平成15(う)9 たばこ事業法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年11月20日 福岡高等裁判所 宮崎支部 宮崎簡易裁判所 平成12(ろ)51
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判決文本文5,779 文字)

主文 本件控訴を棄却する。 理由 第1 控訴の趣意本件控訴の趣意は,弁護人一瀬悦朗及び同松岡茂行連名作成の控訴趣意書並びに弁護人一瀬悦朗作成の控訴趣意補充書に記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官郡司哲吾作成の答弁書に記載のとおりであるから,これらを引用する。 論旨は,要するに,原判決は,たばこ事業法49条3号,22条1項,51条を適用して被告人を罰金20万円に処しているところ,違憲無効の法令を適用した点で判決に影響を及ぼす法令適用の誤りがある,というのである。 第2 当裁判所の判断 1 製造たばこの小売販売業についての許可制及び適正配置規制たばこ事業法(昭和59年法律第68号。以下「事業法」という。)は,たばこ専売法(昭和24年法律第111号。以下「専売法」という。) 等を廃止して昭和60年4月1日に施行されたものである(事業法附則1条,2条)。 そして,専売法に基づく指定小売人制度の実体を概ね承継する形で適正配置規制を含む小売販売業についての許可制度が採用されている。 すなわち,製造たばこの小売販売を業として行おうとする者は,当分の間,営業所ごとに大蔵大臣の許可を受けなければならないこととされ(平成11年法律第160号による改正前の事業法22条1項),その許可基準として,営業所の位置が製造たばこの小売販売を業として行うのに不適当である場合は許可をしないことができるものとされ(同法23条3号),これを受けて,平成12年大蔵省令第69号による改正前の事業法施行規則20条2号において,営業所の位置が不適当な場合の1つとして,予定営業所と最寄りの小売販売業者の営業所との距離が,予定営業所の所在地の区分ごとに,25メートルから300メートルまで の事業法施行規則20条2号において,営業所の位置が不適当な場合の1つとして,予定営業所と最寄りの小売販売業者の営業所との距離が,予定営業所の所在地の区分ごとに,25メートルから300メートルまでの範囲内で大蔵大臣が定める距離に達しない場合が掲げられ,更にこれを受けて,大蔵大臣依命通達(昭和60年3月28日付け蔵専第56号)において,別表1のとおりの地域区分,環境区分に応じた距離基準が定められている。なお,平成10年7月1日から,別表2のとおり,環境区分の準市街地を廃止し,市街地に一本化して,市制施行地の繁華街における距離基準を新設するなどの見直しがなされている(平成11年大蔵省告示第82号による改正前の平成10年大蔵省告示第74号)。 そして,専売法下において製造たばこの指定小売人であった者については,事業法において許可を受けた小売販売業者とみなす旨の経過措置が設けられ(同法附則10条1項),その保護が図られている。 また,専売法下で身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)にいう身体障害者又は母子及び寡婦福祉法(昭和39年法律第129号)にいう配偶者のいない女子で現に児童を扶養しているもの(以下,これらの者を「身体障害者等」という。)が製造たばこの小売販売業の許可を申請した場合は,許可を与えるように努めなければならないものとされ,基準距離の適用にあたり,その距離の8割が標準とみなされていたが,事業法制定後においても,同様の特例措置が引き続きなされている(身体障害者福祉法24条1項,母子及び寡婦福祉法17条1項(平成14年改正により26条1項に繰り下げ),上記依命通達3(1)及び上記告示2(1)。 そして,上記許可を得ずに製造たばこの小売販売を業として行った者については,30万円以下の罰金に処することとされている(事業法4 26条1項に繰り下げ),上記依命通達3(1)及び上記告示2(1)。 そして,上記許可を得ずに製造たばこの小売販売を業として行った者については,30万円以下の罰金に処することとされている(事業法49条3号。同法51条に両罰規定あり。)。 2 許可制及び適正配置規制の合憲性事業法における製造たばこの小売販売業についての許可制は,前記1で述べたように,専売法の下において指定小売人制度が採用されていたところ,指定小売人には零細経営者が多いことや,身体障害者等については,身体障害者福祉法等の趣旨に従って,その小売人の指定に際して特別の配慮が加えられてきたことなどに鑑み,たばこ専売制度の廃止に伴う激変を回避することによって,事業法附則10条1項に基づいて製造たばこの小売販売業を行うことの許可を受けた者とみなされる小売人の保護を図るために,当分の間に限り採用することとされたものであり,公共の福祉に適合する目的のために必要かつ合理的な範囲に止まる措置ということができるものである。そして,前記1で述べた適正配置規制もまた,上記の目的のために必要かつ合理的な範囲に止まるものというべく,これが著しく不合理であることが明白であるものとは認め難く,したがって,製造たばこの小売販売業についての上記規制が憲法22条1項に違反するということはできない(最高裁第2小法廷平成5年6月25日判決裁判集民事169巻175頁参照)。 事業法における上記の許可制及び適正配置規制は,上記のように,たばこ専売制度の廃止に伴う激変を回避すべく,社会・経済政策的観点から,「当分の間」に限る措置として設けられたものであるが,現在もその規定は廃止されることなく存置されている。この点については,事業法施行後,規制緩和推進の観点から,これまでに,前記平成10年大蔵省告示第74号にか に限る措置として設けられたものであるが,現在もその規定は廃止されることなく存置されている。この点については,事業法施行後,規制緩和推進の観点から,これまでに,前記平成10年大蔵省告示第74号にかかる需給調整基準の緩和を含めた数度にわたる許可基準の見直しが行われ,その基準緩和の結果を勘案し,未成年者の喫煙防止という社会的管理目的,零細小売業者に対する激変緩和という趣旨等との適合性に関し,中長期的にその在り方を検討することとされ(「規制緩和推進3か年計画(改定)」平成11年3月30日閣議決定),関係審議会で議論がなされている状況にある。そして,前記の身体障害者等に対する許可の特例制度は,現在もこれを維持する必要性があるものとして,廃止されることなく存置されている。他方,喫煙が健康に与える悪影響についての研究成果や社会的関心の高まり等を受け,未成年者喫煙禁止法(明治33年法律第33号)の,未成年者へのたばこ等の販売行為に対する罰則の強化(平成12年法律第134号)や,たばこの販売の際の年齢確認等の措置の義務付け(平成13年法律第152号)などの一部改正や,健康増進法(平成14年法律第103号)の制定による公共施設等に対する受動喫煙防止措置の義務付け(同法25条)などの各種施策が講じられており,これらに関する近時の国会での議論の状況等にも照らすと,たばこの消費需要は,将来に向かって減少ないし頭打ちの状態になることが予想される。そして,これらの事情に鑑みると,本件の被告人の行為時(平成9年7月19日ころから平成12年5月10日ころまでの間)においても,現時点においても,製造たばこの小売販売についての上記観点からの規制措置の必要性や合理性が失われたことが明白であるとは認め難く,したがって,上記規制を存置することが憲法22条1項に違反するということ 現時点においても,製造たばこの小売販売についての上記観点からの規制措置の必要性や合理性が失われたことが明白であるとは認め難く,したがって,上記規制を存置することが憲法22条1項に違反するということはできない。 前記1のとおり,事業法には,製造たばこの無許可販売を業として行った者に対する罰則が設けられている。 一般に,特定の事業活動を行うことについて,主務大臣の許可にかからしめることが必要かつ合理的であるとして,許可制度が採られている場合,その制度の実効性を担保するために,これに違反して無許可で事業活動を行った者を罰する規定を置くことは,立法政策として広く行われているところである。 製造たばこの小売販売業についても,事業法が許可制を採用していることは,上記のように,社会・経済政策的観点から必要かつ合理的な措置と解されるものであり,その違反者に対する罰則規定を設けることは,その制度の実効性を担保するうえで相当であり,事業法の上記罰則の刑罰が罰金であることからすると,その罰則規定が罪刑の均衡その他の観点から著しく不合理で許容し難いものということはできない。 3 被告人の無許可販売行為被告人は,有限会社Aの代表取締役として,宮崎市a通b番c号所在のd1階にコンビニエンスストアe(以下「e」という。)を開店するにあたり,平成7年11月9日,大蔵省九州財務局長に対し,同店における製造たばこの小売販売の許可申請をした。しかしながら,eに面する街路の,地域区分が市制施行地,環境区分が市街地とされ,同店と最寄りの小売販売業者の営業所との間の距離について,150メートルの基準が適用され,B経営の既設営業所までの距離が69メートルであったことから,同基準に達しないものとされ,平成8年1月23日付けで,事業法23条3号,同規則20条2号により不許可処分を受 0メートルの基準が適用され,B経営の既設営業所までの距離が69メートルであったことから,同基準に達しないものとされ,平成8年1月23日付けで,事業法23条3号,同規則20条2号により不許可処分を受けた。なお,被告人からの同処分に対する行政不服審査法に基づく不服申立てはなされていない。 しかるところ,被告人は,eにおいて,平成9年7月19日から,上記有限会社の業務に関し,製造たばこの小売販売を業として始め,そのころから同12年5月10日ころまでの間,不特定多数の顧客に対して製造たばこを販売しており,同行為が,事業法の禁止する無許可販売行為に該当するものであることは明らかである。 4 所論について前記のとおり,事業法が製造たばこの小売販売業について許可制及び適正配置規制を採用していることは,憲法22条1項に反するものではなく,同法がその違反行為に対する罰則を設けていることにも問題はないのであるから,同法の上記の規制に違反した被告人が処罰されるのはやむを得ないことである。 なお,所論は,論文を詳細に引用しつつ,零細業者保護を目的として参入規制という競争制限的な保護政策を採用すること自体が合理性がなく,不当なものである旨主張する。 しかしながら,その主張の立法政策的方法論としての有効性や妥当性はともかく,少なくとも,その観点から直ちに製造たばこの小売販売業に対する規制が違憲無効なものであるとの結論が導かれるものではない。 所論は,現行の事業法における上記の許可制及び適正配置規制の在り方自体が直ちに憲法22条1項に反するものではないとしても,その規制の合理性が相当に低下しており,①eに最も近い既設営業所の経営者のBがいわゆる零細事業者ではなく,②eが面するf通りの方がBの営業所が面するa通りより通行量が多いのに,f通りが市街地,a通 ,その規制の合理性が相当に低下しており,①eに最も近い既設営業所の経営者のBがいわゆる零細事業者ではなく,②eが面するf通りの方がBの営業所が面するa通りより通行量が多いのに,f通りが市街地,a通りが繁華街と区分されたために,eよりもBの営業所に近い他の営業所が許可されるという不合理な結果が生じており,③被告人がeでたばこを販売するようになったのは,同店に出入りする顧客の要請に応えたものであり,利益を得る目的はなく,④eでの製造たばこの小売販売許可が得られないことについて,行政側から納得のいく説明が得られず,⑤被告人が,これまで,検察の捜査には協力しているなどの具体的事情の下で被告人の前記販売行為に罰則を適用することは憲法22条1項に反して許されない旨主張する。 しかしながら,前記のとおり,製造たばこの小売販売業についての許可制による規制は,公共の福祉に適合する目的のための必要かつ合理的な措置であり,その違反に対する処罰規定もまた相当として許容されるものである以上,その違反者に罰則を適用することが職業選択の自由に対する不当な侵害となるものではない。所論の挙げる事情は,その許可申請に対する不許可処分の当否を争うなかで主張することは格別,無許可で製造たばこの小売販売業を行う行為を正当化する事由となり得るものではなく,その犯罪の成否に影響を及ぼすものではない。したがって,上記主張は理由がなく,採用できない。 5 まとめ以上のとおり,製造たばこの小売販売業についての許可制及び適正配置規制は,憲法22条1項に反するものではなく,自らが経営する会社の業務に関し,無許可でその小売販売を業として行った被告人に対して所定の罰則規定を適用することも正当として是認し得るものである。結局,論旨は理由がないこととなる。 なお,原判決は,法令の適用において, 務に関し,無許可でその小売販売を業として行った被告人に対して所定の罰則規定を適用することも正当として是認し得るものである。結局,論旨は理由がないこととなる。 なお,原判決は,法令の適用において,平成11年法律第160号による改正前のたばこ事業法22条1項を摘示すべきところを,改正後の同法22条1項を摘示している点で誤りがあるが,同改正は,中央省庁等の改革に伴う主務大臣の変更を定めたに過ぎず,処断刑の範囲を変えるものではないので,上記の誤りは,判決に影響を及ぼすものではない。 第3 結論よって,刑事訴訟法396条により,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。 平成15年11月20日福岡高等裁判所宮崎支部裁判官村越一浩裁判官飯淵健司裁判長裁判官岩垂正起は,転補のため,署名押印することができない。 (別表1,2は省略)

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