主文 1 被告は,原告が大田区α地域行政センターの生活福祉課において平成15年4月分及び同年5月分の生活扶助費の請求をしたときは,原告に対し,2万9198円を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,2万9198円,及び内1万4599円については平成15年4月4日から,内1万4599円については同年5月3日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告から生活保護法に基づく生活保護を受けていた原告が,平成15年4月分及び同年5月分の生活扶助費について,現金書留で送金してくれるように求めたのに,送金がなされず,未支給であるとして,被告に対し,上記各生活扶助費の支払及び上記各生活扶助費について各支給日の翌日から各支払済みまでの遅延損害金の支払を求めている事案である。 1 法令の定め(1) 生活保護法の定め等ア保護の実施機関についてa 都道府県知事,市長及び社会福祉法に規定する福祉に関する事務所(以下「福祉事務所」という。)を管理する町村長は,次に掲げる者に対して,生活保護法の定めるところにより,保護を決定し,かつ,実施しなければならない(生活保護法19条1項)。 (a) その管理に属する福祉事務所の所管区域内に居住地を有する要保護者(同項1号)(b) 居住地がないか,又は明らかでない要保護者であって,その管理に属する福祉事務所の所管区域内に現在地を有するもの(同条2号)なお,社会福祉事務所は,都道府県及び市(特別区を含む。)が条例で設置しなければならないものとされている( に属する福祉事務所の所管区域内に現在地を有するもの(同条2号)なお,社会福祉事務所は,都道府県及び市(特別区を含む。)が条例で設置しなければならないものとされている(社会福祉法14条1項)。 b 生活保護法19条1項ないし3項の規定により保護を行うべき者(以下「保護の実施機関」という。)は,保護の決定及び実施に関する事務の全部又は一部を,その管理に属する行政庁に限り,委任することができる(同条4項)。 c 保護の実施機関は,保護の決定及び実施に関する事務の一部を,政令の定めるところにより,他の保護の実施機関に委託して行うことを妨げない(同条5項)。 イ生活扶助についてa 生活扶助の内容生活扶助(同法11条1項1号)は,困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して,次に掲げる事項の範囲内において行われる(同法12条)。 (a) 衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なもの(同条1号)(b) 移送(同条2号)b 生活扶助の方法(a) 生活扶助は,被保護者の居宅において行うものとする(同法30条1項本文)。 (b) 生活扶助は,金銭給付によって行うものとする。ただし,これによることができないとき,これによることが適当でないとき,その他保護の目的を達するために必要があるときは,現物給付によって行うことができる(同法31条1項)。 生活扶助のための保護金品は,一月分以内を限度として前渡するものとする。ただし,これにより難いときは,一月分を超えて前渡することができる(同条2項)。 。 生活扶助のための保護金品は,一月分以内を限度として前渡するものとする。ただし,これにより難いときは,一月分を超えて前渡することができる(同条2項)。 居宅において生活扶助を行う場合の保護金品は,世帯単位に計算し,世帯主又はこれに準ずる者に対して交付するものとする。ただし,これにより難いときは,被保護者に対して個々に交付することができる(同条3項)。 ウなお,生活保護法における用語の定義については,次のとおり定められている(同法6条)。 a 被保護者現に保護を受けている者(同条1項)b 要保護者現に保護を受けているといないとにかかわらず,保護を必要とする状態にある者(同条2項)c 保護金品保護として給与し,又は貸与される金銭及び物品(同条3項)d 金銭給付金銭の給与又は貸与によって,保護を行うこと(同条4項)e 現物給付物品の給与又は貸与,医療の給付,役務の提供その他金銭給付以外の方法で保護を行うこと(同条5項)(2) 上記各規定中,市に関する規定は,東京都の特別区についても適用されている(地方自治法281条2項,283条2項)。 2 前提となる事実(各項末尾に掲記の証拠等により認められる。)(1) 当事者等原告は,平成4年4月4日付けで,生活保護の開始を受け,平成15年6月1日付けで生活保護廃止の処分を受けた者である。 なお,原告に対する生活保護は,当初,東京都大田区池上福祉事務所において開始されたが,その後,平成4年5月1日からは東京都大田区大森福祉事務所において,平成9年4月1日からは東京都大田区福祉事務所(以下「大田区 対する生活保護は,当初,東京都大田区池上福祉事務所において開始されたが,その後,平成4年5月1日からは東京都大田区大森福祉事務所において,平成9年4月1日からは東京都大田区福祉事務所(以下「大田区福祉事務所」という。)においてそれぞれ実施された。 (乙1,弁論の全趣旨)(2) 大田区長から委任を受けた大田区福祉事務所長は,平成15年3月7日付けで,原告の生活保護費について,住宅扶助費を5万円,生活扶助費を1万4599円の合計6万4599円に変更することを決定し,原告に対してその旨通知した。 (乙2,弁論の全趣旨)(3) 生活扶助費に関わる交渉経緯ア原告は,大田区福祉事務所より,平成15年4月分の生活保護費の支給日を平成15年4月3日,交付場所を大田区α地域行政センター(以下「地域行政センター」という。)と事前に指定されていたにもかかわらず,上記指定日に地域行政センターに出頭しなかった。 (当事者間に争いのない事実)イ原告は,地域行政センター宛に,同月9日の確定日附のある「念書」と題する書面(乙3)を送付した。 上記書面は,原告が原告の居住するアパートの賃貸人に宛てた念書で,滞納家賃及び上記アパートからの引越しについては同年5月末日を目処に解決したいため承諾して欲しい旨の記載と,上記申入れを承諾する旨の上記賃貸人の署名押印が存する。 大田区福祉事務所長は,上記書面の記載内容のほか,同年4月14日に実施した上記賃貸人への事情聴取の結果,原告が同年5月末日まで家賃の支払を猶予されているものと判断し,同年4月30日付けで,原告に対する生活保護費のうち,同年4月分及び同年5月分の各住宅扶助費の支給を停止する旨の決定をし(以下「支給停止処分」という。),原告に対し 払を猶予されているものと判断し,同年4月30日付けで,原告に対する生活保護費のうち,同年4月分及び同年5月分の各住宅扶助費の支給を停止する旨の決定をし(以下「支給停止処分」という。),原告に対し,その旨通知した。 (乙3ないし6,弁論の全趣旨)ウ原告は,大田区福祉事務所より,同年5月分の生活保護費の支給日を同年5月2日,交付場所を地域行政センターと事前に指定されていたにもかかわらず,上記指定日に地域行政センターに出頭しなかった。 (当事者間に争いのない事実)エ大田区福祉事務所長は,同年6月1日付けで,原告が上記アパートに居住しておらず原告の生活実態が不明であり,説明を求めるため地域行政センターへの来所を指示したにもかかわらず,これに従わなかったことを理由として,原告の生活保護の廃止を決定し,同月2日付けで,原告に対し,その旨通知した。 (甲1)オ原告は,同月16日付けで,東京都知事に対し,支給停止処分を不服として審査請求したが,同年12月2日付けで上記審査請求を取り下げた。 また,原告は,同年6月20日付けで,東京都知事に対し,上記廃止決定を不服として審査請求した。 (甲2,乙6,11)カ地域行政センター生活福祉課長は,同年7月16日付けで,原告に対し,「住宅扶助費の取扱いについて」と題する書面(乙7)を送付した。上記書面には,①大田区福祉事務所としては,原告が平成15年5月末に上記アパートから引越しをする時点で平成15年4月分及び同月5月分の各住居扶助費を支給しようと考え,それまで支給を停止していたが,原告が未だ引っ越しをしていないためそのまま停止状態が継続している旨,②引越しの予定,及び引越しが先に延びるのであれば,上記各住居扶助費の支給につき,同事務所が 考え,それまで支給を停止していたが,原告が未だ引っ越しをしていないためそのまま停止状態が継続している旨,②引越しの予定,及び引越しが先に延びるのであれば,上記各住居扶助費の支給につき,同事務所が原告立会いの下で上記賃貸人に対して支払うか,同事務所が直接上記賃貸人に支払うか検討中なので原告の考えを聞かせて欲しい旨の記載が存する。 なお,大田区長は,同日付けで,原告に対し,「生活保護法第78条に基づく費用の徴収について(通知)」と題する書面(乙8)を送付し,同日付けで,平成12年11月分,同年12月分,平成13年2月分及び同年4月分について不正受給があったとして,これらの月分として原告が受給した生活保護費合計240万1965円につき,生活保護法78条に基づいて徴収決定をした旨通知した。 (乙7,8,11)キ地域行政センター生活福祉課長は,平成15年8月5日付けで,原告に対し,同年4月分及び同年5月分の生活扶助費(以下,併せて「本件各生活扶助費」という。)について同年8月15日までの受領を求める旨記載した「生活保護費の取扱いについて」と題する書面(乙9)を送付したが,原告は,同月15日までに,地域行政センターに出頭しなかった。 ク原告は,同年10月8日付けで,支給停止処分に係る審査請求手続の中で,東京都知事に対し,「再反論書」と題する書面(乙10)を提出し,同書面は,同月10日,東京都知事から大田区福祉事務所に回付された。上記書面には,①同年4月分及び同年5月分の住宅扶助費については,同事務所の方で上記賃貸人に直接支払い,原告宛にその領収書を送付して欲しい旨,②本件各生活扶助費については現金書留により送付して欲しい旨の記載が存する。 (乙10,弁論の全趣旨)ケ大田区福祉事務所長は 賃貸人に直接支払い,原告宛にその領収書を送付して欲しい旨,②本件各生活扶助費については現金書留により送付して欲しい旨の記載が存する。 (乙10,弁論の全趣旨)ケ大田区福祉事務所長は,同年11月17日付けで,前項記載の原告の要望を受けて,支給を停止していた同年4月分及び同年5月分の住宅扶助費を支給する旨決定し,同日,上記賃貸人に対し,上記各住宅扶助費を支払った。 (甲3,乙11,弁論の全趣旨)コ地域行政センターは,同年11月21日付けで,原告に対し,①同年4月分及び5月分の住宅扶助費を上記賃貸人に支払った旨,②本件各生活扶助費について同年12月15日までに受領しに地域行政センターまで出頭して欲しい旨,③生活保護法78条に基づく返還金の請求について原告と相談したい旨記載した「保護費の取扱いについて」と題する書面(甲3)を送付した。 これに対し,原告は,同年12月2日付けで,地域行政センター宛に,上記保護廃止処分について審査請求中であるから本件各生活扶助費を現金書留で送付して欲しい旨記載した書面(甲4)を送付し,結局,上記指定日に地域行政センターに出頭しなかった。 (甲3,4,弁論の全趣旨) 3 当事者の主張(原告の主張)(1) 原告は,平成15年3月7日付けの保護変更決定に伴い,被告より本件各生活扶助費合計2万9198円の支給を受ける権利を有する。 (2) しかるに,被告は,同年4月分の生活扶助費の支給日である同年4月3日,同年5月分の生活扶助費の支給日である同年5月2日を経過し,原告による督促にもかかわらず,現在に至るまで本件各生活扶助費を支給しない。 (3) よって,原告は,上記受給権に基づき,本件各生活扶助費合計2万9198円,及び内1万4599円について し,原告による督促にもかかわらず,現在に至るまで本件各生活扶助費を支給しない。 (3) よって,原告は,上記受給権に基づき,本件各生活扶助費合計2万9198円,及び内1万4599円については平成15年4月分の生活扶助費の支給日の翌日である同年4月4日から,内1万4599円については同年5月分の生活扶助費の支給日の翌日である同年5月3日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)被告が原告に対して負担する生活保護費の支払債務は,被告の指定する場所において交付すべきものであり,その性質上,取立債務であると解すべきところ,原告が被告の指定する場所に赴いて初めてその履行が可能なものである。 原告は,本来の支給を受けるべき平成15年4月3日及び同年5月2日に交付場所として指定された地域行政センターに出頭しないばかりか,これらの生活扶助費については現金書留で原告に送金して欲しい旨を申し入れ,被告から再三地域行政センターに受け取りにくるよう通知しても,受領のために出頭しようとせず,むしろ,意図的に被告との接触を避け,自らの意思でその受領を拒んでいたものであるから,被告がそのまま本件各生活扶助費を保管していることについて違法はない。 4 争点以上によれば,本件における争点は,被告は,本件各生活扶助費の支給につき,原告の要求に従って現金書留で送金する義務があるか,それとも,受領のために来所した場合において支払えば足りるかという点にある。 第3 争点に対する判断 1 本件においては,被告が原告に対して本件各生活扶助費を支払うべき義務があること自体には当事者間に争いがない。 2(1) 生活保護法は,生活扶助の方法について,金銭給付によって行われることを原則とし,保護金 ては,被告が原告に対して本件各生活扶助費を支払うべき義務があること自体には当事者間に争いがない。 2(1) 生活保護法は,生活扶助の方法について,金銭給付によって行われることを原則とし,保護金品については世帯主又は被保護者(以下「被保護者等」という。)に対し交付する旨規定するにとどまり(同法31条),同法上,その交付の方法等については明示的な規定を設けていない。 しかしながら,生活保護法は,保護の実施機関は,被保護者に対して,保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができ(同法27条1項),被保護者は,その指導又は指示に従わねばならず(同法62条1項),従わない場合には,実施機関は,保護の変更,停止又は廃止等の処分を行うことができる(同法62条3項)旨をそれぞれ規定して,生活保護の適正な運用の確保を図っている。 そこで,保護の実施機関において,上記の指示権限に基づき,生活扶助費の交付場所を,区の生活福祉課が所在する地域行政センターにおいて直接行うということを被保護者に指示することは,行政の効率的運営のみならず,保護金品が被保護者等に確実に交付され,不正受領などの問題が生じにくいという効果も期待できるものであるから,合理的なものというべきである。 (2) 本件についても,前記前提となる事実,証拠(乙1,9)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,原告に対する生活保護費を,大田区福祉事務所が指定する場所で交付する取扱いをしているところ,同事務所は,本件各生活扶助費についても,支給日をそれぞれ平成15年4月3日及び同年5月2日,交付場所を地域センターの生活福祉課と指定しており,原告も,このことを認識していたにもかかわらず,上記各指定日に出頭せず,かつ,その後も,少なくとも2度にわたり,書面で,同所におい び同年5月2日,交付場所を地域センターの生活福祉課と指定しており,原告も,このことを認識していたにもかかわらず,上記各指定日に出頭せず,かつ,その後も,少なくとも2度にわたり,書面で,同所において受領するように催告されながら,指定場所に出頭しなかったことがそれぞれ認められる。 (3) ところで,原告は,前記認定のとおり,支給停止処分に係る審査請求手続において東京都知事に対して提出した平成15年10月8日付け「再反論書」と題する書面(乙10)及び同年12月2日付けで地域行政センター宛に提出した書面(甲4)において,本件各生活扶助費については,現金書留で原告に送金して欲しい旨の記載をしているが,本件各生活扶助費の交付場所について上記のような大田区福祉事務所の指定があるにもかかわらず,被保護者である原告がこれを現金書留で送金するよう求め得ると解すべき法的根拠は存在しない。 (4) そうであるとすれば,被告は,本件各生活扶助費を,上記各指定日に地域行政センターで交付すれば足り,原告が上記各指定日に出頭しなかった以上,被告が上記各指定日に支給しなかったことについて,被告が履行遅滞の責を負うべき理由はない。 3 以上によれば,原告の本訴請求は,被告は,原告が地域行政センターの生活福祉課において本件各生活扶助費の請求をした場合に,これを支払うべきことを求める限度では理由がある(この点は,被告は争っていない。)が,その余の請求については,理由がないというべきである。 第4 結論よって,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法64条ただし書を適用して,主文のとおり判決する。 なお,仮執行宣言については,相当でないからこれを付さないこととする。 東京地方裁判所民事第2部 訴訟法64条ただし書を適用して,主文のとおり判決する。 なお,仮執行宣言については,相当でないからこれを付さないこととする。 東京地方裁判所民事第2部裁判長裁判官市村陽典裁判官石井浩裁判官寺岡洋和
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