平成23(お)6 再審請求事件

裁判年月日・裁判所
令和元年7月31日 東京高等裁判所 棄却
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判決文本文36,060 文字)

令和元年7月31日東京高等裁判所第4刑事部決定平成23年(お)第6号再審請求事件 主文 本件再審請求を棄却する。 理由 第1 本件再審請求の趣旨及び理由等 1 本件再審請求の趣旨及び理由の骨子本件再審請求の趣旨及び理由は,別紙1記載の各書面記載のとおりである。弁護人の主張は,要するに,確定判決では,本件電車転覆致死事件(以下「本件事件」という。)が亡A(以下「A」という。)の単独犯行によるものであると認定されたが,新たに発見した別紙2記載の各証拠によれば,昭和24年7月15日,三鷹駅で脱線,破壊等した7両連結の1編成電車(以下「本件電車」という。)について,①㋐犯人は,三鷹電車区車庫1番線上にある本件電車の第2車両のパンタグラフを発車の段階で上昇させたこと,㋑犯人は,本件電車の最後尾である第7車両の手ブレーキを緩解したこと,㋒犯人は,第7車両の前照灯を点灯させたこと,㋓犯人は,第7車両の扉(戸閉)連動スイッチを非連動にしたことが明らかとなり,その結果,犯人は複数いて,第1車両,第2車両及び第7車両に侵入して操作を行ったことが明らかとなったから,本件電車の発車方法に関するAの単独犯行である旨の自白供述の根幹部分が否定され,その結果,②上記㋐ないし㋓以外の本件電車の発車方法に関するAの単独犯行の自白供述の信用性も否定され,変遷を繰り返したAの供述については任意性及び信用性もないことが判明し,また,③Aを事件当日に目撃したとのB1の公判供述が信用できず,また,④被告人にアリバイが成立すること等が明らかになったから,Aが犯人ではないことが判明したとして,Aに対して無罪を言い渡すべき明らかな 証拠を新たに発見したから,刑訴法43 できず,また,④被告人にアリバイが成立すること等が明らかになったから,Aが犯人ではないことが判明したとして,Aに対して無罪を言い渡すべき明らかな 証拠を新たに発見したから,刑訴法435条6号により再審の開始を求める,というものである。 2 検察官の意見検察官の意見は,別紙3記載の各書面記載のとおりであり,検察官は,本件再審請求審において,別紙4記載の各証拠を提出した。その意見は,要するに,本件再審請求には,新規性及び明白性を有する「新証拠」は存在せず,請求には理由がないことが明らかであるから,本件再審請求は棄却されるべきである,というものである。 第2 本件再審請求に至る経緯及び確定判決の判断等以下,固有名詞を除き,証拠の引用等に関し,現代仮名遣い等を用いる。 1 本件再審請求に至る経緯等判決確定までの経緯等Aは,共犯者らと共謀の上,本件事件を惹起したとして,昭和24年8月23日,東京地方裁判所に起訴され,昭和25年8月11日,同裁判所において,本件事件はAの単独犯行によるものであると認定され,Aは無期懲役に処せられ,共犯者として起訴された者らについては,共謀があったとは認められない等として無罪が言い渡された(以下「確定審第1審判決」という。)。この確定審第1審判決に対して,A及び検察官が控訴し,昭和26年3月30日,東京高等裁判所は,A及び共犯者とされた者らに関し,確定審第1審判決が認定した犯罪事実について事実誤認があるとの検察官の控訴趣意については,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認はないとしたが,Aに対する量刑が不当であるとの検察官の控訴趣意を容れて確定審第1審判決を破棄し,Aに対して死刑を言い渡した(以下「確定判決」という。なお共犯者とされた者らに関する検察官の控訴は棄却した。)。 が,Aに対する量刑が不当であるとの検察官の控訴趣意を容れて確定審第1審判決を破棄し,Aに対して死刑を言い渡した(以下「確定判決」という。なお共犯者とされた者らに関する検察官の控訴は棄却した。)。 A及び検察官は上告を申し立てたが,昭和30年6月22日,最高裁 判所は各上告を棄却した。同年12月23日,Aについての判決訂正申立て棄却決定により,控訴審判決が確定した(以下,確定審第1審判決及び確定判決を併せて,「確定判決等」ともいう。)。 第1次再審請求審の経緯等Aは,昭和31年2月3日,東京高等裁判所に対し,再審を請求したが,昭和42年▲月▲日死亡したため,同年6月7日,東京高等裁判所は,再審請求事件の手続は,Aの死亡により終了した旨の決定をした。 本件再審請求の経緯等その後,平成23年11月10日,Aの直系親族である長男が請求人として申し立てたのが,本件再審請求である。 2 確定判決が認定した犯罪事実及び判断の概要等確定判決は,Aに関する部分の認定事実及び証拠等については,確定審第1審判決と同一であるとした。 確定審第1審判決が認定した犯罪事実の概要そこで,確定審第1審判決が認定した犯罪事実の概要をみると,以下のとおりである。 ア Aは,東京鉄道局三鷹電車区において電車運転士等として勤務し,かつ,国鉄労働組合八王子支部三鷹電車区分会に所属し,昭和24年7月14日国鉄第2次整理により罷免されたものであるが,電車事故を起こし,その事故の発生を契機として,全国的ストライキへの口火にしようという考えを抱くに至り,同月15日,東京都北多摩郡三鷹町内の自宅において,自分に解雇通知があったことを思い浮かべ,当時の社会状態を考え合わせ,同夜直ちに電車事故を起こしてストライキの状態を作ろうと いう考えを抱くに至り,同月15日,東京都北多摩郡三鷹町内の自宅において,自分に解雇通知があったことを思い浮かべ,当時の社会状態を考え合わせ,同夜直ちに電車事故を起こしてストライキの状態を作ろうと決意し,同日午後9時頃,一人で自宅を出て,三鷹電車区車庫へと向かい,人の現在しない入庫中の 電車を発進させ,運転者なしでこれを暴走させて,電車区構内出口の一旦停止の標識がある地点で脱線させ,これにより電車の入出庫を妨害しようと企てた。 イ Aは,同車庫1番線上の本件電車の先頭にある第1車両の方に行く途中,同車両運転台のコントローラー(主幹制御器)・ハンドル(把手)を開錠するキー(鍵)の代用にするため,付近に落ちていた先の曲がった針金1本を拾い,制動用ハンドルを持ち合わせなかったことから,制動の掛かっていないことを確かめ,傍にあるごみ穴から一掴みに紙紐1本を拾い,本件電車に制動が掛かっていないことを重ねて確認した後,第1車両に上がって運転室内に入り,左手で針金をコントローラー・ハンドル側面の鍵穴に差し込んで開錠し,右手でハンドルを廻して3ノッチの点に進ませ,ハンドルが戻らないように,左手で抑えながら,右手で紙紐をハンドルの握りとパイロット・ランプ(運転士知らせ灯)のコントローラー寄りにある回路電線とに掛け,その中間で1回結び,これを反対側の紐に掛け,紐の両端を2回ほど回して結んだ。ハンドルから手を離すと,ハンドルが2ノッチと3ノッチの間で固定したので,Aは,針金を抜き取り,運転室内のパンタグラフ用上げ紐を引いてパンタグラフを上昇させ,客室内の室内灯がつき,コンプレッサ(圧縮器)が音を発したので,直ぐ運転室を出て先頭車両から飛び降り,その場を逃げ去った。Aは,このような電車の起動操作によって,間もなく運転者のいない7両連結の ,客室内の室内灯がつき,コンプレッサ(圧縮器)が音を発したので,直ぐ運転室を出て先頭車両から飛び降り,その場を逃げ去った。Aは,このような電車の起動操作によって,間もなく運転者のいない7両連結の本件電車を東方に向かって車庫1番線上を発進せしめ,もって電車の往来の危険を生ぜしめた。 ウ本件電車は,1号ポイントを割って突進し,Aの予期に反して,構内出口の一旦停止の標識がある地点を過ぎ,三鷹駅下り1番線に暴走して行き,発進時から1分も経たないうちに,時速60キロメ ートルを超える高速度で,同日午後9時23分頃,発進場所から約660メートルを隔てた同駅南口改札口前下り1番線車止めに衝突してこれを突破し,そのため本件電車は脱線する等し,もって電車を破壊し,その際,同駅南口改札口前下り1番線車止め付近に居合わせた者ら6名をいずれも轢死せしめ,死に致した。 確定審第1審判決が挙示した証拠の概要等確定審第1審判決が,本件事件がAの単独犯行によるものであると認定した根拠として挙げる主要な証拠は,Aの公判供述及び検察官調書における供述であり,また,その供述の裏付けとして,本件事件当夜にAを目撃したとするB1の公判供述がある。加えて,事故発生状況等に関する関係者らの供述,鑑定書や検証調書,証拠物等も挙げている(確定審第1審判決が挙示したAの供述は,確定審第1審第13回及び第54回公判における供述,並びに,Aの検察官調書である。 確定審第1審では,これらのほかにも,Aが,本件事件は,自己の単独犯行によるものであることを認めた供述及び調書がある。以下,これらを「Aの単独犯行の自白供述」という。)。 Aの供述状況の概要なおAの供述状況を概観すると,以下のとおりである。 Aは,昭和24年8月1日に逮捕され,同月19日までの取調べで る。以下,これらを「Aの単独犯行の自白供述」という。)。 Aの供述状況の概要なおAの供述状況を概観すると,以下のとおりである。 Aは,昭和24年8月1日に逮捕され,同月19日までの取調べでは本件事件への関わりを否定したが,同月20日に至り,自己の単独犯行によるものであることを認める供述をし,本件事件で起訴された後,同年9月5日付け供述調書に至るまで同様の供述をした。その後,同月29日付け供述調書において,共犯者らとの共謀に基づく犯行(共同犯行)である旨供述するに至ったが,確定審第1審第3回公判における罪状認否では,単独犯行によるものであるとの陳述をし,同第13回及び第14回公判でもこれと同旨と解される供述をした。と ころが,同第22回,第24回及び第33回公判では,本件事件への関わりを否定する供述をし,その後,同第54回,第58回及び第59回公判においては,単独犯行である旨を供述した。確定審第1審判決後,Aは控訴したが,自らが作成した控訴趣意書において,確定審第1審裁判所が正しく事実を判断した旨を述べた(A関係の控訴趣意は,法令適用の誤りと量刑不当の各主張であった。)。確定判決に対し,Aは上告し,その上告趣意書においては,再び本件事件との関わりを否定する主張をし,第1次再審請求審でも同様の主張をした。 第3 当裁判所の判断 1 本件電車の発車方法に関するAの単独犯行の自白供述の根幹部分の信用性が否定されるとの主張について弁護人は,確定判決は,本件事件を単独で行ったとするAの単独犯行の自白供述を柱として事実を認定していると指摘し,新たに提出した証拠により,①本件電車第2車両のパンタグラフ,②第7車両の手ブレーキ,③第7車両の前照灯,④第7車両の扉(戸閉)連動スイッチの各状況から,複数の犯人が,第1車 認定していると指摘し,新たに提出した証拠により,①本件電車第2車両のパンタグラフ,②第7車両の手ブレーキ,③第7車両の前照灯,④第7車両の扉(戸閉)連動スイッチの各状況から,複数の犯人が,第1車両,第2車両及び第7車両に侵入して操作を行ったことが明らかとなったから,これらに言及しないAの単独犯行の自白供述は,本件電車の発車方法に関する根幹部分についての信用性が否定され,これに依拠してAの単独犯行であるとした確定判決の実行行為の認定には誤りがある,と主張する。 第2車両のパンタグラフに関する主張についてア弁護人の主張の要旨 弁護人は,B2名誉教授作成の三鷹事件鑑定書(弁1)及び各三鷹事件意見書(弁29,58)(以下,これらを併せて「B2教授の意見」という。)を根拠として,要旨,次のように主張する。すなわち,①事故後の本件電車は,第2車両のパンタグラフ が上がった状態になっていた(昭和24年8月22日付け検証調書(以下「本件検証調書」という。)添付検証写真(以下「本件検証写真」という。)第9),②第1車両の運転室内における操作では,第1車両と第2車両のパンタグラフだけを上げることはできず,第2車両内で同車両のパンタグラフを上げる操作をすることが必要であり,③本件電車は,構造上,別々の者が第1車両と第2車両のそれぞれでパンタグラフを上げる操作をすることが必要となるから,複数の犯人が操作し,本件電車を暴走させたことが強く推認される,と主張する。 そして,B2教授は,第2車両のパンタグラフの上昇の経緯,原因について,要旨,次のように指摘する。すなわち,第2車両のパンタグラフの舟板は下から上方向に変形し,摺板体が脱落している(本件検証写真第10)が,パンタグラフが下降している状態では,本件電 ,原因について,要旨,次のように指摘する。すなわち,第2車両のパンタグラフの舟板は下から上方向に変形し,摺板体が脱落している(本件検証写真第10)が,パンタグラフが下降している状態では,本件電車の暴走により破損した電柱や電線等の一部が摺板体に衝突したとしても,上から下方向又は前から後ろ方向に力が加わると考えられるから,前記のような変形が生じるとは考えにくい。一方,パンタグラフが上昇している状態であれば,破損した電柱や電線の部品等,質量の小さいものが下から上方向にパンタグラフの舟板に衝突し,前記のような変形や脱落が生じることが十分考えられる。そうすると,第2車両のパンタグラフは,脱線や衝突以前から上昇していた状態にあり,その状態で,舟板の変形や,摺板体の脱落が発生したと考える方が自然かつ合理的であり,第2車両のパンタグラフは,本件電車が発車した段階で上昇していたといえる,と指摘する。 イ確定審第1審判決が挙示する証拠等 本件検証調書には,第2車両の状態に関して,要旨,屋上より 約3メートルの空間に電柱一本が中途より折れて約7メートルの長さで前記コンクリート柵際にある電力線柱の支柱に支えられて宙吊しになっている,また,第2車両のパンタグラフは,上昇したままで破損し,前側摺板体のほぼ中央炭素部が欠損しその周辺に微小の木片1個付着している,との記載がある。また,以上の状況と本車両パンタグラフ用上げ紐の状態並びに後部各パンタグラフが上昇していない状況などを総合判断するときは,本パンタグラフの上昇が上げ紐又はスイッチ等によるものではなく,脱線の際,前頭車のため折損垂下した電柱などの衝撃を受けてクラッチが外れて上昇したものと認められる,との記載がある。これらの記載に照らせば,当時検証に当たった検察官は,第2車 によるものではなく,脱線の際,前頭車のため折損垂下した電柱などの衝撃を受けてクラッチが外れて上昇したものと認められる,との記載がある。これらの記載に照らせば,当時検証に当たった検察官は,第2車両のパンタグラフは,通常の操作によって上昇したものではなく,衝突による衝撃を受けて,それまで下がった(折り畳まれた)状態にあったものが,クラッチが外れた結果上昇したと判断したことが明らかである。 また,昭和24年8月19日付け東京鉄道局作成に係る「三鷹駅に於ける電車脱線転覆事故の調査報告書」(以下「本件事故調査報告書」という。)では,第2車両のパンタグラフについて,本件事件後には伸び上がりして破損していないこと,わずかに「No.1摺板体」の前面に小打撃の跡があり,このためクラッチ棒がわずかに押圧されていることが指摘された。そして,調査結果として,「激突後上昇した。#1摺板体小打撃」あるいは「摺板体No.1僅かに打撃を受け曲損」との記載がある。このように本件事故調査報告書は,第2車両のパンタグラフの摺板体に何らかの力が働いた形跡があり,そのためクラッチ棒が後ろ方向に押されたこと,衝突後に上昇したことを指摘している。これ は,当時の鉄道事故調査の専門家が,直接に第2車両のパンタグラフや周囲の状況等を見分して判断したものとして,特に不合理なものではない。 さらに,本件事故調査を担当し,本件事故調査報告書の作成に関与した東京鉄道局のB3は,確定審第1審第30回公判において,要旨,第1車両のパンタグラフは,自然に上昇する状態にはなっていなかった,第2車両のパンタグラフが上がっている原因は,おそらく走っている途中,階段に激突等した衝撃によって,その弾みにクラッチが外れて上がったものと思う,クラッチや主幹制御器等にも異常はなく, いなかった,第2車両のパンタグラフが上がっている原因は,おそらく走っている途中,階段に激突等した衝撃によって,その弾みにクラッチが外れて上がったものと思う,クラッチや主幹制御器等にも異常はなく,短絡の原因になるようなものはなかった等と証言している。このB3証言に特段不合理な点は認められない。 これらの証拠は,第2車両のパンタグラフの損傷の程度が第1車両のそれに比べて極めて小さいことなども含めて考慮し,第2車両のパンタグラフが上昇した原因は,事故の衝撃等によることを示しているといえる。 そして,これらの説明は,本件事故の規模,停車後の第2車両のパンタグラフの状況,原因調査等を担当した者らの立場,さらに,その説明内容などに照らしても,極めて合理的な内容といえる。 ウ B2教授の意見の検討これに対してB2教授の意見は,第2車両のパンタグラフの損傷状況に関し,舟板は下から上方向に変形し,摺板体が脱落していることを根拠として,その経緯,原因を検討し,発車当時からパンタグラフが上昇していたと推認するものである。この発車当時から上昇していたという結論については,これまで みたところからも明らかなように,第2車両のパンタグラフの損傷が,第1車両のそれに比べて,極めて小さいことをどのように説明するか,という問題点が内在している。 この点について,B2教授は,第4車両の屋根上に落下したビームが存在していて,第2車両や第3車両の屋根上のベンチレーターが破壊されていないことを根拠として,ビームが落下したのは,第3車両がビームの下を通過した後と考えるべきである,また,各車両は台車から外れて,進行方向右側にずれているから,第1車両が車止めに衝突して脱線し,その直後に階段などの構造物が第1車両のパンタグラフに衝突したとし の下を通過した後と考えるべきである,また,各車両は台車から外れて,進行方向右側にずれているから,第1車両が車止めに衝突して脱線し,その直後に階段などの構造物が第1車両のパンタグラフに衝突したとしても,第2車両が台車から外れて右側にずれていれば,同車両のパンタグラフが階段などの構造物に衝突しないことは十分に考えられるから,同車両のパンタグラフの破損が軽微なことを理由に,衝突する前から上昇していたことを否定することはできない,と説明する。 しかし,パンタグラフを製造する会社のB4技術部長は,本件検証写真第9,第10を見た上で,平成24年5月14日付け意見聴取報告書(検4)で,舟板は,鞘の部分が中央よりめくれるように変形しているが,この変形から考えると,物体が舟板の前方から後方に向かって衝突して負荷が掛かり変形したと考えられること,もしパンタグラフが上昇した状態で,いずれかの物体により衝撃を受ければ,片方だけの舟板が破損するのではなく,両方とも破損している場合が多く,第1車両のパンタグラフのように大破すると思われること,天井管が若干曲がっていると聞いたが,そうであれば,降下している状態で衝撃を受け,天井管がクラッチから外れ上昇した可能性があると思われることを指摘 し,パンタグラフが上昇していた原因は,資料が少なく明確には分からないが,パンタグラフの特性や舟板及び摺板の破損状況から,発車時に上昇していたと考えるより,事故の衝撃や舟板及び摺板,天井管に物体が衝突した際に,上昇した可能性があると指摘する。 これに対し弁護人は,B4技術部長の意見に関し,パンタグラフの中央部で下方から上方に向かう力を受けたと見られる変形が存在する以上,パンタグラフが下がった状態で,舟板が変形した可能性は否定されるし,パンタグラフが上 は,B4技術部長の意見に関し,パンタグラフの中央部で下方から上方に向かう力を受けたと見られる変形が存在する以上,パンタグラフが下がった状態で,舟板が変形した可能性は否定されるし,パンタグラフが上がった状態で,断線してブラブラしている電車線等の衝撃を受けたとすると,その時に上向きの力で舟板を変形させつつ,同時に天井管を後方に曲げることも考えられるから,天井管が変形していることは,パンタグラフが上がった状態で衝撃を受けたことを否定するものではない,と主張する。 しかしながら,B4技術部長は,平成26年7月29日付け聴取報告書(検78)で,舟板の変形について,集電舟が支え腕にピンで取り付けられている構造と見られるところ,その構造によれば,進行方向から集電舟に何かが当たり引っ掛かると,集電舟が若干回転するため,後ろ方向への変形に併せて,斜め上方向への変形も生じることになる,本件検証写真第10を見ると,後ろ方向と斜め上方向への変形があるように認められ,正にこの構造からくる典型的な破損状況と合致する,と指摘する。また,集電舟の破損が,パンタグラフが上がった状態で発生したとすれば,事故の規模からして枠組みの変形も相当なもので,折り畳むことが困難になったと考えられるが,パンタグラフの枠組みにほとんど変形が認められないことなども総合すると,折り畳 まれた状態のパンタグラフに,電柱から落下したワイヤー等が衝突した可能性が高いなどと述べている。このB4技術部長の意見は,長年,パンタグラフの製造に従事し,パンタグラフの破損事故等も数多く見分してきた専門家の意見であり,その内容も不合理とはいえないから,これに反するB2教授の意見には大きな疑問が残るところである。なお,B2教授は,集電舟の回転角を根拠に,進行方向から集電舟に外力が加 分してきた専門家の意見であり,その内容も不合理とはいえないから,これに反するB2教授の意見には大きな疑問が残るところである。なお,B2教授は,集電舟の回転角を根拠に,進行方向から集電舟に外力が加わった場合の上方への衝撃力は,後方への衝撃力の0.36倍に過ぎないから,B4技術部長の意見では,集電舟の後方への僅かの変形と上方への大きな変形を説明できない旨を指摘する。しかし,衝突による衝撃力の上方と後方への伝わり方は,衝突時の車体の動きや衝突物の形状等によっても異なってくるものと思われ,必ずしも上記の計算通りになるとは限らないから,B2教授の指摘は,実際の写真も見た上でのB4技術部長の上記意見の信用性を大きく減殺するものとはいえない。 さらに,第2車両は,車体が台車から外れ,第2車体,第3車体は,それぞれ前行車の後部に激突し,くの字型となって停止している,第2車体の前面は,第1車体の最後部右端に激突し,食い込んで大破し,ガラスは全部破損している,第2車両のパンタグラフの上には折損した電柱の一部が乗った状態であった,等の本件直後の第2車両の状況に照らしても,本件電車が脱線後停止するまでの間に,第2車両の屋根の部分にも,ワイヤー等も含め障害物や飛来物等が接触する状態が生じたとみるのが自然である。 それにもかかわらず,同車両のパンタグラフの破損・変形の程度が軽微であったことは,本件電車が発車した際に,第2車両の パンタグラフは上昇していなかったことを推認させる事情といえる。ベンチレーターとパンタグラフとでは,その高さ等が大きく異なること等も含めて,前記事情を検討すると,B2教授の意見は,極めて偶然が重なった場合にあり得る,抽象的な可能性の一つを指摘するにすぎないものと解される。 エパンタグラフ用上げ紐の検討ま く異なること等も含めて,前記事情を検討すると,B2教授の意見は,極めて偶然が重なった場合にあり得る,抽象的な可能性の一つを指摘するにすぎないものと解される。 エパンタグラフ用上げ紐の検討また,本件検証調書中の第2車両の「パンタグラフ用上げ紐」の項には,「紐の輪金が背部の掛金に掛けたままで天井から右掛金までの紐にたるみはない。」との記載があり,他方,実際に上げ紐が引かれたと推定される第1車両については,「天井から真直に垂下している。」と記載されている。さらに,本件再審請求審で検察官が提出した,国家地方警察東京都本部刑事部鑑識課作成の「三鷹事件臨場記録」(検1。以下「本件臨場記録」という。)の「パンタグラフ及各車両運転室の状況」の項には,第2車両について,「パンタグラフは上っているが運転室内の上げ紐は緊縛されて上げた形跡は認められずストップ点の折れた電柱上部に激突のため上り,ために破損甚だしくカーボンプレートが破壊脱落していた」等と記載され,その上げ紐の写真(本件臨場記録の写真48。なお,同写真の説明書きには,「2両目運転室内のパンタグラフ紐の状況を撮す。結び付けられた状態を示す」とある。)にはその様子が表れている。以上によれば,第2車両運転室内のパンタグラフ用上げ紐の状況は,第1車両のパンタグラフ用上げ紐の状況と異なっている。 ところで,弁護人は,第2車両のパンタグラフ用上げ紐の状況に関し,B2教授の意見に拠り,上げ紐を掛金に引っ掛けたまま,紐の途中を手で引っ張って,パンタグラフを上げることが可能であ るから,犯人が第2車両のパンタグラフ用上げ紐を使用した形跡がないとはいえない,と主張する。 しかし,仮にB2教授が指摘する方法で,第2車両のパンタグラフを上昇させることが物理的には可能であるとしても,第1車 が第2車両のパンタグラフ用上げ紐を使用した形跡がないとはいえない,と主張する。 しかし,仮にB2教授が指摘する方法で,第2車両のパンタグラフを上昇させることが物理的には可能であるとしても,第1車両と同様に,パンタグラフ用上げ紐を掛金から外して引っ張り,パンタグラフを上げることは容易で,そのようにすることについて支障があったともうかがえない。犯行に及ぼうとする者が,短時間でかつ容易になし得る方法がありながら,これを選択しないことは,不自然といえる。 そうすると,パンタグラフが上がった状態で走行したことが明らかな第1車両におけるパンタグラフ用上げ紐の状況と,第2車両のパンタグラフ用上げ紐の状況が前記のとおり異なることは,発車前に第2車両のパンタグラフ用上げ紐が利用されず,パンタグラフが上昇していなかったことをうかがわせる事情であると評価できる。 オ目撃供述の検討加えて,本件再審請求審で,検察官は,本件事件当時三鷹電車区電車運転士であったB5の昭和24年7月31日付け検察官調書(検2)を提出したが,同調書には,運転士詰所の正面に見た(本件電車最後部の)白帯車とその前の車両には,室内に電灯が明るくついているのに,人影は一つも見えなかった,合図所を通過した後を見送った時は,六,七両の編成であることが分かったが,前の方の車両も電灯は全部ついている様子であった,後部車両のヘッドライトと信号灯がついているのも覚えている,パンタグラフは前頭の方の一つが上がっていて,かなり強いスパークをしていたが,他の車のパンタグラフは上がっていなかった等と,パンタグラフ が一つだけ上がっていたことが記載されている。この供述は,記憶が鮮明で,捜査機関による誘導等の可能性がうかがわれない時期における,電車運転士による目撃供述であるといえる パンタグラフ が一つだけ上がっていたことが記載されている。この供述は,記憶が鮮明で,捜査機関による誘導等の可能性がうかがわれない時期における,電車運転士による目撃供述であるといえることに照らせば,特に疑うべき事情もない。なお,弁護人が指摘するように,B5は確定審第1審第11回公判においては,見たのは後部の二,三車両で,何回か強烈なスパークはあったが,パンタグラフは上がっていたかどうか分からない旨を証言している。しかし,B5は,本件電車がスパークしながら走行していたことを繰り返し証言しているから,パンタグラフが上がっていたことを前提に,後部の二,三車両に関する内容を述べたと解するのが自然である。また,信号手のB6は同第7回公判で,2回大きくスパークしたので,パンタグラフが2か所上がっていたように思う旨を述べている。しかし,その内容をみると,2か所と判断したのは,2回大きくスパークしたことを根拠とするにとどまり,それ以上に具体的に観察した様子は,見当たらない。そうすると,これらの証言は,前記B5の検察官調書の内容を直ちに排斥するものとはならない。 カ小括結局,本件電車は,発車後,三鷹駅1番線の車止めを突破して脱線する等し,停止に至るまでの間に,構内施設を破壊し,架線や柱等,さらには駅前交番等の構造物も破壊するなどして大規模な事故を惹起している。そして,停止後の状況は,前記のとおりである。 そうすると,第2車両も,折れた電柱や切れた架線,物の飛来等の衝撃を受けたと解するのが自然であり,そのような影響を受ける中で,本件舟板の変形及び摺板の脱落が生じた可能性が高い。 B2教授の意見は,舟板及び天井管の変形の経緯等のみをみれば,弁護人がいうような抽象的可能性を否定できないとしても,前 記のような枠組みの の変形及び摺板の脱落が生じた可能性が高い。 B2教授の意見は,舟板及び天井管の変形の経緯等のみをみれば,弁護人がいうような抽象的可能性を否定できないとしても,前 記のような枠組みの状況や本件事故の状況,加えて,パンタグラフ用上げ紐の状況やB5の供述等と総合して考慮すると,本件電車発車時に第2車両のパンタグラフが上昇していなかったことを前提とする確定判決等の事実認定に合理的な疑いを生じさせるものには当たらないといわざるを得ない。 第7車両の手ブレーキ(ハンドブレーキ,手用制動機ともいい,車上で取柄を操作して人力のみにより直接車両に制動を行うことのできる装置(検察官作成の平成30年11月30日付け意見書添付資料6)を指す。)に関する主張についてア弁護人らは,本件時,第7車両の手ブレーキは緩解していたのに,Aは,同車両の運転台に入って手ブレーキを緩解したかどうかについて供述していないことを指摘し,かつ,国鉄に関する規程類(弁31ないし33,39ないし44),平成27年3月5日付けB7の意見書等(弁38,59,60,62)を証拠として提出し,当時の国鉄の規程に照らせば,午後4時50分頃,本件事故前,最後に本件電車を第7車両の運転台で運転して車庫1番線に入庫させたB8は,入庫後降車時には手ブレーキを緊締していたはずであるから,本件電車が発車する前に第7車両の手ブレーキを緩解させた者がAとは別にいることが明らかとなったと指摘し,そうすると,本件がAの単独犯行であり,第7車両にAは乗り込んでいないことを前提とするAの単独犯行の自白供述には矛盾があって信用できず,これを前提とする確定判決の事実認定は誤っている,と主張する。 イまず,本件再審請求審で,検察官が提出した資料(平成27年3月23日付け意見書添付資料4)に 自白供述には矛盾があって信用できず,これを前提とする確定判決の事実認定は誤っている,と主張する。 イまず,本件再審請求審で,検察官が提出した資料(平成27年3月23日付け意見書添付資料4)によれば,第7車両の形式からして,同車両には手ブレーキが装備されていたと思われる。また,本 件電車が,本件当時相当の速度で走行するに至ったという走行状況等に照らせば,本件事件当時,第7車両の手ブレーキは緩解していたとみるのが自然である。 ウ弁護人は,「関東支社動力車乗務員執務基準規程(電車乗務員編)」(弁33)の69条を挙げ,これによれば,「電車を滞泊地で停留するとき,又はやむを得ない理由で電車を離れるときは,次の各号による取扱いをしなければならない。(中略)手ブレーキを緊締すること。」とされており,また,「動力車乗務員執務標準(電車)」(弁31)の41条を挙げ,そこには「平たん線における留置車両の転動防止方は,次の各号による。 編成の最前部又は最後部車両の手ブレーキを緊締する。」とあり,同別表によれば,三鷹電車区では手ブレーキ緊締位置は下り側(本件電車では第7車両側)とされていると指摘し,これらの規定は昭和40年に設けられたものであるが,従前から定められていた車両の転動(留置中の車両が,動力以外の力の作用により自然に動き出すこと)防止措置を改めて規定したものであり,本件当時も同様の運用がされていたと思われるとして,国鉄の規程上も,降車に際しては手ブレーキを緊締することが義務付けられていたとみるべきであるから,B8は第7車両の手ブレーキを緊締したと考えられる,と主張する。 この点,本件再審請求審において,検察官が平成30年11月30日付け意見書に添付して提出した「運転取扱心得」(添付資料6)は,本件事件当時,既に の手ブレーキを緊締したと考えられる,と主張する。 この点,本件再審請求審において,検察官が平成30年11月30日付け意見書に添付して提出した「運転取扱心得」(添付資料6)は,本件事件当時,既に存在していたものであるが,その101条において,運転士が,本線(列車の運転に常用するために設けられた線路)に車両を留置するときは,相互にこれを連結して制動機を緊締した上,必要に応じて歯止めをしておくべきことを定め,同じく102条は,側線(本線以外の線路)に留置 した車両が本線に逸走するか,又は,転動して本線を支障するおそれのあるときは,前記101条と同様の手配をしておかなければならないと定めている。そして,検察官が同様に提出した「運転取扱心得解説(運輸編)」(添付資料3)には,前記101条について,制御方法は,短時間であれば空気制動機でよいが,長時間では空気が漏えいして制動機が緩むから,これのみに頼ってはならないことが,また,前記102条について,側線に車両を留置する場合も,転動防止に留意しなければならないが,本線に留置するように厳重な制動を行うと,転動防止の目的を達することはできるが,車両を入換するときに敏速を欠くおそれがあるから,一般の場合は特段の手配をしなくともよい,しかし,前記102条に規定される例外的な場合には,本線に留置する車両と同様の制動手配をとらなければならないと記載されている。 このような運転取扱心得や解説の内容に照らすと,弁護人が指摘する昭和40年に作成された執務規程の内容は,本件事件当時に直ちに当てはまるとはいえない。加えて,本件事故調査報告書により認められる本件当日の天候や風速の状況や,B3の証言(確定審第1審第30回公判)等に照らしても,本件当時の三鷹電車区車庫の天候や車庫内の状況は,側線に とはいえない。加えて,本件事故調査報告書により認められる本件当日の天候や風速の状況や,B3の証言(確定審第1審第30回公判)等に照らしても,本件当時の三鷹電車区車庫の天候や車庫内の状況は,側線に留置した本件電車が本線に逸走したり,転動して本線を支障したりするおそれがあったようなものではなかったといえる。したがって,本件電車は,側線に留置した場合であって,前記101条と同様の取扱いが必要となる場合には当たらない。 なお弁護人は,本件車両は車庫1番線に留置され,それが動き出して本線を支障したのであるから,そのおそれがある位置に あったのであり,手ブレーキの緊締が不要なはずがない,などと主張するが,人為的に発車させられた本件と,転動を防止するための措置とを同一に論じることはできない。 弁護人は,運転取扱心得103条が,機関車又は動車が停止しているときは,制動機を緊締してその自動を防止した上,動力のある間は,これを看守しなければならないと規定していることを指摘する。しかし,本件検証調書には,第7車両は制御車であり,運転台はあるが,モーター及びパンタグラフは備え付けていないとあるから,自動するおそれのない車両であり,前記103条が適用される場合とは解されない。 また弁護人は,運転取扱心得60条(弁32),運輸,運転従事員職制及び服務規程第4章132条(弁39)を指摘するが,これらが,三鷹電車区内に留置した本件電車に当てはまる規定であるとはいえない。弁護人は,国有鉄道建設規程75条(弁42)も指摘するが,手ブレーキを緊締することが求められる場合等を規定したものではない。 なおB7の意見書等(弁38,59,60,62)は,国鉄内に存在した規程類についての解釈や,運転士としての合理的な電車の操作等に関する意見を述べ ことが求められる場合等を規定したものではない。 なおB7の意見書等(弁38,59,60,62)は,国鉄内に存在した規程類についての解釈や,運転士としての合理的な電車の操作等に関する意見を述べるものである。仮に規程類の解釈や運転士としての操作等の在り方が,その意見のとおりであったとしても,そもそも,実際にどのような操作等が行われたのかは別の問題であって,B7の意見は,行われた操作等の可能性を指摘するにとどまるもので,A以外の第三者による第7車両の手ブレーキの操作を具体的に示すものではない。加えて,証拠(弁45ないし47)によれば,B7は,三鷹電車区での勤務経験はなく,検査係や交番検査(本件再審請求審において,検察 官が提出した平成26年12月19日付け意見書添付資料4の日本国有鉄道百年史第8巻600頁によれば,10日以内ごとに行うことを原則とし,集電装置,電動機,発電機,制御器,開閉器,電灯装置,戸閉装置,制動装置,車体及び台車,その他外部から点検できる部分等の良否,作用の状態について外部から検査するものである。)に従事した経験もない。このような点に照らすと,本件当時の三鷹電車区における運転の実態等に関する意見は,当時の状況や事情を正しく認識した上でのものとはいい難く,確定判決の事実認定に合理的な疑いを生ぜしめるような証拠とは認められない。 エ確定審第1審の証拠関係をみると,本件事件発生前,最後に本件電車を運転したB8は,本件電車を電車区車庫1番線に入庫させた後に,全ての車両のパンタグラフが降りていることを確認したこと,コントローラー(主幹制御器)等の機器を調べて異常がないことを確認したことを証言した(確定審第1審第11回公判)が,制動措置等に関し,手ブレーキの緊締,あるいは,その状況の確認等につ 認したこと,コントローラー(主幹制御器)等の機器を調べて異常がないことを確認したことを証言した(確定審第1審第11回公判)が,制動措置等に関し,手ブレーキの緊締,あるいは,その状況の確認等については特段問われず,証言しなかった。そして,本件事故調査報告書には,車庫1番線に本件電車を入庫した際,B8が行った制動措置等についての記載がある(第1章,「第一節事故の概況」と題した項)。B8の作業としては,停車後,2㎏/㎠の常用制動を行い,全車のパンタグラフを降下してこれを確認した,と記載されている。 したがって,この時点でB8が行った制動は,空気圧ブレーキによる常用制動とみるのが自然であって,手ブレーキのことではないといえる。 このような調査結果等によれば,B8が本件電車停止後に行った制動措置は,空気圧ブレーキによる常用制動のみであり,手ブレ ーキを緊締していたとは認められない。 なお弁護人は,本件翌日(7月16日)の朝日新聞(弁30)の記事に,B8による説明として,点検した後でパンタグラフを降ろし,ブレーキを掛けスイッチを切っておいた,降りた時には何の異状も認めなかったなどと,B8のブレーキ操作に関する記述があることを指摘し,B8が降車の際に掛けたブレーキとは,手ブレーキ以外には考えられない,と主張するが,このような新聞記事からそのようにいうことはできない。 オまた,確定審第1審で取り調べられた三鷹電車区関係者の証言等の関係証拠を検討しても,電車区内に車両を留置する際に,手ブレーキの緊締が行われていたことをうかがわせる証拠はない。すなわち,本件当時,三鷹電車区助役であり,構内勤務運転手,合図手,整備係を担当していたB9は,電車区構内に電車を停車させる場合の措置につき,制動を掛けパンタグラフを降ろしておくとは述 拠はない。すなわち,本件当時,三鷹電車区助役であり,構内勤務運転手,合図手,整備係を担当していたB9は,電車区構内に電車を停車させる場合の措置につき,制動を掛けパンタグラフを降ろしておくとは述べているものの,手ブレーキの緊締に関する運転士らへの指示等には言及していない(確定審第1審第11回公判における証言)。 また,本件電車の車庫1番線への入庫に際し,同乗していた合図手のB10も,手ブレーキの緊締については述べていない(確定審第1審第11回公判における証言)。さらに,本件発生時刻頃,三鷹電車区車庫6番線に本件電車とは別の車両を入庫させた運転士であるB11も,車両を入庫させた後の措置について,手ブレーキの緊締については証言していない(確定審第1審第45回公判における証言)。 カさらに,B3の証言(確定審第1審第30回公判)等に照らすと,本件事故調査報告書においては,本件が人為による作為的な発車であるのか,自然発車であるのかという点が問題とされ,本件電車 にブレーキが掛けられていたかどうかが調査対象となっていたことが明らかである。また,東京鉄道局長B12の証言(確定審第1審第46回公判)に照らせば,本件事故の責任の所在を調査し,職員に職務の懈怠がないかを検討したというのであるから,仮に,電車区車庫に車両を停車させる際,手ブレーキを緊締することが運転士の義務であったとすれば,それを怠り,緊締していなかったことは,運転士に職務懈怠があったことになり,その点の解明も本件事故原因の調査の目的に含まれていたはずということになる。しかし,本件事故原因の調査に当たり,ブレーキに関し,車両停止後の常用制動の調査,検討は行われたが,B8による手ブレーキ緊締の有無等が検討されたとは認められない。このような状況は,本件電車に手ブレー かし,本件事故原因の調査に当たり,ブレーキに関し,車両停止後の常用制動の調査,検討は行われたが,B8による手ブレーキ緊締の有無等が検討されたとは認められない。このような状況は,本件電車に手ブレーキが緊締されていなかったことについて,事故原因調査で問題とされなかったことの表れとみることができる。 キ結局,確定審第1審で取り調べられた関係証拠に加えて,本件再審請求審で提出された証拠等に照らすと,B8が第7車両を降車する際に手ブレーキを使用して制動措置を講じていたとは考え難い。 弁護人が新たに提出した前記各証拠は,確定判決の事実認定に合理的な疑いを生じさせるものではない。 第7車両の前照灯に関する主張及び同車両の扉(戸閉)連動スイッチに関する主張についてア弁護人は,第7車両の前照灯に関し,「三鷹事件再審理由補足書(上)(下)(写し)」(弁4。以下「補足書」という。),国鉄に関する規程類(弁31,34,35,39ないし44,50),B7の意見書等(弁36,37,45ないし47,59,60,62,64)を証拠として提出し,本件電車の最後部車両である第7車両の前照灯のスイッチが「入位置」(点灯する位置)にあったこ とについて,本件電車が三鷹電車区車庫1番線に停車していた時点では,消灯の位置にあったはずであるから,本件電車が発車する前に,A以外の犯人がこれを点灯させたはずであると指摘し,単独で第1車両の運転台で本件電車を暴走させるための操作を行った旨を述べながら,第7車両で前照灯を点灯させた旨は述べていないAの単独犯行の自白供述は,第7車両の前照灯を点灯させるという電車の発車動作に関する客観的事実に矛盾するものである等と指摘する。 前提として,本件検証調書によれば,本件検証時には,本件電車最後部の第7車 自白供述は,第7車両の前照灯を点灯させるという電車の発車動作に関する客観的事実に矛盾するものである等と指摘する。 前提として,本件検証調書によれば,本件検証時には,本件電車最後部の第7車両の前照灯スイッチが「入位置」にあったことが明らかであり,また,暴走する本件電車を目撃したB13の確定審第1審第7回公判での証言,運転士のB5の同第11回公判での証言等に照らし,本件事件時,第7車両の前照灯は点灯していたと認められる。 そこで,弁護人提出の証拠について検討する。 B7の意見書等については,三鷹電車区において,実際にどのような操作等が行われていたかという点についての証明力に乏しく,また,弁護人が指摘する規程類やその解釈に関しては,行われた操作等の可能性を指摘するにとどまることは前記のとおりであり,これらにより,A以外の犯人が存在し,その犯人が第7車両の前照灯を点灯させたことが明らかとなったということはできない。 そして,本件事故調査報告書,B10の証言(確定審第1審第11回公判)等によれば,本件電車は,本件当日午後3時30分頃まで,三鷹電車区車庫の16番線(屋内)において交番検査を受けており,前照灯をはじめとする電灯装置の点検も,パンタグ ラフを上げた状態で行われるものであることが認められる。また,B9の証言(確定審第1審第11回公判)等によれば,本件電車は,前照灯と運転室室内灯のスイッチが連動していて,一方が「入位置」ならば他方は「切位置」となる仕組みであり,スイッチの状態がいずれであっても,パンタグラフを降ろすと消灯する。そして,第7車両の前照灯スイッチが「入位置」の状態で,パンタグラフを降ろして交番検査を終了していれば,車庫16番線から車庫1番線への入換えのため,パンタグラフを上げて本件電車 降ろすと消灯する。そして,第7車両の前照灯スイッチが「入位置」の状態で,パンタグラフを降ろして交番検査を終了していれば,車庫16番線から車庫1番線への入換えのため,パンタグラフを上げて本件電車を移動させた際,同車両の前照灯は点灯した状態であったことになる。 また,本件事件発生の約5分前に三鷹駅に到着した電車を,車庫6番線に入庫させた運転士のB11は,入庫後に前照灯を消したと述べている(確定審第1審第45回公判における証言)。 また,合図手のB10は,B11が夜間に6番線に入庫させた車両については,運転室室内灯を消してヘッドライト(前照灯)が点灯して走行していたことを明確に覚えているのに,B8が,昼間,本件電車を入庫させるのに同乗した際,前照灯と対になる運転室室内灯の点灯の有無については,記憶にないと答えるにとどまっている(確定審第1審第11回公判における証言)。このような証言内容に照らすと,夜間と昼間では,前照灯の点灯に関して乗務員や作業員の意識に違いがある可能性もうかがわれる。 以上によれば,本件電車の前照灯スイッチについては,交番検査終了時の状態のまま入換運転し,そのまま何の操作もせずに降車したという可能性を否定できない。また,昼間は運転室室内灯を点灯させるために前照灯を切る必要性もないところ,交番検査終了時に,第1車両の前照灯スイッチは「切位置」に,第7 車両の前照灯スイッチは「入位置」になっていたとしても,格別不自然なことではない。そうすると,第7車両を本件直前に運転したB8が,前照灯が点灯した状態で車庫1番線に入庫後にパンタグラフを降ろした場合には,同車両の前照灯スイッチは「入位置」のまま,同車両の前照灯が消えることになり,本件事件時に同車両の前照灯が点灯していたのは,Aが第1車両のパンタグラフ 線に入庫後にパンタグラフを降ろした場合には,同車両の前照灯スイッチは「入位置」のまま,同車両の前照灯が消えることになり,本件事件時に同車両の前照灯が点灯していたのは,Aが第1車両のパンタグラフを上昇させて電車に通電させた際に第7車両の前照灯が点灯したにすぎないと考えることに,不合理さはない。 なおAの補足書は,第1次再審請求審に際して,Aが自己の主張を記載して提出したものであり,その内容は,確定審段階において,本件事件への関わりを否定した際の供述と異なるものではなく,第7車両の前照灯に関する確定判決の判断に,合理的な疑いを生じさせるものではない。 以上のとおりであり,弁護人提出の証拠によっても,Aとは別の犯人がいて,その犯人が第7車両運転台で前照灯スイッチを操作して前照灯を点灯させたから,確定判決の事実認定に合理的な疑いを抱かせるなどとはいえない。 イ弁護人は,第7車両の扉(戸閉)連動スイッチに関し,B7の意見書等(弁48,59,60,62),運転取扱心得及び同細則(弁49)を証拠として提出し,要旨,次のように主張する。すなわち,本件事件発生時には,本件電車最前部の第1車両及び最後部の第7車両の運転台にある扉(戸閉)連動スイッチは,通常時と異なり,非連動位置に,切換スイッチは後位置にある状況であったが,前記各証拠によれば,本件電車は,「運転整備の状態」,すなわち「翌朝に本線運転を行える状態」で三鷹電車区構内に停車されていたのであるから,第1車両及び第7車両の扉(戸閉)連動スイッチはい ずれも連動位置に,切換スイッチはいずれも後位置にあったはずであり,本件の犯人は,異常時の状態で,本件電車を発進させたといえる。Aが本件事件の犯人であり,このような操作をしたのであれば,電車運転士という経歴からすれば 換スイッチはいずれも後位置にあったはずであり,本件の犯人は,異常時の状態で,本件電車を発進させたといえる。Aが本件事件の犯人であり,このような操作をしたのであれば,電車運転士という経歴からすれば,これに言及した供述をするのが自然であるのに,Aは,本件電車最後部の第7車両の運転台に入ったとは供述していないから,犯人は複数いるとしか考えられず,Aとは別の犯人が扉(戸閉)連動スイッチを操作するなどしたことがうかがわれる。そうすると,Aの単独犯行の自白供述は,第1車両及び第7車両の扉(戸閉)連動スイッチがいずれも「非連動」の位置にあったとの客観的事実と矛盾していることになるから,本件事件にAが関与していないという合理的疑いが生じる,と主張する。 本件検証調書によれば,本件検証時には,第1車両及び第7車両の扉(戸閉)連動スイッチが非連動位置にあったことは明らかであり,本件事故時にもその位置にあったと考えられる。そして,本件電車を犯人以外で最後に運転したB8は,扉(戸閉)連動スイッチの操作について証言で言及していない(確定審第1審第11回公判)から,同人の証言によっては,第1車両あるいは第7車両の扉(戸閉)連動スイッチの状況は明らかとはならない。もっとも,本件事故調査報告書,及び昭和24年8月2日付け交通営団職員B14作成の鑑定書においては,いずれも本件電車の最前部である第1車両及び最後部である第7車両の扉(戸閉)連動スイッチが非連動位置にあったことを検討した様子はなく,本件各車両の扉(戸閉)連動スイッチの位置が特に異常なものと受け止められていなかったといえる。 そして,弁護人が提出した前記運転取扱心得及び同細則の内容を検討しても,本件当時,電車区内に留置する車両の扉(戸閉) 連動スイッチの定位に関する規定 止められていなかったといえる。 そして,弁護人が提出した前記運転取扱心得及び同細則の内容を検討しても,本件当時,電車区内に留置する車両の扉(戸閉) 連動スイッチの定位に関する規定は見当たらず,また,入区後の各種スイッチ類を置く位置について定める昭和40年5月付け東京鉄道管理局作成の「動力車乗務員執務標準(電車)」(弁31)12条にも,扉(戸閉)連動スイッチについての定めはない。 そうすると,扉(戸閉)連動スイッチの定位が連動位置であるという弁護人の主張は,本線で電車を運行する場合を想定したものといわざるを得ず,電車区に留置された本件電車の扉(戸閉)連動スイッチには必ずしも当てはまるものではないというべきである。また,前記運転取扱心得及び同細則442条の出発合図の規定も,同441条(検察官作成の平成27年7月30日付け意見書添付資料1の「運転取扱心得解説(運輸編)」(昭和23年10月15日発行)の「336」の項の出発合図の方式と手笛の併用(441)参照)をみると,列車を出発する運転のときに適用される規定であり,電車区構内での車両入換運転には適用がないとみるのが相当である。 結局,弁護人が,扉(戸閉)連動スイッチは連動位置が定位であるとする根拠規定は,いずれも乗客等を乗せて電車を本線で運行する「列車運転」の場合を想定したものであり,電車区構内で車両入換運転をする場合は,乗客を乗せることを予定しておらず,「乗客の安全の確保」は問題とならない上,本線での運行の際に原則として扉の開閉を担当してこれに責任を持つ車掌が乗り込むものでもないから,これを本線における列車運転と同様に考えることはできない。 弁護人は,B7の意見書等を根拠として,電車区構内の側線で入換運転を行って電車区構内に車両を留置する構内運転士が,電車 のでもないから,これを本線における列車運転と同様に考えることはできない。 弁護人は,B7の意見書等を根拠として,電車区構内の側線で入換運転を行って電車区構内に車両を留置する構内運転士が,電車区構内に留置する時点で,各種スイッチ等を「翌朝に本線運転 を行える状態」にしておくべき必要がある,あるいは,そのような義務があると指摘する。しかし,電車区構内に留置してある車両の運転を開始するに当たり,その各装置類を運転が開始できる状態に設定するのは,当該車両に乗務して本線で運転することになる電車運転士の責任で行うことであり,本線での運転を担当する電車運転士には,電車区内に留置された電車を最初に本線の運転に供する際,運転開始前に助役から乗務する電車の状況を聴き取った上,出庫点検を行うことが義務付けられ,その際に各スイッチ等の整備してあること,パンタグラフ起伏動作の完全なこと,制動筒行程の適当なこと,各種装置作用の完全なことを確認する必要がある(検察官作成の平成27年7月30日付け意見書添付資料2の「電車出庫点検の取扱方について」(昭和22年7月19日東達甲第210号)1条,2条参照)。出庫点検時に行うべき確認項目の中には,制御装置作用の点検として,非連動運転が可能であることを確認するため,前部及び後部運転台で連動スイッチ(扉(戸閉)連動スイッチ)を非連動位置にした状態で,前進1ノッチで起動できることについても試験を行う必要があるのであるから(同4条参照),留置車両を翌朝,そのまま直ちに本線運転を行える状態にしておくという意味で扉(戸閉)連動スイッチを連動位置にしておくことに意味があるとは考え難い。 以上のとおりであり,弁護人提出の証拠を根拠として,本件事件直前に電車区内に留置されていた第1車両及び第7車両の扉(戸閉) 戸閉)連動スイッチを連動位置にしておくことに意味があるとは考え難い。 以上のとおりであり,弁護人提出の証拠を根拠として,本件事件直前に電車区内に留置されていた第1車両及び第7車両の扉(戸閉)連動スイッチが連動位置にあったはずであるとは認め難い。 ウ付言すると,弁護人は,本件事件について,犯人が複数存在する可能性を指摘し,本件電車の状況からすれば,犯人のうち一人が第 1車両で発車のための操作をし,別の犯人が第7車両で前照灯をつける操作をし,あるいは,同車両の扉(戸閉)連動スイッチの操作をしたという。しかし,本件事件を,第1車両を操作して本件電車を三鷹駅方向に向けて発進させ,その後脱線させようとした事件としてみた場合,その最後部の第7車両において,弁護人指摘のような操作をすることの意味や必要性は不明であって,弁護人の主張は,このような観点からも疑問がある。 小括以上のとおりであり,弁護人が提出した証拠は,Aの単独犯行の自白供述のうち,本件電車の発車方法に関する根幹部分の信用性に重大な疑義を生じさせ,かつ確定判決の事実認定について合理的な疑いを抱かせてその認定を覆すに足る蓋然性のある証拠とはいえない。 2 Aの単独犯行の自白供述に関するその他の主張について前記1で検討したとおり,本件再審請求審で提出された証拠は,Aの単独犯行の自白供述のうち本件電車の発車方法に関する根幹部分の信用性を否定するものではなく,確定判決等の事実認定に合理的な疑いを抱かせるに足りるものとは認められない。弁護人は,Aの単独犯行の自白供述のうち本件電車の発車方法に関する根幹部分が否定されることにより,ひいては,それ以外の部分の自白供述の信用性も否定されると主張するものであるから,弁護人のその余の点に関する主張は,本件再審請求の帰 のうち本件電車の発車方法に関する根幹部分が否定されることにより,ひいては,それ以外の部分の自白供述の信用性も否定されると主張するものであるから,弁護人のその余の点に関する主張は,本件再審請求の帰趨に影響を及ぼさず,検討するまでもないと解されるが,本件事案の性質に鑑み,この点についても,補足して説明する。 コントローラー・ハンドルに関連する主張について弁護人は,Aの補足書(弁4)を提出し,確定判決の,Aが,第1車両のコントローラー・ハンドルの側面の鍵穴に,犯行現場付近で拾った針金を差し込んで開錠し,同ハンドルを右手で回して,3ノッチ の位置に進ませ,同ハンドルが戻らないように左手で抑えながら,紙紐を使って同ハンドルを2ノッチと3ノッチの間に固定させたとの認定に関し,三鷹電車区構内で針金を拾うこと,針金でコントローラー・ハンドルを開錠すること,紙紐で同ハンドルを固定することは,いずれも困難で不合理であり,確定判決の認定には誤りがある等と主張する。 ア確定審における証拠関係から,以下の点が指摘できる。すなわち,昭和24年8月26日付け検証調書,並びに同月25日付け及び同月26日付け各差押調書によれば,三鷹電車区構内には多数の針金断片が落ちていたこと,Aは,検察官あるいは裁判官に対し,車庫1番線と車庫2番線の間付近で針金を拾った旨供述していること,針金を拾ったとされる場所付近は,地上面から8メートルの高さに設置された300ワットの電灯に照らされ一定の明るさがあったこと(「昭和24年7月15日当夜照明状況・三鷹電車区構内外灯配線図其ノ1」,昭和24年10月10日付け検証調書及び添付第4図「発進地点の夜間視覚状況検証における配車並びに照明図」)が認められ,これらからすれば,Aが供述する前記場所で,針金を発見し 内外灯配線図其ノ1」,昭和24年10月10日付け検証調書及び添付第4図「発進地点の夜間視覚状況検証における配車並びに照明図」)が認められ,これらからすれば,Aが供述する前記場所で,針金を発見して拾うことが困難であったとはいえない。 イまた,Aの昭和24年10月13日付け検察官調書によれば,Aは,押収された多数の針金を検察官から見せられ,記憶がはっきりしない旨を述べながらも,その中から犯行に使用したものと類似する針金を7本選び出し,中でも2本が特に似ている旨供述していること,同供述に基づき同月26日検察官が検証を実施し,Aが選び出した2本の針金(番号155及び181)を用いてコントローラー・ハンドルの開錠実験を実施した結果,開錠できたこと(昭和24年10月31日付け検証調書),Aは確定審第1審第14回 公判で,前記開錠実験に用いられた2本の針金のうちの1本である針金(番号181)を示し,「此の位の針金でこんな状態になっていれば大体皆コントローラーのキーの代用をする。」と述べたこと,確定審第1審裁判所が,昭和25年5月2日,検察官,弁護人を立ち会わせて三鷹駅及び三鷹電車区等の検証を行った際,第1車両に主幹制御器を原位置に取り付けて原状に復した上,コントローラー・ハンドルに,前記番号181の針金の先端鉤形部分を差し込んで開錠し,全ノッチの位置にまで動かし得たという結果が得られたこと,B14の鑑定書には,主幹制御器を動かすには普通鍵を要するが,適当な太さの針金又は釘で充分この鍵の代用ができ,簡単に開鎖の状態にすることができ,一般電車従業員には周知のことともいうことができるくらい容易である旨の記載があることが認められ,針金でコントローラー・ハンドルを開錠することは困難であったとはいえない。 ウさらに,検証調書(昭 一般電車従業員には周知のことともいうことができるくらい容易である旨の記載があることが認められ,針金でコントローラー・ハンドルを開錠することは困難であったとはいえない。 ウさらに,検証調書(昭和24年10月10日付け,同月31日付け,昭和25年5月2日付け)によれば,紙紐を用いてコントローラー・ハンドルを固定する実験では,同ハンドルと回路電線を結ぶことで,Aが供述したとおりに緊縛,固定することができ,また,ノッチの位置も再現でき,電車を起動することが可能であったと認められるから,紙紐でコントローラー・ハンドルを固定することが困難であったともいえない。 エ以上によれば,Aの補足書により,コントローラー・ハンドルを開錠し,同ハンドルを紙紐で固定することが困難であるとの主張は,採用できないことが明らかである。 なお,Aの補足書は,Aが,確定審第1審公判の段階で,本件事件への関わりを否認した際の供述とおおむね同旨のものであり, 確定判決等は,確定審第1審公判における否認供述や,捜査段階の否認供述等も踏まえ,それらを検討の上,被告人に対し,有罪の事実認定をしたものであるから,この点でも採用できない。 その他の主張についてア弁護人は,Aの補足書(弁4),朝日新聞(弁5の1),アカハタ(弁5の2),文藝春秋(弁6,63),B15弁護人からA宛の葉書(弁7),報告書及びそこに添付されているAと弁護士B16の間で交換された書簡7通(弁28)を提出し,Aが確定判決に至るまで,共同犯行を認める供述,共謀を否認し単独犯行を認める供述,そもそも犯行との関わりを否認する供述と,供述内容を変遷させた点等を指摘し,Aの単独犯行の自白供述の任意性及び信用性を争う。 イ Aの補足書が,確定判決等の判断に合理的な疑いを抱かせ 認める供述,そもそも犯行との関わりを否認する供述と,供述内容を変遷させた点等を指摘し,Aの単独犯行の自白供述の任意性及び信用性を争う。 イ Aの補足書が,確定判決等の判断に合理的な疑いを抱かせる証拠であると認め難いことは,これまでに検討したと同様である。また,判決確定後に作成され,犯行を否認する内容のAの手記や,朝日新聞等が,確定判決等の判断に合理的な疑問を抱かせるようなものとは認め難いことも明白である。 小括結局,弁護人が,Aの単独犯行の自白供述の根幹部分に関連するとして本件再審請求審において提出した証拠を含め,証拠を検討しても,Aの単独犯行の自白供述の任意性及び信用性を認めた確定判決等の判断に合理的な疑いを生じさせるようなものはない。 3 B1の公判供述の信用性に関する主張について弁護人は,B17教授作成の三鷹事件における人物記憶に関する鑑定書等(弁61,65。以下併せて「B17鑑定」という。),自然科学研究機構国立天文台長からの照会回答書及び補充の電話聴取書(弁2の 1及び2の2),B18の聴取書(弁3)を提出し,本件事件当夜,三鷹電車区正門前の道を武蔵境の方から自宅に行くAを見た旨のB1の公判供述(確定審第1審第23回公判)が信用できないことを示す新たな明白な証拠に該当する,と主張する。そこで検討する。 まず弁護人が指摘する前記照会回答書及び電話聴取書(弁2の1及び2の2)は,本件事件当夜の月の出入時刻に関するものであり,月の出が午後10時4分,月の入りが翌日の午前10時であることを内容とする(いずれも現在の時刻表記)。この点については,確定審第1審第43回公判において,昭和24年8月16日付け中央気象台による「三鷹町附近の気象状況について回答」と題する書面が取り調べられ,それによれば, ずれも現在の時刻表記)。この点については,確定審第1審第43回公判において,昭和24年8月16日付け中央気象台による「三鷹町附近の気象状況について回答」と題する書面が取り調べられ,それによれば,月の出の時刻が午後11時3分(当時の夏時刻による表記であり,現在の午後10時3分に相当する。)という事実が明らかとされている。そうすると,弁護人が提出したこれらの証拠は,確定審第1審判決が,判断の前提としたと解される,ほぼ同時刻を内容とする当夜の月の出の時刻を示すものにすぎない。 次に,B17鑑定について検討する。 B17鑑定は,弁護人から依頼され,要旨,①B1の目撃供述の正確性を,目撃供述の心理学の知見から明らかにすること,②①に関し,実際にB1がAを目撃したとされる条件下での目撃において,正しく目撃できる可能性がどれほどなのかを再現実験を行った上で明らかにすることを鑑定事項として示されて行われたものであり,結論として,B1がAを正確に認識して想起したとは到底考えられないと指摘するものである。 アそして,B17鑑定は,B1供述の心理学的検討として,B1の昭和24年7月29日付け警察官調書,同年8月2日付け検察官調書,同月9日付け裁判官調書,同日付け検察官調書,確定審第1審 第23回公判における供述を検討し,それぞれ次のような指摘をした。 B1の昭和24年7月29日付け警察官調書について,B1は,目撃した人物を注意深く見るために,立ち止まったり,追いかけたりしたわけではなく,目撃された人物は急ぎ足で通り過ぎたから,目撃したのは,その人物の横顔を極めて短い時間だけだったはずであり,門若しくは門付近に照明装置がついていたとしても,極めて短時間,外灯の弱い光しか当たらない人物を横から見たという目撃だった。 から,目撃したのは,その人物の横顔を極めて短い時間だけだったはずであり,門若しくは門付近に照明装置がついていたとしても,極めて短時間,外灯の弱い光しか当たらない人物を横から見たという目撃だった。この場合の外灯は,目撃された人物の後ろから光が当たるものであり,当該人物の顔に直接光が当たることはなかった。このような明るさの問題と目撃時間の短さが相まって,人物識別は,極めて困難であったはずであり,このような状況では,顔の認識はほとんど不可能であり,人物が識別されたとしても,それは顔以外の手懸かりからの推測に依存するほかない,等と指摘した。 B1の同年8月2日付け検察官調書について,Aが歩きながらB1の方を見たので,外灯の光ではっきり顔が見えAと分かり,い供述が録取されているとし,元々想起が難しい内容ではないのものであり,誘導と創作により出てきた供述としか評価しようがない,とした。 同月9日付け裁判官調書について,Aが見えたのだから電灯が検察官調書にみられた,AがB1の方を見たので,外灯ではっきり顔が見え,Aと分かったので声を掛けたという供述がなく,B 1から声を掛けたところ,Aが応じたように感じた旨の供述が検察官調書の表現が強すぎたとの検察官の判断があったとも推察され,検察側が,Aを被目撃者として確定したいという意図が明確にうかがえる,とした。 同日付け検察官調書について,B1が目撃したのがAであるということが前提となった供述が録取されており,この既成事実が確立されて維持されている,とした。 B1の公判供述について,B1が目撃した人物がAであるということがただ語られているだけであり,目撃の折の状況について変化は認められず,ただ事件から半年以上経過しての記憶の想起であり,初期供述のような詳細さが欠けている て,B1が目撃した人物がAであるということがただ語られているだけであり,目撃の折の状況について変化は認められず,ただ事件から半年以上経過しての記憶の想起であり,初期供述のような詳細さが欠けているが,目撃した通行人に声を掛けた際のB1の行動について,それまでの供述にはない「おじぎして」という行動が加えられており,このことからも,B1という人物は,その場に合わせて適当に都合のよい言葉を発する傾向にあるといえる,とした。 イそこで検討すると,B17鑑定は,以下の諸点に照らし,十分に前提を踏まえたものではなく,また,独自の前提を置くなど,採用し難いといわざるを得ない。 B17鑑定が,B1により目撃された人物は急ぎ足で通り過ぎたから,目撃したのが短い時間だけであったと指摘する点は,B1の公判供述に照らしても是認できる。しかし,B1がAを目撃したとする三鷹電車区正門前の路上については,同正門脇に電柱があり,地上面から高さ5メートルの位置に電灯が設置され,その電灯による照明範囲に正門前路上が含まれること(「昭和24年7月15日当夜照明状況・三鷹電車区構内外灯配線図其ノ1」中の「乗ム員休憩室」の右脇付近を指す。),確定審第1審裁判 所が実施した検証結果によれば,同正門のところに電柱(外灯)があり,その照明により付近一帯は明るいとされていることが認められる。B1は,この正門前の路上を歩いている人物を目撃したのであるから,その人物はこの照明範囲の中を通過したとみるのが自然である。 そして,B1の昭和24年8月2日付け検察官調書には,目撃した人物が自分の方を見たので,外灯の光ではっきり顔が見えAだと分かったので,オスと声を掛けた,と記載がある。自分の方を見たとの部分は,当初の調書にはないが,B1の供述は,「A 検察官調書には,目撃した人物が自分の方を見たので,外灯の光ではっきり顔が見えAだと分かったので,オスと声を掛けた,と記載がある。自分の方を見たとの部分は,当初の調書にはないが,B1の供述は,「Aが武蔵境の方から来るのを見たので,オスと挨拶すると,返事はせず,頭を下げたか手を挙げたように応じた」という趣旨で一貫していると評価できる。 B17鑑定は,B1の昭和24年8月2日付け検察官調書に,警察官調書には録取されていない供述が録取されている点について,想起が難しい内容ではないから,先立って作成された警察官調書で語られてよいはずであり,(取調官の)誘導と創作の賜物として出てきた供述であると評価する。 しかし,加わった部分は,Aと分かった根拠を説明したものと解されるし,調書が作成される過程で,想起の容易さに関わりなく,発問の差異等により,当初から全部の事情が録取されないことは,ままあることである。供述調書相互の記載内容の相違から,前記の指摘のように評価することはできない。 また,B17鑑定は,B1の昭和24年8月9日付け裁判官調書について,それに先立つ同月2日付け検察官調書の表現が強すぎたとの検察官の判断があったとか,検察側が,Aを被目撃者として確定したいという意図が明確にうかがえると指 摘する。しかし,指摘は,そもそも同書面は裁判官が録取したものであることを説明できるものでない上,記載されている供述内容から,録取者の意図が直ちに推測されるとする点でも飛躍がある。 さらに,B1の公判供述が,事件から半年以上経過しての記憶想起による供述であり,初期供述のような詳細さが欠けている面があることは,B17鑑定が指摘するとおりである。しかし,その指摘は,供述内容の違いのみに着目したも 供述が,事件から半年以上経過しての記憶想起による供述であり,初期供述のような詳細さが欠けている面があることは,B17鑑定が指摘するとおりである。しかし,その指摘は,供述内容の違いのみに着目したものにすぎず,そのことから,B1がその場に合わせて適当に都合のよい言葉を発する傾向にあるとまではいえない。 要するに,B17鑑定については,B1が目撃した場所である三鷹電車区の門若しくは門付近に照明装置がついていたとしても,外灯の弱い光しか当たらない人物を横から見たという目撃であったとする点,目撃した人物に対し,外灯からの光が後ろから当たり,その人物の顔に直接光が当たることはなかったとする点について,確定審第1審公判で取り調べられた証拠により認められる目撃状況等を十分踏まえたものではない。また,同鑑定は,供述調書の内容に関し,独自の見解から批判するに過ぎないといわざるを得ず,これらの鑑定意見は,B1の公判供述の信用性に合理的な疑いを抱かせるものではない。 ウ次にB17鑑定は,B1供述の心理学的検討に続いて,二つの実験を行って目撃した人物の識別の正確性等について検討したが,その実験結果等には,次のような問題点が内在しており,B1の公判供述の信用性に合理的な疑いを抱かせるものとは認められない。 まずB17鑑定における二つの実験の前提条件は,歩く人物の背中側からのみ光を当てるなど光の当たり方等について,前記の とおりの三鷹電車区正門前の状況,B1の目撃時の状況とは異なり,条件が大きく違うといわざるを得ない。 またB17鑑定では,二つの実験の結果,目撃した人物の識別を誤った例があったと指摘し,Aを目撃したとのB1の公判供述は,到底信用できるものではないと結論付けている。 ところで,この実験結果 またB17鑑定では,二つの実験の結果,目撃した人物の識別を誤った例があったと指摘し,Aを目撃したとのB1の公判供述は,到底信用できるものではないと結論付けている。 ところで,この実験結果の意味を検討する際,B17鑑定のうち,既知の人物と未知の人物を含めた識別用写真帳を用いた実験においては,被験者に対し,先入観等を抱かせないようにすべく,写真帳の中に目撃した人物がいるかもしれないし,いないかもしれないなどと教示せず,「目撃した人物を探して選ぶように」と教示する条件を採用している等の問題が内在している。そのような方法を用いた理由として,本件当時の捜査において,B1が当時尋問を受けた捜査員はきっと積極的に思い出すように誘導した可能性が高いとか,当時の捜査状況から推察すると,当時警察官がB1に対し,見た人物を懸命に思い出すように説得しただろうし,関連した情報を積極的に与えたであろう等とし,また,誰かを選ぶよう黙示的に促すことで,自身が目撃した内容を自ら想起しようとしたり,若しくは,目撃に関する供述を外部から促されたりするようなことがあったかもしれないから,本件当時のB1の状況に実験環境が近づくと考えた等と説明している。しかしこれらは,具体的な根拠を伴わない推論によるものであり,その鑑定意見の合理性を支えるものとはいえない。 エ以上のとおりであり,弁護人提出のB17鑑定は,B1の公判供述の信用性について合理的な疑いを抱かせるほどの証明力があるとはいい難い。 次に,弁護人が提出したB18の聴取書(弁3)について検討する。 同書面は,要旨,三鷹電車区正門前でAに会ったとB1が言ったとの新聞を読んでB1に関心を持ち,日付は分からないが,B1に新聞に出ていたことは本当かどうか尋ねたところ,B1が,Aに正門前で 同書面は,要旨,三鷹電車区正門前でAに会ったとB1が言ったとの新聞を読んでB1に関心を持ち,日付は分からないが,B1に新聞に出ていたことは本当かどうか尋ねたところ,B1が,Aに正門前で会ったと言うようにと警察に言われた,あんまりうるさいから田舎に帰るというようなことを言っていた等というものである。 しかし,同書面の内容は,B1が確定審第1審公判で,正門前の道をAが武蔵境の方から家の方に急ぎ足で通っていた旨を供述した上,本件電車の脱線等が起きたことを知った後,その夜のうちに,Aと会ったことを同居の叔父(B19)に話した旨供述していること,B1は,郷里に帰った後も検察官の取調べに応じていたこと等の事情に沿わないものである。そして,検察官が本件再審請求審で提出したB1の供述関係の証拠(B1の供述調書等(検25ないし28,30))によれば,B1は,昭和24年7月29日から一貫して,三鷹電車区正門前でAと会ったと述べていたと認められる。同じく検察官が提出したB1の知人らの供述調書等(B19(検32ないし35),B20(検36),B21(検37)及びB22(検39))によれば,B1が本件事件直後から,近親者や知人に対して,三鷹電車区正門前路上でAと会ったことを話していたことが認められる上,B1の上申書(検29)に照らしても,警察官にそのように供述するように求められたというような事情はうかがわれない。これらに照らしても,B18の聴取書は,B1の公判供述の信用性を疑わせる証拠に当たらない。 そうすると,弁護人が提出した前記各証拠は,B1の公判供述の信用性に疑いを生じさせるものとはいえず,確定判決等の事実認定について,合理的な疑いを抱かせるものではない。 4 アリバイに関する主張について 弁護人は,「三 ,B1の公判供述の信用性に疑いを生じさせるものとはいえず,確定判決等の事実認定について,合理的な疑いを抱かせるものではない。 4 アリバイに関する主張について 弁護人は,「三鷹事件停電状況図解」(弁51。以下「図解」という。)によれば,三鷹電車区構内の1回目の停電が,本件当日午後9時23分に発生し,17秒間停電し,その後10秒間通電したが,さらに19秒間停電するという断続的な停電が発生したこと(事故直後の停電),次に同日午後9時58分から午後10時5分までの約7分間停電が発生したこと(再度の停電)が明らかであるが,Aの妻であるB23の昭和24年8月3日付け警察官調書(弁55)及び同月13日付け検察官調書(弁56)は,事故直後の停電が生じた時にAは自宅にいて,停電の後で入浴に出かけたとの供述が録取され,Aの同月1日付け警察官調書(弁52)には,夕食後新聞や雑誌を読んでいると,電灯が2回くらい消えた,消えたのは1分か2分くらいだった,その後電車区の風呂に行く途中にまた電気が消えたが,風呂に入っている際に電気がついたとの供述が録取されており,その後同月18日付け検察官調書に至るまで同旨の供述をし,これらの証拠によれば,本件発生当時,Aが自宅にいたと認められ,Aにアリバイが成立する,と主張する。 この点,八王子管理部電気課配電係長B24,同部武蔵境変電区電気係B25及び同部八王子電力区三鷹配電分区長B26の各証言(確定審第1審第9回公判)によれば,本件事件発生前には停電は発生しておらず,7月15日午後9時23分頃から連続した短時間の停電が2回発生し,その後,同日午後10時少し前から約10分間の停電があったと認められるから,図解(弁51)はこれらの供述と整合する資料といえる。そして,確定審第1審判決は,前記B24ら た短時間の停電が2回発生し,その後,同日午後10時少し前から約10分間の停電があったと認められるから,図解(弁51)はこれらの供述と整合する資料といえる。そして,確定審第1審判決は,前記B24らの各証言を根拠として,最初の停電の直前である午後9時23分頃に本件事件が発生したと認定している。結局,図解は,停電の状況に関し,詳しい時刻や時間を示すものではあるが,確定審第1審段階の関係者の供述に沿うものにとどまる。 弁護人が指摘する,「本件事件時には自宅にいた」ことを内容とするA及びその妻の供述は,確定審第1審公判において,その旨の供述が録取されているAの検察官調書(昭和24年8月3日付け,同月8日付け,同月9日付け等)が取り調べられ,B23は,確定審第1審第46回公判で,Aは布団を敷いて本を読んでいたが,自分は子供を寝かしながら寝ていた旨を供述しているから,確定判決等は,これらの供述があることを踏まえて判断しているといえる。そうすると,弁護人が指摘する供述調書それ自体が確定審の審理に提出されていなかったとしても,確定判決等の証拠関係に大きな差異をもたらすような証拠ではない。 また,弁護人は,Aが本件事件当時,自宅にいたというアリバイを述べるAの昭和24年8月1日付け警察官調書(弁52)等に録取された供述は,Aが,その記憶に忠実に供述する極めて信用性が高いものである半面,その後の供述は,捜査段階で虚偽の自白をし,否認と自白の変遷を繰り返すことで記憶が混乱し,真実の記憶が曖昧かつ不明確になった等と主張する。しかし,Aは,確定審第1審第33回公判において,当時否認していたものであるが,逮捕直後頃の本件当時は自宅にいた旨の供述をその後変更した理由について,「当夜,外へ出たと言いましては疑われると漠然と考えておりまし 確定審第1審第33回公判において,当時否認していたものであるが,逮捕直後頃の本件当時は自宅にいた旨の供述をその後変更した理由について,「当夜,外へ出たと言いましては疑われると漠然と考えておりましたので,当夜は家にいて,新聞や本を読んでいたと頑張り通しました。」「(散歩に出ていたことを)事件と結びつけられるとこまるからであります。」「(虚偽の供述をしていた理由は)ともかく私は初めから我々の真実をさっぱりと出しますと,そこに被せ捏造して来やしないと思いましたから,真実を言わなかったのであります。」等と供述している。このような供述状況等に照らすと,Aの昭和24年8月1日付け警察官調書(弁52)は,アリバイ供述の信用性判断を見直すような証拠とはいえな い。 なお弁護人は,B23の供述調書(弁55,56)について,プラットフォームの見通し状況及び写真撮影報告書(弁57)と併せて検討すれば,本件事件当時,Aが自宅にいたというアリバイを立証する証拠である,と主張する。しかし,前記写真撮影報告書を根拠として,弁護人が指摘するような内容に,B23の供述を解釈し直すことには無理があるというほかない。結局,前記写真撮影報告書も,確定判決の事実認定に合理的な疑いを生じさせるものではない。 ⑸ 以上のとおりであり,Aの警察官調書(弁52),B23の供述調書(弁55,56)を含めて弁護人が提出した証拠は,確定判決等の事実認定に合理的な疑いを生じさせるものではない。 5 指紋に関する主張について 弁護人は,朝日新聞(弁53),東京新聞(弁54)を挙げ,発見された指紋は本件電車を暴走させた犯人の指紋であり,その犯人は三鷹電車区分会に所属していない外部の者であると強く推認されるから,Aが本件事件の犯人ではないことを示す証拠である (弁54)を挙げ,発見された指紋は本件電車を暴走させた犯人の指紋であり,その犯人は三鷹電車区分会に所属していない外部の者であると強く推認されるから,Aが本件事件の犯人ではないことを示す証拠である旨を主張する。 弁護人指摘の指紋について,本件電車から指紋を採取し,その対照作業に従事したB27の検察官調書(検74)や本件検証調書等によれば,第1車両から採取された指紋は,運転台の左右から採取された2個の指紋と運転室内の各スイッチから採取された3個の指紋の合計5個であり,そのうち対照可能であったのは運転台の左右から採取された2個の指紋のみであって,運転室内から採取された3個の指紋は全て対照不能であったことが認められる。そして,確定判決は,本件検証調書によれば指紋が採取されたのに,その結果を検察官が証拠提出しなかったのは,現場保存が十分でなく多数の人々が運転台に入り,又は機器類の上に堆積した塵埃があった等の事情によると考えら れるとして,これらの指紋は,犯人が複数存在することを立証する証明力に乏しいと判断している。 結局,弁護人が指摘する新聞の内容は,確定判決等も前提としたものにすぎず,その事実認定に合理的な疑いを生じさせるようなものとはいえない。 6 犯行動機に関する主張について⑴ 弁護人は,B28等13名の口述書,上申書等(弁8ないし20)を提出し,これらによれば,本件当時の三鷹電車区等の労働組合は閉塞状態に陥っており,過激なストライキの断行を求め,戦闘的な方針を確立して戦うという実情になかったから,Aが単独で本件犯行に及ぼうと決意するとは考えられず,Aに犯行動機が存在しないことが明らかとなった,と主張する。 本件の経緯やAの動機に関し,確定審第1審判決は,要旨,前記第2の2⑴ア記載の社会情勢,あ 本件犯行に及ぼうと決意するとは考えられず,Aに犯行動機が存在しないことが明らかとなった,と主張する。 本件の経緯やAの動機に関し,確定審第1審判決は,要旨,前記第2の2⑴ア記載の社会情勢,あるいは,当時Aが国鉄の第2次整理により多くの同僚とともに罷免されたという事情等を認定,説示し,確定判決は,この判断をおおむね是認した。そして,確定判決は,本件事件発生前の三鷹電車区労働組合を巡る情勢に関し,口述書(弁8)を作成したB28の昭和24年8月10日付け検察官調書,及び,それとは反対の立場にあるB29の証言(確定審第1審第15回公判)を挙げ,これらの供述を総合した上で,緊迫した情勢があったと説示している。弁護人が提出した前記口述書等は,Aが確定審第1審公判で供述するところの過激な言動(「モーターに水をかけろ」等)や,Aの組合活動の様子等を否定するなどしたものにすぎず,確定審が想定済みの内容と解され,確定判決等の前記認定に合理的な疑いを生じさせるものではない(なお,B28の口述書(弁8)については,その内容は,前記同人の昭和24年8月10日付け検察官調書に相反す るものでもない。)。 7 小括その他,真犯人の存在等を指摘する主張を含めて,弁護人が提出した証拠を検討しても,それらが確定判決等の事実認定に合理的な疑いを抱かせるものとは認められない。 第4 結論弁護人が,本件再審請求審において提出した証拠は,これらを確定審において取り調べられた全証拠と併せて総合評価しても,Aが本件犯行に及んだと認めた確定判決等の事実認定に影響を及ぼし,これに合理的な疑いを抱かせるものとはいえず,被告人に対して無罪を言い渡すべき明らかな証拠とは認められないから,刑訴法435条6号所定の再審事由があるとはいえない。 よって, 認定に影響を及ぼし,これに合理的な疑いを抱かせるものとはいえず,被告人に対して無罪を言い渡すべき明らかな証拠とは認められないから,刑訴法435条6号所定の再審事由があるとはいえない。 よって,本件再審請求は理由がないから,刑訴法447条1項によりこれを棄却することとし,主文のとおり決定する。 令和元年7月31日東京高等裁判所第4刑事部 裁判長裁判官後藤眞理子 裁判官金子大作 裁判官福島直之 別紙1ないし別紙4 省略

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