平成14(ワ)305 慰謝料請求事件

裁判年月日・裁判所
平成15年6月24日 和歌山地方裁判所
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判決文本文31,760 文字)

平成15年6月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成14年(ワ)第305号慰謝料請求事件口頭弁論の終結の日平成15年4月11日 主文 1 被告Aは,原告に対し,15万円を支払え。 2 原告の被告Aに対するその余の請求及び被告和歌山弁護士会に対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告(1) 被告Aは,原告に対し,650万円を支払え。 (2) 被告和歌山弁護士会(以下「被告弁護士会」という。)は,原告に対し,350万円を支払え。 2 被告A(1) 原告の被告Aに対する請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は,原告の負担とする。 3 被告弁護士会(1) 原告の被告弁護士会に対する請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は,原告の負担とする。 第2 事案の概要 1 事案の要旨原告は,自己を被告人とする刑事被告事件において,国選弁護人として選任された弁護士である被告Aが,うつ状態及び飲酒酩酊した状態で弁護活動を行い,特に,①原告が前記刑事被告事件において一部無罪を争っていたにもかかわらず,ごく短時間しか接見しなかった上,その打ち合わせ中に携帯電話により第三者と打ち合わせをするなどして必要な打ち合わせをしなかった,②原告が証人尋問を希望した者を1人も出廷させなかった,③保釈申請するなど原告の体調を配慮した措置を採らなかった,④弁論終結が予定された公判期日に大きく遅刻して出頭するなどして当該公判期日を延期させ,不当に訴訟を遅延させた,⑤公判期日において十分な最終弁論をしなかった,⑥判決宣告期日の前日に弁護人の辞任を申し立て,判決宣告を不当に遅延させたなど十分な弁護活動をしなかったことから,精神的苦痛を被ったとして,被告Aに対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料650 告期日の前日に弁護人の辞任を申し立て,判決宣告を不当に遅延させたなど十分な弁護活動をしなかったことから,精神的苦痛を被ったとして,被告Aに対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料650万円の支払を求めるとともに,被告弁護士会が,被告Aがアルコール依存症の状態にあると認識しつつ,これを原告の国選弁護人として選任し,その後も原告が被告Aを懲戒処分とするように申し立てたにもかかわらず適切な処分をすることを怠り,被告Aに弁護活動を継続させ,さらにその弁護活動を不法に正当化し,原告に精神的苦痛を与えたとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料350万円の支払を求めた。 これに対し,被告A及び被告弁護士会は,原告に対する不法行為の成立を否認して,争っている。 2 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,証拠(甲2《枝番号付き。以下,枝番号のある書証の枝番号は,同様に省略する。》,4,乙1,2,3)及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。 (1) 被告Aが原告の国選弁護人に選任されるまでの事実経過原告は,平成11年9月12日,覚せい剤取締法違反(覚せい剤の自己使用)の被疑事実で逮捕され,同月13日同法違反の被疑事実で勾留され,同年10月1日,同法違反の公訴事実で和歌山地方裁判所に起訴された(以下「第1事件」という。)。 原告は,第1事件につき,平成11年10月8日付けで,弁護士B(以下「B弁護士」という。)を,同年11月3日付けで,弁護士C(以下「C弁護士」という。)をそれぞれ私選弁護人に選任した。 B弁護士は,同月8日付けで,C弁護士は,同月11日付けで,それぞれ原告の第1事件に関する弁護人を辞任した。 原告は,同月13日付けで,C弁護士を第1事件の私選弁護人に選任した。 原告は,平成12年5月10日,詐欺の被疑事 けで,C弁護士は,同月11日付けで,それぞれ原告の第1事件に関する弁護人を辞任した。 原告は,同月13日付けで,C弁護士を第1事件の私選弁護人に選任した。 原告は,平成12年5月10日,詐欺の被疑事実で逮捕され,同月12日,上記被疑事実で勾留され,同月31日,詐欺の公訴事実で和歌山地方裁判所に起訴された(以下「第2事件」という。)。 原告は,同月22日付けで,第1事件の私選弁護人であったC弁護士を解任し,同月26日,和歌山地方裁判所に対し,貧困により弁護人を選任することができないことから,国選弁護人を選任することを依頼する旨の回答書を提出した。 第1事件につき平成12年1月6日合議決定がされていたところ,和歌山地方裁判所裁判長裁判官D(以下「D裁判長」という。)は,被告弁護士会の会長に対し,同年6月2日付けで,第1事件について国選弁護人の推薦を依頼し,被告弁護士会が推薦した被告弁護士会の会員である被告Aを,同月8日,第1事件につき国選弁護人に選任した。 被告Aは,同月13日,第2事件につき国選弁護人に選任された。 (2) 被告Aの国選弁護人解任までの事実経過原告は,第1事件につき,当初より無罪を主張し,平成12年7月12日午前11時に第7回公判期日が開かれた。他方,原告は,第2事件につき,事実を認めており,平成12年7月25日午前10時,第1回公判期日が開かれた。 和歌山地方裁判所は,同月31日,第2事件を第1事件に併合して審理するとの決定をし,第2事件の審理は,第1事件の第8回公判期日以降,併合して審理されることとなった(以下,第1事件と第2事件を併せて「第1事件等」という。)。 第1事件等につき,同年8月10日午後4時に第8回公判期日が,同年9月20日午後3時30分に第9回公判期日が,同年10月19日午前10時に第10回公判期日が,同年 を併せて「第1事件等」という。)。 第1事件等につき,同年8月10日午後4時に第8回公判期日が,同年9月20日午後3時30分に第9回公判期日が,同年10月19日午前10時に第10回公判期日が,同年11月17日午後1時30分に第11回公判期日が,同年12月15日午後1時15分に第12回公判期日が,同月27日午後4時に第13回公判期日が,それぞれ開かれた。第13回公判期日において,次回(第14回)公判期日は平成13年1月25日と指定され,同期日において,検察官の論告及び弁護人の弁論の上,結審することが予定された。 第1事件等の第14回公判期日(同日開廷)において,検察官の論告及び弁護人の弁論はされず,同月31日午後4時に開かれた第15回公判期日において,論告及び弁論がされ,併せて,被告人の最終陳述がされ,結審し,次回公判(判決宣告)期日は,同年3月7日と指定された。 被告Aは,同年3月6日,和歌山地方裁判所に対し,第1事件等につき自己都合(病気)により,国選弁護人を辞任したい旨の国選弁護人辞任届を提出し,D裁判長は,同日,被告Aを第1事件等の国選弁護人から解任した。また,和歌山地方裁判所は,同月7日に指定されていた第1事件等の公判(判決宣告)期日を取り消し,次回期日を追って指定する旨の決定をした。 (3) 被告Aが国選弁護人を解任された後の第1事件等の事実経過D裁判長は,平成13年3月14日,弁護士E(以下「E弁護士」という。)を第1事件等の国選弁護人に選任した。 E弁護士は,第1事件等の第16回公判期日が開かれた同年9月5日,国選弁護人を解任された。 弁護士F(以下「F弁護士」という。)は,同月14日,第1事件等の国選弁護人に選任された。 第1事件等の審理は,平成14年1月23日に弁論再開の決定がされ,同年2月13日に第17回公判期日が開か 。 弁護士F(以下「F弁護士」という。)は,同月14日,第1事件等の国選弁護人に選任された。 第1事件等の審理は,平成14年1月23日に弁論再開の決定がされ,同年2月13日に第17回公判期日が開かれ,同年3月14日に開かれた第18回公判期日において結審し,同年4月26日に開かれた第19回公判期日において,原告は,第1事件,第2事件ともに有罪であるとして,原告を懲役3年6月に処する旨の有罪判決の言渡しを受けた。原告は,同日,大阪高等裁判所に対し,第1事件等の判決が不服であるとして控訴を申し立てた。 (4) 原告の被告Aに対する懲戒請求等原告は,被告弁護士会に対し,平成13年7月16日,被告Aを懲戒するよう請求する旨の申立てをした。 被告弁護士会の綱紀委員会は,平成14年3月26日付けで,被告Aが,酒に酔った状態又は酒に酔っていなくても酒臭をさせて接見打ち合わせをしたり,公判廷に臨んだことが,刑事弁護活動自体には問題とすべき点がないとしても,なお,刑事弁護人としての職務に不信の念を抱かせるとともに,弁護士としての品位を失うべき非行であると認定せざるを得ないとして,被告Aを懲戒することを相当とする旨の議決をした。 被告弁護士会の懲戒委員会は,同年8月28日付けで,被告Aには懲戒事由が存在しないとして,同被告を懲戒しないとの議決をし,被告弁護士会は,原告に対し,同年9月19日付けで上記議決を通知した。これに対し,原告は,平成14年10月15日付けで,和歌山弁護士会の懲戒委員会のした前記議決が不服であるとして,日本弁護士連合会に対し,異議を申し出た。 3 争点及びこれに対する当事者の主張(1) 被告Aについて原告に対する不法行為が成立するか。 上記不法行為が成立する場合の原告が被った損害額はいくらか。 (原告の主張)被告Aは,国選弁護人に選任 争点及びこれに対する当事者の主張(1) 被告Aについて原告に対する不法行為が成立するか。 上記不法行為が成立する場合の原告が被った損害額はいくらか。 (原告の主張)被告Aは,国選弁護人に選任された平成12年6月以降,うつ状態でかつ飲酒酩酊した状態で,原告と接見し打ち合わせをしたり,毎回の公判廷に出頭し,後記アないしカのとおり,不十分な弁護活動をしたものであり,このような被告Aの各行為は,国選弁護人としての義務に違反し,原告の国選弁護人の弁護を受ける権利を侵害する不法行為を構成する。そして,被告Aのこの不法行為によって,原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は650万円を下らない。 ア不十分な接見被告Aは,以下のとおり,原告が勾留されていた和歌山刑務所丸の内拘置支所(以下「丸の内拘置支所」という。)において,原告と接見した。 (ア) 平成12年6月29日午後2時40分から午後3時7分まで(イ) 同年7月10日午後1時23分から午後1時43分まで(ウ) 同月24日午後2時21分から午後2時41分まで(エ) 同年8月9日午後2時10分から午後2時29分まで(オ) 同年9月8日午後3時35分から午後3時45分まで(カ) 同年10月6日午前11時28分から午前11時50分まで(キ) 同年11月6日午後3時23分から午後3時36分まで(ク) 同月15日午後2時38分から午後2時54分まで(ケ) 同月18日午前11時10分から午前11時36分まで(コ) 同年12月27日午前10時35分から午前10時56分まで(サ) 平成13年1月23日午前11時59分から午後0時9分までこのように,被告Aの原告に対する接見時間は,いずれも30分に満たない短いものであった。 しかも,被告Aは,これらの接見の大半において,前記のとおり飲酒酩酊していたものであ 9分から午後0時9分までこのように,被告Aの原告に対する接見時間は,いずれも30分に満たない短いものであった。 しかも,被告Aは,これらの接見の大半において,前記のとおり飲酒酩酊していたものであり,また,接見の際,原告の顔を見ることもなく,携帯電話で第三者と事件の打ち合わせをするなどし,原告の話をまともに聞こうともしなかった。 このような被告Aの原告との接見は,第1事件につき無罪を主張していた原告のための弁護活動としては,時間的にみてもその実質においても到底十分なものではなかった。 イ証人申請等の不実施被告Aは,原告が第1事件につき当初より無罪を主張し,必要な証人の申請を依頼したにもかかわらず,いずれの証人も出廷させず,原告の反証活動に多大な不利益を与えた。 ウ原告の体調への配慮の欠如原告は,頚椎症性脊髄症,頚椎症性神経根症及び頚椎症性筋萎縮症などを患っていたので,健康上の理由から,被告Aに対し,平成12年11月1日及び同月22日の2度にわたり,保釈の申請を依頼したが,被告Aは,原告の体調への配慮を怠り,適切な対応をしなかった。 エ第14回公判期日への遅刻等による裁判の遅延被告Aは,平成13年1月25日に開かれた第1事件等の第14回公判期日に,約40分遅刻の上,飲酒酩酊し,かつ壊れた眼鏡を掛け,顔面から出血した状態で出頭した。そのため,同公判期日は,予定されていた検察官の論告及び被告Aの弁論がされることなく延期された。このように,被告Aは,第1事件等の審理を不当に遅延させ,原告に精神的苦痛を与えた。 オ不十分な最終弁論被告Aは,平成13年1月31日に開かれた第1事件等の第15回公判期日において,違法収集証拠で原告が無罪である旨の弁論を約30秒間行っただけであった。このような時間的にも短く内容に乏しい弁論では,到底,国選弁 成13年1月31日に開かれた第1事件等の第15回公判期日において,違法収集証拠で原告が無罪である旨の弁論を約30秒間行っただけであった。このような時間的にも短く内容に乏しい弁論では,到底,国選弁護人としての義務を履行したということはできない。 カ辞任による裁判の遅延被告Aは,第1事件等の判決宣告期日の前日である平成13年3月6日,病気を理由に原告の国選弁護人を辞任する旨申し出た。そのため,D裁判長は,同日,被告Aを国選弁護人から解任するとともに,判決宣告期日を取り消した。その結果,原告に対する第1事件等の判決宣告は,平成14年4月26日まで遅延することとなった。このように,被告Aは,第1事件等の審理及び判決宣告を不当に遅延させ,原告にさらなる精神的苦痛を与えた。 (被告Aの主張)原告の被告Aに対する本件慰謝料請求が認められるためには,被告Aが,刑事被告人であった原告に対して負う国選弁護人としての善管注意義務ないし誠実義務(以下これらを総称して「善管注意義務等」という。)に違反し,これにより,原告において判決に影響を及ぼす程度の不利益を与えたと認められなければならない。しかし,以下のとおり,原告の主張する被告Aの不法行為の事実は,それ自体認められないばかりか,原告に対する判決に影響が生じたなどの不利益が生じたということもないから,原告の主張は理由がない。 アうつ状態及び飲酒酩酊状態で弁護活動をしたとの主張について(ア) 被告Aは,平成13年3月6日,健康上の理由により,原告に対する刑事被告事件を含む全事件について国選弁護人の辞任届を提出したが,それまでの間,うつ病の治療を継続しつつ弁護活動に当たっていたもので,その弁護活動に特段の支障は生じていなかった。このことは,被告Aが国選弁護人に選任された和歌山地方裁判所のすべての刑事事件で が,それまでの間,うつ病の治療を継続しつつ弁護活動に当たっていたもので,その弁護活動に特段の支障は生じていなかった。このことは,被告Aが国選弁護人に選任された和歌山地方裁判所のすべての刑事事件で,辞任するまでに解任されたことがなかったことからしても明らかである。 また,被告Aがうつ病であることが原告にいかなる不利益を与えたかについては主張がない。 (イ) 被告Aが,常に飲酒し,また酩酊状態で,公判廷に出頭したり,原告と接見したとの点は否認する。 もっとも,被告Aは,平成12年秋ころから,仕事のストレスにより不眠症を呈するようになったことから,夜入眠のために飲酒するという生活をするようになった。そのため,翌朝まで被告Aの体内にアルコールが残り,公判廷において又は原告との接見に際し,被告Aが酒臭を発し,原告がそれを感じた可能性はある。 しかし,前記(ア)のとおり,被告Aが平成13年3月6日に至るまで国選弁護人から解任されなかったこと及び原告が被告Aの酒臭について不満を述べ始めたのが被告Aが国選弁護人を解任された後のことであることからすれば,被告Aが酒臭をさせた状態で原告と接見したり,公判廷に出頭していたとしても,何ら弁護活動に支障を来していたということはできないし,原告がこのことによって精神的苦痛を受けていたということもできない。 イ接見が不十分との主張について(ア) 被告Aが,第1事件等の国選弁護人として,原告と接見した日時は,以下のとおりである。 a 平成12年6月29日午後2時40分から午後3時7分までb 同年7月10日午後1時23分から午後1時43分までc 同月24日午後2時21分から午後2時41分までd 同年8月9日午後2時10分から午後2時29分までe 同年9月8日午後3時35分から午後3時49分までf 同年10月6 から午後1時43分までc 同月24日午後2時21分から午後2時41分までd 同年8月9日午後2時10分から午後2時29分までe 同年9月8日午後3時35分から午後3時49分までf 同年10月6日午前11時28分から午前11時50分までg 同月18日午前11時10分から午前11時36分までh 同年11月6日午後3時23分から午後3時36分までi 同月15日午後2時38分から午後2時54分までj 同年12月8日午後3時10分から午後3時33分までk 同月27日午前10時35分から午前10時56分までl 平成13年1月23日午前11時59分から午後0時27分までこのように,被告Aは,原告に対する第1事件等の公判期日に先立ち,少なくとも1度は原告と接見を行っており,また,その接見時間は,打ち合わせには十分なものであった。 そもそも,被疑者・被告人と弁護人との接見交通権は,被疑者・被告人に刑事事件において実質的当事者としての地位を確保させるために認められるものであるところ,弁護人がいつどの程度の時間接見するかは,弁護人の合目的的裁量に委ねられているというべきである。したがって,単に,接見時間の長短,まして接見時間の長短に関する被疑者・被告人の主観によって,弁護人の接見が不十分であるとして,善管注意義務等違反の問題となると解することはできない。 また,仮に被告Aの接見時間が短かったとしても,それが原告に対する判決に影響を及ぼすなどして,原告の利益が侵害されたとの主張はない。 (イ) 被告Aが,接見の大半において,飲酒酩酊していたとの点,接見の際,携帯電話で第三者と事件の打ち合わせをするなどし,原告の話をまともに聞かなかったとの点は否認する。 被告Aが,丸の内拘置支所の待合室で原告との接見時間を待っていた時,U病院医師のG(以下「G医師」とい 帯電話で第三者と事件の打ち合わせをするなどし,原告の話をまともに聞かなかったとの点は否認する。 被告Aが,丸の内拘置支所の待合室で原告との接見時間を待っていた時,U病院医師のG(以下「G医師」という。)と携帯電話で話をしていたところ,接見の準備ができたとの放送が入ったため,一旦電話を切って接見室に入り,原告と接見し,その最中に,再度G医師から電話がかかってきたため,ごく短時間G医師と会話をしたことがあった。しかし,原告と接見中において,被告Aから,携帯電話で架電して,第三者と打ち合わせをしていたとの事実はない。 ウ証人を出頭させなかったとの主張について(ア) 刑事弁護を受任した弁護士は,法的手段の選択,法律判断等専門性に関わる部分については,依頼者である被疑者・被告人から自由かつ独立した立場を保持することが求められているものであり,どのような方針で弁護活動をすべきかは,依頼者の特定の指示があるなどの特段の事情がない限り,その専門家としての判断に基づく弁護士の合目的的裁量に従って行うことが許されるものと解される。 (イ) 原告は,被告Aに対し,原告を診察した和歌山県和歌山西警察署の監察医であるH医師及びG医師並びに原告の尿を採取し警察に任意提出したv病院医師のI(以下「I医師」という。)を証人申請するよう要請した。 しかし,被告Aが,H医師から事情を聞いたところ,同医師は,原告を診察していないと回答した。そのため,被告Aは,H医師を証人申請しなかった。また,被告Aが,G医師から事情を聞いたところ,同医師は,原告に対し,その主訴に応じて,痛み止めの薬剤を処方したものの原告を診察しておらず,原告の客観的な症状は分からない旨回答した。被告Aが,原告に対し,このG医師の回答を伝えたところ,原告は,同医師を脅して原告の症状について証言させる旨 めの薬剤を処方したものの原告を診察しておらず,原告の客観的な症状は分からない旨回答した。被告Aが,原告に対し,このG医師の回答を伝えたところ,原告は,同医師を脅して原告の症状について証言させる旨述べたことから,被告Aは,同医師を証人申請すべきでないと思料し,申請しなかった。 他方,被告Aは,I医師については,平成13年1月25日に開かれた第14回公判期日において,証人申請したが,和歌山地方裁判所がこれを却下した。 以上のとおり,被告Aの原告のための弁護活動には,何ら問題はなく,この点につき,被告Aに善管注意義務等違反は成立しない。 エ原告の体調への配慮が欠如していたとの主張について(ア) 被告Aは,平成12年11月1日,原告の保釈を申請し,和歌山地方裁判所は,同月2日,これを却下した。被告Aは,同月22日,再度原告の保釈を申請したが,同裁判所は,同月24日,これを却下した。 このように,被告Aは,原告の要請に応じて,原告の保釈を請求しており,これを却下したのは,裁判所の判断にほかならないから,原告が保釈されなかったことをもって,被告Aに善管注意義務等違反が成立するということはできない。 (イ) 原告の体調への対応は,原告を勾留している警察署ないし丸の内拘置支所の職員が一次的にすべきことであり,弁護人である被告Aに原告の体調につき配慮すべき義務はない。 オ公判期日に遅刻するなどして裁判が遅延したとの主張について被告Aが,第1事件等の第14回公判期日(平成13年1月25日開廷)に,約40分遅刻の上,前記のとおり飲酒酩酊しかつ壊れた眼鏡を掛け,顔面から出血した状態で出頭したとの点及び同公判期日が延期されたとの点は否認する。 被告Aは,同公判期日において,第1事件についての公訴事実と冒頭陳述との齟齬に関して求釈明を行うとともに,I医師に対 面から出血した状態で出頭したとの点及び同公判期日が延期されたとの点は否認する。 被告Aは,同公判期日において,第1事件についての公訴事実と冒頭陳述との齟齬に関して求釈明を行うとともに,I医師に対する証人尋問請求を行った。このような経緯を経て,次回公判期日である第15回公判期日において,改めて論告及び最終弁論がされることとなったものである。 カ最終弁論が不十分であったとの主張について被告Aが,第1事件等の第15回公判期日(平成13年1月31日開廷)において,弁論をわずか約30秒間しか行わなかったとの点は,否認する。 被告Aは,同公判期日において,第1事件については,①原告からの採尿手続には違法があるから,原告の尿の鑑定結果は,いわゆる違法収集証拠で証拠能力がないこと,②参考人の供述は利益誘導の結果得られたもので,信用性に欠けること,③被告人の公判廷外における供述は任意性に欠けることから,原告は無罪であり,第2事件については争いはないものの,寛大な判決を求める旨の1200字以上の弁論要旨を準備し,これに従って,少なくとも数分間にわたり,最終弁論を行った。 キ判決宣告前日の辞任により裁判が遅延したとの主張について被告Aは,健康状態が悪化し,国選弁護人としての職務に耐えられなくなったので,平成13年3月6日,和歌山地方裁判所に対し,辞任届を提出し,同裁判所において,正当な理由があるとして,被告Aを国選弁護人から解任したものである。したがって,被告Aにおいて,同裁判所に対し,辞任届を提出したのは正当であり,その結果として,判決宣告が遅延したとしても,善管注意義務等違反とはならないというべきである。 また,原告に対する第1事件等の判決宣告が1年以上遅延したのは,被告Aとは全く無関係の事情によるものである。 (2) 被告弁護士会について原告に対 ,善管注意義務等違反とはならないというべきである。 また,原告に対する第1事件等の判決宣告が1年以上遅延したのは,被告Aとは全く無関係の事情によるものである。 (2) 被告弁護士会について原告に対する不法行為が成立するか。 上記不法行為が成立する場合の原告が被った損害額はいくらか。 (原告の主張)ア被告Aの国選弁護人選任及び解任に関する不法行為被告弁護士会は,以下のとおり,その注意義務違反を怠り,原告が自己の刑事被告事件において国選弁護人の弁護を受ける権利を侵害する不法行為を行った。 (ア) 被告弁護士会は,被告Aが,前記(1)の原告の主張のとおり,うつ状態にあり,かつ,飲酒酩酊の上弁護活動を行っていたことを認識していたにもかかわらず,被告Aを原告の国選弁護人として選任した。 (イ) 被告弁護士会は,被告Aが原告の国選弁護人に選任された後,被告Aが前記(1)の原告の主張のとおり,うつ状態でかつ飲酒酩酊して原告に対する弁護活動を行っていたにもかかわらず,被告Aに対する適切な処分を怠り,被告Aに弁護活動を継続させた。 イ被告Aに対する懲戒手続に関する不法行為被告Aが,前記(1)の原告の主張のとおり,うつ状態かつ飲酒酩酊の上原告のための弁護活動を不十分にしか行っていなかったことから,原告は,前提事実(4)のとおり,被告弁護士会に対し,被告Aの懲戒を求める旨の申立てをした。 しかしながら,前提事実(4)のとおり,被告弁護士会の綱紀委員会は,被告Aを懲戒相当としつつも,刑事弁護活動自体には問題がなかったとし,また,被告弁護士会の懲戒委員会は,被告Aを懲戒しないとの議決をし,被告Aの不十分な弁護活動を不法に正当化し,原告にさらなる精神的苦痛を与えた。 ウ被告弁護士会は,上記のとおり,原告の弁護権を侵害するとともに,被告Aの善管注意 は,被告Aを懲戒しないとの議決をし,被告Aの不十分な弁護活動を不法に正当化し,原告にさらなる精神的苦痛を与えた。 ウ被告弁護士会は,上記のとおり,原告の弁護権を侵害するとともに,被告Aの善管注意義務等違反の弁護活動を違法に是認し,原告に精神的苦痛を与えた。この精神的苦痛に対する慰謝料は350万円を下らない。 (被告弁護士会の主張)ア被告Aが飲酒酩酊の上弁護活動を行っていたことを認識しつつ弁護人として選任したとの主張について(ア) 被告弁護士会が,平成12年6月8日当時,被告Aがうつ状態ないしアルコール中毒症にあることを認識していたとの点,被告弁護士会が被告Aを原告の国選弁護人に選任したとの点は否認する。 (イ) 国選弁護人選任命令の法的性質は裁判であるから,国選弁護人を選任するのは裁判所又は裁判長である。被告弁護士会は,昭和23年6月9日付け「官選弁護人の選任方法について」と題する最高裁判所事務総長通達に基づき,和歌山地方裁判所からの推薦依頼により,個々の国選弁護事件を被告弁護士会の会員である所属弁護士に紹介し,報酬金等の受領など本来裁判所と所属弁護士との間でされるべき事務を事実上取り次いでいるにすぎず,国選弁護事件の受任を希望するか否かは各所属弁護士の自由な判断に委ねられている。したがって,被告弁護士会が所属弁護士に対する一般的な指導監督義務を超えて,それとは別に個々の刑事被告事件に関する国選弁護人の推薦手続につき注意義務違反を問われることはない。 そして,被告Aが原告の国選弁護人に選任された平成12年6月8日当時,被告Aにおいて懲戒事由に該当するような非行は何ら認められず,また,体調面に格別の問題もなく通常の弁護士業務を行っていたことに照らすと,被告弁護士会において,被告Aに対して国選弁護人の推薦ないし紹介を事実上停止する 事由に該当するような非行は何ら認められず,また,体調面に格別の問題もなく通常の弁護士業務を行っていたことに照らすと,被告弁護士会において,被告Aに対して国選弁護人の推薦ないし紹介を事実上停止する理由は何ら存在しなかった。 よって,被告弁護士会が,被告Aを通常の手続に従い原告の国選弁護人に推薦したことについて,何らの注意義務違反も認められない。 イ被告Aに違法な弁護活動を継続させたとの主張について(ア) 被告弁護士会は,平成13年3月5日午後,和歌山地方裁判所より,同日開廷された別件の公判期日における被告Aの法廷活動に問題があった旨の申し入れを受けた。 そこで,当時の被告弁護士会執行部の弁護士が,同裁判所との間で,同日午後5時30分から協議し,同裁判所から,被告Aが,同日午前に開廷された公判において,酒臭を発し,また,十分な弁護活動をし難い健康状態にあったこと,同日午後開廷予定であった公判に出頭しなかったとの説明を受けた。被告弁護士会は,この時点において,初めて,被告Aの弁護活動に問題が生じている可能性があることを認識した。 被告弁護士会は,同裁判所からの説明が真実であれば,被告Aに弁護活動を継続させることが好ましくないと判断し,同裁判所に対し,被告弁護士会執行部の弁護士が被告Aと速やかに面談し事実確認をし,事実確認がされた場合には,被告Aより病気を理由とする辞任届を被告Aが受任していた国選弁護事件全件について提出させ,同裁判所において被告Aを全事件について国選弁護人から解任させ,被告Aが受任していた国選弁護事件の引継ぎについては,被告弁護士会が責任をもって対処する旨申し入れ,同裁判所においてこれを了承した。 被告弁護士会執行部の弁護士は,同日午後9時,被告Aと面談し,事実関係を確認したところ,被告Aの健康状態が悪化しており,国選弁護 会が責任をもって対処する旨申し入れ,同裁判所においてこれを了承した。 被告弁護士会執行部の弁護士は,同日午後9時,被告Aと面談し,事実関係を確認したところ,被告Aの健康状態が悪化しており,国選弁護人としての職務の遂行に支障を与えるに至っていることを認識した。そこで,被告弁護士会執行部の弁護士が,被告Aに対し,受任している国選弁護事件全事件の辞任を勧告したところ,被告Aはこれを了承し,同月6日,同裁判所に対し,原告を被告人とする第1事件等を含む全事件について国選弁護人の辞任届を提出し,同裁判所は,被告Aをこれら全事件について国選弁護人から解任した。 以上のとおり,被告弁護士会は,被告Aが国選弁護人として弁護活動を続けることに問題があることを認識した後は,迅速に対応している。 したがって,被告弁護士会には,弁護士会として会員に対する指導監督義務を遂行する上で何ら過失はなかったというべきである。 (イ) 国選弁護人の解任は,その選任と同様,裁判所又は裁判長が行う裁判にほかならない。そして,選任の場合と異なり,国選弁護人の解任に被告弁護士会が関与することは全く予定されておらず,また,弁護士の独立性に照らすと,弁護士会が,裁判所に対し,弁護士の意思と無関係に同人の国選弁護人からの解任を促すような関与は許されない。すなわち,国選弁護人の解任は,弁護人からの辞任要求や被告人からの解任要求などを端緒として,解任事由の存否を審理経過を通じてもっとも良く知り得る立場にある受訴裁判所又は裁判長において専権的に判断すべきものであり,弁護士会において一般的な指導監督義務を超えて弁護人の解任を促すような行為をすることはできない。 (ウ) 弁護士会は,前記(イ)のとおり,所属弁護士に対し,一般的な指導監督義務を負うが,弁護士の独立性の見地から,この指導監督の対象と 務を超えて弁護人の解任を促すような行為をすることはできない。 (ウ) 弁護士会は,前記(イ)のとおり,所属弁護士に対し,一般的な指導監督義務を負うが,弁護士の独立性の見地から,この指導監督の対象となるのは,弁護士の品位を失わせる非行等の問題に限られ,個々の受任事件における専門技術的な弁護活動の問題に立ち入ることはできない。 原告が主張する被告Aの弁護活動に対する不満は,専ら個々の事件における専門技術的な弁護活動の問題であるから,被告弁護士会において,指導監督義務を負うものではないというべきである。 ウ被告Aの弁護活動を違法に正当化したとの主張について被告弁護士会の綱紀委員会及び懲戒委員会の議決内容により,原告において慰謝料請求権が発生するとの主張は争う。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(被告Aの原告に対する不法行為の成否)について(1)ア認定事実前提事実(2),(3)のほか,証拠(甲2,3,5,8,乙1,2,5ないし8,原告・被告A各本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (ア) 被告Aの身体の状態,飲酒状況等被告Aは,平成4年ころ,うつ病及びアルコール依存症と診断され,約7年間弁護士業務を休止し,医療機関に入院するなどして治療を受け,平成11年ころ,うつ病及びアルコール依存症の症状が軽快したことから,その治療を受けつつも,弁護士業務を再開し,主に刑事訴訟における国選弁護人として活動していた。 被告Aは,平成12年秋ころから,弁護士業務におけるストレスが原因で眠ることが困難となった。そのため,被告Aは,医師から催眠薬の処方を受け服用していたが,催眠薬を服用しても眠れなくなったため,同年10月ころから,毎晩午後9時ころから就寝する午後11時ないし午前0時ころまでの間,日本酒を概ね2,3合,多いときは約5 催眠薬の処方を受け服用していたが,催眠薬を服用しても眠れなくなったため,同年10月ころから,毎晩午後9時ころから就寝する午後11時ないし午前0時ころまでの間,日本酒を概ね2,3合,多いときは約5合飲むようになった。そのため,被告Aは,遅くとも同年11月ころから,日中においても酒気を帯びた状態となり,酒臭を発するようになり,遅くとも後記(イ)a(h)認定の同年11月6日以降の原告との接見の際及び同月17日開廷の第1事件等の第11回公判期日以降の公判期日において,酒臭を発した状態で原告と接見したり,公判廷に出頭するようになった。 被告Aが酒気を帯び酒臭を発しつつ接見に臨み,また,公判廷に出頭するようになったことから,原告は,同月30日付けで,D裁判長に対し,現時点では被告Aの名誉のため理由をいうことはできないが,必要であれば理由を述べるので,被告Aの国選弁護人からの解任を求めるという趣旨の上申書を提出し,この上申書は,同年12月1日,和歌山地方裁判所に到達した。 (イ) 被告Aの第1事件等における弁護活動等a 被告Aが,第1事件等に関し,丸の内拘置支所において原告と接見した日時は以下のとおりである。 (a) 平成12年6月29日午後2時40分から午後3時7分まで(b) 同年7月10日午後1時23分から午後1時43分まで(c) 同月24日午後2時21分から午後2時41分まで(d) 同年8月9日午後2時10分から午後2時29分まで(e) 同年9月8日午後3時35分から午後3時49分まで(f) 同年10月6日午前11時28分から午前11時50分まで(g) 同月18日午前11時10分から午前11時36分まで(h) 同年11月6日午後3時23分から午後3時36分まで(i) 同月15日午後2時38分から午後2時54分まで(j) 同年12月8日 (g) 同月18日午前11時10分から午前11時36分まで(h) 同年11月6日午後3時23分から午後3時36分まで(i) 同月15日午後2時38分から午後2時54分まで(j) 同年12月8日午後3時10分から午後3時33分まで(k) 同月27日午前10時35分から午前10時56分まで(l) 平成13年1月23日午前11時59分から午後0時27分まで被告Aが,原告と接見した際,2度にわたり,被告Aの携帯電話に第三者から電話があった。被告Aは,それに応答したが,1分ないし2分程度会話したのみで電話を切った。 b 原告は,被告Aとの接見の際,原告を診察したG医師を第1事件等の証人として申請するよう依頼した。 被告AがG医師から事情聴取したところ,同医師は,被告Aに対し,①原告に対する頚椎症性筋萎縮症の診断は,自ら診断したものではない,②原告の主訴に対応して薬を処方していたが,その処方は客観的な診断結果に基づくものではなく,本当に原告に痛みがあるのかは分からない,③このような内容の証言でよければ出廷の上証言する旨回答した。 そこで,被告Aは,原告との接見の際,原告に対し,G医師の前記回答を説明したところ,原告は,被告Aに対し,原告の知人等をG医師のところに行かせて,同医師に原告の訴える痛みについて証言させる旨述べた。 被告Aは,原告に対し,G医師を威迫し証言を強要するような対応をする場合には弁護人を辞任する旨述べて,直ちに接見を打ち切るとともに,G医師を証人申請するのは適当でないと判断した。 c 被告Aは,原告の要望を受けて,和歌山地方裁判所に対し,平成12年11月1日,原告が頚椎性筋萎縮症に罹患しており,その検査及び治療のために必要であることを理由として,原告の保釈を請求し,同時に,G医師が平成10年11月18日に作成した原告が頚椎性筋 ,平成12年11月1日,原告が頚椎性筋萎縮症に罹患しており,その検査及び治療のために必要であることを理由として,原告の保釈を請求し,同時に,G医師が平成10年11月18日に作成した原告が頚椎性筋萎縮症に罹患している旨記載した診断書を提出した。これに対し,和歌山地方検察庁副検事J(以下「J副検事」という。)は,平成12年11月2日,同裁判所に対し,原告の健康状態には特に問題はないとする丸の内拘置支所長K(以下「K支所長」という。)からの電話聴取書を添付した保釈不相当の意見書を提出した。これらを受けて,同裁判所は,同日,被告Aの保釈請求を却下するとの決定をした。 被告Aは,原告の要望を受け,また同月17日に開廷された本件第1事件等の第11回公判期日において原告に対する被告人質問が終了したことから,同月22日,同裁判所に対し,原告が頚椎性筋萎縮症及び糖尿病に罹患し,また血尿が出現しており,これらに対する検査治療が必要であること並びに全証拠の取調べが終了し証拠隠滅のおそれがないことを理由として,原告の保釈を請求し,同時に,G医師作成の前記診断書及び医療法人L医院理事長M(以下「M医師」という。)が平成12年5月10日から同年6月16日まで和歌山西警察署留置場において原告を治療し,同人を変形性頚椎症,糖尿病及び血尿と診断した旨の同年11月16日付けM医師作成の診断書を提出した。これに対し,J副検事は,同裁判所に対し,同月24日,原告の症状は安定していること,丸の内拘置支所でも月曜日,水曜日及び金曜日に往診の医師がおり,必要な診察,投薬を受けられることを理由として保釈不相当の意見を提出した。同裁判所は,同日,これらを受けて,被告Aの保釈請求を却下するとの決定をした。 (ウ) 第1事件等の第14回公判期日における手続等原告は,D裁判長に対し ことを理由として保釈不相当の意見を提出した。同裁判所は,同日,これらを受けて,被告Aの保釈請求を却下するとの決定をした。 (ウ) 第1事件等の第14回公判期日における手続等原告は,D裁判長に対し,平成13年1月15日付けで,I医師を被告Aが人証として申請しているかどうかを懸念する旨等を記載した上申書を提出し,この上申書は,同月17日,和歌山地方裁判所に到達した。 被告Aが同月23日に原告と接見した際,原告は,被告Aに対し,第1事件の第2回及び第3回公判期日に尋問がされたI医師に対する証人尋問を再度行ってもらいたい旨依頼した。被告Aは,原告に対し,I医師の再度の人証採用は困難であるが,原告がこれを強く求めるのであれば,同月25日に開廷される第1事件等の第14回公判期日において証人申請をすることを告げ,証人申請が採用されれば翌第15回公判期日において証人尋問を行い,申請が却下された場合には翌第15回公判期日において論告を受けるとともに最終弁論を行うことを確認した。 被告Aは,論告及び弁論の予定であった同月25日の第1事件等の第14回公判期日において,I医師の証人申請をし,原告自身が,その必要性につき,採尿手続の経過について再度尋問する必要がある旨意見を述べた。 これに対し,公判立会検察官であったJ副検事は,I医師の証人尋問は不必要であると意見を述べた。以上を受けて,和歌山地方裁判所は,被告AによるI医師の証人申請を却下した。 また,J副検事は,同公判期日において,同裁判所からの求釈明に答えて,原告の覚せい剤の使用日時及び場所につき,冒頭陳述書記載の日時及び場所は誤りである旨釈明した。 同裁判所は,以上の手続を経て,翌第15回公判期日において,論告及び弁論を実施することとした。 (エ) 被告Aの第1事件等の第15回公判期日における弁論等被告 日時及び場所は誤りである旨釈明した。 同裁判所は,以上の手続を経て,翌第15回公判期日において,論告及び弁論を実施することとした。 (エ) 被告Aの第1事件等の第15回公判期日における弁論等被告Aは,平成13年1月31日の第1事件等の第15回公判期日に当たり,B5版で3頁程度で大要以下のとおりの弁論要旨を準備し,同期日において,これを朗読した。なお,原告は,同期日当時54歳であった。 a 詐欺の公訴事実(第2事件)について争いはない。 b 覚せい剤取締法違反(第1事件)について原告は無罪である。 (a) 原告の尿は,身体捜索令状なくして原告の身体をI医師,看護婦(当時の名称)及び警察官2名の合計4名が押さえつけて採取された違法収集証拠であり,これを基礎とする鑑定書もまた違法収集証拠として証拠能力を有しない。 (b) 原告に覚せい剤を譲渡したとするNの供述は,Nの拳銃所持の罪を不問にする代わりに原告に不利な供述をするというNと警察官との間の取引によって得られたものであり,信用性に欠ける。 (c) 原告の捜査段階における自白は,原告が頸椎症性筋萎縮症に罹患し,首や肩に激痛を感じ,正常な思考能力を有していない状況でされたものであり,任意性が欠ける。 (d) 原告は,過去6度にわたる覚せい剤事犯での服役に際しては,素直に罪を認めている一方,第1事件においてこれを否認して争うのは,原告が真に第1事件について無罪であることの証左である。 c 原告の前刑の執行終了が平成8年11月である以上,第2事件の有罪による実刑が科されることはやむを得ないが,原告は,53歳で今後は生活を改め真面目に生活してもらいたいと弁護人(被告A)は考える。 d 以上の事情を考慮し,原告にできるだけ寛大な判決をされたい。 (オ) 被告Aの国選弁護人解任の経緯及びその後の原告に対する第 今後は生活を改め真面目に生活してもらいたいと弁護人(被告A)は考える。 d 以上の事情を考慮し,原告にできるだけ寛大な判決をされたい。 (オ) 被告Aの国選弁護人解任の経緯及びその後の原告に対する第1事件等に関する国選弁護人の選任等a 被告Aは,平成13年3月5日,うつ病及びアルコール依存症の悪化により,意識に欠落が生じ,弁護活動に支障を来すような状況がみられた。 被告弁護士会の当時の会長であったO,当時の副会長であったP(以下「P副会長」という。)及び刑事問題対策委員会の委員長であったQ(以下これら3名を総称して「O会長等」という。)が,同日午後8時30分,被告Aと同被告の自宅で面談し,同被告が当分の間国選弁護人としての職務の遂行が困難な心身の状態であることを確認した。そのため,O会長等が,被告Aに対し,第1事件等を含む同被告が受任していた国選弁護事件全件につき辞任するかどうか意向を確認したところ,被告Aは,全件について辞任する旨回答した。そして,被告Aは,O会長等立会の下で,自己都合(病気)を理由とする同月6日付けの第1事件等に関する国選弁護人辞任届に自署した。しかし,被告Aの自署が乱れたため,P副会長が,被告Aの自署の下に被告Aの氏名を付記した。 D裁判長は,同日,被告Aの第1事件に関する国選弁護人辞任届が提出されたことを受けて,同日付けで,被告Aを第1事件等の国選弁護人から解任した。また,和歌山地方裁判所は,同日,同月7日午後1時10分と指定されていた第1事件等の公判(判決宣告)期日を取り消し,次回期日を追って指定するとの決定をした。 b D裁判長は,平成13年3月14日,E弁護士を原告に対する第1事件等の国選弁護人に選任した。 E弁護士は,和歌山地方裁判所に対し,同月26日,原告と接見した結果,原告が和歌山北警察署生活安 た。 b D裁判長は,平成13年3月14日,E弁護士を原告に対する第1事件等の国選弁護人に選任した。 E弁護士は,和歌山地方裁判所に対し,同月26日,原告と接見した結果,原告が和歌山北警察署生活安全課課長代理及び同署留置係のRの証人尋問を強く求めている旨の報告書を提出し,同年6月5日,同裁判所に対し,原告の病状につきu病院に弁護士法23条の2に基づく照会をしており,その回答があった段階で原告と接見の上,弁論再開請求をするかどうかを決める旨の電話報告をした。 しかし,E弁護士は,同裁判所,和歌山地方検察庁及び被告弁護士会に対し,同年8月1日,原告の病状に関する照会に対する回答の到着が遅れたこと,原告との接見には1時間程度必要と考えられるところ,その時間が取れなかったため原告と接見できず,同日,原告と接見するために丸の内拘置支所に赴いたところ,原告から面会を拒否されたので,原告との信頼関係を維持することができないから,弁護人から解任されたい旨の報告書を提出した。 D裁判長は,同年8月28日,第1事件等の第16回公判期日を同年9月5日と指定し,同日,同公判期日において,原告がE弁護士の国選弁護人からの解任を希望している旨を確認し,同日,同弁護士を原告に対する第1事件等の国選弁護人から解任した。 D裁判長は,同月14日,F弁護士を原告に対する第1事件等の国選弁護人に選任した。 F弁護士は,同裁判所に対し,平成13年11月21日,原告の頚椎損傷,糖尿病ないし血尿及び歯の診察及び治療に必要であるとして,原告に対する勾留執行の停止を申し立てるとともに,K支所長に対する弁護士法23条の2に基づく照会に対する同人からの回答書,原告の尿検査の結果,原告の上申書を提出した。F弁護士は,同裁判所に対し,同月22日には原告の身柄引受人からの事情聴取の結果を, 所長に対する弁護士法23条の2に基づく照会に対する同人からの回答書,原告の尿検査の結果,原告の上申書を提出した。F弁護士は,同裁判所に対し,同月22日には原告の身柄引受人からの事情聴取の結果を,同月30日にはG医師から原告の治療に要する期間や入院可能時期について聴取した結果をそれぞれ報告した。同裁判所は,検察官Sからも意見を聴取した上,平成14年1月23日,F弁護士の前記勾留執行停止の申立てに対しては職権の発動をしないこととした。 同裁判所は,平成14年1月23日,第1事件等の弁論を再開し,そのための第17回公判期日を同年2月13日午後4時と指定し,同期日において,F弁護士が平成13年12月20日に証人申請した科学捜査研究所技術吏員Tの証人尋問を行うとの決定をした。 F弁護士は,平成14年3月14日に開廷された第1事件等の第18回公判(論告弁論)期日において,被告Aの弁論のうち,第1事件の無罪主張については前記(エ)b(a)ないし(d)を援用し,これに新たな主張を付け加える形で弁論をした。 イ前記認定に反する原告及び被告Aの主張に対する判断(ア) 原告は,①被告Aは,国選弁護人に選任された後,常に飲酒酩酊した状態で原告と接見したり毎回の公判廷に出頭した,②被告Aは,原告との接見の際,原告の顔を見ず,また携帯電話で第三者と打ち合わせをしていた,③原告が被告Aに対しG医師及びI医師のほかに証人申請を依頼したのはM医師でありH医師ではない,④被告Aが第14回公判期日に約40分遅刻し,飲酒酩酊しかつ壊れた眼鏡を掛け顔面から出血した状態で出頭したため,同期日は延期された,⑤被告Aは,第15回公判期日において弁論を違法収集証拠で原告が無罪である旨の弁論をわずか数秒間しかしなかった旨主張する。 しかし,前記ア(ウ)認定の平成13年1月25日の ため,同期日は延期された,⑤被告Aは,第15回公判期日において弁論を違法収集証拠で原告が無罪である旨の弁論をわずか数秒間しかしなかった旨主張する。 しかし,前記ア(ウ)認定の平成13年1月25日の第14回公判期日における手続は,乙2中の同期日調書によって認められるものであり,これと明らかに齟齬する原告の前記④の主張及びこれと同様の原告の陳述記載ないし証言は到底採用することができず,他に前記ア(ウ)の認定を覆し,原告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。また,被告Aが前記ア(エ)認定のとおり弁論を行ったことは,乙2中の第15回公判期日調書からも明らかであるし,原告も陳述書(甲8)及び本人尋問において認めるところであるから,これと反する原告の前記⑤の主張も採用することはできない。 また,被告Aが原告との接見や毎回の公判廷において常に飲酒酩酊していたとの点(前記①)及び被告Aが原告との接見の際原告の顔を見ず,かつ携帯電話で第三者と打ち合わせをしていたとの点(前記②)については,これを裏付ける証拠が,原告の陳述記載ないし証言のみであるところ,前記説示のとおり,原告の陳述記載ないし証言が客観的証拠と齟齬する点が見受けられることに照らすと,にわかに採用することができず,他に原告主張の事実を認定するに足りる証拠はない。 他方,原告の前記③の主張にかかる点ついては,証拠(乙2,原告本人)によれば,M医師が,和歌山県和歌山西警察署の監察医であること,平成12年5月10日から同年6月16日までの間,原告を同署の留置場内で診断及び治療したことが認められる。しかし,証拠(乙2,原告本人)によれば,原告は,被告Aに対し,原告の保釈請求に当たりM医師から事情を聞くよう求めたこと,同医師は,原告に対する診断書を同年11月16日に作成し,被告Aに交付し,被告A し,証拠(乙2,原告本人)によれば,原告は,被告Aに対し,原告の保釈請求に当たりM医師から事情を聞くよう求めたこと,同医師は,原告に対する診断書を同年11月16日に作成し,被告Aに交付し,被告Aがこれを原告の保釈請求書に添付していることが認められる。以上の事実によれば,原告が,被告Aに対し,M医師を証人申請するよう求めたとの原告の主張ないし供述はにわかに採用することができず,他に,原告が被告Aに対しM医師を証人申請するよう依頼したことを認めるに足りる証拠はない。 (イ) 被告Aは,原告と丸の内拘置支所で接見をしていた際,G医師から被告Aの携帯電話に架電があったことがあり,原告との接見中に携帯電話で会話をしたのはその1度だけである旨主張する。 しかし,弁論の全趣旨によれば,被告Aは,被告弁護士会の綱紀委員会において,3,4回の接見に1度位携帯電話に対応したことがある旨回答していたことが認められ,これに,前記(1)ア(イ)認定のとおり,被告Aが原告と接見したのは12回あることに照らすと,被告Aの前記主張は採用することができない。 また,被告Aは,原告から和歌山県和歌山西警察署の監察医であったH医師の証人申請を依頼されたが,同人と面会して事情聴取をしたところ,同人は原告を診察していない旨回答したことから,同人を証人として申請しなかったと主張する。 しかし,H医師が同署の監察医であったと認めるに足りる客観的証拠はなく,かえって,前記(ア)認定のとおり,平成12年当時M医師が同署の監察医であり,また,原告は,被告Aに対し,M医師の証人申請を依頼したのではなく,保釈請求に当たり事情を聞くよう求めたにすぎず,被告Aは,平成12年11月16日,M医師から原告の診断書の交付を受け,これを同月22日にした保釈請求に併せて和歌山地方裁判所に提出したことに はなく,保釈請求に当たり事情を聞くよう求めたにすぎず,被告Aは,平成12年11月16日,M医師から原告の診断書の交付を受け,これを同月22日にした保釈請求に併せて和歌山地方裁判所に提出したことに照らすと,被告Aの上記主張も採用することができない。 (2) 以上の認定事実を前提として,被告Aの不法行為の成否に関する原告の主張につき判断する。 ア国選弁護人の被告人に対する義務及び義務違反について弁護士と依頼人との関係は,委任契約ないし準委任契約に基づく法律関係と解されるところ,弁護士は,依頼人に対し,委任契約ないし準委任契約(民法644条,656条)に基づき,法律専門家として善良な管理者としての注意をもって依頼された事務を処理すべき善管注意義務を負担するだけでなく,弁護士と依頼人との関係が,専門的知識を有する者とそのような知識を有しない素人との間の関係であり,依頼人が全面的に弁護士を信頼せざるを得ないという関係であることに照らすと,弁護士は,依頼人の利益を図るために誠実にその職務を行うべき義務であるいわゆる誠実義務があると解される(弁護士法1条2項参照)。そして,この誠実義務は,前記説示のとおり,依頼人が弁護士を全面的に信頼せざるを得ない関係にあることにかんがみると,単なる倫理的な義務にとどまらず,一般的な善管注意義務と並ぶ法的な義務であると解すべきである。 ところで,刑事被告事件における国選弁護人は,憲法37条3項後段及びこれを受けた刑事訴訟法36条以下の規定により,貧困その他の事由により弁護人を選任することのできない被告人のために国が付する弁護人であって,被告人自身が選任するいわゆる私選弁護人のように被告人と直接の委任契約関係には立たないが,私選弁護人と同様に,弁護活動を行うべき義務を被告人に対する関係で負担することに照らすと, る弁護人であって,被告人自身が選任するいわゆる私選弁護人のように被告人と直接の委任契約関係には立たないが,私選弁護人と同様に,弁護活動を行うべき義務を被告人に対する関係で負担することに照らすと,その弁護人として尽くすべき義務の内容及び範囲は,国選弁護人と私選弁護人との間において差異はないものと解される。 したがって,国選弁護人は,被告人に対し,私選弁護人と同様,善管注意義務のみならず誠実義務をも負担し,国選弁護人がこれらの義務に違反したことにより被告人において権利侵害及び損害が発生した場合には,不法行為に基づく損害賠償義務を負うと解される。 イ接見及び公判廷への出頭について(ア) 原告は,被告Aが原告を接見した時間が,いずれも30分に満たないものであり,十分なものではなかったと主張する。そして,前記(1)ア(イ)a認定のとおり,被告Aが丸の内拘置支所において原告に接見した時間は,平成12年6月29日が27分間,同年7月10日が20分間,同月24日が20分間,同年8月9日が19分間,同年9月8日が14分間,同年10月6日が22分間,同月18日が26分間,同年11月6日が13分間,同月15日が16分間,同年12月8日が23分間,同月27日が21分間,平成13年1月23日が28分間である。また,証拠(甲2,乙2)によれば,原告は,平成12年12月1日付けのD裁判長に対する上申書において,被告Aとの間で意思の疎通がされていない旨述べたこと及び平成13年1月17日付けのD裁判長に対する上申書において被告Aが面会に来ない旨述べたことが認められる。 しかし,被告人と弁護人との接見が不十分であったか,ひいては,接見に当たり善管注意義務等違反があったかという点を判断するに当たっては,単に接見の時間の長短によってではなく,当該被告事件の内容,争点, かし,被告人と弁護人との接見が不十分であったか,ひいては,接見に当たり善管注意義務等違反があったかという点を判断するに当たっては,単に接見の時間の長短によってではなく,当該被告事件の内容,争点,進行度合い等に照らし被告人と弁護人が,その接見時間内で十分な打ち合わせができたか否かという観点に立って判断すべきであるところ,本件全証拠によるも原告と被告Aとの間の打ち合わせが十分でなかったことを窺わせる事情は認められず,原告が,前記認定のとおり,D裁判長に対し,被告Aと意思疎通ができていないこと,被告Aが面会に来ないことについて不満を述べたものの,原告がそれ以前に被告Aとの接見の時間や頻度について不満を述べたことを認めるに足りる証拠はないし,原告が被告A本人に対し接見の時間及び頻度について要望や不満を直接述べたことを認めるに足りる証拠もないことに照らすと,以上認定の接見時間から,被告Aの原告との接見が,善管注意義務等に違反するほど不十分なものであったと認めることはできない。 (イ) 原告は,被告Aが,原告との接見に際し,原告の顔を見ることなく,また,携帯電話で第三者と打ち合わせをするなどして,原告の話をまともに聞こうとしなかった旨主張する。そして,前記(1)ア(イ)a認定のとおり,被告Aが原告と接見中に,2度にわたり第三者から被告Aの携帯電話に電話が入り,被告Aが1分ないし2分間程度会話をしたことが認められる。 しかし,前記(1)イ(ア)認定のとおり,被告Aが原告との接見に当たり,原告の顔を見ようとしなかったり,被告Aが,原告との接見中に携帯電話で第三者と打ち合わせをして,原告との打ち合わせをしなかったとの事実は認められない。 そして,前記(1)ア(イ)a認定のとおり,被告Aから第三者に対して架電したのではなく,相手方から被告Aの携帯電話に 三者と打ち合わせをして,原告との打ち合わせをしなかったとの事実は認められない。 そして,前記(1)ア(イ)a認定のとおり,被告Aから第三者に対して架電したのではなく,相手方から被告Aの携帯電話に架電されたこと,被告Aと第三者との会話時間が1分ないし2分程度と短いものであったことに照らすと,仮に被告Aが原告との接見中に携帯電話の電源を入れていたことが丸の内拘置支所の規則に違反していたとしても,このような電話による会話をもって,被告Aに善管注意義務等違反があったということはできない。 (ウ) 前記(1)イ(ア)認定のとおり,被告Aが,原告との接見及び原告に対する第1事件等の公判廷において飲酒酩酊した状態にあったとは認められないが,前記(1)ア(ア)認定のとおり,遅くとも平成12年11月6日以降5度にわたる原告との接見及び同月17日以降5度にわたる公判において,酒気を帯びた状態で接見や公判廷に臨み,酒臭を発していたことが認められる。 ところで,弁護人が,酒気を帯びたり酒臭を発しつつ弁護活動を行ったとしても,当該弁護活動において平均的な弁護士が有すべき注意義務に違反していない限りは,善管注意義務違反があったということはできない。 しかし,前記ア説示のとおり,国選弁護人は,被告人に対し,善管注意義務のみならず,被告人の利益を図るために誠実にその職務を行うべき誠実義務をも負担すべきところ,国選弁護人が,酒気を帯び,酒臭を発した状態で,被告人との接見に臨み又は公判廷に出頭することは,国選弁護制度に対する一般的な信頼を失わせる行為であり,被告人との関係において,その職務に対する誠実さを欠く行為と評価されるといえるから,酒気を帯び酒臭を発しつつ被告人との接見に臨んだり公判廷に出頭して弁護活動を行った国選弁護人は,誠実義務に違反するものというほかない。し ,その職務に対する誠実さを欠く行為と評価されるといえるから,酒気を帯び酒臭を発しつつ被告人との接見に臨んだり公判廷に出頭して弁護活動を行った国選弁護人は,誠実義務に違反するものというほかない。したがって,被告Aが原告との接見及び第1事件等の公判廷において酒気を帯び,酒臭を発しつつ臨んだことは,原告に対する誠実義務違反を構成するものといわざるを得ない。 そして,以上のとおり,被告Aが,遅くとも平成12年11月6日以降,少なくとも5度の接見及び5度の公判期日において,酒気を帯びた状態で原告と接見し,また,公判廷に出頭したこと,原告が,同月30日付けで被告Aの国選弁護人からの解任を求める旨の上申書をD裁判長に提出していること及び原告が被告Aに対し懲戒請求を申し立てていることに,原告が本件訴えを提起したこと(当裁判所に顕著な事実)を併せると,原告が,被告Aの前記誠実義務違反により,被告人の国選弁護人による弁護を受ける憲法37条3項後段所定の権利に由来する国選弁護人の誠実な弁護活動を受ける期待権を侵害され,精神的苦痛を被ったことが認められる。これに対し,被告Aは,原告には何らの損害も生じていないと主張するが,同被告が想定する損害は,善管注意義務違反に基づく具体的な事件への影響のみであり,上記期待権の侵害を看過するものであり,採用することができない。 したがって,被告Aが,酒気を帯びかつ酒臭を発した状態で,原告との接見に臨み,また,第1事件等の公判廷に出頭したことは,原告に対する誠実義務違反による不法行為を構成する。 ウ証人申請について原告は,被告Aに対し,G,I及びM各医師を証人申請するよう依頼したが,いずれも公判廷に出廷させず,原告の反証活動に多大な不利益を与えた旨主張する。 しかし,前記認定のとおり,M医師については,原告は,証人申請 Aに対し,G,I及びM各医師を証人申請するよう依頼したが,いずれも公判廷に出廷させず,原告の反証活動に多大な不利益を与えた旨主張する。 しかし,前記認定のとおり,M医師については,原告は,証人申請を依頼したのではなく,保釈請求に当たり事情を聞くよう要望したにすぎず,I医師については,被告Aは,原告の要望どおり,第1事件等の第14回公判期日において証人申請しており,G医師については,原告が期待する供述を引き出すことが困難なばかりか,原告が同医師を威迫するような趣旨の言辞をしたことから,被告Aは,同医師を証人申請することを避けたものである。 以上によれば,被告Aが,I医師を証人申請したことについては,何らの義務違反を構成せず,M医師を証人申請しなかったことについては,原告からの要望がなかったから善管注意義務等違反を構成しないことはもとより,G医師を証人申請しなかったことについては,その必要性が小さく,かつ,原告による威迫の恐れという弊害が認められたことに照らすと,原告の要望に反したとしても,善管注意義務等に違反するものということはできない。 エ保釈等原告の体調への配慮について原告は,被告Aが原告の体調への配慮を怠った旨主張する。 しかし,そもそも,勾留中の被告人の健康状態に対する配慮は,勾留場所である拘置所等の収容施設において第一次的にすべき筋合いのものであり,弁護人においては,被告人につき保釈請求,勾留取消請求又は裁判所に対し勾留執行停止の職権発動を促す申立てをすることができる程度にすぎない。 そして,前記認定のとおり,被告Aは,原告の要望を受けて,平成12年11月1日及び同月22日,和歌山地方裁判所に対し,原告の検査及び治療に必要であることを理由として原告の保釈を請求し,その保釈請求書には,G医師ないしM医師作成の原告に対する診断書 けて,平成12年11月1日及び同月22日,和歌山地方裁判所に対し,原告の検査及び治療に必要であることを理由として原告の保釈を請求し,その保釈請求書には,G医師ないしM医師作成の原告に対する診断書を添付していた。これらの事実に照らすと,被告Aは,自己の権限の及ぶ限度において,原告の体調を配慮していたということができ,善管注意義務等違反は認められない。 オ第14回公判期日への遅刻等について原告は,被告Aが平成13年1月25日に開廷された第1事件等の第14回公判期日に約40分遅刻するなどしたため,同期日が不当に延期された旨主張する。 しかし,前記認定のとおり,この点に関する原告主張の事実は認められない。 カ最終弁論について原告は,被告Aの最終弁論がわずか30秒と時間的に短く,内容も乏しいものであり,国選弁護人としての義務を果たしたものとはいえない旨主張する。 しかし,前記認定のとおり,被告Aは,弁論要旨を書面で準備してこれを朗読する方法で,最終弁論を行ったのであり,原告の主張はその前提を欠く。また,前記認定のとおり,後任の国選弁護人であるF弁護士において,被告Aの弁論要旨の主要部分を援用していることに照らすと,被告Aの弁論の内容が不十分であり,善管注意義務等違反の問題を生ずるものであったということはできない。 なお,前記認定のとおり,被告Aは,最終弁論の弁論要旨において,原告の年齢を誤っているが,被告Aが記載した原告の年齢は,被告Aが,原告に対する第1事件の国選弁護人に選任された当時の年齢であること,原告が,被告Aに対し,本件訴えを提起するまで,この点について不満を述べたなどの事情が認められないことに照らすと,この年齢の記載の誤りが,善管注意義務等違反に当たり,不法行為を構成するということはできない。 キ辞任による裁判の遅延について で,この点について不満を述べたなどの事情が認められないことに照らすと,この年齢の記載の誤りが,善管注意義務等違反に当たり,不法行為を構成するということはできない。 キ辞任による裁判の遅延について原告は,被告Aが,第1事件等の判決宣告期日の前日に辞任する旨申し出,これにより,D裁判長が同被告を国選弁護人から解任したことによって,第1事件等の審理及び判決を不当に遅延させた旨主張する。 しかし,国選弁護人の解任は裁判の一種であり,弁護人が辞任の申請をしても裁判所ないし裁判長において辞任に正当な理由があると認めない限り,解任されないところ,前記認定のとおり,被告Aは,平成13年3月5日,うつ病及びアルコール依存症が悪化し,その職務を遂行することが困難であったことから,O会長等立会の下で,辞任届を作成し,D裁判長が,この辞任届の提出を受けて,被告Aを原告に対する第1事件等の国選弁護人から解任したのであり,被告Aのうつ病及びアルコール依存症の悪化は,かかる正当理由に該当するものということができる。そして,私選弁護人においては,やむを得ない事由により委任契約ないし準委任契約を解除したときは,委任者である依頼人に対し損害賠償義務を負わない(民法651条,656条)こととの均衡上,正当な理由があり,国選弁護人から解任された場合には,辞任したことを理由として,被告人に対し,損害賠償義務を負うことはないと解すべきである。したがって,被告Aが同裁判所に対し第1事件等の辞任を申し出たことが,善管注意義務等違反の問題を生じたり,不法行為を構成することはない。 また,前記認定のとおり,平成13年3月6日に被告Aが解任された8日後の同月14日にE弁護士が原告に対する第1事件等の国選弁護人に選任され,その後,同年9月5日に同弁護士が国選弁護人から解任され,同月14日 記認定のとおり,平成13年3月6日に被告Aが解任された8日後の同月14日にE弁護士が原告に対する第1事件等の国選弁護人に選任され,その後,同年9月5日に同弁護士が国選弁護人から解任され,同月14日にF弁護士が国選弁護人に選任され,平成14年1月23日に第1事件等の弁論が再開され,同年2月13日の第17回公判期日において証人尋問がされ,同年3月14日の第18回公判期日において論告及び弁論がされて結審し,同年4月26日の第19回公判期日において判決が言い渡されたのであり,このような第1事件等の経過に照らすと,被告Aが国選弁護人から解任されたことと第1事件等の判決期日が遅延したこととの間には,相当因果関係がないといわざるを得ない。 したがって,被告Aの辞任が不法行為を構成するという原告の主張は理由がない。 (3) 損害額以上のとおり,被告Aが,遅くとも平成12年11月6日から,酒気を帯び酒臭を発しつつ,少なくとも5度にわたり原告と接見したり,少なくとも5度にわたり第1事件等の公判廷に出頭したことは,原告に対する誠実義務違反であり,これにより,原告の国選弁護人の誠実な弁護活動を受ける期待権を侵害し,精神的な損害を与える不法行為を構成するものということができる。 そして,前記被告Aの不法行為の態様に加え,前記(2)のとおり,被告Aが上記の点を除いては原告に対し善管注意義務等に違反する行動をしたとは認められないこと,被告Aが少なくとも同年6月から同年10月ころまでの間は,酒気を帯びていない状態で弁護活動をしていたこと,原告が被告Aに対する不満を述べ始めたのが同年11月30日付けのD裁判長に対する上申書であり,被告Aが国選弁護人から解任されるまでの間は,原告が,直接被告Aに対し,不満を述べていたとは認められないことといった諸事情,その他本件に顕れ たのが同年11月30日付けのD裁判長に対する上申書であり,被告Aが国選弁護人から解任されるまでの間は,原告が,直接被告Aに対し,不満を述べていたとは認められないことといった諸事情,その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,被告Aの誠実義務違反の不法行為による原告の精神的損害の慰謝料としては,15万円が相当である。 2 争点(2)(被告弁護士会の原告に対する不法行為の成否)について(1) 選任及び解任に関する不法行為の成否についてア原告は,被告弁護士会において,被告Aがうつ状態でかつ飲酒酩酊の上弁護活動を行っていたことを認識しつつ,同被告を原告に対する第1事件等の国選弁護人として選任したことは,不法行為を構成する旨主張する。そして,証拠(乙2,丙1,3,4)によれば,被告弁護士会は,和歌山地方裁判所の依頼を受けて,会員である弁護士を国選弁護人として推薦しており,被告Aについても同様の手続で推薦された結果,D裁判長において被告Aを第1事件等の国選弁護人として選任したことが認められる。 しかし,国選弁護人を選任するのは,裁判所又は裁判長の権限である(刑事訴訟法36条,289条2項等参照)から,被告弁護士会において,原告に対する第1事件等の国選弁護人を選任する権限はなく,あくまで会員である弁護士を推薦するにすぎない。したがって,被告弁護士会に国選弁護人選任の権限があることを前提とする原告の主張はその前提を欠く。 また,原告の真意が,被告弁護士会による上記推薦行為の違法にあるとしても,前記認定のとおり,被告Aは,平成12年10月ころから不眠状態を解消するために夜就寝する前に飲酒を始め,平成13年3月5日に既往のうつ病及びアルコール依存症が悪化し弁護活動を継続することができなくなったのであり,本件第1事件の国選弁護人に選任された平成12年6月当 するために夜就寝する前に飲酒を始め,平成13年3月5日に既往のうつ病及びアルコール依存症が悪化し弁護活動を継続することができなくなったのであり,本件第1事件の国選弁護人に選任された平成12年6月当時は,うつ病及びアルコール依存症の治療は受けていたものの,その症状は軽快しており,現に国選弁護人として活動していたものであり,うつ病及び飲酒酩酊により弁護活動ができない状態であったとは認められない。したがって,被告弁護士会において,被告Aがうつ状態かつ飲酒酩酊の上弁護活動を行っていたことを認識していたことも認められず,原告の主張を採用する余地はない。 イ原告は,被告弁護士会において,被告Aがうつ状態でかつ飲酒酩酊して原告に対する第1事件等の弁護活動を行っていたことを認識しながら,被告Aに対して適切な処分をすることなく,弁護活動を継続させた点が,原告に対する不法行為を構成する旨主張する。 この原告の主張の趣旨は必ずしも明確ではないが,被告弁護士会において,被告Aを原告に対する第1事件等の国選弁護人から解任すべきであったとの趣旨であれば,前記説示のとおり,国選弁護人の解任は裁判としての性質を有し,その権限は裁判所又は裁判長にあるから,被告弁護士会には被告Aを国選弁護人から解任する権限はない以上,この点につき,被告弁護士会に不法行為は成立しない。 もっとも,原告の主張は,被告弁護士会がその会員である被告Aに対する一般的な指導監督権限を行使しなかった点が不法行為を構成するとの趣旨であるとも解される。しかし,弁護士会の一般的な指導監督権限は,弁護士の弁護権ないしその職務の独立性に照らすと,弁護士の受任事件の処理に関して個別具体的に指導監督することは原則として許されず,明らかに違法な弁護活動,実質的に弁護権を放棄したと認められる行為,あるいは職業的 権ないしその職務の独立性に照らすと,弁護士の受任事件の処理に関して個別具体的に指導監督することは原則として許されず,明らかに違法な弁護活動,実質的に弁護権を放棄したと認められる行為,あるいは職業的専門家である弁護士としての良識から著しく逸脱した行為がされるなどして,弁護士会の指導監督による是正が特に必要な場合に限って例外的に許されるものと解される。そして,被告弁護士会が,前記1(1)ア(オ)認定のとおり被告Aにおいて弁護活動に支障があることが確認された平成13年3月5日以前に,被告Aの弁護活動に問題があることを認識していたことを認めるに足りる証拠はなく,かえって,被告Aが前記認定のとおり平成13年3月6日に至って初めて国選弁護人として選任されていた全事件について国選弁護人を解任されたことに照らすと,被告Aの弁護活動を最も具体的に把握している和歌山地方裁判所においても,同日まで被告Aの弁護活動に問題があったとは認識していなかったと推認され,これによれば,被告弁護士会が,被告Aの第1事件等についての弁護活動に一般的な指導監督をすべき事情があったと認識できたとは到底認められないから,被告弁護士会が被告Aに対し一般的な指導監督権限を行使しなかったことが不法行為を構成するということはできない。 (2) 懲戒処分に関する不法行為の成否について原告は,自らした被告Aに対する懲戒請求に対し,被告弁護士会の綱紀委員会が懲戒相当と決定しつつも刑事弁護活動自体には問題がなかったとし,また,被告弁護士会の懲戒委員会が被告Aを懲戒しないとの議決をしたことが,不法行為を構成する旨主張する。 しかし,弁護士法58条に基づく懲戒請求権は,弁護士会又は日本弁護士連合会の自主的な判断に基づいて,その会員である弁護士の綱紀,信用,品位等の保持という目的を達成するためとい を構成する旨主張する。 しかし,弁護士法58条に基づく懲戒請求権は,弁護士会又は日本弁護士連合会の自主的な判断に基づいて,その会員である弁護士の綱紀,信用,品位等の保持という目的を達成するためという公益的な見地から,前記各会に特に認められたものであり,懲戒請求者個人の利益のためのものではないと解される。 したがって,原告の懲戒請求に対し,被告弁護士会の綱紀委員会が刑事弁護活動自体に問題がなかった旨決定をしても被告弁護士会の懲戒委員会がした懲戒不相当との議決をしたことをもって,懲戒請求権者である原告が法的保護に値する具体的利益の侵害を受けたということはできない。 よって,原告の主張を採用することはできない。 (3) 小括以上のとおり,被告弁護士会の各所為が,原告に対する関係で,不法行為を構成すると認めることはできない。 3 結論以上の次第で,原告の被告らに対する本件請求は,原告が,被告Aに対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料15万円の支払を求める限度で理由があるから,この限度で認容し,原告の被告Aに対するその余の請求及び被告弁護士会に対する請求は理由がないから,これを棄却して,主文のとおり判決する。 和歌山地方裁判所第二民事部裁判長裁判官礒尾正裁判官高  橋綾  子裁判官成  田晋  司

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