- 1 - 主文 被告人を懲役9年に処する。 未決勾留日数中370日をその刑に算入する。 高松地方検察庁で保管中の刃1本(令和5年高松地検領第677号符号25)、ナイフの鞘1本(同号符号26)、ナイフの柄1本(同号符号27)、ゴルフクラブ(ヘッド部分が欠損しているもの)1本(同号符号28)及びゴルフクラブのヘッド1個(同号符号29)をいずれも没収する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は第1 A株式会社に勤務し、平成8年頃から同社の労働組合の経理事務を担当し、株式会社B銀行C支店に開設されたA労働組合会計被告人名義の普通預金口座を管理するなどの業務に従事していたものであるが、自己の用途に費消する目的で 1 同口座から、順次現金を出金してこれを同労働組合のため業務上預かり保管中、別表1(添付省略)「横領日」欄記載の日、同表「横領場所」欄記載の場所において、2回にわたり、同表「横領額」欄記載のとおり、合計10万円を着服して横領した 2 同口座の預金を同労働組合のため業務上預かり保管中、別表2(添付省略)「横領日」欄記載の日、同表「横領場所」欄記載の場所において、4回にわたり、同口座から、同表「横領額」欄記載のとおり、合計47万7800円を出金して横領した第2 前記第1記載の普通預金口座を管理し、前記労働組合に係る決算報告書を作成して提出していたものであるが、同口座の預金残高が実際の残高よりも多額であるように装って、同労働組合会計担当者等の事務処理を誤らせる目的で- 2 - 1 令和元年6月25日頃から同年7月10日までの間に、香川県内又はその周辺において、パーソナルコンピュータを利用するなどして、別表3(添付省略)記載のとおり、株式会社B銀 的で- 2 - 1 令和元年6月25日頃から同年7月10日までの間に、香川県内又はその周辺において、パーソナルコンピュータを利用するなどして、別表3(添付省略)記載のとおり、株式会社B銀行作成名義の同口座の取引履歴に係る普通預金通帳の「差引残高」欄を含む24行を改ざんしたPDFファイル1個を不正に作出した上、同日、香川県内又はその周辺において、同労働組合執行委員長であったDに対し、前記PDFファイルを電子メールに添付して前記PDFファイルが真正に成立したもののように装って送信し、同日頃、高松市(住所省略)A株式会社本社工場a棟内において、Dに前記PDFファイルを閲覧させ 2 令和2年7月2日、香川県内又はその周辺において、パーソナルコンピュータを利用するなどして、別表4(添付省略)記載のとおり、同銀行作成名義の同口座の取引履歴に係る普通預金通帳の「差引残高」欄を含む18行を改ざんしたPDFファイル1個を不正に作出した上、同日、香川県内又はその周辺において、前記Dに対し、前記PDFファイルを電子メールに添付して前記PDFファイルが真正に成立したもののように装って送信し、同日頃、同本社工場b工場内において、Dに前記PDFファイルを閲覧させ 3 令和3年6月30日頃から同年7月3日までの間に、香川県内又はその周辺において、パーソナルコンピュータを利用するなどして、別表5(添付省略)記載のとおり、同銀行作成名義の同口座の取引履歴に係る普通預金通帳の「差引残高」欄を含む13行を改ざんしたPDFファイル1個を不正に作出した上、同日、香川県内又はその周辺において、前記Dに対し、前記PDFファイルを電子メールに添付して前記PDFファイルが真正に成立したもののように装って送信し、同月5日頃、同本社工場b工場内において、Dに前記P 香川県内又はその周辺において、前記Dに対し、前記PDFファイルを電子メールに添付して前記PDFファイルが真正に成立したもののように装って送信し、同月5日頃、同本社工場b工場内において、Dに前記PDFファイルを閲覧させ 4 令和4年6月22日頃から同月24日までの間に、香川県内又はその周辺において、パーソナルコンピュータを利用するなどして、別表6(添付省略)- 3 -記載のとおり、同銀行作成名義の同口座の取引履歴に係る普通預金通帳の「差引残高」欄を含む5行を改ざんしたPDFファイル1個を不正に作出した上、同日、香川県内又はその周辺において、同労働組合会計担当者であったEに対し、前記PDFファイルを電子メールに添付して前記PDFファイルが真正に成立したもののように装って送信し、同日頃、同本社工場c棟内において、Eに前記PDFファイルを閲覧させ 5 令和5年7月10日頃から同月12日までの間に、香川県内又はその周辺において、パーソナルコンピュータを利用するなどして、別表7(添付省略)記載のとおり、同銀行作成名義の同口座の取引履歴に係る普通預金通帳の「差引残高」欄を含む20行を改ざんしたPDFファイル1個を不正に作出した上、同日、香川県内又はその周辺において、同労働組合会計担当者であったFに対し、前記PDFファイルを電子メールに添付して前記PDFファイルが真正に成立したもののように装って送信し、同日頃、香川県さぬき市(住所省略)A株式会社d工場内において、Fに前記PDFファイルを閲覧させもってそれぞれ人の事務処理の用に供する事実証明に関する電磁的記録を不正に作出するとともに、人の事務処理の用に供した第3 A株式会社に勤務し、平成22年11月頃から同社の正社員で構成される互助会であるG会の経理事務を担当し、株式会社B銀 証明に関する電磁的記録を不正に作出するとともに、人の事務処理の用に供した第3 A株式会社に勤務し、平成22年11月頃から同社の正社員で構成される互助会であるG会の経理事務を担当し、株式会社B銀行C支店に開設されたG会代表被告人名義の普通預金口座を管理するなどの業務に従事していたものであるが、6回にわたり、別表8(添付省略)「出金日」欄記載の日、同表「出金場所」欄記載の場所において、同口座から、同表「出金額」欄記載の現金を順次出金してこれをG会のためその都度業務上預かり保管中、自己の用途に費消する目的で、いずれもその頃、香川県内又はその周辺において、同表「横領額」欄記載のとおり、合計38万4000円を着服して横領した第4 令和5年7月14日午前7時10分頃、高松市(住所省略)路上において、H(当時61歳)に対し、殺意をもって、手に持ったゴルフクラブ(令和5年- 4 -高松地検領第677号符号28、29)でその右頸部付近を1回殴打した上、手に持った果物ナイフ(刃体の長さ約9.8cm)でその胸部を1回突き刺すなどしたが、Hに全治まで約3か月間を要する右血気胸、肺裂創、胸骨損傷及び右内胸動脈損傷の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかった第5 業務その他正当な理由による場合でないのに、前記第4記載の日時場所において、前記第4記載の果物ナイフ(令和5年高松地検領第677号符号25ないし27)1本を携帯した。 (証拠の標目)(略)(事実認定の補足説明)判示第4について、被告人は、暴行に及んで被害者に傷害を負わせた事実を認めるものの、殺意はなかった旨供述する。当裁判所が被告人の殺意を肯定した理由は、次のとおりである。 まず、ゴルフクラブで殴打された点について、被害者は次のように証言している。 すなわち、不審 認めるものの、殺意はなかった旨供述する。当裁判所が被告人の殺意を肯定した理由は、次のとおりである。 まず、ゴルフクラブで殴打された点について、被害者は次のように証言している。 すなわち、不審者が後ろから迫ってくる気配を感じたので、振り向いたところ、その頭上にゴルフクラブを振り上げていたので、とっさに頭を左側に傾けて避けようとしたところ、右の首元に強い衝撃を受けた、というのである。なお、被害者は、その不審者が誰か分からなかったと述べている。 この被害者の証言は具体的である上、被告人自身も、同様に、被害者が頭を傾けたところに、頭上に振り上げたゴルフクラブを思いっ切り振り下ろして、その右頸部付近を殴打した旨認めている。被害者の証言は信用でき、被害者は、この際、判示のとおり、ゴルフクラブで右頸部付近を1回殴打されたと認められる。なお、ゴルフクラブ(ウェッジ)は、ヘッドの付け根の部分が破断しているから、被告人は、相当に強い力で殴打したと認められる。 この点、被告人は、被害者の頸部付近をあえて狙ったのであって、頭部を狙っていないから、殺意はなかった旨供述している。しかし、鈍器で攻撃するに当たり、- 5 -わざわざ面積が狭く狙いを定めにくい頸部を狙ったということや、頸部を狙うのに頭上から垂直に振り下ろしたというのは不自然である。これを措いて、仮に被告人の述べるとおり、頸部付近を狙ったものであったとしても、被害者の動き等によって、振り下ろしたゴルフクラブが頭部に直撃する可能性は相応に高いといえるし、頭部に直撃すれば致命傷となる危険性は高いから、生命に対する配慮は感じられず、被告人は、被害者が死亡する危険性のある行為をそのような行為と分かって、ゴルフクラブで被害者を殴打したといえ、この時点で、既に、死んでも構わないという殺意があった ら、生命に対する配慮は感じられず、被告人は、被害者が死亡する危険性のある行為をそのような行為と分かって、ゴルフクラブで被害者を殴打したといえ、この時点で、既に、死んでも構わないという殺意があったといえる。 次に、果物ナイフで胸部を刺された点について、被害者は次のように証言している。すなわち、その後、不審者ともみ合ううちに、川沿いのガードレール付近で仰向けに押し倒され、四つん這いになったところ、右側に寄ってきた不審者が、その着衣のポケットの中を探るような動きをしたので、右手を不審者の方に差し伸ばして上体を起こしたところ、不審者から左手で右肩をつかまれて引き寄せられ、胸に強い衝撃を受けた、というのである。 まず、創傷や凶器の状況をみると、犯行に使用された果物ナイフは、刃体の長さ約9.8cm、厚さ1mmである。そして、刃は、上向きで、胸部中央上に、胸の中心に向かってほぼ垂直に、被害者から見てやや上から下に傾いて、約1.8cmの胸骨柄を貫通し、約7.7cmの深さまで刺さり、根元から破断している。このように、果物ナイフは、骨を貫通し、刃の大部分が刺さった後、刃の根元から破断したのであるから、相当に強い力で握られて突き刺されたと認められる。 そして、被害者の証言は、具体的かつ明確である上、不自然なところは見当たらず、見たこと、見ていないことを区別して述べており、殊更誇張しているところも見当たらない。被害者の証言は、上記のとおりの創傷の部位、程度と極めてよく整合している上、川沿いのガードレール付近で刺された後、橋を渡ったとする点についても、残された血痕の状況とよく整合している。なお、被害者は、被害翌日、集中治療室において、警察官の取調べを受けた際、上記とは異なる被害態様を述べた- 6 -ようである。しかし、その供述は、緊急手術後 残された血痕の状況とよく整合している。なお、被害者は、被害翌日、集中治療室において、警察官の取調べを受けた際、上記とは異なる被害態様を述べた- 6 -ようである。しかし、その供述は、緊急手術後の集中治療室で録取されたものであり、十分に記憶を喚起してなされたものとは必ずしもいえない上、被害者は、その後に実施した再現等により、詳細に記憶がよみがえり、上記証言に至った旨述べており、供述の変遷理由を合理的に述べている。これをもって、被害者の証言の信用性が減殺されるとはいえない。被害者の証言は信用できる。被害者は、上記の胸の衝撃を受けた際に、果物ナイフで胸部を刺されたと認められる。 他方、被告人は次のように供述した。すなわち、もみ合いとなって、被害者が左手で自分の額を押さえて爪を立ててきたので、果物ナイフを持った右手の甲で、被害者の左手を、振り払うように前に突き出したところ、刃物が刺さるような感触があった、というのである。しかし、被告人の供述する内容は、上記のとおりの創傷が生じたり、果物ナイフが破断したりするほど、強い力が加えられるものとは認め難く、これら客観的状況と整合しない。被告人の供述は信用できない。 上記信用できる被害者の証言によれば、被告人は、意図して被害者の胸部を果物ナイフで刺したと認められる。これが死ぬ危険性の高い行為であることは明らかであり、被告人はそれと分かってその行為に及んでいるから、死んでも構わないという殺意があったことは明らかである。 したがって、判示のとおり認定した。 (法令の適用)(略)(量刑の理由)被告人は、上司である被害者の日頃の言動に、一方的に恨みを募らせ、通勤中の被害者を襲撃しようと考え、帽子とマスクで顔を隠した上、ゴルフクラブと果物ナイフを持参し、被害者の通勤経路に赴き、 理由)被告人は、上司である被害者の日頃の言動に、一方的に恨みを募らせ、通勤中の被害者を襲撃しようと考え、帽子とマスクで顔を隠した上、ゴルフクラブと果物ナイフを持参し、被害者の通勤経路に赴き、判示の殺人未遂に及んだ。被告人は、いきなり、被害者の背後から、そのゴルフクラブを、力を込めて、頭上から振り下ろして、被害者の右頸部付近を殴打し、ゴルフクラブを破断させた。それ自体相当に危険な行為である。さらに、被告人は、抵抗してもみ合いとなった末、四つん這い- 7 -になった被害者が、右手を伸ばして上体を起こそうとしたところ、その胸部を、果物ナイフで、胸骨を貫通させるほどの強い力で突き刺し、果物ナイフを刃の根元から破断させた。極めて危険な犯行態様である。被告人は、被害者を殺害する計画を立てて現場に赴いたとは認められないものの、強烈な力で胸部に果物ナイフを突き刺しており、死ぬ危険性が相当に高い行為をあえて行ったその意思決定は、厳しく非難されるべきである。被告人は被害者の言動に恨みを募らせたというが、仮に被告人の述べたとおりのことがあったとしても、およそ襲撃が正当化されるようなものではない。極めて短絡的な犯行であり、酌むべきものはない。被害者は、判示のとおり、全治まで約3か月間を要する肺裂創、右内胸動脈損傷等の重い傷害を負った。朝の通勤中にいきなり上記のような被害に遭った恐怖感は計り知れず、その精神的苦痛も大きい。被害結果は大きいが、犯行から1年以上経過しても、何ら慰藉の措置は講じられていない。本件殺人未遂は、同種事案と比較して、重い部類に位置付けられると思料する。 その上、被告人は、勤務先の労働組合と互助会の経理事務を担当し、その口座の管理を任されていたにもかかわらず、判示のとおり、合計96万円余りを横領し、その発覚を免れるため、労働 れると思料する。 その上、被告人は、勤務先の労働組合と互助会の経理事務を担当し、その口座の管理を任されていたにもかかわらず、判示のとおり、合計96万円余りを横領し、その発覚を免れるため、労働組合の通帳のデータを改ざんし、提出した。信頼を逆手に取った利欲的な犯行である。被害も多額であるが、一切弁償されていない。この一連の犯行も、決して軽視できるものではない。 被告人の刑事責任は相当に重い。 被告人が、犯した罪や周囲に与えた影響の大きさを受け止め、これに真剣に向き合う姿勢を示しているとは認められない。殺意を争うほかは事実を認め、当公判廷において、社会復帰後に、被害弁償の努力をする旨述べるなど、被告人なりに反省の言葉を述べたこと、母や地元青年会会長が、更生を支援する旨約束したこと、前科がないことなど、被告人のために酌むことができる事情を考慮しても、被告人は主文の実刑を免れないと判断した。 (求刑懲役10年、主文同旨の没収)- 8 -令和6年11月6日高松地方裁判所刑事部 裁判長裁判官深野英一 裁判官池内継史 裁判官安部祐希
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