主文 原決定を破棄する。 本件を東京高等裁判所に差し戻す。 理由 抗告代理人大下慶郎,同納谷廣美,同西修一郎,同石橋達成の抗告理由について 1 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。 (1) 本件の本案訴訟(宇都宮地方裁判所平成10年(行ウ)第14号労災不支給処分取消請求事件)は,抗告人の小山工場に勤務していたAの妻である相手方が,Aの死亡は長時間労働の過労によるもので,業務起因性があるとして,栃木労働基準監督署長に対し労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づいて遺族補償給付等の請求をしたところ,これを支給しない旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたので,その取消しを求める行政訴訟である。 (2) 抗告人は,本案訴訟においてAの死亡につき業務起因性を肯定する判断がされると,相手方から労働基準法(以下「労基法」という。)に基づく災害補償又は安全配慮義務違反による損害賠償を求める訴訟を提起された場合に自己に不利益な判断がされる可能性があり,また,労働保険の保険料の徴収等に関する法律(以下「徴収法」という。)12条3項により次年度以降の保険料が増額される可能性があると主張し,栃木労働基準監督署長に対する補助参加を申し出たが,相手方はこれに対して異議を述べた。 2 原審は,概要次のとおり判示して,抗告人の補助参加の申出を却下すべきものとした。 (1) 本案訴訟において業務起因性を肯定する判断がされたとしても,これによって相手方の抗告人に対する安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償請求訴訟において当然に相当因果関係を肯定する判断がされるものではない上,後訴における抗告人の責任の有無,賠償額の範囲は,使用者の故意又は過失,過失相殺等の判断を経て初めて確定されるものであるから,本案訴訟における業務起因 当因果関係を肯定する判断がされるものではない上,後訴における抗告人の責任の有無,賠償額の範囲は,使用者の故意又は過失,過失相殺等の判断を経て初めて確定されるものであるから,本案訴訟における業務起因性についての判断が後訴における判断に事実上不利益な影響を及ぼす可能性があることをもって抗告人が本件訴訟の結果について法律上の利害関係を有するということはできない。 (2) 徴収法12条3項は,本案訴訟の結果により当然に保険料が増額されることを定めたものではないから,保険料増額の可能性があることをもって抗告人が本件訴訟の結果について法律上の利害関係を有するということはできない。 3 しかしながら,原審の判断のうち上記(1)は是認することができるが,(2)は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1) 労基法84条によると,労災保険法に基づいて労基法の災害補償に相当する給付が行われるべきものである場合においては,使用者は補償の責を免れるものとされているから,本案訴訟において本件処分が取り消され,相手方に対して労災保険法に基づく遺族補償給付等を支給する旨の処分がされた場合には,使用者である抗告人は,労基法に基づく遺族補償給付等の支払義務を免れることになる。そうすると,本案訴訟において被参加人となる栃木労働基準監督署長が敗訴したとしても,抗告人が相手方から労基法に基づく災害補償請求訴訟を提起されて敗訴する可能性はないから,この点に関して抗告人の補助参加の利益を肯定することはできない。また,本案訴訟における業務起因性についての判断は,判決理由中の判断であって,労災保険法に基づく保険給付(以下「労災保険給付」という。)の不支給決定取消訴訟と安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求訴訟とでは,審判の対象及び内容を異にするのであるから,抗告人が本 判断であって,労災保険法に基づく保険給付(以下「労災保険給付」という。)の不支給決定取消訴訟と安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求訴訟とでは,審判の対象及び内容を異にするのであるから,抗告人が本案訴訟の結果について法律上の利害関係を有するということはできない。原決定中,抗告人の上記主張を排斥した部分は,これと同旨をいうものとして,是認することができる。この点に関する論旨は採用することができない。 (2) 徴収法12条3項によると,同項各号所定の一定規模以上の事業については,当該事業の基準日以前3年間における「業務災害に係る保険料の額に第1種調整率を乗じて得た額」に対する「業務災害に関する保険給付の額に業務災害に関する特別支給金の額を加えた額から労災保険法16条の6第1項2号に規定する遺族補償一時金及び特定疾病にかかった者に係る給付金等を減じた額」の割合が100分の85を超え又は100分の75以下となる場合には,労災保険率を一定範囲内で引き上げ又は引き下げるものとされている。そうすると,徴収法12条3項各号所定の一定規模以上の事業においては,労災保険給付の不支給決定の取消判決が確定すると,行政事件訴訟法33条の定める取消判決の拘束力により労災保険給付の支給決定がされて保険給付が行われ,次々年度以降の保険料が増額される可能性があるから,当該事業の事業主は,労働基準監督署長の敗訴を防ぐことに法律上の利害関係を有し,これを補助するために労災保険給付の不支給決定の取消訴訟に参加をすることが許されると解するのが相当である。したがって,抗告人の小山工場(小山工場につき徴収法9条による継続事業の一括の認可がされている場合には,当該認可に係る指定事業)が徴収法12条3項各号所定の一定規模以上の事業に該当する場合には,本件処分が取り消されると,次々年度 小山工場につき徴収法9条による継続事業の一括の認可がされている場合には,当該認可に係る指定事業)が徴収法12条3項各号所定の一定規模以上の事業に該当する場合には,本件処分が取り消されると,次々年度以降の保険料が増額される可能性があるから,抗告人は,栃木労働基準監督署長を補助するために本案訴訟に参加することが許されるというべきである。原決定中,これと異なる見解に立って抗告人の補助参加の利益を否定した部分には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。論旨はこの趣旨をいう限度で理由がある。 4 以上の次第で,原決定は破棄を免れず,本件については,抗告人の小山工場(小山工場につき徴収法9条による継続事業の一括の認可がされている場合には,当該認可に係る指定事業)が徴収法12条3項各号所定の一定規模以上の事業に該当するかどうかにつき更に審理を尽くす必要があるから,これを原審に差し戻すこととする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官深澤武久裁判官井嶋一友裁判官藤井正雄裁判官大出峻郎裁判官町田顯)
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