- 1 -令和5年2月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和2年(ワ)第24048号損害賠償等請求事件口頭弁論終結日令和4年11月17日判決主文 1 被告は、原告に対し、11万円及びこれに対する令和2年10月8日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 被告は、別紙投稿記事目録記載の記事を削除せよ。 3 原告のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用はこれを10分し、その6を被告の負担とし、その余を原告の負担 とする。 5 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は、原告に対し、220万円及びこれに対する令和2年10月8日から 支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 主文2項同旨第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は、宮古島市議会議員の職にあった原告が、被告の発行する全国紙「産 経新聞」の記事を掲載するウェブサイトに平成29年3月22日付けで公開された別紙投稿記事目録記載の記事(以下「本件記事」という。)により名誉を毀損されたと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料200万円及び弁護士費用相当額20万円並びにこれらに対する最終不法行為の日である令和2年10月8日(訴状送達の日)から支払済みまで民法(平 成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ)所定の範囲内の年3% - 2 -の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、人格権に基づき本件記事の削除を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに括弧内に記載した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。以下、単に「前提事実」という。)(1) 当事者等 ア原 求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに括弧内に記載した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。以下、単に「前提事実」という。)(1) 当事者等 ア原告は、平成29年1月22日に宮古島市議会議員補欠選挙で当選し、同年10月22日の同市議会議員選挙で落選するまで、同市議会議員であった。また、被告が平成29年3月22日に公開した「自衛隊差別発言のA・宮古島市議、当選後に月収制限超える県営団地に入居」と題する記事(本件記事)において言及されている、原告が入居することとなった沖縄 県営住宅(以下、単に「県営住宅」という。)への入居を申込んだ当時、原告は、織物業を営む事業所得者であった。 原告の家族は、夫であるB(以下「B」という。)及び原告の子3名である(以下、原告、B及び原告の子3名を総称して「原告世帯」という。)。 (甲3、47) イ被告は、全国紙である「産経新聞」を発行する株式会社である。 (2) 県営住宅の入居に至る経緯原告は、平成28年11月28日、県営住宅への入居を申し込むため、申込区分を「子育て」、申込者をB、入居しようとする者を原告、B及び原告の子3名(原告の子3名は、いずれも、申込当時、未就学児である。)、 「世帯の所得」を172万9600円・1月当たり1万7466円などと記入した県営住宅入居申込書並びに平成28年6月から同年10月までの期間のBの収入証明書を、沖縄県知事宛てに提出した(以下「本件申込み」ということがある。)。なお、上記収入証明書の右下隅には、上記期間中のBの収入の合計が91万0583円であることを前提に所定の推定計算をすると、 「世帯の所得」が172万9600円となる旨に解される手書きの箇所があ なお、上記収入証明書の右下隅には、上記期間中のBの収入の合計が91万0583円であることを前提に所定の推定計算をすると、 「世帯の所得」が172万9600円となる旨に解される手書きの箇所があ - 3 -る。(甲3、4)原告は、平成29年1月22日、宮古島市議会議員補欠選挙に当選し、同市議会議員となった。その後、原告及びBは、同月25日、宮古土木事務所県営住宅担当の職員との間で、県営住宅の入居に関する面談を行った。(甲30〜32) Bは、平成29年1月26日、本件申込みにつき、県営a団地b棟c号への入居を許可されたことから、入居名義人をB、連帯保証人をCとする県営住宅入居誓約書を、沖縄県知事宛てに提出した。その後、原告世帯は、同年2月1日、上記団地に入居した。(甲8)(3) 本件記事の公開に至る経緯 平成28年6月に宮古島市長が宮古島への自衛隊配備の受入れを表明したことに対し、宮古島市民の一部は反対の声を上げていた。 このような世相の中で宮古島市議会議員となった原告は、宮古島に対する自衛隊配備に反対する立場であった。そして、原告は、平成29年3月9日、自らのSNSにおいて、宮古島へ自衛隊が配備された場合、婦女暴行事件が 確実に起こると指摘する旨の記事を投稿した。後に原告は当該記事を撤回したものの、同月21日には、宮古島市議会において、原告に対する辞職勧告決議案が可決される事態に至った。 被告の那覇支局所属(当時)の記者であったD(以下「D記者」という。)は、平成29年3月20日頃に寄せられた情報提供を契機に、宮古島市議会 事務局、沖縄県住宅供給公社、住宅情報センター株式会社(以下「住宅情報センター」という。)及び沖縄県住宅課に取材をした上で、同月22日、本件記事を被告が管理するウェブ を契機に、宮古島市議会 事務局、沖縄県住宅供給公社、住宅情報センター株式会社(以下「住宅情報センター」という。)及び沖縄県住宅課に取材をした上で、同月22日、本件記事を被告が管理するウェブサイトに掲載し、インターネット上に公開した。なお、本件記事は、現在に至るまで、インターネット上に公開されている。(甲1の1・2、乙2の1・2、乙7) これに対し、原告は、被告に対し、同年4月5日付け抗議文を送付して、 - 4 -本件記事の公開に対する抗議、本件記事の内容の訂正等を求めた。もっとも、被告が同抗議文に対して回答をすることはなかった。(甲9〜12)その後、原告は、令和2年9月24日、東京地方裁判所に対し、被告を相手取って、本件訴訟を提起した。 (4) 県営住宅の入居に関する法令の定め 県営住宅の入居に関する法令の定めのうち、本件記事に関連するものは、別紙「県営住宅の入居に関する法令の定め」のとおりであり、県営住宅に入居する条件として、公営住宅法施行令1条3号に規定する収入(以下「政令月収」という。)が入居者又は同居者の属性等に応じた基準額を超えないことが求められていた(本件条例6条1項2号)。そして、この基準額は、一 定の例外に当たる場合を除き15万8000円であるが(同号カ)、同居者に小学校就学の始期に達するまでの者(以下「未就学児」という。)がある場合には21万4000円であった(同号エ)。 (5) 原告世帯の政令月収等本件申込みをした平成28年11月当時、原告世帯の年間所得は172万 9600円、政令月収は1万7466円であった。なお、同月当時における原告の年間所得は、本件条例等に基づき計算すると、ゼロ円であった。(甲3、4、26、48、49、弁論の全趣旨)また、原告 9600円、政令月収は1万7466円であった。なお、同月当時における原告の年間所得は、本件条例等に基づき計算すると、ゼロ円であった。(甲3、4、26、48、49、弁論の全趣旨)また、原告世帯が県営住宅に入居していた時期を含む平成29年分の原告世帯の収入をもとに試算すると、原告世帯の年間所得は381万4018円、 政令月収は19万1168円であった。(甲41、42、44) 3 争点(1) 本件記事の公開により、原告の社会的評価が低下したか(争点1)(2) 本件記事の公開に係る真実性の抗弁の成否(争点2)(3) 本件記事の公開に係る真実相当性の抗弁の成否(争点3) (4) 損害の発生及びその数額(争点4) - 5 -(5) 消滅時効の成否(争点5)(6) 本件記事の削除の可否(争点6) 4 争点に関する当事者の主張(1) 争点1(本件記事の公開により、原告の社会的評価が低下したか)について (原告の主張)ア摘示事実被告は、本件記事を公開したことによって、「原告が宮古島市議会議員に当選した後における原告世帯の所得が条例等で定められた月収制限を超えることになるにもかかわらず、原告が当選する前における原告世帯 の所得に基づき入居審査を受けたところ県営住宅への入居が認められ、原告が当選した後に原告世帯が県営住宅に入居した」との事実(以下「原告主張摘示事実」という。)を公然と摘示した。 原告主張摘示事実は、①原告世帯は、原告が当選する前に県営住宅への入居が認められつつも原告の当選によって入居資格を喪失し、そうであ るにもかかわらず県営住宅に入居した可能性又は②原告が当選した後に県営住宅の入居に係る審査が行われたが、原告が当選前の所得を申告したことによって、原告世帯が県 って入居資格を喪失し、そうであ るにもかかわらず県営住宅に入居した可能性又は②原告が当選した後に県営住宅の入居に係る審査が行われたが、原告が当選前の所得を申告したことによって、原告世帯が県営住宅への入居を認められた可能性のいずれかを示唆するものである。 イ社会的評価の低下 いずれの可能性を示唆するにせよ、原告主張摘示事実は、原告が違法な行為をしたとの印象を与えるから、原告の社会的評価を低下させる。 また、原告主張摘示事実は、県営住宅に入居したい県民が多数おり、入居を待っているという現実がある一方で、市議という立場にあり、入居当時に月収制限を超えていた原告が、入居審査当時には月収制限を超え ていなかったことを理由に、県営住宅にそのまま入居したと指摘して、 - 6 -原告が他の県民に迷惑を掛け、県を困惑させる行動を取る利己的な人物であるとの印象を与えるものであり、この意味においても、原告の社会的評価を低下させる。 (被告の主張)ア摘示事実 被告が本件記事により原告主張摘示事実を摘示したとの主張は、争う。 被告は、本件記事において、「原告が宮古島市議会議員に当選した後における原告世帯の所得が条例等で定められた月収制限を超えることになるにもかかわらず、原告が当選する前における原告世帯の所得に基づき『既に』入居審査を受けて県営住宅への入居が認められ『ていたので』、 原告が当選した後に原告世帯が県営住宅に入居した」との事実(以下「被告主張摘示事実」という。)を摘示したものである。 イ社会的評価の低下原告主張摘示事実による示唆として原告が主張する2つの可能性は、いずれも一般の読者の通常の読み方とは異なる。したがって、本件記事は、 原告世帯が違法に県営住宅に入居したと読者に認識させ 低下原告主張摘示事実による示唆として原告が主張する2つの可能性は、いずれも一般の読者の通常の読み方とは異なる。したがって、本件記事は、 原告世帯が違法に県営住宅に入居したと読者に認識させるものではなく、原告の社会的評価が低下するとはいえない。 また、本件記事は、原告世帯の県営住宅への入居の適切性について問題提起するものではあるが、これによって原告の社会的評価が低下するとはいえない。 (2) 争点2(本件記事の公開に係る真実性の抗弁の成否)について(被告の主張)原告世帯には、本件申込み当時、小学校就学前の子どもがおり(以下、同居者に小学校就学の始期に達するまでの者がある世帯を「裁量世帯」という(本件条例6条1項2号エ参照)。)、裁量世帯が県営住宅の入居者たる資 格を有するというためには、世帯の収入が1月当たり21万4000円を超 - 7 -えないことが要件であった。 しかしながら、本件記事は、原告世帯が県営住宅に入居した平成29年2月及び本件記事を公開した同年3月の時点において、宮古島市議会議員としての原告の収入を含む原告世帯の1月当たりの収入が、条例等において入居者たる資格を得るために要求されていた基準を超過していると指摘するもの である。よって、原告に事業所得上の営業損失が発生したり、原告が宮古島市議会議員としての収入を得られなくなったりしたことによって、現実に、原告世帯の平成29年における1月当たりの収入が上記基準を超過しなかったとしても、本件記事の重要な部分である「原告が宮古島市議会議員選挙に当選した後である本件記事公開当時、原告世帯の収入が条例等で定められた 月収制限を超えること」の真実性は失われない。 そして、下記のとおり、原告は本件記事が公共の利害に関するものであるこ に当選した後である本件記事公開当時、原告世帯の収入が条例等で定められた 月収制限を超えること」の真実性は失われない。 そして、下記のとおり、原告は本件記事が公共の利害に関するものであること及び本件記事の公開が専ら公益を図る目的に出たものであることを争わないから、被告が本件記事を公開したことについて、真実性の抗弁が認められる。 (原告の主張)本件記事が公共の利害に関するものであること及び本件記事の公開が専ら公益を図る目的に出たものであることは、争わない。 しかしながら、原告が宮古島市議会議員に当選して原告世帯が県営住宅に入居した平成29年において、その世帯の収入は、1月当たり19万116 8円であった。よって、原告世帯は、原告の当選後の所得を基準として、県営住宅の入居者たる資格を有していたのであるから、本件記事の重要な部分である「原告が宮古島市議会議員選挙に当選した後である本件記事公開当時、原告世帯の収入が条例等で定められた月収制限を超えること」との点は真実ではない。 したがって、被告が本件記事を掲載したことについて、真実性の抗弁は認 - 8 -められない。 (3) 争点3(本件記事の公開に係る真実相当性の抗弁の成否)について(被告の主張)本件記事を執筆したD記者は、宮古島市議会事務局、沖縄県住宅供給公社、住宅情報センター及び沖縄県住宅課に架電して取材して、宮古島市議会議員 の収入、県営住宅の入居者たる資格に係る収入の基準を確認したほか、県営住宅の指定管理者である住宅情報センターの担当者及び沖縄県の担当者のいずれにおいても、宮古島市議会議員当選後の原告世帯の収入が上記基準を超過するとの認識を有していることを確認した。また、D記者は、沖縄県住宅課に対する取材を通じて、一般に、入居 及び沖縄県の担当者のいずれにおいても、宮古島市議会議員当選後の原告世帯の収入が上記基準を超過するとの認識を有していることを確認した。また、D記者は、沖縄県住宅課に対する取材を通じて、一般に、入居者の収入が条例等で定められた月収 制限を超過した後に3年以上居住した場合には、明渡しの努力義務が発生すること、5年以上居住した場合には、沖縄県が入居者に対して明渡しを求めることを確認していたから、原告世帯に退去義務が生じる時期は、しばらく先であると認識していた。 そして、原告世帯の平成29年における1月当たりの収入が上記基準を超 過しなかったのだとしても、これは、本件記事が公開された後における事情である、原告に営業損失が発生したことや、原告が宮古島市議会議員としての収入を得られなくなったことを考慮したことによるものであって、本件記事の執筆当時に考慮することはほぼ不可能である。 したがって、被告が、本件記事の重要な部分である「原告が宮古島市議会 議員選挙に当選した後である本件記事公開当時、原告世帯の収入が条例等で定められた月収制限を超えること」について真実であると信じたことは、確実な資料、根拠に照らして相当であったというべきであって、さらに、下記のとおり、原告は本件記事が公共の利害に関するものであること及び本件記事の公開が専ら公益を図る目的に出たものであることを争わないから、被告 が本件記事を掲載したことについて、真実相当性の抗弁が認められる。 - 9 -(原告の主張)上記(2)(原告の主張)のとおり、本件記事が公共の利害に関するものであること及び本件記事の公開が専ら公益を図る目的に出たものであることは、争わない。 しかしながら、本件記事を公開するに当たり、本件記事を執筆したD記者 は、原告の夫で 公共の利害に関するものであること及び本件記事の公開が専ら公益を図る目的に出たものであることは、争わない。 しかしながら、本件記事を公開するに当たり、本件記事を執筆したD記者 は、原告の夫であるBの所得及び収入、原告世帯の家族構成、原告世帯におけるその余の収支並びに県営住宅への入居許可に係る収入基準の計算方法について、慎重な裏付け取材を尽くしていない。特に、D記者が、本件記事が公開された平成29年3月当時、原告を取材することによって、原告にすでに発生していた営業損失の存在を知ることができたにもかかわらず、原告に 取材をしなかったことや、沖縄県住宅課の職員が、取材をしたD記者に対し、原告の収入が確定していないため原告世帯に退去義務が発生するか否か確答しなかったにもかかわらず、本件記事を執筆した経緯からすれば、D記者が慎重な裏付け取材を行わなかったことは明らかである。 さらに、本件記事が公開された平成29年3月当時、原告が同年10月に 予定されていた宮古島市議会議員選挙に出馬することは確定していなかった。 以上の事実によれば、被告が、「原告が宮古島市議会議員選挙に当選した後である本件記事公開当時、原告世帯の収入が条例等で定められた月収制限を超えること」について真実であると信じたことが、確実な資料、根拠に照らして相当であったということはできない。 したがって、被告が本件記事を掲載したことについて、真実相当性の抗弁は認められない。 (4) 争点4(損害の発生及びその数額)について(原告の主張)原告は、本件記事の公開によって極めて著しい社会的評価の低下を被り、 また、強い精神的苦痛を受けた。また、本件記事は、平成29年3月22日 - 10 -から現在に至るまで、インターネット上に広く公開されて によって極めて著しい社会的評価の低下を被り、 また、強い精神的苦痛を受けた。また、本件記事は、平成29年3月22日 - 10 -から現在に至るまで、インターネット上に広く公開されている。 原告の被った損害に係る慰謝料は、200万円を下らない。また、本件訴訟を追行するために要した弁護士費用は、上記損害額の1割に相当する20万円である。 (被告の主張) 否認し、争う。 (5) 争点5(消滅時効の成否)について(被告の主張)被告が本件記事をインターネット上に公開したのは平成29年3月22日であり、本件訴訟提起の日(令和2年9月24日)においてすでに3年間を 経過しているため、被告は、消滅時効を援用する。したがって、原告の請求は全て認められない。 仮に、本件記事が現在においてもインターネット上に公開されていることから、被告が継続的不法行為をしているものと評価するとしても、時々刻々と原告に発生している損害のうち、本件訴訟提起の日から遡って3年超の期 間(平成29年3月22日から平成29年9月23日)に発生した損害に係る請求権について、被告は消滅時効を援用する。したがって、原告に認められる損害は、本件記事の掲載から半年以上が経過した平成29年9月24日以降に発生したものに限られ、被告が賠償すべき慰謝料の額は、名目的なものに止まる。 (原告の主張)被告は、現在に至るまで本件記事をインターネット上に公開しているのであって、継続的不法行為をしているというべきであるから、本件訴訟提起の日において、消滅時効が完成していたとはいえない。 また、インターネットを通じてなされる名誉毀損は、そのような表現を含 む記事の公開を終了するまでの期間を通じた1個の不法行為というべきであ - 11 時効が完成していたとはいえない。 また、インターネットを通じてなされる名誉毀損は、そのような表現を含 む記事の公開を終了するまでの期間を通じた1個の不法行為というべきであ - 11 -り、一部について消滅時効を援用することはできないというべきである。 したがって、被告の上記主張は、いずれの点においても理由がない。 (6) 争点6(本件記事の削除の可否)について(原告の主張)本件記事は、現職の市議会議員であるにもかかわらず、意図的に条例に反 する違法行為を行い、指摘を受けても居直る人物であるとの印象を読者に与えるものであるから、本件記事の公開によって原告が被る不利益は大きい一方、その内容が真実ではなく、真実であると信じたことにつき相当性がない上に、被告の創作も含まれていることから、本件記事が表現行為として有する価値はほとんどない。 したがって、上記(1)(原告の主張)のとおり原告の名誉を毀損する本件記事は、削除されるべきである。 (被告の主張)否認し、争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件記事の公開により、原告の社会的評価が低下したか)について(1) ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものである(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。前提事実(1)ア及び(3) 並びに証拠(甲1の1・2)によれば、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準にすると、本件記事は、「県営住宅に係る定めによれば、その申込資格は申込者及びその同居親族の各所得を合計して1月当たり15万8000円以下であること」並びに「原告世帯は、県営住 注意と読み方とを基準にすると、本件記事は、「県営住宅に係る定めによれば、その申込資格は申込者及びその同居親族の各所得を合計して1月当たり15万8000円以下であること」並びに「原告世帯は、県営住宅入居当時である平成29年において、1月当たり約31万円の所得を得ているため上記定めによる月 収制限を大幅に上回るものの、何らかの理由により入居年ではない平成27 - 12 -年度の所得を基準として県営住宅への入居が許可されていること」という事実(以下「本件摘示事実」という。)を摘示するものであると認められる。 本件摘示事実は、公人であって法令等を遵守すべき立場にある原告が、①本件申込み当時には有していた入居資格を、後に喪失したにもかかわらず、なお県営住宅に居住しているか、②そもそも入居資格を有していないにもか かわらず、過年度の所得を申告して県営住宅に居住している点において、県営住宅に係る定めに反する行為をしていると理解されるものであり、原告の社会的評価を低下させるものと認められる。 (2) これに対し、被告は、本件記事において、「原告が宮古島市議会議員に当選した後における原告世帯の所得が条例等で定められた月収制限を超えるこ とになるにもかかわらず、原告が当選する前における原告世帯の所得に基づき『既に』入居審査を受けて県営住宅への入居が認められ『ていたので』、原告が当選した後に原告世帯が県営住宅に入居した」という被告主張摘示事実を摘示したものであり、原告が入居資格を有していたこと自体は認めつつ、入居時の原告世帯の収入が県営住宅の月収制限を超えるにもかかわらず、生 活困窮者のための県営住宅に市議である原告が入居することは、県営住宅の趣旨に反する旨の問題提起をしたものと主張するが、本件記事のタイトルは「当選後 営住宅の月収制限を超えるにもかかわらず、生 活困窮者のための県営住宅に市議である原告が入居することは、県営住宅の趣旨に反する旨の問題提起をしたものと主張するが、本件記事のタイトルは「当選後に月収制限超える県営団地に入居」というものであって、原告が適法に入居資格を得ていたことは何ら窺われるものではないし、「A氏は当選前の平成27年度の所得に基づき入居が認められ、今年2月に入居した」と の記載も、市議の月収が県営住宅の申込資格を上回る旨が記載された後に、原告の申込の時期を特定することなく記載されていることから、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、原告が適法に入居資格を得ていたものと理解することは困難であり、前記(1)のとおり、理解されるものと認められる。 また、被告は、公人の特定の行為につき違法性を指摘する記事を掲載する - 13 -場合には、特定の法令の名称を挙げた上で「条例違反のおそれ」などという見出しを付すことから、そのような見出しのない本件記事においては、原告の条例違反を指摘するものではないと主張する。しかしながら、一般の読者が、見出しに「条例違反のおそれ」などとの文言が付されていない場合には違法性を指摘しない記事であると理解するとは認められず、被告の上記主張 は、前記(1)の認定を左右するものではない。 2 争点2(本件記事の公開に係る真実性の抗弁の成否)について(1) 事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、 上記行為には違法性がなく、不法行為を構成しない(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23 あった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、 上記行為には違法性がなく、不法行為を構成しない(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁、最高裁昭和56年(オ)第25号同58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁、最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁等参照)。そして、原告は、本件記事の公開が公共の利 害に関する事実に係ること及びその公開の目的が専ら公益を図ることにあったことを争わないから、本件記事の公開に係る違法性の存否を判断するに当たっては、本件摘示事実の重要な部分について真実であるか否かが問題となるので、以下検討する。なお、被告は、本件記事により摘示された事実が被告主張摘示事実であることを前提として、「原告の宮古島市議会議員選挙に 当選した後である本件記事公開当時、原告世帯の収入が条例等で定められた月収制限を超えること」を本件記事の重要部分として真実性の抗弁を主張するが、本件記事により摘示された事実が本件摘示事実であった場合には、それを前提とした真実性の抗弁を主張する趣旨を含むものと解される。 (2) 月収制限を超過していたとの摘示事実の真実性について アまず、本件摘示事実の重要な部分の1つは、「原告世帯が、県営住宅の - 14 -入居に係る月収制限を超える政令月収を得ているにもかかわらず、県営住宅に入居したこと」である。しかしながら、原告世帯に適用される入居の条件及び原告世帯の政令月収に係る以下の検討から明らかであるとおり、この点は真実であるとはいえない。 イ前提事実(2)及び(4)によれば、原告が本件申込みをした当時、原告世帯 には未就学児が 条件及び原告世帯の政令月収に係る以下の検討から明らかであるとおり、この点は真実であるとはいえない。 イ前提事実(2)及び(4)によれば、原告が本件申込みをした当時、原告世帯 には未就学児がいたことから、原告世帯が県営住宅に係る入居条件を具備するためには、政令月収が21万4000円を超えないことが基準となっていたと認められる。 ウまた、前提事実(4)及び証拠(甲5)によれば、原告世帯において政令月収を算定するに当たっては、入居者及び同居者の過去一年間における所 得税法の規定に基づき算定した所得金額の合計から、同居者1人につき38万円を減じ、更にこれを12で除することが必要である。 入居者であるBについてみると、証拠(甲3~5)によれば、Bは、県営住宅の入居申込みをした前年である平成27年6月以降において、特定非営利活動法人dのe教室管理者として給与所得を得ていること、住 宅情報センターが作成した「県営住宅空き家待ち入居者募集のしおり」によれば、給与所得者のうち前年又は申込みをした年に現在の勤務先へ中途就職し、勤続期間が12か月に満たない者の年間総収入金額については、「勤務した翌月から申込日の前月までの総収入金額をもとに、収入証明書記載の総収入金額から支払を受けた賞与を減じた金額を収入証 明書記載の勤務月数で除し、これに12を乗じた上で、支払を受けた賞与を加える」との方法により計算するものとされていること、給与所得者である入居者及び同居者の総収入金額が162万4000円以上659万9999円以下であるときは、「同金額を4000で除し小数点以下を切り捨てた上で、これに4000を乗ずる」端数整理をした上で、 この端数整理後の年間総収入金額が180万円以上359万9999円 - 15 -以下で 金額を4000で除し小数点以下を切り捨てた上で、これに4000を乗ずる」端数整理をした上で、 この端数整理後の年間総収入金額が180万円以上359万9999円 - 15 -以下であるときは、「これに0.7を乗じて18万円を控除して所得金額を計算する」ものとされていることが認められる。以上を前提に計算したBの所得金額は、172万9600円である。 そして、原告世帯の同居者は原告及び原告の子3名の合計4名であるから、原告世帯の政令月収を計算すると、Bの所得金額である172万9 600円から、同居者4名についてそれぞれ38万円(合計152万円)を減じ、これを12で除した1万7466円となる。 エ前記イ及びウによれば、原告世帯においては、県営住宅の入居に係る月収制限である21万4000円を超える政令月収を得ていなかったと認められるから、本件摘示事実の重要な部分である「原告世帯が、県営住宅の 入居に係る月収制限を超える収入を得ているにもかかわらず、県営住宅に入居したこと」は、真実であるとはいえない。 (3) 平成29年における原告の所得に係る摘示事実の真実性についてア本件摘示事実の重要な部分としては、「原告世帯は、県営住宅入居当時である平成29年において、入居にかかる月収制限を超える政令月収を得 ていること」との点も挙げられる。 イしかしながら、前提事実(4)のとおり、本件条例によれば、県営住宅の入居申込みに当たっては、申込みから遡って過去一年間の「収入」が考慮されること、入居者の入居許可後の収入が本件条例6条所定の基準を超えるときには、直ちに入居資格が失われるのではなく、引き続き3年以上入 居しているときに収入超過者と認定された上で明渡しの努力義務が発生するにとどまること(本件条例29条、 6条所定の基準を超えるときには、直ちに入居資格が失われるのではなく、引き続き3年以上入 居しているときに収入超過者と認定された上で明渡しの努力義務が発生するにとどまること(本件条例29条、30条)から、原告の県営住宅の入居資格の認定に当たり、入居時である平成29年における原告世帯の収入を考慮することは、それ自体誤りである。 また、前提事実(4)及び弁論の全趣旨によれば、入居者は、一年間の所 得金額が確定した後、沖縄県知事に対して収入を申告し、これに基づき - 16 -収入超過者と認定すべきか否かの審査を受けるところ(本件条例15条、29条)、原告世帯が県営住宅に入居した事実を報じた本件記事の公開当時には、約7か月後に宮古島市議会議員選挙が予定されていた上、公開前日には宮古島市議会で原告に対する辞職勧告決議案が可決されていたというのであり、原告が1年間にわたって宮古島市議会議員としての 議員報酬を得られるか否かは不確定であったから、この時点において「月収制限を超える」旨の確定的な見込があったともいえないのであり、この点においても本件摘示事実には誤りがある(なお、前提事実(5)のとおり、平成29年における原告世帯の所得金額を踏まえて計算した政令月収は19万1168円であり、裁量世帯の基準額である21万400 0円を超えないから、「原告世帯が、平成29年において、月収制限を超える収入を得ていること」は、結果的にも誤りであった。)。 ウしたがって、本件摘示事実の重要な部分である「原告世帯は、県営住宅入居当時である平成29年において、入居にかかる月収制限を超える収入を得ていること」についても、真実であるとはいえない。 (4) 小括以上によれば、本件摘示事実の重要な部分は真実であるとは認められな る平成29年において、入居にかかる月収制限を超える収入を得ていること」についても、真実であるとはいえない。 (4) 小括以上によれば、本件摘示事実の重要な部分は真実であるとは認められないから、本件記事の公開に違法性がないとして不法行為を構成しないとはいえない。 3 争点3(本件記事の公開に係る真実相当性の抗弁の成否)について (1) 事実を摘示しての名誉毀損にあっては、摘示された事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される(前掲最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決、前掲最高裁昭和58年10月20日第一小法廷判決、前掲最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決参照)。そして、上記2 (1)と同様、原告は、本件記事の公開が公共の利害に関する事実に係ること - 17 -及びその公開の目的が専ら公益を図ることにあったことを争わないから、本件記事の公開に係る違法性の存否を判断するに当たっては、本件摘示事実の重要な部分について真実と信ずるについて相当の理由があったか否かが問題となるので、以下検討する。なお、被告は、本件記事により摘示された事実が被告主張摘示事実であることを前提として、「原告の宮古島市議会議員選 挙に当選した後である本件記事公開当時、原告世帯の収入が条例等で定められた月収制限を超えること」を本件記事の重要部分として真実相当性の抗弁を主張するが、本件記事により摘示された事実が本件摘示事実であった場合には、それを前提とした真実相当性の抗弁を主張する趣旨を含むものと解される。 (2) 本件記事の公開に至るD記者の取材経緯について本件記事の公開に至るまでにD記者がした取材の経緯について、前提事実(2 とした真実相当性の抗弁を主張する趣旨を含むものと解される。 (2) 本件記事の公開に至るD記者の取材経緯について本件記事の公開に至るまでにD記者がした取材の経緯について、前提事実(2)及び(3)並びに証拠(甲1(枝番含む)、乙2(枝番含む)、7、証人D)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実(以下、単に「認定事実」という。)が認められる(なお、鍵括弧を付した文言は、D記者の取材ノートの 表記のとおり摘示するものである。また、本項においては、特に断らない限り、日付はいずれも平成29年のものである。)。 ア D記者は、3月20日の数日前、沖縄県宮古島市の住民より、宮古島市議会議員である原告が県営住宅に入居していることにつき、近隣住民から疑問の声が上がっている旨の情報提供を受けた。これを受けて、D記者は、 原告の県営住宅に係る取材を開始した。(乙7、証人D)イ D記者は、宮古島市議会事務局に架電し、宮古島市議会議員の報酬が月額34万2000円であること、1月22日に宮古島市議会議員補欠選挙に当選した原告が同年2月22日に受給した同月までの報酬の合計額が62万1550円であることなどを確認したが、原告の連絡先については確 認しなかった。(乙2(枝番含む)、7、証人D) - 18 -ウ D記者は、沖縄県住宅供給公社のウェブサイトを閲覧し、県営住宅の入居資格は、入居者の月収が15万8000円以下であるか、未就学児がある世帯(裁量世帯)である場合には入居者の月収が21万4000円以下であるかのいずれかであるときに認められることを確認した。 その後、D記者は、沖縄県住宅供給公社に架電し、県営住宅の指定管理 者が住宅情報センターであること、住宅情報センターの担当者及び連絡先を知った。 (乙7、証人 きに認められることを確認した。 その後、D記者は、沖縄県住宅供給公社に架電し、県営住宅の指定管理 者が住宅情報センターであること、住宅情報センターの担当者及び連絡先を知った。 (乙7、証人D、弁論の全趣旨)エ D記者は、住宅情報センターに架電し、原告の県営住宅の入居に係る取材をした。住宅情報センターの担当者への取材を通じ、D記者は、原告が 県営住宅への入居の前年度である平成27年度の所得に基づき入居が認められていること、原告が入居前は宮古島市議会議員でなかったことから、平成27年度の所得に基づき収入を計算していたところ、議員報酬に基づき「かりさんてい(判決注・「仮算定」の趣旨と解される。)」した場合には「収入オーバー」となることから、沖縄県に相談して判断を仰いだと の事情に接した。(乙2(枝番含む)、7、証人D、弁論の全趣旨)オさらに、D記者は、沖縄県住宅課に架電し、原告の県営住宅の入居に係る取材をした。沖縄県住宅課の担当者への取材を通じ、D記者は、原告が平成27年度の所得証明書を提出して県営住宅への入居を認められたこと、入居資格の判断に当たっては、入居者の所得及び同居者の人数によって定 まる控除額が考慮の対象となること、仮に「小さな子供がいると」、県営住宅の「入居要件」が21万4000円となること、県営住宅への入居時点において「まだ収入(判決注:原告の平成29年の1年間の所得金額又はそれに基づき計算される収入)かくていしてないので言えない(判決注:断言できないとの趣旨と解される。)」が、入居資格である月収制限 を「上回るかくりつはきわめて高い」こと、県営住宅の入居が3年以上と - 19 -なる場合に入居資格である月収制限を超えていた場合には、入居者に明渡義務が発生すること、更に四、 限 を「上回るかくりつはきわめて高い」こと、県営住宅の入居が3年以上と - 19 -なる場合に入居資格である月収制限を超えていた場合には、入居者に明渡義務が発生すること、更に四、五年目にも「高額な収入」が継続すれば、本件条例29条に基づき、沖縄県が原告世帯に対して明渡しを求めることとなることとの事情に接した。(乙2(枝番含む)、7、証人D、弁論の全趣旨) カ D記者は、原告の市議当選後の原告世帯の政令月収が入居条件を上回ることにつき、住宅情報センター及び沖縄県住宅課の各担当者が同一の認識を示しているため、情報に信ぴょう性があると判断し、3月22日、本件記事を執筆した。 被告のウェブサイトを管理する編集長が本件記事の内容を確認し、D記 者の確認も経た上で「自衛隊差別発言のA・宮古島市議、当選後に月収制限超える県営団地に入居」との見出しを付し、被告のウェブサイト上に本件記事を公開した。 (甲1(枝番含む)、乙7、証人D、弁論の全趣旨)(3) 平成29年における原告の所得に係る摘示事実について ア本件摘示事実の重要な部分の一つである「原告世帯は、県営住宅入居当時である平成29年において、入居にかかる月収制限を超える政令月収を得ていること」との点について検討すると、前記(2)の認定事実によれば、D記者は、入居資格に係る月収制限が15万8000円以下又は21万4000円以下であること、「小さな子供」を同居者に含む場合には21万 4000円以下の基準が適用されることは、取材によって確認していたものの、原告世帯において適用される基準がいずれであるかについては確認していない。 前記1(1)のとおり、本件記事は、原告世帯の政令月収に着眼したものであり、原告世帯の政令月収を比較すべき基準を特 の、原告世帯において適用される基準がいずれであるかについては確認していない。 前記1(1)のとおり、本件記事は、原告世帯の政令月収に着眼したものであり、原告世帯の政令月収を比較すべき基準を特定することは基本的な 取材事項であると考えられ、本件記事においても、現に「県営住宅に係る - 20 -定めによれば、その申込資格は1月当たり15万8000円以下であること」という政令月収に係る基準を摘示している。そして、このような取材事項は、沖縄県住宅課や住宅情報センターに問合せをしたり、原告本人又は宮古島市議会事務局に質問状を送付したりするなどの取材を試みることにより容易に明らかにできた可能性が高い。にもかかわらず、そのような 取材を行わず、原告世帯の政令月収を比較すべき基準について、裁量世帯の政令月収の基準が21万4000円以下であることを認識していたにもかかわらず、上記のとおり、一般の読者をして原告世帯に15万8000円以下の基準が適用されるものと理解される不正確な摘示を行ったものであり、本件記事に係る被告の取材は、基本的な取材事項の取材を欠いた不 十分なものであったというほかない。 また、前記(2)の認定事実によれば、住宅情報センター及び沖縄県住宅課の各担当者は、いずれも、原告が平成29年の1年間にわたって宮古島市議会議員としての報酬を得続けると仮定した場合には本件条例所定の月収制限を上回る可能性があることを指摘したにすぎず、D記者が取 材した当時においてすでに月収制限を上回っていることや、今後確実に上回ることまでを断定的に指摘したものではない。他方、前記2(3)イのとおり、本件記事の公開当時には、約7か月後に宮古島市議会議員選挙が予定されていた上、公開前日には宮古島市議会で原告に対する辞職勧告決 ことまでを断定的に指摘したものではない。他方、前記2(3)イのとおり、本件記事の公開当時には、約7か月後に宮古島市議会議員選挙が予定されていた上、公開前日には宮古島市議会で原告に対する辞職勧告決議案が可決されていたという事情があり、原告が1年間にわたって 宮古島市議会議員としての議員報酬を得られるか否かは不確定な状況にあった。 イそうすると、被告は基本的な取材事項につき取材を尽くしたものとは認められないし、原告が平成29年の1年間にわたって宮古島市議会議員としての議員報酬を得られるか否かは不確定な状況にあったにもかかわらず、 平成29年の1年間にわたって宮古島市議会議員としての議員報酬を得ら - 21 -れると仮定した場合の見通しに安易に依拠したものと認められ、被告が本件摘示事実のうち前記アの「原告世帯は、県営住宅入居当時である平成29年において、入居にかかる月収制限を超える政令月収を得ていること」につき真実であると誤信したことには、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があったとは認められない。 (4) 小括以上によれば、本件摘示事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があるとは認められないから、本件記事の公開に故意又は過失がないととはいえない。 4 争点4(損害の発生及びその数額)及び争点5(消滅時効の成否)について (1) 本件記事は、公開当時、宮古島市議会議員という公人であった原告が、低所得者の入居を想定している県営住宅への入居について、法令に違反する行為を行って不正に入居した可能性を示唆するものであり、原告の社会的評価を大きく低下させたというべきである。また、前提事実(3)及び証拠(乙3、原告本人)によれば、原告は、本件記事の公開当時、自衛隊配備に関するS NSにお を示唆するものであり、原告の社会的評価を大きく低下させたというべきである。また、前提事実(3)及び証拠(乙3、原告本人)によれば、原告は、本件記事の公開当時、自衛隊配備に関するS NSにおける発言によって世間の耳目を集めており、公開直後における本件記事のページビュー数が4万件を超えたこと、本件記事は公開から一定期間経過後はほとんど閲覧されていないものの、公開から4年以上が経過した現在においても被告の管理するウェブサイトにおいて公開されていることの各事実が認められることからすると、本件記事は相当数の読者に閲覧されたと いえるから、このような点からみても、原告が被った社会的評価の低下及び精神的苦痛の程度は大きい。 これらに加えて、前記3において説示したとおり、D記者が十分な取材を尽くさないまま、本件記事が被告の管理するウェブサイトに公開されたことは、慰謝料を算定するに当たり無視できない。 (2) もっとも、本件記事のように、インターネット上に継続して公開されてい - 22 -る記事等による名誉毀損については、当該記事等が検索等によって容易にアクセスし得る状態に置かれていることから、日々新たな読者が生じ得て、これにより原告の精神的苦痛が継続的に発生し得るものというべきであるが、本件記事の公開によって発生する精神的苦痛は、これを不可分一体のものとして把握しなければならないものとはいえない。そして、前提事実(3)及び 証拠(原告本人)によれば、原告は本件記事の公開された日のうちに公開の事実を認識し、翌月には被告に対して抗議文を提出して、半年を経過しない間に弁護士に法律相談をしたことが認められ、原告が本件記事の公開を知った時点において、被告に対する損害賠償請求権の行使を妨げるべき事情があったものとは認められ して抗議文を提出して、半年を経過しない間に弁護士に法律相談をしたことが認められ、原告が本件記事の公開を知った時点において、被告に対する損害賠償請求権の行使を妨げるべき事情があったものとは認められない。そうすると、本件記事の公開によって継続的に 発生する損害賠償請求権の消滅時効は、本件記事の公開を認識した時点又は損害が発生した時点のいずれか遅い時点から進行を始めると解するのが相当である。 そして、原告が本件記事の公開を認識した日が平成29年3月22日であり、本件訴訟を提起した日が令和2年9月24日であることから、本件記事 の公開により平成29年9月23日までに発生した損害に係る損害賠償請求権については、消滅時効が完成したところ、被告は、令和3年3月18日到達の同月23日付け第1準備書面をもって、上記消滅時効を援用するとの意思表示をした。 (3) 以上を総合考慮すると、平成29年9月24日以降の本件記事の公開の継 続により発生した精神的苦痛に対する慰謝料は、10万円をもって相当と認める。 また、原告は、本件訴訟の追行を弁護士に依頼することを余儀なくされたところ、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌すると、弁護士費用のうち1万円は、平成29年9月24日以降の本件記事の公開の 継続と相当因果関係のある損害と認められる。 - 23 - 5 争点6(本件記事の削除の可否)について前提事実(3)のとおり、本件記事は、現在に至るまで継続してインターネット上に掲載されており、原告の人格権が侵害され続けているものといわざるを得ないから、被告に対し、その削除を命じるのが相当である。 第4 結論 以上によれば、原告の請求は主文1項及び2項の限度で理由があるからこれを認容し、その れ続けているものといわざるを得ないから、被告に対し、その削除を命じるのが相当である。 第4 結論 以上によれば、原告の請求は主文1項及び2項の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第43部 裁判長裁判官古庄研 裁判官廣瀬仁貴 裁判官石原拓 - 24 -別紙投稿記事目録につき省略 - 25 -(別紙)県営住宅の入居に関する法令の定め 1 沖縄県県営住宅の設置及び管理に関する条例(沖縄県昭和48年条例第45号。以下「本件条例」という。甲2)(用語の定義) 第2条この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。 (1) 県営住宅県公営住宅及び県改良住宅をいう。 (2) 県公営住宅県が建設、買取り又は借上げを行い、低額所得者に賃貸し、又は転貸するための住宅及びその附帯施設で、法の規定による 国の補助に係るものをいう。 (3)〜(5) (省略)(6) 収入公営住宅法施行令(昭和26年政令第240号。以下「政令」という。)第1条第3号に規定する収入をいう。 (7)・(8) (省略) (入居者の資格)第6条県公営住宅に入居する者は、次の各号の条件を具備する者でなければならない。 (1) (省略)(2) その者の収入がアからカまでに掲げる場合に応じ、それぞれアから カまでに定める金額を超えないこと。 ア〜ウ (省略)エ同居者に小学校就学の始期に達するまでの者がある場合 (2) その者の収入がアからカまでに掲げる場合に応じ、それぞれアから カまでに定める金額を超えないこと。 ア〜ウ (省略)エ同居者に小学校就学の始期に達するまでの者がある場合 214,000円オ (省略) カアからオまでに掲げる場合以外の場合 158,000円 - 26 -2〜4 (省略)(入居の申込み及び決定)第8条前2条に規定する入居者資格のある者で県公営住宅に入居しようとする者は、知事の定めるところにより入居の申込みをしなければならない。 2・3 (省略)(収入の申告等)第15条入居者は、毎年度、知事に対し、収入を申告しなければならない。 2 前項の規定による収入の申告は、省令7条に規定する方法によるも のとする。 3 知事は、第1項の規定による収入の申告に基づき、収入の額を認定し、当該額を入居者に通知するものとする。 4 (省略)(収入超過者等に対する認定) 第29条知事は、毎年度、第15条第3項の規定により認定した入居者の収入が第6条第1項第2号の金額を超え、かつ、当該入居者が県公営住宅に引き続き3年以上入居しているときは、当該入居者を収入超過者として認定し、その旨を通知する。 2・3 (省略) (明渡しの努力義務)第30条収入超過者は、その者の入居している県公営住宅を明け渡すように務めなければならない。 2 公営住宅法施行令(昭和26年政令第240号。以下「本件政令」という。 甲35) (用語の定義) - 27 -第1条この政令において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。 一・二 (省略)三収入入居者及び同居者の過去一年間における所得税法(昭和4 - 27 -第1条この政令において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。 一・二 (省略)三収入入居者及び同居者の過去一年間における所得税法(昭和40年法律第33号)第2編第2章第1節から第3節までの例に準じて算 出した所得金額((省略)以下「所得金額」という。)の合計から次に掲げる額を控除した額を12で除した額をいう。 イ (省略)ロ同居者又は所得税法第2条第1項第33号に規定する同一生計配偶者((省略))若しくは同項34号に規定する扶養親族((省 略))で入居者及び同居者以外のもの1人につき38万円ハ〜ト (省略) 3 所得税法(昭和40年法律第33号)(定義)第二条この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号 に定めるところによる。 一〜三十二 (省略)三十三同一生計配偶者居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもの(省略)のうち、合計所得金額が48万円以下である者をいう。 三十三の二(省略)三十四扶養親族居住者の親族(その居住者の配偶者を除く。)(省略)でその居住者と生計を一にするもの(省略)のうち、合計所得金額が48万円以下である者をいう。 三十四の二〜四十八 (省略) 2 (省略)
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