平成26(行ウ)16 公務外認定処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成29年3月1日 名古屋地方裁判所
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判決文本文29,399 文字)

- 1 -平成29年3月1日判決言渡平成26年(行ウ)第16号公務外認定処分取消請求事件主文 1 地方公務員災害補償基金愛知県支部長が原告に対し平成24年1月12日付けでした地方公務員災害補償法による公務外災害認定処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文同旨(なお,原告は,請求の趣旨において,処分の主体を被告と記載しているが,訴状全体の記載からすれば,地方公務員災害補償基金愛知県支部長とする趣旨が明らかである。)第2 事案の概要本件は,A商業高校で教諭として勤務していた訴外甲が死亡したことについて,訴外甲の父である原告が,地方公務員災害補償基金愛知県支部長に対し,訴外甲の死亡はA商業高校における過重な公務に起因すると主張して,地方公務員災害補償法(以下「地公災法」という。)に基づく公務災害認定請求をしたところ,同支部長から,平成24年1月12日付けで,訴外甲の死亡を公務外の災害と認定する処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,原告が,被告に対し,本件処分の取消しを求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)当事者等ア訴外甲は,昭和41年12月4日生まれの独身の男性であり,子はいない(争いがない。)。 イ原告(昭和10年12月15日生まれ)は,訴外甲の父である(甲A51の1・2)。 - 2 -ウ訴外甲は,平成元年3月にA大学を卒業した後,同月31日に愛知県教育委員会から高等学校教諭二級普通免許を取得した。訴外甲は,その後,B商業高校,C商業高校,D高校,E商業高校等で勤務し,平成18年4月1日から,A商業高校で 大学を卒業した後,同月31日に愛知県教育委員会から高等学校教諭二級普通免許を取得した。訴外甲は,その後,B商業高校,C商業高校,D高校,E商業高校等で勤務し,平成18年4月1日から,A商業高校で勤務した。(争いがない。)エ訴外甲は,A商業高校赴任後は,同校の近隣の借家に居住していた(争いがない。)。 訴外甲の職務内容等訴外甲は,A商業高校において,商業科・情報処理の授業を担当し,平成21年度は,①情報処理(3コマ),②ビジネス情報(3コマ),③プログラミング(6コマ),④文書デザイン(2コマ),⑤課題研究(3コマ),⑥ホームルーム活動(1コマ)の合計18コマを担当し(なお,1コマの授業時間は50分である。),1年C組の副担任をするほか,部活動として情報処理部の顧問を務め,1年生部員8名の指導を担当していた(甲A13ないしA15,A20,乙A30)。 また,平成21年度のその他の訴外甲の校務分掌としては,情報処理科主任,情報研修部及び情報化推進者などがあった(甲A14,A20)。 A商業高校における勤務時間A商業高校では,平成21年度の勤務時間につき,月曜日及び木曜日の始業時刻は午前8時30分,終業時刻は午後6時,勤務時間内における休憩時間は午後0時50分から午後1時5分まで及び午後5時から午後5時45分までの合計1時間と定められ,火曜日,水曜日及び金曜日の始業時刻は午前8時30分,終業時刻は午後4時55分,休憩時間は午後0時50分から午後1時5分まで及び午後4時10分から午後4時40分までの合計45分間と定められていた。また,夏季・冬季・春季休業中の始業時刻は午前8時30分,終業時刻は午後5時15分,休憩時間は午後0時15分から午後1時までの45分間と定められていた。(甲A13) - 3 - られていた。また,夏季・冬季・春季休業中の始業時刻は午前8時30分,終業時刻は午後5時15分,休憩時間は午後0時15分から午後1時までの45分間と定められていた。(甲A13) - 3 - 訴外甲の健康状態等訴外甲は,平成21年当時,身長167.7センチメートル,体重68. 5キログラムであった。毎年実施されていた職員健康診断では,平成12年度以降,平成15年度,平成16年度及び平成19年度を除き,心電図検査で異常を指摘され,平成21年度の健康診断でも定期的な観察(6か月から12か月ごとの心電図検査)が必要との指摘を受けていたほか,平成12年度から高血圧を指摘され,平成18年度以降は,毎年,高血圧症との診断を受けており,平成21年度の健康診断でも引き続き高血圧の治療を受けるよう指導されていた。(乙A11,A12) 訴外甲の死亡訴外甲は,平成21年9月29日午後11時45分頃,A商業高校第6棟2階のコンピューター実習室において仰向けに倒れていたところを巡回中の警備員に発見された。同月30日午前0時2分頃に救急隊が到着し,訴外甲はA市民病院に搬送されたが,一度も意識が戻らないまま,同年10月3日午後7時57分に死亡した。訴外甲の死亡原因は,脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血(以下「本件疾病」という。)と判断された。(争いがない。) 本件訴訟に至る経緯ア原告は,訴外甲の死亡が公務に起因するものであるとして,平成22年1月25日付けで,地方公務員災害補償基金愛知県支部長に対し,公務災害認定請求をしたところ,同支部長は,平成24年1月12日,本件疾病発症前に訴外甲が従事した職務には過重性が認められず,本件疾病と公務との間に相当因果関係を認めることができないことから,訴外甲の死亡は公務上の災害とは認め 同支部長は,平成24年1月12日,本件疾病発症前に訴外甲が従事した職務には過重性が認められず,本件疾病と公務との間に相当因果関係を認めることができないことから,訴外甲の死亡は公務上の災害とは認められないとして本件処分をした(甲A1,弁論の全趣旨)。 イ原告は,本件処分を不服として,平成24年3月11日付けで,地方公務員災害補償基金愛知県支部審査会に対し,審査請求をしたところ,同審 - 4 -査会は,平成25年1月4日,これを棄却する裁決をした(甲A2,弁論の全趣旨)。 ウ原告は,上記裁決を不服として,平成25年2月4日付けで,地方公務員災害補償基金審査会に対し,再審査請求をしたところ,同審査会は,同年8月26日,これを棄却する裁決をした(甲A3)。 エ原告は,平成26年2月24日,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。 公務起因性又は業務起因性に関する行政通達ア地方公務員災害補償基金理事長は,心・血管疾患及び脳血管疾患(以下「脳・心臓疾患」という。)の公務起因性に関する判断指針として,平成13年12月12日付けで,「心・血管疾患及び脳血管疾患等の職務関連疾患の公務上災害の認定について」(地基補第239号)を発出した。同通知は,数次の改正を経て,平成22年7月1日地基補第168号による改正により,「心・血管疾患及び脳血管疾患の公務上災害の認定について」となった(以下,同改正後のものを「認定基準」という。)。(甲A6,乙D1)認定基準の具体的内容は,別紙1「心・血管疾患及び脳血管疾患の公務上災害の認定について」のとおりである。 イ厚生労働省は,民間企業における脳・心臓疾患の業務起因性に関する判断指針として,「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」による検討結果を踏まえ, 災害の認定について」のとおりである。 イ厚生労働省は,民間企業における脳・心臓疾患の業務起因性に関する判断指針として,「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」による検討結果を踏まえ,平成13年12月12日付けで,「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(基発第1063号。以下「民間認定基準」という。)を発出した(甲A4,A5)。 民間認定基準の具体的内容は,別紙2「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」のとおりである。 2 争点 - 5 -訴外甲の死亡の公務起因性 3 争点に対する当事者の主張(原告の主張)訴外甲は,公務の過重性に起因して,本件疾病を発症して死亡した。訴外甲が有していた高血圧症という基礎疾患や脳動脈瘤については,自然的経過により本件疾病を発症する寸前まで増悪化してはいないし,飲酒も本件疾病の発症因子ではない。教員労働の特殊性,公務の量的過重性,質的過重性からすれば,訴外甲が本件疾病を発症したのは公務の過重性に起因することが明らかである。 なお,脳・心臓疾患の公務起因性の判断において,裁判所は行政上の基準に拘束されるものではないが,認定基準と民間認定基準との間には微妙な差異があり,民間認定基準の方が一定の期間当たりの労働時間数において若干緩やかであるところ,民間労働者と公務員労働者との認定の基準に差異を設ける合理性はないから,本訴においても民間認定基準を用いるのが相当である。 公務の量的過重性ア始業時刻「公務災害の認定に係る理事長協議について」と題する書面の添付資料(発症前6か月の職務従事状況。甲A11)に記載された出勤時刻を訴外甲の始業時刻とすべきである。上記添付資料 ア始業時刻「公務災害の認定に係る理事長協議について」と題する書面の添付資料(発症前6か月の職務従事状況。甲A11)に記載された出勤時刻を訴外甲の始業時刻とすべきである。上記添付資料は,A商業高校教頭(平成21年当時)の訴外Aの指示の下,教員や職員への聴き取り調査等を行った上で作成された「発症前1か月間の職務従事状況・生活状況調査票」(乙A25)及び「発症前半年間の職務従事状況・生活状況調査票」(乙A26)をもとに作成されたものであり,その時刻には訴外甲が出勤していたといえる。 イ終業時刻かなり控え目にみても,訴外甲の同僚である訴外Bが訴外甲の車が駐車 - 6 -場にあるのを見た日についてはその目撃時刻(訴外Bの夕食の写真撮影時刻から15分を引いた時刻)を,それ以外の日については,「公務災害の認定に係る理事長協議について」と題する書面の添付資料(発症前6か月の職務従事状況。甲A11)に記載された時刻をそれぞれ訴外甲の終業時刻とすべきである。 ウ情報処理検定の公務性訴外甲は,財団法人全国商業高等学校協会(以下「全商協会」という。)の主催により平成21年9月27日に実施された情報処理検定試験(以下「情報処理検定」という。)の試験監督業務に携わった。情報処理検定の試験監督業務の勤務時間は午前8時から午後5時とされているが,訴外甲は,情報処理検定終了後も会計報告と採点ミスの有無の確認作業をしており,早くとも午後7時までは情報処理検定の試験監督業務に従事していたといえる。そして,以下のような実態を踏まえれば,情報処理検定の試験監督業務は公務性を有するから,試験監督業務に従事した午前8時から午後7時まで(休憩1時間)の10時間を労働時間とすべきである。 情報処理検定の内容が文部科学省の学習指導要領に則 報処理検定の試験監督業務は公務性を有するから,試験監督業務に従事した午前8時から午後7時まで(休憩1時間)の10時間を労働時間とすべきである。 情報処理検定の内容が文部科学省の学習指導要領に則ったものになっており,その目的も商業学校における学習成果を計ることにあるとされていることからすれば,情報処理検定は実質的に商業高校の教育内容の一部となっているといえる。 情報処理検定の実施は,職員会議などを経て校長の承認を受けることにより決定され,学校の年間行事予定及び公式な文書である学校要覧にも掲載されていた。そして,A商業高校では,原則として全生徒が情報処理検定を受検することとされていた。 情報処理検定の試験監督は,当日都合の良い教員に担当者が依頼して決まるものであり,外部の者が試験監督等を務めることはなく,試験監督を断る教員もほとんどいなかった。 - 7 -情報処理検定の準備のための会議は勤務時間中に行われ,試験担当者の会議への出席は正規の出張として扱われていたほか,各会場校での準備も勤務時間内に行われていた。また,情報処理検定を受検する生徒に対する受検指導も校務として行われていた。 情報処理検定の答案の採点は,試験監督をした会場校の教員が行い,後日に行われる合同審査も各校の担当者が勤務時間中に本部校に集まって行った。 情報処理検定の受検料は,各実施校が生徒から徴収し,その中から試験監督への謝金が支払われる。謝金の額は上限を1万円とする申合せが愛知県内の商業高校の間であり,全商協会が謝金の額を決めているわけではないし,全商協会から教員に直接支払をしているわけでもない。 教育公務員特例法17条の承認については,当日の試験監督業務に関して金銭の授受があるため,慎重を期して承認を受けるものであり,情報処理検定の ,全商協会から教員に直接支払をしているわけでもない。 教育公務員特例法17条の承認については,当日の試験監督業務に関して金銭の授受があるため,慎重を期して承認を受けるものであり,情報処理検定の公務性を否定するものではない。 エ平成21年9月29日の終業時刻訴外Aが午後8時20分前後に訴外甲に声をかけ,訴外甲から返事があったことから,訴外甲がこの時刻までは公務を遂行していたと推認できる。よって,終業時刻は午後8時20分とすべきである。 オ小括上記アないしエによれば,訴外甲の発症前6か月間の時間外労働時間は,控え目に見ても,別紙3「労働時間集計表」の「原告主張の労働時間」記載のとおりである。 これによれば,訴外甲の発症前30日間の時間外労働時間数は114時間41分であり,これだけで行政基準では本件疾病の発症は業務上と推定を受けるし,発症前の2か月間ないし6か月間にわたる基準も,本件疾病の発症は業務上との推定を受けるものである。 - 8 -公務の質的過重性ア担当授業に関する職務訴外甲は,週18コマの授業を担当していた。担当授業のうち,「ビジネス情報」は,エクセルを利用した表計算の演習を行う授業であり,資料を使用して生徒に表計算をさせる実習及び講義が行われていたため,授業に当たって,表計算を作成させるための資料を準備する必要があり,訴外甲自身で資料を作成することもあった。また,講義の前提として,資料を使用して教員自身が問題を解いてみる必要があった。「プログラミング」は,プログラミング言語を教える授業であり,テキストを用いた座学が中心であったため,テキストの該当箇所の予習をしておく必要があった。そのほかの授業も,相応の準備をして授業に臨む必要があった。 商業科の授業は,生徒の資格取得や就職に直結する テキストを用いた座学が中心であったため,テキストの該当箇所の予習をしておく必要があった。そのほかの授業も,相応の準備をして授業に臨む必要があった。 商業科の授業は,生徒の資格取得や就職に直結するものであり,この点からも負担の重いものであった。 イ情報処理部顧問としての職務情報処理部の活動においても,資料を用いたエクセルの表計算を行うため,訴外甲が過去の大会の問題や検定問題等の資料を準備する必要があった。 また,情報処理部は,全国高等学校情報処理競技大会などの全国大会で毎年高い成績を残しており,そのような部活の顧問を務めることは強いプレッシャーのかかるものであった。 ウ分掌校務に関する職務情報処理科主任としての職務訴外甲は,情報処理科主任として,主任科会への出席,生徒用パソコンの修理及びメンテナンス等を行っていた。特に,生徒用パソコンはパソコンの老朽化に伴うトラブルが頻発していたが,授業の進行や予算との関係でほとんどは訴外甲がまず修理を試み,復旧しない場合に業者に - 9 -修理を依頼するという扱いになっていた。訴外甲は,特にパソコンに詳しくはなかったにも関わらず,パソコンの修理及びメンテナンスにかなりの時間を費やしていたと考えられ,訴外甲にとって過重な負荷がかかるものであった。 情報研修部の職務訴外甲は,情報研修部の一員として,初任者研修(新採用された教員が1年間を通じて行う研修)や5年目研修,10年目研修などの研修をサポートしたり企画運営したりする職務を担っていた。 情報化推進委員会(情報化推進者)の職務訴外甲は,情報化推進者として,出張伺や休暇等の申請に使用する新システム(アイシステム)の校内導入に伴い,全職員に使用方法を説明する職務を担っていた。平成21年当時は,アイシステムが導入され 職務訴外甲は,情報化推進者として,出張伺や休暇等の申請に使用する新システム(アイシステム)の校内導入に伴い,全職員に使用方法を説明する職務を担っていた。平成21年当時は,アイシステムが導入されて間もない時期であり,職員からの問合せも多く,訴外甲は空いた時間でその都度対応していた。 パソコンのバックアップも訴外甲の職務であり,パソコンの全データのバックアップ(フルバックアップ)は,他の教員がパソコンを使用している間にはできない作業であるため,訴外甲は他の教員が帰宅した後にパソコンのバックアップ作業を行っていた。 ほかにも,訴外甲は,全職員・生徒のID登録,教育委員会教育企画室から送られてくる情報の周知,IT関係の調査・報告,新しいソフトウェアのダウンロードや機種変更時のサーバへの接続作業等及びパソコンのレイアウト変更も行っていた。 エその他の職務訴外甲は,平成21年9月には情報処理検定のための受検指導を行ったほか,同年10月17日にA商業高校で予定されていた中学生の一日体験入学の準備として,多くの書類を作成し,一日入学体験者の人数,各体験 - 10 -入学者が希望する講座等を整理し,取りまとめる作業を行った。 オ小括上記アないしエのとおり,訴外甲は,合計18コマの授業を行うほか,情報処理部の顧問を務め,複数の校務分掌を担当するなど,恒常的に職務に追われていた上,全国大会での優勝を期待された部活動の指導や校内で頻繁に発生するパソコンのトラブル対応によるストレス等を受けていた。 特に,平成21年9月は,これらに加えて,情報処理検定のための補習や生徒対応のほか,一日体験入学の準備も行っており,精神的負荷が特に過重な状態であった。 訴外甲の高血圧症及び脳動脈瘤の存在の影響ア訴外甲には,前交通動脈に大きさ約4ミ 処理検定のための補習や生徒対応のほか,一日体験入学の準備も行っており,精神的負荷が特に過重な状態であった。 訴外甲の高血圧症及び脳動脈瘤の存在の影響ア訴外甲には,前交通動脈に大きさ約4ミリメートル大の脳動脈瘤が存在したが,その破裂率は年1.31パーセントであり,前交通動脈瘤があれば自然経過の中で必然的にくも膜下出血に至るとはいえない。 また,高血圧症の人が脳動脈瘤を有している場合でも,直ちに脳動脈瘤が破裂するわけではなく,休養を十分に取ればくも膜下出血は容易には発症しない。A市民病院の医師の意見でも,高血圧症は脳動脈瘤破裂のきっかけとなった可能性があるというにとどまっている。 イ訴外甲が,医療機関で高血圧症の治療を受けていたとの証拠はないが,訴外甲の遺品から血圧計が見つかっていること,職員健康診断書の指導コメントに「高血圧の治療を引き続き受けてください」と記載されていることからすれば,訴外甲が全く治療を受けていなかったとはいい難い。 そもそも,医療機関で治療を受けていなかったことは,公務と訴外甲の死亡の間の因果関係を遮断するものではない。 飲酒の影響訴外甲には,飲酒による失敗もなく,飲酒を原因とした疾患もない。飲酒の習慣は通常に業務を遂行し得る範囲内のものであり,くも膜下出血の確た - 11 -る発生因子とはならない。 (被告の主張)訴外甲の公務に過重性は認められず,訴外甲の死亡に公務起因性はない。訴外甲の死亡は,高血圧症や過度の飲酒により,訴外甲が有していた脳動脈瘤が破裂し,くも膜下出血を発症したことによるものである。 公務の量的過重性ア始業時刻部活動の早朝練習開始前の時間及び職員朝礼開始前の時間は,使用者の指揮命令下にないため,仮にこれらの時間より前に訴外甲が出勤していたとしても のである。 公務の量的過重性ア始業時刻部活動の早朝練習開始前の時間及び職員朝礼開始前の時間は,使用者の指揮命令下にないため,仮にこれらの時間より前に訴外甲が出勤していたとしても,その時間は時間外労働時間とはいえない。 イ終業時刻別紙3「労働時間集計表」の「被告主張の労働時間」記載のとおりの時刻とすべきである。 訴外甲の勤務時間についての訴外Bの供述に信用性はなく,訴外Bの供述及び写真撮影時刻を根拠として訴外甲の終業時刻を推定することはできない。 ウ情報処理検定の公務性訴外甲の任命権者である愛知県教育委員会及び情報処理検定の実施機関である全商協会は,以下のとおり,情報処理検定の試験監督を公務でないと位置付け,試験会場の使用許可,兼職・兼業の承認,報酬の支払,傷害保険契約の締結等の手続をしている。これらの事実からすると,情報処理検定は公務には当たらず,その監督をした時間を時間外労働時間とすることはできない。 情報処理検定の実施者は全商協会であり,訴外甲の任命権者(愛知県教育委員会)ではない。 情報処理検定は,A商業高校の行事ではなく,当然には教室等の施設 - 12 -を利用できないことから,同校PTA会長が,平成21年4月1日付けで,情報処理検定の試験会場としてA商業高校を使用させてほしい旨の依頼文を出し,教室を使用することの許可を得ている。 情報処理検定の試験監督をするにあたって,教育公務員特例法17条による兼職・兼業の許可を得ている。 情報処理検定の試験監督には,全商協会から報酬が支払われており,訴外甲も1万円の報酬を受け取っている。この報酬は源泉徴収の対象とされており,全商協会が源泉徴収を行っている。 試験監督の人選に当たっては,検定主務担当者が都合を確認した上で可能 払われており,訴外甲も1万円の報酬を受け取っている。この報酬は源泉徴収の対象とされており,全商協会が源泉徴収を行っている。 試験監督の人選に当たっては,検定主務担当者が都合を確認した上で可能な教員に依頼しており,試験監督をするかどうかは任意であった。 試験監督者については,全商協会本部が民間会社の傷害保険に加入し,その保険料は同本部が負担している。 エ平成21年9月29日の終業時刻訴外Aが訴外甲に声をかけたのは午後8時頃であり,同日の終業時刻は午後8時とすべきである。 オ小括上記アないしエによれば,訴外甲の発症前6か月間の時間外労働時間は,別紙3「労働時間集計表」の「被告主張の労働時間」に記載のとおりである。 これによれば,訴外甲の発症前1か月間の時間外労働時間数は72時間15分であり,発症前1か月程度にわたる過重で長時間に及ぶ時間外労働を行っていたとはいえない。また,発症前2か月目ないし6か月目における時間外労働時間数は発症前3か月目の66時間40分が最長であり,発症前1か月を超える期間について,過重で長時間に及ぶ時間外労働を行っていたとは認められない。特に,発症前2か月目は夏季休業中であり,時間外労働時間数は18時間15分に過ぎず,休暇も多いから,仮に発症前 - 13 -3か月目ないし6か月目の職務による疲労の蓄積があったとしても,その疲労は解消され,本件疾病の発症に発症前1か月を超える期間の勤務状況が関連しているとは考えられない。 公務の質的過重性ア担当授業に関する職務原告が主張する授業に関する負担は,情報処理科に特有のものではなく,商業高校の商業科目に共通するものであり,訴外甲に公務の過重性があったとは直ちには認められない。 イ情報処理部顧問としての職務情報処理部 に関する負担は,情報処理科に特有のものではなく,商業高校の商業科目に共通するものであり,訴外甲に公務の過重性があったとは直ちには認められない。 イ情報処理部顧問としての職務情報処理部の活動内容からすると,訴外甲は,部員に対し,問題を解いておくよう指示してその場を離れ,部員が問題を解き終わるころに部員のところへ戻るという方法での指導が可能であった。 また,全国高等学校情報処理競技大会などの全国大会の主力は3年生部員であり,1年生部員の指導を担当していた訴外甲に過重な精神的負荷がかかっていたとは考え難い。 ウ分掌校務に関する職務情報処理科主任には助手がおり,パソコンの修理,メンテナンス及び業者への修理依頼は,情報処理科主任と商業科実習助手3名で対応していたのであり,訴外甲だけに業務が集中していたわけではない。訴外甲よりもパソコンやネットワークに詳しい教員もおり,訴外甲以外の者が対応することもあった。 また,業者に修理依頼を出すまでもない作業に困難性はなく,業者に修理を依頼する場合でも,故障の要因を把握していなければ修理依頼ができないというわけでもない。 パソコンのメンテナンスやバックアップ作業の実態は不明であり,これらの仕事を含む情報処理科主任等の業務が,本件疾病を発症させるほどの - 14 -過重負荷となったということはできない。 エその他の職務原告が主張する,平成21年9月に訴外甲が従事していた職務は,訴外甲の日常の職務であり,同月の訴外甲の職務が特に過重であったとはいえない。 オ小括上記アないしエのとおり,訴外甲の公務が質的に過重であったともいえない。 訴外甲の高血圧症及び脳動脈瘤の存在の影響訴外甲には,基礎疾患として破裂の危険性が高い4ミリメートル大の前交通動脈 上記アないしエのとおり,訴外甲の公務が質的に過重であったともいえない。 訴外甲の高血圧症及び脳動脈瘤の存在の影響訴外甲には,基礎疾患として破裂の危険性が高い4ミリメートル大の前交通動脈瘤があった。そして,訴外甲は,健康診断でも高血圧と指摘されていた。 しかるに,訴外甲は,高血圧の治療を受けなかったため,動脈瘤を破裂させる危険を高めたと推認できる。 飲酒の影響訴外甲は,日本酒を1日に2合から3合,エタノール換算で1週間に300グラムから450グラムのアルコールを摂取していたといえる。この飲酒習慣は,訴外甲が有していた脳動脈瘤を破裂させる危険を高めたと推認できる。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実(第2の1)に証拠(括弧内に証拠番号等を記載する。)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。 ⑴ 訴外甲の職務内容ア担当授業に関する職務(甲A14,A15,A17,A20,乙A22,弁論の全趣旨) - 15 - 訴外甲は,平成21年度,第2の記載のとおりの授業を担当した。 A商業高校の平日の授業時間のコマ数は,1日6コマ,1週間30コマである。訴外甲は,そのうち,月曜日の5コマ,火曜日の4コマ,水曜日の3コマ,木曜日の2コマ,金曜日の3コマの授業を担当し,ホームルーム活動(1コマ)を行うほか,月曜日の6コマ目には,月2回程度,運営委員会に参加していた。 訴外甲の担当授業のうち,「情報処理」は,情報に関する用語及び表計算ソフトの実技指導を行う授業である。授業には,パソコン実習も含まれるが,講義の時間が中心であった。訴外甲は1年生20人の担当で,教員2名で1クラスを担当していた。 「ビジネス情報」は,情報処理の授業よりも高度な,情報に 授業には,パソコン実習も含まれるが,講義の時間が中心であった。訴外甲は1年生20人の担当で,教員2名で1クラスを担当していた。 「ビジネス情報」は,情報処理の授業よりも高度な,情報に関する用語及び表計算ソフトの実技指導を行う授業であり,毎時間パソコン実習が含まれていた。訴外甲は2年生20名の担当で,教員2名で1クラスを担当していた。また,訴外甲は,全4名の指導担当者の取りまとめ役であった。 「プログラミング」は,COBOL言語を用いたアルゴリズム(物事を処理する場合の考える手順)指導を行う授業である。訴外甲は2年生20名の担当で,教員2名で1クラスを担当していた。また,訴外甲は,全4名の指導担当者の取りまとめ役であった。 「文書デザイン」は,文書処理に関する用語及び文書作成ソフトの実技指導を行う授業であり,毎時間パソコン実習が含まれていた。訴外甲は3年生20名の担当で,教員2名で1クラスを担当していた。また,訴外甲は,全4名の指導担当者の取りまとめ役であった。 「課題研究」では,訴外甲は情報処理国家資格講座を担当し,基本情報技術者試験及びITパスポート試験の指導を行っていた。指導担当者 - 16 -は訴外甲1人であり,3年生8名を指導していた。 イ情報処理部顧問としての職務(甲A16,A17,A42,A55ないしA57,乙A22,A28,A29,証人訴外A,証人訴外C,弁論の全趣旨) 訴外甲は,平成18年4月のA商業高校赴任以来,情報処理部の顧問を務め,パソコンの実技指導及び情報処理用語の解説指導を行っていた。情報処理部は,平成18年度,平成19年度,平成20年度と,情報処理に関する各種の全国大会で団体優勝をはじめとする非常に優秀な成績を収めていた。 情報処理部では 報処理用語の解説指導を行っていた。情報処理部は,平成18年度,平成19年度,平成20年度と,情報処理に関する各種の全国大会で団体優勝をはじめとする非常に優秀な成績を収めていた。 情報処理部では,平成21年7月から9月にかけて,9月5日に実施された愛知県商業実務総合競技大会情報処理Bの部の指導を行い,9月中旬から下旬頃は,同年10月に実施されたITパスポート試験に向けた指導を行っていた。 訴外甲は,講義形式の指導を一人で行っており,パソコンは時々使う程度であった。1年生部員の指導は訴外甲に任された状態であり,他の教諭は2年生部員及び3年生部員の指導を行っていた。 部活指導時間は,休業期間中を除き,平日は午前7時40分から午前8時30分までと午後3時50分から午後6時まで,土曜日は午前8時30分から午後4時までとされていた(ただし,大会等がある日は除く。)。もっとも,平成21年9月については,同月27日に実施された情報処理検定に向けた指導などもあり,平日の部活指導の終了時刻は午後7時頃になっていた。 訴外甲は,平成21年7月25日及び26日,全国高等学校情報処理競技会に参加する生徒の引率等をした。 また,訴外甲は,同年9月5日,愛知県商業実務総合競技大会に参加する生徒の引率等をした。 - 17 -ウ情報処理科主任としての職務(甲A17,A20,A21,A42,乙A23,証人訴外B,証人訴外A,証人訴外C,弁論の全趣旨)訴外甲は,情報処理科主任として,生徒実習用情報機器の管理(不具合・故障対応など),生徒実習用情報機器の更新(受入・廃棄・インストールなど)に関わる業務,生徒実習用ID・パスワードの発行と管理,生徒実習用データなどの維持管理,情報処理国家試験・免除試験の申請と募集などの業務,学科選択に関す 報機器の更新(受入・廃棄・インストールなど)に関わる業務,生徒実習用ID・パスワードの発行と管理,生徒実習用データなどの維持管理,情報処理国家試験・免除試験の申請と募集などの業務,学科選択に関する情報提供とオリエンテーションなどの職務を行い,週1回主任科会に出席していた。 生徒の実習用のパソコンは合計211台あったが,これらのパソコンには日々不具合や故障が生じており,訴外甲は,授業に支障が出ないようにパソコンの不具合や故障に早急に対応する必要があった。また,実習助手と連携して,これらのパソコンのメンテナンス(パソコンのソフトウェアの更新等)を行っていた。 エ情報研修部の職務(甲A2,A29,証人訴外B)情報研修部では,学校評価(学校評価委員会の主催と校内の評価調査等の取りまとめ),校内研修(初任者研修,5年目研修及び10年目研修にかかる愛知県総合教育センターへの提出課題や報告文書の指導等),情報化推進(校内情報化の取りまとめ)等を行っており,訴外甲は,このうち,校内研修と校内情報化を担当していた。 オ情報化推進委員会の職務(甲A20,A29,A42,乙A23,証人訴外B,証人訴外C)情報化推進委員会の主な業務としては,校内の情報化に関する企画・推進,校内のネットワーク及び情報機器の運用管理に関する指針の策定,情報セキュリティに関する基準の策定と周知,教職員の情報機器使用についての研修計画の策定と実施,情報機器のメンテナンスや不具合への対応,アイシステム導入から運用に至る業務,愛知県総合教育センターからの情 - 18 -報機器に関する調査・指示への対応等があり,訴外甲は,情報化推進者として,これらの業務を行っていた。 カその他の職務(甲A16,A17,A42,A48の1ないし12,証人訴外A,証人訴外C 報機器に関する調査・指示への対応等があり,訴外甲は,情報化推進者として,これらの業務を行っていた。 カその他の職務(甲A16,A17,A42,A48の1ないし12,証人訴外A,証人訴外C)訴外甲は,上記アないしオに加えて,総務事務系パソコンのLAN環境及び教職員個々のパソコンの故障対応や相談に普段から携わっていた。 また,訴外甲は,平成21年9月は,同年10月17日に予定されていた一日体験入学の準備作業を行っていた。訴外甲は,準備作業のうち,実施計画の作成,中学校への案内状を発送するための文書の作成,配布資料の作成,参加生徒名簿(受付用,体験授業用,誘導用)の作成,封筒用タックシールの作成,進行台本の作成,アンケートの作成及び礼状の作成を担当していた。なお,一日体験入学の参加はファックスで受け付けられるため,作業に当たって,参加生徒名をパソコンに入力する必要があった。 訴外甲の基本的な勤務形態平成21年4月から本件疾病の発症日である同年9月29日まで訴外甲の勤務形態は,学校行事,情報処理部の部活動行事,訴外甲の出張や休暇等の例外的な場合を除き,休憩時間を挟んでおおむね次のような内容及び順序であった(甲A11,A12の1・2,A16ないしA18,A29,乙A25,A26,A35,弁論の全趣旨)。 ア平日は,①始業前の部活指導,②授業及び校務,③放課後の部活指導,④授業の準備及び校務。 イ部活指導のある土曜日,日曜日又は祝日は,①部活指導,②校務。 ウ春季休業期間中(平成21年4月3日まで)及び夏季休業期間中(同年7月21日から8月31日まで)は,①部活指導,②校務。 - 19 -学校行事,部活動行事,訴外甲の出張及び休暇等平成21年度のA商業高校の学校行事,情報処理部の部活動行事及び訴 (同年7月21日から8月31日まで)は,①部活指導,②校務。 学校行事,部活動行事,訴外甲の出張及び休暇等平成21年度のA商業高校の学校行事,情報処理部の部活動行事及び訴外甲の出張,休暇等の状況は,おおむね次のとおりであった(甲A16,A18,A29,乙A25,A26,A28,A29,A35,弁論の全趣旨)。 ア学校行事別紙4(甲A29)のとおり。 イ情報処理部の活動 6月6日全国高校情報処理競技大会県予選 7月25日全国高等学校情報処理競技会前日練習会 7月26日全国高等学校情報処理競技会 8月17日から同月18日まで合宿 9月5日愛知県商業実務総合競技大会(情報処理B) 9月26日情報処理検定受検指導 ウ訴外甲の出張,休暇 6月3日午後出張(自宅直帰) 6月12日年次休暇(午後3時25分以降) 7月10日午後出張(帰着) 7月17日年次休暇(午後3時25分以降) 7月23日年次休暇(午前8時30分から午前11時30分まで)午後出張(自宅直帰) 7月24日年次休暇(午後3時15分以降) 7月31日年次休暇(午前11時30分以降) 8月3日出張(自宅直帰) 8月7日年次休暇(午後3時15分以降) 8月10日から同月14日まで家族休暇(夏季休暇) 8月25日出張(帰着) 8月31日家族休暇(夏季休暇) 9月15日午後出張 情報処理検定 ア情報処理検定は,全商協会 暇) - 20 - 8月25日出張(帰着) 8月31日家族休暇(夏季休暇) 9月15日午後出張情報処理検定ア情報処理検定は,全商協会が主催する検定試験であり,愛知県立高校の校長は情報処理検定の試験委員長の立場で情報処理検定に関与する(甲A9)。 イ情報処理検定の内容・指導はA商業高校設定の教育課程に即したものであるとされ,A商業高校の学校要覧にも情報処理検定が年間行事の一つとして記載されていた。そして,A商業高校の公式ホームページでは,情報処理検定による資格取得状況について,具体的な人数を掲げて,「資格取得県下No.1の実績。」とうたわれていた。(甲A7,A29,乙A2,証人訴外B)ウ A商業高校は,平成21年9月27日に実施された情報処理検定の会場となった。A商業高校を試験会場として使用するに当たっては,同年4月1日,A商業高校PTA会長からA商業高校校長に対して教室使用の依頼がされた。(甲A40,乙A1,証人訴外A)エ A商業高校では,情報処理検定前の約2週間を情報処理検定週間とし,検定前日には受検指導が行われた。授業では,生徒に対して教員からも情報処理検定を受けるよう指導され,実際に全校生徒のほぼ全員が受検した。(甲A29,証人訴外B,証人訴外A)オ平成21年9月27日,情報処理検定が行われた。試験監督は,A商業高校に在職していた教職員の中から引き受けてもらっており,訴外甲も試験監督を務めた。教職員が試験監督を務めるに当たっては,教育公務員特例法17条に基づく兼職・兼業の許可がとられた。また,全商協会は,試験監督業務を行う教員について,傷害保険に一括加入していた。試験監督 - 21 -を務めた者には,A商業高校PTAから謝金として1万円が に基づく兼職・兼業の許可がとられた。また,全商協会は,試験監督業務を行う教員について,傷害保険に一括加入していた。試験監督を務めた者には,A商業高校PTAから謝金として1万円が支払われた。(甲A9,A41,乙A2ないしA4,A6,A7,A34,証人訴外B,証人訴外A)。カ情報処理検定の試験監督に関する業務は極力勤務時間内に行うこととされており,実際に,準備のための会議は勤務時間中に行われていた(甲A9,A10,A41,A47,証人訴外B,証人訴外A)。訴外甲の健康状態等ア職員健康診断で測定された訴外甲の血圧は,以下のとおりであり,平成12年頃からは拡張期血圧が恒常的に高く,収縮期血圧も高い状態が続いていた(甲A17,B1,B2,乙A11,A12。なお,記載が2段にわたる欄の下段は同日の再測定結果である。)。測定年月日収縮期血圧拡張期血圧H2.5.28 H3.6.20 H4.6.19 H5.6.10 H6.5.10 H7.4.12 H8.4.25 H9.4.9 H10.4.8 H11.4.13 H12.6.30 H13.6.30 H14.6.30 H15.6.30 H16.6.30測定なし H17.6.30 H18.6.23 H19.4.10 H20.4.9 H21 H16.6.30測定なし H17.6.30 H18.6.23 H19.4.10 H20.4.9 H21.4.8 イ本件疾病発症後に訴外甲が搬送されたA市民病院での検査の結果,訴外甲の前交通動脈には,約4ミリメートルの大きさの脳動脈瘤が存在した。 訴外甲の死亡原因は,これが破裂したことによるくも膜下出血と判断された。(乙B1の2,B2,B3)ウ訴外甲には飲酒習慣があり,日本酒に換算すると1日2合から3合程度を毎日飲んでいた(乙A24,弁論の全趣旨)。 2 公務起因性に関する法的判断の枠組みについて地公災法に基づく補償は,地方公務員等の公務上の災害(負傷,疾病,障害又は死亡をいう。以下同じ。)等について行われるところ(地公災法1条,25条,26条,28条,28条の2,29条,30条の2,31条,42条,45条1項など参照),「公務上」の災害とは,公務に起因する災害,すなわち公務員が公務に起因して負傷,疾病,障害又は死亡した場合をいい,公務と災害との間に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。そして,公務と災害との間の相当因果関係の有無は,その疾病が当該公務に内在する危険が現実化したものと評価し得る否かによって決せられ - 23 -るべきである(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁,最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決・裁判集民事178号621頁参照)。 ところで,脳・心臓疾患は,その発症の基礎となる血管病変等が,様々な要因により長い年月の間に徐々に形成され,進行,増悪する経過 平成8年3月5日第三小法廷判決・裁判集民事178号621頁参照)。 ところで,脳・心臓疾患は,その発症の基礎となる血管病変等が,様々な要因により長い年月の間に徐々に形成され,進行,増悪する経過を経て発症に至るものであり,本来,公務に特有の疾病ではない。しかし,その発症に至る過程において,公務員が従事した公務の負荷が過重であったため,発症の基礎となる血管病変等がその自然経過を超えて増悪し,その結果,脳・心臓疾患が発症した場合には,公務に内在する危険が現実化して脳・心臓疾患が発症したものとして相当因果関係を認めるのが相当である(上記最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決,最高裁平成9年4月25日第三小法廷判決・裁判集民事183号293頁,最高裁平成12年7月17日第一小法廷判決・裁判集民事198号461頁参照)。 の脳・心臓疾患の公務起因性に関する法的判断の枠組みとも整合するものであり,その内容等に照らして合理性を有するものということができる。したがって,脳・心臓疾患の公務起因性の判断においては,認定基準及び民間認定基準が行政処分の違法性に関する裁判所の判断を直接拘束するものでないことは当然であるものの,基本的にはそれらを参考としつつ,発症に至るまでの具体的事情を総合的に斟酌して,公務と災害との間の相当因果関係の有無を判断するのが相当である(なお,脳・心臓疾患の公務起因性の判断について,原告は,認定基準ではなく民間認定基準によるべき旨を主張するが,例えば,公務又は業務の過重性を検討する一要素とされる時間外勤務時間又は時間外労働時間の計上方法が必ずしも同じではなく,いずれの基準も,脳・心臓疾患の公務起因性に関する法的判断の枠組みに沿い,諸要素を踏まえた総合判断を行う枠組みとなっているところであり,認定基準よりも民間認定基準の方が 方法が必ずしも同じではなく,いずれの基準も,脳・心臓疾患の公務起因性に関する法的判断の枠組みに沿い,諸要素を踏まえた総合判断を行う枠組みとなっているところであり,認定基準よりも民間認定基準の方がより合理的であるこ - 24 -とを示す証拠もなく,各基準の間に実質的な差異がそれほどあるとも認められないから,認定基準及び民間認定基準のいずれをも参考にしつつ判断することが相当である。)。 3 訴外甲の職務の量的過重性について 始業時刻についてア情報処理部の活動がある日については部活動の開始時刻である午前7時40分を,情報処理部の活動がない日については所定の勤務開始時刻である午前8時30分を,訴外甲の始業時刻と認定するのが相当である。 イこの点,原告は,遅くとも「公務災害の認定に係る理事長協議について」と題する書面の添付資料(発症前6か月の職務従事状況。甲A11)に記載された時刻を始業時刻とすべきであると主張する。 確かに,上記添付資料(甲A11)は,発症前1か月間の職務従事状況・生活状況調査票(甲A12の1・2,A18(乙A25も同じ。))及び発症前半年間の職務従事状況・生活状況調査票(乙A26)をもとに作成されたもので,それらはA商業高校の教職員への聴き取り調査等を行って作成されたものである(甲A11,乙A34,証人訴外A)から,相当程度の信用性を有しており,上記調査票中に出勤時刻として記載された時刻頃には訴外甲がA商業高校に登校していたことがうかがわれる。 しかし,聴き取り調査等の対象となった教職員が上記添付資料(甲A11)記載の各日の訴外甲の出勤時刻をどの程度詳細に記憶していたかについては疑問が残る。また,この点は措くとしても,証人訴外Cは,訴外甲が朝出勤してから部活動の早朝活動や授業の準備などを行って 甲A11)記載の各日の訴外甲の出勤時刻をどの程度詳細に記憶していたかについては疑問が残る。また,この点は措くとしても,証人訴外Cは,訴外甲が朝出勤してから部活動の早朝活動や授業の準備などを行っていたと思う旨証言している部分もあるものの(証人訴外C2頁,17頁,38頁など,甲A42),他方,証人訴外C自身が訴外甲の早朝の勤務状況を現認しているわけでもないし(証人訴外C17頁,38頁,39頁など),証人訴外Bの証言内容からも,訴外甲が部活指導等のために早朝出勤すべき - 25 -必要があったかは明らかではない(証人訴外B45頁,46頁など)。 そうすると,訴外甲が,出勤後,情報処理部の部活動開始時刻までの間にどのような業務を行っていたかについては判然とせず,その時間に部活動や教科の指導の準備等を行う必要性があったかどうかも不明であるといわざるを得ない。 ウしたがって,上記調査票中の出勤時刻をそのまま訴外甲の始業時刻として認めることはできず,前記アのとおり認めるのが相当である。 終業時刻について(本件疾病の発症当日を除く。)ア訴外甲は情報処理部の部活指導を行っていたところ,活動予定表(甲A16)では,平日の部活動の終了時刻は午後6時とされているが,平成21年9月については,同月27日に実施された情報処理検定に向けた指導などもあり,平日の部活動の終了時刻がほぼ午後7時頃になっていた(甲A17の5頁,証人訴外A6頁,47頁など)。 また,訴外甲アのとおり,6種類の授業を週に合計18コマ担当していたのに対して,空きコマは,月曜日が1コマ(ただし,運営委員会がある日については0コマ),火曜日が1コマ,水曜日が3コマ,木曜日が4コマ,金曜日が3コマであり(甲A15),担当する授業時間数と比較して空きコマが少ない状態であった。 1コマ(ただし,運営委員会がある日については0コマ),火曜日が1コマ,水曜日が3コマ,木曜日が4コマ,金曜日が3コマであり(甲A15),担当する授業時間数と比較して空きコマが少ない状態であった。授業の準備に訴外甲がどの程度時間をかけていたかは明らかではないが,コマごとに,カリキュラム全体を踏まえて各回の授業の内容を検討し,講義や実技指導の内容の検討,実技の確認,他の担当教員との打合せ,教材の選定・作成・印刷等を行う必要があり,相当程度の時間を要し,部活動の終了後も残業することを余儀なくされていたと推認される(甲A21,A42,証人訴外B,証人訴外A,証人訴外C)。 加えて,訴外甲は,教職員や生徒用のパソコンの不具合や故障への対応も行っており,特に,生徒用パソコンは日々不具合や故障が生じていて, - 26 -授業に支障が生じることから,その都度早期に対応を行っていたほか(甲A21,A42,乙A34,証人訴外B,証人訴外A,証人訴外C),授業時間以外に,の職務やそれに付随する種々雑多な作業を行っていたものと推認される。 さらに,訴外甲は,平成21年9月には,同年10月17日に予定されていた一日体験入学の準備を行っていたところ,その準備作業には,多くの書類等の作成を要したものであり(甲A48の1ないし12),相当程度時間のかかるものであったと考えられる。 イ上記アの諸事情からすれば,訴外甲が,勤務時間中に空きコマを利用してすべての担当職務を行うことは困難であって,日頃から,所定の勤務時間や部活指導の終了後に,相当程度の時間外勤務を行っていたものと考えられ,特に,平成21年9月については,情報処理検定に向けた指導などのために平日の部活動の指導終了時刻が午後7時頃になっていたほか,一日体験入学の準備も加わり,訴外甲の業務量は 行っていたものと考えられ,特に,平成21年9月については,情報処理検定に向けた指導などのために平日の部活動の指導終了時刻が午後7時頃になっていたほか,一日体験入学の準備も加わり,訴外甲の業務量は増加し,終業時刻が更に遅くなっていたものと考えられる。 証人訴外Aも,訴外甲が平成21年9月はおおむね毎日午後8時頃まで残業していたのではないかとの印象であると証言しているところである(証人訴外A30頁,49頁,50頁など)。 ウ上記ア,イによれば,訴外甲は,学校行事,部活動行事,出張や休暇等の特別の事情がない限り,平成21年4月以降の平日(同年9月を除く。)は午後7時頃まで残業して部活指導や校務に当たることを要し,土曜日も午後5時頃まで部活指導や校務に当たることを要したほか,同年9月は特に多忙な状況にあり,控え目にみても平日は連日午後8時頃まで残業して部活指導や校務に当たることを余儀なくされていたということができる。 エ以上に関し,原告は,訴外Bが退校時に訴外甲の車がA商業高校の駐車 - 27 -場にあるのを見かけた日については,訴外Bが帰宅して自宅で夕食の写真を撮影した時刻から通勤に要する15分を引いた時刻をもって訴外甲の終業時刻とすべきと主張するし,訴外Bは,この主張に沿う内容の証言(甲A21も含む。)そして夕食の写真(甲A23,A28(いずれも枝番を含む。))を提出する。 しかし,訴外Bの上記証言は相当期間にわたる反復性の高い日常的な出来事に関するものであり,しかも訴外甲の死亡から5年以上も経て初めて証言をするに至ったものでもあるから,その正確性についてはかなり慎重な検討を要する上に,訴外Bが退校してすぐに帰宅したかどうか,帰宅してすぐに写真を撮ったかどうかなど判然としない点も多いといわざるを得ない。 そうすると もあるから,その正確性についてはかなり慎重な検討を要する上に,訴外Bが退校してすぐに帰宅したかどうか,帰宅してすぐに写真を撮ったかどうかなど判然としない点も多いといわざるを得ない。 そうすると,訴外Bが夕食の写真を撮影した時刻を基準とする訴外甲の終業時刻についての原告の主張は,採用できない。 オ他方,「公務災害の認定に係る理事長協議について」と題する書面の添付資料(発症前6か月の職務従事状況。甲A11),発症前1か月間の職務従事状況・生活状況調査票(甲A12の1・2,A18(乙A25も同じ。))及び発症前半年間の職務従事状況・生活状況調査票(乙A26)には,訴外甲の退勤時刻の多くを午後7時とする記載があり,被告もこれに沿った主張をする。 しかし,上記各資料は,教職員からの聴き取りに基づくものであるとはいえ,教職員の中には訴外甲よりも早く帰宅する者もいたことからすると,上記各調査票に退勤時刻として記載のある時刻頃には訴外甲がA商業高校内で職務に従事していたとはいえても,訴外甲が同時刻以降も職務に従事していたことを否定し得るものではないというべきである。 平成21年9月29日(本件疾病の発症当日)の終業時刻について災害(訴外甲の死亡)発生状況につき災害発生時から近接した時期である - 28 -平成21年11月18日に作成された「事実証明書」(乙A10)には,訴外Aが訴外甲に最後に声をかけた時間につき午後8時20分と記載されていること,訴外甲の勤務状況に関する調査照会に対するA商業高校校長名の回答書(平成22年8月16日付け。)中でも,訴外甲は同年9月29日は訴外Aが声かけをした午後8時20分頃までは少なくとも在校としていたと回答されていること(甲A17の6頁),証人訴外Aも同年9月29日に訴外甲に声をかけたのは午後8 中でも,訴外甲は同年9月29日は訴外Aが声かけをした午後8時20分頃までは少なくとも在校としていたと回答されていること(甲A17の6頁),証人訴外Aも同年9月29日に訴外甲に声をかけたのは午後8時20分前後だったと思うと証言していること(証人訴外A11頁)等からすると,発症当日の訴外甲の終業時刻に限っては,控え目に見ても午後8時20分であったと認めるのが相当である。 情報処理検定(平成21年9月27日)の試験監督業務についてア情報処理検定は,午前8時から開始され,午後5時か午後6時頃には終了した(甲A41,証人訴外B)。 イ情報処理検定の試験監督業務の勤務時間性について前記1とおり,情報処理検定は,全商協会の主催であり,教員は,試験監督を務めるに当たって,教育公務員特例法17条に基づく兼職・兼業の許可を取るほか,試験会場となる高校では,PTAが情報処理検定会場として高校の教室を借り,試験監督を務めた教職員に謝金を支払うという体裁が取られていた。 しかし,情報処理検定の内容及び受検指導はA商業高校の教育課程に即したものであり,A商業高校でも,情報処理検定を年間行事の一つとして,授業では教員からも情報処理検定を受検するよう指導して生徒のほぼ全員が受検したこと,情報処理検定前の約2週間を情報処理検定週間として受検指導を行うなど,情報処理検定を重要な資格試験と位置付け,学校教育の重要な要素を占めるものと認識していたこと,情報処理検定の試験監督に関する業務は極力勤務時間内に行うこととされており,実際に,準備のための会議は勤務時間中に行われ - 29 -ていたことが認められる。 そうすると,平成21年9月27日にA商業高校で実施された情報処理検定については,その主催者は全商協会であったとはいえ,A商業高校の学 間中に行われ - 29 -ていたことが認められる。 そうすると,平成21年9月27日にA商業高校で実施された情報処理検定については,その主催者は全商協会であったとはいえ,A商業高校の学校教育の一環と位置付けて行われたものであり,その試験監督業務は校長の支配管理下にある業務であったといえるから,本件における公務起因性の判断すなわち公務上の負荷の検討においては,勤務時間として考慮することが相当である。 ウ小括したがって,訴外甲が情報処理検定の試験監督業務に従事した時間として,少なくとも午前8時から午後5時まで(休憩1時間を除く。)は時間外勤務時間として算入するのが相当である。 訴外甲の勤務時間及び時間外勤務時間に関するまとめ上記ないしで説示したところに加え,前提事実(第2の1)及び認定事実(1の,)並びに証拠(甲A11,A12の1・2,A16ないしA18,A29,乙A25,A26,A35,証人訴外A)及び弁論の全趣旨を総合すれば,訴外甲の平成21年4月から本件疾病の発症(平成21年9月29日)までの勤務の時間は,次のアないしエのとおり(なお,平成21年9月中の平日の終業時刻については控え目に見た時刻である。),この間の勤務時間及び時間外勤務時間は,別紙5「勤務時間集計表」のとおり認めるのが相当である。 ア平成21年9月中9月15日を除く平日① 始業前の部活指導午前7時40分から午前8時30分まで(ただし,1日から3日まではなし。)② 授業及び校務午前8時30分から午後3時50分頃まで③ 放課後の部活指導校務終了後から午後7時頃まで - 30 -(ただし,1日は午後4時頃まで。)④ 授業の準備及び校務部活 時50分頃まで③ 放課後の部活指導校務終了後から午後7時頃まで - 30 -(ただし,1日は午後4時頃まで。)④ 授業の準備及び校務部活指導終了後から午後8時まで(ただし,1日は午後7時まで。)⑤ 休憩時間 1時間(月曜日,木曜日)45分間(火曜日,水曜日,金曜日)9月15日(平日の火曜日)午後出張午前7時40分から午後6時まで(休憩45分間)9月5日(土曜日)部活動として愛知県商業実務総合競技大会に参加午前7時30分から午後5時30分まで(休憩1時間)9月27日(日曜日)情報処理検定の試験監督業務午前8時から午後5時まで(休憩1時間)イ平成21年4月から7月までの平日(春季休業期間中及び夏季休業期間中を除く。また,学校行事(試験期間を含む。),部活動行事,訴外甲の出張や休暇等により多少時間が異なることがある。)① 始業前の部活指導午前7時40分から午前8時30分まで② 授業及び校務午前8時30分から午後3時50分頃まで③ 放課後の部活指導校務終了後から午後6時頃まで④ 授業の準備及び校務部活指導終了後から午後7時まで⑤ 休憩時間 1時間(月曜日,木曜日)45分間(火曜日,水曜日,金曜日)ウ部活指導のある土曜日,休日又は祝日(部活動行事により多少時間が異 - 31 -なることがある。)① 部活指導午前8時30分から午後4時頃まで 日,金曜日)ウ部活指導のある土曜日,休日又は祝日(部活動行事により多少時間が異 - 31 -なることがある。)① 部活指導午前8時30分から午後4時頃まで(部活指導が午前中のみの日は午後0時30分まで。)② 校務部活指導終了後から午後5時まで(部活指導が午前中のみの日を除く。)③ 休憩時間 1時間エ春季休業期間中(平成21年4月3日まで)及び夏季休業期間中(同年7月21日から8月31日まで)(上記ウの土曜日を除く。なお,部活動行事,訴外甲の出張や休暇により異なることがある。)① 部活指導午前8時30分から午後4時頃まで② 校務部活指導終了後から午後5時15分まで(学校行事のある日は午後6時まで。)③ 休憩時間 45分間職務の量的過重性についての判断ア別紙5の「勤務時間集計表」によれば,訴外甲の発症前の1か月(30日)単位での時間外勤務時間数及び各期間における1週間当たりの平均時間(括弧内に記載)は,次のとおりである。 ①発症前1か月 95時間35分(1週間当たりでは約22時間18分)②発症前2か月 18時間15分(1週間当たりでは約4時間15分)③発症前3か月 72時間30分(1週間当たりでは約16時間55分)④発症前4か月 74時間10分(1週間当たりでは約17時間18分)⑤発症前5か月 56時間00分(1週間当たりでは約13時間04分)⑥発症前6か月 42時間55分(1週間当たりでは約10時間01分)イ上記アによれば,訴外甲の発 間18分)⑤発症前5か月 56時間00分(1週間当たりでは約13時間04分)⑥発症前6か月 42時間55分(1週間当たりでは約10時間01分)イ上記アによれば,訴外甲の発症前1か月(30日)目の時間外勤務時間数は少なくとも95時間35分(1週間当たりでは約22時間18分)に及んでおり,この時間数は,認定基準において対象疾患を発症させる可能 - 32 -性のある特に過重な職務に従事した場合として例示されている「発症前1か月程度にわたる,過重で長時間に及ぶ時間外勤務(発症日から起算して,週当たり平均25時間程度以上の連続)を行っていた場合」,民間認定基準において業務と発症との関連性が強いと評価できるとされている「発症前1か月間におおむね100時間・・・を超える時間外労働が認められる場合」のいずれにもやや満たないもののほぼ同じ水準に達しているということができる(他方,上記アによれば,訴外甲の発症前2か月目から6か月目までの間の時間外勤務時間数は,多いところでも74時間10分(発症前4か月目)であり,少ないところでは18時間15分(発症前2か月目)にしか過ぎず,しかも,訴外甲は平成21年8月8日から同月16日まで長期間の休暇(夏季休暇等)を取得していてそれまでに蓄積した疲労を回復することが可能であったといえるから,発症前1か月を超えて(認定基準)あるいは発症前6か月間にわたって(民間認定基準)過重な職務に従事したと評価することはできない。)。 ウそうすると,職務の量的過重性の点からは,訴外甲が,本件疾病の発症前の1か月間において,通常の日常の職務に比較して特に過重な職務に従事したものと評価することを直ちに肯定することも否定することもできないのであって,結論的に公務起因性が認められるか否かは,職務の質的過 1か月間において,通常の日常の職務に比較して特に過重な職務に従事したものと評価することを直ちに肯定することも否定することもできないのであって,結論的に公務起因性が認められるか否かは,職務の質的過重性あるいは公務外の要因(訴外甲の個体的要因等)の有無や程度を含めて,総合的に判断することが相当というべきである。 4 訴外甲の職務の質的過重性について担当授業に関する職務訴外甲は,平成21年度は,「ホームルーム活動」のほか,「情報処理」,「ビジネス情報」,「プログラミング」,「文書デザイン」,「課題研究」の5科目の授業を担当していたところ,そのこと自体は,当時の他の教員の担当教科の数や内容(甲A14)に照らしても,直ちに過重であった - 33 -とまでいうことはできない。しかしながら,訴外甲は,多くの科目で複数の指導担当者の取りまとめ役であったことに加え,「課題研究」の授業では情報処理国家資格講座を担当し,基本情報技術者試験及びITパスポート試験の指導を行うなど,生徒の資格取得に直結する授業を行っており,生徒の資格取得は学校の実績や生徒の就職に影響するものであることも考慮すると,訴外甲の担当授業に関する精神的負荷は相応に強いものであったと考えられる。 被告は,このような負担は情報処理科に特有のものではなく商業高校の商業科目に共通するものであり,訴外甲に公務の過重性があったとは直ちには認められないと主張するところ,上記のとおり,訴外甲にのみ過重な精神的負荷があったとまではいえないとしても,訴外甲の精神的負荷が軽減されることにもならないのであって,上記の判断を左右するものではない。 情報処理部顧問としての職務情報処理部は,平成18年度から3期連続して全国大会で団体優勝をはじめとする非常に優秀な成績を収めてきており,平成2 いのであって,上記の判断を左右するものではない。 情報処理部顧問としての職務情報処理部は,平成18年度から3期連続して全国大会で団体優勝をはじめとする非常に優秀な成績を収めてきており,平成21年度も同様の成績を収めることが期待されていたと考えられるところ,このような周囲の高い期待に応えるためには,情報処理部の顧問であった訴外甲はかなりの精神的負荷を受けていたであろうことは容易に推測される。確かに,訴外甲は,平成21年当時は情報処理部の顧問として4年目であったが,大会の結果はその年の部員の実力にも左右されるし,ベテランの指導者であればこそ要求水準も高まるであろうということができることから,訴外甲が情報処理部の指導に慣れることによってその精神的負荷が次第に軽減されていったであろうとはいい難い。 被告は,大会の主力は3年生部員であるから,1年生部員の指導に当たっていた訴外甲に過重な精神的負荷がかかっていたとは考え難いと主張するが,全国大会で常に上位の成績を収め続けるためには,年次を問わず高いレ - 34 -ベルの指導を行うことが期待されていたと考えられるから,訴外甲が受けていた精神的負荷が相対的に低いものであったということはできない。 分掌校務に関する職務ウないしカのとおり,訴外甲は,複数の校務を兼任し,多種多様な職務を遂行していた。特に,教職員のパソコンについては普段から故障等への対応に追われ,生徒のパソコン(合計211台)に不具合や故障が生じれば授業に支障が出かねないため早急に対応する必要があった。 また,平成21年度において,担任・副担任以外に3つの校務を兼任している教員は,訴外甲のほかには訴外D教員しかおらず,同教員の担当授業時間数は週15コマで,訴外甲の担当授業時間数(週18コマ)よりもかなり少なく(甲A1 いて,担任・副担任以外に3つの校務を兼任している教員は,訴外甲のほかには訴外D教員しかおらず,同教員の担当授業時間数は週15コマで,訴外甲の担当授業時間数(週18コマ)よりもかなり少なく(甲A14),訴外甲の業務量は,他の教員と比較しても多いものであった。 したがって,訴外甲の分掌校務に伴う職務に関する精神的な負荷は,相当程度強いものであったというべきである。 その他の職務さらに,訴外甲は,平成21年9月,一日体験入学の準備作業を行っていたが,この職務は,次年度の入学者数にも結び付き得る重要な職務であり,精神的負荷がかかるものであったといえる。 職務の質的過重性についての判断以上によれば,訴外甲が日常的に従事していた担当授業,情報処理部の顧問,分掌校務に関する職務は,程度の差はあれいずれも強い精神的負荷を伴うものであったといえることに加え,特に,平成21年9月については,情報処理検定の受検指導や一日体験入学の準備作業等のため,物理的のみならず精神的にも更に強い負荷がかかるものであったと認められる。 そうすると,職務の質的過重性の点からは,訴外甲は,少なくとも本件疾病の発症前の1か月間において,通常の日常の職務に比較して特に過重な職 - 35 -務に従事したものと評価することが相当である。 5 訴外甲の職務の過重性について(まとめ)上記3,4を総合すれば,訴外甲は,本件疾病の発症前の1か月間において,勤務形態・時間,業務内容・量,勤務環境,精神的緊張の状況等の面で,特に過重な職務の遂行を余儀なくされていたものと認められるのであって,この認定を左右するに足りる主張立証はない。 6 公務外の要因について訴外甲の高血圧症及び脳動脈瘤の存在ア前提事実(第2の1)及び認定事実(1ア,イ)のとおり,訴外甲 るのであって,この認定を左右するに足りる主張立証はない。 6 公務外の要因について訴外甲の高血圧症及び脳動脈瘤の存在ア前提事実(第2の1)及び認定事実(1ア,イ)のとおり,訴外甲には本件疾病の発症当時に前交通動脈に約4ミリメートル大の脳動脈瘤が存在し,また,訴外甲は,平成12年頃から高血圧症との指摘や診断を受け続け,高血圧の治療を受けるように指導されるなどしていたことが認められる。 イそこで検討するに,脳動脈瘤の破裂はくも膜下出血の最大の要因であるとともに,高血圧症はくも膜下出血の危険因子であり,高血圧症の人がくも膜下出血を発症する危険性は正常血圧の人よりも高いとされていることからすれば(甲A38,B1,乙B3),訴外甲が脳動脈瘤を有し高血圧症であったことは,くも膜下出血発症のリスクファクターであったことは明らかである。 しかし,一方で,未破裂脳動脈瘤に関する日本脳神経外科学会による調査結果として,未破裂脳動脈瘤を有する人のうちでくも膜下出血を起こす人は年間0.64パーセント,脳動脈瘤の大きさが5ミリメートル以上の人に限定しても年間1.1パーセントであるとの報告もあり,「基本的にくも膜下出血を起こす危険性は,巨大動脈瘤(直径が25ミリ以上の場合)にならない限り,まずないと考えてよい」との医学的見解もあることが認められる(甲A37)。 - 36 -また,訴外甲の高血圧症についても,平成21年4月8日実施の健康診断による1度目の測定での収縮期血圧と拡張期血圧はいずれも「Ⅲ度高血圧」に分類される数値であったものの,同日の2度目の測定での数値は収縮期血圧が「Ⅱ度高血圧」で拡張期血圧が「Ⅰ度高血圧」に分類される数値にとどまり,平成20年4月9日実施の健康診断による測定での数値は収縮期血圧が「Ⅱ度高血圧」で拡 ,同日の2度目の測定での数値は収縮期血圧が「Ⅱ度高血圧」で拡張期血圧が「Ⅰ度高血圧」に分類される数値にとどまり,平成20年4月9日実施の健康診断による測定での数値は収縮期血圧が「Ⅱ度高血圧」で拡張期血圧が「Ⅲ度高血圧」に分類される数値(ただし,いずれも分類上のほぼ下限値)であったものの,平成19年4月10日実施の健康診断による測定での数値は収縮期血圧と拡張期血圧がいすれも「Ⅰ度高血圧」に分類される数値にとどまっているのであって(以上につき,「高血圧治療ガイドライン」(甲B1)の「表2-5」(19頁)参照),訴外甲の高血圧症の程度は一貫して重症であったとまではいい難い。 ウそうすると,訴外甲の脳動脈瘤の存在及び高血圧症については,本件疾病の発症の時点において,自然経過によっても増悪し本件疾病の発症に至るほどの切迫した危険性を有する病態にあったとまでいうことはできない。 飲酒過度の飲酒とくも膜下出血発症との関係を指摘する医学的見解はあるものの(甲A38,乙B3,B8ないしB10),訴外甲の飲酒量(前記1ウ)が本件疾病の発症の危険性を高めるほどに多量なものであったとは認め難い。 公務外の要因について(まとめ)上記,のとおり,訴外甲の高血圧症及び脳動脈瘤の存在並びに飲酒については,本件疾病の発症の時点において自然経過によっても発症する危険性を認め得るほどの病態又は習慣であったとまではいい難く,そのほかに,訴外甲について本件疾病の発症の基礎となるような公務外の要因(個体的要 - 37 -因又は生活的要因等)があったことを合理的に疑うことのできる主張立証はない。 7 総括以上検討してきたところを総括すれば,本件疾病の発症による訴外甲の死亡につき,訴外甲が本件疾病の発症前の1か月間に従事していた職務は特に過重 合理的に疑うことのできる主張立証はない。 7 総括以上検討してきたところを総括すれば,本件疾病の発症による訴外甲の死亡につき,訴外甲が本件疾病の発症前の1か月間に従事していた職務は特に過重なものであったと認められるのに対し,この職務のほかに,上記発症の危険性が切迫していたことをうかがわせるような要因を認めることはできない。 そうすると,認定基準及び民間認定基準を参考とすれば,本件疾病は,訴外甲の公務に内在する危険が現実化したものであると評価することができるところ,本件疾病の発症に至るまでの具体的事情(その主要なものは,前記1及び3ないし6で詳細に認定説示してきたところである。)を総合的に斟酌しても,このような評価を覆す事情があるとはいえないから,本件疾病の発症及び訴外甲の死亡と公務との間には相当因果関係があり,公務起因性を認めるのが相当である。 したがって,訴外甲の死亡を公務外の災害と認定した本件処分は違法であって,取消しを免れない。 第4 結論よって,原告の請求は理由があるから認容し,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官寺本昌広 裁判官岡大地 - 38 - 裁判官横井千穂

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