平成25(行ケ)10069 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年10月30日 知的財産高等裁判所 3部 判決 請求棄却
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平成25年10月30日判決言渡平成25年(行ケ)第10069号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成25年10月28日判決 原告 X訴訟代理人弁理士森本敏明 被告特許庁長官 指定代理人竹之内 秀 明同山崎勝司同窪田治彦同大橋信彦主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求の趣旨 1 特許庁が不服2012-18391号事件について平成25年1月30日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)原告は,発明の名称を「手羽中の骨とりハサミ」とする発明について,平成19年2月13日に特許出願(特願2007-60854号。以下「本願」と いう。)をしたが,平成24年7月17日付けで拒絶査定を受けたので,同年9月20日,これに対する不服の審判を請求した。 特許庁は,この審判を,不服2012-18391号事件として審理し,平成25年1月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年2月12日,審決の謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲本願の特許請求の範囲(請求項の数は1である。)における請求項1の記載は次のとおりである(甲4。この発明を,以下「本願発明」という。図面は,別紙(本願発明の図面)のとおり。)。 【請求項1】刃部から柄部を介し握り部とからなる単体を,支点を介して一対形成してハサミとし, おりである(甲4。この発明を,以下「本願発明」という。図面は,別紙(本願発明の図面)のとおり。)。 【請求項1】刃部から柄部を介し握り部とからなる単体を,支点を介して一対形成してハサミとし,支点と握り部の間に手羽中をはさみ,押し下げると2本の骨が露出し,簡単に骨がとれる形状の開口部を設けたことを特徴とする,手羽中の骨とりハサミ。 3 審決の理由(1) 審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,その出願日前に頒布された刊行物である実開昭59-133172号公報(甲1。以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び実開平5-21682号公報(甲2。以下「引用例2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。 (2) 審決が,上記結論を導くに当たり認定した,引用発明1の内容並びに本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は,以下のとおりである。 ア引用発明1の内容(図面は,別紙(引用発明1の図面)のとおり。)「1枚の刃板(1)と1つの柄部(2)が一体に形成され,該柄部(2) は,人が握る握り部分と,刃板と該握り部分をつなぐ柄の部分とからなり,一方の刃板(1)の枢着軸が,他方の刃板(1)の軸受け孔(10)に支承され,枢着軸(7)と握り部分の間には,開口に対象をはさんで使用する殻割部(6)が設けられた調理用鋏」。 イ本願発明と引用発明1との一致点「刃部から柄部を介し握り部とからなる単体を,支点を介して一対形成してハサミとし,支点と握り部の間に機能部分を設けた調理用のハサミ」の点。 ウ本願発明と引用発明1との相違点 明1との一致点「刃部から柄部を介し握り部とからなる単体を,支点を介して一対形成してハサミとし,支点と握り部の間に機能部分を設けた調理用のハサミ」の点。 ウ本願発明と引用発明1との相違点(ア) 相違点1支点と握り部の間に設けた機能部分について,本願発明が「手羽中をはさみ,押し下げると2本の骨が露出し,簡単に骨がとれる形状の開口部」であるのに対し,引用発明1は「開口に対象物をはさんで使用する殻割部(6)」である点。 (イ) 相違点2本願発明の調理用のハサミが「手羽中の骨とりハサミ」であるのに対し,引用発明1の調理用のハサミが手羽中の骨とりの機能は無い調理用鋏である点。 第3 原告の主張 1 取消事由1(引用発明1の認定の誤り)審決が認定した引用発明1の内容は前提事実3(2)アのとおりであるが,審決による引用発明1の認定は,①引用発明1の調理用鋏は,正しくは2枚の刃板(1)が重合してなるものであるにもかかわらず,1枚の刃板(1)からなるものと誤認している点,②引用発明1における穀割部(6)は,正しくは「木の実等の穀物を割る殻割部(6)」であるにもかかわらず,「開口に対象をはさんで使用する殻割部(6)」と甚だ不明瞭・不明確な認定をしている点, ③引用発明1の調理用鋏において,同発明の課題を解決するために必須の構成である,2枚の刃板(1)が着脱可能であることや穀割部(6)に加えて缶切部(3),栓抜部(4),ドライバー部(5)及び剥離刃(11)が設けられていることを看過している点において,誤りである。 2 取消事由2(引用発明2の認定の誤り)審決は,引用発明2を,次のとおり認定した。 「板材の対向辺側にそれぞれ大小二つの略半円形状の切欠きを設け,2本の手羽骨を,該切欠き間に挟み込んで押し込 取消事由2(引用発明2の認定の誤り)審決は,引用発明2を,次のとおり認定した。 「板材の対向辺側にそれぞれ大小二つの略半円形状の切欠きを設け,2本の手羽骨を,該切欠き間に挟み込んで押し込むと,手羽中肉から2本の手羽骨が分離し,簡単に抜き取ることが可能な手羽骨除去器具」。 しかるに,審決の「手羽中肉から2本の手羽骨が分離し,簡単に抜き取ることが可能」との認定は,以下の点で誤りである。 (1) 引用発明2の器具は鋏ではないから,手羽骨を露出させることが可能であるとしても,手羽骨の間にある筋を切ることはできない。したがって,同器具を用いる場合,露出させた2本の手羽骨を同時に抜き取らなければならず,熟練や手羽骨を抜き取る力を要する。よって,引用発明2の器具は,単体では手羽骨を抜き取ることが困難なものである。 (2) 引用発明2の器具を扱う際には,一方の手には器具を支えつつ手羽中骨を挟み込む力が,他方の手には手羽を押し込む力が,それぞれ必要であり,握力や腕力の弱い女性や子供にはその扱いが難しい。また,仮に,手羽を机などの上に置いて固定する場合,引用発明2の器具の弯曲した部位が陰になって,作業者は手羽を見ながら作業できないので,甚だ不便である。さらに,引用発明2の器具は,弾性を有する金属板等からなることからすれば,これを使って手羽の骨を露出させていくうちに,折曲部3及び4が折曲部5方向に徐々に折れ曲がっていく蓋然性があり,使用の都度,折曲部3及び4の折曲げ角度が同一になるよう調整する必要がある。 3 取消事由3(技術分野の関連性の判断の誤り) 審決は,引用発明1と引用発明2とは,同じ場所で使用され,同じ目的を有することから,関連した技術分野に属すると認定判断した。 しかるに,引用発明1と引用発明2とは,以下のとおり 誤り) 審決は,引用発明1と引用発明2とは,同じ場所で使用され,同じ目的を有することから,関連した技術分野に属すると認定判断した。 しかるに,引用発明1と引用発明2とは,以下のとおり,使用場所や,目的及びそれに応じた構造及び作用効果において全く相違するから,属する技術分野が全く相違するものである。よって,審決の上記認定判断は誤りである。 (1) 引用発明2の器具は屋内の調理場に限って使用されるものであるのに対し,引用発明1の調理用鋏は,ハイキング,ピクニック,ドライブ等の用に供され屋外で使用されることが意図されており,仮に屋内で使用する場合,食卓やリビング等においても使用され,少なくとも調理場に限らず使用されるものである。よって,両発明は使用場所が相違しており,仮に相違していないとしても,少なくとも同一又は非常に密接に関連した使用場所であるとはいえない。 (2) 引用発明2の目的は,熟練を要さずに食材中の肉と骨とを肉を傷付けることなく分離することであり,引用発明1の目的とする食材の切断や粉砕を回避して成り立つものであるから,両発明の目的が相違することは明らかである。その結果,引用発明1の調理用鋏と引用発明2の器具とは,それぞれの目的に応じて構造が全く相違しており,当然に作用効果も相違する。 4 取消事由4(進歩性判断の誤り)審決は,「調理用のハサミに,何らかの新しい機能を追加しようと試みることは,当業者にとって通常の発想ということができる。したがって,引用例1又は引用例2に,両者の組合せを明確に示唆する記載がないとしても,両者を組み合わせる動機付けを否定することはできない。」として,引用発明1の殻割部に代えて引用発明2の開口部(切欠き)を新しい機能部分とし,「手羽中の骨とりハサミ」とすることは,当業者が容易に想到 両者を組み合わせる動機付けを否定することはできない。」として,引用発明1の殻割部に代えて引用発明2の開口部(切欠き)を新しい機能部分とし,「手羽中の骨とりハサミ」とすることは,当業者が容易に想到することであると判断した。 しかしながら,引用発明1及び引用発明2が関連する技術分野に属するもの ではないことは,前記3のとおりであり,両発明が課題,作用,機能が全く相違するものであること,引用例1及び引用例2には,引用発明1及び引用発明2を組み合わせることを示唆するような記載がないことは,以下のとおりであるから,当業者が引用発明1及び引用発明2を組み合わせて本願発明を構成しようとする動機付けは全くなく,審決の上記判断は誤りである。 (1) 引用発明1の,缶をあけたり,栓を抜いたり,木の実を割ったり,ドライバーとして使用することができる便利な調理用鋏であって,刃板が汚れて洗うときや研削する際に,刃板を簡単に取り外すことができる調理用鋏を提供するという課題と,引用発明2の,熟練を要さず食材中の肉と骨とを肉を傷付けることなく分離するという課題との間に,共通性は全く存在しない。 (2) 引用発明1は,殻割部(6)に関しては,木の実を挟み締め付けることにより,木の実の外殻を割ることができるという作用・機能を有するのに対し,引用発明2は,手羽の外部に当たる手羽中肉を傷付けることなく,手羽の内部の骨を肉から露出させ分離するとの作用・機能を有する。よって,引用発明1と引用発明2とは,対象物に作用する機能部分において,作用・機能が相違する。 (3) 引用例1及び引用例2に,引用発明1及び引用発明2の組合せを示唆する記載はない。 すなわち,引用例1には,引用発明1における殻割部(6)を本願発明の開口部のような他の部位に置換することを示唆する記 例1及び引用例2に,引用発明1及び引用発明2の組合せを示唆する記載はない。 すなわち,引用例1には,引用発明1における殻割部(6)を本願発明の開口部のような他の部位に置換することを示唆する記載は一切なく,まして,引用発明1は屋外で使用されることが意図されており,屋内の調理場に限定して調理される手羽を加工するための部位に置換することは全く意図されていない。 一方,引用例2には,手羽中骨の間の筋に着目して,これを切断した上で2本の骨を順に抜き取るという本願発明が有する機能や,手羽中骨と肉を分離する際に発生する問題について何ら記載がないから,引用発明2を他の発 明と組み合わせること,まして,引用発明1のような多機能鋏と組み合わせることについて,示唆がされているとは認められない。 したがって,引用発明1及び引用発明2のいずれから出発しても,それ自体で,手羽中の肉と骨との分離から,2本の骨の間にある筋を切った上で,順に骨を抜き取ることによって,手羽中の骨を簡単に抜き取るとの課題を解決するものとして,本願発明の構成要件を一体的に備えてなる本願発明を構成するために,他方の引用発明と組み合わせようとすることは非常に困難である。 5 取消事由5(有利な効果の看過)審決は,本願発明が奏する効果について,引用発明1及び引用発明2以上の格別な作用・効果を奏するとは認められないと判断した。 しかるに,ハサミ部と手羽を挟み込む開口部が一体化した本願発明が,それ自体で,手羽内の肉と骨の分離から,骨間にある筋を切った上で,手羽内の骨を簡単に抜き取ることができるという効果を奏するのに対して,引用発明1がこのような効果を奏し得ないことは明らかである。 また,ハサミ部と開口部とが上記のとおり一体化した本願発明は,単体で,小さい力 単に抜き取ることができるという効果を奏するのに対して,引用発明1がこのような効果を奏し得ないことは明らかである。 また,ハサミ部と開口部とが上記のとおり一体化した本願発明は,単体で,小さい力で大小の手羽を挟み込み,手羽内の肉と骨とを安定的に分離させ,かつ,手羽内の骨を簡単に抜き取ることができるものであることから,単体で長時間連続して大小の手羽中の骨を抜き取ることができるのに対し,引用発明2の器具は,単体で骨を抜き取るのが難しく,使用に際して力を要し,使用の際に折曲部3及び4の角度調整が必要であり,かつ,手羽の大きさによっては握力を非常に要するものであることから,単体で手羽骨の抜き取りを完了させることは難しく,かつ,長時間の連続使用には適さないものである。 以上のとおり,本願発明の効果は,引用発明1及び引用発明2では奏し得ない効果であることから,引用発明1及び引用発明2からは予期し得ないものであり,両発明の効果に対して格別顕著に有利な効果である。 よって,本願発明が引用発明1及び引用発明2以上の格別な作用・効果を奏するものとは認められないとの審決の上記認定は誤りである。 第4 被告の主張 1 取消事由1について審決は,引用発明1の調理用鋏が2枚の刃板(1)を重合してなるものであることを,「一方の刃板(1)の枢着軸が,他方の刃板(1)の軸受け孔(10)に支承され」との記載により認定しており,同調理用鋏が1枚の刃板(1)からなるものとは認定していない。また,同調理用鋏の殻割部(6)は,枢着軸(7)と握り部分との間で2枚の部材に対向して形成された開口に対象となる木の実を挟んで,握り部分を握って割る,というように使用するものであると直ちに理解できるから,審決が,「開口に対象をはさんで使用する殻割部(6)」と認定 枚の部材に対向して形成された開口に対象となる木の実を挟んで,握り部分を握って割る,というように使用するものであると直ちに理解できるから,審決が,「開口に対象をはさんで使用する殻割部(6)」と認定した点に誤りはない。さらに,引用発明の認定は,本願発明との対比,判断を誤りなく行えるように,一つの独立した技術思想を抽出することで足り,それ以上に限定して引用発明を認定する必要はないから,審決が,2枚の刃板(1)が着脱可能であることや,缶切部,栓抜部,ドライバー部等が設けられていることを特定せずに引用発明1を認定した点に誤りはない。 よって,審決の引用発明1の認定に誤りはない。 2 取消事由2について引用例2には,手羽中肉から手羽骨を取り去る一連の作業において,引用発明2の器具を単体で使用しなければならないとの記載はなく,引用発明2の機能が及ばない手羽骨の間にある筋を切るために,刃物や調理用の鋏を併せて使用することは,ごく自然なことであり,これを禁止する理由もない。 引用例2の「簡単に無傷で手際よく手羽中肉から手羽骨を取り去ることができる。」との記載が,引用発明2の器具は,これを使用しないときに比べて「簡単に」手羽骨を取り去ることができることを意味することは明らかであり,このことは,同器具を他の刃物等と併せて使用しても変わりはない。 よって,審決の引用発明2の認定に誤りはない。 3 取消事由3について調理は,屋内,屋外,また,調理場に限らずに行われることは一般常識であり,手羽中の骨取り作業においても例外ではない。また,原告の主張を前提としても,引用発明1の調理用鋏と引用発明2の器具が,少なくとも同じ屋内の調理場で使用され得ることになる。 さらに,引用発明1の調理用鋏が,切断等により食品の加工のために使用され 原告の主張を前提としても,引用発明1の調理用鋏と引用発明2の器具が,少なくとも同じ屋内の調理場で使用され得ることになる。 さらに,引用発明1の調理用鋏が,切断等により食品の加工のために使用されることは明らかであり,また,引用発明2の器具が,食品である手羽中に対し,手羽骨を除去するという加工のために使用されることも明らかである。 よって,引用発明1と引用発明2とは,同じ調理場等において,食品を加工するという同じ目的を持つ点で関連した技術分野に属するとした審決の認定に誤りはない。 なお,引用発明1及び引用発明2が関連した技術分野に属するとするために,必ずしも,使用場所が完全に同一又は非常に密接に関連しなければならないということはないし,両発明の機能,構造及び作用効果が完全に一致しなければならないということもないから,これを前提とする原告の主張は誤りである。 4 取消事由4について審決がした,引用発明1及び引用発明2の技術分野の関連性についての認定に誤りがないことは前記3のとおりであり,また,引用発明1及び引用発明2のいずれも調理具であって,両者は,食品を加工する点で課題が共通し,開口部にて対象物を挟持する構造を有する点で作用・機能が共通する。 そして,引用発明1は,調理用鋏本来の機能に加え,殻割りの機能を枢着軸と握り部分との間に付加したものであるから,調理用鋏の多機能性を希求する,調理用鋏に他の機能を付加するとした課題が当然に存在する。つまり,引用発明1には,調理用鋏に一連の食品加工に関連する機能を付加する動機があるといえるもので,引用例1に直接の記載はなくても,手羽中の一般的な骨取り作 業を踏まえれば,引用発明1と引用発明2を組み合わせることの示唆は十分に認められる。 このように,審決は,従来技術及び技術 で,引用例1に直接の記載はなくても,手羽中の一般的な骨取り作 業を踏まえれば,引用発明1と引用発明2を組み合わせることの示唆は十分に認められる。 このように,審決は,従来技術及び技術常識を踏まえて,引用発明1及び引用発明2を組み合わせることの動機付け,引用発明1の殻割部を引用発明2の切欠きに置換する合理的理由及び引用発明1を起点として本願発明に到達することの示唆等があることを十分に示しており,審決における本願発明の進歩性の判断に,原告の主張する誤りはない。 5 取消事由5について手羽中肉から手羽骨を取り去る一連の作業において,引用発明2の器具を単体で使用しなければならないということがないのは前記2のとおりであり,骨間にある筋を切るために,他の刃物等の使用を妨げる理由はない。 そして,骨間にある筋を切ることは,調理用鋏における刃板部自体の機能であって,引用発明1から予測可能な機能であり,刃板部と手羽を挟み込む開口部を一体化したとしても,それぞれの機能が相乗効果を発揮するとは認められない。一の道具により,複数の機能を発揮する点についても,引用発明1に示唆があるものであって,格別ではない。 したがって,原告の主張する本願発明の効果は,本願発明特有の格別な効果ということはできず,この点に関する審決の判断に誤りはない。 第5 当裁判所の判断当裁判所は,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消されるべき違法はないと判断する。その理由は次のとおりである。 1 取消事由1について原告は,審決による引用発明1の認定は,同発明の調理用鋏が,①1枚の刃板(1)からなるものと誤認している点,②穀割部(6)について「開口に対象をはさんで使用する殻割部(6)」と認定している点,③2枚の刃板(1)が着脱 用発明1の認定は,同発明の調理用鋏が,①1枚の刃板(1)からなるものと誤認している点,②穀割部(6)について「開口に対象をはさんで使用する殻割部(6)」と認定している点,③2枚の刃板(1)が着脱可能であることや,穀割部(6)に加えて缶切部(3),栓抜部(4), ドライバー部(5)及び剥離刃(11)が設けられていることを看過している点において,誤りであると主張する。 しかしながら,引用発明1の対象が鋏である以上,引用例1(甲1)の記載内容や図面に照らしても,2枚の刃板によって構成されることは当然の前提であり,審決による引用発明1の認定もこれを前提としていることは,「一方の刃板(1)の枢着軸が,他方の刃板(1)の軸受け孔(10)に支承され」との認定に照らして明らかである。一方,「1枚の刃板(1)と1つの柄部(2)が一体に形成され」との部分は,鋏を構成する個々の刃板のそれぞれが柄部と一体に形成されていることを示すにすぎないと解されるから,これをもって,審決が,引用発明1の調理用鋏の刃板が1枚であると誤認したということは到底できない。 また,引用例1の第1図及び第2図に照らせば,引用発明1の殻割部(6)は,枢着軸(7)と握り部分との間で,2枚の刃板(1)に対向して形成された開口に該当し,この開口に対象となる木の実を挟んで握り部分を握って割るという使用態様であることを直ちに理解することができるから,審決が,殻割部(6)について,「開口に対象をはさんで使用する」と認定したことが誤りであるとはいえない。なお,殻割部(6)についての審決の上記認定と,原告の主張に沿う「木の実等の穀物を割る」との認定との間に,これに係る相違点1の容易想到性についての判断,すなわち,引用発明1の当該殻割部に代えて引用発明2の開口部を新しい機能部分にす 上記認定と,原告の主張に沿う「木の実等の穀物を割る」との認定との間に,これに係る相違点1の容易想到性についての判断,すなわち,引用発明1の当該殻割部に代えて引用発明2の開口部を新しい機能部分にすることに容易に想到し得るか否かの判断を左右するほどの差異があるともいえない。 さらに,引用発明の認定は,本願発明との対比及び判断を誤りなくすることができるように行うことで足りるところ,本願発明が,ハサミを構成する単体が着脱可能であるか否か,開口部以外に機能的手段があるか否かをいずれも特定していない以上,これと対比すべき引用発明1の認定に当たっても,2枚の刃板(1)が着脱可能であることや,缶切部,栓抜部,ドライバー部等が設け られていることを認定する必要はないから,審決がこれらの点を認定しなかった点に誤りはない。 以上によれば,取消事由1に係る原告の主張は理由がない。 2 取消事由2について原告は,審決が引用発明2についてした「手羽中肉から2本の手羽骨が分離し,簡単に抜き取ることが可能」との認定は,①引用発明2の器具は手羽骨の間にある筋を切ることはできないから,熟練や手羽骨を抜き取る力を要し,単体では手羽骨を抜き取ることが困難であること,②引用発明2の器具は,握力や腕力の弱い女性や子供にはその扱いが難しく,作業者は手羽を見ながら作業できず甚だ不便であり,さらに,使用の都度,折曲部が折れ曲がっていく蓋然性があることからすれば,誤りであると主張する。 しかしながら,引用例2(甲2。なお,引用発明2の図面は別紙(引用発明2の図面)のとおり。)には,「この(判決注・手羽中肉を指す。)手羽骨を取り除くに際し,従来は包丁などの刃物を使用して手作業により行っているのが一般的である。」(【0004】)「しかしながら,刃物により, 面)のとおり。)には,「この(判決注・手羽中肉を指す。)手羽骨を取り除くに際し,従来は包丁などの刃物を使用して手作業により行っているのが一般的である。」(【0004】)「しかしながら,刃物により,手羽骨を取り除く場合に,手羽中肉を傷付けることなく,取り除くのは極めて困難であり,しかもその作業に高度な熟練を要するとともに,作業能率も著しく低い。」(【0005】)「この考案は,上記の点にかんがみなされたもので,熟練を要することなく,手際よく,しかもきれいに手羽骨を取り除くことができる手羽骨除去器具を得ることを目的とする。」(【0007】)「以上のように,この考案によれば,弾性を有する長方形状の板材の両短辺側にそれぞれ二つの略半円形状の切欠きを設け,この切欠きの近傍に短辺側と平行状に鈍角に折り曲げ,板材の中央部を弯曲するように折り曲げ,両短辺側の切欠き間に手羽骨を挾み込んで弯曲部分の方向に手羽骨を押し込むようにしたので,容易に無傷状態で手羽中肉から手羽骨を取り除くことができ,しかも作業能率も大幅に向上する。」(【0026】)などの記載があり,審決が,これらの記載 を踏まえ,引用発明2について「手羽中肉から2本の手羽骨が分離し,簡単に抜き取ることが可能」と認定したことに誤りはない。 原告は,引用発明2の器具は単体では手羽骨を抜き取ることは困難であると主張するが,引用例2は,引用発明2の器具が刃物を使用して手羽骨を取り除く場合と比較して容易に手羽骨を取り除くことができることを述べるにすぎず,引用発明2の器具が刃物を不要とすることまで示唆するものではない。そして,一連の調理作業において,複数種の調理用具を用途に応じて使い分けることは自然なことであるから,引用発明2の器具の機能が及ばない手羽骨間の筋などを切るために,刃物や調理用鋏等 るものではない。そして,一連の調理作業において,複数種の調理用具を用途に応じて使い分けることは自然なことであるから,引用発明2の器具の機能が及ばない手羽骨間の筋などを切るために,刃物や調理用鋏等を併用することを否定すべき理由はない。したがって,引用発明2の器具が単体で使用されるものであることを前提とした原告の主張は理由がない。 また,原告は,引用発明2の器具を使用した場合の不便や不都合を縷々挙げるが,これらは,いずれも,本願発明と比較して利便性に劣ると主張するにすぎないか,器具の材質や形状の選択等により回避することができる不都合にすぎず,上記のとおりの引用発明2の認定の当否を左右するものではない。 以上によれば,取消事由2に係る原告の主張は理由がない。 3 取消事由3について(1) 原告は,審決が,引用発明1と引用発明2とは同じ場所で使用されると認定したのに対し,引用発明1の調理用鋏と引用発明2の器具は,使用場所が相違すると主張する。 しかるに,引用発明1の対象が調理用鋏である以上,調理の用に供されることが予定されていることは明らかであり,引用例1(甲1)における「本案品を小型にすることにより,ハイキング,ピクニック,ドライブ等に携帯する時に便利である。」との記載(明細書3頁下から1行目ないし4頁2行目)が,引用発明1の調理用鋏の使用場所を屋外に限定する趣旨であるとは解し難いから,審決が,引用発明1の調理用鋏を含む趣旨で,「一般に調理 用のハサミは,家庭又は業務用の調理場等において…使用される」と認定したことに誤りはない。一方,引用発明2の器具が,手羽中の骨取り作業のために,家庭又は業務用の調理場等において使用されるとの審決の認定にも誤りはないから,結局,「引用発明1と引用発明2とは,同じ調理場等において」 ない。一方,引用発明2の器具が,手羽中の骨取り作業のために,家庭又は業務用の調理場等において使用されるとの審決の認定にも誤りはないから,結局,「引用発明1と引用発明2とは,同じ調理場等において」使用される旨の審決の認定に誤りはない。 (2) 原告は,審決が,引用発明1と引用発明2は同じ目的を有すると認定したのに対し,肉を傷付けることなく骨と分離するという引用発明2の目的は,引用発明1の目的である食材の切断や粉砕を回避して成り立つから,両発明の目的は相違しており,その結果,両発明に係る調理用鋏ないし器具は,構造や作用効果が相違すると主張する。 しかしながら,両発明は,食品に対する具体的な作用は異なるものの,食品を加工するという点で同じ目的を有しており,これと同旨の審決の認定に誤りはない。そして,引用発明1の調理用鋏の殻割部は,木の実等の殻を割るに当たって対象物を挟持する状態となるのに対し,引用発明2の開口部も,引用例2(甲2)に「この2本の手羽骨7,8および手羽先9を付けた状態で,手羽骨7,8の先端7a,8aを切欠き1aと2a,1bと2b間に挾み込む。」(【0021】)「この状態で,折曲部3,4の部分を人差し指と親指とで挾持して圧着すると,切欠き1aと2a,1bと2b間に手羽骨8と7がそれぞれ圧着される。…」(【0023】)とあるとおり,開口部で対象物を挟持するものであるから,両発明は,開口部にて対象物を挟持する構造を有する点で,構造や作用効果が共通するということができる。 これに対し,原告は,食品の加工という目的は漠然としているとか,引用発明1の調理用鋏の殻割部は木の実等の殻を割る部材であり,対象物を挟持する部材ではないとも主張する。しかるに,引用発明から出願に係る発明に至る動機付けとなる技術分野の関連性とは,当業者が技術手段の 発明1の調理用鋏の殻割部は木の実等の殻を割る部材であり,対象物を挟持する部材ではないとも主張する。しかるに,引用発明から出願に係る発明に至る動機付けとなる技術分野の関連性とは,当業者が技術手段の適用を試みると合理的に認められる程度のものがあれば足りるところ,上記に認定した 程度に目的や機能,作用効果が共通すれば,当業者が技術手段の適用を試みると合理的に認められる程度の技術分野の関連性を肯定するに十分であるから,原告の指摘するところを採用することはできない。 (3) 以上によれば,引用発明1と引用発明2とは,同じ場所で使用され,同じ目的を有することから,関連した技術分野に属するとした審決の認定に誤りはなく,取消事由3に係る原告の主張は理由がない。 4 取消事由4について原告は,引用発明1及び引用発明2は関連する技術分野に属さず,課題,作用,機能が全く相違しており,引用例1及び引用例2には両発明を組み合わせることについての示唆がないことからすれば,当業者が引用発明1及び引用発明2を組み合わせて本願発明を構成することへの動機付けはないから,引用発明1の殻割部に代えて引用発明2の開口部を採用し,本願発明の構成とすることは容易想到である旨の審決の判断は誤りであると主張する。 しかしながら,引用発明1と引用発明2とが目的や機能,作用効果において共通し,関連する技術分野に属することは,前記3のとおりである。また,引用発明1は,調理用鋏の「切断する」という本来に機能に加え,「殻割部」において殻割りの機能を付加したものであり,さらに,引用発明1の調理用鋏は,刃板や柄部に缶切部,栓抜部,ドライバー部,剥離刃が設けられているものであり(甲1),調理用鋏に,鋏本来の機能に他の機能を付加して多機能化を図ることは,引用発明1に内在する課 用発明1の調理用鋏は,刃板や柄部に缶切部,栓抜部,ドライバー部,剥離刃が設けられているものであり(甲1),調理用鋏に,鋏本来の機能に他の機能を付加して多機能化を図ることは,引用発明1に内在する課題であるから,引用発明1と引用発明2を組み合わせることの示唆は十分に存在するということができる。 したがって,引用発明1の「開口に対象物をはさんで使用する殻割部(6)」に代えて,引用発明2の「手羽中をはさみ,押し下げると2本の骨が露出し,簡単に骨がとれる形状の開口部」を新しい機能部分とし,「手羽中の骨とりハサミ」とすることは,当業者が容易に想到し得る旨の審決の判断に,誤りはない。 原告は,引用例1及び引用例2には,引用発明1及び引用発明2の組合せに対する示唆はないと主張するが,引用発明から出願に係る発明に至る動機付けになり得る示唆は,引用例に明示されたものに限られるものではなく,本件においては,引用発明1と引用発明2を組み合わせることの示唆が十分に存在するということができるのは上記のとおりである。 以上によれば,取消事由4に係る原告の主張は理由がない。 5 取消事由5について原告は,審決には,本願発明には引用発明1及び引用発明2から予期し得ない格別顕著に有利な効果があることを看過した誤りがあると主張する。 しかしながら,原告が主張する本願発明の効果は,いずれも引用発明1と引用発明2が奏する各効果の総和以上の効果とはいえない。すなわち,手羽中の肉と骨を分離するための手段と,骨間にある筋を切るための手段を道具として一体化すれば,その道具のみで2つの手段を同時に実現でき,利便性の向上に資することは明らかであって,そのこと自体は格別なものではない。また,本願発明のハサミ単体で長時間連続して手羽中の骨を抜き取ることがで すれば,その道具のみで2つの手段を同時に実現でき,利便性の向上に資することは明らかであって,そのこと自体は格別なものではない。また,本願発明のハサミ単体で長時間連続して手羽中の骨を抜き取ることができるという点については,原告の主張及び本願の明細書(甲4)によれば,当該ハサミの使用方法は,開口部に手羽骨を挟み,手羽先側を机の上などに固定しながら,両手で(ハサミの刃部と柄部をそれぞれの手で握持することを指すと解される。)手羽中肉を押し下げるというものであるところ,引用発明1に引用発明2を組み合わせたものについて,そのような使用方法とすることは通常想定される範囲内のものであり,それ自体が予期し得ない顕著な作用・効果であるということはできない。 よって,本願発明が,引用発明1と引用発明2が奏する各効果の総和以上の格別な作用・効果を奏するものとは認められないとの審決の認定に誤りはなく,取消事由5に係る原告の主張は理由がない。 6 結論 以上のとおり,原告の主張は理由がない。よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官設樂  一 裁判官田中正哉 裁判官神谷厚毅 (別紙)(本願発明の図面) (引用発明1の図面) (別紙)(引用発明2の図面) (別紙) (引用発明2の図面)

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