平成19(ワ)2969 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成21年12月16日 名古屋地方裁判所
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判決文本文35,095 文字)

平成19年(ワ)第2969号損害賠償請求事件判決主文 被告は,原告X1に対し,4103万4557円及びこれに対する平成18年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告X2に対し,4103万4557円及びこれに対する平成18年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,X3に対し,110万円及びこれに対する平成18年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,X4に対し,110万円及びこれに対する平成18年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求を棄却する。 訴訟費用は,これを5分し,その4を被告の負担とし,その余を原告らの各負担とする。 この判決は,第1項ないし第4項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求被告は,原告X1及び同X2に対し,それぞれ5040万6735円及びこれに対する平成18年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を,X3及び同X4に対し,それぞれ165万円及びこれに対する平成18年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 事案の要点本件は,妊娠高血圧症候群を管理するため,被告病院に入院した訴外Aが,HELLP症候群,子癇を発症して死亡したことについて,Aの遺族である原告らが,妊娠高血圧症候群に対する管理を怠った過失,帝王切開の実施が遅れた過失,帝王切開後の管理を怠った過失,子癇に対する診療を怠った過失を主張して,被告に対し,不法行為に基づき,損害賠償及びこれに対する死亡の日から民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 前提事実証拠によって容易に認められる事実については 主張して,被告に対し,不法行為に基づき,損害賠償及びこれに対する死亡の日から民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 前提事実証拠によって容易に認められる事実については,その旨を付記しており,それ以外の事実については,当事者間に争いがない(以下,平成18年中の出来事については,原則として年の記載を省略する。 。)(1) 当事者等(),(),アA昭和50年○月○日生は1月5日妊娠から30週と6日後妊娠高血圧症候群の管理目的で被告病院に入院し,1月15日(妊娠から32週と2日後)に原告X2を帝王切開により出産したが,1月17日に子癇発作を起こし,HELLP症候群の発症が確認され,2月13日に死亡した。 イ原告X1は,Aの夫であり,原告X2は,Aと原告X1の子である。 X3は,Aの父であり,X4は,Aの母である。 ウ被告は,被告病院を開設・運営している地方公共団体である。 B医師は,本件当時,被告病院に勤務していたAの担当医であり,C看護師は,Aを担当した看護師である。 (2) 診療経過ア被告病院への入院に至るまでAは,訴外Dで妊婦検診を受けるようになり,3月10日を分娩予定日としていたところ,妊娠30週6日である1月5日の妊婦検診において,収縮期血圧が145㎜Hg,拡張期血圧が89㎜Hg(以下,血圧については「145/89mmHg」のように表示する)に上昇し,蛋白尿(2+,。 )浮腫が認められた。 これを受けて,Dの担当医師は,早発型の妊娠高血圧症候群(なお,A。 。),,は妊娠高血圧腎症でもある以下同じと診断しその管理をするため被告病院を紹介した(甲A3。 )イ被告病院における診療経過別紙臨床経過書に記載のとおり。 なお,被告は,帝王切開後である1月16日午後6時 圧腎症でもある以下同じと診断しその管理をするため被告病院を紹介した(甲A3。 )イ被告病院における診療経過別紙臨床経過書に記載のとおり。 なお,被告は,帝王切開後である1月16日午後6時ころ,降圧剤であるアプレゾリンを投与した旨主張し,原告らはこれを否認している。 本件で問題となる医学的知見(1) 妊娠高血圧症候群(甲B2の1,2,5,9,10,12,甲B5ないし7,41,42,乙B1,5,8,22,23)ア定義等妊娠高血圧症候群(Pregnancyinducedhypertension,以下「PIH」という)とは,妊娠20週以降,分娩後12週までに高血圧がみられる。 場合,または,高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで,かつ,これらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によらないものをいう。PIHは,従来,妊娠中毒症と称した病態について,高血圧が病態の核であるという国際的,,な疾患概念を導入し日本産科婦人科学会が平成17年4月に名称変更し上記のとおり定義したものである。 PIHが重症化すると,腎機能障害,肝機能障害,凝固線溶系の異常,呼吸循環障害及び中枢神経系の異常を含め,致死的な多臓器障害が惹起されることもある。子癇やHELLP症候群を合併すると,母児の状態が急速に悪化することがしばしばあり妊産婦の主要な死亡原因の1つとされる甲,(B5・60頁,甲B6。 )イ分類(ア) 「軽症」と「重症」PIHは,高血圧と蛋白尿の程度により「軽症」と「重症」に分類,される。 「軽症」は,収縮期血圧が140mmHg以上160mmHg未満,もしくは拡張期血圧が90mmHg以上110mmHg未満の場合で,蛋白尿が300㎎/日以上から2g/日未満の場合をいう。 「重症」は,収縮期血圧が160mmHg以上か,拡張期血圧が110m Hg未満,もしくは拡張期血圧が90mmHg以上110mmHg未満の場合で,蛋白尿が300㎎/日以上から2g/日未満の場合をいう。 「重症」は,収縮期血圧が160mmHg以上か,拡張期血圧が110mmHg以上の場合,もしくは,蛋白尿が2g/日以上の場合(随時尿を用いる場合は,複数回の新鮮尿検査で,連続して3+(300㎎/dℓ)以上の場合)をいう。 (イ) 「早発型」と「遅発型」「」,,「」,早発型は妊娠32週未満に発症する場合をいい遅発型は妊娠32週以降に発症する場合をいう。 早発型PIHは,遅発型PIHと比べて,合併症の頻度が高く,重症化しやすい(甲B2の2・13頁,甲B5・62頁。 )(ウ) 「妊娠高血圧腎症」と「妊娠高血圧」PIHのうち,妊娠20週以降に初めて高血圧が発症し,かつ蛋白尿を伴うもので,分娩後12週までに正常に復するものを「妊娠高血圧腎症」といい,蛋白尿を伴わないものを「妊娠高血圧」という。 妊娠高血圧腎症は,妊娠高血圧よりも,臓器障害の進展を反映したものであり,母体合併症などを呈する頻度が高く,母児に対し悪影響を及,(,ぼす可能性がより強く予後が悪いとされる甲B2の5・1445頁甲B5・62頁,甲B7・1537頁。 )ウ治療(ア) 検査と治療方法症状の観察,必要な臨床検査を繰り返すなど適切な管理が不可欠であり,これによって重症化を防ぐ。具体的には,血圧・脈拍,尿蛋白,血液一般検査,生化学検査及び凝固線溶系検査等の経時的測定を行い,母体の全身状態を精査する。血液一般検査では,血液濃縮のため,平均赤血球容積が低下するにもかかわらず,ヘモグロビン(Hb ,ヘマトクリ)ット(Ht)が上昇し,血小板数は重症化に伴い低下する。生化学検査では,尿中排泄や血管外漏出のため,血中総蛋白,アルブミン 均赤血球容積が低下するにもかかわらず,ヘモグロビン(Hb ,ヘマトクリ)ット(Ht)が上昇し,血小板数は重症化に伴い低下する。生化学検査では,尿中排泄や血管外漏出のため,血中総蛋白,アルブミンが低下し,尿酸値は重症化に伴い上昇する。 PIHに対しては,安静,食事療法,降圧剤等による薬物療法が行われるが,絶対的な治療法が確立していない現状では,妊娠終了(帝王切開による分娩が一般的)が最終的な治療手段となる。PIHは,通常,妊娠終了により軽快に向かうとされているが,特に重症,早発型では直ちに症状が軽快に向かうとは限らず,分娩後2日程度は慎重な管理と監視が望ましいとされる(甲B2の2・60頁,甲B6・145頁。 )(イ) 妊娠終了の基準(甲B2の1・N-69,2の2・67頁,2の5・1449頁)日本産婦人科学会が平成2年に策定したPIHの妊娠終了適応基準(以下「妊娠終了基準」という)は,以下のとおりである。 ,。 A母体側適応(なお,③,④の数値は絶対的なものではなく,経時的に検査を施行し,増悪傾向を認めた場合に適応とする)。 ①入院,安静,薬物治療を行っても,症状が不変あるいは増悪を見る場合②子癇,胎盤早期剥離,新規の眼底出血,胸・腹水の貯留の増加,肺水腫,頭蓋内出血,HELLP症候群を認める場合③腎機能障害が認められる場合糸球体濾過率(GFR)50mℓ/分以下,血中クレアチニン値1. 5㎎/dℓ以上尿酸値6㎎/dℓ以上BUN20㎎/dℓ以上乏尿 ,,,(00mℓ/日または20mℓ/時間未満のとき)上記の検査項目の結果を総合的に判断する。 ④血行動態の障害や血液凝固異常のある場合,例えば血液濃縮症状やDICを認める場合(Hct40%以上,血小板10万/㎕以下,DICスコアの上昇傾向も参考にする)。 目の結果を総合的に判断する。 ④血行動態の障害や血液凝固異常のある場合,例えば血液濃縮症状やDICを認める場合(Hct40%以上,血小板10万/㎕以下,DICスコアの上昇傾向も参考にする)。 B胎児側適応(胎児が胎外生活可能であることを原則とする)。 ①胎児発育抑止②胎児仮死③胎盤機能の悪化妊娠32~36週でのE <10㎎/日,随時尿中E /クレアチ ニン比<10,血中hPL>4μg/mℓ(連続的に測定し30%の低下を見る場合)最終決定は,母体側因子と胎児側因子を総合的に判断するとともに,諸事情を考慮の上,医師の判断に委ねる。 (2) HELLP症候群(甲B2の2,10,甲B5,乙B8,10,13,17)ア定義HELLP症候群とは,①溶血(Hemolysis ,②肝酵素の上昇(ElevatedL)iverenzymes ,③血小板減少(LowPlatelets)を呈する病態をいい,)多くはPIHの存在下で発症するとされ,適切な管理がなされずに病状が進行すると,DIC,肝不全に陥り致命的になるとされる。 イ診断基準HELLP症候群の診断は,Sibaiらによる下記診断基準によって行われ,①溶血病的赤血球の出現LDH600IU/ℓ以上ビリルビン1.2㎎/dℓ以上②肝酵素の上昇AST(GOT)70IU/ℓ以上LDH600IU/ℓ以上③血小板減少10万/㎕以下の3項目を全て満たした場合,HELLP症候群と診断される。 上記①ないし③の3要素を全て満たさない場合であっても,<ア>GOT,LDHが各施設の正常域を超えて高値<イ>ビリルビン,LDHが各施設の正常域を超えて高値<ウ>血小板数15万/㎕以下(,「」<エ>血中アンチトロンピンⅢ血液凝固制御系因子以下ATⅢとい 施設の正常域を超えて高値<イ>ビリルビン,LDHが各施設の正常域を超えて高値<ウ>血小板数15万/㎕以下(,「」<エ>血中アンチトロンピンⅢ血液凝固制御系因子以下ATⅢという)が正常値(80%)未満に低下。 のいずれかを満たした場合「partialHELLP症候群」などと呼称して,区分し,HELLP症候群への移行的病態として同症候群の発症を警戒し,厳(,)。 重に管理すべきとされる甲B2の10・N-108甲B5・67頁ウ臨床症状発症に先立ち,全身倦怠感や心窩部痛が生じることが特徴的であり,右季肋部痛,悪心・嘔吐などの消化器症状,頭痛,視野障害などを認めることがある。 初発症状の発現から分娩までの時間が長いほど,母体に重篤な合併症が出現する頻度が高い。 エ治療と予後,。 ,治療の基本はPIHと同様に妊娠の終了である早期に診断できれば予後は比較的良好であるが,適切な管理がなされず,重症化すると出血性ショック,子癇,DICなどを併発して,死に至ることがある。 (3) 子癇(甲B2の2,5,甲B5,8,20,乙B11,12)ア定義子癇とは,妊娠20週以降に初めて痙攣発作を起こし,てんかんや2次性痙攣が否定されるものをいい,発症時期により,妊娠子癇,分娩子癇,産後子癇に分類される(甲B2の5・1444頁。 )イ症状頭痛や眼華閃発(目がチカチカするなどの視覚障害,右上腹部痛,心)窩部痛,悪心・嘔吐,振戦,反射亢進などの前駆症状に始まり,誘導期,強直性痙攣期,間代性痙攣期を経て昏睡期に入る。 昏睡状態のまま発作が重積した場合には,意識が回復することなく死亡することがある(甲B5・65頁。 )産褥子癇は,重症の妊娠高血圧腎症の分娩後72時間以内に発症することが多い(甲B5・65頁。 )ウ治 のまま発作が重積した場合には,意識が回復することなく死亡することがある(甲B5・65頁。 )産褥子癇は,重症の妊娠高血圧腎症の分娩後72時間以内に発症することが多い(甲B5・65頁。 )ウ治療子癇は,母児の生命を脅かす重篤な疾患であるが,その病態生理は未だ解明されておらず,その予知,治療は確立されていない(甲B20・236頁。 ),,,,痙攣発作に対しては舌損傷を防ぎ気道を確保し酸素を投与しつつ硫酸マグネシウムなどの抗痙攣剤や降圧剤を投与して対応する(甲B2の2・71頁。 ) 争点 (1) Aが死に至った機序(2) PIHに対する管理の適否(3) 帝王切開の実施時期の適否(4) 帝王切開後の管理の適否(5) 子癇に対する診療の適否(6) 因果関係(7) 損害 争点に対する当事者の主張(1) Aが死に至った機序について【原告らの主張】アPIHの重症度についてAは,以下のとおり,1月5日において,重症の早発型妊娠高血圧腎症であったといえる。 Aは,妊娠30週6日目であった1月5日,Dでの妊婦検診において,高血圧と蛋白尿2+,浮腫が認められたため,軽症の早発型PIHと診断されたが,早発型PIHは重症化しやすいことから,厳重に管理する目的で,即日,被告病院に入院することとなった。そして,Aは,被告病院に入院直後の1月5日午前11時25分に蛋白尿が3+となり,血圧は午後1時30分に160/100mmHg,午後4時30分にも160/100mmHgとなっており,血圧の点でも,蛋白尿の点でも,入院当日において重症のPIHで,かつ,妊娠高血圧腎症であったといえる。 ,,「」なお1回でも血圧が160/110mmHgを超えればPIHは重症,,と判定され160/110mmHg以上の血圧を持続的に満 のPIHで,かつ,妊娠高血圧腎症であったといえる。 ,,「」なお1回でも血圧が160/110mmHgを超えればPIHは重症,,と判定され160/110mmHg以上の血圧を持続的に満たす必要はなく複数回の血圧測定で判定すべきとはされていない。 イHELLP症候群の発症についてAは,入院時において,重症の早発型PIHであったが,PIHが入院後に重篤化し,1月14日ころにはpartialHELLP症候群を合併した。1,,,月15日の帝王切開後もPIHpartialHELLP症候群が更に重症化し1月17日に子癇発作を起こし,HELLP症候群が確認されて死に至った。 Aは,帝王切開の前日である1月14日,既にHELLP症候群の初発症状である嘔吐,心窩部痛,全身倦怠感が認められる上,1月13日の血液検査で,HELLP症候群の発症に先立って低下するとされるATⅢが72%に低下していたことが認められる。これを前提とすると,被告病院では,本来行われるべき血液検査が全くなされていないため,HELLP症候群を示す他の検査値は不明であるが,遅くとも1月14日に,被告病院が適切な検査を実施していれば,partialHELLP症候群との診断は容易であったはずである。また,被告病院の医師らも,HELLP症候群と診断して,帝王切開術を実施したものである。 【被告の主張】アPIHの重症度について1回でも160/110mmHg以上の血圧が計測されれば重症のPIHにあたるとする原告らの主張は,独自の見解に過ぎず,一時点の血圧のみを。 ,,もって重症型と診断するものではないPIHは複数回の測定によって血圧が持続的に160/110㎜Hg以上となった場合に,重症と診断される。 そして,入院時である1月5日午後1時30分に160/100㎜ もって重症型と診断するものではないPIHは複数回の測定によって血圧が持続的に160/110㎜Hg以上となった場合に,重症と診断される。 そして,入院時である1月5日午後1時30分に160/100㎜Hgの血圧が,外出からの帰室時である同日午後4時30分にも160/100㎜Hgの血圧が認められたが,入院直後・外出後であったために認められた一過性の血圧の上昇である。 なお,1月9日の午後の段階では,重症のPIHへ移行したと考えられる。 イHELLP症候群の発症についてAは,帝王切開後の産褥期HELLP症候群とそれに伴ったDICにより,死亡したと考えられる。 Aは,1月13日の血液検査で,貧血はなく,肝機能は正常範囲内であ,,。 り血小板数にも減少はないからHELLP症候群の診断基準を満たさないまた,1月15日午後8時の血液検査でも,肝酵素のわずかな上昇が認められたものの,貧血はなく,血小板数も正常であるから,HELLP症候群の。 ,,診断基準を満たしていないAは帝王切開後の1月17日の血液検査で,,HELLP症候群の診断基準を満たす結果が得られたことから同日の時点で初めてHELLP症候群の診断をすることができる。 (2) PIHに対する管理の適否【原告らの主張】アPIHの入院管理についてAは,上記のとおり,1月5日において,重症の早発型妊娠高血圧腎症であったから,特に厳重な管理が必要であった。 そして,被告病院の医師らは,下記のとおり,血圧,脈拍,尿蛋白量,血液検査など各種臨床検査の経時的測定などによって母体の全身状態を精査し,また,降圧剤の投与等によってできる限り血圧を安定化させ,PIHの重症化を防ぐ義務を負っていたが,これらを怠ったものである。 イ臨床検査の実施と評価(ア) 血圧測定の不備血圧はPIHの重症 査し,また,降圧剤の投与等によってできる限り血圧を安定化させ,PIHの重症化を防ぐ義務を負っていたが,これらを怠ったものである。 イ臨床検査の実施と評価(ア) 血圧測定の不備血圧はPIHの重症化の基準の一つであり,降圧剤を適切に投与するためにも,少なくとも,4~6時間ごとに血圧測定を実施すべきであった。 しかし,被告病院においては,1月5日に3回(入院後,6日に2)回,7日に3回,8日に3回しか測定されていない。 (イ) 尿蛋白の測定の不備についてPIHの重症度を測る基準の一つである尿蛋白の測定は,本来,24時間蓄尿検体を用いた定量法で行うべきである。 しかし,被告病院では,1月9日まで蓄尿が開始されず,1月7,8日は随時尿ですら検査されなかった。 (ウ) 血液検査の不備について,,,Aは重篤化しやすい重症の早発型妊娠高血圧腎症であり1月6日PIHの病勢のマーカー的意義を有する尿酸値が7.4㎎/dℓという異常値を示したから,症状の重篤化が強く予想され,これを防ぐため相当厳重な管理が要求されていたというべきであり,経過追跡のために連日の血液検査を実施すべきであった。 しかし,被告病院では,入院から帝王切開の実施までの11日間において,わずか3回しか血液検査が実施されておらず(1月6,13,15日,そのうえ,13日の検査では,一般的な検査がなされたにすぎ)ず,6日の検査で挙がっていたLDH,BUN,クレアチニン等が検査項目から除外されている。 ウ降圧剤投与の適否(ア) 降圧剤の投与時期についてAのPIHは,早発型であり,重症化しやすく,実際にも入院直後に重症化しているから,少なくとも,160/110mmHgの血圧を2回記録した1月5日には,降圧剤を投与すべきであった。 しかし,Aに降圧剤であるアプレゾリンが投与されたのは やすく,実際にも入院直後に重症化しているから,少なくとも,160/110mmHgの血圧を2回記録した1月5日には,降圧剤を投与すべきであった。 しかし,Aに降圧剤であるアプレゾリンが投与されたのは,血圧が198/120mmHgを記録した1月9日になってからであった。 (イ) 降圧剤の投与方法について同日の血圧が急激かつ大幅に上昇したことからすれば,アプレゾリンの静注もしくは持続点滴で確実に血圧をコントロールすべきであった。 しかし,被告病院では,アプレゾリンの経口投与がなされたにすぎなかった。 エ小括したがって,被告病院では,PIHに対する適切な入院管理がなされておらず,この点において過失が認められる。 【被告の主張】アPIHの入院管理についてAは,上記のとおり,1月5日の入院時において,軽症の早発型PIHであったといえる。そして,同日午後8時には156/100㎜Hgとなっており,安静・食事療法でコントロール可能な血圧であったため,安静・食事療法を開始し,随時尿で尿蛋白の経過を観察したものである。 PIHに対する入院管理について,早発型,特に妊娠28週未満に発症した症例では,妊娠期間の延長により児の予後改善が期待できるため,待機的治療を行う。治療方針は母胎の安全管理と児の成熟であり,母胎管理としては,血圧・脈拍・尿蛋白・血液検査を行い,まずは安静・食事療法,。 を行った上これが奏功しない重症例には降圧剤等による薬物療法を行うAに対しては,入院当初は安静・食事療法を行い,同時に体重管理も行った。また,下記のとおり,血圧・尿蛋白・血液検査も行っており,高血圧が重症化した1月9日以降は,アプレゾリンによる薬物療法を開始しており,入院管理に過失はない。 イ臨床検査の実施と評価(ア) 血圧測定についてAに対する血圧測定の実施状況は も行っており,高血圧が重症化した1月9日以降は,アプレゾリンによる薬物療法を開始しており,入院管理に過失はない。 イ臨床検査の実施と評価(ア) 血圧測定についてAに対する血圧測定の実施状況は,別紙臨床経過書に記載のとおりであり,被告病院で実施した以上に,頻回に血圧測定をしなければならない注意義務は認められない。 (イ) 尿蛋白の測定について尿蛋白の重症度は,随時尿でも評価可能であり,尿試験紙法で連続して+1以上のときに陽性と判断し,連続して3+以上の陽性と判定された場合に蛋白尿重症とみなす。 したがって,随時尿での測定に注意義務違反は認められない。 (ウ) 血液検査について血液検査は,1月6日,13日と,入院後1週間に1回のペースで行っており,13日にはATⅢも測定した。LDHは,GOT,GPTと平行して,,。 動くと考えるので6日に測定したものの13日には測定しなかったまた,13日の血液検査の結果には,HELLP症候群の発症を疑わせるデータがなかったため,14日に連続して血液検査をしなければならないような状況ではなく,心窩部痛を認めた15日には,緊急の血液検査を行っている。 これ以上に頻回に血液検査をしなければならない注意義務は,被告病院にはない。 ウ降圧薬投与の時期・方法の適否重症高血圧が母体の脳血管障害や心不全をきたす危険のある場合,降圧剤治療の適応となる。ただし,降圧剤投与の基準となる血圧は,収縮期血圧が160~180㎜Hg以上,拡張期血圧が105~110㎜Hg以上,平均血圧が130㎜Hgなどと様々な値が提唱されており,一定していない。 降圧剤投与の基準については,医師によってある程度の裁量が認められるというべきであるが,被告病院では,収縮期血圧180㎜Hg以上,拡張期血圧110㎜Hg以上という見解に従い,看護師 一定していない。 降圧剤投与の基準については,医師によってある程度の裁量が認められるというべきであるが,被告病院では,収縮期血圧180㎜Hg以上,拡張期血圧110㎜Hg以上という見解に従い,看護師には,入院時(異常時)指示表により,血圧がこれを超えた場合には,降圧剤を点滴投与するよう指示を出していた。 本件では,1月9日午後3時以降の3回の血圧測定において初めて,安静時ながら,持続的に血圧が170mmHg/100mmHgを超え続けたため,降圧剤の投与が必要な病態と判断し,アプレゾリン60mg/日を経口投与した。アプレゾリンの投与量は,60~200㎎/日とされており,あまり血圧が下降すると児の仮死や発育遅延を招く可能性があることから,数日をかけて徐々に降圧する必要があるのであって,目標値は,投与後10~20㎜Hgの降圧,平均値で20~30%の降圧であり,正常値まで下げないようにするとされているが,点滴投与では急激に降圧してしまう。 したがって,降圧剤投与の時期・方法に過失はない。 (3) 帝王切開の実施時期の適否【原告らの主張】アPIHの根治的治療は帝王切開(妊娠の終了)であり,被告病院の医師らは,入院管理を尽くしても症状の増悪を認めた場合など一定の基準を満たす時点で,早期に児を分娩するべき義務を負っていた。 しかし,被告病院の医師らは,漫然と時の経過(妊娠34週)を待ち,適時に児を娩出する義務を怠ったものである。 イ1月10日の時点での帝王切開の必要性の有無Aは,入院による安静管理や降圧剤の投与にもかかわらず,1月10日午後2時に170/98㎜Hg,午後8時には180/116㎜Hg,午後8時30分には176/104㎜Hgの高血圧状態が持続していた。 また,PIHの病勢のマーカー的意義のある尿酸値は,4.5㎎/dℓ以上であると重症で 98㎜Hg,午後8時には180/116㎜Hg,午後8時30分には176/104㎜Hgの高血圧状態が持続していた。 また,PIHの病勢のマーカー的意義のある尿酸値は,4.5㎎/dℓ以上であると重症であるとされるところ,1月6日において,7.4㎎/dℓという異常値を示していた。 そして,蛋白尿の状態は,PIHにおける分娩時期を決定する指標として利用されており,蛋白尿が5g/日を超える場合には妊娠終了の適応であり,10g/日を超える場合は,妊娠終了を即時に決断しなければならないところ,被告病院において,1月9日に蓄尿が開始され,1月10日には,尿蛋白が10.21g/日と著しい高値であったことが判明している。 さらに,入院当初には見られなかった頭重感が1月9日ころから現れている。 よって,上記事情を踏まえれば,1月10日には帝王切開を実施すべきであったといえる。 ウ1月14日の時点での帝王切開の必要性の有無Aは,降圧剤の投与にもかかわらず,血圧コントロールができなくなっており,1月11日午前7時に178/110㎜Hg,午後2時に176/98㎜Hg,午後8時30分に196/120㎜Hg,1月12日には午後8時に176/100㎜Hg,13日には午後2時に164/110㎜Hg,午後7時30分に184/109㎜Hg,180/108㎜Hgという高血圧が持続していた。 また,1月13日の血液検査で,尿酸値は,1月6日の計測値より上昇して9.3㎎/dℓの異常値を示しており,HELLP症候群の発症予測として重要なATⅢは,1月13日に72%と低下がみられた。 そして,Aは,1月11日に息苦しさを訴え,12日に激しい頭痛とむ,,,くみがみられ13日には目がちかちかするとの症状も現れ14日には頭重感,息苦しさ,全身倦怠感を訴え,午後7時ころには嘔吐があっ て,Aは,1月11日に息苦しさを訴え,12日に激しい頭痛とむ,,,くみがみられ13日には目がちかちかするとの症状も現れ14日には頭重感,息苦しさ,全身倦怠感を訴え,午後7時ころには嘔吐があった。 さらに,1月13日には,妊娠週数が32週に達しており,妊娠後期に入るため,児の成熟が期待できた。 上記事情に加えて,1月14日には,Aは,少なくともpartialHELLP症候群を発症しており,partialHELLP症候群は,HELLP症候群への移行的病態として,HELLP症候群に準じた管理が必要とされている。 したがって,遅くとも1月14日には帝王切開をすべきであった。 【被告の主張】ア1月10日の時点での帝王切開の必要性の有無妊娠終了基準における腎機能障害について,蛋白尿は因子として挙げられておらず,尿酸値のみに着目する原告の主張は,妊娠終了基準を無視したものである。すなわち,1月6日の血液検査では,BUN13㎎/dℓ,クレアチニン0.74㎎/dℓと正常であり,腎機能は保たれていると考えられる。 ,,。 ,したがって1月10日の時点で妊娠終了基準を満たさない加えて1月10日は降圧剤による降圧を図っていた時期であり,直ちに帝王切開を行うべき時期とはいえない。 イ1月14日の時点での帝王切開の必要性の有無原告らは,1月13日に尿酸値が9.3㎎/dℓであったから,14日に帝王切開を実施すべきであったと主張する。しかし,尿酸値は,15日に5.5㎎/dℓへ下降しており,尿量が保たれていたことも考えると,14日の時点で帝王切開を決断しなければならない腎機能障害はない。 ,,。 ,また原告らは危険な高血圧状態が持続していたと主張するしかし1月9日に降圧剤の投与を開始してから1月14日に至るまで,不安定ながらも血圧の しなければならない腎機能障害はない。 ,,。 ,また原告らは危険な高血圧状態が持続していたと主張するしかし1月9日に降圧剤の投与を開始してから1月14日に至るまで,不安定ながらも血圧のコントロールができていたから,同日においても,重症高血圧症状が薬物療法に抵抗して不変あるいは増悪をみる場合という帝王切開基準には該当しない。 なお,Aは,1月15日午後9時の時点において,HELLP症候群の診断基準を満たしてはいないものの,Aが心窩部痛を訴えたこと,肝酵素が軽度上昇したことから,妊娠を継続するとさらに病態が進行することを予期して,帝王切開を行ったものである。 したがって,帝王切開は,適切な時期に実施されており,遅すぎたということはない。 (4) 帝王切開後の管理の適否【原告らの主張】ア産褥期の管理PIHは,妊娠の終了により必ずしも改善に向かうとは限らず,重篤な合併症は分娩後24時間以内に起きることが多いので,分娩が終了したので症状が改善されるものと軽信すべきではなく,少なくとも分娩後48時,。 ,間以内は母体を厳重に監視し異常の早期発見に務めるべきである特にAは,極重症の早発型PIHであったのであるから,一層厳重な管理が必要であった。 しかし,被告病院の医師らは,血液検査をはじめとして,尿量の確認や血圧測定は十分になされておらず,HELLP症候群や子癇を念頭に置いて経過観察や医師の具体的指示がなされた形跡はない。 特に,HELLP症候群の診断で帝王切開を行ったにもかかわらず,分娩後丸1日以上血液検査をしないというのは異常である。 イ降圧剤の投与(ア) Aは,重症の早発型PIHであったばかりか,HELLP症候群との診断で帝王切開がなされたのであるから,さらなる重症化を防ぐため,厳重な観察とともに,降圧剤の投与が必要で 。 イ降圧剤の投与(ア) Aは,重症の早発型PIHであったばかりか,HELLP症候群との診断で帝王切開がなされたのであるから,さらなる重症化を防ぐため,厳重な観察とともに,降圧剤の投与が必要であった。特に,帝王切開後は,胎児への影響を考える必要がないため,降圧剤の投与を躊躇する理由はなかった。そして,帝王切開後において,1月16日午前零時45分の収縮期血圧は160㎜Hgであり,どれだけ遅くとも,178/110㎜Hgという重症の高血圧を示した16日午後7時30分には,降圧剤の投与が必要であった。 しかし,被告病院においては,子癇発作が起きるまで降圧剤の投与が全くなされず,いかなる場合に降圧剤を投与すべきかなどの一般的指示・検討すらなされなかった。 なお,降圧剤の種類としては,アプレゾリンより即効性があり,血管攣縮の改善に役立つ塩酸ニカルジピンの点滴静注またはアダラートの内服をすべきであった。 (イ) 被告の主張に対する反論a被告は,B医師が1月13日にアプレゾリン内服5日間の指示を出しているため,帝王切開後も,帝王切開前と同様に,降圧剤の経口投与を行っていたと主張する。 しかし,帝王切開後に降圧剤が投与されているのであれば,その旨が医師の診療録や看護記録に記載されているはずであるが,カルテにその旨の記載はない。また,上記13日の指示は,帝王切開を予定していなかった時点においてなされたものであり,帝王切開によって事情が全く変わったといえる。そして,16日において,Aが降圧剤を内服できたかは,食事を摂取できた旨の記載がカルテにないことからすれば疑わしい。さらに,被告は,従前は帝王切開後に降圧剤を投与しなかったと主張しており,主張に明らかな変遷が認められる。 したがって,帝王切開後,降圧剤は投与されていない。 bまた,被告は,術後の すれば疑わしい。さらに,被告は,従前は帝王切開後に降圧剤を投与しなかったと主張しており,主張に明らかな変遷が認められる。 したがって,帝王切開後,降圧剤は投与されていない。 bまた,被告は,術後の高血圧は術後の痛みによるものと看護師が判断して,ペンタジン(鎮痛剤)の投与を優先させたと主張する。 ,,しかしペンタジンの投与によって血圧が低下したとは認められず1月16日に血液検査すらなされていない被告病院で,PIHやHELLP症候群を原因とする高血圧を除外できるはずがない。また,ペンタジンと降圧剤の併用は禁忌でない。さらに,被告は,180/110㎜Hg以上の場合に降圧剤を投与するとの医師の事前の指示があったと主張するが,1月17日午前零時55分に192/100㎜Hgの著しい高血圧を示した際,医師の指示どおりに降圧剤を投与せず,看護師の判断のみでペンタジンを投与しただけというのでは不適切極まりない。 【被告の主張】ア産褥期における全身管理HELLP症候群は帝王切開が唯一の治療法であり,帝王切開によって回復することが多いというのは,臨床産科医の一般的知見である。 血圧測定について,1月16日,Aの全身状態は安定しており,著しい高血圧が持続していたとは言えず,1月16日に17回,17日の午前6時までに2回しており,経時的な血圧測定がなされているといえる。 また,17日午前零時55分の血圧は192/120㎜Hgであったが,看護師は,その原因が疼痛による交感神経緊張による血圧上昇であると判断し,入院時(異常時)指示表の疼痛時指示に従い,ペンタジンを投与したが,午前3時55分には,血圧が170/100㎜Hgに低下しており,午前零時55分の血圧上昇が疼痛によるものであるとの判断の正しさを示している。そうすると,17日午前零時55分時点の医療行為 与したが,午前3時55分には,血圧が170/100㎜Hgに低下しており,午前零時55分の血圧上昇が疼痛によるものであるとの判断の正しさを示している。そうすると,17日午前零時55分時点の医療行為として,降圧剤を投与しないで,鎮痛剤を投与した点に過誤はない。 イ降圧剤の投与についてB医師は,1月9日午後3時45分,アプレゾリン0.6gを1日3回内服させ,内服させても血圧が200/110㎜Hg以上であれば,生食100mℓにアプレゾリン1アンプルを入れて,40分から1時間をかけて点滴投与するように口頭で指示した。さらに,1月13日にアプレゾリン内服5日間の指示が出され,これを受けて看護師は,Aに対し,帝王切開後の1月16日午後6時ころ,食事を開始すると同時にアプレゾリンを内服させた。 また,B医師は,降圧目標を180/110㎜Hg以下とし,看護師に対し,入院時(異常時)指示表で「高血圧時(180/110mmHg以上),ソリタT+アプレゾリン」と指示しており(乙A1・2053頁,この)指示は退院時まで継続しているから,上記高血圧時には降圧剤を点滴投与するよう指示が出されていたものである。 そして,Aは,帝王切開のため,硬膜外麻酔によって交感神経をブロックしていたところ,降圧剤の点滴投与によって血圧を急激に下げると,脳障害を発生させる危険があると考えられた。そこで,B医師は,降圧剤の内服と安静により経過観察する方法をとったものであり,同医師の判断・措置に過失と評価されるような違法はない。 (5) 子癇に対する診療の適否【原告らの主張】ア子癇の発症予防について被告病院の医師らは,子癇の前駆症状を発見した際,子癇発作が起きる前に,予防的治療として硫酸マグネシウムの投与を開始すべきである。 Aの場合,早発型,重症,妊娠高血圧腎症であった 癇の発症予防について被告病院の医師らは,子癇の前駆症状を発見した際,子癇発作が起きる前に,予防的治療として硫酸マグネシウムの投与を開始すべきである。 Aの場合,早発型,重症,妊娠高血圧腎症であった上,子癇と血管攣縮という病態で共通するHELLP症候群を発症していたのであるから,早期に硫酸マグネシウムの投与を開始する必要があった。また,Aは,帝王切開後の1月16日から1月17日朝にかけて,眼華閃発(目がチカチカす),,,,る心窩部痛悪心といった子癇の前駆症状が見られこれらの症状は帝王切開前にも見られており,産褥期に繰り返して症状を訴えていたということは,子癇の前駆症状として特に重視すべきであり,どんなに遅くとも,眼華閃発を訴えた1月17日午前3時55分には,子癇の予防として硫酸マグネシウムが投与されなければならなかった。 しかし,被告病院では,子癇の発症予防のため,硫酸マグネシウムが投与されることはなかった。 イ子癇に対する治療について(ア) 上記子癇の前駆症状に続き,1月17日午前6時20分,Aに子癇発作が始まったため,被告病院の医師らは,すぐに駆けつけてAを診察すべきであった。 しかし,C看護師は,当日の当直担当医でない医師のPHSにコールするというミスをし,同医師がコールに答えなかったため,当直医に連絡することができなかった。さらに,C看護師は,当直室に連絡する,あるいは,被告病院内にいる他の医師に連絡するということにも考えが及ばず,病院到着まで長時間かかる自宅にいるB医師にだけ連絡し,同医師も院内やすぐに到着できる他の医師に連絡するよう指示しなかった。 結局,B医師が病棟に到着したのは,午前8時15分ころであった。Aは,院内において,子癇発作という母体救急の状態であったにもかかわらず,115分間,医師の診療を受 医師に連絡するよう指示しなかった。 結局,B医師が病棟に到着したのは,午前8時15分ころであった。Aは,院内において,子癇発作という母体救急の状態であったにもかかわらず,115分間,医師の診療を受けられなかったことになる。 (イ) また,子癇発作時には,硫酸マグネシウム4gを20~30分かけて静注し,以後1~2g/時間で維持するのが標準的な治療である。 しかし,子癇発作後にB医師が電話で看護師にした指示は,生理食塩水100mℓにマグネゾール1アンプルを入れ,1時間に20mℓの速。 ,()度で投与というものであったマグネゾールは1アンプル20mℓ中に硫酸マグネシウムを2g含んでいるが,B医師の指示した投与量では,維持量としても上記基準の3分の1に満たない。これでは,硫酸マグネシウムの効果が現れるはずもなく,B医師の指示が極めて不適当なものであったため,再度の子癇発作を招いたというしかない。 【被告の主張】ア子癇の発症予防についてそもそも,子癇の予知・予見は不可能である。 また,子癇の予防目的で硫酸マグネシウム(マグネゾール)を投与することは認められていない(乙B21・49頁。 )イ子癇に対する治療について(ア) Aの子癇痙攣は,発生から2分後におさまり,発生から15分後の1月17日午前6時35分には,医師の指示によりマグネゾールの投与が開始されているから,子癇発作から115分後に治療が開始されたわけではない。 (イ) また,Aの症例は,産褥期子癇だけでは説明できないSIRS・DICを基底に多臓器不全を呈した複雑な病態であり,マグネゾールの投与量が多ければ救命できたという単純な病態ではなかった。 そして,マグネゾールは,本件のように血液濃縮があり,脱水症が示唆される病態では禁忌とされ(乙B24・2356頁,また,腎機能) ネゾールの投与量が多ければ救命できたという単純な病態ではなかった。 そして,マグネゾールは,本件のように血液濃縮があり,脱水症が示唆される病態では禁忌とされ(乙B24・2356頁,また,腎機能)障害のある患者では慎重投与でもあるから,B医師は,マグネゾールの投与に慎重にならざるを得なかった。 (6) 因果関係【原告らの主張】PIHで入院したAに対し,被告病院が適切に状態を観察し,降圧剤を適切に投与するなどして,Aの血圧を適切に管理していれば,また,本来であれば,1月10日,どれだけ遅くとも1月14日に帝王切開をしていれば,,,PIHが重篤化することもpartialHELLP症候群が重篤化することもなくAを救命し得たはずである。 また,帝王切開後においても,適切な管理が実施されていれば,子癇発作を併発せずに死に至る結果に陥らず,予後は良好であったはずである。1月16日中に血液検査を実施していれば,HELLP症候群との診断ができ,速やかな治療を開始できたことは間違いない。 さらに,仮に上記のような診療が尽くされずに,子癇の発作予防のため,あるいは,子癇発作を起こしたとしても,直ちに適切な硫酸マグネシウムの投与がなされていたら,Aを救命できた可能性は大きい。 以上のとおり,被告病院のいずれの注意義務違反もAの死亡との間に因果関係がある。 【被告の主張】HELLP症候群に対する治療は帝王切開に尽きるわけで,帝王切開後に悪化。 ,したHELLP症候群に対する有効な治療手段は未だ確立されていないそしてAは,予想以上に急速な経過をたどった産褥期HELLP症候群の発症とDIC,,を合併した事例であったため血圧の急速なコントロールで救命できたとか1月16日に血液検査を実施して病態を把握できたからといって,有効な治療方法があり,救命 褥期HELLP症候群の発症とDIC,,を合併した事例であったため血圧の急速なコントロールで救命できたとか1月16日に血液検査を実施して病態を把握できたからといって,有効な治療方法があり,救命できた事例とは考えがたい。 また,子癇発作は,発症から2分後に治まり,午前6時35分には医師の指示に基づきマグネゾールの投与がなされていることからすれば,午前8時30分までB医師が診察しなかったこととAの死亡との間に因果関係はない。 (7) 損害【原告らの主張】アAの損害(ア) 逸失利益Aは,生前,○県の公務員(小学校教員)として稼働しており,下記の計算式のとおり現実の年収額512万0779円に16547死,. (亡時の年齢である31歳に対応するライプニッツ係数)を乗じたものから,30%の割合で生活費を控除した金額が逸失利益となる。 (計算式)512万0779円×16.547×(1-0.3)≒5931万3470円(1円以下切り捨て)(イ) 慰謝料Aは,原告X2の出産直後に瀕死の状態となり,23日後に死に至った。出生を待ち望んだ我が子の顔を十分に見ることすらできず,抱っこして,授乳することもできなかったAがどれほど無念であったか,どれほど心残りであったかは,察するに余りある。 Aは,被告病院の著しい注意義務違反によって死に至っており,その無念さは,もはや何によっても癒し難いものであるが,この損害をあえて金銭によって評価するならば,その金額は2500万円を下ることはない。 (ウ) 葬儀費用150万円(エ) 相続Aの相続人である原告X1及び同X2は,上記金額の合計8581万3470円について,法定相続分に従い,2分の1ずつ(各4290万6735円)をそれぞれ相続した。 イ近親者固有の慰謝料Aの死によって,Aの夫,子,両親であ 及び同X2は,上記金額の合計8581万3470円について,法定相続分に従い,2分の1ずつ(各4290万6735円)をそれぞれ相続した。 イ近親者固有の慰謝料Aの死によって,Aの夫,子,両親である原告ら4名には,何をもってしても慰謝し難い精神的な苦痛が生じている。原告X2は,全く母の顔を知らないまま成長していくことになり,今後,どれほど母を恋しく思い,,。 母を知らない母がいない寂しさを抱いて成長していくか他言を要しないこれらの損害をあえて金銭に評価するならば,その金額はそれぞれ下記の金額を下ることはない。 (ア) 原告X1及び同X2各300万円(イ) 原告X3及び同X4各150万円ウ弁護士費用原告らは,被告が上記の損害を任意に賠償しようとしないため,本訴訟の提起を原告代理人らに依頼することを余儀なくされ,それぞれ弁護士費用を負担することとなった。 この弁護士費用のうち,被告の注意義務違反と相当因果関係にある金額は,原告X1及び同X2につき各450万円を,原告X3及び同X4につき各15万円をそれぞれ下ることはない。 エ小括以上から,各原告の損害の合計金額は次のとおりである。 (ア) 原告X1及び同X2各5040万6735円(イ) X3及び同X4各165万円【被告の主張】不知ないし争う。 第3当裁判所の判断 争点(1)(Aが死に至った機序)について(1) PIHの重症度について前記認定の医学的知見によれば,PIHのうち,①収縮期血圧が160㎜Hg以上または拡張期血圧が110㎜Hg以上の場合,②蛋白尿が2g/日以上の場合(随時尿を用いる場合は,複数回の新鮮尿検査で,連続して3+(300㎎/dℓ)以上の場合)を重症ということが認められる。 ア血圧についての検討Aは,入院した1月5日午後1時30分に160/10 場合(随時尿を用いる場合は,複数回の新鮮尿検査で,連続して3+(300㎎/dℓ)以上の場合)を重症ということが認められる。 ア血圧についての検討Aは,入院した1月5日午後1時30分に160/100㎜Hg,いったん荷物を取りに外出した後に帰室した同日午後4時30分も160/100㎜Hgであり,形式的には上記重症基準を満たしている。しかし,血圧の上昇には一過性のものもあること,妊婦は増大した子宮が周囲の血管や臓器を圧迫するため,体位によって血圧が変動しやすく,測定条件によってもかなりの差が生じる可能性があること(乙B21・10頁,また,同)日午後8時の血圧が156/100㎜Hg,1月6日午前10時55分の血圧が130/92㎜Hg,同日午後2時の血圧が140/90㎜Hgであることも考えると,1月5日の入院時において,血圧の点でPIHが重症であったとは認め難い。一方,1月9日午後以降,上記重症基準を満たす高血圧がほぼ継続していることから,血圧の点からは,同時点をもって,重症へ移行したとみるのが相当である。 イ蛋白尿についての検討Aは,1月5日午前11時25分,翌6日午前6時において,連続して3+であったことが認められるから(乙A1・2060頁,遅くとも1)月6日午前6時において,上記重症基準を満たしている。したがって,蛋白尿の点で,遅くとも同時点をもって,重症へ移行していたといえる。 (2) HELLP症候群の発症についてアAは早発型PIHであり,妊娠高血圧腎症であったところ,前記認定の医学的知見によれば,PIHは,重症化によりHELLP症候群が発症しうること,PIHの重症化に伴って尿酸値が上昇すること,早発型PIHは,遅発型PIHに比べて合併症の頻度が高く,重症化しやすいこと,妊娠高血圧腎症は母体合併症が生じる頻度が高いこと, 症候群が発症しうること,PIHの重症化に伴って尿酸値が上昇すること,早発型PIHは,遅発型PIHに比べて合併症の頻度が高く,重症化しやすいこと,妊娠高血圧腎症は母体合併症が生じる頻度が高いこと,partialHELLP症候群はHELLP症候群の前段階として位置づけられていることが認められる。 ,,,. また各種検査結果について別紙臨床経過書のとおり1月6日に74㎎/dℓであった尿酸値が1月13日には9.3㎎/dℓへ上昇していること,同日に測定したATⅢは72%と正常値(80%)未満に低下していたこと,1月9日以降にアプレゾリンの内服を開始しているが,帝王切開を実施するまで,概ね160/100㎜Hgを超える高血圧状態が続いていたこと,帝王切開後14時間程度は小康状態を示していたが,1月16日午後2時以降に血圧が再び上昇を始めたことが認められる。 そして,臨床症状について,1月12日に激しい頭痛が(乙A1・2074頁,1月14日に全身倦怠感,悪心・嘔吐がみられ(乙A1・20)76頁,HELLP症候群の初発症状が認められる。 )イ上記事情から,HELLP症候群の発症について検討する。 尿酸値が上昇していること,アプレゾリンを内服していたにもかかわらず上記高血圧状態が続いていたことからすると,PIHは,入院以降,悪化していたとみるのが相当である。 また,PIHが悪化していく中,ATⅢが低下していたこと,HELLP症候群の初発症状が認められていたことからすれば,遅くとも1月14日の時点で,HELLP症候群の前段階といえるpartialHELLP症候群を発症していたとみるのが相当である。なお,1月15日実施の血液検査で得られた,LDHが322IU/ℓ,GOTが61IU/ℓ,血小板が18.3万/㎕との結果を,上記HELLP症候群 HELLP症候群を発症していたとみるのが相当である。なお,1月15日実施の血液検査で得られた,LDHが322IU/ℓ,GOTが61IU/ℓ,血小板が18.3万/㎕との結果を,上記HELLP症候群の診断基準であるSibaiの基準に照らすと,同日においてHELLP症候群を発症したとはいえない。 そして,Aは,帝王切開後14時間程度は小康状態を示していたが,血圧が再び上昇を始めたことが認められるところ,上記小康状態が継続した時間の短さを考えると,帝王切開によりpartialHELLP症候群が消失したとは認めがたく,その他partialHELLP症候群が消失したことを認めるに足りる証拠はない。その後,1月17日実施の血液検査では,LDHが3047IU/ℓ,GOTが1078IU/ℓ,血小板が5.5万/㎕との結果が得られ,Sibaiの基準を満たすことが認められる。 ここで,1月16日に,HELLP症候群の確定診断に必要な検査が被告病院において実施されていないため,やや不明確な部分が残るものの,①1,,月16日午後2時以降に血圧が再び上昇を始めたこと②上記1月15日17日実施の血液検査の結果を対照し,その数値の変化の大きさを考えると,Aは,1月16日中には,partialHELLP症候群からHELLP症候群へ移行していたとみるのが相当である。 (3) これに対し,被告は,Aが帝王切開後に突然HELLP症候群を発症したと主張する。しかし,帝王切開前に発症していたpartialHELLP症候群と,帝王,,切開後のHELLP症候群が関連性がなく別の原因によるものと考えることは上記の症状の経緯からみて不自然である。また,PIH及びHELLP症候群の最終的な治療方法が妊娠の終了であり,妊娠の終了により,一般的に全身状態の改善を期待できるもの の原因によるものと考えることは上記の症状の経緯からみて不自然である。また,PIH及びHELLP症候群の最終的な治療方法が妊娠の終了であり,妊娠の終了により,一般的に全身状態の改善を期待できるものの,全ての症例について,確実に全身状態が改善するとは限らず,特に重症の早発型PIHについては,分娩後24時間以内に重篤な合併症が起きることもしばしばあるとの報告がされている(甲B2の2,5,甲B20,29,30)ことからみても,重症の早発型PIHであったAについて,妊娠の終了によっても症状が改善されなかった可能性は高いのである。 したがって,被告の上記主張は採用できない。 (4) 小括Aは,遅くとも1月14日の時点でpartialHELLP症候群を発症し,帝王切開による一定の小康状態を経た後,1月16日中にHELLP症候群へ移行するとともに,子癇,DICを併発して,死に至ったと考えられる。 争点(2)(PIHに対する管理の適否)について(1) 血圧測定についてB医師は,1日に3回の血圧測定を実施するように看護師に指示し,Aの入院後,1月5日に3回,6日に2回,7日から帝王切開の実施まで1日に3回ずつ血圧測定が実施されている。 上記のとおり,Aは,1月5日において,重篤化しやすい重症の早発型妊娠高血圧腎症であったことからすると,Aの全身状態を細やかに把握するため,血圧の状況を注意深く観察することが必要であったが,どの程度の頻度で血圧測定すべきかについてほぼ確立した基準があるとは認められない。そして,被告病院では,一応は定期的な血圧測定が実施されているといえるから,被告病院における血圧測定の実施状況をもって,直ちに過失があると認めることはできないというべきである。 (2) 尿蛋白の測定について前記認定の医学的知見によれば,PIHの管理にお いるといえるから,被告病院における血圧測定の実施状況をもって,直ちに過失があると認めることはできないというべきである。 (2) 尿蛋白の測定について前記認定の医学的知見によれば,PIHの管理において尿蛋白を測定するにあたっては,24時間蓄尿検体を用いた定量法によるのが原則であると認められる。随時尿による測定はその精度に問題が残るので,望ましいとはいえないが,測定自体は可能であるから,被告病院における尿蛋白の測定方法をもって,過失があると認めることはできない。 また,1月7日,8日に尿蛋白が測定されていない点について,測定するのが望ましいとはいえるが,1月9日より蓄尿が開始され,10日以降,定量法による測定がなされていることを考えると,過失があるとまで評価することはできない。 (3) 血液検査について被告病院における血液検査は,帝王切開を実施するまでに,1月6日,13日,15日の3回実施されている。 そして,Aの全身状態を把握する上で,血液検査を頻回に実施するのが望ましいとはいえるが,どの程度の頻度で血液検査をすべきかについてほぼ確立した基準があるとは認められず,被告病院の実施状況をもって,直ちに過失があると認めるのは相当ではない。 (4) 降圧剤の投与についてア降圧剤の投与基準についてPIH患者に対する降圧剤投与の基準について,文献の記載をみると,次のような記載がある。 ①日本産婦人科学会誌58巻5号(平成18年5月)によると「拡張,期血圧が100㎜Hg以上になれば降圧剤の投与を考慮し,110㎜Hg以上の場合には積極的に降圧を図る」とされる(甲B2の1・N68。 )②社団法人日本母性保護産婦人科医会の研修ノート(平成13年)によると「入院安静でも,160/100㎜Hgを超えるものは薬剤投与を,開始する」とされる(甲B2 とされる(甲B2の1・N68。 )②社団法人日本母性保護産婦人科医会の研修ノート(平成13年)によると「入院安静でも,160/100㎜Hgを超えるものは薬剤投与を,開始する」とされる(甲B2の2・55頁。 )③産婦人科最新診療診断指針(平成8年)によると「160/100,㎜Hg以上の場合にのみ降圧剤を投与して,140/90㎜Hg前後に下降させる」とされる(乙B8・463頁。 )④臨床エビデンス産科学(第二版,平成18年9月)によると「基準,となる血圧は,収縮期血圧160~180㎜Hg以上,拡張期血圧105~110㎜Hg以上,平均血圧130㎜Hg以上と,さまざまな値が提唱されており,一定してしない」とされる(乙B23・317頁。 ),,上記各文献の記載からすると降圧剤投与の基準となる血圧については複数の見解があるものの,総合すれば,血圧の点において,PIHが重症化した段階,すなわち収縮期血圧が160㎜Hg以上又は拡張期血圧が110㎜Hg以上の場合と解するのが相当である。 イ被告病院での降圧剤の投与降圧剤の投与時期について,被告病院では,1月9日から,降圧剤の投与が開始された。そして,Aは,上記認定のとおり,1月5日の段階で,蛋白尿の点では重症のPIHであったが,血圧の点で重症のPIHとなったのは1月9日であった。そうすると,被告病院では,PIHが重症化した段階に至り,降圧剤の投与を開始しているといえるから,降圧剤の投与時期について過失があったとはいえない。 また,降圧剤の投与方法について,被告病院では,198(再検後17)(),8→194/120再検後も同じ㎜Hgを記録した1月9日において降圧剤の内服が開始された。降圧剤の投与方法には内服と点滴があるところ,重症のPIHに対しては,点滴による投与が効 )(),8→194/120再検後も同じ㎜Hgを記録した1月9日において降圧剤の内服が開始された。降圧剤の投与方法には内服と点滴があるところ,重症のPIHに対しては,点滴による投与が効果的であることが認められる(甲B2の10・N108,乙B7・1106頁。しかし,投与),,方法の選択には医師に一定の裁量が認められると解するのが相当であり上記血圧の高さを考慮しても,当初に内服投与が選択されたことをもって直ちに過失を認めることはできない。 争点(3)(帝王切開の実施時期の適否)についてア1月10日における帝王切開の実施Aは,上記認定のとおり,1月9日に血圧の点でも重症のPIHへ移行したが,同日より,降圧剤の投与が開始されたことからすると,翌10日は,降圧剤の効果を見定めて経過観察とする判断には一定の合理性が認められるというべきであるから,1月10日の時点で帝王切開をすべき注意義務があったということはできない。 イ1月14日における帝王切開の実施Aは,上記認定のとおり,1月13日の尿酸値が9.3㎎/dℓであり,また,遅くとも1月14日にpartialHELLP症候群を発症したといえる。しかし,前記認定の妊娠終了基準(本判決6頁)に照らすと,腎機能障害の程度は絶対的な適応基準ではないが,尿酸値の点で同基準を満たすものの,1月14日に430mℓ以上あった尿量は同基準を満たさず(乙A1・2068頁,また,partialHELLP症候群は,厳重な管理が必要とされるが,HEL)LP症候群の前段階の状態であって,HELLP症候群と全く同様に扱うべき根拠は認められない。 また,1月9日から1月14日の間の血圧について,アプレゾリンの内服・点滴投与により,180/110㎜Hg以下とするようにコントロールが図られていたとこ 群と全く同様に扱うべき根拠は認められない。 また,1月9日から1月14日の間の血圧について,アプレゾリンの内服・点滴投与により,180/110㎜Hg以下とするようにコントロールが図られていたところ(証人B医師・33,44頁,妊娠終了の基準とすべき)血圧を180/110㎜Hgとする見解もある(甲B2の7・N-257。 )そして,妊娠を終了させるにあたっては,胎児をできる限り成熟させることが望ましく(甲B2の2・40頁,一定の週数に至った胎児を全て早期)娩出することが良いと必ずしも言い切れず(甲B2の7・N-259,妊)娠24~36週の重症のPIH患者における児の予後は,妊娠週数によって決まるとの報告もあるところであって(甲B2の13・N-260,妊娠)終了の基準として,妊娠34週が一つの目安とされている(甲B5・63頁。 )そうすると,妊娠を終了させるかどうかの最終決定は,母体側因子と胎児側因子を総合的に判断するとともに,諸事情を考慮するとされていることに鑑みれば,妊娠から32週と1日が経過した1月14日時点において,帝王切開を実施しないことも医師の裁量として許されるものであり,帝王切開を実施しなかったことに,過失を認めるのは相当でない。 争点(4)(帝王切開後の管理の適否)について(1) はじめに前記認定の医学的知見によれば,PIH及びHELLP症候群の最終的な治療方法は妊娠の終了であり,妊娠の終了により,一般的に全身状態の改善を期待できるものの,全ての症例において,確実に全身状態が改善するとは限らず,特に重症の早発型PIHについては,分娩後24時間以内に重篤な合併症が起きることもしばしばあると報告されている。そして,Aは,重症の早発型PIHが10日程度持続した後に帝王切開を実施したことからすると,帝王切開後2日程 については,分娩後24時間以内に重篤な合併症が起きることもしばしばあると報告されている。そして,Aは,重症の早発型PIHが10日程度持続した後に帝王切開を実施したことからすると,帝王切開後2日程度は,血圧・脈拍,尿蛋白,一般血液検査,生化学検査等の経時的測定を行い,必要に応じて降圧剤を投与するといった厳重な管理を継続すべきであったといえる。 (2) 検討ア降圧剤の投与の有無原告らは,帝王切開から1月17日午前8時ころまでの間,降圧剤は投与されていないと主張する。他方,被告は,1月13日に5日分のアプレゾリンが処方されたこと(乙A1・2056頁)を根拠として,1月16日午後6時ころ,Aに対してアプレゾリンを内服させたと主張し,B医師及びC看護師は,これに沿う供述をする。 しかし,1月13日の処方は,帝王切開を前提としていなかった時点でなされたものであり,帝王切開により,高血圧状態が落ち着く可能性もあったことからすると,帝王切開後において,改めて血圧の推移を見定めた上でアプレゾリンを投与する必要性を検討するのが自然であるから,帝王切開後においても同処方が維持されていたとは断定しがたく,同処方を受けてアプレゾリンを内服したと直ちには認められない。また,C看護師の供述によれば,被告病院においては,処方された内服薬を患者が服用した場合,その旨がカルテ上に記載されることが認められるところ(証人C看護師・19頁,Aに対するアプレゾリンの投与について,被告病院のカ)ルテ上,帝王切開前にアプレゾリンを内服した旨の記載は認められるものの(乙A1・2068頁等,1月16日午後6時ころにアプレゾリンを)内服した旨の記載は認められない(乙A1・2078頁参照。さらに,)被告は,弁論準備手続の段階において,帝王切開から1月17日午前8時ころまでの 8頁等,1月16日午後6時ころにアプレゾリンを)内服した旨の記載は認められない(乙A1・2078頁参照。さらに,)被告は,弁論準備手続の段階において,帝王切開から1月17日午前8時ころまでの間,降圧剤を投与しなかったと一貫して主張し,その正当性も主張していた(被告第4準備書面18頁等)ところ,人証調べの段階に至って,突如として,従前の主張と異なる供述をしたものである。これらの事情からすれば,B医師及びC看護師の上記供述を直ちには採用しがたいというべきであり,その他1月16日午後6時ころにアプレゾリンを内服させたとする被告の主張を認めるに足りる証拠はないから,同主張を採用することはできない。 したがって,Aは,帝王切開から1月17日午前8時ころまでの間,降圧剤を投与されていないとみるのが相当である。 イ被告病院における管理(ア) 血圧測定について1月16日午後3時30分までは,2時間以内の間隔で頻回に実施されている。そして,Aは,同日午後3時30分,164/98㎜Hgの重症PIHの基準を満たす高血圧であったものの,その後は,子癇発作が生じた1月17日午前6時20分まで,4ないし5時間間隔での測定になっている。 上記のとおり,重症の早発型PIHであったAは,帝王切開によって全身状態が改善するとは限らず,PIHがさらに重症化するリスクが存在していたのであり,同日午後3時30分時点でも重症といえる高血圧であり,PIHの重症度を測る上で血圧測定が必要となる以上,同日午後3時30分以降も継続的な血圧測定が必要である。しかしながら,どの程度の頻度で測定すべきかについてほぼ確立した基準があるとは認められず,被告病院が行っていた4ないし5時間間隔の血圧測定が,注意義務を怠ったとは認められない。 したがって,この点についての過失は認められない 度で測定すべきかについてほぼ確立した基準があるとは認められず,被告病院が行っていた4ないし5時間間隔の血圧測定が,注意義務を怠ったとは認められない。 したがって,この点についての過失は認められない。 (イ) 血液検査について帝王切開から24時間以上経過した後,子癇発作が生じるまで,血液検査が実施されることはなかった。 上記のとおり,重症の早発型PIHであったAは,帝王切開によって全身状態が改善されるとは限らず,1月16日午後3時30分及び7時30分において,重症基準を満たす高血圧が続いており,HELLP症候群や子癇といった重篤な合併症の生じるリスクが存在していたのであり,血液検査は,HELLP症候群の発症を確認する上で必須のものである。日本妊娠高血圧学会のPIH管理ガイドライン2009年版においても,分娩翌日に凝固線溶系検査を含む血液検査をすべきであり,血圧の重症化の持続症例では,分娩当日から実施すべきであるとされている(甲B41・181頁。もとより,上記ガイドラインは,あくまでも目安で)あり,しかも,本件の診療当時後に発表されたものであるから,参考的なものであるが,血液検査の重要性は認められるものである。 そうすると,被告病院においては,分娩翌日である1月16日中に血液検査を実施すべき注意義務があったというべきであり,その検査を怠った点について,過失を認めるのが相当である。 (ウ) 降圧剤の投与についてAは,上記認定のとおり,帝王切開から1月17日午前8時ころまでの間,降圧剤を投与されることはなかった。したがって,1月16日午後6時,Aがアプレゾリンを内服したことを前提とする被告の主張は,その前提を欠くことになる。 a1月17日午前零時55分の対応について1月17日午前零時55分,192/120㎜Hgの高血圧が認められたとき がアプレゾリンを内服したことを前提とする被告の主張は,その前提を欠くことになる。 a1月17日午前零時55分の対応について1月17日午前零時55分,192/120㎜Hgの高血圧が認められたとき,鎮痛剤のペンタジンのみを投与した被告病院の対応について,被告は,手術の創部痛(疼痛)による交感神経緊張が同高血圧の原因であり,ペンタジンのみを投与した看護師の対応に問題はなかったと主張し,証人B医師及び証人C看護師はこれに沿う供述をする。 しかし,1月16日午後7時30分の時点において,それまでにペンタジンを3回投与しているにもかかわらず,178/110㎜Hgまで血圧が上昇しており,その上で,1月17日午前零時55分には,さらに192/120㎜Hgまで血圧が上昇している。また,1月16日午後3時,HELLP症候群の症状である全身倦怠感,悪心が認められたことに加え,同時点までに血液検査を実施していないことを考えると,高血圧の原因としては,手術による創部痛に限らず,PIHが更に重症化した可能性やHELLP症候群が発症した可能性を排斥することはできないというべきである。 そうすると,証人B医師及び証人C看護師の供述は,直ちには採用できないというべきであり,ペンタジンしか投与しなかった上記対応には,問題があったとみざるを得ない。 b帝王切開後における降圧剤投与に関する一般的指示の有無について帝王切開後における降圧剤投与の指示について,被告は,血圧が180/110㎜Hg以上であればアプレゾリンを点滴投与する旨のB医師により入院時になされた指示が,帝王切開後も維持されていたと主張し,証人B医師及び証人C看護師はこれに沿う供述をする。 しかし,①入院時(異常時)指示表について,腹痛時指示(ペンタジンの投与)は,入院時欄及び1月16日欄に「○」が記載され も維持されていたと主張し,証人B医師及び証人C看護師はこれに沿う供述をする。 しかし,①入院時(異常時)指示表について,腹痛時指示(ペンタジンの投与)は,入院時欄及び1月16日欄に「○」が記載されてい,(),「」るのに高血圧時指示アプレゾリンの投与は入院時欄にのみ○が記載され,1月16日欄には「○」が記載されておらず(乙A1・2052,2053頁,②1月17日午前零時55分の上記対応に)関し,看護記録上「血圧高いが疼痛時指示によりペンタジン使用す,るため,血圧は経過観察とする」と記載されており,高血圧時指示についての記載がなされておらず(乙A1・2079頁,③仮に上記)高血圧時の入院時指示が維持されていたとすれば,看護師は,Aの血圧が180/110㎜Hgを超えていたにもかかわらず,同指示に反して,独自の判断でペンタジンだけを投与したことになるが,そのような事態は不自然である。 そうすると,証人B医師及び証人C看護師の供述は,直ちには採用できないというべきであり,帝王切開後においては,降圧剤投与の一般的指示がなされていなかったとみるのが相当である。 c1月16日午前零時45分から同日午後7時30分の間に降圧剤を投与すべきであったかについて分娩後における降圧剤の投与について,重症PIHの基準を満たす血圧を示したとき(160/110㎜Hg以上)が投与する目安といえる。また,分娩後においては,胎児への影響を考慮する必要がなくなるため,140/90㎜Hg以下あるいは妊娠初期のレベルまで降圧すべきとの見解もあるが(甲B44・46頁,少なくとも,140~)150/90~100㎜Hgを目標とすべきといえる(甲B2の1・N-68,2の2・55頁。 )上記分娩後における降圧剤投与の基準を前提として,1月16日午前零時45分から 少なくとも,140~)150/90~100㎜Hgを目標とすべきといえる(甲B2の1・N-68,2の2・55頁。 )上記分娩後における降圧剤投与の基準を前提として,1月16日午前零時45分から同日午後7時30分の間に降圧剤を投与すべきであったかについて検討する。 まず,同日午前零時35分,帝王切開を終えたAが手術室から退出した際に137/77㎜Hgであった血圧は,同日午前零時45分の病室への帰室時において,160/92㎜Hgとなり,形式的には,上記分娩後における降圧剤投与の基準を満たしている。しかし,帝王切開直後であることを考えると,帝王切開に起因する一過性の変化である可能性を否定することはできないから,同時点において,直ちに降圧剤を投与すべきであったとはいえない。 ,,,次に同日午前1時20分血圧は168/98㎜Hgへ上昇したがAが「お腹痛いです」と訴えたことからすると,手術の創部痛によ。 る血圧上昇と考え,鎮痛剤のペンタジンを投与したことは合理的といえる。 また,同日午前2時,血圧は182/108㎜Hgまで上昇したが,同日午後2時までの12時間,同日午前6時30分及び同日午後零時にペンタジンを投与しつつ,概ね重症PIHの基準を下回る血圧を保っていたことからすると,この間に,降圧剤を投与すべきであったとはいえない。 そして,同日午後2時に178/108㎜Hgまで血圧が上昇し,同日午後3時に160/80㎜Hg,同日午後3時30分に164/98㎜Hgとなり,重症PIHの基準を満たす血圧値を示したが,同日午後零時に投与したペンタジンの効果を見定めるのには一定の時間が必要というべきであるから,同時点において,直ちに降圧剤を投与すべきであったとまではいえない。 しかし,同日午後7時30分に至り,178/110㎜Hgに血圧が上昇し 効果を見定めるのには一定の時間が必要というべきであるから,同時点において,直ちに降圧剤を投与すべきであったとまではいえない。 しかし,同日午後7時30分に至り,178/110㎜Hgに血圧が上昇しながら,Aが「傷の痛み,今は大丈夫」と述べたことからすると(乙A1・2079頁,同時点における高血圧は,手術の創部痛)のみによるものと断定することはできない。むしろ,3度目のペンタジンの投与にもかかわらず,同日午後2時以降,重症PIHの基準を維持し続けたことからすれば,PIHが起因しているとみるのが相当である。そうすると,同日午後3時30分から午後7時30分までの間,血圧測定が行われていないため具体的な時刻を特定することはできないが,遅くとも,同日午後7時30分の時点において,PIHに対する治療として,降圧剤を投与すべきであったといえるから,これを投与しなかった点に過失が認められる。 (3) 小括したがって,被告病院における帝王切開後の管理は,血液検査及び降圧剤投与の点について,重症の早発型PIHが10日程度続いた後に帝王切開を実施したAに対する管理として不十分というべきであり,過失を認めるのが相当である。 争点(5)(子癇に対する診療の適否)について(1) 子癇発作の発症予防について子癇発作に対する予防措置として,硫酸マグネシウムを投与することが有効であるとの報告がなされており(甲B2の5・1447頁,乙B7・1107頁,前記のPIH管理ガイドライン2009年版においても,保険適)応はないものの,副作用に注意しつつ,重症のPIH妊婦に対する分娩後の予防投与が推奨されている(甲B41・92頁。 )しかしながら,上記の各報告やガイドラインにおいても,全ての子癇発作が予防できるとまではされておらず,子癇の予防目的での投与としては保険 する分娩後の予防投与が推奨されている(甲B41・92頁。 )しかしながら,上記の各報告やガイドラインにおいても,全ての子癇発作が予防できるとまではされておらず,子癇の予防目的での投与としては保険適応がないことを考えると標準的な予防法であるとみるのは困難である乙,(B21・49頁。 )したがって,子癇発作に対する予防措置として,硫酸マグネシウムを投与しなかったからといって,過失があるとは認められない。 (2) 子癇発作に対する治療についてア医師の診察についてAは,1月17日午前6時20分に子癇発作が生じているが,これを確認した看護師が,本来の当直医とは別の医師のPHSに連絡したため,医,,師との連絡がとれず主治医であるB医師の自宅に連絡をとったことから医師の診察を受け,血液検査を実施したのは,同日午前8時5分に至ってからであった(乙A3,証人C看護師。この間,B医師の指示により,)午前6時35分,生理食塩水100mℓにマグネゾール1アンプル(20mℓ中に硫酸マグネシウムを2g含有)を入れ,1時間に20mℓの速度,。 で点滴投与が開始され午前8時にはアプレゾリンの内服がなされているしかし,PIH患者が痙攣を起こした場合,患者の全身状態を細やかに把握し子癇発作と脳出血等の他の疾患との鑑別を行う必要があるから甲,(B2の2・73頁,乙B21・51頁,早急に医師の診察を受ける必要)があるというべきである。にもかかわらず,医師の診察が1時間40分以上なされなかったことは,子癇発作が早朝に生じたことや,B医師による上記投薬指示がなされたことを考慮しても,患者の急変時に対応できるだけの態勢が取られていなかったというべきである。 イ硫酸マグネシウムの投与について,(ア) 子癇発作を起こした患者に対する硫酸マグネシウムの投 なされたことを考慮しても,患者の急変時に対応できるだけの態勢が取られていなかったというべきである。 イ硫酸マグネシウムの投与について,(ア) 子癇発作を起こした患者に対する硫酸マグネシウムの投与について初回は2~4gを20分から30分かけて点滴投与し,維持投与としては,1時間に1~2gの速度で点滴投与し,投与中は呼吸数,血圧,脈拍数,心電図等を連続的にモニターすることが標準的な投与法であると認められる(甲B2の2・71頁,甲B2の5・1447頁,甲B8・182頁,乙B11・83頁。 )しかし,被告病院におけるマグネゾールの投与量は,上記のとおりであり,3時間で1gを投与する計算になるが,上記標準的な維持投与量と比較しても,6分の1から3分の1に過ぎないといえる。 (イ) 被告病院における上記投与量について,B医師は,Aが腎機能障害,,を起こしている可能性を考慮したものであると供述しマグネゾールは腎機能障害のある患者に対しては,慎重投与とされる(乙24・2357頁。 )しかし,前記認定の医学的知見によれば,子癇は,PIHの存在下で発症することが多く,PIHでは腎機能障害が生じることもあるとされるところ,上記認定の標準的な硫酸マグネシウムの投与方法に関し,特に腎機能障害を発症している場合には,投与量を減ずるべきとする見解を本件証拠上に認めることはできない。 そうすると,投与量に関しては,医師の裁量が一定程度認められるというべきであるが,既に子癇発作を生じたAにとっては,連続的なモニタリングをしつつ,相当量のマグネゾールを投与することで再発作を防ぐことを第一に考えるべきであったといえるから,上記標準的な維持投与量と比較しても,6分の1から3分の1に過ぎない量しか投与しなかった点については,過失が認められるというべきである。 再発作を防ぐことを第一に考えるべきであったといえるから,上記標準的な維持投与量と比較しても,6分の1から3分の1に過ぎない量しか投与しなかった点については,過失が認められるというべきである。 争点(6)(因果関係)について(1) 帝王切開後の管理における過失との因果関係についてア帝王切開から子癇発作が生じるまでの間に,血液検査が実施されていれば,上記認定のとおり,1月16日中には,HELLP症候群が発症したとの診断のもと,これに対する適切な管理を行えたはずである。また,遅くとも同日午後7時30分までに降圧剤が投与されていれば,PIHの更なる,,重症化を防げた結果HELLP症候群が発症しなかった可能性を否定できず仮に発症自体は防止できなかったとしても,その重症化を防止できた可能性は極めて高いというべきである。 イこの点について,被告は,Aについては1月17日時点において既に急激に腎機能や肝機能が悪化しており,1月16日中に降圧剤を投与したとしても,救命は困難であった旨主張する。 確かに,別紙臨床経過書のとおり,1月17日午前8時ころの採血結果によれば,腎機能や肝機能が極めて悪化しており,そのために同日午前10時ころに専門的治療を受けるために腎臓内科に転科しているほか,CTで脳浮腫が確認され,同日午後7時には脳浮腫が著明となっており,1月17日午前以後に急激な悪化を辿ったことは否定できない。しかし,HELLP症候群が進行した場合には死亡することもあるからこそ,帝王切開後も血圧の厳重な管理が必要であるとされていることは,既に判断したとおりであり,1月16日午後7時30分から翌日午前8時まで170/110㎜Hg以上(収縮期血圧は190を超えていることもあった)の高血圧が測定されながら,降圧剤の投与もされず,血液検査も行われず とおりであり,1月16日午後7時30分から翌日午前8時まで170/110㎜Hg以上(収縮期血圧は190を超えていることもあった)の高血圧が測定されながら,降圧剤の投与もされず,血液検査も行われず,必要な治療も検討されなかった結果,1月17日午前8時ころには極めて重症となったものであるから,過失がなければ,Aが現実に死亡した時点においてなお生存していた高度の蓋然性を否定することはできない。被告の主張は採用できない。 ただし,PIHやHELLP症候群の長期的予後に関し,一般的に,将来の腎疾患,心臓血管障害の発生の危険性があること,寿命,さらには糖尿病や高血圧といった生活習慣病との関連が指摘されており(甲B23・112頁,Aが急激に重症化しやすい病態であったことからすれば,1月1)6日午後7時30分から降圧剤が投与されたとしても,Aに,一定の腎疾患等の障害が残った可能性は十分考えられる。そのことは,因果関係の認定を左右するものではないが,損害額の算定において考慮すべきものである。 ウそうすると,帝王切開後の管理に過失がなければ,Aが現実に死亡した時点においてなお生存していた高度の蓋然性を認めるのが相当である。 (2) 子癇に対する診療における過失との因果関係について上記認定のとおり,1月17日午前以後における臨床症状や同日午前8時ころ実施の血液検査の結果からすると,PIHは極めて重症化しており,重度のHELLP症候群の発症も確認され,その上,子癇も合併しているから,同日午前8時ころ以後におけるAの全身状態は,極めて重篤なものであったといえる。 そうすると,子癇発作が生じた同日午前6時20分ころに適切な対応が取られていたとしても,Aが現実に死亡した時点においてなお生存していた高度の蓋然性を認めるのは困難と言わざるを得ない。 争点( 。 そうすると,子癇発作が生じた同日午前6時20分ころに適切な対応が取られていたとしても,Aが現実に死亡した時点においてなお生存していた高度の蓋然性を認めるのは困難と言わざるを得ない。 争点(7)(損害)について(1) 逸失利益4956万9114円Aの生前における年収額512万0779円(甲C3)を基礎とし,就労可能年数36年(死亡時31歳,生活費控除率を35%として,算定する)ことになるが,一定の腎疾患等の障害が残った可能性は十分考えられ,その場合には将来の就労能力に一定の影響を及ぼすことになるので,逸失利益としては,上記で算定される金額の9割とするのが相当である。そうすると,次の計算式のとおり,4956万9115円となる。 (計算式)5,120,779×16.547(36年に対応するライプニッツ係数)×(1-0.35)×0.9≒49,569,115(小数点以下切り捨て)(2) 葬儀費用150万円(3) 慰謝料アAについて我が子の出産という母親としてかけがえのない喜びを得た直後,授乳することすら叶わず,子の成長していく姿を見ることもできなかったAの無念さは,想像に難くない。 その他本件に現れた諸般の事情を考慮し,2300万円をもって相当とする。 イ原告ら固有の分について,,原告らにとってかけがえのない存在であるAを喪った悲しみの深さは察して余りある。 その他本件に現れた諸般の事情を考慮し,原告らについて各100万円をもって相当とする。 (4) 相続以上の損害について,Aの逸失利益及び慰謝料についての相続を考慮すると,原告らの損害額は,原告X1及び原告X2について各3803万4557円(小数点以下切り捨て,X3及びX4について各100万円となる。 )(5) 弁護士費用原告らが本件訴訟の提起,遂行のため,弁 と,原告らの損害額は,原告X1及び原告X2について各3803万4557円(小数点以下切り捨て,X3及びX4について各100万円となる。 )(5) 弁護士費用原告らが本件訴訟の提起,遂行のため,弁護士である原告ら代理人に訴訟を委任したことは本件記録上明らかである。本件事案の内容,本訴の経緯等を総合すると,弁護士費用として被告に負担させるべき額は,原告X1及び原告X2について各300万円,X3及びX4について各10万円をもって相当とする。 (6) 小括以上を合計すると,原告らの損害額は,原告X1及び原告X2について各4103万4557円,X3及びX4について各110万円となる。 結論 よって,原告らの請求は,主文掲記の限度において理由があるから認容し,その余の請求については理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について,民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行の宣言について同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判長裁判官永野圧彦裁判官宮永忠明裁判官伊藤孝至

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