平成11(行ウ)13 北海道旧土人共有財産等返還手続無効確認請求事件

裁判年月日・裁判所
平成14年3月7日 札幌地方裁判所 その他
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判決文本文23,299 文字)

主文 1 原告らの請求のうち、被告が平成11年4月2日付けでした別紙1第1項記載の返還するとの決定に係る各請求については、訴えをいずれも却下する。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求(主位的請求)被告が平成11年4月2日付けでした別紙1第1項記載の返還するとの決定及び同第2項記載の返還しないとの決定はいずれも無効であることを確認する。 (予備的請求)被告が平成11年4月2日付けでした別紙1第1項記載の返還するとの決定及び同第2項記載の返還しないとの決定をいずれも取り消す。 第2 事案の概要本件は、被告が、アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律(平成9年法律第52号。以下「アイヌ新法」という。)附則3条に基づいて、原告らに対し、原告らが返還請求をした財産(北海道庁長官ないし被告が北海道旧土人保護法(明治32年法律第27号。以下「旧保護法」という。)10条1項の規定によりあるいは同項に準じて管理していたもの)を、返還するとの決定又は返還しないとの決定を行ったところ、原告らが、被告に対し、主位的にこれらの決定の無効確認を、予備的にこれらの決定の取消しを求める事案である。 1 争いのない事実等(1)北海道庁長官ないし被告は、旧保護法10条1項の規定により、同条3項で指定された北海道旧土人共有財産(以下「共有財産」という。)を管理していた。 また、北海道庁長官ないし被告は、旧保護法10条3項の規定による指定のない、発生理由及び経緯は定かではないが事実上管理するに至っていた財産(以下「指定外財産」といい、共有財産と併せて「共有財産等」という。)も、共有財産と一体的に管理していた。 共有財産は、その多くが旧保護法制 由及び経緯は定かではないが事実上管理するに至っていた財産(以下「指定外財産」といい、共有財産と併せて「共有財産等」という。)も、共有財産と一体的に管理していた。 共有財産は、その多くが旧保護法制定以前に形成されたものであり、おおむね①開拓使の官営漁業による収益金、②宮内省御下賜金、文部省交付金、③行幸時御下賜金、④賑恤費(救助米)の剰余金、⑤共有地の下付からなる。 共有財産の種類には、土地、建物などの不動産、現金、公債証書、債券、株券等があったが、被告は、不動産については昭和27年までに管理を終えてその後は現金のみを管理しているとし、平成9年9月5日時点の共有財産等の管理額は、共有財産が18件で129万3098円、指定外財産が8件で17万5240円、合計26件で146万8338円であるとする。 (2)平成9年5月にアイヌ新法が制定され、その施行に併せて旧保護法が廃止された。 旧保護法の廃止に伴い、アイヌ新法附則3条により、アイヌ新法施行の際に北海道知事が現に管理する共有財産は共有者に返還されることになり、共有者から返還請求がない共有財産は財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構に帰属することになった。 (3)ア被告は、平成9年9月5日、アイヌ新法附則3条2項に基づいて、共有財産ごとに厚生省令で定める事項を官報で公告した。アイヌ新法附則3条3項により、共有財産の返還を請求する者は、同日から平成10年9月4日までの間、北海道環境生活部総務課アイヌ施策推進室宛てに返還請求書を提出することになった。 被告は、指定外財産についても、共有財産に準じた返還手続を行った。 イ共有財産について、別紙3(返還請求財産一覧表)の原告名欄記載の各原告は、被告に対し、平成10年9月4日までに、同表返還請求財産欄記載の財産の返還請求をした。 指定外財産につい 手続を行った。 イ共有財産について、別紙3(返還請求財産一覧表)の原告名欄記載の各原告は、被告に対し、平成10年9月4日までに、同表返還請求財産欄記載の財産の返還請求をした。 指定外財産について、原告P1は、別紙2第2項記載の財産の返還請求をした。 ウ被告は、共有財産等の返還請求者がその財産の返還を受けるべき資格を有するか否かを審査するため、平成10年11月26日、北海道旧土人共有財産等処理審査委員会(以下「審査委員会」という。)を設置した。委員は、アイヌ関係者2名、弁護士1名及び学識者2名の合計5名で構成されていた。 エ被告は、上記イの原告らの共有財産等返還請求に関し、審査委員会の審査結果を踏まえ、平成11年4月2日付けで、別紙1第1項記載のとおりの返還するとの決定(原告らのうち23名の原告らに対する26件の決定。以下「本件返還決定」という。)及び第2項記載のとおりの返還しないとの決定(原告らのうち3名の原告に対する5件の決定。以下「本件返還しない決定」という。)を行い(以下これらの決定をあわせて「本件決定」という。)、原告らにその旨の通知をした。 2 本案前の争点(1)取消訴訟に併合提起された無効確認訴訟に訴えの利益があるか。 (被告の主張)同一の行政処分に対する取消訴訟と無効確認訴訟は、いずれも当該行政処分の瑕疵を理由としてその効力を争う点で異ならないところ、取消訴訟は無効確認訴訟に対し、違法性の程度、証明責任、判決効などの点で原告らにとってはるかに有利であるだけでなく、そもそも無効確認訴訟は、出訴期間を徒過し、審査請求前置を欠く場合であっても、その違法性の重大性等に鑑み、取消訴訟の補充的訴訟形態として認められたものであること、加えて、行政処分に対する無効確認訴訟が当該処分の出訴期間内に提起された場合には、無効確認請求のう 場合であっても、その違法性の重大性等に鑑み、取消訴訟の補充的訴訟形態として認められたものであること、加えて、行政処分に対する無効確認訴訟が当該処分の出訴期間内に提起された場合には、無効確認請求のうちに取消請求も包含されているものと解されていることから、少なくとも、取消訴訟と重複して併合提起された無効確認訴訟は訴えの利益を欠く。 (原告らの主張)無効確認訴訟は、出訴期間の制限がなく、事情判決の規定(行訴法31条)も準用されていない(同法38条)など、取消訴訟よりも原告らにとって有利な訴訟形態であるから、無効確認訴訟を主位的請求とし、出訴期間内であれば取消訴訟を予備的請求として併合提起する利益がある。 (2)本件返還決定について、名宛人である原告らに無効確認又は取消しを求める法律上の利益があるか。 (被告の主張)被告は、本件返還決定により、原告らに対し、原告らの返還請求どおりの決定をしたのであるから、本件返還決定は原告らにとって有利な行政処分であって、原告らの権利又は法律上の利益を侵害するものではなく、原告らに何ら不利益を与えるものではない。原告らには、本件返還決定の無効確認又は取消しによって回復されるべき法律上の利益は存しない。 よって、本件返還決定に係る請求は訴えの利益がなく不適法であり、却下されるべきである。 (原告らの主張)被告は、原告らの返還請求と被告による返還決定という共有財産返還手続の一部にのみ着目し、その部分のみを捕らえて原告らにとって有利な行政処分であるとするが、以下のとおり、本件返還決定により原告らは不利益を受けている。 アアイヌ新法附則3条にいう「現に・・・管理する北海道旧土人共有財産」とは、旧保護法10条3項に基づいて指定され、同条1項によって管理されてきた共有財産のうち、アイヌ新法施行時既に共有財産とし 。 アアイヌ新法附則3条にいう「現に・・・管理する北海道旧土人共有財産」とは、旧保護法10条3項に基づいて指定され、同条1項によって管理されてきた共有財産のうち、アイヌ新法施行時既に共有財産としての管理が適法に終了した財産を除く共有財産をすべて含むと解すべきところ、被告が行った共有財産等の返還手続では、被告が現に管理するとして被告による公告があった財産に対してのみ返還請求ができるにすぎないから、公告された財産が本来返還対象となるべきすべての財産なのか不明である。そして、本来返還対象となるべき財産が返還対象から除外されているならば、返還請求自体が不可能となり、本来返還請求できる財産が原告らに対して返還されないことになるから、原告らの財産権を侵害している。 イ被告が貨幣価値の変動を十分に考慮しないまま共有財産を評価して返還額の公告をしていることは、本来原告らが有する返還請求権の一部を侵害している。 ウ先住民族であるアイヌ民族には、共有財産等の返還手続の策定に参加するという手続上の権利があるにもかかわらず、共有財産等の返還手続の策定に当たり、アイヌ民族が手続の策定に参画する機会は一切設けられなかった。しかも、本件での返還手続について原告らの意見を反映しないまま公告がされている。したがって、原告らが返還手続の策定に参加する手続上の権利が侵害されている。 エこのように、アイヌ民族の共有財産返還処分の効力をめぐる紛争について、本件返還決定の無効が確認されて又は取り消されることにより、被告が公告に遡って返還手続をやり直すことになる。そして、原告らは、本件返還決定よりもより有利な返還処分がされる蓋然性が非常に高いのであるから、訴えの利益は認められる。 (3)本件決定の無効確認訴訟について、現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができない 返還決定よりもより有利な返還処分がされる蓋然性が非常に高いのであるから、訴えの利益は認められる。 (3)本件決定の無効確認訴訟について、現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないか否か。 (原告らの主張)本件訴訟において、所有権に基づく返還請求や損害賠償請求の提起を考えることは全く不可能ではないが、本件訴訟が、旧保護法下における不当な強制的共有財産管理を清算することを目的として行われる共有財産の返還手続に関するものであること、返還の根拠となるアイヌ新法1条に「アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図り」という目的が掲げられており、本件返還決定はその一環として行われるものであって単なる私法上の財産権についての処分とはいえないこと、多数の権利者間において相互に関連し合っている共有財産の返還決定であること等に鑑みれば、返還決定の無効を前提とする当事者訴訟や民事訴訟は紛争の根本的解決にはならないのであり、無効確認を求める訴えの方がより直截的で適切な争訟形態であって、本件決定の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによっては目的を達することができない。 (4)別紙2第2項(指定外財産)記載の財産に係る決定(別紙1第2項の1記載の原告P1に対する返還しないとの決定。以下「本件指定外財産に係る決定」という。)が、抗告訴訟の対象となるか否か。 (被告の主張)抗告訴訟の対象となる行政庁の処分とは、公権力の主体たる国又は公共団体が法令の規定に基づき行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。その他公権力の行使とは、法の根拠を要するとともに、国民の権利自由に対する侵害の可能性をもつ行為でなければならない。 指定外財産は、旧保護法に基づ 囲を確定することが法律上認められているものをいう。その他公権力の行使とは、法の根拠を要するとともに、国民の権利自由に対する侵害の可能性をもつ行為でなければならない。 指定外財産は、旧保護法に基づく指定はされていないが、その沿革から北海道庁長官ないし被告が事実上管理するに至っていたものにすぎず、その返還も事実上共有財産に準じる処理をしているのであり、何ら法的根拠を有するものではなく、何らの公権力性は認められない。また、指定外財産の返還は返還請求に対応していたもので、被告が一方的にしたものではない。 したがって、本件指定外財産に係る決定は、行政処分その他公権力の行使には当たらないから抗告訴訟の対象とはならず、これに係る訴えは不適法であり、却下されるべきである。 (原告らの主張)指定外財産の返還は、共有財産と一体にして管理してきた財産を被告の一方的判断で共有者の財産の返還手続を行ったのであるから、いわゆる権力的事実行為に該当し、公権力の行使に当たる行為である。 また、行政庁が行う行政活動として、行政処分に該当するか法律上一義的に明確でないとしても、同種の活動の一連の手続と比較してその実質的同一性が認められる場合には処分性が認められ得る。本件において、指定外財産も共有財産と一体として管理されてきたのであるし、アイヌ新法附則3条に基づく共有財産の返還と、指定外財産の返還の手続は全く同一であり、共有財産の返還が行政処分であることには争いがないから、指定外財産の返還決定には明らかに処分性が認められる。 よって、本件指定外財産に係る決定に行政処分性が認められ、抗告訴訟の対象となる。 3 本案の争点(1)アイヌ新法附則3条、本件返還手続の違憲性等(原告らの主張)ア憲法29条違反共有財産について、被告は旧保護法及びアイヌ新法に基づき権利者 められ、抗告訴訟の対象となる。 3 本案の争点(1)アイヌ新法附則3条、本件返還手続の違憲性等(原告らの主張)ア憲法29条違反共有財産について、被告は旧保護法及びアイヌ新法に基づき権利者に対して善良なる管理者の注意義務を負う。指定外財産については、被告は、事務の管理者として、善良なる管理者の注意義務を負う。それにもかかわらず、被告は、財産の管理、運用の状況、特に、金銭以外の指定財産が処分された経緯について所有者である共有者に全く報告していない。そして、公表された共有財産の金額が適正なものかも不明である。また、共有者ないし相続人を調査した上で返還すべきであるのに、共有者の中から請求してきた者のみに返還するとしている。本件においても、被告は、所有者である原告らに対して何らの通知をすることもなく、返還する財産についても、公告した金額に至った出納の経緯を明らかにせず、善管注意義務を尽くしていない。このような財産の返還方法は、憲法29条1項に明らかに違反し、原告らの財産権を侵害するものである。 したがって、アイヌ新法附則3条に規定する共有財産の返還方法は、憲法29条1項に違反する。仮に、同条が合憲であっても、被告が行った具体的な本件返還手続は、憲法29条1項に反する。 イ憲法31条違反行政手続においても、憲法31条が定める適正手続の保障ないしその保障の趣旨が及ぶ。 本件返還手続は、被告が前記ア記載の義務を怠り、共有財産の管理の経緯や返還する金額算定の基礎が不明確なままであるし、正当な所有者について調査もされていない。そして、公告した日から1年以内に返還請求をした者のうち、被告が正当な共有者であると認めた者で、その代表者とされた者にだけ返還するとされているが、かかる手続制定が正当な所有者、特にアイヌ民族の意向に沿うものかの確認も から1年以内に返還請求をした者のうち、被告が正当な共有者であると認めた者で、その代表者とされた者にだけ返還するとされているが、かかる手続制定が正当な所有者、特にアイヌ民族の意向に沿うものかの確認もされていない。また、実際の手続においても、アイヌ民族を関与させていない点で適正ではない。このように、本件返還手続を定めたアイヌ新法附則3条は憲法31条に違反する。仮に、同条が合憲であっても、被告が行った具体的な本件返還手続は、憲法31条に違反している。 ウ憲法13条、市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)27条及びアイヌ新法4条違反アイヌ民族を先住民族として尊重することが憲法13条から導かれることは、以下の事実からも明らかである。 B規約27条は、「種族的・宗教的又は言語的少数者が存在する国において、当該少数民族に属する者は、その集団の他構成員と共に自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰し、かつ実践し、又は自己の言語を使用する権利を否定されない」と規定している。 平成5年に国際連合人権小委員会作業部会においてまとめられた「先住民族権利宣言草案」では、先住民族に、国の政治的・経済的・社会的・文化的な国家活動への完全な参加権、特に先住民族に係る事項の決定過程への参加権を認めている。 札幌地方裁判所平成9年3月27日判決(同裁判所平成5年(行ウ)第9号事件、いわゆる「二風谷ダム判決」)では、アイヌ民族である原告らに対して少数民族たるアイヌ民族固有の文化を享有する権利が憲法13条により保障されるとした上で、アイヌ民族の文化等に影響を及ぼすおそれのある政策の決定及び遂行にあたっては、その権利に不当な侵害が起こらないようにするため、先住少数民族の文化等に対し特に十分な配慮をすべきであるとしている。 そうすると、アイヌ新法の解釈、運用あるい のある政策の決定及び遂行にあたっては、その権利に不当な侵害が起こらないようにするため、先住少数民族の文化等に対し特に十分な配慮をすべきであるとしている。 そうすると、アイヌ新法の解釈、運用あるいは施策の実施にあたっては、アイヌ民族を先住民族として認め、アイヌ民族の自発的意思及び民族としての誇りを尊重するよう配慮した解釈、運用がなされるべきであって、共有財産等を返還するに当たっては、アイヌ民族を加え、あるいはその同意を得て返還手続を定めるか、少なくとも上記のような配慮を十分に盛り込んだ返還手続を定める必要がある。それにもかかわらず、アイヌ新法附則3条は、共有財産の一方的な返還手続を定めるにすぎず、先住民族の権利に対する配慮を欠いており、憲法13条、B規約27条に違反する。仮に、同条が合憲であっても、被告が行った具体的な本件返還手続が先住民族の権利に対する配慮を欠いており、憲法13条及びアイヌ新法4条に違反する。 エよって、本件返還手続は手続そのものが違憲であり、仮にそうではなくても、本件にかかる具体的な返還手続が違憲、違法であるから、本件決定は無効ないし少なくとも取り消されるべきである。 (被告の主張)被告は、共有財産等を共有者ないしその相続人から委任を受けて行っていたのではなく、旧保護法10条の規定に基づき行ってきた。したがって、共有者ないしその相続人に対し管理義務を負うものではない。 また、本件決定は、アイヌ新法附則及び厚生省令に基づき、あるいはこれらに準じて適正に行われたものであり、違法はない。 (2)本件返還しない決定の違法性(原告らの主張)原告P1、原告P2、原告P3は、本件返還しない決定によって返還されなかった財産の権利者であるから、被告の本件返還しない決定は誤りである。 なお、共有財産等の返還に際して、被告は、 原告らの主張)原告P1、原告P2、原告P3は、本件返還しない決定によって返還されなかった財産の権利者であるから、被告の本件返還しない決定は誤りである。 なお、共有財産等の返還に際して、被告は、本来の権利者を調査して、正当な権利者を把握して財産を返還する義務があるから、財産の返還を請求する者が権利者でないことについて被告が立証責任を負う。 ア原告P1は、別紙2第1項(8)記載の共有財産(色丹郡α村旧土人共有。以下「共有財産(8)」という。)及び別紙2第2項記載の指定外財産(β村共有。 以下「本件指定外財産」という。)について権利を有している。すなわち、これらの財産に対しては、β村で生活していたアイヌにも権利があるところ、原告P1の母P4(戸籍上の表記はP4)は、遅くとも大正11年から昭和6年頃にはγ島に居住しており、上記財産の権利を有するから、相続人である原告P1は権利を有する。 イ原告P2は、以下のとおり、別紙2第1項(3)記載の共有財産(天塩国天塩郡、中川郡、上川郡旧土人教育資金。以下「共有財産(3)」という。)及び同項(9)記載の共有財産(旭川市旧土人50名共有、旭川市旧土人共有。以下「共有財産(9)」という。)について権利を有している。 共有財産(9)は、P5が共有者としての権利を有するところ、P5は、原告P2の祖父P6が分家した本家のP7の相続人である。共有財産(9)は、その地域で生活しているすべてのアイヌのために指定されたものと解されるから、P5と同じ地域に生活していた原告P2の祖父P6及び父P8も権利を有し、その相続人である原告P2は権利を有する。 共有財産(3)もまた、その地域に生活していたアイヌのために指定された財産であり、原告P2が権利を有する。 ウ原告P3は、共有財産(3)(天塩国天塩郡、中川郡、上川郡旧土 原告P2は権利を有する。 共有財産(3)もまた、その地域に生活していたアイヌのために指定された財産であり、原告P2が権利を有する。 ウ原告P3は、共有財産(3)(天塩国天塩郡、中川郡、上川郡旧土人教育資金)について権利を有している。すなわち、この財産は、天塩国天塩郡、中川郡、上川郡に該当する地域に生活の基盤を有していた者に権利が認められるものである。原告P3の父P9や同人の兄弟達は、明治から大正にかけて、毎年5月から6月の2か月間ほど、3隻の船で天塩川に行って鱒をとるという出稼ぎをしていて、天塩での漁業を基盤に生活していた。したがって、P9は共有財産(3)の権利を有し、その相続人である原告P3は権利を有する。 (被告の主張)本件返還しない決定は、返還請求者の資格審査のために開催された審査委員会の審査結果を踏まえて行った。審査委員会は、共有財産を、①指定当初の共有者名が特定、確認できる共有財産と、②当初の共有者名が特定、確認できない共有財産とに区分して共有者資格の確認をした。①については、当初の共有者と請求者の関係に関する書類等と、被告が保存する当初の共有者名が記載されている書類等により、請求者が共有者であることを確認した。②については、(a)請求者がアイヌであること、(b)請求者が当初の共有者と主張する者が当該共有財産の名称に係る地域に居住していたこと、(c)前記(b)の居住時期が共有財産の指定当時にかかっていること、(d)請求者が当初の共有者と主張する者と請求者自身の関係を確認し、資格の有無を判定した。指定外財産についてもこれに準じている。 ア原告P1に対する返還しない処分について共有財産(8)は前記②の当初の共有者名が特定、確認できない共有財産であり、本件指定外財産も当初の共有者名が特定、確認できない財産である。 審査委 る。 ア原告P1に対する返還しない処分について共有財産(8)は前記②の当初の共有者名が特定、確認できない共有財産であり、本件指定外財産も当初の共有者名が特定、確認できない財産である。 審査委員会は、原告P1について、共有財産(8)に関して、前記(a)の事実は認められるものの、(b)、(c)の事実及び原告P1が共有者であることが確認できないという結論に、本件指定外財産に関して、原告P1が所有者であることが確認できないという結論に達した。被告は、これらの審査結果を踏まえて、原告P1に対する返還しない処分を行った。 イ原告P2に対する返還しない処分について共有財産(3)は前記②の当初の共有者名が特定、確認できない共有財産であり、共有財産(9)は前記①の指定当初の共有者名が特定、確認できる共有財産である。 審査委員会は、原告P2について、共有財産(3)に関して、前記(a)の事実は認められるものの、(b)、(c)の事実及び原告P2が当初の共有者と主張するP8が共有者であることが確認できないという結論に達した。また、共有財産(9)に関して、原告P2が共有者であると主張するP8が当該財産の共有者であることが確認できないという結論に達した。被告は、これらの審査結果を踏まえて、原告P2に対する返還しない処分を行った。 ウ原告P3に対する返還しない処分について共有財産(3)は前記②の当初の共有者名が特定、確認できない共有財産である。 審査委員会は、原告P3について、共有財産(3)に関して、前記(a)の事実は認められるものの、(b)、(c)の事実及び原告P3が当初の共有者であると主張するP9が共有者であることが確認できないという結論に達した。被告は、これらの審査結果を踏まえて、原告P2に対する返還しない処分を行った。 以上のとおり、本件返 び原告P3が当初の共有者であると主張するP9が共有者であることが確認できないという結論に達した。被告は、これらの審査結果を踏まえて、原告P2に対する返還しない処分を行った。 以上のとおり、本件返還しない決定は適法、適正なものである。 第4 当裁判所の判断 1 本案前の争点(1)(取消訴訟に併合提起された無効確認訴訟の訴えの利益)について原告らは、無効確認請求を主位的に、取消請求を予備的に請求し、双方の訴えを併合して請求している。取消訴訟は、主張、立証すべき瑕疵の程度、立証責任の分配、判決の効力のいずれの点においても無効確認訴訟より原告らに有利であり、本件の取消訴訟は出訴期間の要件を充たしていることは明らかであるから(本件の取消訴訟においては、審査請求前置の要件はない。)、原告らは取消訴訟を提起すれば足り、無効確認訴訟を併合して提起する必要はないとも考えられる。 しかし、取消訴訟においては、一般的に、事情判決の制度により処分に瑕疵が認められても請求が棄却されることがあり得る(行訴法31条1項)のに対し、無効確認訴訟は、事情判決の制度はないから、この点において、取消訴訟よりも無効確認訴訟の方が原告らにとって有利であるといえる。そして、事情判決がされるかどうかは、出訴期間や審査請求前置の要件とは異なり、本案の審理をしなければ明らかにならないから、取消訴訟を提起すれば足りるとはいいきれない。また、行訴法上、取消訴訟と無効確認訴訟は別個の抗告訴訟として規定され、取消訴訟を提起することができないときに限り無効確認訴訟を提起することができるというような規定はない。したがって、無効確認訴訟を主位的に、取消訴訟を予備的に請求することにより両訴訟を併合提起した場合であっても、無効確認訴訟にも訴えの利益が認められるというべきである。 2 本案前の争点( 定はない。したがって、無効確認訴訟を主位的に、取消訴訟を予備的に請求することにより両訴訟を併合提起した場合であっても、無効確認訴訟にも訴えの利益が認められるというべきである。 2 本案前の争点(2)(本件返還決定の無効確認又は取消しを求める法律上の利益)について(1)本件返還決定に至る経過は、争いのない事実及び各項記載の証拠によれば、次のとおりであったと認められる。 ア被告は、平成9年9月5日、アイヌ新法附則3条2項に基づいて、共有財産ごとに、厚生省令で定める事項を、官報で公告した。公告した事項は、各共有財産ごとに、「北海道庁令又は告示の番号及び年月日」「共有別」「指定当時における財産種別」「指定当時における数量又は金額」「財産の目的」「本公告時における財産種別及び金額」「備考」である。このうち、「共有別」「指定当時における数量又は金額」「本公告時における財産種別及び金額」欄に記載された事項は、別紙2(共有財産及び指定外財産目録)第1項の各「共有別」「指定に係る数量又は金額」「官報公告の時に北海道知事が管理する金額」欄に記載したとおりである。被告は、同日付け官報において、共有財産の返還請求書の請求先、提出方法、提出期間、受付時間を公告した。(乙1)イ原告らは、これらの公告を受けて、被告にあてて、北海道旧土人共有財産返還請求書を提出した。原告らは、この請求書に、それぞれ、「申請に係る共有財産」として「官報公告における番号」「共有別」「指定に係る数量又は金額」「官報公告の時に北海道知事が管理する金額」を、別紙2(共有財産及び指定外財産目録)のとおり、記載した。(乙2の1から31まで)ウ被告は、これらの申請を受理し、原告らが返還請求をした具体的な共有財産について、原告らに返還を受けるべき資格があるかどうかを審査し、審査委員会によ のとおり、記載した。(乙2の1から31まで)ウ被告は、これらの申請を受理し、原告らが返還請求をした具体的な共有財産について、原告らに返還を受けるべき資格があるかどうかを審査し、審査委員会による審査結果を踏まえ、別紙1第1項記載のとおり、23名の原告らは返還を受けるべき資格を有すると判断し、これらの原告らに対して、その請求のとおり、本件返還決定をした。 以上のとおり、本件返還決定は、被告が公告をした共有財産に関し、本件返還決定の名宛人である原告ら23名(以下、この項において「原告ら」とはこの23名の原告を意味する。)の財産、金額を特定した具体的な返還の請求に基づいて、原告らが返還の請求をした財産、金額のとおり、返還をする旨の決定をしたものである。すなわち、本件返還決定は、原告らの請求をすべて認めた原告らに有利な行政処分であり、本件返還決定によって、原告らが不利益を受けたり、権利を侵害されたとは考えられない。 (2)これに対し、原告らは、第1に、本来返還の対象となるべき財産が公告されず、返還の対象とならなかったため、原告らはこのような財産の返還を受けることができず、不利益を受けていると主張する。 しかし、本件返還決定は、各決定の対象であるそれぞれの財産、すなわち、被告が公告をし、原告らが返還の請求をした財産を、各決定の名宛人である原告らに返還するというものである。本件返還決定により生じる効果は、被告が公告をし、原告らが返還の請求をした財産が、原告らに帰属するということに尽きる。 被告が公告をせず、原告らが返還請求の対象としなかった財産の帰属については、本件返還決定は、何らの判断もしていない。本件返還決定が、各決定の対象でない財産に対して、何らかの法律上の効果を与えることはあり得ない。仮に、原告ら主張のとおり、返還手続の対象となるべ については、本件返還決定は、何らの判断もしていない。本件返還決定が、各決定の対象でない財産に対して、何らかの法律上の効果を与えることはあり得ない。仮に、原告ら主張のとおり、返還手続の対象となるべきであるにもかかわらず、被告が公告をしなかったことによって返還手続の対象にならなかった財産があり、かつ、それが原告らに返還されるべき財産であるとしても、本件返還決定によって、その財産が原告らに返還されないことになったのではない。原告らの主張する不利益が存在すると仮定しても、その不利益は、被告が共有財産の返還手続の対象とすべきであるにもかかわらず対象としなかったということによって生じているものである。原告らが本件訴訟の対象として除去することを求めているのは本件返還決定であるが、判決によって本件返還決定の無効を確認し又は取り消したとしても、判決の効果として、共有財産の返還手続の対象とすべきであるにもかかわらず対象としなかった財産までをも取り込んだ返還手続を被告に行わせることはできない。 結局、原告ら主張の不利益は、本件返環決定無効確認又は取消しによっても回復することはできず、原告らに本件返還決定無効確認又は取消しによって回復すべき法律上の利益があると認めることはできない。 なお、原告らは、共有財産がアイヌ新法附則3条5項により指定法人である財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構に帰属させられることがないようにするため、とりあえず返還請求の手続をとったものであると主張している。しかし、原告らが返還請求手続をした意図が何であれ、原告らから返還請求の手続がされたことは事実であり、返還請求を受けた被告は、原告らが返還を求める資格を有するか否かを審査し、資格を有すると認められる場合には、原告らに対して返還決定をしなければならない。このように決定における判断 ことは事実であり、返還請求を受けた被告は、原告らが返還を求める資格を有するか否かを審査し、資格を有すると認められる場合には、原告らに対して返還決定をしなければならない。このように決定における判断は、返還請求をした者の意図とは関係がないから、原告らが返還請求の手続をした意図によって、本件返還決定の法律上の効果が異なることはあり得ない。 (3)原告らは、第2に、本件返還決定は貨幣価値の変動を考慮した財産が返還されない点で不利益を受けていると主張する。 しかし、本件返還決定は、被告が財産、金額を具体的に示した公告に対して、原告らが財産、金額を特定した具体的な返還の請求をし、これに基づいて、原告らが返還の請求をした財産、金額のとおり、返還をする旨の決定をしたものである。本件返還決定によって、原告らに返還されることになった金額に関し、原告らが不利益を受けるとは考えられない。本件返還決定の無効が確認され又は取り消されたとしても、原告らが返還を請求した金額を上回る金額の返還決定が行われることはない。 したがって、貨幣価値の変動が考慮されていないとしても、原告らに本件返還決定の無効確認又は取消しによって回復すべき法律上の利益があると認めることはできない。 (4)原告らは、第3に、原告らが返還手続の策定に参加する手続上の権利が侵害されている点、具体的には、アイヌ民族が少数民族として返還手続の策定に参加する手続上の権利があるにもかかわらず、この権利が侵害されている点で不利益を受けていると主張する。 しかし、本件返還決定は、原告らの返還の請求のとおりの財産、金額を返還する旨を決定したものであり、原告らの請求をすべて認めた決定である。仮に原告らの主張するような手続上の瑕疵が本件返還決定にあり、本件返還決定の無効を確認し、あるいは決定を取り消し、その手続 額を返還する旨を決定したものであり、原告らの請求をすべて認めた決定である。仮に原告らの主張するような手続上の瑕疵が本件返還決定にあり、本件返還決定の無効を確認し、あるいは決定を取り消し、その手続をやり直したとしても、原告らの請求を上回る処分、すなわち原告らの請求をすべて認めた本件返還決定以上に原告らにとって有利な処分が行われることはない。結局、本件返還決定の手続をやり直した上で、本件返還決定と全く同一の原告らの請求をすべて認める処分を再度行うことになる。このような場合に、原告らが、手続上の権利が侵害されたという理由により、本件返還決定の手続をやり直すことを求める必要性は考えられない。手続上の権利が侵害されたことを理由としても、原告らに本件返還決定の無効を確認し、又は決定を取り消す法律上の利益があるとは認められない。 原告らが、返還手続の策定に参加することによって、返還手続の対象とならなかった財産をも取り込んだ処分や、貨幣価値の変動を考慮した処分を求めるというのであれば、このような処分は、判決で本件返還決定の無効を確認し、又は決定を取り消しても、その判決によって被告に行わせることができないことは、既に述べたとおりである。 結局、手続上の権利侵害を理由としても、原告らに本件返還決定の無効確認又は取消しによって回復すべき法律上の利益があると認めることはできない。 (5)以上のとおり、原告らに、本件返還決定の無効確認又は取消しによって回復すべき法律上の利益があるとは認められず、本件返還決定に係る請求には訴えの利益がない。したがって、本件返還決定に係る請求は、その余の点を判断するまでもなく不適法であるから、却下を免れない。 3 本案前の争点(3)(無効確認訴訟につき、現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないか)について る請求は、その余の点を判断するまでもなく不適法であるから、却下を免れない。 3 本案前の争点(3)(無効確認訴訟につき、現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないか)について本件返還決定に係る請求は、前記のとおり不適法であるから、判断の必要がない。ここでは、本件返還しない決定に係る無効確認訴訟について、現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないかどうかを検討する。 本件返還しない決定は、3名の原告らに対する5件の決定であり、これらの原告が、共有財産等として公告された財産(返還の対象となるのは、いずれも金銭である。)について、共有者であるとして、その返還請求をしたのに対して、被告がこれを認めなかったものである。 そうすると、これらの原告は、本件返還しない決定が無効であることを前提とすれば、共有財産等として公告された財産の共有者であるとして、被告に対して、金銭の給付請求をすることも可能であるとも考えられる。 しかし、アイヌ新法附則3条に基づく共有者への返還手続は、公告した財産に対して複数の者が返還請求をすることが想定され、返還を受ける資格を有すると認められる者の数によって、返還請求をした者が現実に返還を受けることができる金額等、返還を受ける財産の内容が決定されるものである(指定外財産の返還も同様である。)。返還を認めない決定が無効であることを前提として、金銭の給付を求めようとしても、返還を認められなかった者には、給付を受けることができる金額が必ずしも明らかでなく、金銭給付訴訟を提起するのが困難である。また、返還を認めない決定が無効か否かによって、共有者の資格を有すると認められた者が受け取ることができる金額が変動することになる。 このような点から考えると、本件返還しない決定の無効を前提として金銭の給 返還を認めない決定が無効か否かによって、共有者の資格を有すると認められた者が受け取ることができる金額が変動することになる。 このような点から考えると、本件返還しない決定の無効を前提として金銭の給付訴訟をするよりも、本件返還しない決定の無効確認訴訟の方が、直截的で簡明な手続であるといえ、抜本的な解決の手段ということができる。 したがって、本件返還しない決定の無効を主張する3名の原告らは、本件返還しない決定の無効確認訴訟を提起することができるというべきである。 4 本案前の争点(4)(指定外財産に係る決定が、抗告訴訟の対象となるか)について本件指定外財産に係る決定は、被告が、事実上管理するに至っていた財産を返還することにして、返還請求を受け付け、請求者に返還するか否かを判断したものである。証拠(乙1、2の7)によれば、被告は共有財産に準じて、平成9年9月5日、別紙2(共有財産及び指定外財産目録)第2項記載のとおり指定外財産の公告をし、共有財産の返還請求書とほぼ同一の返還請求書の様式を定め、共有財産の返還手続と同一の提出方法、提出期間を定めたことが認められる。そうすると、返還請求者は、実体法上当該指定外財産に対する権利を観念することができるとしても、アイヌ新法附則3条による共有財産の返還手続と同様の手続により、被告の決定によって、当該指定外財産の返還を受けることができたり、受けられなかったりすることになる。したがって、返還請求者の指定外財産に対する権利は、事実上、被告の決定により定まるということができ、被告の決定が、直接、返還請求者の指定外財産に対する権利に直接影響を及ぼしているということができる。このような行政庁の行為は、行訴法3条が規定する行政処分その他公権力の行使に当たる行為に該当するというべきである。 被告はその行為が法律に 産に対する権利に直接影響を及ぼしているということができる。このような行政庁の行為は、行訴法3条が規定する行政処分その他公権力の行使に当たる行為に該当するというべきである。 被告はその行為が法律に基づかないことを理由に公権力の行使に当たらないと主張する。しかし、指定外財産の返還手続は、共有財産に準じて、アイヌ新法附則3条が規定した手続等と同様の手続、判断が行われ、共有財産と同様に返還請求者の権利に直接影響を及ぼす処分を行っているのであるから、指定外財産の返還手続自体が法令に定められていないことをもって、行訴法上のその他公権力の行使に当たる行為に該当しないということはできない。 よって、本件指定外財産に係る決定は、行政処分その他公権力の行使に当たる行為に該当し、抗告訴訟の対象となる。 5 本案の争点(1)(アイヌ新法附則3条、本件返還手続の違憲性等)について(1)前記2のとおり、本件返還決定に係る原告らの請求は不適法であるから、以下、本件返還しない決定について検討する。 本件返還しない決定は、原告P1、原告P2及び原告P3(以下この項の「原告ら」とはこの3名の原告を意味する。)の返還請求(返還が認められたものを除く。)に対して、被告が、原告らは共有者であると確認できないとして、財産の返還を認めなかったものである。 原告らは、本件返還しない決定の無効確認又は取消しを求めている。無効確認訴訟も処分の取消訴訟も、行政庁の具体的な処分を前提とした原告の個別的、具体的な権利関係に関する争いを解決するための訴訟であるから、原告らは、本件返還しない決定が違法あるいは違憲であること、すなわち、原告らが共有者であると確認できないとして財産の返還を認めなかった被告の判断やその手続が違法あるいは違憲であることを主張しなければならない。 (2)原告らは、アイ 法あるいは違憲であること、すなわち、原告らが共有者であると確認できないとして財産の返還を認めなかった被告の判断やその手続が違法あるいは違憲であることを主張しなければならない。 (2)原告らは、アイヌ新法附則3条あるいは同条に基づく共有財産等の返還の具体的な本件返還手続が憲法29条、31条、13条、B規約27条に違反する、あるいは具体的な本件返還手続がアイヌ新法4条に違反すると主張し、本件返還しない決定の無効確認又は取消しを求めている。 しかし、憲法29条違反の主張については、原告らは、アイヌ新法附則3条あるいは具体的な本件返還手続により共有財産等の共有者全般の財産権が侵害されていると主張しているが、原告らが共有者であると確認できないとして返還を認めなかった本件返還しない決定について、違憲の主張をしているわけではない。憲法13条違反の主張についても同様、原告らは、アイヌ新法3条あるいは同条に基づく具体的手続の策定にアイヌ民族が参加する権利が侵害されていると主張しているが、原告らが共有者であると確認できないとして返還を認めなかった本件返還しない決定について、違憲の主張をしているわけではない。憲法31条違反の主張については、原告らが、公権力の一定の措置によって重大な損失を被る個人がその過程において適正な手続的処遇をうける権利は同条により保障されるという見解に立って主張しているのであるが、憲法13条違反の主張と根拠条文を異にするにすぎず、憲法13条違反の主張と同様である。アイヌ新法附則3条及び具体的な本件返還手続のB規約27条違反、具体的な本件返還手続のアイヌ新法4条違反の主張も同様である。 原告らは、本件返還しない決定の無効又は取消しを求めるものであるけれども、原告らが共有者であると確認できないとして返還を認めなかった被告の判断やその手 続のアイヌ新法4条違反の主張も同様である。 原告らは、本件返還しない決定の無効又は取消しを求めるものであるけれども、原告らが共有者であると確認できないとして返還を認めなかった被告の判断やその手続に違法、違憲があるという主張をせず、結局、本件返還しない決定の背後にあるアイヌ新法附則3条が規定する共有財産の返還手続の制度自体、あるいは、同条に基づく手続自体が違憲、違法等であることを、本件返還しない決定が違法か否かという問題とは離れて、一般的、抽象的に主張しているにすぎない。このことは、原告らが、本件返還決定も、本件返還しない決定も、同一の理由により違憲、違法であると主張し、請求した財産の返還が認められても、認められなくても、いずれにしても違憲、違法であると主張していることからも明らかである。 また、アイヌ新法附則3条あるいは同条に基づく具体的な本件返還手続が違憲等により無効であるとしても、そのことによって本件返還しない決定によって生じた状態、すなわち、原告らが返還請求をした共有財産等が返還されないという状態を除去することはできない。かえって、アイヌ新法附則3条あるいは同条に基づく具体的手続が違憲無効であるとすれば、被告が原告らに対して共有財産等の返還を行う法的根拠を欠くことになる。 このように、本件返還しない決定が違法か否かという問題と離れて、アイヌ新法附則3条あるいは同条に基づく具体的な本件返還手続の違憲性等の主張をすることは、抽象的に法令の解釈、適用を争うことに他ならない。このような主張は、本件返還しない決定の無効の理由、あるいは取消事由の主張にはならないというべきある。 (3)なお、原告らは、本件返還しない決定の判断過程において、アイヌ民族の関与がないことを手続上の違法事由として主張しているとも考えられる。 しかし、原告らの主 の主張にはならないというべきある。 (3)なお、原告らは、本件返還しない決定の判断過程において、アイヌ民族の関与がないことを手続上の違法事由として主張しているとも考えられる。 しかし、原告らの主張するとおり本件返還しない決定の前提として行われる資格審査にアイヌ民族を関与させるべきであるとしても、証拠(乙6の1及び2)によれば、その資格審査に際して、資格審査のために設置した審査委員会の構成員に、アイヌ民族関係者として社団法人北海道ウタリ協会や旭川アイヌ協議会の役員が含まれていて、被告がアイヌ民族の意見を反映させていたことが認められるから、この点に関して違法はないというべきである。 6 本案の争点(2)(本件返還しない決定の違法性)について(1)前記争いのない事実に証拠(各項に記載したもの)及び弁論の全趣旨をあわせると、以下の事実が認められる。 ア審査委員会の委員は、アイヌ関係者2名、弁護士1名及び学識者2名の合計5名で構成された。(乙6号証の1及び2)審査委員会は、返還請求者が共有財産等の共有者と認められるか否かを審査するため、審査基準として、①指定当初の共有者名が特定、確認できる共有財産については、当初の共有者と請求者の関係に関する書類等と、被告が保存する当初の共有者名が記載されている書類等により、請求者が共有者であると認められるか否かを審査し、②当初の共有者名が特定、確認できない共有財産については、(a)請求者がアイヌであること、(b)請求者が当初の共有者と主張する者が当該共有財産の名称に係る地域に居住していたこと、(c)前記(b)の居住時期が共有財産の指定当時にかかっていること、(d)請求者が当初の共有者と主張する者と請求者自身の関係により共有者と認められるか否かを審査した。指定外財産についてもこれに準じて審査した。 イ審 住時期が共有財産の指定当時にかかっていること、(d)請求者が当初の共有者と主張する者と請求者自身の関係により共有者と認められるか否かを審査した。指定外財産についてもこれに準じて審査した。 イ審査委員会は、原告P1が共有財産(8)及び本件指定外財産の共有者であることが確認できない、原告P2が共有財産(3)及び(9)の共有者であることが確認できない、原告P3が共有財産(3)の共有者であることが確認できないという結論を出した。 被告は、これらの審査委員会の審査結果を踏まえて、本件返還しない決定を行った。 ウ原告P1は、昭和18年9月12日、父P10、母P4の子として出生した。 戸籍によれば出生地は得撫郡δ無番地であるが、実際は洋上船の中で出生した。 P4の父P11は、阿寒川の支流εという川の川筋の出身であり、戸籍上明治20年7月23日に出生した。P11は、大正6年に分家し、大正11年に釧路市ζ地区に住むP12と結婚した。その後しばらく釧路市内のηで漁業をしていたが、その後密漁監視員の仕事でθに赴任した。P4は、大正7年10月4日に釧路市内で出生した。P4が幼少時、同人の両親は、密漁監視員や漁業の仕事をして、θ24の島のほとんどを仕事で歩き、その赴任先でそれぞれ1年ないし2年の間居住した。P4は、釧路市ζ地区に暮らしたり、θの両親の元で暮らしたりしていて、γ島で生活していたこともあった。P4は、P10と内縁関係にあり、内縁関係にあった当時はι島の漁場で女工として出稼ぎをしていた。 共有財産(8)は、当初の共有者名が特定、確認できない共有財産であり、昭和6年12月24日に共有財産の指定を受けた。本件指定外財産は、当初の共有者名が特定、確認できない共有財産である。 (甲43、乙1、7の1ないし6、原告P1本人)エ原告P2の祖父はP6(P1 、昭和6年12月24日に共有財産の指定を受けた。本件指定外財産は、当初の共有者名が特定、確認できない共有財産である。 (甲43、乙1、7の1ないし6、原告P1本人)エ原告P2の祖父はP6(P13の次男)であり、P6は大正11年2月28日に戸主P7(P13の長男)の戸籍から分家した。P7の死亡後、P7の長男P14がP7の家督を相続し、P14が昭和2年10月に死亡後、P5(P7の長女でP14の姉)がP14の家督を相続して戸主となった。 原告P2の父はP8であり、同人はP6の子である。P8は大正12年7月12日に旭川市で出生した。 共有財産(3)は、当初の共有者名が特定、確認できない共有財産であり、昭和6年12月24日に共有財産の指定を受けた。共有財産(9)は、昭和9年11月1日に旭川市旧土人保護地処分法1条の規定に基づきP5外49名に下付された財産であり、指定当初の共有者名が特定できる共有財産である。 (甲34、甲48、乙1、8、9、原告P2本人)オ原告P3は、父P9、母P15の子として、昭和6年2月5日、当時両親が居住していた石狩郡κ19番地で出生した。 P9は、明治の末から大正にかけて、天塩川に行って鱒をとり、1年に3か月ほど天塩川流域に家を建てて生活していた。 共有財産(3)は、当初の共有者名が特定、確認できない共有財産であり、昭和6年12月24日に共有財産の指定を受けた。 (甲50、乙1、10、原告P3本人)(2)以上認定した事実を前提に、原告らを各処分の対象財産の共有者と認めなかった被告の判断に違法があるか検討する。 ア審査委員会は、原告P1が共有財産(8)及び本件指定外財産の共有者であることが確認できないという結論にいたり、原告P2が共有財産(3)及び(9)の共有者であることが確認できないという結論にいたり、原告P3 員会は、原告P1が共有財産(8)及び本件指定外財産の共有者であることが確認できないという結論にいたり、原告P2が共有財産(3)及び(9)の共有者であることが確認できないという結論にいたり、原告P3が共有財産(3)の共有者であることが確認できないという結論にいたっていて、被告はその結果を基にして本件返還しない決定を行っている。 原告らが各処分の対象財産の共有者であるか否かの判断は、共有財産の管理に関する法令をはじめ、共有財産として管理が開始された当時のアイヌの風俗や風習、各共有財産の管理の経緯など、様々な歴史的、文化的な知見をもとにして判断する必要があるから、アイヌ関係者、弁護士及び学識経験者を構成員とする審査委員会の審査結果は尊重されるべきである。 そうすると、審査委員会の審査結果に不合理な点が認められない場合には、被告の判断に違法があるとは認められないというべきである。 なお、原告らは、被告において請求者が共有者でないことを立証すべきであると主張する。この主張が、請求者が共有者でないことが明らかでない限り被告は返還決定をすべきであるという趣旨であれば、この主張は正当でない。なぜなら、アイヌ新法附則3条は、請求者が当該指定外財産の共有者ないし相続人であることを返還処分の要件とし、被告は請求者が共有者であるかどうかを審査するのであって、被告が、処分に際して、請求者が共有者でないことを認定しない限り返還処分をすべきであるという規定にはなっていないからである。(本件訴訟における立証責任については、本件返還しない決定は、原告らが自己の権利を求める申請をしたところ、これを被告が拒否したものであり、本件返還しない決定によって、原告らが被告から権利を制限されたり、義務を課されたりしたものではないから、原告らにおいて共有者であることを立証する責任 請をしたところ、これを被告が拒否したものであり、本件返還しない決定によって、原告らが被告から権利を制限されたり、義務を課されたりしたものではないから、原告らにおいて共有者であることを立証する責任があるというべきである。)また、原告らは、審査委員会の審査基準のうち、①指定当初の共有者名が特定、確認できる共有財産について、その特定された共有者から権利を承継したと認められる者を共有者とする基準、②指定当初の共有者名が特定、確認できない共有財産について、当該財産の名称に係る地域に指定当時に居住していた者を居住者としてその者から権利を承継したと認められる者を共有者とする基準に異論があるようである。しかし、①指定当初の共有者名が特定、確認できる共有財産については、その特定された共有者から権利を承継したと認められる者を現在の共有者と考えること、②指定当初の共有者名が特定、確認できない共有財産については、当該財産にかかわりのある地域(各財産の「共有別」に記載されているもの)に指定当時に居住していた者から権利を承継したと認められる者を現在の共有者と考えることにはいずれも合理性があり、審査委員会が設定した審査基準に不合理な点があるとは認められない。 イ原告P1について、母P4がγ島で生活をしたことがあるという事実は認められても、共有財産(8)の指定当時にγ島に居住していたかどうかは明らかでなく、指定当時当該財産の共有者であったと認めることはできないから、原告P1が共有者の権利を承継取得したと認めることはできず、審査委員会の審査結果に不合理な点は認められない。また、本件指定外財産についても同様に原告P1が所有者ないしその相続人であることが確認できない。 ウ原告P2について、共有財産(3)に関して、父P8が天塩国天塩郡、中川郡、上川郡に居住していた事 。また、本件指定外財産についても同様に原告P1が所有者ないしその相続人であることが確認できない。 ウ原告P2について、共有財産(3)に関して、父P8が天塩国天塩郡、中川郡、上川郡に居住していた事実は認められず、P8が指定当時当該財産の共有者であったと認めることはできないから、原告P2が共有者の権利を承継取得したと認めることはできず、審査委員会の審査結果に不合理な点は認められない。共有財産(9)に関して、原告P2は、指定当初の共有者であるP5の相続人ではないから、原告P2が共有者の権利を承継取得したと認めることはできず、共有者であると認められないとした審査委員会の審査結果に不合理な点は認められない。 エ原告P3について、共有財産(3)に関して、父P9が、年に2、3か月、天塩国天塩郡、中川郡、上川郡で生活していた事実は認められても、共有財産の指定当時に当該地域に居住していたかどうかは明らかでなく、指定当時当該財産の共有者であったと認めることはできないから、原告P3が共有者の権利を承継取得したと認めることはできず、審査委員会の審査結果に不合理な点は認められない。 (3)したがって、審査委員会の審査結果に不合理な点は認められず、被告の判断に違法があるとは認められない。 7 結論以上によれば、原告らの請求のうち、本件返還決定に係る請求については訴えの利益がないから訴えを却下することにし、本件返還しない決定に係る請求については理由がないから請求を棄却することにして、主文のとおり判決する。 (口頭弁論終結の日平成13年10月23日)札幌地方裁判所民事第3部裁判長裁判官中西茂裁判官川口泰司裁判官戸村まゆみ 3部 裁判長裁判官 中西茂 裁判官 川口泰司 裁判官 戸村まゆみ

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