らに生じ た費用の4分の1との合計の4分の1を原告Bの,4分の3を被告らの負担とし,原告Cに生じた費用と被告らに生じた費用の4分の1との合計の4分の1を原告Cの,4分の3を被告らの負担とする。 6 この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行する ことができる。 事実 及び理由第1 請求 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して5286万4011円及びこれに対する平成25年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告Bに対し,連帯して2643万2006円及びこれに対する- 2 -平成25年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは,原告Cに対し,連帯して2643万2006円及びこれに対する平成25年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,亡Dが被告会社の退職後に自殺したことにつき,同人の相続人である 原告らが,亡D これに対する平成25年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,亡Dが被告会社の退職後に自殺したことにつき,同人の相続人である 原告らが,亡Dは被告会社での過重な業務のためにうつ病エピソード(以下,単に「うつ病」という。)又は適応障害を発症して自殺したものであると主張して,被告会社及びその代表取締役である被告Eに対し,①被告会社については主位的に民法709条又は715条,予備的に民法415条に基づき,②被告Eについては主位的に民法709条,予備的に会社法429条1項に基づき,連帯して, 損害賠償金(亡Dの妻の原告Aにつき5286万4011円,亡Dの子の原告B及び原告Cにつき各2643万2006円)及びこれに対する亡Dの死亡の日である平成25年4月13日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。 1 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)(1) 当事者等ア亡D亡Dは,昭和47年6月23日生まれの男性である。 イ原告ら 原告Aは,亡Dの妻である。 原告Bは亡Dの長男であり,原告Cは亡Dの二男である。 ウ被告ら被告会社は,暖房設備工事等を業とする株式会社である。 被告Eは,被告会社の代表取締役である。 (2) 亡Dの被告会社での就業- 3 -亡Dは,平成11年頃に被告会社に就職し,暖房設備工事に従事した。 亡Dは,平成23年3月に一旦退職し,暖房設備工事の個人事業を立ち上げたが,翌年の平成24年8月1日に被告会社に再就職し,暖房設備工事に従事していた。 亡Dの具体的な業務内容は,新築の住宅の配管工 亡Dは,平成23年3月に一旦退職し,暖房設備工事の個人事業を立ち上げたが,翌年の平成24年8月1日に被告会社に再就職し,暖房設備工事に従事していた。 亡Dの具体的な業務内容は,新築の住宅の配管工事やボイラー,パネル等 の取付け作業等であり,1日の仕事の流れは,①まず被告会社の事務所に出勤して,準備作業を経た上,②外回りに出て各現場で作業を行い,③事務所に戻って現場作業報告書(以下「日報」という。)などの書類を作成するというものであった。 (3) 亡Dの死亡 亡Dは,平成24年12月22日,業務時間中に職場放棄をして,その日以降出社しなくなり,同月中に被告会社を退職した。 そして,亡Dは,平成25年4月13日,自殺により死亡した(以下,亡Dの自殺を「本件自殺」という。)。 (4) 労働者災害補償保険の支給決定 札幌中央労働基準監督署は,亡Dが被告会社での業務により精神障害を発病し,本件自殺に至ったものと判断して,平成27年6月1日付けで,原告Aに対し,労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)に係る遺族補償年金,遺族特別支給金,遺族特別年金の支給決定通知をした(甲7,弁論の全趣旨)。 2 争点(1) 被告会社での業務①-長時間労働の有無(2) 被告会社での業務②-上司とのトラブル等の有無(3) 亡Dのうつ病又は適応障害発症の有無(4) 被告会社での業務と本件自殺との因果関係の有無 (5) 被告らの責任- 4 -ア被告会社の責任の有無イ被告Eの責任の有無(6) 過失相殺の可否(7) 損害発生の有無及び額第3 争点に対する当事者の主張 1 争点(1)(被告会社での業務①-長時間労働の有無)について(原告らの主張)亡Dは,以下のとおり,被告 失相殺の可否(7) 損害発生の有無及び額第3 争点に対する当事者の主張 1 争点(1)(被告会社での業務①-長時間労働の有無)について(原告らの主張)亡Dは,以下のとおり,被告会社において恒常的な長時間労働に従事していたものである。 (1) 亡Dの労働時間 亡Dの平成24年8月から同年12月までの具体的な労働時間は,下記アないしウに従って算定すると,別紙1「時間外労働時間(原告ら主張〔始業午前7時30分〕)」のとおりとなる。 ア始業時刻亡Dがおおむね午前7時過ぎには自宅を出て出勤し,通勤時間は車で1 0分程度であったことから,午前7時30分として特定した。なお,仮にこれが認められないとしても,被告会社では午前7時50分から朝礼があり,亡Dはこれに必ず参加していたことから,始業時刻は遅くとも午前7時50分であったというべきである。 イ終業時刻 被告会社において作成されていた日報に記載された退社時刻によって特定した。ただし,対応する日報がない日(平成24年12月14日,15日,19日及び20日)については,日報上の平均終業時刻である午後9時30分を終業時刻とした。また,平成24年10月23日については,亡Dに同行していたFの日報に基づいて終業時刻を特定した。 ウ休憩時間- 5 -1時間を取っていたものとした。 (2) 1か月ごとの時間外労働時間上記(1)によれば,亡Dの平成24年の1か月ごとの時間外労働時間は以下のとおりであり,同年12月中旬までの1か月間においておおむね160時間,2か月間において1か月当たり120時間超,3か月間において1か 月当たり100時間超の時間外労働を行っていたものである。 8月 1日から 8月22日まで 77時間10分 ね160時間,2か月間において1か月当たり120時間超,3か月間において1か 月当たり100時間超の時間外労働を行っていたものである。 8月 1日から 8月22日まで 77時間10分8月23日から 9月21日まで 111時間50分9月22日から10月21日まで 166時間30分10月22日から11月20日まで 172時間55分 11月21日から12月20日まで 160時間05分(3) 被告らの主張に対する反論この点につき被告らは,被告会社の現場作業員においては待機時間や移動時間が生じており,これらも休憩時間と同様に扱われるべきであると主張する。 しかし,被告らの主張するような長時間の待機時間が生じることはないし,被告らの待機時間の算出は的確な証拠に基づいたものでもない。また,移動時間についても,被告らの主張は実態を反映したものではないし,これが使用者の指揮命令から解放された時間ということもできない。 (被告らの主張) 亡Dの労働時間は,以下のとおり,長時間にわたるものではなかった。 (1) 原告らは始業時刻を午前7時30分と主張するが,所定労働時間の開始時刻である午前8時とすべきである。 また,被告会社の現場作業員は,作業現場に到着しても,前の作業が終了するまで待たされることが頻繁にある。このような待機時間も休憩時間に該 当するというべきであるし,仮に厳密な意味で該当しないとしても,実質的- 6 -には休憩時間と同様に扱われるべきである。 さらに,被告会社から作業現場までの移動時間や,作業現場から別の作業現場までの移動時間も,労働に従事していない時間であって,これも待機時間と同じく,休憩時間として扱われるべきである。 (2) 以上を前提に,亡Dの1日ごとの 場までの移動時間や,作業現場から別の作業現場までの移動時間も,労働に従事していない時間であって,これも待機時間と同じく,休憩時間として扱われるべきである。 (2) 以上を前提に,亡Dの1日ごとの休憩時間を算出したのが,令和2年5月 15日付け被告第16準備書面添付の「労働時間算出表」である(ただし,11月15日の「G」邸での作業時間を35分から3時間40分に訂正する。)。これは,①始業時刻から終業時刻までの時間を「拘束時間」とし,②亡Dの日報に記載された作業内容に,標準的な作業時間を乗じて「標準作業時間」を算出し,③亡Dの日報から「移動時間」を割り出し,④「拘束時間」 から「標準作業時間」及び「移動時間」を差し引いて,「休憩時間」を算出したものである。なお,上記②で用いた標準的な作業時間は,被告会社の現場作業員にアンケート調査を行って算出したものである。 そして,これにより算出された休憩時間をもとにして亡Dの労働時間を算出したのが,別紙2「時間外労働時間(被告ら主張)」である。 (3) 以上によれば,亡Dの平成24年9月22日から同年12月20日までの1か月ごとの時間外労働時間は,次のような程度にとどまる。 9月22日から10月21日まで 56時間30分10月22日から11月20日まで 78時間06分11月21日から12月20日まで 21時間48分 2 争点(2)(被告会社での業務②-上司とのトラブル等の有無)について(原告らの主張)亡Dは,仕事の方法をめぐって上司のHと意見が対立し,厳しくかつ執拗な叱責を受けており,また,上司のIからも厳しくかつ執拗な叱責を受けていた。 そして,亡Dが代表取締役の被告EにHとの関係を相談したところ,被告E からは,Hが会社を辞めると言っているの 執拗な叱責を受けており,また,上司のIからも厳しくかつ執拗な叱責を受けていた。 そして,亡Dが代表取締役の被告EにHとの関係を相談したところ,被告E からは,Hが会社を辞めると言っているので亡Dも辞めろと言われ,退職勧奨- 7 -された。 (被告らの主張)Hが亡Dに業務上の指導を行ったのは1回だけであり,通常の指導の範囲内である。また,Iが亡Dに対して業務上の指導を行ったのも1回だけであり,「やり残しやミスが続いているので,年末なので気を引き締めて乗り切りまし ょう。」と話したにすぎない。 被告Eが亡Dに退職勧奨をしたとの主張は,事実に反する。 3 争点(3)(亡Dのうつ病又は適応障害発症の有無)について(原告らの主張)亡Dは,本来は明るい前向きな性格であり,これまで職場放棄や無断欠勤を することはなかった。 しかし,亡Dには,平成24年12月中旬までには,①疲れたとの趣旨の発言やイライラする様子があった,②不眠傾向や,深夜にぼうっとすることがあった,③髭を剃らず,作業着も洗濯せずに出勤するなど身なりに気を遣わなくなった,④食事量が減り,痩せていった,⑤休日に外出をせずに昼寝をするこ とが多くなった,⑥趣味の釣りやルアー作りもしなくなった,⑦飲酒量が増えた,などの変調がみられるようになった。 このように,亡Dには,同月中旬までには不安・焦燥感の亢進,抑うつ気分,興味と喜びの喪失,易疲労感による活動性の減退,睡眠障害,食欲不振といった心身の症状が現れていたのであって,これらの症状からすると,亡Dは,同 月中旬には,国際疾病分類第10回修正版(以下「ICD-10」という。)診断ガイドラインにおけるうつ病(F32)を発症していたものであり,仮にそうでなくとも適応障害を発症していたものである。 月中旬には,国際疾病分類第10回修正版(以下「ICD-10」という。)診断ガイドラインにおけるうつ病(F32)を発症していたものであり,仮にそうでなくとも適応障害を発症していたものである。 (被告らの主張)亡Dが平成24年12月中旬にうつ病ないし適応障害を発症していた事実は 否認する。職場においては,亡Dの異変をうかがわせるような事実は確認され- 8 -ておらず,原告らが発症の根拠とする事実も,同月22日の職場放棄後の出来事と考えられるのであって,同月中旬までに発症したことの根拠となる事実は見当たらない。 4 争点(4)(被告会社での業務と本件自殺との因果関係の有無)について(原告らの主張) 亡Dは,恒常的な長時間労働に従事しており(争点(1)),これにより心理的肉体的負荷が生じていたほか,上司とのトラブルや退職勧奨を受けるといった出来事もあって(争点(2)),亡Dに対する業務による心理的負荷の程度は極めて強いものであった。 他方で,亡Dには,平成24年12月中旬の発症前には生活苦や家庭内不 和・トラブルなどのような強い業務外の心理的負荷要因はなかった。また,亡Dには精神障害の既往歴もなく,かつ社会適応状況にも何ら問題がなかったのであって,個体側要因もなかった。 したがって,亡Dは,被告会社での業務による強い心理的負荷によって,うつ病又は適応障害を発症したものというべきである。 そして,亡Dは,うつ病又は適応障害の発症によって正常な認識や行為選択能力が著しく阻害され,自殺行為を思いとどまらせる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で,本件自殺に至ったものと推認されるのであるから,被告会社での業務と本件自殺との間には相当因果関係がある。 (被告らの主張) 争点(1 まらせる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で,本件自殺に至ったものと推認されるのであるから,被告会社での業務と本件自殺との間には相当因果関係がある。 (被告らの主張) 争点(1)及び(2)で主張したことからすれば,亡Dの業務は心理的負荷を生じさせるものではないし,被告会社の業務によって亡Dが平成24年12月中旬にうつ病又は適応障害を発症して本件自殺に至ったとの因果関係も認められるべきではない。仮に亡Dに何らかの異変があったとすれば,それは職場放棄をして,その後無断欠勤を続けていることを家族に伝えることができず,仕事に 戻ることもできないという葛藤や,将来への不安を抱えていたことが表出した- 9 -ものとみるべきであり,これらの葛藤や不安は被告会社の業務によって引き起こされたものではない。 そして,退職後の同僚との会話などからすれば,亡Dは仕事や趣味についての興味や関心を失っておらず,経済的な困窮や,家族に嘘を吐いて仕事に行くふりを続ける中で葛藤が深まり,将来の展望が見えずに自殺をしたものという べきである。 したがって,被告会社での業務と本件自殺との間には相当因果関係はない。 5 争点(5)ア(被告会社の責任の有無)について(原告らの主張)被告会社は,労働契約上又はこれに付随した信義則上の義務として,業務の 遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意するという,不法行為上の注意義務(民法709条,715条)及び安全配慮義務(民法415条)を負う。 しかるに,被告会社は,亡Dの健康状態の悪化を招く程度の長時間労働を知り得ながら,その労働時間を軽減させるための具体的な措置を採らなかった。 したがって,被告会社は,上記注意義務・安全配慮 しかるに,被告会社は,亡Dの健康状態の悪化を招く程度の長時間労働を知り得ながら,その労働時間を軽減させるための具体的な措置を採らなかった。 したがって,被告会社は,上記注意義務・安全配慮義務に違反したものであり,主位的に民法709条,715条に基づき,予備的に民法415条に基づき,損害賠償責任を負う。 (被告会社の主張)労働者の自殺と注意義務違反・安全配慮義務違反が問題となる事案において, 使用者が上記各義務に違反するといえるためには,使用者において認識し得る具体的な健康被害又はその徴候に対する予見可能性があることを要するというべきである。 本件についてみるに,亡Dと共に現場を回っていたF等の従業員は,亡Dの体調の異変など健康被害やその徴候となる事実を確認しておらず,被告会社に おける予見可能性はなかったというべきであるから,被告会社が上記義務に違- 10 -反したということはできない。 6 争点(5)イ(被告Eの責任の有無)について(原告らの主張)(1) 民法709条の責任(主位的主張)被告Eは,被告会社の代表取締役として,労働者の労働時間管理,労働環 境改善を含む業務全般につき責任ある地位にあり,亡Dを含む労働者の労働時間を適正に把握した上,労働者が過剰な時間外労働をして健康状態を悪化させないようにする注意義務を負っていた。また,被告Eは,従業員とその上司とのトラブルに対し,その対人関係を含む職場環境を調整する義務があり,安易に退職勧奨などをしない義務を負っていた。 しかるに,被告Eはこれらを懈怠し,亡Dの上司に対して労働時間の実態を把握させず,公序良俗に反する違法な賃金体系を採用するなどして,亡Dの長時間労働や労働環境を是正する措置を怠り,上記義務に違反したものであ 被告Eはこれらを懈怠し,亡Dの上司に対して労働時間の実態を把握させず,公序良俗に反する違法な賃金体系を採用するなどして,亡Dの長時間労働や労働環境を是正する措置を怠り,上記義務に違反したものである。 したがって,被告Eは,民法709条に基づく損害賠償責任を負う。 (2) 会社法429条1項の責任(予備的主張)被告Eは,自らが代表取締役として被告会社の業務執行全般を担当する立場にある以上,亡Dの勤務実態を容易に認識し得たものであり,また,労働者の生命,健康を損なうことのないような体制を構築し,長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務を負っていた。 しかるに,被告Eはこうした義務を懈怠したものであり,また亡Dの死亡につき悪意又は重過失があったものというべきである。 したがって,被告Eは,会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う。 (被告Eの主張)争点(5)アにおいて指摘したところと同様に,亡Dと共に現場を共に回って いたF等の従業員は,亡Dの体調の異変など健康被害やその徴候となる事実を- 11 -確認しておらず,被告Eにおける予見可能性はなかったというべきである。 したがって,被告Eが原告らの指摘する義務に違反したということはできない。 7 争点(6)(過失相殺の可否)について(被告らの主張) 使用者に注意義務違反・安全配慮義務違反が認められる場合においても,労働者側の姿勢,態度,基礎疾患などの事情が損害の発生・拡大に寄与しており,その損害の全部を使用者に賠償させることが公平を失する場合,過失相殺に関する規定(民法722条2項)を適用ないし類推適用して,それらの事情を考慮し,使用者の損害賠償額の調整を行うべきである。 本件においては,①使用者である被告会社において亡 合,過失相殺に関する規定(民法722条2項)を適用ないし類推適用して,それらの事情を考慮し,使用者の損害賠償額の調整を行うべきである。 本件においては,①使用者である被告会社において亡Dの健康悪化の徴候を読み取るのが困難であったこと,②亡Dの本件自殺については,経済的困窮や家庭内不和といった業務外の心理的負荷が寄与していたこと,③このうち経済的困窮は亡Dの短気な性格に由来する自招危難ともいうべきものであったことなどの事情があるから,これらを考慮し,少なくとも8割の過失相殺を行うべ きである。 (原告らの主張)労働環境の維持は使用者側の責務であり,作業や職場に通常随伴する危険性の発現として発生した結果や労働者に通常見られる程度の素因等の個人差から生ずる結果についての責任を労働者に転嫁することは許されない。そして,使 用者が労働者に過重な業務を課す一方で,使用者として必要な労務管理をしないという注意義務違反・安全配慮義務違反の存在する事案において,労働者側の体質や心的要因を理由に過失相殺の適用又は類推適用による損害額の減額をするのは公平ではない。 本件においては,上記のとおり,被告らは使用者として必要な労務管理をし ていない上,被告らの使用者としての業務・労務管理上の配慮における落ち度- 12 -は極めて重大であり,過失相殺が認められるべきではない。また,被告らは業務外の心理的負荷要因を主張するが,争点(4)で主張したとおり,そもそもそのような業務外の要因はなかったものである。 したがって,過失相殺に係る規定の適用ないし類推適用は認められない。 8 争点(7)(損害発生の有無及び額)について (原告らの主張)亡Dの死亡と相当因果関係のある損害は,以下のとおりである。 (1) 死 に係る規定の適用ないし類推適用は認められない。 8 争点(7)(損害発生の有無及び額)について (原告らの主張)亡Dの死亡と相当因果関係のある損害は,以下のとおりである。 (1) 死亡慰謝料 3000万円被告らの注意義務違反・安全配慮義務違反の重大性や,亡Dが一家の支柱であり,原告A,原告B,原告C及び原告Aの母であるJの四名と生計を同 一にして,亡Dの収入によって生活をしていたことに照らすと,死亡慰謝料は3000万円とするのが相当である。 (2) 死亡による逸失利益 6461万6384円ア基礎収入(ア) 現実の支給額(年間) 375万1360円 発病前3か月の平均賃金をその期間の暦日数で除した金額(1万0277.7円)に365日を乗じた(1円未満切捨て)。 (イ) 未払時間外手当相当額(年間) 255万2616円被告会社においては,労働者を長期間にわたって月100時間の時間外労働に従事させていたものであり,将来も長時間労働に従事させる蓋 然性がある。しかるに,被告会社は,時間外手当としての性格の部分と職務給としての性格の部分の明確区分性が全くないのに,月106時間の時間外手当が固定給としての職務給に含まれるという公序良俗に反する違法な賃金体系を採用し,亡Dに時間外手当を全く支払っていなかったものであるから,亡Dの逸失利益を検討するに当たっては,本来支給 されるべきであった時間外手当も基礎収入に算入するべきである。 - 13 -そして,本件はうつ病又は適応障害による自殺事案であるところ,時間外労働が100時間を超えるとそれ以下の場合よりも精神疾患発症が早まるとの医学的知見を踏まえると,うつ病又は適応障害の発症がなければ,就労可能年数を通じて月99時間程度の時間外労働を るところ,時間外労働が100時間を超えるとそれ以下の場合よりも精神疾患発症が早まるとの医学的知見を踏まえると,うつ病又は適応障害の発症がなければ,就労可能年数を通じて月99時間程度の時間外労働を継続的に行っていた蓋然性があるというべきであり,この時間外手当に相当する金 額については,相当因果関係が認められるというべきである。 以上を踏まえると,亡Dに支給されるべき時間外手当相当額は,別紙4「時間外手当相当額の算定について(原告らの主張)」のとおり255万2616円となる。 なお,仮に上記主張が認められないとしても,少なくとも月45時間 までの時間外労働を行っていた蓋然性は認められるから,月45時間分の時間外手当に相当する金額については相当因果関係が認められるというべきである。 (ウ) 上記(ア)及び(イ)の合計 630万3976円イ上記基礎収入額を踏まえた逸失利益の算定 上記基礎収入額をもとに,亡D(死亡当時40歳)の就労可能年数を27年(年5%のライプニッツ係数14.643)とし,上記(1)記載の事情を踏まえ生活費控除率を30%とすると,亡Dの逸失利益は,以下の計算式のとおりとなる(1円未満切捨て)。 (計算式)630万3976円×(1-0.3)×14.643≒6461万6384円 (3) 葬祭料 150万円(4) 弁護士費用相当損害金 961万1638円(5) 上記(1)ないし(4)の合計額 1億0572万8022円(6) 相続後の額原告Aにつき 5286万4011円 原告B及び原告Cにつき各2643万2006円- 14 -(7) 被告らの主張についてア損益相殺について労災保険による葬祭料の受給は認める。受給額は107万8980円である。 イ支 B及び原告Cにつき各2643万2006円- 14 -(7) 被告らの主張についてア損益相殺について労災保険による葬祭料の受給は認める。受給額は107万8980円である。 イ支払猶予の抗弁について 被告らは,労働者災害補償保険法附則64条1項に基づく支払猶予の抗弁を主張し,その金額が給付基礎日額の1000日分,すなわち1798万3000円であると指摘する。 この点,遺族補償年金前払一時金の最高限度額に相当する金額よりその損害の発生時から当該年金給付に係る前払一時金給付を受けるべき時まで の法定利率により計算される額を差し引いた額(現実に年金給付又は前払一時金給付の支給が行われたか,又はその支給が確定したことにより損害賠償の責めを免れたときは,その免れた額を控除した額)については,同法附則64条1項1号により,原告Aの遺族補償年金を受ける権利が消滅するまでの間,被告会社はその損害賠償の履行が猶予され,その後当該猶 予額について遺族補償年金等として現実に支給がなされれば,当該猶予額の限度で被告らはその損害賠償の責めを免れることとなるものと解するべきである。 本件において,原告Aが本件口頭弁論終結時までに現実に受けた年金給付の合計金額は,別紙5のとおり2358万4054円であり,前記履行 猶予額の限度を超えていることが明らかであるから,支払猶予の抗弁が成立する余地はなく,本件口頭弁論終結時において,現実に給付を受けた遺族補償年金の合計金額が損益相殺の対象となる。 そして,現時点において現実の給付がない以上,たとえ将来にわたり継続して給付されることが確定しても,将来の給付額を損害額から控除する ことは要しない。 - 15 -したがって,本件において損益相殺の対象となるのは, 付がない以上,たとえ将来にわたり継続して給付されることが確定しても,将来の給付額を損害額から控除する ことは要しない。 - 15 -したがって,本件において損益相殺の対象となるのは,本件口頭弁論終結時において現実に給付を受けた遺族補償年金の合計金額である2358万4054円である(ただし,遺族補償年金を受給する原告Aにおける逸失利益相当額のみが控除可能となる。)。 (被告らの主張) (1) 死亡慰謝料について否認ないし争う。亡Dは,その死亡当時にはほとんど就労していなかったから一家の支柱とはいえないし,仮に一家の支柱といえるとしても,その慰謝料額は2800万円を超えることはない。 (2) 逸失利益について 否認ないし争う。基礎収入については現実の収入を元に年額360万円とすべきである。また,被告会社においては9月から11月頃は繁忙期となり年末以降は閑散期に入るなど,時期によって業務の繁閑があることから,時間外手当として12か月分を考慮するというのは不合理である。加えて,被告会社における業務態様が変化し,繁忙期であっても平成24年当時より拘 束時間が短くなっている。 これらの点を踏まえれば,亡Dにおいて,原告らの主張するような時間外手当を得られる蓋然性は認められず,これを基礎収入に含めることはできない。 (3) 葬祭料 否認ないし争う。 (4) 弁護士費用相当損害金争う。 (5) 抗弁ア損益相殺 労災保険による葬祭料の受給額につき,損益相殺をすべきである。 - 16 -イ支払猶予の抗弁労働者災害補償保険法附則64条1項は,使用者が損害賠償を支払うべき場合にも,障害補償年金又は遺族補償年金の前払一時金の最高限度額までは損害賠償の支払を猶予す - 16 -イ支払猶予の抗弁労働者災害補償保険法附則64条1項は,使用者が損害賠償を支払うべき場合にも,障害補償年金又は遺族補償年金の前払一時金の最高限度額までは損害賠償の支払を猶予するものとし,この猶予の間に前払一時金又は年金が現実に支払われたときは,その給付の額の限度で損害賠償責任を免 除するものと定める。 本件においては,原告Aは遺族補償年金を選択しているところ,その前払一時金の最高限度額である給付基礎日額の1000日分(同法16条の8,別表第二)である1798万3000円につき,支払猶予の対象とされるべきである。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 被告会社被告会社は,被告Eが設立した株式会社であり,その主な事業内容は住宅 のセントラルヒーティング暖房設備工事である。 被告会社の従業員数は,約40名である(甲3,乙31)。 (2) 亡Dの再就職亡Dは,平成24年8月1日,被告会社に再就職し,暖房工事部に配属されて,現場作業員として新築住宅の工事現場における配管工事や機器の取付 け作業に従事した。 亡Dが再就職をした当時,被告会社の社長は被告Eであり,取締役部長はKであり,経理部長はLであった。また,亡Dの配属された暖房工事部の部長はMであり,亡Dの上司としてH,I,Fらがいた(甲39ないし41,乙16,32ないし34,弁論の全趣旨)。 (3) 亡Dの勤務時間等- 17 -亡Dの勤務時間等は,被告会社の就業規則によって,以下のとおりとされていた(乙1の1)。 ア勤務時間始業時刻を午前8時,終業時刻を午後5時とする。ただし,水曜日に上記時間のとおり勤務する者については土曜日の終業時刻 会社の就業規則によって,以下のとおりとされていた(乙1の1)。 ア勤務時間始業時刻を午前8時,終業時刻を午後5時とする。ただし,水曜日に上記時間のとおり勤務する者については土曜日の終業時刻を午後2時30分 とし,土曜日に上記時間のとおり勤務する者については水曜日の終業時刻を午後2時30分とする。 イ休憩時間午前10時から30分間午後零時から1時間 午後3時から30分間ウ休日日曜日,1月1日,その他会社が指定する日(4) 亡Dの賃金被告会社においては,基本給のほかに職務給(職務手当)を支給し,一定 の時間外労働を行うことを前提とする手当(以下「固定残業代」という。)が固定給としての職務給に含まれるという賃金体系を採用していた。 亡Dについては,基本給を16万8000円,職務給を12万9900円とし,職務給に106時間の固定残業代が含まれるものとしていた。もっとも,職務給のうちどの部分が固定残業代に相当するのかについては,明示さ れていなかった(乙2,証人L〔14頁〕,弁論の全趣旨)。 (5) 被告会社での朝礼等ア朝礼被告会社においては,午前7時50分から朝礼が行われており,従業員は,参加できない理由のある場合を除き,必ずこれに参加することとされ ていた(甲39〔3頁〕,証人L〔24頁〕)。 - 18 -イ休憩の指示被告会社は,現場作業員に対し,所定休憩時間2時間のほか,時間外労働の際には2時間おきに30分の休憩を取るよう指示していた(甲39〔2頁〕,40〔2頁〕,弁論の全趣旨)。 (6) 暖房工事部の業務 ア現場作業員への割り振り被告会社においては,工事の割り振りや進捗管理を行う従業員として工事管理者が置かれていた。 被告会社が受 〔2頁〕,弁論の全趣旨)。 (6) 暖房工事部の業務 ア現場作業員への割り振り被告会社においては,工事の割り振りや進捗管理を行う従業員として工事管理者が置かれていた。 被告会社が受注した工事については,①営業担当者が工事連絡表及び図面を作成して工事管理者に引き継ぎ,②工事管理者は,工事内容を確認し, 現場に赴いて工事の進捗確認をしたり,現場監督や大工と連絡を取って作業時期を調整したりした上で,各工事を担当する現場作業員に対し,週1回の工程会議で工事の割り振りを行うこととされていた(甲85,証人K〔17,18頁〕,被告E本人〔第2回・3,4頁〕,弁論の全趣旨)。 イ現場作業員の作業内容 新築住宅の工事現場における暖房設備工事は,現場作業員が1階及び2階の床下に温熱配管を設置し,下地入れ,床暖房の敷込み,ボイラーやパネル等の取り付けなどを行い,その後,仕上げ工事や試運転を行うというものであった。 そして,被告会社の工事管理者は,上記作業を確認し,必要に応じて現 場作業員に手直しを指示していた。この手直しは,通常の作業と比べると,倍以上の時間を要することもあった(甲85,乙4,31,証人F〔33,37,38頁〕,弁論の全趣旨)。 ウ作業の進捗管理各作業員は,工事現場に赴いて作業時期を確認し,大工に対して連絡を 取って工事の状況を確認するなどしていたほか,毎日の作業終了後,日報- 19 -を作成し,作業内容や所要時間等を現場ごとに記載して,翌日朝までに工事管理者に提出するなどして,工事管理者と進捗状況についての情報を共有していた。 工事管理者は,これを踏まえて工事日程の調整をし,週間工程表に反映して進捗を管理することとされていた(甲85,86,乙32,証人L 〔25頁〕,証人 と進捗状況についての情報を共有していた。 工事管理者は,これを踏まえて工事日程の調整をし,週間工程表に反映して進捗を管理することとされていた(甲85,86,乙32,証人L 〔25頁〕,証人F〔17,18,37,39頁〕,証人K〔12,16ないし18頁〕,被告E本人〔第2回・3,4頁〕,弁論の全趣旨)。 エ暖房設備工事の繁閑亡Dの従事していた暖房設備工事は,住宅の新築工事に伴うものであり,年始を新居で迎えたいという顧客の意向や,冬期間は作業に適しないとい う季節的な事情などから,1月から4月は業務が少なく,7月頃から業務が増え,10月から12月にかけて繁忙期を迎えるという特徴があった(証人K〔9頁〕,証人F〔15頁〕,被告E本人〔第1回・5,6頁〕)。 (7) 亡Dの作業状況亡Dは,再就職後しばらくの間,被告会社の作業の方法に慣れるため,F などと共に2人で作業を行っていた。もっとも,平成24年11月中旬以降は,工事件数の増加に伴い,亡Dが1人で作業を行った。 なお,亡Dは,他の現場作業員と比べると,工事管理者から手直しの指示を多く受けていた(甲5,40〔2,3頁〕,乙38,証人F〔2,8,9,24頁〕)。 (8) 亡Dの退職亡Dは,平成24年12月22日,Hから業務上のミスを指摘された後,Hとの間で口論となり,逆上して「こんな仕事やってられるか。」と声を荒げて職場放棄をし,以降,被告会社に出勤しなくなった。 その後,亡Dは,同月中に被告会社を退職した。 なお,亡Dは,それまで被告会社において職場放棄をしたことはなく,懲- 20 -戒処分を受けたこともなかった(甲39〔5,6頁〕,乙38,証人L〔22頁〕,証人F〔30頁〕,原告A本人〔10頁〕,弁論の全趣旨)。 (9) 退職 いて職場放棄をしたことはなく,懲- 20 -戒処分を受けたこともなかった(甲39〔5,6頁〕,乙38,証人L〔22頁〕,証人F〔30頁〕,原告A本人〔10頁〕,弁論の全趣旨)。 (9) 退職後の亡Dの言動ア亡Dは,平成25年1月以降,就職活動をしたり,個人で仕事を受注したりしていた(甲42の1,弁論の全趣旨)。 イ亡Dは,平成25年3月,原告らに対し,就職が決まった旨を伝えたが,実際には就職していなかった(弁論の全趣旨)。 ウ亡Dは,平成25年4月1日から同月10日までの間,連日,自動車で自宅周辺のコンビニエンスストアやガソリンスタンドを訪れるなどした。 そして,亡Dは,同月13日,本件自殺により死亡した(甲4,50)。 (10) 原告AとM及びFの面談原告Aは,平成25年7月19日,自宅でM及びFと面談し,被告会社の業務内容や亡Dの生前の就労状況についてやり取りをした(甲83の2,弁論の全趣旨)。 (11) 亡Dの性格等 ア亡Dは,職場においては,短気な部分もある一方で前向き,他の部門への気配りができる,率先して業務に取り組む,男気のある人柄といった印象を持たれていた(証人L〔21,22頁〕,証人K〔6,8頁〕,証人F〔30頁〕,被告E本人〔第1回・25頁〕)。 イ亡Dは,喫煙者であったが,被告会社への再就職の時点では既往歴はな かった。また,飲酒の習慣はあったが,従前は毎日晩酌するということはなく,疲れたときにビールを1缶飲むなどといった程度であった(甲8〔25頁〕,原告A本人〔10頁〕,弁論の全趣旨)。 (12) 札幌中央労働基準監督署の調査及びこれに基づく労災保険支給決定札幌中央労働基準監督署は,平成26年10月から平成27年5月の間, 亡Dの精神障害の発病に 頁〕,弁論の全趣旨)。 (12) 札幌中央労働基準監督署の調査及びこれに基づく労災保険支給決定札幌中央労働基準監督署は,平成26年10月から平成27年5月の間, 亡Dの精神障害の発病に関して調査を行い,被告会社の従業員等に聴取を行- 21 -うなどして,労災保険の支給決定をした。その判断の内容は,概要以下のとおりである(甲8)。 ア精神障害の発病の有無亡Dは,平成24年12月中旬頃にうつ病を発症した。 イ労働時間 朝礼の開始する午前7時50分を始業時間とし,日報記載の退社時刻を終業時間とした。休憩時間は,指定された休憩は取得されているものと判断し,所定労働時間内に2時間,時間外労働時間中は2時間おきに30分を取得しているものと判断した。日報に記載された作業時間から,現場間の移動や作業終了時間後に帰社するまでの移動中と判断されるものは,休 憩を取得していないものと判断し,休憩時間には計上しないこととした。 ウ上司とのトラブル及び退職勧奨亡Dは,業務をめぐる方針等において,同僚との考え方の相違が生じた。 退職勧奨が行われた事実は認められない。 エ業務以外の心理的負荷及び個体側要因 亡Dは,平成24年6月に長男の原告Bが傷害事件を起こして鑑別所に入るなどした。また,個人事業の際の融資や消費者金融のカードローンの債務が残っていたが,発病よりも6か月以上前の出来事であり,発病に関与した出来事と評価することはできない。 個体側要因について,既往歴は確認することができない。飲酒量が徐々 に増加している状況が確認される。 オ総合評価以上を総合すると,亡Dは被告会社の業務による心理的負荷が主要な原因となって平成24年12月中旬にうつ病を発症し,その後,正常な認識,行為選択 に増加している状況が確認される。 オ総合評価以上を総合すると,亡Dは被告会社の業務による心理的負荷が主要な原因となって平成24年12月中旬にうつ病を発症し,その後,正常な認識,行為選択能力及び抑止力が著しく阻害され,自殺に至ったものと認められ る。 - 22 - 2 争点(1)(被告会社での業務①-長時間労働の有無)について原告らは,亡Dが被告会社において恒常的な長時間労働に従事していたと主張する一方,被告らはこれを否定するため,以下,この点について検討する。 (1) 出勤日まず,亡Dの日報(甲5〔添付書類1ないし112頁〕)が作成されてい る日については,同人が出勤していたものと認められる。なお,平成24年12月16日(日曜日)の日報については,被告会社においては日曜日が所定休日とされ,亡Dは日曜日に就労していなかったこと(認定事実(3)ウ,証人L〔24頁〕)に照らし,同月14日(金曜日)の誤記と認める。 次に,日報が作成されていない日のうち同月19日及び同月20日につい ては,被告会社が札幌中央労働基準監督署に提出した書面(甲38)において出勤したとされていること,出勤簿(甲5〔添付書類234頁〕)にも出勤した旨の記載があることから,これらの日に亡Dが出勤したものと認められる。他方,同月15日については,上記出勤簿には出勤した旨の記載があるものの,被告会社作成の上記書面には欠勤した旨の記載があることに照ら すと,出勤したものと認めるには躊躇がある。日報が作成されていないその余の日については,亡Dが出勤したことを認めるに足りない。 以上によれば,亡Dの出勤日は,別紙3「時間外労働時間(裁判所認定)」の欄に時間の記載のある日と認められる。 (2) 始業時刻 被告会社では,就業規 Dが出勤したことを認めるに足りない。 以上によれば,亡Dの出勤日は,別紙3「時間外労働時間(裁判所認定)」の欄に時間の記載のある日と認められる。 (2) 始業時刻 被告会社では,就業規則上は所定始業時刻が午前8時とされているものの(認定事実(3)ア),朝礼が午前7時50分から始まり,参加できない理由のない限り従業員は必ず参加することとされていて(認定事実(5)ア),亡Dはこれに遅刻することなく参加していたことが認められるから(証人L〔8,24頁〕,証人F〔7頁〕,弁論の全趣旨),朝礼の開始時刻である午前7時 50分を始業時刻と認める。 - 23 -この点につき原告らは,亡Dが午前7時過ぎには家を出ており,通勤時間が10分であったから,始業時刻は午前7時30分であると主張する。しかし,原告Aの供述(原告A本人〔5頁〕)のほかにこれを裏付ける証拠はなく,むしろ亡Dは朝礼に合わせて出社していたとの証言(証人L〔24頁〕)もあることなどから,謙抑的に上記の限度でのみ認定するものとする。 (3) 終業時刻日報(甲5〔添付書類1ないし112頁〕)の「退社時間」欄に記載された時刻をもって亡Dの終業時刻とすることについては,当事者間に争いがない。ただし,平成24年11月30日については,同日付けの日報には退社時刻の記載がないものの,被告会社が札幌中央労働基準監督署に提出した書 面(甲38)では午後10時に退社したものとされていること,原告らは午後9時30分に退社した旨主張していることに照らし,午後9時30分を終業時刻と認める。また,日報が作成されていない同年12月19日及び20日については,被告会社の作成した上記書面では午後6時に退社したものとされているものの,亡Dと共に作業していたFの日報(甲5〔添付書類11 認める。また,日報が作成されていない同年12月19日及び20日については,被告会社の作成した上記書面では午後6時に退社したものとされているものの,亡Dと共に作業していたFの日報(甲5〔添付書類11 3ないし233頁〕)ではそれぞれ午前0時,午後10時30分に退社したものとされているのであって,これに,日報上は亡DとFの同年12月における退社時刻がおおむね整合していることも併せ,同月19日につき午前0時,同月20日につき午後10時30分を終業時刻と認める。 (4) 休憩時間 まず,休憩時間の取得状況についてみると,前記のとおり,被告会社は,現場作業員に対し,所定休憩時間(2時間)のほか,時間外労働においては2時間おきに30分の休憩を取得するよう指示していたと認められる(認定事実(5)イ)。 そして,現場作業員であり,亡Dに同行して現場作業を行っていたFは, 労働基準監督署の聴取の際に,「会社で決められた午前30分,昼1時間,- 24 -午後30分の休憩時間は取れており,作業の進捗状況によっては余計に休憩を取れることもありました。」,「時間外作業中も,2時間おきに30分の休憩をきっちり取っていたわけではありませんが,一服休憩や適度に休憩を挟みながら作業をしていたので,平均すると,決められた休憩時間は取れていたと思います。」と述べており(甲40〔2頁〕),本訴でもこれに沿う証言 をしている(証人F〔2,3,21,22頁〕)。 また,被告会社の労務を担当する経理部長のLは,札幌中央労働基準監督署の聴取の際に,「作業の進捗状況や,現場で働く他の作業との兼ね合いもあるので,確実に決められた休憩時間が取れていないこともあると思いますが,・・・平均すると,決められた時間の休憩は取れていると思います。」と 述 の進捗状況や,現場で働く他の作業との兼ね合いもあるので,確実に決められた休憩時間が取れていないこともあると思いますが,・・・平均すると,決められた時間の休憩は取れていると思います。」と 述べており(甲39〔3頁〕),本訴でもおおむねこれに沿う証言をしている(証人L〔12頁〕)。 以上を踏まえると,被告会社の作業員は,おおむね被告会社の指示する休憩時間を取得していたものと認めるのが相当である。そして,このことは亡Dにおいても同様であったと推認されるから,亡Dは被告会社の指示に沿っ た休憩時間(所定休憩時間2時間,時間外労働の間は2時間おきに30分)を取得していたものと認められる。 (5) 待機時間被告らは,被告会社の現場作業員は前の作業が終了するまで待たされることが頻繁にあり,このような待機時間も休憩時間に該当するか,休憩時間と 同様に扱われるべきであると主張する。 そこで,以下,被告らの主張する待機時間について検討する。 ア前記のとおり,亡Dの行っていた業務は,新築住宅の工事現場において配管工事や機器の取付けを行うというものであって,大工工事の進捗状況によって作業開始時間が左右される上,工事現場には他の設備工事業者も 出入りして必要な作業を行っていたと推認されるから,大工工事の進捗が- 25 -遅れていたり,現場作業員が他の設備工事業者と鉢合わせしたりした場合などには,現場作業員は直ちに暖房設備工事を行うことができず,一定程度の待機時間が生じることもあったようにうかがわれる。 この点は,亡Dと共に作業を行っていたFも,「ユーティリティを使用する作業とかで水道業者と鉢合わせとかすることはあるんですか。」との 質問に「ありますね。」と証言し,大工の進捗状況に応じて待ち時間が発生するとも証言 業を行っていたFも,「ユーティリティを使用する作業とかで水道業者と鉢合わせとかすることはあるんですか。」との 質問に「ありますね。」と証言し,大工の進捗状況に応じて待ち時間が発生するとも証言しているところである(証人F〔4,22,23頁〕)。 イしかし,被告会社においては,工事管理者が現場に赴いて工事の進捗確認を行ったり,現場監督や大工と連絡を取って作業時期を調整したりした上で,工事の割り振りを行うこととしていたものであるし(認定事実(6) ア),現場作業員も,担当の現場の大工と連絡を取って作業の状況を確認するなど,作業の進捗管理に努めていたところである(同ウ)。 そして,亡Dが就労していた時期のうち10月から12月にかけては暖房設備工事の繁忙期であり(同エ),かつ,平成24年は前年比で工事件数も増加していたというのであって(甲83の2〔8頁〕,90,被告E 本人〔第2回・9頁〕,弁論の全趣旨),被告会社においては,現場作業員に余力が生じた場合には,工事管理者を通じ,別の現場に応援として派遣するといった対応をしていたものである(証人F〔16頁〕,被告E本人〔第2回・4,6頁〕)。 このような被告会社の工事管理体制に鑑みると,亡Dが就労していた当 時,現場作業員が現場に赴いたにもかかわらず,大工工事の進捗状況等のために作業を行うことができずに長時間待機するといった事態が頻繁に発生していたとはにわかには考え難いし,工程の調整のために工事管理者という役職を置き,上記のような体制を取っている経営者である被告Eが,このような経営上不合理な事態を漫然と容認していたとも考え難い。この 点については,札幌市内の同業者である「N設備」ことO(以下単に「N- 26 -設備」という。)も,見込んでいた作業時期から大幅 な経営上不合理な事態を漫然と容認していたとも考え難い。この 点については,札幌市内の同業者である「N設備」ことO(以下単に「N- 26 -設備」という。)も,見込んでいた作業時期から大幅なずれが生じることはほとんどなく,大幅な待機時間が生じたこともない旨の回答をしているところである(甲45の2)。なお,被告らは,被告会社とN設備とは人員体制や事業規模が異なるなどと主張するが,N設備の現場作業員は1人であるところ,被告会社も個々の現場で作業するのは基本的には1,2人 というのであって,その作業内容にも大きく異なるところがあるようにはうかがわれない。 ウそして,亡Dと共に作業をすることのあったFは,大工工事の進捗状況に応じて待ち時間が生じることもあるものの,その頻度は週1回程度であったと証言しているし(証人F〔4頁〕),他の業者と鉢合わせした場合に は,作業の手順を変更するなどして対応していたとも証言しているのであって(同〔22,23頁〕),このような証言も,長時間の待機時間が頻繁に生じていたとの被告らの主張には沿わない。 そもそも,待機時間に関するFの上記証言は,休憩時間について質疑がされるなかで,「イレギュラーに発生する休憩というのはありませんでし たか。」との質問に対し,「僕らの仕事は大工さんの進捗状況に合わせて作業を進めていくんで,その中で大工さんの進みが遅かったりすると待ち時間という形で休憩時間,若しくは自由時間という形になります。」と証言したものであり(同〔4頁〕),「待ち時間」が生じた場合にはその後の作業や休憩の取り方を調整するなどとも証言している(同〔41頁〕)。これ らの証言からは,「待ち時間」とは被告会社の指示に沿った休憩時間(所定休憩時間2時間など)の一部であるようにうかがわれ 作業や休憩の取り方を調整するなどとも証言している(同〔41頁〕)。これ らの証言からは,「待ち時間」とは被告会社の指示に沿った休憩時間(所定休憩時間2時間など)の一部であるようにうかがわれるのであって,上記のFの証言は,大工工事の進捗状況に合わせた待ち時間などの「イレギュラーに発生する休憩」を含めても,平均して被告会社の指示に沿った休憩時間は確保できていたとの趣旨に理解し得るところである。 エそして,他に,被告らの主張する待機時間が上記ウの休憩時間とは別に- 27 -発生していたことを認めるに足りる証拠も見当たらない。 したがって,待機時間についての被告らの主張は,採用することができない。 (6) 移動時間被告らは,被告会社から作業現場までの移動時間や,作業現場から別の作 業現場までの移動時間についても,休憩時間として扱われるべきであると主張する。 しかし,被告会社においては,現場作業員は通常は1人で現場を回るのであり,その際,被告会社から割り当てられた自動車を自ら運転して移動するものである上(証人F〔2,31頁〕。なお,2人で現場を回るときにはい ずれか1人が運転していた。同〔5頁〕参照),そもそもこの移動自体,被告会社の指示によるものでもあって,いずれにせよ,移動時間を休憩時間と同視することは困難である。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。 (7) 被告らの主張について ア被告らは,亡Dの1日ごとの休憩時間は,令和2年5月15日付け被告第16準備書面添付の「労働時間算出表」のとおりであったと主張する。 これは,被告会社の現場作業員にアンケート調査を行って,作業ごとの標準的な作業時間を算出した上(乙5の1,6の1),①始業時刻から終業時刻までの時間を「拘束 間算出表」のとおりであったと主張する。 これは,被告会社の現場作業員にアンケート調査を行って,作業ごとの標準的な作業時間を算出した上(乙5の1,6の1),①始業時刻から終業時刻までの時間を「拘束時間」とし,②亡Dの日報に記載された作業内 容に,標準的な作業時間を乗じて「標準作業時間」を算出し,③亡Dの日報から「移動時間」を割り出し,④「拘束時間」から「標準作業時間」及び「移動時間」を差し引いて,「休憩時間」を算出したものである。 例えば,平成24年11月15日についてみると,①始業時刻から終業時刻までの「拘束時間」は15時間であるところ,②日報に記載された 「ボックス届」「現調」「CH仕上げ」「パネル直し,試運転」及び社内打- 28 -合せ等の各作業に標準的な作業時間を乗じると「標準作業時間」は6時間13分となり,③「移動時間」を計算すると2時間4分となるから,④亡Dは,「拘束時間」から「標準作業時間」及び「移動時間」を差し引いた6時間43分もの間,休憩していたはずであるというものである(乙31〔別紙3・3枚目〕)。 イしかし,被告らがその前提とするアンケートは,対象となる作業やその準備行為が一義的に明らかにされておらず,記入者の解釈や判断によって時間の相違が生じやすいところである。Fも,材料を車から運ぶため,遠い場所であれば5分程度かかる距離を2,3回程度往復することがあり,その時間は反映していないとか,長い作業時間の場合は短時間の休憩は含 めているが,パイピング用単独配管の場合は含めていないなどと証言している(証人F〔6,32頁〕)。 また,その内容についてみても,習熟した作業員のFが180分と回答している項目(「乗込配管」「1階・通常」「1階配管・吊作業」)につき,Fほど習熟していない作業員 いる(証人F〔6,32頁〕)。 また,その内容についてみても,習熟した作業員のFが180分と回答している項目(「乗込配管」「1階・通常」「1階配管・吊作業」)につき,Fほど習熟していない作業員(P)がわずか90分と回答しているなど (乙5の4・5,証人F〔26頁〕),その正確性についても疑問を差し挟まざるを得ない。 加えて,亡Dは手直しの指示を受けることが他の作業員よりも多く(認定事実(7)),なおかつ手直し作業には通常よりも倍程度の時間を要するのに(認定事実(6)イ),こうした点はアンケートには何ら反映されていない。 したがって,被告らによる休憩時間の算出は,そもそもその前提において正確性を欠くのではないかといわざるを得ない。 ウなお,被告らが根拠とする日報についてみても,そもそも日報の作成において重視されるのは,どの現場でどの程度の作業が終わり,どの程度の作業が残っているのかという点にすぎず(乙31,被告E本人〔第2回・ 15頁〕),詳細な作業内容を日報に逐一記載することまでは期待されてい- 29 -なかったようにうかがわれる。現に,被告EやFによれば,工具・材料の搬入や雪かきなど,日報に記載されない作業もあるというのである(証人F〔25,39頁〕,被告E本人〔第2回・15頁〕)。 したがって,日報の記載のみを前提に休憩時間を算出することもまた,正確性を欠くのではないかといわざるを得ない。 エ以上によれば,被告らの上記主張は,採用することができない。 (8) 亡Dの労働時間以上によれば,亡Dの労働時間は別紙3「時間外労働時間(裁判所認定)」記載のとおりであり,平成24年の1か月ごとの時間外労働時間は以下のとおりであって,同年9月22日から同年12月20日までの3か月間は,継 続 労働時間は別紙3「時間外労働時間(裁判所認定)」記載のとおりであり,平成24年の1か月ごとの時間外労働時間は以下のとおりであって,同年9月22日から同年12月20日までの3か月間は,継 続して1か月当たり100時間以上の時間外労働を行っていたものと認められる。なお,このことは,被告会社のLが,「年末に向けた業界の繁忙期が10~11月にピークとなるため,時間外労働が月100時間を超えることもあります。」(甲39〔4頁〕),「〔亡Dは〕その時期には時間外労働が100時間を超えることも経験している」(同)と述べていること(証人L〔1 6頁〕も同旨)とも符合する。 8月 1日から 8月22日まで 52時間40分8月23日から 9月21日まで 71時間15分9月22日から10月21日まで 114時間30分10月22日から11月20日まで 122時間15分 11月21日から12月20日まで 100時間05分 3 争点(2)(被告会社での業務②-上司とのトラブル等の有無)について(1) 原告らは,①亡Dは上司であるHやIから厳しくかつ執拗に叱責を受けていた,②そこで被告Eに相談したところ,かえって退職勧奨を受けたと主張する。 (2) そこで検討するに,まず上記①については,認定事実(7)及び証拠(甲8- 30 -3の2〔13頁〕,証人F〔8頁〕)によれば,亡Dは上司であるHやIから手直しの指示や仕事の仕方について指導を受けることがあり,そうした指示や指導は他の現場作業員と比べても多く,亡Dと共に作業をすることがあったFにおいても「ひどすぎる。」と受け止める内容のものであったことが認められる。 こうした手直しの指示や指導自体は,直ちに業務として許容される範囲を逸脱する違法なものとまではいえないも あったFにおいても「ひどすぎる。」と受け止める内容のものであったことが認められる。 こうした手直しの指示や指導自体は,直ちに業務として許容される範囲を逸脱する違法なものとまではいえないものの,亡Dは上記2のとおり月100時間以上もの時間外労働に従事していたものであり,そうした勤務状況において手直しの指示や指導を受けるということは,亡Dに一定程度の心理的負荷となっていたものというべきである(後記5(1)ア参照)。 (3) 他方,上記②については,亡DはHからミスの指摘を受けて口論となり,職場放棄に至ったものであるが(認定事実(8)),被告Eから退職勧奨を受けていたとか,職場放棄の原因が退職勧奨であったなどと認めるに足りる証拠はない。 (4) したがって,原告らの主張する上司とのトラブル等については,上記(2) の限度でのみ認められる。 4 争点(3)(亡Dのうつ病又は適応障害発症の有無)について原告らは,亡Dが平成24年12月中旬にはうつ病ないし適応障害を発症していたと主張し,その根拠として,同月中旬頃までに,①疲れたとの趣旨の発言やイライラする様子があった,②不眠傾向や,深夜にぼうっとすることがあ った,③毎日剃っていた髭を剃らず,作業着も洗濯せずに出勤するなど身なりに気を遣わなくなった,④食事量が減り,痩せていった,⑤休日に外出をせずに昼寝をすることが多くなった,⑥趣味の釣りやルアー作りもしなくなった,⑦飲酒量が増えたと主張する。 そこで,以下,これらの事実の存否及び亡Dの発症の有無について検討する。 (1) 疲れたとの趣旨の発言やイライラする様子があったとの点について- 31 -ア原告らは,亡Dは平成24年11月頃から「疲れた。」,「体がバキバキだ。」との発言をすることがあった (1) 疲れたとの趣旨の発言やイライラする様子があったとの点について- 31 -ア原告らは,亡Dは平成24年11月頃から「疲れた。」,「体がバキバキだ。」との発言をすることがあった旨を主張し,原告Aにおいてこれに沿う供述をしているところ(原告A本人〔6頁〕),被告らもこれを積極的に争わない。 イまた,原告Aは,①亡Dは平成24年11月末頃からイライラした様子 や焦っている様子が多く見受けられた,②同年12月中旬には食事を取る取らないをめぐって亡Dと口論になった旨陳述ないし供述するところ(甲82,原告A本人〔18頁〕),これらの内容は労働基準監督署の聴取の際に説明した内容や同時期に作成された原告Aの陳述書と符合する(甲8〔8頁〕,27)。しかも,上記②については食事の量が減ったとする後記 (4)の事実と符合し,また,上記①及び②のいずれについても,同月22日にHとの間で口論となって職場放棄をした事実(認定事実(8))に沿うものである。 この点につき被告らは,亡Dは元来気性が荒かったもので,被告会社への再就職以前から,上司や部下に怒鳴ったり,被告会社での新年会の旅行 の際に上司と口論になってそのまま帰宅したり,個人事業の際にも職場放棄をしたりしていた旨主張する。しかし,これらの出来事を認めるに足りる的確な証拠はないし,LやFは,同年12月より前には亡Dがイライラして攻撃的な態度を取ることはなく,職場放棄をすることや懲戒処分を受けたこともなかった旨を証言しているのであって(証人L〔22,23 頁〕,証人F〔30頁〕。原告A本人〔10頁〕も同旨。),上記の職場放棄は,短気な性格という気質のみで説明し得る出来事ではなく,むしろ亡Dの心身の変調と符合するものというべきである。 ウ以上によれば,亡D F〔30頁〕。原告A本人〔10頁〕も同旨。),上記の職場放棄は,短気な性格という気質のみで説明し得る出来事ではなく,むしろ亡Dの心身の変調と符合するものというべきである。 ウ以上によれば,亡Dにおいて,平成24年11月頃から「疲れた。」,「体がバキバキだ。」との発言をすることがあり,同月末頃からイライラ した様子や焦っている様子が多く見受けられるようになったものと認めら- 32 -れる。 (2) 不眠傾向や深夜にぼうっとしていることがあったとの点についてア原告Aは,亡Dが平成24年11月末や同年12月頃から眠れなくなり,不眠を訴えていたと供述する(原告A本人〔16,37頁〕)。 そして,原告Bにおいても,自分が同年11月頃に札幌の自宅に戻って から1か月程度経過した頃,亡Dが寝室から出て,ぼうっとした様子でタバコを吸っていたのを頻繁に見かけた旨を供述し(原告B本人〔3頁〕),原告Cも,同年12月のクリスマス前後の頃,自身が受験勉強のために夜中まで起きていたところ,亡Dが深夜に寝室から出てきて長時間ぼうっとしていることがあったなどと陳述している(甲80)。このように,原告 B及び原告Cは,いずれも自身の生活上の出来事と結び付けて時期を特定している上,これらの出来事は,原告らと同居していたJの平成26年9月作成の陳述書(甲29)の内容とも整合する。 イこの点について被告らは,①原告Aの陳述書には,亡Dが平成24年12月頃に不眠を訴え,また遅刻をするようになった旨記載されている(甲 27〔2,3頁〕),②しかるに,原告Aは,亡Dが遅刻をしたのは職場放棄以降の可能性もあると思う旨供述している(原告A本人〔9,10頁〕),③したがって,亡Dが不眠を訴えたのも職場放棄以降の可能性がある旨主張する。 しか るに,原告Aは,亡Dが遅刻をしたのは職場放棄以降の可能性もあると思う旨供述している(原告A本人〔9,10頁〕),③したがって,亡Dが不眠を訴えたのも職場放棄以降の可能性がある旨主張する。 しかし,原告Aは,本人尋問において,遅刻については職場放棄以降の 可能性があると供述する一方,不眠の症状については同年11月末ないし12月の出来事であったと明確に供述しているのであって(同〔37頁〕),遅刻をしたのが職場放棄以降の可能性があるからといって,不眠を訴えたのもこれと同時期であるということにはならない。 ウまた,被告らは,①原告Bが札幌の実家に戻ったのは平成24年11月 末であるところ(原告A本人〔12頁〕),②原告Bが亡Dの異変に気付い- 33 -たのはそこから1か月くらい経過した後のことであるから(原告B本人〔3,9,10頁〕),③亡Dに異変があったのは同年12月末であって,同月22日の職場放棄よりも後である旨主張する。 しかし,上記①の時期も,また上記②の1か月くらい経過した後というのも,いずれも時間的に幅のある表現として供述しているにすぎないので あって(同〔12頁〕参照),被告らの主張はその前提を欠くものといわざるを得ない。 エ以上によれば,亡Dにおいては,平成24年12月頃から不眠傾向が生じ,深夜に長時間ぼうっとしていることがあったものと認められる。 (3) 身なりに気を遣わなくなったとの点について ア原告Aは,亡Dが身なりに気を遣わなくなり,毎日行っていた作業着の洗濯もしなくなったと供述している(原告A本人〔8頁〕)。 また,原告Bも,平成24年11月頃に札幌の実家に戻ってから1か月程度経った頃の出来事として,亡Dが髪型や服装に気を遣わず,髭を伸ばしたままになり,アクセサリーなどを着 る(原告A本人〔8頁〕)。 また,原告Bも,平成24年11月頃に札幌の実家に戻ってから1か月程度経った頃の出来事として,亡Dが髪型や服装に気を遣わず,髭を伸ばしたままになり,アクセサリーなどを着けることもなくなったと供述して いる(原告B本人〔3頁〕)。 イこれに対し,被告会社のLは,亡Dが髭を剃らず,作業着が汚れたまま出勤してきたことはないと証言し(証人L〔8,9頁〕),Fも,亡Dの身なりが汚くなることはなかったと証言する(証人F〔8頁〕)。 しかし,このうち作業着については2,3か月連続して着用すれば汚れ てくるのであり,1日の作業で直ちに汚れるというものではないのであって(同〔7頁〕),作業着の汚れた様子がないというのみで,毎日洗濯し続けていたとまでいうことはできない。また,髭の点についても,Lの証言は,朝礼時において全従業員の顔を見た際の記憶をいうものにすぎない(証人L〔8頁〕)。 ウ以上によれば,亡Dは,平成24年12月頃,毎日剃っていた髭を剃ら- 34 -ないことや毎日洗濯していた作業着を洗濯しないことがあるなど,身なりに気を遣わなくなったものと認められる。 (4) 食事量が減り,痩せていったとの点についてア原告Aは,亡Dはもともと食べることが好きだったのに,平成24年12月頃から「食欲がない。」と言って食事を以前ほど取らなくなり,夕食 を取らずに酒だけを飲んだりもし,同月中旬頃には何日か連続して夕食を取らなくなった時もあったこと,原告Aが「食べないといけないよ。」と声を掛けたところ,亡Dから「食欲がないのに食べられるか。」と言われて口論となったこと,亡Dが痩せていったことなどを陳述ないし供述する(甲82,原告A本人〔7,17ないし19,41頁〕)。 そして,原告Aは, Dから「食欲がないのに食べられるか。」と言われて口論となったこと,亡Dが痩せていったことなどを陳述ないし供述する(甲82,原告A本人〔7,17ないし19,41頁〕)。 そして,原告Aは,平成25年7月のMやFとの面談の際にもこのような出来事について言及していたものであり(甲83の2〔2頁〕),その際,Mはこれに同調した発言をし,Fも特に否定する発言はしていない(同〔8頁〕)。また,原告Aは,その後の労働基準監督署の聴取の際にも同様の申述をしていたところである(甲8〔8頁〕)。 これに加えて,原告Bも,平成24年11月以降の亡Dの状況に関し,痩せてきた旨を供述している(原告B本人〔4頁〕)。 イそして,これらは亡Dの帰宅が深夜になった際の出来事として説明されているところ,亡Dは,平成24年12月22日に職場放棄をした後は欠勤し,その後退職したのであって(認定事実(8)),退職以降の亡Dの帰宅 が深夜になるというのも考え難い。 そうすると,原告Aが上記アの出来事を職場放棄後のものと混同しているとはいい難いのであって,その供述どおり,職場放棄前のものであったというべきである。 ウしたがって,亡Dは,平成24年12月中旬頃から食事量が減少し,痩 せていったものと認められる。 - 35 -(5) 休日に外出をしなくなったとの点について原告Aは,亡Dが平成24年12月頃から休日に買物などで外出をすることが減り,自宅で昼寝をしていることが多くなった旨陳述し,同旨の供述をするところ(甲82,原告A本人〔7頁〕),労働基準監督署の聴取の際もこれに符合する説明をしており(甲8〔9頁〕),さらに,原告Bも,亡Dは自 宅のソファで寝転がっていることが多かった旨を陳述している(甲81)。 したがって,亡 ),労働基準監督署の聴取の際もこれに符合する説明をしており(甲8〔9頁〕),さらに,原告Bも,亡Dは自 宅のソファで寝転がっていることが多かった旨を陳述している(甲81)。 したがって,亡Dは,平成24年12月頃から休日に買物などで外出をすることが減り,自宅で昼寝をしていることが多くなったものと認められる。 (6) 釣りやルアー作りをしなくなったとの点について原告Cは,亡Dは釣りがとても好きであったのに,亡くなる半年くらい前 からは,釣りに出かけたり,ルアーを作ったりすることがなかった旨を陳述する(甲80)。そして,原告Aも,原告Cから聞いた話として,平成24年12月頃からはルアーを作っていない旨陳述している(甲27)。 この点につき被告らは,①亡Dの退職時には,執務机の引き出しに釣りのルアーが大量に残置されていた,②亡Dは平成25年に釣り具を購入してい たと主張する。しかし,上記①については,ルアーが残置されていたからといって,退職時まで継続的に釣りに行っていたということはできないし,上記②については,転売するために購入したもののようにも思われるのであって(甲41〔3枚目〕には「釣り具の販売だかの仕事をしている。」との記載がある。),やはり,継続的に釣りに行っていたことまでを推認し得るもの ではない。 したがって,亡Dは,平成24年12月頃から,趣味の釣りに出かけたり,ルアーを作ったりすることがなくなったものと認められる。 (7) 飲酒量が増えたとの点について原告Aは,平成24年12月頃,亡Dが夜中に飲酒をし,その頃から飲酒 量が徐々に増えていった旨を供述する(原告A本人〔17頁〕)。そして,原- 36 -告Aは札幌中央労働基準監督署の聴取においてもこれと同旨の説明をし(甲8〔25頁〕 をし,その頃から飲酒 量が徐々に増えていった旨を供述する(原告A本人〔17頁〕)。そして,原- 36 -告Aは札幌中央労働基準監督署の聴取においてもこれと同旨の説明をし(甲8〔25頁〕),また,原告Bもこれに沿う供述をしているところである(原告B本人〔3頁〕)。 この点につき被告らは,原告Aは職場放棄後に飲酒量が増えたとも供述しており(原告A本人〔10頁〕),原告Bも平成25年の年明け頃に大量の酒 の空き缶を見たと供述しているから(原告B本人〔4頁〕),亡Dの飲酒量が増えたのは職場放棄後の出来事であると主張する。しかし,原告Aの供述は,平成24年12月から飲酒量が増加しており,職場放棄後は更に増加していたというものであるし(原告A本人〔10,17頁〕),原告Bの上記供述にしても,年明け頃に大量の空き缶があったということはその前から既に飲酒 量が増えていたといえるのであって,いずれにしても,同月頃には飲酒量が増えていなかったことの証左となるものではない。 したがって,亡Dは,同月頃,飲酒量が増加していたものと認められる。 (8) 亡Dの発症の有無以上の各認定事実を踏まえ,亡Dの発症の有無を検討するに,亡Dは平成 24年11月頃から「疲れた。」,「体がバキバキだ。」との発言をし,同月末頃からイライラした様子や焦っている様子が多く見受けられるようになり(上記(1)),同年12月頃,不眠傾向が生じ,深夜に長時間ぼうっとしていることがあり(同(2)),毎日剃っていた髭を剃らないことや毎日洗濯していた作業着を洗濯しないことがあるなど,身なりに気を遣わなくなり(同(3)), 休日に買物などで外出をすることが減り,自宅で昼寝をしていることが多くなり(同(5)),趣味であった釣りに出かけたり,ルアーを作った ないことがあるなど,身なりに気を遣わなくなり(同(3)), 休日に買物などで外出をすることが減り,自宅で昼寝をしていることが多くなり(同(5)),趣味であった釣りに出かけたり,ルアーを作ったりすることがなくなり(同(6)),飲酒量が増加していた(同(7))ほか,同月中旬頃から,何日か連続して夕食を取らないことがあるなど食事量が減少し,痩せていった(同(4))ものと認められる。 これらを踏まえると,亡Dには,抑うつ気分,興味と喜びの喪失,集中力- 37 -と注意力の減退,睡眠障害及び食欲不振と評価し得る出来事があり,ICD-10診断ガイドラインのF32のうつ病の診断基準(抑うつ気分,興味と喜びの喪失及び易疲労性のうちから少なくとも二つ,集中力と注意力の減退,自己評価と自信の低下,罪責感と無価値感,将来に対する希望のない悲観的な見方,睡眠障害及び食欲不振のうちから少なくとも二つ。甲21〔131 頁〕)に適合する。 そして,上記の経過に照らすと,亡Dにおいては,遅くとも平成24年12月中旬(何日か連続して夕食を取らないことのあった時期)に至るまでの約2週間にわたってこれらの出来事が継続していたものと推認され,これに反する証拠はないから,亡Dは,遅くとも同月中旬には,ICD-10診断 ガイドラインにおけるうつ病を発症していたと認めるのが相当である。 (9) 被告らの主張についてこの点につき被告らは,以下のとおり主張するが,いずれも採用することができない。 ア被告会社の従業員の認識について 被告らは,被告会社の従業員において亡Dの心身の不調を確認しておらず,平成25年1月5日に亡Dが被告会社を訪れた際にもうつ病の発症をうかがわせる様子はなかったとして,職場放棄前には発症していなかった旨主張する 告会社の従業員において亡Dの心身の不調を確認しておらず,平成25年1月5日に亡Dが被告会社を訪れた際にもうつ病の発症をうかがわせる様子はなかったとして,職場放棄前には発症していなかった旨主張する。 しかし,うつ病に罹患している場合であっても,苦痛に耐えながらも相 手に気取られぬように努力して,なめらかに話し,にこやかに笑顔を浮かべて応対し,家族や同僚も本人がそれほど苦しんでいるとは思わないことがあり(甲22〔84頁〕,79〔55,56頁〕),とりわけ発病の主な誘因が職場での過重労働にあり,会社に休まずに行っているような場合には,家族を含めた周囲の人物は異常に気付きにくいことがあるのであって (甲23〔9,10,14,97,98頁〕),亡Dが心身の不調を「表に- 38 -出さないタイプ」(Mの発言。甲83の2〔5頁〕)であったことも併せ考えると,職場においてうつ病の症状をうかがわせる様子が見られないからといって,うつ病に罹患していることを否定し得るものではない。この点は,労災保険における「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(厚生労働省労働基準局長基発1226第1号。以下「認定基準」とい う。)の策定に係る専門家の検討会においても,「症状が見えないからここは発病していないというのは,それはある意味ではまずい気がします。」などと指摘されているところである(甲62の1〔3枚目〕)。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。 イ職場放棄後の亡Dの言動に関する主張について 被告らは,職場放棄をした平成24年12月22日の後も,①亡Dが自ら業務を受注したり,釣りの道具を転売して利益を得ようとしたりした,②被告会社のMに対し釣りや山菜採りに行くことを提案した,③連日,自宅周辺のコンビニエ した平成24年12月22日の後も,①亡Dが自ら業務を受注したり,釣りの道具を転売して利益を得ようとしたりした,②被告会社のMに対し釣りや山菜採りに行くことを提案した,③連日,自宅周辺のコンビニエンスストアやガソリンスタンドを訪れたなどとして,これらはうつ病の症状と整合せず,同月中旬にうつ病を発症したものでは ない旨主張する。 しかし,上記①については,亡Dは平成25年1月から同年3月頃に個人事業時の取引先から工事業務を受注することがあったほか(甲42の1),複数回にわたり,10万円前後の釣り具を購入し,これを転売していたもののようにうかがわれるが(上記(6),甲50),前者の受注が頻回 にわたっていたとは認めることができず,後者の転売については事業といえるようなものとは評価し難いのであって,うつ病においては活動性が発揮される時期もあることを考え併せると,これらの出来事があるからといって,うつ病の発症と矛盾すると直ちに断ずることはできない。 また,上記②についても,うつ病においては,抑うつ気分や精神運動制 止は朝のうちに強く,午後から夕方にかけて軽くなる傾向があり(日内変- 39 -動),朝に気分が悪く,午後から夕方になると幾分か元気になり活動をすることができる場合があるのであって(甲74〔373頁〕),上記②の出来事はこうしたうつ病の症状と矛盾するものではない。 さらに,上記③についても,うつ病においては,不安や焦燥感が強く,立ったり座ったり落ち着きなく部屋の中を徘徊したり,死に場所を探して 車を乗り回したりといった行動を起こすことがあるのであって(甲64〔1436頁〕,74〔371頁〕),亡Dの上記③の行動が本件自殺の約2週間前から3日前にかけて行われていること(認定事実(9)ウ)を併せ考えると,む いった行動を起こすことがあるのであって(甲64〔1436頁〕,74〔371頁〕),亡Dの上記③の行動が本件自殺の約2週間前から3日前にかけて行われていること(認定事実(9)ウ)を併せ考えると,むしろ,上記③の行動はこうしたうつ病の症状と整合するものとみることもできる。 したがって,上記①ないし③の点はいずれもうつ病の発症と矛盾するものではなく,被告らの上記主張は採用することができない。 ウ診断基準及びQ医師の意見書について被告らは,亡Dの精神障害の診断に当たっては米国精神医学会精神疾患診断・統計マニュアル第5版(DSM-V)が用いられるべきであるとし, これに依拠して作成されたQ医師の意見書(乙23,30)のとおり,亡Dの病態はうつ病ではなく,適応障害にすぎない旨主張する。 しかし,Q医師の上記意見書は,労災保険の調査における平成24年12月中旬のうつ病の発症の認定(認定事実(12)ア)に関し,心理的負荷に係る出来事については被告会社の説明を採用し,臨床症状については原告 Aや原告Bらの陳述内容を排斥して,同月中旬のうつ病の発症を否定するものにすぎず(乙23〔2ないし4頁〕),そもそもその前提を欠くものといわざるを得ない。 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。 5 争点(4)(被告会社での業務と本件自殺との因果関係の有無)について (1) 業務によるうつ病発症について- 40 -ア業務上の心理的負荷の有無・程度まず,亡Dの業務上の心理的負荷について検討する。 上記2のとおり,亡Dは,平成24年9月22日から同年12月20日までの3か月間,継続して1か月当たり100時間以上の時間外労働を行っていたものであり,このような長時間労働は,亡Dに強い心理的負荷を 生じさ ,亡Dは,平成24年9月22日から同年12月20日までの3か月間,継続して1か月当たり100時間以上の時間外労働を行っていたものであり,このような長時間労働は,亡Dに強い心理的負荷を 生じさせたというべきである(認定基準においても,3か月にわたり1か月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行い,その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった場合には,心理的負荷が「強」となるものとされている〔甲11〕。)。なお,被告らは,亡Dにはノルマが与えられておらず,現場作業員は毎日の作業内容を決定することができ ていたと主張するが,F及びMは,繁忙期には仕事の量が多く,「とりあえずこなさないと」という状況になり,「ノルマとか,そういうレベルじゃない」などと発言していたところである(甲83の2〔11頁〕)。 加えて,上記3のとおり,亡DはHやIから手直しの指示や仕事の仕方について指導を受けることがあり,そうした指示は,他の作業員と比べて も多く,亡Dと共に作業をすることがあったFにおいても「ひどすぎる。」と受け止める内容のものであって,上記のような長時間労働を行っていた亡Dにとって,このような指示や指導を受けるということは,一定程度の心理的負担となるべきものである(認定基準においても,上司から業務指導の範囲内である強い指導・叱責を受けた場合には,心理的負荷は「中」 となるものとされている〔甲11〕。)。 したがって,亡Dが従事していた業務は,亡Dに対し,相当程度の心理的負荷を生じさせるものであったというべきである。 イ業務外の要因の有無次に,業務外の要因の有無について検討する。 亡Dは,平成23年3月に起こした個人事業で融資を受けており,被告- 41 -会社への再就職後も当該融資の返済を続 イ業務外の要因の有無次に,業務外の要因の有無について検討する。 亡Dは,平成23年3月に起こした個人事業で融資を受けており,被告- 41 -会社への再就職後も当該融資の返済を続けていたほか,金融業者などから借入れをしており,債務の総額は額面上約320万円となっていたものと認められる(甲42の1)。もっとも,利息制限法により引直し計算をすると,債務の総額は約113万円となっており(甲42の2),また,原告Aによれば,亡Dは債務整理による解決も検討していたというのである (原告A本人〔15,25,26頁〕)。そして,原告Aも稼働していたほか(乙36),同居中のJが年間300万円程度の年金を受給しており(甲66ないし69),同人からの援助や父からの借入れによって生活費等を確保できていたようにうかがわれるのであって(原告Aは,亡Dの父からの借入れについては,返済期限もなく,督促もされていなかったとす る。原告A本人〔37頁〕),亡Dがうつ病を発症した当時,経済的に困窮した状況にあったとは直ちに認めることができない。 また,亡Dの長男の原告Bは,平成24年6月頃に傷害事件を起こし,同年7月頃に保護観察処分となったものであるが(原告B本人〔1頁〕,弁論の全趣旨),これは,亡Dのうつ病発症よりも6か月も前の出来事で ある上,その後,原告Bは仕事に就くなどして一定程度自立していたのであって(原告B本人〔8,9頁〕),亡Dがうつ病を発症した当時,これによる心理的負荷は相当程度軽減されていたようにうかがわれる。 したがって,亡Dにつき,業務外において強い心理的負荷を生じさせる出来事があったということはできない。 ウ個体側の要因の有無さらに,個体側の要因について検討するに,亡Dは短気な部分があるも って,亡Dにつき,業務外において強い心理的負荷を生じさせる出来事があったということはできない。 ウ個体側の要因の有無さらに,個体側の要因について検討するに,亡Dは短気な部分があるものの前向きであり,既往歴や基礎疾患を有していたものでもないのであって(認定事実(11)),うつ病の発症につき特段の個体側の要因があったようにはうかがわれない。 エ小括- 42 -以上を総合考慮すると,亡Dは,被告会社での業務上の心理的負荷により,うつ病を発症したものというべきである。 (2) うつ病と本件自殺について原告Bは,亡Dの不眠は平成25年1月以降続いていた旨供述し(原告B本人〔5頁〕),原告Aも,亡Dの不眠,食欲不振及び飲酒は続いていた旨供 述しているのであって(原告A本人〔20頁〕),これに反する証拠も特段見当たらない以上,亡Dは,うつ病発症後も,その症状が継続していたものと認められる。 そして,うつ病においては,希死念慮を生じ,正常な認識能力・行為選択能力が著しく阻害され,自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻 害されている状態となるのであって(甲11〔10頁〕,22ないし26),他に自殺の原因となるような事情も見当たらない以上,亡Dの本件自殺は,まさにこのうつ病により生じたものといわざるを得ない。 したがって,亡Dは,被告会社での業務上の心理的負荷によりうつ病を発症し,これにより本件自殺に至ったというべきである。 (3) 被告らの主張についてこの点について被告らは種々の主張をするが,以下のとおり,いずれも採用することができない。 ア経済的困窮について被告らは,①亡Dは,原告Bの傷害事件の示談金を用意するため,平成 24年9,10月頃に被告会社に賃金の前借 るが,以下のとおり,いずれも採用することができない。 ア経済的困窮について被告らは,①亡Dは,原告Bの傷害事件の示談金を用意するため,平成 24年9,10月頃に被告会社に賃金の前借りを申し入れていた(証人L〔6,7頁〕),②亡Dは生命保険金の掛金を滞納し,失効が見込まれていたなどとして,亡Dが経済的に困窮していた旨主張する。 しかし,上記①については,Lの証言以外にこれを裏付ける証拠が見当たらない上,そもそも原告Bは同年7月頃には保護観察処分となっていた ものであって,これより後の9,10月頃に示談金を用意する必要があっ- 43 -たのか疑問がある。また,上記②については,原告Aによればそもそも生命保険を絞っていく話をしていたというのであるし(原告A本人〔27,28頁〕),いずれにせよ,掛金の滞納のみで困窮していたと断ずるのは困難である。 したがって,被告らの上記主張は,採用することができない。 イ就職活動について被告らは,亡Dが平成24年12月頃に被告会社を退職後,就職活動をしていたものの就職することができず,個人事業も成功していなかったのであり,こうした出来事が亡Dの葛藤を深め,うつ病の発症及び本件自殺に寄与したと主張する。 しかし,前記のとおり,亡Dのうつ病は既に同月中旬には発症していたのであって,被告らの主張する出来事はうつ病の原因ではなく,むしろうつ病の結果とでもいうべきものである。被告らの上記主張は,採用することができない。 ウ原告Aの自殺未遂について 被告らは,原告Aが自殺未遂を起こしており,これが亡Dのうつ病の発症及び本件自殺に寄与したと主張する。 しかし,そもそも原告Aが自殺未遂を起こしたとの事実については,Fが亡Dからそう聞いたと証言して らは,原告Aが自殺未遂を起こしており,これが亡Dのうつ病の発症及び本件自殺に寄与したと主張する。 しかし,そもそも原告Aが自殺未遂を起こしたとの事実については,Fが亡Dからそう聞いたと証言しているだけで(証人F〔9,10頁〕),他に的確な証拠はなく,原告A自身,これを否定している(原告A本人〔1 3頁〕)。 したがって,被告らの上記主張は,採用することができない。 エ家庭内の不和について被告らは,亡D,原告ら及びJとの間に不和があり,これがうつ病の発症に寄与したと主張する。 しかし,原告Bは,陳述書(甲81)において,家庭内で大きなトラブ- 44 -ルはなく,自身も亡Dと仲が良かったと記載しているし,他に家庭内に不和があったことをうかがわせるような証拠もない。被告らの上記主張は,結局のところ,推測の域を出るものではなく,採用することができない。 オ Q医師の意見書についてなお,被告らの提出するQ医師の意見書には,被告会社での業務とうつ 病の発症及び本件自殺との間の因果関係を否定する旨の記載がある。 しかし,上記意見書は,亡Dが経済的に困窮し,家庭内に不和があることなどを前提とするものであるところ(乙23),これまで説示してきたとおり,こうした事実関係はそもそも認定することができないのであって,上記意見書はその前提を欠く。 (4) 小括以上によれば,亡Dは,被告会社での業務によりうつ病を発症し,これにより本件自殺に至ったものであって,被告会社の業務と本件自殺との間には因果関係がある。 6 争点(5)ア(被告会社の責任の有無)について (1) 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして,疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると,労働者の心身の健康を損 6 争点(5)ア(被告会社の責任の有無)について (1) 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして,疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると,労働者の心身の健康を損なう危険があることから,使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負うと解 するのが相当である(最高裁平成12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。 (2) 本件についてこれをみるに,被告会社においては,亡Dの就労当時,労働者に時間外労働をさせるために労働基準法36条所定の協定を締結する必要があることを認識しながら,これをしないまま,106時間の時間外労働が 生じることを想定して,当該時間に相当する固定残業代に係る賃金体系を割- 45 -増時間外手当と職務給に対応する部分の区別のできない形で採用し(認定事実(4)),労働者を時間外労働に従事させていたのであって(乙3,被告E本人〔第2回・12ないし15頁〕,弁論の全趣旨),そもそも労働者の労働時間を抑制するための制度を構築していなかったものである。 そして,被告会社は,亡Dから日報の提出を受けたものの,個々の日報記 載の拘束時間を確認するにとどまり,拘束時間や時間外労働時間について意味を見いだせないとの理由で集計することをせず(甲5〔添付書類240頁〕,被告E本人〔第2回・11,12頁〕),亡Dの業務の過重性を軽減する措置を講じなかったものである。 したがって,被告会社はその注意義務を怠ったというべきであり,民法7 09条に基づく損害賠償責任を負う。 (3) この点につき被告会社は,他の従業員は亡Dの体調 置を講じなかったものである。 したがって,被告会社はその注意義務を怠ったというべきであり,民法7 09条に基づく損害賠償責任を負う。 (3) この点につき被告会社は,他の従業員は亡Dの体調の異変など健康被害やその徴候となる事実を確認しておらず,被告会社における予見可能性がなかったと主張する。 しかし,被告会社は亡Dから日報の提出を受け,これを確認していたもの であるし,そもそも,被告会社においては繁忙期には106時間という長時間の時間外労働が生じることを想定し,当該時間に合わせて固定残業代の時間数を設定していたところである(認定事実(4),証人L〔14ないし16頁〕)。そうすると,被告会社は,亡Dによる長時間の時間外労働を認識し又は認識し得たものというべきである。 そして,被告会社においてこのような認識又は認識可能性があった以上,これにより亡Dの心身の健康が損なわれる可能性のあることを認識し得たというべきであるから,被告会社には予見可能性があったものといわざるを得ない。被告会社の上記主張は,採用することができない。 7 争点(5)イ(被告Eの責任の有無)について 被告Eは,被告会社の代表取締役として,被告会社と同様に,亡Dの労働状- 46 -況を的確に把握し,これを踏まえて,亡Dの心身に業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことのないよう注意し,適切な措置を講ずべき義務があったものというべきである。 しかるに,被告Eは,労働者の労働時間を抑制するための制度を被告会社に構築させず,また,亡Dから日報の提出を受け,自らこれを確認していたもの の,拘束時間や時間外労働時間について集計せず(甲5〔添付書類240頁〕,被告E本人〔第2回・11,12頁〕),亡D 社に構築させず,また,亡Dから日報の提出を受け,自らこれを確認していたもの の,拘束時間や時間外労働時間について集計せず(甲5〔添付書類240頁〕,被告E本人〔第2回・11,12頁〕),亡Dの業務の過重性を軽減する措置を講じなかったものであって,被告会社と同様に,上記注意義務に違反したというべきである。なお,この点につき被告Eは,予見可能性がなかった旨主張するが,上記6において説示したところと同様,採用することができない。 したがって,被告Eは上記注意義務を怠ったというべきであり,被告会社と連帯して,民法709条に基づく損害賠償責任を負う。 8 争点(6)(過失相殺の可否)について被告らは,①使用者である被告会社において亡Dの健康悪化の徴候を読み取るのが困難であったこと,②亡Dの本件自殺については,経済的困窮や家庭内 不和といった業務外の心理的負荷が寄与していたこと,③このうち経済的困窮は亡Dの短気な性格に由来する自招危難ともいうべきものであったことなどの事情があるから,本件においては過失相殺に関する規定を適用ないし類推適用すべきであると主張する。 しかし,これまで説示してきたところに照らせば,上記①及び②の事実につ いてはそもそもその事実を認めるに足りず,また,上記③についてはその前提を欠くというべきである。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告らの上記主張は採用することができない。 9 争点(7)(損害発生の有無及び額)について (1) 死亡慰謝料- 47 -亡Dはうつ病を発症するまでは一家の支柱として稼働していたこと,同人の年齢,本件自殺に至る経緯,被告らの注意義務違反の態様,その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件自殺に係る慰謝料としては,2800万 病を発症するまでは一家の支柱として稼働していたこと,同人の年齢,本件自殺に至る経緯,被告らの注意義務違反の態様,その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件自殺に係る慰謝料としては,2800万円を認めるのが相当である(うち原告Aの相続額は1400万円,原告B及び原告Cの相続額は各700万円。)。 (2) 死亡による逸失利益ア現実の支給額(年額) 375万1360円亡Dの現実に支給されていた給与額につき,①発病前の平成24年9月から同年11月までの平均賃金をその期間の暦日数91日で除した額は1万0277.7円となり(甲33),②これに365日を乗ずると,年間 375万1360円となる(1円未満切捨て)。 イ未払時間外手当相当額(年額) 48万3450円原告らは,亡Dには未払の時間外手当があり,これも逸失利益算定の際の基礎収入に含めるべきと主張するため,この点について検討する。 (ア) 亡Dは,被告会社において,前記2で認定したとおりの時間外労働に 従事していたものであり,本来,被告会社に対し,当該時間外労働につき割増賃金を請求することができたものである。 しかるに,被告会社は,時間外手当としての性格部分と職務給としての性格の部分を区別せず,月106時間の時間外手当が固定給としての職務給に含まれるという賃金体系を採用していたものであり(認定事実 (4)参照),こうした賃金体系につき時間外手当の支払として有効なものとみることはできないから(最高裁平成6年6月13日第二小法廷判決・裁判集民事172号673頁参照),被告会社は時間外手当の支払をしていなかったものといわざるを得ない。 そして,上記2において認定した亡Dの労働状況からすれば,将来に おいても長時間労働を継続した蓋然性があるという 頁参照),被告会社は時間外手当の支払をしていなかったものといわざるを得ない。 そして,上記2において認定した亡Dの労働状況からすれば,将来に おいても長時間労働を継続した蓋然性があるというべきであって,将来- 48 -支給される蓋然性のある時間外手当については,基礎収入に算入するのが相当である。 (イ) もっとも,被告会社における長時間労働の結果,亡Dがうつ病を発症して本件自殺に至ったことに鑑みれば,亡Dにおいて,就労可能年数である67歳までの25年以上にわたり,前記2で認定したような1か月 当たりの時間外労働時間が100時間以上に及ぶ蓋然性まで認めることは困難であって,時間外手当として基礎収入に算入するのは,継続性をもって従事し得ると見込まれる時間数の限度にとどめるのが相当である。 また,被告会社においては,平成28年頃から暖房設備業務を外部の業者に委託する割合が増えるなど,業務態様に変化が生じ,時間外労働 時間が減少したというのであり,現に,亡Dと同種の現場作業員の時間外労働時間数は,平成30年9月から同年11月には平均約48時間となっているところである(乙22〔枝番号含む〕)。 これらの点を踏まえると,亡Dの逸失利益を算定するに当たっては,1か月当たり45時間の限度で時間外労働を行う蓋然性があるものと認 めるのが相当である。 (ウ) さらに,亡Dの平成24年当時の労働状況からすると,8月から12月については1か月当たり45時間の時間外労働を行う蓋然性があると認められる一方,それ以外の時期については,そもそも時間外労働の発生の有無が証拠上明らかでない。そして,被告らは9月から11月の期 間の他は暖房設備の需要の観点から閑散期となる旨主張しているところであって,これらの点に照らせば,1年 そもそも時間外労働の発生の有無が証拠上明らかでない。そして,被告らは9月から11月の期 間の他は暖房設備の需要の観点から閑散期となる旨主張しているところであって,これらの点に照らせば,1年のうち8月から12月の5か月の限度でのみ,1か月当たり45時間の時間外労働を行う蓋然性があるものと認めるのが相当である。 (エ) 以上によれば,将来にわたり,1年のうち5か月間につき1か月当た り45時間の時間外労働を行い,時間外手当の支給を受ける蓋然性があ- 49 -るものと認められる。 そして,①平成24年9月,10月及び11月の通常割増単価は2142円,2152円及び2152円と算定され(別紙4「時間外手当相当額の算定について(原告らの主張)」参照),②これに45時間を乗じると,上記各月の時間外手当の額はそれぞれ9万6380円,9万68 40円及び9万6840円となるから,③これらを平均した時間外手当の額は1か月当たり9万6690円となり,④8月から11月までの5か月間の時間外手当の額(年額)は48万3450円となる。 ウ基礎収入額の合計 423万4810円エ逸失利益の算定 上記基礎収入額をもとに,亡D(死亡当時40歳)の就労可能年数を27年(年5%のライプニッツ係数14.643)とし,生活費控除率を30%とすると,亡Dの逸失利益は,以下の計算式のとおり,4340万7225円となる(うち原告Aの相続額は2170万3612円,原告B及び原告Cの相続額は各1085万1806円〔1円未満切捨て〕。)。 (計算式)4,234,810×(1-0.3)×14.643≒43,407,225オ労災保険金の控除(原告Aについて) ▲2170万3612円原告Aは,別紙5のとおり,本件口頭弁論終結時までに遺 算式)4,234,810×(1-0.3)×14.643≒43,407,225オ労災保険金の控除(原告Aについて) ▲2170万3612円原告Aは,別紙5のとおり,本件口頭弁論終結時までに遺族補償年金として合計2358万4054円の支給を受けたものであり(甲101〔枝番号含む。〕,弁論の全趣旨),原告Aの相続した逸失利益相当損害金の額 である2170万3612円につき填補を受けたものというべきであるから,同額の限度で控除を認める。 なお,被告らは,労働者災害補償保険法附則64条1項に基づく支払猶予の抗弁を主張し,その金額が給付基礎日額の1000日分,すなわち1798万3000円であると指摘するが,当該額は上記の現実の支給額を 下回るものであるから,同項に基づく支払猶予の抗弁の対象となる額はな- 50 -い。 カ原告らの相続額(原告Aについては損益相殺後の額)原告Aにつき 0円原告B及び原告Cにつき各1085万1806円(3) 葬祭料(労災保険による葬祭料控除後) 葬祭料につき150万円を相当と認め,ここから労災保険による葬祭料107万8980円を控除すると,42万1020円となる(うち原告Aの相続額は21万0510円,原告B及び原告Bの相続額は各10万5255円。)。 (4) 上記(1)ないし(3)の合計額 原告Aにつき 1421万0510円原告B及び原告Cにつき各1795万7061円(5) 弁護士費用相当損害金弁論の全趣旨によれば,原告らは,訴訟代理人弁護士らに委任して本件訴訟を提起せざるを得なくなったことが認められ,本件訴訟の経緯及び認容額 等に鑑みれば,その費用のうち被告らの不法行為と相当因果関係の範囲内にあるものとして,以下の額を認めるのが相当 して本件訴訟を提起せざるを得なくなったことが認められ,本件訴訟の経緯及び認容額等に鑑みれば,その費用のうち被告らの不法行為と相当因果関係の範囲内にあるものとして,以下の額を認めるのが相当である。 原告Aにつき142万円原告B及び原告Cにつき各179万円 上記の合計 原告Aにつき1563万0510円原告B及び原告Cにつき各1974万7061円 結論 よって,原告Aの被告らに対する請求は,1563万0510円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があり,原告Bの被告らに対する請求は,1974万7061円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があり,原告Cの被告らに対する請求は,1974万7061円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるから,これらの限度で認容し,原告らのその余の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第5部 裁判長裁判官瀬孝 裁判官河野文彦 裁判官佐藤克郎 (別紙1)時間外労働時間(原告ら主張〔始業午前7時30分〕) 12月20日~11月21日 (木)7:30~21:30 14:00 13:00 (水)7:30~21:30 14:00 13:00 (火)7:30~23:40 16:10 15:10 (月)7:30~24:40 17:10 16:10 (日)7:30~18:00 10:30 9:30 (土) ``` ( 月)7:30~24:40 ( 日)7:30~18:00 ( 土)7:30~21:30 ( 金)7:30~21:30 ( 木)7:30~18:00 ( 水)7:30~24:00 ( 火)7:30~18:00 ( 月)7:30~24:00 ( 日)0:00~0:00 ( 土)7:30~21:00 ( 金)7:30~22:50 ( 木)7:30~22:20 ( 水)7:30~23:15 ( 火)7:30~22:10 ( 月)7:30~24:00 ( 日)0:00~0:00 ( 土)7:30~21:30 ( 金)0:00~0:00 ( 木)7:30~22:00 ( 水)0:00~0:00 ( 火)7:30~23:00 ( 月)7:30~24:10 ( 日)0:00~ ``` 主文 理由 事実 争点 判断 (火)7:30~23:00 15:30 14:30 (月)7:30~24:10 16:40 15:40 (日)0:00~0:00 (土)7:30~22:00 14:30 13:30 (金)7:30~10:30 3:00 2:00 (木)7:30~22:30 15:00 14:00 (水)7:30~23:00 15:30 14:30 28:30 ①~⑤ 35 3:05 328:05 (発病前(1)か月目) 総労働時間数 時間 外労働時間数 労働時間(始業~終業) 1日の拘束時間数 ⑦ = ② - 労働時間集計表(⑧ = ③ - 70:45 20:30 ⑥~⑩ 1日の労働時間数 76:50 ⑨ = ④ - 19:10 160:05 30:45 36:50 92:50 ⑥ = ① - 52:50 59:10 合計 - 53 - 11月20日~10月22日 (火)7:30~23:00 15:30 14:30 ① (月)7:30~23:00 15:30 14:30 (日)0:00~0:00 (土)7:30~19:30 12:00 11:00 (金)7:30~20:30 13:00 12:00 (木)7:30~23:00 15:30 14:30 (水)7:30~21:00 13:30 12:30 (火) ``` 13:00 12:00 ( 木) 7:30~23:00 15:30 14:30 ( 水) 7:30~21:00 13:30 12:30 ( 火) 7:30~22:00 14:30 13:30 ② ( 月) 7:30~21:30 14:00 13:00 ( 日) 0:00~0:00 ( 土) 7:30~19:00 11:30 10:30 ( 金) 7:30~20:15 12:45 11:45 ( 木) 7:30~21:00 13:30 12:30 ( 水) 7:30~21:20 13:50 12:50 ( 火) 7:30~21:00 13:30 12:30 ③ ( 月) 7:30~21:30 14:00 13:00 ( 日) 0:00~0:00 ( 土) 7:30~20:00 12:30 11:30 ( 金) 7:30~23:00 15:30 14:30 ( 木) 7:30~22:30 15:00 14:00 ( 水) 7:30~23:00 15:30 14:30 ( 火) 7:30~21:30 14:00 13:00 ④ ( 月) 7:30~20:00 12:30 11:30 ( 日) 0:00~0:00 ( 土) 7:30~23:30 16:00 15:00 ( 金) 7:30~22:30 15:00 14:00 ( 木) 7:30~22:30 15:00 14:00 ``` ``` 23:30 16:00 15:00 ( 金) 7:30~22:30 15:00 14:00 ( 木) 7:30~22:30 15:00 14:00 ( 水) 7:30~21:20 13:50 12:50 ( 火) 7:30~20:00 12:30 11:30 ( 月) 7:30~24:30 17:00 16:00 27:30 ①~⑤ 36:6:55 340:55 合計 ⑥~⑩ ⑨ = ④ - 労働時間集計表(40:20 172:55 ⑦ = ② - ⑥ = ① - 80:00 79:00 74:05 総労働時間数 80:20 1 日の労働時間数 労働時間(始業~終業) 1 日の拘束時間数 19:30 40:00 ⑧ = ③ - (発病前(2)か月目) 34:05 39:00 時間 外労働時間数 - 54 - 10月21日~9月22日 ( 日) 0:00~0:00 ① ( 土) 7:30~21:30 14:00 13:00 ( 金) 7:30~24:10 16:40 15:40 ( 木) 7:30~19:40 12:10 11:10 ( 水) 7:30~23:30 16:00 15:00 ( 火) 7:30~23:30 16:00 15:00 ( 月) 7:30~25:35 18:05 17:05 ( 日) 0:00~0:00 ② ( 土) 7:30~18:30 11: ``` ``` 15:00 ( 月)7:30~25:35 18:05 17:05 ( 日)0:00~0:00 ② ( 土)7:30~18:30 11:00 10:00 ( 金)7:30~25:45 18:15 17:15 ( 木)7:30~24:15 16:45 15:45 ( 水)7:30~22:00 14:30 13:30 ( 火)7:30~22:15 14:45 13:45 ( 月)7:30~18:30 11:00 10:00 ( 日)0:00~0:00 ③ ( 土)7:30~21:30 14:00 13:00 ( 金)7:30~23:00 15:30 14:30 ( 木)7:30~25:10 17:40 16:40 ( 水)7:30~22:00 14:30 13:30 ( 火)7:30~22:00 14:30 13:30 ( 月)7:30~22:00 14:30 13:30 ( 日)0:00~0:00 ④ ( 土)7:30~16:30 9:00 8:00 ( 金)7:30~20:30 13:00 12:00 ( 木)7:30~23:30 16:00 15:00 ( 水)7:30~20:30 13:00 12:00 ( 火)7:30~21:10 13:40 12:40 ( 月)7:30~23:30 16:00 15:00 ( 日)0:00~0:00 ``` 主文 理由 事実 争点 判断 ( 火)7:30~21:10 13:40 12:40 ( 月)7:30~23:30 16:00 15:00 ( 日)0:00~0:00 ( 土)0:00~0:00 0:00 ①~⑤ 350:30 326:30 ⑨ = ④ - 総労働時間数 ⑥~⑩ 166:30 80:15 労働時間集計表(74:40 労働時間(始業~終業) 1日の拘束時間数合計時間 外労働時間数 ⑦ = ② - 40:15 34:40 ⑧ = ③ - (発病前(3)か月目) 0:00 84:40 86:55 44:40 ⑥ = ① - 46:55 1日の労働時間数 - 55 - 9月21日~8月23日 ( 金)7:30~21:30 14:00 13:00 ① ( 木)0:00~0:00 ( 水)0:00~0:00 ( 火)7:30~22:00 14:30 13:30 ( 月)7:30~15:45 8:15 7:15 ( 日)0:00~0:00 ( 土)7:30~21:00 13:30 12:30 ( 金)7:30~19:00 11:30 10:30 ② ( 木)7:30~21:00 13:30 12:30 ( 水)7:30~19:15 11:45 10:45 ( 火)7:30~18:20 10:50 9:50 ( 月)7:30~21:00 ``` (水)7:30~19:15 (火)7:30~18:20 (月)7:30~21:00 (日)0:00~0:00 (土)7:30~21:00 (金)7:30~20:00 (木)7:30~21:30 (水)7:30~21:10 (火)7:30~18:30 (月)7:30~22:00 (日)0:00~0:00 (土)7:30~21:10 (金)7:30~21:10 (木)7:30~20:50 (水)0:00~0:00 (火)7:30~24:30 (月)7:30~23:00 (日)0:00~0:00 (土)7:30~19:10 (金)7:30~20:30 (木)7:30~22:00 1 日の労働時間数68:35 ``` ``` 1 日の労働時間数68:3528:35111:5066:1026:1017:30⑨ = ④ -⑥ = ① -46:1573:2033:206:15⑦ = ② -⑧ = ③ -時間外労働時間数総労働時間数労働時間集計表(労働時間(始業~終業)1 日の拘束時間数(発病前(4)か月目)- 56 - 8月22日~7月24日) (水)7:30~20:3013:0012:00① (火)7:30~20:3013:0012:00 (月)7:30~22:3015:0014:00 (日)0:00~0:00 (土)7:30~23:1015:4014:40 (金)7:30~23:3016:0015:00 (木)7:30~18:3011:0010:00 (水)0:00~0:00② (火)0:00~0:00 (月)0:00~0:00 (日)0:00~0:00 (土)7:30~16:008:307:30 (金)7:30~18:0010:309:30 (木)7:30~24:0016:3015:30 (水)7:30~24:3017:0016:00③ (火)7:30~20 ``` 9:30 (木)7:30~24:00 (水)7:30~24:30 (火)7:30~20:45 (月)7:30~21:30 (日)0:00~0:00 (土)7:30~17:45 (金)7:30~21:30 (木)7:30~24:30 (水)7:30~24:00 (火)0:00~0:00 (月)0:00~0:00 (日)0:00~0:00 (土)0:00~0:00 (金)0:00~0:00 (木)0:00~0:00 (水)0:00~0:00 (火)0:00~0:00 労働時間集計表(労働時間(始業~終業)32:30合計0:00 時間外労働時間数0:00 1日の拘束時間数 1日の労働時間数総労働時間数15:30 発病前(5)か月目 時間外労働時間(被告ら主張) 労働時間数15:3079:30⑦ = ② -(発病前(5)か月目)⑥ = ① -- 57 -(別紙2)時間外労働時間(被告ら主張) - 58 - - 59 - - 60 -(別紙3)時間外労働時間(裁判所認定) - 61 - - 62 - - 63 - - 64 - - 65 -(別紙4)時間外手当相当額の算定について(原告らの主張)第1 1か月当たりの平均所定労働時間 173.8時間1週の所定労働時間数40(時間)に年間の週数を乗じて年間所定労働時間を算定し,これを12(月)で除した。 (計算式)40(時間)×52.14(年間の週数)÷12(月)=173.8(時間)第2 平成24年9月ないし11月の時間外手当(99時間分) 1 平成24年9月 21万2058円(1) 所定賃金 29万7900円基本給16万8000円と職務給12万9900円を合計した。 (計算式)168,000(円)+129,900(円)=297,900(円)(2) 所定賃金単価 1714円所定賃金(上記(1))を1か月当たりの平均所定労働時間(上記第1)で除した(1円未満切捨。以下同じ。)。 (計算式)297,900(円)÷173.8(時間)≒1714(円) (3) 通常割増単価 2142円上記(2)の所定賃金単価に割増率1.25を乗じた。 (計算式)1714(円)×1.25≒2142(円)(4) 99時間分の時間外手当 21万2058円上記(3)の通常割増単価に時間外労働時間数99時間を乗じた。 (計算式)2,142(円)×99(時間)=212,058(円) )(4) 99時間分の時間外手当 21万2058円上記(3)の通常割増単価に時間外労働時間数99時間を乗じた。 (計算式)2,142(円)×99(時間)=212,058(円) 2 平成24年10月 21万3048円算定根拠は,特記する場合を除き上記1と同じである。 (1) 所定賃金 29万9400円上記1(1)記載の賃金のほか,ライセンス手当1500円を加えた。 (2) 所定賃金単価 1722円- 66 -(3) 通常割増単価 2152円(4) 99時間分の時間外手当 21万3048円 3 平成24年11月 21万3048円算定根拠は,上記2と同じである。 第3 年間の時間外手当相当額 255万2616円 上記第2の3か月分の時間外手当の額を平均し,12(月)を乗じた。 (計算式)(212,058+213,048+213,048)÷3×12≒2,552,616 - 67 -(別紙5) 支給年月労災保険年金平成27年8月¥4,269,294平成27年10月¥488,791平成27年12月¥315,612平成28年2月¥315,612平成28年4月¥315,612平成28年6月¥240,242平成28年8月¥240,242平成28年10月¥339,902平成28年12月¥274,380平成29年2月¥274,380平成29年4月¥274,380平成29年6月¥274,380平成29年8月¥5,655,633平成29年10月¥461,779平成29年12月¥461,779平成30年2月¥461,779平成30年4月¥461,779平成30年6月¥461,779平成30年8月¥461,779平成30 ¥461,779平成29年12月¥461,779平成30年2月¥461,779平成30年4月¥461,779平成30年6月¥461,779平成30年8月¥461,779平成30年10月¥464,533平成30年12月¥464,533平成31年2月¥464,533平成31年4月¥464,533令和元年6月¥466,369令和元年8月¥466,369令和元年10月¥520,107令和元年12月¥469,123令和2年2月¥469,123令和2年4月¥469,123令和2年6月¥469,123令和2年8月¥469,123令和2年10月¥469,582令和2年12月¥469,582令和3年2月¥469,582令和3年4月¥469,582合計金額¥23,584,054

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